男「川で全裸のエルフ拾った (350)
男 「上の方から見慣れないモンが流れてきたと思ったら、まさか女の子が流れてくるなんてな……」
エルフ「流されるなんて思わなかったんですよ…… 流れもそんなに速くなかったですし、それにまさかあんなに深いところがあるだなんて……」
男 「下流ならまだしもあの川は上流の方が深いところが多いからな。見た目じゃ深さも流れの速さもわからんし。しかし、なんでまた川の中に?」
エルフ「蒸し蒸しとした暑さにやられて弱っていたところにちょうど川が見えたので、水浴びしようとしてつい……」
男 「二度とそんな不注意な行動はしないように。何のかんので毎年川で溺れ死んでる奴は相当いる。今回は運が良かっただけだ」
エルフ「相当、ですか…… そうですね、今後はこのようなことのないように注意します」
男 「で、どの辺りで流されたんだ?そこらに服とか荷物とか置いてあるんだろうし明日にでも拾いにいかないとな」
エルフ「いえ、そこまでしていただく義理はありませんし、私だけで取りに行ってきます」
男 「不慣れな土地を一人でか?どうも君はこの辺りの人間じゃなさそうだ」
エルフ「っと、それは、そのぉ…… で、では、よろしくお願いします」
男 「今夜は俺の着古したそれで我慢してくれ。ちょっとおっさん臭くて申し訳ないが」
エルフ「すみません、お言葉に甘えさせてもらいます…… えと、ありがとうございます」
男 「レムルストゥニ。確か『どういたしまして』って意味でよかったよな?」
エルフ「!?」
男 「ん!?まちがったかな?」
エルフ「いえ、合ってます。ですが、どうして貴方がエルフの言葉を……?」
男 「ああ、そっちか。なに、昔エルフと仲良くなったことがあってな。その時に簡単な言葉を教えてもらった」
エルフ「……なぜ私がエルフだとわかったんですか?」
男 「その長い耳を見りゃわかるさ」
エルフ「あっ……」
男 「今頃隠したって遅いって」
エルフ「……私をどうするつもりですか?」
男 「そうだな、他の誰かに見つからないうちにどこかにあるっていうエルフの国に帰ってもらうとするよ」
エルフ「…………」
男 「そう簡単に信じてもらえるはずもないか。……まぁ、それより耳じゃなくて他のところ隠してくれないか?目のやり場に困る」
エルフ「あっ……」
男 「ん、よし。さっきも言ったけど今夜はゆっくり休んでくれ。結構長い間水に浸かってたんだろうしな」
エルフ「…………」
男 「……じゃ、俺は下で寝てるから」
―――――
―――
―
男 「……お~い、起きてるか」
エルフ「…………」
男 「ま、とりあえず服は扉の前に置いとくからな?着替えたら降りてきてくれ。朝飯にしよう」
エルフ「…………」
男 「お、来たな」
エルフ「これは……?」
男 「鹿の肉。あ、お嫌い?」
エルフ「いえ、嫌いとかではなくて、エルフは動物を食べたりなんて……」
男 「そうだったのか。悪いな、そこまでは知らなかった」
エルフ「普通は知らないはずです」
男 「ま、好き嫌いとか食文化だなんて言ってられる状況じゃなかったからな」
エルフ「……と、言いますと?」
男 「くだらない話さ。それよりこれならどうだ?芋を蒸かしただけのやつだが」
エルフ「……いただきます」
男 「うん、これ食ったら早いとこ荷物を探しに行こう。急がないと獣がアンタの荷物を持って行っちまってるかもしれん」
エルフ「はい……」
男 「しかし人間の言葉がうまいな」
エルフ「先生に教えていただきました」
男 「先生……? っと、あんまり詮索しない方がいいか」
エルフ「…………」
男 「……ん、ごっそさん」
エルフ「……ゴッツォサン?」
男 「『ごちそうさまでした』だよ。全部言うとめんどいから略してる」
エルフ「ああ、それならわかります」
男 「じゃあ改めて、ごちそうさまでした」
エルフ「ごちそうさまでした」
―――
――
―
男 「――――っと、それじゃ行こうか」
エルフ「……はい」
男 「とりあえずは川沿いを上流に向かっていくとして……」
エルフ「…………」
男 「どうした?」
エルフ「……貴方はディアンニフ、悪者、ですか?」
男 「さぁ、どうだか?」
エルフ「答えてください」
男 「……少なくとも俺は自分で自分を悪人じゃない、って言う奴は信頼できない。君はどうだ?」
エルフ「そうですね……」
男 「…………」
エルフ「行きましょう。ご同道をお願いします」
男 「……あいよ」
―――
――
―
男 「――――この辺も見覚えないか?」
エルフ「はい」
男 「ってことはもっと上か…… そんなとこで君は何してたんだ?」
エルフ「実は私、旅の途中でして…… この頃、西の森の力が弱まってきているようで、その原因を確かめるべく西に向かっていたんです」
男 「森の力……?」
エルフ「森にもある種の力があって、それが弱まると森と共に生きている私たちエルフはとても困るんです」
男 「へぇ。で、その森の力とやらが弱まった原因を調べるために旅をしていた、と?」
エルフ「そういうことなんです」
男 「……ところで」
エルフ「はい?」
男 「こっちから聞いておいてなんだが今の話って、そんなにペラペラしゃべってもよかったのか?」
エルフ「人間さんはスウィルニフ……えっと、人の言葉で『善人』、『いいひと』みたいですから」
男 「善人って…… なんでまた?」
エルフ「気を失っていた私を介抱していただきましたし、こうして一緒に荷物を探していただいてますし」
男 「いや、でも善人ってほどじゃないだろ。普通だと思うけどな」
エルフ「そうなんですか?私、どんな人間が普通なのかは良く知りませんので」
男 「まぁ、人間との接触はないだろうしな」
エルフ「聞いてる限りでは人間って基本的にディアンニフだとか」
男 「違うと思うけどな。まぁ、人の本質は善だとか、人は生まれながらにして悪だとかそういう哲学的な話はよくわからん」
エルフ「あっ…… もしかして私の荷物を手に入れてからどうにかする気だったんですか?」
男 「いや、そういうわけじゃないが……」
エルフ「……じゃあ、人間さんは悪い人ですか?」
男 「いやいや、人間ってのはそう極端なもんじゃなくてだな……?」
エルフ「それでもやっぱり私は貴方は善人だと思います」
男 「あー、うーん…… もうそれでいいや」
エルフ「はい!」
男 (よくもまぁ、こんな騙されやすそうな子を旅に出させたもんだ……)
エルフ「?」
―――
――
―
男 「しかし、エルフのお嬢さんが一人旅というのは危なくないか?」
エルフ「はい?」
男 「エルフと見りゃどんな手を使ってでも手に入れようとする連中は少なくないはずだ」
エルフ「そうですね」
男 「そうですねって…… わかってんならどうして」
エルフ「大丈夫ですよ、弓の名手でもある友達が一緒なんです。いざというときは……」
男 「友達?」
エルフ「はい、それが何か?」
男 「……その友達は今頃君を探しているんじゃ?」
エルフ「……あ」
男 「あー……」
エルフ「どっ、どうしましょぅ~~~!!?」
男 「落ち着け落ち着け」
エルフ「ああ、今ものすごく心配かけちゃってますよね、ねぇ!?」
男 「落ち着けって、なんかはぐれた時とかのために連絡手段とか用意してないのか?」
エルフ「えーっと、え~と…… 全部荷物の中ですぅ!!」
男 「そうか、じゃあ誤解の解ける望みは薄いか……」
エルフ「はいぃ!?ご、誤解、ですか……?」
男 「さっきから獣にしちゃあ慎重過ぎる何かが俺たちの後をつけている。一体誰だと思っていたが」
エルフ「そ、それじゃあ!!」
男 「ああ、多分それがアンタのお友達だろう」
エルフ「じゃあ、早速呼んでみますね!
男 「あ、おい!」
エルフ「スウィーーーダァ!ニャヌルゥーワシシピィ!!」
エルフ「スウィーダ!」
エルフ「……フィナ?」
エルフ「スウィーーーダァ!トルキメニスタファッス!!」
男 「……まぁ、すぐには出てきてくれないだろ。なんせ人間と一緒にいるんだから」
エルフ「それもそうですね。じゃあ人間さんはディアンニフじゃないって伝えてみます」
男 「やるだけやってくれ、多分信頼されないと思うが」
エルフ「イズルミニフスィスィエルミアディアンニフ!ネレイシャスウィルニフ!エレンシェクルミニーヤ!!」
エルフ「……駄目ですかね?」
男 「だろうな。俺に脅されて言わされていると思ってるのかもな」
エルフ「どうしましょうか……」
男 「……じゃあ、ちょっと俺から離れてみてくれるか?」
エルフ「え?はい……」
男 「もっと」
エルフ「はい」
男 「……もっと」
エルフ「はい」
男 「……じゃあな!」
エルフ「えっ……?」
男 (川に飛び込みゃあ逃げきれるだろ……って)
男 「おわっ!?」
エルフ「シャンハッ!?」
男 「…… 逃がす気はねぇってか」
男 (先を読まれてたか…… 後半歩進んでりゃ矢がブッスリだ)
エルフ「あぁっ!?そ、それ友達の使ってる矢です!!」
男 「だろうな!」
エルフ「でもどうして…… 私がこの人はスウィルニフだって言ってるのに!」
男 「アンタが俺に騙されてるか、もしくはそう言うように強制させたって思ってるんだろう!」
エルフ「……だったら!」
男 「おい、近づいてくるなって!!」
???「……くっ」
エルフ「イズルミニフスィスィエルミアディアンニフ!ネレイシャスウィルニフ!エレンシェクルミニーヤ!!」
???「…………」
男 (弓を構えた女……)
???「メイィ……」
男 「……あれが、お友達?」
エルフ「はい、そうです。弓の名人で」
男 「だろうな。実体験でよく知ってる」
???「……ヴェルシン、クィナドキア」
男 (えーと、そこから離れて?)
エルフ「!? メイリィ!イズルミニジトゥアンタフィーフィキャリムリリクゥ!!」
???「ピスカチラッチェルスメラシカ、ペテオ」
エルフ「シュエルスターニャ?シャウアンダシィ!」
男 (……流石にもう何喋ってるかわかんねぇな)
???「……そこの人間、両手を上げてゆっくりと立ちなさい」
男 「……あいよ」
???「……貴方、この子に何をしたの?人間の貴方をかばおうとしているのだけど」
男 「さぁ?少なくとも変なことをした覚えはないな」
エルフ「……ウィ、ウィアクルル」
弓使い「ヴェルシン!クィナドキア!!」
男 「離れろって言ってるんだろ?離れてくれないか?」
エルフ「……はい」
男 「……さて、と」
弓使い「妙な動きはしないで」
男 「しかし、人間の言葉が通じるようで何よりだ」
弓使い「……動かないで、と言ったはずです」
男 「話くらいはさせてくれないか?」
弓使い「……いいでしょう。あの子を誑し込んだ手口が分かれば今後の対策に活かせそうですし」
男 「そりゃいい、特に何かやった覚えはないが役に立ちそうなら是非参考にしてくれ」
弓使い「そうですね、まずはなぜあなたがエルフの言葉を解するのか…… そこを聞かせてもらいましょうか?」
男 「昔、君たちの同族から少しだけ教えてもらった。だからちょっとは理解できるが、さっきの君たちの会話はほとんどわかってない」
エルフ「メイリィ!メイリィゲリュンカイティヴィジゾース!!」
弓使い「ダウメイリィ?ハッ……」
弓使い「アズィヴニフトゥリャパーシマスウィルリャンパーパレシカ?」
エルフ「ワンファ!アズィヴニフグンタガーリースピャルフィフィニアンラ」
男 (やっぱり何言ってるかさっぱりわからん……)
エルフ「エニシュアシュケクルルート!エルマタイスウィルニフシューリンキルメイア!!」
男 (スウィルニフ、ねぇ……)
弓使い「スウィルニフ?ダン、エルルティマハリュート。ユリティニア」
エルフ「アズィヴニフデンリカスィルジン!マタタラティアフカイ!!」
弓使い「ドゥーネイシタ?エルニリャンリャメン、ワルジカスリーマ」
エルフ「シンバナラウーイ!ドウリャメンクルルフティードジャガンリャスパティア!」
弓使い「ナミエスタカセリョール、キアナナフィフィニアンラトリスパヤ」
エルフ「スィーナ、デンフルニャーマエルマタイスウィルニフシューリンキルメイア」
弓使い「エンツ、フォルアムスティルクニャシワワローンツ?」
エルフ「エニシュア!」
弓使い「クリュウ…… そこの人間、今の話は本当ですか?」
男 「いや、わからんて」
謎言語作るの難しそう
―――
――
―
弓使い「知らなかったとはいえ同胞を助けていただいた方に矢を放つなど…… 申し訳ありませんでした」
エルフ「……ごめんなさい」
男 「いや、別にいいって。ケガしたわけでもなし」
弓使い「では、改めて……」
エルフ「ええっ!?どうしてまた構えるの!?」
男 「……それはそれ、ってことだろ?」
弓使い「ええ、この子を助けていただいたことには感謝していますが、私たちを目撃した人間を見逃すわけにはできませんので」
男 「……森の賢者たるエルフに伝わる特定の記憶だけを消す薬とか魔法とかはないのか?」
弓使い「そんな都合のいい薬なんてありませんよ。まして魔法なんてものも……」
男 「だろうな」
エルフ「リ、リィヤントゥルシュ!」
弓使い「オートンナムラズ、コリオムゼムルゲスィーラオンロンフシャナムケ」
男 「……命乞いをしてもいいかな?」
弓使い「……聞きましょう」
男 「君たちは故あって西の森に向かっているとあの子から聞いた」
弓使い「サンナ……」
エルフ「あは、あはは……」
弓使い「……そこまで知られていたとは思いませんでした」
弓使い「ですが、命乞いをするのならそのことまで話さない方が良かったのでは?尚更生かしておく必要がなくなりましたが」
男 「いやね?これから先、君たちは絶対誰にも見つからずに西の森まで行けると思っているのか?」
弓使い「……まぁ、実際貴方に見つかってしまったわけですし、決して容易いことではないと思います」
男 「そんなときのために事情を知る人間を一人くらい仲間にしといた方がよくないか?」
弓使い「なるほど、わからなくはない話です。ですが、貴方が私たちを裏切らない保証はありませんよね?」
男 「まぁ、そこは俺を信用してもらう他ないな」
弓使い「改めて言いますが、あの子を助けてくれたことには感謝しています。ですが、それすらも私たちを騙すための布石だったという可能性も否定できません」
男 「相手が嘘ついてるかどうかわかる薬とか魔法とかないか?」
弓使い「そんな便利なものはありません」
男 「だよな」
男 「さて、どうしたもんかな……」
エルフ「シィーパ……」
弓使い「……ゼンス。ゼンスムナナライ」
男 「………?」
弓使い「……確かに恩を仇で返すというのも酷い話です。それにここで貴方に危害を加えるとこの子がもっとうるさくなりそうですし」
男 「それはつまり……?」
弓使い「あの子に免じて少しだけ貴方を信用するということです」
男 「そいつはありがたい」
弓使い「勘違いしないでください。このまま見逃すというわけではありません。監視の意味も込めて私たちの旅について来ていただきます」
エルフ「へ?」
男 「いいさ、昔エルフには世話になった。そのご恩返しで精一杯荷物持ちでもさせてもらうさ」
エルフ「ネルフィ?エルマタイグリュンシカチルティミタイ……?」
弓使い「シュウィンス、エリュアシンジタンリリスティムルスカクダダンシィ」
エルフ「クラナンキア!?デヴィアンプラキマウォルウィウィナ」
弓使い「デルフィニムムルジャミシルシィ。レイオエルザシュランティ」
エルフ「ブランナスティフィ、ドルネンティティアーナジャックルン」
弓使い「ゲファナースチュチュリンケイ、ファーマスカーヤ」
エルフ「ナンム…… エフォリパーシャ」
弓使い「ヤンファルティト…… スィーラ」
男 「……話はまとまったと?」
弓使い「ええ、それではご同道よろしくお願いします」
男 「了解。で、旅の準備をする為にも一度俺の寝床に戻ってもいいかな?」
弓使い「構いません」
エルフ「ちょっと待って!私の服と荷物は!?」
弓使い「……ほら、これでしょう?」
エルフ「あっ、フェリティトゥ~!!」
弓使い「レムルストゥニ。まったく、ちょっと川で顔を洗ってくるって言ってから全然帰ってこないと思ったらまさか流されて人間に拾われてただなんて……」
男 「ま、今後は絶対にその子から目を離すべきじゃないな」
弓使い「そうですね…… まったく、余計な心配かけさせないでよ」
エルフ「マチュヌゥ~……」
―――
――
―
男 「……さて、じゃあ行くとしますか」
エルフ「はい、よろしくお願いします」
弓使い「…………」
男 「はは、もう少しのってくれても」
弓使い「……まだ貴方を信用しているわけではありません。これから貴方を見極めさせていただきますので」
男 「わかったよ、俺は生きてる荷車ってことで」
弓使い「……ところで」
男 「何でしょ?」
弓使い「その長い包みの中身は何ですか?」
男 「ああ、猟師を生業としてるんでね。仕事用と護身用を兼ねた鉄砲が入ってる」
弓使い「……テッポウ?」
男 「エルフの国にはなかったか?鉄と木とを組み合わせて出来たもんで、火薬ってのを使って弾丸を遠くまで……」
弓使い「カヤク、はわかりませんがテツなら知っています」
男 「火薬ってのは最近できたもんで、火をつけると爆発する黒い粉でその爆発力でこの鉛玉を飛ばして標的を撃ち抜くんだ」
エルフ「そんなものが……」
弓使い「……道理で嫌な感じがするわけですね」
男 「……そうなのか?」
エルフ「はい…… 出来れば置いていってもらえませんか?」
男 「いやぁ、こいつは旅をするからには絶対必要な場面が出てくると思うんだが…… 野盗やらなんやらが出てこんとは限らないしな」」
弓使い「……仕方ありませんね。それが貴方の自衛手段というのなら我慢するとしましょう」
エルフ「……はぁい」
男 「あー…… とりあえずは街道を通ってさっさと西まで行っちまおう」
エルフ「街道は人が多いので素性がばれる危険性が……」
弓使い「まぁ、彼がいてくれますので人間とのかかわりは基本彼に任せればいいでしょう」
エルフ「……そうですね。目的地はまだまだ先ですから、わざわざ歩きにくい道を通ることもないですね」
男 「……じゃあ改めて出発ということで」
弓使い「はい、ですが妙な素振りを見せれば……」
男 「わかってるよ、俺の今の仕事はアンタらを西まで送り届けること。それだけさ」
―――――
―――
―
弓使い「――――とは言ったものの、想定より人の往来が多いですね」
エルフ「……ばれませんよね?」
男 「この国は現王になってから規制が緩くなったからか兎に角人が多いし、殊更妙な素振りを見せなきゃ大丈夫だろ」
弓使い「入れ替わりが激しいですね、人間の国は。簡単に出来て、簡単に滅びて、常に戦って、常に争って……」
男 「…………」
弓使い「本当に愚かです」
男 「……まぁ、この国はそうはならないと思うが」
弓使い「あら、どうしてそんな言葉が出てくるんですか?」
男 「ここの王様は、そういうことを無くしていこうとしてる人だからな」
弓使い「ではお聞かせください。その王が建国した際、争いはなかったのですか?」
男 「……いや、大勢の人々を虐げ奴隷にしていた屑みたいな奴らと戦ったよ。もっとも、士気の違いから戦ったというより一方的に攻撃してるだけだったような」
弓使い「結局は戦いの上に出来た国ではありませんか。根本的には何も変わっていません」
男 「耳が痛いな……」
男 「でも、王は自国を護るため以外には力を振るわないと決めたんだ」
弓使い「言うは易し、行うは難し……でしたか?そんな言葉が人間にあると聞いています」
男 「……聞くまでもないと思うが君、人間嫌い?」
弓使い「そうですね、ほんのわずかくらいなら個として信頼できる者もいるでしょうが……」
男 「全体としては?」
弓使い「積極的に関わりたいとは思えませんね」
男 「耳が痛いね。この国の人間なら兎も角、他国に行けば奴隷だの貴族だの言ってるいけ好かない奴が大勢いるからな」
弓使い「……どうも貴方は差別主義的な人間に大して何やら並々ならぬ感情をお持ちのようですが、どうしてです?」
男 「過度な干渉はしないんじゃなかったけか?まぁ、どうしても聞きたいってんなら話さないこともないが」
弓使い「……結構です」
男 「それがいいや、聞いても楽しい話じゃないしな」
弓使い「は?」
男 「ま、今の話は忘れた忘れた」
弓使い「……はぁ」
エルフ「…………」
女 「あら、随分若い方たちねぇ」
エルフ「えひゃあっ!?」
弓使い「ちょっと、大きな声出さないで」
女 「ごめんなさい、驚かせてしまったかしら?そうそう、貴方方はどちらに向かわれるんですの?私は王都に向かうのだけど」
男 「ああ、我々は西に向かってるんです」
女 「あら、西……?西って言えば隣の国のせいで最近物騒じゃなぁい?やめておいたほうがよろしくないかしら?」
男 「そうらしいですね。噂には聞いてます」
女 「知っているならどうして…… 大事な用事がお有りですの?」
男 「はは、周りからよく変わり者だって言われてます」
女 「まぁ、変わり者?確かに変わり者だわねぇ。 ……ってあら、貴方どこかで見たような顔してらっしゃるわ」
男 「私が?」
女 「そうよ、誰だったかしらねぇ?たしか……タカ、鷹の」
男 「人違いだと思いますよ?では、我々はこれで」
女 「え、ええ、道中お気をつけてね」
男 「こちらこそ、旅の無事をお祈りします」
エルフ「――――ふぅ~、ミャンマラスージィ……」
弓使い「……当面の問題は貴女ね。無理にとは言わないからできるだけ早く人間に慣れて頂戴」
男 「フードも被ってるんだし、そうそうわかるもんじゃないさ。さっきみたいに驚いたり変な行動をした方が余程怪しまれる」
エルフ「は~い……」
男 「ん……?」
隠 者「らっしぇー……」
男 「露天商か…… なんか買う?」
弓使い「いえ、結構です。人間の通貨の持ち合わせはあまりありませんので」
男 「いやいや、あんまりお高いもんは売ってなさそうだから俺が支払うよ」
弓使い「結構です」
エルフ「で、でも折角のご厚意を無駄にするのは……」
弓使い「露骨な点数稼ぎだと思うんだけど…… まぁ、いいでしょう」
エルフ「それじゃあ…… えっと、どんなのが売ってるのかな?」
弓使い「まだ近づいちゃ駄目よ。不審に思われるわ」
エルフ「じゃあ……どうするの?」
弓使い「まずは遠目から品物を確認するの」
男 (かえってあやしい気がする……)
弓使い「……あの、よろしいでしょうか?」
男 「うん、なに?」
弓使い「あそこで売っているのは主に何なんでしょう?」
男 「ああ、全部食いもんだな」
エルフ「じゃ、じゃあガウシュニニ…… えっと、獣の…肉ってありますか?」
男 「うん、あれとあれと……あれ、それとあの赤黒いのも」
弓使い「ところであの、ムッター…… リンゴのような赤いのは?」
男 「リンゴみたいって…… あれはリンゴそのものだろ」
エルフ「ええっ!?」
弓使い「エニシュア!……コホン、ちょっと大きな声出さないで」
エルフ「だ、だってリンゴってもっと黄色っぽいでしょ?あれは赤色じゃない!」
男 「へぇ、エルフのリンゴは青リンゴなのか?」
弓使い「……仰っている青リンゴと同じものかはわかりませんが、少なくとも我々のリンゴは赤色ではありませんね」
男 「じゃ、そのリンゴを買うとしよう」
エルフ「え?」
弓使い「……そうですね、味も違うのか気になりますし。お願いします」
男 「任されて~」
男 「―――よう、そのリンゴ3つくれ。あと牛の干し肉とその魚の燻製も」
隠 者「……先に金出しな」
男 「いくらだ?」
隠 者「ここに書いてある」
男 「あいよ……っと。ほれ、釣りはないはずだぜ」
隠 者「確かに。……しかしどうした鷹の目、女連れで旅路などとは。いずれは俺の手伝いをしてくれるんじゃなかったのか?」
男 「げ、よく見りゃアンタかよ」
隠 者「観察眼はまだまだのようだな。しかし、肌の色艶を見るに食うに困らん程度には猟師生活を送れているようだな」
男 「アンタの手伝いができるほどの腕になったかはわからんけどな。東の国のアレもアンタの成果だろ?」
隠 者「俺は手助けをしただけだ。彼らが自由を手に入れたのは彼ら自身の力さ」
男 「またまたご謙遜を…… で、今度はどこの国のツナギに行ってたんだよ?」
隠 者「北だ」
男 「北ってぇとあそこか、順調なのか?」
隠 者「事を起こすにはまだ早い、まだまだ慎重を期すべきだな」
男 「そうか、ところで西の方で最近何が起きてるとかわかるか?」
隠 者「そちらには別の者が行っている。最近のことは詳しくはわからん。噂程度でよければ聞くか?」
男 「噂か、一応聞かせてくれ」
隠 者「元々賊が大勢蔓延る国だったが、近頃はその数を増してきているらしい。定職に就けない奴が多いのが主な原因だそうだ」
隠 者「王政もうまく機能せず、一部の有力貴族共が何やら他国に攻め入っての物資強奪を計画しているなんてことを聞いた」
男 「政情不安って奴か。ちとマズいか……」
隠 者「その口ぶり、西に行くつもりか?」
男 「ああ、あの二人の西への旅路の護衛をしてるんだよ」
隠 者「そうか。もしかしたらお前の女かと思ったが、お前に女を二人も養う甲斐性はなかったな」
男 「うるせぇ、ほっとけ!……じゃあ、またな」
隠 者「ああ、あと西との国境警備にはニヤケ面がいる。よろしく言っといてくれ」
隠 者「――――ありあとやした~」
男 「お待たせ、これが俺たちのリンゴだ」
弓使い「……あの方と金銭のやり取り以外に何か話していたようですが?」
男 「まさかの昔の知り合いだったんでね。余計なことは喋ってないよ」
弓使い「本当ですか?」
男 「……気持ちはわかるがあんまりしつこく聞かれると終いにゃキレて本当に裏切るぞ?」
弓使い「それもそうですね。これからは目に余るとき以外は胸の内にしまっておきましょう。それにしても不思議なのはこの赤さですね」
エルフ「ねー、形はリンゴそっくりだけど色とあと、匂いも違うよ?甘くていい匂い……」
男 「まぁ、毒ってことはないし食べてみなよ。あぐっ……」
弓使い「……そうですね、では」
エルフ「……あむ」
エルフ「!?」
弓使い「!!」
男 「お、おい!どうした!?」
男 (しまった!人間にとっては無害でもエルフにとっちゃ猛毒だったのか!?)
隠 者「ありあとやした~」
男 「お待たせ、これが俺たちのリンゴだ」
弓使い「……あの方と金銭のやり取り以外に何か話していたようですが?」
男 「まさかの昔の知り合いだったんでね。余計なことは喋ってないよ」
弓使い「本当ですか?」
男 「……気持ちはわかるがあんまりしつこく聞かれると終いにゃキレて本当に裏切るぞ?」
弓使い「それもそうですね。これからは目に余るとき以外は胸の内にしまっておきましょう。……それにしても不思議なのはこの赤さですね」
エルフ「ねー、形はリンゴそっくりだけど色とあと、匂いも違うよ?甘くていい匂い……」
男 「まぁ、毒ってことはないし食べてみなよ。あぐっ……」
弓使い「……そうですね、では」
エルフ「……あむ」
エルフ「!?」
弓使い「!!」
男 「お、おい!どうした!?」
男 (しまった!人間にとっては無害でもエルフにとっちゃ猛毒だったのか!?)
弓使い「あの、もう一個ずつ買ってもらっても……よろしいでしょうか?」
男 (――――あ、かわいい)
男 「いいよ、こんなものでいいならさ」
エルフ「いいんですか!?」
男 「いいですとも!」
男 「―――というわけだ、リンゴ全部くれ」
隠 者「早過ぎる再会だな…… まぁ、買ってくれるのなら無碍にはせんが」
男 「その口ぶり、本物の商売人みたいだぞ」
隠 者「そうか。それもまたよし」
男 「ところで北に行ってたって言ったよな?一つ聞いてもいいか?」
隠 者「なんだ?」
男 「……北にエルフの里はあったか?」
隠 者「さぁな、俺の知る限りではなかったと思う」
男 「そうか、ならいい。またな」
隠 者「林檎はもうないぞ」
隠 者「――――まいど~」
男 「ほい、お待たせ」
エルフ「フェリティトゥ~!!」
弓使い「ちょっと」
男 「出てる、出ちゃってるよ」
エルフ「あ……」
弓使い「……この旅を始めた時からずっとそうだけど、先が思い遣られるわ」
エルフ「だ、大丈夫よ!今のは偶々で……」
弓使い「……貴方に同行してもらったのは正解でした」
男 「苦労してんのね」
弓使い「確かにこの旅の目的に一番適しているのはあの子だったんですけど、ご承知の通りああいう子でして」
男 「悪い子じゃないんだろうけどね」
弓使い「どうにも、その、人間の言葉でいうと『アホの子』でして」
男 「わかる、わかるよ」
エルフ「非道い!」
男 「しかし何で女の子の二人旅?」
弓使い「この子が木々の想いを汲み取るのに長けているんです。動物くらいハッキリとした意志を持っているのなら私にもわかるのですが」
男 「ほほぅ」
弓使い「ですが、自分の身を守ることに関してはハッキリ言って普通以下なので私が護衛としてついているんです」
男 「いや、君とあの子、つまり女の子だけだろ?何で男がついていないのかなって話」
弓使い「男と女がいて間違いが起きないとは言えません。特にあの子はほら、隙が多いので」
男 「ああ……」
エルフ「ちょっと!なんで納得するんですか!」
男 「いや、それにしても別に女の子二人に男一人の三人旅でも問題なかったんじゃ?」
エルフ「無視しないでくださいよ!」
弓使い「男は里の守りの要ですから」
男 「でも、リスクを考えるなら」
弓使い「……捕まった時のリスクを考慮した結果です。三人も捕えられれば、里にとっては大きな痛手です」
男 「……つまり、二人までが里の外に出せる限界だと」
弓使い「ええ」
男 「それじゃまるで君たちは……」
弓使い「いいえ、私たちは志願してこの任に着きました。決して里に見捨てられたわけではありません」
男 「なるほど、色々と覚悟の上ってか」
弓使い「はい、ですが……」
男 「ああ、大丈夫だ。絶対に捕まるなんてことのないようにする」
弓使い「……威勢だけはいいですね。まぁ、口先ではなんとでも言えますから」
男 「手厳しいねぇ」
弓使い「……つい余計なことまで喋ってしまいました」
男 「君も少し隙が多いようだ」
弓使い「ええ、今後はより一層気を付けましょう」
男 「俺もできる限りのサポートはさせてもらうよ」
弓使い「やる気を出すのは構いませんが、余計なことまでしないでくださいね」
男 「へいへい」
エルフ「ねー、聞いてー!!」
弓使い「はいはい……」
―――
――
―
男 「――――旅路を急いでいたわけだが、どうがんばっても夜は来るわけだ」
エルフ「そうですね」
弓使い「がんばったところでどうにかなるものではないでしょう?」
男 「はははっと、これ以上夜道を進むのは危険だ。今日はここで野宿しようと思うんだが」
エルフ「わかりました!」
弓使い「その前に」
男 「なんだ?」
弓使い「今、私たちはどの辺りまで来ているのでしょうか?」
男 「おいおい、まさか地図も持たずに旅してたとか言うんじゃ」
エルフ「いえいえ!ちゃんと地図ありますよ、ほら!!」
男 「随分黄ばんでるな」
弓使い「やはりこの地図は貴方の話を聞く限りどうやら古いもののようですね。ですから、最新のものを見たいのです」
男 「ああ、そういうことならっと、暗くて見にくいがさっきの町がここだから…… まぁ、この辺か」
エルフ「えーと、私たちの地図で言うと……」
弓使い「なるほど、まだこの辺りですか…… ザワディトヤスムルルクフム」
エルフ「ポポル。アムシュティ?」
弓使い「デムデムヴァンドレイ」
エルフ「ナスィテ?」
弓使い「グアナームスララファナクヒムドルチェンパパムシアサーキーヒーロムカウカウフィーヤ」
エルフ「あう…… ケムナゴラルカッチャ、チターニ?」
弓使い「チターニ、チターニ」
エルフ「マシアラルカナンワリャリャシアセベフェリャーヌ」
弓使い「エテメティタートシャルシィナン」
男 (そこはかとなく疎外感……)
男 「……とりあえず火起こしでもしとくか」
エルフ「ありがとうございます。私たちが喋ってる間に火まで起こしていただいて」
男 「……やることなかったし、必要なことだしな」
エルフ「そうだ、火の番を決めましょう!」
男 「ああ、それなら今夜は俺がやるよ。で、明日は君たちのどっちか、明後日は俺。こういう感じで」
エルフ「そんなの駄目ですよ!それじゃ人間さんのお疲れが溜まるじゃないですか!私たちもちゃんと一日ずつやりますよ!」
男 「いや、でもなぁ……」
弓使い「私もその意見には賛同致しかねます」
男 「そう?」
弓使い「実際今日まで私とこの子で一日交代していたのですが、丸一日寝ないのはやはり堪えます。貴方と私とで半日交代というのは如何でしょう?」
男 「夜中に交代ってことか」
弓使い「はい、そういうことです」
男 「君がそれでいいってんなら俺もそれでいいけど」
エルフ「ちょっと待って、なんで私が入ってないの?」
弓使い「貴女、寝ずの番なのに結構うつらうつらしてたでしょ?ハッキリ言って頼りないの」
エルフ「あう!」
弓使い「という状況ですので、私と貴方の交代制ということでいきます」
男 「了解」
エルフ「……コホン、火の番も決まったことですし、食事にしませんか?」
男 「おう」
エルフ「あ、私たちは食事を持参してますけど人間さんは?」
男 「俺も持ってきてるから大丈夫だ。さっきの露天商からも少し買ったしな」
エルフ「そうですか、それならよかったです」
弓使い「……私たちの食料を分ける必要がありませんからね」
エルフ「もー……」
弓使い「さて、ではお先にいただきます」
男 「なにそれ?」
エルフ「えーっと…… 丸薬みたいなものですね」
男 「もしかしてそれがエルフの長寿の秘密だったり?」
弓使い「いえ、これとは関係ありません。ただの種族差です」
男 「やっぱりそうか。ま、それにしても夕飯がそれっぽっちで足りるのか?」
エルフ「人間さんからしたら足りないかもしれませんけど、私たちはこれだけで十分なんですよ」
男 「それも種族の違いかね……」
弓使い「それで……」
エルフ「人間さんはそれを食べるんですか?」
男 「うん、牛の干し肉」
エルフ「……そう、ですか」
男 「……もしかして気持ち悪いとか、嫌だったりするか?」
弓使い「……まぁ、その辺りは種族や文化の違いがありますので。大丈夫です、どうぞお食べ下さい」
エルフ「どうぞ……」
男 「……じゃあ、悪いけどいただきますっと」
男 (しかし、やっぱり気になるよな……)
弓使い「お気に、なさらず」
男 「いや、そうは言うけど……」
弓使い「そうそう、食べながらで失礼ですが火の番はどちらが先にやりましょうか?」
男 「そうだな、君が先に休んだ方がいいと思う。行方不明になったこの子をずっと探してたんだろ」
弓使い「では、私が先に休ませていただきます」
男 「そうしなさいそうしなさい」
―――
――
―
エルフ「んん…… んふ……」
男 「……大分使い込んでる毛布だな」
男 (――――にしてもだ)
弓使い「……すぅ、すぅ」
男 (俺を信用していないっていう割には結構無防備に寝てるし…… まぁ、結構疲れてるんだろうな)
弓使い「……くぅ」
男 (ナイフみたいなの握ってるし、ホントは寝ないで俺の動向を伺うつもりだったんかね?)
弓使い「う、うぅー……ん………… はっ!」
男 「おっ?」
弓使い「……もう、交代ですか?」
男 「いや、目安の木が燃え尽きるまでまだかかりそうだし、もうちょっと寝ててもいいよ」
弓使い「……そうですか。でも目も覚めてしまったことですし、もう交代してしまいませんか?」
男 「……わかった」
男 「じゃ、休ませてもらうよ」
弓使い「あら、どうして反対側に?」
男 「……あの子の隣で寝てちゃ、朝起きたときびっくりさせちまうと思ってな」
弓使い「なるほど、理解しました」
男 「まぁ、そういうことで」
弓使い「今日一日お疲れ様でした」
男 「おう……」
男 (う~む、感謝の言葉は口にしているものの、事務的な声色……)
弓使い「明日もお願いします」
男 「ん、任されて」
男 (この子も笑うとかわいいんだけどなぁ……)
弓使い「なにか?」
男 「なんでもないよ、おやすみ~」
弓使い「はぁ…… オヤスミ?」
男 「?」
―――――
―――
―
弓使い「朝です。起きてください」
男 「ん、あ、ああ…… おはよう」
弓使い「オハヨウゴザイマス」
エルフ「……オハヨウ?」
男 「ん、人間の朝の挨拶だよ」
エルフ「朝の挨拶…… ああ、そういえば先生に教えてもらいました」
弓使い「人間の交流の初歩よ、忘れてどうするの」
エルフ「……ごめんなさい」
男 「でも、君だって『おやすみ』は忘れてただろ?」
弓使い「それなんですが、どういう意味の言葉なのでしょうか?」
男 「へ?知らないの?」
エルフ「私も知りません」
男 「……異文化交流というやつか」
男 「えー、おはよう、こんにちは、こんばんは、は知ってる?」
エルフ「こんばんは、以外は」
男 「こんばんは以外?」
弓使い「だいぶ前に聞いたような覚えはありますが……」
エルフ「今回旅に出るにあたってもう一度先生から基本会話を習ったんですけど……」
弓使い「こんばんは、は聞いたかしら?」
男 「こんばんは、は夜の挨拶」
エルフ「そうなんですね。ああ、でも大分前に教えてもらったような気はします」
弓使い「道理で。夜は野宿などで人間と交流する機会はないとの判断から履修してませんね……」
男 「ああ、だからおやすみも知らなかったのか」
エルフ「ちなみに?」
男 「おやすみ、は寝る前の挨拶」
エルフ「なるほど…… ふむふむ」
弓使い「……講義も終わったところで朝食にしましょうか」
男 「おう」
このタイトルでエロじゃないとかがっかりだわ
早漏は嫌われるぞ
男 「と、とにかく吐き出せ!な?吐き出せ!!」
エルフ「そんな、吐き出すなんてとんでもありません!」
男 「……はい?」
弓使い「ええ、その通りです。こんなに甘くて美味しいなんて……」
エルフ「今まで私たちが食べてきたリンゴは何だったの……?」
弓使い「リンゴは酸っぱさと瑞々しさを楽しむものだと思ってたのに…… 甘い、本当に甘い!」
男 「よ、喜んでいただけたようで何より……」
エルフ「こんなに甘いリンゴがあるなんて…… あむっ!」
弓使い「ん~~!」
男 (この子の笑顔なんて初めて見たよ……)
弓使い「…………」
男 「……な、なんだ?」
男 (物珍しげに見てたのが気に障ったか?)
