【デレマス】I meet J【仮面ライダーJ】 (96)

・デレマス側はデレマス・デレステ混在(基本はデレマス)、ライダー側は本編終了後の状態です

・不定期鈍行まったり進行

・でもやっぱり2週間くらいで完結させたい(希望的観測)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1464707339

<R←    I>

(どれくらい経つだろうな、ここに来るのは)

栃木県・桐生市。

愛車のバイクを停めた男は、眼前に広がる山々を見上げた。

かつて来た時に見た痛ましい姿は、今でも覚えている。

だからこそ今ここにある蘇った緑が、時の流れを感じさせた。

たとえ年単位の時間がかかろうと、現にここに緑の山があるということは、

自然の強靭な回復力が発揮されたということだ。その事実は揺るがない。

しかし美しい光景を前にして、男は観光に来たのではない。

バイクのサイドバックから愛用のカメラを取り出し、山を映す。

そして満足のいく写真が撮れたことを確認すると再びカメラを戻し、山のふもとへと愛車を進めていった。


男の名は瀬川耕司。

バイクで一人旅を続ける、流浪のフリーカメラマンである。

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Masked Rider J


          --------------→
             I meet J
          ←--------------


                  The IdolM@ster Cinderella Girls


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<R------→I>

「はい休憩入りまーす!午後の撮影は14時集合でお願いしまーす!」

山間にある静かなキャンプ場に、アシスタントディレクターの元気な声が響く。

同時に撮影チームの人員も機材を一時片付け、思い思いの休息を楽しみ始めた。

都市部からかなり離れた場所だけに、このキャンプ場の近辺には美しい自然がある。

それを前にすれば、仕出し弁当だって美味しく感じられるものだ。

幸いにして資材の発注ミスなどもなく、山を降りる必要のある事態は起きていない。

だから大抵のスタッフや撮影に参加したアイドル達は、キャンプ場の中に留まっていた。


しかし、先ほどまでその一団の中央にいた少女は、キャンプ場の周りにある森の中を歩いていた。

「無理言ってすみません。どうしても、この風景をまた写真に収めたくて」

スタッフ仕様のウィンドブレーカーを纏った高森藍子は、少し申し訳なさそうにそう言った。

だが、その隣を並んで歩くプロデューサーに彼女を責める様子はない。

代わりに彼の視線は藍子の手元に向かっていた。

「気にするなって、2時間もあるんだから。でも普段の散歩ならともかく、山林じゃトイデジには荷が重くないか?」

「椿さんにも言われました。だけど、やっぱり手に合ったものを使いたいんです」

言いながら、藍子はシャッターをバシバシ押している。

ピンクとネイビーブルーに塗り分けられた彼女のトイデジカメラは、実際にはUSBメモリに

カメラの外装を付けただけという代物だけあって、オートフォーカス機能どころかファインダーすらない。

気軽にさくさく撮影するには向いているが、風景を綺麗に残すに適しているとはたしかに言い難いだろう。

それを敢えて選ぶということが、この16歳の少女にとってのカメラの価値なのだろうとプロデューサーは認識していた。

藍子が山々を撮る傍ら、プロデューサーも連れ立って歩く。

だが、ある程度進んだところでプロデューサーだけその歩みを止めた。

「…プロデューサーさん?」

「あー、なんだ。何か話すことがあるんだろ?人払いならもう十分だと思ってな」

その言葉に、藍子は静かにカメラをポケットに入れた。

普段の藍子なら、休憩中とはいえ仕事が終わっていないのに現場を離れることはほとんどない。

何より、以前この森に来た時は仕事明けまで待ってから森に一緒に入ったのだ。

その事実を知るプロデューサーがそう捉えるのは不思議ではないし、実際当たっていた。

「どうしても、直接聞きたいことがあって」

「何をだ?」

聞き返しながらも、既にその先はなんとなく想像が付いている。

今このタイミングで、わざわざ藍子が聞いてくることなどそうはない。


「なぜ私が『アインフェリア』に選ばれたんだろう、って思って」

その問いは、やはり予想通りのものだった。

お待ちしておりました。今回も楽しみにしています。

今回はJか
実は殆ど知らないから楽しみ

Jはライダーの造形の中で一番好きだぜ

<R←------I>

桐生の山のふもとに、『メイプル』という一軒の喫茶店がある。

立地が厳しいにも関わらず未だ営業を続けるその場所の前に、耕司のバイクが停まっていた。

「いらっしゃいま…お兄ちゃん!?」

レジに立つ少女は、店に入ってきた耕司を見るなりひどく驚き、次の瞬間にはカウンターを出て丁寧に挨拶していた。

耕司もまた、その少女に笑顔で応える。

「元気そうだね加那ちゃん。お店のお手伝いするようになったんだ?」

「はい。もう中学生ですから」

加那と呼ばれた少女はそう答えると、慌てておしぼりとお冷を取りに戻っていく。

長く伸ばした髪の目立つ後ろ姿は耕司の記憶にある彼女と同じだが、その背はたしかに伸びている。

山だけでない、人も変わる。時は平等に流れる。

そしてそれは、耕司も例外ではない。

喫茶店のマガジンラックに見覚えのある雑誌が並ぶ様に、耕司は軽く驚いた。

「これは…オレの記事が載ってる本か」

「お母さんに無理言って、最初に一冊だけ買ってもらったんです。そしたらお客さんにも評判で」

「そう言ってくれると嬉しいな」

バイクで旅を続ける以上、献本を自宅に置いていく耕司としてはこれだけ自著が並ぶこと自体はじめて見る光景だ。

だがそれ以上に、この喫茶店に来る人に自分の書いた記事が読まれていることに満足していた。

もし自分の記事によって、間接的にこの山の自然回復を支えることができたのだとしたら、これ以上の喜びはない。

そう判断するには早計とはいえ、今日の仕事にも明るい展望を見出せるのは事実だった。

「ここに戻ってきたってことは、やっぱりあの山を?」

「うん。また、調べに来た」

「じゃあ、私も一緒に行きます」

「おいおい…いいのかい、お店は?」

迷わず即答した加那に、さすがに耕司も慌てる。だが加那は平然としている。

「あんまり言うとお母さんが怒るけど、来るお客さんは大体決まってるから。

 それにウチのコーヒーがないと調子狂うでしょ?」

なるほど、と耕司は思わず納得した。

つまりこの店は、山林に住む地元の常連客相手だけで営業が続いているのだ。

よしんば何かの用事で山に入る者がいても、用事が終わるまでわざわざ山を降りてくることなどまずない。

ならその時間以外は、耕司のような珍しい来客が来る程度で手伝いなどいらないのだろう。

そしてコーヒーがないと困るだろうというのも、たしかに当たっていた。

瀬川耕司と木村加那が初めて出会ったのは、かつてこの山に耕司が初めて撮影に来た時である。

その時もコーヒーを持ってきてもらい、それがずいぶん口に合ったのを覚えている。

もっとも、彼女がコーヒーを持っていくことを提案したのは、ただ自分の味覚を考えてのことではないと耕司は見ていた。

(そうだったな…ちょうど、コーヒーを持ってきてもらってすぐだったか。あっちも何もなければいいが)

忘れかけていたある懸念が、また蘇りかける。

だが雑誌とサインペンを手にした加那が出てくると、それは払拭された。

「加那ちゃん、それは?」

「『瀬川さんが来てるから一緒に行く』ってお母さんに言ったら、行ってもいいけどせっかくだからサインしてもらえって」

カウンターの奥を見ると、加那に似た容姿の女性が見えた。

どうしようか迷う間もなく、母親の側から頭を下げられてしまった。

(連れてくとは言ってないんだけどな…ま、いいか)

ちゃっかりした人だ、とは思ったが、それ以上は考えず耕司は雑誌にサインをし、そして加那の手を取った。

正直、彼女から聞きたいことはかなりある。『メイプル』までわざわざ来たのはそのためである。

そして現地に来てくれるなら話が早いし、加那も満足するだろう。

さらに言えば、サイン入れでコーヒー代が浮くならそれも地味にありがたい。


やがて『メイプル』自慢の自家製コーヒーの入った魔法瓶を手に店を出た耕司は、後ろに加那を乗せてバイクを発進させた。

<R------→I>

「納得いってないとか、そういうことじゃないんです。でも…」

「いや、誤魔化さなくていい。こっちももう色々と聞いてるからな」

そう言ってプロデューサーは、藍子の言葉を制止した。

仮にもプロデューサーと呼ばれるだけの仕事をしている男だ。

担当アイドルに関することであれば、ともすれば本人以上に状況を把握しているべき仕事。

ならばこそ、『アインフェリア』にまつわる高森藍子の評判も当然知っていた。

それが決して歓迎すべきものだけでないということも。

『アインフェリア』とは、『生存本能ヴァルキュリア』という新曲を出すにあたり組まれた企画ユニットである。

戦乙女や女神をイメージした勇壮な楽曲。通常のアイドルソングとは印象は大きく異なる。

それはミュージックビデオにも大きく表われていた。

花の咲く平和な日常から、軍服を纏い戦場に立つ。

優しいだけのアイドル像とは違う、ヒロイックで鋭利な姿を見せるための舞台。

事実、新田美波など他のメンバーはMV公開後、新たなイメージを開花することに成功している。

鷺沢文香に至っては来季のヒーロー番組の演者に抜擢されるという。景気の良い話である。

…ただ、高森藍子だけは事情が少し違った。

「楽曲のイメージに合わせ、戦乙女や女神にふさわしい人選をした。

 これについては、もう美波から聞いているはずだ」

「はい。顔合わせ当日にすぐ説明してもらいました」

「それ以外に薄々気付いていたかもしれないが、意外性も重視した。

 あの曲を凛あたりに回しても、イメージに合い過ぎて話題性が乏しいからな。

 そして藍子の場合…意外性が強過ぎるだろう可能性も予期はしていた」

ごくわずか、ほんのわずかだが、藍子が悲しい目をしたのを感じた。

何故だ、と喰ってかかるのでもなく、ただただ驚くのでもなく、ゆるやかに自分の内に抱え込む。

そんな彼女だからこそ、事情が違うのだ。



『生存本能ヴァルキュリア』のジャケットビジュアルが初公開された時、彼女のファンはその多くが困惑した。

既にラジオパーソナリティとしての仕事で確立していた彼女の支持層は、何気ない日常に幸せを見出し、

ゆるりとした生活を送る穏やかな彼女を温かく見守る人々が多かったのだ。

そこに来て、戦場に立つあまりにもソリッドな、それも軍服を纏った彼女の立ち姿である。

ユニットに否定的な反応というわけではない。しかし、それは普段の彼女と全く繋がりえない。

…意外性というものにも限界がある。それを超えた時、起きるのはイメージの乖離。

かくして新曲公開からしばらくして、高森藍子の支持層には波乱が起きた。

といっても、概ねが藍子のように温厚かつ紳士的であるおかげで、実際には一部で賛否が分かれるだけに留まっている。

仮にこれが、支持基盤に強気な女子高生が多い城ヶ崎美嘉あたりであれば、SNSを中心に壮絶な叩き合いが起きたことだろう。

問題なのはその「一部」が藍子に非常に近い場所だ、ということである。

「私も全く考えてなかったわけじゃありません。

 受け入れられないファンの方も出るかもしれないって、それは夕美ちゃんとも話してました。

 でも、実際には思った以上で…ラジオでもヴァルキュリアの時に着た軍服について色々なお手紙をもらって。

 だから、あの日に演じた新しい一面を受け入れていいのか、今でも迷っているんです」

伏せ目がちに語る藍子の細い身体が、いつになく儚げに見える。

それは決して、自然に溢れたこの森の幻想性だけが原因でないと、プロデューサーは感じていた。

「だから、教えてほしいんです。『アインフェリア』に私を選んだ理由が、イメージ以外にあるのなら」

改めて問われ、少しだけ逡巡する。

だが、今にも消えてしまいそうなその姿を支えずに去るほど、プロデューサーは薄情でも冷酷でもなかった。

「…あるよ。ただ、話せば少し長くなる」

その言葉と共に、2人は再び森を歩き出した。

まだ、森の出口は見えない。

<R←------I>

「キャンプ場?」

山からほど近い河原を散策しながら、耕司はそう問い返した。

山間から流れ込む清流は、かつて耕司が加那と別れる直前に見たものと変わらない。

つまりそれは、今も昔もそれだけ人が踏み込みにくい場所だということに他ならない。

「山の向こう側にできたの。こっち側と違って、向こうなら道路も整備されてるでしょ?

