【聲の形】目立つ馬鹿の末路 (12)
原作で許され通しや逃げ得だった人物が、
軒並み不幸になった件でモブの女性達が噂する話です
酷い事をされても耐え続け許し続ける、聖人の様な扱いの西宮と佐原、
いくら大暴れしても、作中の誰からも注目されない植野が気の毒なので書いてみました。
暴力・猟奇的表現、若干の捏造、死にネタがあります
佐原みよこは静かな表情のまま、植野直花の艶のある黒髪を荒々しく掴み、手に巻きつけてぶん回した。
健康な髪が引っこ抜かれ、頭皮に血が滲む。「佐原ァ!ぐあっ、やめろよっ!」
数回キャビネットに顔を叩きつける。「がっ、ぐ、おごっ」血と前歯が2本飛んだのを確認して
直花を放り投げた。「あがっ!」壁に叩きつけられ、ぼろ雑巾の様に床に転がる。
「おげっ、ぐええ…」
佐原は手に絡み付いた抜け毛を床に落とし、息を整え直花に話しかけた。
「なおちゃん、あのおでこの広いモデルに中古のSUV買おうとしたでしょ。
お金を私の口座からなおちゃんのに移して
引き落とそうとしてたみたいけど、ディーラーに連絡してキャンセルしといたから」
血を吐きつつも、直花は果敢に睨みつけた。
「…それ位いいじゃねぇか、お前だってあの女と…」
佐原は無言で直花の薄い腹を、新品のルブタンを履いた
美脚でドスドス踏みつける。10センチヒールが杭の様に
直花の腹に突き刺さる。「ぐぼっ、げほっ、ごほっ、佐原っ、やめ、げぼぉおおぉぉぉぉぉ」
逃げようと這い回る直花の胃を正確に蹴り上げた。盛大に嘔吐する。
あのパンプスを手に入れた時、佐原は大喜びしていたのに。
「もう!ちゃんと舐めてきれいにして出てってよ!」
「ぐぇ、げ、ごほっ、おげえぇぇぇ」
佐原は直花の頭をぐいぐい踏みつけ、整った顔が吐瀉物まみれになった。さらに直花は吐く。
佐原は赤い靴底を見せつつ、キャリーバッグを玄関の外に置いた。
ベージュのルブタンは佐原の長い足を更に美しく長く見せる。
「なおちゃんの事で何年も悩んで、媚びてたのがほんっと馬鹿らしい、一生私の前に出てこないで!」
「…さ、佐原、なんで、そんなにキレて…、もう、昔の話、っ!離せよ…!
佐原はもう一度直花の髪を掴み、完璧なモデルウォークで玄関まで行き、
「これ付けてメイドのお仕事がんばってねぇ、害悪さん」冷笑して猫耳カチューシャを直花に付け、片手で放る
「あぐ、て、てめ、佐原…、こんな事して…ただで」
「てめえ?」佐原の笑顔は自信に満ちていた。
佐原は直花の顔面をサッカーボールキックで蹴り上げた、「ぐえっ!」潰れたカエルの声がした。
直花が後ろの壁に後頭部を叩きつけたのを確認して、ドアを閉め鍵をかける。
「うげっ、がほっ!」「キャンセル料よろしくね」
一時間程放心した後、口の中の血の混じった唾を吐き捨て、直花はのろのろと立ち上がった。
タクシーを呼ぶ事も思いつかず、荷物を引き釣りながら駅へと向かった、電車の中では悪臭を放つ彼女に
視線が突き刺さるものの、顔を見上げると皆一斉に目を逸らす。なぜ佐原はあんなに怒っているのか。
佐原の不登校は自分のせいだが、高校で再開した時に自分は佐原を受け入れたし、
伝わらない愛情を持て余して苛立つ自分の汚く脆い部分を、佐原は受け止め続けてくれたのに。
一緒にブランドも立ち上げ、公私共に支えあってたはずなのに。
あぁ、全てはあの女のせいだ、いつも被害者顔で他人を操り、
欲しい物を貪欲に手に入れ続ける。
でも仕方ない。石田に会うためだ。あの頃の自分は必死だった。
全てを周りのせいにしながら心は苛立ってばかり。
度も石田にはあの女のハラグロぶりを伝え、
その恋心は偽りであると囁いたのに、とうとう石田はあの女の為に
自分の命を捨てようとして、ほんの短い時間だけ自分は石田を手に入れたが、彼はその事を知らない…。
そんな中、かつてのバイト先の客の様な肥満体の中年男が、