弓使い「……あの」
男 「はい、なんでしょう?」
男 「――――で、またその丸薬だけ?」
エルフ「ええ」
弓使い「お構いなく」
男 (……お構いなく、なんてよく知ってるよな。人間の言葉ン中でも微妙な部類だと思うんだが)
男 「……ま、これも食べなよ、っと」
エルフ「わっ、ちょ、ちょっと!」
弓使い「急に物を投げないでください…… あら?」
エルフ「リンゴ……」
弓使い「まだ残ってたんですか?」
男 「……安かったから、つい買い占めちまった」
エルフ「……いただいてもいいんですか?」
男 「どうぞどうぞ」
エルフ「ありがとうございます!」
弓使い「……ありがとうございます」
男 「レムルストゥニ」
男 「――――っと、腹も膨れた所で出発するとしようか」
弓使い「そうですね、あまりのんびりとしているわけにもいきません」
男 「そういや西に向かうとは言ってたが、西の森ってのはどの辺りのことだ?」
エルフ「え?」
男 「実は西に向かうとしか聞いていない」
弓使い「ああ、そういえば言ってませんでしたね」
エルフ「ワリャリャシアに行くんです」
男 「なに?わりゃりゃ?」
エルフ「えっと…… ごめんなさい、人間の国の地名とかはよく知らないんです」
弓使い「次から次へと新しい国が出てきては滅びて出てきては滅びての繰り返しですから」
男 「う~ん、地図でなら分かるか?ほら」
エルフ「ありがとうございます。えーっと……」
弓使い「ここ、ですね」
男 「やっぱり隣の国か……」
弓使い「何か問題が?」
男 「ああ」
エルフ「お隣とは仲がお悪いとか?」
男 「仲は…… 悪いかな?」
エルフ「そうですか」
弓使い「しかし仲が悪いだけが理由ではないでしょう?その隣国へ行くことは禁じられているのですか?それ以前に国を出てはならないとか」
男 「いや、国王はそういうのを固く取り締まるような人じゃない」
弓使い「……この国の王について何か知っておいでのようですが」
男 「国王は奴隷の出だからな。人を縛るのも人に縛られるのも嫌いなんだよ」
エルフ「それじゃあ…… お隣に問題があるってことですか」
弓使い「そういえば昨日の女性も最近隣国が物騒だと」
男 「隣国は今治安が悪いらしくてな…… 物取りや野盗が増えているらしい」
弓使い「今は、ということは、元々治安はよかったのですか?」
男 「ああ、何年か前まではな。まぁ、貴族だ賤民だのくだらないことにこだわる連中の多いいけ好かない国だが」
エルフ「何かあったんですか?」
男 「飢饉が起きたそうだ。その後も不作やら何やらで国の蓄えがあまり無いらしい」
エルフ「それで困った人たちが野盗になったりしていると……」
男 「噂じゃ他国に攻め込んで物資を奪おうと企んでいるとか」
エルフ「あまりよろしくないお国ですね」
男 「だな。そもそもこの国の革命の混乱に乗じて領地を拡大せんとしていたって噂もあるような国さ」
エルフ「そうなんですか」
男 「もっとも革命は一ヶ月もしないうちに成功して混乱もすぐに治まったから首を突っ込む隙なんてなかったが」
弓使い「……やはり人間は争いをやめることはできないのですね」
男 「そうじゃないと思いたいがねぇ……」
弓使い「思うだけなら簡単ですよ」
男 「……とにかく君らの言うまで行くのはちと骨が折れるかもしれない」
弓使い「……骨が折れようと、西の森の調査は私たちにとって急務です」
エルフ「行くしかないんです……!」
男 「ですよなー…… 少し遠回りになるが山から国境を越えるルートで行く」
エルフ「そのまま関所を通るのは難しいですよね」
弓使い「難しいどころの話じゃないわよ」
男 「まぁ、確か守備隊にはニヤケ面がいるっていうからソイツに話せば通れるかもだが念には念をだ。それに……」
エルフ「それに……?」
男 「関所を通れば野盗共に『新鮮な獲物が入りましたよー』って教えるようなもんだからな」
エルフ「そんな、関所というからには向こうの国にも番兵がいるんでしょう?」
男 「いるだろうけど、今のあっちの国の台所事情を聞く限りじゃ野党と裏でつながっておこぼれをもらってる可能性もある。関所はマズいだろう」
弓使い「それで密入国というわけですか」
男 「君たちがエルフって時点である種の密入国状態だけどな」
エルフ「あはは…… そですね」
弓使い「しょうがないじゃないですか。関所なんて通れるはずもありませんから」
男 「まぁ、うちの国はその辺も割と寛容だから周辺国から亡命してくる人も多い。その中に金持ちが多かったってのも野盗が増えた理由かもな」
弓使い「国を捨てた人間、国を超えてきた人間諸共に襲っているということですか」
男 「ああ、だからできる限り野盗に俺たちが侵入したことがバレないようにしたいんだ……」
弓使い「了解しました。では、そろそろここを発ちましょう」
エルフ「あの、ちなみにニヤケヅラって?」
男 「昔からの知り合い」
―――――
―――
―
男 「っと…… そろそろお昼時だけどどこか影のところで飯も兼ねて休むかい?」
エルフ「オヒルドキ……?ああ、お昼のご飯の時間ですね」
男 「あー…… もしかしてエルフって一日二食?」
弓使い「ええ、朝夕の二回だけですね」
男 「そっかー、昨日も食べてなかったしやっぱりそうなんだ。喰い損ねたわけじゃないのね」
エルフ「えーっと、人間は一日三食なんですか?」
男 「普通の人はね」
エルフ「それなら私たちは気にせず食べちゃってください。生活のリズムはなるべく崩さない方がいいですから」
男 「うわー、耳が痛いわー」
弓使い「つまり、不規則な生活をしていらっしゃると」
男 「今の生業が猟師なもんでね。飯も食わずに駆けずり回ったりとかしてまして……」
弓使い「獲物…… 動物を追いかけているのですか?」
男 「あー、うん…… すまん」
弓使い「別に謝っていただく必要はありません。それが人間の食文化なのでしょう?」
男 「いや、でも嫌な思いさせちまったわけだし……」
弓使い「ですから……」
エルフ「も、もうその話はいいですから!私たちのことはお気になさらず人間さんはご飯食べちゃってください」
男 「ありがとね。でも、君らが食べないんなら俺も食べない」
エルフ「でも……」
男 「いや、食料も大量にあるわけじゃなし節約しないとな。ま、いざとなりゃ一日一食でも十分すぎるくらいだしね」
弓使い「一日一食で十分、は言い過ぎではありませんか?」
男 「いやいや、昔は一日に一食が基本だったからそういうのには慣れてるんだ」
弓使い「昔は、ですか。一体どんな生活をされていたんですか?」
エルフ「あ、私も聞きたいです」
男 「楽しくもない話だ、忘れてくれ」
エルフ「え?でも……」
男 「気が滅入る話だから、またいずれな」
弓使い「……わかりました」
―――――
―――
―
男 「……今夜はここで野宿だな」
弓使い「そうですね、もうすぐ日も落ちます」
エルフ「今日はどれくらい進んだんでしょうか?」
男 「地図で言うとこの辺りかな?で、ここが昨日野宿した場所」
エルフ「ぜ、全然進んでない……」
弓使い「そうね…… もっと速さを上げられますか?」
男 「俺は日頃歩き回ってるから大丈夫だけど問題は君らだ。いけるか?」
弓使い「私は大丈夫です」
エルフ「もっと速くかぁ……」
弓使い「……いけるわよね?」
エルフ「なにをおっしゃいますやら! ……いけますとも」
弓使い「だったらちゃんとこっち見なさい」
男 「まぁ、無理はしない程度に進行速度を上げるということで」
男 「それじゃ、寝床づくりと火の準備を……」
弓使い「寝床は私たちでやります。貴方は火起こしを」
男 「了解だ」
エルフ「それにしても地面が整ってることが多いですよね。小石とか枝とかもあんまり落ちてないですし」
弓使い「街道沿いだからでしょ?さっきこの人間が言っていたようにこの街道を多くの旅人や商人が行き交うみたいだから」
男 「そゆことそゆこと」
エルフ「へー、ありがたいことですね。手間が省けますし」
弓使い「今までは寝床を作るだけでもひと苦労だったしね」
男 「まぁ、人目につかないってことは人が通らない場所ってことだし、その辺はしょうがないところだろ」
エルフ「そうなんですよ…… あーあ、ずっとこんな感じが続けばいいのに」
弓使い「無駄口叩いてないで手を動かしなさい」
エルフ「はーい……」
男 (種族は違えど似てるところは結構あるんだな……)
弓使い「火はどうなっていますか?」
男 「まだだよ」
―――
――
―
男 「……さてと」
エルフ「……すぅ」
弓使い「すぅ……」
男 (起こすのはかわいそうかな…… だが、今後のことを考えれば消耗はできる限り抑えたい)
弓使い「んぅ…… んんっ!」
男 「お、起きた」
弓使い「……旅が始まってからこの睡眠時間が身に染みてきていますので」
男 「慣れか」
弓使い「慣れですね」
男 「ちなみにこっちの子は?」
エルフ「スヤァ…」
弓使い「慣れてませんね。おかげでこちらが難儀します」
男 「だろうな。じゃ、悪いけどおやすみ――――」
―――――
―――
―
弓使い「…………」
男 「――――誰だ!?」
弓使い「っと、お目覚めのようですね」
男 「……って、そうだ。君らと旅してたんだ」
弓使い「刃物はしまっておいてくださいね」
男 「申し訳ない……」
弓使い「いえ、いざというときには即座に対応していただけそうではあるとわかりましたので」
エルフ「むにゃ……」
弓使い「貴女は早く起きな、さいっ!」
エルフ「うにゃっ!?」
男 「おーう、過激ぃ」
弓使い「はい?」
男 「イイエナンデモアリマセン」
―――
――
―
男 「さて、今日はこの先にある町に寄って行くとしようか」
弓使い「……昨日の話をもうお忘れですか?」
男 「いや、でも君らが寝てる時に使ってる毛布もうボロボロだろ?新しいのにしないと……」
弓使い「まぁ、それは確かに…… ですが」
男 「金の心配なら要らないぜ?使い道なかったからぼちぼち貯まってるんだ」
弓使い「しかし、あまりご迷惑をおかけするわけにはいきません」
男 「だったらこの旅が終わった時に必要経費とか請求するよ。それでいいだろ?」
弓使い「……言い方が悪かったでしょうか?うまく伝わっていないようですね」
男 「うん?」
弓使い「恩の押し売りをされたくないと言っているのです」
エルフ「ちょっ、ちょっと!」
男 「……そういうつもりじゃなかったんだけどな」
弓使い「貴方は私たちのことを知ってしまった。本来なら口封じをするところでしたが、その代わりとして旅に同行させているのです」
男 「そうだな」
弓使い「ですから、貴方は私たちの旅を滞りなく進めることだけをしていただければ結構です」
男 「馴れ合いは必要ない、と?」
弓使い「そういうことです」
男 「なるほど、じゃあ町に着いたら絶対買い物するぞ」
弓使い「……はい?」
男 「君らの使ってる毛布はボロボロになるまで使い込んでて不衛生だ。そんなもんいつまでも使ってたら健康を害する可能性が高い」
弓使い「はい?」
男 「旅を滞りなく終わらせることだけを考えろって言ったよな?今言ったことは円滑な旅の妨げになる。買い物するぞ」
弓使い「そんな屁理屈捏ねないでください!」
男 「滞りなくーって言ったのはそっちだろうが!それに昔世話になったエルフには何一つ恩返しできなかったんだ、その代わりだと思って受け取ってくれよ!」
弓使い「……わかりました。頑固な人間ですね、貴方」
男 「君も大概意地っ張りだよな」
エルフ「えーと、街で買い物するってことでいいんですよね?でも、それってそもそも人目に晒されて危ないんじゃ……」
男 ・弓使い「「あ」」
―――――
―――
―
エルフ「……人がたくさんいますねぇ」
弓使い「看板曰く<最西端の町>ですか」
男 「文字通り最先端の町だ。こっから国境までは村とか集落ばっかりになる」
弓使い「……だからここで必要なものを買い揃えていくべきだ、と」
男 「そゆことよ」
エルフ「……ばれないでしょうか?」
男 「大丈夫だよ。国境いから一番近い町だけあっていろんな奴がいるし」
男 (……まぁ、この国の中なら最悪バレてもなんとかなる気もするが。東の国も大丈夫かな?)
弓使い「……滞りなくどころか旅はあえなく失敗、なんてちっとも笑えませんよ?」
男 「大丈夫だって。これくらいは『滞りなく』の許容範囲だよ」
弓使い「そういうことにしておきます」
エルフ「それじゃあお願いしますね」
男 「おう、まずは布を扱ってるところだな」
―――
――
―
男 「――――毛布はこれでいいかな?質実剛健、但し遊び心は一欠けらもない」
エルフ「丈夫そうですね」
弓使い「機能性の方が重要ですので、これで構いません」
男 「よし、じゃあコイツを2枚お買い上げっと」
エルフ「……羊の毛ですよね、これ?」
弓使い「凄い……」
男 「……何が?」
エルフ「1枚編むのも結構時間かかるんですが、それをこれだけの数用意してるなんて……」
男 「確か紡績機とかいうものが出来て、それのおかげで生産効率が向上したとか聞いてる」
弓使い「ボウセキキ……?」
エルフ「聞いたことないです。どういうものなんです?」
男 「よくわかんないけどそれが結構便利らしくて服なんかもほら、いっぱいある」
エルフ「わぁー……」
弓使い「ボウセキキ…… どんなものなのか気になりますね」
男 「あと、足踏織機なんてのもあったかな?」
エルフ「アシブミオリキ?何を足で踏むんですか、それ?」
男 「えーと、紡績機が糸をつくるやつで…… 足踏織機は布をつくるんだっけか?」
弓使い「私に聞かないでください」
男 「じゃあ店主に聞く?」
弓使い「不要です。人間との接触は必要に迫られたときだけにしたいので」
男 「うーい」
エルフ「それにしてもすごいですね…… 凝った柄物なんて早くても三月に1枚しかできないのに」
弓使い「私もそう思う。人間の技術はすごいわね……」
エルフ「……ねぇ、あっちの方も見に行きません?」
男 「俺は別にかまわないけど?」
弓使い「……貴女も昨日の話を忘れたの?遅れを少しでも取り戻さなくちゃいけないの」
エルフ「でも、折角だし……」
弓使い「貴女ねぇ……」
男 「……先、急ごうか?」
弓使い「はい、行きましょう」
エルフ「ちょ、ちょっと!ちょっとだけだから!!」
弓使い「くどいわよ」
エルフ「でもほら!服は私たちが着るだけじゃなくて里に持って帰ってからも使えるでしょ?」
弓使い「……それはそうだけど」
エルフ「それにこれ見てよ!なんかフリフリしててかわいいじゃない!あとこっちも!」
弓使い「う……」
エルフ「ね、少しだけ。少し見ていくだけだから」
弓使い「…………」
男 (あー、呆れて声も出ないと)
エルフ「……やっぱりダメ?」
弓使い「……少しだけよ」
男 (折れるんかーい)
エルフ「ありがと!」
―――
――
―
エルフ「ああ、これもかわいい!里にはこんな飾りがついたのなんてないし、着てみたいな~」
弓使い「あまりはしゃがないでよ?」
男 「大丈夫だよ。ここなら女の子が騒いでても不思議じゃないし」
弓使い「はい?」
男 「ほら、あそことか」
エルフ「あそこですか?」
幼 女「あ、これかわいいー!」
少 女「でもこれアンタにはまだ早いわね」
幼 女「えー!」
少 女「アンタにはこっちの方が似合うわよ」
幼 女「えー!子供っぽいからヤダ!!」
少 女「まだ子供のくせに何言ってんのよ」
弓使い「……そうみたいですね」
―――
――
―
男 (――――何で知ったんだっけ?女は服選びに時間をアホほどかけるって)
エルフ「これなんか似合うんじゃない?」
弓使い「デザインはいいけど旅には不向きだと思うわ」
エルフ「じゃーあ…… これ!」
弓使い「……それはちょっと、派手っていうか」
エルフ「じゃあどんなのがいいのよ」
弓使い「そうね…… これとか」
エルフ「あ、これもかわいい~!でもでも!貴女にはもっとこうあったかい色の方が似合うって!」
弓使い「そ、そう?私は合わないと思うけど……」
エルフ「じゃあ、聞いてみましょうか。ねぇ、この子にはどっちが似合うと思います?」
弓使い「ちょ、ちょっと!」
男 「おれ?そうだな、俺もあったかい色の方が似合うと思うよ」
エルフ「ほらみてみなさーい!」
男 (しかしペースを上げようって言ったのは誰なんだって話だよ……)
エルフ「あのー」
男 (っと、服選びに付き合うときは笑顔で苛立ちを見せちゃいけないんだっけか)
男 「なに?」
エルフ「この下着と同じところにあったこの布地の少ないものは何でしょう?」
男 「おうふ」
エルフ「はい?」
男 「あー、うん、それねぇ…… 俺に聞く?」
弓使い「貴方以外に誰に聞けと?」
男 「ですよなー…… 周りに誰もいないな?」
エルフ「はい、いらっしゃいませんけど」
男 「それは…… うん、それは女性限定の服で、コルスレ・ゴルジェと言いまして」
弓使い「初耳ですね。用途は?外見を飾りたてるための物でしょうか?」
男 「違います。ほら、あれだ、服の下に着ける奴で、胸を…… こう形よく見せるためだとか垂れないようにするだとか」
エルフ「……へ?」
男 「輪の部分に腕を通して、面積の広い部分を胸に当てて…… なんつーことを口走ってるんでしょうかね」
エルフ「あ、はい……」
弓使い「な、なるほど…… そういうものですか」
男 「君らの文化にはなかったもんなのね」
弓使い「……使ってみる?」
エルフ「そうね、そうしましょう」
男 「えーと、人によって大きさが違うらしいよ?」
弓使い「……なんですって?」
男 「いや、その、胸…… の大きさによって着けるべき大きさが」
弓使い「どこを見て仰っておられますか?」
エルフ「じゃあ、着回しできないんですね」
弓使い「ちょっと待って、少し聞き捨てならない」
エルフ「しょうがない、これはやめておきましょう」
弓使い「ねぇ、ちょっと」
男 (……サラシみたいなもんはエルフにもあるんだろうか?)
―――――
―――
―
弓使い「――――すいません、大分お待たせしてしまいました」
男 「ああ、俺は気にしてないよ。ただ……」
弓使い「ペースを上げるどころかさらに遅らせてしまいましたね……」
男 「まぁ、布屋に連れてったのは俺なんだし…… なんかすまん」
弓使い「いえ、大丈夫です…… あの子も大分喜んでるみたいだし」
エルフ「えへへ…… 人間の里にはいろんな布地があるんですねぇ」
弓使い「それに、私としたことがつい我を忘れてしまい……」
男 「結構買ったよなぁ…… まぁ、問題は俺の懐事情よりこの量をどうするかだな」
エルフ「ごめんなさい……」
弓使い「……すいません」
男 「えーと、すいません。預かり所ってあります?」
店 主「この通りの突き当りだよ」
男 「だそうだ。機能性重視の奴を選んで残りはそこに預けて行こう」
エルフ「いいんですか?」
男 「これだけのもん持って歩いていくなんざ正気の沙汰じゃないだろ?」
弓使い「正気の沙汰じゃ、な…い……?」
男 「あー、言い方が悪かったな。まあいいや、次は食料とかも見にいこうか」
弓使い「食料でしたらまだありますので結構です」
男 「いやいや、俺の分のこともあるのよ?」
弓使い「ああ、それは申し訳ございません」
男 「あと、想定より旅路が遅れてるんならその分の食料も補充しとかないといけないだろ?」
弓使い「その心配はご無用です。想定される日程以上の食糧を常備していますので」
エルフ「でも、水はいりますよね?」
男 「国境いは川になってるから西の国の分はそこで汲んでいく。そこに行くまでの分だけ買うとしよう」
エルフ「どれぐらいいりますか?」
男 「軽いもんじゃないけど絶対必要なもんだしなぁ…… はてさて、どんだけ買うとしようかねぇ」
弓使い「今の調子なら一日当たりこの小さい水筒の半分くらいですね」
男 「じゃ、それを基準に考えよう」
―――――
―――
―
男 「さーて、買い物も終わったし…… そろそろ行きますか」
エルフ「はい、行きましょう!」
男 「……あの子、大分はしゃいでらっしゃる?」
弓使い「ですね」
男 「服いっぱい買ったのが原因か」
弓使い「かわいい柄物や飾り付の服は里にはほとんどありませんから、余程楽しかったんでしょう」
男 「君も大分はしゃいでたしね」
弓使い「私はそのようなことはありません」
男 「店出るときも預かり屋に預けたときも君の方が名残惜しそうにしていたけど」
弓使い「気のせいです」
男 「君の名誉のためにそういうことにしておこう」
弓使い「その言い方は何ですか?見当違いも甚だしいですよ」
男 「はいはい」
エルフ「――――あの」
男 「うん?」
エルフ「やっぱり道中黙々と進むのって楽しくありませんよね?」
男 「概ね同意だ。ただ、この旅は道楽じゃないんだろう?」
弓使い「その通りです。私たちは使命のために行動していますので」
エルフ「でも、スウィルニフな人間さんと接触できたわけだし、いろいろとお話を聞きたくない?」
弓使い「スウィルニフ……?人間と馴れ馴れしくし過ぎた様ね。これ以上関わるのはやめなさい」
エルフ「え~、でも先生は生きた教材に学ぶことが一番だって言ってたよ?」
弓使い「それは……」
エルフ「『私が教えられる部分には限界があります。もし機会があれば直接人間から教わった方がよいですよ』って言ってたよね?」
弓使い「でも、これ以上過度な接触は……」
エルフ「折角のこの機会を逃したら、次はいつ機会が巡ってくるのよ」
弓使い「……わかった、わかったわよもう。でも、程々にしておきなさい」
エルフ「はーい」
男 (姉、ってのはああいう感じなのかね?)
エルフ「というわけで人間さん、いろいろとお聞きしてもよろしいですか?」
男 「いいよ、俺に答えられることなら」
エルフ「そうですね…… そうだ、人間さんは海、を見たことがありますか?」
男 「海…… ああ、何回か行ったな」
エルフ「やっぱりあれですか?海の水って塩辛いんですか?」
男 「うん、しょっぱかったな」
エルフ「そうなんですか!文献にはそう書いてあったんですが里にいる者たちには実際見聞きした者がいなくて」
弓使い「人間に海から遠いところまで追いやられてしまいましたので」
男 「……すまん」
弓使い「貴方に言ったところで詮無いことですので謝っていただかなくても結構です」
エルフ「それなら話の腰を折らないで!で、海って川や湖とは他にどう違うんですか?」
男 「そうだな、大きさはもちろんのこと…… 底に生えてた草もでかかったな」
エルフ「魚も大きいんですよね?」
男 「そうだな、ちっこいのもいるけど色鮮やかな奴がたくさんいて…… きれいだったな」
弓使い「色鮮やか…… ですか」
男 「うん、赤やら青やら黄色やら…… 岩の一部だと思ったら貝だったり、黒やら赤やらのヒトデ」
エルフ「ヒトデ?」
男 「ああ、ヒトデっていうのはなんつーのかな、こう、棘が五本こんな感じで引っ付いてるやつで……」
エルフ「あっ、それってミチャンですね!ほんとにいるんだ…… あ、それならクーンサフサ、棘だらけの生き物もいるんですか?」
男 「棘だらけ…… ウニ、のことかな?触るだけで痛そうな」
エルフ「それですよきっと!いやぁ、文献には載ってるんですけどホントにいるんですね。そんな摩訶不思議な生物」
男 「まぁ、確かに初めて見たときはわけがわからんかったな。アレに名前がついてることすら知らなかったし」
エルフ「まるで空想上の生き物ですよね?私てっきり著者がでっち上げたものだとばかり…… じゃあ、あれも真実?」
男 「あれ?」
エルフ「海を延々と進んでいくと、とても大きな島があるそうなんです。それこそ私たちが生きているこの世界のように」
男 「海の向こうに?世界と同じくらいの島が?」
エルフ「ええ、文献には島は一つだけでなくもっとあるそうです。全て把握できてはいないそうですが」
男 「もっとある?じゃあ、そこにも俺たち人間やエルフがいるのかな?」
エルフ「どうなんでしょうね?ひとつの島にはエルフや人間によく似た獣のような耳と尻尾が生えている生き物が暮らしていたそうですが」
男 「マジか!行ってみて―な、その島…… 言うなれば新世界か?」
弓使い「……興奮してるところ悪いけど、その記述が正しいかどうかは里でも論議されているでしょ?」
エルフ「えー?でも、ミチャンやクーンサフサがいたなら島だってあるでしょう?」
弓使い「一つ真実があったからと言って全てが真実に変わるわけでもないのよ」
エルフ「ひとつじゃないですー、ミチャンとクーンサフサのふたつですー」
弓使い「子どもみたいなこと言わないでよ」
男 「海…… また行ってみたくなったな。できるならその向こうにまで」
エルフ「ですよね!私も行ってみたいです!」
弓使い「まだ今回の調査も終わっていないのに、叶いもしない夢を語るのはやめなさい」
エルフ「叶わないとは決まってないわよ!」
弓使い「人間から隠れて生きることで精一杯な私たちの種族の事情を鑑みなさい。無理に決まっているでしょう?」
エルフ「う~」
弓使い「……でも、本当に島があるのなら、エルフがそこに逃れられるなら、自由に生きていけるのかもしれないわね」
男 「…………」
弓使い「さて、今はそれより身近な問題を解決します。ぼーっとしてないで、先をいぞぎましょう」
男 「ぼーっと突っ立ってたわけじゃないけどな。仰せのままに」
―――――
―――
―
男 「あれから数日、か」
エルフ「今どの辺りにいるんでしょう?」
男 「ちょっと待てよ…… っと、この辺」
弓使い「当初の予定よりもまだ遅れていますね」
男 「だからと言ってこれ以上歩調を上げても体に支障をきたすと思うな。ここらで折り合いをつけてみたらどうだ?」
弓使い「……そうですね、道半ばで倒れるようなことがあれば本末転倒ですし」
エルフ「ところで話は変わるけど、この柵さっきからずっと続いてますけど何なんでしょう?」
弓使い「話変わり過ぎよ」
男 「ああ、これは元貴族のやってる牧場だな。飼ってる動物が逃げ出さないようにするための柵だ」
エルフ「あ、ほんとだ。羊がいますね。見るの久し振り!」
弓使い「里以来ね。ところで、さっきの元貴族というのは?革命の時に貴族と呼ばれる人種は須らく抹殺されたのでは?」
男 「全部が全部殺されたわけじゃないさ。ここの主は革命以前から奴隷の扱いに異を唱えていた人で、革命の時にも奴隷側に協力してくれた高潔な人だ」
弓使い「……よければ、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」
男 「珍しいな?まぁ、いいけど。ここの主は奴隷も同じ人間だということで過酷な労働を強制したり、尊厳を奪うようなことはしなかった」
弓使い「しかし、それは少数派の意見だったのでは?そんな人間がどうして革命以前に貴族でいられたのでしょう?」
男 「良質な乳や肉とかを献上していたからだったような。主の牧場のそれは当時最高級品とされたぐらいだし」
弓使い「なるほど……」
男 「その良質な食材を提供できたのは主の下にいたエルフのおかげだった、とも聞いてる」
弓使い「そうでしたか、じゃあその主が例の……」
男 「例の?」
エルフ「あのぉ!この池って使ってもいいでしょうか!」
男 「あの子、何時の間に柵を…… 使うって何する気だ?」
エルフ「この頃歩き詰めなので足が火照ってまして!冷やしたいなぁと!」
男 「多分牛とか羊とかの飲み水だろうからあんまり汚さなきゃいいと思うが!」
エルフ「じゃあ布を浸して使います!」
男 「それなら多分大丈夫だろう!」
エルフ「わかりました!」
弓使い「……本当によろしいので?」
男 「多分ね。怒られたら怒られたできちんと謝れば許してくれると思うよ、ここの主なら」
弓使い「そうですか」
男 「ところで例の、って?」
弓使い「それは…… あら?」
男 「あら?ああ、あれか?」
弓使い「人間の子供ですね」
男 「そうだな」
弓使い「どこから来たんでしょう?」
男 「ここの主の子供じゃないかな?あそこの茂みで遊んでたんだろう」
弓使い「あ、あの子に気付いた」
男 「ああ、気付いたな」
弓使い「あの子の方は気付いてないようですね」
男 「なんだ、まるで助走をつけてるような……」
弓使い「……嫌な予感がします」
男 「あ、行った」
少 年「ど~ん!!」
エルフ「きゃぁあああっ!!?」
男 「あのガキ!」
エルフ「――――ぶはっ!ちょ、ちょっとなに!?なにがおきたの!?」
少 年「そこは俺の縄張りだ!勝手に使った奴にはセーサイだ!!」
エルフ「そ、そうでしたか!それは大変なご無礼を!」
男 「悪いな、少年。勝手にお気に入りの場所を使っちまって」
少 年「ん?誰だお前?」
男 「この子の連れさ」
少 年「そうか!ならお前にもセーサイだ!」
男 「っと、だからって蹴っ飛ばしてもいいってわけじゃないだろ?」
少 年「わっ、ちょっ、おろせ!おろせよ!!」
弓使い「……まったく、何してるのよ。捕まって」
エルフ「ありがとう…… うう、ずぶ濡れ……」
少 年「くそっ!はなせ!はーなーせーっ!!」
男 「わかったわかった。降ろしてやるから今後はいきなり暴力じゃなくてちゃんと話をするんだぞ」
少 年「わかった!今度からそーするよ!」
男 「ほんとだな?じゃあ、降ろすぞ」
少 年「ありがと…… からの!」
男 「ひらり」
少 年「うわっ!?」
男 「おっと危ない、池に落ちるところだったな」
少 年「た、助かった…… ありがとう」
男 「ありがとうだぁ~?約束を早速破りやがって!」
少 年「うわぁ!?ご、ごめん!ごめんよぉ!!」
男 「本当に反省してるのか?おい」
母 親「何を騒いでるの~?……あら?」
少 年「ゲッ、かーちゃん……」
母 親「あらあらあら?」
男 (子どもならともかく母親に連れがエルフだってバレるのは少々マズいか?)
母 親「どうもウチの子が旅の方々にご迷惑をおかけしたみたいで…… 申し訳ありません」
男 「ああ、いえ、こちらが勝手にお宅の私有地の池を使っていたことの方が悪いことでして」
母 親「ちょっとウチの子渡してくださいます?」
男 「あ、はい」
少 年「や~め~ろ~!たすけろー!!」
母 親「何が助けろよ!」
少 年「い゛た゛ぁっ!?」
男 (おーう、ケツにいいのが一発入った)
母 親「アンタまた旅の人に迷惑かけたんだね!!おやめって何回も言ったでしょ!!」
少 年「だ、だってコイツがあだぁっ!」
母 親「だってもあさってもあるもんですか!全くアンタはほんとにもう!!」
少 年「っっ!?ごめっ、ごめんよ母ちゃったぁい!!」
母 親「私に謝ってどうすんの!この人たちにごめんなさいするんだよ!」
少 年「ごめんなさい、ごめんなさぁーい!!」
男 「おーう、過激ぃ」
―――
――
―
少 年「……ってぇーな、クソ」
母 親「こら」
少 年「……申し訳ありませんでした」
母 親「すいません旅の方々、うちのバカ息子が……」
男 「い、いえ、大丈夫です」
母 親「お詫びと言っては何ですが辺りも暗くなり始めた事ですし、我が家でおもてなしをさせていただけませんか?」
弓使い「いえ、それには及びません」
男 「非があるのは勝手にお宅の私有地に入ったこちらです。申し訳ありませんでした」
母親「ですがバカ息子のせいでお連れ様が濡れてしまったご様子。ここの池の水は冷たいですから風邪でもひかれては大変ですよ」
エルフ「……いえ、そんなことは、はっ、へっくち!」
母親「ここにはお湯を沸かす設備もございます。どうかお詫びをさせてはいただけませんか?」
男 「うーむ……」
男 (ご厚意を無下にするわけにもいかんが、彼女たちがエルフと知られるのはまずいよな……)
弓使い「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」
男 「え゛?」
母 親「そうですか!ではこちらへ…… ほら、ご案内して」
少 年「わかったよ…… どうぞ、ぼくについて来てください」
男 「……いいのか?」
弓使い「……この方ならきっと大丈夫です」
男 「何を根拠に?」
弓使い「直感ですね。本質を捉える才があると仲間内でも言われておりましたので」
男 「そですか」
弓使い「最初に出会ったときの貴方よりは信用できます」
男 「マジすか」
弓使い「それに奴隷の扱いに異を唱えていた御仁の伴侶であられるならば、悪い方には転ばないでしょう」
男 「さいですな」
エルフ「……へっくち」
弓使い「さぁ、行きましょう。このままじゃホントにこの子が風邪をひいてしまいます」
男 (――――で、こうして御相伴に与ることになったわけだが)
父 親「すみません、お客人に配膳を手伝わせてしまいまして……」
男 「いえ、本当なら叱責を受けるべきところをこのような歓待をしていただけるのです。これぐらいは喜んで手伝わせていただきます」
少 年「だよな!だから俺はやらなくてもいいだろ?」
父 親「……ん?」
少 年「やらせていただきます!」
男 「ははは……」
父 親「すいません、厳しく育てているつもりなのですがどうにも生意気な子でして」
男 「元気があっていいと思いますよ。……それにしても多いですね?」
父 親「我が家では可能な限り家族揃って食事をとることにしているんですよ。それでこれだけの数に」
男 「これだけの数のご家族…… すごいですね」
父 親「家族というのは彼らのことも含めてですよ」
農 夫「旦那様、いつもありがとうございます」
牧 童「うちの班はこれで全員です。残りはあとで交代します」
父 親「うん、みんなお疲れ様。もうすぐ家内たちから声がかかると思う」
母 親「あなた~、みんな~、できたわよ」
父 親「ほら、やっぱりね。今行くよ」
少 年「はーい」
牧 童「今日はなんだったっけ?」
農 夫「シチューだったと思う」
婦 人「その通りだよ。あんたたちはこれを持ってって」
少 年「おっ、肉だ!」
母 親「これはお客さんに出すの。あなたの分じゃないの」
少 年「え~、マジ?」
母 親「そういう口のきき方をしないの」
少 年「へいへい」
母 親「こら!」
男 「……少し、羨ましいかな」
エルフ「ありがとうございました」
男 「お、出てきた」
母 親「お湯加減いかがでしたかしら?」
エルフ「いいお湯加減でした。おかげさまで暖まりました」
弓使い「私まで使わせていただいて…… ありがとうございました」
男 (部屋の中でも帽子、か…… かぶりっぱなしで何か言われなきゃいいが)
エルフ「あ、こちらは夕食ですか?」
農 婦「そうですよ。腕によりをかけてつくらせていただきました」
弓使い「そんな、夕食までいただけるなんて…… 本当にありがとうございます」
母 親「いえいえ、私が好きでやっていることですから」
父 親「妻は人をもてなすのが趣味みたいなものでしてね。ここを訪れた方は皆捕まえてしまうんですよ」
少 年「野盗がここに押し入ってきた時もそれに気付かずもてなそうとするんだもんなー」
母 親「ちょっと、そんなことは言わなくていいの!」
男 「はは、そうなんですか」
婦 人「で、奥様のもてなしに感動して野盗から足を洗ったのがあそこの人たちなの」
元野党「「「「「「「「どうも~」」」」」」」」
男 「わーお」
―――
――
―
父 親「――――さて、それでは」
一 同『『『『『『『『『『いただきます』』』』』』』』』』
エルフ「あの、これって……」
男 「うん、獣。牛の肉だな」
弓使い「やはり……」
男 「俺も食べないようにするから、そういう文化の人間として振る舞えばいいんじゃないか?」
農 夫「旦那様、お客人の前ですがよろしいでしょうか?」
父 親「う、む。そうだな、どうしたものか……」
男 「大事なお話なら席を外させていただきますが?」
父 親「いえ、普段は食事の時に農場や牧場の様子を話していましてな。貴方方さえよければそのままお食事を続けていただいて」
弓使い「私たちはかまいませんが、本当にお聞きしてしまってもよろしいのでしょうか?」
父 親「ええ、構いませんとも。というわけだ、手短に頼む」
農 夫「はい、うちの班の担当区分は特に問題なかったです」
牧 童「同じく」
元野盗「うちのとこはマサヨの乳の出が悪くなってきたんで、出荷数に影響が出てくるかと」
太っちょ「うちはハナコが妊娠したみたいでさぁ」
労働者「うちの班は問題ありません」
父 親「んんっ!特に問題のないところは今日は言わなくてもいい。何かあったところだけ挙手してもらえれば」
父 親「……ないようだな。みんな、今日も一日ありがとう」
一 同『『『『『『いえいえ』』』』』』
父 親「お騒がせしました」
エルフ「いえいえ、そんなことは」
母 親「どうかしら?お口に合いますかしら?」
弓使い「はい、大変おいしくいただいております」
母 親「よかったわ、旅の方って時々ここと食文化が違うこともあったりして……」
男 「……実は我々、獣の肉はちょっと」
母 親「あ、あら?そうでしたの!ごめんなさい、お作りする前にお聞きするのを失念しておりましたわ」
エルフ「申し訳ありません、折角作っていただいたのに」
母 親「いえいえ、謝るのはこちらの方です。すぐに下げさせますわね」
少 年「おねーちゃん、肉食べないんなら俺にくれよ」
エルフ「え?えーと…… よろしいですか?」
少 年「いいだろかーちゃん」
母 親「……んもぅ、ちゃんと野菜も食べるんだったら食べていいわよ」
少 年「じゃ、いっただっきまーっす!」
エルフ「はい、どーぞ」
少 年「あんっ、んぐんぐんむ…… なぁ、おねーちゃん」
エルフ「はい?」
少 年「部屋ン中で帽子は変だぜ、とっちまいなよ!」
エルフ「あっ!?」
男 「なっ!?」
少 年「うわ、おねーちゃんの耳なげーな!」
男 (そうきたかー!?)
