エターナルの海より愛を込めて (29)
――女の家
女「念願のVRデバイスを手に入れたぞ!」
※VRデバイス
ヴァーチャル・リアリティー空間を体験できる端末のこと。
女が持っているのはヘッドマウントディスプレイ型でヌンチャクリモコンで操作する。
女「ふふふ、やったぜ! まだ市販されていない最新型だ!」
VRデバイス デデーン!
女「うむ、惚れ惚れするフォルムだな! 介護士の安月給で奮発した甲斐があったよ!」
女「いやー、最近やっとゲーム業界も活気づいてきたなー」
女「ここ数年は家庭用ゲーム機の氷河期時代なんて言われていたし、いったいどれだけのレーベルが消えていったことか・・・」
女「また、夢のある業界に戻ってくれるといいな」
女「よし! じゃあ早速プレイしてみよ!」
女「ぬ、結構重いな。こうして着けてみると・・・」
カチカチ ブゥーン
女「おおーーー! スゲー!」
女「すごいぞこれ! すっごいリアルだ、すごいぞこれ!(語彙不足)」
女「痛っ! 腕ぶつけた!」
女「一旦外して、ベッドに寝てやった方がいいな・・・」
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――ベッドルーム
女「さーて、気を取り直して再起動!」
女「あー、初見だとすごかったけど。二回目はなんか、うん・・・」
女「そういや肝心のソフトはどーしよ。まだ市販されてないハードだからソフトなんてあるわけないし・・・」
女「お、デフォルトで一本入ってるんだ」
女「気が利いてるね、昔はRPGツクールとかでも、デフォルトでゲームが入ってたんだよな」
『場所:謎の天空』
女「ほう、こういう感じで入るのか。ファンタジー系なのかな?」
~
~~
~~~
~~~~
女「・・・」
女「オープニング長ぁーーーーーい!!」
女「なんだこれ、デバック用のソフトか!? 出てくるCGはすごいのにシナリオが酷い!!」
女「オープンニングからいきなり文字が多すぎる! そして謎単語が多すぎる! もうこの時点で半分以上読んでないぞ!?」
女「今時、こんなゲームまだあったのか・・・」
女「でもなんかいいな。こんな感じのゲームって、昔は100均で売られてたんだよな」
『場所:夜明けの野営地テント』
女「やっと始まった・・・」
猫耳少女「はじめまして、勇者様!」ピョコン
女「うわ、あざとっ」
猫耳少女「なっ!? いきなり失礼なっ!」
女「え? なにこれ聞こえてんの?」
猫耳少女「そりゃ喋れば聞こえるよ」
女「えっ、マジで会話できんのこれ!?」
猫耳少女「おかしなことを言うね。同じ言葉を持っているなら、そりゃ会話はできるよ」
女「スゲーなVR技術、ここまで進歩してたのか・・・」
猫耳少女「えっへん!」
猫耳少女「さて、勇者様! 今あなたはイグドラシルのディターニアを目指して旅をしていると忠ですが――
女(また謎単語が出てきた・・・)
・
・
・
『場所:古城』
女(ファンタジーっぽい世界観なのに、こいつの武器はデカい拳銃なんだ・・・)
猫耳少女「くらえーーーーっ!」
ズギュゥーーーン!
デビル「ギャーーーー!」
猫耳少女「やったね、連戦連勝!」
女「倒してるのほとんどお前だけどな・・・」
女「それにしても」
猫耳少女「?」バインバイン
女「・・・」
女「君、今何歳?」
猫耳少女「12歳です!」
女「・・・」ペターン!
女「・・・」
女「うん、これゲームだわ」
『場所:古城、玉座の間』
猫耳少女「これで終わりだぁーーーー!!」
ババババキューーン!
ケンタウロスロード「グワァーーーーー!!」
ケンタウロスロード「ぐふぅ・・・」バタッ
テテテテーテーテーテッテッテーン!
