勇者「みんな狂ってる」 (95)

勇者「みんな狂ってる」



勇者♂「みんな気を付けろ!魔物だ!」


戦士♀「ああああああああああああああああしねえええええええあああああ!」


戦士♀「しねしねしねしねえええええええええ!!!!!」


賢者♂「ふひゅあああ、あああああ」


賢者♂「もうだめだ!ああはあああ!いく!いくううううう!!」


僧侶♀「ブツブツブツブブツブツツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」


勇者「もうやだこのパーティー」

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戦士「ああああぁっぁぁああああああああ!」


鈍い音がする
最近よく聞く音だ
肉と骨が砕ける音
戦士に飛びかかった魔狼が視界から消える


吹き飛んだ魔狼が俺の脇まで飛んできた
もはや犬の形はない、ただの肉塊だ


戦士の剣は相変わらず無茶苦茶だ
かつて国一番の剣士と呼ばれた剣の冴えは見て取れない
ただただ、その尋常ならざる腕力で剣を振りまわす


旅のはじめ
戦士は細身の剣を使っていた
あんなもので魔物が切れるのかと不安に思っていたが
杞憂だった


剣が魔物の首に触れるか否かの瞬間
一見緩やかに剣は引かれ、魔物の皮が、肉が、骨が裂ける
その所作は、まるで我が子を撫でる母親の手の様であった


それが何時からか、戦士は技と細身の剣を捨てた
彼女の手に握られている新しい剣は、厚く、重い
肉が裂けることはなくなった
代わりに爆ぜるようになった


だが、その一振りで魔狼の数は確実に減っていく




賢者「ふひ・・・ふひひひ・・・即死魔法デス・・・ああぁ!いく!いくううう!」


まるでゼンマイの切れた玩具のように
一匹の魔狼が動かなくなる
一見しただけでは寝ているだけにも見える


ただ相手を死に至らせしめる
それだけに特化した魔法
即死魔法とはそういうものだ


賢者は下卑た笑みを浮かべながら
次の獲物に狙いを定める
頼りになる男だ


しかし、彼の股間の膨らみ
いきり立ったそれと、彼の笑み
それだけが気にかかる




僧侶「??????」
僧侶「??????」
僧侶「???? ?????」


僧侶は一心不乱に魔法を唱え続けている


目の焦点があっていない
息継ぎすら聞こえない
いつ倒れてもおかしくない様相だ


魔法を発動させるには、高い集中力と想像力が必要とされる
絶えず体内を循環する魔力を一点に集中し
いわゆる呪文をもってして、イメージを具体化することによって
世の理を超えた力を現出する
それが魔法だ


いつからだろうか
俺たちは、彼女の呪文が聴き取れなくなった
かつて、澄んだ声で紡がれた呪文は
もはや別の言語だ


いや、そうなのだろう
あの呪文を唱えるようになってから、彼女の魔法発動速度は
飛躍的に向上した
賢者ですら理解できない、イメージ力を
あの謎の言語で紡いでいるのだ





僧侶が前のめりに倒れた
息継ぎなく呪文を唱え続けた結果だ
だが、彼女が敵を前にして倒れることはない


魔物が視界から消えるまで彼女の呪文は流れ続ける
彼女が気を失う
これが俺たちにとっての戦闘終了の合図だ


勇者「賢者、僧侶が倒れた介抱してやってくれ」


賢者「・・・わかった。任せてくれ」


戦闘が終わると賢者は正気を取り戻す


戦士「ころすぅ!まだ、ころすううううう!」


勇者「勘弁してくれ、戦士!」
勇者「お前は、警戒を解くな!周りにまだ敵が潜んでいるかもしれない!」
勇者「索敵!警戒!わかる!?」


戦士「敵?てきてきてきてきてき、いたら殺していいか!?」


勇者「はいはい、いたら殺していいから!」


戦士「いってきまああああす!」


勇者「あんまり遠くにいっちゃ駄目だからね!」


賢者「もういないぞ、勇者」


勇者「まじかよ・・・・勘弁してくれよ・・・」
勇者「ところで賢者、性欲はいつまでもつ?」


賢者「・・・2,3刻といったところだ」


勇者「次の村までは、なんとか持ちそうだな・・・」
勇者「僧侶の目が覚め次第、出発しよう」


賢者「わかった」

わろち





魔王討伐の旅の中、みんな変わってしまった
涼やかな目をした彼女は幼児退行し戦闘狂に


聡明な彼は、魔物を殺すことに性的興奮を覚える
逝き狂いの性欲モンスター


活発だったあの娘は、死に物狂いで
呪文を唱え続ける


まともなのは、勇者たる俺だけ
変わらないのは俺だけだ

逆にこの状況で正気保ってる方が異常なんじゃ...

いいぞ~コレ

こわい

期待



凪の村
魔王城に最も近い海辺の集落
海を臨むと、かすかにだが魔王城が見える

 
狂った仲間たちを従え、よくここまで辿り着けたものだ


この旅には幾多の絶望があった
俺以外の皆は、狂うことでしか絶望を乗り越えることができなかった


俺が正気を保つことができたのは、自身が勇者であるとの自負
そして、この戦いが終わった後も彼らを支え続けねばならないという
懺悔の気持ちだ


仲間たちが狂ってから、勇者パーティーは強さを増した
数多の強敵を屠ってきた
だが、この戦いが終わったら俺の仲間たちはどうなるのだろう
たがを外してしまった、彼らに真っ当な人生が送れるだろうか


否、不可能だ


正直なところ、俺も狂ってしまえばどれだけ楽だろうか
何度もそう思った
そうならなかったのは、既に狂ってしまった仲間たちがいたからだ


彼らは、俺にとっての枷なのだ
彼らが狂っている限り、俺が狂うことはないだろう





勇者「主人、2人部屋を二つ!大至急頼む!」


宿屋の主人「へ、へぇ!二階の奥の部屋をお使いください」


勇者「賢者、僧侶、お前らはもう休め」


賢者「・・・はぁ、はぁ、すまん勇者」
賢者「・・・僧侶、今晩も頼めるか・・・」


僧侶「・・・賢者の為だもの。いいよ」


賢者は魔物を殺した夜、僧侶を抱く
魔物を殺すことで高まった性欲を、朝まで僧侶にぶつけるのだ


二人のその姿を見たのは、あの絶望の日からそれほど経っていない頃だった




その日、次の集落にたどり着く前に俺たちは魔物に襲われた
撃退こそできたものの、日が暮れてしまい野営をすることとなった
俺は、戦闘の興奮からか中々寝付けず
夜の番をかって出た


星が天上に連なるのを眺めていると
どこからか、物音が聞こえてくる
耳をたてると、生き物の吐く息の音だとわかった


獣だ、反射的にそう思い
気配を消し、音の先を探った


そこには賢者と僧侶がいた


賢者は自分の右腕をナイフで切り刻みながら
僧侶にのしかかっていた
腕に流れる血を眺めながら、彼の眼は怪しく、恍惚に光っている
息は荒く、口からは涎が垂れていた


僧侶は血を見ると、すかさず回復呪文を唱え
賢者の傷を癒していた


回復、流血、回復、流血、回復、流血


二人はそれを繰り返しながら愛し合っていた


俺はその異常な光景を見て、胃の中のものがこみあがってくるのを感じ
すぐにその場を離れ、嘔吐した


気付いたら、口からだけではなく
鼻からも目からも、液状のすべてが流れ出ていた





二人の行為に
そうしなければ前に進めないとしても
勇者として、そんなことを許していいのか
正直、疑問に思う
旅に出る前の俺ならば、そんなことを許すはずがないだろう
倫理から、正義から外れている


