気が付いたら俺とウェッジは見知らぬ森の中で寝転んでいた。
何がなにやら全く分からないがひとまず状況整理としよう。
俺の名前はビックス。横で今なお目を回してるのは部下のウェッジ。
俺達は偉大なるガストラ帝国の兵士で、
ある任務の為に魔導アーマーに乗って炭鉱都市ナルシェへとやってきていた。
「はっ! 魔導アーマーは!?」
乗っていた魔導アーマーがないことに気付き、慌てて辺りを見回す。
すると真後ろにて逆さまに転がっている2台の魔導アーマーが目に入った。
よかった。1台ウン百万ギルもする魔導アーマーを紛失したとなればクビどころでは済まない。
ん……待てよ?
そういえば俺とウェッジ以外にもう一人、娘がいたはずだ。
もう一度辺りを見回すがどこにも娘の姿はいない。
記憶に間違いがなければ娘も魔導アーマーに乗っていたはずだから……。
このまま娘が見つからなければどちらにせよ魔導アーマー1台を紛失してしまったことになる。
いや、魔導アーマーよりもあの娘だ。
魔導アーマーは替えが効くがあの娘は1人しかいない。
魔導の力をその身に宿しているとかでケフカにやたら気に入られていたから……
あの娘に逃げられたとなるとケフカに殺されかねない!
これはえらいことになった。とにかくウェッジを起こそう。
おいこら起きろ。
「うーん……カレーライスが食べたい! むにゃむにゃ……」
なに寝ぼけてやがる。起きろったら起きろ!
「はっ! こ、ここは……? アッ、ビックス殿!」
「やっと起きたか。おいウェッジ、ここがどこだか分かるか?」
期待はしてないが一応聞いてみる。
ウェッジは目を擦りながらキョロキョロして、
「分からないであります」
だと思ったよ。
俺達は炭鉱都市ナルシェに隠されているという
氷漬けの幻獣を確保する為に、あの娘を連れて派遣させられた。
ナルシェはガードや番犬によって守りを固められていたが
あの娘と魔導アーマーの力によって俺達は苦もなく炭鉱へ進むことが出来た。
「そしてあのかたつむりと戦いましたね」
「ああ、かたつむりと戦った」
カラに強力な電流を蓄えるという伝説のバケモノ……。
あれは強敵だった……。
というかあの時ウェッジ、俺に対してめちゃくちゃタメ口きいてなかったか?
「気のせいですよ」
その後、炭鉱の奥で俺達は氷漬けの幻獣を発見した。
そしたら幻獣が不気味な光を放ち始めて……。
そうだ!
「俺達はあの幻獣に消されたんだ!」
「は?」
は?じゃねーよ上官だぞ!
「昔、こんな話を聞いたことがある……」
俺達の世代の人間には扱うことの出来ない能力、魔法。
その中には対象の姿を消してしまったり、転送させてしまうものもあったらしい。
恐らくあの幻獣はそういった類の魔法を使ったんだろう。
「なるほど……。つまり私達はワープさせられたってことなんですね!」
「そうなるな」
「それで、ここはどこなんでありますか?」
それは……。
「!」
分からない、と言おうとしたところで周りの茂みから草の擦れる音が鳴る。
話していて気付かなかったが……何かに囲まれている!
「魔物……か!?」
茂みから出てきたのは3匹の虫のような魔物だった。
魔物なんて慣れっこなはずだが、今目の前にいる奴からはどこかおかしな雰囲気を感じる。
なんというか……ファンシーなような……。
魔物ってもっとグロい感じじゃなかったっけ?
「ビックス殿、きますよ!」
いかんいかん。そんなことを考えてる場合ではなかった。
とりあえず今は戦いに専念しよう。
そういえば魔導アーマーに乗らずの戦いはしばらくぶりだな……?
ビックス Lv1 帝国兵
HP 70
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
ウェッジ Lv1 帝国兵
HP 68
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
結論から言うと楽勝だった。
虫ごときが帝国兵に立ち向かえるはずがないのだ。
……虫が苦手なウェッジは逃げるばかりで一度も攻撃に参加しなかったが。
「いや~、流石! 次期将軍と言われるだけはありますね!」
上官に敵を押し付けておいて調子のいい奴だ。
まあ次期将軍という響きは悪くない。ナルシェでの任務を果たせば昇進は間違いなし。
俺もレオ将軍やセリス将軍と同じ位置まで上がれるのだ。
その為にもまずはここがどこで、ナルシェはどこなのかを突き止めなければ。
「よし、すぐにこの森から出るぞ。ウェッジ!」
途中、何度かの戦闘があったものの
魔導アーマーに乗っていたので何事もなく森の外へ出ることが出来た。
逆さまに転がっているのを見た時はもしかしたら壊れてるんじゃないかと思ったが
何一つ不調がないあたり、流石帝国製というべきだろう。
それにしてもウェッジは未だに操作に手間取っているようだ。だから出世できないんだあいつは。
そして森の中でも薄々感づいていたのだが、ここは暖かい。雪ひとつない。
ナルシェは常に雪で覆われているほど気温の低い地域だ。
もしかして俺達はとんでもなく遠いところまで転送されてしまったのでは……?
「すぐ帰れるといいですね~」
のんきにウェッジが言う。
この状況でそんな楽観的になれるその頭が羨ましい。
森を出てしばらく進んだところで奇妙な荷馬車の一団と出会った。
どうやらサーカス団のようだが……帝国が侵攻を進める中でサーカスなんてやっていられるのか?
「おい」
とサーカス団に声をかけた直後、馬車の中から不気味な笑い声が響き渡った。
うげぇ……ケフカの笑い声にそっくりだ。っと、そんなことを気にしていてはダメだ。
とか考えていたら馬車の中から夢に出てきそうなおかしな男が姿を現したのだった。
「ノルシュテイン・ベッケラーの実験小屋へようこそ。まだテントすら張っていないけどね」
宙に浮いたピエロの頭と2つの手だ。意味が分からない。
森を出てしばらく進んだところで奇妙な荷馬車の一団と出会った。
どうやらサーカス団のようだが……帝国が侵攻を進める中でサーカスなんてやっていられるのか?
「おい」
とサーカス団に声をかけた直後、馬車の中から不気味な笑い声が響き渡った。
うげぇ……ケフカの笑い声にそっくりだ。っと、そんなことを気にしていてはダメだ。
とか考えていたら馬車の中から夢に出てきそうなおかしな男が姿を現したのだった。
「ノルシュテイン・ベッケラーの実験小屋へようこそ。まだテントすら張っていないけどね」
宙に浮いたピエロの頭と2つの手だ。意味が分からない。
>>11
ミス
まあサーカスの連中のやることだ。何か仕掛けがあるんだろう。
その仕掛けをここで披露する意味は分からないが……。
ウェッジは驚いて腰を抜かしているようだから俺が用件を話す。
「ここはどこだ? 炭鉱都市ナルシェはどっちの方向にある?」
「? ここはガルディア王国だよ。ナルシェなんてところは聞いたことないね」
馬鹿な。ナルシェは中立都市としても有名な場所だし、
なにより幻獣が見つかったことで世界中で話題になっていたはず。
それにガルディア王国なんて国は聞いたことがない。
まさかからかわれているのか?
……いや、このベッケラーという奴が嘘を言っているようにも見えない。
というかこいつの顔、ケフカに似ててムカつくな……。
「それよりお二人、面白い物に乗っているね。良かったら一緒に来ない?」
とぼけた調子でベッケラーが言う。
一緒に来ない?と言ってもまずお前らはどこに向かっているんだ。
と、細かいことは気になるがとりあえずついていくことにした。
俺達はこの辺りについて何の情報も持っていない。それに食料もギルもない。
変にウロウロするよりかはこのケフカ似の男についていった方がいいだろう。
「決まりだね。じゃあ行こうよ」
こうして俺達はベッケラーとかいうケフカ似の男に同行することとなった。
それから一週間。
ナルシェのことも帝国のことも分からず、
ベッケラーの実験小屋とやらの手伝いをしている内にあっという間に時が過ぎてしまったのだ。
しかし何も収穫がなかったわけでもない。
色々と話を聞いている内にこの王国……いや、〝この世界〟についてある程度のことが分かった。
まず、この世界は俺達が元々いた世界とは別のものらしいのだ。
俺の頭がおかしくなったわけではない。事実だ。
どうしてこの結論に至ったかかいつまんで説明していこう。
~ウェッジにも分かるビックスの簡単講座~
まず文明の違い。
この世界は明らかに俺達のいた世界と比べて文明が遅れている。
家や道路はほとんど石で作られていて、鉄なんかは武器くらいにしか使われていない。
機械はあるものの帝国の様々な兵器と比べればどれもおもちゃみたいなものだ。
まあ、ゴンザレスという自立型マシーンは凄かったがそれでも魔導アーマーには大きく劣る。
そして世界地図。あちこちに貼られている世界地図を見てみたが、
ナルシェはおろか帝国も、フィガロもドマも何一つ記されてはいなかった。
代わりに描かれていたのはガルディア王国やパレポリといった全く聞いたことのない地名だけ。
そしてこの世界には国は一つだけ、ガルディア王国しか存在していないのだ。
つまり、この世界はめちゃくちゃに平和なのだ。
どこかで密かに軍事国家が立ち上がろうとしているだの話があるが、それも噂に過ぎず
戦争なんてもう400年近く行われていないらしい。
その400年前に行われた戦争というのも、国同士の争いではなく
魔物との戦いだったらしい。その魔物も今はよわっちい奴ばかりだ。
そうそう、魔物もここが別世界だと結論付けた根拠の一つだ。
この世界の魔物はどうも俺の知ってる魔物と違うんだ。
なんというかファンシーというか、ポップというか……。
で、ベッケラーに歴史書を借りて魔物について調べてみたんだが
そこでまた新しい発見をしてしまった。
どうやらこの世界には魔族と呼ばれる種族がいるらしくて
見た目は魔物なのに人間並みの知性を持っているとかなんとかだそうだ。
そんな話は今までに聞いたことがない。もし事実なら幻獣どころの騒ぎではない。
そんな奴を捕まえて戦わせればナルシェもドマも一発で制圧できちまうだろう。
なにしろ魔物の力と魔法の力と人間サマの頭脳を重ね持っているんだからな。
ケフカが放っておかないはずがない。つまりここは別世界。オーケー?
「なにブツブツ言ってるんすか。ビックス殿」
げ、声に出てたのか。一番聞かれたくない奴に聞かれてしまった。
まあウェッジのことだしすぐ忘れるだろう。
「それより今日は千年祭の始まりですよ。ワクワクしますねえ」
こいつはすっかりこの世界に順応したなあ……。
まだ一週間しか経ってないのに。
千年祭というのは、このガルディア王国建国千周年の記念祭のことだ。
その為このリーネ広場では色々な露店や見世物が開かれる。
ベッケラーも千年祭の為にわざわざ遠くからガルディア王国へやってきていたそうだ。
それで俺達も出し物をやることになったんだが……
やることといったら三人でウロウロして誰が誰だかを客に当ててもらうゲーム。
……こんなの面白いか? でも案外客は入ってきていた。ううむ分からん。
ちなみにこの出し物に出ていた三人は、俺とウェッジと、あとピエットという奴だ。
このピエットという奴がすごくいい奴で初対面だったのにすぐに仲良くなってしまった。
なんか他人とは思えないんだよな。
そんなこんなで出し物を続けて二時間程が経過した。
いい加減足も疲れてきたし、目も回ってきたしでベッケラーに休憩をもらい
ウェッジと千年祭の出し物を見て回っていた時のことだ。
「ハ、ハイ! ごらんの通り影も形もありません! こ、これにてオシマイ!!」
広場の奥の方から野太いデカい声が聞こえてくる。
それだけなら何にもおかしくはないが、その内容が気にかかる。
まだ祭りが始まったというのに何がオシマイなんだ?
恐らくは何かの出し物なんだろうが、終わるにしても早すぎる。
うーむ、何か事件の匂いがするな……。面倒くさがるウェッジを引きずり、奥へ向かってみる。
奥にいたのはゴツいおっさんと赤毛の小僧。それからルッカとかいう娘だ。
ルッカは何度か魔導アーマーの整備をしてくれたから面識がある。
その三人の向こうには何やら巨大な装置が2つ設置されていた。
多分、ルッカの発明品だろう。
なんかルッカだけは文明を無視した科学力を持ってるような気がしてならない。
「あ、ビックスさんウェッジさん! ちょっと大変なのよ!」
俺達に気付いたルッカが駆け寄ってくる。
どうやらわりとまずい事故がここで起こったらしい。
支援
完結頑張ってください
確かに二人が何処に行ってしまったのかは気になってたんだよな
これなんか元ネタがあるの?
>>24
クロノトリガー
なんでもテレポットとかいう試作転送装置の披露をここでしていたところ、
事故によって女の子(赤毛の小僧の連れだったそうだ)が消えてしまったらしい。
それでどうするかいま考えているというわけだ。
ん……待て、消えてしまった?
ええと、つまり、もしかして。
「ビックス殿! 僕達の時と同じですよ!」
そうだ。俺達も消されてこの世界にやってきたんだ。
もしかしたらこれは俺達と関係のあることなのかも知れない。
「おい、俺達に手伝えることはないか?」
「おーッ! 後を追うってのか。さすがは男だぜ!」
「…………は?」
なんか勝手に話を進められている。
おい、消えたあとどうなるかはまだ分からないんだろ?
これがもし俺達に起こった現象とは別で、マジに消えてたんだとしたらどうするんだよ?
「そうね! あの空間の先に何があるのかわからないけど、それ以外に方法はなさそうね」
「でも、都合よくまた穴が現れるとは限らないぜ」
「やってみる価値はあるわ! きっとペンダントがキーになってるのよ!」
あ、ダメだ。今更行かないなんて言える雰囲気じゃないこれ。
「うおおビックス殿! 帝国魂を見せてやりましょう!」
こいつはこいつでダメだ。何も考えてない。
「魔導アーマー……だっけ? 何があるか分からないからあれに乗っていくといいわ!」
どんどん話が進んでいく……。
いつの間にか持ってこられていた魔導アーマーに乗せられ、テレポットへ誘導される。
あとなんか赤毛の小僧もついてくる気らしい。
「クロノ! あんたも行くのね! 私も原因を究明したら後を追うわ!」
「スイッチオン! エネルギー充填開始だ! ルッカ!」
「もっと出力を上げて!」
うわ、なんかバチバチいってるけど大丈夫かこれ?
「あわわわわ! び、ビックス殿!」
ウェッジが口をぱくぱくさせながら何かを指差している。
そっちを見てみると思わず俺も口をぱくぱくさせてしまう。
空間に謎の穴があいているのだ!
驚くのも束の間、俺とウェッジと小僧はその穴に吸い込まれてしまう。
おい話がちげーぞ! 俺達の時はこんな穴なかっ……
「うわあああああぁぁぁ~~~~~!!!」
――――――。
気が付くと俺達は見知らぬ原っぱに転がっていた。
……なんかデジャブだぞ、これ。
二度目だから慣れていたのか、俺はスムーズにウェッジを叩き起こし
そして魔導アーマーへと乗り込む。よし、これでいつ敵が現れても大丈夫。
そういや一緒に来てた赤毛の小僧はどこに行った?
「うーん、先に進んでいったのかも知れませんね」
まさか。寝てる俺達を置いて先に行かないだろう。
きっとどこかで入れ違いになったに違いない。うん、そうだ。
とか思ってたら奥の茂みから赤毛の小僧の背中が飛び出してきた。
なんか若干の違いがあれどこの前とほとんど同じパターンだぞ……。
小僧に続いて、よく分からんゴブリンみたいな魔物も数匹飛び出してくる。
ああ、こいつらと戦ってたのか小僧は。まだ子供の癖にやるじゃないか。
とにかく加勢しないと。
ビックス Lv1
HP 70
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
ウェッジ Lv1
HP 68
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
クロノ Lv1
HP 70
MP 8
Eぼくとう
Eかわのふく
Eかわのぼし
Eはちまき
このガキ、俺達より強い!!
