涼宮星花「苦虫を噛み潰したよう」 (88)
アイドルマスターシンデレラガールズの二次創作SSです。
当SSはアイドル名「ことわざ」でタイトルをつけているシリーズです。
以前のお話に戻る場合はSS wikiを通ってください。
http://ss.vip2ch.com/ss/%E3%80%90%E3%83%87%E3%83%AC%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%80%91%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%8F%E3%81%96%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA
前々回
梅木音葉「好奇心は猫を殺す」
梅木音葉「好奇心は猫を殺す」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1436/14365/1436571195.html)
前回
古澤頼子「モナリザの微笑」
古澤頼子「モナリザの微笑」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1447/14471/1447165805.html)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467743278
─ 今までのお話! ─
アイドルプロダクションとしては比較的新しい方の『○○(ふたつまる)プロダクション』。
そこでただ1人のプロデューサーとして働くモバP(以下P)は社長の命令で御三家と呼ばれる上位プロダクションと肩を並べられるようアイドルを集めていた。
しかし、所属するアイドルたちのプロ意識の低迷に加え、Pになぜか恋してしまうメンバーがウィルスの氾濫のように増えていく始末。
他のプロダクションの闇もだいぶ見えてきてしまい、ストレスから整腸剤が増えていく一方であった・・・。
鬱陶しいから書くな
─ そして前回のお話 ─
・相葉夕美怪しい、でもPaプロとの合同イベントが行われそう
・古澤頼子怪しい、めっちゃ怪しい
・そして、Pに縁談のお話が・・・
─ ??? ─
「ねぇねぇ、次は何するの?」
P「そうだな、今度のお仕事はお菓子の宣伝してもらうって」
「え、ホント!?」
P「嘘言ってどうなる。頑張ってもらうぞ」
「うん、頑張るよ。普段から甘いパンとか食べてるしっ!」
P「はははっ、それとさ・・・」
「?」
P「俺、モチダさんとの縁談・・・成立したから」
「えっ」
P「こちらがモチダさん」
モチダ「初めまして、モチダと申します」
「え、えっ・・・!」
P「ごめんな、もうお前の面倒見れなくなったから」
「ま、待って・・・!!!」
P「事務所が面倒見てくれるから、じゃあな」
モチダ「さようなら」
「待って・・・、待ってっ!!!!!!!!」」
「ヤダ、ヤダッ!!!!行かないでっ───────」
─ ─ ─ ─ ─
「・・・・・・ッ!!!!」
「ゆ、夢・・・?」
(すっごい、嫌な・・・嫌な夢だった・・・)
─ ○○プロ・事務室 ─
大原みちる「そしたら延し棒を使っていただいてー」
藤原肇「はいっ、よっ、よっ!」
五十嵐響子「肇ちゃん、すごい上手い!生地が綺麗にのびてるよ」
肇「そう?」
みちる「きっと、陶芸やってるから手先が器用なんですよ」
肇「そうかな。・・・うん、そうだね!」
響子「自分の得意技がこうやって別な花を咲かせるのって・・・いいなぁ・・・」
肇「響子ちゃんだってお料理すっごく上手で・・・」
響子(その技が別な花を咲かせるのって・・・やっぱり結婚とかでありまして・・・)
みちる「響子ちゃん?なんか変な顔してどうしたんですかー?」
響子「へっ、な、なんでもないよミッチー」
響子(みんな、Pさん大好きすぎて均衡を保ってるけど・・・どうやって納得させて出し抜くか・・・うーん)
肇「・・・Pさんの事考えてますね?」
みちる「あははー、あたしもすぐ分かりましたよー」
響子「ぇ゛!?」
肇「響子ちゃんはすぐ顔に出るなぁ」
みちる「むしろポーカーフェイスな方ってウチの事務所にいましたっけ?」
響子「・・・・・・芽衣子さん?」
肇「あの人はどちらかと心の奥底が見えない、が正しいような・・・」
みちる「では、ちひろさん!!!」
響子「失敗だけ顔に出る方・・・と言う意味ではあってるような」
千川ちひろ「3人には、ちょっとお話が必要ですか?」
3人「ヒィッ!?」
ちひろ「まぁ、なにもしませんけど♪パンの方は出来そうですか?あそこの人たちはお待ちのようですよ」
早坂美玲「ウ、ウチは待ってないぞッ!こ、コイツが欲しいって言ってるだけだからなッ!」
「欲しいー!」
杉坂海「さっきすっごいニコニコしてたのはどこの人だったかなー?」
美玲「う、うるさいッ!」
「美玲お姉ちゃん欲しくないの?」
美玲「ヴッ!!!!?ほ、ほ、欲しくない・・・って言ったら嘘になる・・・」ボソボソ
海「始めから素直に言っておけばいいのに・・・美味しいパン、楽しみだよねー?」
「うんっ!!」
ちひろ「・・・ってわけで頑張ってくださいね」
3人「はーい」
響子(今日は、社長さんの娘さんが都合により事務所で預かることになった)
響子(なんでも社長さんとその奥さんは大手の建設会社のパーティに参加しているみたいで、集まる人がまぁ・・・筋骨隆々というか、怖い人ばっかりだから連れていけないとのこと)
響子(私たちからすれば、屋外ライブの舞台ステージを設計してくれたりしてすっごい助かる会社なので・・・無碍には出来ないわけで)
社長娘(以下娘)「海お姉ちゃんおっぱいおっきい!」
海「お、そうかい?ウチより大きい人いるよ?」
娘「それにかっこいいもん!」
海「そうかなぁ~?」テレテレ
美玲「・・・・・・」
美玲[自分の胸を揉む]
美玲「・・・・・・」
娘「・・・美玲お姉ちゃん?」
美玲「うおッ!?な、なんでもないぞ?」
海「美玲はまだ成長期なんだし・・・」
美玲「なんでもないってばッ!!!!!」
娘「?」
海「気にする時期なんだ、ね?」
娘「はーい!」
美玲「・・・・・・////」
海「・・・ちゃんとよく食べてよく運動してから、だよ」
美玲「ぁい」
海「美玲は運動苦手なのは分かるけど、何もしないんじゃ上達しないからね?」
美玲「う、うるさい!」
海「センスはいいんだから。今度櫂と一緒にプールにいっておいで」
美玲「言われなくても分かってるッ!」
美玲(でも眼帯外したくないからプール行きたくないんだけどな)
響子(ってなわけで、年下の面倒が一番得意な海さんと、なんだかんだ面倒見のいい美玲ちゃんに娘さんを頼み、私たち料理組は娘さんにパンを作ってあげることになったのでした)
響子(私も年下の面倒を見るのは得意なつもりなんだけど・・・ここは最年長に任せましょう)
響子「・・・おっぱいってどうやったら大きくなるんですかね?」
肇「やっぱり、揉むのでしょうか?」
みちる「Pさんに?」
響子&肇「それがいちば・・・」
響子(言いかけて2人して明後日の方向を向いてました。理由は、猥談で絶対手が止まると分かってたから)
みちる「・・・Pさんに胸揉まれた人って誰かいます?」
響子(ミッチー、今日は空気読まずにグイグイ来るね)
響子「あ、当てたことはあるかなー」
肇「わ、私は何も・・・」
肇(抱き付いた時、意識してくれてたかな・・・)
響子「キスした時に体と体触れたとか!」
肇「な、ないです!////」
みちる「えっ、じゃあ肇ちゃんはどうやってキスしたんです!?」
肇「えーっと・・・こう、肩に手を置かれて・・・」
響子「置かれて!?」
みちる「置かれてどうなったんですっ!?」
肇「そ、そ、そして『大丈夫ですか・・・?』って囁かれて・・・////」
響子「ささやかれてぇ!?////」
肇「それで・・・ぐいって体を引っ張られて・・・」
みちる「引っ張られて!?////」
肇「唇と唇が触れる瞬間に『ごめんなさいね』って聞こえた後・・・その・・・」
みちる「やっちゃったんですか!?」
肇「う、うん・・・、子供のキスとかじゃなくて・・・その、ハムッって感じ・・・////」
響子「は、ハムって・・・その、啄んでる感じ・・・?////」
肇「うん・・・いつ唾液が交換されてもおかしくないような・・・」
みちる「あーっ!!!Pさんってばなんでそんなキスしちゃうんですかーっ!!」
響子「そうだもんね、肇ちゃんのキスした時って確か面接の時だったもんね・・・」
肇「不安な心にPさんの唇は猛毒でした・・・もう、逃げられません・・・////」
肇(それにこないだ、もう1回キスしてくれましたしね)
海「そこの3人ー!小さい子がいるんだぞーっ!?」
娘「いるんだぞーっ!」
3人「ごめんなさーいっ!!!!!!!」
海(まぁ、Pさんとキスするとなんか狂うのはなんとなーく分かるけどさ。アイドルとして分かっちゃいけないんだろうけど)
海(・・・というかここの5人・・・・全員Pさんとのキス経験済みなのか)
海「美玲はちゃんとTPOを弁えて・・・」
美玲「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ────────!!!!!」
美玲(う、ウチは今の話よりすっごいキスしたのかッッ!!!!!わ、わ、わぁぁッ──────────!!!!!)