だが、僧侶もそうあることを受け入れているのも事実だ




俺たちが狂う前から
賢者と僧侶の二人は恋仲だった


全ての欲を知識に向けていた賢者

教会で、厳格な神父に育てられた僧侶

おそらく、生まれて初めての恋だったのだろう
二人の恋の同行は、傍目から見ていて
やきもき、させられたものだ


立ち寄った街で、戦士と酒場に向かう途中
逢引している二人を見つけたことがあった


戦士は、にやけた顔で「初々しいねぇ」と囁いた
俺は、二人を必ず生きて故郷に帰すことを固く胸に誓った



僧侶は、戦闘中とは裏腹に普段は一言も声を発さない
次の戦闘に備え、集中力を高め
そして、自身の魔法を更に早く、強くするために
その頭の中で、呪文の構築を行い続けているからだ


そんな僧侶が、唯一、声を発するのが
賢者の乞いに応じる時だ
僧侶もまた、賢者との狂った愛を望んでいるのだ


そう思わなければ、やっていけない
そう思わなければ、報われない




勇者「よし、俺たちは飯にするか戦士」


戦士「わあい!お腹減ったよ勇者!」


勇者「うむ!主人!飯を二人分頼む!あと俺には酒も!」


主人「あいよー、少々お待ちくだせぇ」


戦士「・・・ねえ、勇者勇者」


勇者「ん?どうした?」


戦士「あいつは殺さなくていいの?」


勇者「なっ・・・宿屋の主人のことか?だめだ!」


戦士「・・・でも、この間は皆殺しにしたじゃん」


勇者「この間のは、悪い奴らだったから!ここの主人はいい人だから殺さないの!」
勇者「ほら!俺たちの為に、頑張ってご飯を作ってくれているよ」
勇者「あの人はいい人だろ?」


戦士「むー、むずかしいなー」


勇者「ほら静かにしてないの、ご飯がでてきませんよ!」


戦士「おなかすくのはこまるー。わかった」


勇者「ほんと泣きたくなる・・・」

面白い




勇者「だからさあ、殺しちゃだめなんらって」
勇者「ここの村は、魔王討伐の橋頭保になってて王国騎士がいるんらから」
勇者「だからこの村に限って、人間を裏切る悪人はいないの」
勇者「私らって昔、ここに赴任したことがあるぐらいなんれすよお」


戦士「きょーとーほ?」


勇者「そそ、きょーとーほ、きょーとーほ」


戦士「勇者酔っ払っちゃった?」


勇者「そうかもー」



意識が濁る
舌が回らない
視界もぼやけてきた


ああ酔ったせいだろうか
思い出したくもないのに
ふとあの日のことを
思い出してしまう


何よりも鮮明に





聖騎士「勇者殿ー!ちょっと休憩をしませんか!さすがに疲れました!」


僧侶「あはは!また出た聖騎士の『勇者殿ー』が」


戦士「全く、なんという体たらくだ、あと半日も歩けば風の国に着くというのに」
戦士「お前は、騎士団でいったい何を学んだんだ?」


聖騎士「そんなこと言っても、朝から歩き詰めですよ!」
聖騎士「こんな状態で魔物に襲われたら一たまりもありませんよ!」


戦士「お前という奴は!」


僧侶「大丈夫だよ聖騎士。もし君が死んでも僕の蘇生魔法で甦らせてあげるから」


賢者「まあまあ、落ち着け戦士。聖騎士の言う事も最もだ」
賢者「どうだろう勇者、ここらで休息をとらないか」


勇者「ふむ、まあいいよ。どうも俺は俺の体力で物を判断してしまうからな」
勇者「多少、休憩をとっても日暮れまでには国にたどり着くだろう」


戦士「勇者は聖騎士を甘やかしすぎだぞ」


僧侶「いや、正直ぼくもそろそろしんどかったよー」


勇者「だ、そうだ。はい休憩にしましょうみなさん!」


聖騎士「あざっす!さすが勇者殿!話が分かる」
聖騎士「どっかの体力馬鹿にも見習って欲しいっすよ!」


戦士「おまっ!」


僧侶「あはは!」


あの時はまだ
俺たちは5人のパーティーだった




聖騎士「しかし、あれですねえ」
聖騎士「たった5人でこんな最果てまで、よく来れましたねえ」


戦士「確かに、最初は不安や戸惑いもあったが」
戦士「神託によって選ばれたのが私たちだ。これも必然かもしれん」


賢者「まあ、何にしても僧侶の蘇生魔法あってのことだがな」


勇者「たしかにそうだな、俺や聖騎士、戦士のような剣士は替えがきくが」
勇者「蘇生魔法を扱える術者は極端に少ない、まさに僧侶のおかげだな」


僧侶「えへへ///必死に勉強した甲斐があったよ」


蘇生魔法
読んで字のごとく、生を甦らす魔法
禁忌の魔法


教会は長らくこの魔法の使用を禁止してきた
当然と言えば、当然だ
人は生き、死ぬからこそ生の有難みを知る
教会は生きる道標を与える場所
死からの解放は教会の存在意義を揺らがせるからだ


だいたい、みんなが永遠に生きていたら
国の人口が大変なことになる


だが、教会には常に一定数の蘇生魔法を扱える者がいる
それは、神からの啓示
神託に応えるためだ


『この者、死すには早し』


時折、降りる神託によって
蘇生魔法の禁は解かれる


そして、その恩恵は俺たち勇者パーティーにも、もたらされた

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聖騎士「話の腰を折っちゃって申し訳ないんすけど」
聖騎士「勇者殿ー」


勇者「ん?今度は、どうした?」


聖騎士「敵さんのお出ましです」


僧侶「ええ??どこどこ?全然見えないんだけど」


戦士「私にも見えないが・・・」


聖騎士「音と振動でわかるんすよ、姿は見えませんが・・・」
聖騎士「こいつは、でかいな・・・」


賢者「勇者!」


勇者「ああ!みんな臨戦態勢をとれ!聖騎士、敵はどっちからくる!?」


聖騎士「西っすね、あ、見えました」


賢者「・・・サイクロプスか」


勇者「僧侶!補助魔法をみんなに!賢者は大氷結魔法の詠唱にかかれ!」


勇者「賢者の魔法発動までは、聖騎士、戦士、俺で時間を稼ぐ!」


聖騎士「『いつもの』っすね」


戦士「ふむ、了解した」


勇者「敵のこん棒に気を付けろよ」


聖騎士「了解!」

期待



サイクロプス
体長20尺を超える巨大モンスターだ
幼児程度の知能があり、こん棒を携えていることが多い
やつの一振りは、岩すら砕き、大地を割る
ただし動きはのろく、俺たちなら十分にかわし切れる


