智絵里「マーキング」まゆ「2ですよぉ」 (119)

※「アイドルマスター シンデレラガールズ」のSS

※キャラ崩壊あり

※人によっては不快感を感じる描写もあるかも

※決して変態的なプレイをする話じゃありませんのであしからず

※健全な純愛物を目指してます

※既出のネタがあるかも

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1476819940

一応、前作の続きの様な物

智絵里「マーキング」

智絵里「マーキング」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1476481390/)

基本は地の文ありですが、疲れたら台本形式になるかもしれない

前回のあらずじ


事務員、千川ちひろは事務所の所属アイドルの緒方智絵里とその担当プロデューサーの関係に気付いてしまった。


そして『付き合っていない』と言う二人だが、それ以上の行為をする二人に対して辟易するちひろだった。


「はぁ……」


CG(シンデレラガールズ)プロダクションの事務員、千川ちひろは重々しくため息を吐いた。『ため息を吐くと幸せが逃げる』とか言われてはいるが、今のちひろにとってはどうでも良かった。


「本当……毎日疲れるわ……」


ため息を吐いたのは日々の業務に疲れての事もあった。しかし、それ以上に苦悩する事があって吐いた事も事実である。


「あの二人……今日も大丈夫かしら……」


ちひろの心配事はこの事務所の所属アイドルである緒方智絵里とその担当プロデューサーであるPとの関係だった。


あの二人が少しでも限度を超える様な事を仕出かしたら、この事務所は崩壊の一途を辿ってしまう。だからこそ心配せずには要られなかった。


「そもそも……あんな事をするぐらいなら、普通に付き合った方が良いと思うのだけど……」


ちひろが偶然知ってしまった事ではあるが、智絵里とPは互いに好き合っていたのだった。だが、その様な一面は少したりとも表には出してはいない。ちひろが知るまで完全に秘匿されていた。


そしてPの言葉を信じるならば、律儀にもアイドルとその担当という関係を守っていて、交際には至ってはいないとの事である。


しかし、二人はその代わりに『マーキング』と称して、お互いの愛を確認している様だった。


具体的にはプレゼントやご褒美と言って物等を贈り合い、それで相手を飾り合って他を寄せ付けない様にしているのだ。


ちひろが見た中では、しおりやお守りを智絵里が手作りしてPに贈っていた。


特にお守りはその中に自らの髪の毛を入れていた事から、その想いの強さが伺えた。


「今はまだ大丈夫だけど……これからもそうでいてくれる保障はどこにも無いし……はぁ……」


自分達の行く先をちひろは案じ、またため息を吐くのだった。


「ちひろさん、すいません。今、よろしいですか?」


そんな事を考えていると、真向かいに座るちひろの苦悩の全ての元凶でもあるPが声を掛けてきた。


「どうしましたか、プロデューサーさん。まさか、何か厄介事でも起こしたんじゃ……」


あの一件以来、ちひろのPに対する評価はどん底まで落ちていた。今までは信頼を寄せる同僚だったのにそれがこれである。こうなったのも、Pのサイコな性格が起因しているからだ。


「いえ、そんな事はしていませんよ。安心して下さい」


白々しくもそう言うPに、ちひろは『どうだか……』と、いった疑いの眼差しで見つめる。


「本当です。信じて下さいよ」


「だったら、行動で示して下さい。行動で」


「手厳しいなぁ。ははは」


後頭部を右手で掻きながら笑ってそう言うP。それを見たちひろは三度ため息を吐きそうになるが、どうにか堪えてPの言葉の続きを待った。


「それで、ちょっと聞きたい事がありまして……」


Pは自分の机の引き出しを開くと、ちひろには見えないが、そこから何かを取り出した。


「これなんですが……」


そして取り出した何かをちひろに向けて差し出した。ちひろは差し出されたそれを手にとり、それが何なのかを確認する。


「これ……お守りですか?」


それは以前に見た事のある様なお守り。しかし、その造形はその時に見た物とは違っている。まったく別物だった。


前に見た智絵里の手作りのお守りには、薄緑色の袋に四葉のクローバーの刺繍が入っていた。だが、このお守りはピンク色の袋に、真っ赤なハートの模様が刺繍されているのだ。


(何でこんなものを私に……?)


と、思ったが、そこまで理解した所でちひろはPの思惑に気付く。


(そうか……プロデューサーさんは、この新作のお守りを自慢したいのね)


そうに決まってるとちひろは確信する。それ以外に理由が考えれなかった。


「それ……誰のか知りませんか? 今朝、机の上に置いてあったんですが……」


しかし、ちひろの予想は見事に外れた。


「えっ……? 智絵里ちゃんからのプレゼントじゃあ……」


「違います」


念の為に聞いてみたちひろだったが、Pは即答して返した。


「作り方が全然別物ですし、そもそも智絵里が作ったのなら、絶対に四葉のクローバーは入れてきますから」


絶対の自信を持ってそう答えるP。なら、これは誰が作った物なのか……。


「でも、そうか……ちひろさんも知らないか……」


そう言ってPは首を傾げて悩んでいる様子だった。ちひろもあれこれと考えてみるが、さっきので確実だと思っていたせいか、何も浮かんでこなかった。


「もしかすると……誰かの忘れ物かもしれませんね」


悩み抜いた結果、Pはそういった風に結論付けた。確かに考えられるとすれば、それが一番妥当かもしれない。


「という事で、ちひろさん。それ、預かってて下さい」


そして面倒事を押し付ける様に、Pは無情にもちひろに向かってそう言った。


「わ、私ですか!?」


「えぇ。それに俺……今から打ち合わせの為に出掛けないといけなくて……預かっている訳にはいかないんですよ」


それを聞いたちひろは嘘じゃないかと疑い、自然と顔をスケジュール表に向ける。しかし、確かにそこにはその様な予定が書いてあった。


「そんな訳でちひろさん。そのお守りの事……よろしくお願いしますね」


そう言ってPは営業用の鞄を手にとって、事務所から出て行ってしまう。ちひろは反論の余地も与えられず、黙ってその様子を見ているしか出来なかった。


「これ……どうしよう……」


ちひろは手に持つお守りを見つめ、誰に向けるのではなくボソッとそう呟くのだった。


とりあえず今から仕事なのでここまで


続きは帰ってからか昼休みにでも

期待

あちゃーまゆ兼任だったか

「こ、こっちにも毛が…これはまさか…?」

「眉ですよぉ」

>>1です 再開します

>>12 まゆ単体で望んでいた方もいらっしゃったと思いますが、申し訳ありません
   個人的な好みから、愛憎劇にしたくてこういう形にしました

>>13 不覚にも笑ってしまったw

兼任の方が盛り上がりそうだし期待せざるをえない

「しかし、これ……誰が作ったのかしら……」


事務所のアイドルの中で、この様な物を持っている娘は見た事が無い。けれども……何となくは心当たりはあった。


「とりあえず……持ち主が現れるまで仕舞っておく事にしよう」


そう言ってちひろは机の引き出しに手を掛け、それを開けてお守りを仕舞おうと手を動かした。


「ちひろさん」


「ひっ?!」


だが、背後から突然声を掛けられ、ちひろは驚きのあまり手に持っていたお守りを落としそうになるが、何とかそうならない様に持ち堪える。


そして後ろを振り向き、誰が声を掛けてきたのか確認するべく、視線を向ける。そこには小柄な女の子が立っていた。


「ま、まゆ……ちゃん?」


「はい。まゆですよぉ」


佐久間まゆ。この事務所の所属アイドルの一人で、あのPが担当するアイドルの一人でもあった。


「ど、どうかしたのかしら……? 私に……何か用事……?」


ちひろは不意を突かれて落ち着きをなくした心を宥めつつ、まゆに向かって問い掛けた。


「ふふふ……ちひろさんには用は無いですよ。まゆが用があるのは……そのお守り」


そう言ってまゆは未だちひろの手の中にあるお守りを指差す。


「そのお守り……まゆの物なんです。だから……返してもらえませんか……?」


「え、えぇ、いいわよ。はい、これ……」


ちひろは要求された通りにお守りをまゆに差し出す。まゆから断れないオーラが出ていたからか、その行動は早かった。


「ふふ……確かに、受け取りました」


まゆはお守りを受け取ると、それを大事そうに両手で抱えた。


(それにしても……まゆちゃん、いつもより怖いけど……私、何かしたかしら……)