海「これは放っておこう」
娘「美玲お姉ちゃん?」
海「ちょっと嫌な事思い出しちゃっただけだからそっとしてあげて、ね?」
娘「はーい!」
響子「あっ、Pさんと言えば・・・」
肇「言えば?」
響子「最近、妙に悩み事しているときが多いなぁって」
みちる「ギクッ」
響子「Pさんっていつも悩んでたり、相談してたりするイメージですけど」
響子「ここのところヘンなんですよね」
肇「確かに・・・なんというか、血の気の引いてる感じの悩み方というか、普段の仕事の悩みじゃないというか」
みちる「よく見てますね・・・」ボソッ
響子「ミッチーなにか言った?」
みちる「え?いやいや、何も言ってませんよっ!!」
肇「怪しいなぁ・・・」
みちる「Pさんなら大丈夫ですよ!今日だってお仕事いっぱい持ってきてくれますよ!」
響子「うーん」
娘「おしごと・・・そうだお仕事!お姉ちゃんたちは今日はお仕事ないの?」
海「ないわけじゃないよ。今日の収録はないけど、レッスンと案件・・・って言っても分からないか。どのお仕事を受ける相談する日なんだよ」
娘「お仕事選ぶの?」
海「そうだよ。例えば・・・ウチはダンスが得意でイメージカラーがオレンジなんだ」
娘「うん」
海「でもそんな人が黒い服着て、ドラマで刑事役とかやってたらちょっと変に感じない?」
娘「うん!」
響子(イメージチェンジや事務所の方針で変えたりする事はありますが、やっぱり)
肇(自分の特色を活かす方面を重視しますよね)
みちる(それに海さんはともかく私や肇さんはそこまで選べる立場ではありませんしね)
海「例えばそこの美玲が眼帯外してたら変に思っちゃうよね?」
娘「えー?」
美玲「な、なんだよッ!外さないからな!!プールに行っても外さないからなッ!」
娘「じー」
美玲「外さないぞ!これは絶対にッ!!!これはウチのポリシーだ!!」
海「まぁ、話を戻そっか。お仕事を選ぶのは、その人に一番ぴったりなやつを選ぶって話なんだ」
娘「はーい!美玲お姉ちゃんもおめめのコレだけでお仕事選ぶのー?」
美玲「そんなことはないぞッ!ウチは百戦錬磨だからなッ!」
海「メイド服可愛かったね」
美玲「ぐ、ぐぅ・・・////正直、あれは巴がいなかったら恥ずかしさで潰れてた・・・」
娘「いいなー、私もお仕事してみたーい!」
海「もうちょっと大きくなったらね。社長はどうするか分からないけど・・・」
みちる「“アレ”になっちゃうんじゃないですか?」
海「“アレ”?」
みちる「業界の厳しさ知っているから自分の娘や家族にそんな業界行かせたくないって感じの」
海「ああ、“ソレ”ね」
響子「なんて言うんでしょう、老婆心?」
肇「私は自分に子供がいたら芸能界に連れて来たいかな・・・」
海「へぇ」
肇「こうやって自分の持っている全てで戦える世界・・・世の中探してもそんなにありません」
肇「あの時、踏み出したから井の中の蛙だった私が煌びやかな照明の下で声を張って前に進めてるんです」
肇「子供がいるなら・・・同じ道を、あわよくば私を超えてほしいかなーって」
肇「まだまだ未熟ですけどね」
美玲「気持ちは分かる、ウチも最初は胡散臭いヤツに引っ掛かったって思ったけど」
美玲「なんだかんだ楽しいし、自分が生きてるって感じするモン。来て良かった」
海「みんなそれぞれの思いが積まれてるって感じするね」
海(今でこそ、大丈夫だけど・・・ついこないだまで不安な気持ちに押しつぶされてたもんね)
海(もう負けないよ、みんなも同じ気持ちなはず)
娘「海お姉ちゃん、難しい顔してる」
海「えっ、ああごめんね!みんながどんな将来描くか考えてたんだ」
響子「海さんが?なんというか」
みちる「珍しいですね」
海「そう?天真爛漫な芽衣子さんと自由奔放な伊吹の背中見てるとさ、どうしても考え事多くなっちゃうんだよ」
響子「考え事ばっかりしてたらシワが増えちゃいますよー」
海「何もなしに老けたらPさんに貰ってもらうよ」
海(って、あ゛っ)
響子「・・・」ジー
肇「・・・」ジー
美玲「・・・」ジー
みちる「っ・・・・・・」
海(うヴぇえ、みんなの視線が痛い・・・って)
海(あれ、ミッチー・・・?なんだかいつもと様子が違う?)
娘「みんなどうしたの?」
海「あー、うん、おじさん人気なんだよ」
娘「おじさん!おじさん元気!?」
海「すっごく元気だよ。この後、レッスンしてる子たち迎えに行って戻ってくるって」
娘「あっ、櫂お姉ちゃんもいる!?」
海「もちろん」
娘「やったー!!!!」
─ ─ ─ ─ ─
─♪
みちる「あ、焼けましたね。良い感じにふっくらして・・・」
肇「美味しそうに焼けてますね」
響子「愛情込めて作ったんですから、美味しいに決まってますよ」
みちる「味付けはしますか?マーガリンとかジャムとか。あたしはそのままいきたいですが」
肇「人それぞれでいいと思うよ?」
響子「そうだね、じゃあ私冷蔵庫から色々持ってくるね」
娘「おいしそー!」
美玲「おい、まだかッ!!」
みちる「やっぱり欲しかったんですね」
美玲「う゛っ・・・////だって良いにおいなんだモン・・・」
肇「正直でよろしい」
娘「海お姉ちゃん、これ食べていいの!?」
海「ちょっと待ってね。いま響子お姉ちゃんがジャム持ってきてくれるから」
娘「はーい!」
海「しかし、ずいぶんな量を作ったね」
海(目の前にはテーブルの全体をを占めるかの如く積まれる黄金色のクロワッサンやコッペパン、パンケーキなどなど)
みちる「オーブンだけじゃ足りなかったですからね。ちょっと色んな手を使って奮発しちゃいました!」
海「ミッチーの本領発揮だもんね」
海(土鍋に炊飯器、いろんな手段でパンを作る様は流石というべきか)
海(この量、食べきれるかな?って思ったけど、ミッチーいるから大丈夫か)
ガチャ
西島櫂「おっ、すっごい良いにおい♪」
並木芽衣子「なになに?パン焼いてたの?」
海「あっ、おかえりー」
海(レッスン組が戻ってきていた。いつの間にか外の光は穏やかなお昼ごろとなっていた)
娘「櫂おねえちゃんだ!」
櫂「おーっ!きーてーたーかー!どーんっ♪」
娘「どーん♪」
芽衣子「よしよーし」
娘「ぐわーんぐわーん」
海(社長の娘さんはものすごく櫂に懐いている。会社で旅行に行った時、肩車とか色々遊んでもらっていた事があった)
海(慣れた手付きで娘さんを抱っこしている、櫂ほどの出来た身体を持つ女性なら問題ないよね)
芽衣子「今日はお預かりなんだっけ」
海「そうみたい」
芽衣子「そうなんだー、えへへ、今日は私たちと遊ぼうねー♪」
娘「やったー!」
海「・・・って、戻ったの2人だけ?」
海(レッスン後に仕事入っているメンバーは確かにいたけど、こちらに戻るメンバーもこの倍の4人くらいはいたはず)
芽衣子「えっとね、里美ちゃんがうまくいってないから追加レッスンってところかな」
海「なるほどね」
芽衣子「と言ってもすぐ終わるような内容だったし、終わる頃にプロデューサー来てくれたしね」
海「Pさん間に合ってたんだ。てっきり、2人で帰ってきてたからPさん戻ってないのかと」
櫂「そんなことないよっ。里美ちゃんの方はプロデューサーと柚ちゃんに任せちゃって、先に終わったアタシたちはお先に失礼、って感じ」
海「ありがたいよ、やっぱりこの子に一番懐かれてるのは櫂だしね」
櫂「おーおー♪嬉しいなーっ!」ワシャワシャ
娘「わー♪わー♪」
みちる「話したい事あると思いますが、まずはお昼にしましょう!ちひろさんも食べますよね、パン」
ちひろ「ふふっ、実はすごく待ってました」
響子「お酒はダメですよ?」
ちひろ「し、仕事中は飲みませんよ!?」
響子「ハートさん居たら飲んでただろうなぁ」
ちひろ「うぅ、アイドルからの評判が謎の方向に・・・」
─ 事務所・会議室 ─
海(会議室のテーブルをいくつか並べて、1つの大きなテーブルにする)
海(みんなで囲うお昼ご飯。焼きたてのパンを前に皆はワクワクしている)
海(料理の腕には自信ある方だけど、こんなにも黄金色に輝くパンたちを見てるとミッチーたちの腕前に恐縮する)
海(ウチもあのグループと一緒に料理作ろうかな・・・)
娘「もう食べていい?」
ちひろ「その前に・・・これいいですか?」
海(ちひろさんが出したのはデジタルカメラ。記念撮影しようとの事だった)
海(一同は当然のように娘さんを中心に集まる、主役はこの子だからね)
櫂「ほらほらピースピース♪」
娘「ピース!うーん、うーん!!!」
海「テーブルがデカいんじゃない?」
ちひろ「そうですね、パンで顔が若干隠れてしまってますし」
海(娘さんの身長はこの部屋のテーブルとイスに合わないようだった。肩より上しか出ていなかった)
みちる「櫂さんが抱きかかえてあげればいいんじゃないですか?」
櫂「あ、そうd」
海(櫂が応えようとしたその時、もっと適役な人が部屋に入ってきた)
P「あ、いたいた。みんなここに来ていたんだね」
響子「Pさん、おかえりなさい」
櫂「おっかえりー、今記念撮影している所なんだ」
P「記念撮影・・・」
ちひろ「ええ、社長が安心するかな、と。・・・って、どうしたんです?」
P「あ、いや・・・何でもない」
海(Pさんは歯の浮いた笑顔を見せた。何かひっかかるような・・・。そしてその目線はミッチーへと向けられる)
みちる「むぅ・・・・・・」
海「ミッチー?」
みちる「えっ?どうしました?」
海「何か変な顔してたよ、Pさんも何か変だし」
みちる「・・・・・・」
海(ミッチーは『後で話す』とだけ呟いて、カメラに目線を戻した。ウチの知らないところで何かが起こってる?)
