的場梨沙「パパにプロポーズする」 二宮飛鳥「また突飛な話だね」 (17)

梨沙「突飛じゃないわよ! ずーっと前から言ってるじゃない、パパと結婚したいなーって」

飛鳥「それはそうだけど、実際に行動に移すとなると話は別だろう」

梨沙「アタシはね、もう守りに入るのはやめたの。これからはどんどん攻めていくわ!」

飛鳥「アレで今まで攻めていなかったのか……」

梨沙「ちゃんと早いうちに頑張っておかないと、あーいうふうになっちゃうかもしれないし」ビッ

飛鳥「ああいう……?」チラ


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心「結婚式の招待状……今年4通目……はぁ~」

P「めでたいんだけど、素直に喜び100パーセントで迎えられない歳になっちゃいましたね」

心「ほんとにね~……アイドルとはいえ、辛いものは辛い☆」

心「ねえプロデューサー♪ もしはぁとがアイドル引退した後、完全行き遅れになったら……」

P「なったら?」

心「………」


心「だ、誰が完全行き遅れだこのやろー!」

P「自分が言い出したんでしょう?」





梨沙「あんな感じにはなりたくない」

飛鳥「あれもあれで悪い関係ではないと思うけど……少しずつ進んでいるように見えるし」

梨沙「とにかく! 殺し文句ってヤツが欲しいのよ。パパのハートをぎゅっとつかめるような」

心「パパのはぁと?」ニュッ

梨沙「ハートさんの話はしてないわよ」

飛鳥「Pは?」

心「部長と打ち合わせがあるから出て行ったぞ☆ 話し相手いなくなったから、はぁともガールズトークに混ぜて♪」

梨沙「ガールズ?」

心「ガールズ☆」ニコニコ

梨沙「飛鳥、判定は?」

飛鳥「子供と大人の境界線は常に曖昧……意識ひとつでいくらでもありようを変えるのさ」

心「つまりはぁともガールだな☆」

梨沙「……まあ、別にどうでもいいんだけど」

心「なるほど♪ 梨沙ちゃんがパパのハートを撃ち抜くセリフを考えてたってわけか♪」

梨沙「どんなのがいいかしら」

心「君の瞳は、100万ドルの夜景よりも美しい☆」

梨沙「? なにそれ」

心「今どきの若者には通じないかー」

飛鳥「通じたとしても、それは成人男性にかける言葉ではないだろう」

心「そう? じゃあ……『一生お前を離さない』☆」

梨沙「とりあえず語尾に星マークつけるのやめなさいよ」

心「あなたと一緒のお墓に入りたいの……」

梨沙「気が早すぎない!?」


心「私の人生半分やるから、あなたの人生半分おくれ☆」

梨沙「完全にパクリ!」

心「出た☆ 梨沙ちゃんのツッコミ三連コンボだ☆」

梨沙「真面目に考えなさいよね!」

心「てへぺろ☆」

飛鳥「……実は、自分が言われたいプロポーズのセリフが混ざっていたりしないのかい」

心「………」

心「そ、そそそんなわけないだろっ」

飛鳥(理解りやすい……)