先程からまゆは顔は笑ってはいるが、どこか恐ろしい雰囲気を醸し出している。


ちひろは自分の知らぬ所で触れてはいけない琴線にでも触れてしまっただろうかと頭の中であれこれと考えるが、その原因は一切浮かんでこない。


「ところで……ちひろさん……?」


まゆはそう言うと、ちひろに向かってじりじりと距離を詰め始めた。表情は相変わらず笑ってはいるが、その行動と相俟って恐怖をちひろに感じさせる。


「な、何かしら……」


ちひろとしては逃げたい心境だったが、椅子に座っていたが為にそれは叶わない。そして、ちひろの直ぐ目の前までまゆは近付いた。


「まゆ……やっぱり聞きたい事があって……」


さらに距離を詰める様に、顔をちひろの目と鼻の先まで近付き……

















「何でこのお守りを……ちひろさんが持ってるんですかぁ……?」


一切の光が灯らぬタールの様な色の瞳で、まゆはそう問い掛けた。


いいところで申し訳ないが今から出勤なのでここまで

遅筆で本当に申し訳ない

続きはまた帰ってからで……

ちっひー、今年は厄年かな?

ちひろ「今年は厄日だわ!!(同僚の変態行為を目撃しつつ)」

昨日は会議で疲れ果てて寝てしまった>>1です

会議中にだいたいの流れを考えてきたので再開します

「ちょ、ちょっと……ま、まゆちゃん……? お、落ち着いて……」


「まゆは落ち着いてますよぉ……」


まゆの瞳から狂気を感じ取ったちひろは恐ろしくなって顔を背けようとするが、それを察したまゆが両手でちひろの顔をがっちりと押さえ、そうさせてはくれなかった。


「ねぇ……どうして……? これはまゆのプロデューサーさんにあげたはずなのに……何で?」


瞬き一つせずに見つめてくるまゆを見て、ちひろは智絵里やPを見た時に感じた以上の恐怖に襲われる。


「もしかして……ちひろさんも、まゆからあの人を奪おうとして……」


「ち、違うわよ!?」


自分の身の安全の為に全力で否定するちひろ。そもそもそんな感情は抱いた事も無く、智絵里にも釘を刺されている以上、身の危険を犯すような行為をするはずも無かった。


「なら……どうして……? ねぇ、どうして……」


まゆの視線での圧力が更に高まる。これをずっと見ていたら発狂しかねないとちひろは思った。


「こ、これには事情があって……」


ちひろはまゆに何故お守りを持っていたかを事細かに説明した。


「それじゃあ……まゆのプロデューサーさんは……お守りがまゆの物だと気付かず、誰かの落し物だと思ってちひろさんに預けた……そういう事ですか……?」


「そ、そうよ……」


「嘘……吐いてませんよね……?」


ちひろは顔を掴まれたままの状態で何とか首を縦に振って頷く。それを見たまゆは少しだけ考えた後……


「そうだったんですかぁ。ごめんなさい」


両手をちひろの顔から離し、解放した。ちひろは助かったとばかりに安堵の息を漏らす。


「まゆ……少し早とちりしちゃったみたい。恥ずかしいな」


(勘弁して欲しいわ……)


早とちりで襲われる身にもなって欲しいと思うちひろだった。


まゆは可愛いなぁ

「それにしても……プロデューサーさんも困った人ですよねぇ……まゆのプレゼントに気付かないなんて……」


そう言ってまゆはお守りをギュッと握り締めて見つめている。


「ま、まゆちゃん……?」


「本当に本当……困ったさんですねぇ……」


次第に握る力が強くなり、まゆは両手をわなわなと震わせる。


「これも……これも全て……」




















「あの泥棒うさぎのせいですねぇ……」


「ひぃっ!!??」


瞳を全開に見開き、再びハイライトを消すまゆ。それを見たちひろは再び恐怖に襲われる。


「泥棒うさぎ……いえ、あの堕天使風情がプロデューサーさんを惑わすから……本当に……憎たらしい……」


握り締めすぎて、まゆの持っていたお守りは歪んで変形していた。


「プロデューサーさんの隣はまゆの居場所なのに……どうしてあの女がいるのかしら……」


(な、何で私がこんな目に……)


ちひろは早くここから逃げたかった。だが、目の前のまゆが怖くて金縛りにあったかの如く、動けなかった。


鬼、悪魔と囁かれるちひろも、所詮は人の子と言う事だ。純粋な恐怖には抗えなかった。


「琴線に触れる」の使い方間違ってるよ

まあしょうがないね
言葉ってのはこう変わっていくんだろう

まゆは可愛い
なんでや!ちっひーは天使やろ!
ジュエル2500個くれる時あるし!

>>29
>「あの泥棒うさぎのせいですねぇ……」

美羽・ウサミン「」ガタッ

ちひろが天使?
冗談は顔だけにしr

うっかり寝落ちしてしまった。すまぬ。

>>31 ありがとう。間違って覚えてた。

ちょっと用事があるので続きは帰ってきてから……

>>1です 再開します

「ねぇ……ちひろさん? まゆ……お願いがあるんですけど……」


「な、何かしら……」


本当は断りたいちひろだったが、まゆから出る雰囲気がそうはさせてはくれない。


「まゆとプロデューサーさんが結ばれる為に……協力して貰えませんか?」


「……え?」


「まゆだけの力じゃ……あの堕天使の呪縛からプロデューサーさんを解き放てないから……。だから……お願いします……」


―――今回は許しますけど、次はありませんから……


ちひろの脳裏にこの間の智絵里の言葉が蘇る。もし、まゆに協力しているのが智絵里にばれたら、ちひろはただではすまないだろう。


それ故に、まゆの要望に賛同するのは受け入れ難かった。


「まゆちゃん……私にも事情があって……悪いけどこの話は無かった事に……」


残念だとばかりにちひろはまゆに断ろうとそう言った。


「そうですかぁ……残念です……」


それを聞いたまゆは深く追求する事無く、しょんぼりと肩を落とす。激昂して何かされるかもしれないとの懸念もあったので、ちひろはホッとした。


「でも……本当に残念です……もし、ちひろさんが協力しれくれたのなら……」








「謝礼はたっぷりしようと思ったのに……」


「引き受けるわ、まゆちゃん!!!!」


ちひろはまゆの手を思いっきり握ってそう言った。


「本当ですかぁ? まゆ、嬉しいです」


「はっ!?」


ニコニコ顔のまゆに対し、ちひろはやってしまったといった表情を浮かべる。『謝礼』という言葉に目が眩み、とんでもない事を引き受けてしまった。


「頼りにしてますよ、ちひろさん」


「はは……ははは……」


もうこうなってしまった以上、ちひろは後には引けない崖っぷちである。


(できるだけ……目立たない様にしないと……)


自分に被害が回らない様、必死に安全策を考える事に集中するちひろだった。


やち糞

シャレにならんな、謝礼だけに

翌日……まだ誰もいない早朝の事務所。出勤にはまだ早いというのにも拘らず、事務所の前にはまゆとちひろの姿があった。


「ふふっ、ちひろさん……ありがとうございます。まゆの為に早めに事務所を開けてくれて……」


「これぐらいの事なら、お安い御用よ」


そう言ってちひろは慣れた手付きで鍵を開ける。そしてそのまま二人揃って事務所に入っていく。


「それで……こんな朝早くからどうするつもりなの?」


「ちょっと準備があるんです。その為にも……早めに来ておきたくて……」


まゆはPの机まで歩いていくと、自分の手荷物から何かを取り出そうと、ごそごそと漁り出す。


「もしかして……また何かプレゼントでも……?」


「えぇ、そうですよぉ。でも、今回はちょっと違います」


そして取り出したのは綺麗に包装された赤い花だった。ちひろもあまり見た事の無い種類の花である。


「あら、赤くて綺麗な花ね」


「ちひろさん、この赤いのは葉っぱです。お花はこの……真ん中の白い部分」


そう言ってまゆは真ん中にひっそりと咲く小さな白い花を指差す。


「これ……ブーゲンビリアって言うお花なんです。花言葉は……」




「―――『あなたしか見えない』……『ずっと離さない』……です」


(何か……まゆちゃんらしい花ね……)


