モバP「現実は甘くない」 (14)

書き溜めなし

亀進行

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プロデューサーに就職してしばらくの間、心にこびり付いて消せない煩悩があった。

プロデューサーとアイドルの恋愛。

恋多き年頃に恋愛経験を積めないアイドルは、やがて身近な男性に恋心を抱いてしまって……なんて、よくありそうな話だ。

実際には、まったくそんなことはなかった。

考えてみれば当たり前の話だ。恋愛ご法度とはいえ、アイドルの身近に男性がいないわけじゃない。その中からプロデューサーを必ず選ばなければいけない理由もない。

念願の仕事に就けて浮かれていたんだろう。俺はそんな当たり前のことにも気づかず、アイドルと一緒の時間はいつもそわそわしていた気がする。

俺はぜんぜん期待なんてしてませんから、なんて顔をしながら仕事をこなし、そのくせ心の中ではアイドルのちょっとした仕草にもいちいち勘違いしてしまっていた。

恥ずかしいやつだ。当時の自分を思い出すだけで身もだえしたくなる。

ようやく俺の熱病が治ったころには、担当アイドルと仕事をしてそろそろ1年が経とうとしていた。

ここまで来るまで、ずいぶんとたくさんの事があったように思う。

仕事ももちろんなのだが、主に俺の心にいろいろあった。

初めて担当と出会った日。素敵と言われて心が跳ねた。その後、他意はないと悟って俺の心は急降下した。

別の日。担当の誕生日。俺が元気だと自分も嬉しいと言ってくれた。告白されたようでドギマギしたが、その眩しい笑顔には隠された意図なんて見えなかった。俺の心は2度目のダイブをした。

また別の日。なんでもない日。お腹が見えていることを指摘すると、触ってみるかと聞き返された。俺の心は狂喜乱舞した。

年頃の女の子が異性に触れられることを許すなんてよっぽどだ。せいいっぱい平静を装ってお腹を叩いてみると、鍛えてるからへっちゃらと子供みたいな答えが返ってきた。

その日はため息が人生で一番多かった。

このように、事あるごとに俺の心はジェットコースターもかくやの乱高下を繰り返してきた。

そのおかげでようやくわかったのだ。現実は甘くない。

智香「どうしたんですかっ、プロデューサーさん。ひょっとして、疲れてます?」

ボーっとしていたのだろう。正面に座る担当アイドルが声をかけてきた。

そうだ、今は打ち合わせの最中だった。

モバP「ああいや、なんでもないさ。ちょっと考え事をな」

智香「それなら良いんですけど。もし疲れてたら、言ってくださいねっ」

私応援しますから!と智香は笑顔で言い放った。ポンポンを持つ感覚を思い出したのだろう、両手を小さくぎゅっと握る仕草が愛らしい。今度のグラビアではこのポーズも取り入れて貰おうか。

モバP「ありがたいけど、ほどほどにしてくれよ。あんまり騒がしくすると、またちひろさんに怒られちまう」

智香「あははっごめんなさい♪」

モバP「それで、次のライブのことなんだけどな。実現可能なセットリストを2つ作ってみた。これなんだが、智香はどっちが良い?」

智香「うーん、この2つだったら私はB案が良いと思いますっ」

モバP「俺も同意見だ。だってこっちの方が――」

智香・モバP『ダンスが映えるから!』

モバP「――だもんな」

智香「ですねっ♪」

智香との打ち合わせはするすると進んでいく。

その後も大した問題点はなく、30分ほどで打ち合わせは終わった。

モバP「打ち合わせは以上だ。お疲れさん智香」

智香「プロデューサーさんも、お疲れ様ですっ!」

モバP「はぁーあ。それにしても、やることは山積みだな。レッスンに諸々の手配、関係各所に挨拶と、外注もか」

モバP「ライブやるって決めたらすぐに出来ればいいのに、現実は甘くねぇや」

智香「そうですねっ。でも、たくさん苦労するぶん、きっとたくさんのお返しができるステージになりますよね」

グッと拳を握って、智香は言う。

智香「だから私、レッスンがんばりますねっ!来てくれる人みんなが元気になるステージになるように!」

智香「もちろんプロデューサーさんも!みんなみんな、私の応援で元気にしちゃいますからっ!!」

智香「よろしくお願いしますね、プロデューサーさんっ♪」

現実は甘くない。

俺の抱いた妄想、アイドルとの恋愛関係は叶わなかった。

それでも、この担当アイドルとパートナーとして一緒に活動していけるというのは、悪くない。

モバP「おう。よろしくな、智香」

俺は笑顔でうなずいた。

以上です。
深夜テンションでパートナー感のある関係が見たくなったので書きました。
お目汚し失礼。

依頼出してきます。

おっつん

いいね……いい。

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