西住みほ「三国志です!」 (173)

時は漢の建安5年。
義の将軍として知られる角谷杏は、中原を制した乱世の姦雄、地吹雪のカチューシャから逃れ、お供の武将の桃、柚子とともに荊州へと身を寄せておりました。


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――荊州・隆中村――
杏「いやー、やっと着いたねー」

桃「こんな辺鄙な場所に、本当にいるのでしょうか?」

柚子「蝶野教官から聞いた場所は、ここのはずだけど……」

桃「天才軍師、臥龍(がりょう)の西住みほ、か……」

杏「さあ、どーだか。ま、蝶野教官の言葉だし、来るだけの価値はあるでしょ」

柚子「でも、ほんとにのどかな場所ですね……」

やーってやる、やーってやる、やーってやるぜ~♪テクテク

柚子「子供が物騒な歌を歌いながら歩いてきますね」

杏「ちょうどよかった。あの子に聞いてみよっか。かーしまー、よろしくー」

桃「はい。……そこの少年、少し聞きたいことがある。この村に西住みほという人がいるはずなのだが、どこに住んでいるか知らないか?」

少年「みほさん?みほさんのおうちはねー、あっちだよ!」

桃「わかった、ありがとう。ところで、その歌は一体何なんだ?」

少年「これはねー、『ぼこのうた』だよ!みほさんが教えてくれたんだ!」

桃「そ、そうか。わかった。行っていいぞ」

いやなあいつをぼこぼこにー、けんかはうるものどうどうと~♪テクテク

柚子「物騒な歌ですね……」

杏「まー、西住ちゃんがここにいるってことは確かだったんだし、直接会って話してみようよ」

杏「というわけで、うちで軍師やってもらいたいんだけど」

みほ「え、えっと……」

桃(これが本当に、『得れば天下を取れる』とまで蝶野教官の言っていた臥龍・西住みほなのか?おどおどしていて覇気も全く感じられないぞ)

みほ「でも、私は戦争がいやで徐州から荊州に移ってきて……」

杏「そこをなんとかさー。うちの軍、軍師がいなくてホントに困ってるんだよね」

みほ「…………」

柚子「お願いです!わが大洗軍は、カチューシャ軍に負けてばっかりで……西住さんの力が必要なんです!」

桃「おい、柚子」

杏「まーまー、本当のことだしさ。戦うたびにボコボコにされちゃうんだよね」

みほ「ボコボコに……?」

杏「徐州では河嶋が騙されて城を奪われちゃうし、カチューシャと直接戦えばいいようにやられちゃうし、全然勝てなくってさ、もう毎回ボロボロだよー」

みほ「ボコボコで、ボロボロ……」

杏「ま、だから本当はこんなこと頼める立場じゃないんだけどね。でも、諦めるのは嫌だからさ、こうしてお願いしてるってわけ。だけど西住ちゃんが嫌だって
いうなら……」

みほ「あのっ!……私!……軍師、やります!」

杏・桃「!」

柚子「よかったー!」

杏「ありがとー、西住ちゃん。だけど、本当にいいの?」

みほ「はい。わざわざ自ら登用しに来てくれた会長の、打倒カチューシャさんの想いはよくわかりました。私もお手伝いさせていただきたいと思います。……そ
れに」

杏・桃・柚子「?」

みほ「軍師になれば、兵士の皆さんがボコボコになるところをすぐそばで見られるんですよね」ニコッ

杏・桃・柚子「…………」ゾクッ

――カチューシャ軍本拠地・許昌――

ノンナ「カチューシャ、起きてください」

カチューシャ「ふぇ……?なに、もう朝議の時間?」

ノンナ「いえ、ただいま間者から報告がありました。なんでも、大洗軍に軍師が仕官したとか」

カチューシャ「大洗……、ああ、あの弱っちいところね。ほっときなさい。どうせ後で南方には出兵するんだから、その時にまとめて踏みつぶしてあげるわ」

ノンナ「しかし、加わった軍師は『臥龍』と呼ばれる天才だとか」

カチューシャ「ふーん。そうね、力を見ておくのもいいかもしれないわ。こないだ傘下に加わったアンツィオの連中にでも攻めさせなさい」

ノンナ「了解しました、カチューシャ」

――大洗軍駐屯地・新野城――

みほ「華さん、こっちの書類の処理はこのようにお願いします。沙織さんは商人の人との交渉をお願い」

華「わかりました」

沙織「まかせてみぽりん!商人のおじさんとは仲良しなんだから!」

柚子「西住さん、バリバリ働いてくれてるね」

桃「ふん、あんな事務仕事、誰だってできるだろう。それよりも、あいつに軍師らしい仕事が本当にできるのか?聞けば、北方を平定したカチューシャが我々を
攻める準備を進めていると聞くぞ」

柚子「それは……やってみなくちゃわからないけど」

桃「あんなやつに軍を率いられるとは思えん。今まで通り、来たる戦では作戦は私が立てた作戦で……」

柚子「でも、桃ちゃんの作戦でこれまでうまくいかなかったから、西住さんに仕官してもらったんだよ?」

桃「ええい!桃ちゃんと呼ぶな!……とにかく、私はあいつを認めないからな!」

柚子「あっ、待ってよ桃ちゃん~」

みほ「はぁ……」

みほ(やっぱり、古参の河嶋先輩は私のことをよく思ってないみたい)

優花里「あっ、西住殿~!」

みほ「優花里さん」

優花里「今日のお仕事はもう終わりでありますか?」

みほ「はい。優花里さんも、訓練は終わったの?」

優花里「ええ!やっぱり騎馬隊は最高であります!西住殿も、気分転換に遠乗りなどはいかがですか?」

みほ「うーん、そうだね、たまにはいいかも……でも私、馬に乗るのはあまり上手くないし……」

優花里「心配いりません!それでしたら、西住殿はぜひ私の馬にお乗りください!」

みほ「じゃあ、ぜひお願いしようかな」

優花里「了解であります!」

ドタドタ

大洗兵「で、伝令!カチューシャ軍がこの城に迫っています!」

優花里「て、敵襲でありますか!?」

みほ「優花里さん、落ち着いて。それで、敵の数はわかりますか?」

大洗兵「はっ……その数、およそ2万とのこと!」

優花里「2万!?わが軍の4倍ですよ!」

みほ「優花里さん、軍議を開きます。すぐに皆さんを集めてください。私は先に、会長とお話しをしてきます」

優花里「かしこまりました!」

みほ(敵は圧倒的多数……だけど、うまく陽動すれば決して勝てないわけじゃない。でもそれには、河嶋先輩や小山先輩の協力が不可欠になる……)

桃「敵は2万だ。とにかくまともに戦ったのでは勝機はない。ここは一気に突撃し敵将を討ち取るしかない!」

柚子「えっと……籠城とか……」

みほ(違う……この戦力差でそれじゃ、どうしようもない。なら……)

みほ「あの、少しいいですか?」

桃「なんだ西住。私の作戦に文句でもあるのか?」

みほ「突撃は当然相手も想定しているはずです。それに、籠城したところでこの城じゃ守り切ることはできません」

桃「黙れ!それならお前が作戦を立ててみろ!もっとも、素直に私たちが従うつもりはないがな」

みほ(河嶋先輩なら、当然こう言い返してくるはず)

みほ「わかりました。私の立てた作戦を説明します。ですがその前に、これを見てください」スッ

柚子「それは……」

桃「会長の……」

優花里「干し芋であります!」

みほ「大洗軍において、この干し芋を持つものが指揮権を持つはずです。……この戦場では、私が指揮をとります」チラッ

杏「ま、そういうことだから。みんな、よろしく頼むよ」

桃「ぐぬぬ……、もし負けるようなことがあったら、覚えておけよ!」

みほ「はい。……そのときは、この身をもって責任を取ります。それでは、作戦の説明に移ります」

――アンツィオ軍・本陣――

アンチョビ「いいかお前ら!敵はしょせん小勢、我々のノリと勢いを十分に発揮すれば、大洗など軽く一ひねりだ!」

ペパロニ「お前ら、アンツィオの力をカチューシャに見せつけてやろうぜ!」

ワーワー! ドゥーチェ! ドゥーチェ!

アンチョビ(はあ……まさか傘下に加わって早々駆り出されるとはなあ……)

アンチョビ「よし、それでは……AVANTI!」

――大洗軍・本陣――
伝令「アンツィオ軍、前進を開始しました」

みほ「わかりました。それでは、各隊作戦通りにお願いします。PANZER VOR!」


アンツィオ兵「ペパロニ姐さん!敵将の居場所がわかったっす!」

ペパロニ「なにぃ!間違いないのか!?」

アンツィオ兵「はい!確かに『角谷』の旗を掲げてました!」

ペパロニ「よし!突撃だ!一気にケリをつけてやる!」

ワー! ワー! カチコミっス!


アンチョビ(ペパロニのやつ、命令も聞かずに飛び出しやがって……でも、敵将が見つかったなら、うまくすれば勝負を決められるな……)

アンチョビ「いいか!全軍ペパロニに続け!」

優花里(敵は西住殿の作戦通り、まっすぐこっちに向かってきています)

みほ『まず、会長の本陣をわざと前面に出し、囮にして敵をひきつけます』

優花里「騎馬隊前進、敵の側面から攻めて、勢いを削ぐであります!」

みほ『優花里さんは敵の先鋒に攻めかかって、怒らせながら勢いを削いでください』


ペパロニ「あーもう、うっとうしい!あの騎馬隊を先に潰すぞ!」

アンツィオ兵「それが、こっちが反撃しようとすると散らばって逃げて、うまく戦えないんです」

ペパロニ「あーもう、じゃあ敵の本陣を先に叩くぞ!お前らもっと気合い入れてついてこい!」

みほ「敵は作戦通り本陣に攻め込んできた。……沙織さんと華さんに合図を!」

華「西住さんからの合図です!」

沙織「オッケー、みんな、お願い!」

みほ『沙織さんと華さんは、持てるだけの旗を持って民兵の皆さんと本陣の周りに伏せ、合図で旗を立てて叫び声をあげてください』



ペパロニ「本陣に攻め込んでみりゃ……なんだよこれ、誰もいないじゃん……食い物とかは残ってるし、逃げ出したのか?ま、大漁、大漁っと」

アンツィオ兵「ペパロニ姐さん!大変です!周囲を敵に囲まれてます!」

ペパロニ「なにぃ!?」

ワー! ワー!

ペパロニ「旗の数と声の大きさからして、2万くらいはいやがるな……」

アンツィオ兵「どうします?後退してドゥーチェと合流しますか?」

ペパロニ「いや、せっかく奪った物資が勿体ない!姐さんに伝令を送れ!ここで防ぐぞ!」

アンチョビ「ペパロニが包囲された!?敵は5千くらいのはずだろ!?」

アンツィオ兵「それが、どう見ても2万ほどはいるとのことで……」

アンチョビ(罠か……?でも、後方から増援がきた可能性もある。もし本物の兵だったら……)

アンチョビ「……放っておけないな。全速前進!ペパロニと合流するぞ!」

ペパロニ「くそっ、周りの部隊を攻めようとすると騎馬隊が邪魔してきやがる……」

アンツィオ兵「姐さん!ドゥーチェの部隊が到着しました!」

アンチョビ「ペパロニ!大丈夫か!?」

ペパロニ「全然大丈夫っす!それより姐さん、大洗の奴ら、騎馬隊以外は弓を撃ってくるぐらいで、ほとんど動かないんすよ。ここは姐さんに任せて、蹴散らしてきていいっすか?」

アンチョビ「ほとんど動かない……そういえばお前、なんで後退して合流しようとしなかったんだ?」

ペパロニ「そりゃ、本陣に残されていた食い物とか持って後退するわけにもいかないですし……そうそう姐さん、大漁ですよ!」

アンチョビ(空っぽの本陣、大量の物資……)

アンチョビ「バカ!やっぱりここに全軍を誘い込む罠だ!早くここから離れるぞ!」

優花里「今です!火矢を放つであります!」

みほ『偽の本陣には物資と一緒に、よく燃えるものを大量に置いておきます。敵の全部隊を誘い込んだら、一気に火矢を射かけてください』

メラメラッ

アンチョビ「ほらやっぱり!焼け死ぬ前に早く逃げるぞ!」

ペパロニ「おまえら、とにかく逃げろ!」

優花里「逃がさないであります!」

ペパロニ「! ドゥーチェ、ここは任せて、早く逃げてください!」

アンチョビ「わかった!でも、絶対に死ぬなよ!」

ダッ

優花里「待つであります!」

ペパロニ「ドゥーチェのところには行かせるかよっ!」

ゴォォ

みほ(煙……優花里さん、うまくいったんだ)

みほ「敵は退却を始めました!河嶋先輩、小山先輩に合図を!」

みほ『ここまでがうまくいっていれば、敵はいったん後退して体勢を立て直そうとするはずです。伏せておいた河嶋先輩と小山先輩の部隊で敵を蹴散らしてください』


桃「大洗軍広報、河嶋桃。行くぞっ!」

柚子「大洗軍副会長、小山柚子、行きます!」

アンチョビ「ひぇぇ~!」

優花里(こうして、西住殿の作戦によりカチューシャ軍の侵攻を防ぐことができたのであります)

優花里(惜しくも敵将こそ逃がしてしまいましたが、4倍の敵を壊滅にまで追い込んだということで河嶋先輩も西住殿を軍師として認めました)

優花里(ただ、戦場後に赴いたり、野戦病院を訪れてなんとも幸せそうな表情を浮かべる西住殿に皆さん若干引き気味でしたが)

みほ「はい、包帯巻き終わったよ!」

優花里「ありがとうございます!でも、こんなにたくさん巻くことはなかったのですが……」

みほ「ダメだよ、治療はちゃんとしないと。うん、これで優花里さんもボコとおそろいだねっ!」ニコッ

優花里「///そ、それにしても、今回の勝利は西住殿のおかげであります!4倍の敵に勝ってしまうとは、まさしく大金星でありますな!」

みほ「……ううん、この勝利は、私を信じて最初から指示に従ってくれた優花里さんと、私に指揮権を委ねてくれた会長のおかげだよ。……優花里さん、本当に
ありがとう。これからもよろしくね」

