渡我「私のヒーロー」(33)
※捏造設定・IFストーリー注意※
私の個性は3歳の時に発現した。
突然変異型。父のものとも母のものとも違う個性は、私の家族にヒビを入れてしまった。
そうして私の個性が発現してから一年後、私の両親はあっさりと離婚した。
私の親権を巡って、父と母は対立した。
互いに互いの不始末だから、育てるのはお前の役目だと私を押し付け合った。
「欲しい」ではなく「要らない」。
そして私はそれを知ってしまった。齢4歳にして、この世の理を知る。
人は醜く、脆い。たとえ家族であっても、簡単に瓦解する。
結局私は、児童保護施設で預けられることとなった。
そして「血」を扱う個性。その不気味さ故に私は、周りから距離を取られることとなる。
そうして、急速に世界に対する興味を失い始めた頃。
私は、その子と出会う事になる。
渡我「……」
女子1「うわっ、来たよ吸血女」
女子2「あっちいこ?何されるか分からないし」
渡我(何もしないよ、馬鹿じゃないの)
現在小学四年生。
クラス内での私の印象は最悪の一言。
夜な夜なその辺りの動物を殺して血を啜っているとか、私に血を見せると吸い尽くされるとか。
私に血を吸われると、体を乗っ取られるとか。
まぁ、最後のはあながち間違いでもないかもしれないけれど。
それでも私はこの学校に来て、この「個性」を使った事はない。
けれど、私がこの個性を持つ事実がある以上、否定をしてもそれを受け入れられることはない。
だから私は否定も肯定もしない。
渡我「……」
まただ、これで何回目だろうか。
私の下駄箱には川魚の死骸が積んであった。
赤い血が滴り落ち、生臭い匂いが辺りに立ち込めている。
片づけるの、めんどくさいなぁ……
渡我「……」
私は黙って掃除用具入れから雑巾とバケツを出す。もう、何回もやっているから慣れたものだ。
最初は大変だった。靴が血まみれになって履けなくなってしまったのだから。
今では教室に外靴を一緒に置き、中靴は帰る時に一緒に持ち帰るようになった。
担任ですら、この現状に静観を決め込んでいる。この掃除も最早日課になってる位だ。
渡我「……」
無言で下駄箱の中を掃除する、途中何人かの生徒が私の横を過ぎていく。
くすくすと笑う人、怪訝な視線を送る人。でも、私を気に掛ける人は誰も居ない。
誰も……
??「ねぇ」
渡我「……」
??「えっと……」
誰だろう。
振り返ると、そこにはぼさぼさの髪をした冴えない顔の男の子が居た。
あれ、なんかどこかで見た事がある。
??「大丈夫?それ……」
渡我「……君、誰?」
??「あっ、ご、ごめん急に話しかけちゃって。ぼ、僕は緑谷出久。君はえっと……渡我さん、だよね?」
緑谷っと名乗った子はあたふたとしながら私に話しかけている。
緑谷?緑谷……あぁ、思い出した。
私の学年で唯一―――『無個性』の男の子。
緑谷「これ……酷いね」
そう言って緑谷君は悲痛そうな顔をした。
確かに見るも無残に切り裂かれた魚を見れば、そうかもしれない。
渡我「……そうだね。可哀想だよね、魚」
緑谷「え?いや、それもそうだけど、そうじゃなくて」
渡我「?」
緑谷「渡我さんだって嫌でしょ?こんなの」
緑谷君がそう言って私を見た。
渡我「……私は、別に。何時もの事だから」
緑谷「い、いつもこんな事されてるの!?」
緑谷君は信じられないというような顔をしている。
渡我「……?」
緑谷「ダメだよ!ちゃんと先生に言わなきゃ……」
この子は、何を言ってるんだろう?
渡我「先生は見て見ぬふりをしてるから、多分言ってもダメだと思うよ」
緑谷「そ、そんな……」
彼は今にも泣きだしそうな表情をしている。何故だろう?
緑谷「っ!……渡我さん、僕も……手伝うよ」
渡我「いいよ、私の下駄箱だし」
緑谷「ううん手伝わせてほしい、お願いだ」
渡我「そ、そこまで言うなら……」
彼の気迫に負けた私は、持ってきていた雑巾の内一つを彼に渡した。
凄く難しい表情をしながら、でも凄く丁寧に私の下駄箱を拭いてくれた。
掃除が好きなんだろうか?良く分からないけれど、助かったのは事実だ。
渡我「手伝ってくれて、ありがとう」
緑谷「ううん。この位しかできなくて……ごめん」
何故彼は謝るのだろうか?
分からない。
でも、何故だろう?