エルフ「あは、あははは……」
父 親「――――少し、よろしいですかな?」
男 「はい、なんでしょう?」
男 (圧が半端ないな、主だけじゃなく他の連中も睨んできやがる…… ん?何だアイツ)
父 親「……貴方方の御関係は?」
男 「旅の同行者です」
父 親「本当に?」
エルフ「は、はい!本当です!」
父 親「彼は奴隷商ではない、と?」
弓使い「ええ、その通りです」
婦 人「本当にそうなんですか?もしそうじゃないのなら旦那様に」
農 夫「旦那様はお優しい方です。革命以前から私たちを普通の人として扱ってくださいました」
男 「存じております、主殿が奴隷解放のため革命に大いにご協力されたことを。あの時は本当にありがとうございました」
父 親「む、すると貴方は……」
男 「はい、私も元奴隷です。以前お会いした時はまだ幼く、当時の面影はもう残っていないとは思いますが」
父 親「面影…… もしや君は、あの『鷹の目』と呼ばれていた……」
男 「はい、そうです」
父 親「いや、これは大変失礼なことをしました。申し訳ありません、貴方を奴隷商だと疑ってしまった」
男 「いえ、今この国でエルフを連れているとしたら表を歩けないような人間だと思うのは当然のことでしょう」
父 親「本当にすみません。……では、何故エルフのお嬢さんをお連れしているのですか?」
男 「それは……」
弓使い「それは私たちから説明させていただきます」
エルフ「私たちは里の長からの使命を受けて西の方へと調査に向かう途中なんです」
弓使い「その道中でこちらの方の御協力を頂けることとなり、こうして同行していただいているのです」
父 親「そうでしたか……」
弓使い「無用の混乱を避けようとしていたとはいえエルフの恩人に身分を偽っていたこと、深くお詫び申し上げます」
エルフ「申し訳ありませんでした」
父 親「エルフの恩人……?もしや、彼はあの後無事にエルフの里まで帰れたのですか?」
エルフ「はい、貴方のことをよく話してくれました。奴隷のために立ち上がった気高いスウィルニフの一人だったと」
父 親「そうでしたか!いやよかった、よかった……!」
―――
――
―
父 親「――――この土地は放牧に適しておりましてな。それを教えてくれたのも彼でした。感謝してもしきれません」
エルフ「彼も貴方に感謝していました。暗い闇の中しか知らなかった自分を光のあるところへ連れ出してくれたと。その恩に報いたかったとも」
父 親「そうでしたか…… 革命の後、助け出された大勢のエルフの護衛として共に帰っていったきりどうしているのかと思っていましたが、いや、よかった」
母 親「さぁ、どうぞ遠慮なくお食べになって」
男 「ああっと、すいません奥様、エルフは獣の肉は食べないそうなんです」
母 親「ええ?彼は食べていたけど……?」
弓使い「……きっと、言い出せなかったんだと思います。貴方方のやさしい微笑を見ていたら断ることが出来なかったんだと」
父 親「なんと…… 知らなかったとはいえ、私たちは何ということを」
母 親「ああ、何とお詫びをすればいいのか……」
エルフ「そんな、彼は貴方方にはとても感謝していました。気を病んでいただかなくても結構です」
少 年「……よーするに、俺が肉食ってもいいんだよな?」
弓使い「そうですね。はい、どうぞ」
母 親「アンタって子はほんとにもう……」
―――
――
―
父 親「――――おっと、すっかり話し込んでしまいましたな」
少 年「スゥ、スゥ……」
母 親「ごめんなさい、旅でお疲れのところをこんな遅くまで」
エルフ「いえ、とても有意義で楽しい時間でした」
父 親「そう言ってもらえるとありがたいです。さ、この方たちを部屋まで案内してくれ」
女 性「はい、ではこちらへどうぞ」
弓使い「いえ、それには及びま」
男 「ありがとうございます」
弓使い「ちょっと」
男 「こんな時間から歩くつもりか?折角の機会だ、ぐっすり眠らせてもらおう」
弓使い「……わかりました、ありがとうございます」
男 「ん。……ところでご主人」
父 親「はい、何でしょうか?」
男 「あそこにいる彼なんですが」
父 親「彼が何か?」
男 「彼はいつ頃からこちらに?」
父 親「革命が終わってからしばらくして…… だと記憶しています」
男 「そうですか……」
不審者「さ、ぼっちゃん。部屋に戻りましょう」
男 (……アイツだけ彼女らの正体がバレたときに俺だけでなく彼女たちも見ていた。まるで品定めするように)
男 「……ありがとうございました。今夜はお世話になります」
父 親「ん、ああ、どーぞ。ゆっくりとお休みください」
男 (気のせいかもしれんし、主殿にはまだお伝えしなくてもいいな…… っと)
男 「……すいません、俺もお風呂場を借りてもよろしいでしょうか?」
父 親「ああ、これは申し訳ありません。そういえば貴方はまだでしたな。おい、誰か!」
男 「あ、そこまでしていただかなくても結構です。汗さえ流せれば」
父 親「本当に申し訳ない……」
男 「いえいえ……」
―――――
―――
―
母 親「是非またお立ち寄りくださいね」
父 親「旅の無事を祈っております」
エルフ「ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
弓使い「お世話になりました」
男 「ありがとうございました。それでは……」
少 年「おねーちゃんたち、待って!」
エルフ「はい?」
少 年「はっ、はっ、はぁっ、これ!」
エルフ「これって、乾酪……?」
少 年「昔ここにいたエルフのーにーちゃんと同じ名前を付けた乾酪なんだって。これ、にーちゃんに渡してくれよ」
弓使い「……ごめんなさい、この旅はきっと長くなります。いくら乾酪でも里に帰るころには傷んでしまうかと」
少 年「じゃあさ、旅の帰り道にまたここに寄ってくれよ!なっ!いいだろ!」
弓使い「……はい、お約束します。きっとまたここに立ち寄らせていただきます」
少 年「約束だからな!絶対だからな!また来いよ~~~!!」
エルフ「――――いい人たちだったなぁ」
男 「そうだな」
弓使い「人間が皆、あの方たちのようであったならいいのですが……」
男 「ハハハ…… まぁ十人十色と言うし」
エルフ「ジュウニントイロ?」
男 「十人もいりゃ性格とか好みとかバラバラで全員同じってわけじゃない、十人いりゃ十人の考えがある。そんな意味の言葉だよ」
エルフ「へぇ~……」
弓使い「……でも、人間の本質は誰しもが同じ。変わらないのではないでしょうか?」
男 「はい?」
弓使い「あの方たちも飼っている動物をやがては殺して食べるのでしょう?」
男 「そうだけど…… 君らだって羊を飼ってるんだろ?羊の毛の布があるとか」
弓使い「ええ、私たちエルフも羊を飼ってはいます。ですがそれは毛を刈って布にしたりするためで殺したりはしません」
男 「……そうだな、俺たちは羊も殺して食べるもんな。でもな」
弓使い「でも?」
男 「俺たちは確かに動物を殺して食うために飼っている。だけど俺たちは動物にちゃんと感謝している。それが山の教えだ」
エルフ「感謝?」
男 「ああそうだ、無暗に殺しているわけじゃない。俺たちが生きていくためにその命をもらってるんだからな」
男 「君たちだって羊たちに毛をもらったり、乳を分けてもらったりすることに感謝しているだろ?それと同じだよ」
弓使い「生きるために…… ですか。わからないでもありません」
エルフ「ですけど……」
男 「…………」
弓使い「……貴方は確かリョウシ、という職ぎょ」
男 「悪い、後にしてくれ」
エルフ「どうしましたか?」
男 「今、牧場のところから鳩が出てきた。アレを捕まえなきゃならん」
エルフ「捕まえるって、どうしてです?」
男 「きっとあれは伝書鳩だ。昨日あの中で一人だけ君たちを品定めするように見ている奴がいた。恐らく奴隷商とつながっている」
弓使い「デンショバト、というのはわかりませんがつまりはあの鳩をプワカークにしようとしていることですね」
男 「ぷわ…?ああ、多分それだ。もしあの男がホントに奴隷商とつながってるんならあの鳩に君たちの正体と行方を知らせる文書を持たせてあることになる」
エルフ「それはすごく困りますね」
男 「ああ、だから君たちには悪いが撃ち落とす」
弓使い「そんな!動物は無暗に殺さないと仰ったではありませんか!」
男 「だからってこのまま見過ごしたら君たちはどうなる!」
エルフ「私に任せて!スゥゥゥゥゥ……」
男 「何を!?」
エルフ「―----――――――--------------―――――-----――――――ッッ!!」
男 (がぁぁっ!?なんだこの声耳がキーンって!?)
鳩 「 」
男 「んぁ?」
鳩 「 」
エルフ「 」
男 「ごめん、今ちょっと耳がキーンとしてて聞こえない」
エルフ「――――?―――すか?聞こえますかー?」
男 「うん、聞こえるようになってきた」
エルフ「ごめんなさい、人間さんの耳にはよくないみたいでした」
男 「いや、いいよ。多分それのおかげでハトがここにいるんだろうし」
鳩 「フォーホー、ホッホー」
男 「しかしどういうことだこれ」
弓使い「以前言っていなかったでしょうか?私たちは動物と意思の疎通が図れると」
男 「言ってた気がする。つまり、あの超高音で鳩を呼び寄せたと」
エルフ「結構高いところにいたのでよく聞こえるように大きな声を出したんです……」
男 「ん、まぁ、そんなことより手紙の有無だ。どれどれ……」
鳩 「フォッポー」
男 「あったあった、と。さて、その気になる内容とは?」
エルフ「内容とは?」
男 「……暗号ですな」
弓使い「他の誰かに迂闊に読まれては困る内容、ということですね」
男 「――――う~む」
エルフ「悩んでおられますね~」
鳩 「フォーホー、ホッホー」
弓使い「でも、そろそろみたいよ」
鳩 「クルッポー」
男 「……よし、こういうことか」
弓使い「解けましたか?」
エルフ「ごめんなさい。人間の文化とか習慣とかわからなくて、何もお手伝いできなくて」
男 「気にせんでいいよ。やっぱり想像を裏切ってはくれなかったか」
弓使い「ということはやはり」
男 「俺たちの行く先で待ち伏せるように、って内容だったよ」
弓使い「いかがなされますか?」
男 「とりあえずはこの文書を別の内容に差し替える。俺らと関係ないところに行ってもらうとしよう」
男 「そんで、今後のことを牧場の主に伝えてくる。あと、君たちにやってもらいたいことがあるんだが」
エルフ「はい?」
―――
――
―
父 親「ふむ…… むっ?」
父 親「……どうにも肩が凝ってしょうがない。肩の荷が下りないものか」
男 「……肩の荷よりも目の上のたんこぶが重たいのでは」
父 親「君か…… いや懐かしかったよ。革命以前、私たちは今の合言葉で情報のやり取りをしていた」
男 「覚えていて下さったようで何よりです」
父 親「忘れられるものかよ…… あの伝令から教わったのかね?」
男 「はい、こうして誰にも気取られず目的の場所へと潜り込む術も合わせて。いつか彼と共に事を成すべく」
父 親「なかなか見事だった。彼も鼻が高いことだろう…… さて、わざわざこんな方法をとったということは何かあったのだろう?」
男 「昨晩お聞きした男が関係していると思われることです」
父 親「穏やかではなさそうだな。エルフのお嬢さんたちのことかな?」
男 「はい、先刻この牧場から伝書鳩が飛び立ちました。その鳩を捕え確認したところ、エルフのことと待ち伏せするようにとの伝言が」
父 親「……なんと」
男 「恐らく以前ここにエルフがいたことや、革命前後の主の処遇などからエルフと繋がりがあると睨んで潜り込んでいたんでしょう」
父 親「うむ、どうするか……」
男 「エルフとなれば奴隷商に高く売れます。ならず者たちは必ず動くでしょう。そこを突きます」
父 親「偽の文書でお引き寄せる、ということだな。わかった、近隣の衛兵たちに連絡を取ろう」
男 「ありがとうございます。場所はこちらが指定してもよろしいでしょうか?」
父 親「ああ、万が一君たちが連中に出くわしては厄介だ」
男 「はい、場所は…… ここを指定しています」
父 親「了解した」
男 「あと、この鳩は彼女たちを通じて帰還する際はまず貴方の下に行くようにしてあります」
鳩 「フォッポー」
父 親「うむ、内通者が誰かは私の方で調べよう」
男 「恩に着ます。それでは……」
父 親「しかし口惜しいな、今もまだ奴隷を商売にしようとする連中がいるなどとは」
男 「……彼女たちが言っていました。人間の本質は変わらないのでは、と」
父 親「人間の本質?」
男 「詳しくは聞いていません。ですが、察するところ人間とは利己的な存在である、ということかと。私もそう思うときが多々あります」
父 親「利己的、か…… その通りだ、それを否定するのは至難だろうな。奴らのような存在が無くてもだ」
男 「やはり、そうなのでしょうか……」
父 親「……だが、利己的なのは人間だけではないのと思うのだよ。私たちだけでなく生物全ての本質は利己的なのではないか?とね」
男 「生き物全てが?」
父 親「うむ、犬も鳥も自身が生きる為、自己の子孫を残すことを念頭に生きている。それは究極の利己的な行動だとは思わないか?」
男 「……極論では?」
父 親「確かに極論ではあるが、突き詰めれば生き物全ては利己的であると考えられるはずだ。それは生きている限りしょうがないことだと私は思う」
父 親「森の者と謳われたエルフとて例外ではないだろう。だが、彼らはその高い知性を以てそういった生物の本質をも捻じ伏せ今の高みに至ったのだ」
父 親「ならば、同じく知性を持つ我々人間も強く意志を持てばその高みへと至ることはできるはずだと、私はそう思う。君はどうかね?」
男 「……私も、そう思います。そうであると信じたいです」
父 親「そうか…… しかし、今語ったのは私の拙い知識と経験で練り上げた妄想だ。鵜呑みにしてくれるなよ?」
男 「心得ました」
父 親「うむ、では後はこちらで上手くやっておく。道中気を付けてくれたまえ」
男 「はい、それでは……」
―――
――
―
男 (――――人間の本質は利己的、なれど強い意志を持つことで高みに至れる、か)
男 (やっぱり奴隷だった頃に見た人間の醜さ、下劣さ。あれこそが人間の本性なんだろうな)
男 (だけど、俺たちはその醜さを知っている。だからこそ、強い意志を持ってその醜さを克服できる、ってところか……)
男 「……戻ったぞ」
弓使い「首尾は?」
男 「上々」
弓使い「それは良い傾向ですね」
エルフ「それで、この先はどう行くんです?」
男 「引き続き街道沿いを通っていく。連中にはエルフ一行は街道を避けて進んでいるって偽の文書を掴ませてるしな」
エルフ「うっかり鉢合わせたりはしませんか?」
男 「人数も五人にしといた。大丈夫だよ」
弓使い「……それでは行きましょうか」
エルフ「うん」
面白くて寝られぬ
乙です
すごくいいね
エロ…?
乙
いい
―――――
―――
―
男 「――――国境も大分近づいてきたな」
弓使い「ならず者たちにも出会わずに済みました」
男 「牧場の主が動いてくれたんだ。今頃きっとお縄についてるさ」
エルフ「ですね。この旅の中で、思いの外たくさんのスウィルニフに出会えました」
男 「ああ、あの人たちは間違いなくスウィルニフだよ」
弓使い「ですが、その中に確実に一人はディアンニフがいましたが」
男 「それが人間の全てじゃないさ」
弓使い「おや、いつぞやはもっと曖昧な返事をいただいたのですが」
男 「心境の変化があったんでね」
エルフ「それって?」
男 「主殿の話を聞いてね…… っと」
???『ウォオオオォォ~~~~~―――----』
男 「……アイツらも夕飯時かな?」
エルフ「ガンドレイ…… 狼?」
弓使い「狼の声とは微妙に違う気がするけど……」
男 「じゃあ多分野犬だな、野犬。犬だな」
エルフ「犬?ああ。確か狼を人間が飼えるように飼い慣らしたっていう」
男 「それが野生に帰ったのが野犬だ。で、アイツらが何言ってるとかもわかるのか?」
弓使い「ええ、一言で言えば私たちの荷物を狙ってます」
エルフ「でも変ですよ?狼なら火を恐れて近づかないはずでは?」
男 「多分、生粋の野犬じゃなくて元は飼い犬だったんだろうな」
エルフ「そんな……」
弓使い「酷いことをしますね。飼っていたのに見放したんですか?」
男 「飼い手にもいろいろあったんだろ」
弓使い「いろいろ、ですか」
男 「さて、どうするかね?鉄砲で蹴散らすってのもなぁ……」
弓使い「でしたら私たちに任せていただけませんか?」
エルフ「人間ではなく私たちエルフの言葉なら耳を傾けてくれるかもしれません」
男 「できるのか?捨てられた恨みとかあるだろうに。俺なら人間憎しってなるだろうし」
弓使い「恐らくは……」
野犬A「バウッ!」
野犬B「グゥゥゥ~~―--」
野犬C「ヘッヘッヘッヘ・・・・・・」
男 「賢いね、何匹かが囮になって注意を引いている内に残りの奴らが荷物をかっぱらうって寸法か」
エルフ「こんな知恵を身につけなきゃいけなかったなんて……」
弓使い「ウウウウウウウ・・・・」
男 (……これが犬語)
エルフ「クゥゥン・・・」
野犬B「ワオン!」
エルフ「ウウウウウウウ―――」
野犬B「ヘッヘッヘッヘ」
エルフ「フゥゥウウ・・・・」
男 (エルフの会話もわかんねーけど犬語…… 狼語もさっぱりだな)
―――
――
―
野犬共「クゥーーン……」
男 (とまぁ、野犬たちの大人しいこと大人しいこと)
エルフ「スーリャパシマ、ウネルシィ……」
男 「……鳩の時もそうだが、エルフってホントに動物と話せるんだな」
エルフ「話せるといっても言葉を交わしてるわけではありませんけど」
男 「へぇ、で、どんなことを?」
エルフ「どうしてこうなったのかを教えてくれました」
男 「大体想像はつくが……」
エルフ「ええ、飼い主が死んでこうならざるを得なかった子もいますけどほとんどは捨てられた子、それに人間に苛められていた子……」
弓使い「……かわいそうな子たち」
男 「捨てたくて捨てたわけじゃない奴だっているだろう。だが…… 苛められてたってのは、な」
弓使い「……ひどい話です」
男 「……人間全てがそうだってわけじゃない」
エルフ「貴方や牧場の人に出会ってそれは感じました」
弓使い「ですが、こうやってこの子たちの声を聴いているだけでも……」
男 「……ま、とりあえずはそうだな。これでお引き取り願えないかな?」
弓使い「それは…… 貴方の食糧では?」
男 「全部持ってかれちゃ困るしな。これぐらいで勘弁してくれと伝えてくれ」
エルフ「……わかりました。ウルルルル―――」
野犬B「グゥゥゥ~~―--」
エルフ「ウォォオオ・・・・」
野犬B「バウッ!」
エルフ「フニャッ!?」
男 「っと、大丈夫か?」
エルフ「あ、はい……」
男 「てっきりもっと寄越せと飛びかかったと思ったんだが、あっさり行っちまったな」
弓使い「群れの頭の子がこれで我慢する、と」
エルフ「本当に良かったんですか?」
男 「いいのいいの」
エルフ「ホントは事情を伝えて別のところに行ってもらう算段だったんですけど」
男 「マジか」
弓使い「そんな腹空いてない。だが、襲いやすそうな人間。食べ物奪う」
男 「って感じだったんだな。ま、いいか…… しかしすごいね、そんなとこまでわかるんだ」
エルフ「ええ、人間はできないんですよね?」
男 「まぁね」
弓使い「動物にも意思はあります。しかし人間はそんなこと知りもせずにいいように利用して食べるために殺してしまう」
男 「まぁ、それが人間の築き上げてきた食文化だしな……」
弓使い「……以前聞きそびれましたが、貴方はリョウシでしたよね?」
男 「今のところはね」
弓使い「リョウシなるものはどんな気持ちで獣たちを殺しているのですか?」
男 「おっと、嫌な質問だ」
弓使い「でしょうね」
男 「でしょうね、って…… そうだな。感謝と祈りと謝罪、それとやっぱり楽しさかな?」
弓使い「…………」
男 「俺たちが食べたいから、そんな理由だけで殺してしまうことへの謝罪とだからこそせめて魂は安らかに眠ってほしいと願う祈り」
エルフ「…………」
男 「そして、そいつを食べることで得られる満足感や幸福感に対する感謝…… あと純粋に狙い澄ました弾丸が見事獲物に命中した喜びみたいな」
弓使い「……確かに私も狙った的に矢を当てられたときに達成感を感じることはあります。ですが、今仰られた感覚は一概には理解できません」
男 「……だろうな」
エルフ「殺して楽しい…… そんな感情があるから人は争いをやめられないのでしょうか?」
男 「……そうかもな。今言った事だって結局は利己的な気持ちから出てきたもんだし」
エルフ「利己的?」
男 「そ、突き詰めていけば生き物みんな利己的だってな」
弓使い「…………」
男 「獲物を食べた時の満足感は言わずもがな、撃った奴への謝罪と祈りだってそのままじゃ後味が良くないからやってんのさ」
エルフ「そんな……」
男 「牧場の主殿からこのことを聞いたとき、俺の心の閊えも取れた気がした」
弓使い「胸の閊え?」
男 「ああ。革命の後、猟師としてアイツらから離れて暮らしだしたころからずっと引っかかってたことがある」
男 「俺は確かにあのとき、俺たちの未来のために戦った。そしてその後は他国にもまだ大勢いる俺たちと同じ境遇の人やエルフを助けるために腕を磨いていた」
男 「もっとも、まだまだガキだったから考えなしで、そしたら心を磨いてこいって言われて猟師をやらされて……」
男 「で、そうしてアイツらから離れてみて、静かなところで暮らしてるうちにふと自分は本当に奴隷にされてる人たちを助けたいのか疑問に思えてきた」
男 「俺は虐げられて人々を救いたいんじゃなくて、虐げている奴らを殺したいだけなんじゃないかって」
男 「他の誰かのためじゃない、俺の虐げられていた時の鬱屈した昏い感情をぶつけたかっただけなんじゃないかってな」
男 「何せ穏やかな暮らしってのをしてみればあれだけ強かったこの世全ての奴隷を開放するって想いがドンドン薄れていっちまって」
男 「このまま静かに過ごせていければいいや、なんて考えることが少しずつ増えていっちまったんだよ」
男 「結局は他の奴のことなんてどうでもよくてさ、自分だけがよければそれでいい。なんてさ」
エルフ「…………」
男 「でも、主殿の考えを聞いてようやく分かった気がするんだ。利己的でもいいだって、それはしょうがないんだってな」
弓使い「しょうがない?」
男 「しょうがないんだよ。生きるためには食わなきゃならん。食うからには食う対象から命を奪う。自分が生きるために他の命を犠牲にする」
男 「全くもって利己的だ。己の命の為に他に害を成す。それが生きていくってことなんだろうな」
男 「そう、生き物は生きていこうとする限り利己的な行動をせざるを得ない。結局は自分が一番なんだ。だから……」
男 「だから、俺が大勢の虐げられてる人やエルフのことなんて放っといて自分の幸せって奴だけ考えてもいいんだよ」
エルフ「…………」
男 「それは俺が生きている限り、生きようとする限り当然のことなんだ。生き物としての俺の本当の思いなんだ」
男 「でも、それが俺の全てじゃない。生き物の全てじゃない」
弓使い「は……?」
男 「生き物として俺はそうなんだ。でも、人として、まだ大勢いる俺たちと同じ境遇の人やエルフを助けたいって考えてる俺も本物なんだ」
男 「自分のためだけに生きたいって気持ちも本物で、奴隷に身を落とさせられた人たちを助けたいって気持ちも本物」
男 「どっちかだけが本物じゃない。どっちも本当の俺なんだ。そういうことなんだ」
男 「だから、君らの言うスウィルニフってのは生き物としての自分、つまり本能を知性で押さえつけて想いを通す人で」
男 「ディアンニフてのは本能に知性を沿わせて好き放題やるような奴のことなんだよ。きっと」
弓使い「では、貴方はスウィルニフだと?」
男 「いんや、虐げられてる奴らを助けたいってのもホントだし、積もりに積もった恨みを虐げる側に八つ当たりしたいってのもホントだし」
弓使い「自分の為に虐げる者を倒し、他者の為にも虐げるものを倒したい、ということでしょうか?」
男 「そゆこと」
弓使い「なるほど、急に長々と語り出したので一瞬引きましたが貴方の考えというのはわかりました」
男 「うん、長々と悪かった。大分気持ち悪かったと思う。でも正直ようやく探してた答えが見つかって誰かに話したかったってのがある」
弓使い「ですが…… 生き物全てが利己的である、というのは賛同できません」
エルフ「そうですね……」
男 「いや、君らエルフだって突き詰めれば利己的だ」
弓使い「何を仰るのやら」
男 「エルフも羊に毛をもらったり、乳を分けてもらったりしてるんだろ?自分たちの生活のためにさ」
弓使い「その通りです。それが何か?」
男 「それって命までは奪ってないだけでやってることは俺たち人間と同じ、自分たちのために羊から毛や乳を奪ってるってことだ」
弓使い「それは違います。私たちは彼らから一方的に奪うのではなく、お互いが支え合って生きているんです。共に生きているんです」
男 「それこそ人間だって一緒だ。羊に餌をやったり住む場所を与えてやってる」
弓使い「貴方方人間は生き物の心もわからないんでしょう?貴方方が与えているのは一方的な好意、私たちのやっている共生とはまるで違います!」
男 「いいや、同じだ!」
エルフ「もうやめて!」
男・弓使い「!?」
エルフ「……もうやめましょう。私たちは西の森に行くことが目的で、エルフはこう人間はこうだなんて言い争ってる場合じゃないんです」
男 「……そうだったな、悪い」
弓使い「私としたことが、貴方に窘められるなんてね」
エルフ「わかったらこの話はもうおしまい。明日に備えて休みましょう?」
男 「じゃ、俺が先に火の番をするよ」
エルフ「いえ、今日は人間さんが先に寝てください」
男 「は?あ、うん、別にいいけど」
弓使い「では、私が先に火の番ということで……」
男 「よろしく頼む」
エルフ「――――人間さん」
男 「はい、なんでしょう」
エルフ「貴方の仰ること話わかります。ですが、納得できるわけではありません。それはあの子も同じです」
男 「悪いな、何か宗教家みたいなこと言っちまってた」
エルフ「シュウキョウ?まぁ、さっきの話は揉めるだけですし、今後一切その話はしないということでいいですか?」
男 「あいよ。あとこの話を振ってきたのはあの子の方だから、あの子にも言っといてくれ」
―――――
―――
―
男 「いよいよ国境間近となり、街道を離れたわけですが」
エルフ「やっぱり歩き辛いですね……」
弓使い「緑が生き生きとしていますからね。已む無しでは?」
男 「そうだな。水の音が聞こえてきたし、もう少ししたら開けた場所に出るしそこで一旦休憩ってことで」
弓使い「了解しました」
エルフ「はい、ところで……」
男 「なんざんしょ?」
エルフ「街道を離れたときに使おうとされていたあの平たい棒みたいなのは結局何だったんですか?」
男 「ああ、アレ?鉈ってやつだよ」
エルフ「ナタ?」
男 「そ、森の中で邪魔な草木を払ったり蔓切りをしたりする道具。ま、森の力うんぬん言ってる君たちの前で使うのはどうかと思って」
弓使い「賢明な判断です。ちなみにこの匂い…… それもテツですか?」
男 「そうだよ。それもあるから使うのやめたのさ」
―――
――
―
男 「――――とかなんとかやってるうちに着いたな」
エルフ「え?もう隣国に?」
男 「いやいや、さっき言ってた開けた場所」
弓使い「確かに小川がありますね。あんなところから水の音が?私にも聞こえなかったのに」
男 「耳がいいんでね。余計な荷物にならない程度に水も補給しようか。魚は流石にいないかな?」
エルフ「あの……」
男 「なんだ?」
エルフ「水浴びしてもいいでしょうか?」
男 「いいよ。流されないなら」
弓使い「今度は溺れないように気を付けるのよ」
エルフ「……パースィリコ」
男 「なんだって?」
弓使い「いじわる、と」
エルフ「――――見ないでくださいよ?」
男 「見ない見ない」
男 (川で拾ったときもそうだったが、エルフもやっぱり裸見られるのは嫌なのね、と)
弓使い「明後日の方を向いていらっしゃいますが、何をお考えで?」
男 「いや、やっぱり人間とエルフの考え方って結構近いんだなと」
弓使い「姿形がそっくりですから、自ずと似通った思考が生まれたのでは?」
男 「確かにねぇ…… エルフと人間との見た目の差は耳の長さくらいだしな」
弓使い「一体何故そんなことをお考えに?」
男 「いや、別に。ただ、ふとそんなことを考えただけで…… なぁ」
弓使い「はい?」
男 「これだけ似てるとなると、人間とエルフって元々は同じ種族だったりして」
弓使い「在り得ません」
男 「そっかー、在り得ないかー」
弓使い「ええ、一緒にしないでください」
男 「あいよ……」
男 「……でもさ」
弓使い「くどいですね」
男 「いや、さっきのとはちょっと違くて」
弓使い「なんですか?」
男 「人間とエルフは姿形も似てるし思考も似てるってんなら、もしかしたら」
弓使い「共存も可能では、などと仰る気ですか?」
男 「そのつもりだった」
弓使い「それは難しいでしょう。今もなおエルフが隠れ住まねばならないのは誰のせいだとお思いですか?」
男 「人間」
弓使い「私たちの人間への忌避の感情は相当強いです。斯く言う私もそうです」
男 「いやはや、難しいね」
弓使い「……どうしてそんなことを?」
男 「なんとなく、だよ。君らが森の力が弱まると困るって言ってたのを思い出してな」
男 「本当に何と無くだよ。深く考えていったことじゃない。忘れてくれても全然かまわない話」
弓使い「はあ……」
エルフ「――――終わりました。何のお話ですか?」
男 「夢と理想の儚さについて」
エルフ「はぁ、それはまた難しそうな話ですね……」
弓使い「では、私も水浴びしてきます」
男 「あいよ」
弓使い「ああ、覗いても構いませんよ?」
男 「え゛」
弓使い「代わりにお命を頂戴しますが」
男 「ですよねー」
エルフ「……見たかったんですか?」
男 「見てもいいならね」
エルフ「不潔です」
男 「悪いね」
エルフ「ところで、さっき仰っていたエルフと人間の共存についてなんですけど」
男 「なんだ、聞いてたんじゃないか」
エルフ「あの子と私の考えは少し違うので」
男 「へえ」
エルフ「それで人間さん、貴方はエルフと人の共存は可能だと思いますか?」
男 「出来ると思う。食文化とか、そういうのにお互いの理解が進めばな。君らと一緒に旅してみて実際そう思えた」
エルフ「そうですか…… 先生もそう仰ってました。このままではいずれエルフは滅びるんじゃないかって」
エルフ「ちなみにエルフが全て死に絶える、というわけじゃなくてエルフという集団で生きていけないということです」
男 「大丈夫か、その先生?多分だけどその考えは一般的なエルフの考えじゃないだろ?」
エルフ「ええ、このことは私以外誰もいないところでお話ししましたので」
男 「それならいいや」
弓使い「キャアッ!?」
エルフ「ともあれ、私と先生はエルフは人間との共存を考えるべき段階に来たと、ほへ?」
弓使い「ちょ、ちょっと!オウギュ!メタランテ!!」
男 「あの子の声だな」
エルフ「何かあったんでしょうか?何かに襲われたんでしょうか!?」
男 「見に行ってみよう。ああ、その前に君の荷物を持って、あと俺より先に行ってくれ」
エルフ「――――大丈夫!?何があったの?」
弓使い「あ、良かった。あの子に私の荷物を盗られてしまったの!」
子 猿「ウキャッキキィー」
エルフ「まぁ、かわいい」
弓使い「同意だけど言ってる場合じゃないわ。弓もあの子が持ってるしすばしっこくてつかまえられないの」
男 「よし、ならあの子猿から荷物を奪い返せばいいんだな」
弓使い「きゃっ!?……どうして後ろを向いておられるので?」
男 「フッ、助けを求める乙女の悲鳴を聞いて駆けつけたものの、問題解決後に自身の裸体を見られたことへの羞恥から乙女の手痛い一撃を被る……」
男 「そんなトホホでベタな展開は避けたいのでね!!」
弓使い「……はぁ」
男 「というわけでその子に君の着替え渡しといて。俺はあの小生意気な猿をば……」
子 猿「キィ?」
エルフ「あの、その構えていらっしゃる弓でどうされるおつもりで……」
男 「決まってる、風穴を開け…… る!」
子 猿「ウキャァーッ!?」
男 「……とまぁ、俺の殺気を感じて逃げたんだろうが狙いは最初から荷物の方なんでね。鞄に穴空いたけど勘弁してくれよ」
弓使い「いえ、構いません」
子 猿「キーッ!キーッ!」
男 「あれ、コイツ逃げないのかね?あ、ちょ、これはお前のじゃねぇんだから、こら、わぷ…… 顔面はやめろ」
子 猿「ウキャーッ!」
男 「大人しくしろって…… で、子猿がいるってことは近くに親猿、そして群れがいるってことか」
エルフ「もしかしてこの子が囮になって群れが私たちの荷物を狙ってたんじゃ!?」
男 「荷物なら持ってきてるだろ。そんなトホホでベタな展開は避けたいのでね!!」
子 猿「キキッ!!」
弓使い「はぁ…… とりあえずはありがとうございます」
男 「いいのいいの。っと、そうだ、ちょっとコイツに聞いてくれないか?」
エルフ「なんでしょう?」
男 「確かこの種類の猿の生息域は隣国で、大人の猿なら兎も角子猿がいるってのはおかしいんだ」
弓使い「なるほど…… キーキーキキー」
子 猿「ウキュ」
弓使い「母親に連れてこられた、よくわかんない」
エルフ「ということみたいです。母親猿を探して聞いてみますか?」
男 「いや、結果的に子猿を捕まえてる状態だし明らかな敵対行動してるわけだから話なんてできないだろ」
エルフ「それもそうですね……」
男 「ま、母猿がここまで来てるってんならお隣の治安は相当アレらしいな」
弓使い「そのようですね」
男 「君らの言う西の森…… どうなってんのかね?」
エルフ「それを確かめに行くんです」
男 「だな。ほれ、お前もお帰りよ」
子 猿「ウッキャーッ!!」
男 「わぷ…… 顔はやめろって」
母 猿「ギャオギャオッ!!」
男 「おっと…… ほれ、お母さんも心配してるみたいだし」
子 猿「・・・・キャッキャッ」
男 「大きくなれよー」
―――――
―――
―
男 「さて、国境も眼と鼻の先になったわけだが……」
エルフ「いよいよですね…… 森の声が少し聞こえてきます」
弓使い「大分近づきました…… 目的地はまだ先ですが」
男 「川を境にしているから必然的に川を渡らなきゃいけないんだが、橋がかかっているところは当然狙われる」
弓使い「かといって浅瀬の辺りでは亡命者などを狙う野盗が潜んでいる可能性が高い……」
エルフ「ということは…… どういうことですか!」
男 「どうもこうも、普通なら渡らないところを渡るってことだ」
エルフ「普通なら渡らないということは……?」
男 「まぁ、深かったり流れが速かったり?」
弓使い「危険ですね」
男 「でも、行かなきゃならないんだろ?」
弓使い「はい」
男 「もう少し上流に行こう。ここらはまだ野盗の目がありそうだ」
男 「――――と、いうわけでここから国境を越えます」
エルフ「……流れ、速い。それに深いですね」
男 「また流されそうか?」
エルフ「い、いえ!今回は大丈夫です!!」
男 「それならいいや。ま、まずは対岸の無事を確認しますか…… っと」
弓使い「弓、ですか?」
男 「鉄砲は音がデカいからな。音でそういう連中を招き寄せてしまうかもしれん」
弓使い「テッポウは音が出るんですか?」
男 「ああ。さて、あの辺とあそこら辺が怪しいよなぁ…… とりあえず2・3発撃ってみて」
弓使い「人の気配や物音は聞こえませんが?」
男 「いや、息を潜めて隠れてるかもしれないし念のために」
エルフ「……反応ありませんね」
男 「これなら渡っても大丈夫、かな?」
弓使い「今は大丈夫でもこれからどうなるかはわかりません。急ぎましょう」
―――
――
―
男 「ふぅ…… 無事密入国成功。玉薬も濡れてないな」
弓使い「荷物も一つも流されずに済みました」
エルフ「シャウペシィ、ペントゥルルノーマスーワラヴィ……」
男 「今なんて?謝ってたっぽいけど」
弓使い「縄を括り付けるために矢を刺した木に穴をあけてごめんなさい、と」
男 「ああ、それはすまん……」
エルフ「この程度はかすり傷にも入らんよ、って許してくれました」
男 「寛大な木でよかったな。さて、んじゃさっさと着替えるか」
弓使い「そうですね。濡れたままでは水の跡でつけられるかもしれませんし」
エルフ「じゃあ人間さん、ちょっと離れてて……」
男 「あー、悪いけど、そういうわけにはいかん」
エルフ「ええっ!? ……み、見る気ですか!?」
男 「いやいや、今離れるのは危険なんだって」
完結にいつぐらいかかるのかな?