優花里「西住どのぉ……私秋山優花里、西住殿に一生付いていきます!」

――カチューシャ軍本拠地・許昌――

カチューシャ「で?5千の敵に負けておめおめと逃げ帰ってきたわけ?」

アンチョビ「…………」

カチューシャ「ま、いいわ。このカチューシャ様の心はシベリア平原のように広いの。今回だけは許してあげる。行きなさい」

アンチョビ「…………」ペコリ

ノンナ「よかったのですか?特に処罰を与えずに赦してしまって」

カチューシャ「ええ。アンツィオ軍には甘さがありすぎたわ。今回の敗戦でそれが少しはわかったでしょう。……それにね」

ノンナ「間近に迫る南征のために禍根を残しておくわけにはいかない」

カチューシャ「ええ、そうよ。……見てなさい、20万の兵力を動員して、偉大なるカチューシャ戦術でまだカチューシャに逆らう愚か者たちを残らず粛清してやるんだから。ノンナ、準備を進めておくのよ」

ノンナ「カチューシャの御心のままに」

ペパロニ「アンチョビ姐さん」

アンチョビ「ペパロニか……世話をかけたな。怪我は大丈夫か?」

ペパロニ「ええ!こんなもんへっちゃらっす!……あいたたた!」

アンチョビ「おい!大丈夫か!」

ペパロニ「ほ、ホントに大丈夫っすよ」

アンチョビ「そうか……なあ、ペパロニ、本当にすまなかった。今回の敗北の原因は、私の判断ミスだ」

ペパロニ「…………」

アンチョビ「私が大洗軍の作戦に気付いていれば、こんなことには……」

ペパロニ「仲間を助けに行くのが、『判断ミス』っすか?」

アンチョビ「それは……」

ペパロニ「たしかにあれは罠でした。でも、そうじゃなかったかもしれない。だったら一目散に駆けつけるのが『アンツィオ流』っす!」

アンチョビ「…………」

ペパロニ「姐さん、もし同じようなことがあっても、姐さんは絶対に守ってみせます。………だから、迷わず助けに行ってください。そんな姐さんだから、みん
な付いていくんすから」

アンチョビ「……ありがとうな、ペパロニ」

みほ「次回 ガールズ&パンツァー『ぞろぞろ作戦です!』」

以上です。
続きがあればまた後で。

乙です
更新待ってます

司馬懿はエリカかな?

それは司馬懿に失礼だ

北方三国志の司馬懿ならエリカにぴったりかもしれん

乙です
てっきり諸葛瑾しほ・諸葛亮まほ・諸葛均みほかと思った

次の更新は本日の21時からを予定しています。

待ってる

予告通り21時より投下します。

時は漢の建安5年。

中原を制した乱世の姦雄、地吹雪のカチューシャの野望を阻むために戦う義の将、角谷杏。彼女に仕官した『臥龍』西住みほは、初陣で四倍の敵を破る大勝利を収め、諸将からの信頼を勝ち取ったのでした。

『ぞろぞろ作戦です!』

――カチューシャ軍本拠地・許昌――

ワー! ワー! カチューシャ、ウラー!

ノンナ「さすがに、20万の大軍ともなると壮観ですね」

クラーラ「ええ。兵站を維持する身としてはたまったものではありませんが」

ノンナ「そのような苦労も、これで最後です」

クラーラ「ふふっ。そうだといいのですけれど」

カチューシャ「親愛なる同志諸君! 諸君らの働きで北方の異民族は平定されたわ!残す敵は江東、荊州のみよ! 今こそ、カチューシャに逆らう愚か者たちを粛清するための最後の戦い、南方征伐を開始することを宣言するわ!ウラー!」

ノンナ・クラーラ・カチューシャ兵「ウラー!」

――大洗軍駐屯地・新野城――

桃「……その情報に、間違いはないのか」

みほ「はい。……確かな情報です」

杏「ヤバいとは聞いていたけど、まっさかあのおケイが、このタイミングでぽっくりと死んじゃうとはね」

みほ「はい……」

杏「そのうえ跡継ぎの大野ちゃんは、外戚のアリサの傀儡状態、そんでアリサは降伏派、ときた」

柚子「最悪の場合、わが軍以外の荊州が丸々降伏してしまうということですね……」

杏「まっ、今はそんな心配をしても仕方ないか!まずは目の前のカチューシャ軍を迎え撃つ備えをしないとね」

みほ「は、はい!すでに作戦はある程度考えてあります!」

桃「そうか。……では、我々は兵の訓練へ戻るとしよう。会長、失礼します」

杏「んじゃね~」

みほ「…………」

杏「さて、西住ちゃん。話っていったい何さ?」

みほ「……会長、荊州はおそらく降伏してしまいます」

杏「ま、そうだろうね」

みほ「荊州が降伏すれば、私たちは前後から挟撃されることになります」

杏「その通り」

みほ「今なら、まだ間に合います。会長、荊州を奪ってください。策なら私が考えます」

杏「……やーっぱ、そのことかぁ。何度も言ったでしょ、西住ちゃん。大洗軍は、義に背くようなことはできない、ってさ」

みほ「義を通さなくてはならないケイさんは、もういません」

杏「それでも、だよ。おケイは大洗軍を受け入れて、この新野っていう城まで預けてくれた。だから、大洗軍が荊州に弓を向けることはできない」

みほ「……わかりました」

杏「ごめんね、西住ちゃん。だけど、これだけは曲げられないんだ。ここを曲げたら、大洗軍は大洗軍でなくなっちゃう」

みほ「……失礼します」ガタッ

杏「……あーあ、因果なもんだねぇ……」

~数日後~

――大洗軍・本陣――

みほ「敵の先鋒は、西さんです」

優花里「西殿でありますか。となると当然……」

杏「まっ、突撃だろうね」

みほ「はい。……ですが、真っ向から立ち向かう必要はありません。いったん勢いを止めてから、この間と同じように策を使って打ち破りましょう」

桃「策?どんな策だ」

みほ「この城を、焼きます」

桃・柚子・優花里「!」

みほ「住民の皆さんにはすでに避難してもらいました。今の新野城はすでに空き家状態です。西さんなら、当然この城を奪うはずです」

杏「んで、そこに火を放って一網打尽、ってわけね」

みほ「はい。ですが、今回はそれだけではありません」

柚子「まだ何か策があるの?」

みほ「はい。三方から攻めかかれば、敵は残る一方に逃げるはずです。ですので、西さんたちの逃げる方向を川の方に誘導して、渡ろうとしたところで堤を切って水攻めにします」ニコッ

優花里「おお!水攻めでありますか!その役目、ぜひ私にお任せください!」

沙織・華「…………………」

桃「待て。ここでこの城を焼いてしまったら、カチューシャ軍の後続はどう対処するんだ?城がなくては到底戦えないぞ」

みほ「ええ。……ですので、先鋒を追い払って時間を稼いだ後、この城を捨てて南下、江陵へと撤退します」

柚子「なるほど、江陵なら食料や武器の貯えもありますし、カチューシャ軍を迎え撃つことができるかもしれませんね!」

みほ「はい。大野さんやアリサさんがどうするのかはまだ分かりませんが、それでしばらくはしのげるはずです」

杏「んじゃ、それでいこっか」

みほ「ではみなさん、それぞれ配置へとお願いします。PANZER VOR!」

――カチューシャ軍先鋒・本陣――

絹代「なに!?敵の城ががら空きだと!?」

福田「はい!そのとおりです!」

絹代(敵の軍師、西住みほ殿は四倍の兵を打ち破ったという……やはり、罠だろうか?)

玉田「敵は我らに恐れをなしたに違いありません!」

細見「すでに逃げたというのなら、ここはやはり、西隊長!」

絹代(いや、しかし……、うーむ……、だが……)

福田・玉田・細見「突撃ですね!?」

絹代「……えっ?ああ、うん」

福田・玉田・細見「全軍突撃ぃぃぃ!」

杏「ありゃー、やっぱ突撃かぁ」

みほ「……はい」

杏「どったの西住ちゃん。策がうまくいってるっていうのに、暗い顔しちゃって」

みほ「会長、新野を焼くという手しか思い浮かばなくて、申し訳ありません」

杏「ああ、なーんだ、そんなことかぁ」

みほ「そんなこと……って」

杏「確かに、領民の家も含めて焼いちゃうのは、ひどいことかもしれない。だけど、もし籠城戦をやろうとしたらもっと多くの被害が出るし、この方法なら、うちの軍がいなくなれば、領民は戦いに巻き込まれないで済む。結果的に一番被害の出ない方法を選んでくれたんでしょ?お礼を言いたいくらいだよ」

みほ「そんな……、お礼だなんて」

杏「ま、久しぶりにしばらく腰を落ち着けられたあそこを焼いちゃうのはちょっと寂しいけどね。おっ、敵さんが城に入り切ったみたいだね」

みほ「……はい。河嶋先輩と小山先輩に合図を送ります」

メラメラッ

絹代「ああっ!?やっぱり罠だったのか!?」

玉田「城に誘い込まれ、火攻めにあってしまった!」

細見「周囲は火の海、かくなる上は」

玉田・細見「全軍玉砕!」

絹代「いや駄目、それは駄目だ!……ええと、全軍、囲みの薄い北側に向かって、突撃ぃ!」

ワー! ワー!

優花里(よし、敵は作戦通りこっちの方に逃げてきました……あとは、ちょうど川に差し掛かった頃を見計らって……)

優花里「今です、堤を破ってください!」

ドドドドド……

ワー! ナガサレルー!

絹代「ぜ、全軍、何か浮くものに掴まって対岸に突撃するんだ!」

優花里「ふう……これで、しばらくは時間が稼げたでしょう」

桃「西住、我々の準備は完了した。いつでも出発できるぞ」

優花里「周囲に敵影なし、であります」

みほ「二人とも、ありがとうございます。それでは、江陵に向かって……」

沙織「みぽりーん!ちょっと待って!大変なの!」

みほ「沙織さん?どうしたの?いったい何が……?」

沙織「それが……領民のみんなが、会長についていくって聞かないの!」

みほ「……わかった。沙織さん。とにかく、会長に話してみよう」

みほ「領民の皆さんは置いていきましょう」

杏「……駄目だよ西住ちゃん。連れてくしかない」

みほ「そんな!足の遅い子供や女の人を連れて、カチューシャ軍から逃げ切ることはできません」

杏「わかってる。けど、そこまでカチューシャを嫌ってる人たちをここに置いてったら、きっと酷いことになる。それがわかっていて、見捨てることはできない」

みほ「っ!それは……でも」

杏「甘すぎる、って思うでしょ?それも、わかってる。でも、そこを曲げることだけは絶対にできないんだ。もう一度、お願い。助けてほしい」

みほ「……領民の皆さんを我々の前に出して、カチューシャ軍から守ります」

杏「……うん」

みほ「それと、小山先輩には別動隊と領民の一部を率いて、水路で江夏に向かってもらいます」

杏「江夏?……ああ、丸山ちゃんか」

みほ「はい。丸山さんなら領民を引き受けてくれるでしょうし、援軍を送ってくれるはずです」

杏「わかった。それじゃ西住ちゃん。よろしく、任せたよ」

沙織「みんな、気を付けて進んで!」

華「ご老人や体の悪い方は、周囲の人が手助けをしていただくようお願いいたします」

ガヤガヤ ガヤガヤ

桃「全く進まんじゃないか!どうなっているんだ!」

優花里「仕方ありませんよ、馬もない領民の人たちなんですから」

みほ(やっぱり、このペースだと絶対に追い付かれる。でも、会長がこの人たちを置いていくことを望まない以上、こうするしかない)

――カチューシャ軍・本陣――

カチューシャ「ええっ!先鋒が撃破されたの!?」

ノンナ「はい。またしても敵の軍師にしてやられたようです。おそらく、予定の進行速度に、数日の遅れが生じるかと」

カチューシャ「それじゃ、大洗軍を二重包囲して殲滅する作戦が台無しじゃない!当然、もう逃げちゃったんでしょ!?」

ノンナ「いえ。大洗軍は新野の領民を連れて退却しているようです」

カチューシャ「領民を!?……そう、舐められたものね。全速で追撃しなさい」

ノンナ「大洗軍に攻撃をかければ、連れている領民を巻き込むことになりますが」

カチューシャ「構わないわ。そうまでしてカチューシャから逃げた奴らなんて、粛清してやりなさい」

ノンナ「……はい。カチューシャの御心のままに」

みほ(あれから数日、私たちは全力で南へと進みました)

みほ(しかし、領民の皆さんの後ろを進む私たちの歩みは遅く、対してカチューシャ軍は全力で追撃をかけてきました)

みほ(そしてついにここ、長坂で追いつかれてしまったのです)

ダージリン「ごきげんよう、大洗軍の皆さん。……降伏してくださいません?」

みほ「聖グロリアーナ軍……」

桃「ふざけるな!誰が降伏なんてするか!」

ダージリン「あら、そう。ところで、あなたたちが目指しているのは南方の江陵なのでしょう?」

みほ「……ええ、そうです」

ダージリン「それは残念ね。江陵だったら、つい先ほどわが軍の別動隊が落としてしまったと知らせが来たわ」



――荊州・江陵――

ローズヒップ「来ましたでございますのよ!」



桃「……っ!それがどうした!まだその後ろの襄陽には大野の荊州軍がいる!」

ダージリン「そういえば、襄陽のアリサさんからもお手紙が届いてますのよ?」ヒラッ



――荊州・襄陽――

あや(会長に何も言わずに降伏しちゃったけど、いいのかな……)

アリサ「どうせ大洗軍じゃカチューシャ軍には勝てないんだから、いいのよ!」



みほ「……そんな」

ダージリン「……私たちも強行軍で疲れているの。明日まで攻撃を待って差し上げるわ。一晩ゆっくり話し合うことね。それでは大洗軍の皆さん、よい夢を」

――大洗軍・本陣――

桃「降伏など、絶対にありえん!」

沙織「でも、このまま戦えば領民のみんなにも被害が……」

桃「望んでついてきたんだ!ある程度の犠牲は覚悟しているだろう!」

優花里「……西住殿は、どうお考えですか?」

みほ「わ、私は……少なくとも相手が聖グロリアーナなら、おとなしく降伏すればそう酷いことにはならないと思いますけど……」

杏「降伏は、しない」

みほ「会長?」

杏「確かに大洗軍は、後々の歴史から見れば、カチューシャの統一を邪魔している悪者なのかもしれない。でも、カチューシャがこのまま統一してできる国っていうには、今こうしてついてきてくれてる皆の居場所はないんだと思う。だから、カチューシャに統一させちゃいけないんだ。負けてカチューシャから逃げるのはいい。だけど、屈することだけは絶対にできない」

みほ「…………」

杏「それをしたら、カチューシャにはもう勝てなくなるから」

みほ「…………わかりました」

杏「西住ちゃん?」

みほ「江陵も襄陽も、もうカチューシャ軍の手に落ちました。ですが、丸山さんのいる江夏は、まだ無事だと思います。進路を変更して、江夏へと向かうことにしましょう」

優花里「おお!確かに江夏なら、まだルート変更は間に合いますね!」

みほ「はい。私はルートを改めて考え直します。幸い、明日の朝までにはまだ時間もありますし……」

ワー! ワー!