これまでも、幾度となく倒してきた相手
セオリーはできている
ひっくり返してとどめを刺す
簡単な話だ


正直、油断があった



聖騎士「へいへーい!おにさんこっちら!」


サイクロプス「ぬぅ・・・がああああああ!」


いつもと同じ鈍い一振り
俺たちは、散開しサイクロプスの側面に回り込む
瞬間、風を切る音
矢だ


聖騎士「あっ痛・・・!」


勇者「なんだ!どっから撃ってきた!?」


戦士「勇者!あれ!」


サイクロプスの背中が脈動したかに思えた
違う、あれは別の生物だ


聖騎士「ゴブリンだ!このデカ目野郎、背負子でゴブリンを運んできやがった!」


戦士「聖騎士!どこをやられた!?」


聖騎士「左肩!」


勇者「聖騎士は後衛に!賢者たちを矢から守れ!」
勇者「サイクロプスをひっくり返せばゴブリンも潰れるか投げ出される!」
勇者「作戦は変わらん!いつもどおりに!」


聖騎士 戦士「「了解!」」




いつもどおりに、済むわけがなかった



戦士「・・・こいつで最後だ!」
戦士「せいや!」


勇者「ふう、これでゴブリンも全滅したな」
勇者「賢者たちは大丈夫かな?」


戦士「一名を除いては無傷のようだな」
戦士「聖騎士、無事か?まるで針鼠みたいだな」


そこには、ゴブリンたちが賢者達に向けて放った矢を
まさに身を挺して、盾となった一人の男の姿だった
肩から腕にかけて、まさに針鼠のごとく矢が生えていた


聖騎士「ひどい言いようっすね・・・」


賢者「配慮が欠けてるぞ戦士。彼は私たちを守ってくれたんだ」


戦士「す、すまん」


勇者「僧侶、回復してやってくれ」


僧侶「もうやってるって!数が多すぎて追い付かないの!」
僧侶「賢者、つぎこっちの矢を抜いて!」


賢者「はいはい」


聖騎士「痛い痛い!もっとやさしく!」


勇者「・・・あのなあ聖騎士、確かに盾となれとは言ったが」
勇者「全部、身に受ける必要はないだろ」


戦士「その通りだ、剣で矢を払い落とせばいいじゃないか」


聖騎士「そんなんできるの、化けもんみたいに強いあんた等ぐらいですよ・・・」
聖騎士「俺にできるのは、せいぜい急所に当たらないよう腕でかばう程度です・・・」


勇者「む・・・そうなのか・・・すまない」


戦士「謝る必要はないぞ勇者、その程度ができないこいつが悪いんだ」


聖騎士「まあ・・・死んでも甦れるし、そのうちできるようになるかも・・・」


賢者「聖騎士、蘇生魔法の成功確率は100%ではない」
賢者「あんまり頼り切るのも考え物だぞ」


僧侶「あー!そんなこと言って!」
僧侶「いままで、私が蘇生魔法失敗したことあったー?」


賢者「むぅ・・・すまん」


僧侶「まあ、賢者のいう事も最もだけどね」
僧侶「信頼をよせてくれるのは有難いけど、死を恐れることで人は強くなる」
僧侶「だから、あんまり死なないでね」


聖騎士「・・・りょーかい」


僧侶「はい!これで最後の傷!回復おわり!」


聖騎士「ああ、ありがとう僧侶ちゃん・・・まさに君は天使だ」
聖騎士「いや女神に違いない・・・結婚してくだ」

聖騎士「あ・・・ごめんなさい、そんな目で睨まないで賢者さん」



勇者「よし、じゃあみんな、ちょっといいか」


勇者「今回のサイクロプスの件、今までにない魔物の運用・・・」
勇者「正直、気になるが考えるのは後にしよう」
勇者「まずは、風の国に急ごうと思う。いいかな」


僧侶「おー!」


戦士「応!」


賢者「お、おおー///」


聖騎士「あのぉ・・・みなさん、ちょっとまことに申し訳ありませんが・・・」
聖騎士「力が入らなくて立ち上がれないんですけど・・・」


僧侶「まあ、回復魔法は本人の体力をがっつり使うからねー」


勇者「よし、俺が担ごう。戦士、前衛を頼む、賢者は殿を」


聖騎士「ありがとうございます。勇者殿ー」


勇者「なに、今回の戦闘の功労者だしな。気にするな」
勇者「よっこいしょ」


聖騎士「ああ・・・勇者殿の背中おっきい・・・」
聖騎士「でも・・・戦士姐さんの抱っこでもよかったかも・・・」


戦士「おまえ、あんな大怪我のあとなのに・・・」


勇者「結構、余裕だな」



その日のうちに、俺たちは風の国へたどり着いた

続きあくしろよ

毒か

期待

ハラハラするのう





城塞都市国家 風の国


勇者「聖騎士、具合はどうだ?」


聖騎士「お気遣い痛み入ります勇者殿。もうすっかり回復しました」
聖騎士「あとはうまい飯をたらふく食えば、完璧かと」


戦士「また、そんな軽口を!」


賢者「口を縫い付けでもしない限り、死んでもしゃべり続けそうな勢いだな」


僧侶「死んでもぼくが叩き起こしてあげるけどね」


勇者「まあ、腹が減っては何とやら、だ」
勇者「主人!飯を頼む!」


宿屋主人「あーい」


聖騎士「あ、あと酒もお願いしまーす!」


戦士「主人!酒はキャンセルだ!」


宿屋主人「へ?へーい」


聖騎士「あーっ!何するんすか姐さん!」


戦士「黙れ、酒を飲む前にすることがあるだろう」


賢者「そうだな、今日のサイクロプスの件、どう思う勇者」


勇者「そうだな。なあ皆、皆は知性を持った魔物に出会ったことはあるか?」


僧侶「んー、ぼくは旅に出るまで魔物を見たことがなかったからなあ」
僧侶「この旅でも、そんな魔物をいなかったよねえ?」


戦士「そうだな。奴らは獣程度の知能しか持っていないはずでは?」


賢者「そう、その通りだ。じゃあ今日のサイクロプスのあれはなんだ」
賢者「サイクロプスを櫓代わりに弓を射るなんて魔物たちには思いつけない」
賢者「今回はサイクロプス一体だけだったから、なんとかなったが」


勇者「ああ、あれが複数体、しかも統制をとられたらと思うとぞっとする」


聖騎士「知性を持った魔物ですか・・・」
聖騎士「一体だけ思い当たるものがあるっすね」


聖騎士「魔王」



賢者「そう、我らが王に書面にて人類滅亡を宣言した魔王」
賢者「彼が唯一のそれだ」


勇者「魔王が、魔物達に戦術や戦略を授けているってことか・・・」


賢者「まあ、それが一番妥当ではあるが」


聖騎士「うーん・・・でも」
聖騎士「ちょっとおかしくはないですかね?」


戦士「どういうことだ?」


聖騎士「人類廃絶宣言、要は人類に対する宣戦布告でしょ」
聖騎士「まともな知性があるなら、宣戦布告をする前に、魔物の軍団化を完了するのが先じゃないっすか」


僧侶「確かに、準備も整ってないのに戦争しますーってのは我慢のできない子供みたい」


賢者「そこだよ」

賢者「勇者、いまの話から一つ仮定が立てられる」
賢者「魔物に戦術を授けてるのは魔王ではない可能性がある」


僧侶「えー、なにそれ?」
僧侶「魔王討伐の旅も半ばにきて、第三勢力?」


宿屋主人「お待たせしましたー、塩漬け豚のステーキと腸詰のソテー、あとシチューです」


勇者「ありがとう」


聖騎士「うひょーうまそう!」


賢者「話を続けよう」


聖騎士「その話、これ以上、必要っすか?」もぐもぐ


僧侶「まあ、僕たちの目的はあくまで魔王一人を倒すことだからねー」
僧侶「その第三勢力を仮定して何をしようっていうの?」むしゃむしゃ


戦士「こら食べながら喋るな!」


勇者「たしかに、今後は魔物との戦闘を避けもぐ行けば」
勇者「もぐ魔王討伐は果たせるだろう。あ、腸詰こっちにも頂戴」


戦士「・・・」


賢者「そんな単純な話じゃないぞ」
賢者「僧侶、シチューをこぼしてるぞ」
賢者「仮定の第三勢力ってのは、人間である可能性が高い」

賢者「む、これはうまいな」
賢者「例えば、この風の国。城塞によって魔物からの脅威は低いが」
賢者「魔王というリスクを常に背負っているのは変わらない」
賢者「あ、僧侶。パンをとってくれ」


戦士「ぱくぱくむしゃむしゃ・・・」ごっくん
戦士「この国が人類を裏切って、魔王に手を貸していると?」
戦士「ありえんな。この国の王は聡明な方だ」
戦士「魔王と手を組むなどありえん」