赤毛の小僧がぐるぐる木刀を回転させ、一気にゴブリン達は倒されていった。
加勢しようと思ったのに何も出来なかったじゃないか。くそう、帝国兵として屈辱だ。
とりあえず威厳だけでも見せ付けておこう。
「やるじゃないか小僧。……名前は?」
「…………クロノ」
どうやら物凄い無口な奴らしい。
名前だけ告げると背を向けすたすた先へ行き始めてしまう。
くそっ、俺も負けてられないぜ。次期将軍の座は渡さん!
「いくぞウェッジ!」
「あ、はい」
何度かの戦闘を挟んで、町へと出る。どうやら俺達は山の中に出ていたらしい。
だが出てきた町はどうも見知ったものだった。
ここに転送される前に俺達がいた、トルース村とほぼ同じなのだ。
「あれ、戻ってきたんですかね?」
「馬鹿かお前? 後ろ見てみろ」
リーネ広場だった場所が山になっている。
似ているだけでここも別の世界なのだろうか。ううむ、分からん。
とりあえず酒場やら宿屋やらで情報を集めよう。
クロノも同じことを考えていたらしく、俺達より先に歩き始めていた。
あんなガキに一歩先を行かれるようじゃ将軍の道はまだまだ遠い……!
酒場にいたトマとかいう男とか、その辺の村人に話を聞いてみたところ
どうやらここは400年前のガルディア王国らしい。
……ひとつ言っておくが、俺の頭がおかしくなったわけではない。
で、なんか俺達が最初にいた山で女の子が見つかったらしく
それがなんかリーネ王女だったからすぐに城へ連れ帰したとかなんとからしい。
山にいた女の子……、もしかして俺達が捜してる女の子と同じなんじゃないか?
手がかりはそれしかないし、とにかくガルディア城へ向かうことにしよう。
城へ行くのにいちいち森を通っていかなきゃいけないのはなんとかならんのか……。
でも森で魔物と戦ったおかげか、強くなったような気がする。
まあ道中の敵は全部魔導アーマーのビームで倒したんだけど。
流石に城の中にアーマーで行くわけにはいかないし、一旦脱ぐことにしよう。
ビックス Lv3
HP 94
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
ウェッジ Lv2
HP 77
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
ガルディア城で門前払いをくらいそうになったが、リーネ王女のおかげで助かった。
クロノが言うにはあれは捜してる女の子に瓜二つだそうだ。
「というかなんて名前の女の子を捜してるんだ?」
「…………マール」
相変わらず無口な奴だ。それだけ言うと先へ進んでいってしまう。
「へえぇ~、マールかぁ。なんか可愛らしい名前じゃないですかビックス殿?」
お前はもう少し静かになれ。
「来ましたね。外してちょうだい。この者と話があるのです」
リーネ王女に言われ、付き人が部屋の外へ出ていく。
なんだか場違いな気がするので俺達も出ていく。
これで部屋の中はクロノとリーネの2人だけか……。
いやいや!子供同士で何か起こるわけがないだろ!
結論からいうと何か起こった。
クロノが言うにはリーネ王女……のふりをしていたマールは
突然目の前から消えていなくなってしまったのだ。
テレポットの時と同じ?と思ったがどうにも様子が違ったらしい。
何も手がかりがなく、途方に暮れていたところでルッカがやってきた。
ルッカの話ではなんとマールは現代の王女だそうだ。
この時代にマールがやってきて、リーネ王女の捜索が打ち切られてしまったせいで
歴史が改変され、リーネの子孫であるマールの存在がなくなってしまったそうなのだ。
「ええと、つまりどういうこと?」
ウェッジ黙れ。
「とにかく、本物の王妃の行方を探さなきゃ!」
ルッカの言うとおりだ。
とりあえずなにやら怪しいと噂の修道院に向かってみることにした。
修道院でリーネ王女の髪飾りを見つけた途端、シスター達に襲われた。
いや、襲われたといっても性的な意味ではなく物理的にだ。
なんとシスター達は魔物だった。リーネ王女をさらったのはこいつらと見て間違いないだろう。
ちなみに修道院の入り口が狭いので魔導アーマーはまた留守番だ。
たまには生身で戦うのもいいだろう。
「ふぅ~、楽勝でしたね!」
驚いてただけのウェッジが得意げに額の汗をぬぐう。
と、その瞬間。辛うじて息があったらしい魔物が起き上がり、ウェッジに襲い掛かる!
「ひ、ひえええ~~~~!!」
ああウェッジ。悪い奴ではなかったのに死んでしまうなんて……。
とはいかず、何者かの一太刀で魔物は今度こそ絶命した。
ううむ、他人ながら中々の剣捌き。
「ぎええええええええ~~~!!」
ウェッジが再度叫ぶ。ええい、やかましい奴だな。だから出世できんのだ。
とか思いつつウェッジの後ろの男(?)を見てみたら、
「ひえっ!」
「きゃあ!」
「……!」
ウェッジ以外の俺達3人も驚いてしまう。クロノは相変わらず声を出さないが。
そこにいたのは巨大なカエル男だったのだ。
「最後まで気をぬくな。勝利に酔いしれた時こそスキが生じる。
お前達も王妃様をお助けしに来たのか?
この先はヤツらの巣みたいだな。どうだ、いっしょに行かないか?」
な、なんだこのカエルは……。なんかかっこいいこと言ってるし。
見た目はアレだがかなりの腕の剣士らしい。言動が若干レオ将軍に似てるな。
「悪いカエ……、人にはなさそうね……。うーん……どうする?」
顔を引きつらせながらルッカが決断をこちらへ委ねてくる。
いや、どうしようもなにも……カエルが仲間に……?
ま、まあ人手は多いに越したことはないだろう。
カエルに恨まれるのも嫌なので仲間にしてあげることにした。
「俺のことはカエルでいいぜ。よろしくな!」
カエルが仲間になってしまった。
その後、隠し通路から修道院の隠し部屋に入り
何度も魔物と戦いながらも最深部へと辿り着いた。
そこで待ち構えていたのはなんとガルディア王国の大臣だった。
大臣はマヌケな台詞と共に怪物へ変身したかと思うと、間髪入れずに俺達へ襲い掛かってくる。
「ヤ~クラ~ッ!! デロデロン!!」
「ぐええっ!」
ヤクラとかいう怪物の体当たりでウェッジが壁に吹っ飛ばされ、叩きつけられる。
げ。あいつあの程度で気絶してやがる。いや、ヤクラが強いのか?
「クロノと俺でサイドから攻撃する! ルッカは後ろから援護を! ビックスは正面を頼む!」
え、なんでカエルが指揮を……。というか俺が正面かよ!
お前じゃないんかい! ええい、もうやるしかない!
ビックス Lv6
HP 141
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
クロノ Lv6
HP 135
MP 18
Eぼくとう
Eかわのふく
Eかわのぼうし
Eはちまき
カエル Lv7
HP 152
MP 21
Eアイアンソード
Eブロンズメット
Eブロンズアーマー
Eパワー手袋
ルッカ Lv5
HP 75
MP 14
Eエアガン
Eどうぎ
Eかわのぼうし
Eサーチスコープ
ヤクラはそこまで素早くないし、体当たりも直線的な動きだから
気をつけてさえいればどうということはない。ウェッジはマヌケだっただけなのだ。
問題は奴が時折使ってくる技だ。
「ヤクラシェ~イク!」
掛け声と同時にヤクラが飛び跳ねる。
どうやら奴は見た目以上に重い身体を持っているらしく、
飛び跳ねるだけで部屋全体に地震が起こってしまうのだ。
「ぐっ!」
「スキあり~!」
と、よろめいてしまうとそこへ向かって体当たりが繰り出される。
「危ないっ!」
ヤクラの攻撃が当たる!といった瞬間でルッカが銃を撃ち、ヤクラの攻撃を止める。
危なかった……。あのまま攻撃を受けていたらウェッジのようになるところだった。
「クソ! 帝国兵を舐めるなよ!」
仕返しといわんばかりにヤクラへミスリルソードをぶち当てる。
……が、大したダメージは与えられない。なんつー硬い皮膚だ。
このままじゃ埒が明かないぞ!?
「ビックス! 奴にスキを出させるんだ! そこを俺とクロノで叩く!」
カエルが戦いながら指示を出す。
スキを出させろったってどうすれば……。俺はこれといった技も持ってないし。
うーむ、あ、そうだ!
「デロデロ~っ! ってうわっ! なんだこの煙は!?」
いざという時のためにとっておいた煙玉!
本当は逃走時に使うアイテムだけど気にしない。
って、これじゃいくらスキを作っても見えないな……。
「いいや、十分だ」
左右にいるカエルとクロノが同時に剣を構える。
あいつら、何をするつもりだ? とりあえず俺も剣を構えてみる。
「いいか、煙が晴れたその一瞬だ。やれるな?」
カエルの言葉にクロノはこくりと頷く。
こんな時にまで無口を貫くのか。感心すらわいてくる。
「いくぞ、3――――」
「げほっ、がはっ! お前らもう許さんぞ……!」
うっすらとヤクラの姿が現れ始める。
「2――――」
「とっておきのスピンニードルをくらえ~っ!」
「1――――」
ヤクラの方も戦いを終わらせるつもりらしい。
ここで決めなければ……負ける!
「――――0!!」
掛け声と同時にクロノとカエルの2人が前へ飛び出す。
そしてそのまま交差させるようにヤクラの身体を切り裂いた!
即興でこんな連携がとれるとは、ええい俺も負けてられない。
「デロデロ~~~っ!!」
既に瀕死のヤクラにダメ押しの一撃。俺の攻撃が当たる。
正直やる意味はなかったと思うが……まあいいだろう。うん。
左右と前方からの交差斬り。名づけて*斬りだ。
「ふう……やりましたね!」
とっくに目を覚ましてたらしいウェッジがここぞとばかりに前へ出る。
まさかこいつ本気で勝ったつもりでいるのか。何もしてないのに。
「やはり、来てくれたのですね。ありがとう、カエル……」
「王が心配しておいでです。城に戻りましょう」
リーネ王女とカエルの関係が気になるが……考えないでおこう。
まさか王女にそんな趣味があったとは。
「助かったぜ。クロノ、ルッカ、ビックス」
「あれ、僕は?」
お前はなにもしてないだろが、ウェッジ。
それから色々あってカエルとは別れ、マールも無事に救出して後は戻るだけとなった。
それで最初にいた山にやってきたわけだが……
「どこから帰るの?」
「おそれながら、マールディア王女……」
「マールでいいってば!」
そういえばガストラ帝国には王女とかいないよな……
ガストラ皇帝はあのお歳でまだ結婚されてないしどうするおつもりなんだろう。
「で、ではマール……。ごらん下さい」
そう言ってルッカが何かをかざすと
それまで何もなかった空間に例の穴が現れた。
これに入ればリーネ広場に戻れるのか?でもどうやってこんなもの……。
「私は、このひずみに『ゲート』って名付けたんだけど(以下略)」
要はルッカの作ったゲートホルダーによってワープし放題らしい。
ワープというか、厳密には時間移動なんだけど。
待てよ。ということはここは俺達がいた世界の未来か、もしくは過去なのか?
うーむ、でも俺達の場合は事情が若干違うしな……。
とりあえず難しいことを考えるのはやめて帰ることにしよう。
「いくぞウェッジ!」
「はい! ビックス殿!」
「うん、そうね。帰りましょ!」
「さあ私たちの時代へ!」
全員でゲートへ飛び込む。
目が覚めると、なぜか俺とウェッジだけ別の場所へ転送されていた。
そこは明らかに異質な空間だった。
まるで帝国の路地のような場所なのだが、街路を囲む柵の向こうはまるで異空間のようになっている。
何かに表すならそう……まるで時の流れの中に浮いているかのような。そんな場所。
「ビックス殿、自分が思うにここはリーネ広場ではない気が……」
「分かってるわそんなこと!」
とりあえず進んでみると、一本の外灯が立っているのが見えた。
その下で帽子を被った老人が立ったまま鼻ちょうちんを膨らませている。
ウェッジに起こすように命令すると、
声をかければいいだけの話なのに、こともあろうにあいつ鼻ちょうちんを指でつついて割りやがった。
こんな場所で居眠りする胆の据わってそうな爺さんも目を丸くしている。
「おい、ここはどこなんだ?」
「ここは、『時の最果て』……。
時間のまよい子が、行き着く所さ。お前さん達、どっから来なすった?」
えーと、どこからと言われても。
「炭鉱都市ナルシェから異世界のガルディア王国へ。
その後400年前のガルディアへ行ってそこからここへやってきた」
「お、おう……」
自分で聞いといて引くなよ。
「違う時間を生きる者が、4人以上で時空のゆがみに入ると、次元の力場がねじれてしまう……。
しかし、この所、時空のゆがみが多くてな。お前さん達の様にフラリとここへあらわれる者もいる……。
何かが時間全体にえいきょうをおよぼしているのかも知れんな……」
よく分からんが、5人でゲートに入ったのがマズかったらしい。
恐らく先に入った3人(クロノ、ルッカ、マール)はリーネ広場へと戻れて
後の2人、俺達はこっちに飛ばされたんだろう。
「で、どうやったら元の場所に戻れる……というかナルシェへは戻れないのか?」
「ナルシェ? そんな場所は聞いたことがないな……はて」
「というかお爺さんは何者なんですか?」
ウェッジにしてはいい質問だ。
「ほっほ、私はただのしがない老人じゃよ。だがお主らの時間の道しるべにはなってやれるぞ」
なんかうまくはぐらかされた気がするがまあいいだろう。
誰にだって話したくないことはある。
「あっ、そういえば魔導アーマーは!?」
「どこにもないであります!」
そうだ。ここのおかしな外観に戸惑い忘れていたが、アーマーがないではないか!
くそう! なくなるならアーマーじゃなくてウェッジだろうが!
「魔導アーマー……あのヘンテコな機械のことか」
「なに! ジイさん知ってるのか!」
「あれならスペッキオが面白がって運んで行ったぞ。ほれ、そこの扉の先だ」
恩に着る!
老人に一礼し、脱兎のごとく扉を開け放つ。
人のものを勝手に運び出すとはスペッキオとやら、なんたる奴か。
どんな奴かは知らんが帝国兵としてお灸を据えてやらねばなるまい。
目に入ったのは、バラバラになった魔導アーマー。
そしてそれを興味津々に手に取っているムー(リスみたいな弱っちい魔物だ)の姿だった。
「な、ななな! なんてことを……!」
「ああ……ケフカに殺される……」
なるほどスペッキオというのはあのジジイのペットだったのか。
確かによく考えるとスペッキオというのは動物っぽい名前だ。
だが動物といえど我が愛する帝国の兵器を分解するとは許せん!
この次期将軍、ビックスが叩き切ってくれる
わ!
「――――なに!?」
ムーに向かってミスリルソードを叩きつけるも、まるで効果がない。
硬い皮膚に弾かれただの、柔らかい肉に飲み込まれただの、そういうのではないのだ。
本当に、まさに効果がない。何の反応も示してはいなかった。
「ムダムダ! オレ、スペッキオ! 戦の神!
こっから色んな時代の戦、見てる。
オレに物理的な攻撃は効かないよ~ん!」
な……! ムーが喋った!
それに戦の神だって? こんな弱そうな見た目なのに?
「オレの姿、おめーの強さ。おめーが強ければ強そうに 弱ければ弱そうに見える」
なんだと!?
じゃあ……俺の強さはムー並みなのか。そんな馬鹿な!?
「え? 僕にはビックス殿と同じ姿に見えるのですが……」
「貴様! 上官を自分と同等だと思っていたのか!」
「あわわわわ……だって元々同期だし……」
「そうだ! そんなことより貴様! よくも我々のアーマーを!」
「お、これか。これ、僅かだけど魔法の力を感じる。だから持ってきた」
理由になってねーよ! 人のものを勝手にとったらどろぼう!
