君の名は・・・ (19)

君の名は。のSSです。
※ネタバレ含みますでの観賞前の方は注意です。
あとSS初投稿なので細かい点はご容赦を・・・



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「「君の名前は?」」

お互いが同時に同じことを、同じタイミングで発した。

「「あっ・・・」」

これもまた被ってしまう。
しばらく沈黙が流れた・・・気まずく恥ずかしく
だけど不思議と心地いい時間、その中で静寂を破ったのは
彼の声だった。

「瀧です・・・。俺、立花瀧って言います」

自信なさげに、だが目の前の彼女に絶対に届いて欲しい、
想いのこもった声だった。
そして彼女もそれに答える。

「瀧さん・・・。私、三葉って言います。宮水三葉」

瀧 side

時計の針は21時を指していた。
宮水さんに会ったあの後お互いに仕事があった為
連絡先を交換して別れることになった。

(初めましてまして・・・だよな?それなのになんで
俺は彼女を探していたって・・・そう思ったんだろう・・・)

瀧「うーん・・・分かんねぇ・・・」

ようやくの仕事終わりの帰宅、仕事中でも頭にいっぱいだった『宮水三葉』のことをベッドに横たわり
考える。依然理由はさっぱりと浮かんではこないのだが一つ思う事

瀧「でも、やっとまた会えた・・・そんな気が・・・するんだよな。」

ぽつりと独り言を呟きその日の疲れからか瀧は着替えも半端なままに床についた

三葉 side

「探していた人・・・なのかな?」

ベッドに腰掛けてスマホの画面を見つめる。
連絡先に映る名前は立花瀧、今日初めて会った、いや正確に言えば今日初めて会ったはずの人。
でもずっと心のどこかで探していた人。

(また今度会おうって言ってたけどなんて話せば・・・向こうも私を探していたみたいだけど
こんな変な話し・・・)

「うーーーーん!わからん!」

東京に来てからはからかわれたくないと思い封印してきた方言が思わず口に出た。
息を整えるために大きく深呼吸してそれからベッドに仰向けに倒れた。
もう一度スマホの画面に視線を移す。彼も同じことを考えているだろうか・・・
そう思いながら三葉は目を閉じた。

ー?ー

その夜夢を見た。彗星が流れている。
忘れもしない、あれは五年前に私の故郷に落ちた彗星だ。あの彗星の落下の影響で
私の故郷の半分は壊滅し、結果あそこに住むほどんどの人が移住することになった。
私も例外なくその一人だ。
でも違う。今この場所は故郷ではないとはっきり分かる。自分が立っているのは
どこかのビルの屋上で目の前に広がるビルの群れとそこかしこから発せられる光がそれを証明している。

(東京・・・なのかな?でもなんでこんな場所でこの景色を見てるんだろう・・・
私はあの時はまだ故郷にいたのに・・・)

体は自分の意思では動かないようで視線はずっと無数に割れた彗星を見続けている。

(綺麗だな・・・あんなことにならなければ私もこんな風に彗星を眺めてたのかな・・・)

ぼんやりとそう思っていると夢の中の自分が口を開いた。

「すげー・・・なんだこれ・・・」

心に思ったことが思わず漏れた、そんな声だった。そしてその声に三葉がハッとしたのと
夢が覚めるのは同時だった。

瀧 side

あの出会いから数日後、瀧は新宿のカフェにいた。

瀧「早過ぎたか?」

ちらっと時計に目をやる。三葉との約束の時間まではまだ30分ほど余裕がある。
今日は二人が連絡先を交換してから初めて会う日だ。

(何を話そうか・・・)

瀧は連絡先を交換しても直接こうして会うまでに電話などで互いの話をすることはなかった。
どちらかが言い出したわけでもない、お互い話すときは直接会って話したいそう思っているような
気がしたからだ。

(緊張・・・するな何だか・・・。つうか今更だけど俺って変な奴に思われてないよな?
でも向こうも泣いてたしきっと何か感じてたはず!・・・だよな?)

考えにふけっていると入り口から瀧の姿を探す三葉が見えた。瀧は、

瀧「みつっ!・・・あ、あの!こっちです!」

思わず三葉と呼びそうになった自分に瀧は焦りながらも三葉を呼んだ。

(いやいや何で俺呼び捨てで呼ぼうとしてんだよ!?)

