シン「女の心変わりは恐ろしいのぉ!」(39)

ガシャン!

ユリア「宝石やドレス…。物では私の心は変わりません。しかもこれは暴力で奪い取ったもの」

ユリア「人の血が流れた物で私の心が開くと思っているのならシン、むしろ貴方を軽蔑します」

シン「俺にケンシロウと同じ生き方をしろと言うのか」

シン「出来んな」

ユリア「貴方には貴方の、ケンにはケンの生き方があります。貴方にケンの真似をして欲しいとは思いません」

ユリア「ただ、昔のシンに戻って欲しい。ケンや私と共に笑ったあの頃の貴方に」

シン「フッ…ユリア、見ていろ。今度はこんなチンケな物ではない!女王だ!お前を女王にして見せる!」

シン「そうすればお前も変わる。…絶対にな!」カツカツカツ…

ユリア「…シン。貴方はどうしてしまったの…」

シン「ふう…」ドサッ

シン『ユリア…、知っているとも。お前の中にはいつもケンシロウが居る事も、俺が何をしようがそれは変わらない事も…』

シン『いや、変わってもらっては困るのだ。お前はケンシロウと幸せになるべき女!』

男「悪役は辛いな」

シン「むっ、貴様…何者だ。如何に気を抜いていたとは言え、これ程近付くまでこの俺が気付かんとは」

男「お前、ワザとユリアの心を閉ざし続ける様に振る舞っているな」

シン「見ず知らずの貴様に話す事はない。早々に立ち去るがいい」

男「その想い、誰にも知られぬままケンシロウに倒されるつもりか?」

シン「何だと?」

男「俺が何者でも良かろう。胸の内を外に吐き出せば、お前の運命も変わったものになるかも知れんぞ」

シン「俺の運命だと?フッ、貴様は神にでもなったつもりか。貴様に懺悔でもしろと言うのか」

男「想う事、それだけでこの世界に大きな影響が及ぶ。それが破壊的なものなら破壊を、創造的な想いなら創造を生み出す」

シン「絵空事にしか聞こえんな」

男「お前はジャギに唆されてケンシロウからユリアを奪ったな。あれは本当にジャギの甘言に乗っての事か?」

シン「なに…?」ピクッ

男「いや、いくらなんでも単純過ぎる…と何時も疑問に思っていたのでな」

シン「何時も?何時もとはどういう事だ?しかも何故その事を知っている」

男「そこは聞き流す場面だ。…で、どうなんだ?」

シン「色々と知っている様だな。妙な男だが貴様に興味が湧いてきたわ」

シン「ジャギについてだが、ある意味奴の話が切っ掛けになった事は間違いない」

男「ある意味…とは?」

シン「俺はユリアを愛している。愛しているからこそ解ってしまうのだが、ユリアが愛しているのはケンシロウだ」

シン「そしてケンシロウもまた、ユリアを愛している。奴とは幼馴染みでな、奴の気持ちも昔から良く解っていた」

男「ふむ。どうやらお前は人が人を想う気持ちを察する能力が高いようだな。流石は愛に殉ずる星の男」

シン「俺が殉星の男と知っていたか。つくづく妙な男よ」

シン「奴の話は適当に聞き流すつもりだった。だが、奴の―」

―シン。貴様もケンシロウの甘さは知っていよう。今の時代を奴では生き抜く事は出来ん!

―となればユリアは別の誰かの手に落ちる!

