【艦これ】トラック戦記 (100)
初投稿です
※艦隊、艦娘の状況はスレ主のものを参考にしています。
※独自設定あります。
※更新不定期ですが、亀にならないよう頑張ります。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1466270248
――20xx年8月某日
世界中のあらゆる海から奴らは突如現れた。
それはクジラのような巨躯であったり、人間の女性のようであったりと様々であった。
けれども、一見するとまとまりの無い連中だが、奴らの行動は皆同一のものであった。
それは、“人類への攻撃”
未知の敵との突然の交戦に、各国は足並みを揃える間もなく次々と敗退。
それは日本も例外では無く、数々の戦いに敗れた結果、奴らによって全てのシーレーンが封鎖された。
資源に乏しい島国にとって、これは致命的なことであり、このまま日本は滅びを待つだけかと思われた。
しかし、奴らの出現から遅れること3か月後、政府のもとに異世界からの使者がやってきた。
固有の名を持たない彼らを政府は、その容姿から“妖精”と名付けた。
妖精曰く、元々奴らは自分たちの世界への侵略者であったが、より攻め込む価値がある世界、すなわち地球を発見した為にこのようなこととなった。
そして、妖精たちだけでは倒すことの出来なかった奴らを、地球と妖精の技術を組み合わせることによって撃沈可能であると告げられた。
藁にもすがる思いの政府はすぐさま妖精たちと同盟を結んだ。
こうして誕生したのは、在りし日の軍艦の魂を秘めた海を駆ける乙女たち。
その名は“艦娘”
これは艦娘と彼女たちを指揮する提督、そして奴らこと“深海棲艦”との戦いを記した物語である。
期待
――深海棲艦出現から1年経った20x3年8月16日
扶通乃大学 3号館4階 森野ゼミ室
森野「おはよう皆。今日は全員揃ってるかい?」
ゼミ生「「「はい!」」」
森野「感心感心。それじゃあ早速、皆のお待ちかねゼミ旅行についt……」
「やったー!」 「楽しみですね!!」 「新しい水着買っちゃった」ワイワイガヤガヤ
森野「ちょっと待った。ゼミ旅行の話の前に皆何か忘れてないかい?」
「「「あっ」」」
森野「もしかして、皆忘れてた……?」
藻武夫「そ、そんなことないっすよ」
藻武美「艦娘と鎮守府についての発表ですよね」
森野「そうそう。で、誰が発表してくれるんだい?」ワクワク
榛奈「はい!」
森野「おっ! じゃあ榛奈君」
榛奈「えー、では前回の続きから。妖精との同盟によって生まれた艦娘を運用するために、政府はかつての大戦時と同じ場所に彼女たちの活動拠点、鎮守府を作りました」
榛奈「最初に完成したのは、今年の4月23日稼働の横須賀鎮守府。それから7月10日に呉と佐世保。その1週間後には舞鶴に完成しました」
榛奈「また、今月の6日から大湊警備府、10日には初の海外拠点となる“トラック泊地”が完成しました」
榛奈「稼働当初は、生身の少女を戦場に送り出すことへの抵抗感や政府や妖精に対する不信感から、横須賀鎮守府の周りでは様々な抗議活動がありました」
榛奈「しかし、5月17日から開始された大規模作戦の成功により、艦娘と鎮守府に対する国民の感情は非常に良好なものとなりました」
榛奈「そして今月の1日からは、2回目の大規模作戦として南方海域への進撃が行われています」
榛奈「トラック泊地が開設出来たのは、この作戦によってグアム近辺の制海権を確保出来た為であり、この作戦の完了によって人類の復興はまた一歩前進すると期待されています」
榛奈「以上が私の発表です」
森野「うむ結構。きちんと時系列に沿って説明出来ているね」
榛奈「ありがとうございます」ペコリ
森野「皆ももちろん分かっていたよね?」ニコッ
ゼミ生「も、もちろんですよ!」
森野「うんうん。ではあまり待たせるのも可哀想だし、そろそろゼミ旅行の話をしようか」
森野「では、先週配ったしおりを開いてね。まずは集合時間について……」
矢島(ふー、危なかった。課題のことすっかり忘れてた)
榛奈「矢島君、課題のこと忘れてたでしょ」コソッ
矢島「えっ!い、いや忘れてなんかねーよ」アセアセ
榛奈「ウソばっかり。私知らないよ、留年しても……」
矢島「大丈夫大丈夫!20年生きてきた中で、どんなピンチになっても最後に何とかしてきたのが俺だから!」ドヤッ
榛奈「たった20年じゃない」ボソッ
矢島「う、うるせーな。じゃあ休み明けの発表は俺がしてやるよ」
榛奈「ふふ。期待してるわね」
森野「~~以上。それじゃあ皆、明後日の6時半に大学の正門前に集合!」
ゼミ生「「「はーい!」」」
――8月18日 午前9時 弩古鹿野海水浴場
森野「皆、準備出来たかい?」
ゼミ生「「「出来ました!!」」」
森野「それじゃあ、12時になったら昼食だから旅館に帰ってくること。それから羽目を外さないようにすること。いいね?」
藻武子「教授はどうされるのですか?」
森野「私と新田君は旅館で少し休むよ。朝からの運転で疲れてね。いやー、年は取りたくないものだね」ワッハッハ
新田「僕も少し眠くてね。昼ごはんの後から海に行くよ」
藻武助「よーし。それじゃ皆、海に向かって全速前進!!」
ゼミ生「「「おーー!!!」」」
???「ふふふ……」ニッコリ
ポロリとかチラリとかキャッキャウフフなイベントはカットされました by猫吊るし
――8月18日 午後20時 旅館から離れた海沿いの道
矢島「あー重い! ちくしょー、あの時自分の直感を信じてパーを出していれば……」グヌヌ
矢島「荷物は重いし、やたら蚊に刺されるし、夜になってもまだ暑いし……誰か手伝ってくれよー」
榛奈「呼んだ?」ヒョッコ
矢島「うわっ!?」
榛奈「うふふ。ビックリした?」ニヤニヤ
矢島「そりゃ後ろから急に声かけられたらビックリもするだろ……」
榛奈「やったね!ビックリさせる為にわざわざ雑木林を抜けて後ろに回り込んだんだもん。いやー、頑張った甲斐がありましたな」
矢島「何やってんだよ」ビシッ
榛奈「あいたっ!? もー、何するのよ。折角幼馴染が買い出しの手伝いに来てあげたのに」プンプン
榛奈「はぁー、さっきの衝撃で頭が割れそうだし、このまま帰っちゃおうかな……」チラッ
矢島「マジスイマセンでした」フカブカ
榛奈「素直でよろしい。はい、そっちの荷物持つから頂戴」
矢島「悪いな」サシダシ
榛奈「気にしない気にしない……ってこれ軽いよ! もっと重たいのプリーズ!」
矢島「いいよ別に。それ持ってくれるだけで助かるから」
榛奈「えー」
矢島「ほらほら。早くしないと皆待ってるぜ」
榛奈「あっ!? 待ってよー!」
榛奈は俺の幼馴染だ。
俺がまだ幼稚園児だった時、家の向かいに引っ越して来た。
俺の親父と榛奈の親父さんは学生時代からの付き合いらしく、その縁でよく2家族合同で遊んだり、出かけることもあった。
その頃の榛奈は今と違い髪も長く、人見知りでいつも自分に自信が無い奴だった。そのせいで小学校に入学してからはよく男子に虐められていた。
そのため、当時の俺は年上・年下関係なく榛奈を虐めた奴とのけんかに明け暮れていた。
幸いにも、勉強は良く出来たので教師から目を着けられることも無く、寧ろ幼馴染を守る優しい子として好意的に受け入れられていた。
また、当時から俺の神経は図太かったらしく、小学生にありがちな女子と仲の良い男子に対するからかいも全く気にならず、逆にバレンタインの時には榛奈から貰ったチョコを自慢したりしていた。
そうこうしている内に中学生となった榛奈は、テニスが切っ掛けでそれまでとは打って変わり、明るく社交的な性格となった。
自慢していた髪をバッサリ切ったのもこの時期だった。
俺は流石にけんかからは卒業したが、特に打ち込む部活や趣味も無く、良く言えば平穏。悪く言えば代わり映えのしない日々を過ごしていた。
そのうち、お互いに自分だけの交友関係が生まれ、いつの間にか接することが少なくなっていた。
けんか別れしたわけでも無く、両親たちは相変わらず仲が良かったので縁が切れたわけでも無いが、学校や家の前で会えば挨拶はするだけで特に話すことはない。その程度の関係となっていた。
高校生になって、榛奈が遠方にある全寮制のスポーツ強豪校に入学してからはますます疎遠となった。
しかし、最後の大会で負った怪我が原因でテニスを引退した榛奈は、それから勉強に励み、俺と同じ大学へ入学した。
それからは、再び遊びに行くようになったりと、これまでの間を埋めるかの如く親密な関係へと戻って行った。
でだ、何でこんなに長ったらしいこれまでの説明があったかというと。
俺は榛奈が好きだ。大好きだ。愛してる。何としても付き合いたいと思っている。
その為に今日まで様々な準備をしてきた。
この辺りで人気の告白スポットを調べたり、榛奈の妹ちゃんに榛奈が俺をどう思っているかをそれとなく尋ねてみたり、etc.……
その結果、俺の告白は限りなく成功に近いと結論付けることが出来た。
仕込みは上々、後は最終日の花火大会で告白するだけ……
矢島「ふっふっふ……完璧な計画だ」
榛奈「何笑ってるの?」
矢島「いやいや何も。ただ、最終日の花火大会が待ち遠しいなって思ってただけだよ」
榛奈「なぁーんだ。まぁ、仕方ないか。ここの花火大会は歴史は浅いけど、ここら辺の花火大会の中では一番規模が大きいからね!」
榛奈「それに深海棲艦が現れてからは、お祭りなんて開催出来る物資も雰囲気も無かったもんね。特に火薬なんて全部軍に徴収されてたし」
榛奈「それがこの短期間にここまで立ち直るなんて……。あんなにボコボコにされてたのに、全く艦娘様々!妖精様々だよ」
矢島「ほんとにそうだな。……ってやばっ!! アイス溶けてるし! おいっ! 急ぐz……」
そう言って駆け出そうとした瞬間……
突然沖合から砲撃に似た音がしたかと思うと、後ろからすさまじい轟音と衝撃が襲いかかってきた。
矢島「ぎゃっ!?」
たまらず吹き飛ばされてしまい、俺は近くの民家の軒先に頭から突っ込んだ。
矢島「ぐ、あ、、い、いってぇ……」
真っ赤に染まった視界がグラグラして足元もおぼつかない。あまりの衝撃に全身から痛みを通り越して痺れを感じている。
何とか立ち上がろうと地面に手を突こうとするが、激痛で出来ない。右腕を見ると軒先に植えていた木の枝が突き刺さり貫通していた。
何とか左腕のみで身を起こし後ろを振り返ると、先ほど自分が買い物をしたコンビニが瓦礫と化していた。
建物は吹き飛び、周りにその残骸がまき散らされている。店内だったと思われる場所は猛烈な炎に包まれ、どこに何があったのか全く分からなくなっている。
まき散らかされた残骸は近隣の民家や走っていた車に減り込んでいる。周囲からはだんだんとうめき声が聞こえ、それから狂ったような金切り声、けたたましいブザーに警告音、そしてそれらを飲み込むほどの爆発音が鳴り響いた。
「い、、いたい……」 「誰か!!誰か助けてっ!!!」 「おとーさん!! おかーさん!!」 「死にたくない! 死にたくない!! 死にたくない!!!」 「早く横須賀鎮守府に連絡を!」
それはまさに地獄というに相応しい惨状だった。
そうしている間にも、沖からは絶え間なく砲弾が撃ち込まれ、それらは次々に人々を蹂躙していった。
哨戒網ガバガバなんか?
矢島「は、はやく、、はやくにげないと、、、」
このままここにうずくまっていても助かる見込みは低い。
矢島「は、はるな、どこにいるんだ」
急いで近くのシェルターに逃げ込まなければと思い、朦朧とした意識の中で俺は彼女を探した。
矢島「い、いた!」
榛奈は俺よりもさらに100m程先の道路に仰向けになって吹き飛ばされていた。
矢島「待ってろよ……」
痛む体に鞭を打ち、俺は彼女の元に歩み寄った。
榛奈は気絶しており、手足はピクリとも動かなかった。しかし幸いにも大きな外傷は無さそうだ。
仕方なく俺は、榛奈の腕を肩に掛け、引きずるように移動した。
矢島(い、いってぇぇ!!!)