顔に手をあてて自分の失態に反省する、そうしているうちに三葉が瀧のところまでやってきた。

三葉「こんにちは。あの・・・どうかしました?」

瀧の顔を覗き込むようにして三葉が声をかける。

瀧「いやっ!何でもないです!大丈夫です!うん!本当に!」

三葉の顔が近くにあったことに思わずドキッとしてまくしたてるように瀧は返した。

(びっくりしたー!俺顔赤くなってないよな?)

三葉に目をやると瀧の反応につられてなのか彼女も落ちかない様子である。

(・・・こんなんじゃダメだな。よし!頑張るぞ俺!)

瀧は自分に言い聞かせ、

「と、とりあえず座りましょうか?」

彼女と話がしたい、彼女のことをもっと知りたい、瀧はぎこちないが精一杯の笑顔でそれを伝えた。
その想いが伝わったのか、

三葉「ふふっ・・・はい、そうですね。私も立花さんのこと色々聞いてみたいです。」

口元に手をあててクスリと笑いながら彼女は言った。そんな彼女を見て瀧は自分の顔がもっと
赤くなったのが分かった。

三葉 side

カフェで話してから一時間が経とうとしている。
二人は自己紹介から始めてたくさんのことを話した。例えばお互いの仕事だとか
生まれ育った町のことだとか趣味だとかいろいろなことを。
瀧の話し方は一生懸命で時折空回りしてるんだけれども三葉はそんな彼の姿が可笑しく感じて
笑ってしまった。それを見て瀧は、

瀧「宮水さん、今笑うとこじゃないんですけど?」

そう言ってジト目で突っ込んでくる。そんな彼に、

三葉「あはは、ごめんごめん。」

謝りながらも瀧の反応が面白くってまた笑ってしまう。

瀧「全く・・・ちゃんと聞いてくださいよ。一生懸命話してるんですから。」

三葉「そうだね。ごめんね。」

瀧が拗ねた表情を見せたので謝る三葉。それを見て瀧は「冗談ですよ」と笑顔で言った。

(楽しいなぁ・・・さっきまでお互いのことなんて何も知らなかったはずなのに・・・)

三葉は瀧と話していてそう思った。きっと彼とならどんなことでも言い合える、彼といろんなことを
話すうちにそう思えた。しかし彼のことを知っていくうちに、話を聞いていくうちにところどころモヤモヤ
したものが出てくる。おそらくは瀧もそうなのだろう。自分が話していると時折何か考え込むような仕草を
見せるのだ。だから三葉はそのお互いの中にあるモヤモヤを取り除くために自分の中で引っかかっているものを
聞くことにした。

三葉「立花くん、聞きたいことあるんだけどいいかな?」

瀧「ん?なんですか?」

三葉「あのさ・・・変なこと言ってるかもしれないけど立花くんって呼び方・・・なんか変じゃない?」

三葉が引っかかっていること、それは二人の呼び方だった。
二人の間で『立花くん』、『宮水さん』その言葉が交わされるたびになんだか腑に落ちないものを感じてしまう。
それは瀧も同じだったようで、

瀧「あー・・・なんとなく分かりますそれ。俺も宮水さんっていうのなんだか言いづらかったっていうか
・・・さっきなんて思わず名前で呼びそうになっちゃたりして・・・ははっ。」

はにかみながら後ろ髪を手で触り俯き加減で彼はそう言った。

(名前で!?・・・でもやっぱりそうなんだ・・・じゃあ・・・)

三葉は照れ笑いする瀧に勇気を出して聞くことにした。

三葉「じゃあ、あの・・・今度から・・・立花くんのこと・・・」

瀧「はい?」

三葉「瀧くんって・・・呼んでもいいかな?」

恥ずかしさで最後の方は下を向いてしか言えなかったが三葉の思いは言葉になった。
そしてその言葉に対する瀧の返事を待った。
だが瀧からの返事は返ってこない。

(どうしよう・・・やっぱり馴れ馴れしいって思われたかな?)

