男「アタシアタシ詐欺?」 (26)
平和な昼下がり
男「講義もバイトもない日の大学生は暇だな……」
プルルルッ
男「電話? 誰からだろ」ガチャッ
男「はい?」
??「あーもしもし? アタシアタシ!」
男「あたし? 誰?」
??「覚えてない?中学校の頃一緒だった…」
男「すみません、ア・タシって名前の友達は中学にいません、さようなら」ガチャッ
男「たく、オレオレ詐欺の派生詐欺か? 暇人もいるもんだな……ブーメランだ」
プルルル……
男「懲りてないな、少しからかってやるか」ガチャッ
女詐欺師「あー、アタシアタシ……じゃなくて! ア・タシって何だよ中国人かよ! そーじゃなくて、中学の頃クラスが一緒だった女よ!」
男「ああはい、でも俺の中ではもうアナタはア・タシという人物で固定されてしまいました。これから新しい関係を築いて行きましょうよ、過去のことは忘れて」
女詐欺師「なんでよ!? ……って、突っ込んでたら先進まないからスルーするわ」
男「はい結構です。ところで、僕に電話してきたのはまさか自己紹介する為……とか、そんなくだらない理由じゃないですよね?」
女詐欺師「ああ、……実はね、折り入って頼みがあるの」
男「ほう? 話してみてください」
女詐欺師「あのね、新規事業を立ち上げてみようと思うの。それで、運営資金を貯めてたんだけど、少しだけ足りないのよ」
男「なるほどね、それで僕に貸して欲しいと」
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女「そうそう……」
男「やだよぉ~ん!」
女詐欺師「……は?」
男「うーん、話としては30点くらいかな。
新規事業を立ちあげるというテーマはまあまあありがちでいいとは思う。
けども思い切った『押し』が足りないね。例えば事業が成功したら貸してくれた金に利子をつけて返すだとか、賃金や待遇を他の従業員より良くして雇ってあげるとか、人ってそういう甘い話に惑わされやすいからさ。
聞いたところ騙すのは初めてみたいだからまあよくやった方だとは思うよ、めげずに挑戦くださいね! それでは!」ガチャッ
プルルル……
男「はいっ!」ガチャッ
女詐欺師「あー、アタシアタシ……って最早このやり取りいらないわよね」
男「何いってんの! 詐欺師と言えどマンネリしてると言えどカタチから入るのはとても大事だよ! そこんとこよく考えて!」
女詐欺師「あ、はい……じゃなくて!! どうしてそんなに詳しいのよ! まさかアンタも……」
男「まさか! そんな乞食みたいなことしませんよ!」
女詐欺師「さり気なく最大の罵倒を食らった気がした……」
男「まぁ、気持ちはわからなくないですよ? きっとこうせざるを得ないような状況にいるんでしょう? 経済的に生活が難しいとか……そうです、全部社会のせいなんです、立法と司法と行政のせいなんです、寺田心のせいなんです」
女詐欺師「ちょっと待ちなさいよ最後のだけは関係ないでしょう!?」
男「それで? どうしても金が欲しいと言うならくれてやらないことも無いけど?」
女詐欺師「え? ほんと!?」
男「うん! 今すぐその場で土下座して、『私は他人からお金を騙し取ろうとする淫乱どブスメス豚女です、どうかお恵みください!』って言ってくれたらね!」
女詐欺師「鬼かお前! あることないこと挙げ連ねすぎでしょ! そんなことするくらいなら他の人間から……」
男「へぇー……いいんだ?」
女詐欺師「へ?」
男「見たところ、君は自分の携帯から電話をかけてるよね?
普通そういうのって飛ばし携帯からかける方が割り出しが難しくなるから主流なんだけど……
あ、飛ばし携帯ってのは他人の架空の名義で作った携帯ね、でも今は本人確認が厳しい時代だから他人に契約させて料金未納のまま使える所まで使うってやり方が多いらしいよ。
まぁ、君は初心者だしこれぐらいのミスはしょうがないとして、このまま電話を切って僕が警察署に出向き、この番号を教えてしまえば、君の身元はあっという間に割り出されて自宅に青い服の国家権力がお邪魔することになるけど?」
女詐欺師「あっ……!!」
男「いや別にいいよ? 君が捕まったところで僕はノーダメージだし? 人を騙して生きるより牢屋の中の方が安全たと思うからね?」
女詐欺師「ま、待って! 前科だけは! 前科だけはやめて!」
男「ふむぅ……? やめて?」
女詐欺師「あっ……や、やめてください!」
女詐欺師「……わ、分かりました。土下座します」
男「そうそう、それでいいんだよ!」(ま、今のは咄嗟に調べたネットのなんちゃって知識で、ほとんど嘘なんだけどね!)
