気が付いたら俺とウェッジは見知らぬ森の中で寝転んでいた。
何がなにやら全く分からないがひとまず状況整理としよう。
俺の名前はビックス。横で今なお目を回してるのは部下のウェッジ。
俺達は偉大なるガストラ帝国の兵士で、
ある任務の為に魔導アーマーに乗って炭鉱都市ナルシェへとやってきていた。
「はっ! 魔導アーマーは!?」
乗っていた魔導アーマーがないことに気付き、慌てて辺りを見回す。
すると真後ろにて逆さまに転がっている2台の魔導アーマーが目に入った。
よかった。1台ウン百万ギルもする魔導アーマーを紛失したとなればクビどころでは済まない。
ん……待てよ?
そういえば俺とウェッジ以外にもう一人、娘がいたはずだ。
もう一度辺りを見回すがどこにも娘の姿はいない。
記憶に間違いがなければ娘も魔導アーマーに乗っていたはずだから……。
このまま娘が見つからなければどちらにせよ魔導アーマー1台を紛失してしまったことになる。
いや、魔導アーマーよりもあの娘だ。
魔導アーマーは替えが効くがあの娘は1人しかいない。
魔導の力をその身に宿しているとかでケフカにやたら気に入られていたから……
あの娘に逃げられたとなるとケフカに殺されかねない!
これはえらいことになった。とにかくウェッジを起こそう。
おいこら起きろ。
「うーん……カレーライスが食べたい! むにゃむにゃ……」
なに寝ぼけてやがる。起きろったら起きろ!
「はっ! こ、ここは……? アッ、ビックス殿!」
「やっと起きたか。おいウェッジ、ここがどこだか分かるか?」
期待はしてないが一応聞いてみる。
ウェッジは目を擦りながらキョロキョロして、
「分からないであります」
だと思ったよ。
俺達は炭鉱都市ナルシェに隠されているという
氷漬けの幻獣を確保する為に、あの娘を連れて派遣させられた。
ナルシェはガードや番犬によって守りを固められていたが
あの娘と魔導アーマーの力によって俺達は苦もなく炭鉱へ進むことが出来た。
「そしてあのかたつむりと戦いましたね」
「ああ、かたつむりと戦った」
カラに強力な電流を蓄えるという伝説のバケモノ……。
あれは強敵だった……。
というかあの時ウェッジ、俺に対してめちゃくちゃタメ口きいてなかったか?
「気のせいですよ」
その後、炭鉱の奥で俺達は氷漬けの幻獣を発見した。
そしたら幻獣が不気味な光を放ち始めて……。
そうだ!
「俺達はあの幻獣に消されたんだ!」
「は?」
は?じゃねーよ上官だぞ!
「昔、こんな話を聞いたことがある……」
俺達の世代の人間には扱うことの出来ない能力、魔法。
その中には対象の姿を消してしまったり、転送させてしまうものもあったらしい。
恐らくあの幻獣はそういった類の魔法を使ったんだろう。
「なるほど……。つまり私達はワープさせられたってことなんですね!」
「そうなるな」
「それで、ここはどこなんでありますか?」
それは……。
「!」
分からない、と言おうとしたところで周りの茂みから草の擦れる音が鳴る。
話していて気付かなかったが……何かに囲まれている!
「魔物……か!?」
茂みから出てきたのは3匹の虫のような魔物だった。
魔物なんて慣れっこなはずだが、今目の前にいる奴からはどこかおかしな雰囲気を感じる。
なんというか……ファンシーなような……。
魔物ってもっとグロい感じじゃなかったっけ?
「ビックス殿、きますよ!」
いかんいかん。そんなことを考えてる場合ではなかった。
とりあえず今は戦いに専念しよう。
そういえば魔導アーマーに乗らずの戦いはしばらくぶりだな……?
ビックス Lv1 帝国兵
HP 70
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
ウェッジ Lv1 帝国兵
HP 68
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
結論から言うと楽勝だった。
虫ごときが帝国兵に立ち向かえるはずがないのだ。
……虫が苦手なウェッジは逃げるばかりで一度も攻撃に参加しなかったが。
「いや~、流石! 次期将軍と言われるだけはありますね!」
上官に敵を押し付けておいて調子のいい奴だ。
まあ次期将軍という響きは悪くない。ナルシェでの任務を果たせば昇進は間違いなし。
俺もレオ将軍やセリス将軍と同じ位置まで上がれるのだ。
その為にもまずはここがどこで、ナルシェはどこなのかを突き止めなければ。
「よし、すぐにこの森から出るぞ。ウェッジ!」
途中、何度かの戦闘があったものの
魔導アーマーに乗っていたので何事もなく森の外へ出ることが出来た。
逆さまに転がっているのを見た時はもしかしたら壊れてるんじゃないかと思ったが
何一つ不調がないあたり、流石帝国製というべきだろう。
それにしてもウェッジは未だに操作に手間取っているようだ。だから出世できないんだあいつは。
そして森の中でも薄々感づいていたのだが、ここは暖かい。雪ひとつない。
ナルシェは常に雪で覆われているほど気温の低い地域だ。
もしかして俺達はとんでもなく遠いところまで転送されてしまったのでは……?
「すぐ帰れるといいですね~」
のんきにウェッジが言う。
この状況でそんな楽観的になれるその頭が羨ましい。
森を出てしばらく進んだところで奇妙な荷馬車の一団と出会った。
どうやらサーカス団のようだが……帝国が侵攻を進める中でサーカスなんてやっていられるのか?
