時子「アァ? 法子がドーナツを食べないですって?」 (37)

【モバマスSS】です


――――プロダクション、事務室前廊下

時子「帰ってきてみたら妙に騒がしくて気になってはいたけれど……ククッ、冗談にしてももっとまともなことを言いなさい、涼」

涼「いや、冗談とかじゃなくて本当なんだって。皆それですごい心配しててさ」

時子「あの法子よ? ドーナツのために生きているようなあの子が、ドーナツを食べないなんてありえないわ」トントン

時子「そうね……それこそ空から鮫なり鯨なり、そういった生物が降ってくるような荒唐無稽な話ではなくて?」

涼「いや、そこまでのことじゃないと思うけど……とにかく時子サンが帰ってきてくれてよかった。ちょっと様子見てあげてよ」

時子「……なぜこの私が、そんなことをする必要が?」

涼「え? だって法子の保護者みたいなもんだよね時子サン?」

ピシィ!

涼「いたっ!?」

時子「誰が、なんですって……? くだらないわね、私は別にあの子のなんでもないわよ。保護者なんて馬鹿らしい」ヒュンヒュン

涼「うぅ……鞭は勘弁してよ」

時子「鞭は当ててないでしょう? 今のは鞭を振った時に出る衝撃波を軽く当てただけよ」

涼「えぇ……ともかく、法子が一番なついてるの時子サンだし、保護者じゃないにせよちょっとは心配してあげなよ」ジッ

涼「その手に持ってるのドーナツでしょ? そういうお土産持って帰って来るくらいなんだしさ!」


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※財前時子様
http://i.imgur.com/j3cjKGA.jpg

※松永涼
http://i.imgur.com/zxO0v9M.jpg

期待


時子「……は? お土産? 何を言ってるの貴女」

涼「え、違うの?」

時子「……これはそんなのじゃないわ。今日、仕事先でどこかの会社の部長をしてるとか言う男が、私に不埒な行為をしようとしてね」

涼(命知らずだなその人……)

時子「スポンサーなんだから少しくらい、なんて巫山戯たことを口にするものだから、わからせてあげてたのよ」

涼「それで……?」

時子「そうしたら泣いて謝ってこれを渡してきたのよ。どうやら私がドーナツ好きと聞いたらしくて、お詫びの品らしいけれど……」

時子「……ほんと、面白いことを言うものだからもう一度きっちりお仕置きしてあげたわ。誰がドーナツ好きよまったく」

涼「あー、そりゃ災難だったね時子さん……。でも、だったらわざわざ受け取らなくても良かったんじゃ?」

時子「……それでもよかったんでしょうけど、うちにはドーナツを処理する適任がいるでしょう? それを思い出しただけよ」

涼「それをお土産って言うんじゃ――」

ピシィ!

涼「ひゃっう! ああもう、そうでしたお土産じゃなかったんでした!」

時子「分かればいいのよ分かれば。食べ物をすぐにゴミにするよりは遥かにマシでしょう? それだけよ。深い意味はないわ」


涼「まぁなんでもいいからソレ持って早く法子のとこに行ってあげてよ。時子サンならなんとか出来るだろうしさ」

時子「チッ……まぁいいわ。涼に頼られるのも、なかなか気分がイイわね。それで、法子はどこにいるの?」

涼「事務室に入ってすぐのソファーでぐったりしてるよ。今は小梅が側についてる」

時子「ふんっ……どうせなにかの間違いでしょう――」ガチャッ

ドタンッ!