瀧からの返事がないことが不安になり三葉が顔を上げるとそこには唖然とした顔で涙を流す瀧の顔があった。

三葉「瀧くん・・・泣いてるの?」

三葉がそう口にすると瀧はおもむろに手を挙げ自分の頬に伝う涙をぬぐった。
そこで初めて彼は自分が泣いてることに気づいたのか、

瀧「あれ?・・・何で俺泣いて・・・」

三葉は謝ろうと謝罪の言葉を口にしようとしたが瀧が遮った、

瀧「違うんです・・・いやな思いをしたとかそんなんじゃなくて・・・
宮水さんに瀧くんって呼んでもらえたときなんだか懐かしい気持ちになって・・・
そんでやっとそうやって呼んでもらえたって嬉しくなって・・・」

ポツリポツリと彼は言った。

三葉「そっか・・・良かった。」

間違いじゃないんだと思った。あの日彼を追いかけて急いで電車を降り、あの場所で会えたこと・・・
瀧が涙を流したこと、自分が瀧くんと呼んだ時に感じた胸の温もりが教えてくれた。

(瀧くんは私のことどう呼びたいんだろう・・・)

三葉は今度は自分を瀧がどう呼ぶのか気になった。

三葉「それで?瀧くんは私のことどう呼ぶのがしっくりくるの?」

言うと瀧は視線を逸らし頬を指で掻きながら答えた。

瀧「その・・・俺はですね。三葉・・・」

三葉「ん?」

瀧「だから・・・三葉・・・さんって呼びたいです」

三葉「三葉さん・・・か。」

なんだかさっきと比べてしっくりこない。かといってこれじゃないという風でも
ない、少し納得いかない気もするが三葉は、

三葉「そうしよっか。」

と笑って答えた。

(私も泣くかと思ったんだけどな・・・)

瀧 side

(会って二回目の人の前で泣くとか・・・)

三葉と別れた後、瀧は今日のことを思い出してうなだれた。

(でも・・・嬉しかったな。彼女が俺のことを瀧くんって呼んでくれたこと・・・
そうやって呼んでくれることをずっと待ってかのような気さえしたんだ)

瀧「・・・まぁでも、泣いちゃったのはカッコ悪かったよな・・・次会う時はかっこいいとこ見せたいな・・・。」

次に会うときの決意を胸に秘め、今日の思い出を振り返り瀧は家路へと歩く。
その記憶の中で瀧は帰り際に彼女にされた質問を思い出した。

三葉「瀧くん、五年前の彗星が降った日のこと覚えてる?」

5年前、ティアマト彗星と呼ばれる彗星が地球に接近した、マスコミでも大きく取り上げられ彗星の接近が近づくにつれ
それをニュースで見ない日はなかった。かくいう自分も興味はあり彗星が一番接近した日、ビルの屋上に上がって無数に世界に
世界に降り注ぐ流星を眺めていた。それはただひたすらに美しい光景だった。
ただその感想をそのまま彼女に伝えるわけにはいかない。
その彗星は彼女の住んでいた故郷に落ち、故郷の半分を消しとばしてしまったということを瀧は知っていた。

(あんまりこの話を広げるのは良くないよな)

瀧「いや、どうだったかな・・・話題にはなってたけどあんまり興味なかったから覚えてないかな」

三葉「そっかー・・・」

三葉はあてが外れたというような顔をしたが、

三葉「まぁいっか。じゃあまた会おうね、瀧くん。」

と、笑顔で手を振りながら去っていった。
なぜあの彗星について聞かれたのだろう・・・瀧には分からなかった。だが分からないといえば5年前、あの彗星や三葉の故郷に関して
調べ、一度はその場所にも赴いたことが自分には会った。何故そんな必死になってあの場所や彗星に関してのことを調べていたのかは思い出せないのだが
こうしてあの村出身の三葉と出会い彗星に関しての質問をされた今、何かが繋がってくるような予感がした。
自分があの村に関して調べていたことの意味が5年後の今、この出会いを通じて明らかになるのではないか、そう思った。

ー?ー

その夜夢を見た。
俺はどこかの山道を走っていた。頭上には無数に散らばる流星が見える。

(あのティアマト彗星だ、綺麗な景色だ・・・)