弓使い「確かに野盗の類が潜んでいる可能性がある以上、あまり離れて行動するのは危険ですね。ですが」
エルフ「ですが!ですがです!!」
男 「後ろ向いてるし絶対に着替えてるとこは見ない。見てもいいなら見るけどな」
エルフ「いいわけないでしょ!!」
男 「ですよなー」
弓使い「それに今さら何を言ってるの。貴女流されたとき裸だったんでしょ?」
エルフ「あ」
男 「げ」
エルフ「――――見てたんですか?」
男 「……見なきゃ助けられんだろ」
エルフ「そう言えば意識を取り戻したとき貴方の服を着させられてました……」
男 「そのままってわけにもいかんだろ」
エルフ「……触ったんですか?」
男 「触らずにどうやっへぶっ!?」
弓使い「いいのが入りましたね、顔面に」
―――――
―――
―
男 「で、この国で初めて迎える夜です」
弓使い「そうですね」
男 「ホントは火を起こすところなんだけどねー、今ここは猛獣より性質の悪いのがうじゃうじゃいてねー」
弓使い「焚き火なんてここにいると教えているようなものですから、正しい判断だと思います」
男 「どうも」
エルフ「それにしてもやっぱりこの国は不穏みたいですね。木々がずっとざわめいてます」
弓使い「そうね、それに嫌な臭いもします…… 準備はできましたか?」
男 「ああ、いつでも行ける」
弓使い「数は…… 十二、三」
男 「いや、十五はいる」
弓使い「……合図したら走るわよ」
エルフ「わかってる」
男 「それじゃまずは一発!」
野盗イ「ぐぁああああーーーーっ!!!」
エルフ「すごい音」
弓使い「命中したようですね」
男 「今のは警告だ!次からは脚じゃなく頭にぶち当てて容赦なく殺す!!いや、心臓もありか?死にたくないならさっさと立ち去れ!」
野盗ロ「そいつぁこっちの台詞だぜ!女と荷物を置いてきゃ命は助けてやるよ!!」
男 「やなこった!!」
弓使い「今よ!走って!!」
エルフ「ええ!」
男 「あそこを突っ切る!走れ走れ走れぇ!!」
野盗ロ「逃がすかぁっ!!」
男 「そこを何とかお願いします!」
野盗ロ「ぎぃやぁあああっっ!!!」
弓使い「右!」
野盗ハ「かひゅっ……」
エルフ「あっ、つっ…… 二人とも凄いなぁ、全部命中」
―――
――
―
男 「はぁ、はぁ…… あれだけ射って、これだけ走ればもうついて来てないだろ……」
弓使い「そ、そうですね…… もう足音は、聞こえ、ません……」
エルフ「は、はい…… 私も、何も……」
男 「獣の気配も、なさそうだし…… 少し、休んでいこう……」
弓使い「そう、ですね……」
エルフ「はぁあ~~…… それにしてもすごい音でしたね、そのテッポウ」
男 「ああ、音だけじゃなく威力も凄い。弓とか弩なんかよりも余程殺すことに特化してる」
弓使い「……実に人間らしい武器ですね」
男 「そう?」
エルフ「それに人間さん、弓もお得意だったんですね!」
男 「ああ、昔はこっちが主武装だったな」
弓使い「鷹の目、でしたか?そう呼ばれてた頃のことですか?」
男 「……ちょっとその呼び方はやめてほしいかな。若気の至りなもんで」
エルフ「……は、あ……」
弓使い「どうしたの?少し様子がおかしいみたいだけど」
エルフ「うん、さっき走った時に枝か何かで怪我しちゃったみたい」
男 「ホントに枝か?ちょっと傷口見るぞ」
弓使い「毒草だったら厄介よ」
エルフ「……ここです」
弓使い「ちょっと、これ枝とか葉っぱにに引っ掛けた傷じゃないわ」
男 「だな。悪い、ちょっと吸うぞ」
エルフ「え、吸うってきゃあっ!?」
男 「プッ…… まずいな」
エルフ「血なんて不味いに決まってます!」
男 「いや、そうじゃなくて」
弓使い「やはり矢傷……」
男 「ああ、あと吸いだせるだけ吸い出してみたが少し舌が痺れる感じがした。鏃になんか塗られてたんだろうな」
弓使い「毒ですか!?」
男 「いや、痺れ薬だろう。昔飲まされた奴と味と感覚が似てる」
弓使い「昔に?」
男 「あと女を置いていきゃ命は助けてやる、って言ってたし最初から殺すつもりじゃなかったろ」
弓使い「殺すつもりはなかったって、あれだけ矢を射かけておいてですか?」
男 「野盗の最大の狙いは荷物、金目の物だからな。矢が刺さって死んだら死んだで放置、生きてたなら生きてたで薬が回ったところで捕まえるのさ」
男 「男だったら身包み剥いでから殺して、女だったら身包み剥いでお楽しみ、そんで殺すか売っ払うかってとこだ」
弓使い「だから死の危険性はないと……」
男 「だが、この薬は本気でほとんど動けなくなる。そろそろ効果が出てくるだろうし、動けない彼女を担いで移動するとなると確実に歩みは遅くなる」
男 「で、その足の遅くなった獲物を身軽な格好をした尾行役が素早く追いかけてくる。マズイ状況だ」
エルフ「ごめんなさい……」
男 「謝るのは野党に追い詰められて絶体絶命になってからな」
弓使い「……このままここで休むのは危険では?」
男 「ああ、多分血の付いた矢とか跡とか見つけてるだろうし、間違いなく俺たちを探そうとはするだろうな」
弓使い「行きましょう。少しでも距離を稼ぎませんと」
男 「そうしよう。あと、休む時間も少し減らして場合によっちゃ徹夜も覚悟しないとな……」
―――――
―――
―
弓使い「ねぇ、大丈夫?」
エルフ「あい、しょ…ふっ……」
男 「しばらくは無理だな。2・3日は抜けないし、人間とエルフの違いもあるだろう」
弓使い「この近くに薬草があれば……」
男 「探すのに時間を取られるのは惜しい。それにこの薬は変態が調合して作った人工ものだ。薬草じゃ効き目は薄いだろう」
弓使い「そんな!]
男 「解毒剤もなかったな。俺も効果が切れるまでピクリとも動けなかった」
弓使い「なんてものを…… ごめんね、もう少し頑張って」
エルフ「あぅ……」
男 「……そろそろ変わるよ。周囲の警戒は任せた」
弓使い「承知しました」
エルフ「…め、さい……」
男 「はいはい、謝るのは後でいいから」
―――
――
―
男 「……おい、ここらで一旦休もう」
エルフ「ふえ……?」
弓使い「いえ、まだ行けます」
男 「日が落ちてからもう大分経った。これ以上は危険だ」
弓使い「ですが」
男 「ですが、だ。少しでも休まないと疲労が蓄積してくる」
弓使い「でも」
男 「溜まった疲労は集中を奪う。切れた集中は敗北を呼び込む。そう教わったし実際そうだ」
弓使い「……わかりました」
男 「まったく、逃げる方は不利だよな。追いかけてくる方は楽なのに」
弓使い「猟師の貴方が言うと説得力がすごいですね」
男 「まぁね、追いかけてくる方の考えはよくわかる」
弓使い「さて、どこか休むのにいい場所はないでしょうか」
―――――
―――
―
男 「ん……?」
男 (枝を踏む音…… 野盗じゃないな、不用心すぎる。つまり獣の類…… 大きさからして猪、熊?)
???「・・・・スフゥー」
男 (息が荒い?それに歩調が速い…… 普通じゃなさそうだ)
???「グゥゥウ・・・・」
男 (――――熊、か…… 何事もない夜を期待してたんだがなぁ)
弓使い「……すぅ」
熊 「ゥルルル・・・・」
男 (手負い…… 野盗にでもやられたか?)
熊 「・・・・・・・・」
男 (結構な深手だ。ほっといてもその内死ぬだろうが…… 楽にしてやるべきか?)
男 (いや、駄目だ。銃声を聞きつけてまた野盗が来るかもしれんし、この子たちが殺生は嫌がるだろうし)
熊 「グフゥ・・・・」
男 (こっちにさえ向かって来なけりゃいいか……)
熊 「・・・・・・・・」
男 (おいおいマジか、こっちに向かってくるかよ)
男 「おい、起きろ。起きてくれ」
弓使い「……どうされました?」
男 「手負いの熊がこっちに向かってる。気付かれないようにここを離れるぞ」
弓使い「待ってください、動物の気配なんてしませんよ?」
男 「まだ距離があるからな」
エルフ「どして…でふ……?」
男 「大分喋れるようになってきたな?ああ、手負いの理由はわからん」
弓使い「助けられませんか?」
男 「いや、普通に考えて無理だろ」
弓使い「私たちは人間と違って動物の心を通わせることができます。人間には無理でも」
男 「手負いの獣ってのはそういう次元じゃない。特にもうすぐ死ぬって時はな」
弓使い「……ケガをしているだけですよね?」
男 「ああ、君らのいた世界には死にかけた獣はいなかっただろうな。あれは人間にやられてる」
弓使い「人間は熊まで食べるんですか!?」
男 「場合によってはな。基本的には作物を守るために追い払うくらいだが、この国の情勢を鑑みるに……」
弓使い「食べるために、殺そうとした?」
男 「野盗が自分たちの安全確保のために始末しようとした、ってのもあるか」
弓使い「自分勝手な都合で……」
男 「兎に角、今のあの熊は凶暴だ。見つけられたら殺すか殺されるかしかない」
エルフ「れも……」
男 「これ以上は問答無用。行くぞ」
弓使い「……わかりました」
熊 「グゥ・・・・」
男 「……あん?」
弓使い「どうされましたか?」
男 「おいおい、嘘だろ……」
弓使い「こっちに向かってきているんですか?」
男 「ああそうだ」
男 (どうする?偶々こっちに向かってきているだけならゆっくりここを離れればやり過ごせるはずだが、狙いを完全に俺たちに定めているとしたら?)
弓使い「こっちに来るというのなら、一度話してみます」
男 「だから何言ってる。無理だ、無理なんだよ」
弓使い「熊の足は私たちよりも余程速いです。逃げられるはずもありません。それなら」
男 「無理だって…… くそ、鉄砲は音で嗅ぎ付かれるから使いたくなかったが」
エルフ「だめ、れす…!」
男 「こっちの台詞だよ」
熊 「グァァァアアッ!!」
エルフ「なっ……」
弓使い「……ひっ」
男 「だから無理だって言った!くそっ!!」
エルフ「だ、だめ!」
男 「くっ、手をどけてくれ!みんな殺されるぞ!!」
熊 「グォォオオオッ!!?・・・・オオゥ」
男 「……よくやってくれた」
弓使い「はーっ、はーっ、はーっ」
エルフ「ど、して……」
男 「さっきから言ってるだろ。残念だが手負いの獣と出会ったからには殺すか殺されるかだって」
エルフ「れも……」
男 「じゃあ聞かせてくれ。あの時あの熊は何を思っていたのか」
エルフ「しょれは……」
男 「痛い、怖い、憎い、とかだろ」
エルフ「……はい。れも、ろ、して?」
男 「心が読めたわけじゃない。今まで見たり聞いたりした経験から分かっただけだ」
男 「命の危機には言葉は当然として想いすら伝わらないことがあるもんなんだよ。助けたかったのに、殺すしかなかったなんてこともな」
エルフ「れも……」
弓使い「そうよ、貴女も見たでしょ?あのバスガンの心を」
弓使い「全身を貫く傷の痛みに震え、迫り来る死の恐怖に怯え、自らを傷付けた者たちへの憎しみと怒りに溢れた、真っ黒な心を」
エルフ「あう……」
弓使い「あのバスガンにはもうエルフと人間の区別はついていなかった。人間の形をしたものを全て敵と捉えていた」
弓使い「私たちの心はバスガンには届かなかった。そして私たちには使命があってここで死ぬわけにはいかなかった……」
エルフ「だかや……?」
弓使い「ええ、だから殺したの」
男 「それにあの傷ならもう熊は助からなかった。可愛そうかもしれんがあいつの死に俺たちも付き合ってやる必要はない」
エルフ「えも……」
男 「でもじゃない。エルフのためにも君たちは西の森を調査して帰らなきゃならないんだろ?」
弓使い「ええ…… 確かに私たちはここで旅を終えるわけにはいきませんでした。エルフの未来のために死ねない、と」
弓使い「でも、それはエルフという大きな個を守るために、エルフがこの先も生きていくために殺したということなんです」
弓使い「エルフの未来のために、エルフという個の利のために……」
男 「ああ、だから君は間違っちゃいない」
弓使い「でも、本当は違うんです!エルフのためだなんて大義名分を振りかざして私は!私は……」
弓使い「お為ごかしなんです!ほんとは私、バスガンの心を見たときとても怖かった、恐ろしかった、殺されると思った」
弓使い「殺されるって感じたとき、私は死にたくないって思った。死にたくなかったから弓を手に取ったの」
弓使い「使命だとかそんなのじゃなくて、私は!私は…… ただ死にたくなかったから……」
男 「…………」
弓使い「……結局利己的なんですね、エルフも。いえ、私が利己的だったんです」
男 「生き物ってのはみんなそういうもんさ。それに、そのことが君の全てじゃないだろ?」
弓使い「……ええ、貴方の言う通りそれが私の全てではありません。そのはず、です」
男 「…………」
エルフ「…………」
弓使い「……イルルヤンカシュ、ワスピーネントゥ-ククカムアーンゲヴチャチャッカ」
エルフ「……ナァム、ナァムクエルシシィ」
弓使い「コルキオテンサオルトデンファンスネルアフィ?ドームリタカスガヤシワワ?」
エルフ「スィール、ピルオルコムノノノレイク」
弓使い「……フェリティトゥ」
男 「……終わった?」
弓使い「はい。ですが、とても疲れました……」
男 「もう休もう、と言いたいところだが熊の血の跡を追って誰が来るともわからん。もう少しだけ先に進もう」
弓使い「了解です……」
男 「が、その前に……」
エルフ「?」
男 「よいしょっ、と」
弓使い「待ってください、一体何を!?」
男 「ホナビラキだ。心の臓を取り出して山刀で十字に切る」
弓使い「なんでそんなひどいことを!」
男 「これは先達から教えてもらった儀式だ。こうすることで自然に獣の魂を返すんだ」
男 「本当なら自然で生まれ自然で死ぬ獣の命を横から奪ったんだ。そのままじゃ山に帰れないからこうするんだとさ」
弓使い「魂を返す……?」
男 「本当はもっといろいろとやることがあるんだが、今は急がなきゃならないし仕留めた理由もまた違う」
男 「自己満足かもしれないが、これが命を奪うことへの贖罪と感謝なんだと思う」
エルフ「…………」
男 「此の森の主の御名は存ぜぬも畏み畏み申す。この地にて頂戴した主の子の御霊を御返し致す。どうか恨みを忘れ静まりたまえ……」
弓使い「…………」
男 「……行こう」
―――
――
―
エルフ「すぅ…… すぅ……」
弓使い「…………すぅ」
男 「ま、あんなことがあったんじゃそりゃ疲れるわな」
男 (さて、あの亡骸の様子を見てそう遠くには行ってないと気づいてくれたか……)
男 (先遣隊、というには頭数が少ないな。二人組が二組、こっちに近い方はもうちょいでここに来るな)
男 「……やりますか」
野盗ニ「……そろそろ近いぞ」
野盗ホ「ああ、あれだけの熊と殺り合ったからにゃあともすれば満身創痍だ。そんなに遠くまで行けるはずもねえ」
野盗ニ「それに痺れ薬を塗った矢が掠めた奴もいる。尚のこと逃げられんよ」
野盗ホ「あの別嬪どもは先に味見しておきてぇなぁ。ダチを遣られた恨みもあるし」
野盗ニ「襲うのは本体が合流してからだ。奴らの腕前は仲間の死を以て十分に理解したはずだが?」
野盗ホ「ヘイヘイ……」
野盗ニ「…………むっ?
野盗ホ「どうした?」
野盗ニ「今あそこの枝が動いた。それに葉と何かが擦れる音もした」
野盗ホ「猿かリスとかその辺じゃねーのか?まぁ、確かめてみるけどよ」
野盗ニ「頼む。もしかしたら我らを待ち伏せて樹上から矢を射かけてくるやもしれん」
野盗ホ「心配し過ぎだっつーの。どれどれ……っと、おい、何もいねーぞ」
野盗ニ「…………」
野盗ホ「おい、何でだんまりだよ」
野盗ニ「…………」
野盗ホ「おい、まさか奴らを見つけたのか?」
野盗ニ「…………」
野盗ホ「んなっ、あぁっ!し、死んでやがる!矢…… あそこから撃ってきやがったのか!?」
男 「――――此の森の主の御名は存ぜぬも畏み畏み申す」
野盗ホ「かひゅっ……」
男 「彼の地を血で穢すこと、どうか許したまえ……」
男 「さて、残った二人はどうするか……」
男 (矢の射程範囲には入ってるが、夜の帳ン中じゃ流石に距離が開き過ぎてる…… 音を頼りにしても)
男 「ま、駄目元で一発撃ってみるか。一番高い木は……っと」
男 (さて、風は向かい風。でも当てられない程じゃない。視認は…… 暗すぎて無理)
男 「足音は…… 風に乗って下にいた時よりははっきり聞こえる。いけるな」
男 (鷹の眼なんざ呼ばれていたが、実際は兎の耳だね)
男 「後は枝が射線を遮ってなきゃ…… いいが!」
男 「……何かが落ちたか倒れたような音、その場から離れていく小刻みな音」
男 「音はこちらに向かってきていない…… 一は人仕留めて一人は逃げた、か」
男 (ま、仕留め損なった方にしても3人殺られてるのを見りゃ追いかけようとはしてこないとは思うが……)
男 「よっ…… っと」
男 「だが、確認はしておくべきだな」
男 (鏃に毒は塗っといたし放っといても勝手に死ぬだろうが)
野盗ニ「…………」
野盗ホ「…………」
男 「よ、っと」
野盗ニ「…………」
男 (鉈を打ち込んでも反射以外の反応は無し。こいつらは死んでるな)
男 「――――で、コイツだ」
野盗ヘ「お、おお…… 戻ってきてくれたのか?血が、血が止まらねぇんだ……」
男 「……仕留め切れてなかったか」
野盗ヘ「んあ…… その声、誰だ?」
男 「アンタに刺さってる矢の持ち主だ。で、まだ死んでないなら聞きたいことがある」
野盗ヘ「答えたら…… 助けてくれるのか?」
男 「いや、矢に塗ってあった毒のせいでアンタはもう助からん」
野盗ヘ「へっ、じゃあ答えても無駄じゃねぇか……」
男 「そうだな、答える意思はないと見た。さっさと死なせてやる」
―――――
―――
―
弓使い「――――――――ん」
男 「お、起きた」
弓使い「……おはようございます」
男 「おはよう」
弓使い「……もしかして寝ずの番を?」
男 「うん」
弓使い「……すいません」
男 「いいっていいって」
弓使い「太陽は…… 顔を見せ始めたくらいですね」
男 「ああ、そろそろ出発だな。あんまり長居してると連中に追いつかれるかもだ」
弓使い「ほら起きて、出発よ」
エルフ「ぅん…… うぁい……」
男 「よし、行くぞ」
エルフ「ん、うぅ……」
弓使い「どう?」
エルフ「うぅ、うん、だいぶうごけうよーになりました」
男 「呂律はあやしいな」
弓使い「歩ける?」
エルフ「うん…… はれ?」
弓使い「ちょっと!?……もう、危なっかしいわね」
エルフ「しゃしゃえてもらったあ、あゆけます……」
男 「……昨日のように担いで行こう」
エルフ「ふぇ?」
弓使い「そうですね」
エルフ「……あい」
男 「じゃ、まずは俺が担ぐということで」
エルフ「おねあいしまふ……」
弓使い「では、右手の警戒はお任せください」
―――
――
―
弓使い「――――追手はどの辺りまで来ているんでしょうか?」
男 「さて、近くにはいないと思うが……」
男 (多分もういないだろうが緊張感を無くしたらやばいしなぁ…… 他の奴が出て来ないとも限らんし)
弓使い「そうですか、まだまだ注意を怠ってはいけないということですか……」
弓使い「見えない敵に追いかけられている、というのがここまで消耗させるとは思いませんでした」
男 「だからこそ休めるときには休まないとだ」
弓使い「貴方がそれを仰いますか」
男 「大丈夫だよ、仕事柄体力は多いんでね」
弓使い「ほんとですか?」
男 「本当だとも」
エルフ「……しゅこし、かわっは?」
弓使い「え?」
エルフ「うぅん、なんれもない……」
男 「おっと……」
弓使い「雨、ですね。どうしますか?」
男 「雨は体力を奪う。どこか雨宿りできるところを探すぞ」
弓使い「了解です」
男 (……素直に言うこと聞くようになったなぁ)
弓使い「何か?」
男 「いや、特に何もしてないが」
弓使い「そうですか?さっきのこの子といい私に何か言いたいことがあるのではないですか?」
男 「言いたいというほどのことじゃないが」
弓使い「含みのある言い方ですね。何が言いたいんでしょうか?」
男 「言われて嬉しいことじゃないだろうけど…… なんか君、変わったよな」
エルフ「うん……」
弓使い「そう、ですか……?いえ、そうですね。少し、自棄になってるのかもしれません」
男 「自棄?」
弓使い「ええ……」
―――
――
―
男 「――――しかし、えらく降るなぁ。ありがたいけど」
弓使い「はい、雨は草や木や森を育んでくれますから」
男 「いや、そういう意味じゃなくて」
エルフ「はい?」
男 「匂いとか足跡とかそう言った痕跡を全部洗い流してくれるからだよ」
エルフ「ああ……」
男 「これで追いかけてきてるだろう連中も俺たちを見失うってわけだ」
男 (3人始末したし、まぁまず近くにはいないだろうが)
男 「普段なら獲物を見失うから感謝なんてしないけどな」
弓使い「…………」
男 (……マズった)
弓使い「……普段はどんなことをされてるんですか?」
男 「へ?」
弓使い「なにか?」
男 「ああ、うん、そうだな……」
弓使い「……おかしいですか?私からこんなことを聞くのは」
男 「いや、まぁ、その」
弓使い「……実は、旅の道中で貴方を見極めると言っておきながら私は何も見ていませんでした」
弓使い「人間に情を絆されてはいけない。エルフを物のように扱う連流のことなんて知りたくもない…… ずっとそう思っていましたから」
弓使い「でも、先生にご指導いただいていた時から人間に興味が湧いていたのも事実なんです。良くないことだと感じていましたが」
弓使い「敵を知ることは大事ですが、それに惹かれてはいけない。あなた方人間と我々エルフは全く違うもので、相容れてはいけないものだと信じていましたから」
男 「…………」
弓使い「自棄になってるんですよ。違う違うと思ってた人間と、根っこのところは結局一緒だったなんて……」
弓使い「――――だから、色々と貴方のことを聞こうと思いました。これからは人間について知りたいこと、全部聞いていこうと思います」
弓使い「私はもう、正しきエルフじゃありませんから……」
エルフ「そんなころ、ない…… そんらころないよ……
弓使い「フェリティトゥ、お世辞でも嬉しいわ」
男 「そこまで捻くれるのもどうかと思うが、俺の話で良ければ……」
―――――
―――
―
男 「結局朝まで降ってたな」
弓使い「ですね」
男 「あの子の様子は?」
エルフ「ふっふっふ…… お待たせしました!」
男 「お?」
エルフ「私、完・全・復・活・です!!さぁ、一気に遅れを取り戻しますよ!!!」
男 「はしゃぐな」
エルフ「あぅっ」
男 「動けるようになっただけでまだ完全に抜けたわけじゃないかもしれん。余計な体力は使うな」
弓使い「では、今までよりも少し遅いくらいで進みますか?」
男 「そうしよう。今日一日この子の様子を見ながら明日からどうするか考えるよ」
エルフ「むー」
弓使い「むくれてないで出発の準備しなさい」
――――――――――
―――――
―
弓使い「――――この森の切れ目の先、そこが私たちの言う西の森です」
エルフ「でも、ここまで来たのに森の声が少ししか聞こえない……」
男 「そうか……」
男 (しかし、予想に反してあれから野盗に遭遇することはなかったな…… で、森の声とやらはほとんど聞こえてないと)
男 (なぜ野党がいないのか、森の声云々が聞こえないのか。多分、この二つは繋がってる)
男 (野盗ってのはそもそもは仕事がなくなって仕方なく物取りに身を窶した連中がほとんどだ)
男 (逆に言えばそいつらは食い扶持が稼げるなら野盗を続ける必要がないってわけで、その食い扶持ってのが恐らく…… 森林伐採)
男 (木材が大量に必要になったか、木を切り倒した後の土地が欲しいのか、そこに何かが埋まってるのかはわからんが)
男 (いや、傭兵って筋もあるか?なんせ噂じゃ戦争を仕掛けようとしてる連中がいるらしいし……)
弓使い「どんなことを言ってるの?」
エルフ「かすかにしか聞こえないけど…… 痛みと…… 悲しみ……」
男 「痛みと悲しみねぇ、面白くはなさそうだ」
男 (どっちにしろ、森が無事ってことはないな)
―――
――
―
エルフ「かなり森の中心に近づいてきました。そろそろ西の森を司るワリャリャシアクスフリが見えるはずですが……」
男 「わりゃりゃしあくすふり?」
弓使い「西の森の中心にある大樹です」
男 「そうか。で、そのくすふりの声は聞こえないのか?」
エルフ「はい、ここまで近づいているのに……」
弓使い「そうね、クスフリほどの大樹であれば私にだって声を聞かせてくれるはずなのに」
男 「……やっぱりそうか」
弓使い「待って、この匂い……」
エルフ「匂い……?」
弓使い「ええ、人間の匂いよ」
エルフ「人間さんならいつも一緒にいるじゃない」
弓使い「そうじゃなくて、もっと大勢の人間の匂いよ」
エルフ「…………あ、わかった」
男 「匂いはわからんが…… 人の気配なら感じる」
弓使い「その感覚は間違っていません」
エルフ「たくさんいます……」
男 「普通の森の中じゃ在り得ない人数だな」
弓使い「野盗の拠点でしょうか?」
男 「断言はできないが野盗にしちゃあ数が恐ろしく多い。その線はないだろう」
エルフ「それじゃあ一体……?」
男 「……森を切り拓いてるんじゃないか?」
弓使い「やはり、その可能性が一番高いんですね」
男 「ああ、この先も木漏れ日にしては妙に明るいしな」
エルフ「……行きましょう。この目で確かめなければなりません」
男 「油断せず行こう。見張りがいるかもしれん」
エルフ「はい!」
弓使い「ここまで来てそんな失敗、考えたくもありません」
男 「だな」
男 「――――気の向こうがかなり明るい。開けた場所に出るな」
弓使い「そこに答えがあるんですね」
男 「ああ、見たくなかった答えかもしれんが」
エルフ「……確かめましょう」
弓使い「これは……!?」
男 「……予想通り、か」
エルフ「ワリャリャシアクスフリ、トゥウェルナン……!?」
鉱夫イ「……っしゃおらぁ!」
鉱夫ロ「うーし、出たぞぉ!!」
男 「……森を切り拓いて、そこからさらに何か掘り出してるようだな」
エルフ「ひどい…… 木だけじゃなくて土まで掘り返して……」
弓使い「…………」
弓使い「……彼らは何を掘り出しているんですか?」
男 「ここからじゃ遠くてハッキリとわからんな…… 鉄鉱か石炭か、はてまた宝石、貴金属の類か……」
エルフ「どうしてそんなものを掘り出さなきゃいけないんですか!?」
男 「どうしてって…… 国を立て直すための手立てにするか、噂通り他国に戦争を仕掛けるための準備とか」
弓使い「どちらの線が濃厚だと思われますか?」
男 「……さてね、どうにもわからん。ただ」
エルフ「ただ?」
男 「何にせよここから何らかの資源が出続ける限り、西の森の開拓は止まらんだろう。木そのものも資源だしな」
エルフ「やめてもらう方法はないんですか?森だって生きているんですよ?」
男 「今すぐ止めさせる方法ならある。ここにいる連中を全員殺せばいい。そしたら何もできなくなる」
エルフ「ええっ!?」
男 「まぁ、土台無理な話だけどな。冗談はさておき、仮に全員殺したところでここに何かがある以上、また誰かが掘りに来るだろう」
弓使い「……そんなことをしても結局意味はない、と」
エルフ「そんな…… それなら、ここを取り仕切っている人間に相談すればなんとかならないでしょうか?」
男 「……一人二人の言葉でひっくり返せるようなもんじゃないぜ、この規模だと。他国民、異種族なら尚更だ」
エルフ「大勢ならいいんですか?」
男 「その大勢ってのはエルフ全体のことか?やめとけ、まともに話なんて聞いてもらえないさ」
弓使い「それはやはり……」
男 「ああ、この国の人間ならエルフと見りゃ捕まえて奴隷にするだろうよ。男女問わず見目麗しいエルフはうちの国以外じゃ引く手数多だからな」
弓使い「でしょうね」
エルフ「な、なら人間さんの国の王様からこの国に森を切り拓くのはやめるようにお願いしていただくことはできませんか?」
男 「無理だ。こちらがそれで不利益を被っているわけでもないし、介入できるだけの理由がない」
エルフ「何か手はないんですか!?」
男 「……逆に聞くが君らは無策で西の森を調査しに来たのか?」
弓使い「……病気といった人間の手によるものでなかった場合の対処法は幾つかありました」
男 「人間の手によるものだった場合の策は?」
エルフ「……ありません」
弓使い「あくまで原因の調査が主目的でしたから」
男 「まぁ、たった二人でできることなんて限られてるか……」
エルフ「面目ありません……」
男 「……国に帰れば何か手立てはあるのか?」
エルフ「えーっと、それは……」
弓使い「……断言はできません」
男 「そうか……」
エルフ「…………」
弓使い「…………」
男 「――――ここにいてもしょうがない。戻ろう」
弓使い「……はい」
エルフ「…………」
男 「こいつは俺たちだけじゃどうにもならない問題だ。悪いができることは何もない」
エルフ「……そう、ですね」
弓使い「里に戻るわよ。今回のことを報告して、これからどうしていくか決めないと……」
エルフ「うん、どうにかしていかなくちゃ」
男 「じゃ、俺がついて行ってもいい場所までは荷物持ちはさせてもらう」
弓使い「よろしくお願いします」
―――――
―――
―
エルフ「…………」
弓使い「…………」
男 (二人、でいいのか?とにかく二人とも全然元気がないな。まぁ、あんなことがあればしょうがないか)
男 (あの結果を全く想像してなかったわけじゃないだろうが、彼女たちが考え付く限りで最悪の結果だったろうしな)
エルフ「…………」
弓使い「…………」
男 「……なぁ」
エルフ「はい?」
男 「改めて聞くが、森が無くなるとエルフはどうなるんだ?」
エルフ「……私たちは森と共に生きています。森が力を失うということは、私たちも力を失うのと同じなんです」
弓使い「最悪の場合、種族の繁栄に関わることになります」
男 「ちなみにわざわざ調査しに来たってことはここにはもともとエルフは住んでないんだよな?住んでるなら何かおかしなことがあれば連絡が来るはずだしな」
エルフ「はい、この森にはエルフはいません」
男 「じゃあどうして西の森が力を失うことがエルフの繁栄に影響を与えるんだ?隠れ里がなくなってエルフの数が減るってわけじゃないんだろ?」
エルフ「それは……」
弓使い「……その影響は私たちの生殖能力に及ぶんです」
男 「ぶふっ…… 生殖能力ぅ?」
エルフ「ちょ、ちょっと……」
弓使い「かつてエルフが最も栄えていた時期と比べて、今の私たちが紡げる新たな命の数は大幅に減少しているんです」
弓使い「ハッキリとした原因はわかっていませんが、当時と比べて森が減ったせいではないかと考えられています」
男 「へぇ、そんなことが…… しかし、どうして森が減ったからって話になるんだ?
エルフ「……それは、そのぉ」
男 (なに?きいちゃいけないかんじ?)
弓使い「私たちの祖先は森から生まれたと言われています。ですから、私たちの出生には森が影響しているのでは?という話があります」
男 「森か…… つまり、それはこの西の森に限ったことじゃないと?」
エルフ「はい…… どこの森でも同じです」
男 「……マズイな。だったら問題はここだけじゃない」
エルフ「え?」
弓使い「……他の土地でも同じようなことが起きていると?」
男 「いや、今現在はどうなっているかはわからんが、いずれはそうなるだろうな」
エルフ「全ての森に人間にとって有用な何かが埋まっているのですか?」
男 「埋まってなくてもいいさ。木がだって立派な資源だ。それに森を切り拓けば人間の住める土地が増えるしな」
男 「人間の数はずっと増え続けている。これから先、より多くの生きていく場所を手に入れるために森はどんどん減らされる」
男 「土地さえあれば畑ができる。畑ができれば食い物が作れる。切った木だっていろいろと使えるしな。燃料、建築、小物……」
エルフ「森を…… 人間は自然を守ろうとは考えないんですか?」
男 「多分考えない、な。何しろ森はたくさんある。数が激減してからようやっと保護を考えるんじゃないか?今までの歴史からして」
男 「ま、君らも知ってると思うだろうが人間なんてそんなもんだ。使えるものは何でも使う、豊かな生活のために資源の消費を惜しまない」
エルフ「……人間さんの国も、そうなんですか?」
男 「ああ、いつぞや話した紡績機とかだって木が原料らしいし」
エルフ「それも止められないんですか?」
男 「俺からおっさんに言えば…… いや、止めさせるには根拠が足りないか」
エルフ「根拠?」
男 「そ、一時的に止めさせることは出来ても止めさせ続ける理由がない」
男 「政権奪取も上手くいって世情も安定してきたとはいえ、うちの国はまだまだ国力が足りない」
男 「こう言っちゃなんだが、貴族様が支配していた時は俺たち奴隷のエサなんて少しで十分だと耕作面積は小さくても貴族共の食い扶持は賄えた」
男 「でも、現状は国民の食べる量が増えたせいで食料供給が追い付いてないんだ。貴族から溜め込んでた食料でなんとか食いつないでる」
男 「だから耕地面積の拡大は必須だ。その為には土地がいる、開墾するための農具がいる。となれば……」
エルフ「森を切り拓くしかない、と?」
男 「ああ、折角貴族様の支配から逃れたってのに食糧不足で飢え死になんざ溜まったもんじゃない」
男 「それに総飢え死にの前に弱ったところを他国に攻められてまた奴隷に、それ以下にされちまうかもしれん」
エルフ「…………」
男 「あんなのは二度とごめんだね」
弓使い「貴方も、奴隷だったんですよね……?」
男 「ああ、小さい頃は慰み者、大きくなってからは鉱奴だったよ。昔エルフの世話になったっていうのも奴隷のときだった」
男 「あの人、いや、あのエルフに読み書きとか色々教えてもらったおかげでちっとは学も身に着いた……」
男 (――――エルフに教えてもらった?)