時子「法子!」

法子「わひゃあ!? わ、わわっ、時子さん!? あっ、えと、お、お帰り、なさい……」

小梅「び、びっくり、した……あ、涼さん」

涼「小梅、お疲れ。あとは時子サンがなんとかしてくれるからそこから一旦離れな」

小梅「う、うん……分かった」スッ

法子「そ、それで時子さん……あの、あたしになにか用なのかな?」キョロキョロ

時子「……どうしてこっちを見ないのかしら? いつもの貴女らしくないわよ」

法子「え、そ、そうかな? あたしはいつもどおりだよ! えへっ!」

時子「……わざとらしいのよ。聞けば貴女、ドーナツを食べてないそうね? どうしてなのかしら」

※椎名法子
http://i.imgur.com/IJDDX79.jpg

※白坂小梅
http://i.imgur.com/2sqo5Uz.jpg


法子「えっ、そ、それは……」

時子「とりあえず、仕事先でドーナツを貰ってきてしまったから、これを食べなさい。話はそれからに――」

法子「い、いらないっ!!」バシッ

時子「……は?」

法子「あっ、ち、ちが」

小梅「……わぁ、映画の修羅場みたい……」

涼「おいおい、法子が時子サンからのドーナツ貰わないなんて、いよいよ大変なことになってきたんじゃ……」

時子「……法子?」フルフル

法子「ち、違うの! 時子さん! これにはわけがあって! だからその……」

時子「――ちひろ!」

キュオオン

ちひろ「はいはい、なんでしょう」スタッ

涼「うわっ!? ちひろサンがいきなり目の前に!?」

ちひろ「いやですねぇ涼ちゃん。私は先程からそこにいたじゃないですか?」ニコッ

※千川ちひろ
http://i.imgur.com/TjheXoP.jpg


涼「えっ、あれ、そうだっけ小梅……?」

ちひろ「そうでしたよね小梅ちゃん」ニコッ

小梅「え、あ……そう、だったと……思います……?」

涼「ん……小梅がそう言うなら、そうなのか……な?」

ちひろ「ええ、勿論ですよ。それで時子ちゃん、私をいきなり呼び出して何のご用でしょう?」

時子「法子が重病よ、貴女の集められる限りで最高の医者を用意しなさい。闇医者でもなんでもいいわ、今すぐに!」

ちひろ「はぁ……でしたら崖の上の一軒家に住む凄腕の方などにご連絡しましょうか? かなり高額になりますが……」

時子「それでもいいから早く!」

ちひろ「では……」

法子「ま、まって違うの! 時子さん早まっちゃだめ!!」

時子「じゃあどうしてドーナツを食べようとしないの!? どこが具合が悪いんでしょう!? それとも怪我をして……!」

法子「だからこれは……明日のドーナツ食べ放題のために我慢してるだけなんだってばぁ!」

時子「……なんですって?」

法子「うぅ、どうしてみんなあたしがドーナツ食べないだけで大騒ぎしちゃうの……?」グスッ


時子「それはだって……ともかくどういうことか説明なさい」

法子「うん。あのね、あたしがよく行ってるドーナツのお店、時子さん知ってるよね?」

時子「時々貴女に引っ張られて連れて行かれるから覚えてるわよ。それで、そこがどうかしたの」

法子「驚かないでね? そのお店のいくつかの支店で、この前からドーナツ食べ放題のサービスが始まったの!!」ドヤァ

涼「あー、そういえばそんなニュース見たような……」

時子「あらそう。それが今回の話とどう繋がるのかしら」

法子「そ、それでその……昨日やっとそのサービスの予約が出来て、明日ドーナツ食べ放題に行くんだけど……」

ちひろ「なるほど、食べ放題の時にめいいっぱい食べられるように、今日はドーナツを食べないことにしたんですね?」

法子「そういうことなの! かな子ちゃんからも、少し我慢した後に食べれば、いつもよりももっと美味しく感じるって聞いて……」

時子「……」

法子「……時子さん?」

時子「はぁ~……」ドサッ

法子「わわっ!? 時子さん大丈夫!?」

涼「ソファーにうずくまる時子サンってすごいレアだな……」


小梅「……ちょっとした、衝撃映像……?」

時子「法子……どうしてそのことをもっと早く言わないの……」

法子「い、言おうとしたんだよ!? でも今日かな子ちゃんがドーナツを作ってきてくれて、それを受け取らなかったら驚かれて」ションボリ

法子「そこから周りにいた子達にまで色々心配されて、みんなプロデューサー呼びに行っちゃったから……言い出せなくて……」ションボリ

時子「……なるほど、よく分かったわ。かな子はあとで躾けるとして……豚はこんな時になにをしてるのよ」

小梅「プロデューサーさんなら……愛海ちゃんに関することで、い、色々しないといけないって……言ってた……」

ちひろ「そういえば明日は……」

時子「どうでもいいわ、豚にはきついお仕置きが必要ね。とにかく、ドーナツを食べない理由は本当にそれだけなのね法子?」

法子「う、うん……」

時子「身体の調子が悪いとか、そういうわけでもないのね?」

法子「ドーナツを我慢することがこんなに辛いことだなんて思わなかったからちょっと苦しいけど、大丈夫だよ!」

涼「ぐったりしてたのはドーナツを我慢してたのが原因なんだな……」

時子「……けど、そう、身体に問題があるわけじゃないのならそれでいいわ……まったく、人騒がせな子ね貴女は」

法子「ごめんなさい……でも、えへへ♪」ニコニコ


時子「なにを笑ってるのよ」

法子「時子さん、心配してくれてありがとう♪」

時子「……」デコピンッ

パチッ

法子「あぅ」

時子「冗談もほどほどにしなさい。誰が貴女の心配なんて……」

涼「いやー、今更それはないでしょ時子サン。な、小梅」

小梅「う、うん……誰がどう見ても、心配してた……」

ちひろ「私を呼ぶくらい慌ててもいましたからね」

時子「っ~~~~!!!」ヒュンヒュンヒュン!