色合いからして本当にまゆに相応しい花と言える物だった。


「これを見たらプロデューサーさん……まゆの気持ちに気付いてくれるかしら……うふ、うふふ」


恍惚として妖しい笑みを浮かべるまゆ。完全に自分だけの世界に浸っている様子である。


「それじゃあ、まゆはプロデューサーさんの為を想って飾り付けするので、ちひろさんは好きにしていて下さいね」


そしてまゆは花瓶も取り出し、そこに持ってきたブーゲンビリアを飾り始める。


「アレンジは……こんな感じ……?」


「……私も、準備をしようかしら……」


ちひろも窓のブラインドを開けたりする等、始業に向けて準備をするのだった。


「おはようございます」


あれから時間が経ち、出勤時間となったPが事務所にやって来た。


「おはようございます、プロデューサーさん」


そして飼い主が帰って来た事に喜ぶペットの如く、Pに向かってぱたぱたと歩いていくまゆ。


(こういう一面だけ見ていれば、ただの可愛い女の子なのにね……)


どうしてあんな風になってしまうのかと、ちひろは心の中でそっと思った。


「あれ? まゆ? 何でこんな時間に……? 確か、まゆの出勤はもう少し後じゃあ……」


出勤時間と違う時間にいるまゆを見て、Pは怪訝な顔をする。事情の知らないPからすれば当然の反応だろう。


「まゆ……今日の仕事が楽しみで仕方なくて……早めに来ちゃいました」


本来の目的は告げず、そう言い繕うまゆ。さり気ない感じを演出させて、アピールさせたいのだろう。


「何だ、そうだったのか。まゆは偉いな」


そうとは知らず、Pはまゆの言葉を信じ込み、その頭をそっと撫でた。


「や、やだ……プロデューサーさん……まゆ、恥ずかしい……」


口ではそう言ってはいるが、表情は明らかに嬉しそうだった。

「ん? 俺の机の上に何か置いてあるな……」


Pは自分の机の上にある物に気付き、それが何かを確認する為に近付いていく。


「これは……花?」


「はい。まゆが持ってきたんですよぉ」


「へぇ、そうなのか。俺、花に関しては詳しくは無いが、それでも綺麗な花だな」


Pはじっくりとブーゲンビリアの花を眺めている。割と好意的に受け取ってくれているPの姿を見て、まゆは嬉しく思った。


「ありがとうな、まゆ。わざわざすまないな」


「ふふっ、そんな事無いですよぉ。まゆはプロデューサーさんの為なら……何だってしますから」


そう言ってまゆは満面の笑みを浮かべる。


「このお花……まゆだと思って、大切にして下さいね……」


「お、おはようございます……」


そうこうしている内に、事務所に次なる来訪者が現れる。ちひろは誰かを確認しようとそこに顔を向けると、そこには間の悪い事に、智絵里が立っていた。


(何て最悪なタイミングでやって来るの……)


ちひろは少しだけ冷や汗を掻く。そして目の前にいるPとまゆの二人を見つめ、この二人の間に智絵里が割って入り、修羅場が起きてしまわない様にと祈った。


「ぷ、プロデューサーさん、まゆちゃん。お、おはようございます」


智絵里は二人の傍まで近付くと、軽く会釈をしてそう言った。


「おはよう、智絵里」


「智絵里ちゃん、おはようございます」


智絵里の事を憎たらしいとまで言っていたまゆも、そういった感情は流石にPの前では出さず、ここでは普通の対応をしている。


(いきなり塩対応とかしなくて良かったわ……)


ちひろは一先ずは出会い頭に問題が起きなかった事を安堵した。だが、まだまだ安心は出来ないが、ちひろにはどうする事もできないので、この流れに身を任せるしか無かった。


「あれ……? プロデューサーさんの机の上にお花が……」


智絵里もそれに気付いたのか、机の上に目を向ける。


「あぁ、これな。まゆが持ってきてくれたんだ」


「ブーゲンビリアってお花なんですよぉ」


智絵里に笑顔を向けるまゆだが、内心は勝ち誇っていた。


(あんな汚らわしい贈り物なんかよりも、まゆの方がずっと素敵なんですよぉ……)


自分の体の一部を入れて贈ってきた智絵里よりも、何てことは無い普通のプレゼントでPを喜ばせた事に、まゆは若干の優位性を感じているのだった。


「ブーゲンビリア……綺麗な花ですね」


智絵里はそんなまゆの思いには気付くはずも無く、ただ目の前にある花を眺めていた。


「まるで……まゆちゃんみたい」


だが、智絵里のその一言を聞いて、まゆはある事に気付く。智絵里は何を思ってその発言をしたのか……恐らくは、ブーゲンビリアの外見だけを見て判断した訳では無いだろう。


(智絵里ちゃん……もしかしなくても、知ってますね……ブーゲンビリアの花言葉を……)


確たる証拠は無いが、まゆはそう確信した。だが、そうであったとしても、まゆの優位性に変わりは無かった。


(まゆの素敵なプレゼントを上回る物なんて無いんですから……)


口に出す事は無く内心でそう思い、まゆはほくそ笑んだ。

「そういえば……私も、プロデューサーさんの為にお花を持ってきたんです」


そう言って智絵里は自分の手荷物を漁り出す。だが、それを見てもまゆは動じなかった。


(智絵里ちゃんが持ってくるお花なんて……クローバーとかそんな物ですよねぇ……)


まゆはそう思いながら、智絵里の動向を黙って見守る。しかし、智絵里の取り出した物はクローバーでは無かった。


(あれは……)


智絵里の取り出したのは白い花弁に紫の斑点の付いた花だった。


「見た事の無い花だな……何て花なんだ?」


花に関して詳しくは無いPは当然その花の事を知らない。だからこそ、それを知る為に智絵里に聞いた。


「こ、これは……ホトトギスのお花です」


「ホトトギスって……あの『鳴かぬなら~』っていうので有名なやつだったか?」


「そ、それは鳥さんの方ですね。でも、その胸の模様に似ているからこういう名前になったそうですよ」


智絵里の豆知識に耳を傾けるP。その様子を見守るまゆは何だか不穏な空気を感じていた。


「このホトトギスって……何だか、私に良く似ていると思うんです」


「そうなのか? 智絵里といったらクローバーだとばかり思ってたけど……」


智絵里=クローバーというイメージはもう既に固定観念として定着している。だからこそ、それ以外のイメージは無いとPは思っていた。それはまゆにしても、ちひろにしてもそうだった。


「ホトトギスの花言葉には……『恥ずかしがり屋さん』っていうのがあって……そこが……私らしいかなって思って……」


「あぁ、なるほど。そういう事なのか」


(それなら……智絵里ちゃんらしいか……)


Pもちひろも、その智絵里の説明を聞いてなるほどと納得した。しかし、まゆだけは納得していなかった。


(ホトトギスの花言葉……それだけじゃ無いですよねぇ……)


