【モバマスSS】です
――――12月28日、プロダクション、事務室
時子「……もう一度聞くけれど、誰と年越しをしたいと?」
法子「時子さんと! できれば神社にお参りしながら年を越せたらな~って!」
時子「お断りよ」
法子「ええ~!? やっぱり、人が多いところはだめ……?」
時子「それもあるけれど」
法子「とーきーこーさーんー……!」ユサユサ
時子「揺らさないで、躾けられたいの? 最後まで話をちゃんと聞きなさい。せっかちなのは嫌いよ」
法子「ご、ごめんなさい……」シュン
時子「まったく……それに、仮に人が多くない場所で年を越すにしても一緒は無理よ」
法子「どうして?」
時子「まず私は年末年始がとても忙しいわ。年末は様々な仕事で都内を移動して、それが終われば次の仕事の準備もある」
時子「なにせ、元日からヨーロッパの国を巡る海外ロケの仕事が入っているの。だから、大晦日に貴女といる余裕はない。残念ね」
法子「そ、そんなぁ……」ガックリ
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時子「そもそも、どうして私なのかしら。貴女なら他にも相手がいるでしょう、法子」
法子「だって、時子さんが一緒にいてくれるのが一番よかったんだもん……」ションボリ
時子「……一応聞くけれど、その理由は?」
法子「今年はあたしの周りで色んなことがあって、その度に時子さんに助けてもらったよね」
時子「……そういえば、そんなこともあったかしらね。いちいち覚えてないわ」
法子「あたしはちゃんと覚えてるよ! それで、あんなに時子さんに助けてもらうことが多かったわけだから!」
時子「わけだから?」
法子「最初から時子さんとお出かけすれば、そもそも危ないことが起きないんじゃないかと思ったの!」ニコッ
時子「……法子」ムニュー
法子「ひゃへひふらひよ~ほふぃほはん(喋りづらいよ~時子さん)」ニヘー
時子「貴女の口はいつからこんな面白い冗談をペラペラと言えるようになったのかしら? しかも内容は愚かの極みね」ムニュー
法子「ひょんなほとなひよ?(そんなことないよ?)」ニヘー
時子「貴女の言っていることは、つまり私を厄除けにしようとしているのよ? 偉くなったものねぇ」ムニュー
法子「ひょ、ひょうひうつもりひゃ……(そ、そういうつもりじゃ……)」ニヘー
時子「ならどういうつもりよ」パッ
法子「あひゅ! ……ええと、だからね、時子さんってあたしがピンチになったらいっつも必ず助けに来てくれるよね?」
時子「…………そうかしら?」
法子「いっつも途中から時子さんに合流してもらうのも悪いし、だったら最初から一緒にいたほうが時子さんにも良いかなと思って」
時子「……そもそも貴女と一緒にいることが、私にとって一番迷惑なこととは考えもしないのね」
法子「えっ、め、迷惑だったの……? でも時子さん、あたしといる時、いつも楽しそうな顔してくれてたからてっきり……」
時子「貴女に寄ってきた碌でもない豚共を躾けるのが楽しかっただけで、別に貴女といるのが楽しかったわけではな――」
法子「……うぅ~……」グスッ
時子「…………ええ楽しかったわよ! だからそんな顔しないのやめなさい躾けるわよ!」
法子「えへへ……はーい♪」ニコニコ
時子(チッ……法子といると調子が狂うから困るのよ……本当に……まったく……)ハァー
法子「それでね、時子さんはあたしといると楽しいんでしょ! それならやっぱり一緒に年越ししようよー♪」
法子「そうしたら、あたしももっと楽しいから! ドーナツも時子さんと一緒だといつもよりも美味しいし!」ニコニコ
時子「……だから、私は元日から海外で仕事があると言っているわよね。そもそも法子、貴女も大晦日は忙しいのでしょう?」
法子「そ、それは……年末のラジオのお仕事や、テレビのお仕事入ってるけど……でも夜の8時までには終わるから」