弓使い「……どうされました?」
男 「エルフに教えてもらった…… 確か牧場の主も牧草のこととかを奴隷にされてたエルフから教わったんだよな?」
エルフ「ええ」
男 「それは、そのエルフだけじゃなくてエルフならみんな知ってるのか?」
弓使い「はい、皆知っているはずです」
男 「その技術を教えてもらえたら、少ない耕地でも今以上の量が取れるかもしれないよな?」
弓使い「それこそ牧場の主殿に教わればいいのでは?」
男 「いや、主はその技術を絶対他言しないってそのエルフと約束してるし、そもそもそれじゃ駄目なんだ。君たちエルフに教わらなきゃ……」
弓使い「はぁ?」
男 「君たちエルフから農業の技術を教わる。その見返りとして俺たち人間は森の保護を進める……」
エルフ「それってつまり……」
男 「馬鹿みたいな話さ。人間とエルフの共存、同盟を結ぶんだよ。俺の国とエルフの里で」
弓使い「そんなこと、できるとお思いですか?」
男 「だから、馬鹿みたいな話さ」
弓使い「馬鹿みたい、ええ、そうですね。以前にもお話ししましたがエルフの人間への忌避感情はとても強いです。出来ると本気でお思いですか?」
男 「ああ、馬鹿げてる。全くもって馬鹿げてる。――――でも、馬鹿も突き抜けると国をもひっくり返す」
弓使い「……はい?」
男 「おっさんが国をひっくり返すなんて言い出したときはみんな笑った。おっさんを馬鹿にして大笑いした」
男 「こんなに大笑いしたのは奴隷になって初めてだってくらい大笑いしたよ…… でも、俺たちはそんな馬鹿について行きたくなった」
男 「そして、おっさんは本当に国をひっくり返した。胡坐をかいてた貴族どもを蹴散らして奴隷を人間にしてくれた」
男 「おっさんは馬鹿だった、本当の馬鹿だったんだ。でも、突き抜けた馬鹿ってのはすごいんだ!すごいんだよ!」
男 「そんで幸いにもその馬鹿は今じゃ周りに推しに推されて国の王になっちまった。その馬鹿を動かしたら、馬鹿みたいな話は突き抜けた馬鹿話になる!」
弓使い「……貴方は、馬鹿なんですか?」
男 「おう?」
弓使い「貴方は、馬鹿なんですか?」
男 「おっさん程じゃないけど俺も馬鹿だ。馬鹿じゃなけりゃこんなこと考えもしない」
弓使い「……デウシィワンコルルンクナムワイシャイテン」
男 「どういう意味だ」
弓使い「……悩むのをやめた馬鹿は強い、という意味です。迷いがありませんから」
男 「どうも」
弓使い「ですが、それとは別に貴方は本当に馬鹿です。馬鹿な考えを口走るのは構いませんが、貴方はそもそもエルフと言葉を交わせるんですか?」
男 「うぐっ!?」
弓使い「人間の言葉がわかるエルフはほんの少しです。エルフの言葉がわかる人間に至ってはまず間違いなくいません」
弓使い「馬鹿は結構ですが、意味の通らない言葉でわめくのは馬鹿でも何でもありません」
男 「……そうだな」
弓使い「それに何よりこの国には野盗が多いのでしょう?眼前の危険を置いておいてまだ先のことを考えるのは馬鹿ではなく愚劣です」
男 「返す言葉もございません……」
エルフ「でも、そのお話は素敵だと思います。エルフだっていつまでも隠れ住んでいられるわけでもないですし」
エルフ「だからと言って戦って勝ち取るなんてこともできないでしょうし…… 平和的解決ができるのであれば」
弓使い「まぁ、貴女と先生の考えはそうだったしね」
エルフ「え、知ってたの?」
弓使い「盗み聞きしたようなものだけどね。貴女の帰りが遅いから見に行ったら先生と貴女が話してるのを見ちゃったの」
エルフ「あう…… ほ」
弓使い「誰にも言ってないわよ。そんなこと言えるわけないじゃない」
エルフ「フェリティトゥ~!」
弓使い「はぁ…… 兎に角!今はこの国を無事に抜け出すことを考えてください」
男 「了解」
弓使い「――――ただ」
男 「ん?」
弓使い「ただ、私はこの度の中で確かな実感を伴って知りました。人間の中にもスウィルニフがいるということを」
弓使い「でも、まだ心の底から信じ切れてはいないんです。ですから、私の目も見て答えてください」
男 「お、おう」
弓使い「――――貴方は、本当に私たちエルフのために、エルフを思って動いてくれるおつもりなのですか?」
男 「ああ、二度とエルフをあんな目に合わせたくない。君たちエルフを助けたいんだ」
弓使い「――――今わかりました。どうやら私も呆れかえるほどに馬鹿だったみたいです」
男 「うん?」
弓使い「私もその馬鹿についていきたくなったんです。何せ私も馬鹿ですから」
男 「……協力してくれるか?」
弓使い「ええ、さっき仰っていたように馬鹿について行った馬鹿がいたからこそ、馬鹿を貫き通せたのでしょう?」
エルフ「私も馬鹿です。なので、その馬鹿に付き合わせてください」
弓使い「まぁ、この国を無事に抜け出すことができてからのお話ですけど」
男 「ですよね」
―――――
―――
―
男 「――――と、この辺りは」
エルフ「見覚えが?」
男 「うん、ちょっとここで待っててくれ」
弓使い「はぁ……」
男 「…………」
骸 「…………」
男 (死体は放置。となるとやっぱりあの後追跡は断念したってことか……)
男 「本拠地に戻ったとすると、川越の前にまた出会っちまう可能性は低くない、と……」
エルフ「あ、戻ってきた」
弓使い「何を確かめに行っていたんですか?」
男 「ん~?風向き」
―――
――
―
男 「…………」
エルフ「どうしたんですか?」
男 「ああ、いや……」
弓使い「察しがつかない?食料が尽きたんですよ」
エルフ「何で言ってくれないんですか!?ほら、どうぞこれを食べてください!」
男 「あ、いや、それは悪い……」
エルフ「何を仰いますか!きちんと食べないとだめですよ!」
男 「いや、君らの大事な食糧だろ?俺は暫く食べなくても大丈夫だし、あと数日で国に戻れんだから今は……」
弓使い「お気になさらず、想定の日程分以上の量を持参してきましたので。ああ、味は口に合わないかもしれませんが」
エルフ「というわけです。ほら、遠慮しないでどうぞ!」
男 「……じゃあ、いただきます――――」
男 「――――うわ、なにこの騙された感じ。腹は膨れたけど、なんつーか」
エルフ「面白いでしょ?」
―――――
―――
―
弓使い「――――川のせせらぎが聞こえてきました。国境付近まで戻って来たようです」
エルフ「……この辺りで野盗に襲われたんですよね」
男 「出来ればもう出会いたくないが、出会いたくないからといって出会わないってわけでもないしな」
エルフ「はい?」
男 「行ってみなけりゃわからない、ってこった」
エルフ「一瞬混乱しましたけど人間の言葉でいう『鬼が出るか蛇が出るか』ですね!」
男 「……それで合ってるかどうかは聞かないでくれよ、そこまでの学は持ち合わせてない」
弓使い「……などと、ふざけている余裕はもうすぐ無くなりそうですね」
エルフ「蛇が出ましたね」
男 「十…… いや、九、八か?」
弓使い「息遣いから察するにおおよそそのくらいかと」
エルフ「待ち伏せされてましたか……」
男 「いや、俺たちがいつ戻ってくるかわからない状況で待ってられる程余裕のある連中じゃないだろうさ」
弓使い「さて、どうしましょうか?」
男 「こっちに気付いてる感じは?」
弓使い「いいえ、おそらく気づいていないかと」
男 「じゃあ、気づかれないように横を抜けていく方針で」
エルフ「了解です」
弓使い「「気づかれてしまった場合は?」
男 「強行突破」
弓使い「ですよね」
男 「ただ今回はこれも使う」
エルフ「それは?」
男 「煙幕。煙で視界を遮るの。あと強烈な匂いがしてどんな獣も尻尾巻いて逃げる」
弓使い「……バスガ、熊に出会ったときそれを使えばよかったのでは?」
男 「いや、あん時は使う意味がなかった。目眩ましやひどい匂いがしたところで手負いの獣は止まらないし、爆発音もするからな」
弓使い「そうですか……」
男 「……さて、行きますか」
―――
――
―
男 「――――どうか気づいてくれるなよ」
弓使い「…………」
エルフ「きゃっ」
弓使い「ザァムッ!」
男 「鳴子か!?」
野盗ト「誰だァ!!――――へっへっへ、どっかで見たことあると思ったら先日の……」
野盗チ「けけっ、ここであったが百年目ってやつかぁ?」
男 「白々しいな。追手まで差し向けといてどっかで見たはないだろう?」
野盗ト「仲間やられた恨みつらみもあるからなぁ、女と金目のものだけじゃもう駄目だ!命も置いてきな!!」
男 「疑問に思ってたんだが、その脅し文句を素直に聞いた奴っているのか?」
野盗ト「覚えてねぇなぁ…… 残らず殺してやったからなぁ!!」
男 「なんとも頭の悪そうなお返事だこと」
野盗リ「あぁん!?なんだテメェ、この状況下で挑発してくるオメェのオツムの方が心配よぉ!!」
野盗ト「とまぁ、これ以上無駄なお喋りはしたかねぇ。黙って殺されちゃくれねぇかい?」
野盗チ「ああ、女の子は殺さねぇよ?お楽しみがあるからよ」
弓使い「そうですか、私たちは生かしてもらえるんですね?」
野盗チ「そうだとも」
弓使い「ふふ、お断り致します!」
エルフ「えい!!」
男 「以下同文!」
野盗ト「うぉわ!?爆弾かぁ!?」
野盗チ「いや、煙まくぅえっほっえほっ」
野盗リ「小癪なぁ!って、くっせぇぇぇえええ!!?」
野盗チ「ほげぇぇぇえええ!!?」
野盗ト「お、おぉぉおおおお――――」
男 「濡らした布を離すな!肺に入れば爛れちまうぞ!!」
エルフ「ふぁい!」
弓使い「……絶対に離しません!」
―――――
―――
―
エルフ「……服に少し匂いが残ってるかも」
弓使い「確かに、少し不快ね」
男 「悪いな……」
弓使い「いえ、被害がこれだけ済んだのは僥倖です」
エルフ「で、この後は?」
男 「この国の関所は野盗とぐるになってる可能性が高い。また川を越えてうちの国の関所に行く」
エルフ「関所に?」
男 「関所の守備隊には昔からの知り合いがいる。事情を話せば食料や休めるところを用意してくれるはずだ」
弓使い「その方は信用しても…… いえ、信頼できる方なのですね」
男 「ああ、いつもニヤケた面はしてるけどな」
エルフ「前に仰ってたニヤケヅラさんですか?」
男 「そうだ。よし、まだ日も高い。一気に進んで今日中には関所に行くぞ」
弓使い「了解です」
―――
――
―
男 「……やあ」
守備兵「…………」
男 「……おーい」
守備兵「……男一人に女二人。見たところ夫婦ではなさそうだが、亡命か?商売か?」
男 「いや、どちらでもない」
守備兵「どちらでもない?じゃあ目的は何だ?返答次第では」
男 「警備隊長にお会いしたい。『鷹の目』って言えばわかるはずだ」
守備兵「鷹の目…… ま、まさか貴方があの『鷹の目』ですか!?」
男 「あー、その呼び方はやめてくれ。今そう呼ばれるのは心底恥ずかしい」
守備兵「わ、わかりました!では!隊長に取り次いで参ります!!」
男 「頼むよ」
エルフ「お知り合いって守備隊の隊長さんだったんですか」
男 「……あんまりアイツには関わりたくなかったんだけどな。ここで待っててくれ」
守備兵「――――お、お待たせしました!」
男 「いや、全然待ってないけど」
隊 長「おう、鷹の目!元気そうだな!!」
男 「うるせぇニヤケ面。相変わらず声がでけぇんだよ」
隊 長「おいおい、俺にもメンツってもんがある。部下の前でそんな風に呼ぶんじゃねぇよ」
男 「じゃあ鷹の目って呼ぶのはやめろ。俺にだって羞恥心がある」
隊 長「ははっ、ガキん時は喜んで名乗ってたくせにな」
男 「うるせぇ」
隊 長「まぁ、それは置いといてだ。こっちじゃなくてあっちの国の方から関所に顔出すなんざぁ一体何の用だ?」
隊 長「それに連れは二人でしかも別嬪さんときたもんだ。いやはや、お前も案外隅に置けねぇな」
男 「隅に置いといてくれ、頼むから。あと話の腰をいちいち折るな」
隊 長「久々に顔を見たんだ、会話を楽しんだって悪かねぇだろ?」
男 「今はそんな場合じゃない。ちょっと落ち着いて彼女たちと話がしたいんだ。飯と部屋を用意してくれ」
隊 長「彼女たち…… 随分親しげだが、まさか二股か?」
男 「違うわドアホ」
隊 長「よし、後は俺が相手する。お前は行っていいぞー」
守備兵「は、はい!」
男 「行ったか?」
隊 長「ああ。で、真面目な話、あの子らと何の話をするつもりだ?あの感じ、エルフだろ?」
男 「勘がいいな。その通りだよ」
隊 長「それで、何の話をするつもりだ?」
男 「馬鹿話を少しな。この国とエルフの里の同盟」
隊 長「ほーう、それはまた随分と大それた事を考えてやがるな」
男 「だろ?まぁ、話し合いの結果でこれからどうするかが決まる。事の次第によっちゃあアンタの協力を仰ぐことになるかもだ」
隊 長「もう部屋と飯の用意をしろって言ってるくせにまだ頼みごとをする気か?」
男 「ケチなこと言うなよ。俺とアンタの中だろ?」
隊 長「親しき仲にも礼儀ありってな。それが人にものを頼む態度かぁ?」
男 「……国境守備隊隊長殿、私用の要件ではありますが何卒お力添えを頂きたく」
隊 長「……及第点、と言いたいがやっぱり畏まるな。お前がそんな態度してるの気持ち悪いわ」
男 「この野郎!」
―――
――
―
エルフ「ありがとうございます。食事に立派なお部屋まで用意していただいて」
弓使い「お心づかい感謝します」
隊 長「なに、当然のことをしたまでですよ。それに彼のご友人でかつ今日まで長旅をされていたとあればこれぐらいのことはいたしませんと」
男 「……アンタの敬語がここまで気持ち悪いとは」
隊 長「ははは、まったくこの男は遠慮というか慎みを持ち合わせておりませんでして。道中さぞかし嫌な思いをされたでしょう?」
エルフ「い、いえ、そんなことは……」
男 「たわいもない話はその辺までにして、あの話をしようか」
弓使い「え……?」
エルフ「でも」
男 「いや、ニヤケ面はもう君たちがエルフだって気づいてる」
隊 長「こんな仕事をしてると自然と勘が研ぎ澄まされて相手がどんな奴かわかるようになるのさ」
弓使い「そうですか」
隊 長「さて、それじゃお前の言う人間とエルフの同盟だがどんな策を考えてるんだ?」
男 「とりあえず俺一人が喚いてもしょうがない。まずはおっさんを巻き込む」
隊 長「おお、アイツは王様やってるからな。お前みたいなしがない一市民よりよっぽど信頼性は高いだろうよ」
男 「できればこの話はズルズルと引き伸ばしたくない。早いとこおっさんの了承を取り付けて進めたい」
隊 長「はは~ん、つまり俺の口添えと王都まで行く足が欲しいと?」
男 「話が早くて助かる」
隊 長「まだいい返事は聞かせてやれないがな」
男 「なっ」
隊 長「さて、コイツはこんなことを言ってるが君たちはどうなんだ?同盟には乗り気なのか?」
隊 長「実現するなら俺としてはそう悪くない話だと思う。だが、それは俺たち人間の考えであって君らエルフの考えとは違うからな」
弓使い「……まず在り得ない話です。エルフは人間を強く憎んでいますから」
弓使い「かつて地上に楽園を築いていた私たちエルフの祖先を森へと追いやり、今も尚奴隷として尊厳も何もない不当な扱いを受けている同胞が数多くいる」
弓使い「貴方方はそんな相手と同盟を結ぶ可能性など在り得ると思えますか?」
隊 長「まぁ、無理だわな」
男 「でも、このままじゃ」
弓使い「同盟などと耳触りのいい言葉で誤魔化して、実態は支配でしょう?今以上の辱めを受けるくらいならエルフは戦う道を選びます」
エルフ「ちょ、ちょっと」
弓使い「貴女は黙ってて…… そういう訳です。同盟なんて馬鹿げた話、聞く耳持ちません」
男 「…………そうか」
隊 長「ん、わかった。じゃあ、感情論抜きの場合はどうだ?」
男 「へ?」
弓使い「……本当に人間と対等な扱いで、エルフの意見も積極的に取り入れてくれるというのであれば、私としては吝かではありません」
弓使い「今言ったようにエルフの人間への忌避意識はとても強いですが、私たちだけで現状を維持していくのは厳しいと思われます」
エルフ「へ?」
弓使い「但し、あくまで対等な関係が保証されるのであればの話です。人間の保護下に入るなどという不当な扱いであればお断りですが」
隊 長「その意見は多数派か?少数派か?」
弓使い「少数派です。ね?」
エルフ「え、ええ、ですが最近では人間の言葉を知ろうという動きも出てきていますし先生のお話を聞いたエルフたちは人間への忌避意識はそこまでないと思います」
エルフ「でもやはり、人間への悪感情を持っているエルフの方が圧倒的多数ですので…… エルフにも役立ちそうな人間の技術などを積極的に取り入れていきたいとは思うんですけど」
隊 長「つまり、感情を抜きにすれば実情を鑑みて人間との同盟は悪くない話だと?」
弓使い「ええ、エルフの主権が守られるならの話ですが」
隊 長「君たちエルフだけでどうにかできるなら俺たち外野の人間がとやかく言うことじゃあないが、今のままじゃどうにもならないと」
エルフ「はい、そうなんです」
隊 長「……こりゃあかなり難しい話だぞ、鷹の目。特に怒りとか恨みとかいった負の感情はそこにある利益も金繰り捨てて燃え上がるもんだ」
隊 長「そんな奴らを説き伏せなきゃあ駄目なんだ。出来るか?」
男 「……やって見せるさ」
隊 長「本当に出来るのか?エルフのお嬢さんがいる前で言うのもあれだが、特に脅威を持たない少数勢力と対等な関係を築くなんて無理だと思わないか?」
隊 長「少数の側としては信じられん話だろうさ。自分たちを軽く捻れるような勢力が対等の関係を結ぶなんて在り得ない、根こそぎ奪い取っていくんじゃないかってな」
隊 長「そう言う疑心暗鬼と負の感情を突き抜けて、相手の心を動かさなきゃならんのだぞ?ええ?」
男 「――――やるさ。やってみせるさ。今のままじゃ駄目ってんなら絶対にやり通して見せるさ」
隊 長「いいねぇ、あの時のアイツとおんなじ目だ。国をひっくり返すって言い切りやがった時のアイツの目だ―――― なら、大丈夫だろう」
男 「……ありがとよ」
隊 長「よぉし!国王宛の書状と足の速い馬を用意してやる!明日の朝には出発できるように準備しとけ!!」
男 「ニヤケ面ァ!」
隊 長「お嬢さんたち、コイツと旅してたんなら知ってると思うがコイツは馬鹿だがまっすぐな奴でな」
男 「な、何だよ急に!?」
隊 長「まぁ、奴隷だった頃は俺より悲惨な境遇で、自由と尊厳を踏み躙ってくるような奴に対して怒りを燃やしてた」
隊 長「特に小さい頃一緒に居たっていう姉みたいだったエルフへの仕打ちが我慢ならなかったみたいでな。革命の時はそりゃあ大暴れしやがった」
隊 長「ほっといたら大人の事情なんて関係ねぇと余所の国に行って同じように虐げられていた連中を助けに殴り込みそうな勢いだった。ていうか実際行きかけた」
隊 長「つまり何が言いてぇかってっと、さっきのコイツの決意表明は真剣そのものだったってこった。でもコイツは馬鹿だから一人じゃにっちもさっちもいかねえだろう」
隊 長「だからどうかコイツを信じて人間とエルフの同盟の橋渡しをしてやっちゃあくれねぇか?上手くいくかはわからんが、情熱だけは本物だ。どうか、頼む」
男 「ニヤケ面……」
弓使い「どうか、お顔を上げて下さい。仰ったことは承らさせていただきます」
エルフ「失礼ですけど、この方は打算とか駆け引きとかは出来ない方だと存じています。だからこそ私たちはこの話をお受けしようと思ったです」
隊 長「そうか!すまねぇ、ありがとよ!よかったなぁ鷹の目!頑張れよ!頑張れよぉ!!応援するからな!!!」
男 「お、おぉう、近い近い」
隊 長「じゃあ、俺は準備に取りかかる。お嬢さんたちと鷹の目は明日に備えてゆっくり休むといい」
弓使い「では、お言葉に甘えてそうさせていただきます」
エルフ「ありがとうございます」
男 「……行ったか。しかしなんだあの物言い。俺はアイツの弟でも息子でもねぇんだぞ」
エルフ「まぁまぁ、いいじゃないですか。あの方の言葉通り、今日はもう休みましょう?」
―――――
―――
―
馬 「ブルルルル・・・・」
エルフ「うわぁ、綺麗な毛並みの馬ですね!」
隊 長「自慢の馬たちだ。王都までの間だが、可愛がってやってくれ」
弓使い「お心遣い感謝します」
男 「今更だが二人とも馬には乗れるのか?」
弓使い「私たちにも乗馬の習慣はありますから。それにこの子たちはとてもいい子ですし」
エルフ「乗せてあげてもいい、って言ってくれてます!」
男 「そいつぁ良かった。 ……じゃあな、ニヤケ面」
隊 長「おう、ちゃんと後でうまい酒と肴を寄越せよ」
男 「考えとくよ」
隊 長「俺の分だけじゃないぞ?ここにいる奴全員分だぞ」
男 「懐に厳しいな。アンタの分が無しでいいなら何とか用意できんでもない」
隊 長「何言ってやがる。俺のは部下よりいいのをくれねぇと」
隊 長「……さて、後は頼んだぞ」
部 下「はっ、お任せください」
弓使い「道中よろしくお願いします」
エルフ「お願いします」
部 下「ええ、精一杯頑張らせていただきます」
男 「ドードードー、よし、そろそろ行くか」
馬 「ブルルルル・・・・」
部 下「では参りましょう。ハッ」
エルフ「――――お世話になりました!ハッ」
弓使い「では、これで…… ハッ!」
男 「おっさんにもよろしく言っとくぜ!ハッハッ!!」
ニヤケ面「おーう、うまくやれよー!!」
ニヤケ面「……頑張れよ鷹の目!頑張れよ、頑張れよぉ!!」
男 「うるせぇ!!」
―――――
―――
―
男 「今日だけでここまで進んだか…… この調子なら王都までそんなにかからないな」
エルフ「……久々に野盗に襲われる心配のない夜ですねー」
部 下「隣国の情勢不安をご存じなかったのですか?」
男 「知った上で行ったんだよ」
部 下「何故そこまでして隣国に行かねばならなかったのですか?」
男 「……話せる時が来たら話すよ。君を信頼していないわけじゃないが、隊長殿も言ってたろ?」
部 下「余計なことは聞くな、ということですか」
男 「悪いね。ついでに密入国してた件も黙っておいてくれ」
弓使い「火の番はどうしますか?」
男 「俺と彼とでやっておくよ。君らは寝ててくれ」
弓使い「ですが……」
部 下「夜更かしはお肌の大敵と守備隊長から聞いております。ごゆっくりとお休みください」
男 「……ニヤケ面め、何をバカなことを教えてんだよ。いや、アイツは元々そういう奴だったか」
―――
――
―
馬 「ブルルル・・・・!」
男 「ハッ、ハッ!……っと、ここら辺は」
エルフ「あ、あれ!」
男 「あれ?」
鳩 「フォーホー、ホッホー」
部 下「鳩、ですね……」
弓使い「ああ、あの時の」
鳩 「フォッポー」
エルフ「あら、こっちに来ますね」
鳩 「ホッホー」
エルフ「はい、久しぶりね」
部 下「……鳩と話してる?」
男 「ああ、気にするな」
男 「っと、そうだ。コイツに手紙を持って行ってもらおう」
部 下「手紙?」
男 「この近くを通った時にそこの牧場の主のお世話になってな。帰りもまた寄るって言ってたんだが」
エルフ「それどころじゃなくなってしまいましたもんね」
男 「というわけで申し訳ないって旨の手紙を…… えーと書くもの書くもの」
馬 「ブルルル・・・・」
男 「……ああ、くそ、走る馬の上じゃ書き辛い」
弓使い「……私が書きましょうか?」
男 「じゃあ頼む」
弓使い「承りました。それにしてもきれいですよねこの紙」
男 「そうか、別に普通だと思うけど……あ」
部 下「?」
弓使い「……書けました」
エルフ「はい、じゃあこっちにちょうだい…… こうしてこうして、よし!じゃあお願いね」
鳩 「フォッホー」
―――――
―――
―
エルフ「今日も一日ありがとう」
馬 「ブルルル・・・・」
男 「しかし流石守備隊自慢の馬だ。もうこんなところまで来られるなんてな」
部 下「お褒め預かり光栄です。火ももうすぐ点きますよ」
男 「ありがとう」
弓使い「……しかし、人の往来も段々と多くなってきました。バレたりはしないでしょうか?」
男 「守備隊の人間がついてるし伝令だと思われてるだろうから、そこまで疑いの目で見られることもないし大丈夫だと思う」
弓使い「そうですか……」
エルフ「都となればもっと大勢の人間がいるんですよね?」
男 「前に言った通りビクビクするより堂々としてた方がバレないもんだ。どんと構えてりゃいい」
部 下「火、点きましたよぉ!」
男 「おーう、それじゃ夕飯にしますか」
エルフ「はーい」
―――――
―――
―
男 「とうとう王都が見えてきたな」
男 (……あ、そういや預かり屋に荷物預けっぱなしだったな。まぁ、それどころじゃなかったし仕方ないか)
弓使い「……頑丈そうな城壁で囲まれているものだと思っていたのですが」
部 下「陛下がそういうのものは必要ないと仰られてこのような形になっています。ご存じないのですか?」
男 「気にすんな。あと城もいらないとは言ってたけどそれはまかり通らなかったそうだ」
エルフ「へぇ~……」
部 下「大分都には近づきましたが、お急ぎならもっと進行速度を上げますか?」
男 「う~ん、どうするかなぁ……」
馬 「ブルルル・・・・・・」
エルフ「自分たちなら大丈夫だって言ってくれてますけど……」
弓使い「ありがとう、それじゃお言葉に甘えましょうか?」
男 「だそうだ、飛ばすぞ」
部 下「は、はぁ…… この子たちって馬のことだろ?馬がそう言った?……まさかぁ」
―――――
―――
―
番 兵「――――これより先は王都となる。後ろの者たちは?」
部 下「西方国境守備隊隊長殿から陛下への言伝を託されたご友人だ」
番 兵「証拠は?」
部 下「この書状にある」
番 兵「改めさせてもらうぞ」
番 兵「――――ふむ、確かに。引き留めて申し訳なかった、ようこそ王都へ」
弓使い「ありがとうございます」
エルフ「ありがとうございます」
男 「いい仕事っぷりだな、おい」
番 兵「おいおいなんだ、ご友人ってお前のことかよ!久しぶりだなぁ!」
男 「ああ、でも今は言伝を預かってる身だ。積もる話はまた今度ゆっくりな」
番 兵「期待しないで待ってるよ。どうせお前のことだからまたプッツリと連絡が取れなくなるんだろ?」
男 「多分そうなるな。じゃあな」
部下「――――では、私はこの書状を持って謁見がかなうよう申請してきます」
男 「頼む」
エルフ「ここが王都、ですか…… よくわかりませんが凄いですね」
弓使い「石積みの建物が多いですね」
男 「ここに来るのも久しぶり…… のはずなんだが、来る度来る度風景が変わるもんだからホントに懐かしいのかわからん」
弓使い「この規模でまだ発展途上だというのですか?」
男 「そういうことなんだろう」
エルフ「人間がいっぱい……」
弓使い「都と言えば大体その国で一番栄えている所だから…… あんまりキョロキョロしないでよ?」
エルフ「わかってるわよ…… それにしても建物や人ばっかりで草花や木が全然ない……」
弓使い「そうね…… もしかしたら人間と同盟を結んだら里もこうなってしまうんじゃ……」
男 「いや、そうさせないために同盟をするんだよ」
エルフ「そうですね。里がこんな風になってしまうのは…… 嫌です」
男 「しかしおっさんに会うだけだってのに、謁見だなんてまぁ大層な呼び方しやがって」
弓使い「おっさんおっさんと随分親しげに呼んでおられますが、その方ってこの国の長なんですよね?」
―――――
―――
―
老 犬「ヘッヘッヘッ・・・・」
男 「おう、元気そうだな!」
老 犬「ヘッヘッヘ」
国 王「……おいおい、随分久しぶりに会うってのにまずはそっちに挨拶か?」
男 「おっさんのくせしてこれだけ俺を待たせたんだ。最初に挨拶なんてしてやるかよ」
国 王「ガキか!仕方ないだろ?公務やら何やらで身動きが取れないんだよ。それぐらいわかるだろ?あとおっさん言うな」
男 「……久しぶりだな、おっさん」
国 王「だからおっさん言うな。……いや、やっぱりそのままでいい。そう呼ばれるのも久しぶりで少し嬉しい」
男 「久しぶり?昔からどう見てもおっさんにしか見えないし、おっさん以外の呼び方あるか?」
国 王「アホか!昔はちゃんと若かったわ!!」
男 「騒ぐなよおっさん。いい年したおっさんが騒いでるのは見苦しいぞ?」
国 王「誰がいい年だ!全く騒いでるのは一体誰のせいだと…… まぁいい、わざわざ俺にがおっさんになったという事実を突きつけるために来たわけじゃないだろ?」
男 「そんなことに時間を割かせる程、常識知らずなわけでもないわ」
国 王「どの口が言いやがる…… ちなみにその要件というのは、お前が連れてるお嬢さん二人にも関係あることか?」
男 「そうだ。っていうかニヤケ面の書状にも書いてあったんじゃないのか?」
国 王「……ああ、だがあれだけでは説明不足だ。もっと詳しく聞かせてもらおうじゃないか」
男 「最初からそのつもりだ」
国 王「さて、その前にこの馬鹿のせいですっかり挨拶が遅れてしまった。申し訳ない、お嬢さんたち」
エルフ「い、いえ!お気になさらず」
国 王「本当に申し訳ない…… ああ、どうぞおかけになってください」
エルフ「で、では……」
弓使い「失礼します」
国 王「さて、それじゃ早速だが聞かせてくれ。お前が何を考えているのか」
男 「人間とエルフの共存」
国 王「エルフとの共存か。なかなか面白いことを言う。それで、お嬢さんたちも同じ考えかい?」
エルフ「はい」
弓使い「ただ、エルフ側の理解を得るのは困難であるかと」
国 王「ふむ……」
―――
――
―
老 犬「ヘッヘッヘッヘ・・・・」
国 王「……ふぅむ、なかなか難しい話だな」
男 「おっさんはエルフとの同盟が嫌なわけじゃないんだな?」
国 王「嫌なものかよ。森の賢者とまで謳われたエルフ族の知識や知恵の恩恵を受けられるというのは魅力的だ。共存共栄ができるというなら大いに大歓迎さ」
国 王「ただ、俺の意向で全てが決まるわけじゃない。少数だが、かつての貴族のような暮らしすることを望んでる者たちだっている」
国 王「そういう連中がエルフに危害を加えないとも限らない。その可能性を否定できない限り、エルフ側としては同盟を受け入れられないだろう」
国 王「それに森の保護というが、正直なところエルフの英知を授かったところですぐさま国が豊かになるわけじゃないだろう?」
国 王「やはり今の内はある程度は森林の開発も進めなくちゃならん。ただでさえ食糧難に陥る間際だというのにエルフの分も養うとなるとな」
国 王「いずれ食糧事情が安定すれば森林保護、それだけでなく植樹による森林面積の拡大にも手を出せるだろうが、そこまでエルフが辛抱してくれるかどうか」
国 王「他にも課題は山積みだ。さて、こういう状況であるが果たしてエルフは同盟を結んでくれるだろうか?どうかな、お嬢さんたち」
弓使い「……お聞きしてもよろしいでしょうか?」
国 王「何でしょう?」
弓使い「同盟下において、人間がエルフに危害を加えたり、一方的に利用するようなことはしない…… という明確な保証はできますか?」
国 王「明確な保証か…… 難しいな。長期的な目で見れば不可能ではないが、同盟直後などは確実に様々な軋轢が生まれる」
国 王「産みの苦しみと言えば聞こえはいいが実体はどうか…… 何にせよ今は口先だけで語る他ない。森の賢者が言葉だけで俺を信用してくれるとは思えないが」
弓使い「そうですね……」
国 王「ただ」
エルフ「?」
国 王「ただ、エルフが苦境に立たされているというのなら助けたい、というのは私の心からの願いだ」
国 王「もっと言えば、自由と尊厳を奪われ虐げられている全ての者を助けたい。傲慢と言われるだろうが、本当にそう考えている」
国 王「だが、それを証明するのは言葉でしかない。言葉を尽くして語るしかない。稚拙な言葉を信じてもらうしかない」
弓使い「…………」
国 王「……どうかな?」
弓使い「……真っ直ぐな方だとお見受けしました。貴方が長であるならば私もエルフの長に安心してこの話を通せます」
エルフ「それに……」
老 犬「ヘッヘッヘ」
エルフ「この子もこの人なら大丈夫だって言ってます」
男 「そうか……」
国 王「ありがとう、私を信じてくれて」
エルフ「あ、あとこの子がもっと美味しいもの食べたいって言ってました」
老 犬「ヘンッ」
国 王「この野郎」
男 「……とりあえず、こちら側としては同盟に全面同意という形になったわけだ」
国 王「それで、エルフ側の指導者と会談を開くことは可能なのかな」
弓使い「……貴方のことを疑っておきながら申し訳ないのですが、実はこの話は私たちしか知りません」
エルフ「まずはこの話を私たちの王に話します。そこからどうなるかは……」
国 王「エルフの王の考え次第だと?」
弓使い「ええ……」
男 「ここまでは予想通りだが、問題はやっぱりここから先だな……」
国 王「……この男を私の代理として君たちの代表者に会わせることはできるか?」
男 「へ?」
国 王「どうせ、というのも悪い気がするがこの同盟の話は君たちではなくコイツが言い出したことなんだろう?」
エルフ「はい、そうです」
国 王「言い出しっぺの法則ってやつだ。自分の言動には責任を持つべきだよな」
男 「いや、俺は別にいいけどよ。エルフの里に人間が行っていいとは…… なぁ?」
弓使い「先ほど申し上げましたが、この話は私たちだけで決めた話です。それなのに里に人間を入れるというのは……」
エルフ「挑発的と言いますか、その……」
男 「やっぱり段階を踏んでからやるべきだぜ?おっさん」
国 王「かもしれん。だが、俺はそうした方がいいと思う。こういうときの勘ってのはよく当たるんだ」
エルフ「……わかりました。彼も一緒に連れて行って陛下とお話ししてみます。いいわよね?」
弓使い「……ええ、了解よ」
男 「本当にいいのか?」
エルフ「はい、きっと上手くいくはずです」
国 王「……多分君たちも何となく感じてるだろうがコイツには人、いや他者を動かす力がある。かくいう俺もそれで動かされた」
国 王「コイツの目に突き動かされて、できっこないことを馬鹿みたいにやって、気が付いたら一国の主にまでなっていた」
国 王「この国を変えたキッカケは本当は俺じゃなくてコイツなんだよ。多分この同盟の話もコイツが中心になって動くと思う」
弓使い「……それは私たちもなんとなくわかります。こんな馬鹿げた話、信じてみようと思わされたのもこの方のせいですから」
男 「この方のせいって…… いや、実際そうかもしれないが」
―――――
―――
―
部 下「……本当にここまででよろしいのですか?」
男 「ああ、ここからは俺たちだけで行く。君が頼まれていたのは王都までの護衛と、あの書状を渡すことだろ?」
部 下「そうですが……」
男 「今度は国王陛下直々の依頼なんだ。悪いが……」
部 下「……了解です。それでは」
男 「ああ、また会おう」
弓使い「本当にありがとうございました」
エルフ「貴方たちもありがとう」
馬 「ブルルル・・・・」
部 下「道中お気をつけて…… ハッ」
男 「――――さて、次はいよいよ君たちの故郷か」
エルフ「はい、行きましょう」」
―――
――
―
エルフ「――――ところで」
男 「ん?」
エルフ「その大きな袋には何が入ってるんですか?」
男 「これ?君たちの王様への貢物」
弓使い「貢物、ですか」
エルフ「中身は何なんです?」
男 「う~ん、ま、2,3個くらいならいいか。ほら」
弓使い「これは…… リンゴですね!」
エルフ「これなら陛下もお気に召されますよ!」
男 「そうだといいんだが。あと、熟す前の若い奴をもらってきたんだけど道中もつかな?」
弓使い「此処からでしたら一月はかかりませんが…… ああ、それと陛下はモノにつられるような御方ではありませんのでご注意を」
男 「何も賄賂とかで懐柔しようとは思ってないぜ?」
エルフ「あむ…… あ、熟す前は少し酸っぱいんですね」
―――――
―――
―
男 「そして夜です」
エルフ「夜ですね」
弓使い「この辺りは襲ってくるような獣は余り居ません」
男 「ああ、そこまで気を張らなくてもいいってわけだ」
弓使い「ですが、念のためいつも通り火の番を」
男 「あー……」
弓使い「はい?」
男 「いや、ニヤケ面ンとこの兵士がいなくなったからまた君と二人で交代かと思って」
エルフ「いえいえ、この辺りはさっきこの子が言った通りあまり動物がいません!だから、今回からは私もやりますよ」
男 「いや、でも」
エルフ「いーですからいーですから!」
弓使い「……この子は妙に頑固なところがありますので」
男 「うーん…… わかったよ、今夜はお言葉に甘えさせてもらおう」
―――
――
―
男 「……おーい」
エルフ「すぅ…すぅ……」
弓使い「案の定寝てますね」
男 「ねー…… 確かにこりゃ大変だ」
弓使い「貴方がいなければ私は今頃寝不足で倒れていたかもしれませんね」
男 「ははっ、笑えねー……」
弓使い「……では、いつも通りに」
男 「ああ」
男 「ちなみにまだまだ先だとは思うけど君らの国までどれくらいあるんだ?」
弓使い「そうですね、この辺りなら星もきれいに見えますのでザワディが使えますね…… 今の時期であの星とこの星の位置がそこだから……」
弓使い「……この調子なら二十日くらいといったところでしょうか」
男 「マジで?そこまでリンゴが持つかなぁ……」
弓使い「さぁ、どうでしょうか?」
男 「……ところで、君らも星を見て自分の位置とかわかるんだな」
弓使い「その言い方から察するに、人間もザワディ…… その技術を持ってるんですね?」
男 「ああ、森の中を走り回ってる内に自分がどこにいるかわからなくなったときとかに重宝する」
弓使い「なるほど…… 貴方が以前仰ったようにエルフと人間の文化は近いものがありますね」
男 「だろ?あ、そうそう、星を見ると言えば星座とかの話はエルフにもあるのか?」
弓使い「セイザ…… 思い当たる言葉はありませんね」
男 「ああ、そういうのはないんだな……」
弓使い「何ですか?その星座というのは?」
男 「そうだな…… 例えばあの星と、あの星とあれとあれと…… ああ、アレを線でつないで猪座とか」
弓使い「イノシシ……?猪というのはウルルアライのことですよね?……あれがウルルアライですか?」
男 「ウルルアライが猪かどうかはわからんが、昔の人は星と星をつなげてそこにいろんなものを見出してたんだとさ」
弓使い「……しかし、私にはあれがウルルアライ―――猪には見えません」
男 「俺にもそうは見えないな。まぁ、昔の人間は想像力豊かだったんだろ」
弓使い「そうですね……」
男 「線にどれだけ肉付けすれば猪になるんだよっていう」
男 「あと、それにまつわる話もあったりする。猪座は元々は何でもかんでも喰ってしまって山ほどもあるそれは大きな猪だったそうだ」
弓使い「まさか…… それで?」
男 「当然村の人間たちが作っていた作物なんかもみんな食われてしまった。困り果てた村人は力持ちの神様に何とかできないか相談した」
弓使い「カミサマ?確か概念的なものですね。あまり深くは理解できていないのですが……」
男 「まぁ、神様ってのはすごい力を持った連中のことって思ってくれればいい。で、早速その猪に力持ちの神様は力比べを挑んだんだが……」
弓使い「その口ぶりからすると負けてしまったんですね?」
男 「先を読むなよ。まぁその通り、なんと神様のくせして負けてしまったんだ」
弓使い「すごい力を持っているのに?」
男 「ああ、だから力持ちの神様は今戦っても勝ち目がないから別の方法を思いついた」
弓使い「さて…… 罠に嵌めたとか?」
男 「罠、は違うな」
弓使い「……降参です。カミサマはどうやったんですか?」
男 「なんと猪の大好物を大空高く、そりゃあ遠くまで放り投げて、それを追いかけさせることで地上から追っ払うって方法だった」
弓使い「……無茶苦茶ですね」
男 「ところがその無茶苦茶な方法が大成功!結果猪は大好物を追って星になるくらい高く遠くまで行ってしまった…… っていうお話さ」
男 「で、猪座の頭の少し先。わかるか?あの星が中心で周りの星をつなげるんだ」
弓使い「あれと、あれとあれとあれ……ですか?」
男 「そう、それがそのとき神様がぶん投げた猪の大好物が星座になったっていうトウモロコシ座だ」
弓使い「あれが?ああ、あれならトウモロコシと言われてもまだなんとなく形がわかります」
男 「そんな感じでけっこう色んな星座があるんだぜ。ほら、あっちのあの星とこの星」
弓使い「どれですか?」
男 「あれだよ、あれ」
弓使い「……何のセイザなんです?