瀧はそう思った。
でもそんなのはお構いなしだと言わんばかりに体は休むことなく走り続けている。息遣いが聞こえる、苦しそうだ。
それは自分の口から、いや自分がその人を通じて聴いているんだと分かった。
彼女は山道を走り、階段をかけ、舗装された道路を走った。彼女がなぜここまで必死になって走っているのか、彼女の思いは瀧には
伝わってこなかったが彼女を無性に応援したくなった。

(頑張れ。きっとあと少しだ。)

だが道路のひび割れにつまづき彼女は転んでしまった。視界が揺れる。
痛みは感じないがこれほど派手に転んではもう起き上がれないのではないか・・・。
案の定、道路に転がったまま彼女は動かない。弱々しい息遣いが聞こえる・・・。

(もういいよ!ここまで頑張ったんだからいいじゃないか!)

これ以上彼女が傷つくのをもう見たくないと思い瀧は彼女に叫ぶ。声は届かない。
そのうち彼女は右手を目の前に出した。何をするつもりなのか瀧には最初分からなかったが開いた手のひらには
文字が書かれているのが見えた。『好きだ』。
彼女が泣いてるのがわかる。そして何か言葉を喋ったのだが夢はそこで不鮮明になりぼやけていってしまった・・・。

(あの文字って・・・)

三葉 side

あれから私たちは時間を見つけては二人であっていろんな話をした。
最初こそぎこちない会話ばっかりだったけれど今では馬鹿みたいな話までして二人で笑ったりしている。
そんなある日、瀧くんから切り出してきた話題はいつもとは違くて真剣さを伺わせるものだった。

瀧「あのさ、三葉さん。」

三葉「何?」

瀧「俺、今度一緒に行きたいところがあるんだけど」

三葉「えー・・・いくら新入社員で給料少なくても自分で旅費は出さなきゃだめだよ?」

真面目に話す瀧くんをからかってやろうと思い茶化して見せたのだがこの日の瀧くんは慌てることなく
真剣な表情で続けた。

瀧「違うんだ、そういうことじゃなくて・・・」

瀧くんはそこまで言うと言い淀んだ。

三葉「・・・どこに行きたいの?」

気になって聞いてみるとそれで決心したのか瀧くんは口を開いた。

瀧「三葉さんの故郷に行きたいんだ。」

そう言われて私は動揺した。

三葉「・・・瀧くん知ってるんでしょ?私の故郷にはもう誰もいないし何もないよ?」

瀧「いや、あるんだよ。あの日から今でも在り続けてる場所が。二人で行きたい場所が。」

私の目をまっすぐに見つめて彼は言った。こういう時の瀧くんはいつもの頼りない姿のせいもあってか数倍カッコよく見えてしまう。
でも・・・私の故郷か・・・。懐かしい場所、帰りたい場所ではもちろんあるけれどもあの彗星の被害を受けて
村は見るも無残な姿になっている。気乗りは正直しない・・・だけど、

三葉「うん、分かった!今度の休みに二人で行こっか!」

瀧「ありがとう・・・じゃあ今度の休みに。」

瀧くんはホッとしたように息をついた。
懐かしの故郷・・・今はもうあまり見たくない風景になってしまっているかもしれないけれど私は瀧くんを信じてみることにした。
瀧くんは何か考えていることがあるんだろう・・・、そしてその答えが私の故郷にある、それは私たちにとって大事なことなんだと瀧くんを
見て私は思ったんだ。

瀧 side

電車を乗り継ぎバスに乗りそれからタクシーに乗って目的地まで俺たちは移動した。
三葉さんが断ったらどうしようとこの話を切り出す時不安になったが彼女はついてきてくれた。
これは多分だけど俺ひとりであの場所へ行っても意味がない、ふたりで行くべき場所なんだ。

瀧「もう直ぐですね。」

三葉「うん・・・。」

タクシーの中で隣に座る三葉さんの手が自分の手を握る。震えている。
目の前で彗星の衝突を見たんだ、たとえ故郷でもそんな光景を見た場所にもう一度行くのは怖いよな・・・。
やっぱり・・・、