こちらを見てズボン越しに股間を擦り上げていた。一瞬の甘美な思い出から、
鼻には吐瀉物の臭いと、口内には抜けた歯の穴から流れる血の味が満たす現実に引き戻される。
直花は吐き気と怒りを堪えて床を睨んだ。
数週間後、直花はある場所を訪ねた「あ、直花さん、お久しぶりです」と若干聞き取りにくい発音で返事が来た
「石田いるよね、出してよ」愛想無く直花は言った。
3杯目のローズヒップティーを持って座る。
「あの石田君と西宮さんだっけ、行方不明だって」
「西宮さんと結婚して同居してたけど、西宮さんのお父さんの家に放火して逃走中なんでしょ。」
「すごいよね、西宮さんのお母さんがやらせたんだってね」
「今は石田のお母さんが苦労しながらお店続けてるって、孫の
育てるお金を稼がないとね、あぁ、石田のお姉さんの子。ハーフの」
「で、直花、ボロボロで何ヶ月か前にこっちに戻ってきたよね」
「そういえば佐原さんと別れたっていうの、ね、あはっ」
「…あれだけ男にモテる直花が、なんで佐原さんと?一体なんだったのかな」
「うーん、わかんない。理容店に怒鳴り込んだらしいよ、で西宮さんを殴りつけたんだって
「うわー!最低じゃない?あの観覧車の動画もやっぱり直花なんだねぇ、普通あんな密室で殴る?」
「怖いよね、あれ色々言ってたけど、嫉妬だよね?」
「あれだけリア充だったのにね、もしかしてあの頃から石田君の事好きだったのかな
無いわ~」
「高3からいきなり付き合うメンバーも変わったし。だって、佐原さんとも友達っていうより、女王様と召使って感じでさ」
「あの映画に関わったメンバー全員気持ち悪いんだけど!」
「…まぁ、まぁね…。」
「それにあれだけいじめられたのに石田君と結婚する西宮さんも何だかね」
「う、うん。それでもみ合いになってるうちに、居合わせた西宮さんのお母さんが、
思いっきり付き飛ばした先にさ、カミソリがね」
「え、え、それ、うわ」
「そう!顔を…、かなりひどくて傷跡が…」
「もうやめてよ!!直花の親、ブチギレたんじゃない?」
「まぁね。でもあそこはお父さんだけだし、直花の弟妹もいるから世話で手一杯で、
その間に西宮さん達は引越したらしいよ。後さぁ、お父さん自分たちは被害者だって周囲に言っててさ、
まぁ被害者なんだけど。でもあの動画が出て批判的な書き込み続いて、
直花があんな目にあったのは自業自得って考える人も多くてね。家の玄関先に生ゴミまかれたり、
弟妹もかなりいじめられたみたい。ほら水門市から著名人が出たって話題から一転して。ま、今は島田とね」
「そうだ!島田もフランスに音楽留学したけど、戻ってきたよね。
人種差別とでっかい男に襲われて精神的に病んだって。川井さんが言ってた。
あぁ、ゲイね、男が好きな男に。たまに動画サイトで唄い手してるんだって」
「何それ?歌手?」
「そうじゃない?ネットに自分で自作の歌とかボカロ?か何かの歌を歌ってファンに見せるの
こないだ生放送中にお母さんが入ってきて、ノリノリで歌ってたのに、急にテンション落ちた後ブチギレてた」
「うわー、引く。でも島田の家お金持ちだし、直花の家は、ほら」
「あそこのお母さん、優しそうに見えるけど根はきついから、息子の金銭面もがっちり
握ってるはずって、うちの親が言ってた。あ!そういえば島田最近公園でたこ焼き屋やってるみたい」
「えぇ?」
忍び笑いが起きる。
「西宮さんはどうしてるんだろう」
「うーん色々噂はあるけど、どれも嘘くさい」
期間限定メニューのパンプキンパイを口に運びながら話し出す。
「西宮さん、放火したんでしょ」
「そうそう!三人縛られて焼死って、あれ元の旦那と旦那の両親でしょ」
「あの旦那、上の子が耳が聞こえないのを理由に一方的に離婚したんでしょ、鬼よね!!」
「しかも下の子が生まれてたのも知らなかったんでしょ~。