パシッ

ちひろ「八つ当たりで鞭を振るうのは危ないですよ?」ニコッ

時子「……チッ! ああもう! 当たり前のように鞭掴むんじゃないわよちひろ!」シュルル

小梅「す、すごい……」


法子「時子さんの鞭止められる人初めて見た……あっ、そうだ時子さん! このお土産のドーナツなんだけど」ゴソゴソ

時子「没収よ」バシッ

法子「えっ?」

時子「いらないんでしょうならもう貴女にはあげないわ。ちひろ、これを仁奈辺りが来たら配っておきなさい」

ちひろ「はい分かりました」

法子「ええー!? なんで、なんで時子さん!? あたし明後日にはちゃんと食べるからーっ!」

時子「ふんっ……私の慈悲はその場限りよ、次も、先延ばしもないわ。調子に乗らないことね」

法子「そんなぁ……!」グスッ

小梅「(す、拗ねてる……?)」ヒソヒソ

涼「(拗ねてるなありゃ)」ヒソヒソ

ちひろ「まぁまぁ法子ちゃん。時子ちゃんは『いつ』仁奈ちゃん達にこれを渡すのかまでは明言しませんでしたから」ニコッ

ちひろ「つまり明後日仁奈ちゃん達にこれを配る時、偶然法子ちゃんがそこにいて私が渡してしまったとしても問題ないんですよ」ナデナデ


法子「そ、そういうことなの……!?」

時子「なっ……ちひろ貴女なに馬鹿なことを言って――」

法子「わーいっ! やっぱり時子さん優しい! ありがとー♪」ギュッ

時子「あっ、こら抱きつかない!? ぐっ……この」ガシッ

法子「えへへー♪」ギュー

時子「…………チッ、もういいわよ、面倒ね。ちひろ、これは貸しにしておくわよ」

ちひろ「構いませんよ、ふふっ」

時子「……まったく」

涼「なんか、すごい光景みてる気がする……」

小梅「法子ちゃん……よかったね」

法子「うんっ!」ギュー

時子「……いい加減離れなさいよ貴女」


――――翌日、駅周辺、車内

パラパラッ パタンッ

時子「……予定の仕事はこれで全て終わりね……まったく、豚と来たら今日休みを取るなんてなにを考えているのかしら」

運転手豚「まったくですな。時子様にお仕え出来るというこの世で最も幸福なことを放棄するなど私めには理解が」

時子「人語を口にする許可を出した覚えはないけれど?」

運転手豚「ブヒィ!」

時子「よろしい……それにしても」チラッ

ププッー ブロロロ プスンプスン

時子「今日はやけに道が混んでいるわね……どうしたというの?」

運転手豚「ブ、ブヒ……」

時子「なに? 会話を許可するわ」

運転手豚「ありがとうございますブヒィ! おそらく、今日は駅の周辺でお祭りをしているのが原因かと」

時子「祭り?」

運転手豚「はい。かなり大規模のようで、交通規制もかかっていますから、そのためにここまで混雑しているものと……」


時子「そうなの」

運転手豚「それで、たいへん申し上げにくいのですが……プロダクションに向かうための最短経路も規制のため使うことが出来ず……」

時子「……なるほど。普段よりも着くのが遅いのはそれが原因でもあったのね……いいわ」ガチャ

運転手豚「と、時子様!? なぜ降りられるのでしょうか!?」

時子「この様子なら、もう車より歩いたほうがプロダクションに早く着くと判断したまでよ。動かない車内にいるのは苦痛だわ」

運転手豚「も、申し訳ありません!!」

時子「謝らなくていいわ。貴方は貴方の出来る仕事をした、それで十分よ」

運転手豚「ブヒィイイイ!」ダバーッ

時子「喜びのあまり泣くなんてよく出来た豚だこと……ではまた明日、よろしく頼むわね」バタンッ

時子(……さて。夕方だから多少涼しいのはいいけれど、人がかなり多くて鬱陶しいわね……)

ワイワイガヤガヤ

時子「……チッ、駅前はただえさえ混むのに、お祭りなんてどうしてするのかしら……理解が出来ないわ」

涼「――あれ、時子サン!?」