「おい」
とサーカス団に声をかけた直後、馬車の中から不気味な笑い声が響き渡った。
うげぇ……ケフカの笑い声にそっくりだ。っと、そんなことを気にしていてはダメだ。
とか考えていたら馬車の中から夢に出てきそうなおかしな男が姿を現したのだった。
「ノルシュテイン・ベッケラーの実験小屋へようこそ。まだテントすら張っていないけどね」
宙に浮いたピエロの頭と2つの手だ。意味が分からない。
森を出てしばらく進んだところで奇妙な荷馬車の一団と出会った。
どうやらサーカス団のようだが……帝国が侵攻を進める中でサーカスなんてやっていられるのか?
「おい」
とサーカス団に声をかけた直後、馬車の中から不気味な笑い声が響き渡った。
うげぇ……ケフカの笑い声にそっくりだ。っと、そんなことを気にしていてはダメだ。
とか考えていたら馬車の中から夢に出てきそうなおかしな男が姿を現したのだった。
「ノルシュテイン・ベッケラーの実験小屋へようこそ。まだテントすら張っていないけどね」
宙に浮いたピエロの頭と2つの手だ。意味が分からない。
>>11
ミス
まあサーカスの連中のやることだ。何か仕掛けがあるんだろう。
その仕掛けをここで披露する意味は分からないが……。
ウェッジは驚いて腰を抜かしているようだから俺が用件を話す。
「ここはどこだ? 炭鉱都市ナルシェはどっちの方向にある?」
「? ここはガルディア王国だよ。ナルシェなんてところは聞いたことないね」
馬鹿な。ナルシェは中立都市としても有名な場所だし、
なにより幻獣が見つかったことで世界中で話題になっていたはず。
それにガルディア王国なんて国は聞いたことがない。
まさかからかわれているのか?
……いや、このベッケラーという奴が嘘を言っているようにも見えない。
というかこいつの顔、ケフカに似ててムカつくな……。
「それよりお二人、面白い物に乗っているね。良かったら一緒に来ない?」
とぼけた調子でベッケラーが言う。
一緒に来ない?と言ってもまずお前らはどこに向かっているんだ。
と、細かいことは気になるがとりあえずついていくことにした。
俺達はこの辺りについて何の情報も持っていない。それに食料もギルもない。
変にウロウロするよりかはこのケフカ似の男についていった方がいいだろう。
「決まりだね。じゃあ行こうよ」
こうして俺達はベッケラーとかいうケフカ似の男に同行することとなった。
それから一週間。
ナルシェのことも帝国のことも分からず、
ベッケラーの実験小屋とやらの手伝いをしている内にあっという間に時が過ぎてしまったのだ。
しかし何も収穫がなかったわけでもない。
色々と話を聞いている内にこの王国……いや、〝この世界〟についてある程度のことが分かった。
まず、この世界は俺達が元々いた世界とは別のものらしいのだ。
俺の頭がおかしくなったわけではない。事実だ。
どうしてこの結論に至ったかかいつまんで説明していこう。
~ウェッジにも分かるビックスの簡単講座~
まず文明の違い。
この世界は明らかに俺達のいた世界と比べて文明が遅れている。
家や道路はほとんど石で作られていて、鉄なんかは武器くらいにしか使われていない。
機械はあるものの帝国の様々な兵器と比べればどれもおもちゃみたいなものだ。
まあ、ゴンザレスという自立型マシーンは凄かったがそれでも魔導アーマーには大きく劣る。
そして世界地図。あちこちに貼られている世界地図を見てみたが、
ナルシェはおろか帝国も、フィガロもドマも何一つ記されてはいなかった。
代わりに描かれていたのはガルディア王国やパレポリといった全く聞いたことのない地名だけ。
そしてこの世界には国は一つだけ、ガルディア王国しか存在していないのだ。
つまり、この世界はめちゃくちゃに平和なのだ。
どこかで密かに軍事国家が立ち上がろうとしているだの話があるが、それも噂に過ぎず
戦争なんてもう400年近く行われていないらしい。
その400年前に行われた戦争というのも、国同士の争いではなく
魔物との戦いだったらしい。その魔物も今はよわっちい奴ばかりだ。
そうそう、魔物もここが別世界だと結論付けた根拠の一つだ。
この世界の魔物はどうも俺の知ってる魔物と違うんだ。
なんというかファンシーというか、ポップというか……。
で、ベッケラーに歴史書を借りて魔物について調べてみたんだが
そこでまた新しい発見をしてしまった。
どうやらこの世界には魔族と呼ばれる種族がいるらしくて
見た目は魔物なのに人間並みの知性を持っているとかなんとかだそうだ。
そんな話は今までに聞いたことがない。もし事実なら幻獣どころの騒ぎではない。
そんな奴を捕まえて戦わせればナルシェもドマも一発で制圧できちまうだろう。
なにしろ魔物の力と魔法の力と人間サマの頭脳を重ね持っているんだからな。
ケフカが放っておかないはずがない。つまりここは別世界。オーケー?
「なにブツブツ言ってるんすか。ビックス殿」
げ、声に出てたのか。一番聞かれたくない奴に聞かれてしまった。
まあウェッジのことだしすぐ忘れるだろう。
「それより今日は千年祭の始まりですよ。ワクワクしますねえ」
こいつはすっかりこの世界に順応したなあ……。
まだ一週間しか経ってないのに。
千年祭というのは、このガルディア王国建国千周年の記念祭のことだ。
その為このリーネ広場では色々な露店や見世物が開かれる。
ベッケラーも千年祭の為にわざわざ遠くからガルディア王国へやってきていたそうだ。
それで俺達も出し物をやることになったんだが……
やることといったら三人でウロウロして誰が誰だかを客に当ててもらうゲーム。
……こんなの面白いか? でも案外客は入ってきていた。ううむ分からん。
ちなみにこの出し物に出ていた三人は、俺とウェッジと、あとピエットという奴だ。
このピエットという奴がすごくいい奴で初対面だったのにすぐに仲良くなってしまった。
なんか他人とは思えないんだよな。
そんなこんなで出し物を続けて二時間程が経過した。
いい加減足も疲れてきたし、目も回ってきたしでベッケラーに休憩をもらい
ウェッジと千年祭の出し物を見て回っていた時のことだ。
「ハ、ハイ! ごらんの通り影も形もありません! こ、これにてオシマイ!!」
広場の奥の方から野太いデカい声が聞こえてくる。
それだけなら何にもおかしくはないが、その内容が気にかかる。
まだ祭りが始まったというのに何がオシマイなんだ?