女詐欺師「…………それで、電話越しに土下座ってどうすればいいの?」
男「? 誰も電話越しにしろなんて言ってないけど?」
女詐欺師「へ?」
男「なに? まさか真偽も確認できないような状況で土下座しようとしたの? 馬鹿なの?」
女詐欺師「えっ、いや、あの……」
男「はぁ……君ホントに詐欺師なの? 素人の僕から見ても少し不安なんだけど? たしかに僕は『その場で土下座』とは言ったけども、どこの『その場』とか明確な場所は指定してないでしょ? という訳で、あなたには今から〇〇駅まで来てもらいます。詳しいことはそこで落ち合って話しましょう。まぁ自由意志によるものだから、別に来なくてもいいけどねー」
女詐欺師「〇〇駅……!? ここからじゃ結構遠いわよ! ていうかどうせ行かなきゃ通報するんでしょう!?」
男「お、だんだん僕のことが分かってきたね? うんうん、いいよいいよー」
男「という事なので、そうだね……猶予として2時間を与えましょう。それまでに雁首揃えてとっとと来い。来たら僕に御一報下さい! では!」
女詐欺師「あっちょ……」ガチャッ
男「……まぁ、退屈はしないかもな」
2時間後、〇〇駅にて
男「……」(そろそろ2時間が経つな……まあ別に、来なかったからって通報はしないつもりだけど、少しつまらなくなっちゃうかな……)
プルルル……
男「おっ」ガチャッ
女詐欺師「あー、アタシアタシ……ねぇ、自分で考案しといて何なんだけど、この名乗り口上とても恥ずかしい」
男「僕は面白いから大丈夫だよ!」
女詐欺師「どこまでも畜生ね!」
男「最高の褒め言葉をありがとう! ところで、今どこです?」
女詐欺師「今? 駅の銅像の前、電話してる男の子の後ろにいる」
男「えっ、銅像の前で電話してる男の子の後ろ……」フリムキ
女詐欺師「うわぁっ!」
男「いや! 驚くのはこっちの方だから! てか気づいてたんじゃないの!? ……なんか声が二重に聞こえるなぁ……とは思ったけど!」
女詐欺師「あなたが、声の主ですか……なかなか幼いですね」
男「幼い言うな、これでも20越えてる大学生だわ」
女詐欺師「あっ、そうなんですか……ごめんなさい」
男「お、おう」(なんだかギクシャクしてるな……)
女詐欺師「と、ところで……」
男「土下座だろ? 流石にこんなところで公開土下座は精神が崩壊しかねないから、僕のうちまで行こうか」
女詐欺師「あっ、はい……」
男「あっ、そーだ!」
女詐欺師「な、なんですか?」
男「なんだか畏まってるね。もうちょいタメ口でもいいんだよ?」
女詐欺師「あ、えっと……対人はあまり慣れてなくて……」
男「なに? 電話弁慶? 大丈夫だよ、多少荒い言葉吐かれても僕は全然気にしないタチだからさ♪」
女詐欺師「あ……そうなんですか?」
男「うん! 相手に毎分嫌がらせしてストレス貯めて自殺に追い込む程度だから全然問題ないよ!」
女詐欺師「問題しかないじゃない!! ……あっ」
男「はは、砕けた感じで話してくれたね? じゃあタメ口料8000円ね!」
女詐欺師「心を許しただけで8000円!? ……あっ」
男「なーんて、嘘だよ嘘! 嬉しいなぁ、初対面の人に心を許してもらえるなんてさ!」
女詐欺師「うう……」
男「さて、いじり倒したところで家に行こうか!」
女詐欺師「あ、うん……」
男「……あ」
女詐欺師「こ、今度は何よ……」
男「お腹、空いちゃったなぁ~何か食べたいなぁ~」
女詐欺師「……うちになにかあるでしょ?」
男「え? そんな突き放したこと言っちゃうの? はぁー、詐欺ちゃんがそんなに冷たい子だと思わなかったよ~」