シン「そう。その時、俺はある男の姿が脳裏に浮かんだ」

男「ある男とは!?」

シン「…ラオウという男だ。奴もまたユリアを想う男の一人。しかし、奴のユリアに対する想いは愛ではなく支配欲だ」

シン「奴はあまりにも強く、危険な男だった。伝承者となったケンシロウ相手であっても躊躇なく奪いに走り兼ねない男だったのだ」

男「だから、ラオウに奪われる前にお前が奪い、ユリアを護ろうとしたのか」

シン「結果的にそうなったが、そうではないのだ」

男「?」

シン「俺はケンシロウの力量を疑ってはいなかったが、奴の甘さが何時か致命的な結果を迎えるのではないかと危惧していた」

シン「そこで奴を試す事にした」

―過去―

シン「力こそが正義、良い時代になったものだ」

ケンシロウ「シン?」

シン『ケンシロウ、悪いがお前にユリアを守る力があるかどうか試させてもらうぞ』

シン『ここでお前が甘さを見せて俺に敗れるようならば、ラオウからもユリアを守る事は出来ん!』

シン「ユリアは俺がもらう!」ババッ

シン『ケンシロウ!俺を倒してユリアを守れる事を証明してみろ!』

ケンシロウ「シン!狂ったか!」ババッ

     南 斗 獄 屠 拳

     北 斗 飛 衛 拳

シン「」スタッ

ケンシロウ「」スタッ

シン『ケンシロウの馬鹿め~!』

ケンシロウ「うああ~!」ブシュゥ!

―シンの居城―

シン「…と言う訳だ。俺は相討ちすら覚悟で拳を放ったのに、奴の拳はまるで俺を倒す気が感じられんかった」

シン「奴の甘さは俺の想像を遥かに越えていたのだ。ユリアがかかっていれば甘さも抜けると思っていたが…あのザマだ!」ギュッ

男「では、何故胸に七つの傷を?」

シン「うむ。奴のあまりの不甲斐なさに腹を立ててな、本気で殺してやろうと思ったのだ」

シン「だが、それではユリアが哀しむ。俺は殺したい衝動を必死に抑えて、ユリアにこう言った」

シン「ケンシロウを助けたくば俺を愛していると言ってみろ…とな」

男『この話を聞くと悪いのはケンシロウではないかとすら思えてしまうな』

シン「あの時ユリアが嫌々ながらも俺を愛すると言ってくれたから良かったが、自分も一緒に死ぬとか言い出すのではないかと正直冷や汗ものであった」

男「苦労したな」

シン「当然、そんなケンシロウにユリアを安心して任せる事は出来ん。奴が真にユリアを守れる男になるまで、俺が代わりにユリアを守ると決めたのだ」

シン「俺は配下に支配する関東一円の広い範囲で暴れさせ、ケンシロウがこのサザンクロスに来る様に仕向けてある」

シン「奴は必ずユリアを取り戻しに来る。あれほど完膚なきまでに叩きのめし、罵詈雑言を並べ立てておけば、流石に俺に対する甘さは抜けていよう」

男『お前、どんだけケンシロウの事気に掛けてんの』

男「だが、余り派手に暴れては、ラオウにも此処を感付かれるのではないか?」

シン「別に構わん。ユリアが居ると知られさえしなければ…な」

男「仮に知られてしまって、ラオウにユリアを渡せと迫られたらどうする?」

シン「そうなればこのシンが守り抜いて見せるわ!」

男『この男の愛は性別の垣根を越えているな。まさに殉星』

男「それ、ユリアに打ち明けた方が良いんじゃないのか?ユリアは完全にお前の事を誤解していると思うぞ」

シン「ユリアはケンシロウと結ばれ、幸せになるべき女だ。俺はどう思われても、それで彼らが幸せになるならそれで良い」

男『まさに“漢”よ…。だが、それでは余りにもこの漢が報われなさ過ぎる』

―サザンクロス・酒場―

モヒA「おい、一杯やろうぜ」

モヒB「ああ。おい酒だ!早くしろバーテン!」

男「自分で注げ」ドンッ

モヒB「なんだとこらぁ!家畜の分際でご主人様に逆らおうってのか、おっ?」グイッ

モヒA「どーやら調教が必要な様だな」コキッコキッ

―やめなさい!