 環境保全と観光資源化の両立を謳ってるだけあって、派手なことはしてないよ」

「となると、無断で野営するのはちょっと問題か?」

「大丈夫だよ、こっち側ならそうそう人目に付かないから。

 それに今度は私がお兄ちゃんを守ってあげるんだから」

「…はは、それは安心だな」

冗談めかした加那の言葉に、わずかに耕司の言葉が詰まる。

今度は―かつて、耕司が加那を救った時のことが脳裏によぎる。

同時に『メイプル』で浮かんだあの懸念も、また。

気の迷いを振り払うように、耕司はカメラのシャッターを連続して切っていた。

撮影の邪魔にならないよう脇に立つ加那の視線が、ふとカメラに向く。

「そういえば、お兄ちゃんカメラ変えたんだね」

「お、よく気付いたね。望遠のセッティングとかは同じだけど、デジタル一眼にしたんだ」

「なんで変えたの?」

「最近は、寄稿する時に写真をデジタルデータで要求するところが増えてね。

 現像したものを取り込むのも限界があるから、思い切って変えたんだ。

 出先でも印刷できるし、モノ自体も便利なのは事実だからね」

こんな感じに、と続けるべく耕司はカメラのスイッチを操作する。

そしてすぐさまボタンを一度押してから、加那に見せた。

そこには美しい渓流や加那の後ろ姿が映っている。

「これ、今撮った写真?」

「そう。画面は小さいけど、ちゃんと撮れてるか確認できるのは助かるんだ。

 滅多にないとはいえ、撮るべきものを一部忘れて帰っちゃったこともあるから」

「うわぁ…大変だね」

驚く加那にひとしきり写真のプレビューを見せると、もう少し撮影を続けるべく耕司はまたカメラを構えた。

それに応じて加那が再び脇へ移動しようとする刹那、耕司はプレビュー画面をまた起動していた。

(胸騒ぎがするのには理由があるものだな。気付くのが早かった、と思いたいが…)

プレビュー画面の最初、ボタンを押して飛ばした1枚。

連続してシャッターを切った最後に偶然捉えていた風景を、加那に悟られぬよう改めて確認する。


…場違いな食虫植物の死骸と、忌まわしくも懐かしい赤黒い卵の殻。

懸念を確信に近付けるには、十分な代物だった。

<R------→I>

「先に言っておく。藍子に強くなってほしい―それが『アインフェリア』に藍子を入れた理由だ」

プロデューサーの言葉に、藍子は思わず首を傾げた。

表情からして、それが冗談ではなく真摯なものであることはわかる。だが意味がわからない。

「それは…有香ちゃんみたいな?」

「さすがにそれは違う。身体を鍛えるのを否定するわけじゃないが、今回は他の子を見てもそういう感じじゃなかったろ」

思ったままを口にしたが、否定される。

たしかに『アインフェリア』のメンバーには、中野有香のような肉体派の人物は一人としていない。

強いて言えば新田美波がラクロスをしている程度で、それにしたって「強い」とは感じない。

むしろ大半のメンバーが体力的にあまり強くないことは、当の藍子自身も認めるところだった。

「わかりにくいか?」

「…はい。すみません。」

「いや、気にするな。過程をすっ飛ばして結果を先に話しただけだからわからなくて当然だ。

 少し長くなるってのは、まぁここからのことだからな」

軽く息を整えて、改めてプロデューサーは口を開いた。

「…元を正せば、きっかけは『ポジティブパッション』だった」

「未央ちゃんと、茜ちゃんですか」

問い返しながら、古くからの同僚の顔を思い出す。

元気印で人を明るくする本田未央に、やや小柄な身体に爆発的な瞬発力を秘めた日野茜。

藍子の組んだユニットは少なくないが、もっとも古く、そしてもっとも長く続いているユニットだった。

「ああ。こんなこと言うのは担当としてどうかと思うが…いつからかな、藍子のことを見るとオレは悩むようになっていた」

「え?」

思わず口を衝いて出た戸惑いの声。決して短くない関係なのに、初めて聞く話。

そんな心中を押し切るかのように、プロデューサーは続ける。

「未央や茜に押し負けちまう。歌唱的に抑えは必須だとわかってても、番組でトークに入っても前に出れない。

 番組的には笑いの取れる部分であっても、それは構成に助けられたってだけのことで、

 アイドルとしての藍子の魅力を殺いでいることには違いない。それがオレには歯痒かった」

言われて見れば、と藍子はかつての自分を振り返る。

たしかに押しが強くひたすらに陽性の空気を振りまく2人を前に、落ち着いてゆったりとした空気を醸す藍子は、

少なからず流されていた部分があったかもしれない。

だが、今この時までそれをプロデューサーが気に病んでる様は見せなかったし、藍子もそう思わなかった。

『ポジティブパッション』が順調に実績を挙げていたという事実が、見えない壁を造っていたのだろうか。

ただ、その壁が今崩れたことだけは藍子にもはっきりとわかった。

「藍子が築き上げられるアイドル像は、誰にだって出来るもんじゃない。

 悩んだ挙句に回してもらった単独のラジオ番組で芽が出てから、それは確信になった。

 でもそのままじゃ、未央や茜の前ではその魅力はまた押し潰されちまう。それは未央達にとっても不幸だ。

 だから―」

「…私が強くなる、と」

プロデューサーが無言で頷く。

「ハナから無理をさせる気はなかった。少しだけでいい、3人の魅力が並び立てる程度に強くなってほしい。

 それが『アインフェリア』に藍子を、いや藍子を主軸に『アインフェリア』を組んだ理由だ」

理由はわかった。だが藍子の顔は浮かない。

「私は、強くなれたんでしょうか」

藍子はそう呟いた。意識的に顔を上げ、わずかに息を吐く。

眉の下がったその様は、とてもではないが自信のあるようには見えない。

「ユニットの中では強くあっても、今の私は…迷ってるだけです」

「それでいいんだ。叩き潰したり、開き直ることが強さじゃない。

 優しい藍子なら、そんな錯覚しないだろうと読んでたからこそ『生存本能ヴァルキュリア』にもGOサインを出した。

 …それがここまで苦しませることになんてな。まだまだ甘いよ、オレは」

自嘲するプロデューサーの声は浮かない。

でも、それを聞いても藍子にはどうすることもできななかった。

たしかに『アインフェリア』のメンバーとの交流の中で、花を慈しみ、日々を幸せに感じる自論をはじめて同僚に説いた。

だが年下である橘ありすを少しばかり導き、勇壮な歌に合わせて意識的に手足に力を込められるようになったくらいでは、

「高森藍子という人間は強く変われたのか」という問いに、藍子は未だ肯定の意を返せない。

その迷いが『アインフェリア』を受け入れられず、プロデューサーまでもが力無く立っている理由だったとしても。

「…もう少し、歩くか」

しばしの沈黙の後、プロデューサーは静かにそう切り出した。

トイカメラが揺れ、2つの影はまた森の中を進んでいく。

永遠に続くような森の道。



その静かな歩みを不意に止めたのは、自分達とは別の2つの影だった。

<R←------I>

川を離れ、再び山を登った耕司達は、バイクを押してゆるやかな山林の中に入っていた。

そして、すぐにバイクを停める。

山林の先、本格的な森の端にぽっかりと開いたこの空間は、バイクを置くにも拠点を造るにも適している。

そんな好都合な場所にあっさり辿りついたのは、ここに来るのが初めてではないおかげだった。

「やっぱり懐かしいね、ここは」

耕司は思わずそう呟いた。

バイクから降ろしたテントは既に組み上がっている。

そしてテントの後ろに広がる森の景色は、かつて来た時と変わらず迎えてくれた。

「でしょ?お兄ちゃんが余所に行っても、なんかテントが残ってる気がして度々来てたから。

 …はい、コーヒー」

「ありがとう。懐かしいのはこのコーヒーも、だな」

耕司愛用のカップには、香りの良いコーヒーが入っている。

『メイプル』でもらった魔法瓶の中身を移し入れただけだが、それでも十二分に美味しい。

もちろんコーヒーそのものの素材も良いのだろうが、山の綺麗な空気によく合うと耕司は感じていた。

同じ場所に長らくある店ならば、場所に最適化したものができてもおかしくはない。

「そうだ、加那ちゃん。あの場所はどうなった、って聞いてる?」

カップを簡易テーブルの上に置き、耕司は森の外を指さした。

一瞬だけ加那は怪訝な顔をしたが、指先に見えるものに気付くとすぐ口を開いた。

「コンクリート工場で起きた大規模爆発事故…ってことになってるよ」

「なるほど。道理で必要以上に騒がれなかったワケだ。その後、誰か立ちいってたりは?」

「全然。キャンプ場がない側だから、私みたいな地元の人以外は寄りつく以前に気付かないと思う」

加那の答えに、耕司は少し目付きが険しくなった。

それはまた、内心で膨らみつつある疑念を確かにしていたのだ。

先ほど耕司達が移動した河原と山林の間には、たしかに閉鎖されて久しいコンクリート工場があった。

加那の言う通り、今ではそこは爆発でも起きて全てが灰塵と化したような何もない場所だが、

人為的な環境破壊の現状を捉えるにあたり、その原因と目される場所とマークしていたため耕司の記憶には残っている。

耕司が当時残したルポでは、工場用地近辺を別の業者がレジャー開発しようと強引に山林を切り開く中で、

科学物質の拡散防止を目的とした空白地を崩したため、工場用地から科学物質が漏れ出てしまったのではないか…と結論付けた。



だが、耕司はそれとは別の原因も知っている。そのいくらかは加那も。

…そう、山で撮影中の耕司と、山の中で亡くなった動物を弔っていた加那だけが遭遇したのだ。

「お兄ちゃん、あの場所も撮りに行くの?」

「ああ。やっぱり、気になるからね」

耕司は素直に答えた。他ならともかく、加那には隠す必要がない。

加那があまりいい顔をしないのも、かつてを思い出してのことだろう。

「でも、まずは森の方だな」

「…はい!」

テントの裏に見える森を指差した耕司に、加那が元気良く答える。

ふと見ると、時計の針は12時半を指していた。思ったより時間が過ぎている。

そろそろ撮影を始めなければ、とカメラ片手に森に入ろうとした時、不意に視界の先に人影が見えた。

「…あれ?人、かな」

人影は耕司の気のせいではなく、加那にも見えている。

だがその口ぶりからして加那にとっても予想したものではないらしい。

「この山の人じゃないのか?」

「近所の人なら、私達みたいにこっち側から来るもの。わざわざ向こうから歩いてきたりしないよ」

なるほど、と耕司は頷いた。

やがて距離が近づくにつれ、森からやってくる相手の姿が見えてきた。

瞬間、隣に立つ加那が軽く感嘆の声を漏らす。

「知ってる人?」

「うん、有名な人だから。でも、なんでこの山にいるんだろ?」

加那の視線の先には、ウィンドブレーカーを纏った少女がいた。年齢的には加那より少し上か。

耕司には初めて見る顔だったが、何故か浮かない表情を差し引けば顔立ちは愛らしい。

スタイルも細くしなやかで、なるほど容姿だけでも名が売れておかしくはない。

一見しただけではそう感じなかったのは、雰囲気が穏やかであまり派手ではないからだろう。

「こんにちわ!」

物怖じせずに加那が挨拶すると、少女―藍子は浮かない顔を消し、笑顔で加那に応えた。

「こんにちわ。いい天気ですね」

「はい!あ、あの、高森藍子さんですか?」

加那の声に藍子は穏やかに頷く。

その様子を耕司は静かに見ていた。あんまり撮影が遅れると困るとはいえ、加那からすれば有名人に会ったのだ。

それに加那自身の希望とはいえ、河原から森まで彼女を連れ回している。最後にこれくらいの対価があっていいだろう。

そう考えながらも少し手持ち無沙汰にしていたところに、偶然藍子の手の中にあるものが見えた。

「カメラ、好きなのかい?」

加那と藍子の会話が切れたタイミングを待ち、耕司はそう切り出す。

藍子の隣の男性が驚いた顔をしているが、藍子はごく普通に答えてくれた。

「散歩中に撮るのが好きなんです。撮影自体は上手くないですけど」

「なるほどね。ならトイカメラはうってつけだな。

 撮るってこと自体が意識付けになるから、いいアクセントになる」

「あの、貴方は一体…?」

「プロカメラマンだよ、この方は」

カメラについての含蓄に驚いてか、思わず藍子が口にした疑問は隣の男性が答えてくれた。

そしてすぐさま、男性が頭を下げる。

「はじめまして。瀬川耕司さんですね?」

「ええ…そうですが」

名前を当てられ、業界筋の人間と察した耕司はポケットに携帯している名刺を取り出した。

撮影中に地元民と交流した際、後のトラブルを避けるためにもこういった備えは常にしている。

それは相手も同じらしく、結果として名刺交換の形になった。

「よかったら、座ってお話しませんか?