男 「鳥人座」
弓使い「トリジン?」
男 「そう、頭は鳥だが首から下は人間っていう」
弓使い「なんですかそれ、気味の悪い」
男 「なー、マジでどういう頭してたら思いつくんだよ
弓使い「その鳥人にはどんなお話が?」
男 「なんでも鳥好きな子どもの前に現れて、焼いた鳥の肉を串に刺したものを食べるらしい」
―――
――
―
弓使い「――――他にはもうないんですか?」
男 「あー、もう知ってるのは今言った奴だけだな。まだあるとは思うんだが勉強不足なもんでもうわからん」
弓使い「そうですか……」
男 「自分のいる場所を知るための基準の星を基本的に調べてたからなぁ…… 悪いね」
弓使い「いえ、しかし人間にはそんな面白い話が伝わったりしているんですね」
男 「ああ、荒唐無稽な作り話だけどな。そんなんで星の並びができてるわけないだろうに」
弓使い「そうですね…… でも、私たちにとって星は季節と時間と場所を知るための指標でしかありませんでした」
弓使い「それが、こんなに面白い見方があったなんて…… これも人間の文化の一つなんですね」
男 「ああ」
弓使い「他にももっといろいろあるんでしょうか?」
男 「ああ、まだまだあるよ」
弓使い「……もっと、もっと知りたいです。おかしいですね、人間のことは好きじゃなかったはずなのに」
男 「人とエルフが共存できるようになればきっと、もっといろんなことがわかるようになる」
―――
――
―
エルフ「ご、ごめんなさい~!わたしすっかり寝ちゃってました~!!」
男 「ああ、いいよ。元々こうなる気がしてたし」
弓使い「私はもう慣れてるわ」
エルフ「あうあう……」
男 「まぁ、引き続き火の番は俺と彼女でやるから、それでいいな?」
エルフ「……はい」
弓使い「さて、それじゃそろそろ出発しましょうか」
男 「おう」
エルフ「…………」
弓使い「どうしたの?」
エルフ「ねぇ、貴女たちまた前より仲良くなってない?私が寝ちゃってる間に何かあったの?」
弓使い「セイザっていうのを教えてもらってたのよ」
エルフ「セイザ?なにそれ、私も聞きたい!」
―――――
―――
―
男 (――――しかしエルフの里への旅路は平和なものだった)
男 (野盗は当然として、獣の気配すらほとんどなかったので何時ぞやのように気を張り詰め続ける必要もなかった)
男 (で、エルフの王への交渉に向けてエルフの言葉の手ほどきを受けたりしているわけで)
エルフ「エクァステスフィキチータオッヘルサナシリウムトゥアイタルフェンオッティクス、はい」
男 「エクァスてすひきちー…… 何だっけ?」
エルフ「エクァステスフィキチータオッヘルサナシリウムトゥアイタルフェンオッティクス」
男 「エクァステスひきチータオッヘるさなしリウムつぁいたつイタルへんオッティうす」
エルフ「発音が駄目です。はい、もう一度。エクァステスフィキチータオッヘルサナシリウムトゥアイタルフェンオッティクス」
男 「エかステスフィキチータオッへるサナシリウムトゥあいたるフェンオッティクス」
エルフ「……及第点はまだあげられませんね」」
弓使い「『お初にお目にかかります。○○と申します』『ご機嫌麗しく存じます』『本日は是非聞いて頂きたい議が在り推参致しました』」
弓使い「この三つはスラスラと言えた方がいいでしょう。その努力を買われれば陛下のご心象もよくなるでしょうし」
男 「へーい…… ああ、道のりは果てしなく……」
男 (――――で、時にはお互いの文化とか習慣の話もしたりなんかして)
男 「47掛ける11は?」
エルフ「517」
男 「えっと…… 合ってる。じゃあ、35掛ける13!」
エルフ「455」
男 「ちょっと待ってくれよ……」
男 「…………合ってる。これならどうだ!99掛ける97!!」
エルフ「9603」
男 「もう合ってるか確かめる気力もねぇわ…… なんだ、二桁の掛け算は全部暗記してるのか?」
エルフ「いえ、19掛ける19までしか暗記はしてませんよ?」
男 「19まで覚えてて『までしか』はねーよ」
弓使い「それ以上の二桁の掛け算は100より大きいか小さいかを比べて……」
男 「時間があるときにゆっくり聞くよ。今教えてもらっても覚えられそうにない」
男 「あー、しかしそんな速い計算方法があるならなんであのエルフは教えてくれなかったのかね?」
弓使い「きっと、貴方が人間である以上人間式の計算の方に触れることが多いと判断したからではないでしょうか?」
―――――
―――
―
男 「――――で、何時の間にやらエルフの里に大分近づいていた、と」
弓使い「はい、その通りです」
男 「しっかし、鬱蒼とした森だよなぁ…… 昼間でもこんだけ暗いんじゃ迷っちまいそうで通る気も起きない」
弓使い「そうやって人間の足を遠ざけているんですよ」
弓使い「……さて、ここから先はまず私たちだけで行かせていただきます」
男 「ああ、よろしく頼む」
エルフ「ええ、陛下に伝えてきます」
男 「もし駄目だったら?」
エルフ「……ここでお別れです」
男 「あいよ」
弓使い「では、また後で……」
男 「そろそろリンゴがやばい。完全に駄目になる前に返事をもらえるとありがたいな」
エルフ「そうですね、それでは……」
―――――
―――
―
男 (大分明るくなったな)
男 「……一日半、か」
エルフ「――――あ、いたいた!」
? ?「クツツ……」
男 「増えてるな」
弓使い「はい、陛下の御側役の方です」
使 者「ナウシィ」
男 「ナウシィ…… よろしく、だったっけか」
エルフ「陛下は話を聞いてくれるそうです」
男 「最初の関門は突破か。ま、これから先はもっと大変なんだがな」
弓使い「そうですね」
エルフ「それで申し訳ないんですけど…… 目隠しさせてもらいますね」
男 「場所を特定させるわけにはいかないってことか」
弓使い「ええ、まだあなたは信頼されているわけではありませんので…… すみません」
男 「当然の判断だ。謝るこたないって」
使者「……随分と仲がいいのね」
弓使い「まぁ、それなりに長い時間一緒にいましたので」
男 「貴女もこちらの言葉を喋れたんですね?」
使 者「だから使者として私が来た」
男 「なるほど……」
エルフ「……よし、できました!」
使 者「確かめさせてもらうわ」
男 「ちょっとまってイタイイタイ、締め過ぎ締め過ぎ」
使 者「大丈夫そうね。次は手を後ろに回して」
男 「はい」
使 者「変な動きをしないように腕も縛らせてもらう」
男 「どうぞどうぞ」
エルフ「里につくまでの辛抱ですので、頑張ってください」
―――
――
―
男 「……随分と複雑な道なんだな」
エルフ「ごめんなさい、わざと変な道を通ってます」
使 者「わざわざ言わなくてもいい」
エルフ「ごめんなさい」
男 「いや、それは当然の措置としてそれとは別に木から感じる気配が複雑に入り組んでいるというか……」
弓使い「先先代たちが人間が無暗に立ち入れないように迷いやすい造りにしましたのでこういうことになってます」
男 「植樹でもしたのか?」
エルフ「そうですね、他にも木々にこういう風な生え方をしてもらえるようにお願いしたり、森の力がうまく作用するようにしたりしてです」
男 「へぇ~……」
使 者「だから、そういう余計なことは喋るなと……」
男 「大変ですね」
使 者「何を他人事のように言っている。まず貴様が余計な口を滑らせるな」
男 「申し訳ない、招かれざる客の分際でね」
―――
――
―
エルフ「――――着きましたよ」
男 「じゃ、目隠しと拘束は?」
使 者「外しても構わない。ここまで来たからには逃げ出すことなど不可能だからな」
男 「では早速……」
弓使い「手伝います」
エルフ「あ、私も」
男 「いや、二人もいらんて…… ふぅ」
御側役「…………」
近 衛「…………」
男 (男なんだろうけど何とまぁ、美形の多いこと)
侍 従「ようこそ、エルフの里へ」
男 (人間語の浸透率高いな……)
侍 従「陛下はこの先におられます。さぁ、こちらへ」
男 (まだ陛下の御前じゃなかったのか?ま、目隠ししたまま会うってのも無礼な話か……)
男 「ってうわ、キレーな人」
侍 従「私は人ではありませんよ?エルフです」
男 「あっ……」
侍 従「……ふふっ、貴方と初めて会ったときもそう言ってくれましたね?」
男 「へ?あ、ああ、もしかして……」
侍 従「お久しぶりですね。そうです、あの時のエルフです」
男 「お久しぶりです!いや、よかった!革命が成功した時どれだけ探してみても貴女がいなくて、もしかしたら…… なんて」
侍 従「ほら、泣かないで」
男 「な、泣いてません!」
侍 従「もう、相変わらずですね…… ごめんなさい、革命が終わった後すぐににあの方に連れられて里に戻っていたんです」
男 「そうでしたか、道理でいらっしゃらなかったわけですね」
侍 従「はい、それからはここで陛下に侍従としてお仕えさせてもらっています」
エルフ「それだけじゃなくて、この方は私たちに人間の言葉を教えてくれた先生なんですよ」
侍 従「昔貴方にいろいろ教えてあげた経験が活きました」
男 「そうですか…… そうだ、昔と言えばあの時アイツに教えた北の国にある里って」
侍 従「大丈夫ですよ。あれは嘘でしたから」
男 「嘘?」
侍 従「そこに移り住むという話も上がったんですけど寒さが厳しいということで誰も住んではいませんでしたので。現にエルフは連れてこられなかったでしょう?」
男 「そうだったんですか……」
侍 従「それはそうと貴方にはお礼を言わなければいけないわね」
男 「はい?」
侍 従「この子たちをここまで無事に送り届けてくれてありがとう。深く感謝いたします」
男 「あ、いえ、たまたま全部が上手くいっただけですから」
侍 従「謙遜しないで。本当にありがとう」
男 「あ、はい、どういたしまして」
侍 従「本当は私が行くべきだったのだけど、片目で長旅は危険だって周りに止められてしまって…… 心配で心配でたまらなかったの」
男 「その御心配を杞憂で終わらせることが出来てよかったです」
弓使い「その点は私たちも大変感謝しています」
エルフ「ありがとうございました」
男 「ああ、うん。別にいいって」
侍 従「それと私の目の心配をしてくれるのは嬉しいですけど、片目が不自由なのは貴方もでしょう?右目は大丈夫なの?」
男 「いえ、今もほとんど見えていません。ですが、あの子が積極的に右についてくれたので」
弓使い「なっ……」
侍 従「そうだったの。まぁ、あの子はとても優しい子だから……」
弓使い「……あう」
使 者「しかし、その話ぶり…… 貴女が話してくださった人間の男の子がこの男ということですか?」
エルフ「じゃあ、いつも先生が言っていた小さな子って……」
侍 従「シュィ、アウィグン」
弓使い「へぇ、そうでしたか……」
御側役「アウラ、ショウィグン……」
近 衛「『ポポルポ』…… ククッ」
男 「……何故だかエルフの方々の俺を見る目が何か生暖かいものに変わったんですけど…… 俺の何の話をしたんです?」
侍 従「……ふふっ、陛下がお待ちです。参りましょう」
男 「すいません、その前にここのエルフさんたちに何を言ったのか教えていただけないでしょうか?」
侍 従「さぁ、こちらへ」
男 「いや、何を話したんですか!?教えてくださいよ!」
使 者「陛下のお近くで騒ぐな!」
男 「うぐっ…… そう言われると」
弓使い「ほら、行きましょう…… フフ」
エルフ「ふふふっ」
男 「何だよその意味深な笑みは……」
エルフ「何だと思います?」
男 「……いや、やっぱり教えてくれなくていいや」
男 (調子狂うなぁ…… おっさんとかニヤケ面とかならこうはならないんだが)
使 者「――――オルウィスリャム」
女 王「シャルディグティ」
使 者「セッ」
女 王「……ようこそ、私がここにいるエルフたちの長です」
男 「お目通りを許していただき誠に有難く存じます。っと、私たちの言葉でよろしいのでしょうか?」
女 王「構いません。侍従の彼女のおかげで人間の言葉は一通り喋れますので」
男 「では、このまま話をさせていただきます」
女 王「はい。まずは彼女らの旅に護衛として同伴していただき、またここまで無事送り届けていただいたこと、深く感謝いたします」
男 「もったいなきお言葉、頼まれた仕事を只こなしただけのことです」
女 王「ご謙遜を」
男 「いえ…… それとこちらつまらないものですが、どうぞお納めください」
女 王「それは……?」
使 者「中を検めさせてもらうわ」
男 「どうぞ」
使 者「これは……!?」
使 者「形はリンゴだが…… 赤い?」
弓使い「彼らの国のリンゴです」
使 者「リンゴ?」
女 王「それがリンゴ……?」
使 者「これが? ……はむ」
女 王「ど、どうですか?」
使 者「……甘い、甘いです陛下!それに瑞々しくて、甘くておいしいです!」
男 「駄目になる前にお渡しできてよかったです」
女 王「リンゴが甘いと……? 私にもそれを一つくれるかしら」
使 者「は、はい、ただいま!」
侍 従「私もいただけるかしら?」
男 「はい、どうぞ」
女 王「……確かに、甘くておいしいですね」
侍 従「人間が食べているのを見たことはあったけど、こんなに甘かったのね……」
男 「気に入っていただけたようで何よりです。もう少し早くお渡しできたらこれよりもっと甘く瑞々しかったのですが」
女 王「なんと、これ以上の?」
男 「はい、いずれの機会にご賞味いただければ……」
女 王「それは楽しみですね……」
男 「有難きお言葉。……そろそろ本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」
女 王「ええ、彼女たちから聞いていますがエルフと人間の共存共栄…… なんてことをお考えだとか」
男 「はい、その通りです」
女 王「それはどうして?」
男 「貴女方エルフにとっても大事な森を守っていくには、人とエルフとが手を取り合う必要があると考えたからです」
女 王「……確かに森は私たちにとってとても大切な存在。だからこそ急に力の弱まった西の森の調査を命じたのです」
女 王「その結果、森を伐採し弱らせていたのは人間だったのですね?」
エルフ「はい」
弓使い「間違いありません」
男 「…………」
女 王「そう、人間です。かつてと同じよう、にまた人間たちが私たちの住処を奪うのですね」
男 「かつてのように?」
女 王「ええ、かつて森はこの大地のほぼ全てを覆い尽くし、私たちもまた世界に遍く住み暮らしていました」
女 王「しかし、私たちの存在が気に入らなかったのか貴方方の祖先は私たちの祖先を攻めてきました」
女 王「そして住処を奪われて更に森の奥深くに隠れ住んだエルフたちの末裔が今の私たちなのです」
女 王「かつても、そして現在もまた人間によって住処を奪われようとしています。いえ、住処どころか我々エルフを奴隷として慰み者にしているという始末……」
女 王「その怒りや恨みは年を重ね薄らいではいるものの、奴隷にされている仲間がまだ数多くいるなど、やはり人間そのものに対する忌避の念はぬぐえません」
女 王「それなのにどうして人間と手を取り合うことなどできましょうか?刃を向け合うことこそあれ、共存共栄など在り得ません」
男 「……ですが」
女 王「なんでしょう?」
男 「恐れながら申し上げます。仮にエルフが弓を取ったとして、人間にかなうはずがありません」
男 「一国と争うだけなら勝てる可能性は零ではないでしょう。しかし、一度エルフがその姿を人前に表せば全ての人間が敵となりましょう」
男 「陛下自身が仰られたように人間はエルフをその美しさ故に奴隷として手元に置いておきたがります」
男 「エルフが集団でいたとなれば何が何でも捕まえようとします。それはどの国でも同じことでしょう」
女 王「どの国も同じと言うのなら、それは貴方の国でも同じことではないのですか?」
男 「いえ、我が国の王は断じてそのようなことはいたしません。国王もまた奴隷であった故に」
女 王「上に立つ者というのは弁が立つもの、口先だけは美しく飾り立てているのやもしれません」
男 「……私も同じく奴隷の出であり、長く彼の傍におりました。故に私は彼の人となりを知っています。ですから、そのようなことは在り得ません」
女 王「では改めて、何故私たちとの同盟を結ぼうと考えたのかお聞かせ願えますか?」
女 王「私たちの知識や知恵を得たいのならば、同盟などより私たちを蹂躙して根こそぎ奪い取る方を選ぶ」
女 王「……人間の本質とはそういうものでしょう?」
男 「そうかもしれません。しかし、我が国の王も、私もそのようなことは望んでいません」
女 王「……?」
男 「かつて私が革命に身を投じたのは、エルフへの仕打ちをこの目で見たからです」
男 「私は奴隷であった頃、貴族や権力者と呼ばれる連中に数多の辱めを受けていました。それこそこのような場で口にすべきでないような様々なことを」
男 「そしてそれは、同じく奴隷であったエルフも同様でした」
女 王「……そのエルフが貴女なのですね?」
侍 従「……はい」
男 「私は悔しくてたまりませんでした。身体も心も醜い奴らがあんなにも優しくてきれいなエルフを欲望の赴くままに弄ぶのが」
男 「それだけではありません。エルフでなくとも見目麗しい女であれば情婦とし、男であれば過酷な労働を強いるか闘技場で殺し合わせる始末」
男 「こんなことがあってはならない、こんなことが許されてはならない。奴隷であった頃、革命の最中にもその想いが常に私の根底にあり続けました」
男 「そして、今もその想いは変わっていません。エルフが、人間が、尊厳を踏み躙られ凌辱されることなどこれ以上許すわけにはいきません」
男 「――――高慢と思われるでしょうが、私は人もエルフも守りたいのです」
女 王「……貴方は今リョウシなるものを生業にしていると聞いています」
男 「はい」
女 王「何でもリョウシとは生き物を捕らえてそれを食べたり通貨に換えたりして生活をする者だとか」
男 「はい、その通りでございます」
女 王「その辺りのことは文化の違いということで今回は不問にするとして、私が聞きたいのは何故貴方がそのような生き方をされていたのかです」
女 王「もし本当に虐げられた者たちを救いたいというお考えであったならば、そんな生き方はせず自身の国だけでなく他国でもエルフや奴隷を解放しようとするはずではないですか?」
男 「お言葉通りです。本来ならば私は猟師などしているべきではありませんでした」
男 「ですが、そこには私一人の責任では済まない様々な事情があったのです。想いだけではどうにもできない問題が」
男 「そもそも奴隷制度の撤廃を掲げる我が国は他国から見て面白いものではありません」
男 「例えば、仮に私が他国に潜入してエルフや奴隷を解放したとします。当然その国の兵士たちが追いかけてくるでしょう。そして私たちの逃げる先は我が国しかありません」
男 「逃げ延びることができたとしても、それは他国の財産を不当に奪ったと同義であり、連中に我が国を責める恰好の口実を与えることになるのです」
男 「そうなれば奴隷を奪われた国と我が国は間違いなく戦争となります。そしてそれは、どの他国においても同じことでしょう」
男 「虐げられた者たちを救うことが戦争につながるとなれば、私一人のせいで我が国は無辜の民の万の血と共に沈んでしまうのです」
女 王「……だから、助けたくても助けられない、と?」
男 「はい……」
女 王「……個人的な興味ですが、どうして今仰られたことがリョウシになることへつながったのです?」
男 「今私が述べたことはかつて現国王やその側近に説かれたことです」
男 「しかし、当時の私はまだ幼く国際問題だのなんだのといった難しい話は理解できず、私を説き伏せようとする彼らに不満をぶつけるだけでした」
男 「そんな私に呆れかえった側近の一人が、間諜としての訓練を受けさせてみようと提案し、そういうことならと私は溜飲を下げたのです」
男 「それから数年間に渡り訓練を受けましたが、小さいころから持っていた気質のせいか隠密行動がなかなか上手くこなせず」
男 「一度一人だけの力で生きてみろ、そして自然が持つ大きな力を感じてみろ、との言葉と猟師道具を贈られ、そして今に至ったのです」
女 王「……そういうものなのですか?」
男 「そういうものなのでしょう。確かに私は一人の猟師として生きる中で人間一人の限界と自然の偉大さを感じました」
女 王「そうですか…… つまり、貴方自身虐げられた者たちを助けたいと願いつつもリョウシをやらざるを得なかった。そういうことですか?」
男 「はい、端的に言えばそうなります」
女 王「ならば、先ほど貴方が仰った言葉に嘘偽りはない。そう言うのですね?」
男 「はい、私は心からエルフと我が国との同盟を強く願うのです。同盟であれば他国が攻めてくる口実にも成り得ないはずです。貴女たちを護ることができるはずです!」
男 「我々がエルフを護るなどと身勝手な物言いだとはわかっています!ですが、このままでは貴女方はいずれあの貴族や権力者のような連中の所有物にされてしまう!」
男 「そうなる前にどうか、我々の手を取ってください!今ならまだ間に合うはずです!!どうか、どうか……」
女 王「なるほど、ですが私たちエルフを物としか考えていないような者たちならば、物との同盟などとのたまい一笑に付すのではないですか?」
男 「それは……っ!いえ、同盟など認めないと言ったところで戦争をする大義名分とするには動機が弱すぎます」
女 王「そもそも私たちが貴方方の国と同盟を結ぶと言うことはエルフがその国にいると声高に主張するようなもの」
女 王「エルフが手に入るとなれば彼らは形振り構わず戦争を仕掛けてくるのでは?そうだとしたら、私たちはこのまま隠れ住んでいる方が安全ではないでしょうか?」
男 「しかしそれでは!」
弓使い「陛下、僭越ながら私の愚見を述べさせていただいてもよろしいでしょうか?」
女 王「かまいません。この方を連れてきたのは貴女たちですもの。彼を連れてくるだけの考えと理由があったのでしょう?」
弓使い「はい。西の森に向かうに当たり、私はこの男とそれなりの時を共に過ごしました。その上でこの男は信頼できる者だと確信しています」
弓使い「そして、その男が信頼している人間の王もまた信頼してもいい傑物と認識しています。彼らの虐げられた者への思いは本物です」
弓使い「信頼できる人間が一つの国の王として君臨している今を逃しては、エルフの未来は暗く閉ざされたものになると考えます」
エルフ「わ、私もそう思います!」
侍 従「陛下、私もこの機会を逃がすべきではないと思います」
侍 従「あの方が我々に危害を加えることはないはずです。あの方は信頼できるお方ですから」
侍 従「あの方は自ら私たちが里に帰るまでの道中の護衛をしてくださいました。そして、エルフの里の所在は知らずとも良いと引き返していきました」
衛 兵「彼女の言う通りです。あの男は貴族と呼ばれた者らの残党が消えた辺りで私に後のことを任せ去っていきました」
男 「もしかしてあの衛兵って」
エルフ「はい、牧場の主の下にいたエルフが彼です」
侍 従「もしあの方が我らエルフ族を所有物にしたいのであったなら、今頃この里は人間のものになっているはずではありませんか?」
女 王「…………」
衛 兵「……人間はこと闘いにおいては非常に優秀です。この地を守るために我らが武器を取ったとてすぐに攻め落とされるでしょう」
侍 従「そもそも数が違い過ぎます。戦ったとしてもエルフの未来は暗く辛いものしか残りません」
弓使い「最早それは戦いとは言えないでしょう。一方的な虐殺、蹂躙…… 生き延びたとしてもそこに尊厳も自由もありません」
エルフ「それに、このままでは森はどんどん切り拓かれていってしまいます。殆どの人間は森は共に生きていく存在だとは思っていないんです」
男 「……人は森から奪って生きることしか知らないのです。森と共に生きるということを知らないのです」
男 「ですから、人も森と共に生きる術を知れば森の伐採や開拓・開発を止めるかもしれません。止めるはずです。いえ、止めてみせます!」
男 「ですから…… ですからどうか、この同盟を受け入れていただきたいんです!エルフと森を護るためにどうか、どうかお願いします……!!」
女 王「…………」
女 王「――――かつて我らは人間に住処を奪われ人間から逃れるためにこの地に移り住みました。しかし、今尚数多くの同胞たちが人間に虐げられ続けている」
女 王「そして、自分たちのことしか考えない資源の使い方。無秩序に森を切り拓き、あげく住処を奪われた動物たちを目の仇にして殺している……」
男 「…………」
女 王「――――ですが」
弓使い「?」
女 王「ですが、それが人間の全てというわけではないのでしょう」
女 王「彼の言葉、かつて人間に虐げられていた貴女たちの、そして人間と共に旅した貴女たちの言葉…… そのどれもが真の心から出た言葉でした」
女 王「木々や動物の心を読み取れる私たちですが、同族・人間に至ってはその心を読むことはできません」
女 王「しかし、貴女方の言葉に騙されているような響きも、彼の言葉に私たちへの害意の響きも感じ取れないのです」
女 王「その言葉が真実であるか否か、それはこれから分かることなのでしょうね」
男 「……ということは」
女 王「一度、貴方の国の王と話をさせていただけますか?」
男 「はい!承りました!」
侍 従「しかし陛下、どこで会談を開かれるおつもりですか?」
衛 兵「この男をここまで通しただけでも異例中の異例。一国の王ともなれば護衛など浮くめて相当数になります」
衛 兵「それだけの人間を里に入れることを民たちが認めるかどうかは甚だ疑問であります」
男 「王に話を通せば、王一人での訪問も可能ですが」
侍 従「さっき貴方自身仰ったでしょう?様々な事情があるのです。国の王ともなれば一人で好きに動くことはできませんよ」
衛 兵「我らとて陛下御一人で会談に参加させることなどできない。貴様らを信じないということではないが損得や利害が絡む場となればそうはいかんのだ」
弓使い「国全体に関わってくることを個人の意思だけでは行えません。国を治める者としては個の意思ではなく全の意思を示さなければならないのですから」
エルフ「それに王が玉座を離れるということは何かを成そうとしている証左です。よくないことを考えてる者たちにとっては看過できないことです」
侍 従「つまり、あの方がこちらに来るのであればそれを追ってどんな人間がこの里に近づいてくるのかわからないのです」
男 「では、陛下が我が国に?」
衛 兵「それもまた難しい。彼女らを里の外に出しておいてなんなのだが、やはりエルフが里を離れるの望ましくない。王となれば尚更だ」
弓使い「どこに人間がいて、何時正体がばれるとも限りません。私たちの場合はそうなった時のために口の中に自決用の毒を仕込んでいましたが」
男 「マジ?」
エルフ「ええ」
侍 従「ですが、陛下の場合不測の事態が起きたとしても自決して頂くわけにはまいりません。故に陛下が里を出るというのはそもそも……」
エルフ「陛下が人間に変装するというのはどうでしょう?」
衛 兵「何を馬鹿な。陛下をそんな危険に晒すわけにはいかない。人間の王がするべきだ」
弓使い「しかし、あの国の規模を見るにそれは難しいと思われます。お忍びで出掛けるのにも苦労される有様だそうですので」
女 王「……ねぇ?私、当事者なんだけど、話に置いてけぼりにされてる気がするんですけどー?」
男 「奇遇ですね。ホントなら私が人間側の事情を話すはずなんですがどうにも蚊帳の外ですね」
―――――
―――
―
男 「――――最終的に、おっさんが国境警備の一団に慰問に訪れて、陛下と側近の方たちがその中に変装して紛れると」
侍 従「はい、そうです。ですが、絶対条件としてその場に居合わせるのは貴方方が信頼を置ける者だけです」
男 「そこはぬかりなくさせていただきます」
エルフ「それにしてもようやくこれで一歩前進…… ですね」
男 「ああ…… 君らが口添えしてくれたのが大きかった。ありがとう」
弓使い「いえ、私自身そうすべきだと思ったことを言ったまでです。今回の旅で改めて森は日々失われていると理解しましたので」
弓使い「あの場にいた人間だけでもかなりの数でした。森を糧にする人間全てとなると、その数は私たちの何倍にもなるでしょう」
男 「ああ」
弓使い「つまり、最早エルフだけでは森を守ることはできません。森どころかエルフ自身さえも」
弓使い「でしたら、この先エルフと森が生き残るためには…… 人間と敵対するのではなく人間と共に生きることを選択すべきではないかと」
弓使い「こんなこと、先生とこの子の話を盗み聞きした時は何を馬鹿げたことを、そう考えていました。ですが……」
弓使い「貴方と共に旅して、そして貴方の国の王とお出会いして、この考えが荒唐無稽な話ではなかったと思い至りました」
弓使い「そして、エルフと人が理想的な共存共栄をを成せるのは今この時この国を除いてはもう二度とないとも思えました」
弓使い「ですから、僭越ながらあの場で発言させていただきました。それにしてもまさか私がその馬鹿げた考えを自ら率先して実現させようとしたなんて」
弓使い「あの時の私が聞いたらどんな顔をするでしょうか?」
エルフ「フルトトみたいにぽかーんとした顔するんじゃない?」
弓使い「フルトト?」
侍 従「まぁ、陛下はこの話を最初に貴女たちに聞いた時からこの話を受けるつもりでいらしたようですけどね?」
男 「え?」
侍 従「……陛下は常々私たちエルフの行く末を憂いておられました」
侍 従「このままではやがて森は枯れ果て、エルフは緩やかな滅びを迎えるのではないか……と」
侍 従「現状を維持し続けるだけではどうしようもない、何か大きな変化が必要だと……」
男 「それこそ人間との共生とか?」
侍 従「ええ、その通りです。自ら人間の言葉を学ばれていたのも恐らくはエルフが人と共に歩む未来を見据えていたからでしょう」
エルフ「じゃあ、どうして陛下は否定的な態度をとっていらっしゃったんですか?最初から受けるつもりだったならあんなに詰問しなくても」
侍 従「確かめたかったんじゃないでしょうか?この同盟を申し出た人間は、真にエルフと人とが共に生きていく世をつくるつもりなのかって」
侍 従「もし人間の利益だけを考えているような人間でだったら、それはきっとエルフにとって良くない結果になるはずですから」
弓使い「……彼をお連れする前に私たちからも彼とあの王は信頼できるとお伝えしたはずですが」
侍 従「やっぱりそこは自分の目で確かめたかったのよ、きっと」
男 「……じゃあ俺は陛下のお眼鏡にかなったというわけですか?」
侍 従「ええ、合格だと思うわ。それにあの方については前々から陛下にお話ししていたし、きっとこの会談は上手くいくでしょうね」
男 「会談は上手くいく……?」
弓使い「会談だけなら王も陛下も互いに信頼を結べるでしょう。しかしいざ同盟となるとそう簡単にいくわけではありません」
エルフ「まず、エルフたちが同盟を認めるかどうか…… 陛下の一存だけでは決め切れないと思います」
侍 従「幸い私は片目になるだけで済みましたけど、人間の下から里に戻ってきた子たちの中にはそれはもう酷い目にあっていた子もいます」
侍 従「その子自身やその家族、友人と言ったエルフたちがそんな目に合わせた人間との同盟を受け入れてくれるかは……」
男 「……厳しいでしょうね」
弓使い「同じ痛みを知っている者が貴方の国の王なので、多少理解を得やすくなるとは考えられますけど」
男 「だといいけどな。おっさん大丈夫かな?信用してもらえっかな……?」
エルフ「そこはほら、貴方がいろいろフォローするんですよ!」
男 「でもおっさんあれだしなぁ……」
弓使い「あら、先ほどまでの威勢はどうしたんですか?」
男 「あー、うん…… まぁ、精一杯やるよ」
侍 従「それに同盟を受け入れるかどうかはエルフ側だけの問題ではありませんよ?」
弓使い「確かに。貴方の国の中にも同盟には反対する勢力がいるかもしれません」
エルフ「王様が仰っていたかつての権力者のような暮らしを望んでいる人間、同盟よりも支配した方がいいと考える人間」
侍 従「仮にそういった方たちを押さえつけられたところで次は他国との問題が出てきます」
男 「エルフとの同盟の結果、我が国は言い方は悪いですがエルフを数多く所有している国家となる。それが問題なんですね?」
侍 従「ええ、他国の人間が私と貴方を虐げていた人間と同じような人間ばかりだとすれば、エルフを寄越せと言ってくるに違いありません」
弓使い「断れば武力行使に出てくるでしょう。お話から察するに貴方の国は他国と戦争するだけの余裕はないのでしょう?」
エルフ「それに、そういう国は一つや二つじゃないんでしょう?」
男 「悲しいけどそういう人間ばかりだからなぁ…… 敵対は免れないだろ」
侍 従「同盟とは言いつつもしばらくは私たちの存在を秘匿してもらわなくてはなりませんね」
男 「でも、エルフの持つ農耕技術や畜産技術は欲しいし、他国の目の届かないところで隠れっぱなしでいてもらうわけにはいかない」
弓使い「技術譲与するエルフの数を絞りつつ、その正体がバレないように配慮していただく必要もあるでしょう」
弓使い「どこから情報が漏れるかわかりません。厳しい監視体制が必要です」
侍 従「でも、厳しい監視下ではエルフにも不満や鬱憤が溜まるでしょう。それにも配慮しないと……」
男 「問題はまだまだ山積みだよなぁ……」
―――――
―――
―
隊 長「……よぉ!何日ぶりだ?」
男 「それぐらい覚えとけよ」
隊 長「ははは、まぁそんなことはどうでもいいか。ここで待っておけばいいんだろう?」
男 「ああ、アンタらがもうすぐ到着するってことは既に伝えてある。直にエルフの女王陛下御一行が来るだろう」
隊 長「ちなみにどうやってエルフの里とやり取りしてるんだ?」
男 「プワカーク。伝書鳩みたいなもんで、まぁ言わば伝書梟ってところか」
隊 長「ほ~ん…… ま、いよいよお前の言ってた人とエルフの共存共栄とやらが実現するんだな。ははは、全く実感がしねぇな」
男 「まだ決まったわけじゃない。気が早過ぎる。これから陛下とおっさんとの会談を経て今後がどうなるか決まるんだからな」
隊 長「で、俺たちは慰問団としてエルフ御一行様に出会うわけだな?」
男 「ああ、知ってると思うが会談のことは公にしていない。下衆な連中に悟られないように、万一知られたらソイツを……」
ニヤケ面「任せろ、闘技場の見世物だった頃から俺の取り得は剣の腕だけだからな」
男 「頼りにしてるよ」
ニヤケ面「ただ、西との国境は隣の政情のせいか亡命者が増えてきててな。正直ここに集まった連中みんながみんな腕っこきってわけじゃない。その辺は勘弁してくれや」
男 『――――まぁ、結局陛下との会談を聞きつけてやって来たと思われる不審者は出なかった』
男 『革命の時にその戦いぶりから鬼神とまで呼ばれたあのニヤケ面のことを知らない者はこの国にはいない』
男 『そんな奴と戦わねばならないリスクを冒すような無謀な奴はいないということか』
男 『で、ここから先が正念場だ。人とエルフの行く末を決める一大事が…… 挨拶もそこそこにおっさんと陛下との会談が始まった』
男 『お互い目指しているものは同じなのだが、陛下は事が事だけに相手であるおっさんが本当に信頼できるのか探っているようだった』
男 『何せ人間は昔からエルフを迫害し続けてきた。慎重に慎重を重ねて対応したいんだろう』
男 『おっさんもその辺の事情が分かっているんだろう。些末な質問にも嫌な顔せずに対応している』
男 『やがて陛下の顔から険が取れてきた。国をひっくり返すなんて大それたことに大勢の人間を巻き込んだ人たらしの本領発揮だ』
男 『そこで俺たちは一気に思いの丈をぶつけた。陛下は黙ってそれを聞いていた…… そして最後に』
女 王「……最後に一つだけ聞かせてください」
国 王「どうぞ」
女 王「貴方方が仰った言葉…… 本当に信じてもよろしいのですか?」
国 王「……信じていただくほかありません。どうか信じてください」
女 王「……分かりました、貴女方を信じます」
男 『こうして、我が国とエルフの里は、人とエルフが共に生きていくための第一歩を踏み出した』
男 『問題は山積みだが、それでもその一歩はとても大きな第一歩だった』
男 『――――が、それからは大変だった。俺はエルフ族から最も信頼できる人間の一人として選ばれてしまったのだ』
男 『まぁ、同盟の言いだしっぺは俺だから「どうめいきまったはいそうですかさようなら」というわけにはいかないとは思ってたが』
男 「……こんな重要な仕事をやらされる羽目になるなんてな」
弓使い「文句言わない。ズィエルスィウリューシャ、フェンアナティ。はい」
男 「あー、ズぃエルスィうるーしャ、フェんあなてぃ」
エルフ「要所要所で発音が違っちゃいますねー。もう一度」
男 「ズィエルスィウルーしャ、フェんあなティ」
エルフ「惜しい!」
男 「あー、難しいー」
男 『二つの種族を繋ぐ者、調停官となった俺はこうしてエルフの言葉を覚えることに尽力している』
男 『あの子たちも調停官になって俺の傍らでサポートしてくれるがいつまでも通訳が必要じゃいかんだろうしな』
男 「あー、あーあー、ズィエルスィウリューシャ、フェンアナティ」
エルフ「その発音です!忘れないようにもう一回!!」
男 「ズィエルスィウリューシャ、フェンアナてぃ」
弓使い「……やり直しですね」
隊 長「はっはっは、大変そうだな」
男 「ああ、アンタみたいな脳筋にゃあ到底できないことさ」
隊 長「脳筋か、褒め言葉だな!見よこの筋肉!なんてな」
男 「誰が見るか。暑苦しい上に見苦しい」
エルフ「わぁー、すごい!あの、あの、触ってみてもいいですか?」
隊 長「いいよー、はっはっは」
男 「やめときなさい、馬鹿がうつるから」
隊 長「はっはっは。それは否定できねーな」
エルフ「え゛? バカってうつるんですか!?」
男 「……で、こんなところで油売ってていいのか?」
隊 長「なに、これから戻るところさ」
男 「やっぱり増えてるか、エルフ狙い」
隊 長「ああ、連中ネズミ以上の速さで増えてるんじゃないか?」
男 『大変なのは俺個人だけじゃなかった。この当時エルフとの同盟はまだ公にされていなかったはずだが、どこからかそのことを嗅ぎつけた連中がいた』
男 『同盟から約半年、そういう野盗や奴隷商人どもがこぞってエルフを掻っ攫おうとこの国に侵入してきてる』
男 『国が関わってくるとボロい商売ができないからか、国家規模で介入してこなかったのは不幸中の幸いって奴だったろうか』
男 『ニヤケ面はそういう連中をぶっとばすべく多くのエルフが住んでいる首都周辺の警備をしているんだがやはり数が多すぎるらしい』
男 『練度は大したことないが、数が多すぎるのでこうやって隊長殿御自ら報告を兼ねつつ増員を願いにちょくちょく来ていた』
男 『――――エルフとの同盟から2年、農地改革も進み且つ最早エルフの存在を隠しきれないと悟ったおっさんは諸国に向けて我が国とエルフとが同盟を結んだことを宣言した』
男 『すると早速「貴重な愛玩奴隷たるエルフの独占とは何事か」と諸々の国が抗議をしてきたそうだ』
男 「おっさんは我が国には奴隷制度がない、身分の差など存在せずあらゆる種族が手を取り合って生きる国だと主張したが当然のように聞く耳持たなかったらしい』
男 『連中、同盟というのは形だけで実質俺たちがエルフを支配していると思ってるらしく、おっさんにちょくちょくエルフを寄越せと言ってきたそうだ』
男 『無論おっさんはエルフは同盟相手で奴隷なんかじゃないと突っぱねたが、連中は性根が腐ってるからふざけんなと逆ギレしたとかで』
男 『交易を停止するとかそういった政治的制裁だなんだとおっさんに圧力をかけていたと聞いている』
男 『もっとも、草花の声や風の声とやらを聞けるエルフの手を借りて国内での食糧生産量は着実に増加したのでさして問題にはならなかったそうな』
男 『噂じゃどこぞの国が女王の懸念通り「エルフをくれないなんてとんでもない!」などとトチ狂って戦争を仕掛ける準備をしてたとかなんとか……』
男 『――――程なく、度の過ぎた阿呆が本当に攻め込んできやがった。貴重な資源の独占……つまりエルフの独占は両国間の条約に違反する、それが大義名分だ』
男 『それに呼応して幾つかの国も立ち上がり、連合軍となった連中の数はこの国の軍隊を遥かに上回った』
男 『エルフを慰み者としてししか見ようとしない最低の連合軍だ。エルフはモノや奴隷じゃないってのに』
男 『まぁ、そんなことを考えるような人間だったら戦争なんて仕掛けてこないだろう。かくしてくだらない戦いの火ぶたは切って落とされてしまった』
男 『争いを好まないエルフだが、今回ばかりは戦争に参加してくれた。この国が負けたらエルフの未来はないからな』
男 『しかし、蓋を開けてみれば開戦当初から我が国は優勢だった。相手の兵士とこっちとじゃ練度が全然違っていた。こちとらの兵士は奴隷時代の経験から足腰の粘りが違う』
男 『練度の違いというのも、連合軍の主力である奴隷兵士たちが最初の交戦時にこちらに寝返ったことにより残ったのは正規の兵士だけということだ』
男 『交戦前は圧倒的な戦力を持っていた連合軍は一日も経たないうちに半壊、戦力は五分五分になった』
男 『そしてエルフで構成された弓・鉄砲混成部隊が何より凄かった。敵の指揮官クラスが指示を出す前にノックアウトされるのが日常茶飯事だった』
男 『まぁ、それよりなにより戦場に出てこない連中の下衆な欲望のためだけに駆り出された相手方の兵士の士気が元より低かったのもあるだろう』
男 『そこに我が国の建国直後から進めていた他国への援助とそれによる奴隷の一斉蜂起が成功したのも大きかった』
男 『敵国は我が国と戦争していたせいで国内に戦力も碌に残っておらず反乱軍相手に劣性、当然我が国との戦線維持も困難』
男 『やがて相手方の食糧の供給が滞り始めたらしく、見るからにひもじそうな顔の兵士が大半を占めるようになった』
男 『それに対しエルフの知恵と知識を得た我が国はまだまだ食料には余裕があった。寝返った敵兵が兵糧をパクって来たのも大きい。そこで俺たちはある作戦に出た。それは……』
エルフ兵「どうか、剣を納め弓を捨て投降してください。こちらには食べ物がいっぱいありますよ~」
男 『見目麗しいエルフの女性の優しい微笑みと手にした豊富な食料、案の定下卑た権力者に嫌気がさしていた敵の兵は次々に寝返った』
男 『それに伴い国の人口もかなり増えたが、先にも述べた通り食料自給率は伸びているのでさして問題なし』
男 『で、その合間合間におっさんはエルフから得た技術を時刻と戦争していない諸国に提供していた』
男 『ちなみに「教えてほしいからエルフを寄越せください」と言ってくる国にはエルフの技術を学んだ人間を派遣していましたとも』
男 『その結果、そういった諸国も食糧生産量が向上し、彼らはエルフへの認識を「奴隷」からまさに「森の賢者」であると改め始めた』
男 『続々と国力を増していく他国、次々に投降する兵士、抑えきれない内乱。最悪の状況に遂に敵国は折れ、終戦協定が結ばれることになった』
男 『おっさんは遺恨を残さないようにと寛大な処置を施し、敵国にも積極的に技術提供した』
男 『――――かくして人とエルフは強く結び付き、幾つかの国と同盟の輪を広げ連合国となったこの国は人の科学とエルフの知恵が融合した新たな技術が栄えた』
男 『自然と科学が調和した新たな文化は畜産・農業・建築などあらゆるものに活かされ、この国には自然が溢れ人工物と草花が共存する空間が広がった』
男 『国王夫妻による積極的な技術提供の恩恵を受け、戦争を仕掛けねばならないほど困窮したり、進退窮まった国は無くなった』
男 『国王夫妻…… これは言うまでもないと思うがおっさんとエルフの女王が人とエルフの共存の新たな形として結婚したってことだ』
男 『西の隣国も大分豊かになり、この度何と我が国と同盟を結ぶことになった。それに伴い西の森の開発は中止され、失われた森の再生が進められている』
男 『ちなみに俺たちも人とエルフの共存の象徴の一つとして国を挙げての結婚式…… なんて柄じゃないので、その辺はご勘弁いただいた』
男 『森も力を取り戻しつつあり、人の争いも無くなった…… と、言いたいところだが戦争の火種は未だ煌々と赤く燻り続けている』
男 『諸国も豊かになったとはいえこの国への羨望や妬み、そして美しいエルフへの邪な欲望などが完全に無くなったわけじゃないからだ』
男 『最近までエルフを奴隷にしていた国なんかは完全に自業自得だが、エルフの反乱や復讐を恐れていたりするし』
男 『それに火種は国内に在る。エルフと人間の寿命の差からやがてこの国の主権を全てエルフに取られるんじゃないかという懸念してる連中もいる』
男 『エルフ側にも、そんな邪な連中からエルフを守るべく打ち出された体制が逆にエルフの自由を奪っているとの不満の声も出始めている』
男 『今の平和なんて所詮は仮初のもので、砂に描いた絵のように簡単に消えてしまうものなのかもしれない』
男 『だが、それでも俺はこの平和がこれから先もずっと、永遠に続くことを願わずにはいられない』
男 『――――人間の本質は、エルフの本質は、生き物の本質は、利己的で結局は自分のことしか考えていない』
男 『やはり、それは間違っていないだろうと思わざるを得ない。でも、俺たちはその本質をさらけ出した世界がどれだけ醜いかを知っている』
男 『だからこそ、その醜悪な本質を清い理性で押さえつけ、宥めすかせて、美しい世界を維持していけると信じている』
男 『天下泰平こともなし、そういう世の中をつくることができると信じ…… いや、そういう世の中をつくっていくんだ』
男 「――――そろそろ生まれてくるだろう俺と嫁さんとの子どものためにもな」
???「何をブツブツ言ってるんです?」
男 「……いや、愛しい嫁さんともうすぐ出会えるかわいい子どものために、未来に向けての決意表明をば」
__
 ̄ ̄ ̄二二ニ=-
'''''""" ̄ ̄
-=ニニニニ=-
/⌒ヽ _,,-''"
_ ,(^ω^ ) ,-''"; ;,
/ ,_O_,,-''"'; ', :' ;; ;,'
(.゛ー'''", ;,; ' ; ;; ': ,'
_,,-','", ;: ' ; :, ': ,: :' ┼ヽ -|r‐、. レ |
_,,-','", ;: ' ; :, ': ,: :' d⌒) ./| _ノ __ノ ?