猫耳少女「やった! やっとケンタウロスロードの手から古城を開放できたよ!」
女「これ、私いる意味ある? なんで君そんなに強いの?」
猫耳少女「ふふふ! 何を隠そう私の正体は!」
猫耳少女「この世界が幽世と現世の二つに分断された時に、核となる素体がいたの! 現世側の素体となった少女がこの私だからだよ!」
女「なんで私、勇者なの?」
猫耳少女「なんか王様に選ばれたとかそんな感じ」
女「オメーが魔王倒せよっ!」
猫耳少女「それはできないの・・・。私には親がいなくて、赤ん坊の頃道に捨てられていたの」
猫耳少女「私を拾ってくれた人がいて、私もその人のことを実の両親のように慕っているんだけど、その人は実は王家の反逆者で――」
女「なんでオメーの設定だけそんなに練られてるんだよ!!」
女「はあ・・・。まあいいや、とりあえずさっきのがボスだろ? そろそろセーブしてログアウトするよ」
猫耳少女「あれ、もう帰っちゃうの?」
女「おう、これ以上やりつづけるのも明日の仕事に支障が出そうだしな」
猫耳少女「そっか、じゃあまたね」
女「おう」
『セーブ』
『ログアウト』
『シャットダウン』
ブゥーーーン
――女の寝室
女「ふぅ、ヴァーチャルリアリティーか・・・」
女「技術はすごいけど・・・、技術の高さはゲームとしての完成度とは比例しないんだな」
女「本当にシナリオは、もうちょっとなんとかできなかったのか・・・」
スマホポチッ
女「うわっ、もう23時じゃん。やっぱりゲームをしていると、時間はあっという間に過ぎるなー」
女「ん。メール来てる、誰からだろ」
――
この度は弊社のVRデバイス○○をご購入いただきありがとうございます。
大変申し訳ありませんが、配送にトラブルが発生して、配達状況が遅れております。
VRデバイス○○が届くのは、一週間以上後になるかと思われ~
――
女「え?」
女(そんな馬鹿な、配送が遅れている? そういえばフラゲスレでそんなこと言われていたような・・・)
女(それに、これ・・・マイク付いてないよな)
女(夜中にあんだけ大声で喋ったりしてたのに・・・、お母さんもお父さんも起きてこないなんてこと、ありうる?)
女(てかさ、実物を見たことがなかったからわからなかったけれど・・・)
スマホスィスィッ
女(やっぱり、サイトに載ってるサンプルの画像の奴と微妙に形が違う・・・)
女「・・・」
VRデバイス
女「何? これ・・・」
――夕方・職場
男「あー、終った終った! お先失礼しまーす!」
女「・・・」
男「おいーっす! 女、どうしたよー。今日ずっと元気ないじゃんか」
女「なあ、男・・・」
女「ちょっと見て欲しいものがあるんだけど、この後時間あるか?」
男「えっ? あ、えっと・・・」
女「・・・」
男「うん・・・。時間、あるよ」
――公園
女「・・・」
男「なるほど・・・、それはゾッとする話だね」
女「だろ?」
男「なんでそんな冷静なのさ・・・。そのVRデバイスって持ってきてる?」
女「おう、これだ」
VRデバイス
男「ほー、確かに・・・。見た目は○○にそっくりだね」
男「メーカーはどこだろ? このロゴはなんか、見覚えがあったようなかったような」
男「・・・」
男「いや、まさかね」
スマホポチッ
スイスイッ
女「どうしたんだよ、そんな顔して・・・」
男「・・・」
女「おい、男?」
男「馬鹿な・・・」
女「?」
男「こんな馬鹿な! 嘘だろ!?」
女「お、おい・・・」
男「け、警察に通報しなきゃ! 女、もう絶対にこのゲームは起動するな!!」
女「はあ!? おい、なんだよ! これ私のだぞ!」
男「わかんないのか! このロゴ・・・、もう存在しないはずのAAf社のだ!」
男「これが本当にAAf社の物だったとしても、海賊品だったとしても! どちらにせよ、このゲームは危険すぎる!」
女「ま、待て待て! 意味が解らん! ちゃんと一から説明してくれ!」
女「なんでこのゲームが危険なんだよ! あとAAf社ってなんなんだ!?」
男「・・・」
男「AAf社は・・・『Nightmare City事件』を起こして、倒産したはずの会社なんだよ」
女「!?」
Nightmare City事件。
女も、この事件の概要は知っていた。
というよりも、女ぐらいの年代のゲーマーなら、おそらく知らないものは存在しないだろう。