恐らくは何かの出し物なんだろうが、終わるにしても早すぎる。
うーむ、何か事件の匂いがするな……。面倒くさがるウェッジを引きずり、奥へ向かってみる。
奥にいたのはゴツいおっさんと赤毛の小僧。それからルッカとかいう娘だ。
ルッカは何度か魔導アーマーの整備をしてくれたから面識がある。
その三人の向こうには何やら巨大な装置が2つ設置されていた。
多分、ルッカの発明品だろう。
なんかルッカだけは文明を無視した科学力を持ってるような気がしてならない。
「あ、ビックスさんウェッジさん! ちょっと大変なのよ!」
俺達に気付いたルッカが駆け寄ってくる。
どうやらわりとまずい事故がここで起こったらしい。
なんでもテレポットとかいう試作転送装置の披露をここでしていたところ、
事故によって女の子(赤毛の小僧の連れだったそうだ)が消えてしまったらしい。
それでどうするかいま考えているというわけだ。
ん……待て、消えてしまった?
ええと、つまり、もしかして。
「ビックス殿! 僕達の時と同じですよ!」
そうだ。俺達も消されてこの世界にやってきたんだ。
もしかしたらこれは俺達と関係のあることなのかも知れない。
「おい、俺達に手伝えることはないか?」
「おーッ! 後を追うってのか。さすがは男だぜ!」
「…………は?」
なんか勝手に話を進められている。
おい、消えたあとどうなるかはまだ分からないんだろ?
これがもし俺達に起こった現象とは別で、マジに消えてたんだとしたらどうするんだよ?
「そうね! あの空間の先に何があるのかわからないけど、それ以外に方法はなさそうね」
「でも、都合よくまた穴が現れるとは限らないぜ」
「やってみる価値はあるわ! きっとペンダントがキーになってるのよ!」
あ、ダメだ。今更行かないなんて言える雰囲気じゃないこれ。
「うおおビックス殿! 帝国魂を見せてやりましょう!」
こいつはこいつでダメだ。何も考えてない。
「魔導アーマー……だっけ? 何があるか分からないからあれに乗っていくといいわ!」
どんどん話が進んでいく……。
いつの間にか持ってこられていた魔導アーマーに乗せられ、テレポットへ誘導される。
あとなんか赤毛の小僧もついてくる気らしい。
「クロノ! あんたも行くのね! 私も原因を究明したら後を追うわ!」
「スイッチオン! エネルギー充填開始だ! ルッカ!」
「もっと出力を上げて!」
うわ、なんかバチバチいってるけど大丈夫かこれ?
「あわわわわ! び、ビックス殿!」
ウェッジが口をぱくぱくさせながら何かを指差している。
そっちを見てみると思わず俺も口をぱくぱくさせてしまう。
空間に謎の穴があいているのだ!
驚くのも束の間、俺とウェッジと小僧はその穴に吸い込まれてしまう。
おい話がちげーぞ! 俺達の時はこんな穴なかっ……
「うわあああああぁぁぁ~~~~~!!!」
――――――。
気が付くと俺達は見知らぬ原っぱに転がっていた。
……なんかデジャブだぞ、これ。
二度目だから慣れていたのか、俺はスムーズにウェッジを叩き起こし
そして魔導アーマーへと乗り込む。よし、これでいつ敵が現れても大丈夫。
そういや一緒に来てた赤毛の小僧はどこに行った?
「うーん、先に進んでいったのかも知れませんね」
まさか。寝てる俺達を置いて先に行かないだろう。
きっとどこかで入れ違いになったに違いない。うん、そうだ。
とか思ってたら奥の茂みから赤毛の小僧の背中が飛び出してきた。
なんか若干の違いがあれどこの前とほとんど同じパターンだぞ……。
小僧に続いて、よく分からんゴブリンみたいな魔物も数匹飛び出してくる。
ああ、こいつらと戦ってたのか小僧は。まだ子供の癖にやるじゃないか。
とにかく加勢しないと。
ビックス Lv1
HP 70
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
ウェッジ Lv1
HP 68
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
クロノ Lv1
HP 70
MP 8
Eぼくとう
Eかわのふく
Eかわのぼし
Eはちまき
このガキ、俺達より強い!!
赤毛の小僧がぐるぐる木刀を回転させ、一気にゴブリン達は倒されていった。
加勢しようと思ったのに何も出来なかったじゃないか。くそう、帝国兵として屈辱だ。
とりあえず威厳だけでも見せ付けておこう。
「やるじゃないか小僧。……名前は?」
「…………クロノ」
どうやら物凄い無口な奴らしい。
名前だけ告げると背を向けすたすた先へ行き始めてしまう。
くそっ、俺も負けてられないぜ。次期将軍の座は渡さん!