乙……でいいのかな?
こんな閑所で書いてるのがもったいないほどいいSSだった
??はどっちなのかそれともどっちでもないのか
乙
R板じゃなくて普通の板の方でやってよかったんじゃないかと思う
乙
??は好きな人を当てはめろってことかな?
R板じゃなく向こうでも良かったと思うが良作だった
まぁ落ち着け。銃を突きつけられてはビビッて話もできやしねぇ。
……SSは終了だ大佐。少なくとも今のところはな。
この先に進むかはあんた次第だ。
,, <ヽヽヽヽヽヽ
彡,, ´ ̄´''''''` ̄`ヾ
彡ミ( ( )ミ
彡ミ| ,______` ´_____、iミ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ミミiノ _< ・> |< ・>、ミ; | 作者の自慰を見たければ
{6( ヽ、 /. 」.\ ); < 誓約文に同意しろ。
ゝ( ,,,;;;;;;;;;;,,, ノ |
彡、 ' `ー-´ ' ノミ | オーケイ?
'ゝ_''iiiiiiiiii''_/ \__________
( n __ノ i.二.i ヽ_
(__)___〉::::::::〈__ヽ
( y ll:::::::::l(⌒⌒)ハ
しノ ll:::::::::ll\/E )
ヽヽヽリリノノノノノ ミ
.ミシ" ̄'` ̄ ̄ ヾミミ
.ミ| ( iミミ ______________________________________
.ミト_,,,,, ハ ,,,,,,,,,_ 〈ミミ |
.v ,-・-l -・-_ iミミ | 私は18歳以上です。これより先、本SSを読み進める上で起こる全ての出来事を
ト _L_, イ〉5} | 自己の責任において処理し、本SS作者にその責任を問わない事を誓約いたします。
| ( ,-ー-、 ) |シ | ______
ヽ` ,⌒ ´ / | i OK! i
ゝ__ イ\ |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/ヽ_` _/ `ヽ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( ) V ( ,)
(,,..... ,O_ (,,,.....,,,)
く m●)ゝ.ioi⌒⌒ ) ノ
OK!(ズドン
何が始まるんです?
こんなのKENZENじゃないわ!
ただの良作SSよ!
乙
一気に読んだ面白かった
いい話を読めた上に不健全なお話も読めるんですか!?やったー!
久々にいい話が読めた、大変乙
ヽソソソソノノノノノノv
ミシ´ ̄'` ̄ ̄ ヾミミ
ミ| ( iミミ
ミト_,,,,, ハ ,,,,,,,,,_ 〈ミミ
ヤ_-・-l -・-、` iミミ
ト ,_|__,\ イ〉5}
___/ ̄/ | ( ,-ー-、 ) |シ / ̄/___ _ノ ̄/ / ̄/
/___  ̄/ ┌── .ヽ` ,⌒ ´ /. ──┐ / __ .__/ / ̄ / / /
_ノ ,: / ̄ └── ゝ__ イ\ ──┘ /__ノ_,/ /  ̄/ / /_/
/_ノ,___/ /ヽ_` _/ `ヽ /_ノ /__/ /_/
( ) V ( ,)
(,,..... ,O_ (,,,.....,,,)
く n●)ゝ.ioi⌒⌒ ) ノ
`ーi`,ー-´'-'ーーi'´
, ,´
,, <ヽヽヽヽヽヽ , ´ ´-
彡,, ´ ̄´''''''` ̄`ヾ ´
彡ミ( ( ● )ミ ー - ズドーン!
彡ミ| ,______` ´_____、iミ
ミミi/_《; ゚,》 |《; ゚》、ミ;
{6( ヽ、 /. 」.\ );
ゝ| ,,,;;;;;;;;;;,,, ノ
彡、 ' i-rー,i ' ノミ
\_''iiiiiiiiii''_/
_ノ i.二.i ヽ_
ミノV y ll::::::::::ll y V\__彡
\ ノ|___ll::::::::::ll__|ヽ_ /
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ii ̄| | ̄| | ii
_ii_ |____| .|____| ii__
(___) (___)
以下、男と嫁さんの間に子どもができる前のこぼれ話
―――
――
―
男 「……暇だねぇ」
???「何言ってんですかい、書類まだ片付いてねーんでしょ?」
男 「うるせぇなぁ…… なんだ、郵便屋か」
配達人「なんだとはなんだ。ほい、手紙だべ」
男 「どうも」
配達人「しかし珍しいだすな、奥さんじゃなくあんたの方に手紙なんて。何か悪いことしたんか?」
男 「うるせぇ、余計なお世話だ。っと、差出人は…… あの子か。結構分厚いな、何が入ってんだ?」
配達人「返事は集積所まで持ってきてちょ~よ」
男 「わかってるよ!え~と、なになに…… 『二人ともお元気ですか』」
エルフ『私は調停官を続けている中で、技術供与や商取引基準の摺合せ……などはさておき、お互いの民族文化への相互理解はまだまだ低いと気づきました』
エルフ『そこで私はそういったエルフの民族的・世俗的文化を人間に広めるべく本を執筆してみることにしました』
男 「『今回お送りしたのはその草稿です。奥様(笑)と一緒に見て頂き添削してもらえたら幸いです』……か」
男 「……どれ、いっちょ読んでみるか」
―――
――
―
男 「へえ、こんなんもあるんだ…… っと」
弓使い「……ただいま戻りました」
男 「おかえりぃ!!」
弓使い「きゃっ!」
弓使い「もう…… いきなり抱きつかないでください」
男 「だって久しぶりの愛しの嫁さんだぜ?これが抱きつかずにいられますか?いや、いられません」
弓使い「わかりました、わかりましたから…… ただいまの挨拶ですよね?」
男 「うん」
弓使い「……なんでこんな人間と夫婦になってしまったんでしょう」
男 「それは言わない約束でしょ、おとっつぁん」
弓使い「なんですか、それ?」
男 「さあ?古典芸能の『お約束』のひとつらしい」
弓使い「はぁ…… よくわかりませんが少々疲れましたのでお風呂入りますね」
男 「――――で、どうだった?」
弓使い「公務はそれなりに」
男 「身の危険とかは感じなかったか?」
弓使い「またそれですか…… 会席で既婚者だと言ってるのに言い寄ってくる男性が多くて大変でした」
男 「……やっぱり俺もついていくべきだった」
弓使い「貴方は他のお仕事があったでしょう?まぁ、ずっと隊長殿に傍にいていただいたので、身の危険はありませんでしたが」
男 「あのニヤケ面…… 俺の嫁さんに色目使ってたんじゃねーだろうな」
弓使い「またそんなこと言って…… 後でちゃんとお礼を言っておいてくださいね?」
男 「はーい、お疲れ様でした。で、何か飲む?」
弓使い「では、いつもより少し甘めの林檎茶をいただけますか?」
男 「あいよ。大分お疲れみたいだけどこの後どうする?とりあえず寝る?」
弓使い「いえ、その、久しぶりに一緒にいられるんですから…… あら?」
男 「どったの?」
弓使い「何ですか、この本……?」
男 「あの子からの贈り物。エルフの文化を紹介する本書いたんだって」
弓使い「エルフの文化、ですか…… そういえばそんなことを言ってたような」
男 「まだ未完成らしいから君にも見てもらって添削してくれだってよ」
弓使い「そういうことでしたら、ビシバシ添削いたしましょう」
男 「うん、しかし俺もまだまだだな。調停官なんてやってんのに知らないのが結構あったよ」
弓使い「そうですか…… でも、貴方のことですからこんなのはもう知っておいでですよね?」
男 「わわっ、ちょっと、急になんだよ?お湯持ってるから危ないぞ?」
弓使い「クルルルル・・・・」
男 「くすぐったいな…… で、えーっと、ごめん。わかんない」
弓使い「そ、そうですかっ!あは、あはははは……」
男 「悪いな…… で、どういう意味なのそれ?」
弓使い「な、何でもありません!」
男 「あ、おい…… せっかくお湯沸かしたのに部屋行っちゃうのかよ」
男 (そうだ、もしかしてこれに載ってるか?えーっと、両方の耳の内側を擦って、喉を鳴らす……っと)
男 「……あった。なになに、エルフの女性が男性の両耳を撫でながら喉を鳴らすのはそれ即ち――――」
男 (…………!?)
男 「林檎茶淹れてる場合じゃねぇ!!」
――――このあと滅茶苦茶
男 「腹筋した…… 何故ならこのスレはID腹筋スレだからな。>>1に書いておいたろ?わかんねぇなら>>1の俺たちの台詞の一文字目を上から順に読んでみな」
エルフ「【上流下蒸二相でい不っ今すレ!】=【うえるかむtwoあいでいふっきんすレ!】=【welcome to ID腹筋スレ!】=【ようこそID腹筋スレへ!】ということです」
∧,,∧
( `・ω・) welcome to ID腹筋スレ!
/ ∽ |
しー-J
ここはとにかく書き込み、出たIDの数字の回数だけ基本の300回に+αして腹筋をするという、
18歳未満お断り、大人のきのこの山派なトレーニングスレなんだな、これが。
例1 ID:wwh7KM12 ID抽出 の場合 7+12=19 なのでそこに基本の300回を足して219回頑張れよ。
例2 ID:bicycle. ID抽出 の場合 数字がないので基本の300回がんばってねぇん。
さあ、最低300回は腹筋するんだな、これが!↓(`・ω・´)「でい」が苦しい?いつものことなんだな、これが!
(´・ω・`)は?
あ?
お?
ん?
俺が皆の分まで腹筋したるからはよ
まさかあれだけの良作をこれをするためだけに書き上げたのか……?
アホか(褒め言葉)
乙だ
ワロタ
ふぇぇ300回もしたら死んじゃうよぉ
300+19=219
楽しかったよ乙
さぁ腹筋すっか
この腹筋パターンどこかで...
乙!
よく見たら>>45さんになんか怒られてたのでエロいの書き溜めます
とりあえずほんのお目汚しですが、ショタ成分が多すぎて本編から削った過去編をば……
あと、SS深夜VIPとトリップ違うんですね
ホントは「◆7.jSb0K4QQ」と申します
―――――
―――
―
醜男『ハア、ハア……』
ショタ『あ、あっ、ああ……』
醜男『……うっ! ……ふぅ』
ショタ『あっ、あ゛ぁ、あぁぁ……!!』
醜男『へへっ、ケツも大分こなれてきやがったな』
ショタ『はぁ、ひぃ……ん…………』
醜男『最初は痛がって散々泣き喚いて嫌がってた癖によぉ』
ショタ『は~、は~……』
醜男『買ってから男だと気づいたときには無駄金を使っちまったと思っていたが…… 存外悪くない買い物だったな』
ショタ『…………』
ショタ『あっ、あん…… んぅぅっ』
醜男『いいぞ!そのままケツ穴締めとけよ、おっ、オオッ!!』
ショタ『ああっ…… いっぱい、でてるぅ…………』
醜男『ふぅ……』
ショタ『はっ…… はっ……』
醜男『……そろそろ飽きてきたな』
ショタ『……え?』
醜男『ガキだからまだ農奴や鉱奴にするのは無理だな…… かと言って捨てちまったら完全な無駄金だ』
ショタ『…………』
醜男『そうだ、アイツのところに行って……』
~~~~
貴族『まったく、奴隷を交換してほしいだと?』
醜男『そうなんだよ。おっと、農奴や闘奴じゃねーぜ?あれは足りてる』
貴族『足りてる?はっ、農奴はともかく貴様のところの闘奴は酷いもんじゃあないか』
醜男『だからそいつらはどうだっていいんだ。お前のとこの女をくれって言ってんだ』
貴族『で、交換したいってのがそのガキか』
ショタ『…………』
醜男『男だが尻穴の具合は悪かねぇぜ。なんなら今すぐ試してみるか?』
貴族『貴様の中古品でしかも男だとぉ?儂は男色じゃないんだぞ、おぉ?』
ショタ『…………』
貴族『だが、この目が気に入った。いいだろう、コイツの代わりに一つ持っていくがいい。ただし、エルフは渡さんぞ?』
~~~~
ショタ『ん゛っ、う゛ぅっ……』
貴族『くぅっ、なるほど、確かにいい具合だ!』
ショタ『あっ、ありがと…ございまっ、あぁっ!?』
貴族『やはり食わず嫌いは良くないな、これからはガキなら男でも買ってみるか?ふっ』
ショタ『はっ、あっ、あッ!』
貴族『フンッ、フンッ、フッ、フォォっ!出る、出るぞっ!出っ…る……ッ!!』
ショタ『あ、はッ!あっ…!』
貴族『ぬふぅ、うっ、ふぅ……』
ショタ『はぁ… は…………』
貴族『クフフ、こうやって女のように啼かせ続ければお前はどんな奴になるのだろうな?』
ショタ『え……?』
貴族『クフフフフ…… 男でも女でもない何かになるのだろうな?ほれ、ぼーっとしとらんで舐めて綺麗にせんか』
ショタ『……あむっ、んぢゅ、ぢゅずずずっ』
貴族『おぁうっ!あ、案外うまいじゃないか…… もう一戦したくなってきたではないか』
~~~~
貴族『いつもご苦労、労働者諸君。今日は君たちの日頃の労をねぎらって私からほんの心ばかりだが、一つ差し入れをやろう』
ニヤケ面『差し入れっておい、このガキ…… 男だろ?』
貴族『そうだ、いつも女ばかりでは君たちも飽きるだろうと思って今日は違う趣向を用意してみたんだが…… オイ、鞭だ』
側近『はっ』
ショタ『……?』
隠者『や、やめろ!』
ショタ『ヒギィッ!!?』
貴族『このクソガキがッ!お前がっ、しっかりとっ、誘わんから!儂が恥をかいた!だろうがっ!』
ショタ『アグゥゥッ!アウッ、フギィィィイッッ!!』
奴隷『やめろ!やめてくれ!!』
貴族『ほらっ!しっかりと、おねだりをっ、せんか!して見せろぉッ!!』
ショタ『う…ぁ…… お、おねがいします…… オチンチンください、ぼく、オチンチンがほしくて、お尻に入れてほしくてたまらないんです……』
ニヤケ面『ぐ…… うぐぅ…………』
貴族『ほらぁ、もっと大きな声で言わんかぁッ!!!』
ショタ『ウギィィイイイッ!!ぼ、ぼくのお尻を!オチンチンでぇっ!メチャクチャについてっ、ください!ぼくをおんなのこにしてください!おねがいします!!』
農奴『…………』
貴族『ふむ、やればできるじゃないか?で、どうかね労働者諸君。この淫乱なガキのお願いを聞いてやってはもらえんかね?』
奴隷『……わかった。差し入れ、有り難く使わせてもらう』
貴族『うむ、遠慮はいらんぞ。早速だが存分に尻を犯してやってくれ。いつものことだが儂のことは気にするな…… ほらぁ、お礼はどうしたァ!!』
ショタ『ヒィィッ!ありがとうございます、ありがとうございますぅ!!』
貴族『クハハハハハハハッ!!!』
奴隷『ぐぅぅぅ…………』
~~~~
側近『このガキをエルフと同じ檻に?』
貴族『なに、この前奴隷どもにコイツを使わせたときにふと思いついてな』
ショタ『…………』
貴族『このガキにエルフの情を移させる。そうすれば…… クフフ』
側近『旦那様は本当に頭の良いお方、流石でございます』
貴族『ほれ、ここが今日からお前の住む部屋だ』
エルフ『…………?』
側近『愚図愚図するな!とっとと入れ!!』
ショタ『あぅっ……』
エルフ『……大丈夫?』
ショタ『……きれーなひと』
エルフ『私は人ではありませんよ、エルフです』
ショタ『えるふ?』
エルフ『ええ』
~~~~
側近『――――ったく、旦那はやるだけやって後始末はいつも俺だ。ほれ、もう少しだ。キリキリ歩け!』
ショタ『あ……う…………』
エルフ『こんな小さな子を…… ひどい』
側近『おら、さっさと入りやがれ!』
ショタ『あぐぅっ、う、うぅ……』
エルフ『いくらなんでもあんまりではないでしょうか!こんな傷だらけなのにその上投げ飛ばすなんて!』
側近『売女が!口答えすんじゃネェ!!』
エルフ『あうっ!』
側近『かわいそうだと思うんならテメェが面倒見てやれ!奴隷如きに人間様の看病なんて必要ねえ!』
エルフ『くっ……』
ショタ『うぁ…あ……』
エルフ『大丈夫? ……あまり清潔じゃないけど、私の服で包帯をつくるしか』
ショタ『……ありがと、おねーちゃん』
~~~~
ショタ『……できた』
エルフ『どれどれ…… うん、ちゃんと計算合ってます』
ショタ『おねーちゃん、これほんとにだいじなこと?』
エルフ『ええ、読み書きと算術は絶対に覚えておかなくてはなりません。いつの日か解放され…… しっ』
ショタ『きたんだね?』
エルフ『勉強の跡は消しておきます。貴方はいつものように寝たふりをしてください』
ショタ『うん』
貴族『……ガキはもう寝たか?』
エルフ『はい』
ショタ『スゥ…』
貴族『では、今夜も相手してもらおうか?』
エルフ『はい、喜んで。旦那様……』
ショタ『…………』
~~~~
エルフ『どういたしましては、レムルストゥニ。はい』
ショタ『レムルすトゥニ』
エルフ『う~ん、惜しいですね』
ショタ『おねーちゃん、どうしてエルフのことばも覚えるの?』
エルフ『……いつか人間とエルフが手を取り合うべき日が来たときに、貴方が――――いつもよりずっと速い、どうして?』
ショタ『…………』
貴族『フフン、この時間なら起きてるな。久方振りに相手をしてもらおうか?』
エルフ『お待ちください旦那様、伽でしたら私が!』
貴族『女ならお前以外にも腐るほど居るわ。儂はお前ではなくこのガキをだな』
エルフ『そんな…… 約束が違います!』
貴族『おっと、そうであったそうであった。では今日もお前の相手をしてやろう。ただし、ガキも一緒だ』
エルフ『旦那様!』
貴族『安心しろ、手は出さん。趣向を変えるだけよ…… クフフフフ』
エルフ『…………』
―――
――
―
貴族『クハハハッ!このガキが随分と、お気に召したようだな!ええ?』
エルフ『ん、ひぃぃ…んんっ、ひぁあぁっ!?』
貴族『子どもでもっ、できたような気分か!』
エルフ『ひゃうっ!?あっ、あ゛っ、あぁぁん!んぁああ……っ!』
ショタ『やめて…… おねーちゃんにひどいことしないで』
貴族『ひどいことぉ?何を言う、コイツ自らやってほしいと儂にお願いしとるのだ。なあ?』
エルフ『んっ、んむぅ…ちゅっ…… ええ、そうよ。これは私が、旦那様に…お願いしたことなの』
ショタ『え……』
貴族『クハハハハッ!!この淫乱め!フンッ!』
エルフ『んぁああぁ……ッ、あぁっ、あぁあアアッ!!』
貴族『儂の精液をくれてやるっ!ガキの前で、無様にイクがいい!!ぬふぅっ!?』
エルフ『んひぃっ!?いっ、いぃいいぃぃいいいい―――――ッ!!?』
ショタ『おねーちゃん……』
貴族『ふぅ…… さて、次は…… ん?』
エルフ『あ…… ぁ……』
貴族『気を失っておる…… だらしのない奴め、ガキの分まで儂の相手をするとはよう言えたものよ』
ショタ『おねーちゃん……』
貴族『このエルフが姉、か。クフフ、では情けない姉に代わってお前に相手を……』
エルフ『お、お待ちください旦那様……』
貴族『おぉん?』
エルフ『わたし、が、わたしが…お相手しますから……』
貴族『クハハ、そんなにこのガキを守りたいか!ならば次は喉を使ってやろう!』
エルフ『おぶぅううっ!?』
貴族『クフフ、いいぞっ、その澄ました顔をもっと無様に歪めろ!おっ、おおっ!』
ショタ『おねーちゃん!もういいよ!ぼくもだんなさまのお相手するから!!』
エルフ『ぶはっ、はぁっ、あ、い、いいの。これは、私が旦那様のためにやっていることなの』
貴族『そういうことだ。お前はそこで黙って見ていればいい』
ショタ『うぅ… うぅぅっ…………』
―――
――
―
エルフ『…あ、は…… あぁ…………』
貴族『ふん、結局はこの様か……』
ショタ『……だんなさま』
貴族『おぉん?』
ショタ『ぼくもだんなさまの…お相手をしたいです。させてください……』
貴族『ほほぅ、姉をかばうか。しかし、お前には手を出さんというのがコイツとの約束だからなぁ……』
ショタ『だんなさま!』
貴族『ふむ、何しろこちらはお前の姉との約束を破るのだ。大切な約束を破るからにはそれ相応のものが必要だろう?』
ショタ『それそうおう……?』
貴族『はっ、奴隷のガキには難し過ぎたか。まぁいい、ようするにお前も儂と約束しろ』
ショタ『はい』
貴族『いいか、コイツに手心を加えてやる代わりにお前はコイツのいた場所を教えろ』
ショタ『え……?』
貴族『お姉ちゃんと毎日仲良くお話ししているそうじゃないか?そう言うことも聞いているだろう?』
ショタ『いえ、ぼくは聞いてません。聞いたことないです』
貴族『本当かぁ?まぁいい、聞いていないのなら明日にでも聞き出せ。いいな?』
ショタ『あう……』
貴族『ほれ、返事はどうした?』
ショタ『……だめです、ごめんなさいだんなさま。それは聞けません』
貴族『……なんだと?』
ショタ『ごめんなさいだんなさま!ぼく、できません!』
貴族『このガキャア!コイツがどうなってもいいのか!ああっ!!?』
ショタ『それもいやです!どっちもいやです!!』
貴族『これだからガキはぁ…… 頑固なときはとことん頑固!まぁいい、まだほかに手はある!』
ショタ『あうっ!……ひぎいぃいいっ!!?』
貴族『グフゥ、久しぶりだなぁこのキツイ締まり具合…… フンッ、フンッ!』
ショタ『ふぐっ、ぐっ、うぐぅ…… あ、はっ…はあぁ……っ!』
貴族『フッ、フンッ、ほれ、起きんか!起きんか雌豚ァッ!!』
エルフ『うっ、うぅぅ………』
貴族『クハハハハッ!久々のチンポが嬉しいか?ギュウギュウに締めつけてきおってからにっ!!』
ショタ『あっ!んんぅ、ひぐっ…んぁぁあああっ、ああっ!』
エルフ『――――だっ、旦那様!約束が違います!その子にはもう手をださないと!』
貴族『ああん?このガキ自ら俺の相手をしたいと言ってきたのだ。応えてやらねばなるまいよ』
エルフ『そんな、そんなはずありません!』
ショタ『あひ、いぃっ、いいの、いいのおねーちゃん…… これは』
貴族『クフフ、かわいそうか?かわいそうだよなぁ?しかし、お前の答え次第ではやめてやらんこともない』
エルフ『私の、答え……?』
貴族『ああ、お前のいたところを、エルフの里の場所を言え。そうすればコイツを解放してやる』
ショタ『おねーちゃん、いっちゃダメェッ!!』
貴族『黙ってろ!』
ショタ『アブッ!アウゥ……ッッ』
エルフ『やめて!やめてください!』
貴族『やめてなどという言葉はいらん…… エルフ共の住処はどこだ?』
エルフ『それは…… それは…………』
ショタ『お、ねぇちゃん…… だめ…………』
エルフ『……トゥーリャシア、トゥーリャシア、です』
貴族『つーらしあ?ええい、下等な畜生の言葉など使うな!人間様の言葉で答えろ!』
エルフ『で、ですが!私はエルフの言葉以外でその土地を現すことを知りません……』
貴族『チッ、ならば…… ほれ、その地図だとどこになる』
エルフ『ええと、旦那様のお屋敷はどちらに?』
貴族『こ・こ・だっ!』
エルフ『はい、では…… 恐らくここの、更に上の方…… になりますでしょうか?』
貴族『なんだと……? 北の国ではないか!』
エルフ『そうなのですか?』
貴族『そうなんだよ!ええい、忌々しい!!他国ではおいそれと手が出せんではないか!!』
ショタ『あうぅっ!あっ、ああんっ…… ひぁああっ!』
貴族『クソッ!クソクソクソッ!クソがぁっ!!』
エルフ『旦那様!やめて!やめてください!!旦那様ぁっ!!』
~~~~
エルフ『ごめんなさい、ごめんなさい……』
ショタ『……いいの、ぼくがだんなさまの言うこときかなかったから。あやまらないで、おねーちゃん』
エルフ『言うこと?』
ショタ『だんなさまに言われたの。おねーちゃんをたすけたかったら、おねーちゃんがどこからきたのかきいてこいって』
エルフ『え……?』
ショタ『でも、それは言っちゃダメだと思ったから聞かなかったの。そしたらこーなっちゃたの』
エルフ『ごめんね、ごめんね……』
ショタ『おねーちゃんやさしいね。あったかくて、ふわふわしてて…… ぼく、おねーちゃんだいすき』
エルフ『……ありがとう。ごめんね…… ごめんね……』
ショタ『もういいよ、おねーちゃん…… それより、お里のこと言っちゃってよかったの?』
エルフ『うん、いいの。もういいのよ…… いいの』
ショタ『……ごめんなさい、おねーちゃん。ごめんなさい』
エルフ『あやまらないで、貴方は何も悪くない、悪くないのよ……』
~~~~
ショタ『ふわぁ…………』
貴族『クフフ、これだけ大勢の貴族を見るのは初めてか』
ショタ『……ここどこです?』
貴族『クフフ、面白い催し物が見れるところだ』
エルフ『…………』
観衆『『『『『『『『ワァァァアアアアア!!!』』』』』』』』
ショタ『ひっ…… な、なにがはじまるの?』
貴族『楽しい楽しい、奴隷共の決闘の始まりだぁ!』
ショタ『あれって……!』
ニヤケ面『…………』
闘奴『…………』
『ころせぇえ!!』『今日こそ負けやがれ!!』『連勝期待してるぞぉぉ!!』『殺せ!殺せ!殺せ!』
審判『……ハジメェェィッ!!』
~~~~
隠居『ほっほっほ、貴方のところのあの闘奴、連勝数をまた一つ上げましたな』
貴族『クフフフフ、偶々ですよ』
青年『偶々なわけないでしょう?何か秘密があるんじゃないですか?』
貴族『クフフ、実は私、たまに奴隷共に女を宛がってやっているのですよ。奴らとて性欲はありますからなぁ』
子爵『なるほど……』
貴族『なかなか面白いものですよ?新入りがいるときなどは特に面白い』
男爵『ほうほう』
貴族『最初女を与えてやっても同じ奴隷として同情があるのか手を出そうとせんのです。そこで女の方に鞭を与えてやるのです』
隠居『女の方に?』
貴族『ええ、奴隷に大義名分、言い訳を与えてやるのです。女を鞭から守るために仕方なく犯す、とね。そこからは本当に滑稽だ。私がやめろというまで連中は女を犯し続けるのですよ!もう鞭はないと言うのに!!』
男爵『ははっ、所詮は薄っぺらい同情というわけですな。本当は女を抱きたくてたまらないくせに、恰好だけはつけようとする』
貴族『全くです。連中なぞ人語を解する猿の分際に過ぎんというのに愚かにも人間様の真似事をしようとするのですよ!クハハハハハ』
ショタ『…………』
エルフ『…………』
~~~~
貴族『さて、お喋りはここら辺にしてそろそろ宴を始めましょうか?』
男爵『そうですな。実は先ほど闘技場で奴隷の血を見てから興奮が収まらんのですよ』
子爵『今宵は最近のお気に入りを持参いたしました。南部の生まれで程よい小麦色の肌をしております』
隠居『私は3匹ほど連れてまいりました。どいつもこいつも痛みや蔑みを悦ぶ淫乱ばかりですよ。お気に召しますかな?』
青年『貴方様は今宵はどんなものを』
貴族『クフフ、エルフと変わり種をばご用意いたしました』
ショタ『…………』
エルフ『…………』
隠居『エルフ!?いやはや、エルフを抱くのは久しぶりですなぁ!老い耄れながら血がたぎって参りましたぞ!』
青年『やはり美しいですなぁ、エルフは。どうすれば手に入るので?』
貴族『下世話な話になりますが、やはり金を積まぬことにはまず無理でしょうな』
醜男『ははは、ならば貴公にはまだまだ無理な話では?』
青年『ぐぬぬぅ……』
貴族『まぁ、近いうちにもっとエルフを簡単に手に入れられるようにしてご覧にいれますよ』
隠居『なんと!誠ですかな!!』
貴族『ええ、このエルフから里の位置を聞き出しました。北の国にあるそうです。下等言語では「つーらしあ」だとか』
醜男『北の国……』
貴族『あの国は貧しい国ですのであまり気にしていなかったのですが、エルフの隠れ里があるのなら話は別です』
男爵『手はあるのですか?』
貴族『扱いやすそうな小物に金を握らせて向こうで人手を集めています。私の右腕も送り込んでおりますので、必ずや皆様に吉報を届けてみせますよ』
青年『流石は大貴族であらせられる!実に有り難い!!』
貴族『クハハハハハハ』
隠居『……ところで、変わり種とは?』
貴族『コイツです。知人から譲り受けたのですがこう見えて実は男なのです』
子爵『なんですと!いやはや、実は私、美しい少年に目がないのです。皆様にそう言う趣味はないと今まで伏せておりましたが……』
男爵『なんと…… しかしお二人のご様子を見るに少年というのもなかなか良いものなのですかな?』
貴族『食わず嫌いはよろしくありません。今連勝中のあの闘奴も大層気に入った尻穴です。ぜひ味わってみてください』
ショタ『……よろしくおねがいします』
エルフ『旦那様……』
貴族『儂は手を出しておらんぞ?おぉん?』
子爵『はぁ、はぁ、こ、この少年の桃尻へは私が一番乗りさせてもらってもよろしいですかな?』
隠居『では、エルフの味見を私が一番にさせて頂こう』
エルフ『……ありがとうございます』
貴族『小麦色の少女は私が頂ますね』
褐色女『……よろしくお願いします』
男爵『では私めはこの乳に鈴をつけたこの助平女をば』
鈴女『あうっ!い、痛いです……』
ショタ『……よろしくおねがいします。せいいっぱい、ごほうしさせていただきます』
子爵『ハア、ハア、だいじょうぶだよぉ~、おじさんはねぇ、おとこのこをきもちよぉくさせてあげるがとくいなんだぁ~』
ショタ『あ…… あう…………』
青年『夜は長い、存分に楽しみましょう』
醜男『我らの栄華、ここに極まれり、ってな』
貴族『クフフフフ、この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば』
~~~~
貴族『全く見つからんではないか!!』
ショタ『うぐっ、うんっ!くぅぅ…… やっ、あっ!あがぁっ!?』
エルフ『おやめください旦那様!』
貴族『何が約束だ!お前らで共謀して儂を騙くらかしたのだろうが!!』
エルフ『いえ、そのようなことはありません!』
貴族『ならば何故只の一匹もエルフが見つからんのだ!?北の国の地図を手に入れお前に場所を確認させたというのに!!』
エルフ『それは…… もしかしたらもう他の地に移ってしまっているのでは?』
貴族『なんだと!お前嘘を吐いたのか!!』
エルフ『で、ですからもしもの話です!私は捕まってから一度も里に戻っておりませんので、確かめようもありません!』
貴族『ぐぬぅぅうううう…… ええい、忌々しい!どけぇ!!』
ショタ『ひぁ…あッ!!ああぁぁ…… あぅ…っ』
貴族『ぐっ、ふぅ…… うぅぅ、次は貴様だ!結局貴様は本当のことを言っとるのか!?嘘なのか!どっちなのだぁ!!?』
エルフ『ひぁっ、あ、がっ…… く、くびをっ、しめられ、は……』
貴族『そんなことは聞いておらん!本当のことを言えぇぇ……ぃッ!!』
~~~~
エルフ『――――あの、旦那様、この恰好は……?』
貴族『クフフ、先日このガキを可愛がってやっていたら生意気にも勃起しおってな?』
ショタ『…………』
貴族『そこで、このガキの筆下ろしは誰が適任かと考えたときにお前しか浮かばなくてな。姉のお前がコイツを男にしてやれ』
エルフ『え、あ……』
貴族『ほれ、見てみろ。お前の淫乱な花嫁姿に弟君も大層興奮されているご様子だぞ?』
ショタ『あう……』
エルフ『あぁ…… うそ……』
貴族『さぁ、こういう場合どうすればよいか…… お前は知っているな?』
エルフ『はい…… ごめんね?……あむっ、んちゅっ、ちゅ……』
ショタ『ひぁっ!?あ、ああ、お、ねぇちゃっ…… んんっ!』
貴族『クハハハハ、初めての口吸いはどうだ?たまらんだろう?』
ショタ『おねーちゃっ、やぁ、やっ、やめてっ!お、おちんちっ、とけちゃう!とけちゃっ、ひぁぁ……っ!』
エルフ『じゅるっ、ん、ぐぷっ…れる…… れろれろ、んぢゅっ!ぢゅぽっ、はぁっ、ぢゅる、ぢゅずずずっ!』
ショタ『はぁっ、あっ、ぅぅうううん……っ!!』
貴族『おい、その程度にしておいてやれ。どうせなら精通はお前の種壺でさせてやるといい』
エルフ『ちゅるっ、んっ…… はい』
ショタ『はーっ、はーっ……』
エルフ『はぁ、はぁ…………』
貴族『おいおい、ただ入れてやるだけかぁ?コイツは初めてなんだぞぉ?それになんのためにそんな格好をさせたと思っているのだ?』
エルフ『くっ…… ほら、見えますか?このだらしなくおつゆを垂らしているのが旦那様にいつも可愛がっていて頂いている……オマンコ、です』
ショタ『あ…ぅ……』
エルフ『お願いします。どうか今夜だけでも私のオマンコを…… 貴方のオチンポのお嫁さんにしてください』
貴族『クハハハハーッハハッ!いいお姉ちゃんを持ったなぁクソガキめがっ!!ほれ、チンポを舐めただけでだらしなく蕩けたマンコに突っ込んでやれ!!』
ショタ『あうっ!?』
エルフ『んっ…… くぅ……』
ショタ『お、おねーちゃ…… すごい、なかあつくて、ぬるぬるしててっ、んぁっ!あついよぉ……』
エルフ『んふ…… これが、女の中よ……』
貴族『こらこら、お前だけが気持ちよくなっていちゃいかんだろう?ちゃんと腰を振ってお姉ちゃんも気持ちよくさせてやらねばなぁ?』
ショタ『で、でもこれ……っ、きもちよすぎてぇ…… う、うごけませ……んんっ!』