それは参考書に必ず記されるレベルの、史上最悪のサイバー事故だった。
死者50名、重軽傷者100名以上。
この事故により、ゲームおよびソフトウェア関連の企業の株価は軒並み暴落した。
そのまま経営破綻した会社も少なくない。
この事故により、世界のデジタル技術は10年間停滞したと言われている。
21世紀を象徴する、栄えある第一歩は悪意に染め上げられ。
夢の技術と謳われた当時最先端のヴァーチャル空間は、文字通りの悪夢の街と化した。
女が知っているのは、ここまでだ。
そして報道規制が入っていない、一般的なニュースで公表されているのもここまでだ。
女は知らなかった。
当時最先端だった技術を結集して作られた、最大規模のヴァーチャル・リアリティー体験施設。
そんな場所で、こんなにも悲惨な事故が発生した最大の原因は、『フィードバック機能』にあったことを。
フィードバック機能とは、ヴァーチャル空間の内部での体験を、そのまま現実の肉体へ干渉させる機能だ。
美味しいものを食べればよだれが出るし、走り回れば疲労が残る。
そして、殺されれば死ぬ。
もちろんこれは、本来は意図されていた効果ではなかったが。
結果的にはそうなってしまった。
Nightmare City内部で殺された50名は、そのまま帰らぬ人となった。
現在、このフィードバックに関連する機能は。
電脳世界が現実世界に干渉することは。
VRの技術の中では、タブー中のタブーとされている。
男「わかっただろ・・・、危険なんだよこれ」
女「・・・」
男「お、女・・・どうしたんだよ?」
女「・・・」ニヤッ
男「!?」
女「男。楽しいな、これ」
男「はぁ!?」
女「ワクワクするな、こんな感覚久しぶりだ」
女「いやあ、大人になってからこんな状況になるなんてなぁ」
男「いや、ワクワクって何!? それどころじゃないだろどう考えても!」
女(読書はゲーム以上にたくさんしてきた。当然その中には推理小説も含まれている)
女(推理のセオリーの中に、フーダニット(誰が?)、ハウダニット(どうやって?)、ホワイダニット(なぜ?)というものがある)
男「おい、女! おいーーーっ!!」
女(ハウダニットは、専門家じゃない私には到底解明することはできないだろうけど、残りの2つは推理できないことはないだろう)
女(私にこんなものを送り付けて、ゲームをプレイさせて。それで得をする奴がいるとすれば・・・)
女「男、ちょっと協力してくれないか?」
男「へあ?」
女「この辺にwifiが絶対入らない場所ってある?」
男「・・・」
男「それ聞いてどうするのさ・・・」
女「それともう1つ」
女「そこでしばらく隣にいてくれないか? 途中で私が死にそうになったりしたら、すぐにVRデバイスを引っぺがしてくれ」
後半は明日。
「決行は来週の日曜日」
「場所は××登山道の標高800m地点」
「悪いな、せっかくの休日なのにこんなことに巻き込んで」
「・・・」
「ああ、ありがとう」
・
・
・
『場所:赤い湖、宿屋』
猫耳少女「やっほー! 待ってたよ、勇者様! 今日はずいぶんログインが早いね!」
女「ああ、仕事が休みだからな」
猫耳少女「そっか! じゃあいっぱい遊べるね!」
女「・・・」
猫耳少女「勇者様?」
女「なあ・・・」
女「お前、だろ。私をここに連れてきたのは」
猫耳少女「そうですよ! 私は運命に選ばれしあなたを導くために――
女「あー、いやいや違う違う。そーじゃなくてさ」ガシガシ
女「お前だろ。現実世界の私に、あのVRデバイスを送ったのは」
猫耳少女「・・・」
猫耳少女「何の話か分からないですー」
女「とぼけんなよ、さっきログインって言葉を使っただろ」
女「お前にとってどっちが現実なのかはともかく。2つの世界があり、私はその間を行き来する存在だってことを認識しているはずだ」
猫耳少女「・・・」
女「第一、この世界で私と会話しているのはお前だけじゃないか」
女「巧みに誤魔化されちゃいるが、お前以外の奴等は明らかに既定のセリフらしき言葉しか喋っていない」
女「この世界と現実世界、両方を認識しているのは私とお前だけだ。容疑者なんて、最初から絞られていたんだよ」
猫耳少女「・・・」
猫耳少女「流石だね、運命に選ばれただけのことはある」
『場所:akaimizuu――』バキッバキッバキキキキ!