時子「その後に神社で年越しをしたら徹夜になるはずよ。貴女はまだ13歳なのだから、もう少し体のことをよく考えなさい」
法子「で、でも……!」
時子「私も朝が早いのよ? それなのに人の多いところで過ごして、万が一飛行機に間に合わなくなったらどうしてくれるのかしら」
法子「うっ……」
時子「だから諦めて神社で年越しなんてやめなさい。まぁ、誰か友人なり豚と一緒に行くというのであれば、徹夜してもいいけれど」
法子「……」ションボリ
時子「少なくとも、私と一緒になんていうことはありえないと考えなさい。分かったわね」
法子「…………」ションボリ
時子「法子、返事は」
法子「………………」ションボリ
時子「ちょっと、法子」
法子「……………………いっしょにいたかっただけなのに」グスッ
時子「泣き真似をしても無駄よ。もういい加減そういう手には乗ってあげないわ」
法子「……」ジーッ
時子「じっと見つめてきても無駄」
法子「あたしのドーナツ全部食べていいからっ!」スッ
時子「ドーナツで懐柔出来るわけないでしょう。だからもう諦めなさい」
法子「…………わかった。無理言ってごめんなさい、時子さん……」ションボリ
時子「ええ、気にしてないわ。それより、早くほかの誰かを誘いに行きなさい。貴女ならすぐに相手が見つかるはずよ」
法子「……もうちょっとしてから行かせて」ションボリ
時子「そう」
法子「……やっぱり、今から行く。バイバイ時子さん……」トボトボ
時子「ええ」
法子「……」トボトボ
時子「……」
法子「……くすん……」トボトボ
時子「……~~~~ッ! ああもう本当に! まったく! ちひろ!!」
ちひろ「はいなんでしょう?」ストッ
時子「私のスケジュール! どれくらいまでなら無理が利くのか調べなさい!」
法子「……時子さん!」パァァ
時子「調べさせているだけよ! これで無理が出来ないなら本当に諦め――」
ちひろ「そうですね。時子ちゃんの大晦日から元日にかけてのスケジュールですが……」カタカタ
ちひろ「少々強引な手も使いますが、それでも調整すれば23時50分から4時の間に空きが出来ますね」タタンッ
法子「さすがちひろさんっ!」
時子「それで、その調整をした場合、私にどんな弊害があるのかしら?」
ちひろ「そうですねぇ……時子ちゃんが元日からの仕事を、睡眠を取らずにやることになりますかね?」カタカタ
法子「あっ……じゃあやっぱり……」ションボリ
時子「……はぁ、ならもうそれでいいわよ。その段取りで調整して頂戴」
ちひろ「わかりました。すぐに手配しますね」カタカタ
法子「うそ……時子さん、いいの!?」
時子「貴女のような子供を泣かせたままにしたなんて、多くの豚共を、下僕たちを悦ばせてきた、この私の沽券に関わるの」
時子「たかだが1人の娘を喜ばせられないことなどあってはならないのよ。ちひろ、貴女は分かるわね?」パシパシ
ちひろ「プライドの問題ということですか?」
時子「分かりやすく言うならば、そう。私自身の矜持において、このまま法子を行かせることは出来ないわ」パシパシ
時子「行かせて、もしそれで法子の心が私以外の誰かに晴れやかにされてしまったら、その時点で私はそいつに負けたことになる」
時子「そんなことを、この私が甘受するわけにはいかない。だから法子に仕方なく付き合う、理由はそれよ」
時子「決して法子に哀れみを抱いたわけでも、感傷があったわけでもない。全て私のためにしているのだから」ビシッ
時子「……だから、二人ともそんなイラつく顔はやめなさい。躾けるわよ?」
法子「そう言われて、どんな理由があったとしても、時子さんはやっぱり優しいなぁって思っちゃうと」ニコニコ
ちひろ「ええ、とても親切で慈悲深い人だと思ってしまうとどうしても」ニコニコ
時子「……フンッ!」ヒュパッン!!