「いくぞウェッジ!」
「あ、はい」
何度かの戦闘を挟んで、町へと出る。どうやら俺達は山の中に出ていたらしい。
だが出てきた町はどうも見知ったものだった。
ここに転送される前に俺達がいた、トルース村とほぼ同じなのだ。
「あれ、戻ってきたんですかね?」
「馬鹿かお前? 後ろ見てみろ」
リーネ広場だった場所が山になっている。
似ているだけでここも別の世界なのだろうか。ううむ、分からん。
とりあえず酒場やら宿屋やらで情報を集めよう。
クロノも同じことを考えていたらしく、俺達より先に歩き始めていた。
あんなガキに一歩先を行かれるようじゃ将軍の道はまだまだ遠い……!
酒場にいたトマとかいう男とか、その辺の村人に話を聞いてみたところ
どうやらここは400年前のガルディア王国らしい。
……ひとつ言っておくが、俺の頭がおかしくなったわけではない。
で、なんか俺達が最初にいた山で女の子が見つかったらしく
それがなんかリーネ王女だったからすぐに城へ連れ帰したとかなんとからしい。
山にいた女の子……、もしかして俺達が捜してる女の子と同じなんじゃないか?
手がかりはそれしかないし、とにかくガルディア城へ向かうことにしよう。
城へ行くのにいちいち森を通っていかなきゃいけないのはなんとかならんのか……。
でも森で魔物と戦ったおかげか、強くなったような気がする。
まあ道中の敵は全部魔導アーマーのビームで倒したんだけど。
流石に城の中にアーマーで行くわけにはいかないし、一旦脱ぐことにしよう。
ビックス Lv3
HP 94
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
ウェッジ Lv2
HP 77
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
ガルディア城で門前払いをくらいそうになったが、リーネ王女のおかげで助かった。
クロノが言うにはあれは捜してる女の子に瓜二つだそうだ。
「というかなんて名前の女の子を捜してるんだ?」
「…………マール」
相変わらず無口な奴だ。それだけ言うと先へ進んでいってしまう。
「へえぇ~、マールかぁ。なんか可愛らしい名前じゃないですかビックス殿?」
お前はもう少し静かになれ。
「来ましたね。外してちょうだい。この者と話があるのです」
リーネ王女に言われ、付き人が部屋の外へ出ていく。
なんだか場違いな気がするので俺達も出ていく。
これで部屋の中はクロノとリーネの2人だけか……。
いやいや!子供同士で何か起こるわけがないだろ!
結論からいうと何か起こった。
クロノが言うにはリーネ王女……のふりをしていたマールは
突然目の前から消えていなくなってしまったのだ。
テレポットの時と同じ?と思ったがどうにも様子が違ったらしい。
何も手がかりがなく、途方に暮れていたところでルッカがやってきた。
ルッカの話ではなんとマールは現代の王女だそうだ。
この時代にマールがやってきて、リーネ王女の捜索が打ち切られてしまったせいで
歴史が改変され、リーネの子孫であるマールの存在がなくなってしまったそうなのだ。
「ええと、つまりどういうこと?」
ウェッジ黙れ。
「とにかく、本物の王妃の行方を探さなきゃ!」
ルッカの言うとおりだ。
とりあえずなにやら怪しいと噂の修道院に向かってみることにした。
修道院でリーネ王女の髪飾りを見つけた途端、シスター達に襲われた。
いや、襲われたといっても性的な意味ではなく物理的にだ。
なんとシスター達は魔物だった。リーネ王女をさらったのはこいつらと見て間違いないだろう。
ちなみに修道院の入り口が狭いので魔導アーマーはまた留守番だ。
たまには生身で戦うのもいいだろう。
「ふぅ~、楽勝でしたね!」
驚いてただけのウェッジが得意げに額の汗をぬぐう。
と、その瞬間。辛うじて息があったらしい魔物が起き上がり、ウェッジに襲い掛かる!
「ひ、ひえええ~~~~!!」
ああウェッジ。悪い奴ではなかったのに死んでしまうなんて……。
とはいかず、何者かの一太刀で魔物は今度こそ絶命した。
ううむ、他人ながら中々の剣捌き。
「ぎええええええええ~~~!!」
ウェッジが再度叫ぶ。ええい、やかましい奴だな。だから出世できんのだ。
とか思いつつウェッジの後ろの男(?)を見てみたら、
「ひえっ!」
「きゃあ!」
「……!」
ウェッジ以外の俺達3人も驚いてしまう。クロノは相変わらず声を出さないが。
そこにいたのは巨大なカエル男だったのだ。
「最後まで気をぬくな。勝利に酔いしれた時こそスキが生じる。
お前達も王妃様をお助けしに来たのか?
この先はヤツらの巣みたいだな。どうだ、いっしょに行かないか?」
な、なんだこのカエルは……。なんかかっこいいこと言ってるし。
見た目はアレだがかなりの腕の剣士らしい。言動が若干レオ将軍に似てるな。
「悪いカエ……、人にはなさそうね……。うーん……どうする?」
顔を引きつらせながらルッカが決断をこちらへ委ねてくる。
いや、どうしようもなにも……カエルが仲間に……?
ま、まあ人手は多いに越したことはないだろう。
カエルに恨まれるのも嫌なので仲間にしてあげることにした。
「俺のことはカエルでいいぜ。よろしくな!」
カエルが仲間になってしまった。
その後、隠し通路から修道院の隠し部屋に入り
何度も魔物と戦いながらも最深部へと辿り着いた。
そこで待ち構えていたのはなんとガルディア王国の大臣だった。
大臣はマヌケな台詞と共に怪物へ変身したかと思うと、間髪入れずに俺達へ襲い掛かってくる。
「ヤ~クラ~ッ!! デロデロン!!」
「ぐええっ!」
ヤクラとかいう怪物の体当たりでウェッジが壁に吹っ飛ばされ、叩きつけられる。
げ。あいつあの程度で気絶してやがる。いや、ヤクラが強いのか?