時子「アァン? ……って、涼じゃない。それに小梅も。なにをしているの? 浴衣まで着て」


小梅「お、お祭りに……今から、行くの……」

涼「プロダクションから一番近い駅でやってるから、どうせならと思ってさ。衣装の浴衣借りちゃったんだ」

時子「それ衣装だったの……アイドルがなにしてるのよ」

涼「今さっき、すさまじい高級車から降りてきた人に言われると微妙に反応に困るんだけど……」

時子「あれは運転手まで含めて私の所有物だからいいのよ。それよりも、本当にお祭りに行くの?」

涼「そりゃそのためにここまで来たからね。それに時子さん、今はプロダクションに戻らないほうがいいよ」

時子「どういうことかしら?」

小梅「……心さんからのメール、見た……?」

時子「あぁ、あの愛海がどうとかっていう……」

涼「アタシと小梅が戻った時には収まってたんだけど結構派手なことがあったらしくて、その対応でプロデューサーサン達大変そうでさ」

時子「……あの豚、今日休みを取っていたはずよね? なにがあったらそうなるのよ」

涼「さぁ、アタシも詳しくは……この浴衣貸してもらうのも、結構申し訳なくなるくらいだったし……」

時子「まぁいいわ。こっちに連絡する必要があることなら、その内ちひろ辺りからなにかあるでしょう」

涼「だね」


時子「けど参ったわ……プロダクションがそんなことになっているのなら、素直に家に帰れば良かったようね」

小梅「そういえば時子さん……ど、どうして車から降りてまで……」

時子「……心のメール内容がちょっと気がかりだったから、様子くらいは見に行こうかと思っただけよ」

涼「へぇ……それはそれは」

時子「でも、その必要もなくなって……車に戻るにしてもいつの間にか移動してしまっているし、どうしたものかしら」

小梅「だ、だったら……一緒にお祭り、行きませんか……?」

涼「小梅!?」

時子「あらあら、珍しい子からお誘いが来たわね」

小梅「この前、涼さんと一緒にお仕事されてた時のお話……聞きたい、から……」キラキラ

時子「なるほど、そういうこと……」

涼「でも小梅、時子サンは多分あんまりお祭りとか――」

時子「いいわよ」

涼「えっ!?」

時子「なによ涼、そんな驚いた顔して」


涼「い、いや意外な返事が来たと思ってさ……」

時子「まぁ確かにこれだけの人混みを歩くのは、あまりいい気分がしないけれど……それ以上に重要なことがあるわ」

涼「それは……?」

時子「涼、貴女昨日、私を辱めたわよね?」

涼「へっ!? いや、そんなことしてないはずだけど……」

時子「とぼけても無駄よ。私が法子の保護者だとか、あの子のことを心配しているとか巫山戯たことを言っていたじゃないの」

涼「いや、だってそれは事実――」

時子「だから私も貴女が大事にしている子に、この前の仕事の時に貴女がしていた恥ずかしいことをあることないこと全て話してあげるわ」

涼「ちょっと待って!?」

小梅「わ、わーい……!」キラキラ

涼「小梅も喜ぶなよっ!?」

時子「ふふっ、そういう素直な反応は私の好みよ。さ、行きましょう小梅。まずはなにから話すべきかしら……」スタスタ

小梅「な、なんでも……! なんでもいいです……!」スタスタ

涼「あ、ま、待って! 二人とも待ってくれー!?」タタッ


――――しばらくして、駅前広場

時子「――と、いうこともあったのよ」

小梅「へ、へぇ……そうだったんだ……涼さん?」ニコニコ

涼「うぅ……小梅の視線が生暖かい……///」

時子「っと、そんなことを言っていたら駅前ね……これはまた、いっそう賑やかだこと」チラッ

ワイワイガヤガヤ

「「「ワッショイ!」」」「「「ワッショイ!」」」「Wasshoi!」「「「ワッショイ!」」」「「「ワッショイ!」」」

ドォンドンドコドコドォン! ドコドンドコドコダダダダッ! DOOOM!! ダカダカドンドコドンドンッ!

