文香「何故が何故ならに変わる一瞬」 (13)

これはモバマスssです

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ペラ、ペラ、と。


捲られるページの音が部屋じゅうに響く。
けれど内容自体はまったく頭に入って来ずに。
本に集中しきれない私は、一度大きく息をはいた。


端末の電源を入れれば時刻は二十三時半。
ロックを解除し期待を込めてsnsアプリを開くも、通知は0件。
再び大きく息を吐き、本のページを捲る作業にもどった。


…焦り過ぎ、ですね…
こんなに…待てなくなってしまうなんて…




普段だったら、私が本に集中出来ないなんてありえない。
普段だったら、こんな気持ちでスマホを覗くこともない。
普段だったら、通知をこんなに気にするなんてそうない。
普段だったら…そう。


けれど、今は。
今から三十分後に訪れる一日は。
年に一度の一日は。
私にとって、特別なものだった。








集中する事を諦めた私は、秋の夜風を求め窓を開けた。
雲に隠れた三日月は、それでも煌々と辺りを照らす。
遮り切れなかった雲が放つ朧げな光もまた、波立つ心を鎮めてくれる。


この同じ月の元。
今頃、貴方は何をしているだろうか。
もしかしたら今の私と同じ様に、今か今かと待っているだろうか。
想いを馳せる私の様に、想いを届けようと待ち構えているだろうか。


何なら自分から送って仕舞えば。
何時もと同じ様に、いつも通りの会話が出来るのに。
わざわざ待つ事をしなくても。
そもそも、そんな必要だってないのに。


けれど、この日だけは。
彼からの連絡を待ちたかった。
一年に一度の特別な一日だから。
どうしても、最初は彼の一通から始めたかった。










冷たい風で冷えすぎないよう、窓を閉めてマグカップを傾ける。
画面に表示された数字は既に五十を回っていた。
あと、十分足らず。
その短い時間が、堪らなく長く感じられる。


きっと前年と同じ様に。
沢山の方々から、おめでとうの言葉を頂けるでしょう。
その一件一件を有り難く噛み締め、丁寧な言葉で返す。


けれど、今回は。
それだけでは、ない。
特別な人からの特別な言葉。
それが楽しみで、心は溢れ。
まるでクリスマスプレゼントを待ち切れない子供の様になっていた。





…どうして、こんなに私は…
以前なら、きっとなかったのに…


今はギリギリ日付が変わる前。
まだ、一通も通知はない。
シンデレラの魔法が解けるまで。
私はまだ、魔法に掛かれない。


いや、もしかしたら既に。
私は彼によって魔法を掛けられていたのかもしれない。
だから今、私はこんなに胸が締め付けられるくらい。
苦しいほど、幸せなのかもしれない。





もし、嫌いになっていたとしたら…
もし、私が忘れていたとしたら…
こんな気持ちになる事は…


けれど、信じたくはないけれど。
もし、彼が忘れてしまっていたら…


様々な思考が渦を巻く。
そんな私など知らぬという様に、既に表示は五十九。
あとほんの六十秒足らずで。
待ち遠しかった、不安で幸せな時がやってくる。


そわそわと、行き場をなくした手が本のページを弄る。
騒めく心を落ち着ける為に、再びマグカップを口元へ。
必要無いと思っていたスマホをこんなに何度も開くなんて。
これもまた、以前の私にはあり得なかった。





吐息ばかりが漏れてゆく。
一秒一秒が永遠に思えてくる。
時間をもっと早く進められたら。
そんな事を考えてしまう。


そして、時間は0だけとなった。


ブーン、ブーン。
震える指で、震える通知を止めて。
一番最初に届いたメッセージに、目を通す。






…ふふっ


思わず笑みを零す。
心が想いで溢れ涙すら溢れそうになる。


先程までの不安は全て吹き飛んだ。
先程までの考えは全て吹き飛んだ。
いや、それよりも正反対に。


…このまま…
ずっと、この幸せな一瞬が。


ずっと、続けば……









短めですが終わりです
文香誕生祭おめでとう
お付き合いありがとうございました

おつ ふみふみ 誕生日おめでとう

なぜならば!じゃなかった


乙女で詩的なふみふみ最高

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