モヒA「なんだとぉ~!…は!」

モヒB「ハート様…」サーッ…

ハート様「ふぁーっ、ったくカスどもが~。自分より弱い者にしか意気がれないとは情けない奴等だ!」

ハート様「さっ、続けなさい。困った事があったら何でも言うといい。君達は大切な労働力なんだから」ニコーッ

男「うむ」

ハート「では、私にも一杯もらおうかな」

トクトクッ

ハート様「ありがとう。君も一杯やりたまえ」

男「ではコーラをもらおうか」トクトクッ

ハート様「君がキングの言っていた妙な男かね?色々とアドバイスをしてくれたそうじゃないか!」

男「あの漢は自分の在り方というものを知っていた。だからアドバイスの必要は無かった」

ハート様「グフフ、久し振りに良いニュースですね。私もキングに支える甲斐があるというものです」

男「しかし、シンの愛は外に向かい過ぎていて、自分の事は疎かになっているような感がしないでもない」

ハート様「それはどういう事かね?」

男「ハート様は、愛って何だと思う?」

ハート様「ホッホッホッ…キングを呼び捨てに出来るくらいです。私も呼び捨てにして頂いて結構ですよ」

男「ハート様と呼んだ方が呼び易いのだ。気にしないでくれ」

ハート様「君は確かに妙な男ですねぇ。あぁ、愛とは何かでしたね?愛とは人に対する執着とかと勘違いされがちですが、私は違うと思うのですよ~」

男「ほう。…と言うと?」

ハート様「愛してるからずっと自分の側に居ろ、自分以外の者を愛するな…これはよくある話でしょう?」

ハート様「これでは取り引きです。そんなの愛とは呼べませんねぇ」

ハート様「愛とは、お互いに代償を求めず自然と与え合う関係が成立している状態…とでも言いましょうかねぇ。あ、おかわりもらおうかな」トンッ

男「流石にハートの名を冠し、シンの片腕と呼ばれるだけの事はある」トクトク

男「しかし、今のシンは与える一方で与えられていないのではないか?」

ハート様「君はどうしてそう決め付けるのかね?クイーンにも話を聞いてそう結論出したのかね?」

男「えっ?」

ハート様「愛の形とは何も、男女関係だけではないと思うのですよ~。まあ、私も上手くは言え…ん?」チクッ

男「どうした?」

ハート様「ち…血~…」ソーッ

男「あっ、ボロいカウンターだから剥がれた木の破片が…」

ハート様「いてえよ…」

男「やば」

ハート様「痛えよー!」ガッシャーン!