「おめーらの生まれるずっと昔……。魔法で栄えた王国、あった。その世界、みんな魔法使った。
けどその王国、魔力に溺れ滅びた……。それから人は魔法を使えなくなった。魔族以外はな」
魔大戦のことか。あれは壮絶な戦だったと聞いている。
そんな歴史を繰り返さない為にも帝国は全ての地域を掌握しようとしているのだ。
「だが、この機械、持ってる。心の強さを。魔法は心の強さ、力」
あ、俺達が心の強さを持ってるわけではないのか……。
ウェッジはともかく俺が心の強さを持っていないのはおかしい。
というかこいつも話をはぐらかせようとしていないか?
「魔法は天・冥・火・水の4つの力でなりたってる。
よかったらおめーらに魔法の力を与えてやるぞ」
な、なんだと!?
つつつ、つまり魔導師になれるということか!? この俺が!?
ということはケフカやセリス将軍、レオ将軍と同じ立ち位置に……!
そうなれば間違いなく俺は将軍になれる! 帝国万歳! 帝国バンザーイ!
「じゃあ、『魔法が使いたい~』とねんじながら、ドアの所からはじめて
この部屋の柵にそって、時計回りに3回まわる!」
…………は? なんだと?
「『魔法が使いたい~』とねんじながら、ドアの所からはじめて
この部屋の柵にそって、時計回りに3回まわる!」
馬鹿にしてるのか?
「これやらないと魔法の力はやれねーぞ」
次期将軍と言われるこの俺がそんなこと……!
「よ~し、あと2周だ!」
ってウェッジ走ってるし。
「よーし! ハニャハラヘッタミタ~イ!!」
スペッキオがなんともマヌケな掛け声を上げると、ウェッジの身体を淡い光が包みこむ。
【ウェッジは魔法を覚えた!】
「おお……なんだか力が湧いてくるようですよ。
ビックス殿は3回まわらないんですか?」
まわるかボケ!
というか本当にこんなので魔法を覚えられたのか?
やっぱりからかわれてただけなんじゃ……。
「ポイズン!」
ウェッジがそう唱えて手のひらを突き出すと、緑色のきったねぇのが前へ向かって飛んでいった。
ううむ、信じがたいが確かにこれはポイズン。ケフカが使っていたものと全く同じだ。
「ビックス殿、3回まわらないんですか……?」
ぐぐぐ、いくら力が欲しいからってそんなプライドを捨てるようなマネは……。
「頑固なにーちゃんだな。しかたねー。おめーにはこれやる」
そう言ってスペッキオが差し出してきたのは、小型の兵器のようなものだった。
というかこれ魔導アーマーの残骸で作ったものじゃないか。な、なんてことを。
「それ、魔法の力が込められた武器。それならおめーでも魔法の力が扱える」
なるほど。フィガロで流通している機械武器のようなものか。
小さいしこれは扱いやすいな。剣と別に持っておけるし便利だ。
「ええ~、ビックス殿の武器の方がよかったなぁ。交換しません?」
交換出来るものならしてやるさ。俺だって武器より魔法のがいい。
「……よし、じゃあ力試ししていくか?」
「は?」
「オレと戦うか? 魔法でならオレにダメージ与えられる」
「よーし、じゃあ……」
その後、俺とウェッジはスペッキオにボコボコにされることとなった。
ムーの見た目してるのに容赦なく魔法使ってくるとか……。
ステータス
ビックス Lv9 帝国兵
HP 206
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
●まどう
(生身でもファイア・サンダー・ブリザービーム、ヒールフォースが使える)
ウェッジ Lv6 帝国兵
HP 142
MP 35
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
★ポイズン
スペッキオとの戦いで少し成長したような気がするぞ。
あとウェッジはやっぱり戦闘をサボってる気がする。
「ところで元の場所にはどう戻ればいいんだ?」
スペッキオがいる部屋(?)から出てさっきの老人に尋ねる。
いくら魔法を覚えたり武器をもらったりして強くなってもここにいるだけじゃ意味はない。
なんとなく戻れなさそうな予感がするのだが大丈夫なのだろうか。
「ああ、お前さん達がやって来た場所に光のはしらがあるじゃろう。
あれは、あちこちの次元のゆがみと ここ、時の最果てをつなぐものじゃ。
一度通った事のあるゲートからは いつでもここに来られるじゃろう」
ふむふむ。じゃあどうしてこの老人はこんなところにずっといるんだろう。
気にはなるがまあ聞くことはしない。きっと何か事情があるに違いない。
「じゃが、そこのバケツからつながるゲートには気をつけるんじゃな……。
いや、世界の滅ぶ姿が見たいのなら行ってみるのもいいが……
お前さん達まで、滅びちまうかも知れんぞ」
世界の滅ぶ姿?
なにを言っているんだこの爺さんは。
やっぱり少しボケているんじゃないだろうか。
「気になりますしちょっと行ってみましょうよ」
ウェッジの言いなりになるようでムカつくが
確かに気になるので少し覗いてみることにしよう。
バケツの中を覗き込むと、例のあの穴がギュイーンと俺達を包み込んだ。
A.D.1999
そこで起こっていたのはまさしく世界の終わりだった。
我がガストラ帝国よりも発達していた国々。
しかしそれらは地底から現れた一匹の怪物により全て消滅してしまうこととなった。
あのとんでもなく巨大なウニのような怪物は『ラヴォス』というらしい。
この世界は……将来あんな怪物に滅ぼされてしまうのか。
「ビックス殿……。私は帝国を愛していますが、ガルディア王国のことも好きでした。
あの国には、いえ、あの世界には争いがありません。殺し合いなんて一切なかったんです。
そんな平和な世界だったのに……こんなのってあんまりじゃありませんか」
そうだ。あまりにも理不尽すぎる。
あんな怪物一匹のために人類全てが犠牲になるなど……。
…………ん?
「おい、ウェッジ。あれは…………」
ラヴォスの攻撃で空いた大穴の中に、例のゲートのようなものが見える。
そこから見えていたのは、ここより更に凄惨なものとなっている世界であった。
世界の大半が荒野と化していて、あちこちにおぞましい魔物が徘徊している。
そんな場所は覚えがないはずなのだが……何故か懐かしい気持ちになってしまう。
「まさか、今見えてるこれは俺達が元々いた世界……なのか?」
「え……? ビックス殿、では帝国は一体どこに……」
「分からない。とにかく行ってみるぞ!」
いざゲートに飛び込もうとしたその時だった。
『ギュルルルルルギュルルルルギュルルルルゥアアアアア!!!!!!!!!!!!!』
腹を下した時の音が極限まで甲高くなったらこんな感じになるのだろう。
この世のものとは思えない叫びのような鳴き声が辺り……いや世界中にこだまする。
――――ラヴォスの鳴き声だ!
はっとして前を向いてみると、ラヴォスと目(?)が合った。
どうやらこっちへ向かってきているらしい。
早くゲートに飛び込まないとラヴォスに殺される!
って、いつの間にか俺達の世界へのゲートが消えてるじゃないか!
「どどど、どうするんですかビックス殿!」
「ひとまず時の最果てへ戻るぞ!」
もしかしたらゲートとラヴォスに何らかの関係があるのかも知れない。
だからラヴォスが鳴き声を上げた途端にゲートが消滅してしまったのだろう。
世界を滅ぼすほど大きな力を持った生き物だ。そんな力があってもおかしくはない。
で、時の最果てへのゲートへ飛び込んだわけなのだが。
飛ばされた先はまたしても見知らぬ場所だった。
どうも俺達は思った場所に行けない能力のようなものを持っているらしい。
そういえばルッカがゲートなんとかで空間のねじれを安定させるだか言ってたな。
あれを持ってないからいけないのか?
というかさっきから何やら騒がしい。
って、ここ戦場じゃないか! あちこちでどこかの兵士と魔物が戦っている。
「と、とんでもないところに出てしまった!」
「ビックス殿ぉ~、どうするんですか!」
どうするもこうするも、戦うしかない!
魔法を覚えて調子に乗っていたウェッジだが、
あいつのポイズンは全く敵に効いてはいなかった。
そりゃ戦ってる相手、アンデッド系の見た目してるからな……。
戦いながら辺り一帯の地形と事情を把握してみたが、
どうやらここはどこかの大橋の上で、戦っているのはガルディア軍と魔王軍らしい。
この世界で戦争があったのは中世でのこと。つまりここは400年前のガルディア王国。
カエルと一緒にヤクラを倒した時と同じ世界だ。
「えーい! なんだあの2人は! 他の兵士より強くないか?!」
魔王軍の指揮官っぽい魔族が声を荒げる。
あいつさえ倒せばこの戦いも収まるはず。
「よし、ウェッジ。突っ切るぞ!」
迫りくるガイコツ兵をなぎ倒しながら橋の向こう側まで突っ走る。
ウェッジは役に立たないが、スペッキオからもらったこの武器はすごい。
フィガロの機械武器のように手軽に攻撃を行えるのだ。
しかも発射されるのは魔道アーマーの兵装と同じもの。
そう、ファイアビームなんかをどこでも素早く撃ち出せる。こりゃ強い。
「くう~、なかなかやるな」
指揮官っぽい緑色の魔族が悔しそうに地団駄を踏む。
なんかあいつ見かけのわりに大して強くないみたいだ。
途中であいつも攻撃に参加してきたけど、使ってくるのは弱いサンダーだけだったし。
「ワシは、魔王様第一の部下。魔王3大将軍の、ビネガー。
少々、お前達をあまく見すぎていたようだ。しかし、今度はそうはいかんぞ」
な、なんだと……。こいつ、将軍なのか!?
くそう、次期将軍の俺を差し置いてこんな奴が……許せん!
「ゆけ、ジャンクドラガー! 魔王様の敵をたたきのめせ!」
ビネガーがそう言うと、今まで倒してきたガイコツ兵が次々と集まっていき
ガイコツ兵同士がどんどん合体して大きくなっていった。
最終的に現れたのはなんと人間三人分はあるんじゃないかと思うほど巨大なガイコツの化物。
むむむ、流石将軍。奥の手を残していたのか。
っていつの間にかビネガーの姿がなくなってる。あいつ、将軍の癖に逃げたのか!
「ひっ、ひぃ~! ポイズン!」
だからアンデッドには毒は効かないんだよ。未だに分からないウェッジがポイズンを連発しまくる。
仕方ない。あいつは戦力として考えないようにしよう。あの化物相手に一対一か……。
ええい俺も次期将軍。この程度の相手に負けてなるものか!
剣を振り上げ、俺は勇猛果敢にジャンクドラガーへと突進する。
そしてミスリルソードで帝国直伝の一撃をくらわせる!
直撃! だが相手の骨を一本飛ばしただけだった。カルシウム摂りすぎなんだよ!
「ビックス殿! は、反撃が来ますよ!」
や、やばい!
ジャンクドラガーが大きな口を開き、そして俺に向かって火炎を吐き出す。
あわや火だるま……。残念!私の冒険はここで終わってしまった!
なんてことにはならず。
「あ、あぶねぇ……」
間一髪。ブリザービームを使うことで火炎を防ぐ。
と、同時にジャンクドラガーにもビームが当たっていた。
上半身には大きなダメージを与えられているようだが、下半身はなんともない様子。
まさか上と下とで弱点と耐性が異なっているのか?
ちょっと違うけどあのかたつむりみたいな野郎だな。
それなら、まずは下半身から片付けて身動き取れなくしてやる。
怯んでいる隙に、ここぞとばかりに下半身にサンダービームを撃ちまくる。
やがて焦げついたジャンクドラガーの下半身が砕け散る。
よしっ。後は身動きの取れない上半身をボコボコにするだけ。
と、思いきや上半身はフワフワ宙に浮き出した。そんなのアリか!?
「ポイズン! ポイズン!」
相変わらずウェッジは役に立たないし、コイツの相手も俺がやるしかない。
というかこれ実質1対2だったんじゃ。まあいいか。
なんか残った上半身が大きく口を開けて何かを溜めていたみたいだから
試しに口の中にブリザービームを撃ってみたらそのまま内部で爆発してお陀仏となった。
こっちはノータイムでビームを撃てるってのにマヌケな奴だ。
上官がマヌケだと部下もマヌケになるようだな。敗因はビネガーがマヌケだったことだ。
「ほっ、ようやく終わったみたいですね。ふぅ、いい戦いだった」
横ではマヌケなウェッジが汗を拭っていた。
なんでも魔王軍は勇者とかいうのを倒す為に攻め込んできたのだとか。
勇者はこのゼナンの橋(俺達が戦ってたところだ)を無事渡って向こうの大陸へ行ったそうだが
なんとも迷惑な奴だ。というか勇者なら自分で戦えばいいじゃないか。
それにしても、魔王か。ちょっと引っかかる。
俺達が未来で見たラヴォスは魔族とは違う気がしたがとにかく禍々しい生き物だった。
魔王とラヴォスにはきっと何か関係があるに違いない。
魔王をぶっ飛ばせばラヴォスもいなくなって俺達も帝国へ帰ることが出来るんじゃ?
「ええと、ビックス殿。つまりどういうことですか?」
魔王を倒せばそれでよしってことだよ!
ステータス
ビックス Lv15 帝国兵
HP 419
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
●まどう
ウェッジ Lv8 帝国兵
HP 188
MP 56
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
★ポイズン
そろそろ新しい装備が欲しいところだな……。
帝国製のミスリルソードはまだまだ使えそうだが。
というか今回ウェッジは何もしてなくないか?
疲れたのでサンドリノ村で一泊して、翌日に店で装備を整えることにした。
ミスリルソードはまだまだ使うとして、そろそろちゃんとした防具が欲しかったのだ。
というか使わなくなっても帝国製のミスリルソードを売るわけにはいかん。
これは俺が帝国兵になった時に帝国から頂いた大切な剣なのだ。
「って、ウェッジ。お前その剣はなんだ?」
「かっこいいのあったんで新しい剣買っちゃいました。ミスリルソードは売りました」
ばっ、ばっかやろ~……。
ビックス Lv15 帝国兵
HP 419
MP 0
Eミスリルソード
Eゴールドスーツ
Eゴールドヘルム
●まどう
ウェッジ Lv8 帝国兵
HP 188
MP 56
E紅の剣
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
★ポイズン
聞く話によるとゼナンの橋を渡った勇者は偽者だったそうで、
本物の勇者はつい昨日、魔王城に向かったそうだ。
ううむ、なんか勝手に話が進められている気がするが手間が省けていいだろう。
とりあえず俺達もその勇者の後を追うことにする。
サンドリノ村の東にある魔岩窟という場所にやってきた。
話だとなーんにもないただの岩があるだけだったそうだが、
なんか剣で斬られたように真っ二つになっていた。これは勇者がやったのか?
「中は洞窟になってるみたいですね。行きますか?」
「戻ってどうする。行くぞ!」
魔岩窟を抜けた先には、悪趣味だとしか言えないような気持ち悪い城があった。
ああ、見るからに魔王がいますよって感じの城だな。
門は既に開かれている。先に勇者が入っていったのだろう。
「じゃあ仕掛けとか全部解かれてるんじゃないですか? 楽でいいですね」
「とはいえ気を抜いたりするなよ。敵陣の真っ只中を進むわけなんだからな」
よく考えるとこれは結構自殺行為なのでは?
案外勇者も入り口付近で死んでいたりするかもしれない。
魔王城の中は驚くほど静かで、何もなかった。
どうやら本当に勇者が全ての敵を倒して、仕掛けも解いていってしまっているらしい。
むむむ、流石勇者だ。ぜひ帝国軍に加わって欲しい。
「ところであそこで倒れてるアレ。昨日戦って相手さんの将軍ではありませんか?」
言われて見てみると確かに。ビネガーがマヌケな表情で倒れていた。
そういえば3大将軍がどうとか言ってたな……。コイツ以外もマヌケだったんだろうか。
倒れてるビネガーは無視して先へ進む。
恐らくここが最深部だろう。
広間のような部屋の中心で、何かを話している2人がいる。
いま喋ってる方は多分魔王の方だろう。
「いつかのカエルか……。
どうだ、その後の人生は?」
ん、カエル?