まゆは知っていた……ホトトギスに込められた違う花言葉の事を。それ故に、納得はしなかった。


「ねぇ……まゆちゃん……」


まゆが考え事をしていると、智絵里が声を掛けてきた。


「智絵里ちゃん、どうしましたかぁ?」


「私の持ってきたこれも……一緒に、飾ってもいいかな……?」


智絵里の提案にまゆは少しだけ考えた後……


「えぇ。もちろん、いいですよぉ」


微笑みながら、そう言った。しかし、本心としては腹が煮え繰り返る様な思いだった。


「ありがとう、まゆちゃん」


智絵里は直ぐ様持ってきたホトトギスをブーゲンビリアと同じ花瓶に飾りつける。


その光景を見て、まゆは思わず舌打ちが出そうになるが、Pの前という事もあってどうにか堪えた。


「それじゃあ、二人共。そろそろ時間だし、仕事に出かけようか」


「は、はい、プロデューサーさん」


そう言ってPと智絵里は事務所を出ようと動き出す。だが、まゆだけはその場から動かない。


「ん? どうした、まゆ。行かないのか?」


それを不審に思ったPがまゆに声を掛ける。


「すみません、プロデューサーさん。まゆ……少しちひろさんに用があるので……先に行ってて下さい」


「……分かった。それじゃあ、俺達は先に行ってるから、遅くならないようにな」


「はい、分かりました」


そしてPと智絵里の二人は事務所から出て行く。事務所にはまゆとちひろの二人だけとなった。


「……完全にしてやられました」


二人だけになった事を確認すると、まゆはちひろに向けてそう言った。


「智絵里ちゃんの事……少し甘く見てました。案外、彼女……策略家なんですね……」


「……? 私には何だか良く分からないけど……」


ちひろにはただ花を渡しただけとしてしか見えていなかったので、そうは思わなかった。


「今回はまゆの負けですねぇ……悔しいですけど……」


悔しさのあまり、まゆはギュッと拳を握り締める。


「ちひろさん……手伝って貰ったのに、すみません。次は勝ちますので……また今度、お願いします」


そう言ってまゆも事務所を出ようと、出口に向かって歩いていく。だが、途中でその歩みを止めて、振り返ってちひろを見る。


「そうそう。何でまゆが負けたか分からないのなら……ホトトギスの花言葉を調べると分かりますよぉ」


「えっ……?」


「それじゃあ……まゆも、仕事に行ってきますね」


そしてまゆも事務所を出て行き、残るはちひろ一人となった。


「ホトトギスの花言葉……? 一体、何かしら……」


ちひろは言われた通りにそれを調べてみる。


「へぇ……色々とあるのね」


智絵里が言ったので全てかと思ったちひろは、それ以外にもある事に興味を示し、次々と探していく。


そして……その中で一際目に付くものがあった。


「……確かに……これは、ね……」


それを見てちひろは何故、まゆが負けだと言ったのかが納得した。


ホトトギスに込められたもう一つの花言葉……それは……
















―――私は永遠にあなたのもの―――











「まゆちゃんもそうだけど……智絵理ちゃんもどこからこういう情報を掴んでくるのかしら……」


修羅場とはならなかったものの、ますます混迷が深まる状況に辟易するちひろだった。


「もっと平和的にいって欲しいものね……」


そう言って頭を抱えるちひろ。彼女に安らぎが訪れる時はあるのだろうか。

とりあえず、今回はここまで


本当に進行が遅くて申し訳ないです


続きはまた、帰ってから……

こういう争い方好き
続き楽しみに待ってるわ

???「ふーん、花なんか飾っちゃうんだ」

???「ふーん……ところで黒薔薇の花言葉、知ってる?」

花に詳しい黒幕がいるみたいですねぇ…

>>60
黒幕?四天王の前座の間違いj(蒼される音)

>>1です。再開します。


>>57 ありがとうございます。そう言って頂けると励みになります。


>>58 >>59 何で蒼い人がここに……

CGプロから遠く離れた有名な温泉街。ここに智絵里とまゆ、そしてPはロケの為に訪れていた。


智絵里とまゆは以前、それぞれ別の温泉街でロケを行った事もあってか、今回のロケに抜擢されたのだ。


「な、何だか……旅行みたいですね、プロデューサーさん」


「うふふ。まゆも楽しみですよぉ」


「こらこら。二人共、遊びに来た訳じゃないんだから……しっかり頼むぞ」


そう言うPも都会の喧騒を忘れ、ゆっくりできるという事もあって、上機嫌でいた。


三人共、ウキウキとした足取りで宿泊する旅館を目指して歩いていく。


「な、何で私まで……」


その後ろを少し距離を空けて付いていくのは、今日も蛍光緑の事務服を身に纏うちひろ。


本来なら一緒に行く予定は無かったが、何故だか同行する事となってしまった。


「まぁ、久しぶりの休暇の様なものだし……たまにはこういうのもいいかしら」


ちひろはまだ見ぬご馳走や温泉を頭に思い描きながらその場で夢想する。


「ちひろさーん、あんまり遅いと置いていきますよー」


そしてちひろが付いて来ない事を疑問に思ったPが遠くから呼び掛ける。


「あっ、はーい。今、行きまーす」


ちひろはサッと気を切り替え、キャリーバックを引きながら三人の後を追っていった。


そしてその日の夕方……まゆとちひろは事前に打ち合わせた通り、ある部屋の前で何かをしていた。


「えっと……これで……よし」


ちひろが扉に借りてきたカードキーを差し込むと、ロックが解除されて中に入れる様になった。


「うふふ……ちひろさん、ありがとうございます」


そう言ってまゆは遠慮する事無く、部屋に入っていく。まゆに続いてちひろも入っていった。


部屋に入ると中には誰もいないが、それもそのはず。この部屋の主であるPは今、明日のロケに向けて担当者と打ち合わせをしているからだ。


「それにしても良かったわ……フロントの人が素直に鍵を貸してくれて……」


ちひろはこの部屋に入る為、フロントに嘘を言ってカードキーを借りていた。


『同僚が部屋に忘れ物をして、それを届けて欲しいと頼まれたが鍵が無くて入れない』と、申告した所、フロントの従業員は何の疑いもせずにカードキーをちひろに渡し、そして今に至るという事だ。


「とりあえず、目的は達した事だし、早く返さないといけないから私は戻るけど……まゆちゃんはプロデューサーさんが帰ってくるまで出たら駄目よ」


「分かってますよ、ちひろさん。この旅館……全室オートロックで、一度出たら鍵が無いと入れませんからねぇ」


(全く……何で私がこんな犯罪の片棒を……)


ちひろはまゆに聞こえはしない心の中で悪態をつく。


(けど、これも全ては報酬の為……)


ちひろとしては心苦しい思いもあったが、まゆから2ヶ月分の報酬と言われたのならば、協力は惜しまなかった。


「くれぐれも、スキャンダル沙汰だけは避けてよね」


「大丈夫ですよぉ。まゆはプロデューサーさんの帰りをここで待つだけですから……」


(本当かしら……)