モヒA「こらバーテン!テメェ何してくれやがったんだ!?」

モヒB「この方は自分の血を見ると周囲の人間を皆殺しにしないと気が収まらなくなるんだ!」

男「知ってるよ。じゃあな」

―シンの居城―

パァァァッ

モヒA「おお!傷が!」

モヒB「クイーン、俺らみたいな奴らの為にすみません」

ユリア「」ニコッ

男「それがお前の南斗聖拳か」

モヒA「あっ、テメェはバーテン!」

モヒB「このやろ~…貴様のせいでハート様に説教喰らうわ、大怪我させられるわで散々な目に遭ったぞ!」

ユリア「すみません、貴方達の怪我は治ったはずです。席を外してください」

モヒA「へ…へいっ」

モヒB「クイーン、ありがとうございやした!」

ユリア「貴方はどうして、これが南斗聖拳だと分かったのですか?他の南斗聖拳とは性質がまるで違うはず」

男「お前が南斗六聖拳の一人だという事も知っている」

ユリア「貴方は一体」

男「お互いに相手が何者であるか、それは重要ではない。重要なのは自分がどう在るかだ」

ユリア「不思議な事を仰いますね。でも、それはその通りかも知れません」

男「お前はシンの事をどう想っている?」

ユリア「シン…。彼は何かを焦っている様に感じます。それ程までに私の愛を欲しているのかと思うと悲しくなります」

ユリア「ですが、どうしても違和感が消えないのです」

男「…と言うと?」

ユリア「シンは私の愛を求めているというより、敢えて私の愛を遠ざけている様な、そんな感じがするのです」

ユリア「シンは私をケンから引き離しました。なのに私から遠ざかろうとする。シンは何を想っているのか、私には分からなくて…」

男「シンの事を嫌っていたり、憎んでいるわけではないのだな?」

ユリア「何度も憎いと、私の為に略奪を止めて欲しいと思いました。でも、心の底からシンを憎む事は出来ません」

男「シンに好かれていると知っただけで死にたくなると言ったのは?」

ユリア「貴方は何でもご存知なのですね。愛する人と安住の地を求めて旅立とうとしたその時、急にあんな事を言われればつい私も…」

男『うーむ…シンの想いを伝えるべきか。それとも経過を見守るべきか…』

男『ユリアはシンを心の底ではケンシロウとに向ける愛とは違うにしろ、それなりに大切に想っている様だ。残るはケンシロウだ』

男『ユリアはシンとケンシロウに愛されている。問題無い』

男『ケンシロウもユリアとシンに想われている。これも問題無い』

男『しかし、シンはユリアに想われていてもケンシロウにはおそらく敵視されている』

男『ケンシロウにシンを想う気持ちがあれば、綺麗な三角形になる。シンが死ぬ間際にシンへの想いが戻っているが、それでは遅い』

男『うーむ…ケンシロウに会いに行くかな…』

ユリア「貴方は何故、私達の事でそれ程頭を悩ませるのですか?」

男「悩んではいない。楽しんでいる」

ユリア「え?」

男「登場人物の大半が死ぬ世界。もしその全てが生き残ったらどんな世界になるか、それを創造したいのだ」

ユリア「…貴方は神…でしょうか?」

男「いや、俺も創造された存在だ。俺を創造したものが神だ。だから神から見れば俺もお前も同じ、創造物に過ぎん」

ユリア「」ポカーン

男「その違和感は、お前がお前とシンの間だけの事しか考えていないからだ」

男「その範囲の中で答えが見付からないなら、範囲を拡げるしかない」

ユリア「どういう事ですか?」

男「そこにケンシロウを加え、もう一度よく考えてみろ。パズルのピースが綺麗にハマってシンの真意を悟るに違いない」

ユリア「ケンを…?」

男「お前にはある固定観念がある。もし、シンがケンシロウを憎んでおらず、その反対だったとしたらどうなる?」

ユリア「ですがあの時、確かにシンはケンの存在そのものを許せない…と」

男「見聞きするものが必ずしも真実であるとは限らない。人は良くも悪くも嘘を付ける生き物だからな」

ユリア「」ハッ

バサバサバサッ…

ユリア「これは南斗の白鳩…。手紙が付いて」

男「手紙には何と?」

ユリア「五車星がこの街に侵入しているようです。機を見て飛び降りる様に…と」

男「自殺に見せ掛けて…か」

ユリア「ええ」