動くたびに右腕が自分と榛奈に挟まれ、その結果気を失うかと思われるような激痛が全身を駆け巡る。
矢島「りょかんまでにげきればだいじょうぶりょかんまでにげきればだいじょうぶりょかんまでにげきれば……」ブツブツ
気を抜くとそのまま起き上がれなくなってしまいそうな痛みを紛らわすために、俺は必死につぶやき続けた。
榛奈「ん、、んん、、、あっ、あれ……?」
ブツブツとつぶやいていると、ようやく榛奈が目を覚ました。
>>15
そこについてはこれから作中で明らかにしたいと思っています
書き貯めが無いので、展開が進まずまどろっこしく感じる部分はあると思いますが、基本的には先に立てた設定放棄などはしないように心がけています。
もし、設定や言動に対して疑問や矛盾を感じたらご指摘お願いします。
可能な範囲で対応したいと考えています。
また、亀レスであることをお詫び申し上げます。
矢島「榛奈!! きがついたのか!?」
榛奈「えっ!? あっ、うん。……ねえ、一体何が起きたの……?」
矢島「周りを見てみなよ」
榛奈「周りって……えっ、、な、何、、これ、、、」
周りを見渡して榛奈の顔は驚愕の色に染まった。
その目に映ったのは平和な、ありふれた日常ではなく、血まみれで逃げ惑う人々、凶悪な業火に包まれた家屋、着弾の衝撃で唸りを上げる山々。
数えきれないばかりの非日常であった。
榛奈「な、、何で、、、こんなことに……」
矢島「泣き言は生き残ってからにしろ! 早く旅館を目指すんだ。そうすれば、裏庭にあるシェルターに逃げ込めるから」
榛奈「う、うん!」
榛奈が目を覚ましたことで、今度は俺が彼女に肩を貸してもらい旅館へと急いだ。
5分程だろうか……必死の思いでたどり着いた旅館はこれまで見てきた建物と同じく、所々に大穴が開いており、そして無慈悲な紅蓮に覆われていた。
榛奈「み、皆は……?」
榛奈の顔に絶望の影が差している。
矢島「大丈夫だ! 砲撃に気づいてとっくに逃げ込んでるよ。俺たちも急g……!」
俺は榛奈を励まそうとして、しかし最後まで言い切ることが出来なかった。
榛奈に突き飛ばされたからだ。
矢島「いってぇ……。何すんだ、、よ……」
俺の目の前に広がる光景に絶句した。
崩壊した土塀が榛奈に覆いかぶさっていた。
矢島「は、榛奈! 榛奈!!」
榛奈「う、うう、、」
矢島「しっかりしろ! 大丈夫か!!」
榛奈「わ、わたしはいいから、、はやく、、にげて……」
矢島「何言ってんだよ! いいからどけるぞ!」
そう言って瓦礫を退けようとするが、これが意外と重く、また右腕の負傷で思ったように瓦礫を持ち上げることが出来なかった。
榛奈「火の手がまわってきてるよ、はやくにげて……」
榛奈の言う通り、炎は徐々にこちらへ向かってきていた。
矢島「俺は……俺は諦めないぞ!」
だが、その決意も空しく俺たちの後ろにまたしても砲弾が降り注いだ
そして、俺は、今度こそ意識を失った……
――1週間後 8月25日 都亜瑠病院の特別病室
矢島「……う、あ、あれ、ここは……」
目が覚めると、俺はベッドに横たわっていた。
見覚えのない入院着を着ており、左腕には何本も点滴が打たれている。
矢島「おれ、、あっ! は、はるな。榛奈は!!」
我に返った俺はナースコールを連打していた。
すると、ドアの前で待機していたのかと思うほどの早さで看護師と医者が飛び込んできた。
医者「おお! 気が付いたのか!」
外国人のような彫りの深い、そして松崎し○るのように黒い顔をした医者が満面の笑みを浮かべていた。
矢島「あの……あなたは?」
松崎医師「おっと! 自己紹介がまだだったね。私は松崎。君が今入院している都亜瑠病院で外科医をやっているんだ。今回、君の手術も担当したよ」
ほんとに松崎だった!
そう言って松崎医師はコーヒーのような色をした腕をこちらに差し出してきた。
矢島「あっ、ど、どうも、、いてっ!?」
点滴まみれの左腕でなく、右腕を差し出そうとして鈍痛を感じた。
松崎医師「ああ、まだ右腕の傷は塞がっていなかったね。これはすまない」
そう謝ると松崎医師は俺の右手を優しく握ってくれた。
松崎医師「さて、君の状態など色々話さないといけないが、まずは家族に会いたいだろう。今到着したようだし込み入った話はその後にしよう」
話し終えると同時に病室のドアが開き、もう会えないと思っていた俺の家族が駆け寄ってきた。
喜一「信二!」
和美「信ちゃん!!」
矢島信二「兄さん……姉さん……」
良子「良かった……本当に良かった……」
健吾「無事……とは言い難いが、生きててくれて嬉しいよ」
矢島信二「心配かけて悪かったよ、母さん、父さん……」
松崎医師「それでは私は一度戻りますので、また1時間後……」
それから松崎医師が戻ってくるまでの間色々な話をした。ただ、榛奈のことを聞こうとすると何故かはぐらかされてしまった……。
名残惜しそうに退室する家族たちと入れ替わるように松崎医師が入ってきた。
ただ、看護師だけでなく、先ほどは居なかった黒いスーツを着た男女が横に佇んでいた。
松崎医師「お待たせ。久しぶりの家族との交流はどうだった?」
矢島信二「はい。お時間をいただきありがとうございます。ところでそちらの方々は……」
松崎医師「ああ、彼らは「はいはい、こんにちは!」
松崎医師に紹介される前に黒スーツの男が身を乗り出し挨拶してきた。
黒スーツの男(以降黒男)「始めまして矢島信二さん。私、防衛省下にある特別の機関“深海棲艦対策局”に所属しております。規定によって本名は明かせないので、私のことは気軽に黒男とでもお呼び下さい」ニコッ
黒スーツの女(以降黒女)「彼と同じく。私のことは黒女とお呼び下さい」
矢島信二「は、はぁ……」
なんだ、この人たちは……。
黒男「さて、今回の事件。世間では“弩古鹿野海岸奇襲事件”と呼称されています。あっ! 電気消しますね」パチッ
黒女「原因は深海棲艦によるものと断定されました。ただ、これまでに確認されているものではなく、全く新しいタイプの深海棲艦による奇襲でした」
黒男「それがこいつです」
いつの間にか設置されていたプロジェクターによってスクリーンに映されたのは、この場に居る誰もが全く見たことのない深海棲艦だった。
政府は国民の不信感の払拭、及び情報提供を促す為、深海棲艦に関する情報を積極的に開示している。
その為、殆どの国民は深海棲艦の写真を見ただけでそれが何級か答えることが出来る。
もちろん俺もそうだ。だが、目の前に映るそれは初めてのものであった。
そいつは漆黒の長髪をなびかせ、闇のように深い暗黒色のドレスを身にまとった長身の女だった。
矢島信二(こいつ……人型なのか)
しかし、目に付くのはそこではなく、そいつの後ろで圧倒的な存在感を放つ巨体の化け物であった。
本体と思われる女より一回りも大きな化け物の両肩からは6門の砲身が伸びている。
そして、本体の胴回り以上に太い腕が2本。頭と思われる部分には、その巨体に見合う大きく開かれた口のみが存在した。
口内は血のような赤い色に染まっており、また人間と同じ形の歯が生え揃っているのも不気味さに拍車をかけている。
矢島信二「黒男さん……こいつは一体……?」
黒男「ふむ……。質問に質問を返して申し訳ありませんが、君はこいつが何の船がモチーフか分かりますか? あぁもちろん、間違えたって何も致しませんので」ニコッ
黒女「ちょっと黒男さん」キッ
黒男「いやいや、ちょっと彼を試したくn「戦艦だと思います」
俺は迷わず即答した。
黒男「どうして、そのように思われたのですか?」
矢島信二「まず、駆逐艦,それから軽巡はありえないと思いました。それらの船は小回りの利く小さな船体が売りですが、ここまでの巨体ですとそれは当てはまりません。次に、今回の襲撃では一切敵の艦載機を見ていないので空母の可能性も除外しました。潜水艦や水上機母艦では恐らくここまでの火力は出ないでしょうし……。重巡か戦艦かで少し悩みましたが、この写真からは魚雷発射管を確認出来ませんでしたので、こいつは戦艦であると推測しました」
黒男「ふむふむ。なるほどなるほど」
黒男(思ってたよりも頭は回るようだな)
矢島信二「黒男さん?」
黒男「おっと、これは失礼しました。はいその通り。こいつは協議の結果、戦艦であると決定しました。ただし、ただの戦艦ではありません。非常に人間に近い姿の本体であること。また、同じ戦艦であるル級やタ級を上回る火力と装甲、そして高い知能を持つことからこいつは“姫”と位置付けられました。正式名称は“戦艦棲姫”です。これはまだ世間に公表されてない情報なので、外では絶対に言わないで下さいね」
バレたら私たちクビになっちゃいますから、と黒男さんは笑っていた。
しかし、そんなことよりも“姫”という言葉の衝撃が頭の中に鳴り響いていた。
深海棲艦の中には、それまでのものと比べてより人間に近い容姿を持ち、同時に強力な力を有する個体が存在する。それらは“鬼”・“姫”と呼ばれ現在は、春の大規模作戦によって2体確認されている。後に教えられたが、夏の作戦では新たに3体確認され、合計5体となった。
けれども、“戦艦棲姫”はこの5体にも含まれない、まさしく未知の敵であった。
敵の正体も判明した所で俺は、あの時から頭に浮かんでいた質問をぶつけた。
矢島信二「敵が未知の個体であったことはわかりました……。では、1つ質問させていただきますが、どうして市街地へ砲撃出来る距離内に深海棲艦の侵入を許したのですか? 哨戒網はどうなっていたんですか!?」
思わず語気を強めてしまったが構うもんか。
俺の質問に黒女さんが口を開いた。
黒女「この度の奇襲を許した原因は2つあります。1つは戦艦棲姫が長距離への砲撃が可能だった点です。我々は日本列島を囲うように、海上にブイを浮かべています。これらは鎖で海底と繋ぎ止められており、等間隔で設置されたブイの間は、妖精の技術によって深海棲艦のみを探知する特殊な電波の受送信が常に行われています。敵を探知した際は近隣の鎮守府、今回の位置だと横須賀鎮守府へと連絡が入ります。既知の深海棲艦であれば、市街地へ砲撃を行うためにはこのブイの内側に侵入せねばならず、侵入したとなると艦娘がすぐさま迎撃へ向かうようになっています。ですので、このようなことは起こらないとされていました」
黒女「ですが、戦艦棲姫はその驚異的な射程距離によってブイの内側へ一歩も入ることなく市街地へと砲撃を行いました。また通報者が混乱していたため、町が爆発しているなど情報がはっきりとしなかった点、そしてブイからの情報発信も無かった点から、我々は同地域で開催される花火大会で使用予定の花火による事故であると判断し、横須賀鎮守府に対して緊急出撃要請を発令しませんでした。」
黒女「もう1つは、……大変お恥ずかしい話ですが、鎮守府内部に深海棲艦と通じている者が居るようで……今回戦艦棲姫が現れたポイントには巡視艇が配置されているはずでした、しかし実際には配置されていないにもかかわらず既に配置済みだと報告が成されており……。その上、その巡視艇と同じコードで鎮守府へ“海上に異常見受けられず”と報告がありましたので完全にそれを鵜呑みにしていました……。」
矢島信二「何だよそれ……。何やってんだよ! ふざけるな! 何が裏切り者だ! おまえら何のためにいるんだよ!!」
思いつくばかりの罵詈雑言をぶつける。この人たちだけがこの事件を引き起こしたとは思っていない。だが、頭では分かっていても心がそれを頑なに拒否する。そして、怒りの奔流に身を任せ、俺はこれでもかという程彼らに侮蔑の言葉を浴びせた。
暫くすると憎悪の言葉も品切れとなり、俺は頭を垂れ、深く息をつく。そのタイミングに合わせ
黒女「今回の事件、こちらの不手際によって被害が拡大致しました……。矢島さんの怒りは尤もです。……この度は我々の不徳の致すところにより、多大なる損害を負ってしまわれたこと、謹んでお詫び申し上げます。大変申し訳ありませんでした……」
そう言うと彼らは腰を曲げ、深々と頭を下げた。
矢島信二「……戦艦棲姫はどうなったんですか?もう撃沈したんですか?」
黒男「残念ながらそれは出来ませんでした。横須賀鎮守府から艦娘が緊急出撃したのと同時に、南方海域から帰還途中だった主力艦隊が足止めの為に交戦しましたが、彼女たちは既に疲弊しきっていたため自分たちが轟沈しないようにするので精一杯。一方、戦艦棲姫も攻撃を受けていないにもかかわらず、艤装から煙を噴き出すなどどこか不調だったようで、緊急出撃した艦娘の到着前に海の底へ沈んでいったと主力艦隊旗艦の長門から報告されています。」
矢島信二「そう……ですか」
黒男「で、ここからは矢島さんが一番気になっているであろう彼女さんについてです」
きた……ついにこの話にたどり着いてしまった……
口の中がカラカラに乾いていくのがわかる。頭が痺れてクラクラしてくる。
黒男「まどろっこしいのは好かないので簡潔に申し上げます。彼女さんはずばり、生きています!」
矢島信二「ほ、、ほんとですか!!」
黒男「ええ。ただし……意識はまだ戻っていませんが」
矢島信二「そうですか……。でも、生きてて良かった。ほんとに良かった」
安堵したのと同時に視界が潤みだし、俺は人目もはばからず嗚咽を上げ大粒の涙を零した。
――――
黒女「落ち着きましたか?」
矢島信二「すみません。ありがとうございます」
黒男「良いってことです。何せ私とあなたのなkヴぇあ゛」
黒女「五月蠅いですよ黒男さん」
黒女さんの肘が黒男さんの胸部に減り込んでいる。痛そう……。
黒男「ゲフンゲフン。あー、失礼しました。さて、彼女さんの無事を喜んでいる直後で申し訳ありませんが、彼女さんはこのままでは非常に高い確率で、目を覚まさない可能性があります」
矢島信二「な、、何故ですか!?」
松崎医師「ここからは私が説明しよう。彼女は頭部に大きな打撲痕があってね……。恐らく瓦礫が頭部にぶつかったんだろう。そのため、脳が腫れ上がっていて、何とか腫れは治めたんだがまだ意識が戻らない。このままでは一生目を覚まさないと思われる」
矢島信二「そ、、そんな……」
折角生き残ったのに、このまま目を覚まさないなんて……。
黒男「しかーし。それを何とかする方法が1つだけあります。それは妖精さんです!」
矢島信二「妖精……?」
黒男「そうです。私は技術分野出身の人間ではありませんので詳しくは分かりませんが、鎮守府に備えられている艦娘の治療技術は、人間への応用が可能であると推測されています」
黒女「彼女たちはどれだけ酷い怪我を負っても、轟沈さえしなければその技術によってたちまち回復し、戦線への復帰が可能です」
黒男「それを彼女さんに施せば、目を覚ます確率はぐんと上がるでしょう」
矢島信二「それなら早く、早く治療をお願いします」
黒男「ところがですねー、これ、実は軍の中でもごく一部の幹部、若しくは彼らに紹介された者にしか許可されてないんですよ」
黒男「何故かと言いますと、治療設備には限りがありますし、そもそも妖精さんとの協定の中に妖精界の技術は必要以上、つまり深海棲艦との戦闘に関わること以外には普及させないと明記されてるんですよ。それには当然民間人への治療も含まれます」
黒男「ですから、このままでは一般人の彼女さんに治療を施すのは不可能です」
矢島信二「だったら……。だったら何で、そんな話をしたんですか!?」
黒男「落ち着いて下さい。今のままでは不可能ですが……、それなら、あなたが軍属となればよいのですよ!」
矢島信二「はっ!? あんた何言ってるんだ。今言ったばかりだろ! “ごく一部の幹部”しか治療が認められないって。今から軍に入ったって、その幹部になるのに何十年掛かると思ってんだよ!! そもそも絶対に幹部になれるなんて決まってないだろ!! 俺みたいな一般人が簡単になれたら苦労しねーよ!!」
黒男「その疑問は当然です。しかし! 艦娘を指揮する提督なら、新米であろうと入隊した時点で既に、少将と同等の地位であると認められます」
黒女「提督は階級や軍属であるかは関係なく、個人の持つ適性によって選ばれます。現に佐世保の提督はまだ成人していない学生。呉の提督は元々、ある老舗旅館の女将を勤めていた方でした」
矢島信二「今そんな話をするってことは……」
黒女「はい。あなたにも、提督の適性が備わっております。これは秘匿情報ですが、現在日本は各地に鎮守府を開設する為に提督探しに奔走しています。その一環として健康診断などで採血をした際、その血液は病理診断後“深海棲艦対策局”に集められ、そこで提督の適性があるか調べられます。妖精によると、適性のある人物は皆、血中に特別な因子が存在するそうです。矢島さんも今年の4月に大学で健康診断を受けられましたね?」
矢島信二「はい」
黒女「その時採取した血液中にその因子が確認されました。しかし、因子とは別にもう1つ、提督になるための条件があります」
矢島信二「それは何ですか?」
黒女「こちらをご覧下さい」パッ
そういって差し出されたのは……
矢島信二「?」
2冊のヤ○グジャ○プ……?