 こういうところで人と会うなんて、そうそうあるもんじゃないから」

「高森藍子担当プロデューサー」の文字が目を引く名刺をしまうと同時に、耕司はそう提案した。

プロデューサーは藍子とわずかに顔を見合わせ、さらに腕時計に目を向ける。



撮影は結局遅れたものの、代わりにテントの前に立つ影は4つになっていた。

<R------→I>

「え?キャンプ場からずっと歩いてきたの!?」

「うん。休憩中に森を歩いてたら、ここまで来てしまったの」

ひどく驚く加那を前に、藍子は少しだけ苦笑しながら答える。

プロデューサーと2人して悩みながら歩いていたら、30分もかけて森を横断し切ってしまっていた。

藍子自身はさしたる間でなくても、実際にはかなりの時間が経っていたということはこれまでにもあったが、

それを移動距離という形で突きつけられたのは初めてだった。

厳密な距離はわからずとも、この地元の少女の反応からして決して短くはないことは間違いなかった。

「でも、なんでキャンプ場に?」

「あのキャンプ場の近辺は、撮影によく使わせてもらっているんだよ。ほら、これの時とか」

プロデューサーが代わりにそう答えると同時に、1枚の写真を加那達に見せる。

気になって藍子も横から見てみると、それは他ならぬ藍子の写真だった。

たんぽぽで作った髪飾りに純白のドレスを纏ったその背後には、紛れもなくこの森の自然の風景が広がっている。

イメージ写真として度々使われたものとはいえ、改めて見ると肩がまる見えで、身体のラインも強調しているのは少し恥ずかしい。

「森には何度も入っているんですか?」

「入ってはいますが、ここまで来たのは初めてです。基本的にはキャンプ場に近い側で撮影しているので」

不意に飛んだ耕司の問いを、またプロデューサーが変わって受けた。

「そっか、だから見たことなかったんだ。私はこっちからしか入らないから」

「あまり広めないでくれると助かるなー。少しならともかく、撮影の度に人が集まっちゃうとキャンプ場の人も困っちゃうからね」

「うん。藍子さんが困ることはしないよ」

何かを納得する加那に、プロデューサーがしっかり口止めをする。

実際、この桐生のキャンプ場で撮影をしているのは藍子だけではないし、逆にキャンプ場の利用客も藍子達だけではない。

出入り禁止になるような事態になれば誰も幸せにならないだろう。

だからこそプロデューサーの抜け目のなさは、藍子には頼もしく見えた。

「あの、瀬川さんはどうしてこちらにテントを…?」

加那とプロデューサーのやり取りが一段落した時、藍子は少し不思議に思っていたことを聞いてみる。

きちんとしたキャンプ場があるにも関わらず、あえてこの場所に滞在しようとしているのが気になったのだ。

それが大したことでなくとも、今は話していたかった。

「実は向こうのキャンプ場のことを知ったのが今日はじめてなんだ。

 …でも、知っていてもこっちにしたな。特に今回はそうだけど、オレの仕事向きだからね」

「お仕事?」

「自然環境の現状を撮る、そんなところかな。

 元々は野鳥の撮影がメインだったんだけど、今じゃすっかり自然全般が守備範囲だよ」

言いながら、耕司が自前のカメラを取り出す。

藍子のトイカメラとは比較にならない、本格的なデジタル一眼。その裏側に画像が映っている。

日付と時間からして、このカメラで最近撮られたものだろうことはすぐわかった。

綺麗な川の中で、川魚が元気に泳いでいる。森でも見ることができる鹿の姿もある。

そんな美しい自然の画像を見せてもらっていた藍子だが、最後の1枚だけは強い違和感を抱いた。

「あれ?今の…」

「ああ、気にしないで。最後のはちょっと失敗したものだから」

誤魔化すような言葉と共に、デジタル一眼ごと画像が藍子の視界から消える。

さすがにもやもやしたものを感じたが、代わりに置かれた数枚の写真はそれを忘れさせるものだった。

「オレの映してる自然環境は、綺麗なだけじゃない。環境汚染の実態を映すのも仕事なんだ。

 ここに来るのは2度目だけど、かつてはこういう写真を撮らざるを得なかった」

そこに映っていたのは、凄惨な光景だった。

木々が根から倒れ、切り崩された山の姿。動物の姿もなく、野鳥の死骸が浅い湖に転がっている。

『生存本能ヴァルキュリア』のビデオ撮影時に入ったセットは、戦場を再現した荒涼としたものだったが、

この写真は傷付いた自然を偽りなく映しているからこそ、戦場よりも遥かに痛々しく見えた。

「山が、死んでる…」

印象のままを口にした藍子の言葉に、耕司は静かに頷いた。

「数年前のこの山の姿なんだ。野鳥を撮っていた時に、湖の汚染を調査するべく山に入ったらこの有様だった。

 今ではこの光景の原因になっていた強引な開発は止まったけど、 一歩間違えればまた逆戻りしてもおかしくない。

 …今回の記事は、数年経って回復した山と、かつての姿を並べることで改めて警鐘を鳴らすつもりだ。

 だからキャンプ場じゃなくて、前も使ったここの方が都合がいい。そういうことさ」

最初に聞いた理由はわかったが、あまり耳には入ってこない。

写真が片付けられたのを見て、ようやく藍子は我に返った。

「怖がらせて悪かったね。そうだ、そっちのカメラで撮った写真も見てみようか?」

「…え?」

「そこまで簡素なトイカメラだと、本体だけじゃ画像の確認や削除はできないだろ?

 仕事用のノートパソコンで簡単に見れるだろうし、撮り損じがあったら撮れる量も増える」

「あ、はい…すいません、お願いします」

断らなかった。

気を使って話を変えてくれたのだ、と気付いてしまった以上、藍子には出来なかった。

ピンク色のカバーを外し、露出したUSB端子をノートパソコンに挿す。

USBフラッシュディスクそのものだけあって、すぐに画像は表示された。

「うん、よく撮れてるな」

耕司の言葉に、さすがの藍子も苦笑するしかなかった。

どの画像もピンボケやブレを起こしているものばかりで、お世辞にもよく撮れているとは言い難い。

それをプロカメラマンが至極真っ当に誉めている様は、ちょっとおかしい光景に見えたのだ。

おかげで、藍子は少し気を楽にして写真を取捨できた。

だが、シャッターの予期せぬ連打で二重撮りした画像を見つけた時、藍子はまたおかしな光景を見ていた。

「藍子ちゃん、この画像は?」

「え?多分、ポケットの中で偶然シャッターを押しちゃったんだと思います」

「そうか…」

耕司がじっと見ているのは、ほぼ一面が真っ暗で、左上の隅にわずかに青空が見えるだけの画像だった。

藍子にはほぼ何も映っていないように見える画像を、耕司が真剣に見ている。

今度は苦笑いなどできなかった。デジタル一眼の画像を見た時に似た、あのもやもやをまた感じている気がする。

「じゃあ、どれを外す?」

「あ、はい…」

何事もなかったかのように聞いてくる耕司に、改めて画像を指し示す。

だが結局、その1枚で終わりにした。

カメラが手元に戻っても、高森藍子の表情は沈んだままだった。

<R←------I>

「申し訳ない、キャンプ場の方まで案内してもらって」

「気にしないでください、ちょうど森に入って撮影に入るつもりだったんです。

 それにお仕事で来てるのなら、ここで迷ってると時間のロスでしょう?」

足を止めず、前を行くプロデューサーにそう声を掛ける。

耕司を最後尾にした4人は、テントを離れ森に入っていた。

藍子と直接話せるのが嬉しいのか、後ろから見ているだけでも加那のテンションが高いのはわかる。

だが、耕司はそうはいかなかった。

(まずはこの人達をキャンプ場側に戻さないと…)

高森藍子。

彼女の写真を見た今、撮影調査より先に立つものがあると確信した。もはや疑念では済まない。

ならばこそ、まず彼女とプロデューサーを穏便に帰し、安全圏へ退かせる必要がある。

直接話した中で、温厚でものわかりの良さそうな子なのはわかった。

一度帰してしまえば、少なくとも今日中に森の最奥まで戻ってくることはないだろう。

浮かない顔をしているのは気にならないではないが、今は忘れることにした。

あと少しで森の中央部に着く。そのままキャンプ場の方まで出たら、加那も帰してしまおう。

出入りの場所が違うのは迷惑だろうが、彼女を連れて森に戻るのはリスクが大き過ぎる。

あのようなことを二度も味合わせる必要などないのだ。

そう算段を立てて再び加那を見た瞬間、その姿が不意に消えた。

(しまった…!!)

何が起こったかはすぐに悟った。後手に回った後悔はあったが、それも一瞬で打ち消す。

突然の事態に、プロデューサーと藍子が焦りながら周囲をキョロキョロと見回す中、耕司は迷わず上空を見上げた。



…そこには2体の怪物の姿があった。

鳥のような羽根で空を飛ぶ怪人が、植物を模した怪物を左腕だけで抱えている。

そして植物のツタに絡め取られた先には、たしかに加那の姿があった。

「加那ちゃん!!」

耕司が叫ぶと同時に、ツタが引き上げられ加那が怪人の元まで運ばれる。

直後、加那を襲ったのは怪人の強烈なパンチだった。

腹にめり込んだ衝撃に表情を歪ませ、そして気を失う。

助けを求める言葉を発する間もなく、怪人の右腕に加那は抱えられてしまった。

「あれは一体なんだ!?」

「走ってください!考えるのは後です!」

考え込みかけたプロデューサーを一喝し、耕司は前へ駆けた。

ここでこの2人まで襲われるわけにはいかない。

加那は死なずに済んだようだが、次もそうとは限らないのだ。

だからこそ走らせる。キャンプ場には彼らの車があるはずだ。

一時的にでも避難させれば、これ以上の害も騒ぎもなく解決できるかもしれない。



だがそんな考えを打ち砕くかのように、怪人は一気に高度を下げ、木々を縫うように一気に接近してきた。

そのスピードは3人の走る速度を明らかに超えている。

「きゃっ…!」

その時、背後から迫る恐怖に足がもつれてか、藍子が派手に転倒した。

全速力で走っていただけにフォローが遅れる。

それは植物のツタが彼女を捕捉するのに十分な時間だった。

「藍子ッ!!」

叫びと共に、プロデューサーが割り込む。

次の瞬間、ツタに捕まったのは藍子ではなくプロデューサー氏だった。

少女の加那だけでなく、成人男性の彼さえも一瞬で引き上げられていく。

「プロデューサーさん!?そんな…そんなことって…」

空を見上げながら、藍子が膝から崩れ落ちる。放心状態なのは明らかだった。

そこへ容赦なく三度目のツタが飛ぶ。

…もはや穏便に、などと考える余地はなかった。

近くの木の枝へと一気に飛び乗り、そのままジャンプで木々を跳び移る。

目指すは藍子の目の前。

そうして最後の枝を蹴った直後、耕司のベルトのバックルが真紅の輝きを放った。

(間に合ってくれ…精霊の力よ!)