そしてちひろは鍵を返す為に部屋を出て、フロントに向かって歩いていった。部屋にはまゆ一人だけとなった。


「うふふ……前回はしてやられたけど……今度は負けませんよぉ、智絵里ちゃん……」


ここにはいない相手に向かって、まゆはそう呟いた。


「前の様な小手先には頼らず、今回はまゆの本気を見せてあげますよぉ……うふっ、うふふふふふふ……」


今のまゆには確実な勝利のビジョンが見えていた。まゆからしてみたら、この部屋に入った時点で、勝利は確定した様なものだった。


「プロデューサーさん、早く帰ってこないかなぁ……」


そしてまゆはPが帰ってくるのをひたすら待つのだった。


「それにしても……良い所よね。流石は有数の温泉街といった所かしら」


ちひろはカードキーをフロントに返した後、一人で温泉街を満喫していた。


ご当地グルメに舌鼓を打ったり、各所の秘湯を巡り回ったりと、存分にその魅力を味わっていた。


「そもそも私は飽く迄付き添いだし、こうして遊んでいても文句は言われないわよね」


そう言うちひろだが、彼女がここに来たせいでその分の仕事を回された同僚がいるのだが、ちひろはそんな事はすっかり忘れていた。


「さて、次はどうしようかしら……って、あれ?」


ちひろが温泉街を散策していると、見知った人影が歩いているのを発見した。


「あれは……智絵里ちゃん?」


それは智絵里だった。ツインテールをゆらゆらと棚引かせ、浴衣姿の智絵里は誰かと並んで歩いていた。


「な、何で……?」


ちひろは目を疑った。智絵里の隣で歩いているのは紛れも無くPだったからだ。今頃はまゆと鉢合わせていると思っていたちひろにとって、それは思いがけないことだった。


「まゆちゃん、失敗したの……? いや、違うわ……」


改めてちひろはPを見る。浴衣姿の智絵里とは違い、Pは出掛けた時の営業のスーツ姿のままだった。


「プロデューサーさん……部屋に帰っていないんだわ」


恐らくは、打ち合わせた後に智絵里と合流する手筈だったのだろう。そうで無くては今の状況は考え難い。


「という事は……今頃……」


そうは知らないまゆは今も尚、プロデューサーの帰りをあの部屋で待っているだろう。


「作戦失敗だわ……まゆちゃんに知らせないと……」


ちひろは来た道を引き返し、旅館に急いで戻っていった。


ん? あれは……ちひろさん? あんなに急いでどうしたんだろう……」


聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを振り返ったPは急いで走る同僚の姿を見つけていた。


「温泉街に来てまでもあんなに忙しそうに……大変な人だな」


「ぷ、プロデューサーさん。そ、その……早く、行きませんか……?」


立ち止まるPを見かねて、智絵里がPの袖を引っ張りながら声を掛ける。


「あぁ、ごめんな、智絵里。ちょっと気になってな」


急かされたPは智絵里の言葉に従って再び歩き出す。


「それにしても……こうして歩いていると、あの時の事を思い出すな」


Pの言うあの時とは前の温泉街でのロケの事を指している。


「は、はい。あの時は……かな子ちゃんや他のみんなもいて……とっても、楽しかったですけど……私……今の方が、もっともっと楽しいです」


「あまり二人っきりになれなかったもんな」


Pの発言に智絵里は恥ずかしさからか顔を赤くさせ、下を俯いてしまう。


「そういえば……まゆは大丈夫だろうか。ちひろさんがあそこにいたって事は一人でいるだろうし、心配だな……」


Pがまゆの事を気に掛けていると、不意に智絵里がPの腕に抱き着いてくる。


>>69 ミスった。訂正。


「ん? あれは……ちひろさん? あんなに急いでどうしたんだろう……」


聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを振り返ったPは急いで走る同僚の姿を見つけていた。


「温泉街に来てまでもあんなに忙しそうに……大変な人だな」


「ぷ、プロデューサーさん。そ、その……早く、行きませんか……?」


立ち止まるPを見かねて、智絵里がPの袖を引っ張りながら声を掛ける。


「あぁ、ごめんな、智絵里。ちょっと気になってな」


急かされたPは智絵里の言葉に従って再び歩き出す。


「それにしても……こうして歩いていると、あの時の事を思い出すな」


Pの言うあの時とは前の温泉街でのロケの事を指している。


「は、はい。あの時は……かな子ちゃんや他のみんなもいて……とっても、楽しかったですけど……私……今の方が、もっともっと楽しいです」


「あまり二人っきりになれなかったもんな」


Pの発言に智絵里は恥ずかしさからか顔を赤くさせ、下を俯いてしまう。


「そういえば……まゆは大丈夫だろうか。ちひろさんがあそこにいたって事は一人でいるだろうし、心配だな……」


Pがまゆの事を気に掛けていると、不意に智絵里がPの腕に抱き着いてくる。

「智絵里? どうしたんだ?」


抱き着かれたPは再び立ち止まり、智絵里に問い掛ける。


「ぷ、プロデューサーさん……その……今は、私と二人っきりなんですから……他の子の話はして欲しくは無いかな……って……」


そう言って智恵理は上目遣いでPに訴える。


「す、すみません……我儘言っちゃって……でも、こんな機会はあまり無いですから……大事にしておきたいんです……」


「……そうか。ごめんな、智絵里」


Pは空いている手を智絵里の頭の上に乗せ、宥める様に優しく撫でた。


「えへへ……プロデューサーさんの手……温かいです」


撫でられた智絵里は幸せそうな表情を浮かべる。


「それじゃあ、行こうか。あまり時間も無い事だし」


「は、はい。そうですね」


そして二人はまた、目的地に向かって歩き出す。智絵里が腕に抱き着いたままではあるが……。


「でも、ここの温泉街……混浴が無いのは残念ですね」


頬を膨らませ、智絵里はそう文句を垂らした。


「おいおい。それをやったらスキャンダル待ったなしだぞ?」


「だって……プロデューサーさんとせっかく来たのに……」


「だから『足湯で我慢する』って言ったのは智絵里だろ? だったら守らないとな」


「分かりました……」


ファンに聞かれたらまずい内容なのに、少しも隠そうとしない二人だった。


旅館に戻ったちひろは再びフロントの従業員を騙し、カードキーを受け取るとPの部屋目指して一直線に向かっていった。


「まゆちゃん!!」


カードキーで鍵を開け、ちひろは部屋の中に入ると直ぐ様まゆを探す。しかし、ちひろの目の届く範囲内にまゆの姿は見当たらなかった。


「どこに行ったのかしら……」


ちひろはカーテンの内側やベランダ、布団の中等、まゆのいそうな場所を探るが、一向に見つからない。


「あと探してないのは……」


ちひろは探していない場所に目を向ける。そこは部屋に設けられてある内風呂だった。


「ま、まさかね……」


考え難いとは思ったが、確認の為にちひろはそこに足を踏み入れる。


(ここにいなかったら……きっと、待ちかねて自分の部屋に帰ったんだわ)


しかし、そんなちひろの思いとは裏腹に、誰もいないはずの内風呂には明かりが灯っていた。そしてその中には……


「うぅ……ぷ、プロデューサーさん……ま、だかしら……」


バスタオル一枚しか身に纏わず、すっかりのぼせあがった様子のまゆがいた。


「ま、まゆちゃん!?」


ちひろは慌ててまゆを内風呂から引きずり出す。長時間湯舟に浸かっていたせいか、まゆの肌は真っ赤に染まっていた。


「しっかりして!! まゆちゃん!!」


ちひろはまゆの頬を軽く叩き、目覚めを促す。


「うぅ……」


そしてまゆが目を開き、ちひろと目が合った。


「良かった……気が付いたのね」


ちひろは目を覚ました事にホッとして安堵する。しかし……


「ぷ、プロデューサー……さん?」


「……えっ?」


「うふ……うふふふふふ……プロデューサーさぁん……まゆ……ずぅっと……待ってたんですよぉ……」


のぼせているまゆはちひろの事をPと勘違いしていた。


「ちょ、ちょっとまゆちゃん? 気を確かに、ね?」


ちひろはそれを正そうとするが、まゆの耳には届かなかった。


「さぁ……私と一緒に……」


そう言ってちひろの胸に飛びつき、抱き締めるまゆ。


「ま、まゆちゃん!? 目を覚まして!! お願いだから!!」


ちひろは抵抗しようと暴れるが、どこにそんな力があるのか、まゆはちひろを押し倒した。


「うふっ、うふふふふふふふふふふふふふ」


「だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


その後、何とかまゆを振り払ったちひろは、まゆを部屋に連れ帰り、介抱する事に努めた。


ちなみにPには報告はしたが、Pの部屋に侵入した事を伏せておいたのは、言うまでもない。


とりあえず書き溜めた分は投稿終了。


何とか今日か明日ぐらいには書き終えたいが、いけるかな……

乙。頑張って完走してくれ
そしてタブレット大好きデジタル人間と見せかけて、恋愛ではめちゃオカルトなありすも頼む

「この間は、本当にすいませんでした……」


まゆはちひろに向けて目一杯頭を下げて謝った。


「い、いいのよ。何とも無かった訳だし……」


「まゆ……プロデューサーさんにもご迷惑を掛けてしまって……悔しいです」


まゆは悔しさのあまり、服の裾を掴み、ぎゅっと握り締める。


「でも、今度こそはしっかりと決めます」


決意の火を目に灯し、まゆは上を見上げた。


「次のハロウィンイベントで……プロデューサーさんの心を、まゆだけのものにしてみせます」


(大丈夫かしら……)


こうも立て続けに失敗しているので、ちひろとしては心配だった。


(けど、これも全ては謝礼の為……頑張らないと……)