矢島信二「あの……。これ、何ですか?」
黒女「○ングジ○ンプですが……。ご存じありませんでしたか?」
そこじゃねーよ!!
矢島信二「何でヤ○グジャ○プがここで出てくるんですか!」
黒女「よく見て下さい。これはそれぞれ違う号の○ングジ○ンプですが、グラビアは2冊とも那珂ちゃんです。この那珂ちゃんを見てどう思いますか?」
この人“那珂ちゃん”って呼ぶんだ……。
黒女さんから新しい号のヤ○グジャ○プを受け取るとグラビアのページを広げた。
紙面では、満面の笑みを浮かべた那珂ちゃんがポーズを決めている。
セクシーな水着だけでなくワンピースタイプの水着も着こなしており、那珂ちゃんファンなら股間に響きそうな抜群の写真であった。
ただ、俺は川内型では神通が好みだったので、そこまでそそられることはなかった。
次に古い号に手を伸ばした。
こちらは水着ではなく浴衣を着ていた。セクシーさは無いが、祭りに繰り出し楽しそうに遊ぶ彼女が易々と思い浮かぶこれはこれで素晴らしい写真だった。
しかし、俺はやはり神t(ry……。
矢島信二(……ん?)
パラパラと両紙のグラビアを並べて眺めていると、何となくだが違和感がした。けど、この違和感を何と言い表したらいいのか、それを表現する言葉が見つからず考えていると
黒女「どうされましたか?」
俺が手を止め考え込んでしまったので心配そうに声をかけられた。
矢島信二「い、いえ、少し考え事を」
慌てて言い訳するも
黒女「何か思うことがあるのなら遠慮せずに言ってみてください。例えば“世界一可愛いよ!!”とか“感激しました。那珂ちゃんのファンになります!!”とか!!」
矢島信二「アッハイ」
黒男「スイマセンね。彼女、那珂ちゃんの力になりたくてうちに来た人ですから」
あまりの代わり映えに少し動揺したが、俺はグラビアから感じたものを2人に告げた。
矢島信二「なんて言いますか……その、2人とも那珂であることは間違いないんですが、他人のように感じる……一卵性の双子をはっきりと区別出来た感じというか……。同じなんだけど同じじゃない……。すいません、自分でもどう言ったらいいのか分からなくて……」
黒女「……」
黒男「なるほど……」
2人、特に黒男さんはそれまで見せなかった真剣な表情となり、どこかへ電話をかけている。
通話はすぐに終わり、黒男さんはいつもの表情に戻ると、俺にこう告げた。
黒男「協議の結果、矢島さんには提督の適性があると認められました! よって、あなたは本日を以て“深海棲艦対策局”所属の提督となりました!」
黒女「おめでとうございます」パチパチ
矢島信二「あ、あの……、急すぎて何が何だか……」
黒男「説明しましょう! この那珂ちゃん、実は矢島さんのご指摘通り、全くの別人だったのです。」
黒女「こちらの水着のグラビアは、横須賀鎮守府所属の那珂ちゃん。そして、浴衣のグラビアは呉鎮守府所属の那珂ちゃんでした。」
黒男「鎮守府の数だけ艦娘は存在し、このように同じ艦娘が複数人戦っています。適性の無い人は同じ艦娘が並んでしまうと、一切見分けがつかなくなってしまいます。けれども、適性を持った方は少なくとも、自分の管理下にある艦娘を見分けることが可能なのです。今回、矢島さんはこの2人を見て他人のような感覚がしたと仰りましたがその通りです。もし、この中にあなたの管理下となった那珂を混ぜた3人だったとしたら、あなた自分の那珂を区別することが出来たでしょう」
黒女「“艦娘を識別することが可能な感覚”、それこそがもう1つの提督となるための適性でした」
黒男「実はね、血中に因子を持つ人は当初の予想よりもいたんですよ。ただ……、この感覚を持ち合わせた人は全くと言っていい程いませんでね」
黒女「そんな中、あなたが艦娘の識別が可能であると、匿名の情報提供がありました」
黒男「その情報を頼りにあなたを探していたらあの事件に巻き込まれて意識不明の重体! あの時ばかりは神にも祈りましたよ」
黒女「我々も期待半分不安半分でしたが……。これでまた一歩、深海棲艦殲滅に近づくことが出来ました」
黒男「彼女さんについてはこちらで申請しておきますので、明日から早速、妖精の医療技術部に移ってもらいます」
矢島信二「ありがとうございます! あっ、それでちょっと聞きたいことが……。」
黒男「はいはい! 何でしょうか?」
矢島信二「俺の着任はどこの鎮守府になるんですか? 今ある鎮守府で補佐から始めるのか、それとも新しい鎮守府ですか?」
黒男「知りたいですか?? では発表します!! 矢島さんに着任していただく鎮守府、それは…………………」
黒男「トラック泊地です!」
くぅ~疲れましたwこれにて序章は完結です!
艦これ要素が殆ど無い長ったらしい話が続いて、書いてるうちに“艦これをダシにしたオリジナルssじゃねーかクソが!!”とか思われてないか内心焦っていました。初めての投稿で長編を書いたことを何回か後悔しましたが取りあえず、序章を書き終えることに成功しました。
本当はヒロインには死亡してもらう予定でしたが、復讐に生きる主人公を描くことに自信が無かったので彼女には生き延びてもらうことにしました。
この先どうするかはまだ決めていませんが、現時点ではこのまま生かそうかと思っています。
そして安心して下さい。ここからはやっと艦娘や深海棲艦が登場します。
オリジナルss状態から脱した『トラック戦記』を引き続きお楽しみ下さい。
――3日後 8月28日 高速艇内小会議室
黒男「矢島さん……改めトラック提督。乗り心地はどうですか?」
矢島信二(以降トラック提督)「さいあくです………」
俺は激しい頭痛と、猛烈な吐き気に襲われていた。俗にいう船酔いである。
黒男「もー、だから出港前に薬を飲んだか確認したじゃないですか」
まだ海が平和だった時に何度か船に乗ったことはあったが、船酔いになったことは一度も無かった。だから、今回も大丈夫だと思い、薬を飲まなかったのだが……。
トラック提督「この船……、速すぎません……?」
今乗っている高速艇は、民間に出回っているそれと比較できない凶悪なスピードで進んでいる。おかげで船体は常に大きく揺れ動き、その度に俺の吐き気が酷くなる。
そもそもこんなスピードだと、クジラにぶつかった時に木端微塵に大破してしまうのではと嫌な汗をかいてしまう。
黒男「むむっ! 提督が今、何を考えていらっしゃるか私には分かりますよ。ですが安心して下さい。この船には妖精によって造られた最新式のソナーが搭載されています。クジラ程の大きさならすぐに探知し、進路を変更しますので気にすることはありません」
黒男「それに船には、横須賀鎮守府選りすぐりの艦娘たちが護衛として同乗しています。今のところは順調に進んでいますし、この調子なら後30分程で補給地のグアムに到着しますよ! さあさあ若いんだからもっと元気よく!」
トラック提督「は、、はい、、、」
提督就任が決まってからはあっという間だった。家族や榛奈の家族とは当分会えないということで、久しぶりに2家族集まって食事をし、別れを惜しんだ。
その間に船や物資の用意、護衛の選定、大学の休学届など、黒男さんたちが様々な準備を行っていた。
そして出発当日、まず母島まで飛行機で向かい、そこからは高速艇に乗り換えた。当初はグアムまで飛行機で向かう予定だったが、安全を確認できず、墜落した際には助かる見込みがほぼ無いこと、艦娘による護衛には不向きだということでこの高速艇で移動することとなった。
黒男「ところで、艦娘についてはもう大丈夫ですか?」
トラック提督「ええ、まぁ」
黒男「頼りない返事ですねー。ではあちらにいる6名の艦娘、全員名前を言えますか?」
トラック提督「わかりました。ええっと、右から長門さん,山城さん,赤城さん,龍田さん,曙さん,吹雪さん……ですよね?」
黒男「正解です。でももう少し自信を持って答えてくだいよ」
トラック提督「すいません……」
曙「ちょっと黒男! ほんとにこんな奴があそこに着任するの? どうせこいつもまた犬死にするに決まってるわ」プンプン
吹雪「あ、曙ちゃん! そんなこと言ったらダメだよ。折角司令官になってくれたのにそんな……」
俺が先ほどから元気がないのは船酔いのせいだけではない。曙が先ほど言った通り、前任のトラック提督は着任した1週間後の8月17日に殉職している。
当時、南方海域攻略にあたりトラック泊地は前線補給基地として機能していた。そして17日、横須賀・呉連合の主力艦隊がトラック泊地を出発した直後に深海棲艦による襲撃を受け、トラックの提督は死亡。艦娘,妖精も全滅しており、設備も破壊しつくされていた。帰還した主力艦隊はすぐに緊急の連絡をしようとするも、通信設備も破壊されておりそれも叶わず、仕方なく焼け残っていた微量の資材を使い応急処置を施し、横須賀へ帰還したそうだ。
破壊された泊地は大量の深海棲艦に攻め込まれたかと思うほどの惨状だったが、そこまで大規模な侵攻があったのならすぐに捕捉され、主力艦隊へ帰還の要請があると思われるが実際には無かった……。そして、18日の襲撃前日だったことからトラック泊地を壊滅させたのは“戦艦棲姫”であると結論付けられた。
あいつの持つ力なら、哨戒の目の届かない距離からの砲撃が可能である。何発か撃ち込めば新設の鎮守府など赤子も同然。後は、混乱の隙をついて接近し至近距離から焼き払う。こうしてトラック泊地は一度崩壊した。
当然政府は、この事態を収拾するためにあらゆる手を尽くした。そして、ある程度復興の目途が立ったため、後釜の提督の派遣を決定。そこで選ばれたのが俺だった。
俺なら榛奈の治療のために、軍に逆らったり不利益なことをする心配も無く、家族たちも口をつぐむ。おまけにあの事件に巻き込まれていたので、それによって死亡したことにすれば存在を隠し通せる。まさにうってつけの人材だったのだろう。
トラック提督(まさか……。こんなことにまであいつと縁があるとは……)
奴の恐ろしさは身に染みて理解している。だからだろうか。先ほどから緊張と不安で胸が締め付けられている。
榛奈を助けたい気持ちに偽りはない。しかし、恐ろしいと思う気持ちにもまた、嘘をつけないでいた。
>>36
×休学届→○除籍手続
そんな風に悩んでいる内に船はいつの間にかグアムに到着していた。
―――――
黒男「皆さん! 今日はこちらに一泊して、翌朝出発しますのでそれまで自由時間とします。ただし、必ず2名は提督の護衛をお願いします。治安は問題ありませんが、敵がどのように襲ってくる分かりません。提督も1人で行動せずに艦娘たちと居て下さいね。それでは解散!」
そう告げると黒男さんは足早にドックへ入って行った。
長門「では提督護衛の任に就くものを決めようと思うが、誰か希望者はいないか?」
赤城「それなら私が護衛に就きましょう」
赤城「艦載機を使えば周囲の警戒はもちろん、何かあった際にもすぐに皆さんと連絡が取れます」
長門「分かった。では残りの1人だが……」
曙「私が就くわ」
提督・艦娘「「「!?」」」
曙「な、何よ、文句あるの!?」
吹雪「だって船の中であんなに貶してたのに……」
龍田「ちょっとビックリしちゃったわ~」
山城「あんたまさか……、今のうちに仕留めようとしてるんじゃ……」
曙「そんなんじゃ無いわよ! ただこの新米クソ提督があまりにヘタレだから、あたしが提督のイロハを叩き込んでやろうかと思っただけよ!」
長門「ぼのたん……」ウルウル
曙「ほら! さっさと行くわよ!」グイグイ
トラック提督「ちょっと待って! 引っ張らなくていいから……」
赤城「ふふ。それじゃ私も、提督のイロハを教わってきます」
カクゴシナサイ ハナシテー アラアラウフフ
長門「ふむ。提督はあの2人に任せれば大丈夫だろう。では我々は交流を深めy」
吹雪「山城姉さま! 早く行きましょう!!」グイグイ
山城「そうね! 急いで扶桑姉さまにスカイプしないと。きっと私たちが居なく寂しがっているはずよ」ダッシュ
龍田「じゃあ私は、天龍ちゃんへのお土産を選んでくるわ」フラー
長門「お、おい! こういう時にこそ酒でも飲んでd」