「クロノと俺でサイドから攻撃する! ルッカは後ろから援護を! ビックスは正面を頼む!」
え、なんでカエルが指揮を……。というか俺が正面かよ!
お前じゃないんかい! ええい、もうやるしかない!
ビックス Lv6
HP 141
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
クロノ Lv6
HP 135
MP 18
Eぼくとう
Eかわのふく
Eかわのぼうし
Eはちまき
カエル Lv7
HP 152
MP 21
Eアイアンソード
Eブロンズメット
Eブロンズアーマー
Eパワー手袋
ルッカ Lv5
HP 75
MP 14
Eエアガン
Eどうぎ
Eかわのぼうし
Eサーチスコープ
ヤクラはそこまで素早くないし、体当たりも直線的な動きだから
気をつけてさえいればどうということはない。ウェッジはマヌケだっただけなのだ。
問題は奴が時折使ってくる技だ。
「ヤクラシェ~イク!」
掛け声と同時にヤクラが飛び跳ねる。
どうやら奴は見た目以上に重い身体を持っているらしく、
飛び跳ねるだけで部屋全体に地震が起こってしまうのだ。
「ぐっ!」
「スキあり~!」
と、よろめいてしまうとそこへ向かって体当たりが繰り出される。
「危ないっ!」
ヤクラの攻撃が当たる!といった瞬間でルッカが銃を撃ち、ヤクラの攻撃を止める。
危なかった……。あのまま攻撃を受けていたらウェッジのようになるところだった。
「クソ! 帝国兵を舐めるなよ!」
仕返しといわんばかりにヤクラへミスリルソードをぶち当てる。
……が、大したダメージは与えられない。なんつー硬い皮膚だ。
このままじゃ埒が明かないぞ!?
「ビックス! 奴にスキを出させるんだ! そこを俺とクロノで叩く!」
カエルが戦いながら指示を出す。
スキを出させろったってどうすれば……。俺はこれといった技も持ってないし。
うーむ、あ、そうだ!
「デロデロ~っ! ってうわっ! なんだこの煙は!?」
いざという時のためにとっておいた煙玉!
本当は逃走時に使うアイテムだけど気にしない。
って、これじゃいくらスキを作っても見えないな……。
「いいや、十分だ」
左右にいるカエルとクロノが同時に剣を構える。
あいつら、何をするつもりだ? とりあえず俺も剣を構えてみる。
「いいか、煙が晴れたその一瞬だ。やれるな?」
カエルの言葉にクロノはこくりと頷く。
こんな時にまで無口を貫くのか。感心すらわいてくる。
「いくぞ、3――――」
「げほっ、がはっ! お前らもう許さんぞ……!」
うっすらとヤクラの姿が現れ始める。
「2――――」
「とっておきのスピンニードルをくらえ~っ!」
「1――――」
ヤクラの方も戦いを終わらせるつもりらしい。
ここで決めなければ……負ける!
「――――0!!」
掛け声と同時にクロノとカエルの2人が前へ飛び出す。
そしてそのまま交差させるようにヤクラの身体を切り裂いた!
即興でこんな連携がとれるとは、ええい俺も負けてられない。
「デロデロ~~~っ!!」
既に瀕死のヤクラにダメ押しの一撃。俺の攻撃が当たる。
正直やる意味はなかったと思うが……まあいいだろう。うん。
左右と前方からの交差斬り。名づけて*斬りだ。
「ふう……やりましたね!」
とっくに目を覚ましてたらしいウェッジがここぞとばかりに前へ出る。
まさかこいつ本気で勝ったつもりでいるのか。何もしてないのに。
「やはり、来てくれたのですね。ありがとう、カエル……」
「王が心配しておいでです。城に戻りましょう」
リーネ王女とカエルの関係が気になるが……考えないでおこう。
まさか王女にそんな趣味があったとは。
「助かったぜ。クロノ、ルッカ、ビックス」
「あれ、僕は?」
お前はなにもしてないだろが、ウェッジ。
それから色々あってカエルとは別れ、マールも無事に救出して後は戻るだけとなった。
それで最初にいた山にやってきたわけだが……
「どこから帰るの?」
「おそれながら、マールディア王女……」
「マールでいいってば!」
そういえばガストラ帝国には王女とかいないよな……
ガストラ皇帝はあのお歳でまだ結婚されてないしどうするおつもりなんだろう。
「で、ではマール……。ごらん下さい」
そう言ってルッカが何かをかざすと
それまで何もなかった空間に例の穴が現れた。
これに入ればリーネ広場に戻れるのか?でもどうやってこんなもの……。
「私は、このひずみに『ゲート』って名付けたんだけど(以下略)」
要はルッカの作ったゲートホルダーによってワープし放題らしい。
ワープというか、厳密には時間移動なんだけど。
待てよ。ということはここは俺達がいた世界の未来か、もしくは過去なのか?
