おじさん「毎日毎日……」ジュゥゥゥ…
客「あのー」
おじさん「わしは……」ジュゥゥゥ…
客「もしもし?」
おじさん「鉄板で……」ジュゥゥゥ…
客「おじさんってば!」
おじさん「たい焼きを焼く……」ジュゥゥゥ…
客「焼きすぎだよォッ!」
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おじさん「……」ジュゥゥゥ…
客「さっきからずーっと同じたい焼き焼いてるじゃん!」
客「もう真っ黒焦げになってるよ、それ!?」
おじさん「……」ジュゥゥゥ…
客「聞いてるのかよ、おじさん!」
通行人「……やめときな」
客「え?」
客「なんだよあんた?」
通行人「実はな、あのおじさん……ついこないだ事故でお子さんを亡くしたんだ」
客「え……!?」
通行人「それ以来、ああなっちまったのさ」
通行人「黒焦げになったたい焼きをいつまでも焼くようにな……」
客「そうだったのか……」
客「でもショックで寝込むとかならともかく、なんでたい焼きを焼き続けてるんだよ?」
客「いや、あんな真っ黒焦げでたい焼きとは呼べない代物を……」
通行人「それは俺にも分からねえ」
通行人「とにかく……今はあのおじさんに何いっても無駄だ」
通行人「時が解決するのを待つしかない……」
客「……」
おじさん「毎日毎日……」ジュゥゥゥ…
おじさん「わしはたい焼きを焼く……」ジュゥゥゥ…
おじさん「鉄板で……」ジュゥゥゥ…
おじさん(息子よ……)
毎日毎日僕らは鉄板の上で焼かれて嫌になっちゃうよ
~回想~
少年「おとーさーん!」
おじさん「んー?」
少年「ねえねえ、ぼくもお父さんみたいにたい焼きの生地作ったの!」
少年「これでたい焼き焼いてよ!」
おじさん「どれどれ……」
おじさん「なんだこりゃ!?」
おじさん「あちこち、“だま”だらけで、こんなのとても使えないよ」
おじさん「毎日わしがたい焼き作ってるとこ見てるのに、どうしたらこうなるんだ?」
少年「せっかく作ったのに……」
少年「お父さんのバカーッ!」タッ
おじさん「お、おいっ――」
キキーッ! ドンッ……
おじさん(息子よ……すまなかった……)
おじさん(あの時わしがお前の生地をけなさず、焼いていれば……)
おじさん(お前は死ななくて済んだのに……!)
おじさん(なんで焼いてやらなかったんだ……!)
おじさん(わしはあれからずっと……お前が作った生地を焼き続けてる……)
おじさん(だから……戻ってきておくれ……)
おじさん「ううっ……うううっ……」ジュゥゥゥ…
ブスブス…
おじさん「!」
おじさん(黒焦げになったたい焼きが……ついに炭みたいになってしまったか)
おじさん(だが関係ない)
おじさん(わしは……焼き続ける)
おじさん(それがわしがお前にできる、唯一の償いだ……)
シュゥゥゥ…
おじさん「――ん?」
おじさん(焼きすぎたたい焼きが、ついに黒い煙になって……)
モクモクモク…
おじさん(なんだ? 煙が集まって、人の形に……?)
少年『……お父さん』
おじさん「!?」
おじさん「おお……おおっ……! 戻ってきてくれたのか!」
少年『お父さん……ぼくが作った生地を、こんなになるまで焼いてくれてありがとう……』
少年『だけど、もういいんだ』
おじさん「!」
少年『ぼくが車にひかれたのは、お父さんのせいじゃない』
少年『急に道路に飛び出したぼくが悪いんだ』
少年『だからもう、自分を責めないで』
おじさん「そんなことない! わしのせいなんだ!」
少年『それにさぼく、お父さんがちゃんとしたたい焼き焼いてるとこが見たいんだ』
おじさん「うっ……」
少年『ぼくは天国で楽しくやってるから心配しないで』
少年『だからお父さんは、おいしいたい焼きを焼き続けてよ。ぼくのためにも』
おじさん「……くうっ」
少年『ぼく……お父さんのたい焼き……大好きだよ……』シュゥゥ…
おじさん「あっ、行かないでくれ!」
大好きだよ……
お父さん……
おじさん「行かないでくれぇぇぇっ!」
おじさん「いらっしゃい、いらっしゃい! おいしいたい焼きはいかがですかー!」
ワイワイ… ガヤガヤ…
客「うまい! あの店のおじさんのたい焼きはやっぱり最高だな!」
通行人「ああ、立ち直ってくれてよかったよ」
おじさん(息子よ……これからもわしは毎日おいしいたい焼きを焼き続けるよ)
おじさん(だから天国から見守っててくれ……!)
おわり
泣けるっ!
良作
思いの外良い話でびっくりした
泣いた
泣いた
スレタイから漂う良作臭
泣いた
トラックの運転手に救いはないのか、一番の被害者だろ
良い話で終わったか、乙
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