「感謝しているぜ。こんな姿だからこそ……、手に入れた物もある!」
そう言うと勇者は持っていた剣を振りかざした。
と、同時にその姿が露となる。カエルだった。
勇者はカエルだった。
「なんてこった」
この世界の命運は一匹のカエルによって左右されてしまっていたのだ。
なんとも情けない話である。
「ほう……。貴様がグランドリオンを……」
魔王も魔王でもう少し反応してやれよ。カエルだぞ、カ・エ・ル!
ああでも魔族って変な見た目の奴多いしそんなことでは驚かないのかも。
「だが今度は他の者達が、足手まといにならねばいいがな」
「他の者?」
魔王の言葉に疑問を感じたんだろう。カエルが振り返る(ダジャレではない)。
そして俺達に気付く。
「び、ビックス! あと……もう1人!」
「え、僕の扱い酷くない?」
「いや妥当だと思うぞ。お前ヤクラ戦で何もしてなかったし」
「お前達も魔王を討ちに来たのか! なら話が早い!
今、目の前にいるそいつが魔王だ! 共に戦うぞ!」
カエルは魔王に向き直って剣を構える。
なんかあいつが持ってる剣、やたらかっこいいな。カエルの癖に。
いや、そんなことを考えてる暇はないか!俺達も戦闘態勢に入らないと!
すぐさまカエルの横に駆け寄り、それぞれが武器を構える。
相手は魔王だ。少しでも気を抜けばやられる……!
「黒い風が、また泣き始めた……。
よかろう、かかってこい……
死の覚悟が出来たのならな!」
ステータス
ビックス Lv15 帝国兵
HP 419
MP 0
Eミスリルソード
Eゴールドスーツ
Eゴールドヘルム
●まどう
ウェッジ Lv9 帝国兵
HP 214
MP 68
E紅の剣
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
★ポイズン ★ドレイン
カエル Lv25
HP 428
MP 57
Eグランドリオン
Eゴールドスーツ
Eゴールドヘルム
Eゆうしゃバッチ
「魔王ーーーッ!!」
戦いが始まったと思いきや、いきなりカエルが飛び出していった。
魔王相手に正面から突っ込むだと!?
あいつって確かもっと冷静な奴だったと思うんだが。
考えていても仕方ない。援護しなければ。
魔王へ向かってファイアビームを撃つ。よし、いいタイミングでの発射だ。
このままいけば直撃――――と思ったところでビームが消える。
いや、まるで魔王に吸い込まれたかのように消滅してしまったのだ。
まさかこいつ、『魔王』だけあって魔法が通じないのか?
「うおおッ!!」
カエルの一撃もあまり魔王には通じていないようだ。
魔法も、物理もダメ。ならどう戦えばいいんだ……。
「ふ、愚か者達め。その程度で私に挑もうとはな」
「く、どうすれば……!」
何も打つ手がない。魔王が持っていた鎌をこちらへ向け、振りかざそうとしたその瞬間、
「ポイズン!」
ウェッジが魔法を唱える。だから魔法は効かないんだって。
くそっ、もう終わりだ……。
緑色のきったねぇ液体が魔王目がけて飛んでいく。
あれもどうせ吸収されておしまいだ。帝国仕込のファイアビームが通用しないんだ。
ヘッポコウェッジのポイズンなんて……。
「ぐっ!?」
あれ、効いてる!?
「やった! ポイズン!」
調子に乗ってもう一発ポイズンを唱えるウェッジ。
やはり魔王には効果があるようだ。一体何故?
「おのれ……! 奇妙な魔法を!」
「バリアチェンジ!」
鎌を持っていない方の手を振り上げ、魔王が唱える。
すると魔王の周りに結界のようなものが現れ、そして消えた。
その直後、
「くるぞ! ビックス!」
カエルの声と同時に、強烈な魔法が俺へと襲い掛かる。
ビネガーが使っていたサンダーなんかは比べ物にならない!
魔王が放ったよく分からない闇の攻撃魔法は、とにかく凄まじい威力だった。
カエルが声をかけてくれたおかげでギリギリ避けることが出来たが
あれをくらっていたら一溜まりもなかったに違いない。ウェッジなら即戦闘不能だ。
ウェッジがまたポイズンを唱える。
またまた魔王にクリーンヒット。よく分からないが魔王は炎・氷・雷・闇は防げるが
ウェッジのポイズンだけは防げないらしい。
「なんだあの属性は……。あんなもの宮殿にも……」
魔王も困惑している。今がチャンスだ。
「ドレイン!」
いつの間にか新しい魔法を習得していたらしい。
ドレイン……確か相手の生命力を吸い取る魔法だったか。
嫌な魔法ばかり覚えるなあいつは。
「ぐああああ!!」
これも効き目があるらしい。珍しくウェッジが活躍しているな。
というかこの勢いだとマジでウェッジだけで終わるんじゃないか。
「くっ、バリアは通じぬか。ならば我が最大の術を以ってして貴様らを滅しよう」
魔王が防御を解き、呪文を唱え始める。
よく分からんがどうにしかしないと大変なことになりそうだ。
「倒すなら今しかない! いくぞカエル!」
「おうっ!!」
2人で魔王に斬りかかる。
だが呪文を唱えながらにも関わらず、魔王の動きは機敏で
中々攻撃を当てることが出来ない。
くそ、剣での攻撃はダメか。ならば魔導はどうだ。
今ならもう防御は解かれているから炎も氷も効くはず。
ファイアビームを放つ。外れるも、魔王の動きは止まる。
そこへカエルがジャンプ斬りを叩き込んだ。
「終わりだーーーッ!!」
「いや……終わるのは貴様らの方だ」
カエルの攻撃が直撃すると同時に、魔王の詠唱が終わったらしい。
「ぐ……やってくれたな。しかしこれで貴様らはもう終わりだ」
カエルによって負わされた傷を抑えながら魔王が笑みを浮かべる。
なんてことだ。確か最大の術とか言ってたな。
さっき俺に向かって撃ってきたよく分からない魔法ですらあの威力だ。
これは、覚悟しないといけないかも知れない……。
「ダークマターよ! 全てを闇に還せ!!」
空間に、例のゲートのような、三角形のねじれが生じる。
だがそのねじれの先にあったのは果てしない、闇そのもの。
「う、うおおおおおおおッ!!」
「ビックス殿おおおおおおッ!!」
闇に吸い寄せられているのか、
闇が俺達を飲み込もうとしているのか。それすらも分からない!
分かるのはこの攻撃がとにかくヤバいということだけだ。
なんか部屋全体も揺れてるような気がする。
出来ることは最早耐えるだけ。
俺は直前に気を失ったウェッジを支えながらヒールフォースで体力を回復する。
カエルはカエルでなにかよく分からない技で回復しているようだ。……舌?
「う、うおおおおおおおッ!!」
「ビックス殿おおおおおおッ!!」
闇に吸い寄せられているのか、
闇が俺達を飲み込もうとしているのか。それすらも分からない!
分かるのはこの攻撃がとにかくヤバいということだけだ。
なんか部屋全体も揺れてるような気がする。
出来ることは最早耐えるだけ。
俺は直前に気を失ったウェッジを支えながらヒールフォースで体力を回復する。
カエルはカエルでなにかよく分からない技で回復しているようだ。……舌?
>>91
ミス
永遠にも思えた長い攻撃がようやく終わった。
絶えず回復をしていたというのに俺達はもうボロボロだ。
もしまだ魔王に余力があったとすればここで殺されていただろう。
「馬鹿な……。ダークマターを耐えた、だと!?
くッ、貴様グランドリオンをそこまで……」
というか攻撃は終わったんだよな?
まだ部屋全体が凄く揺れてる気がするんだが、これは一体。
!? 揺れてるってレベルじゃないぞこれ!?
「まずい! 今、眠りから覚められては……!」
慌てた様子で魔王が言う。
眠りから覚められては? まさか……ラヴォス!
やはりコイツがラヴォスを生み出したのか!
「愚か者どもが! 私は呼び出したにすぎん!
あれは太古の時より地中深く存在し、この大地の力を吸いながらゆっくりと成長を続けているのだ!」
なんだと!?
「何だ、この感じは!?」
カエルが叫ぶ。
これは……ゲートか!? だが凄まじく強い力を感じる!
巨大なゲートがこの場にいる全員を飲み込もうとしているのだ!
その力はさっきのダークマターの比ではない!
あの魔王ですら時空のねじれの中に吸い込まれようとしていた。
「おのれ、きさま達さえ現れなければ……!」
「うおおーッ!!」
乙
俺達は何回見知らぬ場所で目を覚ますのだろうか。
どうやら今いる場所は400年前のガルディアよりもっと昔の時代。
いや、昔なんてものじゃない。俺達は原始時代に来てしまったのだ。
周りにいたのは草っ葉や皮で作られた服を着ているような奴らばかり。
でも俺達がいるこの場所だけは明らかに異質な場所だった。
オーパーツというかなんというか、流石に中世までとはいかないが
原始とは思えない文明があるのだ。この場所は。
恐竜人、とかいう種族の長が住む城らしい。
それで、俺とウェッジがいるこの場所はその城の牢屋。
カエルと魔王の姿はない。恐らく別の時代に飛ばされたのだろう。
「恐竜人、さからった者、みな殺しする! たいへん! たいへん!」
「アザーラ、人間、みな殺しする! たいへん! たいへん!」
「恐竜、かみなり、感電! ビリビリ! ビリビリ!」
やはり知能が低いのか周りにいる原始人はみんな同じようなことしか言わない。
どうやらこの時代では人間と恐竜人が争っているらしく、
アザーラとかいうのが恐竜人の長らしい。
というかこれ人間が負けたらどうなるんだ。未来にいる全員が恐竜人になるのか?
恐竜人というのをまだ見てないからなんとも言えんがそれは勘弁して欲しい。
爬虫類とかはどうにも苦手だ。
「あ、ビックス殿。誰か来たみたいですよ」
やってきたのはトカゲのような外見をした人型の生物。
恐らくこれが恐竜人……思ったとおりの気持ち悪い見た目だ。
恐竜人は下品に細い舌をチロチロ出したり引っ込めたりしながら喋りだす。
「われら、これからウタゲ! お前ら料理されて、皿の上グゲゲ」
なんてこった。こいつらは俺達を食うつもりだ。
そうなれば大人しく捕まっていられる道理はない。
武器を構え、骨組みの牢屋を叩き壊そうとしたその直後だった。
「サルどもぎゃ!!」
恐竜人が飛び上がって侵入者を迎え撃つ。
どうやら原始人の仲間がここへ乗り込んできたらしい。
いま牢屋の外で戦っているのは数人の原始人。
やはり原始人らしく、野性味溢れる戦いを繰り広げているのだが
その中でも時折目を惹かれる戦いを見せる女がいた。
……決していやらしい目で見ていたわけではないからな。
確かに露出は多いけども。
「ウ~~~~~!!! ガァッ!!」
女だというのにまるで獣のように恐竜人へ飛び掛り、
そしてその喉笛を噛み切って相手を絶命させる。
なんとも惨い。しかしなんという身のこなし。
その場にいたほとんどの恐竜人をその女は1人で倒してしまい、
そして力尽くで牢屋をこじ開けてしまった。さ、流石原始人……。
「みんな! 助けにきた!」
原始人の女が高らかに声を上げると
捕まっていた者達が全員外へと飛び出していく。
女はすぐに逃げ出さない俺達を疑問に思ったのか、牢屋の中へ入りこちらへ近づいてくる。
というか匂いを嗅がれている。そういやしばらく風呂に入ってないな。
「そんなに嗅がれたら照れるなぁ~」
ウェッジはいつでものん気そうでたまに羨ましくなる。
「お前ら、なんだ? エイラ、知らない」
どうやら彼女はエイラというらしい。
「恐竜人か?」
「いや! 違う!」
勘違いされて襲われたらたまったもんじゃない!
さっきの恐竜人みたいに噛み引き裂かれて殺されるのだけは勘弁だ。
俺は自分の家のベッドの上か戦場で死にたい。
「お前達、どっから来た?」
えーと、なんて言えばいいのかな。未来、って言っても通じなさそうだし。
「ずーっと、ずーっと、ずーっと先の明日から来たんですよ」
「そ、そうだ。明日の、明日の、明日の……ずーっと明日から」
沈黙。
まずい……殺される?
「ハハハ! お前、面白い。エイラ、面白いヤツ、好き」
と思いきやエイラは腹を抱えて笑い始めた。ほっ。
よく分からんが助かった。というかそうだ。
「おいウェッジ。ここはもしかしなくても原始時代だよな?」
「そのようですね」
「さっき、魔王が最後になんて言ったか覚えてるか?」
「ええと」
「ラヴォスは太古より地中で眠っていた、って言ってただろ」
「覚えてません」
「馬鹿か! ここは太古。ラヴォスも太古。つまり?」
「ドコドコドン?」
「それは太鼓だろうが! つまりだな、ラヴォスはこの時代で生まれたんだよ!」
「な、なんだってー!!」
ようやく理解したウェッジが飛び上がって驚く。全くコイツは。
もしかするとラヴォスと恐竜人になんらかの関係があるのかも知れない。
アザーラとかいったな。そいつに会えば何か分かるかも知れない。
「おい、エイラと言ったな」
「なんだ?」
「俺達も一緒に戦う。共に恐竜人を倒そう!」
「ほんとか!?」
目をキラキラさせて手を取ってくるエイラ。
不覚にもかわいいと思ってしまった。
人間の元祖だけあって物凄く純粋なのね。
「アザーラ、この城、一番上にいる! 行こう!」
魔王と戦った直後で結構しんどいかもしれんが
ヒールフォースで傷は回復出来てる。いざ、アザーラの元へ!
ステータス
ビックス Lv18 帝国兵
HP 580
MP 0
Eミスリルソード
Eゴールドスーツ
Eゴールドヘルム
●まどう
ウェッジ Lv15 帝国兵
HP 417
MP 160
E紅の剣
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
★ポイズン ★ドレイン ★バイオ
エイラ Lv32
HP 601
MP 66
Eこぶし
Eトリケラプレート
Eストーンメット
Eパワーマフラー
「どうもHPMPの伸びが他の人達と違う気がするなぁ……」
ウェッジがなにか呟いてるがどうせ下らんことだろう。無視無視。
エイラは凄い。
素手で戦っているというのに、剣や魔法で戦っている俺達よりも攻撃力が高い。
頭脳で勝負するようになってから人間の腕力は下がっていったと聞いたことがあるが
まさか人間の祖先がこんなにも強いとは!
「う~~~っ! ぐるぐるぐる~~~~っ!!!」
しかも大きく回転し、服についてる尻尾で竜巻を起こすなんて芸当もやってのける。
さながらトルネドだ。というかエイラが本当に人間なのか疑うレベルなんだが。
「うきゅ」
エイラのマネして目を回すウェッジも同じ人間か疑うレベルのアホさだ。
恐竜人の皮膚は凄まじく硬いが、サンダービームで感電させることによって
かなり効率良く倒していくことが出来た。
ちなみに魔王戦で活躍したウェッジだがやっぱりただの役立たずに戻ってしまった。
折角サンドリノで買った紅の剣もほとんど使ってないし、
頼みの魔法もエイラの前では遊びのような威力。今やエイラと俺の連携を後ろで見ているだけだ。
「ええい、こうなれば新魔法! バイオ!」
と思ったら突然大技を繰り出す。バイオはそこそこ上位の魔法だったはずだ。
ポイズンよりも大きな毒の塊が現れ、恐竜人達へ降り注ぐ。
流石の恐竜人達も大量の毒には耐えられなかったらしく、
バイオの一撃によってその場にいた全員が倒れることとなった。
「やるじゃないか。見直したぞ、ウェッジ」
「ありがとうございます! ただバイオは消費がかなり大きくて……」
もう今日はしばらく使えないとのこと。やっぱりバカだコイツは。
残りの戦闘も俺とエイラで片付け、そしてようやく城の頂上へと辿りつく。
なにやら何かが吼えるような声が聞こえるんだが……気のせいであって欲しい。
アザーラの玉座の裏にあった扉を開けると、
それが目に入る。いいや、入らざるを得なかった。
ジャンクドラガーやヤクラなど比べ物にもならない。
超! 超超超巨大な恐竜が先で俺達を見下していたのだ!