黒男「おーい! 長門さーん! ちょっと持ってほしいものがあるんですけどー!」タッタッタッ
龍田「だって。それじゃ、また後でね~」
長門「……」
黒男「はぁ、はぁ、はぁ……。長門さん……?」
長門「………。ビッグ7の力、侮るなよ!!」ナミダメ
―――グアム市街 Bar『somewhere』
曙「はい。これはあたしの奢りよ!」
トラック提督「いいんですか?」
曙「あんたは新米クソ提督なんだから遠慮しない!」
赤城「そうですよ。ここは素直にご馳走になりましょう」ガツガツモグモグ
曙「言っとくけど、あんたには奢らないからね」
赤城「エッ」
曙「あんたに奢ったらあたしの財布が轟沈するわよ。正規空母なんだし、それなりの給料貰ってるでしょ」
赤城「」
曙「もしかしてあんた……、手持ちが無いとかじゃないわよね……?」
赤城「」タキアセー
曙「仕方ないわねー……」
赤城「おお!」
曙「諦めなさい」
赤城「」チーン
トラック提督「あのー、この人どうするですか?」
曙「そこのバカはほっときなさい。それよりあんた! 船の中のあの態度は何よ」
曙「いくら船酔いしてたからって、提督たる者、もう少ししっかりしなさい。覇気が無いのよ覇気が!!」
トラック提督「…………」
曙の言いたいことはよく分かる。今の俺は戦艦棲姫に対して、完全にビビってしまっていた。病院では榛奈を救うことしか頭になく、恐怖など微塵も感じていなかった。だが、トラック泊地の悲劇を聞いてから、自分の中に恐怖が芽生えていた。それはトラックへ近づけば近づくほどに大きくなっていく。
けれどもそれを目の前にいる女の子に打ち明ける勇気もまた持ち合わせていなかった。
そんな俺の心中を見抜いたのか、曙が語りだした。
曙「いい? 今回私たちは、トラック泊地の戦力がある程度の水準に達するまで、泊地に留まる予定よ」
トラック提督「!?」
初耳だった。
曙「上層部は今回の事態を非常に重く捉えているわ」
曙「………これまでと違い、艦娘が起用されてからは連戦連勝。中規模とはいえ、相手の泊地を壊滅させることにも成功している。こんなこと今まで一度も無かった」
曙「だからこそ、皆浮かれていたんだわ……。あたしもそう。横須賀提督の元でなら、どんな戦いにも勝てる。どんな奴でも蹴散らしてやれると思ってた」
曙「初めての海外拠点なんだから……。本土と遠く離れた所なんだから……。もっと目をかけて、大事にするべきだった」
曙「でもすっかり浮かれきった私たちはそれを疎かにした。その結果がこれよ」
曙「船内では犬死になんて言っちゃったけど、本当はそんなこと思ってないわ。彼らは、私たちが殺したようなものよ」
曙「あーあ、あの時はああ言えばビビッて着任を撤回するかと思ったけど……。あんたは撤回しないし、あたしの心が傷ついただけじゃない……」フッ
トラック提督「なんでそうまでして……」
曙「……私たちの怠慢で危うく死にかけた人間を、折角助かった命を今度は、私たちの勝手な都合で死地に送り組むなんて、そんなの傲慢だと思わない?」
曙「それに、あんたの心はあいつに負けてた。だからビビらせても、死者を貶してでも、あんたを止めたかった……」
曙「黒男のやり口はよく知ってるわ。あんたは彼女を人質に取られたようなものね」
トラック提督「……」
曙「あたし実はね、横須賀では2番目に着任した艦娘なの。だから提督との付き合いも長いし、練度も高いから、自分で言うのもなんだけど……、結構信頼されてるの」
曙「それにうちの提督は、あたしが知る人の中で一番、今回の事件を悔やんでいる」
曙「だから……、提督に頼めば、トラックへの着任を辞退してもきっと、あんたの彼女への治療は継続してくれる……」
曙「この際はっきり言うわ。あなたは提督になるべきではない。心が恐怖に囚われたままでは必ず命を落とすことになる。それは自分かもしれないし、あんたが今後指揮する艦娘かもしれない」
曙「だから……」
そういうと曙は、顔を伏せて黙り込んでしまった。
トラック提督(……)
曙の話を聞いて、俺の心は激しく揺れ動いていた。あの恐ろしい化け物に怯えなくとも榛奈の治療が行われる……。
その話に俺は思わず首を縦に振りそうになった。
けれども俺は、首を横に振り、力強く宣言した
トラック提督「俺は! 絶対に逃げない! 何としてもあの深海棲艦をぶちのめして、俺に巣食う恐怖と決着をつけてやるっ!!!」ダン
トラック提督「だから曙! 頼む!! 出来る限りで良い。俺に力を貸してくれ!!」
俺は曙の手を掴み、真っ直ぐにその眼を見つめた。
曙「い、痛いじゃない」パッ
トラック提督「あっ、ごめん、つい……」アセアセ
曙「全く……。しょーがないわね。いいわ! このあたし、綾波型駆逐艦8番艦“曙”が、あんたをビシバシ鍛えてやるわ!」
曙「それに、そんなに必死に頼まれなくても、私たちはトラック泊地の戦力がある程度の水準に達するまで、指導艦として滞在することになってるわ!」
トラック提督「それは本当なのか!?」
曙「ええ。そのためにこの護衛艦隊は、横須賀鎮守府内で練度トップクラスの艦娘だけで編成されてるもの」
曙「吹雪は初期艦だから駆逐艦では最強、私は時点ね。龍田は軽巡だけど、軽巡どころかそこら辺の重巡ですら相手にならない強さだし」
曙「赤城は空母最強、そして山城,長門はうちの二大巨頭。流石戦艦ね、文句無しの強さなんだから」
曙「提督がこの編成を発表した時、上層部は猛反発したけどうちの提督はその意見を全て言い負かして私たちを派遣したのよ」
トラック提督「そうだったのか……」
曙「そうよ。だからあんたたちがどれだけ泣き言を言っても絶対に手は抜かない。今から覚悟することね」
トラック提督「曙、本当にありがとう!」
曙「………お礼ならうちの提督に言いなさい……。おっと、話し込んでたらもうこんな時間、そろそろ帰るわよ」
トラック提督「ん、了解。ところで、あの人は本当に置いて行っていいのか?」
赤城「」ウルウル
曙「子供じゃあるまいし、自分で何とかするでしょ。あっでも、護衛は2人居ないとダメだっけ……」
赤城「」キラキラ
曙「仕方ないわね……。今回だk「あら~、皆何してるの?」」
トラック提督「龍田さん!」
赤城「」ビクッ
曙「あら、丁度良かった。このクソ空母が用事で護衛に就けなくて困ってたの。あなたは今大丈夫?」
龍田「え~、わたし~?」チラッ
赤城「」タツタシャン……
龍田「丁度宿舎に戻るとこだったの。一緒に帰りましょ」ニッコリ
赤城「」
曙「そういう訳だから。あたしたちは先に行くけど、明日の集合時間までには帰ってきなさい」フンッ
龍田「うふふ。それじゃあ、頑張ってね」ニコニコ
トラック提督「あー、お金は計画的に使ってください」ペコリ
曙「それじゃ、宿舎へ帰るわよ」
龍田「バイバ~イ」
モットドウドウトアルキナサイ ワカッテルヨ ウフフ、オニキョウカンネー
――――ポツーン
黒塗りの店員「おう、ねーちゃん」カタトントン
赤城「!?」ビクッ
黒塗りの店長「ねーちゃん、こんなに飲み食いして、金払えるのか?」
赤城「」ダラダラ
黒塗りの店長「もしかして、払・え・ね・え・の・か?」
赤城「」コ、コクリ
黒塗りの店員「だったら、体で払ってもらうしかねーな……」
赤城「いやーそれは……。あっ、私芋っぽいとよく言われるんですけど、こう見えて『艦これ』という人気ゲームの看板キャラでして……。え、エッチなことはちょっとご法度といいますか……」
黒塗りの店長「看板キャラが無銭飲食してんじゃねーよ!! ふざけやがって! もう許さねぇ、今晩はみっちり働いてもらうぞ!」
黒塗りの店員「今から覚悟しとけよ!!」
赤城「そっ、それは曙ちゃんの決めゼリフーーーーーーーーーー!!!!」
―――――
その夜、グアム島には獣の断末魔のような、おどろおどろしい絶叫が響き渡っていたそうだ。
<<44の6~8行目の文章が、<<46の8~9行目の文章と意味が重複してしまっています。
頭の中で<<44の重複箇所を削除してお読み下さい
うまく書き込めてなかったので再度訂正
>>44 の6~8行目の文章が、
>>46 の8~9行目の文章と意味が重複してしまっています。
頭の中で >>44 の重複箇所を削除してお読み下さい
重ね重ねすみません
―――明くる日 午前6時 宿舎前
黒男「おはようございます!」
トラック提督「おはようございます」
黒男「皆様よく寝れましたか?」
曙「なかなか良い寝床だったじゃない」スッキリ
龍田「そうね~」スッキリ
長門「そうだな。これなら奴とも戦えるな」キラキラ
吹雪「扶桑ねえさま……」グヘヘ
山城「姉さまとのお話に夢中で気づいたら朝だったわ……」デュフフ
赤城「はたらくのってすてきろうどうさいこー」ドンヨリ
トラック提督「艦隊の半数が今にも沈みそうな雰囲気なんだけど……」
黒男「彼女たちもプロですし、いざという時は大丈夫ですよ。多分」
トラック「何もないことを祈ります」
一行を乗せた高速艇は、一路トラック諸島へと向かう
―――2時間後 トラック諸島 夏島軍港
黒男「さて、到着いたしました。ここが今日からあなたの職場となるトラック泊地です」
トラック提督「ここがトラック泊地……」
島に目を向けると青々とした南国の草木が生い茂った森が広がっている。しかしよく見ると、砲撃によって森に大穴が開いていたり、木々が焼け焦げていたりと、所々に襲撃の爪痕が残っている。
一方、海岸線の穴は既に埋め立てられており、最近建てられたと思われる小奇麗な建物が幾つか見受けられる。
トラック提督「凄い襲撃だったと聞いてましたが、ずいぶん建物が多いですね」
黒男「それはもちろん、早期に復旧しないと泊地として機能しませんし、ここががら空きだとせっかく苦労して切り開いた南方への道がまた閉ざされてしまいますので」
黒男「政府もここの復旧にはかなり力を入れています。だから提督。あなたの働きにもかなり期待が掛かっていますよ」
トラック提督「き、肝に銘じておきます…」
山城「話はその辺にしてもらえる。こんなところで突っ立てると虫に刺されるわ」
黒男「これは失礼しました。では話の続きは本部で致しましょう。ささ皆さん、こちらです」
足を掻きながら不満そうに口を尖らす山城に促され、俺たちはジャングルを抜けた先にある本部へと向かった
―――ジャングルを歩くこと10分程で大きな建物が見えてきた。
黒男「皆様、ここがトラック泊地の本部でございます」
トラック提督「す、すげー」
黒男「私はトラック提督に今後について説明がありますので、その間は客室か食堂で待機してて下さい。では提督、執務室へ向かいましょう」
曙「初めが肝心なんだから。誰がなるか知らないけど、くれぐれも初期艦になめられるようなヘマはするんじゃないのよ」
そう言うと、曙を先頭に艦娘たちはそれぞれに宛がわれた客室に向かっていった。
―――トラック泊地本部 廊下
黒男「ずいぶんと彼女に気に入られましたね」ククク
トラック提督「みたいですね。昨晩も提督のイロハを教えてもらいました」
黒男「そうですか。なら今からするつもりだった説明もいらないですね」
トラック提督「えっ!? いやいや、それはお願いしますよ!」
黒男「ふっふっふ。冗談ですよ。冗談。そんなこと言ってる間に着きましたよ」
黒尾「ここが、あなたの執務室です」
トラック提督「ここが、俺の執務室……」
目の前にあるのは何の変哲もないドアだが、ここを開けるとこれまで縁の無かった戦いの世界に自分が飛び込むのだと、改めて意識させられる。
黒男「感動するのも結構ですが、そろそろ入りましょうか。中に初期艦娘も待機していますよ」
トラック提督「はっ、はい!!」
意を決してドアを開ける。
中に居たのは…………
セーラー服を着た、小柄な女の子だった。
ショートカットで茶髪の彼女は、気の弱そうな目をこちらに向けている。
そんな目つきとは裏腹に、彼女は魚雷のようなものを手にしている。
トラック提督(随分と物騒なものを持ってるなー。あれか? 気弱そうな見た目に反してバイオレンスな娘なのか?)