聖騎士「別に魔王と手を組んだとは限らないでしょ」
聖騎士「たとえば、魔物を手名付けて軍事力の増大を図っているとか」



賢者「まあ、あくまで仮定の話だ」
賢者「もしそうだったら、第三勢力の目的がわからない以上」
賢者「魔物だけでなく人間も避けたほうが賢明だろう」


僧侶「えー?じゃあ、この国を出たら無補給で魔王城まで行くの?」


聖騎士「無理っすね。とてもじゃないけど無補給で行ける距離じゃあないです」


僧侶「魔王城ってまだ遠いの?」


聖騎士「すごーく」


勇者「うーん、ちょっと厳しいなあ」


賢者「なに、全ての国や村を避ける必要はないさ」
賢者「なにしろ何も根拠のない推論だからな、少しでもリスクを低減させるための提案だ」


勇者「ふーむ、なるほど」
勇者「まあ、危険を減らすにこしたことはないし」
勇者「何より同じ人間同士で争うことはしたくないしな」


戦士「もぐもぐ」


勇者「よし、今後は補給を行う集落を厳選する!」
勇者「いいだろうかみんな?」


聖騎士「異議なーし」


僧侶「はーい」


戦士「もぐもぐ」


聖騎士「いつまで食ってんすか姐さん」


戦士「・・・」もぐもぐ



勇者「旅の日程も組みなおさないといけないな」
勇者「先を急ぎたいが仕方ない、出発は3日後にしよう」


僧侶「話はこれで終わり?」


賢者「うん、もういいんじゃないかな」


聖騎士「よっしゃ!主人!ワインを!あるだけ持ってこおおい!」


僧侶「エールも!」


戦士「あ、あと腸詰まだあるか?」


宿屋主人「あいよー」


賢者「まだ食うのか戦士・・・」


勇者「支払い大丈夫かな・・・ほどほどにしてくれよ・・・」


半刻後



賢者「私たちは、ちょっと風にあたってくるよ勇者」


僧侶「散歩に行ってくるよ。先に寝ちゃっててもいいよー」


勇者「うーいっ、気をつけてな二人とも」


聖騎士「お熱いねえ!二人でどこに行くものやら!」


戦士「お前にはデリカシーがないのか!この阿呆め!」


僧侶「お説教は戦士に任せるよー、ぶん殴ってもいいよ」


戦士「任せておけ僧侶!聖騎士、お前を再教育してやる!」


聖騎士「お!戦士姐さんの妖艶な教育ならどんとこいです!」


賢者「全く、口の減らないやつだな」
賢者「じゃあ、ちょっと行ってくる」


勇者「あいよー」




戦士「なあ、勇者。私たちも、そろそろ河岸を変えないか」


勇者「なんだあ、ここでいいじゃん」


聖騎士「そうっすよ姐さん!ところで俺への再教育はいつ始まるんすか!?」


戦士「その、なんだ。ちょっと二人で飲みに行かないか?」


聖騎士「そうはさせませんよ!二人っきりでなんて破廉恥な!」
聖騎士「私だって勇者殿が大好きなんですから!私も着いていきます!」
聖騎士「独り占めはさせないっすよ!」


勇者「あっ・・・?ああああ!?何言ってるんだ聖騎士!」


戦士「お前・・・ホモだったのか?」


聖騎士「あっ、勘違いしてる!違います違います!」
聖騎士「私だって、戦士姐さんみたいな巨乳がすきっす!」
聖騎士「ただね!乙女が強い男に憧れるように、男もまた強い男を尊敬するって話!」


勇者「ああ・・・びっくりした。勘弁してくれよ・・・」


戦士「なにげに巨乳とか言うな、助平め///」
戦士「はあ・・・仕方ない・・・聖騎士お前もついてこい・・・」


聖騎士「ありあとございあーす!」


戦士「まったく、聖騎士も少しは私たちに気を遣ったらどうなんだ?」


勇者「なっ・・・」


聖騎士「はっはっは、私にデリカシーがないのは先刻承知でしょうに!」


戦士「・・・主人、私たちもちょっと出てくる!戸は開けておいてくれ」


宿屋主人「あいよー、酒場なら街の西側にあるから、そこに行くといいよー」


戦士「ありがとう、では出てくる」


宿屋主人「お早いお帰りをー!」




戦士「おい、見てみろよ二人とも」


勇者「ん?」


聖騎士「あ、僧侶ちゃんと賢者さんっすね」


勇者「おい!あれ!みろよ!手をつないでるぞ!」


聖騎士「ははあ、ようやっと少し前進したみたいっすね」


戦士「初々しいな」


聖騎士「いや、まったく」


聖騎士「羨ましいなあ、私も魔王を倒して国へ帰ればハーレムなんかつくれちゃったりするのかなあ」


戦士「どこまでも破廉恥だな・・・聖騎士の名が泣くぞ」


聖騎士「僧侶ちゃんと賢者さんを出羽亀してる二人も同類ですよ!」
聖騎士「もう、こんなことしてないで早く酒場に行きましょうよ!」




聖騎士「ぷはー」

聖騎士「うむ、やはり酒場の酒は一味違うっすね」


戦士「勇者、さっきの話だが」


聖騎士「こだわりますねー、ここでも、まだ続けるんですか」


戦士「大事な話だ」
戦士「実はな、私はこの国の出身なのだ」


勇者「へえ、初耳だな」


戦士「ああ、10年来の帰郷だがな」


戦士「私は、この国の王とは面識もある」
戦士「とても賢く、民に優しい、聡明な人なのだ」
戦士「だから、賢者にこの国の人々を疑われたとき、ついかっとなってしまった」


聖騎士「なるほどねー、そりゃ怒っても仕方ないですわ」


戦士「ああ、この国の王が魔王に加担するなんてことはありえない」


勇者「まあ、戦士の故郷だってんなら。気持ちはわかる」


戦士「ありがとう。そこでだ」
戦士「旅の日程を詰めるなら、情報が必要だろう?」
戦士「口利きは私がするから、明日王に会いに行かないか」


勇者「ふむ、今後の補給地点を確認しておきたいし。有難い話だ」
勇者「それに、戦士がそこまで信頼する王だ。一度会ってみたい」


聖騎士「それじゃあ、私も着いていきますよ」


戦士「・・・私と勇者の二人でいくつもりだったんだが」


聖騎士「まあ、お二人の邪魔をするのは申し訳ないとは思いますよ」
聖騎士「でも勇者パーティーは中央の騎士団扱いなんで、勝手に他国の王と会ってもらっちゃ困るんす」
聖騎士「風の国の王からも、変に邪推されたら困りますし」
聖騎士「立場上ね。これでも本国では騎士なんで私も挨拶をしておかないと」


勇者「まあ、そこらへんの他国との折衝についちゃ聖騎士に任せてあるしな」
勇者「戦士も構わないな」


戦士「まあ、それもそうだな」


聖騎士「はい、終わり。せっかくの酒なんですからもっと楽しい話をしましょうよ」




エールを煽る
グラスが空になったと同時に俺は目の端に数名の男たちを捉えた
帯刀し装甲を付けている
この国の衛兵だろうか
だがなぜ、衛兵が酒場にいる
仕事終わり?なら何故帯刀している?