まさかあれがアザーラなのか!?
「やはり来たか……。これが、最後の勝負になりそうだな」
違ったらしい。デカい恐竜の後ろからちっこい恐竜人が現れる。
ちっこい、って言っても他の恐竜人と同じくらいの大きさだが。
あのバカデカい恐竜と比べると何もかも小さく見えてしまう。
というか足場、崩れたりしないよな……?
「おそかれ早かれ、決めなければならぬのだ……。
我々恐竜人か、きさま達サル共か。この地に生き残る方をな」
なんか恐竜人にしては知能が高くないか?
俺達とほとんど変わらない喋りなような気がする。
……ウェッジより頭が良かったりはしないよな?
「それ決める、大地のおきて。エイラ、戦うだけ!」
どうやらアザーラと平和的に話している暇はなさそうだな。
アザーラが、空に浮かぶ赤い星?を見上げる。
「赤い星め……。降るがいい。」
それからこちらへ向きなおし、両腕を広げる。
まるで演説のようだ。
「そして大地を赤く染めるがいい!
我々が滅ぶ運命だとしてもサル共なぞに道を譲るわけにはいかぬ!」
アザーラが乗っている、バカデカい恐竜が吼える。
空気が震えているかのような大きな叫びだ。
「フフフ。このブラックティラノがお前達サル共を、永遠に歴史から消し去るのだ!」
ブラックティラノが火炎を吐き出すと同時に、エイラが跳び上がった!
上空から、エイラの蹴りがブラックティラノの頭蓋へ炸裂する。
だが微動だにしない。一切のダメージを受けていないようだ。
「ハハハ! 無駄だ! ブラックティラノには何物も通用せん!」
恐竜には雷だ。サンダービームを撃ち込んでみる。
が、効果は薄い。
「フン! そんなちっぽけな雷でティラノを感電させられるものか!」
「ど、どうするんですかー。ビックス殿、エイラさーん!」
ええいならば、ティラノは後で考えることにして
まずはアザーラからやっつけるぞ!
「な、なんだと!?」
「! ビックス、お前頭いい! エイラ、分かった!」
ブラックティラノの頭に噛み付いていたエイラがアザーラの方へ振り向く。
「や、やめろ! 来るなサル風情が! うわあ~~~!!」
アザーラが何かしていたのか、それとも主が倒されて焦ったのか
ブラックティラノの防御が解かれる。攻撃が通じるようになったみたいだ。
「よーし! じゃあ……バイオ!」
魔力が足りなかったらしく何も起こらなかった。
「いくぞエイラ!」
「分かった!」
サンダービームを撃ち出す、続いてエイラがブラックティラノの顔面に飛び掛る。
ここの足場は狭くティラノは身動きが取れない。
吐き出してくる火炎もそこまで脅威ではない。
つまりあいつはただの見せ掛け。最初は驚いたが大したことのない相手だ。
「あと一押しだ! このまま…………」
!?
『ギャオオオオオオオオオオオオッ!!』
城全体どころか世界全体を揺るがしかねない、とてつもなく大きな叫びが上がる。
お前はラヴォスか!
っと、ふざけてる場合じゃない。今ので耳が完全にやられてしまった。
それに本能が危険を察知しているのか上手く動くことも出来ない。
だというのにエイラは今もなおブラックティラノに攻撃を続けていた。
そんなエイラを飲み込もうというのか、ティラノがゆっくりとその口を開き
そして身体を傾けていく。
エイラはティラノがなにをしようとしているかさえも気付かず、攻撃を続けている。
恐らく彼女も耳が聞こえなくなってしまっているのだろう。
「――――――ッ!!」
必死で叫ぶ。しかし自分の声すら自分で認識することが出来ない。
エイラが気付くはずもないのだ。
そのまま、
「!?」
ブラックティラノの口の中へエイラが滑り落ちてしまう。
なんてことだ……! エイラが食われてしまった!
「あ、ああ…………!」
今更聞こえるようになったところでもう遅い。
エイラは死んでしまった。俺が油断していたせいだ。
「そ、そんな……! エイラさんが……エイラさんが……!」
いつもはおちゃらけてるウェッジも茫然自失としている。
帝国軍にいた時は誰がいつ死んでもおかしくはなかった。
あの世界では帝国が全ての国に対して攻撃を行っていて、
毎日が戦争状態のようなものだったのだ。殺し殺されは珍しくもない。
だがこの世界に来てからは違うんじゃないかとも思い始めていた。
色んな敵と色んな戦いをしてきたが、今までただ1人の死人さえ出ていなかった。
帝国で戦争を繰り広げていた時はいつも暗い気持ちで戦いに臨んでいた。
だが今は違う。違ったはずだった……。
「俺が……俺がしっかりしていなかったせいで! うおおーッ!!」
エイラの仇! とブラックティラノに向かっていた直後、
ぽんっ!とティラノの片目が飛び出した。
文字通り、飛び出した。目玉はコロコロ転がって城の外へと落っこちる。
…………は?
「ふう! 苦しかった!」
空いたティラノの目の中からエイラが這い出てくる。
え? 喰われた後、ティラノの体内を這いずり回って目から出てきたってこと?
そ、そんなめちゃくちゃな……!
「とりゃっ!」
エイラが床へ下りて、軽くティラノを蹴飛ばすと
なんともあっけなくティラノは傾いていき、そのまま下へと落ちていってしまう。
エイラに脳とかも蹴っ飛ばされたのかな……。うげー。
「ビックス! エイラ、やった!」
喜んでエイラが駆け寄ってくる。
う! うげげ! 女の子から漂ってはいけない臭いがする!
「うう……。天は、お前達サル共をえらんだというのか……」
アザーラの声だ。あいつ生きていたのか。
だがもう動けない様子。エイラがアザーラへ歩み寄る。
「クッ、サル共よ聞け。そして伝えよ。我等が恐竜人は、運命に戦いを挑み誇り高く滅びたと……!」
「分かった……」
敵同士ではあったがどちらも生き方は同じだったのかも知れない。
エイラはまるで死にかけた友を看取っているかのような悲しい表情を見せていた。
「始めに、炎を纏った大岩が降ってくる……」
「!?」
突如、地鳴りのような大きな音が空から聞こえてきた。
空を見上げると、さっきまで遠くに見えていたはずの赤い星が近づいてきているじゃないか。
まさか、隕石……?
「灼熱の火球は、万物を焼き尽くす。
焼き尽くされた大地はやがて冷え始め、全てが凍りつく長く厳しい時代が来る……」
死に掛けているにも関わらず、アザーラは含んで笑う。
「フフ、我等が時代のまく引きにふさわしいではないか……。フハハハ…………!」
「ラヴォス……」
!?
「エイラ! いま、ラヴォスって!」
「エイラ達の言葉。ラ、火の事。ヴォス、大きい事……」
なんてことだ。ラヴォスは魔王が生み出したわけでも
太古の地底で生まれたわけでもなかった。
宇宙からこの世界に降って来ていたのだ!
それならもう原因の探しようがない。
ラヴォスがこの世界にやってくるとは避けられない事実だったのだ。
「エイラーッ!」
「キーノ!」
途方に暮れている間もない。
俺達はキーノという青年が乗ってきた空飛ぶ恐竜に乗り
崩れ落ちていくアザーラ城から脱出することにした。
「エイラ! なにしてる!」
一度空飛ぶ恐竜に乗ったエイラだが、何を思ったのか降りてアザーラへ駆け寄る。
「こい! アザーラ! こい!」
敵だったアザーラを助けようとしているのだ。
やはり何か思うところがあったのかも知れない。
だがアザーラは、
「だめだ! これは、大地が決めたことだ!」
エイラの助けを拒む。
「…………」
「エイラ! はやく!!!」
アザーラはここで城と共に心中するつもりだ。
その決意はなによりも固いのだろう。
大地の掟、か。普通に考えれば馬鹿馬鹿しいものなのだろうが……
何故だか俺はこの時、エイラやアザーラのような生き方こそ
生物の本来あるべき姿なんじゃないかとも思い始めていた。
「アザーラ。わすれない……」
「未来……」
城から飛び立つ、際の瞬間でアザーラが呟く。
もう話す力もほとんど残されていないようでその声はか細い。
だが崩壊していく城の中で、何故だかその声だけははっきりと聞こえた。
「未来? 未来がどうした?」
エイラが聞き返す。
「未来を…………」
たった数時間の出来事だったが、あの城の中に何日もいたような気さえしてくる。
命の在り方について、あんなものを見せられた後では
帝国や魔王軍との戦いが馬鹿馬鹿しく思えてきてしまうくらいだ。
アザーラは最期に何を伝えようとしていたのだろうか。
……いかんいかん、俺は帝国に戻らないといけないのに。
でも、あの荒んでしまった世界の中、帝国は無事に在り続けているのだろうか。
もしも恐竜人達のように滅んでしまっていたとしたら……。
「ビックス殿! ゲートですよ、ゲート!」
あ!?
人が感慨深くなっているところを邪魔しやがって。
って、ゲートだと?
読んでる
乙
以前FF4の書いた?
魔導アーマーが早々に退場したのは寂しいが、面白いな
クロノトリガーあんまり詳しくないから先が気になるわー
ウェッジに言われるがままにアザーラ城跡に向かう。
降ってきたラヴォスに直撃され、アザーラ城は文字通り跡形もなく消滅してしまった。
城に残っていた恐竜人も全滅。もしかしたら既に絶滅してしまったのかも知れない。
かわいそうに思えるが、これがアザーラの言っていた大地の掟とやらなんだろう。
「なんだかおかしなゲートなんですよ。とりあえず見てみてください」
はあ。おかしいのなら見慣れているんだがな。
ウェッジの言うとおり、アザーラ城跡にゲートが発生していた。
が、そのゲートは何故か三角上の結界のようなものによって閉ざされていた。
「これじゃあ別の時代に行けませんよ」
「なら俺達は原始で一生を過ごすのか?」
「それはイヤですねえ」
「イヤですねえってどころじゃないだろが……」
このゲートというものは未だによく分からん。
そういえばクロノやルッカはどうしてるんだろうか。
ルッカはゲートホルダーとかいうのを持っていたな。
もしかしたら俺達と同じように色々な時代を冒険しているのかも知れない。
この時代に助けに来てくれたりは……ないか。
「これ、エイラ、知ってるぞ」
「えっ?」
いつの間にかやってきていたエイラがゲートを指差してそう言った。
知っているだって? ゲートを? 原始人が?
一体どういうことだ?
「前、クロ達やってきた時、クロ達、これ入って、帰った」
「クロ?」
「クロ。クロとルッカとマール」
!!
クロノ達か!
あいつらもこの時代に!
「ゲートは他にもあるってことか!」
「?? 案内する」
ひゃっほう! 一時はどうなるかと思ったぜ!
エイラに案内されて不思議山と呼ばれる場所へ着く。
確かにゲートはあったのだが……。
「どうやってあんな高いところにあるゲートに入るんですか……」
ゲートは上空数mのところに位置していた。
多少飛び上がっても絶対届かない高さだ。エイラならともかく。
でもクロノ達はここから来て、多分ここから帰ったんだよな?
一体どうやって?
「こっち、こっち!」
エイラが山道を駆け上がっていく。
ま、まさかな……。
そのまさかだった。
ゲートよりも高い位置にある崖から飛び降り、入り込まないといけないらしい。
失敗すれば骨折どころじゃ済まない気が……。
「エイラ、いっしょ、行く! お前ら、エイラ達、助けた。
今度、エイラ、お前達、助ける番!」
なんかエイラがついてきてくれるらしい。
戦闘では頼りになるんだけど未来につれてくのはちょっと不安だ。
なにしろエイラにとってはウン万年後の世界に行くわけだ。
興奮して暴れだしたらどうしよう。俺には止められない。
「エイラ、クロ達のとこ、行く!」
そう言い残し、エイラが崖から飛び降りていく。
大した度胸すぎる。
「ええい! 帝国万歳!」
続いて俺も飛び降りる。
どうせ1人じゃ飛ばないだろうウェッジの手を引いて。
「ぎゃあああああああ~~~~~!!!!」
そういやこいつ高所恐怖症だったっけ。
今度は意識を失っていないし、誰ともはぐれていないぞ。
俺とウェッジとエイラは恐らく……現代、A.D.1000年のガルディア王国へと戻ってきていた。
なんだか懐かしいな。数日離れてただけだけど色々あったからなァ。
とりあえずどこに向かうか。
「リーネ広場に行ってみましょう。テレポットの広場にルッカさんがいるかも」
なるほど。冴えてるなウェッジ。
というわけで俺達帝国兵2人と原始人の一行はリーネ広場に向かうこととなった。
あとエイラだが、未来にやってきたことに全く疑問を抱いていないらしい。大物だ。
リーネ広場に到着した。
ああ、懐かしすぎる。ベッケラーは元気かな。
それにしてもなんだか広場にいる人が少ない気がする。
記憶が確かならまだ千年祭は続いているはずだよな?
ちょっとこれはおかしい気がする。
「ああ、なんでも王女誘拐の罪で裁判が行われるとかでね。野次馬はみんなそっちじゃよ」
武器を売っていた老人に話を聞いてみたらこれだ。
王女誘拐? 王女ってのはマールのことじゃなかったか?
もしかして裁判にかけられているのは、クロノ?
急いでガルディア城へ向かう。
裁判所へ行ってみると本当にクロノが被告として立たされていた。
馬鹿な。あいつは王女を誘拐したんじゃなくて、助けたんだぞ!
「ようこそみなさん。彼こそマールディア王女の誘拐の罪で疑われているクロノです」
そう言っているのは確か……そう、この国の大臣だ。
今すぐ異議有り!と唱えてやりたいがそういうわけにもいかない。
どうにかクロノを助けてやらないと。そういえばルッカはどこに?
「ちょっと! だからクロノは誘拐なんてしないって言ってるでしょ!」
「ルッカの言うとおりよッ! クロノは私を助けてくれたのッ!」
裁判所を出てみたらすぐに見つかった。
ルッカとマールが王国の衛兵相手に喧嘩している。
「で、ですから有罪かどうか決める為に裁判を行っているわけで……」
「そんなの関係ナ~イッ! 王女本人が無罪だって言ってるの!」
うーむ、マールはリーネ王女と違ってかなりおてんばみたいだな。
おおっといけないいけない。そんなことを考えてる場合じゃなかった。
「マールッカ!」
いけね、混ざった。
「あ! ビックスウェッジ! 無事だったのね! それにエイラも!
って今はそんな場合じゃないわ! クロノの奴が大変なの!」
ああそれは知っている。とりあえずお互い、手短に情報を共有する。
「ここは通してもらえなさそうね。なら私に考えがあるわ!」
「なんだ?」
「ついてきて!」
マールが走り出す。
「あっちは宝物庫のはずだけど……。マールったら何をするつもり?」
分からないがとりあえずついていこう。
宝物庫。
「裁判所の後ろがステンドグラスになってるのは知ってるよね?」
ええと、確かそうだったな。なんとなく覚えてる。
「実は私、昔は結構おてんばでね。よく城の隠し通路なんかを探して回ってたの」
今もおてんばだと思うが……。
「で、宝物庫からそのステンドグラスの場所まで行けるのよ!」
「ってことは、ステンドグラスを割って裁判所に乗り込むつもり!?」
「そう! もう頑固なお父様も大臣もこんな国もこりごり! みんなで逃げちゃおう!」
「おお! 流石は王女殿! 大胆な発想ですな!」
おてんばどころじゃないな。
そういえば宝物庫にいる衛兵はどうするんだ?