だが、次に成功すれば三ヶ月分の報酬が舞い込んでくるので、ちひろは全力を以ってしてフォローするつもりだった。


そして迎えたハロウィンイベント当日。


多くのアイドルがハロウィンの仮装に身を包み、イベントを盛り上げている最中、Pは会場にある倉庫の中で佇んでいた。


「ちひろさん、遅いなぁ……何をしてるんだろ」


Pはちひろから呼び出しを受けて、ここに来ていた。しかし、呼び出した当の本人は一向に現れなかった。


「早く智絵里やまゆの所に行ってやらないといけないのに、どうしたものかなぁ……」


携帯を取り出して電話をしてみるも、直ぐに留守電にへと飛ばされてしまう。現状、Pには打つ手が無かった。


「仕方ない。ちひろさんは無視して、二人の下に行こう」


プロデューサーの役目として、アイドルと同僚の事務員を天秤に掛けるのなら、傾くのは勿論、アイドルの方だ。


そうと決まればと、Pは倉庫を出ようと出口に向かって歩いていく。


しかし、その歩みを途中で止めるざるをえなかった。何故なら、倉庫の扉がひとりでに開いたからだ。


「うふふ……プロデューサーさぁん」


そしてその向こう側には、魔女の衣装を身に纏ったまゆが立っていた。


「まゆ? どうしてここに?」


来るはずのない人物が現れ、Pは困惑する。


「どうして……? それはですねぇ……まゆがプロデューサーさんに会いたかったからですよぉ……」


まゆは倉庫の中に入ると、開けた扉を閉めて、Pが出られない様に入口を固める。


「それよりも、まゆ。ちひろさんを知らないか? 人をここに呼び出しておいて一向に現れないんだが……」


普通なら慌てる状況において、Pは淡々とまゆにそう尋ねた。その表情に、焦りの色は一切出ていない。


「ちひろさんなら……ここには来ませんよぉ……」


「……何だって?」


「だって……まゆがちひろさんに頼んで、プロデューサーさんを呼び出したんですから……」


ハイライトの消えた淀んだ瞳を見開き、まゆはPを真っ直ぐ見つめる。しかし、それでもPは顔色を変える事無く平然としている。


(流石はまゆのプロデューサーさん……これぐらいじゃ動じないんですねぇ……)


それならばと、まゆはじりじりとPに近づく。近づけば近づくほど、まゆの出すオーラに気圧されて後退する所、これもまたPは悠然と待ち構えている。


そしてあと一歩踏み出せばPに触れてしまえる距離までまゆは迫った。


「少しも動いたりしないんですね、プロデューサーさん」


「まゆが向かって来ているのに、動く必要なんてあるのか?」


「流石……ですね。プロデューサーさんのそういう所……まゆ、素敵だと思います」


まゆはそう言って屈託の無い笑みをPに見せた。


「それで……何でここに呼び出したんだ?」


調子を変える事無く、Pはまゆに問い掛ける。


「うふふ。そこは察して欲しい所ですよぉ……」


そう言ってまゆは衣装である魔女の帽子を深く被り、表情をPに見せない様にする。


「みんなには聞かれたくなかったから……特に、智絵里ちゃんには絶対に……」


「……」


Pは言葉を掛けずに、黙ってまゆの言葉を待った。


「ねぇ、プロデューサーさん……プロデューサーさんはまゆの事をどう思ってますか……?」


「好きだぞ」


ほぼ即答に近い速さで、Pはそう答えた。


「うふふ、ありがとうございます。それじゃあ……智絵里ちゃんの事は……?」


「愛してる」


これまた即答で、それも淀みなくPは答えた。


「随分、きっぱりと言うんですね」


「悪いが、こういう性分なんだ」


「知ってますよ。誰よりも……ずっと……」


それを聞いたまゆは少し俯き気味になる。そしてPからは余計にその表情が窺えなくなった。


「プロデューサーさん……まゆ、お願いがあるんですけど……聞いて貰えますか?」


まゆの問い掛けにPは黙って頷く。それをまゆは視界の端で捉えた。


「それじゃあ……まゆが良いって言うまで……目を瞑っていて下さい」


Pは疑う事無く、まゆの言葉に素直に従って目を瞑る。そしてそれを見届けるとまゆはPとの距離を更に縮め……


「ん……」


Pの顔に両手を添えて、その唇に自分の唇をそっと重ね合わせた。


数秒間に及ぶ唇に触れるだけのキス。その行為をPは抵抗しないで黙って受け入れた。


そしてまゆは満足したのか唇を離し、Pに『良いですよ』と、許可を出した。


「プロデューサーさんと智絵里ちゃんがしている事……まゆ、全部知っています。だから……これがまゆなりの『マーキング』……」


まゆは帽子を取ると、上目遣いでPをじっと見つめた。


「プロデューサーさんの為なら、全てを捧げてもいいです。身も心も……全部、あなたの色に染めても構わないです」


「まゆ……」


「お願いします……まゆの事、愛して下さい。ずっと……まゆだけを見ていて欲しいんです……」


まゆは真摯な目でPに向かってそう訴えた。これにはPも初めて躊躇いの色を見せた。


眠気が限界に近いので今日はここまで


また明日頑張ります

またポンコツなのかと思ったらがっとやってチュッとしたし、あとはハァ~ンだけだな
頑張れままゆ

>>1です。 再開します。

「その程度じゃ駄目だよ、まゆちゃん」


「……!? 誰っ!?」


唐突に背後から声が聞こえ、まゆは後ろを振り返った。


「キスしたぐらいじゃ……プロデューサーさんの心は、変わったりはしない……」


「智絵里ちゃん……? どうして、ここに……?」


振り返った先には悪魔の仮装に身を包んだ智絵里が立っていた。不適な笑みを浮かべてまゆの顔をじっと見ている。


「二人の姿が見当たらないから、探しに来たんだよ……」


そう言って智絵里は二人に向かってゆっくりと近付いていく。


「それにしても……結構、大胆なんだね、まゆちゃん。こんな所にプロデューサーさんを呼び出して……その上、迫るだなんて……」


智絵里はまゆの目の前まで近付くと、歩みを止めた。


「それでも……プロデューサーさんの心には届かない……そうですよね……?」


智絵里は同意を求める様に、Pに向かって尋ねた。


「……すまない、まゆ」


そしてそれを受けてPは謝った。それはつまり、肯定を意味していた。


「まゆちゃん、こういう事なんだよ? もうプロデューサーさんの心は……私の色に染まってるから……」


そう言って薄く微笑んでまゆを見る智絵里。その瞳にはまゆと同じく、光は宿っていない。


「でも……まだチャンスはあるんだよ?」


「えっ……?」


智絵里はそう言うと、まゆの手を取ってギュッと握った。


「まだプロデューサーさんの心は完全には染まりきっていないから……そこに、まゆちゃんの入り込む余地が残ってると思うの……」


「智絵里ちゃん……」


「私……まゆちゃんの事も好きだから……頑張って欲しいかなって……」


それを聞いて、まゆは涙混じりの瞳で智絵里を見つめた。そしてそれに応える様ににっこりと智絵里は微笑んだ。


「だけど……ね……」


「……え?」


「私……負ける気はないから……」

智絵里は握っていたまゆの手を離し、そしてその横を通り抜けてPの目の前に立つ。


「プロデューサーさん……その……今日の私は、悪魔さんなんです……」


「あぁ、そうだな。似合ってるよ」


そう言ってPは智絵里の頭を撫でた。


「えへへ……ありがとうございます……」


智絵里ははにかみながら頬を赤く染めてそう言った。


「だから、その……お願いがあるんです」


「お願い?」


「私と……悪魔の私と……契約を結んで欲しいんです……」


そう言って智絵里はどこからか何かを取り出した。長さにして15cm程の何か……それはカッターナイフだった。


(智絵里ちゃん……あれで、何をするつもりなの……)


