魔王「家出した」 (22)
魔王「だから、味噌汁にトマトを入れるのはやめろと言っているだろうが!!」
側近「なぜです魔王様!美味しいではありませんか!」
魔王「何がうまいんだあんなゲテモノ!」
側近「ゲテッ……い、いくら魔王様でも、その言葉は聞き捨てなりません!」
魔王「黙れ!いいか、味噌汁の主役は味噌だ!よってその具となるものは、味噌本来の香りを損なわず引き立てるものこそがふさわしい!」
魔王「トマトやナスなどは邪道だ……味噌汁を馬鹿にしている!」
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側近「それは違います!味噌なんていうものは単なる調味料にすぎません!塩や砂糖と同じです!」
側近「そんなものに遠慮して、無限の可能性を秘める具を限定するなど魔族にあるまじき愚行!許されるものでは無い!」
魔王「わからないやつめ……!それにしたってトマトはないだろうトマトは!」
側近「それは魔王様がトマトをお嫌いだからでしょう?」
魔王「ぬっ」
側近「あれやこれや理由を付けておりますが、結局は嫌いなものを食べたくないだけじゃないですか」
魔王「ぐぬぬっ……」
魔王「そんなことないもん!私は魔王だぞ!別にトマトを食うくらい造作もない……」
魔王「ただトマトの味噌汁は許せない!それだけの話だ!」
側近「……ほう、そこまでいうのならば見せてもらおうじゃありませんか」
魔王「なっ、なんだ」
側近「いえいえ、最近フランケン農園からいいトマトをたくさん仕入れたものですから……」
魔王「お……おい、まさか……やめろ……」
側近「トマトを食べるなど……造作もないんでしたよね?」
魔王「やめろおおおおおっ!」
側近「」チーン
魔王「………ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
側近「ぐっ……好き嫌いしてたら……大きくなれませんよ……」
魔王「ほっとけ!バーカバーカ!」
側近「私を倒した程度で安心しないでください……私は夏野菜四天王の中でも最弱……」
側近「たとえ私が倒れようとも……他の魔族が必ずやあなたにトマトを食べさせて見せます……」
魔王「グッ………!」
このノリ好き
魔王「…………決めた」
側近「………ついに覚悟を決めましたか。それじゃドラキュラのやつに作らせますかね…….」
魔王「家出する」
側近「は!?」
魔王「もう私も300歳だ。こんな城がなくたって一人でやっていける」
側近「いや無理ですよ!未だにトマトも食えないお子様魔王様が自立など……!」
側近「」チーン
魔王「私の決定は絶対だ。たとえ私が産まれたときからの側近であろうとも、覆すことは許さん」
側近「……だ、だめ、です……!外の世界は……!魔王様にはまだ早い……!そもそも魔王様、魔法以外はからきしじゃないですか」
魔王「今の時代、魔法で出来ぬことなどない」
魔王「私のこの力があれば、どんなところでだって生きていくことは出来る」
側近「その根拠の無い自信はどこから……!」
魔王「ドラゴン!」
龍「お呼びですかい」
魔王「私を外の世界へ連れてってくれ」
龍「外の世界……ですかぁ、こりゃまたずいぶんとアバウトな」
魔王「もうこのだだっ広いだけの城にもうんざりしていたんだよ。これはいい機会だ」
側近「龍……!命令です!魔王様の足止めしなさい!あなたならばできるはずです!」
龍「ん~……」
魔王「ドラゴン。側近より、私の方が偉い」
側近「そういう問題ではありません!ここで魔王様を逃がしてしまえば、あなたもただではおきませんよ」
龍「悪ぃね側近ちゃん」
龍「オレは基本面白そうな方の味方なんだわ」
龍「つーわけで飛ぶぜぇ魔王様ァ!」
魔王「ひゃっほー!」
側近「龍うううううううううッッッ!!」
魔王「はっはー!ざまーみろ側近!中間管理職らしく部下から糾弾されていろ!」
側近「クソッ……!魔界連合全支部に通達!魔王様が逃げられた!至急捜索されたし!」
龍「おっとおっかねぇなぁ。位置特定される前にさっさととんずらこいちまうぞ」
魔王「いけいけぇーっ!」
龍「んで、結局魔王様はどこに行きたいんだ?」
魔王「外の世界を見たい!」
龍「……だーから、それじゃ答えになってねぇって」
魔王「そうは言われても……私は城の中以外の世界を知らない」