パシッ
ちひろ「危ないじゃないですか。というかなぜ私にだけ鞭を……」ポイッ
時子「私が全力で鞭を振るっても、どうせ受け止める相手だからよ。チッ……なぜ私がこんな辱めを受ける必要が……」ムスッ
法子「まぁまぁ時子さん! あたしはすごく嬉しいから! だから機嫌直してよっ♪ ほらドーナツ食べて!」スッ
時子「いらないわよ。あと、ここで先に言っておくけれど、今回こそ妙な連中に絡まれないようにするのよ、法子?」
法子「うーん……そういわれても」
時子「一応、私と合流するまでちひろに監視させていたほうが良さそうね……ちひろ、頼めるかしら」
ちひろ「あっ、それなのですが一つ。年が変わる数時間、私は日本にいないのでその手の業務が出来ません」カタカタ
時子「アァン? どういうつもりよ」
ちひろ「いえ、実は仁奈ちゃんのパパさんがニューヨークにいるとの情報が入りまして。会わせてあげたくなったんです」
時子「貴女が連れていくってこと? ニューヨーク……タイムズスクエアのカウントダウンは見ものね」
ちひろ「そうですね。パパさんに会えなかったら、仁奈ちゃんにはそちらを楽しんでもらうのもいいかもしれません」
時子「……実は本当の理由がそっちだったりしないわよね?」
ちひろ「なんのことでしょう?」ニコニコ
時子「フン……いいわ。それはともかく、貴女がいないなら、ここの業務は誰がするのよ」
法子(そういえば、ちひろさん以外のアシスタントさんって見たことないや。こんなにおっきい事務所なのに不思議だなぁ)
ちひろ「通常業務でしたら心配ありません。それらは、これにやらせますので」スッ
時子・法子「「ぬいぐるみ?」」
ちひろ「はい。この何の変哲もない私のぬいぐるみを叩きますと」パンッ
ポフンッ
ちひぐるみ(大)「……こんにちは、私は千川ちひろです」
法子「ち、ちひろさんが二人になったーっ!?」
時子「……もう何も言う気が起きないわね」
ちひろ「というわけで、私がいない間の通常業務はこのちひぐるみが代行しますので問題ありません」パチンッ ポトッ
法子「あ、またぬいぐるみに戻った……」
ちひろ「ただし、ちひぐるみが出来るのはあくまで通常業務だけですので、護衛や隠蔽工作などは期待しないで下さい」
時子「つまり、それらは私達でどうにかしろということね」
ちひろ「お手数をおかけしてしまいますが……」
時子「それで、私のスケジュールの調整は終わったの?」
ちひろ「あ、はい。それはもうすでに」
時子「なら後のことは私の方で準備しておくとするわ。法子、構わないかしら?」
法子「あたしは別にいいけど……時子さんがその、護衛とか隠蔽工作、するの?」
時子「私が? ありえないわね……私は連絡するだけよ。まぁ、任せておきなさい」
法子「うん♪」
ちひろ(やっぱり時子ちゃん、優しいですよね……?)
――――12月31日、23時36分、神社入り口前
ワイワイガヤガヤワイワイガヤガヤ
「よってってー、みてってー!」「おいしいよー! 焼きたてだよー!」
「うっわ行列やば、あいつらどこだ……?」「早く並ぼうよー!」
「It's Zen!!」パシャパシャ「Wow that's cool!!」パシャパシャ
法子(もうすぐ年が変わるのかぁー……今年も色々あったけど、楽しかった♪)キョロキョロ
法子(でも、今が一番大変かも……時子さん、早く来てほしいな……)
ワイワイガヤガヤワイワイガヤガヤ
金髪の男「……おっ、おい、なぁなぁ! ちょっとあれ見ろよ」バシバシッ
酔っぱらい「アァー? んだよ」グビグビ
眼鏡の男「あれか? お、可愛い子じゃないか」
金髪の男「だろー? すげーマブだぜ! なのにこんな日に1人とかかわいそうじゃね? じゃね?」
酔っぱらい「おう、そりゃーいけねぇ。悪い奴にひっかかってなー、なんやかんやされるかもなー」グビグビ