赤い光に呼応するかのように、緑色のオーラが耕司の身体を包むように広がる。

そして強まったオーラは姿まで変えていった。

わずかの後、光が収まった後に地面に降り立ったのはダウンジャケット姿の人間ではない。

赤い両眼に頭部の触角、そして緑の表皮。口の紋様からしてそれはバッタの如き姿。

唯一、バックルそのままに光る赤いエナジーコアが、そこに立つのが耕司であると主張していた。


姿を変えた耕司は、着地と同時に迫りくるツタを手刀で断ち切った。

そのまま、未だ動かない藍子を抱え上げる。

そして緑の異形と化した耕司は、再び木の枝へと飛んでいった。

<R------→I>

気付いた時には、高森藍子はテントの中で寝ていた。

色からして、このテントは瀬川耕司が森の端に用意していたたものに見える。

たとえ色が見間違えであったとしても、こんな使いこまれた布地のテントは少なくともキャンプ場で見た覚えはない。

(そう、だよね。でも、なんであんな現実離れした光景を…)

身体を起こしながら、わずか前にある記憶を藍子は思い出した。

少し前に知り合った少女だけでなく、プロデューサーまでもが怪物に連れ去られていく。

まさしくそれは悪夢だった。何故自分がこうして助かったのかすらわからない。

前後の記憶があいまいになるほどの沙汰であったなら自分も無事では済まないはず。

(…疲れてる、のかな。考え事とか、撮影疲れとか)

結局、藍子はそう結論付けた。

盛大なドッキリ、というにはあまりに異常で現実味がない。幻というには生々し過ぎる。

だが、あれが紛れもない現実だと認めるならば、プロデューサーは今も連れ去られたままだ。

そんなことは耐えられないから、夢だと納得する他なかった。

それでも一瞬だけ、あの光景が現実かもしれないと疑った瞬間、テントの外で声がした。

「ジェイーーっ!!」

青年を思わせる声が響く。この森の近くの地元民だろうか。

「ベリー!?生きてたのか!」

答えて聞こえたのは、瀬川耕司の声だった。

ジェイ、という呼ばれ方は彼の名前と繋がらないが、とにかく藍子は布越しに聞き耳を立てていた。

「大分手酷くやられたけど、もう時間も経ったからね…って、僕の話は後だよ!

 フォッグの残党が活動を開始したんだ!」

「やっぱり、さっきの2人組の怪人はフォッグか!!」

「ああ。僕が間に合っていれば…!」

2人組の怪人、と聞いて藍子の身体が俄かに震える。

夢で見た光景でプロデューサーが連れ去られた時、ツタの先にはたしかに2人の怪人がいた。偶然、なのだろうか。

そんな藍子を余所に、テントの外の会話は続く。

「ベリーだけじゃないさ。オレもこの山で色々見る中でフォッグの存在を疑ってはいたが、確証を持つまで遠回りしてた。

 …でも、ヤツらは全滅したんじゃないのか?」

「そのはずだった。僕も、地空人もそう考えていたんだ。だから後手に回ってしまった。

 地空人の見立てじゃ、フォッグ・マザーの中から投棄された卵が、

 生贄の代わりに何らかの栄養を取って自力で成長したんじゃないかって話だ」

「なるほど…オレが河原の落ち窪んだ所で見つけた殻は、そういうことだったのか」

ジェイと呼ばれる瀬川耕司とベリーの会話は、藍子の理解を超えつつあった。

だが理解できる範囲の中で、また別のところで辻褄が合ってしまったことに気付いてしまった。

一瞬だけ見えた耕司のデジタル一眼の画像が、脳裏に浮かぶ。

あれには今聞こえた通り、何かの殻らしきものが映っていた。

「ヤツらの目的はなんだ?今回も生贄にするつもりなのか」

「それは僕らにもまだわからないんだ。

 生き残りがいたとはいえ、大孵化が必要なほどの卵が残ってるとは地空人も考えてない。

 それに、わざわざジェイが来たタイミングで動き出すのも変だ」

「理由はわからないか。でも―」

ジェイが、そこで一度言葉を切る。

そして続く声は、混乱しつつあった藍子の耳にもはっきり聞こえた。

「藍子ちゃんだけでもヤツらの手から守れたことが、今は救いだな」

(そんな…!)

あの光景を認めたくなかった心の壁が、一気に崩れた気がした。

自分だけが助かっている。

つまりプロデューサーは、本当に連れ去られている。

「瀬川さん!プロデューサーさんは今、どこにいるんですか!?」

衝動的にテントを押し開ける。

藍子の目前には、やはり瀬川耕司の姿がある。

だが彼と会話していた、ベリーという青年は見当たらない。通信機か何かを介して話していたのだろうか。

気になることはあったが、それよりも今はもっと気にするべきことがある。

「藍子ちゃん!もう大丈夫なのか?」

「はい。あの、プロデューサーさんは…連れ去られたんですか?その、フォッグというのに」

「…聞こえてたのか。でも大丈夫だ。

 藍子ちゃんはオレが責任持ってキャンプ場まで送るし、彼も加那ちゃんもオレが助けてくる。絶対に、だ」

耕司のその言葉が途方もなく頼もしいものに聞こえた。

あの悪夢のような光景が事実なら、フォッグを前に藍子自身は何ら抵抗もできていない。

プロデューサーが身を捨てて庇ってくれたからここにいるというだけだ。

そんな脅威を知っていながら、瀬川耕司はこうも力強い答えを返している。

あのよくわからない会話の断片から、耕司が何がしか戦う力を持っていることは察したが、

それでも同じ状況に立ったとして、藍子はこうも力強い答えを言えるだろうか?


(私は…やっぱり、強くなんてなれてないのかもしれません。プロデューサーさん…)

今はここにいないパートナーに語るかのように、藍子は空を見上げていた。

<R←------I>

再び、森に入る。

藍子をキャンプ場に帰す。それも、彼女自身が自力で帰った風を装って。

そうするためには森の中を経由する他ない。

「空飛ぶ怪人の方が植物型の怪物を森に落としていったんだ。

 ジェイを追って森に入った時に見たし、実際にフォッグの臭いもする。間違いないよ」

「片割れを門番にしたってことか…!」

すぐ近くから聞こえるベリーの声に、耕司の表情が渋くなる。

あのツタの攻撃を考えると、襲撃のない内に急いで駆け込むというのは難しい。

テントまで退避する時にそれが出来たのは、相手がまだ空中にいて距離があったというだけのこと。

落着すれば山林一帯をカバーされてもおかしくはない。戦いは避けられないだろう。

「ベリー、オレが変身したら藍子ちゃんに付いていてくれ」

「わかってる。時間稼ぎくらいは僕もできるしね」

「…無理はするなよ」

思わず耕司はベリーに小声でそう注意した。再会した時の言葉は誇張でもなんでもない。

できればあの時のような真似を繰り返させることは避けたかった。

藍子を守るように、後ろから彼女の肩に手を掛けた状態で森を行く。位置からして彼女にベリーは見えていない。

このままキャンプ場まで―とは、さすがに行かなかった。

「瀬川さん!?」

「くっ…大丈夫、このくらいならね」

不意の痛みを隠しつつ、突然の事態に驚く藍子をなだめる。

ズザッ、という草が激しく擦れる音がした次の瞬間には、ツタが襲いかかってきていた。

咄嗟に藍子の向きを変え、耕司も捕まらないよう強引に距離を開ける。

だが今度のツタは葉が鋭利な刃と化していた。耕司のジャケットの背には無数の傷が付き、所々が裂けている。

厚めのジャケットだから出血こそなかったが、もし藍子の薄いウィンドブレーカーで受ければ重傷になるだろう。

(もう1体の動向が気になるが…ここは倒すしかない!)

覚悟を決めた耕司は、正面から藍子の両肩に手を当て真っすぐ顔を見据えた。

「藍子ちゃん、今からオレがあのツタをなんとかする。戻ってくるまで、この木の影に隠れているんだ」

「は…はい!」

言われた通り、すぐに藍子は木に隠れてくれた。

その近くにベリーが付いたことを確認し、振り返る。

向く先は、ツタの飛んできた方向。そこに倒すべき相手がいる。

「変身!」

その声と共に、耕司はおもむろに右手を前に突き出し、そして左側へ動かしながら引き寄せた。

ゆっくりと身体の右側へ動く右手は、まるでアルファベットの「J」を描くような形になっている。

そのまま右腕の前までJの字が来た時、再びベルトのバックルが真紅の輝きを放った。

解き放たれた緑のオーラが、再び耕司をあのバッタを思わせる姿へと変えていた。

これこそが耕司の持つ力。大地の精霊の力、ユピテル・パワーの戦士。

その名は―


「仮面ライダー…J!」

名を名乗り、指のJの字が赤く輝いたその時、敵もまた動き出した。

刃のツタが再び飛ぶ。それも今度は1つではなく、4本同時。

迷うことなくジェイ―Jが、それを己の身体で受け止める。

藍子を守るためには、これを1本でも後方へ飛ばすわけにはいかない。

当然のように鋭い葉が緑の身体を痛めつけていく。だが、Jもただ受けているだけではない。

「たあっ!!」

ダメージを受けながらも、それをものともせずツタを掴む。

手に刃が喰い込ませながらも4本まとめて掴み取ると、それを手繰るように根元まで突き進む。

引っ張る度に、ズザザッという草の擦る音が鳴る。

少しして根元へ近付いたツタが太くなり、擦る音が一気に激しくなった時、それは姿を現した。

(やはり…あの時の花か!)

怪物の実体が見えた時、Jの脳裏に浮かんだのは河原で撮ったあの写真であった。

その姿は、フォッグの卵らしき殻と一緒に映っていたあの食虫植物を人間の女性に似せたような代物だった。

植物が喰い荒らされていたのは、恐らく卵から出た怪物がそれを食べたからなのだろう。

直後、不意に背後から藍子の声が聞こえた。

「右に避けて!」

ツタを引っ張ったまますぐさま右に転がる。

Jがそれまで立っていた場所に、怪物の吐き出した液体が飛ぶ。

その場に溜まっていた木の枝と落ち葉が一瞬で、跡形もなく溶ける。人体にでも十分ダメージを与えられるだろう威力。

藍子が声を大きく聞かせられる程度に近付いていることは気になるが、ならばこそここで退けない。

「キャシャアアアアアアア!!」

耳触りな奇声と共に、半分閉じたままの花から怪物が再び溶解液を吐く。

さらにJの掴む4本以外に、残った4本のツタを振るって襲いかかった。

ツタを掴んでいる以上は回避できる範囲は狭い。時間が経てばダメージばかりが蓄積される。

だからといって、ツタを離しても状況は好転しない。既に相手の間合いに飛び込んでしまっている。

(ならば、一気に決めるしかない!)