肇「あっ!そうだ!Pさんも映りませんか?」
P「ん、俺か?」
肇「はいっ!」
海(Pさんは肇ちゃんに言われて、映りそうな端っこへと移動した・・・けど、肇ちゃんは何か企んだ笑顔でこう続いた)
肇「せっかくですし、真ん中来てください!ちょうどこの子を抱える人が欲しくて」
P「俺が主役になってもしょうがないだろう?」
肇「ほら、Pさんが一番身長ありますし」
P「俺は櫂とそこまで変わらないぞ?」
肇「大丈夫ですって♪」
海(確かにウチも同じようにPさんが娘さんを抱えればいいと思ったけど、肇が含んだニュアンスとは違うような気がする)
みちる「あっ・・・」
響子「・・・!?」
美玲「っ!!」
芽衣子「なるほど」
みちる「そ、そうですよ、Pさん。私たちの“大黒柱”なんですから!」
響子「櫂さん、場所変わってくれませんか?」
櫂「え、なんかやだ」
響子「そんな事言わずにー」
美玲「・・・」コソコソ
ちひろ「・・・?」
海(肇ちゃんの発言に何かを感じ取ったメンバーは即座に行動をし始めた。一方ウチやちひろさんは何も分からなかったけど)
P「しゃーない、おじさんでごめんね?」
娘「わー!おじさん元気ー!?」
P「はははっ、元気だよ。・・・失礼して、よっと」
娘「たかーい!!!」
P「軽いなー」
響子「櫂さん、お願いしますよー!」
櫂「な、なんでやねん!?」
肇(今のうちにこっそり・・・)
芽衣子「はーい、肇ちゃんはこっち」
肇「へっ、あー、芽衣子さーん!!離してー!」
みちる「美玲ちゃん?なにしてるんですか?」
美玲「な、なんでもないぞッ!あ、あんまり映りたくないからだッ!」
みちる「その割りにはPさんにべったりですね?」
P「え?あ、いつの間に」
美玲「一番ガタイいいのお前だからなッ!!隠れるには・・・」
みちる「へー?」
美玲「う、うるさいうるさいッ!!!////」
ちひろ「もう・・・撮りますからねー?」
アイドル一同「待って!!」
ちひろ「嫌です♪はい・・・」
ガチャ
ちひろ「チーズ♪」
アイドル一同「ああー!!!!」
ちひろ「綺麗に撮れました、っと♪って、あれ・・・あー・・・なるほど」
P「どうしたんです?」
ちひろ「なんでアイドルの皆さんが慌ててるのかと思ったら・・・ほら」
海(・・・あーっ、そういう事だったんだ!ウチも積極的にいけばよかった)
海(カメラに保存された写真には・・・簡単に言うと、子供を抱えるPさんとちょうど隣にいた櫂が夫婦のように写っていた)
海(ついでに言うとPさんの後ろから顔を覗かせている美玲も彼の子供に見え・・・、いや止めておこう)
P「あー・・・あー・・・」
娘「おじさんどうしたの?」
櫂「って、わわわわああああ!?////なんだこの写り方!?」
響子「だから言ったのにー」
櫂「で、でもさ!これであたしがプロデューサーと一番のお似合いって事が証明されたんじゃないかな!?」
肇「そそそそんなはずはありません!ちひろさん!次は私が隣のバージョンを撮ってください!!」
響子「ああっ、私もっ!!!」
美玲「ウチも!!」
芽衣子「海ちゃんは?」
海「ウチは後でいいかなー」
芽衣子「やるのは決定なんだ?」
海「そ、そりゃねー・・・////」
P「ちひろさん、助けて」
ちひろ「嫌です。せっかくですし、何枚も撮っちゃいましょう。その方がギクシャクしませんからね」
P「あばばばっ・・・」
響子「ほらほら、Pさん撮りましょうよ!家族写真を!」
肇「Pさん、さっきよりもーっといい笑顔でお願いします!!」
芽衣子「体力残しておいて欲しいかなーっ!?」
P「あ、あう」
娘「おじさん人気ー!!」
P「ホントにね・・・おじさん体力なくなっちゃうよ」
ちひろ「それじゃあテンポよくやっちゃいま・・・あ、里美ちゃん、おかえりなさい」
櫂「いっつの間に」
榊原里美「ただいまですぅ・・・ちひろさんがチーズ!って言ってたときからいましたぁ」
芽衣子「いま来たばっかってところなんだね♪へいへーい、里美ちゃんも一緒に撮ろー♪」
里美「ああっ、と、あのぉ・・・」
P「ん?どうしたんだ?」
里美「そ、そのぉ・・・」オロオロ
響子「里美ちゃん、一緒に撮りましょう!」
肇「・・・そうですね、Pさんの妹である里美ちゃんも写れば・・・ふふっ」
ちひろ「肇ちゃんの変なスイッチ入っちゃいました?」
肇「さっきからずっとフルパワーなんです!」
芽衣子「そのパワーを仕事で使おうねー」
肇「だからめいこさーん!はなしてー!」
里美「えーっと、そのー・・・」オロオロ
美玲「・・・?そういえば誰か足りないような」
肇「え?」
響子「言われてみれば」
海「・・・あれ、柚は?」
P「おかしいな、俺と一緒に事務所に戻ってきてて、お手洗い行ってからここに来るって流れだったんだが」
海「里美、どこに行ったか分かる?」
里美「・・・そのぉ」
里美「泣いたまま・・・どこかに行ってしまいましてぇ・・・」
一同「はぁっ!?」
─ 事務所からちょっと離れた町 ─
喜多見柚「ハァ・・・ハァ・・・」
柚「ガァッ・・・ごほっ・・・ごほっ・・・」
柚(呼吸もせずに・・・走り続けちゃった)
柚(涙が止まらない、喉の奥に溜まる“悔しさ”も止まらない)
柚(アタシは・・・アタシは・・・)
柚「ここ・・・どこかな・・・」
柚「知らないところきちゃったのかな・・・?」
柚(気付いたらまったく知らない町並みだった。そこまで遠くないだろうけど、土地勘のないところまで走ってきちゃったのかな)
柚「・・・とりあえず腰を落ち着かせようかな」
柚(近くの公園のベンチに座って、空を見る)
柚(これ帰れるのかな・・・)
柚「・・・・・・」
柚「これも全部、Pサンのせいだ・・・」
柚(Pサンのせいじゃないってのは分かってる。でもそんな決断をした自分の兄貴分に文句を言いたくてしょうがなかった)
柚(・・・Pサンはモチダさんとのお見合いを受けることにした)
柚(その決断は早く、Pサンの母親からの連絡にその場で返したんだ)
~ ~ ~ ~ ~
柚(それは・・・今は海外で修行中の私たちの仲間『ディープリーコン』とネット電話で話していた時の事)
P『もっかい言って・・・え、モチダさん?俺知らんよ!!?』
みちる『モチダさん?』
柚『モチダさんってどのモチダさん?』
桃井あずき『モチダさん?知ってる?』
月宮雅『みやびぃも知らない人ぉ』
里美『カメラマンさんとかぁ~・・・いませんね』
