彼は世界を救うか。それとも……
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「あっつい」
空がようやく明るくなっただろうかという頃に博麗霊夢は目を覚ました。
霊夢は汗で張り付いたセミロングの美しい黒髪をうっとうしそうに手で払いながら布団からむくりと起き上がる。
本来、彼女がこの時間に起きたら二度寝を決め込むのだが、残り四日に迫った博麗神社での大宴会に向けての準備で二度寝どころではないのだ。
なにせ今度の宴会では霊夢がこれまで出会った(そしてボコした)妖怪達だけでなく、本来は来ないような村の人間達(一般人)も多く参加するので、準備に手を抜いて妖怪が癇癪でも起こしたら大変なのである。
大雑把に思える霊夢だがそこの所はきちんと分かっているようで、ここ二、三日は朝早くから方方に挨拶をして回っている。
そんな訳で、霊夢は寝不足やめんどくさい妖怪の相手で今とても機嫌が悪いのだ。
(今日は天狗の所と……あとは何処に行かないといけないんだっけ)
寝ぼけて働かない頭でそんな事を考えながら布団を畳んでいると、寝室の襖がピシッ! と勢い良く開かれた。
「おい、霊夢ー。 私と遊べー」
博麗神社に日頃から入り浸っているような妖怪は基本的に恐れ知らずで、どれだけ霊夢の機嫌が悪かろうがお構い無しのようだ。
「あぁ?」
睨まれただけで殺されそうな目で霊夢は声の主を振り返った。
「うわっ、霊夢。あんた目の下のくまが凄いことになってるよ」
そう言った妖怪は耳の上辺りから左右に角が生えており、片手には瓢箪を持っている。妖怪が動くたびに中からチャポチャポ音がなっているので、どうやら液体が入っているようである。
「悪いけど今日はあんたの相手をする程手はあいてないわよ、萃香。 酒の相手なら他を当たりなさい」
「えー」
霊夢にそう言われた萃香と呼ばれる妖怪は酒が入っているであろう瓢箪を振り回して駄々っ子のようにする。
「なんだか騒がしいと思ったら萃香が来てたのか」
いつの間にかフワフワとした金髪を持つ少女が箒に跨ってにやにやしながら寝室を覗いていた。
「魔理沙、これどうにかしてくれるかしら。私早く出ないといけないっ、ちょっと萃香! 角が当たって痛いんだけど!」
「ははっ、楽しそうでいいじゃないか」
「あんたねぇ!」
霊夢が睨みつけると、魔理沙と言う名の少女は肩を竦めた。
「おー怖い怖い。冗談だって」
魔理沙がそう言いながら部屋に入っていくると、白黒のゴシックドレスから奇妙な色の胞子を出しているきのこを取り出して萃香の体に振りかけた。
すると、急に萃香が静かになりピクリとも動かなくなった。
「あんたそれ何なの? もしかしてヤバい物じゃ無いでしょうね?」
「……へへっ」
とてもいい笑顔だった。
数分後、萃香は無事に目を覚ました。
霊夢はというと、萃香が寝むっている間に身支度を済ませており、服は寝巻きからノンスリーブが特徴的な紅白の巫女服(?)に変わっている。
今は三人で居間で朝食をとっている。
「霊夢早く出ないといけないんじゃなかったのか?」
「霊夢、最近遊んでくれないけどなにしてるんだ?」
漬け物に箸を伸ばしながら魔理沙が言い、続いて萃香が早朝にも関わらず酒をゴクゴク飲みながら聞く。
だが、霊夢は二つの質問には答えず先程まで大盛りのお茶漬けが入っていた空の丼ぶりを台所に持っていった。
「魔理沙、何で霊夢はあんなに不機嫌なんだ?」
「ん? ほら『大宴会』までもう少しだろ? それで気が張ってるんじゃないか」
「へぇ」
気の抜けた返事をした萃香はその後少し黙り込んでもう一度口を開いた。
「ところで『大宴会』ってなに?」
『大宴会』
スキマ妖怪、八雲紫によって提案されたこの祭りは幻想郷史上最大と言っても過言ではない。
近頃起こった月の民の侵略。その復興を祝うとして催されるこの祭りは、博麗神社で頻繁に開かれる宴会とは違い、里の力を持たない人間も気軽に参加できるという触れ込みにより注目が集まった。
だが、普通の人間も参加出来るとは言っても何らかの事故によって人間に、または妖怪に被害が出ないとは言えない。
そう思ったスキマ妖怪は博麗の巫女に各勢力の長との繋がりを強くし警戒にあたるように指示を出した。
そうして霊夢が各勢力を回り始めたのが二週間前。
それにも関わらず、最近になっても話し合いが終わらないのはそれぞれの勢力の長が全員曲者だからというのが一番の要員だろう。
最近では霊夢も焦りを感じ始め、こうして朝早くから出回りに行っているというわけである。
「ふーん」