覚悟を決めたJは、ツタを掴んだままさらに怪物へと肉薄した。

俊敏な脚力を見せ、ツタの猛攻をギリギリでかわす。

だが全ては避け切れず、左肩から袈裟にかけて葉の刃が直撃する。

Jが右手にまとめて掴んだツタを怪物の花に押し込んだのはそれと同時だった。

「ギャギャギャアアア!?シャアアア!!!」

怪物の溶解液は、怪物自らのツタすら溶かした。

痛みに反応してか、半狂乱のように溶解液が乱射される。

すかさず残りのツタを掴み、また花に押し込む。これでツタの攻撃はもう来ない。

溶解液を避け、Jは再び右手で「J」の字を描いた。

「ライダーパンチ!!」

渾身の右ストレートが、溶解液を押し返すように花へ叩き込まれる。

直後、怪物の身体が痙攣して崩れ落ちる。

そのまま地に落ちた亡骸は、白い煙となって消えた。

「やった…のか?」

怪物の消え去った様を見て、Jはそう呟く。

だが直後にJも傷を押さえながら膝を付く。

そのまま倒れ込みそうな身体を支えたのは、藍子だった。

「瀬川さん!?大丈夫ですか!」

「大丈夫、オレはね…このまま先に進もう」

「そんなことできません!」

初めて、藍子が強い口調で言い返す。嘘を付いているような目ではない。

自身の安全以上に、目の前の全身負傷者を放っておけないということか。

そんな彼女を前に、ついにJの変身が解ける。

「掴まってください!」

「すまない…!」

藍子の肩を借り、満身創痍の耕司は再び森を引き返していった。

<R------→I>

プロデューサーが目を覚ましたのは、暗い場所だった。

回りを見回すが、灯りが弱い。ただ、どこかしら屋内であることは察した。

触手のような肌触りの枷を両手首につけられ、上方から吊るされているのだから。

それ以外は周囲に大したものは見当たらない。いや、一人。

「加那ちゃん!?大丈夫か!」

プロデューサーの隣には、同じく吊るされた加那の姿があった。

呼びかけると、少しずつ加那の目が開く。

「ここは…何処?」

「わからない。こっちも気付いたら吊るされてたんだ。でも―」

「ここはオレ達の本拠地だ」

不意に渋めの低い声が割り込む。

同時に身動きの取れない2人の眼前に、1人の男が立っていた。

全身を白で統一した、燕尾服に似た衣服を纏った若い男。

この薄暗く殺風景な空気を感じる風景には不釣り合いだが、容姿も声も中々悪くないものだ。

会った状況がこんな場所でなければ、315プロあたりなら拾ったかもしれない。

警戒しながらもそう男を値踏みする中、拘束されたままの加那が食ってかかっていた。

「その姿…あなた、あの怪物の仲間!?」

「ほう、やはりガライ達が捕まえた娘だったか。リィアンは正しかったな」

「今度は何が目的!?生贄にしようとしたって、瀬川のお兄ちゃんが―」

「質問は1つずつするものではないのか?そこの男も困っているようだが」

白服の人物にダシにされた格好ではあるが、プロデューサーの理解が追い付いていないのは事実である。

どうも加那はこの男の正体に心当たりがあるようだが、姿からして現地の人間とも思えない。

「まぁいい、ヤツが来るのも貴様らのおかげだ。少しはオレのことを話してやろう」

ヤツ、というのが気になったが、プロデューサーは状況を黙って追う他なかった。

情報が足りな過ぎる以上、この男の気まぐれを現状整理に役立てる他ない。

「オレの名はネドラ。フォッグの生き残りだ」

「フォッグ?」

「怪物のことだよ。ほら、森で私達を襲った!」

加那の言葉に、プロデューサーは自分が襲われた時の光景を思い出す。

眼前にいるこの男が、2体の怪物の内のどちらかなのだろう。

今は人間と変わらぬ姿だが、これがあの怪物へと変貌するというのか。

「ならネドラ…君、と言うべきか。なぜ加那ちゃんや藍子を連れ去ろうとしたんだ?」

「悪いがそれは言えん。言えば人間はうるさくなるだろうからな。

 …だが安心しろ、お前達に何かをする気はない。せいぜいが今の話し相手だ」

妙な気づかいを含んだ言葉に、2人共が違和感を感じていた。

「何もしない?フォッグがそんなことを…」

誰にともなく加那が疑問の言葉を口走るが、それを無視してプロデューサーは会話を続ける。

「話し相手というなら、身の上話でもするかい?」

「ほう…ずいぶんと落ち着いているようだな」

「言葉だけじゃなく、実際に君の態度は危害を加えるものじゃないからな。

 そういう心の機微がわからないとできない仕事をしている」

「なるほど。あの少女と歩いていたのもそういうことか」

ネドラの言葉がプロデューサーの心に刺さる。

『アインフェリア』に起因する藍子の悩みは、結局解決できていなかった。

ネドラが敵対意思を見せていないのは不幸中の幸いだが、「解放する」とは一言も言っていない。

もしずっとこのままであるなら、藍子が悩んだまま活動しなくてはならないのか。

自分の身を案ずるよりも先に、そんな心配が急に浮かんできた。

「…気に障ったか?」

「いいや、別に。ずいぶん早くから見ていたのか、とは思ったが」

ネドラにそう返す。心中をそのまま出していては、関係者との折衝などできようもない。

だからこそアイドル達以外に、心配で暗くなる顔など見せる気はなかった。

「あなたは、本当にフォッグなの?」

加那がそう尋ねると、ネドラが軽く笑う。

「人喰いをしないのが不服か?」

「でも、私の知ってるフォッグはそういうものだったから」

「ああ、そうだ。オレが異常なんだよ」

平然と言い返した直後、急にネドラの表情が歪む。

何事か、と緊張する2人の前で、男は天を仰ぐ。

「リィアン…。ヤツにとっては本望だろうが、これでオレは一人か…」

その言葉は、およそ怪人らしくない悲痛なものに聞こえた。

<R←------I>

藍子の手を借りて撮影拠点に帰還した耕司は、テントの中で横たわっていた。

「ここまで来れば、車も来れるはずです。今、救急車を呼びます…!」

「いや、救急車は後だ。このくらいなら少し時間をもらえれば、大丈夫だから」

「大丈夫って、そんなこと…」

藍子の心配はもっともだった。

Jに変身している間に受けたダメージは、服の下の身体に直接届く。

外見上こそジャケットの背が裂けているだけだが、ところどころ見える首元や胸は傷だらけだ。

何より、右手が焼け爛れたように赤く染まっている。

あの溶解液のダメージは、変身してなお肉を焼いていた。

「なんであの時、オレを追って来た?」

「え?」

「一歩間違えれば藍子ちゃんが傷つくところだった。

 助けられたのは事実だけど、あれは君が思っている以上に危ない状況だったんだ」

決して軽くない傷を負いながらも、耕司は我が身より藍子の心配をしていた。

ベリーを監視に付けていたことで、戦闘中に藍子が動いたこと自体はわかっていたが、

それはキャンプ場側へ逃げ出したものと思っていた。

よしんばこれが加那ならば、危険だとわかっていても旧知の相手である耕司の身を案じて来ることは理解できる。

だが今日初めて会ったこの少女が、言葉に反してまで追ってきたのは何か理由があるように見えた。

「…わかりません。気付いたら、動いてました。流されちゃダメだって、強くならないとって思ったら…」

「強く…なる?」

藍子の答えは、耕司の不安をより大きくさせた。

このままこの子を帰しては、いけない。

「よかったら話してくれないかな。藍子ちゃんが抱えている悩み…みたいなのをさ」

「………はい。それで、痛みをやり過ごせるなら」

ややあって、藍子はこの一ヶ月にあったことを話した。

『生存本能ヴァルキュリア』のこと、『アインフェリア』に選ばれたこと、

そこにプロデューサーが藍子を「強くする」意図があったこと…。



「ごめんなさい。こんな時に、私の迷いなんかで心配をおかけして」

「気にするなって、オレが無理に聞いたことだ。

 それにそういうことなら、少しは力になれるかもしれない」

一通り話し終えた後、謝り出した藍子を前に、耕司は上半身を起こした。

「藍子ちゃんが自分の悩みを打ち明けてくれたんだ。ピンチを救われてもいる。

 ならばオレも…自分の秘密を明かそうと思う」

「秘密?」

「この山で昔あったことだ。そしてそれは、あの怪人にも関係している」

怪人、と聞いて藍子の表情が強張る。だが逃げようとはしない。

それを確認して耕司はかつてのことを話し始めた。

「この山に初めて撮影に来て、加那ちゃんと会った日の夜のことだ。

 白い服に身を包んだ三人の男女に、オレと加那ちゃんはいきなり襲われた。

 加那ちゃんは連れ去られ、そしてオレは…崖から突き落とされて死んだ」

「死んだって…」

藍子の顔が蒼ざめる。だが、そこに割り込むようにして現れた存在に言葉を失う。

「そのジェイを蘇生したのが、地空人というワケさ」

「ベリー!まだ説明をしていないだろ?」

案の定、藍子は完全に固まっている。それも当然だろう。

ベリーと名乗り、青年のような声で耕司と会話していたのは―バッタなのだ。

『人語を喋る白いバッタ』などというものを見て、驚かない人間などまずいない。

が、そんな藍子を無視してベリーは話を進めた。

「僕を見た方が話が早いと思ってね。それに、フォッグは君が来るのを待っているらしい」

「何?どういうことだ?」

「さっきジェイが倒した相手が、2人の連れ去られた先を示す大きな葉を持っていたんだ。

 どうも、逃げ場を塞いでジェイを戦いの場まで向かわせるのが本当の目的だったらしい」

状況を把握した耕司が藍子の方を見ると、ようやくフリーズから解けたところだった。

「…え、えっと、崖から落ちたんでしたっけ?」

「ああ、うん。そこからだな」

改めて、耕司はその先を話し始めた。

「地底に住む地空人という人々のおかげで、オレは蘇った。

 彼らが言うには、加那ちゃんを連れ去った連中はフォッグという、この地球を狙って別の星から来た生物らしい。

 あの変身した姿…仮面ライダーJはフォッグを倒すために、地空人と同じ精霊の力を借り受けられる姿なんだ」

そこで一呼吸置き、耕司は意識を集中した。

身体が緑のオーラに包まれ、全身の傷に沁み込んでいく。

そして光が消えた後には、肩から切り裂かれた傷も、見るも無残だった右手も元通りの姿を取り戻していた。

「これが、精霊の…?」

「Jパワーだよ。藍子ちゃん」

ベリーが訂正する。耕司はあまり固執しないが、どうも地空人にとってはその名にこだわりがあるらしい。

とにかく、身体を癒した耕司は呼吸を整え、また先を続ける。

「地空人自身は、地下に根を張って生きているから地上に出られない。

 だから加那ちゃんを救い、フォッグを倒すためにオレとベリーは戦った。

 激しい戦いの果てにオレはフォッグの親玉を倒したはずだった。…少し前までは、そう思っていた」

「それが、生きていたんですね。今ならわかります。

 あのキングサラセニアが映っていた写真を隠したのは、フォッグとの戦いに関わらせないためだったんですね」

「そういうこと。あの時はすまなかった。…ベリー、フォッグの居場所に動きはないか?」

白いバッタの方を振り向く。そのシルエットが縦に動いたのが見えた。

「理由はわからないけど、相手は自分から動く気はないように見える。

 フォッグ・マザーがいない今、生贄が目的なのかもわからない。

 急いだ方がいいとは思うけど、それ以上に万全を期すのが正解だと思う」

「オレもだ。だからもう少し、話を続けることにするよ」

「わかった。準備が出来たら声をかけて」

ベリーの了解を確認し、再び耕司は藍子の方へと向き直った。

「さて、藍子ちゃん。『強くある』ってことはどういうことだと思う?」

「ええと…自分を押し出していくとか、どんなことを言われても堪えないとか…」

「それは自分以外の誰かを連想していないかい?」

耕司の言葉に、ややあって藍子は首を縦に振っていた。

「そうかもしれません。言われてみれば、茜ちゃんと未央ちゃんを意識している気がします」

「さっきの『ポジティブパッション』の子達だな。話を聞いてるだけじゃ、ずいぶんと強そうだ」

「多分、イメージ通りだと思います。だからプロデューサーさんの言う通り、

 3人でいると流されたり、いじられる側になったりってことが多いのかも…」

「うん。じゃあ、なんで2人は強いんだと思う?」

耕司の問いに、藍子は無言のまま辛そうな顔をしている。

それは心中がそのまま耕司にまで伝わるような、実に悲しげなものだ。

なるほど、こんな風に苦しんだ彼女を見てはプロデューサーも他人事とは思えないだろう。

思わずそう納得するが、そんな姿を延々眺めるような趣味はなかった。

「押し出すのも堪えないのも、ただの結果なんだよ。どっちも、根は同じさ。

 それに話してくれたじゃないか。プロデューサーさんも叩き潰したり、開き直ることが強さじゃないって言ったんだろ?