涼「神輿の行列とカーニバルのパレードがほぼ近い場所で移動してる……壮観だ……」

小梅「ね、熱気が……すごいね……」

涼「けど、見物客も多いしはぐれないようしないと……ほら小梅。手、握りな」

小梅「う、うん……!」ギュッ

時子「……私のことを保護者だなんだと言ったけれど、貴女のほうがよっぽど保護者って感じよ涼?」

涼「えっ? そうかな……アタシとしてはそんなつもりじゃないんだけど」


小梅「涼さん、いつもこんな感じ、だから」

時子「……もはや何も言わないわ。それにしても、プロダクションから近いせいか、他にも見慣れた顔がチラホラ見えるわね」

涼「ホントだ……ははっ、里奈と拓海も来てたのか。あとで挨拶くらいには――」

小梅「あっ……!」パァァ

涼「ん? どうした小梅?」

小梅「りょ、涼さん……! あ、あそこ……!」

涼「どれどれ……へぇ、こいつは驚いた。輝子と幸子まで来てたんだ」

小梅「あの感じだと……幸子ちゃんが輝子ちゃん引っ張ってきたみたい……ふふっ」ニコニコ

時子「……仲の良い子でも見つけたの?」

涼「そうなるかな。しかもこういう場所に来るのはかなり珍しい子までいてさ」

時子「なら会いに行くと良いわ」

小梅「えっ、で、でも時子さん……」

時子「話すべきことは一通り話してしまったから、これ以上は一緒にいる必要もないでしょう。私は適当な所で帰る気でもあったし」

涼「ホントあれは勘弁してほしかったけど……時子サンがそういうならお言葉に甘えさせてもらうよ」


時子「ええ、好きなようになさい」

小梅「あ、ありがとうございます……そ、それじゃあ涼さん、輝子ちゃん達のとこに、行こっ……!」グイッ

涼「ハハッ、焦るなって小梅! それじゃ時子サン、人が多いから気をつけて!」

タタタッ

時子(気をつけるのは私ではなく周りのほうなのだけど……言っても詮無いことね)フゥー

時子(小梅に色々話すことで涼への意趣返しも済んだ以上、ここに留まる必要もない……帰りましょうか)チラッ

時子(折角だからなにか買っていこうかとも考えたけれど、屋台如きが私の趣味に合うものを売っているはずも――うん?)ジーッ

チャラ男「――」

法子「――」

時子(気のせいかしら……今一瞬、法子のような子に話しかけてる男が見えた気がするけれど……)

時子(いえ、まさか……考えすぎよ。こんなことを知られたらまた妙な話が広まってしまうわ……でもやっぱり……)ジーッ

チャラ男「――」サスサス

法子「――」

時子(あのいけ好かない男に気安く触られてる子、どう見ても法子にしか見えないわね……まさか、ね……けど)ツカツカ


法子「――」フラフラ

ヤンキー「――」ベタベタ

時子(……やっぱりあれはどう見ても法子よ! そして今あの子は連れて行かれようとしている……!)ツカツカ

チャラ男「――」ニヤニヤ

法子「――」フラフラ

ヤンキー「――」ニヤニヤ

時子「……チッ! あの子はどうして本当に……法子っ!!」シュルル

チャラ男「へっ? あんただ」

ヒュパァン!

チャラ男「ウゲエエエエ!?」ジタバタ

ヤンキー「な、なんじゃこ」

ヒュパァン!