うーむ、でも俺達の場合は事情が若干違うしな……。
とりあえず難しいことを考えるのはやめて帰ることにしよう。
「いくぞウェッジ!」
「はい! ビックス殿!」
「うん、そうね。帰りましょ!」
「さあ私たちの時代へ!」
全員でゲートへ飛び込む。
目が覚めると、なぜか俺とウェッジだけ別の場所へ転送されていた。
そこは明らかに異質な空間だった。
まるで帝国の路地のような場所なのだが、街路を囲む柵の向こうはまるで異空間のようになっている。
何かに表すならそう……まるで時の流れの中に浮いているかのような。そんな場所。
「ビックス殿、自分が思うにここはリーネ広場ではない気が……」
「分かってるわそんなこと!」
とりあえず進んでみると、一本の外灯が立っているのが見えた。
その下で帽子を被った老人が立ったまま鼻ちょうちんを膨らませている。
ウェッジに起こすように命令すると、
声をかければいいだけの話なのに、こともあろうにあいつ鼻ちょうちんを指でつついて割りやがった。
こんな場所で居眠りする胆の据わってそうな爺さんも目を丸くしている。
「おい、ここはどこなんだ?」
「ここは、『時の最果て』……。
時間のまよい子が、行き着く所さ。お前さん達、どっから来なすった?」
えーと、どこからと言われても。
「炭鉱都市ナルシェから異世界のガルディア王国へ。
その後400年前のガルディアへ行ってそこからここへやってきた」
「お、おう……」
自分で聞いといて引くなよ。
「違う時間を生きる者が、4人以上で時空のゆがみに入ると、次元の力場がねじれてしまう……。
しかし、この所、時空のゆがみが多くてな。お前さん達の様にフラリとここへあらわれる者もいる……。
何かが時間全体にえいきょうをおよぼしているのかも知れんな……」
よく分からんが、5人でゲートに入ったのがマズかったらしい。
恐らく先に入った3人(クロノ、ルッカ、マール)はリーネ広場へと戻れて
後の2人、俺達はこっちに飛ばされたんだろう。
「で、どうやったら元の場所に戻れる……というかナルシェへは戻れないのか?」
「ナルシェ? そんな場所は聞いたことがないな……はて」
「というかお爺さんは何者なんですか?」
ウェッジにしてはいい質問だ。
「ほっほ、私はただのしがない老人じゃよ。だがお主らの時間の道しるべにはなってやれるぞ」
なんかうまくはぐらかされた気がするがまあいいだろう。
誰にだって話したくないことはある。
「あっ、そういえば魔導アーマーは!?」
「どこにもないであります!」
そうだ。ここのおかしな外観に戸惑い忘れていたが、アーマーがないではないか!
くそう! なくなるならアーマーじゃなくてウェッジだろうが!
「魔導アーマー……あのヘンテコな機械のことか」
「なに! ジイさん知ってるのか!」
「あれならスペッキオが面白がって運んで行ったぞ。ほれ、そこの扉の先だ」
恩に着る!
老人に一礼し、脱兎のごとく扉を開け放つ。
人のものを勝手に運び出すとはスペッキオとやら、なんたる奴か。
どんな奴かは知らんが帝国兵としてお灸を据えてやらねばなるまい。
目に入ったのは、バラバラになった魔導アーマー。
そしてそれを興味津々に手に取っているムー(リスみたいな弱っちい魔物だ)の姿だった。
「な、ななな! なんてことを……!」
「ああ……ケフカに殺される……」
なるほどスペッキオというのはあのジジイのペットだったのか。
確かによく考えるとスペッキオというのは動物っぽい名前だ。
だが動物といえど我が愛する帝国の兵器を分解するとは許せん!
この次期将軍、ビックスが叩き切ってくれる
わ!
「――――なに!?」
ムーに向かってミスリルソードを叩きつけるも、まるで効果がない。
硬い皮膚に弾かれただの、柔らかい肉に飲み込まれただの、そういうのではないのだ。
本当に、まさに効果がない。何の反応も示してはいなかった。
「ムダムダ! オレ、スペッキオ! 戦の神!
こっから色んな時代の戦、見てる。
オレに物理的な攻撃は効かないよ~ん!」
な……! ムーが喋った!
それに戦の神だって? こんな弱そうな見た目なのに?
「オレの姿、おめーの強さ。おめーが強ければ強そうに 弱ければ弱そうに見える」
なんだと!?
じゃあ……俺の強さはムー並みなのか。そんな馬鹿な!?
「え? 僕にはビックス殿と同じ姿に見えるのですが……」
「貴様! 上官を自分と同等だと思っていたのか!」
「あわわわわ……だって元々同期だし……」
「そうだ! そんなことより貴様! よくも我々のアーマーを!」
「お、これか。これ、僅かだけど魔法の力を感じる。だから持ってきた」
理由になってねーよ! 人のものを勝手にとったらどろぼう!
「おめーらの生まれるずっと昔……。魔法で栄えた王国、あった。その世界、みんな魔法使った。
けどその王国、魔力に溺れ滅びた……。それから人は魔法を使えなくなった。魔族以外はな」
魔大戦のことか。あれは壮絶な戦だったと聞いている。
そんな歴史を繰り返さない為にも帝国は全ての地域を掌握しようとしているのだ。
「だが、この機械、持ってる。心の強さを。魔法は心の強さ、力」
あ、俺達が心の強さを持ってるわけではないのか……。
ウェッジはともかく俺が心の強さを持っていないのはおかしい。
というかこいつも話をはぐらかせようとしていないか?
「魔法は天・冥・火・水の4つの力でなりたってる。
よかったらおめーらに魔法の力を与えてやるぞ」
な、なんだと!?
つつつ、つまり魔導師になれるということか!? この俺が!?
ということはケフカやセリス将軍、レオ将軍と同じ立ち位置に……!
そうなれば間違いなく俺は将軍になれる! 帝国万歳! 帝国バンザーイ!
「じゃあ、『魔法が使いたい~』とねんじながら、ドアの所からはじめて
この部屋の柵にそって、時計回りに3回まわる!」
…………は? なんだと?
「『魔法が使いたい~』とねんじながら、ドアの所からはじめて
この部屋の柵にそって、時計回りに3回まわる!」
馬鹿にしてるのか?