柚(Pサンの母親からの電話。その内容は独身の身のPサン、そんなPサンに恋する朋サンとミッチー、それと画面の向こうメンバーだけでなく、兄妹として過ごしているアタシとサトミンにすら大きな衝撃を与えた)
P『え゛ぇ゛っ゛、お見合い!!!???』
みちる『へ?』
藤居朋『ん!?ん゛ん゛っ!ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っ!!!!!(ちょ!!ダメよ!断りなさい!!!!!)』←布団で簀巻きにされている
里美『・・・・・・?』
P『ま、待ってくれ母さん!!俺は結婚なんか・・・はぁ!?もう決まった事っ!?』
P『うん・・・、なんで。なんで?いつの間にそんな話になってるんだよ』
P『俺の気持ちを無視しないでくれ。勝手に決められたら困る』
柚(Pサンの口調は否定的だった。でも・・・)
みちる『ふぅ、あの調子なら断ってくれそうですね』
あずき『ホントぉ!?あずきたちファーストキス返してもらってないからねー!よかったー!』
P『・・・うん。・・・・・・ったく・・・』
柚『?』
P『・・・はぁ、受けるよ』
柚(Pさんは手のひらを返した。こんなにも早く)
一同『!??!?!?!!?』
みちる『P、Pさん・・・本気なんですか・・・?』
朋『ヴー!!!!!ヴヴヴー!!!!!!(ちょっと!!!どういうことなのー!!!!!)』
P『・・・・・・』
あずき『え、え!?プロデューサー何言ったの!?』
雅『聞こえなかったよぉ』
里美『おにいちゃんがお見合い受けるって・・・』
雅『う、うそ』
あずき『え゛ー!!!!!なんでよー!!!!!!!』
柚(私たちも画面の向こうのみんなも不安不満を口にしていく中、Pサンはこう答えた)
P『・・・ちょっとだけ、放っておいてくれ』
柚(頭を掻き毟り、イライラと不安、ストレスにどっと襲われた顔をしていたPサン)
柚(その淡々と悔やむ目と声に・・・アタシたちは何も言えなくなった)
柚(その翌日、Pサンはお見合い写真を撮った。作ってはいるけどいつも見せてくれるぎこちない笑顔)
柚(これが・・・まったく知らない赤の他人に渡る)
柚(そう思っただけで・・・柚までイライラしてくる。お腹にでっかい針が刺さってかき混ぜられているような気持ちにすら陥る)
柚(だからこの縁談を断らせる、なかった事にするよう頼み込もうと、アタシ、それと朋サンとミッチーは最初そう考えてた)
柚(でもあの時見せたPサンの顔から・・・もしかしたら急いで結婚しないといけない用事が出来てしまったのかと・・・)
柚(人には相談できない何かを持ってしまったのか思ってしまった。例えば・・・“お父さんの余命が少ない”とか)
柚(・・・Pサンが言ってくれないと、何も分からない事には変わらないけど)
柚(アタシたちに何か出来る雰囲気では決してなかった・・・)
~ ~ ~ ~ ~
柚(そして・・・さっきのアレ)
柚(Pサンがみんなと写真を撮ってるアレ)
柚(子供を抱いて笑顔を見せるPサンを見たら、目の奥が熱くなって・・・、逃げたくなるくらい喉の奥がズタズタになって・・・)
柚(あれが、あれがPサンの将来の姿?んなわけない、そんなわけないのに脳裏に浮んでしまってはイラつく)
柚「もう・・・ヤダ・・・」
柚(Pサンにも・・・整理のつかない自分にも)
柚「はぁ・・・」
「ため息ついてどうしたのですか~?」
柚「へっ・・・!?」
柚(ふと、いつの間にか自分の前に立っている影に気付いた)
「心配事でしたら、小春が聞きますよ~?」
「小春ちゃん、誰と話して・・・って、あら」
古賀小春「星花さん、柚ちゃんですよ~」
涼宮星花「○○プロの喜多見柚ちゃん、ですわね」
柚「Cuプロ・・・!」
柚(目を合わせてきたのはCuプロの中堅、お姫様を目指す古賀小春に我らが相原雪乃のライバル涼宮星花・・・!)
柚(あう、よりにもよってこんな時に・・・)
柚(どうしよう、今は柚ひとり・・・!)
星花「苦虫を噛み潰したような顔をされては可愛い顔が台無しですわ」
柚「・・・・・・っ」
星花「ところで、ここに居るって事は、わたくしたちのLIVEの視察ですわね?」
柚「LIVE?」
柚(あ、あれ?てっきり弱みを握ってくるのかと)
星花「あら、違いましたの?」
小春「そこのお店の前でやってるんですよ~」
柚(・・・指をさされた先に、どこかで見た事あるようなトラックがステージに変形してLIVE会場になっている)
柚(乙倉悠貴、大沼くるみ・・・記憶が確かならCuプロの駆け出しアイドルの面々だったような)
小春「小春たちはみんなの先輩として、マネージャーになってるんですよ~」
星花「我々もスタッフが少ないですわ。助け合える部分は、積極的にお力添えを」
星花「○○プロに、負けないよう・・・真似できる部分は取り入れようと上の指示ですわ」
柚「へぇ・・・」
小春「それで柚ちゃんはどうしたんですか~?」
柚「・・・なんでもないよ」
柚(この三人もPさんのこと狙ってたはず・・・)
柚「・・・って、あれ?一人いない。たしか三人組だったよね。もう一人いなかったカナ?」
星花「フレデリカさんなら、今頃山奥で滝行ですわ。ちょっとお仕事を忘れてしまって」
小春「『お仕置きだー!』ってCutePさんに連れていかれました~」
柚(宮本フレデリカ、アタシ以上にテキトーが我が道って感じの人。あの性格ならありえそう)
星花「・・・・・・」
小春「・・・・・・」
柚「・・・・・・」
柚(って全員黙っちゃったよ・・・)
柚(ど、どうしようかなー・・・)ソワソワ
小春「でも柚ちゃん、さっき悲しそうな顔してたんですよ~」
柚「ギクッ」
星花「何かあったのですわね」
柚「そそそそそんなことないよ~?」
星花「何 か あ っ た の で す わ ね !?!?」
柚(あわわ、この強引さは雪乃サンに繋がるものがあるなぁ)
柚「・・・ちょっと嫌な事がありまして。でも、2人には関係ないことだし、気にしなくていいよ!!」
星花「なるほど。そうと聞いたら、聞くのが世渡り上手ってものですわ!」
柚(余計なお世話じゃないの?)
柚「大丈夫ですよ。むしろ巻き込みたくないというか」
星花「小春ちゃん、喜多見さんを近くの喫茶店にお連れしてください。わたくしは兵藤さんにしばらく席を外すと連絡してきますわ」
小春「はーい♪」
柚(話聞いてないし!!!)