実は盗んだバイクで走りだしていたり、などと邪推していると、
電「電です。どうか、よろしくお願いいたします」ペコリ
可愛らしく頭を下げ、行儀よく挨拶をしてくれた。
トラック提督「今日から君の上司となる、トラック提督だ。よろしく頼むよ」
黒男「私は黒男と申します。普段は、各鎮守府への連絡係やアドバイザーを務めております。当分はこの泊地の専任となりますので、どうぞよろしくお願いします」
電「よ、よろしくなのです」
黒男「さて、電さんと会ったばかりで慌ただしいですが、すぐに次の艦娘の建造を行いましょう」
トラック提督「早!? もうですか?」
黒男「もちろんです。時は有限。敵はこちらが立て直すまで待っててはくれませんよ。折角高練度の艦娘が指導艦としていてくれるんですから、早いうちにこちらも艦娘を揃えませんと。さっ、工廠へ向かいますよ」
もう少し執務室を確認したかったが、彼の言うことも尤もだったので、3人は工廠へと向かった
―――トラック泊地 工廠
本部から少し離れた所に工廠は建てられていた。
黒男「ここが工廠でございます」
中に入ると女性が2人居た。
1人はピンク色の長髪で、人懐っこそうな笑顔がまぶしい。
もう1人は黒い長髪、眼鏡といった知的さを感じさせる女性だった。
明石「工作艦、明石です! よろしくお願いしますね」
大淀「初めまして提督。私は軽巡、大淀と申します。提督の秘書として泊地での業務、艦隊運営をサポート致します。これからよろしくお願いします」
トラック提督「私はトラック提督。色々迷惑をかけるかもしれないが1日でも早く、1人前の提督になれるよう努力する。こちらこそ、よろしく頼むよ」
黒男「ここでは装備の開発、艦娘の建造を行いますが……」ピロピロピロ
黒男「おっと電話が……。すみません明石さん。提督にここの説明と艦娘の建造をお願いします」
明石「わっかりましたー!」
黒男「トラック提督。すみませんが建造が終わり次第、執務室に来ていただけますか。私は本局へ報告がありますので」
そう言うと黒男さんはそそくさと工廠から出て行った。
明石「では私が工廠と建造について説明しますが……。因みにここのこと、どれ位知ってますか?」
トラック提督「えっとー。基本的なことは知っています。自分も“艦これ”をプレイしてましたので」
明石「提督も“提督”だったんですね! それなら話は早いです。基本は“艦これ”と同じですから」
ここで出てくる“艦これ”とは、政府が横須賀鎮守府の開設と同時にサービスを開始したブラウザゲームのことである。
横須賀鎮守府開設まで、艦娘や妖精については世間に全く明かされていなかったため、日に日に数が減っていく深海棲艦に対して国民は、政府が開発した新兵器のよって倒された、既に奴らは陸に上がっているなど、様々な仮説を立て、理由を考察していた。
一方政府は、艦娘を公表する機会を窺っており、また公表と同時に“艦これ”のサービスを開始する準備を行っていた。
というのも、深海棲艦といった訳の分からない連中の攻撃によって、国民の未知のものへ対する懐疑心・敵対心は頂点に達していた。
そんな状態で艦娘を公表しても容易には受け入れられず、最悪彼女たちを排除しようとする動きが出る恐れもあった。
それを回避し、艦娘への理解を深める為に公表と同時に始まったのが“艦これ”である。
艦娘の活躍もあり、登録者数は右肩上がりで増え続け、今では300万人もの“提督”が存在するとゲーム雑誌で読んだことがある。
トラック提督「登録してすぐに入院したんで、本当に基本的なことしか分からないんですけど」
明石「先ほども言った通り、基本は同じです。ただ幾つか違う部分がありますのでそれについて説明しますね」
明石「まず、ゲームでは建造を失敗することはありませんが、現実では失敗もあります」
トラック提督「えっ!?」
明石「さらに同じ艦娘が一つの鎮守府に複数人所属することはありえません。つまり一回建造されると、同じ艦娘がもう一度建造されることはないということです」
明石「もし轟沈してしまったら再び建造出来るかもしれませんが、現存の鎮守府では幸いにも轟沈者が出ていませんのであくまで憶測ですが……」
明石「トラックの場合は鎮守府自体が一度壊滅してしまったので、確認しようがありませんでしたし」
明石「ただ提督は着任したばかりで所属艦娘も電ちゃんだけですし、恐らく失敗は無いと思います。というわけで、早速建造しちゃいましょう!」
トラック提督「うーん。折角建造するならやっぱり戦艦か空母がいいなー。高い火力で敵をねじ伏せれたら楽だろうし」
大淀「ですが提督、彼女たちはその高い火力の代償として運用には莫大な資源が必要です。今のトラック泊地にある資源では、彼女たちを十分に使いこなすことは難しいでしょう」
大淀「ここは無難に駆逐艦や軽巡を揃えて体制が整い次第戦艦や空母に手を出すべきかと……」
トラック提督「たしかに……。わかった。ここは大淀さんの言うとおりにします」
明石「駆逐艦か軽巡ですね。じゃあ投入する資材はあまり多くないほうがいいですね」
トラック提督「お願いします」
明石「それじゃあ早速資材を入れて、蓋を閉めて……。後はボタンを押すだけ」ポチッ
グオン グオン グオン …………チーン!!
【1:00:00】
明石「1時間……。恐らく“天龍型”ですね」
トラック提督「おお! 幸先良いなー」
明石「装置はもう一つあるのでもう1人建造出来ますよ」
トラック提督「余らせるのもあれだし、お願いするよ」
明石「資源はどうします?」
トラック提督「さっきと同じで」
明石「了解です!」
グオン グオン グオン …………チーン!!
【20:00】
明石「今度は駆逐艦ですが、候補が多いので誰かは分からないですね」
トラック提督「誰なんだろ。“艦これ”ではバーナーで炙ればすぐに終了するけど……。流石に無いよね」
明石「ありますよ」ヒョイ
あるんだ!?
明石「これで装置の燃焼部分を強化すればイッパツです!」
大淀「提督! 早く炙りましょう!!」グイグイ
トラック提督「わ、わかりましたから、そんなに押さないで下さい」
大淀「し、失礼しました///」カオマッカ
トラック提督「じゃあいきますよ」
電「電もお手伝いするのです」フンス
スイッチオン! ボワァーーーーー!!!!
ケンゾウガシュウリョウシマシタ
――――――
天龍「オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」
荒潮「あら。自己紹介まだでしたかー。私、荒潮です。」
電「新しい仲間なのです!」
トラック提督「俺の名前はトラック提督。2人とも、これからよろしくな」
天龍「お前がオレの提督か。弱っちそうだがまっ、よろしくな!」
荒潮「よろしくお願いします、提督」
トラック提督「あっ、それと明石、資源は先ほどと同じ量で建造していてくれ。バーナーは使わなくていいから」
明石「同じ資源量ですと、お話が終わる頃には終了していますね」
トラック提督「黒男さんとの話が終わったら迎えに来るよ」
明石「了解です。ではパパッとセットして……」
【20:00】&【1:00:00】
明石「これで一先ず建造は終了ですね。艦娘や工廠で何か疑問点がありましたらいつでも来てください。私は大体ここにいますので」
トラック提督「ありがとう。その時は遠慮なく来させてもらうよ。では皆、執務室に戻ろうか」
電「はいなのです!」
明石と別れ、トラック提督たち5人は執務室へと戻った。
―――トラック泊地本部 執務室
トラック提督「お待たせしました、黒男さん」
黒男「いえいえ。どうやら問題なく建造出来たようですね」
トラック提督「はい。今空いた装置で建造していますので、所属艦娘は合計5人となります」
黒男「一艦隊につき6人編成出来ますので明日、残り1人の建造お願いしますね」
黒男「本当は建造が成功したら、本部から白雪が送られるのですが、流石に3日で着任させることは厳しかったようで……。数日以内にはこちらに送られますので」
トラック提督「艦娘が送られるのですか?」
黒男「ええ。駆逐艦ですが、現段階ですと立派な戦力となってくれるでしょう」
トラック提督「それは心強いです」
黒男「今後も数人ですが、艦娘が派遣されるので期待して下さい………」
黒男「それでは今から、今後のトラック泊地の指針をお話しします」
黒男「前回と同じ過ちを繰り返さないために今回求められているのは、早急な艦隊の強化と近隣の鎮守府との早期の連携です」
黒男「まず、艦娘の皆様は横須賀鎮守府より派遣された指導艦たちの下で訓練を受けて下さい」
黒男「トラック提督は私と大淀さんから泊地の運営について学んで下さい」
黒男「連携に関しましては、私が相手の鎮守府と連絡を取っておきますので今は気にしないで下さい」
黒男「戦艦棲姫とはいずれ決着をつけなければなりません。その日がいつ来てもいいように皆様、しっかり鍛えて下さいね」
トラック提督・艦娘たち「「「了解!!!」」」
黒男「良い返事です。では艦娘の皆様は早速ですが、訓練所に向かって下さい。指導艦の方々が待機してますので」
天龍「よっしゃー! 皆、行くぞ!」バタバタ
電「待ってほしいのですー!」
オクレンナヨー ハリキッテイクワヨ! ガンバルノデス
――――
黒男「さて、あちらは指導艦に任せて、トラック提督には泊地運用について説明しましょう」
トラック提督「お願いします」
黒男「まず資源についてですが、最初はある程度の量が本部から送られてきますが、微々たる量ですので基本は遠征を行うなどしてご自身で貯めるようにお願いします」
黒男「他の2次創作内ではやたらと書類に追われていますが、実際にそのようなことはありませんよ。業務日誌と資源貯蔵量記録書、本部への活動報告は毎日してもらいますが、それ以外の書類については発生時のみで結構です」
黒男「報告書の類は備え付けのパソコン内に全て書式データが入ってますので、利用する際に印刷して下さい。紛失に備えて後ろの棚にあるバインダーに原本も用意してますが、データ紛失は処分の対象ですので無いようにして下さい」
トラック提督「2次創作?」
黒男「こちらの話です」
黒男「何か連絡がありましたらメールが送られますのでチェックは欠かさないようにして下さい。機密事項などは私が派遣されて直接連絡しますので」
黒男「現在この泊地には、大淀・明石などのサポート艦娘。工廠や警戒網、各施設で働く人間と妖精など総勢200名のスタッフが居ます」
黒男「元々住んでいた住人は深海棲艦出現とともに近隣諸国へと亡命しましたので、現在トラック諸島には民間人は1人も居ません」
黒男「ゆくゆくは民間人の方が帰ってこれるように島を整備したいと考えていますが、今は防衛に集中していただければ結構です」
トラック提督「まだそこまで手が出せそうにありませんね」
黒男「ここまでざっと説明しましたが、何か疑問点はありますか」
トラック提督「今は大丈夫です。何かありましたらすぐに連絡します」
黒男「わかりました。そろそろ建造も終了した頃でしょうし、工廠へ迎えに行きましょう」
一行は再び工廠へ………
明石「お待ちしてました。建造、終了してますよ。2人とも、提督が迎えに来たわよ」
明石が奥の部屋に向かって声をかけると、2人の艦娘が出てきた。
木曾「木曾だ。お前に最高の勝利を与えてやる」
朝潮「駆逐艦、朝潮です。勝負ならいつでも受けて立つ覚悟です」
トラック提督「これまた勇ましい艦娘たちだな。私はトラック提督。これからよろしく」
木曾「ああ。よろしくな」
朝潮「お会いできて光栄です、司令官!」ビシッ
明石「彼女たちも訓練所に?」
トラック提督「ああ。2人とも、早速で悪いが訓練所に指導艦が居るから、彼女たちから指導を受けてくれ」
木曾「生まれたばかりだし、仕方ねえな。行ってくる」
朝潮「了解しました。直ちに向かいます」
2人は妖精に案内され、訓練所へと向かって行った。
大淀「黒男さん。今から提督を各施設へ案内をしたいのですが宜しいでしょうか?」
黒男「ええ、大丈夫ですよ。私は打ち合わせがありますので本部に戻ります。大淀さん、あとは頼みましたよ」
大淀「承知しました。それでは提督、行きましょう」
トラック提督「わかりました。では黒男さん、また後で」
―――大淀さんに連れられて俺は、今朝上陸した港へ向かっていた。
大淀「ここは夏島第一軍港です。現在トラック諸島で一番大きな港となっています。島の丁度反対には第二軍港があります」
大淀「また、北部にあります春島には太平洋戦争時に作られた飛行場がありましたが、先日の襲撃によって破壊され現在、復旧作業中です」
トラック提督「この小屋みたいな建物は?」
大淀「ここは見張り小屋兼砲台です。窓から海に向かって砲撃が出来るようになっています」