「あっ」
おいおい、振り出しに戻っちまったじゃないか。
「いや、なんだか大丈夫そうよ。ほら」
ルッカに言われた方を向いてみると、衛兵が倒れていた。脛を押さえて。
ネズミにかじられたらしい。意味が分からない……。
まあ最悪ぶん殴って意識を失わせてただろうから手間が省けてよかった。
騒ぎになるリスクも避けられたしな。
「さあ行きましょう! 早くしないと裁判が終わってクロノくんが刑務所に!」
「待って! この倒れてる人が持ってた書類、これ大変なことが書いてあるわよ!」
「ええと……ドラゴン戦車!? 私、こんなの知らないよ!?」
なに、戦車だと?
この国は戦争でも始めるつもりだったのか?
「いや、そもそも戦争する相手がいないから。
とにかくこの人を叩き起こして事情を説明してもらいましょう」
そう言ってルッカはエアガンのグリップで衛兵の頭を小突く。
うげ、角のところが当たってる……。ありゃ痛いぞ。
「いたっ!? な、なんだ貴様ら!」
「これ! どういうこと!? なんで貴方がこんな書類を持ってるの!?」
「げっ、マールディア様……。ええと……それはですね」
しどろもどろな手振りを見せる衛兵。言い訳にすらなっていない。
怪しすぎる。
「ええい、こうなりゃヤケだ! あの方には悪いがお前らはここで始末する!」
「えっ? きゃああーーっ!!」
どう言い訳するか待っていたら、なんと衛兵はヘビの魔物になってしまった!
どうなってるんだこの国は!
「ウケケケ、俺達は400年前にお前らに屈辱を受けた一族の子孫!
今こそあの方の悲願を果たす時! 死ねーっ!!」
と、勢いよく噛み付こうとしてきたヘビの魔物だが、
マールがボウガンで引っ叩いたらその一撃で伸びてしまった。
なんか……威勢のわりに弱すぎないか?
「どうやら裏で大変なことになってるみたいね」
「二手に分かれることにしましょう。片方はクロノを救出するチーム。
もう片方は謎のドラゴン戦車を破壊するチーム。
どちらも放っておいたら取り返しのつかないことになるはずよ!」
「エイラ、クロ助ける! マール、一緒、行く!」
じゃあ俺とウェッジはドラゴン戦車とやらを壊しにいかないといけないのか……。
なんだか大変な方を押し付けられた気がする。
ウェッジは役に立たないだろうし、不安だ……。
「それなら大丈夫よ。城の入り口付近にカエルと、あとロボがいるはずよ。
彼らも一緒につれてってあげて!」
カエルもいたのか! というかロボってなんだ……?
そういやリーネ広場にゴンザレスとかいうロボがいたな。まさかアレか?
ロボはゴンザレスではなかったが、まあロボだった。
ゴンザレスより一回り程小さい身体をしているが明らかにスペックは上だ。
というか魔導アーマーより高性能かも知れない。一体こんなものどこで……。
「貴方達はクロノ達ノ仲間なんデスネ。私はロボデス。よろしくお願いシマス」
「まさかこんなところでまたお前らに会えるとはな。てっきり魔王城で死んだのかと思ったぜ」
っと、今は話してる場合じゃない。
カエルとロボにドラゴン戦車のことを伝え、一緒に来るように言う。
「なんだかヤバいみたいだな。仕方ない。アイツも呼ぶか」
「アイツ?」
「…………まあ、見てりゃ分かる」
するとどこからか突然そいつが現れた。
「おおお、お前はははは…………!」
「ななな、なんでこんなところにいるんですか……!」
魔王だ。中世で死闘を繰り広げた魔王がその姿を見せたのだ。
まさか、俺らを殺しに時代を越えて……。
「安心しろ。そいつは今は俺達の仲間だよ。……今はな」
「…………そういう事だ」
事情が全く分からんが、魔王にも色々あったらしい。
でもあんまりそばにはいたくないな……。
ガルディア城の上層にある、空中刑務所に辿り着く。
ここのどこかにドラゴン戦車があるらしい。
そんなものが城下に出ようものなら大パニックだ。
「デモそのドラゴン戦車というのはドコにあるんデショウ?」
うーむ、それは考えていなかった。
とりあえず暴れていれば相手さんが勝手に出してくれるんじゃないか?
「お、おいあれ……」
とか考えていたら空中刑務所の橋の向こう側からそれっぽいのが出てきた。
キャタピラ音と共に現れたのはどことなく安っぽい、ドラゴンを模した巨大戦車だ。
「ま、魔族とカエルと機械人形がしもべ2人を引き連れて攻め込んできやがった……。
お前らなんかこのドラゴン戦車で木っ端微塵にしてくれるわ!」
なんか勝手に勘違いして出てきてくれたらしい。
というかしもべ2人って……。
「おい! 後ろからも敵が来てるぞ!」
後ろでカエルが叫ぶ。
事態に気付いた衛兵が集まってきているようだ。
「ドラゴンなんとかはお前らとロボに任す!
そっちの方がキカイとやらには慣れてるだろ?
こっちは俺と魔王に任せろ! 魔王、殺すなよ!」
「ふん……」
ああ、カエルと魔王は中世の出だったな。
あの2人なら背中は安心して任せられるだろう(魔王は別の意味で不安だが)。
よし、ドラゴン戦車を迎え撃つぞ!
ステータス
ビックス Lv21 帝国兵
HP 773
MP 0
Eミスリルソード
Eゴールドスーツ
Eゴールドヘルム
●まどう
ウェッジ Lv17 帝国兵
HP 521
MP 272
E紅の剣
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
★ポイズン ★ドレイン ★バイオ ★バニシュ
ロボ Lv40
HP 805
MP 72
Eテラパワーアーム
Eエターナルスーツ
E時の帽子
Eサーチスコープ
威嚇とばかりにドラゴン戦車が作り物の口から火炎を吐き出す。
ふん! そんなもの。
ブラックティラノに比べれば子供騙しだ。「バニシュ!」
お返しにサンダービームを撃ってやる。
ここは足場の狭い橋の上。それにドラゴン戦車は元々機動力が低いようだ。
つまり攻撃は当て放題。デカい的を相手にしているようなものだ。
というかどさくさに紛れてウェッジがどこかに消えたんだが。
「やりマスネ、ビックス! デハ、ワタシも!」
ドラゴン戦車から離れた位置で振りかぶったと思うと、
ロボが思いっきり何もない場所に拳を突き出す。
するとロボの拳がロケットのように発射され、ドラゴン戦車の顔を殴りつけた。
なるほど。魔導アーマーにはなかった発想だ。すばらしい。
もう既にドラゴン戦車の頭部と胴体はボロボロになっている。
これ、わざわざ壊しに来なくても大したことなかったな……。
「ナニかしてくるみたいデス!!」
ドラゴン戦車の車輪が不自然に回転し始めていた。
どうやらパワーを溜めていたらしい。あまり攻撃を繰り出さなかったのはこのためか。
だが所詮、オモチャのような性能だ。どんな技が繰り出されようと……。
「!? 速…………っ!!」
一瞬。息を吸う間に間合いが詰められる。
ドラゴン戦車の機動力が低いなどと決め付けてしまったが間違いだった。
こいつ、直線状の動きだけはべらぼうに速い!!
「がはっ…………!」
「グワッ!!」
単なる体当たりだが、凄まじい速度が加わればその威力は絶大となる。
一気に形勢逆転され、俺とロボは吹っ飛ばされて仰向けに倒れてしまった。
くそ……ここまでか。
きっと追撃で轢き殺される。
ええい、俺も帝国兵の端くれ。今更死ぬのなど怖くないわ!
一思いにやれ!
「…………」
何もこない。
ヒールフォースで回復してから立ち上がってみると、
ドラゴン戦車はなんだかせわしない動きで前後往復を繰り返していた。
なんだ? 壊れたのか?
「だ、誰かが勝手に操縦してる!」
中から操縦士と思われる奴の悲鳴が聞こえてくる。
そうか、ウェッジが入り込んでいるのか!
そのままドラゴン戦車は爆発して橋をぶっ壊して真下に落ちていった。
あれ? ウェッジこれ死んでね?
「ワタシ達も後を追いマショウ!」
追う、って落ちるのか? 冗談だろ?
「ワタシの耐久力なら兵器デス。ここから飛べば裁判所ニ落ちれるハズ!」
ええい、一度は死を覚悟した身。ままよ!
ロボに捕まり目を瞑る。その後なんとも言えない浮遊感が俺に襲い掛かった。
ウェッジ、馬鹿にしてすまん。俺も高所恐怖症になりそうだ……。
ドーーン!と腹に激痛が走る。ロボのどっかの部分が腹に食い込んだらしい。
というか大丈夫とか言ってた癖に機能が止まってるじゃないか、ロボ。
ここは裁判所か。最早めちゃくちゃになっているが。
周りには、手錠をはめられたクロノ。ドラゴン戦車の残骸。その横で伸びてるウェッジ。
そして呆然とするマール、ルッカ、エイラ、大臣だ。まあ、そりゃ驚くわな。
「ななな、俺様のドラゴン戦車が……!」
「大臣! これはあなたが仕組んだことね!」
「しまった!」
「観念なさい! 大臣!」
「くく…………」
大臣が静かに笑い出す。
「くくくく……
観念するのは君達の方だよ。先祖代々受け継がれてきた恨み! 今ここで晴らさせてもらうよ!
スーパーウルトラデラックス大臣チェーーーンジ!!」
そう叫ぶと、大臣はあの化物! ヤクラへと姿を変えた!
こいつ! ヤクラの子孫だったのか!
「先祖と同じだとは思わないことだよん。この数百年で我が一族はパワーアップしたのだ!」
「くらえッ! スピンニードルバージョン13!!!」
どこかで聞いたような技名を叫び、ヤクラの子孫が背中から針を撃ち出した。
撃ちだされた針は俺達の周りを囲むように突き立てられる。
「お前達はここで串刺しにしてやる!」
「そっちこそやっつけてやるんだから!」
「エイラ! クロノを頼んだわよ!」
「分かった! クロ、こっち!」
手錠をかけられていて身動きの取れないクロノを連れ、エイラが外へと避難する。
戦えるのは、俺とマールとルッカの3人か!
ステータス
ビックス Lv21 帝国兵
HP 773
MP 0
Eミスリルソード
Eゴールドスーツ
Eゴールドヘルム
●まどう
マール Lv37
HP 592
MP 80
Eワルキューレ
Eレッドプレート
Eマーメイドメット
Eマヨネーのブラ
ルッカ Lv43
HP 711
MP 89
Eウェイブショック
Eタバンスーツ
E忘れずの帽子
E緑の夢
レベル差が見てて悲しくなってくる
というか原作と違って結構話がぐちゃぐちゃだな、中盤以降は好きな順で話進められるけどマールの裁判って序盤の話だし
そりゃSSにするにあたって再構成はするだろう
そのまんまを書いても仕方ないしな
面白く読んでるよ
大分レベル差あんのにHPやMPの伸び物凄いな
こいつらまさかFF世界のステータスなのか……?
下手なボスより頑丈になんぞw
「ヤクラシェ~イク!」
基本的にあいつはヤクラと同じ行動をとるらしい。
だがその威力はヤクラを凌駕する。確かにパワーアップしているようだ。
いま繰り出したヤクラシェイクもそう。前よりも揺れが激しくなっている。
「マール、いくわよ! ファイガ!」
「うん! アイスガ!」
おわっ、あいつらいつの間に魔法を。
というかなんだあの技は。同時に2つの魔法を出したことにより、
ファイガとアイスガ?(ブリザガじゃないのか?)が混ざり合ってより強力なものとなっていく。
「いっくわよー! 反作用ボム2!!」
相反するはずの2つの属性が混ざり合った結果、
まるでいつか魔王にくらったような闇属性(正しくは冥属性というらしい)の爆発となった。
なるほど。複数人で技を組み合わせたりするのもいいな。
「で、デロデロ~ッ!!」
威力も申し分ない。あの一発でヤクラはかなりのダメージを受けた様子だ。
ようし、ここは俺も!
「もう一回いまの技をやってみてくれ!」
「え? 分かったわ! でも次はもっと強力なのをお見舞いしてやるわ!」
「フレア!!」
「アイスガ!!」
「サンダービーム!!」
ルッカの超強力な炎と、マールの強力な冷気攻撃と、俺のサンダービームが混ざり
そして消えた。
「ちょっと! なんで邪魔するの!」
「わ、わざとじゃない!」
「隙ありーっ! デロデロ~ッ!! スピンニードルバージョン13!!」
「ぎゃああ!!」
ヤクラの撃ちだした針が俺の尻に突き刺さる。
こ、この野郎!
「今のは俺の技が弱すぎたのがいけなかった。もう一度だ!」
「……今度は大丈夫なんでしょうねッ!」
「大丈夫だッ! 多分!」
「…………フレア!」
「アイスガ!!」
恐らく攻撃魔法の優劣はルッカ>マール>俺の順なんだろう。
さっきはバラバラの威力の魔法が混ざったから失敗に終わった。
なら俺がマールに合わせて、というよりマールのアイスガを補強するように技を出せばいい。
はず。
「ブリザービーム!!」
「こ、これは……! 反作用ボム3を遥かに上回る威力! 名付けて反作用ボム4よ!」
数字が1つ増えただけじゃねーか!
だがビンゴだった。さすが俺、冴えてるぜ。
アイスガとブリザービームが合わさることによって、フレアに劣らない威力となり、
超強力な火炎と超強力な冷気がいい具合に混ざり合えたようだ。
「ぎゃっ、ぎゃあああああああああ!!」
デロデロ言っていられる余裕が消え去ったらしい。
ヤクラ自身も絶叫しながら消滅していった。これにて一件落着。
その後、マールは喧嘩していた父親……ガルディア国王と和解。
クロノの無罪も証明されて全部の問題がまとめて解消された。
ステンドグラスは割れたままだがな。
で、そんな俺達に王国から礼が贈られるらしい。
「マールディア王妃、ルッカ様にはプリズムドレスを。
クロノ殿には虹の貝殻と太陽石から作られた名刀『虹』とプリズムメットを。
ビックス様とウェッジ様には中世より伝わる幻の剣を差し上げましょう」
そう言って渡されたのはなんだか無駄に輝いている剣だった。
「それは『夢幻』と呼ばれる幻の武器です。
なんでもこの世界には存在するはずのない物質で作られているとか」
なんだかキナ臭いな。存在しない物質がなんで手に入ったんだ。
「言い伝えによると、謎の旅人があるとき突然、夢幻の元となる幻の剣を置いていき、
その剣を長年改良していった結果、夢幻になったとかなんとか……」
ますますキナ臭い。
が、強力な武器であることには違いなさそうだからありがたく頂戴しておく。
「ビックス殿。これ、私が装備しても?」
うーん、まあいいだろ。俺にはスペッキオからもらった武器があるしな。
でもお前魔法しか使わなくないか……? 紅の剣も結局使ってないよな?
まっ、いいか。
「うーむ! なんだか初めて手にしたとは思えない感触です! 流石は幻の剣!」
落ち着いたところでクロノの家に集まることになった。
クロノ、マール、ルッカ、カエル、ロボ、エイラ、魔王、ウェッジ、俺。
これだけの人数で押しかけてもまるで動じなかったクロノ母はある意味大物だ。
というかカエルにも魔王にも動じないってそれもう人間の域を越えるぞ。
「ビックス、今マデなかったものが出現しているのニハ気付いてイマスヨネ?」
ああ、気付いている。というか来る途中で気付いた。
巨大な黒い要塞のような何か……。そんなような謎の物体が空に浮かんでいる。
どう考えても異常な事態なんだが村人達は何故か気にも留めていない。
まるでそれが元からそこに浮かんでいたかのように。
「そうデス。元から浮かんでいたノデス」
なんだって?