貴族『……やれやれ、仕方のない奴だ。儂がお前の尻穴から腰の動かし方を教えてやろ、う!』
ショタ『んぉっ!?お、おぉぅ…… うぐぅ……っ!』
エルフ『だ、旦那様!なにを……んぁあっ!?』
貴族『ほれほれ、女はこうして突いてやれば悦ぶのだ!フン、フンッ!』
エルフ・ショタ『『あっ、あ、あぁっ、あん!あ、あぁんっ!!』』
貴族『これは面白い。一度ついてやればメス犬が二匹がとも同時に吠えおるわ!』
ショタ『あんっ、あ、ああ、おねぇちゃっ、チンチン、きもちいっ、いぃっ!』
エルフ『え、ええっ、わたしもキモチイイ!あっ、あん、ああ……っ』
貴族『クフフフ、儂のことを忘れておるようだな。妬けるではないか!』
ショタ『だ、だんなさまぁ!ふかっ、ふかいれすぅ~!!』
エルフ『ああっ、んっ、んぐぅ、旦那様の激しいのがぁ、私にまで…… はぁああっ!!』
ショタ『あ、なにこれ、おちんちっ、あ、ああぁぁああああっ!!!』
エルフ『ああっ、出てる!私の中にこの子の初めての精子がいっぱい…… ああっ』
貴族『ぬぅ…… 糞餓鬼め。一人だけで果てよって。まぁ、なかなか楽しめたな。よかったぞ、お前らの痴態』
ショタ『はぁーっ、はぁーっ、はぁ、はぁ』
エルフ『ああ…… 私はこの子に何ということを……』
貴族『何を終わった気になってる。まだこれからだぞ?』
貴族『ほれ、男がそんなことでどうする。だらしなくチンポを垂れさせているんじゃない、シャキッとさせろ!』
ショタ『はぁうっ!?』
貴族『クフフフ、尻穴を軽く穿ってやるだけで勃起させよって…… 男のくせに、随分と業が深い身体だな』
ショタ『あうぅ……』
貴族『さて、次はケツの穴に入れろ。姉上殿からどう肛門を閉めれば男が喜ぶか教えてもらえ』
エルフ『なっ……』
貴族『儂は下からこの淫乱なマンコを可愛がってやる。お前の粗末なチンポでは満足できない欲求不満な雌穴をな』
エルフ『くっ……』
ショタ『お姉ちゃん、お尻の穴ってここ?』
貴族『ほれ、弟君が困っておるぞ?どうすればいいか教えてやれ』
エルフ『……え、ええ、そうですよ。入り口は狭いけどグッと押し込めば奥まで入りますよ』
ショタ『こうかな…… ん、んっ、んぁああっ!?』
エルフ『はぁ、あ、ああっ……』
ショタ『は、入っちゃった……』
貴族『ではたっぷりと教えてやれ。貴様らのような雌豚がケツの穴でどうやって精を搾り取るかをな』
エルフ『は、はい…… いい、こうやって強弱をつけるようにしてお尻を締めるの……』
ショタ『うあぁ、あ、こっ、これすごい!うねうねってうごいて、きもちいい……』
貴族『おいおい、さっき腰の動きを教えてやっただろう?動かねば姉上殿の淫乱なケツ穴の締め付け方を学べんぞ?』
ショタ『はい…… うわ、お尻の中ってこんなにやわらかいんだ……』
貴族『いつも挿入される側だったからな。さて、次は抜くんだぞ』
エルフ『ん…… じゃあ、もう一度奥まできて……』
ショタ『う、うん!んん…… んぁああ!?す、すごいよぉ!』
エルフ『んく、こ、こうやって、入れられるときも、抜かれるときも、締め付けるの』
ショタ『あ、あっ、うぁぁっ……!!』
エルフ『締め付け過ぎても、駄目よ。相手の方の動きに、合わせて、こう』
ショタ『うあ、お、おねえちゃっ、ぼ、ぼくまたっ、あ、ああっ!!』
エルフ『いい、いいのよ、私のお尻の中に、出していいわ!』
ショタ『おねえちゃ、おねえちゃん!おねえちゃっ、ンン~~~~ッッ!!』
エルフ『んぅぅ、う…… いっぱい、出ましたね……』
貴族『…………』
ショタ『はーっ、はーっ、はー……』
エルフ『…………』
貴族『クフフ、物足りんのだろう』
エルフ『なっ……』
貴族『ごまかしはきかんぞ?マンコの肉が儂のチンポにキュンキュン吸い付いて来ておるからな』
貴族『口に出さずともわかるぞ。ガキの粗末なチンポでは気持ちよくはなれてもイケないんだろう?クフフ……』
エルフ『言わないで、ください……』
貴族『クッフフフフフ、では不甲斐ない弟君に代わって儂がお前を満足させてやるとしようか!』
エルフ『ん、ふっ、ううっ』
貴族『おいおい、儂がわざわざ欲求不満の貴様を満足させてやろうというのだ。何か言うことがあるのではないか?』
エルフ『……そんなこと』
貴族『いや、あるはずだ…… ―――――――――――――とな』
エルフ『なっ……』
貴族『ん~?どーした?言えんのか?』
エルフ『ク……ッ』
エルフ『男として不甲斐ない弟チンポでは満足できないこのふしだらな姉マンコを旦那様の逞しいオチンポで突いて下さりありがとうございます』
貴族『クハハハハハッ!イイゾイイゾイイゾ!儂のチンポで存分に善がるがいい!!』
エルフ『んぐっ、あ、ああっ!あぁん、ふっ、うぅ、はぁあ、あ、くぅぅぅうん!』
貴族『ほぅれどうだぁ?儂のチンポは弟と比べてどうなのだ?んん?』
エルフ『いっ、いいです!粗末な弟チンポが突いてくれなかったぁ、ああん!きもひいいところ、ガンガンついてえぐってぇええっ!!』
貴族『ふん、ふん!』
エルフ『あん!そこ、そこです!そこに、ほしっかったんれす!んあ、あ、はぁぁあああああ――――!!』
貴族『クフッ、最初は!いやいやっ、言っておったくせに、すっかり蕩けた声を、出し、おって!』
エルフ『いや、いわないれ、いわないれぇ!』
貴族『本物の好き者めが!ほらイけ!イッてしまえ』
エルフ『んはああぁぁああっ、ああああぁぁぁああああああーーーーーっ!!!……あ、あぅ』
貴族『ぬふぅっ!?ぐぅぅ…… 浅ましく搾り取りおるわ、淫売め』
エルフ『あ、あ…… あ、う――――』
貴族『何を休もうとしておる?一度気をやっただけでは満足できんくせに』
エルフ『あ、まっ、れ……』
貴族『ケツ穴も欲求不満だろう?可愛がってやる』
エルフ『ひぎゅぅぅうううっ!!?』
貴族『はん、挿入れただけで気をやりおったか…… 弟の前でつくづく救えん姉様だな』
ショタ『う…あ……』
貴族『わかるか?これが雄だ。雌を屈服させる圧倒的な雄というものだ』
ショタ『……はい』
貴族『さて、貴様はどちらかな?雄に媚び諂う矮小な雌か?雌を喰らう雄か?』
ショタ『僕は…… ばくは……』
貴族『わかっているだろう?貴様の男では姉の女を満足させられなかったその時にな』
ショタ『…………』
貴族『貴様は男ではない、淫蕩な雌だ。メスガキだ。そして、雌は雄に対してどうすればいいのか…… わかるな?』
ショタ『はい……』
貴族『そうだ、雌は雄に媚びることでしか生きていけない。男を受け入れる穴を広げて無様に尻を掲げるしかないのだ』
ショタ『はい、そのとおりです……』
貴族『クフフ…… その身に今一度深く刻んでやろう。雌を屈服させる雄というモノを!』
ショタ『―――――――――かはっ』
貴族『クハハ、こんなに儂のチンポに嬉しそうに吸い付いてくる媚びてくる尻穴が男のものであるはずがない!』
ショタ『あ、あんっ、ああ、あはぁっ……あぁん!』
貴族『今貴様の口から漏れ出ておる喘ぎ声、それが男の声に聞こえるか?いや、どう聞いても雄に媚びる雌の声だ』
ショタ『んぁぁ、いや、いやぁあああ…… ああ、お、おぐっ…… おぉぅ!』
貴族『何が嫌、なのだ?お前のっ、雌チンポ、は、突かれるごとに…… 嬉しそうに!精液を、漏らしておるぞ!』
ショタ『おっ、おほっ、おぅっ!あぎっ、いいっ、おちんちんから、なにかでてましゅぅぅううっ!』
貴族『そうだ!貴様の、メスチンポはっ、女を犯すためじゃない!男にっ、突かれて、嬉し泣きするためにあるのだ!!』
ショタ『んひっ、いっ!おっ、おしりのあにゃあっ、めくれりゅっ!めくれてりゅうっ!!』
貴族『ぐぅぅ…… 儂もそろそろ、限界だ!さぁ、イケッ!男としてではなくっ、雌としてイッてみせろぉぉおお!!!』
ショタ『ひいぃっ!あぁっ、いやあぁぁっ!いっ、いくっ!イクッ!いっ………… んはああぁぁっ!!』
貴族『ぬぉぉおお!おおぉっ!?』
ショタ『くふぅぅっ……ん、くっ、うぅ…… きゃふっ』
貴族『ふぅぅうううう…… ふん、覚えておけ。お前は男ではない、雌だ。メスなのだ』
ショタ『――――そっか、ぼくはメスなんだ……』
―――――
―――
―
男 「がっ、あっ……!?」
弓使い「大丈夫ですか!随分と魘されていたようですが……」
男 「あ、は、あぁ…… 夢、か?」
弓使い「すごい汗…… いったいどんな夢を?」
男 「夢、というか昔のことを夢に見た。まだガキだった頃の、鉱山奴隷になる前のころのことだ……」
弓使い「とても、辛い時期だったと貴方から聞きました。先生からもそう聞いています」
男 「ああ……」
男 (しかし、嫌な思い出だ。脂ぎったデブにケツを掘られて気持ちよくさせられてたなんざ…… ん?)
弓使い「……どうされました?」
男 (でも、よく考えれば俺のケツを掘ってた親父も気持ちいいから掘ってたんだよな?)
弓使い「あの、なんだかよくない笑みを浮かべてませんか?」
男 「……なぁ、お尻の穴って興味ない?」
弓使い「あるわけないでしょ!!心配して上げたのにいきなり何なんですかもう!!!」
――――このあと滅茶苦茶アナル開発して、無茶苦茶アナルセックスした
弓使いとのノーマルセックスはよ
はよ
早よしてください
再会した男と侍従お姉さんとのお姉ちゃんックスが見たいです(ゲス顔)
とりあえず最初の全裸エルフはエルフ表記だと紛らわしいから全裸と表記するべきだと思った。(小並感)
違う!違うんだよ!
俺が!俺たちが求めてるのはそうじゃないんだよ!!!!!!!
弓使い種付け編がない…
書き溜めてるんですよ、腹筋でもしてもう少しお待ちあれ。
ていうか喘ぎ声難しい、いっそ無くすか……
期待
有能な腹筋スレ
ほいじゃ、「林檎茶淹れてる場合じゃねぇ!!」 の続きいくよー
瞬時に男は女からの頼みとは言え、林檎茶など淹れている場合ではないと悟った。
エルフの文化を記載した本から男が見つけた先ほどの女の行動の意味、それはエルフの女性が男性を情交へと誘っている、ということ。
知らなかったとはいえ女の方から誘ってくるという千載一遇の好機を逃したことを男は歯噛みして悔しがった。
その後悔の念に突き動かされるままに男は階段の手摺に手をかけ、女の部屋目指して一気に駆け上がる。
猪突猛進、勢いのままに男は女の部屋の扉を壊さんばかりにぶち開けると何事かと驚く彼女を何も言わず強く抱き寄せた。
突然のことに理解が追い付かない女は拘束から逃れようと身を捩るが力の差は歴然、男の腕の中からは逃れられる筈もない。
抵抗を続ける女をいなし、その顎をに手を添えると男は抗議の声を上げようとする彼女の柔らかな唇を奪った。
ぬるりと女の口内に入り込んだ軟体は逃げようとする彼女の舌を捕らえて絡み付き、粘膜を蹂躙する。
押し退けようとする抵抗力が無くなるまで女は口唇を凌辱され続け、男の腕から解放されると同時に彼女は寝具の上に頽れた。
乱れた呼吸を整え、男の方へと向き直った女の眼前に飛び込んできたのは硬く屹立し雄々しく天を衝くモノ。
治まった筈の息の乱れが再び女を襲い、彼女は夢遊病患者のようにふらふらと男の股間へと顔を近づけるとその一物に舌を這わせた。
柔らかさと弾力を持つ舌で撫でられる感触に男は力強く陰茎を跳ねさせ、その先端から早くもだらだらと先走りを滴らせる。
滲み出てきたそれを舐め取られ、亀頭に軽く歯を立てられると、その快感で男の一物は更に硬度を増し彼自身の腹に突き刺さらん程になった。
そんな男の反応を舌先から感じ取った女は悪戯っぽく笑うと、男根から口を離し着衣を次々と脱ぎ始める。
やがて服の下から現れたのは、普段の女なら決して身に着けるはずのない本来の用途を果たす気の全くない扇情的な下着。
布地はほとんどなく紐と飾りだけで構成されたその下着は、隠すべきところをより美しく妖艶に演出し、男の劣情を加速させる。
先ほどの女の行為からして彼女が彼を悦ばせる為に、そして抱かれる為に子の下着を身に付けたのは間違いない。
食い入るように見つめてくる男の視線に流石に恥ずかしくなったのか、女は彼を突き飛ばすようにその胸板に飛びついた。
倒れ込みながらも男は華奢な女の身体をしっかり受け止め、そうなることがわかっていた彼女はそのままの勢いで彼に口づける。
激しいながらも甘い甘い恋人同士の口づけ、だがしかし、長く連れ添った老夫婦のような穏やかな愛を交わすには彼らはまだ若過ぎた。
女は男の頭をかき抱き唇と唾液と舌とを交じり合わせ、彼もそれに応えようと彼女のの口内を舐め吸い上げる。
スッと伸びた男の手が女の慎ましい膨らみに触れようとしたその時、彼女の手が彼の腕を静止した。
掴んだ男の腕を寝具に押し付け、接吻をやめた女は人差し指を口止めするように彼の唇に触れさせ何がしかの言葉を囁く。
艶やかな唇が紡いだ言葉の意味するところは――――自分に身を委ねろ、手を出すな。
ふっ、と微笑むと女は再び男の上に覆い被さり彼の股間にそそり立つ陰茎を慣れた手付きで捉えるとソレに少しずつ顔を近づける。
濡れた女の吐息が男のモノの先端をそっと吹き掛けられ、そのくすぐったいようなむず痒さに少し身を捩るも彼はじっと我慢した。
ねっとりと舌を這わせ、その味を確かめるように女が男のモノを万遍なく舐め上げると、程なく一物は彼女の涎塗れになる。
次に舌を口の中で転がし唾液を蓄え、それを手のひらに落とすと女は男のモノを握り上下にゆっくりと扱き上げ始めた。
普段は弓を引いたり書類を書いたりしている細い指先が、男のソレを丁寧に刺激し、その奥に眠る白く濁った欲望を揺り起こす。
再び先端から染み出してきた先走りを亀頭全体に塗り広げ、女は陰茎に指を一本一本絡みつかせながら柔らかく搾り取るような動きを継続する。
一物がビクンと跳ねた瞬間を見逃さなかった女は悪戯っぽく笑うとその反応を示したところを中心に責め始めた。
快感による呻きが漏れ始めたのに気を良くしたのか、女の手と指の動きにさらに熱が入りニチニチと粘ついた水音がその大きさを増す。
鈴口に指を押し付けて広げたり、膨らんだ部分を指の腹で押し潰したり、段差を何度も擦り上げたりして女は男のモノを嬲り続けた。
やがて女は男の臍に舌を這わせ、臍から腹筋、腹筋から乳首へとその愛撫の矛先を変えていく。
愛おしそうに、丁寧に、丹念に、献身的に男の身体を舌で愛撫する女だが、手の動きを止めることはない。
右手で男のモノを扱きながら左手で彼の左乳首を弄り回し舌でもう片方の乳首を、左手でモノを扱くときはその逆を。
交互に襲い来るぬるぬるとした舌の愛撫とグリグリと摘み上げてくる指での乳首責めに男の口から普段は出ないような喘ぎが漏れる。
責め方はこれだけではないとばかりに女は男の乳首をギュッと抓り上げ、急に襲ってきた強い痛みを感じて彼は情けない悲鳴を上げた。
抓った乳首を女が口に含み、痛みで熱を持っていた男の乳首を労わるように緩やかにチロチロと舌で愛撫する。
妖艶に微笑みながら少女が逆の乳首も抓り上げ舌で優しく看病されている内に痛みによる疼きが徐々に麻痺し、快感へと変わったことに男は戸惑った
今までの女との営みの中で感じたことのない快感を与えられ、いよいよ男の腹の奥底の獣欲は猛り狂い始める。
情けなくビクンビクンと跳ねる男の一物からその限界を感じ取った女はクスクスと笑うと何の躊躇いもなくパクリと先端を口の中に咥え込む。
うっとりとした表情で少しずつ少しずつその存在を確かめるように、味わうように男のモノを飲み込み遂には根元まで口内に収めてしまう。
そして休む間もなく柔らかい頬の内側の肉を肉棒に纏わりつかせ、蠢く舌が男にくすぐったさと快感を与えてくる。
射精させようとする激しい責めではなく、ただ男を悦ばせようと、気持ちよくさせてやろうという意思の籠った熱心で丁寧な愛撫。
唾液を絡みつかせるように女の舌がモノを上下に這い回るその度に男は極上の快楽を感じるのだった。
喉の奥まで飲み込んだかと思うと頬に含んで舐め回し、勢いに緩急をつけるだけでなく、刺激する場所をも変化させる女。
美しいと評されるエルフ族のその中でも女の顔は特に見目麗しいものであるが、彼のモノに熱心に奉仕している今の顔は淫らに歪んでいた。
いつもの美貌からは想像もできないような女の痴態、そんな彼女の姿を見れるのはこの世に自分一人だけなのだと、男の感情がひどく昂ぶる。
モノが溶けてしまいそうだと錯覚しそうな快感に男の腰が浮き上がり、いよいよ彼の限界が近いと悟った女は口淫に激しい動きへと切り替えた。
唇にギュッと力が入ったかと思うと、女は頬を窄ませ唇で肉棒を挟みながら勢いよく吸い上げる。
ゆっくりとした愛撫から一転、激しい吸引による刺激に女の口の端から涎やら先走りやらの混じった液体が飛び散った。
白濁した欲望を口の中にぶちまけられるのを求めているような女の激しい吸い上げに、男は腰をガクガクと振るわせる。
刹那、我慢する暇もなく一気に限界を飛び越えた男が白く濁った性欲の塊を勢いよく女の口内に吐き出した。
喉の奥を激しく打ち付けてくるドロドロとした精液を女は苦も無く食道へと流し込み、貪るように飲み下していく。
恍惚の笑みすら浮かべながら吐き出される白濁を次々に嚥下する女だったが、流石に量が多過ぎるのか唇から精液が溢れ出す。
遂には飲み切れなくなったようで女は思わず肉棒から口を離したが、それでも勢いは治まらず彼女は白濁を顔や胸で受け止める羽目になった。
体中に纏わり付いた男の欲望を女は指で掬い取り全て舐め取ると残りも吸い出すように男のモノを咥え、その美貌を歪ませる。
最後の強烈な吸い上げに最後の一滴まで吐き出せられ、少し項垂れ気味になった男の陰茎を女は玩具のように指で突いて遊び始めた。
ツンツンと突かれる内に次第に硬度を取り戻し再び天を衝く威容を取り戻した肉棒の上に女は嬉々として膝立ちで覆い被さる。
男の視界に映るのはしとどに濡れ光り蜜を滴らせながら物欲しそうにヒクヒクと蠢く女の秘所、そこは既に準備万端といった様子である。
両の手を屹立した男のモノに添えると愛液を垂らす柔肉に押し付け、一呼吸置いた後ゆっくりと腰を下ろし肉の割れ目に陰茎を飲み込んだ。
少し乱れた女の髪がしっとりと汗ばみ始めた細い首に幾筋か貼り付き、白く美しいその柔肌に恥じらいを含んだ紅が差している。
視線を下にゆっくりと下げていくと男の目には華奢な鎖骨、柔らかな曲線を描く慎ましやかな双丘、その頂にある花の蕾のような乳首が写り込む。
さらに、細くくびれた腰と程よく脂ののった太腿へと男の目線の舌は動いて行き、臍の窪み、無毛の丘、蜜で濡れ光る陰部を舐め上げた。
根元まで肉棒を挿入させた女が恍惚とした表情を浮かべ、その淫蕩な艶姿と先ほど見た裸体の素晴らしさにに男はさらに興奮を高める。
肉棒を秘所に受け入れただけでどうしようもなく感じているのか、動いてもいないのに彼女の肢体は震え、濡れた喘ぎを漏らし出す。
二、三度腰を前後に男が揺すってやるとそれだけで女は軽く絶頂したようで、全身が小刻みに揺れ、秘所の内側の肉が男のモノを締め付けた。
調子に乗った男は先ほどの女の忠告を無視して、下から彼女の最も奥まで届かせるかのように勢いよく腰を突き上げた
突然訪れた強い快感に女は甲高い悲鳴を漏らしたものの、小さく喘ぎながら勝手なことをするなと男を非難する。
涙ながらの切ない懇願であったが、男はそんな訴えなど聞こえていないかのように振舞い、少女の秘所を穿ち続ける。
最早少女の口は意味のある言葉を紡ぐことは出来ず、出せるものは歓喜の善がり声と悦楽の喘ぎのみ。
一際大きく腰を引いた男が女の子を成す器官の入り口を思い切り突き上げたのが止めとなって彼女は甲高い嬌声を上げながら絶頂した。
寝そべる男の上に跨ったまま女の身体はピクピクと痙攣し、彼女がどれだけ深い快感を得たのかをありありと伝えてくる。
絶頂の余韻が過ぎ去り、ようやく乱れた吐息を整えた女は恨みがましそうな目で男をキッと軽く睨みつけてきた。
自分だけ絶頂させられたことを非難する女の言葉に、男は自分は先に一回イッていると答えると彼女は不機嫌に目を逸らす。
怒りに身を任せるかのように少しよろけながらも女は立ち上がると、座っている男の眼前で自身の陰唇を広げ中の様子を見せつけた。
テラテラと愛液を溢れさせるそこは、まるで中に出して欲しかったとでも言うようにウネウネと蠢いている。
今度は勝手な真似をするなと念を押すと、女は再び腰を落とし今尚ギンギンに勃起している肉棒を濡れそぼった膣の奥底まで一息に飲み込んだ。
上下の動きだけでなく、艶めかしく腰をグラインドさせる女、腰を浮かせる度に淫靡な水音が響き、秘所の中では肉の襞が陰茎を擦り上げつつも締めつける。
まるで抱きしめるかのように包み込んでくる媚肉の蠢きに、男は理性を焼切られるような快感を覚えた。
普段の理知的な姿を忘れさせるほど情熱的に腰をくねらせ、喘ぎ、身悶えながらも女は男を高みへと追いつめる。
乳首にまたも女の手が伸び、摩ったり抓んだりして丹念な指使いで愛撫され、男の情欲がさらに燃え滾った。
それを感じ取ったのか、女はうっとりと蕩けた笑みを浮かべ、より繊細かつ大胆に腰を揺さぶり始める。
腰の動きだけでなく喘ぎ声も激しくさせ、女は男のモノを膣襞でキュウキュウと締めつけ、今宵一番の快楽を与える。
慎ましやかな乳房が女の動きに合わせて扇情的に挑発してくるかのように揺れ、男は興奮を煽られ射精欲がさらに強まっていく。
いつしか少女の腰は、技術も何もなく滅茶苦茶に動かされているだけになっていたが、昂ぶりきった男のモノは強い快感に晒されている。
荒々しい腰遣いでねっとりとそして情熱的に肉棒を責め立てる女の下で、男の腹の中で煮え滾っていた醜い欲望がついに限界を迎えた。
子種を求める女の叫びが引き金となり、子宮口に先端を勢い良く叩き付けた瞬間に男は射精し、同時に彼女も深い絶頂を迎えた。
陰茎が脈打つ度に、女の秘所が別の生き物のように収縮し、奥に残った精液まで吸い上げようと貪欲に蠢く。
膣襞の動きに耐えかねてた男はもう一度射精し、迸る熱い精液を受け止めた女は天を仰ぎ見ながら更なる絶頂の高みへと上り詰めた。
口からは涎を垂らし、秘所からは愛液と飲みきれなかった精液を溢れさせ、そして目には歓喜の涙を浮かべる女。
手足をピンと張り詰めさせ、女は全身を快感に震わせていたが、程なく力尽きたように男の上に倒れ込んだ。
全身を預けてくる女の唇に男がそっと口づけると、力の抜けた状態ではあるが彼女も舌を動かして懸命に応えようとする。
しばらくそれを続けて満足した男は唇を離すと少女に、次は自分が気持ちよくさせる番だ、と囁いた。
秘所から肉棒を引き抜くと男は素早く女の背後に回り、そ可愛らしい桃尻に顔を近づけると中心にある窄まりへと狙いを定める。
抗議か何かの声を上げようとする女だったが、直腸の中に男の舌が侵入してくる感触に思わず喘ぎ声を漏らしてしまい、何も言えなくなってしまう。
あの日から連日男に責められている女の肛門は、軽い愛撫で舌が入る程度に簡単に解れてしまうのである。
出すためだけに存在している排泄器官の内壁を軟体質な異物で逆撫でられるという異常事態、普通ならば痛みや不快感を感じるのだろうが、女はそうではなかった。
よく男に躾けられた菊門は舌が抜き出されると疑似排泄の快感にキュッキュッと締まり、舌が侵入してくる時にはそれを拒否するフリをして嬉しそうに纏わり付く。
舌の抽送がある程度楽になってくると、男は舌より長くより奥まで届くもの、自身の指を使っての愛撫に切り替える。
今も尚、秘裂から滲み出してくる蜜を掬い取り指全体に塗り広げて潤滑油の代わりにすると男は少女の微細な反応を楽しむようにわざとゆっくりと挿入した。
膣粘膜とはまた違う感触と締め付けを与えてくる腸粘膜を男は押し広げ、先ほどよりも深いところに触れられた女は長い息を吐く。
すんなりと根元まで突き刺さった指を男は肛門ごと中に押し込むようにぐにぐにと押し付けた。
挿入したままさらに手首を捻って回転を加えながら少女の腸内をぐりぐりと抉ると、徐々に少女の肛道が腸液がでれてきた。
肛門責めを続けながら女の耳に顔を近づけるとその事実を囁きかけ、よく聞こえるようにわざと大きな水音を立てて彼女の羞恥心を煽る。
恥ずかしさで真赤になっている女の耳たぶを男は唇で挟み愛撫すると同時に女に一つ命令をした。
言われるままに女は腹の辺りに力を込めると、肛門括約筋が収縮し直腸にある異物を排出せんと腸全体が蠕動運動を始める。
見る見る内に男の指は押し出され、少女は疑似排泄の快感に震え、いよいよ異物を全て排出する寸前になって急に彼女は悲鳴を上げた。
指を全て出し切ろうかというその瞬間に、男は腕を突き出し再び彼女の直腸内に指を埋め戻したのである。
荒い息を吐く少女の耳を舐りながら男がまたも同じ命令を囁き、どうせ出したところですぐにまた押し入れられることを悟りながらも女は従うしかなかった。
また指を挿入させられるために疑似排泄行為をさせられ、出しきれそうなところ押し戻され、只管それの繰り返し。
直腸から駆け上がってくる肛虐の快感が女の精神をじわじわと焼いていき、徐々に指の本数を増やされるも彼女の菊門はそれを嬉々として受け入れる。
息も絶え絶えになりながら女は寝具を強く握り締め、男から与えられる肛門性感を貪欲に受け入れ続けた。
だが、不意に菊門への愛撫が止まり切なげな表情を女は浮かべたが、すぐにその顔には愉悦が広がり一際大きな悦びの声を上げる。
女の直腸には男の凶悪なモノが深々と突き入れられ、肢体は小さく痙攣し、秘所からは蜜と潮が溢れ出していた。
待ち望んでいた肛門快楽による絶頂に女は全身を余すことなく肛悦に震わせ、男はその余韻が過ぎ去り彼女の理性が戻り始めてきた頃合いを見計らい腰を動かし始める。
肉棒の形に馴染み始めていた女の腸内がゴリゴリと抉り削るように責め立てられるが、逆に彼女の肛肉もは膣のそれとはまた違う締め付けで男のモノを扱き上げた。
女の尻を男が突き上げれば肛襞が優しく絡み付き、肉棒を抜こうとすれば名残惜しそうにキュッと吸い付いてくる。
暖かく柔らかい内側と少しきつく締めつけてくる出口を往復するたび、男と女の中を駆け抜けるのは例えようのない快美感。
雌の鳴き声を上げる女に獣の咆哮を上げる男、二つの声と腰を打ちつける音と蜜の弾ける音が部屋中に響き渡る。
瞬間、男の肉棒から熱くドロドロとした欲望が解き放たれ、肛内に広がる熱を感じながら少女は絶頂し、肛肉が射精を促すように妖しく蠢く。
欲望を全て吐き出し、互いに乱れた息を整え終えたところで、女が男に切なげで物欲しげな視線を向けてきた。
意図を理解した男は、女の直腸内から肉棒を引き抜き、そして先ほどまでの激しい肛門性交が嘘だったかのように啄むような甘い接吻を繰り返す。
暫く口吸いを続けている内に、男の陰茎が再び硬く天を突き、それを見て女は妖艶に微笑んだ。
勢いよく女を組み伏せると男は正常位の体勢を取らせると、彼女の秘所と菊門から先ほど彼の吐き出した白濁がとろりと垂れ落ちる。
扇情的な光景にいきり立つ太く硬く逞しい肉棒を男が激しく突き入れ、女の膣はそれはそれは美味しそうに奥まで頬張った。
ゴリゴリと男が亀頭を押し付け子宮口を刺激してやると、女は寝具の布を固く握り締めて甘い喘ぎと悦びの声を漏らす。
男によって雌に目覚めさせられた女の膣襞は雄の味に夢中になっており、肉棒への吸い付きも始めての時とはまるで違っていた。
抽送を続けるうちに女の喘ぎと声から余裕が消えていき、早くも限界を迎えようとしていることに気付いた男は止めを刺すように深く肉棒を打ち付ける。
ついでに女性の最大の性感帯とされる小さな豆を指で潰してやると、女は喜悦の涙を流しながらあっというま間に達した。
全身を駆け巡っているだろう快感にビクビクと肢体を震わせ、口からだらしなく涎を垂らす女は何とも言えぬ淫靡さを醸し出す。
興奮冷めやらぬ様子で男は、尚も硬さを失わない肉棒を力なく倒れ伏す女の菊門に突き入れると獣の交尾の体勢をとった。
激しく腰を動かすとその刺激で女は目覚め、すぐさま熱い吐息を漏らししきりに嬌声を上げて快感に身を任せ始める。
だが、男は少女の反応に飽きたのか腰の動きを緩めて入口のすぐ近くだけをゆるゆるとこすり始めた。
もっと激しく突いてくれと女は男を誘うように繋がったままの尻を左右に振リ動かす。
しかし、男が動いてくれないとわかると、女はもっと快楽を得ようと自ら尻を前後に動かし始める。
その瞬間を、女が自ら動き肛肉を突かれる心構えを解くその一瞬を待ち構えていた男は彼女の腰を掴むと勢いよく肛肉を突き上げた。
何の前触れもなく男のモノが届く最大径まで貫かれた女は軽くイッたようで、絶頂の影響で緩んだ尿道から液体が滴り落ちる。
主が意識を跳ばしてもまだ締め付けてくる腸襞を押し広げるように、男は遠慮の欠片もなく激しく彼女を犯した。
強すぎる快感で意識を無理矢理叩き起こされた女の肛内では、腸液と精液とが混じり泡立ち無様な音を響かせる。
汗と涙と涎、そして愛液に腸液、尿と潮とあらゆる液体を撒き散らしながら女は男の肉棒に翻弄され蹂躙された。
それでも女は悦びに濡れた甘い声を上げ悩ましく喘ぎ、肛悦の快美感の酔いしれ、男はいよいよ少女に覆い被さり射精に向けて突き進む。
腕を伸ばして女の小さな、されど柔らかく張りのある乳房を揉みしだき、男はさらに腰の動きを速める。
さらに男は抱きしめたままの女の身体を持ち上げ背面座位へと移行し、自身の体重でより深く肛襞を抉られ彼女より高い嬌声を上げた。
今日まで女の直腸を躾け続けてきた男は彼女の肛内の性感帯を知り尽くしており、弱点を的確に責められた女は休みなく小刻みな絶頂を繰り返させられる。
ビクビクと全身を戦慄かせ女の身体が一瞬弛緩するが、すぐにブルブルとその肢体を痙攣させ獣のような嬌声を上げこの日一番の絶頂を迎えた。
女の歓喜の咆哮と強烈な締め付けを受けて、同じく限界に達した男は彼女の尻穴の奥の奥にまで届くような勢いで精液を腸内にぶちまける。
決して受精することなど在り得ないのに孕ませんとばかりに流れ込んでくる白濁を蕩けた表情を浮かべながら腸で飲み込んでいく女。
男の肉棒が出し切れなかった精液をひり出そうと跳ねるたび、一拍遅れて女の肢体が反応し直腸が淫らに蠢く。
たっぷりと余韻を楽しんだ後、締め付けの弱くなった菊門から男がモノを引き抜くと恐ろしいほどの精液が漏れ、寝具に水溜りをつくった。
――――この後も滅茶苦茶セックスした
〈 ̄ヽ
,、____| |____,、
〈 _________ ヽ,
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ヽ' 〈^ー―――^ 〉 |/
,、二二二二二_、
〈__ _ __〉
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___/ / | |___| ヽ
\__/ ヽ_____)
乙
だがもっと続けてくれてもええんやで
くぅ~疲れましたw これにて完結です!
実は、SS深夜VIPで腹筋スレ立てしてたらSS速報VIPにも挑戦したくなったのが始まりでした
本当はここまで長くする必要なかったのですが←
決意を無駄にするわけには行かないのでマンネリのID腹筋で挑んでみた所存ですw
以下、キャラ達のみんなへのメッセジをどぞ
まどか「みんな、見てくれてありがとう
ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」
さやか「いやーありがと!
私のかわいさは二十分に伝わったかな?」
マミ「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいわね・・・」
京子「見てくれありがとな!
正直、作中で言った私の気持ちは本当だよ!」
ほむら「・・・ありがと」ファサ
では、
まどか、さやか、マミ、京子、ほむら、◆7.jSb0K4QQ「皆さんありがとうございました!」
終
◆7.jSb0K4QQ「って、なんでコピペ元のキャラが!?
改めまして、ありがとうございました!」
本当の本当に終わり
乙。後日談含め良SSでござった。
248では子供ができたとあるが、すげー低い可能性でハーフができるという設定なんかねえ。
まあとにかくお疲れ😃✋💦
ふぅ…
共存のきっかけとなった奴らがラブラブで大変よろしい
乙
てかタイトルのエルフはヒロインでもなんでも無いんだな
エルフルートはあるんですよね?
乙 エロも書けるとはしゅごいのう
ところでお姉ちゃんルートもあるんでしょう?
姉エルフに雄になった男を見せてやりたい…
???
乙
エルフバージョンのやつも良ければ書いて欲しいなぁw
ハーレムエンドとかも見てみたいね。
後、待従エルフとのラブラブセックスとかさぁ
乙。R見に来て良かった
やはり物語背景のあるいちゃラブは最高ですな
ハーレムは甘え
乙でございます
はよ
このSSまとめへのコメント
大作だな。面白かったよ。