それに全員生きてる状態で火をつけられたんですって!肺まで煤けてたって、酷いことしちゃだめね、因果応報ね」
「怖すぎるわぁ」
「西宮さん、警察が家に来る寸前に遺書を残して逃走して二人の娘さんも連絡つかないんだって」
「上の娘さん、ええっと、硝子ちゃん?ろう学校に入れれば良かったのに」
「西宮さんが頑なに拒んだのよ、手話にも否定的だったし!ああいう人
一番困るのよ。まるでろう学校が甘えみたいじゃない!」
「苦労したのは気の毒だけど、娘達が可哀想だわぁ」
「ほんとよね~。そうだ、話変わるけど、そういえばあの若いお母さんの…、
あー、えーと、そう広瀬さんの旦那さん、うちのいとこの子が同級生なんだけど、
担任を車で轢いて逮捕だって。担任の竹内先生かな、両足複雑骨折だって
「え?!旦那さんは竹内先生の元教え子でしょ?信頼してたんじゃないの?」
「それが普通学級への入学は広瀬さんの奥さんがこだわっててねぇ、
でも竹内先生は、他の子に丸投げであまりちゃんと見てなかったみたい。
旦那さんは警察で『あいつは何にも変わってねぇ!』って怒ってるんだって。」
「竹内先生のお子さんもまだ小さいのにねぇ、ほら奥さんは同僚だった
喜多先生でしょ」
「怒って子供と実家に戻って、旦那の入院先の病院へは殆ど行ってないみたい」
「広瀬さんたちどうなるのかな?教え子だし」
「執行猶予とかつくのかな、でもまぁ危険人物よね全くもう、障害者の親は見栄はっちゃダメよ」
「ろう学校良いのにねぇ、あと普通の小学校は障害児の受け入れするなら、
児童に世話丸投げしないで大人がちゃんとしてほしいわね!何なのあの学校!
腹立って来たわ、ちょっと先生に連絡しないと!!」
主婦は友人と別れた後、障害者の人権向上を強く掲げる県議の事務所へ電話をかけた。
水門小の障害児教育に県から指導と見直しが入るのと、広瀬に懲役2年の判決が下されるのは翌月、
後遺症が残りつつも、教壇に復帰した竹内に喜多が離婚を切り出すのは半年後である。
カモミールティーを手に席に付く。
「何で佐原先輩があんな奴のご機嫌取ってたのか本当意味不明」
「あいつ先輩の事見下してたよねぇ、ムカつく!」
「結弦ちゃんが動画流してくれて良かったねぇ、親達が大騒ぎしてくれたおかげで、
あいつだけ学校の講演会来られなくなったから、佐原先輩の話がいっぱい聞けたし!
憎しみを無理やり昇華させようとするんじゃなくて、まずそれを認める事だって言ってたよね。
あれ絶対植野にされた事に言ってたんだよ」
「酷いよね、佐原先輩ずっと悩んでたんだよー!植野の奴よく登校拒否にまで追い込んだ相手と、
普通の顔して一緒に仕事してたよね、あいつやっぱり頭おかしい!」
「あの動画の投稿と同じ時期に、学校の裏サイトに「直ちゃんは、元々主犯の加害者だったけど改心した男子に
片思いしてて、彼が障害者を庇って高い所から落ちて意識不明で入院した時に、
朝から晩まで病室に籠城してました!誰にも入れない様にドアを押えてて、
いかがわしい事をしていたに違いありません!!」って、何言ってるかわかんない書き込みあったよね」
「その男子意識不明だったの?キスはし放題じゃん。もしかしたらやってたんじゃないの?キモー!植野変態じゃん!!てかよく周りは許したよね!!」
「でもあれ絶対書き込んだの身近な人間だよね、情報出しすぎ。植野すっごい嫌われようだね~。
まぁあそこまで異常なら仕方ないのかな、ぞわぞわする」
「その後結弦ちゃんに『直花さんは、無抵抗の姉を殴りつけ、母に何度も殴られましたが
母を車に押し付け怒鳴りつけてました』って書かれてたしね。
あんな可愛い顔してネコ耳つけて、メイドカフェでオタクに媚びてたと思ったら、
裏であんなキレまくってたんだね。耳の聞こえない結弦ちゃんのお姉さんと、
お母さんをぶん殴りまくったんでしょ、キチじゃん!」
「やだぁぁぁぁ!!佐原先輩はあいつに洗脳されてたんだよ、