金髪の男「だろだろ!? だから、しかたねえーから俺らみたいな心優しい奴が声かけてよ、そんで一夜をともにすりゃ安全だよな!」
眼鏡の男「……まて、その前にあの子どこかで見た覚えが……たしか……テレビで……」
酔っぱらい「アイドルかなにかってかぁー? んな連中が今日こんなところで1人でいるかよヒック!」グビグビ
眼鏡の男「それはそうかもしれないが……」
金髪の男「つうかテメエよ、アイドルみてーに可愛いって思うんなら尚更声かけたほうがいいじゃねえか!」
眼鏡の男「相変わらずだな。言っておくがお前が連れてきた後は、いつものように三人でだぞ、いいな?」
金髪の男「わーってるよ。心配すんな任せとけって。ばっちり連れてくるぜ!」スタスタ
ワイワイガヤガヤワイワイガヤガヤ
法子「それにしても、ドーナツ買ってきますって行ったきり戻ってこないなぁあの人……迷ったのかな?」
金髪の男「おじょーおさん!」ニヤニヤ
法子「えっ?」
金髪の男「ねぇ1人? どうしたっすかー、こんな日に1人で? もしかして彼氏と待ち合わせ?」
法子「あっ、えっと……待ち合わせだけど、彼氏じゃなくて」
金髪の男「んじゃ友達? なんにしてもこんなとこで1人でいるのは寒くて寂しいっしょ!」
法子「あの、その、1人ってわけじゃなくて!」ワタワタ
金髪の男「なんでもいいから、せっかくだし相手来るまでちょっと俺と俺のダチの話し相手になってよ、退屈はさせねえから!」
法子「で、でも……」ワタワタ
金髪の男「ままま、ともかく来なよおじょーさん! 話はそこでってことで一つ、なっ!」スッ
法子「ッ!?」ビクッ
ガシッ
金髪の男「……は?」
黒服「……」ギチッ
金髪の男「んだよテメエ、この手離せや。俺が用があんのはそこの女の子でテメエじゃねえんだよ、つうかどっから出てきた?」
法子「えっと、この人はさっきからそこにいて……」
金髪の男「は? ……ああ、ぜんぜんうごいてねーから人形かと思ってたけど違ったのかよ。まぁいいや、とりあえずどけ」ギッ
黒服「……」ギチッ
金髪の男「……あーあ、白けるぜクッソ……おい二人共! ちょっと来てくれ!」
酔っぱらい「んー、どうしたよ」
眼鏡の男「……なに絡まれてるんだバカ」
金髪の男「うっせ! 作戦変更、とりあえずこのおっさんから貰うもん貰って、んでこの子つれてこーぜ」
法子「つ、連れてく……?」
眼鏡の男「……こちらの話だ。さてそこの男、いい加減こいつの腕から手を離してくれないか?」
黒服「……」ギチッ
金髪の男「イデデ!? おい話聞いてねえのかおっさん!? 離せってんだよ!!」
眼鏡の男「これはもう暴力だな……おい」
酔っぱらい「あいよー……っとっっと、おっとっとー」ドンッ
黒服「……?」
酔っぱらい「あ、いってー!? こいつ友達助けようとしたらぶつかってきやがったー!?」
法子「ええ!? 今のどう見てもおじさんのほうから……」
眼鏡の男「いやいや、それは君の見間違いだ。怖いね、嘘の証言をして俺達を嵌めるつもりか?」
法子「そ、そんなことない!」
眼鏡の男「どうだか。ともかく君は俺の友人が痛がってるの助けようともしてくれないのか、酷い子だな」
法子「なっ……ち、違うよ!? だって、今のどう見たって……!」
酔っぱらい「あああいってー!? こんなにいてーのに見捨てるなんて世の中ひでー子がいたもんだぁー!」
法子「……っ!」ビクッ
眼鏡の男「ああすまんな友よ! 誰か親切な人が助けてくれやしないだろうか! もう一人の友は不当な暴力に未だ晒され」
金髪の男「つーかこのおっさん力すげー強くしてきて――イデデイデデ!?」
眼鏡の男「まじか。あー……もういいや、とりあえず君、君のせいでこうなっているんだから責任とって」
法子「責任って言われても……」
酔っぱらい「とれねーってのかぁー!? そんなことねえよなぁー嬢ちゃんは優しいだろー? なあー!?」ズイッ
トントン
酔っぱらい「あん?」
黒服B「……」