そう言われて2階を見上げてみると、窓から大砲が顔を覗かせている。
大淀「現在この建物は海岸線に沿って等間隔に建てられており、島を一周する計画です」
トラック提督「他の島はどうなっているんですか?」
大淀「砲撃によって森が一部焼失するなどはありましたが、夏島・春島以外の島はまだ開発が行われていませんでしたので人的・物的被害はありません」
大淀「今は少数の見張りを島内へ派遣するのみで、夏島・春島の復旧に力を入れていますが、先ほど聞いた通り、いずれは全ての島を開発する予定です」
トラック提督「すごい壮大な計画なんですね……」
大淀「それを実現するためにも、是非提督には頑張っていただかないといけませんね」フフッ
トラック提督「ぜ、善処します……」
大淀「それでは次の場所へ行きましょうか」
次に案内されたのは和風な造りの古民家であった。
トラック提督「ここは……?」
大淀「ここは艦娘の憩いの場、“甘味処間宮”です」
トラック提督「甘味処……」
大淀「中に入れば分かりますよ」
大淀さんに促されて引き戸に手をかけた。
トラック提督「お邪魔しまーす……」ガラガラ
???「はーい! 少々お待ちください」
バタバタバタバタ
大淀「こんにちは、間宮さん」
間宮「あら大淀さん。こんにちは。そちらの方は?」
大淀「こちらは今朝着任されましたトラック提督です」
トラック提督「初めまして。私はトラック提督です」
間宮「これは失礼しました。私は間宮。この甘味処の店主をしています給糧艦でございます」
大淀「間宮さんの作る甘味には、艦娘の疲労を劇的に回復する効果があるんですよ」
トラック提督「!? それはすごいですね!」
間宮「私自身には全く戦闘能力がありませんので……。せめて得意の甘味作りで皆様をサポート致します!」
間宮「よろしければ一服していきませんか? 間宮特製のあんみつをご馳走しますよ」
トラック提督「うーん。今緊急の用事ってありました?」
大淀「特にはありませんね。夕食の時間までまだありますし、お言葉に甘えましょうか」
トラック提督「よかった。グアムを出てから何も食べてなくて、お腹空いてたんですよ」
間宮「わかりました。腕によりをかけてお作りしますね」
――――
―――1時間後
大淀「そろそろ行きましょうか」
トラック提督「そうですね。間宮さんご馳走様です。すごく美味しいあんみつでした!」
間宮「喜んでいただけて私も嬉しいです。また来てくださいね! 次は羊羹をご馳走します」
トラック提督「楽しみにしてます」
間宮さんに見送られ、再び大淀さんと施設巡りへ向かった。
その後は病院,倉庫,寄宿舎と主要な施設を案内してもらい気づけばすっかり日が落ちていた。
―――本部食堂
夕食の時間ということで食堂に行くと、トラック所属の艦娘たちが机に突っ伏している。
トラック提督「その様子だと、こってり絞られたようだな」
天龍「もう足が動かねえ……」
龍田「うふふ。誰が来るかと思ったら天龍ちゃんが来るなんて。私、張り切っちゃったわ」
電「い、いのちだけは助けてほしいのです……」
荒潮「流石にへとへとだわ……」
朝潮「………」プルプルプル
木曾「ここまできついとは……」
曙「これ位でへばってどうするのよ! 明日はさらに厳しいわよ」
トラック艦娘「「「えええええーーーーーー!!!!」」」
トラック提督「皆大変そうだな」
大淀「他人事のように仰ってますが、明日は事務作業についてみっちり覚えていただきますよ」
トラック提督「えっ!?」
大淀「いつまでも黒男さんに頼るわけにもいきません。早く自立するためにもビシバシいきますよ」
黒男「頑張ってくださいね」ニコッ
トラック提督「が、頑張ります」
黒男「その意気です。皆さん、今日はお疲れでしょうし、夕食後は入浴を済ませたら速やかに就寝して下さい」
黒男「明日は朝6時に起床。30分後に朝食。その後は訓練所へ。提督は執務室に向かうように」
黒男「では、食事にしてください!」
ハラヘッター バンゴハンタノシミデス
―――――――
―――――提督私室
トラック提督「ふー。提督専用の風呂が用意されてるなんて贅沢だな」
提督専用風呂は一人用とは思えないほど広く、サウナやジャグジーまで併設されていた。
トラック提督「本土から遠く離れたこんな島だからかな?」
鎮守府近辺は海沿いでありながら非常に発展しており、様々な店がある。本土なら、許可さえ取れば街に行って気晴らしも出来るが、何もない島となれば気晴らしどころか食料や日用品の買い出しすら難しい。恐らくその代わりに鎮守府内の施設を豪華にすることによって、島で働く者たちの不満を和らげるつもりなのだろう。
トラック提督「不便だけど、住めば都って言うし、何とかなるだろ」
そういって俺はベッドに飛び乗り、昨日のことを思い出す。
トラック提督(昨日曙が言ってた“あれ”、どういうことだ……)
昨日の夜、曙に連れられて行ったバーで彼女が口にしたあのことがずっと頭に引っかかっていた。
トラック提督(俺はあいつに“榛奈”のことは何も話してないぞ……)
軍関係者以外だと自分の家族にしか話しておらず、このことは榛奈の家族にすら話していない。
トラック提督(負い目を感じさせるのも申し訳無いしな)
榛奈は世間では、“深海棲艦対策局”の情報操作によってあの事件に巻き込まれ行方不明となったことにされている。
トラック提督(巻き込まれたのは事実だけど、ほんとは今横須賀に居るんだよな……)
夕食後、今榛奈がどうなっているのか気になって黒男さんに尋ねると、既に治療は開始されていると言われた。
トラック提督(つまり、今榛奈の現状を知っているのは、俺と黒男さん、黒女さん、松崎先生と看護師さんが一人、それと俺の家族だけ)
俺は自分がトラック泊地の提督に選ばれた理由について、
“俺なら榛奈の治療のために、軍に逆らったり不利益なことをする心配も無く、家族たちも口をつぐむ。おまけにあの事件に巻き込まれていたので、それによって死亡したことにすれば存在を隠し通せる。まさにうってつけの人材だったのだろう”
と、考えている。
それもそうだ。
出来たばかりの泊地がたった1週間で壊滅したとなると、今後の鎮守府増設計画の大きな支障となる。
政府や艦娘への不信感にも繋がるだろう。壊滅の事実を隠した状態で新たな提督を用意するには、適性を持ち尚且つ、表向きには存在しない人物でないとならない。
ただでさえ適性を持つ人間は数少ないのにその上、そいつは表の世界から消えていないといけないのだから、いかにこれが絶望的な条件だったろうか。
しかし俺は幸か不幸か、提督の適性を持っており、さらに深海棲艦の襲撃に巻き込まれているので死亡工作も容易い。まさしく求めて人物に違いない。
だからこそ、俺に提督を引き受けさせる材料となった“榛奈の治療”について知っている人物は少ない方が良いに決まっている。
最早脅しといってもよいこの件が下手に知れ渡ると、マスコミによって
『国家の怠慢による犠牲者が今度は彼らの道具となった』 『人権を蔑ろにする卑劣な行為』だのと、
扇情的な見出しで一斉に報道されることになるだろう。
それによって榛奈の治療に支障を来たすのは俺の本意ではない。
だから俺は政府の条件を呑み、この件については他言しないようにしている。
にも関わらず曙は、
“黒男のやり口はよく知ってるわ。あんたは彼女を人質に取られたようなものね”
と言い、俺を慰めた。
トラック提督(この件は曙はもちろん、横須賀の艦娘にもうちの艦娘にも一切話していない……)
知られては困ることを初対面の者にいきなり話すなどありえない。話した記憶も無い。
トラック提督(同じ理由で黒男さん、黒女さんが話すのもありえない)
彼らは俺以上に、バレたら困る人たちなのだから。
トラック提督(松崎先生たちも軍医らしいから、多分口止めされてるだろうし)
退院まで松崎先生とは何度か話すことがあり、実は彼が軍医であること、そして家族が居ることは把握済みである。
下手に話したら彼らが家族に何か危害を加えることは明白だろう。
トラック提督(これで容疑者は俺の家族だけだが……、多分その可能性もゼロだな)
現在艦娘は、単独では鎮守府から限られた範囲内しか行動出来ず、それ以上の距離を移動するには提督が同行しなければならない。
もし、勝手に範囲外に出ると、心臓を握りつぶされるような激しい痛みに襲われると黒男さんに教わった。
トラック提督(出撃時は解除されるらしいけど、たった3日以内に出撃中こっそりと俺の家族に会うってのも都合が良過ぎるな)
トラック提督(それに俺の実家は静岡と神奈川の県境で、横須賀とはかなり離れてるから確実に範囲外)
トラック提督(提督同行の可能性も考えたが……、責任を感じて周囲の反対を押し切り、高練度の艦娘を派遣してくれるような人が、あの条件を聞いてそのまま無視するのか?)
恐らく義憤にかられ、無条件で榛奈を治療すると申し出るだろう。そして彼女もまた、本来はこのような卑怯なことを嫌う気質なんだろう。
短い時間ではあるが俺は曙を、口調はきついがそれは本心ではなく、本当は素直で真っ直ぐな性格の艦娘であると密かに評している。(言うと間違いなく照れ隠しで殴られるので言わないが……)
だからこそ、知っているにも関わらず自分の提督に報告しない彼女に対して不審に感じるものがある。
トラック提督(自分は提督と親しいと言っていたのは嘘ではなさそうだし、話しかけ難いからという理由ではないな。けどそうなると、何が理由で報告しないんだろう?)
考えれば考える程、思考の沼に沈んでいってしまう。
トラック提督(このまま考えていても埒が明かないし、この件は一旦置いて、今日はもう寝よう……)
トラック提督(明日からは横須賀鎮守府、それに申し訳無いけど曙の動向には注意しなければならないな……。他の横須賀艦娘に怪しいところが無いのは幸いだった)
こうして、自身の着任に関わる疑惑を幾つか整理したところで、その日は眠りについたのであった………。
―――8月30日
今日は昨晩の支持通り、朝から艦娘たちは引き続き訓練。俺は鬼教官2人によってデスクワークを叩き込まれていた。
幸い大学では、代筆を頼まれるほどレポートを書くのが上手かったこともあって辛いのは初めの数時間のみだった。
予定よりも早く指導が終わった俺は昼食後、新たな艦娘を迎えるために工廠に居た。
明石「こんにちは提督。今日も建造、やっちゃいますか?」
トラック提督「そのつもりで来たよ。それで相談なんだけど……」
明石「何ですか?」
トラック提督「昨日大淀さんはああ言ってたけど……、やっぱり戦艦か空母は居て欲しいなって思って……」
トラック提督「折角戦艦が2人も居てくれているのに、こっちに居ないんじゃ勿体ないだろ」
明石「なるほど……。で、本音は?」
トラック提督「勝利のために必要なものは火力」
明石「デスヨネー」
トラック提督「男は大きなものに訳も無く憧れてしまう生き物なんですよ……。これがロマン?」
明石「女の私には解りかねますね。提督ってもしかして脳筋なんですか?」
トラック提督「明石って案外失礼だな」
明石「冗談ですよ」ムフフ
明石「ただ、ボーキサイトが少し心許ないので、今回は空母ではなく戦艦を建造する方が良いと思います」
明石「こちらが戦艦がよく出ると言われるレシピです」
そう言うと、明石は各資材の分量が書かれたメモを見せてくれた。
トラック提督「レシピ?」
明石「はい。先に着任した本土の提督たちが様々な分量を試した結果、信頼できると判断されたものはレシピとしてまとめられてるんですよ」
トラック提督「艦娘って一体……?」
明石「若いうちから細かいことをいちいち気にしてるとハゲますよ」
トラック提督「やっぱり明石って失礼だよな……」
明石「いいからいいから。私のオススメは400/100/600/30(油/弾薬/鋼材/ボーキ)。鋼材が多く必要ですが戦艦の確率が高いと評判ですよ!」
トラック提督「それって信用していいのか……?」
明石「大丈夫ですよ! それに無暗に資源を使って戦艦が出なかったら大淀に合わせる顔が無いですよ」コソッ
トラック提督「そ、そうだな……。よし、今回はそのレシピとやらに従ってみるよ」
明石「了解です!」
グオン グオン グオン …………チーン!!
【4:00:00】
明石「!? やりましたよ提督!! 成功です!!」
トラック提督「ほんとか!?」
明石「間違いありません! これは……、“金剛型”です!」
トラック提督「良かったー! これで大淀さんに怒られずにすむよ」
明石「これでこのレシピの信用性がまた上がりましたね」メモメモ
トラック提督「バーナーはまだあるのか?」
明石「ありますよ」ヒョイ
トラック提督「では早速炙ろう」
スイッチオン! ボワァーーーーー!!!!