華「なんでしょう?領民の皆さんの喧嘩でしょうか?」

ワー! ワー! メラメラッ!

優花里「違います!これは……敵襲です!」

沙織「そんな!朝まで待ってくれるんじゃなかったの!?」



――聖グロリアーナ軍・本陣――

ダージリン「戦争と恋愛では手段を選ばないの、私たちは」

オレンジペコ「……でも、本当にいいんでしょうか」

ダージリン「私は『明日まで』と言っただけで、『朝まで』なんて言ってないわ。それに、『攻撃を待つ』とは言ったけど、『部隊の移動もしない』なんて言ってないもの」

オレンジペコ「…………」

みほ(うかつだった……ダージリンさんがこういう手に出ることを想定していなかった私のミスだ……)

桃「ええい!敵がかなり浸透してきているぞ!」

優花里「西住殿!ここは私が防ぎます!早くお逃げください!」

みほ「優花里さん!」

みほ(どうしよう……真っ暗で、どっちに逃げれば安全なのか全然わからない……)

沙織「みぽりん!こっち!」グイッ

みほ「沙織さん!」タッ

優花里「西住殿ぉ!どこでありますかぁ!」

優花里(聖グロリアーナ軍の奇襲から数時間が立ち、私は数騎の騎兵と一緒に、西住殿を探して戦場を駆け回っていました)

優花里「西住殿ぉ!」

優花里(周囲は浸透した聖グロ兵と、逃げる避難民の人たちでひどい有様です)

沙織「ゆかりーん!」

優花里「武部殿!よかった!無事だったんですね!」

沙織「うん!だけど、みぽりんとはぐれちゃって……」

優花里「西住殿と!?武部殿、どの辺りだかわかりますか!?」

沙織「……ええと、確か、井戸の近くだったから、あっちの方だと思う」

優花里「わかりました。武部殿は私の部下と一緒に逃げてください。河嶋先輩がしんがりを務めているそうです」

沙織「ゆかりん、一人で助けに行く気!?だって、あっちの方は聖グロ兵でいっぱいだよ!?」

優花里「私は一人で大丈夫です。それに……、『一生付いていく』と決めましたので」

沙織「ゆかりん……」

優花里「そんな顔しないでくださいよぉ、私、死ぬつもりなんて全くないですよ?」

沙織「……わかった。お願い。絶対に、みぽりんと二人で生きて帰ってきて」

優花里「了解であります!武部殿も、どうかお気を付けて!」

優花里「西住殿ぉ!」

聖グロ兵「バカめ、単騎で突っ込んでくるとは!」

優花里「西住殿ぉ!」ドカッ

聖グロ兵「ええい、矢を射かけろ!」

優花里「西住殿ぉ!」

聖グロ兵「何っ!槍で防ぎ切っただと!?」

優花里「西住殿ぉ!」

優花里(見つけました!あれが武部殿の言っていた井戸ですね!)

優花里「西住殿ぉぉぉ!」

みほ「優花里……さん?」

優花里「はい!不肖秋山優花里、西住殿のもとに馳せ参じました!さあ、早く私の馬にお乗りください!」グイッ

みほ「そんな!いくら優花里さんでも、私を乗せてこの中から逃げられるわけ……!」

優花里「西住殿!今は作戦も戦略も必要ありません!……どうか、しっかりと掴まっていてください!」

みほ「…………」

優花里(体に回された手、密着する西住殿の肉体……。ああ、こんな時だというのに!)

優花里「ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!」

――聖グロ軍・本陣――

ダージリン「そう。まだ敵将は捕捉できていないのね」

アッサム「申し訳ありません、ダージリン。データに基づいて、敵将角谷杏のいる可能性の高い場所に優先的に兵を送ったのですが」

ダージリン「アッサムのデータ戦法も、うまくいかないことがあるということね。まあ、いいわ。あまりあっさりと終わってしまっては、つまらないでしょう?」

アッサム「……それはこの戦いが、ということですか?それとも……乱世が、ということですか?」

ダージリン「ご想像にお任せするわ」

優花里「西住殿!また敵陣を駆け抜けます!しっかり掴まってください!」

みほ「は、はい!」

優花里「いけます!この調子なら、味方のところまでたどり着くことが……」

ガキィン!

優花里「……!」

ペパロニ「……!ちぇっ、外しちまったか」

優花里「アンツィオの……!」

ペパロニ「ペパロニ、だ!あん時の借り、返させてもらうぜ!」

優花里「くっ……!」

桃「会長!」

杏「あはは……、かーしまだ」

桃「会長、よくぞ御無事で!」

杏「まー、何とかね。……皆、無事に逃げられたかな?」

桃「先ほど秋山の部下に連れられ、武部がこちらに来ました。五十鈴も無事が確認できています。……ただ、西住が敵中で孤立、秋山が単騎でそれを助けに向かったそうです」

杏「……そっか。また皆には迷惑かけちゃったね」

桃「会長はそのようなことをお気になさらないでください。……さあ、この橋をお渡りください。そうすれば一応は安全圏です」

杏「わかった。かーしまは?」

桃「私はここでしんがりを務めます。ご安心を。私がここにいる限り、敵兵は一兵たりとも橋を渡らせはしません」

杏「……よろしく。西住ちゃんと秋山ちゃんを出迎えてあげて」

桃「かしこまりました。それでは、どうぞお気を付けて……さあ、カチューシャ軍の雑兵どもめ!わが名は大洗軍広報、河嶋桃!この橋を渡りたければ、死ぬ覚悟のできたやつからかかってこい!」

ペパロニ「そらあっ!」

優花里「くっ……!」

ペパロニ「こんなもんかよ!後ろのそいつがいなけりゃ、もっと戦えるだろ!」

みほ「優花里さん、私を置いて逃げて!優花里さん一人なら逃げ切れるはず!」

優花里「それは……できません。西住殿を助けるためだから、西住殿が後ろにいてくれるから、ここまで戦えたんです」

ペパロニ「おりゃあっ!」

ガキイン! グラッ……

ペパロニ「もらったぁ!」

みほ「優花里さん!」

ペパロニ(なっ!こいつ、もじゃもじゃ頭を庇って……ちっ)

みほ「……あれっ?」

ペパロニ「やめた、やめやめ」

優花里「どういうつもりでありますか?」

ペパロニ「いや、なんつーの?急に冷めたっつーか、気が乗らなくなったっつーか、ここでお前を倒して、ドゥーチェが喜んでくれるかなー、とか考えたら、なんかさー……ま、そういうことだから、ケリは次に会った時につけようぜ」

優花里「……承知したであります」

みほ「あ、あのっ、ペパロニさん」

ペパロニ「ん?」

みほ「あ、ありがとうございます!」

ペパロニ「……敵にお礼なんか言うもんじゃないよ、カノジョ。じゃ、arrivederci♪」ヒラヒラ

みほ「優花里さん、あれ!」

優花里「おお!河嶋先輩であります!」

桃「西住!秋山!」

優花里「秋山優花里、西住殿をお連れして、ただいま帰還いたしました!」

桃「うむ!ご苦労だったな。さあ、早くこの橋を渡れ」

みほ「河嶋先輩は?」

桃「お前たちが渡り終えた後、橋を落とす。それでしばらくは時間が稼げるだろう」

みほ「わかりました。ご武運を」

桃「ああ」

優花里「西住殿ぉ、もう朝ですねぇ」

みほ「うん、そうだね……なんだか、すごく長い夜だったよ」

優花里「見てください!朝日が漢水に反射して……すごく眩しいです」

みほ「うん……あれ、なにかが近づいてきてる?」

オーイ! モモチャーン!

優花里「小山先輩であります!」

柚子「会長!西住さーん!助けにきたよー!」

紗季「…………」

――聖グロ軍・本陣――

オレンジペコ「ダージリン様。江夏からの援軍が到着したようです」

アッサム「こちらに水軍はありませんが、どうなさいますか?再び攻撃に移れば、ある程度の戦果も期待できますが」

ダージリン「そうねえ……やめておきましょう。無理押しは趣味じゃないわ。それに、こんな言葉を知ってる?『戦いは五分の勝利をもって上となす』」

オレンジペコ「……武田信玄ですね」

ダージリン「私たちはすでに江陵を落とし、ケイが蓄えた物資を手に入れたわ。これ以上を求めるのは……優雅ではないもの」

アッサム「荊州軍が降伏したことで、水軍も手に入りました」

ダージリン「ええ。……となれば、この出兵は止まらないわね。このままの勢いで江東まで攻めることでしょう。『最後の戦い』、どのような結末を迎えるのかしらね」

――大洗軍新駐屯地・夏口――

杏「いやー、今回もなんとか、逃げ切ることができたねー」

みほ「はい。しかし、カチューシャ軍は荊州の水軍までも掌中に収めました。ここもいずれ攻め込まれてしまいます」

杏「まぁ、大洗軍がここにいる以上はね。じゃー軍師様、次にうちの軍は、どんな戦略をとったらいいかな?」

みほ「……船の中で考えていました。やはり、とるべき戦略は一つしかありません」

杏「やっぱりそうだろうね。せーの、で言ってみよっか。せーの」

みほ・杏「「江東との同盟」」

桃「会長。江東より使者が来ました。会長と……西住に会いたがっています」

杏「そらきた。向こうだって、猫の手も借りたい状態だろうからね。行こうか、西住ちゃん」

みほ「はい。会長」

――江東軍本拠地・紫桑(さいそう)――

まほ「……よくここまで仕上げた。見事なものね」

エリカ「お褒めにあずかり、光栄です。隊長」

まほ「これだけの水軍は、天下にこれ一つだけでしょうね……江東水軍都督、逸見エリカ」

小梅「まほさん、エリカさん……、探しましたよ」

まほ「小梅、どうしたの」

小梅「新野を落ち延びた大洗軍の残党が、夏口へ逃げ込んだそうです。もともとの兵力と合わせて、その数およそ2万とのこと」

エリカ「夏口……このすぐそばじゃない。大洗軍なんて弱小勢力、カチューシャ軍に踏みつぶされておしまいかと思ったけど、悪運だけは強いのね」

小梅「それが、新しく仕官した軍師のおかげらしいですよ?」

エリカ「新しい軍師ぃ?そんなもの、どうせ眉唾物の噂でしょ」

小梅「なんでも、荊州の蝶野亜美から『臥龍』と呼ばれていたとかですよ。確か、名前は……」

まほ「西住みほ」

小梅・エリカ「「えっ?」」

まほ「彼女の名前は西住みほ……私の、妹」

みほ「次回、ガールズ&パンツァー『論戦、白熱してます!』」

今回の更新は以上です。

ちなみにエリカは魏延と迷った。

時は漢の建安5年。
統一の総仕上げとして、遂に大南征を始めた乱世の姦雄、カチューシャから間一髪で逃れ、大洗軍は江夏を治める丸山紗季の助けを得て、体勢を立て直しておりました。

『論戦、白熱してます!』

――荊州・襄陽――

カチューシャ「何よ、荊州軍にはロクな兵がいないわね。みんなまとめて、シベリア送りにしてやろうかしら」

ノンナ「カチューシャ、またそのようなご冗談を。……このまま、江東を攻めるつもりなのでしょう?」

カチューシャ「……悔しいけど、その通りよ。カチューシャ軍は水の上での戦いに慣れてないもの。降伏した荊州の水軍を使うしかないわ」

ノンナ「時間をかければかけるほど、こちらが有利になります。焦らずに、いったん許昌へ撤退してもよろしいのでは?」

カチューシャ「ダメよ。ずいぶんと長く乱世が続いたもの。天下もカチューシャに統一されるのを待ちくたびれているころだわ。そうそう、これまでの荊州の主だけど」

ノンナ「大野あや……消しますか?」

カチューシャ「そうね、わざわざ消すこともないわ。どっか後方の州の役人にでもしてあげなさい」

ノンナ「かしこまりました。では、青州に空きのポストがありますので、そこに赴任させましょう」

カチューシャ「ええ、そうしなさい」

――大洗軍駐屯地・夏口――

まほ「お初にお目にかかる、大洗軍会長、角谷杏」

杏「初めまして。建業からわざわざ来てくれてありがとね」

まほ「それと……、みほ、久しぶり」

みほ「うん……、久しぶり、お姉ちゃん」

杏「いやー、感動の再会ってやつかな?……邪魔して悪いんだけどさ、こんな時期にわざわざにケイの弔問に、それも荊州を支配する大野ちゃんじゃなく、丸山ちゃんの方にきたってことは、なーんか裏があるんでしょ?」