彼と話していた時の私は、とても穏やかな気持ちになっていた。
あれから一週間経った。
相変わらず私に対する風当たりは強い。
緑谷君とはクラスが違う関係上、日中は会話を交わすことはない。
けれど、私の下駄箱が汚されるたびに、彼は私の掃除の手伝いをしてくれている。
そして掃除が終わったら、二人で座って話をする。
といっても、ほとんど彼の話に相槌を打つだけだけれど。
緑谷君はNO.1ヒーローの「オールマイト」に憧れているらしい。
そして彼はそれ以外のヒーローの事もノートにまとめて毎日見返していると言っていた。
緑谷「そういえば……渡我さんの個性ってなんなの?」
渡我「……」
彼の何の気なしの質問。私は一瞬だけ、言葉に詰まった。
彼は、私の噂を知らないのだろうか?いや、それはない。
彼は私と初めて会ったとき、私の名前を知っていた。それは、つまり。
渡我「……私の噂を知っているでしょ?」
緑谷「……うん、クラスメイトが話しているのを聞いただけだけど」
彼は知っている。私の個性。私が不気味がられる理由を。
渡我「……なら、それが答えだよ」
緑谷「……」
彼は押し黙ってしまった。私も押し黙る。
もしかしたら明日から彼は私の掃除の手伝いをしてくれなくなるかもしれない。
そう考えると、胸の奥が少し痛んだ。何故だろう?
そんな事を考えながら、私が緑谷君の次の言葉を待っていると―――
緑谷「凄い個性だよ!渡我さん!!」
彼は満面の笑みで、そう言った。
私は彼が笑顔なのが理解できなかった。
『気持ち悪い』と罵る事もなく、『不気味だ』と避ける事もなく。
彼はただただ純粋に、私の『個性』を、認めてくれた。
渡我「……どうして?」
疑問を、口にせずにはいられない。
渡我「私の個性は―――人の血を啜る個性だよ?」
緑谷「うん。確かにちょっと条件がシビアだけれど、凄い個性だと―――」
渡我「違うよ!気持ち悪くないの!?怖くないの!!?こんな個性―――」
緑谷「渡我さんの『個性』だよ?怖い訳ないじゃないか」
渡我「どうして?私の噂、知っているなら―――」
緑谷「あれは噂でしょ?だって渡我さん、一度もその『個性』を使ってるの見た事ないから」
彼はそう言って笑う。分からない。
渡我「でも……この個性を使えば、それこそ周りに気付かれずにその人に成り代わる事だって……」
緑谷「そんなに凄いの!?リスクとか反動とかはないの?」
渡我「えっと……変身を持続するには結構血が欲しいし、私自身が具合悪くなっちゃうからあまり長時間は出来ないかな……」
緑谷「潜入捜査とか偵察向けの個性だね!それに敵のかく乱にも有効だ、あっ、でもその場合は味方に何か識別できる方法が無いと……」
渡我「えっと……」
緑谷「あっ、ごめん。でも本当に凄い個性だと思うよ?」
渡我「……そうかな」
緑谷「そうだよ!」
分からない。
どうして彼は……私を怖がらないんだろう?
それからまた一週間ほどたったある日。
いつも通り昇降口に向かうと、何時もと違う事に気が付いた。
私の下駄箱が、汚されていなかった。
これまでも時々汚されない日があったから、私は対して気にも留めず、掃除の手間が省けた位にしか考えていなかった。
渡我「……」
私は下駄箱の近くの柱に背を掛けて、緑谷君が来るのを待つ。
今日は掃除をする時間が無い分、彼といつもよりお話が出来る。
今日は何を話してくれるだろう?早く来てくれないかな?
私はそんな事を考えながら、彼が来るのを待つ。
けれどその日、最終下校時刻の放送が流れる時間になっても、彼が現れる事はなかった。
せっかくお話しできると思ったんだけど……彼にも何か事情があったのだろう。
私は彼が来てくれなかった事に落胆しながらも、ランドセルを背負い直して、学校を出る。
だけど、その日から。
緑谷君は、私の所に来なくなった。
彼が来なくなるのと同時に、私の下駄箱が汚されることはなくなった。
掃除の手間が無くなったのだ、良い事だ。その筈なのに。
どうして私は、嬉しくないんだろうか。
色づき始めた世界が、また色あせたように見えた。
何時からだろうか、彼が来るのを待ち望むようになったのは。
何時からだろうか、彼の話を聞くのを楽しみにしていたのは。
―――何時からだろうか?
