女「理由なんてさ…」男「そっか」 (19)


鳥が一羽カゴの中

飛びたそうに外を見る

鍵はかかっていないけど

開ける者は誰1人としていない

他者を拒んだ鳥は悔やんだ

しかし遅かった

誰も来ないまま鳥は羽を失った

羽ばたくことを恐れたから

自ら羽をもいだことすら

自覚できていなかった


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女「ねえねえ、私と付き合ってくれない?」

男「付き合うって?」

女「そのままの意味だよ」

男「買い物とかじゃなくて?」

女「恋人として、だよ」

男「そっか…困ったなぁ…」

女「何が?」

男「断りたいんだけど口実がなくて」

女「それ、告白してきた相手の目の前で言う?」

男「あぁ、ごめん」

女「でも口実がないってどういう?」

男「そのままの意味だよ、強いて言えば釣り合わないってとこかな」

女「は?」

男「ごめんごめん、女さんはこう…綺麗だしクラスでも割と人気のある方じゃん。自分なんかとは釣り合わないなあってね」

女「そうかな?私は男くんの考え方とか好きだよ?」

男「でもさ…」

女「ほら、前に現文の授業で詩を書いたじゃない?」

男「ああ…あのクソみたいなやつね」

女「それそれ。あの詩がすっごい魅力的だったの」

男「あんなのが?」

女「私にとっては魅力的だったの!それで男くんに段々と惹かれてったんだ」

男「はあ…理由は別に聞いてないんだけど」

女「いいの。だから、男くんのことをもっと知りたいし付き合いたいの。ダメ?」

男「人に自分のことを知ってもらいたいとは思わないし、それに釣り合わないって問題は解決してないよ?」

女「うーん…私が知りたいからなんだけど…。それに釣り合う釣り合わないって考えるのってムダじゃない?」

男「それはまあいいや。ムダって?」

女「だってほら、それって他人の評価じゃん?」

男「まあ基本的には」

女「他人の評価ってそんなに大事だとは思わないんだ。自分がこうしたいからこうする、それで良いじゃない」

男「それは一理あるね…。でも僕も釣り合わないって思ってるんだけどそれは?」

女「手ごわいね…。私は男くんはそんなことないと思ってるよ?男くんにあって私にないものだって沢山あるよ?」

男「例えば?」

女「さっきも言ったけど考え方とか。今こうして話してるのもすっごい楽しいしさ、ね?」

男「僕は疲れるんだけどな…」


女「付き合ってくれないの?」

男「付き合いたい理由は?」

女「好きだから。それで良いじゃない?」

男「なんで好きなの?」

女「変なことを聞くんだね?」

男「好きな理由を説明しろって国語でよくやるじゃん?」

女「あー…私あれ、ふざけんな!って思うんだ」

男「どうして?」

女「だってさ、好きな理由って説明する意味ないじゃない。そもそも好きな理由って説明できるものなの?って思うの」

男「好きな理由って説明できないの?」

女「どう思う?」

男「うーん…あんまり好きなものもないからね、分からないや」

女「もしあったら?」

男「あったら、か…。どうだろね?ある程度は説明できるんじゃないかな?」

女「ある程度?」

男「そう。例えばハンバーグが好きだとする。理由として美味しいから、というのを挙げる。なんで美味しいのかを挙げる。こんなことを3~4回ぐらい繰り返せば良いんじゃないかな?」

女「でもそれで説明できるのってこじつけじゃない?」

男「やっぱり?」

女「だと思うな。やっぱり好きな理由は説明できないと思うんだ」

男「確かに…。そうだよね」

女「それで告白の返事は?」

男「答えないとダメ?」

女「今すぐにね」

男「少し考えさせてくれない?」

女「何を?」

男「女さんを傷つけずに断る方法」

女「言っちゃってるじゃん」

男「あっほんとだ」

女「ダメな理由は全部へし折ったはずなんだけどなぁ…」

男「…僕はさ、傷つくのが怖いんだ」

女「へ?」


男「付き合ったらお互いに色々見えてくるでしょ?」

女「それは…まあ確かにね」

男「きっと女さんの見えてない僕は醜いから、たぶん幻滅するよ?」

女「しないよ?」

男「その保証はどこにもないよ」

女「あるよ」

男「どんな?」

女「私はどんな男くんでも好き、そう信じてるから」

男「そんなのは保証にならないよ。それに裏切られたら僕自信が耐えられない。立ち直れないかもって思ったらもっと怖い」

女「そんなことないよ。裏切ったりなんてしないもん」

男「ごめんね、やっぱり怖いんだ。女さんがどれだけ僕を好きだって言ってくれても、僕はそれを信用しきれない。受け入れきれない。だから…」

女「そっかぁ…うーん困ったなあ…」

男「もうさ、いっそ今、僕を嫌いになってよ。そしたら僕が嫌われるだけで済むしさ」


女「………は?」

男「ほらさっさと嫌えよこんな人間。な?」

女「なんでそんなこと言うの?」

男「良いからさ、今なら簡単だしさ」

女「このクズっ…!」

男「……そっか…良かった…」

女「良くない良くない全然良くない!さっきから聞いてればなんなの!?」

男「お、女さん…?」

女「何が『嫌えよ』よ!男くんをを好きになった私の気持ちは無視!?男くんが言ってるのはね!