まほ「さすがに、大洗軍を率いてこれまで戦ってきただけのことはある。単刀直入に言う。我々江東と同盟して、カチューシャ軍と戦ってほしい」

杏「江東と同盟?なんでまた。江東には、水軍都督の逸見エリカ率いる、最強の水軍があるはずでしょ?うちみたいな弱小と手を結ばなくてもいいんじゃない?」

まほ「恥ずかしい話が、江東は降伏派と抗戦派で割れている。大洗軍は弱小とはいえ、カチューシャ軍と敵対して今まで生き残っている唯一の軍。それに、数も2万まで増えたと聞く。これが味方に付いたとなれば、少しは抗戦派の有利に働くはず」

みほ「江東……トップの澤さんはどう考えているの?」

まほ「彼女も迷っている。まだ幼いが、優秀だ。それゆえに、見たくないものまで見えてしまう。先主ならば、そのようなことはなかったのだけれど」

みほ「江東の小覇王、阪口桂里奈さん」

まほ「わずかな時で江東を征服した。逆に、足元がよく見えてはいなかった」

杏「ま、そちらさんの言いたいことはわかったよ。要するに、江東を抗戦派に固めたいってことでしょ?だったら、やっぱ澤ちゃんと直接話さないとならないかな」

まほ「ええ。話が早くて助かる。急な話ですまないけれど、このまま私とともに建業へと来てもらえないだろうか」

杏「だってさ、西住ちゃん。どうしよっか?」

みほ「行きましょう。現状、我々にも選択肢はありません」

まほ「ありがとう。では、準備ができ次第出発しよう」

杏「……行っちゃった。なんていうか、西住ちゃんとはずいぶんと雰囲気の違う人だね」

みほ「はい、小さいころからあんな感じでした」

杏「さて、留守はかーしまと小山に任せるとして、少し不安だけど……ま、武部ちゃんや五十鈴ちゃん、秋山ちゃんもいるし、まぁなんとかなるでしょ」

――江東・建業――

桂里奈『あいーーー!』

梓『すごい、すごいよ桂里奈ちゃん!これで江東は完全制覇だよ!』

桂里奈『あい!』

梓『このままなら、天下だって手が届くよ!二人で天下を目指そうよ!』

桂里奈『あい!』

梓「ん……、夢、かぁ」

小梅「おはようございます。……カチューシャから、書状が来ております。お読みになりますか?」

梓「はい、お願いします」

小梅「では、どうぞ」

梓「ええと……、『江東の同志諸君へ。荊州は悔い改めて、このカチューシャに跪いたわ。あなたたちも、ボルシチでも食べながら、一緒にアンコウ釣りでもしましょう?くれぐれも、狼をけしかけようだなんて考えないことね』」

梓(ボルシチを食べながら、アンコウ釣り……つまり、カチューシャ軍の傘下に入って、大洗軍と戦うのを手伝え、ってことだよね。狼……は、エリカさんの水軍のこと)

小梅「お返事はどうなさいますか?」

梓「……、少し、考えさせて下さい」

小梅「はっ」

梓(どうしたらいいんだろう、桂里奈ちゃん……)

ワイワイ ガヤガヤ

杏「いやー、建業って、ずいぶんと栄えてんだねぇ。こりゃ中原の大都市にも劣らないよ」

まほ「今主が後を継いでから、我々は水路の整備や商業の育成に力を入れてきた。今ではこうして、長江の支流から品物が集まってくる」

みほ「ホント!こんなにたくさんの種類のボコがいるなんて、感激だよ!」

杏「……そりゃよかったね。ま、観光もいいんだけどさ、まずはお仕事を終わらせてからにしたいんだけど?」

まほ「無論だ。すでに約束は取り付けてある」

杏「んじゃ、さっそく悩める澤ちゃんを励ましに行くとしようか」

まほ「失礼する。……大洗軍会長、角谷杏ならびに軍師、西住みほを連れてきた。では、私はこれで」バタン

梓「えっと……、会長と、西住先輩」

杏「やーやー澤ちゃん。お邪魔するよ」

みほ「澤さん、こんにちは」

杏「なーんか、カチューシャ軍と降伏するか戦うかで悩んでるんだって?」

梓「……はい。情けないですよね。会長は大洗軍を率いてずっとカチューシャ軍と戦ってきているのに」

みほ「……ううん、そんなことない。澤さんは自分の責任を果たそうと必死で頑張ってる。立派だよ」

杏「ふーん……ならさ、降伏しちゃえば?」

梓「……!か、会長?」

杏「だってさー、カチューシャ軍は20万に加えて荊州で水軍も手に入れたしさ。カチューシャ自身も無類の戦上手と来た。うちだって負けてばっかだし」

梓「20万……」

杏「そのうえ、おケイが溜め込んでた兵糧やら武器やらを全部持ってかれちゃったからね……おまけにダージリンやら、配下も優秀と来た。……実際、こりゃ勝てる見込みはないかもね」

梓「そ……それなら、なんで会長は降伏しないんですか!?西住先輩も……なんで会長に降伏するよう勧めないんですか!?」

みほ「……会長には、カチューシャさんと戦わなくっちゃいけない理由がある。降伏するわけにはいかないから」

梓「戦わなくっちゃいけない理由……」

杏「ま、そういうこと。澤ちゃんにもさ、守りたいものの一つや二つ、あるんじゃない?大洗軍はそれを守るために戦わなくっちゃならないから戦ってるけど、もし澤ちゃんが降伏することでそれを守れるならさ、無理に戦わなくてもいいんじゃないかな?」

梓「守りたいもの……、ですか」

杏「そーそー。その顔を見るに、一つくらいは思い当たるものがあるんじゃない?」

みほ「澤さん、大洗軍はたとえ江東が降伏しても、カチューシャさんと戦います。だけど、もし澤さんが一緒に戦ってくれるのなら、絶対に勝てる。……ううん、私が勝たせてみせる。私は、大洗軍の軍師だから」

梓「にしずみ、せんぱい……」

杏「ま、私たちが言いたいことはこれくらいかな。あとは、澤ちゃんがどうするかに任せるよ」

梓「……はい、ありがとうございました」

杏「うーん、あんな感じでいけるかなー、と思ったんだけど、どうだろね?」

みほ「ええ。悪くなかったと思います。不安を煽りつつも立ち向かう姿を見せてから、力強く勝たせてみせる、と宣言する。澤さんの性格なら、大洗軍に憧れを抱いたはずです」

杏「ま、不安を煽るって言っても、カチューシャ軍が手強いのは全部事実なんだけどね……自分で言ってて勝てるか不安になってきちゃったよ」

みほ「……ええ。ですが、まずは江東をその気にさせなくては戦いにすらなりませんから」

杏「次は……どうしよっか?」

みほ「澤さんは優秀なリーダーです。ですが、周りの意見を聞いて、完全にリスクを見極めるまで決断を下すことはないと思います」

杏「となると、おそらく会議の場で決めるつもりだろうね」

みほ「……はい。そして、その場で最終的な結論を左右するのは恐らく……」

杏「水軍都督、逸見エリカ」

みほ「実際に軍を率いるエリカさんが勝てると言えば、他の人たちもそちらに傾くでしょう。逆に、負けるとエリカさんに言われてしまえば、澤さんも降伏を決意すると思います」

杏「つまり、今度は逸見ちゃんの腹積もりを確認しにいかなくっちゃならないといけない、ってことだ」

みほ「はい。できれば、なるべく目立たないようにいきたいのですが……」

杏「表立って行こうとすれば、降伏派から妨害される危険があるからね……わかった。こっちで降伏派の目を引いとくからさ、西住ちゃんはお姉さんと一緒に逸見ちゃんのところへ行ってもらえないかな?」

みほ「目を引く、ですか?でも、どうやって……?」

杏「まー、それは見てのお楽しみ、ってことで」

みほ「は、はい……」

降伏派文官「角谷杏どの。あなたはカチューシャについてどのように考えるのですか?」

杏「んー、そうだね、漢王朝を私物化して、天下を乗っ取ろうとする悪者、かな」

降伏派文官「ですが、王朝とはいずれ命運が尽きて滅びるもの。それはすでに漢の命脈が尽き、カチューシャこそ次の支配者ということではないですか?」

杏「あっはは、面白いこと言うねー。じゃ、主君が衰えたら主君の持ち物を力で奪い取っても許されるんだ?あんたはそういうことしちゃう人間なんだね。澤ちゃんに気を付けるよう言っとかないと」

降伏派文官「い、いや、そのようなことは……」

杏「えー?だって、さっきあんたが言ったのってそういうことでしょ?」

降伏派文官「ぐっ…………」

降伏派文官「会長殿、それでは実際にカチューシャと戦ったとして、勝機はあるのですか」

杏「まあ、あると思うよ?」

降伏派文官「ほう。しかし、カチューシャ軍は20万。それに降伏した荊州兵を加え、水軍も手に入れています。さらに食料は天高く積み上がり、兵は歴戦。これに勝てるとは、到底思えませぬが」

杏「うーん、それはどうかなー。20万って言ってもさー、北方の兵は水戦じゃ役立たずだし、吸収した荊州兵が主力になるんだろうけど、あそこはそんなに強くないからねー……水戦だったら江東にも十分勝ち目はあるんじゃないかな。戦いもせずに降伏するようなことがなければ、だけど」

まほ「素晴らしい弁舌ね。降伏派がひっきりなしに論戦に赴いているというのに、その全てをああして言い負かしている」

みほ「おかげで、建業の目は会長に集中してる……。これなら、目立たずに柴桑に向かえるね」

まほ「ええ、その通りね」

――江東水軍本拠地・柴桑――

エリカ「隊長!それと……そちらが」

まほ「ああ……妹のみほだ」

みほ「初めまして、逸見エリカさん」

エリカ「ふん……弱小勢力の軍師さんが、一体何の用かしら?」

みほ「あ、あはは……」

まほ「エリカ、みほは仮にも一軍の軍師。礼を失するのは感心しない」

エリカ「ああ、これは失礼しましたね……それで?その軍師さんが、何をしに来たのかしら?」

みほ「えっと……、大洗軍と同盟して、カチューシャさんと戦ってほしくって」

エリカ「大洗軍と?何を言うかと思えば……いい?私の江東水軍は最強よ。あなたたちみたいな弱小勢力の助けなんか必要ない」

まほ「エリカ、そのくらいに……」

エリカ「はっきり言わせてもらうけどね、私はカチューシャ軍と戦うつもりはないの。私の江東水軍が健在だったら、交渉に持ち込んでほどほどの所で講和を結ぶことだって十分にできるわ。それには、大洗軍がいると邪魔なのよ」

みほ「…………」イラッ

エリカ「ふん、悪運だけが取り柄の弱小は震えて縮こまってるのがお似合いよ」

みほ「…………」イライラッ

エリカ「ま、頭を下げて、どうしても傘下に加えてほしい、っていうなら考えないでもないけどね」

みほ「…………」ピキッ

エリカ「……な、なによその顔。なにか文句でもあるわけ?」

みほ「エリカさんの言いたいことはわかりました。それじゃ、今度は私の言葉を聞いてくれますか?」ギュッ

エリカ「わ、わかったわよ。わかったから少し離れなさいよ」

みほ「え?でも、こういうふうに話さないと、エリカさんは聞いてくれないかと思って……ほら、こうやって、耳元でお話ししないと……」

エリカ「や、やめなさいよ……」

みほ「ホントにやめてほしいなら、振り払えばいいじゃないですか」フーッ

エリカ「み、耳に息をふきかけるなぁっ……」

みほ「ほら、体の力を抜いて、リラックスしてお話ししましょう?」

エリカ「り、りらっくしゅ……」

みほ「はい、力を抜いて、ゆっくりと手足が重くなっていきます……」

エリカ「は、はいぃぃ……」

みほ「ふうっ。説得完了です♪」

エリカ「あ、あへぇぇぇ……」

まほ「これは説得じゃない」

みほ「それじゃエリカさん、私が手をたたいたら、あなたは大洗軍と同盟して、カチューシャ軍に徹底抗戦すること以外を全部忘れて目覚めます。はいっ」パンッ

エリカ「っ……!あれ?私、なにして……」キョロキョロ

みほ「エリカさん、大丈夫ですか?話し合いの最中にいきなり意識を失ったんですよ。……ね、お姉ちゃん?」

まほ「……ああ、そうだな」

エリカ「そう……失礼したわね。疲れてるのかしら……」

みほ「お仕事のし過ぎは体に悪いですよ?……それで、カチューシャ軍への対応を決める会議のことなんですが」

エリカ「カチューシャ軍!?決まってるじゃない!私の江東水軍があんな奴らに後れを取ることなんてありえないわ!大洗軍も同盟を結ぶ以上は、全力で戦うのよ!いいわね!?」

みほ「はい♪」

エリカ「それじゃ、私はさっそく軍をまとめて建業に行くわ!降伏や講和なんてバカなことを言ってる奴らに、喝を入れてやるんだから!みほ!あなたも一緒に来るのよ!」

まほ「……わかってくれたようでうれしいわ、エリカ」

まほ「どこであんな技を身につけたの」

みほ「しばらく住んでた村で、ちょっとね。普通はあんなにうまくかからないんだけど、特別かかりやすい人だったみたい」

――江東・建業――

降伏派文官「ですから!カチューシャ軍は圧倒的な数の上、水軍まで手に入れました!これと戦うのは愚かな行いです!」

抗戦派武官「何を!戦いもせずに屈することなどできるか!」

ワイワイ ガヤガヤ

梓(結局、決められない……)

梓(戦いもせずに屈するのは嫌だけど、もし負ければ、苦労して築いた建業も失うことになる……)

梓(どうしよう、桂里奈ちゃん……)

伝令「報告!水軍都督逸見エリカ殿、ただいまご到着なされました!」

ザワザワッ

エリカ「…………」ツカツカ

梓「エリカさん……」

エリカ「この期に及んで、何を話し合っているの!カチューシャ軍は既に目と鼻の先の荊州まで来ているのよ!今は一丸となって、戦いの準備を整えるべき時でしょう!」

降伏派文官「ま、まだ戦うと決まったわけでは」

エリカ「黙りなさい!私の江東艦隊がいれば負けることなんてありえないのに、降伏なんてありえないわ!ほら、早く決断するのよ!」

梓「わ、わかりました。あと少し!あと少しだけ、時間をください!」

梓(ど、どうしよう……)

まほ「梓」

梓「まほさん……」

まほ「エリカはああ言っていたが、最後に決めるのはあなただ」

梓「はい……」

まほ「あなたが何を手に入れたいか、何を守りたいか、それでどうするか決めればいい」

梓(私が欲しいもの、守りたいもの……)

梓『桂里奈ちゃん!このままなら、天下だって手が届くよ!二人で天下を目指そうよ!』

桂里奈『あい!』

梓(そうか……、私は、桂里奈ちゃんとの約束を守りたい。桂里奈ちゃんと二人で手に入れると決めた天下に、手を伸ばしてみたい……今まで築いてきたものは、そのためのものなんだ)

梓「まほさん、ありがとうございました」

まほ「決まったようだな」

梓「はい」

まほ「一人で戻れるか?」

梓「はい。大丈夫です。……私は、江東の君主ですから」

まほ「そうか」

梓「これより、私の決断を伝えます!」

小梅「…………」

まほ「…………」

エリカ(もし降伏に決まったって、私の水軍だけでも戦ってやるんだから)

梓「江東は大洗軍と一緒に、抗戦の道を選びます!カチューシャさんを破って、天下を取るんです!」

ザワザワッ

梓「もしこれより降伏を口にするものがいれば!」

みほ(……剣を抜いた?)