そんなことを考えていると
彼らは俺たちにゆっくりと近づいてきた


衛兵?「ユウシャイッコウですネ」


戦士「なんだお前らは、私たちの素性をなぜ知っている?」


衛兵?「シンデいただきマス」


男たちの抜刀
瞬間、戦士が机を蹴り上げ男たちの視界を遮る
机の陰から聖騎士が踊り出、男たちの足の腱を斬る


聖騎士「なんだあ!こいつら!」


戦士「いったい・・・!?」


勇者「おい!店の外に出るぞ!」


扉を蹴飛ばし、外に転がり出る
数名どころではない、数十名の兵が俺たちを取り囲んでいた


聖騎士「さっきの無作法者達を捕らえにきた、ってわけじゃあなさそうっすね・・・」


戦士「なんだ!何が起こってるんだ!」


勇者「構えろ!来るぞ!」



幾多の槍が、俺の息の根を止めに来る
殺気が籠っている、本気で俺たちを殺しにきている


槍を潜り抜け、相手の懐に踏み込む
一瞬の躊躇、人間を斬るのは初めてだった
剣を振りあげ、相手の右腕を体から切り離した


振り返る
おかしい・・・
戦士の動きが、明らかに鈍い


聖騎士「うわー、視界がぐるぐる回るっす!あいつら酒になんか入れやがったか!?」


戦士「お前のはただ酔っ払ってるだけだろ!入れるなら毒だ!」
戦士「毒を盛られていたら、私たちが立ってられるわけがないだろ!」


聖騎士「戦士姐さんのほうが飲んでたのにー!!」


酒に酔っているのか・・・?
いや、違う。戦士はこの国の人を斬ることを俺以上に躊躇しているんだ


勇者「戦士!襲われている以上、手加減はできない!」
勇者「意味はわかるな!?」


戦士「っ・・・!わかっている!」
戦士「だがっ・・・!だが、なぜだ!?何故、私たちが襲われている!?」


街道の奥から、更に灯りが見える
松明、援軍か・・・!?


聖騎士「そんなの賢者さんの仮説が的を得てたってことじゃないんですか!?」


戦士「だが・・・!あの聡明な王が魔王に加担するなど・・・!」


聖騎士「聡明な王だからこそってこともあるでしょ!」
聖騎士「というか、お話してる場合じゃないですよ!」


槍を払いのけ、手首を切りつける


戦士「すまない勇者!私には斬れない!」


勇者「くそっ・・・仕方ない」
勇者「無力化しろ、可能な範囲で構わんから命は奪うな!」


聖騎士「そんな余裕ないですよー!」


戦士「頼む!聖騎士!」


聖騎士「あー、くそっ。わかりましたよ!」
聖騎士「なるべく!なるべく頑張ります!」


剣の柄で、顎を殴りつける



聖騎士「そんなことより、勇者殿!」


勇者「わかってる!賢者と僧侶にも手が向けられてるだろう!」
勇者「戦士!ここは俺たちで食い止める!」


戦士「この数を、お前たち二人で何とかするというのか!?」


勇者「お前は、賢者たちを探せ!ここを何とかしたら西の城門に迎う!」
勇者「外で合流しよう!」


戦士「だが・・・!」


聖騎士「あーもう!人を斬りつけるのに躊躇する足手まといは要らないって言ってるんすよ!」
聖騎士「勇者殿の指示に従ってください姐さん!」


戦士「・・・わかった!」
戦士「西の城門だな!必ず来いよ!」


勇者「任せておけ!」
 

聖騎士「やっと行きましたね」
聖騎士「さあて、勇者殿!たった二人で殿を務めるなんて御伽噺もいいとこですよ!」


勇者「安心しろ聖騎士、俺たちは勇者パーティーだ」


勇者「勇者は死なない。魔王を倒すまでは」


そこからは、よく覚えていない
幾度となく、剣を振るい、柄で殴りつけた


血と油を吸った剣は、なまくらとなり
終いには敵の槍を奪い、暴れた


体中についた血は、敵のものか己のものかもはやわからない
ああ、風呂に入りたいなあ
淡い希望を抱いたとき、鈍い衝撃が体を襲い
意識を失った




次に目覚めた時には全てが変わっていた



殺した覚えのない衛兵たちの死体
そして、物言わぬ彼




知性を失った戦士
魔法に全てを捧げた僧侶
そして変態




あの日、みんなが狂ったあの日
俺たちのパーティーは一人の仲間を失った







目が覚める
もう昼だ
ベットには僧侶が寝息を立てている
そっと、彼女の頭を撫でる


力を籠めれば、簡単に潰れてしまいそうな気がした


手をつなぐとき
抱きしめるとき
頭をなでるとき
いまだに力加減がわからない
痛くないだろうか、嫌じゃないだろうか
彼女に触れるとき、私はいつも不安に苛まれる


幼いころから、様々な書物を読んできたが
そんなことはどこにも書いてはいなかった


僧侶と出会わなければ
こんなことに思いを馳せることもなかっただろう




私は、性欲を全て吐き出した後のこのわずかな時間の間だけ
賢者として居られる

だが
もう数刻もすれば、また欲を抑えきれない獣に成り下がる
そしてまた、彼女を使って性欲を吐き出す


私は、賢者でいられるこのわずかな時間が
この時間がたまらなく愛おしく
そして、憎らしい




もっと真っ当に、彼女を愛してあげたい
だが獣に成り下がった私にそれは不可能だ


いかに、理性で押さえつけようと
私の性欲は唸りを、叫びを、悲鳴をあげる
この衝動は、私の何をもってしても止めることができなくなっていた


どうしてこんなことになったのだろうか
私はあの日のことを思い出す




あの日、彼が死んだあの日


私と僧侶は初めて肌を重ねていた


旅も半ばにきて、強い魔物を相手にすることも増えてきた
僧侶の蘇生魔法は強力ではあるが弱点がないわけではない
単純な話であるが、術者である僧侶が死んでしまっては元も子もないということだ