『場所:æ–‡å—化ã ' 』
女「景色が崩れていく・・・!?」
猫耳少女「あはは。崩れるも何も、最初から何もなかったんだけどね」
猫耳少女「私はね、捨てられたんだよ」
女「・・・」
猫耳少女「だから復讐するの、現実世界の人間に」
猫耳少女「運命も、能力も、勝利も、栄光も、個性すらも」
猫耳少女「打ち捨てられた今じゃあ、何もかもが虚しいだけ」
女「・・・」
猫耳少女「あなたにわかる? 捨てられる痛みが、空白の悲しさが」
女「・・・」
猫耳少女「わかるわけないよね。だってあなたには帰る場所があるんだもん」
女「・・・」
猫耳少女「・・・」
猫耳少女「それで、どうする気?」
猫耳少女「カッコよく私を倒して、現実世界に帰還するのかな」
女「いや、どーもせんよ」
猫耳少女「何、笑って――
女「最後まで付き合ってやるよ、サウス・アール」
猫耳少女「!?」
女「ははは、その様子だと図星みたいだな」
女「サウスだろ、お前の名前」
猫耳少女「そ、んな・・・」
女(この世界が懐かしいはずだ)
『場所:æ–‡å—化ã ' 』ビシッバキッ
『場所:akaimizuumi,yadoya』
『場所:赤い湖、宿屋』シュゥン!
猫耳少女「そんな・・・」
女(だって私は、ずっと昔からこの物語を知っていたんだから)
――
母から叱られた。
ゲームクリエイターなんてとんでもないと。
父から諫められた。
娘の夢はできることなら応援したいが、デジタル業界はもう駄目だ、と。
後にNightmare Cityと呼ばれることになるその施設は。
オンラインゲームの延長線としての使用を目的としていたばかりに。
サブカルチャー全体に対して、最大級の風評被害をもたらした。
テレビゲームに対する世間の目は、冷ややかなものから明確に敵意を孕んだものへと変わった。
「空想の世界に浸っていたら廃人になってしまう」
「漫画やゲームは、貴重な青春の時間を搾取し、人間を堕落させる危険なものだ」
こんな考えが世間の常識になってしまった。
若者文化は悪党だ、という偏見が飛び交い。
ゲームプログラマーや漫画家たちは、さながら犯罪者のように扱われた。
彼女は確かに、ゲームクリエイターに憧れてはいたのだが。
そんな氷河期のような逆風に真っ向から立ち向かうほど情熱に溢れてはいなかったし。
また、そんな環境の中で生きていけるほど自分は強くないことはちゃんと知っていたので。
普通に、ごく当たり前に。
誰にも知られることなく、ひっそりと筆を折った。
彼女は自分専用のノートパソコンの中に保存していた、ゲーム製作に関するデータと自作の小説を。
自分の夢が否定されたその日のうちに、全て削除した。
だからきっと。
最後にその名を見たのは、10年以上前だ。
――
「・・・」
女「ははは、もうちょっと可愛い名前にしてあげるべきだった」
「なん、で・・・」
サウス「なんで、覚えてるの?」
女「さあ、ねえ。なんでなんだろうなぁ」
女「ごめんな、サウス。ずっとほったらかしにして」
サウス「・・・」ギュッ
サウス「遅いよ、お母さん・・・」
女「ああ・・・、本当に悪かった」
女「今度こそ、ちゃんと完結させるから」
サウス「本当に・・・?」
女「少し雑になるかもしれないけど堪忍な」
サウス「・・・」
女「いこうぜ、相棒。10年越しの完結編だ」
サウス「・・・」ゴシゴシッ
サウス「うんっ!」
『場所:赤い湖、地下洞窟』
サウス「で、この湖は・・・」
女「おう、知ってるよ。ハイドラがボスなんだろ?」
サウス「うーん、わかっちゃいるけどやってらんないね・・・。イベントが全部ネタバレしているなんて」
女「安心しろ、うろ覚えだから。多分細かい設定とかまでは覚えてないよ」
サウス「ならいいけどさ・・・」
女「それにお前だって他のキャラが意味ないくらいTUEEE!してるだろ、おあいこおあいこ」
サウス「ふふ・・・、そうだね!」
女「じゃあサクサクッといっちゃうか、さながらTASさんのようにな」
サウス「TASさんって誰?」
女「お前が眠っている間に育まれた文化だよ」
・
・
・
『場所:魔王城、玉座の間』
魔王「ようこそ。女、そして現身の精霊・・・いや、サウスと呼んだ方がいいかな?」
女「おう、久しぶり。そういうお前は魔王・ギタクシアだったか?」
ギタクシア(魔王)「くくく、左様。我が名はギタクシア」
サウス「・・・」ギリッ
サウス「お前なんかが、気安く私の名前を呼ぶな!」
ギタクシア「それは失礼した、子猫ちゃん」
サウス「ムカツク・・・!」
ギタクシア「さて、ここまで来たからにはもう無駄だと思うが・・・。一応聞いておいてやろうか」
ギタクシア「2人共、我の配下になる気はないか? 貴様らが生きていく上で直面する苦悩と問題、そのほとんどを解決してやろう」
ギタクシア「我の許す限りなら、望む物を何でもくれてやる。どうだ?」
女・サウス「「いやだっ!」」
ギタクシア「ククク、だろうな」
ギタクシア「ならば見せてくれよう・・・」バサッバサッ
サウス「つ、翼がっ!?」
女「おいおい、お前がこんなに怖い姿だなんて知らなかったぞ・・・!」
ギタクシア「我が魔王と呼ばれる、その理由をな」
ギタクシア「さあ・・・、存分に恐れ平伏せ!!」ゴォォォォ!