─ 喫茶店 ─
星花「店長に頼んで、お店の奥のエリアをお借りしましたわ。お好きなものを頼んでも構いませんわ」
柚「あ、いや・・・」
星花「気にしなくてもよろしいですわ、喜多見・・・いえ、柚ちゃんと呼んでもいいかしら?」
柚「構いません・・・です」
星花「ふふっ、よろしくお願いしますわ、柚ちゃん」
小春「小春はパフェ頼んでもいいですか~?」
星花「ええ。一番大きいのでも構いませんわ」
小春「わ~い、ありがとうございます~!柚ちゃんは何がいいですか~?」
柚「・・・じゃあ、これで」
小春「デラックスメロンサンデーですね~」
星花「わたくしはレモンティーとカステラを」
小春「小春はチェリーアンドア・・・ア、ア・・・?」
星花「アサイーヨーグルトですわね」
小春「チェリーアンドアサイーヨーグルトパフェをお願いします~」
柚(切る場所間違えたんだね)
小春「ありがとうございます~」
星花「ふふっ、最近流行ってますわね、アサイー」
柚「聞いたことないなぁ」
星花「ブラジルのアマゾンで取れるフルーツで治癒力アップの効果がありますの」
星花「私たちアイドルの体を養ってくれる素敵な食べ物ですわ」
柚「へぇ」
小春「そうだったんですか~?」
星花「知らずに注文したんですの」
小春「小春はチェリーの方しか見てなかったです・・・」
星花「多分食べられますわ。味は薄めですもの」
柚「・・・ちょっと気になるなぁ」
小春「柚ちゃんも食べてみます~?」
柚「いいの?」
小春「いいですよ~♪柚ちゃんのメロンもくれますか~?」
柚「うん、いいよ」
星花「ふふふっ」
星花「・・・では、聞きましょうか」
柚「・・・げっ」
星花「別に弱みを握って、陥れるなんて事はしませんわ」
星花「ただ、欲を言うならわたくしたちの行った事のお詫び、でしょうか」
柚「お詫び?」
星花「先日、P様の身ぐるみ剥いでしまった事があったんですの」
柚「ブッ・・・!なんでまた?」
星花「場の雰囲気、でしょうか。P様を目にしたら、自分が止められませんの」
星花「それにフレデリカさんが観覧車で起こした事件もありましたしね」
星花「思い返せば・・・やりすぎ。反省ですわ」
柚「・・・・・・」
星花「でも、後悔はしませんの。わたくしたちCuプロは・・・一度絶望していますから」
柚「絶望?」
星花「Cuプロが一度潰れたときのお話はご存知?」
柚「聞いたことあるよ。チーフプロデューサーが消えた、って話」
星花「その通りですわ」
小春「あの時は大変でした~」
星花「前のプロデューサー・・・仮にAさんとしましょう」
星花「Aさんはとても厳しい方でした」
星花「わたくしたちはアイドルですが仮にも女性、心のどこかには恋愛の二文字に心が踊るような気持ちも持っています」
柚「そだね。ウチの事務所でも自分たちのコイバナとか、女性誌に乗ってるような恋愛話は話題になるよ」
星花「ですが、Aさんは恋愛を良しとしませんでした。特にこの仕事に沿っていくような場面では」
星花「女性はみんな、王子様を待っている・・・ごくまれにお姫様や人間ではないものを探している方もいますが・・・それは置いておきましょう」
小春「小春はお姫様になりたいです~」
星花「小春ちゃんはそれでアイドルを始めましたわね」
小春「王子様は見つかりました~♪あとは小春がお姫様になるだけです~♪」
柚「Pサンはそうそう譲らないから」
星花「おや?」
柚「なんでもないです」
柚(口が滑った)
星花「気になる発言がありましたが、ともかく・・・」
星花「恋愛を禁じていましたがAさんの手腕は凄まじく、同時に厳しく・・・ついていけない人がいくらかいましたが、やはり出来る人間・・・惹かれる人はいました」
柚「Pサンが言ってたのは・・・確か、佐久間まゆさん?」
星花「はい。まゆさんと・・・それと松原早耶さん、この2人が惹かれた人間の二大巨頭でした」
星花「2人はライバルとなり、Aさんに隠しつつもその想いを徐々に燃え上がらせていましたわ」
柚「・・・そこに、Aさんは行方不明となった」
星花「ええ。どれがきっかけとなったかは定かではありません。佐久間まゆさんがLIVEの終わりに『好きな人がいる』と宣言したのが原因か、それともその想いに気付いて単に逃げてしまったのか」
星花「・・・はたまた当時のAさんの恋人・・・今のCutePに対し後ろめたくなってしまったのか」
柚「へ?恋人いたの!?ってか、CutePって・・・」
星花「ええ、今の私たちのプロデューサーが前のプロデューサーとの恋仲だったそうです」
柚「ダブルスタンダードってやつじゃないのソレ?」
星花「ええ、厳しくしているにも関わらず、自分には恋人がいた・・・というのは後で知った事ですわ」
柚「さ、サイテーじゃん!」
星花「そうでもありませんわ。彼らはCuプロに入る前から付き合ってたそうですわ」
星花「忙しくなってから仕事場で顔は合わせられたものの、恋仲という間柄に切り替えられなかったようです」
柚「むー」
星花「彼がいなくなった理由は未だ分かりませんわ」
星花「ですが、Aさんがいなくなった事で得たものはあります」
星花「皮肉と言っても過言ではありませんわね」
柚「得たもの・・・こうやってウチのPサンにアタックできるようになったこと?」
星花「それはあくまで手段の見え方ですわ。得たものは・・・」
星花「例え、その想いや考えが困難であっても・・・今動かなければ、絶対に手に入らない・・・という事ですわ」
柚(今動かなければ、絶対に手に入らない・・・)
星花「何をやろうとも、『あの時、ああしていれば良かった』と悔やむことは多々ありますわ」
星花「まゆさんも、早耶さんもAさんが消えてから、長い間彼女たちは抵抗できない流木のように魂が抜けてしまいました」
星花「それを見た他のアイドルたちも影響されるように崩れ落ち、これが原因で一時期はCuプロは事実上の機能停止していましたわ」
柚「影響って」
星花「わたくしたちもこのままダメになってしまうのか、と」
柚「言い方悪いかもだけど・・・、なんで周りまで?Aさん好きだったのはその2人ぐらいだったんじゃ」
星花「考えてもみてくださいな、Aさんは言わば会社のブレインの一つ、脳のない生き物が動けますか?」
柚「あ」
星花「無論、恋愛だけじゃありませんわ。仕事もそうですし、友人関係、それに社会体制的にも」
柚「・・・頼れる人がいなくなったんだね」
星花「そうですわ。当時、新人だったわたくしには傷は浅く、客観的にこの事件について見ることができました」
小春「小春もいました~」
星花「ええ、それにフレデリカさんも・・・。わたくしたちはこの事件をどうすれば回避出来たのかと考えた結果」
柚「今動かなければ、絶対に手に入らない」
星花「その言葉にたどり着きました。誰しもが心に区切りをつけてないまま、Aさんは行方不明になったのです」
星花「もし、まゆさんが告白してフラれていれば。早耶さんが告白して受け入れられていたら。AさんがCutePを恋人だと公開していたら」
星花「Aさんはいなくなるという事はなかったかもしれませんし、誰も悔恨を抱くことはなかったかもしれません」
柚(・・・今の○○プロの状況は、もしかしたらCuプロ崩壊時の一歩手前。恋愛対象としてのPさんが知らず知らずのうちに消えていたら)
柚(雪乃サン、朋サン・・・それだけじゃない、家族として見ているアタシやサトミンだって・・・)
柚(崩壊する可能性だってある・・・)
星花「だから、わたくしたちは迷いなく行動しますわ。例え、過激だったとしても」
柚「フラれたらどうするの?」
星花「そんなことは考えませんわ。負けると思って行動していたら絶対に負けますもの」
星花「絶対に・・・P様の心を射止めてみせますわ」
柚「・・・フーン」
星花「相原雪乃さんに伝えておいてくださいまし。我々は絶対に負けない、諦めない。P様に決断されるその時まで」
柚「もうPサンが嫌っていたら?」
星花「それはありえませんわ。結構脈アリでしたわ」
柚「うっそだー、ありえないよ」
星花「『自主規制』もしましたのよ?そのときはすぐ逃げられましたが」
柚「ヴェ!?」
小春「あの時のですね~」
星花「でもその逃げる瞬間まで、P様はわたくしにウットリしてましたの」
柚(・・・あとでPサン問いただそう)
星花「まだ理性と立場に迷いがあると見ています。決断されるその時まで、わたくしたちのポイントを上げておきますわ」
小春「小春も頑張ります~」
星花「ええ、小春ちゃんも。わたくしたちの絆だって、○○プロには負けておりませんわ」
柚「・・・・・・」
柚(でも・・・この人たちの言ってることは正しいと思うことはある)
柚(今動かないと、絶対に手に入らない)
柚(これだけは、すごく・・・しっくりきた)
柚(今行動しなきゃ、Pサンは知らず知らずのうちに結婚しちゃう・・・)
柚(・・・よし、決めた!!!)
柚「ごちそうさまでした。美味しかったです。ネー、小春ちゃん」
小春「はい~、とってもとっても美味しかったです」
星花「喜多見さんのお話を聞くつもりが、わたくしたちの昔話になってしまいましたわ」
柚「いえ、自分の中でやるべき事が決まったので、いい機会になりました」
星花「それは良かったですわ、何があったかは気になるところですが」
柚「ああ、それは・・・」
小春「それは~?」
柚「Pサンがもうすぐお見合いで、もしかしたら結婚するかもしれないんです」
星花「へ?」
小春「え?」
柚「改めてごちそうさまでしたー!!!!お先にー!!!!!」
星花「ちょ、ちょっとお待ちになって!!!!柚ちゃん!!!!その話詳しく!!!!!」
小春「小春も気になります~!」
柚「ごめん、自分で調べて~!!!!」
柚(言っちゃってもいいよネ。決めたもん、柚が止めるんだし!!)