瀧「すいません宮水さん、やっぱり止めときましょうか?俺、宮水さんにそこまで無理して欲しくないです。」

彼女の手を強く握りそういった。しかし彼女は、

三葉「ううん、私は大丈夫。怖くないって言ったら嘘になるけどやっぱり私の故郷だから。」

にこりと自分に向かって三葉さんは微笑んだ。

三葉「それに、行きたい場所あるんでしょ?ここまで来たんだから行こうよ瀧くん。」

瀧「うん・・・。」

これ以上は何も言えないな・・・。こういう意志の強さに自分が惹かれているのが分かる。
タクシーは両方にそびえる木々の壁を抜けてついにあの景色を映し出した。
目の前に広がるのは輪っかのようにして繋がった二つの湖、そしてその周辺にはかつて人々が住んでいた跡、建物の残骸が見える。
彗星の被害を受けなかった場所もあることにはあるが目に入ってくるのは被害の跡ばかりだ・・・。
隣にいる三葉は何も言わずただじっとかつて自分が暮らして故郷の様子を眺めている。
じっと何も言わず俺は三葉の手を握り続けた。

三葉 side

私の故郷をタクシーは通り過ぎしばらく進んだところで止まった。
ここからは山道で歩いていかなければ進めない。瀧くんの目的地はこの先にあるようだ。
でもこの先って・・・、

三葉「瀧くん」

瀧「何ですか?」

三葉「この先が瀧くんの行きたい場所なの?」

瀧「そうですよ」

そうなんだ・・・。でもこの先には私たちのご先祖様の御神体しかないはずなんだけど・・・。
不思議に思って首を傾げている私に瀧くんは教えてくれた。

瀧「前に話したじゃないですか、俺が五年前ここにきたことがあるっていうこと。」

そうだ、前に話した時に瀧くんは教えてくれた。理由は思い出せないが友人とバイト先の先輩と一緒にここに来たことがあること。

瀧「その時俺はこの山の頂上に気がついたらいたんですよ。やっぱり理由は思い出せないですけど・・・。」

三葉「うん・・・。」

瀧「けど今なら分かる気がするんです。宮水さんと会ってお互いのこと知っていくうちに自分はここに
もう一度行かなくちゃいけないってそう思ったんです・・・。」

何か分かる気がする・・・でも確証はない・・・。少し自信なさ気に言った瀧くんだったがその言葉に不思議と私も
共感を覚えた。この先にあるものは知っている。だけどこの先にはそれ以外の何か・・・、はっきりとは
言えない何かがある・・・そんな予感がかすかにするのだ。だから行かなきゃ、まぁここまで来て今更帰るつもりもないけれど。
私は瀧くんの手を引っ張って、

三葉「行こう瀧くん、早くしないと日が暮れちゃうよー。」

元気に笑って見せた。少し戸惑っていたが瀧くんも私の元気につられて、

瀧「そうですね、行きましょう!」

と笑顔で返して二人は山の頂上への道を進み始めた。

……。

瀧 side

険しい山道を二人で登ること数時間ついに俺と三葉は頂上にたどり着いた。
眼前に広がる景色は壮大でタクシーから見たあの村の風景も今度は全体を一望できるように見える。
またここに来たんだ・・・。日はもう沈みかけていて夕暮れの赤が世界を包んでる。
だけど・・・、

瀧「ここに来れば何か分かると思ったんだけどな・・・。」

息を吐くようにそっと呟いた。
特別な場所だと感じる、だけどそれだけだ。俺と三葉を繋いでるものがここにあると思ったのに・・・。

三葉「瀧くん、何かわかった?」

瀧「いや・・・、結局俺の勘違いだったみたいです。」

自嘲気味に瀧は笑って言った。だが三葉は優しく微笑んで、

三葉「勘違いなんかじゃないよ。」

瀧「え?」

三葉「私も感じるから・・・、私も何かわかったわけじゃないけどこの場所が私たち二人にとって特別だって。
分からなくてもいいの・・・、こうやって私と瀧くんが同じこと考えてる・・・それだけで繋がりを感じられるんだから。」