梨沙「飛鳥はどう? 漫画書いてるんだし、プロポーズのシーンのセリフとか思いつかないの?」

飛鳥「ボクは恋愛モノは描かないからな……そういった要素がゼロなわけじゃないけど、今までまともに手を出したことがない」

梨沙「そっか……確かに、今まで読んだヤツでそういうのなかったわね」

心「だいたいかっこいい系だもんね♪ それか、なんか哲学っぽいやつ」

梨沙「というか、アンタの漫画はいちいちセリフが長すぎるのよ。吹き出し大きすぎるし、そのせいで絵がぎゅうぎゅうに押し込まれてるじゃない」

飛鳥「自分でも読みづらいのは理解しているけれど、なかなか改善は難しい」

梨沙「ま、だんだんマシにはなってるけどね。その調子で名作を描いたら、また読んであげるわ!」

飛鳥「先生のようなことを言うね、キミは」フッ

心「ていうか、言われたい言葉なんて人それぞれ違うんだから……リサパパの好みがわかんないとなんとも言えないぞ?」

梨沙「そこは大丈夫! アタシはパパが喜ぶかどうか、言葉を聞けばなんとなくわかるから!」

梨沙「ただ、セリフ自体が思いつかないだけ」

飛鳥「ふうん」

心「じゃあじゃあ、ちょっと試してみる? 飛鳥ちゃんが告白する側、梨沙ちゃんが受ける側で演技やってみよう☆」

梨沙「あ、それありかも」

飛鳥「なぜボクが」

心「面白そうだから♪」

飛鳥「はあ……大した理由はないと思っていたけれど」

梨沙「飛鳥、一回やってみるわよ」

飛鳥「……一度だけだよ」

心「さすが飛鳥ちゃん! なんだかんだ付き合ってくれる!」

梨沙「じゃ、アタシがここに立つから、飛鳥は」



ドンっ

梨沙「え」←壁際

飛鳥「これで、キミの視界にはボクしか入らない」

心「い、いきなり壁ドンの先制攻撃!?」

梨沙「ちょ、えっ?」

飛鳥「梨沙。キミの勝気な瞳は美しい……ボクにとっては羨ましく、まぶしくさえ感じられるモノだ」

飛鳥「だからこそ、それをボクだけのモノにしたい。その結果、キミの瞳が淀むことになろうとも」

飛鳥「ボクだけを見て……」クイッ

梨沙「あ、あう」ドキドキ

飛鳥「………」

梨沙「………」



飛鳥「これ以上はセリフが思いつかないな」ケロリ

心「そこまでやっといて!?」

梨沙(た、助かった、かも)