ヤンキー「ギャアアアア!?」ジタバタ

法子「あ、れ……? うぷ……時子、さん……?」フラフラ


時子「法子! 相変わらず貴女はなにをしているの! こんな連中に連れて行かれそうになるなんて……!」

法子「連れてかれる……? ち、違うよ時子さん……うぷ、ええとね、この人達は……うぅ……」フラフラ

チャラ男「いっつうう!? な、なんすかあんたいきなり!? こっちは人助けしようとしてたんっすよ!?」

時子「人助けですって……?」ギッ

ヤンキー「アンダコラァ! 信用できねえって面してんなテメェ!? ンダテメェ!!」

時子「……法子、今から私の質問に正確に答えなさい」

ヤンキー「オイコラ無視すんじゃ」

ヒュパパパァン!

ヤンキー「ンギブギイイイイ!」ジタバタ

時子「まず、どうして法子はそんなに気分が悪そうなのかしら?」

法子「わかんない……ドーナツ食べ放題が終わってしばらくしてから急に気持ち悪くなって……」

時子「……ドーナツはいくつ食べたのよ」

法子「100個くらいかなぁ……?」

時子「……法子、ドーナツが好きなのは分かるけど、それはいくらなんでも食べ過ぎよ。気分が悪くなって当然だわ」


法子「ごめんなさい……」

チャラ男「っう! おいあんたいい加減にしねえと」

ヒュパパパァン!

チャラ男「フギィイイイイ!?」ジタバタ

時子「それで、ドーナツ食べ放題に行っていた貴女がどうしてこんなところにいるの」

法子「気持ちが悪くなったから……寮に帰ろうとしたんだけど……うう……人がいっぱいで歩くのきつくなっちゃって……」

法子「動けなくなったからここで休んでて……そしたらこの人達が声をかけてきたの……」

時子「どんな風に声をかけてきたの?」

法子「ええっと……『キミ、可愛いね』とか、『大丈夫?』とか『向こうのほうで休もうぜ』とか……」

時子「……よく分かったわ。では次に地面に這いつくばっている貴方達に聞くわ……法子になにをしようとしたのかしら?」ギロッ

チャラ男「ヒッ!? お、オレ達はただ、その子がただ元気なかったからこりゃ良い……じゃねえ心配になっただけっすよ!!」

ヤンキー「ホテルの涼しい部屋で気持ち良くさせりゃあ、オレ等だって気持ち良くなったのにテメェが……!」

時子「……あらそう。言い方は頑張ってるけれど、善意なんてものはなく、邪念しかなかったと考えて良さそうね?」

ヤンキー「ハァアアア!? ザッケンナテメェ! 難しいこと言ってんじゃねえぞテメェ!」ガバッ


チャラ男「邪念っ!? 俺らは人助けしようとしたんすよ!? んで手を出すくらいの役得あったっていいじゃないっすか」

法子「て、手を出すって……うぅ///」

時子「……もう結構、口を閉じなさい。貴方達が人の言葉を使おうとする度に頭痛がするから」

ヤンキー「テメェいい加減に――」

チャラ男「調子乗ってんじゃ――」

時子「口を」ヒュパッ

パァアアアン!!

時子「閉じろと」ヒュパッ

パァアアアン!!

時子「言ったのよ!」ヒュパパッ

パパパッァアアアアン!!