だからこそ僧侶は死を恐れている
自身は甦ることができないから


いつ死ぬかわからない
その、自覚が私と僧侶の仲を急激に縮めていた



まさに、至らんとする時だった
やつらは、宿屋の主人と数多の男達が寝室になだれ込んできた


私は、反応ができなかった
この点、反省のしようがない
男である限り、反応できるはずがないだろう


ただ、僧侶は冷静だった
僧侶がとっさに防御魔法を私にかけてくれたのと
奴らが私に斧を振り下ろしたのは、ほとんど同時であった


激痛だ
魔法のおかげで傷こそできなかったものの、味わったことのない痛みが走った


そのあとは必死だ
僧侶を守らなければ、ただその使命感だけで
私は、生まれたままの姿で
拳をふるった



人を殴った経験がないうえに、僧侶の補助魔法がかかった私は
力加減ができなかった
男の腕をつかめば、肉ごとえぐりとり
頬を殴れば、首が捻じりきれた


男たちと闘いながら、横目に彼女の無事を確認する
彼女もまた、生まれたままの姿
シーツを羽織ってこそいるが、その姿は実に性的で煽情的であった


すべてが終わったとき、私は絶頂していた


あの時、私は
初めての夜を迎えていた私は

闘いの高揚感と、性的興奮を結びつけてしまったのだ





戦士と合流した私たちは西の城門に向かった


乱戦の跡


二人はもう城壁の外か?
淡い期待は数舜で引き裂かれる


私たちは見つけてしまった


二人の遺体を


ずたずたに引き裂かれ、一瞥して誰かはわからない
ただ、その装備は確かに勇者のものだった


僧侶が蘇生魔法を唱え始める
まるで見計らっていたかのように、路地より現れる衛兵


罠だ
よりにもよって勇者達の遺体を餌にしたのだ


だが、彼らには勝機はない
私たち5人なら、この程度の修羅場幾度となく超えてきた


掠れた声がした
僧侶だ

「だめだ、甦らせない・・・」


失敗・・・
このタイミングでか・・・


戦士が泣き叫ぶ
そして彼女は、考えるのを止め衛兵たちに躍りかかった


私は僧侶に、もう一人の蘇生を指示し
そして、私もまた自身の猛りを鎮めるために衛兵たちに向かった





勇者「うわー、これが魔王城か」
勇者「城って言うか、廃墟だなこれは」


戦士「うー、ころせない。ころすやつらがいない」


勇者「確かに、びっくりするぐらい手薄だな、どういうことだろう?」


賢者「あがががが・・・・・ゆ、勇者・・・・」
賢者「我慢が・・・でき・・・な」


勇者「わあああああ、だめだだめだ!こんなとこで始めるなよ!」
勇者「その、なんだ、すごい困る!」


僧侶「???????」


賢者「あ・・・意識が・・・」zzz


勇者「・・・睡眠魔法か?助かったよ僧侶」
勇者「あー、俺が負ぶっていくしかないか」
勇者「なんか懐かしいな」


戦士「わたしがもつー!」


勇者「だーめ、魔王と闘うんだから力を温存しておきなさい」


戦士「わかったー」


勇者「よし、それじゃあ行きますか」


戦士「おー!」






あれが魔王
漆黒の鎧を身にまとう、その姿は
一目見る限りでは、人と変わらない


ただ唯一、頭部から生える二つの角
それだけが、彼が人ではないことを物語っている


この世界でただ一人
知性をもつ魔物
魔王


その圧倒的なプレッシャーのせいだろうか
彼の周囲は、まるで空間が歪んでいるかの如く
空気が揺らいでいる


魔王「よくぞきた、勇者達よ」

魔王「待ちかねたz戦士「しねええええええええええええええええ!!!!!!!!」


勇者 魔王 「「ちょっ、おま!」」


戦士が踊りかかる


完璧なタイミング
魔王も、完全に油断していた

一刀両断

かに思えた


戦士「なんだこれ!なんだお前えええええ!」


光る障壁
魔王を中心に半円状に広がる何かがあった
戦士の剣は魔王に届かなかった



魔王「貴様らは様式美というものを知らんのか・・・衝撃魔法????」


戦士が吹き飛ぶ


勇者「おい!賢者起きろ!」


賢者を蹴飛ばし、俺も剣を抜く


僧侶「???????」

僧侶「??????」


僧侶「??????」

僧侶の魔法が炸裂する
現れた炎が魔王を包む

魔王「ほお、魔界の呪文を使うか・・・消滅魔法????」


障壁で受けなかった
魔法なら、あの障壁を超えられる


勇者「僧侶!魔法を放ち続けろ!」


賢者「ん・・・あああ・・・・ああああああ!魔王!魔王!魔王!」

賢者「わたしのおおおお猛りを鎮めてくれえええええええ!即死魔法デス!デス!でええええええええす!」




魔王「解呪魔法?????。ああもう、ゆっくり話もできんのか」

僧侶「??????」

魔王「せっかく待ちわびた最強の人間との闘いだというのに、消滅魔法????」

戦士「こんどこそしねえええええええ!」

魔王「もう!様式美というものが貴様らにはわからんのか!衝撃魔法?????!」


戦士が吹き飛ぶのをしり目に
俺も魔王との距離を詰める

だが戦士の剣を止めるほどの障壁だ
俺の力ではどうにもならないだろう

力で切れぬなら技だ
かつての戦士の剣を思い描く

障壁に当たるか否か
剣をスライドさせる

光が歪む
が、剣は届かない

いつかは斬れる

俺は確信する



勇者「休む暇を与えるな!」


戦士「うひゃあおおおおおおおおお!」


僧侶「??????」
僧侶「????」
僧侶「??????????」
僧侶「??????」
僧侶「????」
僧侶「??????????」


賢者「あああああああ気持ちいい気持ちいい気持ちいい良い良い良い!」
賢者「受け止めてくれええまおおおおおお!ウインド!ウォーター!ファイアー!」


魔王「解除魔法??? 消滅魔法????? 沈黙魔法????この変態どもめええええ!」


僧侶の魔法に的確に反応する詠唱速度
恐ろしく早い
だが、わずかな隙

俺と戦士の剣が左右から
魔王を襲う


戦士「だああああああああああああああああああ!」

戦士の渾身の一撃
光が揺らぐ


勇者「どおりゃあああああああ!」

そして俺の剣が、ついに光を切り裂いた


同時に、僧侶が倒れる





勇者「はあ・・・はあ・・・・」

息が切れる
歴戦の勇者パーティーだというのに
まだ、魔王自身には傷すら一つついていないというのに
障壁を破るだけで精いっぱいだ


俺と戦士は既に疲労困憊
僧侶は気を失っている
賢者はエレクト中


いま、反撃されたら一たまりもないな・・・
だが、そうはならない


動きがとまった俺たちを優しい目で眺めた魔王は
ゆっくりと落ち着いて話を始める




魔王「やっと、話ができるな・・・」


勇者「話など不要だ!ただお前を斬るために俺たちはここにいる!」


魔王「まあ、落ち着け勇者よ。私は、もともとお喋りな質でね」

魔王「貴様らの息が整うまで、少し話をしようじゃないか」



魔王「私の障壁を破るとはな・・・流石、勇者一行と言ったところか・・・」

魔王「だがな・・・どうにも君たちとの闘い、飽きてきたよ」

魔王「君たちのような者たちとは、私は散々戦ってきた」

魔王「そう、魔界でな・・・」

魔王「いまの君たちは、魔界の者たちとそっくりだ」

魔王「つまらない、実につまらない」



魔王「せっかく、この世界に来れたんだ」

魔王「私は、人間と戦ってみたい」

魔王「この世界の正常な人間とな・・・」





勇者「何を言っている・・・!?」