飛鳥「それで、なにかの参考になった?」

梨沙「……なるわけないでしょ。アンタ、実際にプロポーズするのはアタシで、プロポーズされるのはアタシのパパだって忘れてない?」

心「まー、梨沙ちゃんにああいう方向性は難しいわな♪」

飛鳥「ふむ……確かに。厄介だね、演技というのも」

心「というか、嫌がってた割にはノリノリだったね☆」

飛鳥「最近は、他人のペルソナを被ることにも少しずつ慣れてきたんだ」

飛鳥「他人の輪郭を知ることで、自らの輪郭も知ることができる……悪くないと思っているよ」

梨沙「演技が面白いっていうのはわかるわね。アタシもこの前怪盗役やったけど、楽しかったし」

心「あ、そうそう! 定番といえば、やっぱり『毎日俺の味噌汁作ってくれ』だよね♪」

飛鳥「それも男の側から言うモノだが」

心「だから、そこは応用☆ 『毎日あなたの味噌汁作らせて☆』って言えばいいんだぞ♪」

飛鳥「なるほど。発想の転換……押しかけ女房だね」

梨沙「でも、お味噌汁くらいなら今でも毎日作れるわよ? もっと豪華なものにしたほうが」

心「味噌汁なめんなこのやろー!」

梨沙「なんでちょっとキレてるのよ……」

心「はぁとはなあ、たまにお母さんの味噌汁が無性に食べたくなる日がなぁ……」ホロリ

梨沙「おふくろの味ってやつ?」

飛鳥「ボクも今は親元を離れている身だけど……いつかはこんなふうに、親の料理が恋しくなる日が来るのかな」

心「どうしても豪華なのがいいって言うなら、毎日味噌汁じゃなくて毎日満漢全席でもいいぞ♪」

梨沙「重いわよ!」

飛鳥「二つの意味でね」

心「毎日満漢全席食べさせてあげる☆ うん、いいじゃんこれ♪ スウィーティー☆」

梨沙「スウィーティーなの? マンカンゼンセキ」

心「このセリフを使えば誰だってイチコロだな♪」

飛鳥「Pでも?」

心「おうよ☆ PでもQでもよゆーのよっちゃん――」

P「俺がどうかしました?」

心「はへっ!?」

飛鳥「おかえり」

梨沙「もう終わったの? 打ち合わせとか言ってたけど」

P「ああ。打ち合わせっていっても、ほとんど今までに決めたことの確認だったからな」

P「それで心さん。俺が余裕とかなんとか聞こえましたけど……なんの話をしてたんです?」

心「あ、えっと」

心「ま、まん……」

P「まん?」

心「………」

心「マンガン電池……」モジモジ

P「???」


梨沙「全然イチコロじゃないし」

飛鳥「どんな言葉も、使えなければ価値は生めない……そういうことさ」

須賀京太郎様は関西弁喋らないプンスコ

P「ほう。パパの気持ちを引き付けるための言葉か」

梨沙「プロポーズよ、プロポーズ!」

飛鳥「いくつか案は出たけれど、どれも梨沙のお眼鏡にはかなわなかったようだ」

P「そうだなあ……結局、あれこれ飾らないくらいが一番いいんじゃないか?」

梨沙「飾らない?」

P「父親が相手だからな。娘のことはよくわかってるだろうし、下手に手の込んだことをしたって、無理をしてると思われて逆効果かもしれない」

飛鳥「無粋な装飾は不要ということか」

心「満貫☆」

心「大好き! って言えればそれでいいんじゃない?」

梨沙「でも、それだといつもと変わらないし」

P「……隠し味程度なら、入れてもいいのかもしれないな」

梨沙「隠し味?」

P「少しだけ、外見に手を加えてみるとか」

飛鳥「なるほど。装飾を加えるのは仮面のほうか……キミらしいな」

心「なんとなくわかる気もするけど、つまりどういうこと?」

P「それはですね――」

その日の夜


梨沙「パパ! お帰りなさい!」

梨沙「アタシ、今日も頑張ったの!」ニコニコ

梨沙「……あ、やっぱりすぐにわかるんだ。さすがはパパねっ」

梨沙「ちょっと他のアイドルに香水借りたの。どう?」

梨沙「……いい匂い? ふふっ、よかった♪」

梨沙「あとね、こっちの髪についてる羽根は――」ニコニコ

翌朝


梨沙「~~~♪」

心「梨沙ちゃんゴキゲンだね♪」

梨沙「ふふっ♪ パパにいっぱい褒めてもらっちゃった。仲のいい子がたくさんいるんだねって」

梨沙「作戦大成功ね!」

梨沙「ありがと、ハートさん! 香水好評だったし」ニコニコ

心「おう♪」


心(……あれ、プロポーズは?)

梨沙「ふんふんふーん♪」

心「……ま、本人が幸せそうならべつにいいか☆」



おしまい

おまけ

梨沙がパパをお出迎えしていたころと同時刻


飛鳥「梨沙はうまくやっているだろうか……」

飛鳥「………」

飛鳥「恋愛漫画、か」

飛鳥「………」カキカキ



飛鳥「今、あなたと結ぶ。永遠に絶えることのない、契約の口づけ――」

飛鳥「………」

飛鳥「ないな、これは」ハァ

飛鳥「もっとスマートに、かつダイレクトに感情が伝わるような……」カキカキ




翌朝


P「おはよう、飛鳥」

飛鳥「おはよう……」ポワポワ

P「眠そうだな」

飛鳥「……恋愛は、怖いね。ボクにとってはまだ、触れるのは早い代物だったか……ふわぁ」

P「?」




梨沙「やっぱり、夫婦なら名字は同じがいいわよね! アタシパパと結婚したら名字同じにする!」

心「もともと同じだろ☆」


おまけおわり

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます

このシリーズも50作目で、佐藤心さんの総選挙9位という最高のタイミングでそれを迎えられたのは僥倖だと思ってます。
本当におめでとうございます心さん。猛烈に感動しています。
第6回に向けて、また担当アイドルたちを推していきたいですね


過去作もよければどうぞ

シリーズ前作:二宮飛鳥「コンビニは強い」 ライラ「なるほどですねー」
心さんのSS:モバP「心さんって、涙腺緩いですよね」
梨沙のSS:的場梨沙「アタシがオトナになったら」
飛鳥のSS:二宮飛鳥「さあ――」

乙!

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