梓「この机と同じことになると思ってください!」スパッ!

ワーッ!

杏(ありゃま、真っ二つだよ。あの机、高そうだったのに)

エリカ「私の江東水軍に任せなさい!大洗軍と協力して、カチューシャ軍なんて全部長江に沈めてやるわ!」

杏(しっかし、逸見ちゃんも降伏派、って聞いてたんだけどな……いったい、うちの軍師様はどんな手を使ったんだか……なにはともあれ、これで首の皮一枚つながったかぁ)

――荊州・カチューシャ軍本陣――

カチューシャ「さあ、準備は整ったわ!20万の大軍、圧倒的な艦隊……これぞ、真のカチューシャ戦術よ!見てなさい!江東の身の程知らず達を、このカチューシャの前に跪かせてやるんだから!全軍、前進開始!ウラー!!」

カチューシャ、ウラー!

みほ「次回、ガールズ&パンツァー『激戦です!』」

時は漢の建安5年。

圧倒的な戦力をもって荊州を降伏させたカチューシャ軍は、江東をも一飲みにすべく、大船団をもって前進を開始。江東軍も、都督の逸見エリカ率いる船団を迎撃に出し、今ここにかの「赤壁の戦い」の戦端が開かれようとしておりました。

『激戦です!』

――カチューシャ軍総旗艦――

カチューシャ「いい風じゃない!やっぱり、天もカチューシャの覇道を望んでいるのね!」

ノンナ「荊州の兵によれば、この時期は毎年北から南に向かう風が続く、とのことです。カチューシャ」

カチューシャ「いいの!この時期に出兵を選んだカチューシャを後押ししてるってことなんだから!……それにしても、おっそいわね。先頭の荊州水軍は何をしているのよ」

ノンナ「長江のことなら知り尽くしている、と指揮官は豪語していましたが」

カチューシャ「なーんかあいつ、信用できないのよね……って、なんだかこれ、違う方向に流されてない?」

ノンナ「流れの向きが変わったようですね……一応、確認させましょう」

アリサ「ちょっとちょっと!どうなってるのよ!ここで流れが変わるなんて、聞いてないわよ!」

荊州兵「どうしますか?湖に入ってしまったみたいですけど……」

アリサ(全く、なんてことなの!『長江のことならお任せください!』なんて言った手前、『江東水軍のせいで、港の周囲以外のことは調べられていません』なんて絶対に言えないじゃない!)

アリサ「とにかく!一刻も早くもとの流れに戻るのよ!長江の流れに乗れば、あとは江東まで一直線のはずなんだから!」

小梅「エリカさん、敵は予想通りに洞庭湖に迷い込んだそうです」

エリカ「ふん。やっぱりね。長江の流れはあいつらが思うほど単純なものじゃない。無数の支流や流れの変化があるのよ。それを利用すれば、こうしてショートカットして、敵のすぐそばまで気づかれずに近寄れるわ」

小梅「はい。私たち江東水軍なら、たとえ霧や夜の闇の中でも、隊列を組んで自由自在に進むことができますから」

エリカ「あいつらは私たちを舐めすぎているのよ。全艦攻撃準備。江東水軍の恐ろしさを、北方の奴らに思い知らせてやりなさい。……PANZER VOR!」

荊州兵「て、敵襲です!」

アリサ「なんですって!流れに逆らって進むしかないはずなのに、なんでそんなに早いのよ!」

荊州兵「敵、大型艦を先頭に隊列を組んで向かってきます!」

アリサ「とにかく、迎撃するのよ!こっちは圧倒的な大軍、ここでへまをやらかしたら、どうなるかわかったもんじゃないんだから!」

荊州兵「は、はい!」



エリカ「遅いわね。各艦、大型艦を盾にしながら進みなさい。敵の目を引きつけておいて、小型船で敵をひっかき回すのよ」

アリサ「ガッデム!なんであんなに統率のとれた動きができるのよ!船でうちの陸軍より隊列が整ってるって、いったいどういうことよ!」

荊州兵「大型艦が攻撃を吸収している間に、速度に優れた小型船がこっちの船を取り囲んで沈めてくる……すごい練度ですね」

アリサ「敵を褒めてる場合!?とにかく数はこっちの方が多いんだから、手近な目標に向かって撃って撃って撃ちまくりなさい!」

小梅「エリカさん!旗艦がこんなに前に出たら危険です!」

エリカ「何言ってんの!江東水軍は徹底的に戦うんだから!一番性能のいい私の船が前に出るのは当然でしょ!」

江東兵「敵艦隊、隊列が乱れています。どうしますか?」

エリカ「当然、突撃よ!」

カチューシャ「……いったい、荊州軍はなにをやってるわけ!?陣形がメチャクチャじゃない!」

ノンナ「敵の動きに全く対応できていません。……カチューシャ、念のために旗艦をお下げになっては?」

カチューシャ「ダメよ!そんなことをしたら動揺が広がって、下手したら総崩れになるわ!」

ノンナ「ですが、カチューシャ」

カチューシャ「荊州軍だって後がないことはわかってるはず。それにこの数の差じゃ、敵はせいぜいひっかき回すぐらいしかできないわ。だからこそ、ここで浮足立っているところを見せるべきじゃないのよ」

ノンナ「しかし……」

カチューシャ「それに、カチューシャの側にはノンナがいるわ。万が一のことなんて起こるわけがないじゃない!」

ノンナ「……はい。必ずやお守りいたします」

江東兵「都督!ひときわ大きい船が見えます!」

小梅「エリカさん!あの鎌とハンマーの旗に、ひときわ高い楼台……カチューシャ軍の旗艦だと思われます!」

エリカ(悔しいけど、大きさが違いすぎてこの船だけじゃどうもできないわね)

エリカ「小梅!弓を貸しなさい!」

小梅「はい!」

エリカ(カチューシャ!まずはこの矢文を受け取りなさい!)

キリキリ…… シュッ!

エリカ「さすがにそろそろ敵も体勢を立て直してくるわ!全軍、退却!」

カチューシャ「なにか申し開きがあるなら、言ってみなさい」

アリサ「……敵の動きが予想以上に早く、対応しきれませんでした」

カチューシャ「……戦いは時の運。江東水軍に歯が立たなかったことについてはまあ許してあげてもいいわ。でも、湖に迷い込んだことはどう説明するの?」

アリサ「申し訳ありません!」

カチューシャ「いい?カチューシャの心はシベリア平原のように広いわ。……本当だったらカチューシャ軍らしくシベリア送りにする」

アリサ「そ……、それだけは!」

カチューシャ「だけど、一度だけ荊州らしい罰にしてあげる。『反省会』よ」

アリサ「……ありがとうございます!」

カチューシャ「ただし、ノンナと二人でね。……ノンナ、任せたわよ」

ノンナ「はい。……それでは、行きましょうか」

アリサ「ひぃぃ……!」

カチューシャ(敵の指揮官からの矢文……『江東は、ボルシチみたいな田舎臭い味よりも、あんこう鍋を囲むことを選ぶわ。狼の牙に身をさらしたこと、せいぜい後悔しなさい』ですって!?)

カチューシャ「いいじゃない。カチューシャをコケにした罪は重いわよ……シベリア送りくらいで許されると思わないことね」クシャッ

――江東水軍本拠地・柴桑――

杏「いやー、さすがは江東水軍。最強の名に恥じない強さだね」

みほ「ええ。まさかここまでの強さだとは……、正直、驚きです」

杏「ま、そうでないと困るしねー。おっ、都督様が帰ってきたみたいだよ」

エリカ「とにかくけが人の救護を最優先に!水軍の船員は代えが効かないのよ!」

みほ「エリカさん、大勝利と聞きました。おめでとうございます」

エリカ「大したことじゃないわ。こっちを舐めきってた敵に、少し思い知らせてやっただけよ」

杏「またまたー。あの大軍相手にそうそうできることじゃないでしょー……だけどさ、あのカチューシャがこれぐらいで引き下がるとは思えないんだよね」

エリカ「当然ね。統一のための最後の戦いと言ってるくらいだもの。ここで退くようなことはことはまずないわ……戦略の再検討が必要ね。軍議を行うわよ。二人とも、早くしなさい」

杏「え?だけど、水戦の戦略でしょ?大洗軍は水戦の手伝いはできないよ?」

エリカ「何を言ってるの!同盟軍なんだから、あなたたちの意見も聞くのは当然じゃない!ほら、行くわよ!」

みほ「ええ、行きましょう」

杏(あれれ……逸見ちゃんって、大洗軍のこと見下してるって話じゃなかったっけ……ま、いいか)

エリカ「緒戦はものにしたとはいえ、カチューシャ軍は大軍よ。これぐらいの損害じゃ全く効いてないわ」

まほ「ああ……すぐに体勢を立て直して……いや、体勢を崩せたかどうかも怪しいな」

小梅「敵はこちらの上流に位置しています。それにこの季節、こちらは常に風下に立つことになります」

エリカ「ええ。もし流れに乗って一気に攻めてこられたら、こっちは全滅覚悟で戦いを挑むしかないわ」

みほ「……ですが、それはないと思います」

まほ「みほか。なぜそう思う?」

みほ「敵の大部分は北方の兵です。……恐らく、南方の水や食べ物が体に合わずに体調を崩す兵も多く出ているでしょう。それに、対した損害なくここまで来たカチューシャ軍には勝負を焦る必要がありません」

杏「荊州の兵糧も手に入れてるしね」

みほ「そのうえ、江東水軍の強さを思い知らされたはずです。ここで無理に攻めてくるよりも、どこかに陣を築いて水軍の訓練を進め、確実に勝てる状態を作ってから攻め込んでくると思います」

まほ「なるほど……、20万の陣か」

小梅「そうなると、築く場所の候補は限られてきますね」

エリカ「鳥林(うりん)か、陸口(りくこう)ね」

杏「だったらさ、位置的に近いこっちが先にどっちかを取れれば、残ったほうにカチューシャ軍を誘導できるんじゃないの?」

小梅「鳥林なら、逆にこっちが流れと風を背にして戦えます。ここでにらみ合う形になれば、どこかにチャンスがあるかも……」

エリカ「……残念だけど、それはできないわ」

みほ「はい。エリカさんの言う通りです」

エリカ「カチューシャ軍に陸口を取られれば、やつらは陸路でここまで来れる……陸戦じゃ勝ち目はないのよ」

まほ「不利を承知の上で、こっちが陸口を取るしかない」

杏「ありゃりゃ……やっぱ、そううまくはいかないか……」

エリカ「そうと決まれば話は早いわ。全軍、陸口へ移動。カチューシャ軍がこっちに来る前に、要塞化しておくのよ」

――カチューシャ軍総旗艦――

カチューシャ「見なさい!これがカチューシャ戦術の粋を集めた、最強の陣形よ!」

ノンナ「これは……驚きました。まさか、これほどの陣をお築きになるとは」

カチューシャ「カチューシャはね、水戦においても天才なのよ!」

ノンナ「はい。水軍の訓練も少しずつではありますが、効果を上げてきています」

カチューシャ「いいじゃない!……江東軍め、見てなさい!準備ができ次第進撃して、向こう岸のちんけな陣地なんて吹き飛ばしてやるんだから!……キャッ!」

グラッ

ノンナ「カチューシャ!大丈夫ですか?」

カチューシャ「うう……、あとはこの揺れさえどうにかできれば言うことはないんだけど」

ノンナ「ゆっくりお休みになることもできますからね……そういえば、そろそろ本日のお昼寝のお時間では」

ノンナ「もー!子ども扱いしないで!」

――江東軍本陣――

エリカ「ああもう!なんなのよあの陣は!あんなのを築かれたら、こっちは手出しのしようがないじゃない!」

エリカ(それに、長期戦を続けるにはこっちの物資も心もとないし……)

小梅「エリカさん、みほさんがお話がある、と」

エリカ「みほが?いったい何の用よ?」

小梅「なんでも、『エリカさんのために策を持ってきました』と」

エリカ「策ぅ?まあいいわ。聞いてあげるぐらいはしてあげようじゃない」

みほ「エリカさん、私もこの戦いが始まってから、お姉ちゃんに水戦について少しずつ教わっているんです」

エリカ「へえ、そうなの。……感心なことね」

みほ「ありがとうございます。それで、ちょっと思ったことがあるので、水戦のプロであるエリカさんに聞いていただきたいのですけど」

エリカ「そんな、プロだなんて……、聞いてあげるわ。言ってみなさいよ」

みほ「水戦で一番必要な武器……、それは、矢ではないでしょうか?」

エリカ「まあ、正解ね。正直、矢がなくっちゃ水戦はやりようがないわ」

みほ「わあ、やっぱり!それじゃ、もうひとつ聞いてもらっていいですか?」

エリカ「はいはい、何よ」

みほ「矢、足りてないですよね」

エリカ「……!隊長から聞いたの?」

みほ「いえ、言ってみただけです」

エリカ「カマをかけたってわけね。……その通りよ」

みほ「私が調達してきたいんですが、いいですか?」

エリカ「調達って……あのねえ、100本や200本用意したところで、大した意味はないのよ?」

みほ「わかってます。……そうですね、10万本の矢を、3日以内に」

エリカ「10万本!?ちょっとあなた、本気で言ってるの?そんなことできるわけないじゃない!そんなことに割く人手はないわよ?だいたい、あんたみたいな頼りない子が……」

