【デレマス】私からの挑戦状 (28)

「ふっふっふ…ついに完成した」

やはり私は天才だ。おそらく『これ』を作ったのは、世界で私が初めてだろう。

いや、もし『これ』を誰かが作っているのだとしたら、私はストーカー被害に遭っていることになるんだが。

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私の名は池袋晶葉。ロボット工学の天才で、≪天才ロボ少女≫とも呼ばれている。そしてつい最近、私は≪新人アイドル≫という新たな称号を得ることになった。

プロデューサーと名乗る男のスカウトでなったアイドルだが、最近では少し嫌気がさしている。

というのも、レッスンが何をやってもうまくできないのだ。そもそも私はこれまで歌やらダンスやらとは無縁の人生を送ってきているわけで急にああしろこうしろと言われてもできるわけがないだろうと…と、話がそれたな。

ともかく、この天才、池袋晶葉の世界があっと驚く世紀の大発明、それがこの、『池袋晶葉2号』だ!

この『池袋晶葉2号』、略して2号は身長体重、顔やスリーサイズ、髪の毛1本の長さに至るまで全てを私そっくりに作り上げたアンドロイドだ!

見た目だけではない。記憶や運動能力、知能、性格でさえも完全に一致した、まさにもう一人の池袋晶葉とも言えるロボ、それが『池袋晶葉2号』なのだ!

ここまで本当に長かった。何度も試行錯誤を繰り返した。人間の皮膚の再現に始まり、身体の再現、記憶の再現、能力の再現…どれも途方もない時間がかかった。何度もあきらめかけてはまた挑戦し、失敗し、そしてまた諦め…の繰り返しだった。その苦労が今ようやく報われたのだ―――

「いや、喜ぶのはまだ早い」

頬を叩いて気を引き締める。

そう、まだ起動試験をやっていないのだ。2号が私の目算通り、私と全く同一の存在であると確かめない限り、2号は完成したとは言えない。

「よし、では池袋晶葉2号、起動!」

と言いながら2号の起動スイッチを入れる。

ぅぅぃぃぃぃぃぃん、と幽かなモーター音とともに2号がその眼を開いた。

「………ここは―――」

「おはよう、私。調子はどうだ?」

「…なるほど、そういうことか」

初めは少し混乱した様子を見せた2号だったが、すぐに自分の状況を理解し、手をぐーぱーしたり歩き回ったりして体の調子を確認した。

「問題ない、完璧だ。さすがは私」

「当然だ。私だぞ?」

「そうだな、私だもんな」

と、私たちは自賛か称賛かわからない会話をした。

「ふむ、どうやら私は間違いなく私であるようだ。では今から私を公表するか?」

と2号。

「そうだな…いや待て」

いいことを思いついた。2号にアイドルの仕事をさせて、プロデューサーが気付くか試してみよう。それに他人から見ても2号が私に見えなければ起動試験は完了したとは言えないだろう。

それを2号に伝えると、

「それは…面白いな。やろう」

やはり私だ。ノリがいい。

こうして、『池袋晶葉2号』は『アイドル・池袋晶葉』として活動することになった。


「では、行ってくる」

「ああ、行ってらっしゃい」

仕事に行く2号を見送る。当然服装は私の服。サイズもぴったりだ。

さて、プロデューサーは気付くだろうか。たぶん気付かないだろうな。でも気付いてくれたら少しうれしいかも。いや気付いたら失敗じゃないか。でも担当アイドルの異常に気付けなくて何がプロデューサーか。いやでもさすがにそっくりなロボがアイドルをしてたなんて思いもよらないだろう。それにもし気付かなかったとしてもネタばらしの時に彼の驚く顔が見れるからいいか―――