あんまり酷い目に合わされると、恐怖でおかしくなって相手に従うって言うし」
「もー!あいつ死ねばいいのに!!…でもあいつがいなくなったお陰で、
エミが佐原先輩と一緒に働ける様になったし良かったのかなぁ」
「まぁねぇ、そこは嬉しいよ、そこは植野センパイに感謝かなぁ、あははは。これから頑張る!」
「うん、絶対応援するから!!」
可愛い女の子二人は、一気にお茶を飲み干し晴れやかな笑顔を浮かべた。
仕事がひと段落付き、佐原みよこはスマホを手に取った。
「岐阜県水門市の住宅で火災、女性一人が心肺停止状態」のニュースを読んだ後メールを開く。
『佐原さんお元気ですか。私は元気です。今は恩師の元で働いています。
私は今まで自分は人に迷惑をかけるだけなので、早くこの世から消えるべきと思っていました。
そして、怒りを持つべき相手にも卑屈に接して、却って彼らを悪い人間にしていました。
暴れる直花さんを直花さんを付き飛ばして、カミソリで顔を切り付けたのは私です
でも居合わせた母が自分がやった事にして逃げなさい、と執拗に言い張りました。
私は初めて母に抵抗して、数十発殴る蹴るしました。まるで今まで私をいじめた人達が乗り移ったかの様に
力が出ました。結弦は私の暴走を震えて涙を流して見ているだけでした。
まるで直花さんが私と母を殴った時の様に。その後母は腫れ上がった顔で
何とたどたどしい手話で「硝子、今までごめんなさい。私が間違っていたわ」と言い
「あんたたち3人で逃げなさい」とも言いました。
でも逃亡前にある事をやろうと私は母に持ちかけました。ちょうど外出中で居合わせなかった
石田君は最後まで反対していましたが、自分たちだけでやるから、あなたは聞かなかった事にしてくれと頼むと、
折れてくれました。
結弦があの家に道を聴くふりをして祖母に玄関を開けさせ、
石田君が逃げ惑う祖母の顔面を数発殴りつけ、失禁した祖母を縛り上げて、
後は待ち伏せして順番に戻ってきた祖父と父に同じことを繰り返しました。
父にはついでに私がペンで目を突き刺し抉り出しました。半狂乱で暴れる父を足蹴にすると、
後ろ向きに倒れ、頭を床にぶつけて動かなくなりました。母が灯油をまき、
ただ怯えていた結弦を私がビンタして火を付けさせ、逃げました。
遠くであの家が燃える様と臭いと
微かに聴こえるサイレンの音に私は胸がいっぱいになりました。あの家を燃やした後、母は首を吊りました。
石田君の事は初めて自分とまともに接してくれたから、恋しただけだと気づきました。
彼は改心して色々尽くしてくれましたが彼との事は汚点です。
だからすべてが終わった後に彼に自分の前から消えてください、
でないと私は自分から消えますとお願いしたら、放心状態で出ていきました
。私にどうこう言う資格は無いけど、直花さんといつか一緒になってくれれば。
あれだけ直花さんに愛されているのだし。
結弦もぼーっとしている事が多いので元気になってほしいです。』
佐原は静かにスマートフォンを置いた、そしてエミを抱きしめた
「わ、何ですか先輩!仕事中ですよ」
「エミちゃん、ありがとう」
エミは真っ赤になりながら、佐原を抱きしめ返した。
二人のブランドが海外のファッショニスタにも注目されるのはそう遠くない。
自宅から出ない島田直花が、紙に図案を描きだした。
ようやく立ち直ったかの様に見える妻に、島田も少し安心していた。
数回の手術をしても直花の傷跡は残った。以前より艶の失せた黒髪が辛うじて横顔を隠している
「直ちゃん、これ見て」義母が新聞を見せた。
『放火容疑で逃走中の容疑者、遺体で発見』
その記事に衝撃を受け、直花が自ら灯油を被って火を付けるのと、
島田一旗が実母への暴行の容疑者として逮捕されるのは翌日である。
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