酔っぱらい「……なんだ、完全に酔っちまったのかな? 黒服のおっちゃんが二人いるような……」クルッ
金髪の男「イデデデデエエエエ!?」
黒服A「……」ミシミシ
酔っぱらい「あれ?」
黒服B「法子様、ドーナツを買ってきました。そして、トラブルですか?」スッ
法子「う、うん……この人達に変なこと言われてて……」
眼鏡の男「変なことは失礼な。俺達はあくまで……ん?」チラッ
黒服A「……」ミシミシ
金髪の男「アイエエエ!? 折れる、うで、おれるー!?」
眼鏡の男「……」チラッ
黒服B「……」
眼鏡の男「……なあ、あんたら。もしかして、この子に関係ある感じ……?」
黒服A「この状況を対応事象Cと断定」
黒服B「対応を開始」
男達「「「へっ?」」」
酔っぱらい「まてまて、あんたらナニ言って」
黒服A・B「「テメッコラー!」」
男達「「「アイエエエ!?」」」
黒服A・B「「ザッケンナコラー!」」
男達「「「アイエエエ!!」」」
黒服A・B「「スッゾコラー!!」」バシッ
男達「「「アイエエエエエ!!」」」ダダダッ
法子「……うわぁ」
黒服A「脅威は排除しました」
黒服B「引き続き、護衛を継続します」
法子「あ、ありがとう……えっと、ドーナツ食べる?」
黒服A・B「「……」」
法子(……うぅ、困ったなぁ。ここに来てからずっとこの調子なんだもんこの人達。どうしたらいいのーっ!?)
――ヒュパパアアアアン!!
――ブヒイイイイイイ!!!!?
法子「……あ、あの音!!」パァァ
時子「――なんだったのかしらあの豚共は……私の目の前に汚らわしい姿で走ってくるなんて……」
法子「時子さーん!!」ブンブン
時子「法子。無事みたいね、良かったわ。さて、さっさとこの忌々しい行列に並ぶとしましょうか」
――――12月31日、23時54分、神社境内
時子「それにしても相変わらず人が多くてうんざりするわね……法子、私を待っている間、妙なことに巻き込まれなかったでしょうね」
法子「ええっと、色々あったんだけど大丈夫……けど、あの護衛の人達はなんだったの……?」
時子「私が躾けてあげた豚の中に、ちょっとした裏稼業で儲けているのがいて、隠蔽工作を頼むついでにそいつの組織から借りたのよ」
法子「もしかして、その人って、巴ちゃんの実家と同じ職業だったりする……?」
時子「法子、物事には時として知るべきものでないこともあるわよ」
法子「やっぱりそうなんだ――それにしても、時子さんってすごいなぁ」ジーッ
時子「唐突にどうしたの。今更なことを言って」
法子「だって、そういう怖い人達でも時子さんにとっては躾けれる相手で、その相手の部下の人も護衛に使えて」
時子「当然ね」
法子「でも、そういう人達よりも断然かっこよくて頼もしいんだもん!」
時子「……はぁ?」
法子「さっきまで護衛してくれてた人達って、確かにあたしを守ってはくれてたんだけど、なんだか嫌な感じで……」
法子「こんなこと言ったら駄目なんだろうけど、護衛から離れてくれて今は正直ほっとしてるの」
時子「法子……」
法子「もちろん時子さんがあたしのためにって考えて護衛をつけてくれたのは分かってるよ?」ニコッ
法子「それに、護衛の人がいなかったら、なにかあった時あたしが時子さんの迷惑になることも分かってる」
法子「だけどやっぱりあたしは、今までみたいに時子さんが悪い人を躾けて、あたしのとこに現れてくれるほうが安心するみたい……」
法子「へん、かな……?」オズオズ
時子「……あのねぇ」デコピンッ
法子「あうっ」
時子「そんな当たり前のことにやっと気付いたの、法子? 私が目の前にいる、これがどれほど幸福かやっと分かったというのね」
法子「そこまでは言ってないよ時子さん?」
時子「黙りなさい。ようやく私のことを正しく認識し始めたのであれば、今後はその努力を続けていきなさい、いいわね?」
法子「ど、努力って言われても……例えば?」