 …君のプロデューサーは、強くあることの根本に自分で辿りついてほしかったんじゃないかと思う。

 でも彼に恨まれる覚悟で最後に言おう。自分を、普段の君を信じてみてくれって」

無言のまま、藍子がはっとする。

何かに気付いたようなその顔に、耕司は軽く息を吐いた。

「よし、そろそろ行こうか」

「待ってたよジェイ。幸い、向こうに動きはなかった。

 藍子ちゃんはもう帰しても―」

「待って!」

ベリーの言葉を遮ったのは、藍子だった。

「私も、行かせてください」

「な…ダメだよ!さっきジェイも言ったじゃないか、僕らが行くのは危険な場所なんだ!

 ジェイも何か注意してくれないか?」

「ああ。行こう、藍子ちゃん」

「そうそう行こう…って、ジェイ!!」

「今の藍子ちゃんなら大丈夫さ、ベリー。それにベリーだけじゃ、また無理するだろ?」

耕司はベリーに力強く言う。無理をする、というあたりを否定できなかったのか、結局ベリーもそれに従った。


丸く収まった。耕司は、山林の入り口に隠したバイクを引っ張り出していく。

やがて2人と1匹の姿は、山道を駆けるバイクと共に消えた。

<R------→I>

「来たな…」

一人ごちるネドラの眼前の空間に、映像が映し出される。

暗い部屋だけに、光源を伴うその映像はプロデューサーの目にもよく見えた。

そこに映っているのは、1台のバイクである。

乗っているのは―瀬川耕司。

「待ってくれ、ネドラ君」

「…なんだ」

映像から離れようとしたネドラを、押し留めるかのように声を掛ける。

先ほどまでの口数は失せていた。わずかながら睨まれている気もする。

だが、足を止めている。プロデューサーはそれを否定の意だとは思わなかった。

「本当に、他に道はないのか?」

「ああ、そうだ。お前達のように器用にできてはいない」

「そうか…」

思わずプロデューサーが歯噛みする。

その様を見るネドラがかすかに、しかし確かに笑っていた。

「面白い男だ。この少女の敵意は当然としても、お前のような接し方をしてきたヤツは初めてだった。

 お前とリィアンのことは最後まで覚えておく」

「どこまでも逃げる、ということはできないのか?」

「逃げたところでまたこうなる日が早いか遅いかの差だけだ。なら万全の内に終わらせたい。

 そういうことだ。…まぁ、じきに終わる。どう転ぼうとな」

ネドラが、再び歩みを進める。もう止まる気はないらしい。

「お前の担当アイドルとやらに、よろしく頼む」

その言葉を最後に、ネドラは部屋から姿を消した。

「プロデューサー…さん?なんで、あんなに気に掛けたの?

 たしかに変わった怪人だったけど…」

加那が不思議そうな声が部屋に響く。

フォッグに連れ去られた過去がある彼女からすれば、危害を加えてくる怪物という認識なのだろう。

人喰いをしないと言われても、ここに連れ去られた事実自体が危害だと言えば、たしかにそうだ。

それでもプロデューサーは見捨ててはおけなかったのだ。

「…加那ちゃん。君は、アイドルにどういうイメージを持ってる?」

「え?えっと…芸能界のスター、かな」

「そうだな。そういう華やかなイメージが、一般的だ」

プロデューサーは目を伏せた。加那が拘束されているのが幸いした。

でなければ、とても子供に見せられない鋭すぎる目が見えただろう。

「でも実際はぶつけ合い、潰し合いだ。

 余程拮抗しない限り、ライブバトルの勝敗は数字で確実に出る。CDセールスや物販ともなればもっとわかりやすい。

 もちろん事務所としてはアイドルをそうそう失いたくなどない。人生賭けてる子もいるしな。

 だから、一種の安定策であり起爆剤であるユニット化とか、色々な手段を構築していった。

 それでも方途もなく数字に押され、望まれぬまま消えていく子をオレは見てきてる。

 …みんな、共存できれば理想なんだがな。人の興味はあらゆるものに向けられはしないってのは、嫌でも思い知る」

加那は黙って聞いている。その隣で顔を上げ、息を吐く。

「そういう場所にいるとね、『潰し合いしかない』という考えはしたくなくなるんだ。

 できる限りの道を探すし、万が一打つ手がなくなっても少しでも良い形で終わらせる。

 だが…彼は意思に関わらず、潰し合う他なかった。それが妙に悲しく思えてね」

「でも、お兄ちゃんが負けたら死んじゃうかもしれないよ?」

「ああ。オレとしては彼にも無事でいてほしい。だから本人に賭けた。

 諦めなければ、可能性はまだ残るはずだ」

それきりプロデューサーは口をつぐんだ。

死ぬまで放置される危険は薄いとはいえ、無駄な体力の消耗はやはり体を痛める。

閉じた目の裏に映るのは、やはり大事な担当アイドルの姿だった。

(そう、本人が気付きさえすれば。藍子…)

<R←------I>

愛車を駆る耕司は、山の中腹で一度バイクを停めた。

ベリーから知らされたフォッグ残党の拠点はもはや目前。あとは真正面に進むのみ。

そこにはあの怪人だけでなく、連れ去られた2人もいるはずだ。

(やはり、この場所か…ベリーもすぐ察知できたわけだ)

そこは木々のない開けた場所だった。わずかに残った建物が廃墟化している。

表向きはコンクリート工場の爆発事故がこの光景の原因とされているが、

耕司は本当の原因を知っている。それはフォッグ残党の存在と無関係ではない。


―フォッグ・マザー。

かつて存在した、フォッグの首領にして母である。

マザーの身は機械の巨大要塞と一体化しており、マザーだけでなく配下のフォッグとの決戦の場にもなった。

そして仮面ライダーJとなった耕司はこの要塞から加那を救出し、マザーを倒し要塞を破壊したのだ。

その要塞がかつて存在した場所が、他ならぬこの場所である。

耕司が再びハンドルを握った直後、廃墟に突然人影が現れる。

全身に纏った白い服は、かつて敵対したフォッグの男と変わらない。

そして白い服を覆い隠すかのように、その人物を白い霧が包む。

霧が消えた後にいたのは、やはり怪人だった。

コンドルに似た鋭利な翼と精悍なマスクが為すシルエットは、あの植物型の怪物を連れて飛んでいた怪人であり、

そして藍子が偶発的に捉えた写真にわずかに見えた影と一致するものであった。



その怪人目掛けて、耕司がアクセルを全開にして突撃する。

バイクもろとも緑のオーラが身を包み、耕司を仮面ライダーJへと変える。

同時にバイクもまた姿を変えていた。

緑の車体に、バッタを思わせるフロントカウルを持つスーパーマシン。

Jパワーによりジェイクロッサーと為った愛車と共に、一気に距離を詰める。

怪人は動かない。Jとの距離はどんどん縮まっていく。

そしてすれ違い様に、ジェイクロッサーに乗ったままJはパンチを繰り出した。

だが、かわされる。スウェーのような重心の移動だけで避けられた。

互いに背を向ける形になったJと怪人は振り返り、改めて相対した。

「来たな、仮面ライダーJ。オレの名はネドラ…お前を待っていた」

「待っていた?どういうことだ…!」

思わず聞き返す。

「最初からお前が目的だったということだ。この場所でもなければ、迷いなく戦えんだろう?

 道案内と目隠しにリィアンを寄越したのもそのためだが…アイツが独断専行したことは謝ろう」

「そんなことを謝るくらいなら、捕まえた人達を帰してくれ」

「それはまだできん。…まぁここまで来たのだ、直にお前も戦わざるを得なくなる」

また、疑問符が浮かぶ。

加那達を捕えたのが自分をおびき寄せるためだとして、それ以外に戦う必然があるというのか?

かつての戦いも今の戦いも、耕司にとってはフォッグから人々と自然を守るためのものだった。

(なら、また誰かや自然が犠牲になるのか!)

この怪人―ネドラの企みはわからないが、加那とプロデューサー氏を解放する気がない以上、結局は戦う他ない。

戦う覚悟を決めた直後、ネドラが後方宙返りから身体を翻し、低空を飛んで襲いかかってきた。

(ぐっ…!)

完全にかわしきれず、Jの右肩に赤い傷が付く。

やはりジェイクロッサーに跨ったままの身で、完全にかわすことは難しい。

しかし降りず、そのままジェイクロッサーを始動させる。

ネドラを逃がさずに追随するには、この速度がなければ不可能だった。

そして、追い付いた瞬間を狙い再びパンチを繰り出す。

今度は当たった。だが浅い。ネドラはすぐに体勢を立て直し、そのまま飛行を続けていた。

廃墟を2つの影が飛び回る。

直線ではジェイクロッサーが、旋回ではネドラが速い。

矢とブーメランの撃ち合いのごとく、低空での空中戦が繰り返される。

もはや何度目かわからなくなった頃、ついにクリーンヒットが入った。

「たあっ!!」

崩壊した建築物を足場に飛ぶジェイクロッサーから、Jが渾身のチョップを繰り出す。

Jパワーの緑の光に包まれた一撃が直撃し、ネドラの左の翼を切り裂く。

だが、同時にジェイクロッサーもまた大ダメージを受けていた。

人造物にJパワーを吸着させたジェイクロッサーは、車体こそ高い耐久力を誇るが、

バイクの機械的な原理を活かす部分までその加護が及ばない。

落ちゆくネドラが右の翼で砕いたのは―タイヤだった。

ホイールごとタイヤが砕け散り、ジェイクロッサーが走る術を失う。

だが、素早く飛び降りたJは着地と同時に隙なく身構えた。

その背後にネドラが受け身を取りながら落下し、立ち上がる。

片翼となれど、この怪人もまだ戦える状態らしいことはわかった。

「いくぞ…!」

ネドラが突撃してくる。拳で応えるしか、今のJに道はない。

<R------→I>

「瀬川さん、大丈夫でしょうか…?」

「大丈夫だよ、ジェイならきっと勝てる。…藍子ちゃん、こっちだ」

ベリーの行く先を追いながら、藍子は地下道を進んでいた。

山の中腹で耕司と別行動を取って向かった場所は、入口が封鎖されて久しい搬入用通路だった。

コンクリート工場の資材運搬用として設けられたこの道は、廃墟と化した表層と違い、今もその機能を残していた。

藍子は足元を確認しつつも、速度を落とさず早歩きで進む。

森に入るために、足への負担が小さいウォーキングシューズを履いていたのが幸いした。

「ここだ!薄くなってるけど、フォッグの臭いが残ってる!」

「…そう、みたいですね」

ベリーが止まった部屋の扉には「警備室」と書かれている。

この木製の扉だけ、明らかに最近開閉した形跡があることは藍子にもわかった。

だが、開かない。

「ベリーさん、どうしましょう?」

「突き抜ける手はならある。あるけど、僕にも限界があるんだ。

 捕まってる人を助けることを考えると、ここで使うワケには…!」

バッタの顔では表情を計ることは難しいが、声色からして焦りは伺える。

何か手立てはあるようだが、耕司に「また無理をする」と暗に釘を刺されたのが響いているように見えた。

(やってみるしか…!)