柚(いま動かなきゃ!!!)
その夜。
─ P宅 ─
P(時刻は20時。いま自宅に着いたところ)
P(柚からは17時頃にメールがあり、それを信頼するなら先に俺の家にいる・・・とのことだった)
P(事務所の皆は突如消えた柚を心配していたが、仕事の割り振りのこともあり、受ける仕事が決まった子から柚を探し出してもらっていた)
P(結局見つからず仕舞いでみんなを心配させてしまっていたが、ひょっこり連絡を返してきた)
P(社長の娘さんにまで探させてしまって・・・、俺は彼女を叱るべきなのだろうか)
P(だが俺自身、動けなかった事を後悔している上に、“例の件”で柚自身も怒っている可能性だってある)
P(入り組んだ思考と条件に、混乱で埋め尽くされている・・・)
P(どうしようか・・・)
ガチャ
P「ただいま」
柚「おっかえりー」
P「・・・どうしたんだ?」
柚「え、何が?」
P「どこに行ってたんだ」
柚「▽▽町。ずっと走って行っちゃった」
P「そうか。泣いて走り去ったと聞いてたから・・・心配してたよ」
柚「ありがとうございました!それと・・・心配かけて、すみませんでした」
P「ん。何もなかったならいい。明日みんなに声かけておきなよ?里美なんかずっとあたふたしてたんだから」
P「それに、社長の娘さんにもありがと、って言っておきなよ。一緒に探してくれてたんだから」
柚「ん、今度言うよ」
P(とは言ったものの・・・なんだか、おかしいぞ?妙に元気というか)
柚「んー?Pサン、変な顔しないでよ!ほらほらご飯作ってよ、アタシおなかすいちゃった」
P「お、おう。何が食べたい?」
P(泣いてたって割にはその様子が見受けられないが・・・どうしたんだろうか・・・?)
柚「んー、じゃあPサン!!」
P「おう、ちょっと待っ・・・って、バカか!!!!」
柚「えへへ、ホントは食べたいもの冷蔵庫に入れてあるよ」
P「冗談は控えてくれ・・・胃がキリキリする」
柚「・・・」ニコニコ
P「ん?」
柚「隣で見てていい?」
P「ん。手伝うか?」
柚「ヤダ、絶対足手まといになる」
P「そっか」
P(柚が所望していたのはグラタンだった。彼女に合わせて甘めに作ろう)
P(彼女はずっと俺の手動かす指と手のひらのダンスに合わせて、鼻歌を歌っていた)
─ ─ ─ ─ ─
P(下ごしらえを終わらせ、グラタンをオーブン入れた後)
P(テーブルを挟んで俺と柚は完成を待っていた)
P「・・・・・・」
柚「・・・・・・」
P「・・・・・・」
P(何も言葉を発せず、ただ時間だけが過ぎていく)
柚「・・・・・・」ニコー
P(彼女と目を合わせると、目を細めて微笑んでくれる)
P「どうしたんだよ」
柚「えー・・・そうだなぁ・・・」
柚「幸せだなぁって・・・」
P「・・・」
柚「柚のお兄サンがこうやって、ご飯作ってくれて、心配してくれて」
柚「すっごく贅沢で幸せ」
P「柚・・・」
柚「なぁに?」
P「お前は・・・」
Pi-!Pi-!
柚「ほらっ、オーブン鳴ってるよ!」
P「お、おう」
P(タイミングが悪く、俺は言い出せなくなってしまった)
P(なんで泣いてたのとか、今日はなぜ一人なのかとか)
P(聞きたい事、こちらから言いたい事、結構あったはずなのに)
P(ずっと黙り込んでしまった・・・)
─ ─ ─ ─ ─
P(出来上がったグラタンは口の中がヤケドするくらい熱かったが美味かった)
柚「・・・・・・」
P(柚も美味しそうに平らげてくれたのは良かったが、食事中ですら一言も発してくれなかった)
P(どうしたものか。この子に“あの事”を話題にしても混乱するだけだと思う)
柚「Pサン」
P「ん?」
柚「実はもうお風呂入れてあるんだ。先に入っちゃってよ」
P「そうなのか?」
柚「うん。Pサンにゆっくりしてほしいし、洗いモノはアタシがやるよ」
P「・・・了解」
P(やっと発してくれた言葉は要望。俺は違和感を感じつつも乗ることにした)
柚「・・・よし」
─ P宅・浴室 ─
P「ふぅぅぅ・・・」
P(湯船で疲れを落とし、天井を仰いで考える)
P(柚が喋ってくれないのは俺のせい、なのか?)
P(喋りはしないものの、顔付き自体は元気そのものだったし・・・俺が変に壁を作ってるだけなのか?)
P(もしこないだの“お見合いの電話の件”で引っかかっているのなら)
P(・・・柚にだけは、言った方がいいのだろうか)
バチンッ!!!!
P「わぁっ!?停電か!?」
P(突如浴室の電気が消えてしまった)
P「それだけじゃないな、柚ー!大丈夫かー!?」
P(浴室のドアを開けるとリビングやキッチンにすら光がなかった。停電かこりゃ)
柚「ダイジョーブ、なぁに停電カナー?」
P「外見れないか?電気一個もついてなかったら全体が停電してる」
柚「えーっとねー、ちょっと待ってー!」
P「・・・・・・オーブン使ったせい、か?」
P(にしてはタイミングが遅いような)
柚「全部消えてるよー!」
P(ってことは地域停電か。風呂入ってるタイミングなんて・・・なんと間が悪い)
P「じゃあ、停電収まるまで待機か・・・」
柚「どうするー?」
P「怪我しないためにも、大人しく座って待ってなさい」
柚「はーい」
P(しかし真っ暗だ。この浴室には窓がないため外の様子を見る事はできない)
P(目が慣れるまで、俺も動かずにいよう)
ガチャ
P「柚?どうしt」
柚「お邪魔しまーす♪」
P「は!?」
柚「時間もったいないし」
P「ちょちょちょ」
柚「いいじゃん、兄妹なんだし」
P「まぁ、いるだけならいいけどさ」
P(見えないしね)
柚「んじゃ、シャワーで流してっと」
P「待て、お前いま裸か?」
柚「そうだけど」
P「ば、バカッ!!」
柚「見えないし、もーまんたい」
P(見えないとはいえ、全裸で来るのは問題ありまくりだ)
P「浴槽には入ってくるなよ?」
柚「ヤーだよっと♪」
P(俺の静止を無視し柚は軽くシャワーを浴びた後、勢いよく音を立てて浴槽に入ってきた)
P「うわっぷっ!お湯なくなるっての」
柚「あははっ、なんとーなくPサンの顔見えるよ」
P「マジかよ、こっちは見えないってのに」
P(彼女は俺の頬を正確につついてくる。どうやら本当に見えるようだ)
柚「慣れるのおそいなー、おじさんだから?」
P「可能性ある」
柚「やだなー、兄がおじさんなんて」
P「無茶言うなし」
柚「・・・そっち行っていい?」
P「ダメ」
柚「勝手に行くけどね」
P「おわっ」
P(彼女は俺の胸板を背もたれによりかかってきた・・・!ってかこれやばい!!!)
柚「へへーっ、どう?妹みたい?」
P「こ、これはどうみてもカップルみたいな行動」
柚「ん。だよね」
P「?」
P(さっきリビングで感じていた違和感が彼女がこの浴槽に入ってから更に強くなっている)
P(この子は・・・何が狙いだ?)