・・・俺は後ろを見ていたのかもしれない。三葉の言葉を聞いて瀧は思った。
三葉はこれから先の二人を未来を見ていたのに俺はどこか二人の間に抜け落ちてしまっていたものを振り返っていたんだ。
それはやっぱり大切なものには違いないんだろうけどいつまでも探しつづけるわけにはいかない・・・前を向こう。

瀧「三葉さん」

三葉「何?」

瀧「今まで言葉にしてこなかったこと・・・大事な言葉があるんだ・・・。
俺と三葉さんの繋がりを感じるこの場所でちゃんと言いたいこと。」

三葉「うん。」

三葉は瀧の雰囲気から何を言うか感じ取ったのだろう。瀧の正面にまっすぐに立ち瀧の言葉を待っている。

瀧「あの日、ずっと探し続けていたあなたに出会えて良かった。」

三葉「うん・・・。」

瀧「名前を教えてくれた時、あなたの名前を知った時心が震えるのを感じた。」

三葉「うん・・・。」

瀧「一緒にいてただ話すだけですごく幸せになれる。」

三葉「うん・・・!」

肩を震わせ涙ぐむ三葉を抱きしめて瀧は続けた。

瀧「そんな貴女を、初めて会った時から、初めて会う前から好きでした。」

三葉「うん!私も・・・瀧くんのこと、初めて会う前から好きでした。」 

そして世界には夕暮れでもなく夜でも曖昧な時間が訪れた。

ーもう一度片割れ時でー

瀧の胸に顔を埋めていた三葉が言った、

三葉「そっかー・・・。」

瀧は黙ってそれを聞いている。

三葉「そっかー・・・。」

その声は徐々に涙声になっていくのが分かった。

三葉「そっかー・・・。私たち・・・もう一度会えたんやね・・・瀧くん。」

瀧「うん。」

瀧の胸に顔を埋め泣く三葉に瀧は微笑みながら短く返した。

瀧「話したいこと、たくさんあった気がするけどこうして思い出すと何話せばいいか困るな。」

三葉「そうやね。」

少し笑って三葉は言った。そして少しの沈黙の後、

三葉「やっぱりあれ何かな?私たちまたこうやって話してたこと忘れてしまうんかな?」

瀧「多分・・・。」

そう、この世界は夢みたいなものだ。覚めてしまえば思い出せない。二人だけが見ている夢。
だから夢が覚めるその前に、

瀧「俺、三葉のこと一生幸せにするから!」

三葉「うぇっ!?た、た、た、瀧くん!?急になんいいよるん!?」

瀧の突然のプロポーズに慌てる三葉、

瀧「あの頃からの今までの俺の気持ち・・・多分今しか伝えられないと思うから。」

三葉「・・・そっか、そうだよね・・・。じゃあ・・・その・・・よろしくお願いします。」

耳まで真っ赤にした三葉の返事に瀧は頷いて返した。
太陽はほぼ沈みかている、夢の終わりはもう近い。

瀧「じゃあ最後にさ、お互いこれから直して欲しいこと言っておくか。」

三葉「覚えとらんかもしれんのに?」

瀧「まぁ今しか言えないことだろうし。」

三葉「そうやね。」

瀧「じゃあまずは俺から。たまには方言でしゃべって欲しい。」

三葉「えー・・・せっかく馬鹿にされたくないから頑張ってたのに?」

瀧「お前の方言聞いてたらなんか懐かしい気持ちになれるから・・・。」

三葉「うーん・・・。まぁ二人っきりの時ぐらいならいいんかなぁ・・・。
じゃあ次は私、瀧くんは私のことをさん付けしない!敬語も禁止!」

瀧「えっ!?いやそれは・・・だって年上だし・・・確かに違和感はあるけどさ。」

三葉「ダメって言ったらダメ!敬語とかさん付けとか瀧くんに悪気はなくても距離を感じるんよ・・・だからダメ!」

瀧「分かったよ・・・。頑張ってみる。」

三葉「・・・もう直ぐだね。」

瀧「・・・だな。」

三葉「瀧くん、一生一緒にいてね。」

瀧「一生どころか来世でも一緒にいてやる。約束する。また君に会いに行くって。」

三葉「うん・・・じゃあ」

「「その時は」」

「「君の名前を。」」

 

終わり

君の縄。

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