「藍子ちゃん、何をする気だい?」

「開けてみます。茜ちゃんみたいに…こう!」

意を決した藍子は、扉に向けて肩から体当たりした。

日野茜が得意とするタックルを真似たものだが、扉は軋む音を立てただけ。

二度、三度と繰り返すが結果は変わらない。それはパワー不足のためだけではない。

扉の向こうから軽い金属音がするあたり、掛金が降りているらしい。

ウインドブレーカーを着ているおかげで怪我はしなかったが、これで開けるのは難しそうだ。

だが諦めない。諦めるわけにはいかない。

瞬間、ふと耕司の言葉が脳裏をよぎる。

(普段の私を信じる…)


―今ある日々を幸せに感じる―

『アインフェリア』で、初めて他人に明言した自論。

それまで口にしなかったのは、アイドルの信条というにはあまりにも普通で、強いものではないと思っていたから。

橘ありすのために口にはしたものの、その時はそれが本当に大切な後輩のためになったか自信を持てなかった。

でも『アインフェリア』の組まれた意味を知り、瀬川耕司の助言を聞いた今、その迷いはもうない。

そう、強さは叩き潰したり、開き直ることではない。

たとえそれがどんなに普通のことであろうと、自分の在り方に自信を持つ。

それが藍子の辿りついた、「強くある」ことの答えだった。

(…もう、大丈夫)

目を開けた藍子は、トイカメラを持った時のように周囲を見回す。

日々を幸せに過ごすために、散歩の時はその風景をありのままに見る。それが藍子の日常。

そして、ついに見つけた。

(扉の下半分の一部…これ、脆くなってる?)

今度は意を決する必要はなかった。姿勢を低くし、思いきりタックル。

バキッ、という景気の良い音と共に木製の扉のごく一部が割れた。

身体全体は通らなかったが、ドアノブの下の裂け目から手が入る。

そうして掛金を上げると、今度こそ扉は開いた。

「ハァ…ハァ…開きました!」

「よし、2人を助けにいこう!!」

ベリーが先行し、その後を追う。

タックルで消耗した体力は決して小さくなかったが、まだ終わりではない。

果たして大した灯りもない殺風景な室内には、プロデューサーと加那が手首から吊るされた状態で捕まっていた。

「プロデューサーさん!」

「藍子!?どうやって…いや、聞くのも野暮か。

 こんなことにはなったけど、その目が見れれば『アインフェリア』を組んだことにもう後悔はない」

「えっ!?…って、とりあえず今はここを出ましょう!」

「違いない。オレにも流されないようになったなら、もう十分強いな」

軽く息を吐くプロデューサーの手首のあたりには、既にベリーがいた。

「藍子ちゃんのおかげで、無理しないで済んだからね。4回ならギリギリ想定内だよ!」

ベリーの身体に、Jに似た緑のオーラが集まる。

やがて全身が緑に輝いた直後、ベリーは触手のような手枷に突撃していった。

精霊の加護によるものか、小さなバッタの体当たりにも関わらず手枷は綺麗に断ち切られていた。

「バッタさん、大丈夫?あの時のバッタさんでしょ?」

「加那ちゃんか。さ、さすがに連続はキツイね…」

加那の手の上で、ベリーが横たわる。

いざ脱出、というその時、プロデューサーが加那の手に目を向けた。

「ベリー…というのかな?疲労困憊のところ申し訳ないけど、一つ案内してほしいところがある」

「な、なんだい?」

「ネドラという怪人の場所…あるいは今の瀬川さんの場所へ。

 おそらくは彼、瀬川さんのところに向かったと思われるからな」

「それは危険過ぎる…!」

「別に近くまで行くとは言ってない。ただ、見える場所まで行ければいい」

プロデューサーの無理な相談にベリーは考え込むが、ややあって答えを決めた。

「…わかった。僕も、フォッグがどうなったか確認しないといけないからね。

 ただ、本当に危ないから距離はきちんと取ってくれよ」

「ああ、必ず守る。無理を言ってすまない」

「プロデューサーさん?何故、わざわざ危険な場所に?」

言動を不思議に思った藍子に、いつになく真剣な表情でプロデューサーは応えた。

「今の藍子なら見ても大丈夫だろうし、見せるべきだと思ってな。

 少々極端な形になるが、藍子がその答えを出せたということの価値を知ってもらいたい」

<R←------I>

ネドラの幾度目かの拳に、正面からJの拳がぶつかる。

体勢を崩したのはJの方だったが、続けて放たれたネドラの蹴り足を掴み、投げる。

だが、大地に叩きつけられると同時にネドラも残った右の翼でJの腕を痛めつけていた。

…互角。

無数の拳脚を交える中で、Jはネドラの力量がそれだけ高いものだと理解した。

かつてのフォッグの中にいた、ガライという怪人に比肩するだろう。

それだけにJもネドラも、既に身体の各所に無視できぬダメージを負っている。

近しい力量は一方的な攻勢を失わせ、鈍くなった動きは自然と戦いを泥仕合に向かわせていた。

「そろそろ聞かせてやろう。お前が戦わざるを得ない理由を」

「なんだ?今度は誰を襲うつもりだ…!」

Jは構えを解かない。対してネドラは仁王立ちしている。

「それを教えるには、まずオレの話をするしかない。

 オレとリィアンはフォッグ・マザーから捨てられた身だ。それどころか本来は殺されるはずだった。

 それを救ったのが仮面ライダーJ…お前だ」

「救った…だと?」

「フォッグ・マザーと、その中のフォッグが死に絶えたことでオレ達は死なずに済んだ。

 オレ達自身はマザーから投棄され、川まで流れていたから助かったんだ」

そういうことか、とJは納得した。

かつての戦いの中で、機械要塞と一体となったフォッグ・マザーから加那を救うべく、

Jは大地の精霊の力を相当量借り受け、驚異的な姿を見せた。

ジャンボ・フォーメーション―マザーの機械要塞と対等のサイズへの巨大化である。

だが、ジャンボ・フォーメーションはただマザーと正面から倒すために行ったものではない。

その中にあったフォッグの卵を一掃するために、Jパワーを要塞内に満たすという意味もあった。

加那を救うためのその手段が、結果として望まれぬフォッグの子らも救っていた。

「さらに幸運にも、あの時の川には卵から出て間もないオレ達に最高の餌があった。それもお前のおかげだ」

どういう意味だ、と一瞬考えるも、すぐにあの時の川に何があったかを思い出す。

思わずJは拳に力を入れていた。

「まさか、フォッグの怪人を…」

「ああ、喰わせてもらった。オレ達が捨てられたのは、同種族を喰らう特異な身体だとわかったからだ。

 お前が倒して放置したアギトの死体がなければ、何もせずとも死ぬはずだった」

たしかにネドラの言う通り、かつての戦いで最初に襲いかかって来たフォッグを川で迎え撃ち、

崖を登ろうとしたトカゲに似た姿の怪人の右目を潰して倒した。

怪人との戦いで相当のダメージを負っていた上、加那を救うことを優先したために死体の確認もしていない。

それが巡り巡って今の戦いを呼び込むとは。

だが同時に、解せないことがある。

「オレと戦って、どうするつもりだ?もうフォッグはお前しかいないんだぞ」

「思い当たらんということは、やはり知らないようだな。オレの狙いは地空人だ」

「どういうことだ…!まさか!」

「気付いたか。別にお前がフォッグを倒した復讐、などということは考えていない。

 ただアギトの死体も喰いきった今、喰えるのがそれしかない」

「地空人とフォッグは、元は同じだとでも言うのか!?」

「そうだ」

信じ難い推測は、あっさり肯定された。

「まだアギトの死体が残っている内に、マザーの跡地にあったわずかな残骸を拾い集めた。

 そいつによれば、かつてフォッグ侵攻の時にこの星を捨て置けぬ一派が離反し、星と一体化したのが地空人らしい。

 …フォッグがいない今、オレは地空人を喰うしか生きる道がない」

ネドラの目的はわかった。地空人の正体も知った。

だがそれでも、Jは―瀬川耕司は、拳に力を入れたままだ。

「お前の言うことが本当なら…たしかに倒すしかない」

「だろうな。地空人に恩のあるお前にはそうする他あるまい。

 こちらとしても、お前は恩がある以上に地空人の切り札だ。残していては命の保証などあったものではない。

 だからこそ、悪いがこの手で倒す。全ては…このためのものだ!!」

ネドラが飛び上がる。

跳躍してのパンチを、Jは地上からのアッパーカットで迎え撃った。

互いのパンチが頬に突き刺さり、派手に転倒する。

(一撃で決着を付けるしかない…!)

いくら気力で立ち続けようと、もはや体力は消耗しきっている。

なんとか立ち上がったJは、すぐさま右手でJの文字を作った。

身体を癒している猶予はない。このわずかな時間で集めたJパワーは、必殺のため。

「オレは生きる…お前を倒して!」

ネドラもまた立ち上がる。

ダメージが溜まり、転倒の衝撃でもはや千切れているに等しくなった翼を自らはぎ取り、右手に持つ。

「ライダー、キック!!」

「シャラアァァ!!!」

大地を蹴ったのは同時だった。

Jは必殺の跳び蹴り、ライダーキック。ネドラは翼を剣としたジャンプ斬り。

全力を込めた一撃同士が交差する。

そして同時に地に降りた後、先に地に膝をついたのは―Jだった。

(ぐっ…マズイな、これは…)

ネドラのジャンプ斬りは、Jを左肩から袈裟に刻み、そして返す刀で右手を捉えていた。

それはあの植物の怪人―リィアンに傷付けられた場所。

いくら精霊の加護で癒したとはいえ、同じ場所に短時間でダメージが続けば傷は前より深くなる。

特に右手は、精神集中のタイミングが来るまで使いものにならない痛みを発している。

このままではネドラにトドメを刺されてもおかしくはない。



…だが、残ったネドラもまた、勝者ではなかったのだ。

<R------→I>

廃墟の入り口。

少し前にジェイクロッサーが駆けた道の上に、藍子達は立っている。

眼前に見る戦いは、今まさに幕が引かれようとしていた。

「生き死にじゃなくても、自分の望むことが誰からも肯定されないことはある。

 それが反社会的なものでなくても、だ」

プロデューサーの視線を追うと、そこには背中から倒れる怪人の姿があった。

渾身のライダーキックは、腹の右半分を抉り取るほどのダメージを与えていた。

やがてその身体が徐々に、白い霧となって消えていく。

「話したのはごく短い時間だったが、彼は…ネドラはそういう人物だった。

 ただ在りたい、という願いすら叶う可能性は薄かった。それでも最後の瞬間まで、彼を支えていたものが―」

「自分自身、だったんですね」

引き継いで言う藍子に、プロデューサーは首を縦に振った。

「最後にモノを言うのは、やっぱりそれなんだよ。それが必ず報われるとは限らない。

 でも、さっきみたいに自信を持った目をしてくれるようになったなら、藍子にはもっと大きな可能性が映ると思う。

 …まぁ、藍子は望まれないどころかみんなに望まれてるワケだし、万が一そうなってもオレがいる」

藍子は、自分のラジオに送られてきた投書を思い出していた。

『アインフェリア』で身に纏った軍服に賛否両論あれど、一方的に叩く者は誰もいなかった。

それはつまり、高森藍子というアイドルが望まれているという証。

そして、そうだからこそプロデューサーは「強くある」ことを望んだのだろうと、今になって思う。

「私も、応援してますから!普通の、一人のファンだけどね」

「…はい!これからも、がんばりますっ」

隣に立つ加那に、笑顔で応える。

その光景にプロデューサーも軽く笑うが、すぐさま視線をベリーへ向けていた。

「そろそろ、彼らの元へ行ってもいいのかな?」

「多分、もう大丈夫だね。ジェイの怪我も早く治したいし…にしても、キミは変わった人間だね」

「ネドラにも面白い男と言われたよ。オレはごくフツーのプロデューサーのつもりなんだが」

藍子と加那を先導するように、廃墟を進む。

距離を置いていたとはいえ、それもさしたるものではない。

「藍子ちゃんに戦いを見せるのもだけど、そもそもフォッグとまともに会話しているのが変わってるんだよ」

「それはまぁ、アイツの配慮のおかげだろう。人間の言葉で話せて、人間に近い姿をしてればそれは9割方人間だ。

 元のフォッグってのは違うんだろうが、少なくともオレは意思疎通のできない化けモノと話したつもりはない」

「違う…か」

オウム返しのようにバッタの声がした頃には、目的の場所に着いていた。

ネドラはもう、翼を残すのみ。あとは変身が解け、全身傷だらけの耕司だけだった。

「ジェイ、なぜ身体の治癒をしないんだ?」

「待ってたんだ。彼が自分の意思で消えられるように。

 …仲間であるフォッグにも捨てられたんだ、せめてオレくらいはね」

完全に翼も消え失せた後、耕司が意識を集中し始めた。

精霊の加護が身を包み、緑のオーラが傷を癒していく。

一度見た藍子はともかく、初めて見るプロデューサーは驚かざるを得なかった。

「これで傷が治った…のか?」

「ずっと倒れてるワケにもいきませんから。

 前と違って、オレの撮影の仕事はまだ途中なんです」

そうか、と言おうとしたところで、はたとプロデューサーの口が止まる。



(…撮影?って、おいおいおいおい…!)