みほ「いえ、できます。……そうですね、もしできなかったら、エリカさんの言うこと、なんでも一つだけ聞きます」

エリカ「ぜひお願いするわ」

みほ「わあ、ありがとうございます!それじゃ、お姉ちゃんと、船を何隻かお借りしてもいいですか?」

エリカ「隊長を?……まあ、それぐらいならいいけれど……いい、あんまり危ないことはするんじゃないわよ」

みほ「心配してくれるなんて、エリカさんって優しいんですね」

エリカ「バ、バカ……あんたは同盟軍の軍師だから……それだけよ!」

まほ「話はついたの?」

みほ「はい。こんなこともあろうかと、いろいろやっておきましたから」

まほ「いったい何をしたの」

みほ「……船の上にボコのぬいぐるみを立てて、と。はい、これで準備完了です」

まほ「立てて、というより串刺しになってるようにしか見えないのだけど……ちょっと待って、なぜ一つエリカのぬいぐるみが入っているの?」

みほ「じゃあお姉ちゃん、船室で思い出話でもしよっか♪」

まほ「…………そうね」

まほ「まさか、みほが大洗軍の軍師になるとは、驚いたわ」

みほ「うん。自分でも少し驚いてる。会長が直接登用しに来てくれたのもあるけど……やっぱり、どこかで自分の力を試してみたかったのかな」

まほ「そう……昔はやんちゃだったみほが、軍師の道を選ぶなんて」

みほ「お姉ちゃんこそ、江東でこんなに重く用いられているなんて、すごいよ」

まほ「先主のころの江東には、文官が不足していたから……ところでこの船、どこに向かっているの?」

みほ「え?敵陣だよ?」

まほ「……あなたは何を言っているの?」

みほ「うーん……そろそろ夜も明けてきたし、霧が出てるとはいえ気づかれる頃だと思うんだけど……」

まほ「話を聞いて」

荊州兵「対岸から敵船です!」

アリサ「敵船?この陣に近づくなんて、バッカじゃないの!?」

荊州兵「いかがいたしますか?」

アリサ「決まってるでしょ!矢の雨を降らしてやるのよ!」

荊州兵「イエス!マム!」

ザザザザザザ!

みほ「うーん、さすがカチューシャ軍。惜しみなく矢を撃ってくるね」

まほ「まあ、物資は有り余っているだろうから」

みほ「……うん、そろそろ頃合いかな」

荊州兵「敵船、対岸へと引き返していきます!」

アリサ「あっははは!思い知ったか弱小め!」

エリカ「隊長!みほ!」

小梅「お二人とも、無事だったんですね」

まほ「エリカ、小梅。……どうしたの?」

エリカ「二人が敵陣に向かったっていうから……」

小梅「エリカさんが全軍突撃して助けに行くって言うから……」

みほ「エリカさん……ご心配、ありがとうございます。約束の10万本の矢、確かに調達してきました」

エリカ「……船の上のぬいぐるみに、大量の矢が」

みほ「わあ、思った通り……ハリネズミボコだぁ!」ウットリ

小梅「凄い……!確かに、これを引き抜けば全部で10万本はありそうですね!」

エリカ「ふ、ふん……この程度、ちっともすごくなんて……ってこれ!なんで私のぬいぐるみがまざってるのよ!」

まほ「さすがはみほだな」

小梅「ええ!みほさん、ありがとうございます!」

エリカ「ちょっと!話を聞きなさいよ!」

みほ「エリカさん、そんなに熱くならないでください……ほら、リラックスして……」ボソボソ

エリカ「だ、だから耳元でしゃべるにゃぁ……」

みほ「いいんですよ?そのまま気持ちよくなりましょう……?」

まほ「……小梅、兵を呼んできてくれ。矢を引き抜く作業に移らなくては」

小梅「……そうですね」

ピャァァァァ……

――カチューシャ軍総旗艦――

カチューシャ「ノンナ!名案を思いついたわ!聞きなさい!」

ノンナ「カチューシャ、食べながらしゃべるのは行儀が悪いですよ」

カチューシャ「今私たちが最も警戒すべきなのは、誰だと思う?」

ノンナ「……江東水軍都督、逸見エリカ、でしょうか」

カチューシャ「その通りよ!そこで、逸見エリカ……エリーシャの友達を向こうの陣に送り込んで、弱みとかを探らせるの!総指揮官の友達だもん、ある程度自由に動き回れるに違いないわ!」

ノンナ「なるほど。かしこまりました」

カチューシャ「どう?これで敵もカチューシャの知略の高さに恐れをなすで……キャッ!」

グラッ

ノンナ「カチューシャ!」

カチューシャ「あ、ありがと、ノンナ」

ノンナ「いえ……ですが、食事は零れてしまいましたね」

カチューシャ「もー!ホントにこの揺れ、なんとかならないかしら!」

――江東軍本陣――

エリカ「直下!久しぶりじゃない!」

直下「エリカさんこそ、お元気で何よりです!……それにしても、江東水軍の都督だなんて、すごいです!」

エリカ「そんなことないわ。さ、積もる話もあるでしょう。さ、こっちへいらっしゃい」

杏「ありゃりゃ、逸見ちゃんったら、大喜びだ。……で、あれ誰?」

みほ「直下さん……エリカさんの古いお友達だそうです」

杏「ふーん、古い友達かぁ……怪しいね」

みほ「はい」

杏「このタイミングで訪ねてくる友人ってさ、もう完全にカチューシャの回し者だと思うんだけど、どうだろう?」

みほ「その通りだと思います」

杏「やっぱ、そうだよね……ま、逸見ちゃんもこんな罠に引っかかるほど間抜けじゃないとは思うけどさ」

みほ「ええ。きっとこの策を逆用する方法を考えているはずです」

杏「ま、『同盟軍の都督サマ』のお手並み拝見といこうか……あれ?西住ちゃん?」

エリカ「本当に久しぶりね……私の手料理でもてなしてあげるわ。期待してなさい」

直下「いいんですか!?エリカさんのハンバーグ、すごく楽しみです!」

エリカ「ずっと会ってなかったものね。腕によりをかけてあげる」

みほ「…………」イラッ

杏(……あーらら。知らんぷりしとこっと)

直下「しかし、これが噂の江東水軍ですか……素晴らしい練度ですね」

エリカ「日々の訓練を重ねてきているだけよ……ほら、あんな風にね」

直下「すごい!揺れる船の上から矢を放って、的に当てるなんて!」

エリカ「大したことではないわ。ちょっとした理由があって、矢はたくさんあるもの。訓練には事欠かないわ。もちろん戦いにもね」

直下「へぇ……何ですか?その『ちょっとした理由』って」

エリカ「それはあなたとはいえ、教えるわけにはいかないわ……さ、話の続きは私の天幕でしましょう?」

直下「ホントにあのときは困りましたよ!もう直した矢先にまたやられちゃうんですから!」

エリカ「ええ、そんなこともあったわね……あら?誰かしら?」

みほ「すみません、エリカさんに少し用事が……」

エリカ「みほじゃない……で、なんの用事よ?」

みほ「えっと、それは……ここではちょっと……」チラッ

直下(私には聞かれたくない話……何だろう?)

エリカ「……ごめん、後にできない?見てわかるように、古い友人が訪ねてきているの」

みほ「そんな!私よりその人を優先するんですか?昨日の夜だって二人であんなに楽しんだのに!」

エリカ「……!な、何を言ってるの!嘘をつかないでちょうだい!」

みほ「嘘だなんて……私に囁いた言葉は、エリカさんの嘘だったんですか!?」

直下「あ、あの……エリカさん、私のことなどお気になさらず、どうぞ!」

エリカ「ちょっと、なにか誤解してるんじゃないでしょうね!……ああもう、まずはあいつをとっちめてやらないと。ちょっと失礼するわ」

直下(あれはたしか、大洗軍の軍師……まさか、エリカさん……)

エリカ「ちょっと!どういうつもりよ!」

みほ「どういうつもりだなんて、そんな……私はただ、エリカさんがあの場を離れる口実を作ろうと……あの人、カチューシャさんのスパイですよね」

エリカ「……!やっぱり気づいてたのね」

みほ「はい。おそらく、天幕の中に何か罠が仕掛けてあるんですよね……偽のお手紙とか」

エリカ「ええ、その通りよ。今頃、必死で探し回っているでしょうね」

直下(今がチャンス!きっとこの辺を探せば、なにか見つかるはず……)

ガサゴソ

直下「あった!えーっと……こ、これは!今すぐ帰って報告しないと!」

エリカ「ごめんなさい、待たせたわね……あら、どうかしたの?」

直下「い、いえ!何でもないです!そ、それじゃ、そろそろ私、行かなくちゃいけないところがあるんで!」

エリカ「そう。帰るというなら止めはしないけど……気を付けるのよ。またいつでも来るといいわ。こんどこそご馳走してあげる」

直下「は、はい!ありがとうございます!それじゃ!」

エリカ「あの反応、見つけたみたいね」

みほ「はい」

エリカ「……でも、他にもっといい口実があったでしょ」

みほ「いえ。あれも策のうちです。……恐らく直下さんは『江東水軍の都督は大洗の軍師に骨抜きにされている』とカチューシャさんに報告するでしょう。敵の油断も誘えて、一石二鳥の作戦です」

エリカ「だから!それじゃ私の汚名が天下に伝わっちゃうじゃない!」

みほ「やむをえません……勝利のためですから」

エリカ「勝利のためって言っても、あんたねえ!……ちょっと、何する気よ……」

みほ「ほら、いいんですよ……本当に骨抜きになっちゃいましょう……?」

ピャァァァァ……

――カチューシャ軍総旗艦――

アリサ「あ、あの……どうして呼び出されたんでしょうか……?」

ノンナ「……これからあなたに、いくつかの質問をします。正直に答えていただけますね?」

アリサ「は、はい」

ノンナ「それではまず一つ目……先日、敵の小舟が数艘、わが軍の陣地に近づいてきたそうですが、これにどのように対処したのですか?」

アリサ「それはもう、矢の雨を降らせてやりました!」

カチューシャ「ふーん……矢の雨を、ねぇ」

ノンナ「二つ目です。……入ってきてください」

直下「はい。失礼します」

ノンナ「あなたが江東軍の陣地から持ってきたものを見せてください」

直下「こちらです」

カチューシャ「この手紙に見覚えはあるわね?」ペラッ

アリサ「て、手紙!?いえ、こんなもの、見たことありません!」

カチューシャ「ふーん、そう。『先日の10万本の矢の贈り物、お気に召していただけましたでしょうか?いずれ機会を見て反乱を起こし、カチューシャを討ち取ってそちらに参ります。お待ちください。荊州軍司令官・アリサ』」

アリサ「そんな!?身に覚えが!」

カチューシャ「あっさりと降伏したと思ったら、そういうことだったのね。ま、少しは野心があったみたいでうれしく思うわ」

アリサ「違います!敵の計略です!」

カチューシャ「別に、どっちでもいいわ。あなたには特別な仕事を用意してあるの」

アリサ「仕事ですか……?」

カチューシャ「そう。シベリアで木の数を数える仕事をね。それじゃ、こいつを連れてきなさい!」

アリサ「ほ、本当に違うのにぃぃぃ!」

カチューシャ「まったく。ああ、あなたもご苦労だったわね。また頼むわ」

ノンナ「こちらが約束の報酬です」

直下「ありがとうございます!」

ノンナ「……それにしても、本当に彼女は敵に通じていたのでしょうか?」

カチューシャ「どっちでもいいわ。だいぶ訓練を積んで、水軍も育ってきた。もうあいつは必要ないもの。あーあ。エリーシャもミホーシャに骨抜きにされちゃう程度の敵だったわけだし、なんだか眠くなってきちゃったわ」

ノンナ「お休みの用意はできています。カチューシャ」

――江東軍本陣――

杏「逸見ちゃんの計略、うまくいったんだって?」

みほ「はい……ですが、もしかすると、カチューシャさんは気づいていた可能性があります」

杏「ま、それなりに時間がたったからね。そろそろ自前の水軍も育ったころかぁ」

みほ「ええ。……決戦の時は近い、と思います」

杏「決戦かぁ。ま、ここまでよく来れたよ。あともうひと踏ん張り、がんばろっか」

小梅「みほさん、エリカさんが呼んでます」

みほ「あ、はい。今行きます!」

杏「いってらっしゃーい。……さて、そろそろうちの軍も準備が必要かな」

エリカ「私の計略が成功したわ。敵の水軍指揮官アリサはシベリア送りになったそうよ」

みほ「はい、そのようですね」

エリカ「……ところで、水戦の勉強は順調かしら?」

みほ「そうですね……ある程度は、モノにできたと思います」

エリカ「そう。じゃあ、ちょっとした遊びをしましょう」

みほ「遊びですか?」

エリカ「そうよ。今から私とあなたで、対岸のカチューシャ軍を打ち破る方法を手のひらに書くの」

みほ「へぇー、面白そうですね」

エリカ「でしょう?ほら、これを使って書くといいわ」

みほ「ありがとうございます。……はい、書けました!」

エリカ「私も書けたわ。それじゃ、見せ合いましょうか」

みほ「はい。せーのっ……」パッ

エリカ「やはり。同じ文字ね」

みほ「ええ。『火』です」

エリカ「20万の大軍を破るには、火攻めしかないわ。だけど、このままじゃそれは実行できない。一艘に火をつけたところで、他の船は逃げ去ってしまうもの」

みほ「それと、風ですね。この時期に火攻めをかければ、こちら側の陣に火が燃え広がってしまいます」

エリカ「ええ。でも、それを解決できる方法が見つかったの」

――カチューシャ軍総旗艦――

ノンナ「カチューシャ、客人が来ています」

カチューシャ「客?いったい誰よ?」

ノンナ「はい。その前に……荊州の、蝶野亜美はご存知ですか?」

カチューシャ「ああ、あの人物鑑定の。大洗の軍師、ミホーシャのことを『臥龍』って言った人でしょ?得られれば天下を取れる、なんてバカな話、カチューシャは信じてないけど」