魔王「本当にどこでもいいんだ……どこでもいいから、別の世界を知りたい」
龍「……城の中も、世界も大して変わんないですけどね、どちらも無駄にだだっ広いだけでさ」
龍「んじゃ、人間界に行きますか」
魔王「人間界!?聞いたことはあるぞ!確か世界で最も多い種族である人間だけが暮らしている世界のことだろ!?」
龍「まぁそんなとこでさぁ。なにぶん色んなものがオレたち魔族とは違うから、面白いもんが見れると思いますよ」
魔王「なるほど……そこまで飛べば側近たちも易々と追ってこれはしないだろうし……」
魔王「よしっ! 【トランス】!」
龍「……ほぉ、見事なもんですねぇ」
魔王「人間に化けるくらいは造作もないことよ」
乙
期待
龍「さて、あれが人間界ですわ」
魔王「……おお!すごいな、これが人間界の養豚場か。こんなにも小屋がひしめきあって……」
龍「ここは王都でさぁ。人間はあの小屋の中で暮らしているんです」
魔王「……そ、そうか……」
龍「ただ魔王城が規格外なだけで総合的に見りゃ建築技術は人間界の方が上ですよ」
魔王「そうか……そうなのか……」
魔王「まぁでも、景色は壮観だな!こんなにも緑がない土地というのは初めて見る」
龍「新鮮なのは新鮮ですよねぇ、これほどまで開拓が進んでいるのは人間界の中でも珍しいです」
魔王「龍、ここで降ろしてくれ。ここでなら、色んなことを知れそうだ」
龍「いいっすけどもう少し飛ばせてください。ここには着地できる場所がないもんでね」
魔王「む、そうか……わかった」
龍「………あー、魔王様。一つ謝らせてもらっていいっすか」
魔王「どうしたのだ?」
龍「いえね、龍っつー種族は無限に飛び続けることができるのは知ってますよね?」
魔王「まぁ、常識だからな。それがどうした?」
龍「実はその特性にはあるからくりがありまして…」
魔王「からくりだと?」
龍「例えば、久々の長時間フライトで本調子が出ずペース配分を間違え、不時着できない場面で体力が尽きてしまったりしたらね」
魔王「待て、待て、それは本当にたとえ話だよな?」
龍「一気に体が縮むんですわ」
【上空ーーーーーー2000M】
魔王「うわああああああああっ!!」ゴォォォッ
ミニ龍「というわけでごめんね魔王様ー!あとはご自分の力で何とかしてくだせぇ」
魔王「おまっ……!ここまで来てっ……!それはありえないだろっ!おいっ!待てっ!」
魔王「ってうわやばいやばい高い高い死ぬ死ぬこれ死ぬこの姿で落ちたらマジで死ぬ」
魔王(しかもこれ人間の小屋に直撃するコースじゃん!)
魔王「あばばばばばばばば」
魔王(こういうときどんな魔法使えばよかったんだっけ!?ていうか魔法ってどうやって使うの!?)
魔王(落下ダメージ軽減→空気抵抗を生み出す→風系統の魔法→ああっ!ええっと、あれだっ!!)
魔王「【サイクロン】!!」
バキバキバキバキメキメキバキバキ!!!!
【トランス】
魔王独自の変身魔法。自分が知識として持っている種族に完全に成り代わることが出来る。
弊害として、魔王としての身体能力・体力・耐久力は失われ、その種族に適した個体値となる。ただし魔力は変わらない。
きせかえカメラの上位互換。
【サイクロン】
術者から半径5M内部の空気を圧縮し、指定した方角へ放出する。
空気砲の上位互換。
《勇者宅》
勇者(俺の名前は勇者)
勇者(昨日、国王より人間を脅かす魔族の王、魔王を倒す命を受け、旅へ出る準備をしている)
勇者(まず目下の課題は仲間を集めることだ)
勇者(何せ敵は魔術を極めし呪術師という噂の飛び交う魔王だ)
勇者(腕っぷしには自信があるものの……俺だけの力ではとうてい敵いっこないだろう)
勇者(出来れば、優秀で可愛いヒーラーの女の子が一人欲しいが……)
勇者(どこかから降ってきてはくれないだろうか…)
バキバキバキバキメキメキバキバキ!!!!
勇者「なんだあああああああっ!?」
ドスンッ!
魔王「いたた……」
勇者「だ、大丈夫ですか?」
魔王「え?あ、ああ……大丈夫です。少し尻餅をついただけで……」
勇者「そうですか……それはよかった」
魔王「では、私はこれで……」
勇者「おい待て」
魔王「クッ」
勇者「王国の騎士として、数多くの客人をこの家に招いたことがあるが」
勇者「屋根からお邪魔してきたのはお前が初めてだ」
乙!
えた?
このSSまとめへのコメント
いいとこで落としやがって……。