時子「そうねぇ……例えばさっきの褒め称える言葉。かっこいい、というのは私にあまりふさわしくないと思わなかったの?」
法子「そんなことないと思うけど……あ、じゃあ、時子さんはこのドーナツみたいに甘くて優しいねっ! なんて言えばいいのかな♪」
時子「違う」デコピンッ
法子「わぷっ」
時子「ドーナツのことは切り離して考えなさい。そして、ほら、ちゃんとした言葉があるでしょう?」
法子「えー、たとえば?」
時子「そうね、豚や下僕からよく言われるのは、綺麗、魅惑的、麗しい、美しい、地球上で最も高貴なる方よ、などかしらね」
法子「……自分で言ってて恥ずかしくないの時子さん?」
時子「……」デコピンッ
法子「にゃっ」
時子「ともかく、今の例を参考にして改めて私に向かって称える言葉を言ってみなさい法子。さぁ!」
法子「そんなこと言われても……時子さんにそんなこと言っても褒めてるって感じじゃないし……」
時子「なんですって?」ギッ
法子「だって、時子さんが綺麗なのは、それこそドーナツがおいしいってくらい当たり前のことじゃない?」キョトン
時子「っ……!?」
法子「少なくともあたしにとってはそうだから、今更時子さんのこと綺麗だって言うのも変かなって。だから――時子さん?」
時子「……はぁ、本当に。法子、貴女は人の調子を乱す天才よ。将来が心配になるくらいに」
法子「……どういうこと?」
時子「貴女は将来大物になりそう、ということよ」
法子「ホント? そっかー、大物かぁ。よく分からないけど、そうなったら、時子さんを絶対ドーナツ好きにしちゃうからっ♪」
時子「はんッ! 実現不可能な夢は抱かないほうがいいわよ法子。さすがにそれはありえないわ、絶対にね」
法子「……」ジーッ
時子「……」ジーッ
法子「……えへへっ♪」
時子「……クククッ!」
「そろそろ年が変わるぞー!」「カウントダウンー!!」
「「「「「5!」」」」」
時子「……チッ、もうそんな時間? 拝殿まで――まだうんざりするほど列が残っているわね」ハァ
「「「「「4!」」」」」
法子「仕方ないって時子さん。でも、カウントダウンがちゃんと聞けるから 並んだタイミングは間違ってなかったと思うっ!」
「「「「「3!」」」」」
時子「……相変わらず信じられないくらい前向きな発想をするのね、法子。そこは本当に関心するわ」
「「「「「2!」」」」」
法子「ドーナツのおかげだよっ♪ あとは――」チラッ
「「「「「1!」」」」」
時子「ん? なによ?」
「「「「「あけましておめでとー!!!」」」」」
パパァン! パァン!
法子「……ううん、なんでもない! それじゃ時子さん! あけましておめでとうございます♪ 今年もよろしくお願いします!」ニコニコ
時子「えぇよろしく……まさか去年と同じで最初に法子が新年の挨拶をしてくるなんてね」
法子「でもあたしは嬉しいな! だって今年は電話じゃなくてちゃんと時子さんに会って、一番乗りで言えたんだもんっ♪」
時子「しかも去年と同じ場所に初詣に訪れてだから、尚更嬉しいのかしら?」
法子「わぁ……時子さんスゴイ! あたしの心を読んだの!?」
時子「そんなことをしなくても分かるわ、貴女のことなんて……とりあえず、さっさと初詣を済ませてしまうわよ、法子!」
法子「はーい♪」ニコニコ
――その後、初詣を済ませて法子と別れた時子は、眠っていないにも関わらず体に力が満ちていることを
不思議に思いながら、次の仕事へと向かうのであった。
〈終〉
年末で色々と出かけていたら思いついたネタ
そして気付けば時子様とドナキチから始まって、時子様とドナキチで終わる一年になっていた、不思議
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乙
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