ノンナ「はい。その蝶野亜美です。……では、もう一人、得られれば天下を取れると評された人物がいることをご存知ですか?」

カチューシャ「ううん、知らないわ」

ノンナ「『鳳雛(ほうすう)』の冷泉麻子。彼女が策を携えて、カチューシャにお会いしたいとのことです」

カチューシャ「すごいわマコーシャ!兵法についても、政治についても、こんなに深く話せる相手は久しぶりよ!」

麻子「……そんなことはない。私くらいならばそこら中にいる……『臥龍』の西住さんとかな」

カチューシャ「さあ、もっとじゃんじゃん料理を運ばせるわ!いっぱい食べるのよ!」

麻子「いや、もう食事はいい……それより、ケーキはないのか?」

ノンナ「取り揃えてあります……こちらをどうぞ」

麻子「おお!」

カチューシャ「ほら、ロシアンティーもお飲みなさい!……きゃあっ!」

麻子「…………こんなに大きな船だというのに、随分と揺れるんだな」

カチューシャ「全く!本当に嫌になっちゃうわよ!食事を邪魔されるだけならまだしも、兵達の船酔いも全然治まらないんだから!」

麻子「……そうか。喜べ。私の策というのは、ちょうどそれについての策だ」

カチューシャ「なんですって!早く聞かせなさい!」

麻子「そう焦るな。……船が揺れるのは、なぜだと思う?」

カチューシャ「なぜって……そりゃ、水の上だからでしょ」

麻子「そうだ。なら、陸の上と同じにしてやればいい。……船と船を、鎖で繋ぎ合わせるんだ。そうすれば、ある程度揺れは治まるだろう」

カチューシャ「船同士を鎖で!?」

麻子「ああ。大船を中央にして、すべての船を繋ぎ合わせる。それが揺れを鎮める方法だ」

カチューシャ「……そんな方法があったのね!ノンナ、聞いたでしょ!?今すぐ鎖を用意させなさい!」

ノンナ「はい、直ちに」

麻子「これで、一食分の代金くらいにはなったか?」

カチューシャ「もちろんよ!さすがは『鳳雛』のマコーシャ!これで兵達の船酔いも治まって、ようやく対岸の江東軍を踏みつぶしてやれるわ!」

麻子「それは何よりだ……カチューシャ、お前は何のために統一をするんだ?」

カチューシャ「何のために?決まってるじゃない!戦乱を終わらせるため……そして、カチューシャの力を天下に知らしめてやるためよ!」

麻子「……そうか。わかった。それでは、私はこれで帰らせてもらうぞ」

カチューシャ「もう帰っちゃうの?このままカチューシャのところに仕官しても構わないのよ?」

麻子「……いや。私はおばぁが『おまえもいい加減どこかに仕官しろ』とうるさいから、一度試しに来ただけだ。あまり長居する気はない」

カチューシャ「……そう。わかったわ。それじゃ、カチューシャが江東軍を一飲みにして、天下が定まったらまた来なさい!」

麻子「ああ。……天下が定まったらな」

麻子(ふぅ……上手くいったみたいだな。まさか、おばぁの見舞いに行くのに江東水軍の船を使わせてもらった恩を、こんな形で返すことになるとは)

ダージリン「少々、お待ちになってもらえるかしら?江東の回し者さん?」

麻子「……!」

ダージリン「『船同士を鎖で繋ぎ合わせるように』と全軍に通達が出たの。あなたの差し金でしょう?」

麻子「……さあな。私は船が揺れなくなる方法を進言しただけだ」

ダージリン「互いにつながれた船団……そんな状態で火攻めを受けたら、たまったものではないでしょうね?」

麻子「勘ぐり過ぎだ。だいたい、この風向きで江東軍が火攻めを使うはずがないだろう」

ダージリン「ええ。そこが解せないわ……ただ、彼女たちはここが地元だもの。何か、私たちの知らないことを知っていても不思議ではなくて?」

麻子「……なら、それをカチューシャに進言すればいいだろう」

ダージリン「あらあら……別に私は、江東軍の火攻めを防ぎたいわけではなくってよ?」

麻子「何?」

ダージリン「ここでカチューシャ軍が勝てば、乱世はこれで終わり。平和な世がやってくるわ。……でもそれでは、面白みに欠けると思わない?」

麻子「……思わないな。眠い時には寝たいだけ寝ていられる、平和な世の中の方が何十倍もマシだ」

ダージリン「あら、そう。……私たちだけがこの陣から離れて、火攻めに合わないですむ方法……考えてくださる?」

麻子「……嫌だと言ったら?」

ダージリン「そうね……あなた、この状況で私から逃れて生きて帰ることができるほど、腕が立つとお思いかしら?」

麻子(聖グロリアーナ軍、ダージリン……かつて最強と言われた武将、アールグレイの元配下……逃げるのは無理だな)

麻子「わかった。教えてやる……そうだな。『西域に反乱の兆しがあり、許昌を落としかねない』とでも言ってみろ。さすがに全軍を退却させることはしないだろうが、機動力に優れた聖グロリアーナ軍だけは押さえに回される可能性が高いだろう……ほら、これでいいか?」

ダージリン「ええ。感謝するわ。……行ってよくってよ。おみやげは必要かしら?」

麻子「いや、遠慮しておこう。……フィッシュ&チップスは口に合わない」

ダージリン「あら、そう。それでは、ごきげんよう」

麻子(消えた……?いや、気配を絶ったのか。恐ろしい奴だ)

麻子「悪いな、カチューシャ。お前の語る『統一』が、私にとっては恩を返すことより魅力的に映らないんだ。……さて、あとは風を待つだけ、か」

みほ「次回、ガールズ&パンツァー『バトルシップ・ウォー!』」

ガルパン三国演義にもスレが複数
あるようだけど……「特定の場面
までを書いたら次スレに移る」て
方法を採ってるわけじゃないのか(@_@)

思っていたよりも間をあけずに完結できそうなので、スレを一つにまとめさせていただきました。

本日20時より投下いたします。

予定通り20時より投下いたします。
一応今回で完結です。

時は漢の建安5年。

対岸に20万の陣を敷くカチューシャ軍を切り崩すために、様々な策を巡らせる江東軍水軍都督・逸見エリカと大洗軍の天才軍師・『臥龍』の西住みほ。かの「赤壁の戦い」……地に臥せた龍が天下に昇る時は、すぐそこまで迫っておりました。

『バトルシップ・ウォー!』

――江東軍本陣――

みほ「なるほど……麻子さんに頼んで、カチューシャさんが船同士を鎖で繋ぎ合わせるように仕向ける……たしかに麻子さんなら、上手くいきそうです。ですが、風向きの方は大丈夫なのでしょうか」

エリカ「ええ。……入ってきなさい」

シーン……

みほ「…………?誰も来ないですね……」

エリカ「何をしているの!早く入ってきなさいったら!」

シーン……

エリカ「全く、こんな時にどこへ行ったっていうのよ……」

ミカ「誰を探しているのかな?」ポロローン

みほ(……えっ!いつの間に天幕の中に!?)

エリカ「あんた、いったいどこから入ってきたの!?」

ミカ「どこから入ってきたか。それはこの状況で大切なことかな」

みほ「あ、あはは……なんだか変わった方ですね……」

ミカ「やあ、西住みほさん。江東水軍所属の名無しさ。みんなからはミカって呼ばれてる」

みほ「は、はい……よろしくお願いします」

エリカ「名無しも何も、あんた結構な名家の生まれじゃない……まあ、いいわ。説明をしてちょうだい」

ミカ「風の声を、聞いたんだ」ポロローン

みほ「風の声……?」

ミカ「南向きの風と一緒に、自分を探してここまで流れてきた。『そろそろ、反対の方に行ってみようか』と、風が言っているのさ」

エリカ「こいつの言葉をあんまり深く考えちゃダメよ。大事なのは、一つ」

みほ「南と、反対向きの風……」

エリカ「そう。つまり、近いうちに北向きの風が吹くらしいのよ」

ミカ「この言葉を信じるのも信じないのも、それは君たちの自由だ」ポロローン

エリカ「こんなことを言ってるけど、悔しいことにこいつの風を読む能力は天才的よ。こいつが吹くと言えば、間違いなく北向きの風は吹くわ」

みほ「それなら!」

エリカ「ええ。……火計を行うのは、その時を置いて他にないわ。燃えるものを満載した火船の用意はできてる。それをひとかたまりになったカチューシャ軍にぶつければ!」

ミカ「その作戦に意味があるとは思えないな」

エリカ「なんですって!?」

ミカ「ただ火をかければいいってもんじゃない。だろう?」

みほ「確かに。ただ火船を敵に向かわせても、迎撃されておしまいです。……何か、敵のすぐそばまで疑われずに接近する方法がないと」

ミカ「新しい出会いには、特別な演出が不可欠なのさ」

エリカ「だからって、いったいどうすればいいのよ!この状況にもってくるまでにもう手は出し尽くしたわ!あとは死力を尽くしてその機会にかけるしかないじゃない!」

ミカ「頑張ればいいってもんじゃない」

エリカ「あんたねえ!」

ミカ「今必要なのは、泣き言を言うことなのかな?……きっと、手はあるはず」

みほ「エリカさん……私に任せてください。絶対に、敵のすぐそばまで火船を近づける方法を考えてみます」

エリカ「みほ……」

みほ「はい。私たちは、『同盟軍』ですから」

ミカ「それがどんなものでも、あなた方の判断を信じよう」ポロローン

みほ(考えるんだ……カチューシャ軍から矢を奪ったとき、私はすぐそばまで近づいたはず……それが可能だったのは、小船でしかも数が多くなかったから……同じ手は使えない)

杏「西住ちゃーん、調子はどう?」

みほ「会長……」

杏「いやー、火攻めの準備はできてるんでしょ?……どうせ大洗軍は役に立てないからさ、少しでも役に立てるように、準備をしとこうと思って」

みほ「準備……ですか?」

杏「そ。夏口に戻って、逃げて陸に上がってきたカチューシャ軍を追撃するための準備をしとこうと思って」

みほ「そんな……でもまだ、成功するかどうかなんて」

杏「わかってるよ。火攻めは絶対に成功する。だって、西住ちゃんがいるんだもん」

みほ「ありがとうございます……でも、最後の策が思い浮かばなくて……」

杏「きっと、西住ちゃんなら何とかしてくれる。だって、負けてばっかりだったうちの軍を、天下分け目の戦いに一枚噛めるところまで連れてきてくれたんだ。……もしダメだったら、それはそこまでってことだよ」

みほ「そんなこと……」

杏「思えば、かーしまと小山と三人で義勇軍を立ち上げてから、いろんなことがあったなぁ……かーしまなんてさ、初陣で敵と間違えて味方に矢を撃っちゃってさ。あん時は大変だったよ」

みほ「河嶋先輩……そのころからそんな感じだったんですね」

みほ(……『敵と間違えて、味方に矢を』?味方を敵と思い込むことがあるなら、敵を味方と思い込ませることができれば、迎撃されずに近寄れるはず……そうだ、そうすれば……)

杏「なんか、思いついたみたいだね」

みほ「はい……!ありがとうございます、会長!」

みほ「エリカさん、小梅さん、お姉ちゃん。集まってくれて、ありがとうございます」

まほ「みほ……最後の作戦を思いついたそうね」

みほ「はい。火船を率いる小梅さんが、疑われずに敵に近寄れるようにする作戦……『ずたぼろ作戦』です!」

エリカ「『ずたぼろ作戦』?なによ、その作戦名?」

まほ「『ずたぼろ』と言うからには、何かを痛めつけるんだろうけど……いったい、何を痛めつけるんだ?」

みほ「はい。まず、カチューシャ軍から迎撃を受けずに小梅さんが近寄るには、小梅さんが『敵ではない』と思い込ませる必要があります。ですので、小梅さんは事前にカチューシャさんと寝返りの約束をしておきます」

小梅「私が、寝返り……ですか。ですが、信じてくれるでしょうか?」

みほ「もちろん、ただ寝返りを持ちかけただけではカチューシャさんは信じてくれないと思います。……ですので、皆さんには軍議の場でお芝居をしていただきたいと思います。忍び込んでいるスパイにそれを見せつけて、小梅さんの寝返りが本当のものであると信じ込ませるんです」

小梅「はい……どんなことでも、やってみせます」

みほ「ありがとうございます。……それでは、作戦を説明します」

――江東軍本陣――

エリカ「いい?敵は圧倒的な大軍よ。おそらく、この対陣はまだまだ続くわ。それを見越して、全軍にあと二か月分の食料を配ろうと思うわ」

小梅「エリカさん、待ってください!」

エリカ「小梅、何か文句でもあるのかしら?」

小梅「敵は大軍の上、どれだけ長い間戦いを続けても困らないほど、物資に余裕があります!この敵に対して持久戦に持ち込んでも、勝機はありません!ここは機を見て総攻撃に移るべきです!」