女詐欺師「詐欺ちゃんって何!? ……とにかく、早く家に行って……」
男「つ・う・ほ・う♪」
女詐欺師「あっ……わかった! 分かったわよ!」
男(こいつは便利だね♪)
高級レストランにて
男「詐欺ちゃんすごいねー、何か食べたいなー……って言っただけなのにこんな高いレストランに連れてってくれるなんてさ! もしかして詐欺師にならなくてもある程度の資産はあるんじゃないの?」
女詐欺師「目線でちょくちょく合図を送ってこの店に誘導した癖によく言うわよ。言っとくけど、そんなに高いもの頼むのは駄目よ、分かったら……」
男「あっすみません、こちらのプレミアムランチコース一つ!」
店員「かしこまりましたー!」ニコニコ
女詐欺師「なにしとんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」ガ-ン
男「何って……レストランに来たのに料理を頼まない人なんているの?」
女詐欺師「そうじゃなくて! 何頼んでんだって聞いてんのよ!」
男「え? そりゃー詐欺ちゃんのお財布の恩恵は最大限受けとこうと思って、この店で一番高いプレミアムランチコース3500円を頼んだよ?」
女詐欺師「高い! コース一つ高すぎるわ!! サイゼリヤを見習いなさい!!」
男「で? 君は何か頼まないの?」
女詐欺師「そんな気分じゃないからいいです……」
数十分後、男がランチを食べ終えた頃……
男「ふぅー…美味しかったー!」
女詐欺師「全然美味しくないわ……これじゃまた被害者じゃない……」
男「……?」キョトン
女詐欺師「もういいわ、分かったわ。大人しく払いますよ……」
店員「ありがとうございましたー!」ニコニコ
女詐欺師(今ほど店員の愛想笑いが憎かった時はないわ……)
男「サンキューサンキュー! さて、じゃあ次行ってみようか!」
女詐欺師「次!? まだ食べるの!?」
男「そんな訳ないじゃない! もうお腹いっぱいだよ! 分からない? 食後の楽しみ!」
女詐欺師「……喫茶店に連れていけと」
男「ちがーう! コーヒーは別に好きじゃないんだよ!」
女詐欺師(子供か……)
男「僕が行きたいのはね……」
カラオケボックス
男「むげぇぇんだぁぁいなぁぁぁぁぁ!!!!!」
女詐欺師「はぁ……なんでまたカラオケなのよ……」
採点結果……91点!!!
男「うおお! うおお! 見てみて! 凄くね!? やったね!」
女詐欺師「あ、はい。そうですね……」
男「……むぅ」
女詐欺師「今度はなんですか……」
男「詐欺ちゃんも歌いなよ……。なんだか僕1人で盛り上がってて虚しいんだけど」
女詐欺師「虚しいのは私の財布の中身なんですけど……」
男「ねー、いーじゃーん! なんか1曲歌ってよ!」
女詐欺師「……はぁ、まぁ歌わなかったら私分のお金がもったいないわよね。1曲だけよ」ピッピッ
男「わーい!」
男「……おっ? なかなかいい選曲だね……」
夕月夜 顔出す 消えてく子供の声
遠く遠く この空のどこかに 君はいるのだろう
夏の終わりに 二人で抜け出した この公園で見つけた あの星座
何だか覚えてる?
会えなくても 記憶を辿って 同じ幸せを 見たいんだ
あの香りとともに 花火がぱっと開く……
行きたいよ 君のところへ
今すぐ 駆け出して行きたいよ
真っ暗で 何も見えない
怖くても大丈夫 数え切れない星空が
今もずっと ここにあるんだよ
泣かないよ 昔キミと見た
綺麗な空だったから――――
歌い終わり……
採点結果……98点!!!!!