『大宴会』について魔理沙から聞いた萃香は気の抜けた返事をした。話を理解しているかのか不安極まりない。
「ま、そう言う事だからあんまし霊夢の邪魔はしてやるな」
「分かった!」
「そう言えば、最近お前の事見てなかったけど何処に行ってたんだ?」
「んー? それはねー……あっ!」
萃香は何かを言おうとしたところで、何かに気付いたようで勢い良く立ち上がった。
「『アイツ』に手伝わせればいいんだ!!」
「『アイツ』?」
突然の言葉に魔理沙が驚いていると、萃香は縁側までスタスタと歩いて行く。
「おい萃香。 何してるんだ?」
「良いから良いから」
萃香はニコニコしながらそう言うと、大きく息を吸い込んで、叫んだ。
「お─────────いっ!!!!」
その声は山々を震わせ、こだまして消えていく。台所では皿が割る音がした。おそらく今の声に驚いた霊夢が皿を落としたのだろう。
「っ! 急にそんな大声出すなよ!」
あまりの馬鹿でかい声に未だに頭がガンガンと痛む魔理沙はそう毒づいた。
「スティーブって誰だよ。 ったくまだ耳が馬鹿になってるぜ」
「ごめんごめん」
「ゴメンですんだら閻魔様は要らないんだよ」
グチグチ言う魔理沙をよそに、萃香は遠くにある妖怪の山を見て、
「まあまあ、『アイツ』が来たら百人力だから」
と意味不明な事を言っている。
だが数分しても何も起こらない。
「誰が来るって?」
そう魔理沙が皮肉を言う。
だが魔理沙の視界に何か動く物が見えた。
「ひっ!!」
どうやら『ソレ』はこちらにとんでもない速度で飛んで来ていたようで一瞬で魔理沙に直撃した。
本来の魔理沙であれば、弾幕ゴッコで養われた反射神経により容易に避けることが出来ただろうが、あまりに突然の事であり、また『ソレ』のビジュアルが拳大の緑色の目玉という、現代魔法使いっ子であり、割と乙女な魔理沙には許容出来ない物で、体が固まってしまったのだ。
「……あ、あれ?」
しかし、正体不明の物体が体にぶつかっても何も変化は起こらず魔理沙は素っ頓狂な声を上げる。
だが数秒して魔理沙は急に何かにのしかかられて地面に仰向けに倒れた。
「!?!?」
「すいません、大丈夫ですか?」
何が起きているか分からず混乱する魔理沙に上から、つまり魔理沙を押し倒している人物が声をかける。
「早かったねー」
「やっぱり萃香さんでしたか。何かあったんですか?」
「知り合いの人間が困っててさー。助けてやって欲しいんだよねー。 ほら、少し前話したでしょ、博麗霊夢」
萃香と自分に覆いかぶさっている人間(声からして男)は魔理沙のことなどいないかの様に話す。
その時、魔理沙は気付いた。
その男の手が自分の胸にある事に。
「……きゃ─────っ!」
恐らくはもう二度と出さないであろう生娘の様な叫び声を霧雨魔理沙(18)は出した。
そしてその叫び声に続いてバッチーンという気持ちのいい音が博麗神社の敷地内に響いた。
あれから色々あって、先程までは三人しかいなかった居間に新しく青年が一人増えていた。
その男は今どうしているかと言うと、
「胸を触ってしまい、本当にすいませんでした!」
魔理沙の前で絶賛土下座中だった。
「いやもう気にしてないし、私も大袈裟すぎた。だから顔を上げてくれ!」
先程からこのやり取りが何度も繰り返されている。
最初こそどう懲らしめるか考えていた魔理沙だが、今ではこの面倒臭い男をどうあしらうかで困り果てていた。
そもそも、いたいけな少女(18)に被さるのは良かったのかとツッコミを入れたい所ではあるが、余計ややこしくなると判断した魔理沙は黙っておく。
「本当にすいませんでした。このお詫びは必ずするので……」
何度目かの同じやり取りの後、ようやく青年は顔を上げた。
水色のシャツに紺色のジーンズ。 髪の毛は焦茶色で肌の色は褐色。青色の瞳は人好きしそうで全体的に好青年という印象を受ける。
「霊夢、コイツ好きに使って良いからね」
「そう。それはありがたいんだけど……」
「コイツ、誰?」
霊夢が当たり前の疑問を口にする。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね」
男はそう言うと姿勢を正して霊夢に向き合い、自分の名前を口にする。
「スティーブです。よろしくお願いします」
プロローグ『スティーブがやってきた』
To be continue
今日はここまで
乙
お、期待
物を加工する程度の能力か
盾が無いと困るな
マダー?
しねよ
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