「これやらないと魔法の力はやれねーぞ」
次期将軍と言われるこの俺がそんなこと……!
「よ~し、あと2周だ!」
ってウェッジ走ってるし。
「よーし! ハニャハラヘッタミタ~イ!!」
スペッキオがなんともマヌケな掛け声を上げると、ウェッジの身体を淡い光が包みこむ。
【ウェッジは魔法を覚えた!】
「おお……なんだか力が湧いてくるようですよ。
ビックス殿は3回まわらないんですか?」
まわるかボケ!
というか本当にこんなので魔法を覚えられたのか?
やっぱりからかわれてただけなんじゃ……。
「ポイズン!」
ウェッジがそう唱えて手のひらを突き出すと、緑色のきったねぇのが前へ向かって飛んでいった。
ううむ、信じがたいが確かにこれはポイズン。ケフカが使っていたものと全く同じだ。
「ビックス殿、3回まわらないんですか……?」
ぐぐぐ、いくら力が欲しいからってそんなプライドを捨てるようなマネは……。
「頑固なにーちゃんだな。しかたねー。おめーにはこれやる」
そう言ってスペッキオが差し出してきたのは、小型の兵器のようなものだった。
というかこれ魔導アーマーの残骸で作ったものじゃないか。な、なんてことを。
「それ、魔法の力が込められた武器。それならおめーでも魔法の力が扱える」
なるほど。フィガロで流通している機械武器のようなものか。
小さいしこれは扱いやすいな。剣と別に持っておけるし便利だ。
「ええ~、ビックス殿の武器の方がよかったなぁ。交換しません?」
交換出来るものならしてやるさ。俺だって武器より魔法のがいい。
「……よし、じゃあ力試ししていくか?」
「は?」
「オレと戦うか? 魔法でならオレにダメージ与えられる」
「よーし、じゃあ……」
その後、俺とウェッジはスペッキオにボコボコにされることとなった。
ムーの見た目してるのに容赦なく魔法使ってくるとか……。
ステータス
ビックス Lv9 帝国兵
HP 206
MP 0
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
●まどう
(生身でもファイア・サンダー・ブリザービーム、ヒールフォースが使える)
ウェッジ Lv6 帝国兵
HP 142
MP 35
Eミスリルソード
Eレザーアーマー
Eかわのぼうし
★ポイズン
スペッキオとの戦いで少し成長したような気がするぞ。
あとウェッジはやっぱり戦闘をサボってる気がする。
「ところで元の場所にはどう戻ればいいんだ?」
スペッキオがいる部屋(?)から出てさっきの老人に尋ねる。
いくら魔法を覚えたり武器をもらったりして強くなってもここにいるだけじゃ意味はない。
なんとなく戻れなさそうな予感がするのだが大丈夫なのだろうか。
「ああ、お前さん達がやって来た場所に光のはしらがあるじゃろう。
あれは、あちこちの次元のゆがみと ここ、時の最果てをつなぐものじゃ。
一度通った事のあるゲートからは いつでもここに来られるじゃろう」
ふむふむ。じゃあどうしてこの老人はこんなところにずっといるんだろう。
気にはなるがまあ聞くことはしない。きっと何か事情があるに違いない。
「じゃが、そこのバケツからつながるゲートには気をつけるんじゃな……。
いや、世界の滅ぶ姿が見たいのなら行ってみるのもいいが……
お前さん達まで、滅びちまうかも知れんぞ」
世界の滅ぶ姿?
なにを言っているんだこの爺さんは。
やっぱり少しボケているんじゃないだろうか。
「気になりますしちょっと行ってみましょうよ」
ウェッジの言いなりになるようでムカつくが
確かに気になるので少し覗いてみることにしよう。
バケツの中を覗き込むと、例のあの穴がギュイーンと俺達を包み込んだ。
A.D.1999
そこで起こっていたのはまさしく世界の終わりだった。
我がガストラ帝国よりも発達していた国々。
しかしそれらは地底から現れた一匹の怪物により全て消滅してしまうこととなった。
あのとんでもなく巨大なウニのような怪物は『ラヴォス』というらしい。
この世界は……将来あんな怪物に滅ぼされてしまうのか。
「ビックス殿……。私は帝国を愛していますが、ガルディア王国のことも好きでした。
あの国には、いえ、あの世界には争いがありません。殺し合いなんて一切なかったんです。
そんな平和な世界だったのに……こんなのってあんまりじゃありませんか」
そうだ。あまりにも理不尽すぎる。
あんな怪物一匹のために人類全てが犠牲になるなど……。
…………ん?
「おい、ウェッジ。あれは…………」
ラヴォスの攻撃で空いた大穴の中に、例のゲートのようなものが見える。
そこから見えていたのは、ここより更に凄惨なものとなっている世界であった。
世界の大半が荒野と化していて、あちこちにおぞましい魔物が徘徊している。
そんな場所は覚えがないはずなのだが……何故か懐かしい気持ちになってしまう。
「まさか、今見えてるこれは俺達が元々いた世界……なのか?」
「え……? ビックス殿、では帝国は一体どこに……」
「分からない。とにかく行ってみるぞ!」
いざゲートに飛び込もうとしたその時だった。
『ギュルルルルルギュルルルルギュルルルルゥアアアアア!!!!!!!!!!!!!』
腹を下した時の音が極限まで甲高くなったらこんな感じになるのだろう。
この世のものとは思えない叫びのような鳴き声が辺り……いや世界中にこだまする。
――――ラヴォスの鳴き声だ!
はっとして前を向いてみると、ラヴォスと目(?)が合った。
どうやらこっちへ向かってきているらしい。
早くゲートに飛び込まないとラヴォスに殺される!