「ただしそれは歴史が改変されたから。私達は古代でラヴォスを目覚めさせてしまったの」
「そのせいでクロノが死んじゃったり……いや、死んではいないんだけど大変だったんだから!」
「サラ……」
「よく分からんが俺の持ってるグランドリオンもラヴォスと関係あるらしい」
「エイラよくわからない」
ええい、いっぺんに喋るな!
話をまとめるとこういうことらしい。
時空を越えてクロノ達は古代文明へと辿り着いた。
そこでなんやかんやあってラヴォスが目覚め、古代で建造されていた神殿
黒の夢と呼ばれるものが浮かび上がってしまったらしい。
「黒の夢の中にはジールっていうラヴォスを起こした張本人がいるはず」
「ジールはラヴォスに力を与え続けているわ。彼女を倒さないとどうしようもないわね」
「エイラよくわからない」「ウェッジもよくわからない」
まあ、つまり敵はあの要塞……じゃなくて神殿にいるわけだ。
でもあんな空に浮いてる場所にどう行く?
「それなら大丈夫。シルバードっていうサイエンスの結晶があるから!」
なんでも時空を越えられ、空まで飛べてしまう便利な乗り物を手に入れていたらしい。
もう魔導アーマーと比べるとかそういうレベルじゃない。
「あ、あとで乗せてもらえますですか!?」
「もちろん!」
でもシルバードは3人乗りらしい。
つまり黒の夢に乗り込めるのは3人……。
「行ったり来たりすれば全員乗り込めるだろうけど
ジールを倒して黒の夢が崩壊!なんてことになったら大変だからね。
ジール討伐のメンバーは3人までってことになるわ」
そのジールって奴はラヴォスの力を多少取り込んでいるんだろう?
3人だけでどうにかなる相手なのか?
「分からない……けどやってみるしかないでしょ」
部屋の中に沈黙が流れる。
「行くとしたら……魔王と、あと2人ってことになるな」
魔王?
またなんで魔王がジール討伐に。
「ジールには借りがあるのでな」
よく分からんが、大体分かった。
魔王と一緒か……。正直怖いな。俺はジールと関係ないし大人しくしてよ。
「魔王が行くなら俺も行くぜ。コイツは誰かが見張ってないとダメだろ」
カエルが名乗り出る。
「ワタシも行きマショウ。黒の夢はきっとコウドな文明の仕掛けが施されているはずデス。
きっとワタシならお役に立てるハズ」
ということは、ジール討伐に行くのは魔王・カエル・ロボの3人か。
残った奴らはどうするんだ?
「私は自宅でバックアップに回るわ。ロボが持ってるサーチスコープから指示を出したりね」
と、ルッカ。
「クロノと私、それからエイラは時の最果てで待機してるわ!
いつでもラヴォスのところへ行けるように!」
……俺とウェッジは?
「…………」
あれ、ここに来てまさかの戦力外通知?
それはあんまりだと思うんだが。
「本当は時の最果てで待機してもらいたいんだけど……。
4人以上でゲートに入ると何が起きるか分からないしね……」
まあ確かに。それで散々酷い目にあった。
時間をおいて別々にゲートに入るっていうのは?
「無理。ゲートが閉じるし、そもそもゲートホルダーは1つしかないもの。
開いてる他のゲートに行くってのも現実的じゃないわね。
ホルダー無しに飛び込めばどこに出るか分からないし。
そもそもA.D.1999へのゲートは時の最果てにしかないのよ?」
ああ……。
というわけで俺達はベッケラーの実験小屋へと戻ってきていた。
「みんな戦ってるのに何も出来ないなんて悔しいですね……」
お前は元々大したこと……いや、意外と活躍してたか。
確かにウェッジの言うとおりだ。不甲斐ない自分が情けないし、悔しく思う。
「なんだかしょぼくれてるようだね」
ベッケラーか。今はそっとしておいてくれ。
「何があったのか知らないけどさ、散歩でもして気を紛らわせたらどうだい?
折角の千年祭だ。楽しまなきゃ損だよ」
そうは言ってもなぁ……。
「ビックス殿、例のテレポッドの広場に行ってみましょうよ。
なにかの拍子にまたゲートが開くかも知れませんし」
ああ、そういえばそんなものもあったな。テレポッドか。
思えばあの装置からこの冒険が始まったんだったな。
いや、違うか。俺達の場合は氷漬けの幻獣からだ。
ウェッジと並んでテレポッドの階段部分に腰掛ける。
「お、ここからちょうど黒の夢が見えますね」
顔を上げてみると確かに見える。
今頃あの中でカエル達が戦っているのだろう。
というか、なんか黒の夢の高度が少し上がっていないか?
さっき見た時はもう少し低い位置に浮いていた気がする。
「え…………?」
気のせいじゃない! どんどん上昇していっている!
黒の夢の中で何かが起こっているんだ!
「ビックスウェッジ! ここにいたのね!」
慌てた様子でルッカがやってくる。
あれ、バックアップに専念するんじゃなかったのか。
「ロボ達がジールを倒したのよ! それで魔神機が暴走を始めて、」
魔神機ってなんだ?
「ああ説明してる暇はないわ! とりあえず簡単に説明するとね!
全時代の全てのゲートが暴走を始めてるのよ!」
なんでそんなことが分かるんだ?
「だから説明してる暇はないってば!
とにかく! もしかすると今ならゲートが使えるかも知れないわよ!」
な、なんて都合の良い……。
さっきまで黄昏れていたのがアホらしくなってくる。
で、ゲートを使う為にルッカはここにやってきたのか。
「そういうことになるわね」
「おお~! では早速行きましょう! ルッカ殿、ビックス殿!」
待てよ。もしたまたま俺達がここにやってきていなかったら
また置いていかれるハメになっていたんじゃないか?
「とりあえずまたテレポッドを暴走させるわよ! そうすればゲートが開くはず!」
そんな回りくどいことしなくてもゲートホルダーで……
って、ホルダーはクロノ達が持っているのか。仕方ない。
「スイッチオン!」
「エネルギー充填開始!!」
テレポッドが起動し、タンクにエネルギーが蓄えられていく。
あの時と同じだ。
「ウェッジ! もっと出力を上げて!」
「あいさ!」
「ビックスも!」
「あいさ!」
テレポッドからバチバチと電流がほとばしり始める。
あの時とおな……じではない!?
「!? 出力が強すぎる!? こんなに強くはならないはずなのに!」
慌てて全員がレバーから手を離すが、テレポッドの暴走は止まらない。
勢いはどんどん増していく。まさか、ゲートが暴走しているからか?
「あっ、ゲートが……2つ!?」
左と右のテレポッド、両方にゲートが出現する。
もう一体なにがなにやら分からない。どっちに入ればいいんだ?
「左のゲートよ! 左から時の最果てへ行ける!」
ルッカが左のテレポッドへ駆け寄っていく。
確かに中世に行った時も左からだった。
だが……。
「ビックス殿…………」
「お前も同じことを考えているみたいだな、ウェッジ」
何故だか右のゲートへ入らなければならないような気がした。
「ビックス!? ウェッジ!? どこへ行くつもり!?」
「大丈夫だ。後から必ず助けに行く!」
「先に行ってて下さい! ルッカ殿!」
ルッカの静止を振り切ってゲートへ飛び込む。
暴走しているせいか、今までとは転送の感覚も大きく違っていた。
上下左右。落ちているのか上がっているのか。
進んでいるのか戻っているのか。奇妙な浮遊感がしばらく続く。
そうして出た先は、何もない空間だった。
時の最果てとも違う。謎の空間。
しかしなんだか懐かしいようなそんな気もする。
『来たか……。帝国の者よ』
な、なんだ? 頭の中に直接声が響くような、変な感じがする。
『我が名はヴァリガルマンダ…………
お前達を異世界へと送った幻獣だ』
氷漬けの幻獣!
「今更なんだって言うんだ! わざわざ俺達を呼んでどうする気だ!?
こっちはそれどころじゃないんだよ!!」
ここで叫んでヴァリガルマンダに聞こえるかどうかは分からないが、
言わずにはいられない。
『2つの世界は……そのどちらもが滅びに直面している……』
あ、これ聞こえてない。
いや聞いてないだけか?
ヴァリガルマンダの話だと、俺達が元々いた世界はかなりヤバいことになってるらしい。
あのケフカが伝説の三闘神を復活させ、あまつさえその力を吸収して神になったとかなんとか。
あの野郎。元々めちゃくちゃだったがそこまでするとは!
それで帝国も何もかも消滅したそうだが、まだ微かな希望も残っているらしい。
セリス将軍とその仲間、
俺達が連れていたあの娘……ティナは世界が崩壊してもなおケフカと戦っているそうなのだ。
そしてヴァリガルマンダは世界崩壊後に目覚め、
そんなセリス将軍達にその力を貸すことにしたらしい。
『そうして我が力を発揮していく中で
氷漬けとなって眠っていた時の出来事が記憶となって浮かび上がった。
そのときお前達2人のことも思い出したのだ』
忘れられてたのか俺達……。そんな気はしていたけど。
『お前達も世界を救う為に戦っているのだろう。
ならば僅かだが我が力を授けよう』
目の前に宝石の欠片のようなものが突然現れる。
どうやらこれは幻獣の力を宿しているらしい。
「力を貸してくれるのはありがたいが……俺達はそっちの世界には戻れないのか?」
こっちの世界も大分気に入ってはいるが、やはり戻れるものなら戻りたい。
『お前達がいる世界の大きな魔力さえ消えればいつでも戻すことが出来る』
大きな魔力……ラヴォスのことか?
『だが……』
ん?
『残された時間はあと僅かだ。ティナ達は最後の闘いに臨もうとしている。
三闘神の力を宿したケフカが倒されれば魔法も幻獣も人間界から消え去ってしまうだろう。
そうなれば…………』
戻れなくなる、のか。
なら一刻も早くラヴォスを倒さなくてはならなくなる。
『これから我が力を使い、お前達をラヴォスの体内へと送り込もう。
奴の本体さえ倒せば全てが終わるはずだ』
なんだかややこしくなったが、とにかくラヴォスを倒せばそれで済むんだろう。
だったらやってやる。帝国はもうなくなったそうだが、その魂は消えはしない。
共に帝国魂を見せてやろう。なあウェッジ?
「ハヤシライスも食べたい……」
寝てる。
まさか話が長いせいで眠ってしまったのか。
『いくぞ――――――!!』
一瞬の光の後、俺達は暗闇に包まれた。
どうやらラヴォスの体内についたらしい。
暗闇の奥底から不気味な鼓動音が鳴り響いている。
ラヴォスの心臓がこの先にあるというのか……?
「あーあ、なんで僕達こんなことに巻き込まれてるんでしょうかね?」
「さあな。でも俺はこの世界が好きだ。守れるものなら守りたい」
「考えてみたんですけど」
「なんだ」
先へ進みながらウェッジが話し出す。こんな状況でものん気だな。
「みんながやろうとしていることって歴史の改変じゃないですか」
「……そうだな」
「やっぱり世界にもバランスっていうのがあると思うんですよ」
「バランス?」
「プラスやマイナスが平均化されるというか、なんというか自分でもよく分からないんですけど。
僕が思ったのは、マイナスをプラスに変えても、
どこかのプラスが代わりにマイナスになるんじゃないかな~って」
よく分からん!
「この世界の人間がマイナスをプラスにしてしまった場合、
なくした分のマイナスが本人達に降りかかってしまうような、そんな気がするんです」
ウェッジが難しいことを言っているとなんだかおかしいな。
「例えば支給された魔導アーマーを紛失したとします。
そうなれば失くした兵はもの凄い減給されるか、クビになりますね?」
そういえば俺達も魔導アーマーをなくしてしまっていたな……。
今更関係のないことだが。
「規模を極限まで大きくすれば、世界もそういった感じで釣り合いをとっているんじゃないかな。
ふとそう思ったんですよ」
で、なんだ。
「だから僕とビックス殿だけでラヴォスを倒してしまいましょう。
この世界とは全然関係のない僕達でマイナスを消してしまえば、
まあ……少なくともクロノ殿達にとばっちりがいくことはなくなると思います」
しっかりしているようで適当な話だな。根拠もなにもないじゃないか。
「まあいいじゃないですか。どの道ラヴォスと戦うのは我々だけですよ。ビックス殿。
このために僕達は呼ばれたのかも知れませんね」
験担ぎみたいなものと思っておくか。
それにしてもウェッジも色々と考えていたんだなぁ。驚きだ。
「む……なにやらヤバそうなのが見えてきましたよ」
ラヴォス体内の最深部にあったもの。
それは巨大な人間のような生物だった。
「何か様子がおかしいな……」
おかしなことに既に死にかけているように見える。
まさか誰かがここで戦っていたのか?
「ビックス殿! クロノ殿が!」
倒れているクロノが目に入る。どうやらたった1人でラヴォスと戦っていたらしい。
刺し違えるようにしてラヴォス本体を倒したのか。命に別状はなさそうだが無茶しやがって。
というかこれじゃあさっきのウェッジの話が台無しだぞ。
「いいや、まだ終わりじゃなさそうですよ。ビックス殿」
ラヴォス本体が光に包まれて消えた……と思いきや
その中から新たな生命体が姿を現した。
人間と似たような姿をしているがなんとも禍々しく、不気味だ。
そしてそいつは恐ろしいまでの威圧感を放ち続けていた。
「この感じ……。今まで戦ってきた全ての奴らの雰囲気か……?」
「まさか……こいつはこの星に生きる全ての力を備えている……!?」
太古から地中で眠り、全ての遺伝子を喰らい続けてきたというのか。
そんな馬鹿げた話があってたまるか!
どの時代の生き物も、必死にその種を残そうと生き抜いてきたというのに……
その全てを食い物にしようなど!
「許せん! この世界は貴様一匹だけのものではないッ!!」
俺もウェッジも同時に武器を構える。
その直後にラヴォスが叫びを上げ、辺りが異空間に包まれた!
ここで決着をつけるってか!
ステータス
ビックス Lv35 帝国兵
HP 2029
MP 0
Eミスリルソード
Eゴールドスーツ
Eゴールドヘルム
●まどう
●ませきのかけら
ウェッジ Lv32 帝国兵
HP 1720
MP 402
E夢幻
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
★ポイズン ★ドレイン ★バイオ ★バニシュ ★メテオ
「流石に……もう逃げたり隠れたりは通用しなさそうですね!」
「当たり前だ! 今までサボってた分がまとめて返ってくると思え!」
流石、世界を滅ぼす生き物だけあって攻撃は凄まじい。
ただの殴りも致命的な一撃になり得る威力だし、超強力な雷を落としてきたりもするし。
「だが遅い!」
本体自らが戦うのは初めてなのだろう。攻撃はどこかぎこちないし、狙いも甘い。
いくら全ての力を備え持っていたとしてもこちらには経験の差がある。
ならば戦いが長引く前に速攻で終わらせる!
「バイオ! ……ひいぃ~! これも効かない!」
で、最後の戦いだってのにウェッジは役に立たない。
ポイズンもドレインもバイオもラヴォスには通用しないのだ。
「ウェッジ! こいつに魔法は効かない! 剣で攻撃しろ!」
「ひっ、ひいぃ~~!!」
へっぴり腰で剣を上げ、へろへろと振り下ろす。当然外れる。
そしてそのまま尻餅をつくウェッジ。
「なにやってるんだ貴様!」
「剣での攻撃は久しぶりで……」
そんなことを言ってる間にラヴォスが攻撃の態勢へと入った。
いかん。ウェッジは隙だらけだ。
『ギュリリィィィィィィィィ!!!!!!!!』
あの腹を下したような鳴き声と同時に、俺達がいる異空間の雰囲気が変わる。
今はまるでエイラ達の時代。原始にいるかのような感じだ。
これもラヴォスの能力なのか、全ての時空の流れの中に放り込まれているような気分だ。
ラヴォスが両腕を天高く掲げる。何かしてくるようだ。
ラヴォスの腕に、例えるなら――原始の力が集中していく。
そして、
「あ、あんなの反則だろ…………!」
上空に巨大――巨大という表現ですら表しきれない程の大きな岩石が現れる。
あれを俺達にぶつけようっていうのか。あんなもん避けられるはずがない。
「あ、あわわ……!」
ウェッジは尻餅をついたまま愕然としている。
そしてラヴォスが両腕を振り下ろした。
その動作に合わせて巨岩が俺達へと落ちてくる。
「おおおおおおおおッ!!!」
落ちてくる巨岩に向かって必死にファイア・サンダー・ブリザービームを発射し続けるが
勢いを落とすことすら出来ない。
向かってくる魔導アーマーに小石をぶつけているようなものだ。
こちらの小さな攻撃で止めることは不可能。
かといって避けることも出来ない。
巨岩はこの空間全てを覆いつくすんじゃないかと思うほどに大きいのだ。
ここで終わりか………!