みほ「小梅さん、落ち着いてください……このまま睨み合いを続けることは、私とエリカさんで決めたことなんです」

エリカ「そうよ。たかが一武将が、あまり口を出さないでもらえる?」

小梅「そんな……私の意見より、大洗の軍師であるみほさんの意見を取り入れるんですか!?」

エリカ「うるさい!私が水軍都督よ。私の決定に異を挟むことは許さないわ」

小梅「……これまで戦って敵を打ち破れていないのに、何が水軍都督なんですか!?あなたが指揮官では、勝てる戦も勝てなくなってしまいます!」

エリカ「あら、随分言ってくれるじゃない!あなたなんか、この場で斬り捨ててやっても一向に構わないのよ!」

小梅「やれるものなら、どうぞやってみればいいじゃないですか!」

エリカ「な、なんですって!もう許せないわ!小梅、そこに直りなさい!」

小梅「ええ!あなたみたいな腰抜けと一緒に戦うくらいなら、ここで斬られたほうがマシですよ!」

みほ「二人とも、落ち着いて。……ね、エリカさん?」

エリカ「みほ、邪魔しないで!こいつを切り捨ててやるんだから!」

みほ「エリカさん、落ち着いてください……ほら、リラックス、ですよ……」ボソボソ

エリカ「ま、また、みみもとでぇっ……で、でも、負けないんだからぁっ……」

みほ「うーん、なんだか今日のエリカさんは強情ですね……」

小梅「みほさん!今はそんなことをしてる状況じゃないんです!まほさんも、何か言ってください!」

まほ「…………」スッ

エリカ「た、たいちょぉ……?」

まほ「エリカ、落ち着いたほうがいい……ほら、体の力を抜くんだ……」ギュッ

小梅「…………!」

エリカ「しょ、しょんな、両側からだなんて……」

みほ「お姉ちゃん、戦略は持久戦だけど、こっちは電撃戦でいこうね♪」

まほ「ああ、了解だ……すぐに落ちるんじゃないぞ、エリカ……」

ピャァァァァ……

小梅「……わかりました。もうお話しすることはありません。どうやらその意味もないようですので」

エリカ「わ、わらしのけっていは、ぜったいなんだからぁ……」

みほ(おそらくこの軍議の様子は、すぐにカチューシャさんに伝わる。エリカさんが私に篭絡されているという情報はもうカチューシャさんの耳に入っているはずだから、小梅さんが不満に思って寝返りを申し出るのも、自然に思ってくれるはず……)

まほ「なんだ、耳たぶを甘噛みされるのがそんなにいいのか?」

エリカ「は、はひぃぃ……」

みほ(エリカさんの積み上げてきた水軍都督しての名声とプライドをこれ以上もないほど痛めつける、『ずたぼろ作戦』……うまくいくといいけど)

エリカ「こ、これれうまくいからかったら、ゆりゅさにゃいんだからねぇっ……」

――カチューシャ軍・総旗艦――

ミカ「江東水軍副将、赤星小梅からの手紙さ。開けて読むといい」

カチューシャ「いきなりやって来て、手紙を読めだなんて、いったい何なのよ、もう……」

ミカ「赤星小梅はあなたにつく、と言っているのさ」ポロローン

カチューシャ「なんですって?……なーんて、そんなわけないじゃない。カチューシャをたばかるのも、いいかげんにしなさい」

ミカ「あなたはその手紙を信じないんだね」

カチューシャ「そうよ!このカチューシャを騙そうだなんて、百年早いわ!……この手紙、寝返りの約束でしょ?なら、寝返りの日にちが書いていないのはおかしいじゃない!」

ミカ「……そうか。あなたがそう思うのならば、それでいいのかもしれない」

カチューシャ「なによ!?反論があるなら言ってみなさい?」

ミカ「寝返りには、戦場の不確かなすべての要素が詰まってる。でもあなたはそれに気づかないのかい?」

カチューシャ「むぅ……どういうこと?」

ミカ「もし正確な日時を書いて、その日に寝返ることができなかったら、あなたはどう思うかな?」

カチューシャ「寝返りは嘘だったと思うわ」

ミカ「……そう。そうしたら赤星小梅は、江東軍にも戻れず、あなたの所にも行けず……運命に身を委ねるしかなくなってしまう。彼女ほどの立場の人間が寝返るという意味、よく考えてみるといい」ポロローン

カチューシャ「ふーん……たしかに、一理あるわね」

ノンナ「カチューシャ。間者から連絡です」

カチューシャ「あら、何かしら?」

ミカ(どうやら、軍議の様子を伝えに来たようだね)

カチューシャ「わかったわ!寝返り、いつでも受け入れてあげると帰って伝えなさい!褒美は思うがままよ!」

ミカ「そうだね。新しい出会いというのは、喜ばしいものだと思うよ」

ミカ(やれやれ。人生には大切な時が何度か訪れる。……ひょっとすると、今がそうなのかもしれないな)ポロローン

――江東軍本陣――

エリカ「……ねえ!本当に風は変わるんでしょうね!?」

ミカ「風の動きを読むことなんて、出来はしないさ……ただ、話すしかない」ポロローン

エリカ「今さら何言ってんのよ!もう準備は万全の状態なんだから!」

みほ「エリカさん……大丈夫です。風は、きっと変わります」

エリカ「みほ……」

みほ「みんながお互いを信じて、自分にできることを精一杯やってきたんです。……それが理由になるかはわからないですが、きっと、風は変わると思います」

エリカ「はあ……それで変わるなら、苦労しないわよ」

みほ「あはは……そうですね」

エリカ「……みほ。もしこの戦いが私たちの勝利に終わったらなんだけど……」

ミカ「……来たね」ズッチャズッチャ♪

みほ「風が……止んだ?」

ミカ「逆に進みたくなったときは、いったん立ち止まる。風も人間も、同じさ」

ズッチャズッチャ♪ ズッチャズッチャ♪ ……タン!タン!

ミカ「……さあ。皆さんの健闘を祈ります」ポロローン

エリカ「やったわ!風向きが変わった……さあ、行くわよ!江東水軍全艦……PANZER VOR!」

――カチューシャ軍陣地――

ニーナ「あんれ、向こうの陣地から船がやてぐらー」

アリーナ「何とかっていう敵の将軍さこっちさつぐことになったから攻撃すらのっで、カチューシャ隊長言ってただべ?」

ニーナ「そだっけかー、へば大丈夫だべ」

アリーナ「んだ。伝えのきゃ大丈夫だべ」

カチューシャ「そう!やっと寝返るタイミングを得たのね!」

ノンナ「はい。そのようです」

カチューシャ「こっちについた船は、ちゃんと迎え入れてあげなさい!」

ノンナ「了解しました、カチューシャ」

カチューシャ「いいわ!やっと、やっとよ!すぐそこまで天下が迫っているわ!」

ノンナ「どうぞ、天下をお取りください。カチューシャ」

カチューシャ「違うわノンナ!私が天下を取るんじゃない!『私たちが』取るのよ!」

ノンナ「……!……この身は余すところなく、カチューシャのために」

カチューシャ「それにしても、さすが江東水軍。随分と船足が早いわね」

ノンナ「ええ……違います、カチューシャ!軍船にしては、水への沈み方が小さすぎます!あれは……寝返る船ではありません!恐らく……火船です!」

小梅(……よし!ここまで近づけば、もう心配ありませんね)

小梅「全艦、着火!火をつけたら、水に飛び込んで後続の艦隊に拾ってもらってください!」

ニーナ「あぢぢぢ!なんだべ!いぎなり船が燃えだべ!」

アリーナ「早く逃げのぎゃ、大変だ!」

ニーナ「だ、だば、鎖さ絡まって、離れらんねぇ!」

カチューシャ「な、なんてこと!カチューシャの築き上げた完璧な陣が、燃えてるじゃない!」

ノンナ「カチューシャ!危険です!下がってください!」

カチューシャ「認めない、認めないわこんなこと!」

ノンナ「カチューシャ!」

カチューシャ「圧倒的な大軍を用意した。荊州だって戦わずに降参した。風だって長江の流れだって、カチューシャを後押ししていた!なのになんで、カチューシャの陣が燃えているの!?」

ノンナ「カチューシャ!撤退を!」

カチューシャ「嫌、嫌よ!どうしてここまで来て、引き下がらなくっちゃならないの!カチューシャは天下を統一するんだから!」

ノンナ「カチューシャ!……あなたはウラル山脈よりも高い理想と、バイカル湖のように深い思慮を秘めている。ですから、早く!」

エリカ「燃える!燃えている!カチューシャ軍20万が、燃えているわ!」

小梅「エリカさん!」

エリカ「小梅!火計は大成功よ!」

小梅「はい!エリカさん、総攻撃をかけましょう!」

エリカ「もちろんよ!いい!?狙うはカチューシャ!そして……天下よ!全艦、突撃!」

ノンナ「カチューシャ、火は既に、陸の陣までも広がっています!」

カチューシャ「……ノンナ」

ノンナ「はい」

カチューシャ「あなたの身はカチューシャのものなのよね?」

ノンナ「はい」

カチューシャ「命令よ!カチューシャをここから生きて帰しなさい!ただし、カチューシャのものを奪うことは許さないわ!それがあなたの命でもね!」

ノンナ「はい、カチューシャ……騎馬隊、集まりなさい!後方の江陵まで退却します!」

小梅「ダメです!陸にはまだカチューシャ軍の兵士が残っていて、なかなか上陸できそうにありません!」

エリカ「それでも!ここでカチューシャを倒すのよ!」

小梅「ですが、抵抗が激しく……あれは?」

優花里「大洗軍、ただいま参上であります!」

桃「いいか!敵軍を崩したら、後は江東軍に任せろ!我々は直ちに、カチューシャを追撃するぞ!」

優花里「はい!西住殿の掴んだ勝利、絶対に逃がさないであります!」

エリカ「……大洗軍」

小梅「頼りになる、『同盟軍』ですね」

エリカ「ふん!あいつらに後れを取るんじゃないわ!目の前の敵を蹴散らして、私たちもカチューシャを追撃するのよ!」

優花里(こうして、西住殿と逸見殿の策により、カチューシャ軍の南方征伐は失敗に終わりました)

優花里(我々も江東軍も、全力でカチューシャ殿の追撃を行いました)

ノンナ「駄目です。ここは行かせはしません」

優花里「ノンナ殿……どうしても、そこを通してはいただけませんか?」

ノンナ「……わが身は、カチューシャのために」

優花里「その覚悟、受け止めました。はあっ!」

ノンナ「くっ……」

ガキィン!

優花里(さすがはカチューシャ殿の側近、ノンナ殿!……ですが!)

ノンナ(……これが西住みほを連れて、聖グロ軍を単騎突破した、秋山優花里……ですが!)

優花里「西住殿、万歳!」

ノンナ「カチューシャ、ウラー!」

ガキィン!

優花里「……勝負あり、であります。いくらノンナ殿でも、武器が折れては戦えないでしょう」

ノンナ「……この身は余すところなく、カチューシャのために!」

優花里(石を投げて!くっ!)

ノンナ「……隙あり」

優花里(素手で組み付いてきた!?いや、服の繊維を……!)

ノンナ「形勢逆転、です」

優花里「くっ……CQCですか!?……それなら!」

ノンナ「……なっ!」

優花里「私にも、軍隊格闘の心得くらいはあります!」

桃「秋山!待たせたな!」

シュッ!

優花里「河嶋先輩!……ここで外すんでありますか!?」

桃「うるさい!とにかく、こいつを突破すればカチューシャはすぐそこなんだな!?」

優花里「はい!」

桃「そうか!ならさっさと突破するぞ!……何だ!?」

カチューシャ「ノンナー!助けに来たわよー!」

アンチョビ「江陵からの救援は、われらアンツィオ軍だ!」

ペパロニ「うぉぉぉぉ!汚名挽回の機会っすよ!姐さん!」

アンチョビ「バカ!それを言うなら汚名返上だろー!」

ペパロニ「んなもん、どっちだって同じっすよ!舐められっぱなしじゃ終わらない、それがアンツィオ流っす!」



桃「くっ……新手だと!?」

優花里「さすがに、あれを潜り抜けてカチューシャ殿を討つのは無理です!」

桃「だが!あと一歩であのカチューシャを討ち取れるのだぞ!」

優花里「無理です!あと一歩、遅かったのであります!」

桃「……くそっ!くそっ!……無念だ!」

――江東軍本陣――

エリカ「……結局、カチューシャを討ち取ることはできなかったわね」

みほ「ええ……さすがに、素早い退却でした」

エリカ「ねえ。二人でカチューシャ軍を討ち取る方法を言いあった遊び、覚えてる?」

みほ「はい。手にお互いの意見を書くんですよね」

エリカ「もう一度、あれをやってみない?……そうね。自分の軍が次に取るべき戦略を、手のひらに書くの」

みほ「面白そうですね。……やりましょう」

エリカ(ねえ、みほ。もしまた書かれている文字が同じだったら……)

みほ「できました。それじゃ、せーのっ……」パッ

エリカ「みほは『三』」

みほ「エリカさんは、『二』」

エリカ「……私はこの後、江陵を攻めるわ。そして機を見て西方の蜀を奪い取り、カチューシャと南北で天下を二つに分けて、決戦を挑む……『天下二分の計』よ」

みほ「私はカチューシャさんが退却した荊州南部を攻めて、大洗軍の根拠地にします。……そして、蜀を手にして、大洗軍と江東、そしてカチューシャさんの三者で天下を分ける……『天下三分の計』です」

エリカ「そう。それじゃ、きっと次に会うときは敵同士、ね。正々堂々、叩き潰してあげるんだから」

みほ「はい。私の方は、正々堂々と戦えるかわからないですけど」

エリカ「ふん。あんな弱小軍なんかより、江東軍に仕えればいいのに」

みほ「それなら、エリカさんが大洗軍に来てくれてもいいんですよ?」

ニシズミドノー! ムカエニキタデアリマスヨー!

エリカ「それじゃ、みほ。また会いましょう」

みほ「ええ。また、いつか」

みほ「三国志です!」 完

以上で終了です。
初SSでしたが、なんとか完結できました。
読んでいただき、本当にありがとうございました。

もう完結か はやいな
面白いし続けてくれてもいいのよ?

>>172
ありがとうございます。
ただ、結構時間が空きそうなのでいったん完結します。
みほ「三国志です!」三国鼎立編 もぜひお読みください。

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