生まれて初めて、人を好きになったのは。
彼が来なくなって数日経ったある日、私はある噂を耳にした。
ある生徒がある生徒と喧嘩になり、片方が骨折するほどの重傷を負ったと。
何故だか私は胸騒ぎがして、その事を先生に確認しに行った。
私の思った通りだった。
緑谷君は、あの日から病院で入院しているという話を聞いた。
何故彼が入院する事になったのか、と聞いても先生は言葉を濁すだけだった。
だけどそれは暗に、噂を肯定しているという事になる。
私は先生に緑谷君の入院先だけを聞いて、その日の内にその病院へと向かった。
幸いにも近場の病院だったので、歩いて向かう事の出来る距離だった。
受付で同級生のお見舞いに来たという話をし、病室を教えてもらう。
彼の病室の前まで来た所で、急に緊張し始めた。
何て声を掛けたらいいんだろうか?そんなめんどくさい事を扉の前で考えこんでいると、不意に扉が開く。
あまりにも不意だったために私は思わずひぇっと変な声をあげてしまった。
??「あら?驚かせてごめんなさい……貴方は、出久のお友達?」
そう言って朗らかに笑う女性は、どことなく緑谷君の面影が見える。
ああ、この人が、緑谷君のお母さんなんだ。
『気持ち悪い!どうしてこんな子が、私の子なの!?』
私の知る母親の幻影が重なる。
インコ「……大丈夫?少し顔色が悪いようだけど……」
はっとして顔を上げると、緑谷君のお母さんが心配そうな顔でこちらを見ている。
いけない、せっかくお見舞いに来たのに私が心配されてどうするというのだ。
渡我「……大丈夫です。その、緑谷君は……」
緑谷「お母さん?誰が来たの?」
私が言葉を言い終わる前に、病室の奥から聞き覚えのある優しい声が聞こえた。
インコ「んー?出久のお友達みたいよ?可愛い女の子」
緑谷「え?へ?」
緑谷君が凄く間の抜けた声をあげてこちらを覗き込むように見る。目が合った。、
緑谷「あっ渡我さん!」
私の姿を見て彼はぱあっと笑顔になった。その顔を見て、私の心の奥がきゅっとなる。
私の世界が、急速に色を取り戻していく。
渡我「……怪我、大丈夫?」
緑谷「え?う、うん。ちょっと骨にヒビが入っただけだし、本当は入院するほどでもないんだけど……」
渡我「そっか……ごめんなさい」
緑谷「うぇ?何で渡我さんが謝るの?」
渡我「……その怪我。私の所為だよね」
緑谷君が言葉に詰まり、息を呑むのが私にもわかる
渡我「君が入院した日から下駄箱が汚されなくなったんだもん。分かるよ」
彼は、とても優しい。
そして、それ以上に正義感の強い男の子だった。
きっと考えたんだろう。どうすれば私に対しての嫌がらせが無くなるか。
そして―――行動した。止める為に、彼は立ち向かってしまったのだ。
緑谷「……」
渡我「ごめんなさい……」
謝る事しかできなかった。
彼が傷ついてしまったのは紛れもなく私の所為だ。
あの日、私が彼と出会わなければ。
彼は怪我をする事も無かったのに。
緑谷「違うんだ。僕は―――」
インコ「渡我さん……ちょっといい?」
緑谷君の言葉を遮り、緑谷君の母親が私に声を掛ける。
緑谷君は何か言いたそうな表情で母親を見た。
インコ「大丈夫よ出久。すぐ戻るから」
そう言って母親は、私を連れて病室の外に出た。
渡我「あの……」
インコ「いきなりごめんね?でも、あそこじゃちょっと話せないから」
そう言って緑谷君のお母さんが私を見る。先程の柔らかい笑顔ではなく、真剣な表情だ。
インコ「出久はね、あの通り引っ込み思案だから……友達って言えるような友達が居ないの」
それは私も知っている。あれからよく話すようになったけれど、彼は未だに私に対して一歩引いたような話し方をする。
インコ「それでも優しい子に育ってくれて……今まで大きな怪我とかはしなかったし、誰かとケンカをして怪我をする事もなかったわ」
そうだ彼は優しい。その優しさ故に、彼は馬鹿にされても誰かと喧嘩をしたりなんか出来なかったのだろう。
インコ「だから、今回あの子が喧嘩をして、それで怪我をしたって聞いた時は、とっても心配になったの」
当たり前だと思う。今までそんな事が無かった彼が、重症ではないとはいえ入院するほどの怪我をしたのだ。
インコ「出久に話を聞いてもはぐらかすから……出久は、貴方の為に喧嘩をしたのね?」
そしてその要因となった人物が、目の前にいるのだ。
息子を危険に晒した、諸悪の根源。
『お前のせいで!!』
ああ、やっぱり私は。誰かの側に居てはいけないのだ。
私が居る事で、私の意思に関係なく誰かを傷つけてしまう。
インコ「……今、渡我さんにこんな事頼むのは少しズルいかもしれないけれど」
ごめんなさい。
もう必要以上に近づかないから、彼を傷つける事はしないから。
だから、その先の言葉は―――言わないで。
でも、世界は残酷なのだ。私が聞きたくないと思っても、耳をふさぐ事すら許してくれず。
インコ「これからも、出久と仲良くしてあげて欲しいの」
私が想像したものと、真逆の言葉を私に押し付けた。
渡我「……え?」
聞き間違い?