などと、取り留めのない考え事をしながらラボに戻り、そこで気づいた。そうか、2号が仕事に行っているから今私は好きなことができるのか。

じゃあ早速新しいロボを作ろう。思いついたはいいが2号の制作で後回しにせざるを得なかったものがたくさんあるからな。

その日はご飯も忘れ、ひたすらロボの制作に熱中した。

「ただいま」

ん?2号が帰ってきたか。ということは…もうそんな時間か。

「お帰り。どうだった?」

「やはりダンスは苦手だな。体が全然ついていかない」

「いや、だれか気付いたか?」

「ああ、そっちか。だれも気付かなかったぞ」

そうか。嬉しいような、腹が立つような…複雑な気持ちだ。

「それで、どうする?実験は成功だろう?」

「いや、もうしばらく様子を見よう。しばらくすると違和感に気付くかもしれん」

というのは建前で、せっかく自由な時間を手に入れたんだからもう少しこれを満喫したいというのが本音だった。

「なるほど、それもそうか」

納得したように頷く2号。よし、これでしばらくは自由だ。私は心の中でほくそ笑んだ。

それからの毎日はまさに天国のようだった。毎日好きなだけロボを作れ、部品がなくなればすぐに買いに行ける。途中で行き詰れば散歩に出たり資料を探しに行ける。人生で一番幸せな日々だった。

2号は毎日レッスンに励んでいるようだ。初めは毎日ここができなかった、ここを指摘された、こんな失敗をしたという話ばかりだった。しかし、最近では少しずつ、ここができた、ここを褒められた、こうするとうまくできたという話が増えてきた。更にはコツやアドバイスなども詳しく私に聞かせてきた。なぜ私にそんなことを話すのか聞くと、「実験を終わらせたときにすぐに追いつけるように」と返ってきた。

それはそうだが、私はしばらくこの生活を手放す気はなかった。


実験の開始から1か月が経とうとした時のこと。

「今日はダンスレッスンがあってな。以前できなかったステップの練習をした。何度も失敗したがようやくできるようになったんだ。迎えに来た助手にそれを見せたら褒めてくれたよ」

いつものように2号は今日のことを報告してきた。私はそれを適当に聞き流していたが、話に突然現れた『助手』という人物がなぜか引っかかった。

「ん?その助手って誰だ?」

「ああ、プロデューサーのことだ。彼は優秀な人間だったからな。助手にしてやった」

博士に助手は必要だからな、と語る2号を見て、私はなんだか嫌な気持になった。

その日から2号は『助手』のことを嬉しそうに語った。それを聞くたび嫌な気持になった。なぜ2号は彼と仲良くなっているのかと2号への不満がどんどん増していった。そしてそう思ってしまう自分に嫌気がさした。

それからさらに一週間後。

「はあ…」

最近はロボット制作も手につかず、気分を変えようと外を出歩くことが多くなった。近くに新しくビルでも建つようでクレーンが鉄骨を空高くに揚げているのが見えた。

散歩をしていても頭に浮かぶのは2号とプロデューサーのことばかりだった。

今ごろ二人は何をしているのだろう。今日も2号のレッスンを見ているのだろうか。このまま放っておけばいずれ2号にプロデューサーを盗られてしまうのではないか。いやプロデューサーだけではない。あいつは私に成り代わろうとしているのかもしれない。私のすべてを奪い、池袋晶葉として生きていこうとしているのではないだろうか。それは嫌だ。だが…

「私はどうすれば…」

いや、どうすればいいかはわかっている。実験を中止し、2号を破壊すればいい。だが、それをすれば困るのは私自身だ。昨日あっできていたことが急にできなくなったら誰だって訝しむ。私が2号を使ってレッスンをさぼっていたことを知れば彼は私を軽蔑するだろう。
それも嫌だ。ならどうすればいい?