まゆは困惑した表情で智絵里の動向を窺った。


「ちょっと痛いかもしれませんが……いいですか……?」


「他ならぬ、智絵里の頼みだからな。断りはしないさ」


目の前でカッターナイフを取り出し、痛いかもしれないと言われてもPは動じず、平然とそう答えた。


「それじゃあ……失礼、しますね……」


そして智絵里は左手でPの右手を掴むと……


「えいっ……」


Pの右手の小指をカッターナイフで切り付けた。


「……!? ち、智絵里ちゃん……な、何を……」


まゆは突然の智絵里の行動に驚きを隠せなかった。目の前で人が切り付けられたのなら、こういう反応にもなるだろう。


しかし、当の本人達は少しも動じてはいない。それに切り付けられたとはいえ、小指の腹を浅く切った程度で傷としてはそう深くは無い。


それでも、切れた傷口からはPの赤い血が流れ出てくる。


「これが……プロデューサーさんの血……綺麗な色をしてますね……」


「一応、健康には気を使ってるからな」


まじまじとPの血を見つめる智絵里。もし、ちひろがこの光景を見ていたら、卒倒しかねないだろう。


「プロデューサーさん……そ、その……い、頂き……ます、ね……」


そう言って智絵里は切り付けたPの小指に顔を近づける。


「……あむっ」


そしてPの小指を自分の口の中に咥え込んだのだ。


「ん……ちゅ……」


智絵里はまるで味わうかの様に咥えた小指を舐め回す。


「じゅる……んむっ……はぁ……」


「どうだ? 智絵里」


その様子を上から眺めつつ、Pは智絵里に尋ねた。


「ぷはぁ……プロデューサーさんの血の味……とっても濃くて……くらくらしちゃいます……」


「そうか。それは良かった」


そう言ってPは空いている手を使って智絵里の頭を撫で回す。


「えへへ……プロデューサーさんに撫でられると……何だか気持ち良くなってきます……」


撫でられた智絵里は恍惚そうな表情を浮かべてPを見上げた。


「あ、あの……もっと吸ってもいいですか……?」


智絵里はPの小指を軽く締め上げて、傷口の奥から新しい血を出しながら問い掛ける。


「智絵里の気が済むまで構わないよ」


「あ、ありがとうございます……」


許可を得た智絵里はまた小指を咥えてPの血を吸い上げる。その勢いはPの血を全て吸い尽くしかねないぐらいの勢いだった。


「ち、智絵里ちゃんが……こんな……こんな事を……」


そしてその光景を直ぐ傍で眺めるまゆは息を呑んで、その狂気的な行動を目に焼き付かせていた。


「……ご馳走様でした」


数分後、満足した智絵里はPの小指から口を離す。数分にも渡って舐め回した結果、Pの小指はふやけてしまっていた。


「これで……契約完了ですね」


淀んだ瞳でPを見つめ、智絵里は妖艶な笑みを見せた。


「私の体の中に……プロデューサーさんのが……あはっ、幸せです……」


そして智絵里は首だけで後ろを振り向き、まゆと視線を合わせた。


「これでまゆちゃんのアドバンテージは無くなっちゃったけど……それでも、希望はまだあるから……頑張ってね……」


余裕そうな表情で、まゆに向かってそう言い放った。それに対し、まゆは下を俯いたまま震えていた。


「うふ……うふふ……うふふふふふふふふふ……」


そして……壊れた様にまゆは笑い出した。それを見れば普通、恐怖を感じる所だが、智絵里もPも顔色一つ変えずにその様を見ている。


「そっかぁ……まゆ……分かっちゃいましたぁ……」


「何が分かったの? まゆちゃん」


智絵里は人形の様な無表情のまま、まゆに向かって問い質した。


「智絵里ちゃんの覚悟の重さが……そして……まゆが間違っていた事を……」


ふらふらと安定しない足取りで、まゆは智絵里とPに近付いていく。


「まゆ……甘かったです……甘過ぎたんですねぇ……こんなんじゃ……いつまで経っても……プロデューサーさんは……まゆのものにはならない……」


二人の傍まで近付くと、俯いていた顔を徐に上げる。その表情には薄気味悪い笑みが……そして瞳には一点の光も残っていない。淀みきって黒く染まっていた。


「智絵里ちゃん……まゆ……絶対にあなたから……プロデューサーさんを奪ってみせますから……この命に代えましても……絶対に……」


「……あはっ……あはは……やっとまゆちゃんも……本気になってくれたんだ……私、嬉しいな……」


そう言って智絵里は体もまゆの方に向け、そして近付くとまゆの顔に両手をそっと添えた。


「私も……絶対にプロデューサーさんは渡さないから……」


「うふふ……まゆの愛の方が上だという事を……証明してみせますからねぇ……」


そして二人は互いに狂った様に笑い出した。まさにそれは狂気でしか無かった。


しかし、それでも二人はどこか幸せそうだった。愛に満ち溢れているからこその幸せなのかもしれない。


その光景をPは近くで見守りながら……満足そうに二人を見つめているのだった。


とりあえず出勤なのでここまで


あとはエピローグ入れて終わりにするので今日の内に終わらせれるかな。


それではまた帰ってきてからで……

おつ
この狂気に触れても折れないところさすがまゆゆ

Pがヤンデレから逃げ回るssがどちらかというと主流な気がするからなかなか貴重なssだと思う
みんな闇に飲まれてる

ただのポンコツで終わらないのが素晴らしい

ヤンデレの波動に目覚めたまゆか…

胸に穴が空いてそうだな

>>1 です。再開します。


今日中に終わらせられる様に頑張ります。

ハロウィンイベントの翌日。まゆは事務所に訪れると真っ先にちひろの下に赴いた。


「ちひろさん……今まで手伝ってくれてありがとうございました」


まゆはそう言った後、ちひろに向かって深く頭を下げた。それを見たちひろは『やっとか……』と、心の中で思い、安堵の息を漏らした。


「い、良いのよ、まゆちゃん」


とりあえず体裁上はそう言うちひろ。付き合ったのは飽く迄報酬の為だったので、それさえ貰えれば文句は無かった。


「思えば……まゆ、間違ってたんです。誰かの手を借りた時点で、智絵里ちゃんには負けてたんだと思います」


(そもそも……アイドルとその担当が付き合おうとしている時点で間違いなんだけどね……)


そう思うちひろだが、それを口に出してしまえばまゆの逆鱗に触れかねないので、黙っている事にした。


「だから……今度からはまゆの力だけで、プロデューサーさんをまゆの色に染め上げてみせます」


気合十分に語るまゆであるが、目の前のちひろは『もう勘弁して欲しい』と、いう気持ちだった。

「そ、そうだ。まゆちゃん、あれの事なんだけど……」


これ以上話していると精神的に辛いので、ちひろはそう言って早く報酬を貰ってしまおうと考えた。


「あれ……って? 何の事ですか?」


「ほ、ほら……協力したらたっぷりって……」


敢えて直接的な表現を避けて、そう言うちひろ。それをストレートに言ってしまうのはちひろでも憚るからだった。


「あぁ、謝礼の事ですね」


「そうそう、それよ、それ」


ようやく思い当たったまゆを急かす様に、ちひろは催促して求めた。


「うふふ……心配しなくても、ちゃんと用意してありますよ」


そう言ってまゆは自分の手荷物から茶封筒を取り出した。それを見たちひろは視線をそこにへと集中させ、釘付けとなった。


「はい……ありがとうございました」


そしてまゆはそれをちひろに向けて手渡した。受け取ったちひろは『やっとか……』と思いつつ、感慨に浸った。


「それじゃあ……まゆはプロデューサーさんの所に行かなきゃいけないので、失礼しますね」


そう言ってまゆはその場から去っていく。ちひろは誰もいない事を確認すると、茶封筒を注視した。


「ふふふ……ようやくこの時が……耐え忍んだ甲斐があったわ……」


思えば、ちひろにとっては苦難の日々だった。智絵里に見つからない様にとあれやこれやと画策し、まゆを裏からフォローするのは至難の業だった。


しかし、それも今日報われる時が来たのだった。


(まゆちゃんは三ヶ月分だと言ってたし……きっと大金が……)