柚「んー♪」
P(俺の鎖骨を枕に陽気に鼻歌を歌っている)
柚「極楽ゴクラク~♪」
P「柚」
柚「なに?」
P「ちゃんとシャワー浴びたか?」
柚「大丈夫、汗かきやすいところは入念にやったよ!」
P「どうだか、真っ暗の中でシャワーなんて・・・いや、待てよ・・・」
P(ウチはマンションだ。ここの水道は機械で調整される“加圧ポンプ式”であり、停電している時にも使える“水道直圧式”ではない・・・)
P(・・・となると)
P「柚、何が狙いだ?」
柚「なにがー?柚は何もしてないよー」
P「嘘をつくな」
柚「この停電だってオーブンとか使ったからじゃないかなー」
P「・・・ここのシャワーは電気が通ってないと使えないぞ」
柚「げっ」
P「改めて聞くけど、何が狙いだ?」
柚「・・・・・・」
P(柚はしばらく黙った後、口を開いた)
柚「柚ね、おかしな夢を見たんだ」
柚「・・・Pサンがモチダサンと結婚して、柚を捨てちゃう夢」
柚「ねぇ、Pサン。ホントに結婚するの?」
P(その質問は俺の口を黙らせた)
P(先ほどの違和感もこれを吐かせるために柚が神経を使っていた、ということか)
P「答えたくないな」
柚「ダメ。“はい”か“いいえ”で答えてよ」
P(脳からひり出した言葉も簡単に返される)
P(言うしかないか・・・)
P「・・・ならその答えは・・・“はい”だな」
柚「やっぱりそうなんだね」
P(そう。俺は結婚することになる)
P(モチダさんと、ネガティブな俺が)
P(こないだの母親からの電話も、ほとんど婚約が決まるよと言う報告だった)
P(この年で許嫁なんて、笑うに笑えないけど)
P(気付けば柚の声色に悲しみが加わっていた)
柚「柚は・・・柚はPサンと一緒にいたい。家族としても、プロデューサーとアイドルとしても、これからもずっと」
P「万が一俺が結婚して、この家を出たとしても・・・その関係は変わらない」
柚「変わるよ!Pサンがいて、柚がいて、ミッチーがいて、サトミンがいて、朋さんがいて!これからアーニャちゃんだって加わってくる!」
柚「みんなで暮らしてたいんだよ・・・」
P「柚・・・」
柚「自分がワガママだってのは知ってるつもり、でも・・・でもさ!アタシはイヤだよ・・・」
柚「“家族とまた離れる”ことは」
P「っ・・・・・・」
P(失念していた。柚が俺と朋、ミッチーの兄妹組に混じったのも・・・現在、ご両親が病院で未だ目を覚まさないからだ)
P(それで俺は保護者として、兄として振舞うことでその傷跡を塞いでいたという事実)
P(自分で起こしたアクションでいながら、盲点にしてしまうとは)
柚「・・・Pサン、アタシはPサンと、みんなと一緒にいるなら、なんだってするよ」
柚「ここで・・・──されてもいい」
柚「兄と妹、とかそういう関係捨ててでも、みんなと家族でいたい。みんなと変わらない関係でいたい」
P「バ、バカを言うな!」
柚「バカでも本気だよ!!!」
P「ぁぐ・・・」
P(見えないからか、それとも彼女の雰囲気に飲まれてしまったか、俺は言葉を失った)
P(どんな言葉をかけてやればいいか、分からない・・・)
柚「それに涼宮サンに興奮したんでしょ?」
P「・・・なんでそれを」
柚「今日自慢気に言ってた。ホントなんだ」
P「う、うぐっ・・・」
柚「Pさん、若い男だもんね、女の子に興奮するよね」
柚「なら柚はどうカナ?それなりに整ってると思うけど」
P(次々に俺の脳を抉り取ってくる。今までの行動がすべてナイフになって返ってくる)
柚「Pサン、いいよ。欲しいならあげる」
P(柚は体の向きを変え、俺の胸板に耳を当てる)
P(わずかに感じる彼女の鼻息のこそばゆさがこちらの歯を浮かせてくる)
P「・・・それじゃあ俺が保護している意味がないだろう?」
柚「別に気にしないよ。アタシの事も、みんなの事も大事にしてくれるなら」
P「元から大事にしているつもりだ」
柚「嘘」
P「嘘じゃない」
柚「じゃあ、なんで見ず知らずの人と結婚しようとするの?」
柚「あの時、即答したじゃん!お見合い受けるって・・・」
柚「それに加えて放っておいてくれ、なんて言われたら、もう何もかも諦めて受け入れてるようにしか・・・!!!」
P(あの時の態度もダメだったか・・・、振り返れば確かにひどい対応だったな)
P(一気に降りかかった自分のこと。その事で頭がいっぱいで、柚の気持ちもまったく分かってやれなかった)
P(おそらくは朋やミッチーも似た感情を抱いた事だろう)
P(マズったな・・・)
P(・・・・・・)
P(正直に、正直に話そう)
P「あー・・・分かったよ。柚には話す」
柚「・・・全部、全部話してよ」
P「ああ、嘘はつかない」
P「俺が結婚するというのは、正しくは半分正解だ」
柚「半分って・・・やっぱり結婚するんじゃん!やだよ、柚はやだよ」
P「確かにな、俺もこんな形でバツイチになるなんてね」
柚「バツイチって・・・え?Pサン離婚するの?」
P「予定では」
柚「ん?んん?んんん???」
P(柚の声色に、疑問という色しか残っていない。当然だ、俺だって“全部が全部把握していない”のだから)
P「話を1から始めるよ」
P「俺の相手となるモチダさん、モチダアリサさんは保育士でな。話でしか聞いたことないんだが、若く美人らしい」
柚「ムカっ」
P「話を最後まで聞きなさい」
P「保育士の仕事ってだけあって、子供と・・・その子供の親と顔を合わせないといけない」
P「ちょっと前の世代なら保育所に子供を連れてくるのは母親だったらしいが、最近は色々手引きされて父親が子供を連れてくるらしい」
柚「へー」
P「子供の年齢も幼い、となると父親は?」
柚「若い」
P「まだまだ若い男が保育士の美人に会えたら、起こりえるのはなんだ?」
柚「え?そこ聞くの?」
P「答えて欲しかったな」
柚「えー・・・んー、まさかと思うけど、不倫?」
P「ん、当たり。不倫相手にしたいとそのモチダさんが狙われる事が多々あるそうだ」
P「モチダさんを目の前にして、自分の子供に『アリサ先生がお母さんだったらいいのにな?』ってエッグい質問することもあるそうだ」
柚「うわ、サイテー」
P「断りたいけど、子供の機嫌を損ねるわけにもいかないモチダさんは母親にはどうにかならないかと相談していたんだ」
P「そこで現れてしまったのが俺の母親」
柚「げ」
P「モチダさんの母親と俺の母親はパート仲間だったらしくてな、その悩みを親伝いに聞いたそうなんだ」
P「俺の母さんは俺に似て、困ってる人がいたら熱くなっちゃう人ではあったんだけど」
P「何を思ったのか『うちの息子くっそ独身でずっと独身で優しいから隠れ蓑にしちゃいなよー』なんて言っちゃったみたいでな・・・」
柚「は?」
P「俺も『は?』って思ったよ、確かに不倫相手として迫られてると聞いた時はどうにかしてあげたいって思ったけど・・・」
P「勝手に縁談進められちゃっててね・・・」
P「あちらの母親もこちらの母親も俺とモチダさんの相性がよければ孫の顔が見られるなんて気持ちでやったんだろうよ」
P「それで出来上がったのが“偽装結婚作戦”」
柚「偽装結婚って・・・アレ、犯罪じゃなかったっけ?」
P「法律上アウトの方の偽装結婚ではないんだけどな。つまり、戸籍上だけ俺と彼女が結婚しておくって事らしい」
柚「もしかして、自分は結婚しているから不倫なんて関わりたくありませんー!って言うつもり?」
P「らしい。『相手も不倫することになるからいい』って迫ってくるヤツらに口実与えてしまうかもしれないと思ったけど」
P「子供をエサに迫ってくるヤツらを撃退する分には効果アリそうらしくてね。最近の子供は心身ともに成長早いけど、悪いことを悪いと認識するだけの純粋さは残ってる」
P「だから子供に対し『私は結婚しているからダメ』と言える武器が手に入る、という算段のようだ」
柚「じゃあ、離婚ってのは?」
P「そういう約束らしいんだ。あちらが正しい婚約者が見つかるまで俺を隠れ蓑にするって」
P「だから離婚も出来るって寸法」
柚「んな、めちゃくちゃじゃん!Pサンは納得したの!?」
P「納得はしてないさ。でも、助けなきゃ、モチダさんを救わなきゃって思ったらな」
柚「もー!Pサンの悪い癖なんだから!」
P「ごめん・・・」
P「それで、今度やるお見合いはその口裏合わせをやるって流れだったんだ」
P「限りなくシチュを完全なものにするために、お見合い写真まで撮ったからな・・・」
柚「・・・そうなんだ。へー」
P「冷たいな」
柚「ちょっとでも、言ってくれればよかったのにって思ってる」
柚「アタシだけじゃなくて、みんなにも」
P「一度はみんなに相談する事も考えたさ」
P「でも俺が『離婚が軽い結婚をする』なんて言ったらどうなる」
P「音葉あたりに『とりあえず全員と1回ずつ結婚してくれ』なんて言われるのが目に見えてる」
柚「そんなのナイナイ・・・」
2人「・・・・・・」
柚「・・・って全然言えないね!すっごいありえる」
P(すっごいありえる)
P「赤の他人が聞いたら笑ってバカにされるような内容だけど、あの子たちに限ってはありえそうなんだよね・・・」
柚「でもさ、そんなことで悩んでたの?」
P「そんなことって・・・でも、そうだな、そんなことで悩んでた」
P「ずっと、事務所のみんなやお前たちに言う言葉がない、それとモチダさんを救う他の方法が分からないって悩んでた」
P「断る理由も浮ばなくて、俺は結婚しなきゃいけないのかな、年貢の納め時なのかなって思ってた」
P「誰にも相談できるような内容じゃなかったからね」
柚「・・・・・・」
P「ごめん、1人で聞くには嫌な内容だったな・・・」
柚「ううん、Pサンがちゃんと言ってくれて良かったよ」
柚「嫌われてもいなかったし、見捨てられたわけでもなかった」
柚「それに“悩んでる”って言葉を聞けただけすっごい進展だった」
P「そっか」
柚「・・・柚さ、今日言われたんだ。『今動かなければ、絶対に手に入らない』って」
P「今動かなければ・・・か」
柚「ずっと苦虫噛んでるよりも、誰かの助けを得てでも解決へと向かった方がPサンらしいよ」
P「・・・・・・そっか」
柚「アタシも苦い顔より甘いモノ食べてた顔になりたいし、周りの人は笑顔の方がいいもん。アイドルだしね」
柚「それにアタシたちには、たくさん仲間がいるんだよ。Pサンひとりで悩まないで欲しいよ」
P「そうかな」
柚「うん。今までのPサンだったら悩み事全部口に出してたもん」
柚「キスしちまったー!とかデートの約束しちまったー!とか心に傷負わせてないかなー!?とか。ははっ」
柚「でも・・・どんなに悩んでも悩んでも前に進むのがアタシの知ってるPサン」
柚「隠し事なんてまったくしないで、堂々とネガティブしてるのがPサン」
柚「アタシの大好きなPサン」
P「柚」
柚「あ、今のは愛の告白じゃないから。どちらかと家族として、カナー」
P「じゃあ、プロポーズか?」
柚「そ、それはずるい考え方かなー!恥ずかしいじゃん////」
P「ん?」
柚「まぁ、でもPサンが柚じゃないとダメーってならいいけどねー、奥さん」
P(奥さん、かぁ)
P(芽衣子が始まりとしてトップアイドルになったら結婚するという約束をしている)
P(いつの間にかあの面々に伝わって共通認識になっているが、トップアイドルになった人間が・・・俺の奥さんになる)
P(だが、こんな形で決着が付いていいんだろうか・・・?)