ケンゾウガシュウリョウシマシタ
――――――
霧島「マイク音量大丈夫…?チェック、1、2……。よし。はじめまして、私、霧島です」
装置から現れたのは巫女服を改造したような格好の長身の女性だった。
長門といい山城といい、戦艦は背が高いようだ。
また、大淀さんと同じく眼鏡をかけているが、何だろう……この違和感。
明石「ようこそ霧島さん! お待ちしてました!!」
霧島「そう言ってもらえて嬉しいです。あなたが司令ですか?金剛型の実力、期待して下さいね」
トラック提督「俺はトラック提督。君がこの泊地で初めての戦艦だ。期待してるぞ」
霧島「了解です。それではご命令を、司令」
トラック提督「訓練所に先に着任した艦娘たちが居るから彼女たちに合流してくれ。着いてからは指導艦の命令に従うように」
霧島「訓練ですね。頑張ります!」
そして霧島は妖精に連れられて工廠から出て行った。
明石「これで長門さんや山城さんが手持無沙汰にならずにすみましたね」
トラック提督「後は空母か……。早いうちにボーキを集めないと」
明石「深海棲艦出現前はオーストラリアから大部分を輸入していましたが、現在はあの国との貿易は完全にストップしてますし、大陸からの輸入は相変わらず不安定ですからね」
明石「今回の大規模作戦では、残念ながらオーストラリアの解放は叶いませんでしたし……」
トラック提督「無いものは仕方ないか。後で黒男さんに相談してみるよ」
明石「そうですね。で、今日はこれでお終いですか?」
トラック提督「そうするよ。ちょっと鋼材が不味いことになってるし……」
明石「あっ」
当初の目標は達成できたが、やはり600の消費は出来たばかりの最弱泊地には荷が重かったようだ
トラック提督「とりあえず一艦隊に編成出来る6人は揃ったし、近々本部から艦娘が送られてくるみたいだから当分は大丈夫さ」
明石「では私は施設建築班を手伝ってきますね」
トラック提督「頼んだ。俺も報告がてら執務室に戻るよ。ボーキについても相談したいし……。じゃ、そういうことで」
明石にそう告げて、俺は執務室へと戻って行った。
執務室に戻ると、黒男さんは居らず、大淀さんが書類の整理をしていた。
トラック提督「ただいまー。黒男さん居ますか?」
大淀「お帰りなさい提督。黒男さんは先ほど本部から連絡があったので、通信室に行かれました」
トラック提督「そうなんだ……。」
大淀「何か急を要する報告ですか?」
トラック提督「いや、そういうわけではないけど……。大淀さんは資源についてご存知ですか?」
大淀「はい。私は提督のサポートを目的に各鎮守府に派遣されていますので、大抵のことでしたらお答えできますよ」
そう言って、少し得意顔で眼鏡を上げる彼女は何とも可愛らしかった。
トラック提督「実はボーキサイトをもう少し手早く集めたいなと思いまして……。」
今日は資源の搬入があったことを思い出し、ここに戻ってくる前に軍港に寄ると、タイミング良く貨物船が到着していたので資源の確認後、何名かの船員に話を聴いて回った。
彼らによると、やはりオーストラリアとの断絶に因ってボーキサイトの取引量は不安定らしく、大陸は量を誤魔化したり賄賂を要求してきたりするなど、まともな取引が行えないと憤慨していた。
トラック提督「それでどこか良い所がないか探してるんですけど、何か知ってますか?」
大淀「日本から近いのは東南アジアですね。あの地域にはかなりの量のボーキサイトが埋蔵しているようで、太平洋戦争時には天然資源獲得を目的に大規模な侵攻が行われました」
トラック提督「おお!!」
大淀(先の大規模作戦である程度南方の安全は確保出来たし、これはもしかすると………)
大淀「提督、この件については本部に報告してもよろしいでしょうか? 私の考えが正しければトラックだけではなく、全ての鎮守府のボーキ不足が解消されるはずです」
トラック提督「もちろん。よろしくお願いするよ」
大淀「了解いたしました。すぐに進言書を送りますね」
整理していた書類をまとめると、大淀はすぐさま通信室へと向かって行った。
トラック提督(あっという間に行っちゃった……。ま、彼女に任せれば大丈夫か)
誰も居なくなり暇になった俺は、来たる対決に備え本棚の戦術書に手を伸ばした……
―――通信室
黒男「………。ではこのことは近いうちに話しておきます……。はい……、了解です。それでは失礼します」ピッ
黒男が本部への連絡を終えると同時に大淀が入ってきた。急いでいたのか少し息が乱れている。
黒男「おや大淀さん。そんなに急いでどうしました?」
大淀「黒男さん。実は先ほどトラック提督から資源、特にボーキサイトの安定した入手先について質問されまして」
大淀「これはもしかすると、“あれ”を何とかできるのではと思ったので少し急いでました」
黒男「“あれ”ですか……。確かに“あれ”を何とかすれば資源不足も解消できそうですね」
大淀「提督も前向きですし、これならいけそうです」
黒男に報告しながら大淀は本部に繋がる番号を押す
プルプルプルプルプルプル
参謀『……どうした、大淀』
大淀「ご報告したいことがありましたので、連絡させていただきました」
参謀『そうか。何かあったのか?』
大淀「以前から計画されていた南進作戦についてですが、トラック提督を参加させてみては如何でしょうか?」
参謀『藪から棒にどうした?』
大淀「先ほどトラック提督より資源について相談を受けました。資源獲得について彼も前向きのようですし、トラック泊地を作戦に組み込めば南進計画の成功率は大幅に上がるでしょう」
参謀『確かにそうだが……。艦娘はどうなんだ? 生半可な戦力だと足手まといになるだけだぞ』
大淀「横須賀鎮守府派遣の艦娘によって鍛えられています。近いうちに実戦形式の訓練も予定されていますし、大丈夫かと」
参謀『所属艦娘は駆逐艦が3人、軽巡が2人、戦艦が1人か……』
大淀「えっ!?」
参謀『ん? どうした?』
大淀「い、いえ、何でもありません。失礼しました」
大淀(戦艦なんて居ましたっけ……。後で資材を調べないと)
参謀『このメンバーなら、あと少し練度を上げれば問題ないか……』
参謀『分かった。トラック泊地の参加希望を上に伝えておこう。拠点が決まらず計画が止まっていたが、これで再び動き出すだろうな……。作戦が決まり次第連絡する』
大淀「ありがとうございます」
参謀『他の連中にも伝えないとならないしこれで失礼する』
大淀「お願いします」
大淀が頭を下げると同時に、モニターから映像が消えた。
―――再び執務室
トラック提督が戦術書を読んでいると通信室から大淀と黒男が戻ってきた。
黒男「お待たせしました」
トラック提督「いえ。資源の件、大淀さんから聴きました?」
黒男「ええ。それについてですが、一つご報告が」
トラック提督「何ですか?」
黒男「ここ一週間以内に恐らく……。いえ、確実に本部から、ある作戦への参加命令が下されるでしょう」
トラック提督「作戦?」
黒男「あなたが懸念していた、不足気味の資源を獲得するための南進作戦です」
トラック提督「!」
黒男「本来はもっと早く決行する予定でしたが、トラック泊地の壊滅というイレギュラーがありましたので延期されていました」
黒男「ですが、トラックも補給拠点として機能するまでには復旧しましたし、先日の大規模作戦によって当該地域の制海権はこちらが優勢ですので、残敵の掃討を含めた作戦として現在内容の修正を行っております」
トラック提督「俺たちも出撃するんですか?」
黒男「もちろん! とはいっても、いきなりあなたたちを矢面に立たせる程考えなしではありません」
黒男「現在滞在中の横須賀鎮守府所属艦娘を先頭に、呉鎮守府からも一艦隊派遣してもらいます」
トラック提督「3つの鎮守府の合同作戦ですか……」
黒男「それだけではありません。実はもう1か所参加してもらう鎮守府があるんですよ……」
トラック提督「どこですか?」
黒男「………“リンガ泊地”です」
トラック提督「“リンガ泊地”……?」
全く聞いたことのない鎮守府だ……。
黒男「知らなくても問題ありませんよ。寧ろ知っていたなら、どこで知ったか教えてもらわないといけませんでしたし」ククク
大淀「トラック泊地は国民に向けて発表されましたが、その後すぐに局内で方針転換があり、以降の国外拠点については極力情報を公開しないこととなりました」
トラック提督「どうして急に?」
黒男「色々とめんどくさいからですね。トラック泊地の情報を公開してすぐに大陸から『火事場泥棒』だのと反発が来まして、出現以前から国内に潜伏していた連中の傀儡も五月蠅くてね。納得させるのに苦労しましたよ」ニコッ
黒男さんは虫も殺さないような笑顔で話すが、どことなく血なまぐさいものを感じてしまう。
黒男「そんなことよりリンガ泊地についてですが、ここですね」
黒男さんが地図を見せてくれた。彼が指差す島は、スマトラ島の近くにあった。
黒男「この泊地は国外拠点ともう一つ、東南アジアで採掘した資源を各鎮守府に分配するハブの役割がありました」
トラック提督「それなのにどうして今は資源不足に?」
黒男「リンガ泊地が開設されたのは今月の17日なんですよ」
トラック提督「その日って……」
大淀「ここが襲撃された日です。そして政府は襲撃が及ばないようにするため、翌日にリンガ泊地を緊急閉鎖、所属していた艦娘と提督は現在、呉鎮守府に避難しています」
黒男「この泊地が再び稼働すれば資源不足は解消されますね」
大淀「ですが現地の斥候によると、敗走した周辺の深海棲艦が廃棄されたリンガ泊地に集結しつつあると報告が来ています。そのため今作戦は泊地の奪還がメインとなるでしょう」
黒男「詳しいことは本部から発表されますので、それまでにトラック提督と艦娘たちには実戦を経験してもらう必要があります」
トラック提督「実戦ですか……」
黒男「緊張しなくても大丈夫ですよ。この近辺の強力な深海棲艦は撃沈し、残っているのはイ級かホ級程度。指導艦も付いていきますから心配無用です」
トラック提督「こんなところでビビってたら戦艦棲姫撃沈なんて夢のまた夢ですね……。頑張ります!」
黒男「その意気ですよ! では今日の訓練が終了次第、指導艦の方たちと一度話し合う必要がありますので、夕食後会議室に来てください」
トラック提督「分かりました」
そして夕食後、初陣に向けた会議が始まった。
―――会議室
大淀「皆さん、夕食後にお呼びしてすみません」
山城「ほんとよ! まったく。扶桑姉さまとお話しする時間が少なくなるじゃない」
長門「仕方ないだろ。これも任務の内だ」
吹雪「ここは早く話を聞いて終わらせましょう。そうすれば扶桑姉さまともお話し出来ますよ」
曙「吹雪……。あんた話聞き流すんじゃないわよ」
吹雪「分かってるよ」
赤城「流石南国。フルーツが美味しいわ」モグモグムシャムシャ
龍田「それで。トラック提督に黒男さんも一緒ってことは本部から何か言われました?」
黒男「鋭いですね。大淀さん、説明お願いします」
大淀「了解しました。皆さん、お手元の資料を見て下さい」
長門「これは……。延期されていた南進作戦の計画書か?」
大淀「はい。まだ正式には発表されていませんが、本日本部に資源獲得の為の進攻を進言しましたので近いうちに決行されるでしょう」
山城「進言なんて……、急にどうしたの?」
トラック提督「俺が相談したんですよ。このままだと碌に建造も出来ませんし、艦娘が増えなければいつまでたってもここが自立出来ないんで」
吹雪「この泊地には早く独りで戦えるようになってもらわないと、扶桑姉さまの温もりが恋しいです……」
長門「我々が参加するのは決定事項だろう。ここの艦娘も出撃させるのか?」
大淀「その予定です。当然彼女たちには前線ではなく後方での任務が任されるでしょうが」
曙「作戦はいつ決行なの?」
大淀「まだ決まっていません。詳細は一週間以内に発表されるでしょう」
龍田「そんなに早く来るかしら?」
大淀「リンガ泊地の件もありますし、本部もそう悠長にはしていられないでしょう」
トラック提督「そういえば、南進作戦はトラック壊滅とリンガ放棄の前から計画されていたんですよね?」
大淀「ええ、そうです」
トラック提督「元々はどういう作戦だったんですか?」
大淀「夏の大規模作戦で東南アジア周辺の制海権奪還に成功したのは前に話しましたね」
トラック提督「はい」
大淀「本来はこれに乗じてオーストラリアまで進攻し、日本との貿易航路を回復させる作戦でした」
大淀「そのための補給地点、及び回復後の航路を防衛することがトラック泊地の役目でしたが、戦艦棲姫の襲撃によって延期となったのが前回の南進計画です」
曙「リンガの名前が出てくるってことは今回はオーストラリアには行かないってこと?」
大淀「恐らくそうだろうと予測しています。早急に資源を獲得するにはリンガ泊地周辺の方が得るものが多いですからね」
曙「それもそうね」
大淀「それで、ここからが今会議の本題ですが、こちらが進攻するということは当然戦闘が発生します。ですので、皆さんには早急に実戦形式の訓練を行って欲しいのです」
長門「実戦か……。一つ提案だが、6人同時ではなく1人ずつ出撃させる方法を取りたいと思う」
長門「というのも、ここにきてから交代で哨戒をしてるが、見つけるのは雑魚ばかり。おまけに一体しかいない」
長門「全員で出撃すると戦果の取り合いになって資源を無駄にするだけだ。1人で出撃すればじっくり敵と向かい合えるだろう。こちらも守りやすいしな」
大淀「そうですね。トラック提督はどう思われますか?」
トラック提督「一体しかいないのに全員で行くのも確かに無駄だな。そうしようか」
長門「では明日から早速開始しよう」
長門「皆もそれでいいな?」
艦娘「「「異議なし」」」
大淀「決まりですね。では急ですが、明日からよろしくお願いします」
長門「出撃の順番は着任順で、私と吹雪が同行する」
吹雪「了解です」
トラック提督「大変だと思うけど、うちの艦娘をお願いするよ。もちろん、俺もしっかり指示できるよう努力する」
長門「ああ、頼んだぞ」
大淀「話もまとまりましたし、今回はこれで解散としましょう。次回は本部より作戦内容の通達が来た際に招集します」
―――大きな問題もなく決まった実戦。これは艦娘たちと同時に俺の初陣でもある。しっかり指示しないと……。
―――8月31日 トラック泊地沖合
昨晩の会議で決まった実戦訓練の為、電は長門,吹雪とともに初めて島外へ出撃していた。
トラック提督『調子はどうだ、電?』
電「はわわ! 波が強いのです!」
長門「いつも訓練しているのは入り江だから、このような波は初めてだったな。どれ、手を繋いでやろうか?」
吹雪「訓練中ですよ。全く、駆逐艦には甘いんだから」
長門「妬いてるのか?」
吹雪「馬鹿言ってると沈めますよ。私は扶桑姉さま一筋なんで」
長門「言うじゃないか」ショボン
電「吹雪さんが怖いのです」ブルブル
トラック提督『戦場の様子は艤装に付いてるカメラからある程度は確認できるけど、実際に戦うのは電だ。無理はするなよ』
電「了解なのです!」
そんなやり取りをしている内に哨戒中、敵が目撃された海域に到着していた。
長門「ここら辺だな。私たちが居るから帰りの心配はしなくていい。教えたことを実行するだけだ」
雷「が、頑張るのです!」
吹雪「!? 電探に反応有り! 敵一体接近中です!」
長門「いけ!!」
長門の掛け声とほぼ同時に、目の前の海から大きな音を立て、敵が飛び上がった。
イ級『グギャァァ!!』
小型のクジラ程の深海棲艦は、目にも見える不気味な器官で電を一瞥した瞬間、彼女に向かって突っ込んできた。
電「ふあーーっ!?」
電はすぐさま速力を最大にして、これを避ける。
電「電の本気を見るのです!」
こちらに背を向ける敵に砲撃を放つ。放たれた砲弾はイ級の背中に直撃し、爆発した。
イ級『グオオオ!』
電「効いてるのです!」
トラック提督『いいぞ! その調子だ』
しかし、見たところ損害は小破に留まり、撃沈には至っていない。
長門「油断するな! 中破までは雷撃も行ってくるぞ」
その通りだと言わんばかりにイ級は口を開くと、魚雷を撃ってきた。
電「波が立って見え辛いのです」
吹雪「戦場では足を止めない! そこに居ると直撃するよ」
電「な、なのです!」
言われて電は魚雷を避け、敵の側面に回り込むように動いた。
電(イ級の武装は口内の主砲と魚雷のみ。側面に回れば巨体ですぐに反応出来ないのです)
電の予想通り、イ級は砲を向けるには大きく旋回せねばならず、小柄な自分は移動しながら攻撃が行える為、戦いは自分が一方的に砲撃する形となっていた。
そして気づけば、敵は大破し撃沈が見えてきた。
電(これなら楽勝なのです♪)
だが、そう思うと同時に突如彼女の足元で何かが爆発した。
電「はにゃあーっ!?」
彼女の足元で爆発したのはイ級の放った魚雷だった。
直撃した電はあっという間に中破へと追い込まれた。
電「い、いつの間に……」
トラック提督『大丈夫か!? 何があった!』
吹雪「魚雷が命中しました。ですがまだ大丈夫です。いざという時に備えて私たちが居るんですから」
長門「ふむ……。流石にイ級とはいえ、そう馬鹿ではなかったか」
トラック提督『どういうことだ?』
吹雪「電の動きはイ級の周りを旋回する単調なものでした」
吹雪「それに気づいたイ級は中破になる直前、気づかれないように魚雷を発射し、彼女はそれに接触したんです」
吹雪「おまけに速度が一定だったので当てる為の計算までされてたようですね。見事に直撃です」
トラック提督『そういうことか……』
何とか一矢報いたイ級だが既に轟沈寸前となり、最早手遅れである。
電「なのです!」ドカーン!!