ヤンキー豚「ブヒィイイイイイ!!?」バタンッ

チャラ男豚「ブギィイイイイイ!!?」バタンッ

時子「……聞き分けのない豚達だったわ。法子、大丈夫?」


法子「う、うん……時子さん、あの……また、迷惑かけて……」

時子「ふんっ……今更殊勝になったところで遅いわよ」

法子「うぅ……」グスッ

時子「……でも、無事でよかったわ。何かある前に見つけられてよかった」

法子「時子さん……えへへ、ありが――うぷっ……」フラッ

時子「……とりあえず休んだほうがいいのは事実みたいね。はぁ、ホントに貴女は……」

法子「えへへ……」

ワイワイガヤガヤ

「なんだあれ」「なにかの撮影?」「男の奴らの様子やばくないか?」「アヘってる……」

「てか鞭持ってる女性見覚えが……」「隣りにいる女の子ってもしかして……」

ワイワイガヤガヤ

法子「と、ところで時子さん……どうするの、お祭りの最中だからこのままじゃ人がいっぱい集まって……うっ……」

時子「大丈夫よ。どうせそろそろ――」

ちひろ「はーい、現在この場所は特別な撮影を行っておりまーす!」


法子「!?」

バタバタ

黒服A「……」ゴソゴソ

黒服B「……」ガシガシ

黒服C「……」ダダダッ

「撮影?」「あれ、いつの間にかカメラあるし!?」「え、うそじゃあやっぱりあの二人って!!」

法子「ちひろ、さん……?」

ちひろ「どうも、法子ちゃん。この後の処理のほうは私と専門のスタッフで行っておきますから、心配は不要です」

時子「アイドルが遊びに来るお祭りだから予想していたけど、やっぱり人員を配置してたわね、ちひろ」

ちひろ「けどもう勘弁して下さいね? せっかく仁奈ちゃんと買い出し中だったのに、ここに寄り道してみたらこの騒ぎなんですから」

時子「あらそう、それは悪かったわね、仁奈は?」

ちひろ「拓海ちゃん達を見かけたのでそちらに合流してもらいました。はぁぁ……これだけの人数に目撃されては、情報操作が……」

時子「昨日の貸しはこれでなしにしてもらって構わないわ。ところでちひろ、買い出しをしていたなら薬を持ってないかしら」

ちひろ「はい? ……ああ、なるほど、胃薬ですね」ゴソゴソ


ちひろ「ありました。消化を助ける胃薬と、お水になります、どうぞ」スッ

時子「感謝するわ。ほら法子、気持ち悪いならこれを飲んでおきなさい」

法子「はーい」ゴクッ

ちひろ「さて、私は後処理を進めていきますので……頼みますからもう騒ぎは起こさないでくださいね?」

時子「それは法子に言ってちょうだい」

法子「と、時子さんと一緒だから、もうなにもないってば!?」

ちひろ「ふふっ、そうですね。お二人が一緒なら大丈夫でしょう。それでは失礼します」ペコリッ

時子「……まるで私が法子といるほうが良いみたいに言われたわね……勘弁してほしいわよ……」

法子「でもあたしは……時子さんが隣にいてくれるほうがいいなぁ……」

時子「はぁ? どうしてよ」

法子「時子さんと一緒ならなにがあっても大丈夫って安心するし、楽しいし……それに」

時子「それに?」

法子「時子さんなら、あたしが食べ過ぎて気持ち悪くなっちゃう前に怒ってくれたと思うから♪」

時子「……」デコピンッ

パチッ

法子「あぅ」


時子「そういう自己管理が出来ないのはアイドルとして問題ありよ法子。いつでも私がいるわけではないのよ?」

法子「あっ、そ、そうだよね……」

時子「……次からこんなことがないように、特訓してあげることは出来るけれど……」

法子「……っ! 時子さん……!」パァァ

時子「くっ、その嬉しそうな顔やめなさい冗談よ。どうして私がそんな面倒なこと――」

法子「やったー! じゃあ今度は時子さんとあたしの二人分でドーナツ食べ放題の予約入れておくから、その時特訓してねっ♪」

時子「聞きなさい……というかなんですって!? 貴女こんなことがあってまた食べ放題にいくつもり!?」

法子「うん!」

時子「あのねぇ……」

法子「……あっ、薬が聞いてきてちょっとは楽になってきたかも……時子さん、せっかくだしお祭り見ていこうよ!」

時子「何を言ってるの? 貴女はもう寮に帰って休むべきで――」

法子「少しだけだからっ! ねっ♪ ねっ♪」ニコッ

時子「……はぁ、もうこうなったら法子の好きになさい」

法子「わーいっ♪ それじゃあ時子さん、あっちのお神輿の行列見に行こっ!」ギュッ

時子「……チッ……本当に……」フフッ

――自覚なく笑みを浮かべた時子は、この後結局法子に付き合う形でお祭りを楽しみ、その場面を目撃した他のアイドル達に
しばらくそのことで弄られ続けるのであった。

〈終〉

ミスタードーナツでドーナツ食べ放題結構お腹にくるのと駅前のお祭りを見て思いついたネタ
他にはこの前のイベントで時子様と涼さんのユニット見た感想が、二人共13歳の子に弱いよな……だったので
読んでくださった方ありがとうございました

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この2人はええのう
朗らかな気分になる

法子可愛すぎブヒィィイ

ブヒ!フヒヒ!ぶひぃ!

otu
ngo

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