男「……」ポカ-ン
男「めちゃくちゃ上手くない!? ねぇね……」
女詐欺師「……うっ、うう……」ホロホロ
男「あっ……」
男「その、ごめん。ちょっと調子に乗りすぎた」
女詐欺師「……うう、うああ……!」ボロボロ
男「うわ、うわ! と、とりあえず家に行こうか!!」アタフタ
男の家
男「はい、麦茶。とりあえずこれ飲んで」
女詐欺師「あ、うん……」ゴクゴク
男「ふぅ……急に泣き出して、少しびっくりしました。まぁ、僕も少しからかいの度が過ぎたというか、反省してます、はい」
女詐欺師「ああ……いえ、別に君のせいじゃないからいいよ……」
男「……? 何があったの? 差し障りなければ聞かせて欲しいんだけど」
女詐欺師「……あの曲は元彼とカラオケに行く時、毎回歌ってたの。あの頃のこと少し思い出しちゃって」
男「元彼……?」
女詐欺師「うん、2年くらい前の話かな。毎日が夢のような日々だったなぁ……。家が近かったから、小さい頃からずっと一緒だったの。いわゆる幼馴染みってヤツね。だからいざ告白となるとなかなか踏み込めなくてさ……決心がついたのは高校3年生の時で、大学に合格したら付き合う約束をしたの」
男「へぇ……随分とまあありがちで甘々な話だね」
女詐欺師「そうだね。けど、それが1番楽しくていいと思うのよ。2人で同じ大学に合格して、晴れて付き合うことになったの。あの時は本当に楽しかった……。毎日一緒にいて、色んなところに行ったっけ」
女詐欺師「……」
男「その元彼と何かあったの? いやまあ、元彼って時点であるっちゃあるんだけど……」
女詐欺師「……騙されたの」
男「騙された……?」
女詐欺師「『大学を出たら働いて沢山奢ってやるから』……そう言って、いつもデートの費用は私が出してたの。そんなある日、アイツは消えた。私になんの連絡もしないで。携帯にかけても解約されてたみたいで通じなかったし」
男「……!」
女詐欺師「それ以来、アイツとは会ってない。あの日は一晩泣き明かしたわね……」
男「ええと……大変、だったね……」
女詐欺師「……だからね、私も騙してやろうと思った。他の人に不幸をばら撒きたかった! そしていつかアイツにたどり着いて、めいっぱい復讐してやろうかと思った!!」
男「…………」
男「なるほどね。それじゃあ僕が最初の被害者で良かったわけだ」
女詐欺師「……は?」
女詐欺師「……何いってんの?」
男「だって、これが僕じゃなくて他の人だったらまんまと引っかかってたかもしれないし。そしたらその人は不幸になって君は前科者になる所だった。そういう意味では、ここで僕に止められて良かったんじゃない?」
女詐欺師「あっ……」
男「つまり君を止めなおかつ一つの事件を未然に防いだ僕はえらい! アハハハハ!」
女詐欺師「はぁ、まったくめちゃくちゃよね……」
女詐欺師「ありがと、少し楽になった」
男「うん、ひとつ言うとさ、君にこんなことして欲しくないなって」
女詐欺師「えっ?」
男「まだまだ人生の序盤なんだよ。君も僕も。だからこの先の道を自ら壊すようなことはして欲しくない。それに、君可愛いしね」
女詐欺師「なっ……///」カァァ
女詐欺師「ちょ、ちょっと! 恥ずかしいんですけど!?」
男「別にいいじゃーん、僕達以外に人なんていないんだしさー♪」
女詐欺師「むぅぅ……じゃ、じゃあさ。やってみるよ。新しい恋を」
男「うんうん! 人間常に未来に生きないとやってけないよ! 頑張っ……」
チュッ……
男(そう言いかけた口を塞いだのは、生暖かくなにか柔らかいもの……それが何かを確認するのにそう時間はかからなかった。彼女の……女詐欺師の唇だ)
女詐欺師「んっ……ぷはぁ! へへー。反撃」
男「っ……!?!?」アセアセ
女詐欺師「まずは、あなたが被害者になってもらおうかな。私の再出発の恋……その被害者にさ」
男「っ……。よ、よろしくおねがいします……!」
おわり
おまけ
大学の講義にて
男「……」
女詐欺師「……」
男・女詐欺師「「まさか同じ大学の生徒とは思わなんだ」」
ほんとにおわり
乙です面白かったです
うわぁ
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