イ級『オオォォォ……』
電の意地の一撃を受けたイ級は、激しい爆炎を噴きながら断末魔とともに沈んでいった。
電「倒したのです!」
トラック提督『よし!』
長門「ダメージ判定は……、中破か。進軍するか退避するか決めるのは提督だ。どうする?」
トラック提督『たしか大破は即退避だっけ?』
長門「ああ。もしダメージを受けたら轟沈は確実と言われている。中破では轟沈しないと報告されているな」
トラック提督『そうか……。いややっぱり今回は退避しよう。電、退避だ』
電「うう……。ごめんなさいなのです」
トラック提督『初めてだしこんなものだ。さ、早く帰っておいで』
電「了解なのです」
吹雪「それではトラック泊地へ帰還します。前衛は私、後衛は長門さん。電は間に入って防御に専念して下さい」
トラック提督『これより艦隊、泊地へ帰投せよ!』
艦娘「「「了解!!!」」」
こうして電とトラック提督の初陣は幕を閉じた……。
―――執務室
電「入渠完了したのです!」
トラック提督「お疲れ。あれだけボロボロだったのに、もう回復するんだな」
吹雪「駆逐艦ですからね。これが戦艦や空母だと、丸一日入渠しないといけない時もありますよ」
トラック提督「船体が大きくなるとそうなるか」
大淀「電さん、いらっしゃいますか?」ガチャ
電の入渠を待つ間、別件で呼ばれていた大淀さんが帰ってきたようだ。
電「戻ってきたのです」
大淀「了解です。ではこれより訓練の反省会を開きたいと思います」
大淀「まず、こちらの映像を見て下さい」ピッ
大淀さんがリモコンを操作すると、室内のモニターに先ほどの戦闘の様子が映し出された。
これは吹雪の視点から見た戦闘の様子だろう。
大淀「電さん、これを見て思った良い点と悪い点を上げて下さい」
電「ええと……、イ級の武装は正面にしか発射出来ないので、常に死角に入りながら砲撃しました」
電「けど、こうして見ると動きが単調だったなと思うのです……」
電「それから……、魚雷のことをすっかり忘れてたのです……」
大淀「その通りですね。では電さんの動きについて、提督は気づいておられましたか?」
トラック提督「いえ……、全く……」
大淀「それでは駄目です。提督は艦隊の進退を決めるのはもちろん、戦闘中に艦娘たちへある程度の指示を出さないといけません」
大淀「今回でしたら、動きが単調で読まれ易いことに気づいて指摘する、魚雷への警戒を促す必要がありました」
大淀「カメラの映像が同じ速度で敵を一周していることに気づくべきでしたね」
大淀「この戦闘では互いに一対一でしたが、実戦は敵も味方も今の倍以上います」
大淀「電さんはもう少し周りに気を払う必要がありますね。それから提督も映像からもっと戦場の様子を読み取り、その都度指示することが重要です」
大淀「ただ執務室で戦闘を見ているだけでは駄目ですよ」
トラック提督「正直そこまで気が回らなかったな……。すまなかった、電」
電「謝らなきゃいけないのは電なのです! 司令官さん、ごめんなさいなのです……」
大淀「今回の反省を活かして、次は頑張ってください」
電「了解なのです! 電はこのまま訓練に合流するのです!」
そう言うと、電は執務室を飛び出し、すぐさま訓練所へと向かって行った。
トラック提督「走ると危ないぞー!」
大淀「やる気一杯ですね。先ほどの結果がよっぽど悔しかったのでしょう」
トラック提督「俺も全然駄目でしたね……。次の天龍からはもう少し指示を出していきます」
大淀「期待していますよ。それでは天龍さんもそろそろこちらに到着するようなので、準備をお願いします」
トラック提督「了解です」
――――――
―――その夜
電での失敗を踏まえて、天龍以降の訓練ではより画面に集中し、指示を出すことで彼女たちは初陣とは思えない戦いっぷりを披露してくれた。
特に霧島は、流石戦艦といったところだろうか。彼女の前に現れた敵は全て一撃のもと、灰燼と化した。
彼女たちの初陣を見届け一息ついていると、大淀さんが数枚の書類を持ってきた。
これは出撃報告書なる書類らしく、帰還した艦娘からの報告をまとめて、本部へと提出しないといけないようだ。
サボろうとしても、資源量の推移と照らし合わされる為、すぐにバレてしまう。
当初はすぐに終わるだろうと思っていたが、いざ取り掛かると、艤装に搭載された各種計測器による海の状態や自分の所見など、とにかく書かないといけないことが多い厄介なものであった。
そのため、夕方に始めた作業が夜になってもまだ終わっていなかった……。
今は何度目かとなる大淀さんのチェックを受けている。
書類を見つめる彼女に対して、思わず手を合わせてしまう程には書き直しさせられていた。
大淀「ここは大丈夫です。後は……、問題ありませんね。お疲れ様です提督。本日の書類はこれで完了です!」
トラック提督「あーー、疲れた……」
出撃報告書ってこんなに面倒くさかったのか……。
―――9月3日
実戦訓練開始から4日経ち、初めてとなる艦隊での戦闘を終えたその日の夜、本部から作戦内容を告げる連絡が来た。
参謀『お久しぶりですね、トラック提督。夜間の連絡となってしまい、申し訳ない』
トラック提督「問題ありません。むしろ早く連絡が来て欲しいと思っていましたので」
参謀『それは頼もしいね。そのやる気を是非とも、目に見える形で見せてくれ』
参謀『では作戦内容を説明する。今作戦は横須賀,呉,トラック,リンガによる共同作戦となる』
参謀『トラック泊地を拠点とし、リンガ泊地の奪還を目指してもらう。リンガ泊地については知っているか?』
トラック提督「はい。トラック襲撃後すぐに放棄されたと聴いています」
参謀『それを知っているということは泊地の現状についても把握しているね』
トラック提督「残存勢力の集結によって徐々に敵の活動拠点になりつつあると……」
参謀『そうだ。早急に泊地の機能を回復しなければ資源の補給はおろか、人類の活動範囲を狭めることになる』
参謀『それを防ぐためにも4つの艦隊が協力し、残存勢力を壊滅させねばならない』
参謀『次に配置についてだが、二手に分かれて行動する。リンガと横須賀が泊地に突入、呉とトラックには泊地までの護衛と奪還までの間、外からの増援を抑えてもらう』
参謀『大筋の内容は以上だ。細かい内容は呉とリンガの提督がそちらに到着次第、ミーティングで決めてくれ』
トラック提督「!? 他の提督が来るんですか?」
参謀『ああ。リンガ提督は作戦が完了したら泊地に留まるから当然だが、4つの艦隊の運用となると不安があるということで急遽、呉提督の派遣が決まった』
参謀『流石に横須賀提督まで派遣すると太平洋側ががら空きになるので、それは認められなかったがな』
トラック提督「そうですか……」
一瞬、横須賀提督も来るのかと身構えたが、来ないと知って思わず安堵した。
横須賀に対しての疑念が晴れていない中、そこのボスが来るとなると何が起こるか分からない。
トラック提督(提督は良い人みたいだけど、完全には信用出来ないしな……)
参謀『他に何か質問はあるか?』
トラック提督「いえ、大丈夫です」
参謀『そうか。何か分からないことがあれば先輩たち二人に色々聞きなさい。きっと君の力になってくれるだろう』
参謀『明後日の朝、到着予定だから出迎えはしっかり頼むよ』
トラック提督「了解です!!」
参謀『うむ。良い知らせを期待しているぞ』
そう告げると、モニターから映像が消え、緊張に包まれた部屋の空気が和らいだ―――
ああああああ
大淀「内容に関しては予想していた通りですね」
トラック提督「本部も焦っているってことか……。他所の提督が来るとは思わなかったけど」
大淀「心配しなくても大丈夫ですよ。お二人とも民間からの採用ですから穏やかな方たちです。リンガ提督は少し変わっていますが」
その時のことを思い出したのか、大淀さんはふふっと笑っている。
トラック提督「俺も含めて、民間出身の提督って多いんですね。プロはいないんですか?」
大淀「大湊の提督は自衛隊出身ですよ。舞鶴の提督は第二次世界大戦にも参加した生粋の軍人です」
トラック提督「へえ、横須賀提督は?」
大淀「それが……。実はよく知らないんです」
トラック提督「?」
大淀「他の方々と違い、横須賀提督の経歴は一切明かされておらず、局長の息子説や人造人間説、挙句は宇宙人説だのと根も葉もない噂が立つ位謎の多い方なんです」
トラック提督「そうなんだ……」
トラック提督(大淀さんですら知らないとなると、ますます怪しいな)
今回来なくて良かったとつくづくほっとしていると、
大淀「さて、提督がいらっしゃるとなると丁重にお迎えしないといけません。すぐに準備に取り掛かりましょう」
横須賀への疑念を深める俺に声をかける一方、大淀さんはタブレットで泊地各所の責任者へ提督訪問の連絡を送っている。
トラック提督(これから忙しくなりそうだな……)
まだ見ぬ先輩提督たちへの期待と不安を抱えながら俺は準備に取り掛かった。
―――9月5日 軍港
あの連絡からあっという間に2日経ち、今日はとうとう呉とリンガの提督が到着する日となった。
トラック提督「2人の到着まであとどれ位ですか?」
大淀「トラック提督がここにいらっしゃった時と同じスケジュールで動いてますので、そろそろ到着するかと思います」
電「どんな方なんでしょう……。緊張するのです」
初期艦という理由だけで今朝突然、秘書艦に任命された電は緊張のあまり直立不動となっている。
そんな電の緊張をほぐそうとあれこれ話していると、沖の方からうっすらと何かが見えてきた。
手にしている単眼鏡を覗くとそれは、見覚えのある船だった。自分が乗ってきたものと同じ船が2隻、こちらに向かってきている。
大淀「いらっしゃったようですね」
先ほどまで楽しげに話していた大淀さんは仕事モードに切り替わっている。
自分も服装を確認していると、2隻は船着き場に到着したようだ。
船が完全に停止すると、船内から次々と女性が下りてきた。
???「あなたがトラック提督ですか?」
初めに話しかけてきたのは、涼しげな色合いの着物を纏った女性だった。
トラック提督「はい、そうです。あなたは……?」
呉提督「初めまして。私は呉提督と申します」
呉提督は朗らかな笑みを浮かべながら、恭しく一礼した。
呉提督「そして旗艦の鳳翔、扶桑,羽黒,由良,五月雨,雷。彼女たちが私の艦隊よ」
鳳翔「呉鎮守府の秘書艦を務めさせて頂いております、軽空母鳳翔です。どうぞよろしくお願いします」
トラック提督「こちらこそ、よろしくお願いします」
丁寧に挨拶されたためこちらも恐縮し、互いにぺこぺこと頭を下げあっていると、
???「ちょっとー。私もいるんだけど」
不意に声を掛けられ、そちらに目を向けると腰に手を当てた女の子が不満そうな目でこっちを見ていた。
トラック提督「ごめんね、ついうっかり」
リンガ提督「うむうむ。謙虚なその姿勢、実によろしい。それでは名乗ろう! 私の名前はリンガ提督だ!!」
素直に謝ると、一瞬でご機嫌となった。それにしても随分テンションの高い娘だな……。
リンガ提督「何を隠そう、花も恥じらう16歳。つまり、現役! JK提督!!」ドヤッ
トラック提督「!?」
キリッと謎のポーズを決めながら、得意げな顔でこちらを見ている。
どう対応したら良いか悩んでいると、
漣「ご主人様、皆さん呆れてますよ。馬鹿やってないでさっさと漣たちのこと紹介して下さい」
彼女の秘書艦と思われる艦娘が呆れ顔でツッコミを入れる。
リンガ提督「いや~、結構重要でしょ。こんな娯楽の無い辺境の地にJKが居るなんて」
漣「こんなお喋りクソJK、誰もいりませんよ」
リンガ提督「あー!またそうやって悪口言う。そういうの良くないよ」
漣「あーはいはいそうですね、漣が悪う御座いました。話が進まないから早くして下さいね」
リンガ提督「雑だなーまったく……。えっと……、この失礼なちんちくりんが秘書艦の漣。で、比叡,加賀,祥鳳,愛宕,初雪。以上が私の艦隊だよ」
艦娘「「「よろしくお願いします」」」
トラック提督「俺はトラック提督。そして秘書艦の電だ」
電「どうぞよろしくお願いするのです」ペコッ
トラック提督「うちは再起したばかりだが、皆に負けない戦果を出せるよう奮起する所存だ。限られた時間だが、こちらこそよろしくお願いするよ」
呉提督「やる気十分ですね。期待してますよ」
リンガ提督「ふっふっふ、私たちの華麗な戦い、しっかり頭に刻み込んでくださいね、トラックさん」
一通り挨拶も済んだのを見計らって、大淀さんが前に出てきた。
大淀「自己紹介も出来たようですので、そろそろ本部に行きましょう。冷たい飲み物もご用意してますよ」
リンガ提督「ジュース!? やった! ほら漣、早く行こ」
漣「あっこら! 走ると危ない!」
飲み物と聞いた途端、リンガ提督が駆け出してしまった。そっちは本部じゃないんだけど……。
呉提督「賑やかですね」フフ
大淀さんの後を歩く呉提督は楽しそうに微笑んでいる。
全く反対の性格の二人だが、これできちんと戦えるのだろうか……。何とも言えない不安(主にリンガ提督へ)を抱えながら本部へと戻った。
夏イベント終了次第、再開したいと思います
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