―数日後―

シン「見ろ、ユリア!お前の街サザンクロスだ!これで少しは気が変わっ…」ハッ

ユリア「私の気は変わらない。私の気が変わらない限り、貴方は同じ事を…いいえ、もっと酷い事を…」スッ…

シン「なっ?何を!?ユリア!」

ユリア「そんな事…私には耐えられない…!」バサアッ…

シン「ユッ―」

ユリア『シン…ご免なさい…』

バフッ

カンカンカンカン…

シン「ユリア!そこまで俺の事を―」

カンカンカンカン…

シン「生きて!生きてさえいてくれればそれでいい!ユリア!」ブワッ

シン「こ、これは奇跡か!傷一つ無い!」

リハク「我らがお助けするつもりでしたが、この男が…」サッ

シン「むっ、お前たちは?…ハート!」

ハート様「いやあ、ビックリしましたよ~。急にクイーンが空から降って来ましてね~」ポンポン

フドウ「この方の豊満な脂肪がユリア様を柔らかく包み込んだのでございます」

シン「そうか!ハート、よくやってくれだ!」

ハート様「拳法殺しとしては邪道ですが、何よりでございます」ブヒヒ

ヒューイ「リハク!拳王の軍勢がすぐそこまで!」

シュレン「急がねばユリア様が生きておられる事が拳王に知れてしまう!」

シン「くっ、ラオウが!」

シン『くそっ!ケンシロウより先にラオウが来るとは誤算であった!』

リハク「狂える暴凶星が近付いております。ユリア様は本来居られるべき我らが居城にお連れします故」サッ

シン「ま…待て!」

シン『くっ!このままではユリアはケンシロウからまた遠く…』

フドウ「一刻の猶予もありませぬ!シン様!」

シン「ユリア…」

ユリア「…」パチッ

シン「ユリア!」

ユリア「シン…ありがとう」ニコッ

シン『ユリア…!お前、俺に言ったのか?俺にありがとう、と?』

シン『その笑顔は俺に向けてくれているのか?ケンシロウに向けた顔と同じ顔を俺に…』

シン「…連れて行け。ユリアが死んだとなればラオウも追うまい」サッ

フドウ「シン様…」スッ

シン「生かせよ。俺かケンシロウ、そのどちらかが再びユリアの前に…。その時まで死なすでないぞ!」

シン『ユリア、必ずケンシロウはお前を迎えに行くであろう。それまで生き抜いてくれ』

リハク「は…ははっ!」

リハク『哀しいまでの意地…いや、愛よ!あくまでケンシロウ様とユリア様の為に果てるおつもりか!』

フドウ『かつて私もユリア様の愛に救われた。その愛がシン様をも…』

ハート様「これこそ私の思う愛ですよ~」

シン「ふう」ドサッ

男「憑き物が落ちたような顔だな」

シン「…お前か。なに、飛び降りたユリアが生きていてな」

シン「それだけでも奇跡で喜ばしい事だったが、ユリアは俺にありがとうと言った。そしてケンシロウに見せた笑顔を俺にも見せてくれてな」

男「そうか。それは良かったな」

シン「嬉しいには嬉しいが解せぬ。俺の事を嫌って、俺から解放されたくて飛び降りたはずなのに、何故笑顔でありがとうなのだ?」

シン「それに、俺は今まで散々ユリアの心を痛め付けて来たのだ。恨まれる事はあっても感謝されるはずはない…」

男「ユリアはお前から逃れる為に飛び降りたのではない。どうも、彼女に支える五車星の策略の様だ」

男「お前に対する感謝の意は自分だけではなく、ケンシロウの事も含めて…であろうな」

シン「ケンシロウだと?…そうか、読めたわ。お前、ユリアに入れ知恵したな?」

男「だが、答えを見付けたのはユリア自身だ。だからユリアが見せた態度は100%お前の想いが反映されていただろう」

シン「知られなくても良い、二人が幸せになってくれればそれで良い…。そう思い続けて来たが、想いを返される事もまた悪くないものだな」

男「ユリアはお前のケンシロウを想う心それ自体が嬉しかったのだろう。それはユリアがケンシロウを想う心と同じだからな」

男「今、お前はユリアとお互いに一つになったのだ。ケンシロウを通じてな」

シン「フッ…なかなか言ってくれるわ」

男「だが、もう一人想いを通じ会わせるべき者が居るだろう」

シン「ケンシロウか?フッ、奴にはこのまま憎まれていた方が好都合だ。また奴の甘さが顔を出さんで済むしな」