ウェッジももう諦めているのだろうか。最早逃げ出す素振りすら見せない。
なにやらぶつぶつ呟いているようだが。
ん? もしかして魔法を使おうとしているのか?
この期に及んで一体なにを……。
「メテオ!」
なっ、メテオだと!?
あいついつの間にそんな高位な魔法を……。
魔大戦の伝承の中でも最強クラスだといわれる魔法じゃないか!
異空間の中に、これまた異空間の穴が生じてそこから無数の隕石がなだれ込む。
ひとつひとつは巨岩よりもずっと小さな岩の塊だが、数は凄まじい。
流星群はあっという間に巨岩を砕き、その攻撃を無力化させた。
まさかウェッジに助けられるとは。
「よし! このまま反撃だ!」
強力な攻撃を使ったせいかラヴォスの動きが鈍くなっている。
俺はここぞとばかりにミスリルソードで奴に斬りかかった。
しかし、
「!?」
寸でのところで何かに攻撃を止められる。
すぐさま距離をとって確認すると、ラヴォスの前に小さな謎の生命体が2体。
本体の盾となるよう現れていた。なるほど、本体を守るビットか。
「ウェッジ! もう一度メテオだ! ビットごと本体を倒す!」
「了解です!」
ウェッジが詠唱を始める。
くそっ、流石高位の魔法だけあって発動には時間がかかるらしい。
その間この俺が時間を稼がねば!
ビットと本体はまるで1つの生き物かのように連携をとってくる。
素早いビットがこちらを翻弄し、強力な本体が攻撃を仕掛けてくる。
こちらが攻撃をしようにもビットによってかき乱されてしまう。
くそっ、やり辛い相手だ。
ビットの攻撃も地味ながらかなり痛い。
だがもう少しで……。
「ビックス殿! いきます! パワーをメテオに!」
来た!
無数の隕石が、今度は防御の為ではなく攻撃の為に撃ちだされる。
ラヴォスの巨岩を打ち砕く程の威力だ。まともにくらえばひとたまりもないはず。
「ビックス殿! パワーをメテオに!」
ラヴォス本体に、2つのビットに、隕石が降り注いでいく。
これならいける!
「なんで無視するんですか! パワーをメテオに!」
「うるさい!!」
細かく砕け散った隕石が砂埃のように周囲に立ち込め、ラヴォスの姿を消し去る。
「やったか…………!?」
あ、なんかダメな気がする。
「やっ、やりましたよビックス殿ーーっ!!」
立ち込めていた砂埃が晴れ、俺達はラヴォスの死体を目の当たりにする。
全ての遺伝子を持つといってもメテオには敵わなかったようだ。
ラヴォスはビットともどもボロ雑巾のようにズタズタになり、倒れていた。
「ウェッジ、まだ気を抜くな。オマケが一匹残っている」
運良く致命傷を免れたのか、一匹だけビットが浮かび上がる。
本体が死んでもなお活動を続けるというのか。哀れだな。
「妙なことをされても困る。一気に決めるぞ、ウェッジ」
「了解であります! ビックス殿!」
武器を構えたその瞬間。
ラヴォスビット……いや、
俺達がビットだと思っていたそれが、
――――力を解き放った。
〝命活〟
魔王が防御を解き、ダークマターの詠唱を始めた時と似ている。
魔王の場合は防御を捨ててまで取る行動を攻撃に使っていたが――
ラヴォスは蘇生にそれを使ったのだ。
「そ、そんな…………!!」
ズタズタになっていたはずのラヴォス本体、そしてもう一つのビットが光に包まれ
まるで今までの戦いがなかったかのように元通りになっていく。
「本体まで生き返らせられるなんて……!」
「いや……違う」
ラヴォスビットが蘇生行動を取った瞬間、俺は全て理解した。
あの瞬間に流れた膨大な魔力、生命力、禍々しい気。
あれこそがラヴォスの本質に違いない。
ラヴォス本体は人型の方ではなく、ビットの方だったのだ。
まさか攻撃役に徹していた人型ではなく、
2つあったビットの内の1つが本体だったのだと誰が気付くだろうか。
これで戦いは振り出し……いや、振り出しに戻るより状況は悪い。
既にほとんどの力を使い果たしてしまっている俺達に対し、ラヴォス側は無傷。
一気に有利不利を覆されてしまったのだ。
だがまだ勝機はある。
防御を解いて蘇生行動を行ったということは、
ラヴォス本体……というかコアか?
今、ラヴォスコアの防御は無きに等しい状態となっているはずだ。
再び防御される前にコアを倒すことが出来れば、或いは――――。
だがコアを攻撃しようにも
完全回復してしまった人型ともう1つのビットがそれを許さないだろう。
――さっきの巨岩のような猛攻を潜り抜け、コアを確実に潰す。
万に一つ程の目もないだろうが、最早これに賭ける他ない。
「ウェッジ、援護しろ。俺がコアを潰す」
「了解であります。……あの、ビックス殿」
なんだ。
「必ず、生きて帰りましょう」
剣を構え、同時に走り出す。
ラヴォスの方もこれで終わらせるつもりらしく、今まで以上に激しい攻撃を繰り出してくる。
〝天泣〟
人型の腕から激しい電撃が放出される。
「壊れてくれるなよッ!」
最大出力で魔導銃を稼動させ、ファイア・サンダー・ブリザービームを同時に撃ち出す。
この電撃攻撃は巨岩よりかは弱いらしい。打ち消すことは出来ないが確実に押し戻せている。
だが進むことは出来ない。このままでは足止めをくらうだけだ!
「バイオ!」
バイオはラヴォス本体には効かないものの、
攻撃を押し戻したり打ち消したりするのには使えるようだ。
魔導ビームとバイオの威力でラヴォスの電撃が打ち消される。
これならコアを叩ける!
だがそう簡単に行かせてくれるほど敵も甘くはない。
人型が再び攻撃態勢へと入る。
〝夢無〟
人型が腕を振り上げると、空間全体に何かの欠片のようなものが無数に現れる。
「!!」
この欠片――小さいが一つ一つが魔王のダークマター並の力を持っている!
さっきの巨岩がラヴォスの最大物理攻撃なのだとすれば、これは最大魔法攻撃なのだろう。
このままではコアに辿り着くどころか回避することすら出来ない。
こうなったら――あれを使うしかないか。
「力を貸してくれッ! ヴァリガルマンダッ!!」
ヴァリガルマンダからもらった宝石を握りしめ、念じる。
すると石が輝き始め、
『グオオオォォォォォォォォ――――ッ!!』
ヴァリガルマンダが姿を現したッ!
現れるなりヴァリガルマンダは大きく息を吸い込み、
口から炎・冷気・雷のブレスを吐き出す。出し惜しみはしないってか。
攻撃の内容的には俺がやった魔導銃での同時攻撃と変わりないが威力は桁違いだ。
あっという間にラヴォスの魔法攻撃を打ち消していく。
さすが幻獣。俺達に出来ないことを平然とやってのける。
「そこにシビれる! 憧れるゥ! 今がチャンスですよビックス殿!」
「飛べ! ヴァリガルマンダ!!」
ヴァリガルマンダが上昇していくと同時に俺はその背に飛び乗る。
攻撃出来るのはこれが最後だろう。ここで決めてみせる。
ビット達をブレスで牽制しながらラヴォスコアの真上まで辿り着く。
ここから飛び降り、串刺しにしてやれば流石のラヴォスもお陀仏だろう。
「ビックス殿ーッ! この剣を使ってくださいッ!」
……ん?
なんだか嫌な予感がする。
ウェッジの方を見てみると、今まさにこっちへ夢幻を投げ渡そうとしているところだった。
いや、あれは投げ渡すというかなんというか。
「届けーッ!!」
「ばっ、馬鹿野郎!!」
回転させながら投げるならともかく、真っ直ぐ投げられて受け取れるわけがあるか!
鋭い切っ先をこちらへ向けながら夢幻が迫ってくる!
ヴァリガルマンダの背に乗っているから避けることは出来ない!
なんてこった! まさかラヴォスじゃなくてウェッジに殺されるなんて!
「うっ、うわあああああああ!!」
グシャァッ、というなんとも恐ろしい音が鳴る。
ウェッジ、恨むぞ……。
「あれ?」
痛みがない。刺さってないぞ!
……いや違う! 刺さってる!
夢幻はヴァリガルマンダの喉に深く突き刺さっていた。
「あ、あわわわわ!」
下で慌てふためくウェッジ。なんてことをしてくれたんだあいつは。
軽はずみな行動でヴァリガルマンダを殺してしまうなんて……。
『し……死んでいないぞ』
うわ生きてる!
『今ここにある我の姿は魔石によって造られた仮の姿。現実の我には何の影響もない』
そ、そうだったのか。それはよかった。
『だが…………』
だが?
『次やったら殺す』
キャラ変わってないですかねヴァリガルマンダさん。
ヴァリガルマンダは喉に刺さった夢幻を引き抜き、器用に背に手を回して俺へ渡す。
『魔石の効果も直に切れる。さあ、いくがよい』
色々と過程はアレだったがとにかく強力な武器が手に入った。これならいける!
「うおおおおおおおおおおおッ!!」
意を決して飛び降りる。同時にヴァリガルマンダの姿が消える。
お、思ってたより高さあるぞこれ!
真下に落ちてコアを貫くつもりがどんどん横に逸れていく!
勢いでなんとかなる気がしてたが最初から無理があった!
ここまで膳立てされておいて何もないところに着地――というのはいかん!
しかし空中で身動きが取れるはずもない。
さ、最後の戦いだっていうのにこんなマヌケな幕引きで終わってしまうのか……!
「あああああああぁぁぁぁぁ…………!!」
さあいよいよ地面、というところで。
風が吹く。
…………風?
ラヴォスによって辺りは異空間に造りかえられていたはず。
そんな場所に風なんて……。いいや、もう考えてる場合じゃない!
今の風のおかげで軌道が戻った! これならラヴォスコアを狙える!
夢幻の柄を強く握り締める。これで最後だ。
「くらえ――――――――!!」
確かな手応えと共に。
ラヴォスコアを貫く。
流石のラヴォスもこれ以上の仕掛けはないようだった。
ラヴォスコアの消滅と同時に人型と小型のビットも消え去る。
その直後に異空間が崩壊を始めた。
「終わった…………」
全くどうなることかと思った。
散々ウェッジのことを馬鹿にしてきたが俺もまだまだだな。
まあヴァリガルマンダに夢幻を突き刺したウェッジよりは数万倍マシだろう。
「ビックス殿~!」
声の方へ顔を向けると、ウェッジの他にもう1人立っているのが見えた。
「クロノ! 目を覚ましてたのか!」
ということはさっきの風はクロノが起こしたものか。
よかった。あれがなければ本当に大変なことになっていた。
「ビックス殿! 遂にやりましたね! 大勝利です!」
ああ……。色々とおかしな場面もあったが終わりよければ全て良しだ。
ヴァリガルマンダの言っていた通りならこれで元の世界に帰れるはず。
ということは……。
「クロノ、お前達とはお別れだな」
「…………?」
クロノが首を傾げる。事情を知らなければそういう反応になるか。
まあ別れに多くの言葉はいらないだろう。
「離れていても自分達は仲間です! クロノ殿! 決して忘れません!
うおおお~ッ!」
ウェッジは放っておこう。完全にクロノ困ってるぞ。
しかし……これどうやって帰ればいいんだ?
このまま異空間の崩壊に飲み込まれて死ぬなんてことは御免こうむりたい。
『どうやら全て終わったようだな……』
ヴァリガルマンダの声だ。おーい、俺ら戻れるのか?
『ギリギリだがまだ間に合う。準備はいいな?』
いいけど……クロノはどうする?
このままここに置いていくなんてことはできない。
『心配するな。あの少年はお前達とは別に送り返してやる』
そうか。なら何も心配はないな。
これでこの世界ともおさらば、か……。
名残惜しいが仕方ない。
元の世界は崩壊し、帝国もなくなってしまったそうだが俺の帰る場所は向こうだ。
『ではゲートを発生させるぞ。いいな?』
「ああ」
目の前に最後のゲートが現れる。
「帰ろう、ウェッジ。俺達の世界へ」
「ええ~~~」
ええ~って、お前。
「だって元の世界に帰っても帝国も何も全部なくなっちゃってるんですよ。
セリス将軍達がケフカを倒してもそれらが元に戻るわけでもないし」
それはそうだが元の世界に未練とかないのか。
「ぶっちゃけこっちの方の世界に未練たらたらですね。おいしいもの多いし、楽しいし」
お、お前……!
「それだけじゃないですよ。この世界に残ってマール殿に取り入れば
ラヴォスを倒した事実も伴って出世は間違いなし。エリート街道まっしぐら」
「!!」
「将軍なんて目じゃないですよ。きっと」
「!!!!!」
「さあどうしますビックス殿」
「が…………」
「が?」
「ガルディア王国バンザーーーイ!!!!」
――――――
――――
――
というわけで、この世界に残るということをヴァリガルマンダに伝え、
直前でゲートの行き先を変えてもらったのだが。
何がどうなったのか、俺達が飛ばされた場所は
ガストラ帝国でもガルディア王国でもない、全然知らない場所だった。
ま、またこれかよ……ッッッ!!
――。
そして数か月が経った。
「ビックス殿! ジムが見えてきましたよ!」
「ああ……」
「次のジムでバッジ8個! いよいよリーグに挑めますね!」
「そうだな……」
「いや~、
なんかまた別の世界に飛ばされたって分かった時はどうなるかと思いましたが
なんだかんだ上手くいってよかったですね!」
「そだね……」
「ビックス殿、なんかキャラ変わってません?」
「そりゃ変わるわ」
「……あっ、野生のポケモンですよ! 倒しましょう!」
俺達がやってきたのは、ガストラ帝国でもガルディア王国でもなく、
『カントー地方』とかいう世界だった。
その世界で俺達はポケモンという生き物を使役し、
最強のポケモン使い……通称・ポケモンマスターを目指して旅を続けている。
「はあ……。いけっ、ヴァリガルマンダ! トライディザスターだ!」
まあ、なんだかんだあったが、俺達は楽しくやっている。
きっとクロノ達もティナ達も上手くやっているんだろう。
でも……やっぱりなんだか腑に落ちないぞ。
それに、ポケモンマスターになったらなったでまた別の世界に飛ばされそうな予感がするのだ。
次に行くなら、幻獣も魔法も機械も、とてつもなく発達している世界がいいなあ……。
END
ぶん投げ気味ですがこれで終わりです
お付き合いありがとうございました
2年前に別の場所で公開したのを少し手直しして再掲したのですが、
自分でも読み直してて結構楽しかったです
ちなみに別作者さんのバロン兵のSSに結構影響を受けています
俺の書いたSSはリスペクトというか、ほぼ劣化品なんで是非読み比べてみてくれ
そんじゃさいなら
乙
久しぶりにクロノトリガーやり直したくなった
ヴァルガリマンダの種族値ってどんなもんなんだろうな
乙
俺もこのssに触発されて、FF5×DQ5のクロスオーバーを書くことにしたよ
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