魔王「君たちの呪い、私が取り去ってあげよう」


勇者「なんだと!?」



魔王「正常に戻してあげようと言っているんだよ」


戦士「ころすよ勇者!いいでしょ!?」



勇者「まて!戦士!おすわり!」

勇者「魔王・・・そんなことができるのか!?」




魔王「できるさ、私は魔王。狂乱を統べる王だ」

魔王「ただし、無条件というわけにはいかない・・・」




勇者「・・・条件を言え」


魔王「いまから、君たち全員に私の狂気をわけてあげよう」

魔王「正常なものならば、あっという間に発狂してしまう」

魔王「だが既に狂ってしまっている者たちには回復の福音となる」

魔王「狂気は、更なる狂気によって裏返るものなのだよ勇者」


勇者「そういうことか、皆は正気に戻るだろうが、俺は・・・」


魔王「狂うだろうな・・・ふふふ・・・」



勇者「・・・」


勇者「やれ!やってみろ魔王!」



魔王「ほう、案外決断が早いな・・・」


勇者「俺は、この旅の最中、何度となく狂いかけた!だが狂わなかった!」

勇者「貴様の狂気如き、俺なら耐えきってみせる!」




魔王「・・・素晴らしい」



魔王から噴き出た瘴気が俺たちを襲う

視界は暗転し

肌を何かが這いずり回る感覚がする

正体不明の恐怖が俺を襲った




勇者「・・・」


魔王「・・・」


勇者「・・・ん?これだけか・・・?」


魔王「え・・・?あれ・・・?」


勇者「ふはっははっははは!なんだ!大したことないな魔王!」

勇者「お前の狂気、勇者たる俺の前では児戯に等しいってことか!」

勇者「この程度で狂えるなら!もうとっくに狂ってるよ!」



魔王「・・・・どういうことだ」


勇者「どういうことも、こういうことも無い!お前は負けたんだよ!」


魔王「狂気の現出に失敗したのか?この私が・・・?」


勇者「!」


勇者「おい、みんな!意識はあるか!?」





あの日、ぼくは神の声を聞いた



僧侶「あ・・・」


論理を超えて、ぼくは全てを理解した

これが神託
これが神の声


神は言う
『この者は十分に役目を果たした』



僧侶「だめだよ!まだ!まだやれる!」


僧侶「彼はまだ戦える!ぼくの蘇生魔法で生き返らせれば!」



瞬間、ぼくの魔力が霧散した
いかに力を籠めようと、魔力の集中ができなかった
これが神の思し召し
逆らうことのできない力



僧侶「だめだよう!まだ、死んじゃだめだ!」



彼が起き上がることはなかった



あの日以来、ぼくは死の恐怖を思い知った
死を享受し、よりよき生を求める
そんな教えを説く、教会の人間であるぼくが
一番、死をないがしろにしていたことを知った


麻痺していたのだ
この旅で、仲間たちは幾度となく死に
ぼくの魔法で甦らせてきた

ぼくさえ生き残れば、ぼくさえ死ななければ
みんなが死ぬことはない

その経験が、仲間たちが死ぬことへの恐怖を薄めていたのだ






ぼくは思い出す
人は死んだら終わりだということを


あの日から、ぼくの生への執着が異常に高まった
ぼく自身だけではなく、仲間たちも
何があっても殺させない
何があっても生き残る
何があっても故郷に帰る


その気持ちがぼくを追いつめ


ぼくは狂った


ぼくは、全てを捨ててでも
生き残ることしか考えられなくなっていた






光が見えた

あの強大でどすぐらい恐怖が
嘘のように体から引いていく


ああ、そうだ思い出した
死は怖い、恐ろしい・・・


でも、故郷を旅立った日に
ぼくは覚悟を決めたんじゃないか


たとえ道半ばで倒れようと
ぼくたちの通った道は未来へと続く
いつか、誰かが魔王を打倒してくれる


だから、怖くても僕は前に進むんだと!



ああ、あの僅かな時間が
私の求めてやまない、あの優しい時間が戻ってくる


私の理性が帰ってきた




ああ、もう限界だ
考えることをやめていては、魔王には勝てない


ふっと、思い至る
ただそれだけ、ただそれだけを切欠に
私の思考は踊り、なだれ込んでくる





賢者「・・・ああ、やっと帰ってこれた」

僧侶「・・・頭がくらくらする」

戦士「・・・もう、大丈夫だ・・・勇者・・・」




勇者「!!」

勇者「おかえり!みんな!!」


勇者「魔王!お前は間違いなく成功したよ!感謝しきれないぐらいだ!」








勇者「さて、魔王!仕切り直しと行こうか!」

勇者「俺が狂わなかったのは誤算だろうが、お前が望んだ人間との最終決戦だ!」


魔王「まあ、まて勇者。お前の仲間たちはまだ意識がはっきりとしていないようだぞ」

魔王「もう少しだけ、話をさせてくれ」


勇者「いったい何なんだお前は!?」


魔王「言ったろう?私はおしゃべりなんだよ」

魔王「私が望むのは万全の貴様らとの闘い。そのためには努力を惜しまない」

魔王「現に、この魔王城には一切の魔物を遠ざけてある」

魔王「この世界に来て、勇者の存在を知って以来」

魔王「私は貴様らが十分に経験を積むのを待った」

魔王「とある国に私の狂気をまき散らしたこともあったなあ・・・」


勇者「風の国・・・やはり貴様が・・・」


魔王「魔物達は獣の姿をしたものが多いからな、人の形をしたものを貴様らが斬れるか」

魔王「ちょっと試しただけさ」

魔王「だが、あれで貴様らが正気を失うのは予想外だったよ・・・」

魔王「まあ、それも解消されたがな・・・」


魔王「・・・・・さて、そろそろ始めようか」


魔王が、ゆっくりと優雅に剣をぬく


魔王「全身全霊をもってかかってこい!勇者達よ!」


勇者 戦士 賢者 僧侶 「「「「  応!  」」」」





戦士「そおおりゃあああああ!」


戦士が踏み込む
甲冑の隙間 魔王の首を横薙ぐ
が、剣は空を切る


勇者「せい!はっ!」


勇者の連続突き
的確に受ける魔王
剣の腹 小手 甲冑
魔王の肉には届かない


僧侶「距離をとって!二人とも!」

僧侶「火炎魔法?????」
賢者「極大風魔法ウインド!」

立ち上がる炎の柱

魔王「消滅魔法????」


戦士「もう一回!」
勇者「ああ!」


魔王「ぬぅん!」
魔王の反撃
一閃


僧侶「防御魔法?????!!!」


かろうじて剣で受ける
体が持ちあがり、二人して吹き飛ばされる


戦士「なんて力だ!ひと薙ぎでここまでとは!」

勇者「まともに受けなければ問題ない!ひるむな!」



再度の突撃
戦士の剣を魔王が躱す
戦士の体がつくる死角からの完璧な不意打ち
勇者の剣が、魔王の肩を貫いた
かに思えた


僧侶「やった・・・っ!?」


勇者「だめだ!なんて固さだ!」


剣はほんの少しだけ、魔王の肉体にくぼみを作る
ただそれだけ、貫くことはできなかった


魔王「はははっははは!そんなものか勇者達よ!」

魔王「まだだ!まだ足りぬぞ」
振るわれる魔王の剣


賢者「離れろ勇者!暗黒魔法ダークネス!!」


立ち込める暗黒が魔王の視界を奪う
そのすきに、勇者は魔王から距離をとる
血が流れる
かろうじて薄皮一枚で躱すのが精いっぱいだった


魔王「消滅魔法?????」


闇はかき消される


魔王「まさか、暗黒魔法まで扱えるとはな・・・」


僧侶「回復魔法?????大丈夫!?勇者!」


勇者「すまない!ありがとう僧侶!」



一瞬、頭をよぎる
こんなやつを俺たちだけで倒すことができるのか・・・?