P(俺が部外者と結婚するとなって、喜ぶ人間はいるだろうか。悲しむ人間はいるだろうか)
柚「だ、黙らないでよ!////も、もっと恥ずかしくなったじゃん!裸の付き合いしてるんだし!」
P「ん。考え事してた」
柚「考え事?」
P「みんなのこと。どんな意見を持つかな、って思って」
柚「みんなのことー?それよりもPサン自身はどうなの?」
P「俺か?」
柚「Pサンがどうしたいのか、どんな歩みをしたいのか」
柚「Pサンは・・・モチダさんと結婚したいの?」
P「本音で言うなら、したくない。こんな形で俺の人生の同居者を決められるなんて、まっぴらだ」
柚「なら、それを柚だけじゃなくてみんなに伝えてあげなよ」
柚「みんなだって、ちゃんとPサンの今の気持ち伝えれば応えてくれるに決まってる」
柚「Pサンが仕事に影響するから助けてー!意見くれー!って言ったら手伝ってくれる」
柚「今まで散々みんなPサンに助けてもらってるもんね、ちゃんと自分の事を言ったならみんなそれぞれの考えを言ってくれるよ」
P(自分の中の考えや想いは外に出して反芻することで、より強度を増す)
P(肯定であろうと否定であろうと、誰かに応えてもらうことで自分の中の軸はまっすぐ伸びていく)
柚「どうしたいのか、ちゃんと言わないと・・・絶対後悔する。後悔先に立たず、だよ」
P(そうだった、後悔は先に立たない。俺のやり方は準備に準備を重ねて失敗を避ける、石橋を叩き続けるタイプ)
P「・・・・・・」
柚「Pサン?」
P(なんだか、心の奥でホッとしている自分がいる)
P(情けないけど、暴走している自分の行動や思考に待ったを入れてくれる人がいてくれて)
P「ごめん、柚」
柚「どったの?」
P「ここ最近の俺は、変だったか?」
柚「うん、すっごく」
柚「ミッチーとかすっごい不安がってたよ」
柚「朋サンなんか、ちょっと偏食気味になってたし」
P「あぁ・・・もう」
P「助けてくれてありがとな、柚」
P「明日みんなに聞いてみるよ、“結婚以外で救える方法がないか”って」
柚「あははっ、うーん柚の待ってた単語が出ましたねー」
柚「遅い、遅いよ」
P「でも俺が誰と結婚したって」
柚「結婚はその人たちだけの事じゃないでしょー?」
P「そりゃそうだけどさ、コミュニティとコミュニティの繋がりが変わるからね」
柚「Pサンが結婚したら、アタシも変わっちゃうし、みんな変わるんだよ」
柚「結婚するって決めたならそれはそれで相談欲しいよ。家族としてね」
P「そうだな。・・・ふぅ」
柚「肩の荷は降りた?」
P「まだまださ。何も出来なければそのまま結婚させられそうだからね」
P「でも結婚に関しては“芽衣子との約束を守りたい”。でも“モチダさんを助けたい”。でも“仕事に影響させたくない”」
P「この願い、全部叶えるのはちょっと骨が折れそうだ」
柚「うん」
P「また迷ってたら、背中を突いてくれ」
柚「お腹もつついてあげるよ」
P「それだけあれば迷うことはないな」
柚「あはは」
─ ─ ─ ─ ─
柚「そろそろ出るね」
P「体洗ってないでしょうが」
柚「後でちゃんと入るよ、暗いまんまだしね」
柚「それともPサン見たいのー?気になっちゃうー?」
P「んなわけないでしょうが」
柚「えー、エッチなPサンがそんなわけないじゃん!」
P「バッカ、否定はしないけどさ!!」
柚「あははっ、じゃ、お先ー!」
P「柚」
柚「あー、やっぱり見たいんだー?」
P「今度の休み、親御さんたちのお見舞いに行こうか」
柚「・・・・・・」
柚「うん♪」
次の日・・・。
─ ○○プロ ─
P(俺と柚が事務所に到着するなり、みんなに囲まれてしまった)
海「Pさん!け、け、結婚するって本当かい!?」
相原雪乃「こ、これは由々しき自体・・・いえ、一世一代の大ピンチですわ!!」
芽衣子「・・・・・・」
響子「うえーん!!Pさん結婚しないでくださーい!!!!」
P(皆が悲痛な声や視線を送ってくる。多分、ミッチーあたりから漏れたのだろう)
柚「ほらほら、みんな静粛にー。Pサンから一言あるから」
里美「柚ちゃん」
柚「・・・アタシも心配かけてごめんね。もうだいじょーぶ!」
P「みんなには変な噂が流れてしまったのは申し訳ないと思ってる」
P「だが、このままだと結婚してしまうのは本当だ」
雪乃「あぁっ・・・なんてこと」
P「俺自身はまだこんな形で結婚したくない。約束もある」
P(俺は芽衣子に視線を送った。彼女は一度は目を見開くも、すぐに微笑みを返してくれた)
P「他人に流されっぱなしで悔しい思いを、苦虫を噛むような真似はしたくない」
P「だから、みんなの手を貸してくれ」
雪乃「いくらでもお貸ししますわ」
響子「はいっ、私も頑張ります!」
海「やれることなら何でも協力するよ」
P「ありがとう。正直、私情も混じって忍びないが・・・」
P「職業体験に行ってくれないか?」
終わり
以上です。今回はここまでです。
本当にお久しぶりです・・・、あやうくエターナる(死語?)ところでした。
「苦虫を噛み潰したよう(にがむしをかみつぶしたよう)」とは、ものすごく不機嫌な顔のことを指します。
嫌な事があったりして、奥歯を噛みしめたことはありませんか?その表情のことを言うそうです。
さて、次回は
・佐藤心「水に絵を描く」
になります。
ではまた。
乙乙
漸くの続編に歓喜
待ってたぜ!この時をよぉ!
しかしいろいろ忘れてるな、読み返さなきゃ
久々に見たと思ったらだいぶ期間空いてたんだな 乙
乙
久々だから結構流れ忘れてたわ
つまらねー……
おっつおつ
久々過ぎたんで1から読み直してきた
乙カーレ
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