果南「星なる夜」 (15)

「メリー!クリスマース!」
千歌の一言から始まった、Aqoursのクリスマスパーティー。
綺麗に飾りつけられた部室に、机の上の沢山のごちそう。
周りを見れば、鼻眼鏡を掛けたり、トナカイの赤鼻を付けたりして楽しんでる千歌、曜、梨子。
ごちそうを前にテンションの高いマルとルビィ。
鞠莉とダイヤは…、うん、いつも通りだ。
「ってあれ?善子は?」

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「へっ?あれ?いなくなってる!」

「確か最初はいましたよね?」

「Wow!これってもしかしてmystery?」

「いや、普通にトイレに言ってるだけなんじゃないかな?」

曜の真っ当な意見に納得する一同。
でも誰にもなにも言わずにいなくなるものなのか。
少し気になった私は、ダイヤに善子を探してくると告げ、トイレにやって来た。

「おーい、善子ー」

返事がない、ただのしかばねのようだ。
いや、そうじゃないそうじゃない。
それにしても善子は一体どこに行ったんだろう。
流石に入れ違いだったら気付くはずなんだけどなぁ。

うーん、善子が行きそうなところってどこだろうか。
屋上…、教室…、音楽室…、屋上が1番ありえそうだし、取り敢えず行ってみようかな。

「善子ー、いるー?」

屋上に着くなり呼びかけるも、人の気配はない。

「ここにもいないかぁ…、ってあれ?あの部屋電気がついてる」

あそこは確か被服室だったかな?
案外早く見つかって良かった。
屋上に来て正解だったみたいだ。
被服室に着くと、なにか黙々と作業をしている善子を発見。

「善子、なにしてるの?」

「かかかか果南さん!?どうしてここに!?」

「善子がいなかったから探しに来ただけだよ」

「あっ、ごめんなさい…」

「別に怒ってるわけじゃないよ、それよりなにしてたの?」

「パーティーの最後のプレゼント交換のための物を作ってるの」

「今?」

「準備してたのがあったんだけど、通学中にこけて落としたらカラスに持っていかれたのよ!」

うわぁ…、不幸体質ここに極まれりって感じだな…。
あまりの不憫さに思わずハグ。

「…なんで私はハグされてるの?」

「なんていうか、つい?」

「あっそ…」

「それにしても、わざわざ作らなくても事情説明して別の日にあげれば良かったのに」

「駄目に決まってるでしょ」

「どうして?」

「だってそんなことしたら、私のが当たった人はプレゼント交換の時退屈になるじゃない」
「それに、周りの人も気を使って微妙な空気になるかもだし」

「善子ってさ、天使だよね」

「はあ?私は堕天使よ」

「私は天使だと思うんだけどなぁ…、まあいいや、それよりなに作ってるの?」

「マケミちゃん人形よ」

「マケミちゃん人形?」

初めて聞いた名前だ。
やっぱりもう少し流行とか気にした方が良いのだろうか。

「ええ、世界的に有名な某デザイナーが高校生の時に作ってた人形らしいわ」

「ふーん、なんというか…少しμ'sの海未さんに似てる?」

「似てる、というか元々海未さんをモチーフにして作ったやつだって」

「へぇ…、千歌やダイヤ辺りが貰ったら喜びそうだね」

「…果南さんは貰っても嬉しくない?」

「へっ?そんなの嬉しいに決まってるじゃん、だって善子が一生懸命に作ってくれた手作りの人形なんだよ?嬉しくないわけがないよ」

「あっそ…」

「なにさ、そっちから聞いてきたのにその返しは酷くない?」
「あっ、もしかして照れてるの?」

「はあ!?ち、違うわよ!」

「ふふっ」

分かりやすく動揺する善子。
ていうか可愛すぎでしょ。
やっぱり善子は天使だね。

「…なによ」

「べつにー」

「はあ…、まあいいわ、それよりそろそろ離れてくれない?さっきから結構邪魔なんだけど」

「えっ、やだ」

「いや、やだって言われ「やだ」

「だから邪「やだ」

「あの「やだ」

じろりとにらむ善子。
少しキリッとしててかっこいいかも。

「はぁ…、もう好きにしたら」

そう言ったきり、黙って作業に没頭する善子。
私も別に邪魔したいわけじゃないから黙って善子を見つめる。

カチッ、カチッ、という時計の音だけが響く静かな被服室。
不思議と悪い気はしない。
むしろ心地よく感じるぐらいだ。

そんな状態のまま10分ほど経った頃、

「よし、出来た!」

という善子の一言が響いた。

「おー、お疲れ」

「随分遅くなっちゃったわね」

「みんな心配してるかな?」

「さあ?クリスマスだし逢引してるって思われてたりして」

「あー、鞠莉辺りが言ってそう」

「そろそろ戻りましょうか」

「あっ、ちょっと待って、部室に戻る前に屋上に寄らない?」

「屋上?まあいいけど」

そういうわけで屋上に来た私たち。

「わぁ…、星が綺麗…」

「でしょ?さっき屋上に来た時に星が綺麗だったから誰かに見せたかったんだ」

「それならパーティー終わってからみんなで来る?」

「それもいいかもね」

なんて話をしながら善子と満天の星空を眺める。

「ねぇ、善子は音ノ木坂だけに伝わるアルテミスとオリオンの神話って知ってる?」

「音ノ木坂だけに伝わる神話?」

「そう、梨子にこの前聞いた話なんだけど―――――――

昔々あるところに、アルテミスという武術に秀でた女神がいました。
その女神はなかでも弓道を得意としていて、百発百中、狙った獲物を逃がしたことがないという人でした。
また、アルテミスはキリリとした大和撫子で、彼女に視線で射抜かれた女性で彼女に惚れない女性はいませんでした。
そんな彼女のことを人々は敬意と羨望の意を込めて、ラブアローシューターと呼んでいました。

しかし、そんな彼女でも射抜けなかった女性がいたのです。
その名をオリオンと言い、自由奔放、天真爛漫という言葉がふさわしい、オレンジ色の髪の可愛らしい女性でした。
アルテミスは、生まれて初めてラブアローシュートが通用しない女性と出会い、大変な興味を持ちました。

そこで、アルテミスはオリオンの手を取り、手の甲にキスをしました。
大抵の女性はそれだけであまりの幸福感に気絶します。
しかし、オリオンはくすぐったがるだけで、堕ちる様子はありません。
その後も様々なアプローチをするも、穂乃…オリオンはまったく振り向きません。
結局、アルテミスの努力は実ることなく、オリオンは裁縫とお菓子作りの女神、ミナリンスキーと結ばれましたとさ。

――――っていうお話」

「………は?」

「うん、言いたいことは分かるよ、私も思ったし」

「こんな話、一体誰が考えたのよ…」

「さあ?梨子が言うには5年ぐらい前に言われ始めたらしいよ」

「めっちゃ最近じゃない…」

「あはは…」

「それにしても、果南さんってオリオンみたいよね」

「へっ?急にどうしたの?」

「なんとなくそう思っただけよ」

そう言いながら善子は私の手を取り、手の甲にキスをした。

「さあ早く戻るわよ!」

そう言いながら背中を向ける、耳まで真っ赤な善子。
その後ろ姿に小さく、

「私はオリオンじゃなくてアルテミスだよ」

と呟き、善子の後を追った。

終わりです

ちなみに音ノ木坂のアルテミスとオリオンの神話は原型をほとんど留めてないです

おつおつ

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