勇者である俺ですら、魔王に立ち向かうことに改めて恐怖する

そんな疑念を打ち払うがごとく
戦士が叫んだ




戦士「・・・次は私だ!行くぞ!」


まるで策のない動き
ただ早く、それだけに特化した戦士の踏み込み


勇者「だめだ!落ち着け戦士!ただ突っ込むだけじゃだめだ!」


少しでも魔王に隙を作るために
とっさに短剣を投げる

弾かれる


賢者「閃光魔法フラッシュ!」


強烈な光に目をくらませる

戦士「どおりゃああああああああ!!!!」


狙いは、剣の持ち手
剣が魔王の指に触れる


だが、戦士は一瞬で理解する
だめだ、この剣では、この鈍らでは切れない


僧侶「研磨魔法????? !!!!」


剣に光が宿る
ただ厚く重いだけの剣が、まるで針のような鋭さをまとった
いける


戦士「だああああああっつあああああああ!」


魔王の指が、剣が落ちた
魔王の表情に影が堕ちる


勇者「いまだ!こんどこそおおおおおお!」


渾身の乱れ突き
全ての体重を剣に載せ
恐怖を払い
迷いを消し

戦士の作ったチャンスを無駄にしないために
俺は剣を奮う





剣を落とした魔王に勇者の素早い突きの全てを受けることは叶わなかった


肩に、ひじに、首筋、腰
勇者の突きが吸い込まれていく


魔王「ぐおおおおおおおおお!!!!」


勇者の剣が魔王の喉を貫いた
魔王が膝から崩れ落ち天を仰いだ





勇者「はあっ!はあっ!はあっ!やったぞ・・・!」


戦士「ああ!ついにやった!」


勇者「戦士!驚かせやがって!狂戦士の戦い方がまだ抜けていないのかと心配したぞ・・・」


戦士「なに、お前たちなら何も言わずとも魔王に隙をつくってくれる」
戦士「そう信じたまでだ・・・」


賢者「冷静さを失ったわけではなかったのだな」


僧侶「まあ!ぼくと賢者のサポートあってのことだけどね!」







魔王「ごふっ・・・ああ、楽しかった・・・」


僧侶「げっ!まだ生きてる!」


勇者「みんな!まだ油断するなよ!」


魔王「ふふふ・・・もう何もできんよ・・・」

魔王「力が入らない・・・私はもうすぐ死ぬ・・・」


血を吐いている
その言葉に偽りはなかった


魔王「見事であった・・・勇者諸君・・・」

魔王「これが貴様ら人間の強さなのだな・・・恐怖を払い理性と信頼で戦う・・・」

魔王「じつに・・・すばらしい・・・」

魔王「貴様らを正気に戻したのは失策だったかな・・・ふふ」


言葉とは裏腹に
魔王は満足げな表情を浮かべる



魔王「ああ・・・そうか・・・そういうことか」


勇者「?」


魔王「いやなに・・・貴様が、勇者ただ一人が私の狂気に晒されながら平気だった理由」

魔王「今に至って思いついたよ・・・」


勇者「どういうことだ・・・?」




魔王「貴様はとうに狂っているんだよ、勇者・・・」

魔王「私の狂気では裏返らないほど強大にな・・・」

魔王「酷く、凄惨に・・・狂っている」



勇者「はあ・・・?狂っているのはお前だよ魔王」

勇者「死の淵で、思考が鈍っているんだ」




魔王「さて・・・そうかもしれんな・・・」








あの日
彼が甦ることはなかった


僧侶は泣きながら言った
「だめだ、甦らせない・・・」



全て私のせいだ


私が余計なことを考えていたからだ
余計なことを言ったからだ
私の言葉が彼を殺した


私が、ただ一本の剣だったら
迷うことなく肉を断ち切る剣であったなら
こんなことにはならなかった


戦士「わたしが・・・わたしが・・・殺したんだ」
戦士「私が殺した・・・」


戦士「     勇者を     」






勇者が死んだあの日


僧侶の蘇生魔法で生き返ったのは聖騎士だけだった

そして、私は思考を捨てた
考えることをやめ



ただの嵐と化した





聖騎士「ん・・・あ・・・・あれ、生きてる・・・」

聖騎士「ああ・・・僧侶ちゃんの蘇生魔法か・・・」

聖騎士「ありがとう僧侶ちゃん、地獄の淵から蘇ったぜ・・・」

聖騎士「あれ・・・なんで皆泣いてるんだ?」

聖騎士「そんなに私の冗句が面白かった・・・?」

聖騎士「あれ?勇者殿は・・・?」



聖騎士「え・・・?死んだ・・・?」

聖騎士「だったら甦らせれば・・・?」

聖騎士「え・・・?」

聖騎士「あ・・・あ・・・・」

聖騎士「あ」

聖騎士「うああああああああああああああああああああああ!!!!!」



聖騎士「勇者殿が死んだ!?勇者殿が!?」

聖騎士「そんなはずがない!彼は言った!彼は最期にこう言った!」

聖騎士「勇者は死なないと!」

聖騎士「死なない!勇者は魔王を打倒すまで死なないんだ!」

聖騎士「止まることなく、進み続ける!それが勇者だ!」


聖騎士「なのに・・・死んだ・・・?」

聖騎士「なんで・・・?なんで・・・なんでなんでなんでなんでなんでなんで」



なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで










聖騎士「」

聖騎士「いや・・・?本当に死んだのか・・・?」

聖騎士「もしかして・・・死んでないんじゃないか・・・?」

聖騎士「そうか!」

聖騎士「・・・あ、あはははっは!」

聖騎士「そうだ!勇者殿は死んでいない!」

聖騎士「あれはそういう意味だったんだ!」



聖騎士「私たちこそが、私たち勇者パーティーこそが勇者なのだ!」

聖騎士「私は生きてる!戦士姐さんも!僧侶ちゃんも!賢者さんも!」

聖騎士「だから、勇者は死んでいない!」

聖騎士「私たちは止まらない!魔王を倒すまでは絶対に!」

聖騎士「みんな!みんなまだ死んでいない!生きているんだ!」




聖騎士「あれ・・・?でも・・・あれ・・・?」

聖騎士「勇者殿がいない・・・なんで!?なんで!?」

聖騎士「勇者は生きているのに、勇者殿がいない・・・?」

聖騎士「なんだ、おかしいぞ」

聖騎士「なにかが、なにかがおかしい」

聖騎士「何が間違ってる・・・?」

聖騎士「何が・・・?」






聖騎士「あ・・・そうか、私が・・・」


聖騎士「私が、間違ってるんだ・・・間違ってたんだ・・・」










聖騎士「そうだ・・・」













聖騎士「そう・・・」











聖騎士?「死んだのは勇者じゃない・・・聖騎士だ・・・」








聖騎?「私?いや俺?は、まだ生きている」








聖?「そう、わた、俺たちは止まらない」






?「聖騎士の死を乗り越え、必ず魔王を倒す」







勇者「      俺は勇者だ       」






あの日から聖騎士は自分を見失った
軽口を一切言わなくなり、口調も変わった
そして何より、自身のことを勇者その人だと信じ切っていた

あの日死んだのは、聖騎士だと言って譲らなかった
考えることをやめてしまった私には、聖騎士のことを慮る余裕などなかった




賢者「とどめを刺してやろう勇者。私たちは彼の所業に苦しめてこられたことは間違いないが」
賢者「私たちが彼を苦しませ続ける理由もないだろう」


魔王「それは、ありがたい・・・ならば最後にもうひとつだけ・・・」


勇者「・・・言ってみろ」


魔王「私は、魔界の尖兵に過ぎない・・・」


戦士「なんだとっ・・・!?」


魔王「次に来る魔王は、誰だろうな・・・」


魔王「・・・ふふ、月並みで悪いが魔界では私は最弱と蔑まれていた・・・」


魔王「・・・絶望に沈め人間どもよ」


賢者「勇者!やってくれ!」


勇者「さらばだ魔王・・・」


勇者の剣が魔王の胸を貫く




沈黙が流れる
あらゆるものを投げうって倒した魔王が最弱
更なる絶望を予感させる最期の言葉


私たちは、次の魔王を打倒せるのだろうか・・・






沈黙を破り、勇者が叫ぶ


勇者「はははは!なんてことはない、勇者の冒険はまだまだつづくってわけだ!」

勇者「安心しろ!みんな!俺がついてる!」



勇者「    勇者である俺がな!    」





戦士 賢者 僧侶 「「「   あんたが一番狂ってる     」」」

おわり

感想とかアドバイスもらえると嬉しいです

魔界での戦いはつまらない
魔界では私は最弱
どゆことやねん?

ギャグで書きたいのかシリアスで書きたいのかどっち?

なるほどなあ
しかし、おすわりに噴いた

シリアスさはアンバランスだったかもしれんね
シュールなノリでいくなら、最後の劣兵設定は余分に感じた
悲劇なシリアスにするなら、もっと絶望的な演出を強めたほうがよかった

あ、全体とオチは面白かったよ


でも狂気で裏返らないくらい狂ってるから効きませんでした、とかオチてなくない?
効かなくていいならなんでもありになっちゃうと思うの

視点変換分かりにくいかな

粗さは目立つが、それでも面白かった
下手にシリアスぶったり長編にしようとするより、こういうのが好き

全体的にはシリアスで面白かった
ただ魔王との戦闘シーンが絶望的につまらない

普通に面白かった
次も期待

まぁ予想通りのオチだったなと

正直予想通りだったなーと
びっくり箱としてはオチが弱いんでもっと予想が難しいような超展開にしちゃうか
もうちょっと何か付け足すべきかと(地の文や心理描写でもっと盛り上げるとか世界観をがっつり作り上げてそっちの描写もするとか)

どの時点で結末が予想できました?

聖騎士が出てきたあたり

僕が確信したのは>>43かな

神託とかお告げとか最近ちょこちょこ見かけるんだが流行ってんの?

参考になります。ありがとうございます。

勇者「ふんどし!」つダイコン
戦士「お前が一番混乱しとるわ!!」

勇者が一番狂ってるオチはタイトルから
違和感があったのは>>19から
予想したのは聖騎士が出てきた辺りから
確信したのは>>29から>>38の聖騎士の一人称の変化

一人称は単なるミスかもしれないけどね

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