今をときめくアイドル、佐久間まゆの収入といえば相当なものだろう。それが三ヶ月分となると……ちひろは笑いが止まらなかった。


「でも、この茶封筒……やけに薄いわね……中身は小切手かしら……?」


ちひろは中身を確認しようと、茶封筒の端をはさみで切り落とした。


「さぁ……幾らかしら!」


そして期待で胸を膨らませながら、その中に入っているものを取り出した。


「……えっ?」


だが、中に入っていたものはちひろの期待していた様なものでは無かった。


「た、たったの……一万五千円……? う、嘘でしょ……?」


中から出てきたのは一万円札が一枚と、五千円札が一枚……それだけだった。


「い、いや……そんなはずは……」


諦めきれないちひろは封筒の奥深くまで覗き、中に残っていないかを見るが、残念ながら何も残ってはいなかった。


一万五千円……これが、報酬の全てだった。


「な、何で……? だって、三ヶ月分って……」


つまり単純に考えて一ヶ月当たり五千円になる。ちひろはまゆの給料の事だと思っていたが、それだと計算が合わない。


「なら、これは一体……」


ちひろがそれが何なのかを考えた。そして、その数字と一致するものにちひろは思い当たった。


「五千円って……まゆちゃんのプロデューサーさんの月の課金額の事だわ……」


それならば、辻褄が合う事になる。ちひろは他の可能性を考えてはみるが、それ以外には思い当たらなかった。


「ま、まさか……こんな事になるなんて……」


ちひろは信じたくは無い事実にがっくりと肩を落とした。せっかく精神を磨り減らしてまで頑張ったというのに、全てが水泡に帰する形となった。

月5000円を多いととるか少ないととるかは読者に委ねられている

「わ、私の頑張りって……何だったの……?」


ちひろは大きくため息を吐いた。そうでもしなければ、やってられなかったからだ。


「まぁ……でも、一応は報酬も入った事だし……私も何とか無事で済んだし……悲しいけど、これで良いにするしかないのね……」


そしてちひろは報酬を仕舞い、自分も仕事に戻ろうと動こうとする。しかし……


「あ、あの……」


という聞き覚えのある声と共に、後ろからちょんちょんと肩を叩かれたちひろ。


(ま、まさか……)


ちひろはゆっくりと後ろを振り向いた。


「お、おはようございます、ちひろさん」


そこには智絵里の姿があった。その姿を見た途端、ちひろの全身から冷や汗が溢れ出た。


「お、おはよう、智絵里ちゃん……ど、どうかしたのかしら……」

 
ちひろはそう言いつつ、後ろに少しずつ後退していくが、それに合わせる様に智絵里もじりじりと近付いていく。


「……今日は……ちひろさんにお礼を言おうと思って……」


「お、お礼……? な、何の事かしら……?」


ちひろは智絵里から出るオーラに気圧されて戦慄した。智絵里の瞳には光が灯っておらず、それがちひろの恐怖を更に助長させていた。


「とぼけても無駄ですよ……? ちひろさんがまゆちゃんに協力していたの……私、知ってますから」


(な、何で……)


ちひろは細心の注意を払って協力していたというのに、智絵里には筒抜けだったようだ。


「ま、待って! 智絵里ちゃん!! お、落ち着こう!? ねっ!?」


自分の生命の危機を感じ、ちひろは必死に呼びかけた。


「何を慌てているんですか……? 別に私……ちひろさんを怒るつもりなんて無いですよ……。ただ、お礼を言いに来ただけです……」


「……へ」

>>104 ミスった 訂正

「お、おはよう、智絵里ちゃん……ど、どうかしたのかしら……」

 
ちひろはそう言いつつ、後ろに少しずつ後退していくが、それに合わせる様に智絵里もじりじりと近付いていく。


「……今日は……ちひろさんにお礼を言おうと思って……」


「お、お礼……? な、何の事かしら……?」


ちひろは智絵里から出るオーラに気圧されて戦慄した。智絵里の瞳には光が灯っておらず、それがちひろの恐怖を更に助長させていた。


「とぼけても無駄ですよ……? ちひろさんがまゆちゃんに協力していたの……私、知ってますから」


(な、何で……)


ちひろは細心の注意を払って協力していたというのに、智絵里には筒抜けだったようだ。


「ま、待って! 智絵里ちゃん!! お、落ち着こう!? ねっ!?」


自分の生命の危機を感じ、ちひろは必死に呼びかけた。


「何を慌てているんですか……? 別に私……ちひろさんを怒るつもりなんて無いですよ……。ただ、お礼を言いに来ただけです……」


「……へ?」


ちひろは情けない様な声を上げ、智絵里の顔を見た。その表情は智絵里が言った通り怒っている訳では無く、少し笑っていた。


「ちひろさんのお陰で……まゆちゃん、目が覚めたみたいです……。だから……そのお礼が言いたくて……」


「な、何だ……そうだったのね……」


助かったとばかり、ちひろは安堵した。そして安心したからかホッと一息吐いた。



「でも……」


「……えっ?」


ちひろは再び視線を智絵里に向ける。そこには先程まで笑っていた智絵里はどこにもおらず、ただただ無表情の智絵里がそこに立っていた。


「ちひろさん……私、前に言いましたよね……? 次は許さないって……」


「ち、智絵里ちゃん……?」


智絵里は右手の親指を軽く曲げ、それ以外の指を全て伸ばしてある形を作った。それは手刀……チョップの形である。


「約束を破った人には……罰が必要ですよね……」


それを構えたまま、智絵里はちひろにもっと近付いていく。


「ひ、ひぃっ!!??」


ちひろは逃げようとするが、部屋の隅に追い遣られて逃げ場を失ってしまう。


そして……ちひろの眼前にまで智絵里は迫っていった。


「ま、待って……智絵里ちゃん……た、助けて……」


そう言ってちひろは智絵里に懇願するが、智絵里がそれを聞き入れる訳が無かった。


「駄目ですよ……ちゃんと罰は受け入れないと……」


そして智絵里はチョップの形を保ったまま、右手を振り上げて……


「チョップです、えいっ」


無情にも、ちひろの脳天目掛けて振り下ろした。


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」


断末魔の叫びを上げるちひろ。その絶叫は、事務所全体に響き渡るのだった。


「ん? 今、何か聞こえた様な……」


「そうですか? まゆには何も聞こえなかったですけど……」


「気のせい……かな。まぁ、いいけど」


後頭部を掻きつつも怪訝そうな表情をするP。


「それよりも……プロデューサーさん。これ、まゆの手作りのお弁当です。良かったらどうぞ」


そう言ってまゆは可愛い包みで包装した弁当箱をPに渡した。


「ありがとうな、まゆ」


それをPは笑顔で受け取った。


「昨日、約束しましたからね……お弁当作ってきますって」


「でも、本当にありがとうな。後でおいしく頂かせて貰うよ」


「まゆの愛情がたっぷり詰まったお弁当ですので……残さず食べて下さいね?」


まゆはそう言って、満面の笑みをPに見せた。


(ふふふ……他にも色々と入ってますけどね……)


そしてPに聞こえない様に、心の中でそう呟いた。もちろん、Pはそれに気付く事は無い。


(まゆ……精一杯頑張ってみせます……そして……絶対に、私のものにしてみせますから……)


まゆは今はここにはいないライバルに向けて、そう布告する。


そして、この日から長きに渡る愛憎劇が、智絵里とまゆの手で繰り広げられていくのだった。





終わり

とりあえず、これにて終了。お疲れ様でした。


何か最後の辺りが物凄い駆け足になってしまったが許してくれ……これが俺の限界です……


智絵里とまゆの二人に愛されたいだけの人生だった……

そういえばシンデレラガールズ劇場のアニメPVの智絵里は最高でしたね(唐突)


あの可愛らしさに癒されながらこんなSS書いてる俺って一体……


次回はありすで書こうと一応考えてますが……大丈夫だろうか……(色んな意味で)


ここまで私の駄文に付き合って下さってありがとうござました。


とりあえず依頼出してきます。


それと智絵里PならびまゆP……そしてちひろファンの皆さん。どうもすみませんでした。許して下さい。



ここからありすぶっこんでくるか…
なぜかほんわかした未来しか想像できない

おつ
漁夫の利を狙うありす、アリだと思います


チョップ(ちょっぷ)なのか、チョップ(運命両断)なのか…

乙、いい病みを見た
チョップ(切断)

蒼い黒幕さんの出番はまーだ先っすかね?

>>116

蒼い人の出番はまだまだ先のつもりです。一応、プロットは考えてありますが……

それ以外には文香とかの話も考えている予定です。

ちなみに……次回のPは今回のPとは別人ですので。

ありすもだが文香も楽しみ
勝手に栞でも挟まれてるのかな?

Pの記憶に栞を挟むふみふみ…?

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom