『兎と亀』(10)
昔々或る所に二匹の獣がいた。
親を殺され一人で歩いていた兎を、亀が引き取り親代わりに育てること数年。
その後のことであったと云う。
兎「亀よ、貴様の遅速には最早耐えられぬ」
兎「この上は袂を分かち、別々に己の道を極めよう」
亀「我が朋友よ、如何がしたのか」
亀「私が遅速であるのは神代からの理、然しこれまで上手くやっていたではないか」
兎「ええい、亀よ、貴様のその向上心の無さが俺を苛立たせるのだ」
兎「日々の努力を保って超えられる壁もあろうというもの」
兎「にも関わらず、鍛錬無き貴様と同列に扱われることは最早我慢ならぬ」
兎「悪いが出て行く」
亀「出て行くというのならば止めはせぬ。達者でな」
画して兎は己の速さに磨きをかけるべく一人修行の旅に出ることとなった。
一年の修行の末に兎は遂に神速を手に入れ意気揚々と亀の元へと帰った。
此の兎、性格が尖っていて同族とよろしくやることなど無理な話であったのだ。
兎「亀よ、帰ったぞ。我が神速をご覧あれ」
兎は一言告げると颯と水面の上に立ち一陣の風の如く水面を渡った。
亀「おお、もう一度見せておくれ。素晴らしき技かな。流石、我が朋友だ」
そう告げた亀が水面の上をスイスイと泳ぐので、もう堪らないのは兎である。
兎「なんと、我が一命を賭した技を既に会得していたとは」
兎「鮫に追われ島へと渡る修行も貴様を感嘆させるには不十分であったようだ」
生来せっかちに出来ている兎は一言そう告げると再び修行の旅へと出てしまった。
ニ年の修行の末兎は今度こそと雷速を手に入れ舞い戻った。
此の兎、修行に付きあわせた兎を蹴り殺していよいよ居場所など無くなっていたのである。
兎「亀よ、帰ったぞ。我が雷速をご覧あれ」
兎は一言も告げぬ内に濤と土を蹴ると、忽ちに二つ先の山にある花を摘んできた。
亀「おお、最早これは兎の技にあらず。中華見渡してもこれほど速い兎はいようか、いや、いまい」
亀も思わず反語を使うほどの速さ、しかし兎は目敏く亀家に飾ってある仙桃を見つけた。
兎「や、や、や」
兎「それは仙桃ではないか」
亀「如何にも仙桃であるが、どうかしたか」
其の亀は長寿と徳の高さから蟠桃会にて西王母から仙桃を賜ったのだ。
無二の親友たる兎がそろそろ帰ってくるだろうと大事に取っておいたのである。
兎「なんと、我が一族を賭した技すら貴様は凌駕するのか」
此の兎、走ることばかりに考えが傾き、すっかり視野が狭まっていたのである。
兎は再び土を蹴ると崑崙山の麓にあるはずの仙桃を求めて駈け出した。
然し、此の兎、仲間と不和に陥った挙句蹴殺す大悪党、当然山に入ること能わず同じ場所をくるくる回るばかりであった。
三日三晩、走り続けた兎、遂に諦めて、亀の元へと戻り、一言、告げた。
兎「首を洗って待っておれ」
三年の修行の末、遂に兎は超えられぬ速さを身につけ亀の元へと現れた。
此の兎、神の光届かぬ太陽系の外へと飛び出し、はぐれ彗星と仲良くした責を問われ神から破門されていたのである。
兎「亀よ、帰ったぞ。我が光速をご覧あれ」
亀が一と数える間に眼前を左から右へと翔ること七度、いよいよ亀は大喜びである。
亀「嗚呼、嗚呼、最早言葉も出ぬ。感嘆する他無い」
兎「我が光速を超えることはできまい。見よ、我が向上心は遂に超えられぬ壁を見たのだ」
兎「では、我が速さを知らしめるべく、競争を行おう」
亀「もう十分では無いか。朋友の努力は既に神々にまで悪名轟いているではないか」
兎「いや、貴様との勝負でこの修業の締め括りとさせていただく」
兎「それでは明朝、沼の畔で待つ」
明朝、沼の畔。
脚を持つ全ての生物が集まり、二人の行く末を見守ることとなった。
兎「準備は良いか」
亀「いつでも宜しい」
兎「それでは、お先に失礼」
兎は脱兎の如く駆け出した。
超えられぬ壁を超えるために。
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兎が戻ると、亀はいつも通り暮らしていた。
亀「朋友よ」
亀「遅かったではないか」
兎「いいや、間に合ったのだ」
兎「亀は萬年という神代の理に縛られ」
兎「日々彼奴が死んだ此奴が死んだと嘆いておった」
兎「友を失う悲しみから貴様を救ってやったぞ!!」
兎「然し、疲れた、暫し、休みを・・・」
兎は斃れると、目を開けたまま動かなくなってしまった。
亀「やれやれ、やはり貴様の方が早いではないか」
亀「我が朋友よ、私の孤独と絶望、そして向上心の無さが、お前を一人にさせてしまったなあ」
亀「今度こそ、永く、永く、共にあろう」
亀は目を瞑ると、二度と動くことは無かったという。
了
なんだろう……なんか、うん
感動……なのか、これは……?
かっこいい(小並感)
いやーちんこ日和やね
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