余りに私の想像と違い過ぎて、その言葉の意味を汲み取ることが出来ない。
インコ「あの子ね、こんな事をしたら貴方が気を使って距離を取ってしまうんじゃないかって悩んでいたんだと思うわ」
緑谷君の母親は私の顔を見て話を続けている。本当に息子の事を心配している表情だ。
インコ「だからね?これからもあの子と距離を取らないであげてほしいの、今までどおりでいいから、仲良くしてあげて欲しいのよ」
渡我「……どうして」
だから分からない。何故、私を引き離そうとしないのか。
彼を第一に思うなら、私と居る事は彼にとってマイナスでしかないはずなのに。
渡我「私と居たら……きっとまた……」
インコ「……ねぇ、渡我さん?出久は貴方を『救けて』あげる事が出来たのかしら?」
渡我「……勿論です」
インコ「私ね、出久が貴方の為に怪我をしたんだって分かった時、嬉しかったのよ」
渡我「……えっ?」
それはどういう意味だろう。
インコ「あの子は『無個性』だから……これから先、ちゃんとしたヒーローには……なれないと思うの」
そう話す母親の表情はとても悲しそうだ。
オールマイトのようなヒーローになるんだ。と、彼は私に笑顔で話していた。
でもオールマイトがヒーローであるのは、オールマイトがヒーローたる『個性』を持っているからこそで。
緑谷君は確かに優しい。けれど、優しいだけでヒーローになれる世の中ではない。
『個性』が無い彼が、ヒーロー活動を行う事はほぼ不可能だと。小学生の私でも理解できる。
当然彼だって、その事を理解しているはずだ。
インコ「だけど……あの子が行動して、その結果渡我さんが『救け』られたのなら」
インコ「その一瞬だけでも、出久が憧れた『ヒーロー』になる事が出来たんだと思うから」
そこで一度言葉を切り、緑谷君の母親は私を優しい表情で見る。
インコ「だから、否定しないであげて欲しいの。出久がした事を。貴方の為に起こした行動を」
私は、どんな表情をしていたんだろうか。
きっとこのお母さんが居なかったら、私は取り返しのつかない事をしていたと思う。
私が言うべき事、言わなくちゃいけない事は、謝罪の言葉じゃない。
後悔なんて、もっての他だ。
インコ「時間を取らせてしまってごめんね?」
渡我「……いえ、あの。もう一度出久君とお話をしてもいいですか?」
インコ「ええ、お願い。私は受付に行ってくるから」
私は緑谷君のお母さんに軽く頭を下げて、もう一度病室に入る。
緑谷「あっ……渡我さん、お母さんは?」
渡我「受付に行ってくるって言ってたよ」
緑谷「そ、そっか」
そう呟いて、緑谷君が下を向く。
沈黙。気が付けば窓から夕日が差し込み、病室を紅く染めている。
渡我「緑谷君」
びくっと、緑谷君の体が震える。
渡我「救けてくれてありがとう」
その言葉が意外だったのだろうか、彼は目を点にしてこちらを見ている。
渡我「私、緑谷君に出会えてよかった」
嘘偽りのない言葉を、私の気持ちをぶつける。
渡我「これからも、私と仲良くしてくれる?」
そう言って、私は右手を差し出した。
彼は少しだけ恥ずかしそうに頭をかいた後、遠慮がちに私の右手を握ってくれた。
緑谷「うん!これからもよろしくね!」
満面の笑みで私の手を握る彼を見て、私も笑う。
渡我「―――よろしくね」
これが、私のヒーローとの出会いの記憶。
投下終了!
短くてすいません、衝動的に綺麗な渡我さんを書きたくなったのです……
いい感じのSS、おつ!
乙
捏造でいいからデクが雄英に入ったと知ったトガちゃんの反応とか
襲撃時に再開したときのトガちゃんが見たい
乙
面白かった、気が向いたら続き書いて欲しい
乙です!
面白かったです!
ヴィランにはならないだろうなこれなら
乙
ヴィランにはならなそうだけど、デクへの執着が本編の比じゃなさそう
ヒロアカとやら、見てなかったけど……
渡我ちゃんググってみたら可愛かったので見てみようかしらん
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