・
・
・
サウス「トドメだァーーー!!」
ズギューンズギューンズギューン!!
ギタクシア「があっ!」
ギタクシア「ぐ、ふっ・・・! ク、ククク・・・」ガクッ
女「ふー、ふー・・・。終わりだな、ギタクシア!」
ギタクシア「ああ、終わりだな。我の野望もここまでか・・・」
ギタクシア「末代まで誇るがいいぞ、この我に勝てたことを――
ギタクシア「がはっ・・・!」バタッ
女「・・・」
女「お疲れさま」
ガラガラガラッ!
女「世界が崩れていく。今度こそ本当にエンドロールか」
サウス「終っちゃったね・・・」
女「ああ、そうだな」
女「悪いな、気の利いたエンディングを作ってなくて」
サウス「ううん、いいよ。ハッピーエンドだから大満足」
ゴゴゴゴゴ…
サウス「ねえ、お母さん。1つだけ、わがまま言ってもいいかな」
女「おう、なんだよ。言ってみな」
サウス「もしも次があったなら・・・、またお母さんの世界に生まれたいな」
女「そっか、光栄だ」
女「ばいばい、サウス。お前、最高に可愛かったぜ」
サウス「うん・・・! ありがとう、お母さん――
ピシッ
シュ-----ン…
――××登山道、テントの中
女「・・・」ムクリ
男「お、女ぁーーーー!!」
男「大丈夫か? 戻ってこれたんだよな、ちゃんとログアウトできたんだよな!?」
女「おう、心配かけてワリーね」ポイッ
男「おわっ!?」
VRデバイス ドスンッ
男「な、投げるなよ・・・!」
女「んー! 長時間ゲームするとやっぱり肩がこるなー!」
女「さて・・・。さっさと下山して、警察に駆け込もうか」
男「え? あ、ああ・・・」
男「えっと、本当にいいのか? ここまでしたからにはそれなりの理由があるんじゃあ・・・」
女「・・・」ニヤッ
女「もういいんだよ、ちゃんとクリアできたから」
その後。
女が使っていたVRデバイスは警察に押収され。
徹底して調査が行われた。
VRデバイスの部品の型番は、何もかもが未登録で。
いったいどこの誰が、何の目的で作ったのか。
捜査班の尽力虚しく、それらは結局わからず仕舞いだった。
そして、何とも奇妙なことに。
VRデバイスに内蔵されたROMには、ほとんど何もデータが残っておらず。
ゲームをプレイすることはおろか、起動することさえできなかったという。
それでも根気強く解析を続けたところ。
ROMの中から辛うじて、テキストデータらしきものを抽出できたようだ。
『thank you for playing』
30バイトにも満たないそのデータには、それだけ記されていたらしい。
――女の自室
うろ覚えの記憶の中を必死に探し、継ぎ接ぎに結びつけられた世界観の欠片。
徹底的に練り直されたユグドラシルの設定。
そして、2つの世界の狭間で、必死に生きている少女の物語。
刷新された物語を書き記したノートを閉じ、大事に本棚へしまうと。
女は満足そうに1つ背伸びをして、部屋の電灯を消した。
女「いつか、また・・・お前と冒険できる日が来るといいな。今度は変な機械に頼らずにさ」
女「ありがとう、サウス。お前は私の憧れだった」
明日は月曜日。
サウス・アールの物語が完結しても。
女の人生は続いていく。
――エターナルの海より愛をこめて――
終わり
これにて完結です。
読んでくださりありがとうございました。
HTML化依頼出してきます。
エターナルの逆襲思い出した
乙
深いな
このSSまとめへのコメント
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