男「シン、お前が甘さと呼んでいるものこそ愛だと思わんか。愛を与え、受け取れた今なら、それが身を滅ぼすものかそうでないものかか解るはずだ」

シン「奴のあの甘さが…愛だと?」

男「あの男は非情な時はやり過ぎるくらい非情だ。だが、僅かでも想いを寄せた者に対してはお前の言う甘さが出る」

男「それは散々意地悪されたジャギにすら…な」

シン「ククッ…ケンシロウめ…」ニヤッ

男「さあ、お前、ユリア、ケンシロウ。この三人全てを全員の想いで繋ぐんだ。後はケンシロウとお前が心を通わせれば、それでお前の運命も変わろう」

シン「俺の運命…」

ハート様「ぶひ、ぶひひ。君が北斗神拳とかを使う男かね~」ポンポン

ケンシロウ「この部屋では豚を飼っているのか?」

ハート様「人を豚呼ばわりするとは良い度胸じゃないか!」

ケンシロウ「豚は豚小屋へ行け!」スッ

ハート様「活きの良い男ですねぇ。この拳法殺しが君の北斗神拳にも通じるか試してみたかったのですよ~」

ハート様「キング様の命令が無ければねぇ…ホッホッホッ」

ケンシロウ「シンは何処だ?」

ハート様「あの階段をご覧なさぁい。あそこを上った先で君を待っていますよ」

ケンシロウ「ユリア…今行くぞ」

ハート様『キング…ご武運を』

シン『来たか、ケンシロウ』

ケンシロウ「シン!貴様に会う為、地獄の底から這い戻った!」ビシッ

シン「フッ、わざわざ殺される為にか?」

ケンシロウ「ユリアを返してもらおう」

シン「もう一度その地獄に突き落としてやるわ!」ババッ

ケンシロウ「ほぉう!」ババッ

     南 斗 獄 屠 拳

     北 斗 飛 衛 拳

シン「」スタッ

ケンシロウ「」ストッ

シン「ぐあっ!」バキィン

ケンシロウ「安心しろ。秘孔は外してある」

シン「くっ!俺様を見下した様な目で見る事は許さん!」シャッ

パシッ

ケンシロウ「今の俺にはお前はもはや敵ではない!ユリアを返した事が身の為だ」

シン『この凄み…見事だケンシロウ。以前その姿を見せていればお前を認めたかも知れぬ』

シン「昔のケンシロウではないな。何故…」

ケンシロウ「執念!俺を変えたのは貴様が教えた執念だ!」

ユリア「」

ケンシロウ「ユリア…俺だ。今行くぞ」

シン「た、確かに貴様の執念を見た」ヨロッ

シン「ならばその執念の元を断ってくれるわ!」ドシュッ

ユリア「」

ケンシロウ「ユッ…ユリアー!」

シン「フッ…美しい死に顔ではないか。これで俺を倒してもユリアはもう居ない!貴様の執念も半減…」

ケンシロウ「シン!てめぇは殺す!」グゴゴゴ

シン「ケ…ケンシロウ」

シン「クッ!死ねっケンシロウ!うりゃりゃりゃりゃりゃー!」バババババッ

    南 斗 千 首 龍 撃

ケンシロウ「ふんっ!」ガシッ

シン「なっ!?」

ケンシロウ「おおお…!あ~あたたたたたたたぁ!」ボボボボボッ

     北 斗 十 字 斬

シン「ぐはっ!」ドシャア

ケンシロウ「」ズイッ

シン「フ…ケンシロウ、俺の命はあとどれくらいだ?」

ケンシロウ「秘孔は突いていない!」

シン「な…何故!」

ケンシロウ「その前に確かめねばならぬ事がある…」クルリ

ケンシロウ「…やはり。これは人形!シンどういう事だ?」

シン「それはこちらのセリフだ。何故、何故秘孔を突こうとせん!何故俺を殺そうとせん!」

ケンシロウ「同じ女を愛した男だからだ」

シン「ケンシロウ…!」

ケンシロウ「俺はユリアを手をかけるくらいなら北斗神拳を…いや、この命をも捨てる!お前も同じ想いだろう」

ケンシロウ「そんな男がユリアに手をかける事など有り得ぬ。そう思ったのだ」

シン「ケンシロウ…お前…」ググッ

ケンシロウ「ユリアは…ユリアはもう、居ないのだな?」

シン『どうする…?生きている事を伝え、後を追わせるか?昔のケンシロウではないが、それでもラオウは…』

シン「ああ、居ない…。見ろ、そこから飛び降りて命を絶った」

シン『しまった!つい嘘を。だが、これで良かったかも知れん。ケンシロウにはもう少し実戦経験が必要だろう』

ケンシロウ「そうか…」

シン「…ケンシロウ、俺を責めんのか?俺のせいでユリアは死んだのだぞ」