『僕はどうしようもないゴミクズです。そんな僕を好きになったお前の気持ちもゴミです。さっさと可燃ゴミとして捨てちゃってください』

みたいなもんなの!男くんは…!私の男くんを好きになった気持ちまでグチャグチャにして捨てるの…!?ふざけないで…!」

男「ちょ…お、落ち着い…」

女「ふざけんなって言ってんの…!こんなに…こんなに好きなのにそれってないよ…ひどいよ…」

男「ちょっと落ち着いてってば…」

女「うえっ…あぁ…うわぁぁん!!ひっ…ひっく…うぁぁん!!」





女「ごめんね…いきなりあんなに取り乱して」

男「あ…いや…」

女「こんな女と付き合うの嫌だよね?ごめんね、さっきの話なかったことにしてくれる?」

男「………」

女「じゃ、さよなら。また明日ね」

男「あ…」



それからしばらく

お互いに話さなかった。

次に話したのは

ある休みの日のことだった。



男「あ」

女「あ」



お互いに異性を連れて2人で。

ショッピングモールでばったりと。






「なに知り合い?」


「あー例のね…」


「ほらファイト」


「じゃあ俺らは行きますか?」


「良いですね、行きましょう」



女「あはは…置いてけぼりにされちゃったね」

男「そうだね…」

女「あの人…誰?」

男「姉さん。買い物に無理やり付き合わされたんだ」

女「わりと普通に話してくれるんだね?学校じゃ話さなかったのに」

男「学校だと話す機会がなかったからで…そっちは?」

女「似たようなもんかな。お兄ちゃんだけど」

男「ふーん…」

女「うん…」


男(うっわ気まずい…何してくれてんだあの2人は…)

女(どうしよどうしよこんなとこで会うなんて思ってなかった…お互い黙っちゃってて気まずい…)

男、女「「あ、あのさ!」」

男「あっ…お先にどうぞ…」

女「えっ…あっ…どうも…。あのさ、良かったらあそこのカフェ行かない?」

男「あー…良いよ」


男「…あのさ」

女「ん、なに?」

男「彼氏とか…できた?」

女「どうして?」

男「いや、別に…」

女「できてないよ?」

男「あっ…そうなんだ」

女「それで?」

男「いや…うん…その…」


女「ハッキリ言ってよ」

男「まだ僕のこと好き?」

女「この後に及んでまだ自己保身に走るの?」

男「ああいや…うん、そうだね良くなかった。ごめん」

女「いいの。キツく言いすぎたなって思ったし。ごめんね」

男「それでさ…ずっと考えてたんだ」

女「なにを?」

男「女さんと付き合えるのかなって」

女「あの話は無しにしてって言ったじゃない?」

男「ダメ?」

女「話の内容によっては」

男「そっか…良かった。言ってもいい?」

女「発言の可否を決めるのは私じゃないよ?」

男「そうだね、うん。いや、女さんと付き合ったらきっと幻滅されるだろうなって、それは変わらなかったんだ」

女「それなのにこの話をするの?」

男「いちいち刺々しいね…」

女「私、学校じゃないとちょっと棘が生えるみたい。それにいっぺん泣かされてる相手だしね?」

男「いやもうそれは…本当にごめんなさい」

女「うん…それはもう今ので許すよ」

男「ありがとう。続けても良い?」

女「お願い」


男「それで、変わらなかったんだけど思ったんだ。幻滅されてもそれを取り返せるように頑張ろうって。どうやったら良いのかまでは考えられなかったんだけどさ」

女「うんうん、それで?」

男「だから…その…」

女「ほらはっきり」

男「ああごめん。あーっと…だから…そう、幻滅させることもあると思うけど、それでも良かったら僕と付き合ってください、お願いします」

女「良いの?あんなにブチ切れる女だよ?」

男「泣いてる女さんも可愛かったから」

女「か…かわっ…かわい…ふへへ…じゃない!そんなこと思ってたんだ!?」

男「不謹慎だったかな」

女「ほんとだよ!」

男「それで…返事は?」

女「私で良ければぜひ!」

男「よかった…ああ…」

女「よろしくね?」

男「あぁ…よろしく……」




女「ねえねえ、気になったんだけど聞いても良い?」

男「なにを?」

女「釣り合わないとか裏切られるのが怖いって言ってたけどあれはどうしたの?」

男「あぁ…あれはまだ思ってるよ。でも女さんを信じてみようって思ったんだ」

女「なるほどね…信じてくれるんだ?」

男「うん、信じるよ」

女「大丈夫かな?」

男「なにが?」

女「信じられなくなる時もあると思うんだ」

男「あっそっか…どうしようね」

女「どうしよっか」



そのあと、お互いに姉と兄に

好き放題イジられたのは言うまでもない。

そして付き合って1ヶ月が経つ頃。





女「今日ウチ来ない?」

男「家に?」

女「うん」

男「いいよ」


女「上がってー。ほら遠慮しないで」

男「お邪魔しまーす…」

女「まあ誰もいないから安心して」

男「なにそれ」


女「どう?」

男「どうって?」

女「付き合ってみてとか私の部屋の感想とか」

男「あーわりと楽しいかな…クラスでの視線が痛いけど」

女「まあ良いんじゃない?そのうちなくなるよ」

男「そうだと良いんだけど…やっぱ釣り合わないなあって」

女「まだそんなこと言ってたの?私は気にしないよ?」

男「けどさ…」



女「ねえ、キスしない?」

男「キス?」

女「うん」

男「どうして?」

女「理由がいるの?」

男「ううん、いらないかも」


そうしてそっとキスをした。

本当に軽く

ほんの一瞬だけの

それでも永遠に感じられる

そんなキスを。


女「付き合うのだってこういうものじゃない?」

男「どういうこと?」

女「理由なんてさ、2人にしか分からないんだよ」

男「そっか…そうだね」

女「ねぇ、ハグして?」

男「いいよ」


おしまい

以上です。ありがとうございました。

若さだねー

でも最後のハグしてはちょっとオッサン臭かったかなww

いいね、嫌いじゃない

乙 また書いてほしいな

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