嘘つき症候群の秋。(オリジナルリレーSS) (12)

オリジナル、地の文形式、即興リレーです

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「車出して」

 わたしを叩き起こした女は、悪びれもせずそういった。

「早くしてよ。こっちは病人よ?」
「……あー、はいはい」

 病人を自称する割に、顔色はいい。化粧をする余裕もある。
 ついでにいえば、わたしを叩き起こして冷たい目で見ることだってできている。

「なによ」
「元気だなぁって」
「私を疑うの?」
「滅相もない」

 疑う必要すらない。
 断言する。彼女は病人ですらない、いたって健康そのものであると。
 つまり彼女は、嘘つき症候群なのだ。

………

えっ、なぜ私があの時にたかしを突き放すようなことを言ったかって?
彼女とは私のこと。
そう、つまり彼女は嘘つき症候群なのだ。



「で、どこに向かえばいいの?」

 車のエンジンをかけながら、念の為に尋ねておく。

「病院に決まってるじゃない。病人なのよ」
「そうだったね」
「私を疑うの?」
「滅相もない」

 病院に向かってしばらく車を走らせる。
 交差点をひとつ、ふたつ。信号をみっつ、よっつ。
 この角を曲がって――

「車を停めて」
「どうしたの?」

 念の為に尋ねておく。

「治ったの。ここで降ろして」
「あー、はいはい」

 一応彼女に手を振ってみたが、見向きすらされなかった。

ああ、あの時と一緒だ。
人生で一番暑かったあの夏の日々と。

首もとに白いタオルを巻いた少女が手を合わせながら何かを見つめる。
頬を一筋の汗が流れるが少女は目を離さない。

見つめる先には全ての野球少年が一度は憧れる小さな丘がある。
その丘、たった一人が居座ることが許された甲子園球場のマウンド。
マウンドの主は彼女だった。

向かい合い彼女の球を受けるのは私。
キャッチャーマスクの隙間からスコアボードをちらりと見た。
9回裏ツーアウト満塁、一打逆転の場面。
バッターは9番打者。

抑える自信はあった、彼女がストレートさえ投げてくれれば。
今日と同じように私はヒラヒラと手を降りストレートのサインを出した。

だが彼女が投じたのはフォークだった。
彼女もまた今日と同じように私のサインに見向きもしなかったのだ。
結果、私たちの夏は終わった。


気づいたら私は彼女を刺し、自ら命を絶っていた。





………………5年後!!

私はあの後、病院に担ぎ込まれて奇跡的に一命を取り留めていた!!

「フッ……まさか私の方が本当の病人になるとはね……!」

私は”あの時”の後遺症で、ふと前触れもなく突然、いつでもどこでも眠ってしまう眠り病『ナルコレプシー』を患っていた!
お陰でしみったれた刑務所ではなく、病院でシャバに出るまで過ごすことになるんだけど、私自身、この病のせいでいつ寝てしまうか分かったものではない!だが、いつか必ずここを脱獄して自由の身になる!そして奴の墓にツバを吐きに行ってやるわ!


続く!!

「財前教授の総回診です」
私が病院のベッドの上で寝ていると廊下から声が聞こえた

その男、財前五郎は人の上に立つ男だ。
もっとも生まれが特別だったわけではない。


貧しいながらも奨学金を貰い猛勉強を重ね、ついには彼の努力は実を結び、
財前家の娘の婿養子となるほどの医師となった

まあこういうのってss速報向きじゃないよね
何がss速報向きなのかは知らんけど

>>5

「フラれたわね」
「うるさいよ」

 にゅっと。どこからか現れた黒猫がわたしを笑う。
 黒猫? 見た目はそうだ。中身はもっと別のものだけど。

「何時から見てたの」
「いう必要がある?」
「……いいや」

 最初から、だろう。この黒猫は覗き見が趣味だ。こいつに興味を持たれたらもうお終い。人生すべてを覗き見られるのだ。
 悪魔のようなやつだ。というか実際に悪魔なんだけど。

「それで、これからどうするのよ」
「べつにどうもしないけど」
「じゃあちょっと付き合いなさい。面白いもの見つけたのよ」
「……拒否権は?」
「暇なんでしょう? ならいいじゃない」

 ない、といわないだけマシか。
 暇なのは事実であるし、ここはひとつ悪魔の誘いに乗ってみるとしよう。
 間違いなく、ろくなことにならないだろうけど。


「このまま車を西に走らせなさい」

西?

「西の先に大きな門があるのよ」
「はいはい」

黒猫に言われるがまま、わたしはアクセルを踏む。
だんだんと街が遠ざかっていく。

「もっとよ。もっと速く」
「なんだか街から逃げているみたいだ」
「逃げるのは嫌い?」
「そういえば君も悪魔たちの戦禍から逃れてここに来たんだっけな」
「……無駄口を叩くならもっとスピードを出しなさい!」

どくん、とわたしの身体が揺れる。足が勝手にアクセルを踏み抜く、
悪魔め。また力を使ったな。
よっぽどわたしの言葉が癪に障ったらしい。しかしこの速度は――

「ふん、こわいの?」
「当たり前だよ。やめてくれ」
「街から遠ざかる速度が上がるほど、あなたは死に近づくのよ」
「何が言いたい?」
「さあね。ほら、もうすぐ門よ」

あれが、門……?

「何の入り口なんだ?」

念のために訪ねてみる。

「あるいは出口かもね」

黒猫のかたちをした悪魔が、にやりと笑った。

めちゃくちゃやん

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