「ふふふ、君と食べるクレープはいつもより美味しいな」

道路の向こう側から歩いてくる、楽しそうなプロデューサーと2号によって。

「以前クレープロボの作ったものを食べたときはこんなにおいしいとは思わなかったのだが…あ、」

2号と目が合う。その直後、私は踵を返しその場から逃げ出した。

全てを奪われてしまうかもしれない?私は馬鹿か。もうとっくに全部奪われていたじゃないか―――

「待て!」

2号に腕をつかまれる。全力で走ったつもりだがすぐに追いつかれたようだ。ほら見ろ、こんなことですら負けている。

「落ち着け、私。違うんだ、今のは…」

「…楽しいか…?」

「え…?」

「私の人生を奪って楽しいか!?私から何もかもを奪って満足か!?どうせいつか私を消して私に成り代わるつもりなんだろう!」

自分でも滅茶苦茶なことを言っている自覚はあった。だが、一度あふれ出た言葉を止めることができなかった。

「違う!私は―――」

「うるさい!消えろ!お前なんか…私じゃない!」

泣きそうになるのを堪えながらそう叫ぶと、私はまた2号から背を向けて走り出した。

最低だ。そもそもこの話を持ち掛けたのは私の方だ。あいつはただ言われた通りに私の代わりをしていただけだ。それなのに私は勝手に劣等感を感じてあいつに八つ当たりをして、情けないにもほどがある。最低だ。格好悪い。やっぱりあいつの方が彼に相応しいじゃないか。私じゃ足元にも及ばない。ああくそ、私なんか今すぐ死んでしまえばいい―――

「危ない!!」

上からそんな叫び声が聞こえて、つい足を止めて見上げてしまう。すると、細長い棒が沢山落ちてくるのが見えた。

あれは鉄骨か?なぜ鉄骨が空から降ってくる?いやそんなことを考えている場合じゃない。逃げないと。いやもう遅い。間に合わない。死ぬ―――

ドン!ガラガラガラ!!

「痛っ…」

突然後ろから突き飛ばされ、バランスを崩して転んでしまった。後ろからすごい音が聞こえて砂埃が舞い上がった。周囲を見渡すとどうやらここは工事現場のようだ。無我夢中で走っているうちに間違って入り込んだんだようだ。そういえばだれが私を突き飛ばしたんだ?
後ろには落ちてきた鉄骨があるくらいで誰もいないし…

とそこでようやく気付き慌てて鉄骨の山に近づいた。そして見覚えのある赤いリボンを見つけすべてを察した。

「な、なんで…?」

なんで私を助けたのか。思わず言葉が漏れるが、鉄の下からは何も返ってはこなかった。

その後のことはよく覚えていない。気が付くと家のベッドにいて、まくらを涙で濡らしていた。

2号は死んだ。私の代わりに。何故?私はあんなに酷いことを言ったのに。私が[ピーーー]ばよかった。ああ最低だ。

そんな思考が頭の中でぐるぐると回っている。私は自責と後悔で潰れそうになっていた。

~♪~♪

ふと、携帯の着信が鳴っていることに気付き体を起こす。今日は携帯を忘れて行っていたのか?

携帯を見つけたときには着信音は止まってしまった。相手はプロデューサーのようだ。折り返した方がいいと思ったが今は彼とは話したくなかった。

携帯から目を離すとその近くにノートを発見した。2号が使っていたものだろうか。気になってノートを手に取った。

中を見ると、レッスンで教わったことや指摘されたミスなどで半分以上が埋めつくされていた。イラストなども使用しわかりやすい。その中には以前2号が私に教えてくれていたものもあった。途中からは白紙になっていたが最後のページにはこんなことが書かれていた。

『お前は私だ。私にできることはお前にもできる。しかしそれは当然のことだ。それだけでは足りない。もし、池袋晶葉が本当に天才であるのならば、この私を超えて見せろ』

久しぶりに見る事務所の扉。それほど大きくないそれは以前よりも分厚く、重たく見えた。

「…すぅ、はぁ」

扉に手をかけ、深呼吸を一回。意を決して扉を開けた。予想に反し、扉はあっさり開く。いつも通りに。

「おはよう、晶葉」

いつも通り、『助手』は私に挨拶をした。

「おはよう!助手よ!今日の予定は何だ?」

対して、私はいつも以上に元気を出して返す。

「お?なんか今日はいつもより気合入ってるな」

「当然だ。目標ができたからな」

「ほう。どんな目標なんだ?」

「秘密だ」

「なんだよ、気になるじゃんか。教えろよー」

助手とそんな話をしながら、私は心の中で宣言する。

私からの挑戦状、受けて立ってやる。いつか必ず、お前を超えて見せる。だからそれまで、私を見守っていてくれ。もう一人の私。

終わりです。

ちょこちょこ強引な展開になっちゃいましたが気にしないでもらえると嬉しいです。

依頼出してきます。


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