ケンシロウ「この見事なまでに精巧な人形はお前が造ったのだろう?ユリアが生きているかの様だ」

ケンシロウ「この人形を見れば、お前がどれ程深くユリアを愛していたか解る。そんな男を責める事は出来ぬ」

シン「俺を生かす気か」フラリ…

ケンシロウ「俺はお前まで…強敵(とも)まで失ないたくはない

シン「これから何処へ行く?」

ケンシロウ「あては無い…さらばだ、シン」

シン「…さらばだケンシロ…、いや…」

シン「ケン!」

シン『こいつの甘さはどうやっても抜けんな。だが、なればこそユリアはケンを深く愛したのだろう。かなわぬわ…』フッ

ハート様「キング、クイーンが居ない今、これからサザンクロスはどうなさるおつもりですか?」

シン「ケンシロウも強く成長し、ユリアの安全も確保された。目的を果たした今、俺にはこの街は不要だ」

シン「そうだ。ユリアを救った褒美がまだだったな。ハート、今後はお前がキングとなり、サザンクロスを治めるがいい」

ハート様「私がキングですと?ではキングはどうなさるのです」

シン「俺の宿星は殉星。殉星が示すままに動くとするわ。愛する者の居ないこの地から、旅立つ時が来たのだ…」

シン「ハートよ。スペード、ダイヤ、クラブと共に力を合わせ、サザンクロスを頼んだぞ」」

シン「偽りの動機とはいえ、愛した女の為に築いたこの街をな。さらばだ」

男「シンもケンシロウに匹敵するくらい愛に不器用な漢だな。いや、愛とは不器用なものなのかも知れん」

ハート様「おや君かね。君には色々と良くしてもらいましたねぇ」

男「ハート様、大出世じゃないか。この際だから、これからは本名のアルフレッドと名乗ったらどうだ?」

ハート様「ファファファ…もう君が何を知っていても驚かなくなりましたよ」

ハート様「…私は強い男と呼べましょうかねぇ?」

男「ああ、強く優しい男だ。…血を見て発狂するクセさえ無くせばな」

ハート様「ファッファッファッ!これは一本取られましたねぇ」

ハート様「ああ、すまないが一つ頼まれてくれないかな」

男「何だ?」

ハート様「ちょっと、私をキングと読んでみてくれないかね?」

男「ああ、いいとも。キング」

ハート様「…」

男「では、キング様」

ハート様「…う~ん」

男「何だかしっくりこないな。やはりお前はハート様と呼ぶのが一番良い」

ハート様「そうですねぇ~。私もそう思いますよ~。ホッホッホッ」

男「ところで、ケンシロウはお前を豚呼ばわりしたろう?」

ハート様「ええ。初対面でいきなり“豚”ですよ。流石に私も少し傷付きましたねぇ」

男「だが、ケンシロウは後でお前に深く感謝する事になりそうだな。ユリアを救ったのは他でもない、お前なのだから」

ハート様「ホッホッホッ」

―おわり―

ジャギ編とは一部矛盾が生じており、シン編の展開上その辻褄を合わせる事が出来ませんでした。

今回はひたすら愛の連呼になってしまい、若干重い内容になりましたが、それなりに楽しんで頂けましたら幸いです。

ありがとうございました!

乙でした!
北斗の拳読んでたら辻褄とか気にならないので次回も楽しみにしてます
ジャギ様がたくさん出たらうれしいw


今回も面白かった
この世界ならユリアもアミバに治してもらえるだろうからケンシロウ
も幸せになれるな

オッツオッツ
大体救われてしまったな
後はユダぐらい?

―奇跡の村―

レイ「ケン、次男トキとはこうして再開を果たし、三男のジャギは倒したのだろう?一先ずマミヤ達の待つ村へ戻ってはどうだ?リンやバットもお前に会いたかろう」

ケンシロウ「うむ…。その事についてお前に言わねばならぬ事が一つある」

レイ「何だ?」

ケンシロウ「俺はジャギと闘い、そして勝った。だが…殺してはいない」

トキ「…」

レイ「…そうか」

ケンシロウ「レイ、すまぬ。ジャギはお前の両親の仇。そしてアイリの幸福を奪った男。だが、そんな男でも俺の兄であった」

レイ「もう過ぎた事だ。俺はお前に言ったな。例え命をくれと言っても拒まぬと。お前がそうしたのなら、俺は何も言わぬ」

ケンシロウ「レイ…」

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