隣に立つ藍子も、同じことに気付いたらしい。

拘束されている間は見れなかった腕時計は、既に13時半を過ぎている。

午後の撮影の集合時間は―14時。

「すいません、ちょっとこっちも撮影あるので帰ります!」

「え?」

歴戦の勇士らしくない耕司をヨソに、プロデューサーはすぐさま頭を下げた。

藍子もまた、頭を下げる。

「あの…瀬川さん、ありがとうございました!」

その声と共に、アイドルとプロデューサーは廃墟を駆け出してゆく。


…慌ただしくも濃い、藍子とJの戦いはこうして終わったのである。

<R←------I>

バイクを飛ばし、万座山へ向かう。

世俗を離れた湯治の地としても知られる群馬の山奥に、瀬川耕司の姿はあった。

「なるほど、これはいいな。自然の活力に満ち満ちている」

テントを拠点に森を、河原を撮影する。

デジタル一眼に映る光景に怪物の予兆はもうない。

(プロデューサー氏のおかげだな。畑は違えど、藍子ちゃんを導くだけあって頼りになる)

空を飛ぶ鳥を撮りながら、耕司はこれまでのことを思い返していた。

…フォッグ残党、とされていた者との戦いから、三ヶ月の月日が経っていた。

あの日ネドラに破壊されたジェイクロッサーは、元の姿になってもやはりホイールごと砕けたままだった。

やむなく愛車の残骸を廃墟に残し、午後を丸ごと撮影に充てた夜、プロデューサーが改めて挨拶に来た。

さすがにあれで別れるのは、社会人としてどうかと思ったのだろう。

いい機会だと、耕司はフォッグとの戦いに巻き込んだのは自分やベリーのせいだ、と正直に事情を話したが、

そのあたりのことはネドラから既に聞いていたという。

むしろ逆に、プロデューサーは藍子のことについて礼を言いに来たのだった。

「何かこちらも助けられることはないだろうか」という彼の言葉に、

なんとなく「いい自然の撮れる山を知らないか」と聞いた結果が、この万座山である。

長年使ったバイクを買い直すのは経済的に痛かったものの、こうして良い写真が撮れる場所が見つかるならトントンだ。

ルポのスケジュール上、時間が経ってしまったがまた会いに行くべきかもしれない。

桐生の山から帰った後、ルポの原稿を渡すためにやってきた雑誌社で一通の手紙を受け取った。

送り主は他ならぬ木村加那だった。

バイクでの一人旅が長いことを知ったせいか、家よりもこちらに送った方が早いと思ったらしい。

今も彼女は『メイプル』の看板娘だが、それだけではないと耕司にはわかっていた。

封筒には文章だけでなく、写真も入っていた。

自分だけでなく、藍子もトイカメラを使っていたのに影響されてのことらしい。

自然を慈しみながら、自然を映す者が一人でも増えるなら、耕司としては嬉しい限りだ。

ベリーは…あの後、すぐに消えてしまった。

元々、フォッグとの戦い以外でベリーや地空人と会ったことはない。

だから特に気にするつもりはなかったが、最後に残した言葉だけは引っ掛かった。

「今日のフォッグについて、少し相談してみる」と。

それがどういう意味かわからなかったが、自分が身を痛めた戦いが何かを動かしたのなら、

彼らが霧と消えたのにも意味があったということだろう。

自ら手を下したとはいえ、せめて安らかに眠れることを願わずにはいられない。

…撮影を終え、テントに戻る。

簡易イスに座り、カンテラの灯りをお供に今日撮ったデータを確認する。

その作業は仮面ライダーとなる以前と同じものだったが、一つだけ違うことがある。

ラジオを点ける。流れてくるのは、高森藍子の声だった。

<R------→I>

「お疲れさまです、プロデューサーさん」

「おつかれー!いやぁ、今日もいい感じだったぞ」

収録室を出ると、プロデューサーが出迎えに来ていた。

ここのところ、調子が良いのは藍子自身も自覚している。

それがあの桐生の山での撮影から始まっているのは間違いなかった。

あの日、14時にキャンプ場まで戻ることこそできたものの、結局撮影は遅れた。

タックルに全力疾走と、藍子が体力を消耗し過ぎていたのだ。

それでも着替えを面倒がらず、私服の上にウィンドブレーカーを羽織っていたのが幸いした。

そうでなければプロデューサーのスーツの裾のように、撮影用の衣裳がボロボロになっていたかもしれない。


だがいざ始まってみれば、撮影は一発で終わった。

「藍子の姿が自然に映えるようになった」とは撮影チーム一同の言葉である。

そんなに変わったのだろうか、と思うが実際に違うのだろう。

現に賛否の渦巻いていたラジオの反応も、藍子の成長という形で好意的なものに変わっていた。

もう、『アインフェリア』に選ばれた理由に悩む少女の影はない。

「来週は撮影だな。久々の『ポジティブパッション』だが…もう、不安はないな」

「はい!楽しみですっ」

ラジオ局を出て、2人で事務所へ帰る。

ふと藍子が見上げた夜空に、いつか見たコンドルの姿が見えたような気がした。

[END]

これにて終了となります。お目汚し失礼いたしました。

「2週間くらいで完結させたい」と書いたら見事にその2倍かかりました…。
毎度のことになってしまいますが、本当に希望的観測の日数がまったくアテにならず申し訳ありませんorz

今回も少しだけ本編内小ネタに触れておこうかと。もちろんネタバレなので注意。

・今回の場所について
主な舞台になった桐生の山ですが、双方から要素を引っ張り出しています。
山自体は仮面ライダー側の舞台である、耕司が撮影に来てフォッグとの戦場になった山。
そこにデレマス側の舞台である、いわゆる「例の森」(とセットのキャンプ場)を乗せた形です。
イヴが山林の中でドラム缶風呂入った件を聞いたら瀬川さんどう思うのだろう…

なお、わざわざ桐生としたのは工場がある山に心あたりがあったから。
作中ではコンクリ工場ですが、実際にはセメント工場だった覚えがあります。


・高森藍子の時間軸
最初に前置きしたようにデレマス・デレステ混在状態です。
具体的には『ゆるふわ乙女(特訓後)』~日野茜の『バーニングハート(特訓前)』の間に、
デレステでの『生存本能ヴァルキュリア』の一件が挟まった形。
…話の都合上ラジオの話を入れましたが、デレアニ要素ないのでこれはあくまで似てるだけ。


・トイカメラとデジタル一眼
『深緑の魔女(特訓前)』に見られる藍子ちゃん愛用のカメラ。
実際にモデルとなったカメラ「PICK mini」の記載仕様に準じた描写(USB直挿しetc)にしていますが、
きちんと撮影したい人にはある意味使い捨てカメラよりキツい代物という。
藍子ちゃんのように日常の風景を楽しむためか、撮影の不確定要素(ピンボケとか)を楽しむ人じゃないと
扱うのは厳しいかも…それだけに、仕事で撮る耕司との対比にはなりました。

対してその耕司のカメラですが、デジタル一眼というのは創作です。
作品の制作年代上、おそらく普通の一眼レフだったものと思われますが、
元々バイク一人旅で撮影している彼なので、遠方地に行った際は撮影データの受け渡しも
ネット経由になった可能性が高いと踏み、同モデルで新調させています。
カメラに続いてバイクまで新調になったら財布痛いです…

○加那の実家
原作では単身山の動物を供養していたところで耕司に会い、同日夜にまた単身コーヒー渡しに行ってフォッグに拉致、
そのまま救出されて最後の撮影時も一人…と、実家どころか両親すらわかりません。
唯一の手掛かりである「ポット入りのコーヒー」、動物の供養を継続的にしているあたりから、
昭和仮面ライダーで度々出る喫茶店が実家という形にまとめました。店名は完全に捏造。

○フォッグ?フォグ?
書くにあたり真っ先に悩んだ点の一つが、「フォッグ」の表記。
文字資料では例外なく「フォッグ」なものの、実際の映像原作では全員「フォグ」と言っているので…。
結局、あくまで文字作品ということを考えて「フォッグ」にしました。何故表記と読みが違うのかはホントに謎。

○フォッグと地空人のルーツ
原作ではただ「宇宙から飛来した侵略生物」と「大地と共に生きる種族」というだけなのですが、
人間態の姿がやたら白い服ばかりで、耕司が改造された部屋とマザー内部も意匠としては割と近いものがあります。
そこで「元々の種族的ルーツは同一」という形にしました。仮面ライダーの裏にある「同族殺し」も意識してみたり。
小説版はきちんとしたルーツが描かれているかもしれませんが、入手厳し過ぎて未見なので創作した次第。

○2人の怪人
原作での登場怪人が「旧1号編の怪人モチーフ(見た目は別)」ということで、今回の2人もそこは守っています。
なので怪人名としては「サラセニアン女リィアン」に「コンドル男ネドラ」(元はゲバコンドル)という形。
リィアンが人語を全く喋らないのは元のサラセニアンも人語を話さなかったせい。

○仮面ライダーJの強さとは
オールスター映画ではもれなくジャンボフォーメーションで出されるために「J=巨大化」というイメージが
付いて回りますが、実際のJの強さは「どんなに傷付いてもしぶとく戦い、再生する」部分にあると考えています。
というのも原作で…

・アギト戦で全身傷だらけ⇒変身解除と回想挟んで完全回復
・ズ―戦で右腕に大型の針がグッサリ⇒変身解除と会話を挟んだら腕普通に動いてる
・ガライ戦でも攻撃受けまくり⇒ジャンボフォーメーションで強制リセット
・ジャンボフォーメーション解除後にめっちゃ息上がってる上にそのままマザー戦直行で全身負傷
 ⇒日が経ってないであろうラストカットでやっぱり完治

…と、もう戦う度に傷を負っては回復を繰り返す有様。しかもコレ短時間での連戦。
その強さの一因である「回想挟んで全回復」は、今回は「変身時やジャンボフォーメーションのように
全身に精霊の加護を巡らせて傷を治癒している」という形に調整して組み込みました。
オールスターだと見せ場だけでパッと終わることが多く、ダウンすると主役以外それまでなので
こういう強さはジャンボフォーメーションと比べると表現しにくいのかもしれません。

○耕司の仕事
「主に野鳥を撮影する新進カメラマンで、環境破壊の現状を世間に伝えるためにオートバイで野営しつつ取材の旅をしている」
…というのが公式で確定している瀬川さんの活動内容。
そこから一歩進んで、世間に伝える手段を「環境関連のルポを自著している」という形に固めました。
創作ですが、原作でも写真を貼ったノートに文章をまとめている描写がある(初登場シーン)ので当たらずとも遠からずかと。

…ということで、今回はこれまでになります。
お付き合いいただき本当にありがとうございました。

それでは、また桐生の山の最奥で。

乙でした。今回もお面白かったです。

おつおつ

乙、毎回楽しく読んでるよ

参考までにJのスペック

身長194cm 体重84kg 約2000馬力未満(ガライが2000馬力でそれより下)
パンチ:1500馬力の怪人アギトを数十メートル吹っ飛ばす
キック:軽いケリでコンクリートの電信柱を真っ二つに折る

砲丸投げの弾を握りつぶす握力をもち100tを超える物体を持ち上げる
驚異的な回復力を持つ(大図解によると単純に回復が早い)

作品、大図解、超全集、小説、オフィシャルムックの設定を参考にしました

個人的に精霊の力の解釈は悪くないと思います

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