って、いつの間にか俺達の世界へのゲートが消えてるじゃないか!
「どどど、どうするんですかビックス殿!」
「ひとまず時の最果てへ戻るぞ!」
もしかしたらゲートとラヴォスに何らかの関係があるのかも知れない。
だからラヴォスが鳴き声を上げた途端にゲートが消滅してしまったのだろう。
世界を滅ぼすほど大きな力を持った生き物だ。そんな力があってもおかしくはない。
で、時の最果てへのゲートへ飛び込んだわけなのだが。
飛ばされた先はまたしても見知らぬ場所だった。
どうも俺達は思った場所に行けない能力のようなものを持っているらしい。
そういえばルッカがゲートなんとかで空間のねじれを安定させるだか言ってたな。
あれを持ってないからいけないのか?
というかさっきから何やら騒がしい。
って、ここ戦場じゃないか! あちこちでどこかの兵士と魔物が戦っている。
「と、とんでもないところに出てしまった!」
「ビックス殿ぉ~、どうするんですか!」
どうするもこうするも、戦うしかない!
魔法を覚えて調子に乗っていたウェッジだが、
あいつのポイズンは全く敵に効いてはいなかった。
そりゃ戦ってる相手、アンデッド系の見た目してるからな……。
戦いながら辺り一帯の地形と事情を把握してみたが、
どうやらここはどこかの大橋の上で、戦っているのはガルディア軍と魔王軍らしい。
この世界で戦争があったのは中世でのこと。つまりここは400年前のガルディア王国。
カエルと一緒にヤクラを倒した時と同じ世界だ。
「えーい! なんだあの2人は! 他の兵士より強くないか?!」
魔王軍の指揮官っぽい魔族が声を荒げる。
あいつさえ倒せばこの戦いも収まるはず。
「よし、ウェッジ。突っ切るぞ!」
迫りくるガイコツ兵をなぎ倒しながら橋の向こう側まで突っ走る。
ウェッジは役に立たないが、スペッキオからもらったこの武器はすごい。
フィガロの機械武器のように手軽に攻撃を行えるのだ。
しかも発射されるのは魔道アーマーの兵装と同じもの。
そう、ファイアビームなんかをどこでも素早く撃ち出せる。こりゃ強い。
「くう~、なかなかやるな」
指揮官っぽい緑色の魔族が悔しそうに地団駄を踏む。
なんかあいつ見かけのわりに大して強くないみたいだ。
途中であいつも攻撃に参加してきたけど、使ってくるのは弱いサンダーだけだったし。
「ワシは、魔王様第一の部下。魔王3大将軍の、ビネガー。
少々、お前達をあまく見すぎていたようだ。しかし、今度はそうはいかんぞ」
な、なんだと……。こいつ、将軍なのか!?
くそう、次期将軍の俺を差し置いてこんな奴が……許せん!
「ゆけ、ジャンクドラガー! 魔王様の敵をたたきのめせ!」
ビネガーがそう言うと、今まで倒してきたガイコツ兵が次々と集まっていき
ガイコツ兵同士がどんどん合体して大きくなっていった。
最終的に現れたのはなんと人間三人分はあるんじゃないかと思うほど巨大なガイコツの化物。
むむむ、流石将軍。奥の手を残していたのか。
っていつの間にかビネガーの姿がなくなってる。あいつ、将軍の癖に逃げたのか!
「ひっ、ひぃ~! ポイズン!」
だからアンデッドには毒は効かないんだよ。未だに分からないウェッジがポイズンを連発しまくる。
仕方ない。あいつは戦力として考えないようにしよう。あの化物相手に一対一か……。
ええい俺も次期将軍。この程度の相手に負けてなるものか!
剣を振り上げ、俺は勇猛果敢にジャンクドラガーへと突進する。
そしてミスリルソードで帝国直伝の一撃をくらわせる!
直撃! だが相手の骨を一本飛ばしただけだった。カルシウム摂りすぎなんだよ!
「ビックス殿! は、反撃が来ますよ!」
や、やばい!
ジャンクドラガーが大きな口を開き、そして俺に向かって火炎を吐き出す。
あわや火だるま……。残念!私の冒険はここで終わってしまった!
なんてことにはならず。
「あ、あぶねぇ……」
間一髪。ブリザービームを使うことで火炎を防ぐ。
と、同時にジャンクドラガーにもビームが当たっていた。
上半身には大きなダメージを与えられているようだが、下半身はなんともない様子。
まさか上と下とで弱点と耐性が異なっているのか?
ちょっと違うけどあのかたつむりみたいな野郎だな。
それなら、まずは下半身から片付けて身動き取れなくしてやる。
怯んでいる隙に、ここぞとばかりに下半身にサンダービームを撃ちまくる。
やがて焦げついたジャンクドラガーの下半身が砕け散る。
よしっ。後は身動きの取れない上半身をボコボコにするだけ。
と、思いきや上半身はフワフワ宙に浮き出した。そんなのアリか!?
「ポイズン! ポイズン!」
相変わらずウェッジは役に立たないし、コイツの相手も俺がやるしかない。
というかこれ実質1対2だったんじゃ。まあいいか。
なんか残った上半身が大きく口を開けて何かを溜めていたみたいだから
試しに口の中にブリザービームを撃ってみたらそのまま内部で爆発してお陀仏となった。
こっちはノータイムでビームを撃てるってのにマヌケな奴だ。
上官がマヌケだと部下もマヌケになるようだな。敗因はビネガーがマヌケだったことだ。
「ほっ、ようやく終わったみたいですね。ふぅ、いい戦いだった」
横ではマヌケなウェッジが汗を拭っていた。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません