※売れない声優がアイマス声優になろうと裏オーディション(麻雀)に挑む話です。
※登場人物は、実在の人物とは何の関係もありません。
シンデレラ麻雀 ルール説明
・刻子を四つで構成するポンジャンです。
・リーチ、ポンあり。カン、ドラはなし。
・国士無双系の手役なし。
・風牌:「東」郷あい、「南」条光、「西」園寺琴歌、「北」条加蓮の四種。
・三元牌:島村卯月、渋谷凛、本多未央の三種。
・得点は刻子一つ辺りチップ1点(親は2点)×4を基本点として
刻子一つ一つにレアリティボーナス(Nは×1、Rは×2、SRは×4)がつく。
それに役の点数(立直・ツモ・ハイテイ・役牌は1点、特殊役以外2点、複合あり)が
加算され、最後に染め手のボーナス(属性一色なら四倍、アイドル一色なら八倍)が乗算される
[(子1点or親2点)×4(刻子数)×(レアリティボーナス)+(役)]
×(染め手ボーナス)
例:南場親の凸レーション・パッション・南のロン和了
[R光][R光][R光][Nみりあ][Nみりあ][Nみりあ][SRきらり][SRきらり][SRきらり][R莉嘉][R莉嘉][R莉嘉]
[2(親)×4(刻子数)×(2+1+4+2)+2(凸レーション)+1(場風)]
×4(パッション一色)
=300点
特殊役(六点)
フリルドスクエア
アスタリスクwithなつなな
センゴク☆華☆ランブ
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1462158637
――課金の世界でしか生きられない人々がいる。
これはソシャゲー界において「廃神」と呼ばれた
伝説の勝負死(ギャンブラー)の物語である――
三十倍という高倍率の競争を回避し、めでたくアイマスプロダクションの
最終面接にまでこぎつけた俺は、ひりつくような社内の空気に押されていた。
「……何か、皆おっかないですね……」
「ハハハ、新人君は皆そう言うよ」
俺の前を歩いて面接室まで案内しているのは、泰Pだ。
レジェンドと呼ばれる人たちを除いたアイマスPの中でも古参で
今はアイマスの現場から一歩引いているが
他プロデューサーたちへの影響力は未だに強い人物だ。
「いずれ慣れるよ。いや、慣れないといけない、かな?」
泰Pは俺に缶コーヒーを奢ってくれた。
……そう、ここで油断は禁物だ。
アイマスにおける課金ヒエラルキーはゲーム業界でもっとも熱く苛烈である。
そこは金がないと何も出来ない、言わば修羅道を地で行く戦鬼の世界だ。
そんな地獄を選んだ俺には一つの野望があった。
それまでうだつの上がらない、売れない声優人生を強いられてきた俺は
いつか長期に渡る人気コンテンツのキャラに声を当てて
勝ち組街道を進み、声優界の重鎮になるという夢があった。
十年以上続いているアイドルマスターというコンテンツは
無名に近い声優にとって、まさに登竜門的存在だ。
ここで一発当てれば不安定なこの生活からもおさらば出来るに違いない。
そのアイドルマスター界隈で、俺は近々アイドルマスターミリオンライブが
アニメ化し、そのプロデューサー候補を決める大きな場があるらしいとの情報を入手した。
その情報に従って、俺はアイマスプロダクションの社員が面接官をしている
ドラマCDのオーディションに出た。
それは傍目から見たら何の変哲もないマイナー作品の面接だった。
しかしアイマスプロの面接官に廊下で特定の数字<729393>と書かれた紙を渡すと
車に案内されて、本命の第一面接の会場に連れていかれたのだ。
「……遅かったな」
「君が今回のプロデューサー候補君だね」
コンクリートで四方を固めた囚牢のような部屋に案内された俺は
部屋の中央にある雀卓にいた二人のプロデューサーを見つめた。
一人は眼鏡をかけていて優しそうな印象を与えるイケメンプロデューサーだ。
もう一人は他の一般プロデューサーと同じでPマスクを被ってはいるが
限界まで鍛え上げられた筋骨逞しい体型の男だった。
「俺は面接官の赤羽根、こっちの間島と一緒に今日君と少し話をする。よろしくね」
「まあ緊張するなよ新人君。引きが弱くなるからな。ハハハ!」
二人の話は情報収集の際に耳にしている。
赤羽根Pは新人Pの身でありながら、天海春香をはじめとする十三人のアイドルを捌く敏腕だ。
間島Pはその十三人に加えて何だか得体の知れない摩訶不思議な生物までプロデュースしていながら
きっちりと稼ぐ強靭な肉体と人間離れしたバイタリティーを持つ漢との噂だ。
ドンジャラみたいな感じか
「あれ、もう一人は……?」
「後ろです」
俺はびくりとして背後を振り返った。
そこにいたのは三白眼でがっしりとした長身の体躯を持つ男が立っていた。
低いバリトンボイスが生真面目さと、ある種の威圧感を同時に与えてきて
思わず一歩引いてしまう。
「武内君遅いよー。今日の面接は君に合わせて皆早くスタンバイしたんだ」
「すみません」
武内Pは後頭部を触って陳謝する。
なるほど、彼が噂のシンデレラボーイ武内Pだったのか。
シンデレラガールズアニメに登場するやいなや、プロデューサーたちの注目と心を
ガッチリと掴んだ新人プロデューサーの名前は記憶に新しい。
彼は俺にとってアニメ化されたアイマスコンテンツ
そしてそのプロデューサー役になる事の旨味を教えてくれた見本だった。
俺より一回り年下でありながら栄光の道を歩む彼に
俺は羨望と嫉妬の入り交じった感情を抱いている。
「ハハハ、なぁに冗談だよ。武内君も本気にしないで。
さて、時間になったし始めようか」
俺たち四人はそれぞれ場決めをして雀卓に着いた。
何故面接で雀卓が必要なのかというと、アイマスプロダクションでは
特殊ルールの麻雀で担当声優を決めているからだ。
今用いられているのはシンデレラ麻雀――二〇一五年二月二十九日に
封切られたその麻雀は玩具業界を瞬く間に制圧し
そして僅か数ヵ月で生産中止となり闇に葬られた。
何故ならその麻雀は忌まわしい課金麻雀であったからだ。
シンデレラガールズのアイドル分の牌にガチャBOX付きのこの麻雀は
雀荘がこぞって導入してから破産者が急増して社会問題にまで発展した。
「君もシンデレラ麻雀のルールは知ってるかな?」
「少しは。しかし実際打つのは初めてです」
「では少しだけ説明しよう。
基本的にはポンジャンベースなんだけど、ローカルルールが煩雑だから
プロダクションではこう定めているんだ。
基本的に刻子四組を集めて和了る。
風牌は『東』郷あい『南』条光『西』園寺琴歌『北』条加蓮の四枚。
三元牌はニュージェネレーションの三人、島村卯月、渋谷凛、本田未央。
リーチ、ポンはあるけど、カンやチー、ドラはない。
振り込みやツモはチップで払う事になっている。レートは一点百エナドリだ。
基本、一ユニットの手は二点とするが、単一色のアイドルのみ集めたチンイツ手は四点
単一アイドルのみ集めた手は八点が全体ボーナスとして乗算される。
フリルドスクエア、アスタリスクwithなつなななど、四人で決まるユニットのみ特殊で六点とする。
得点に補正が入るアイドルの特訓はなし。
ガチャで出た不要なアイドルはトレードを申し込めば
相場に応じたエナドリやスタドリに換算されて手元に戻る。
Rの手牌は二倍、SRのは四倍換算で計算される。ここまではOKかな?」
「あの、安部菜々の扱いはどうなりますか?」
「ああ、そうだった。彼女は永遠の十七歳だから
オールマイティー牌にするルールが一般的だけど、ここでは十七歳として扱う。
これでいいかな? 他に質問は?」
質疑応答が終わり、ここにミリマスPを賭けた課金麻雀が開幕した。
引き裂かれた財布の紐 凍りついた口座
素パスタさえ二食に減らす か細い引き運
襲いかかる 絶望のガチャイベ
嘆いてる 暇はもうない
多々買い それが全て
隣の部屋は休憩室らしく誰かの着うたが鳴っていた。
どんよりと曇った空模様は今にも雨が降って黄そうな程に
重苦しい雰囲気を醸し出している。
起家は俺だった。上家は間島P、対面は武内P、下家は赤羽根P。
いざ卓を囲むと三人共非凡なオーラを発していて酷く圧倒される。
そんな中俺は五巡目で次の手を早々に聴牌した。
[Nくるみ][Nくるみ][Nくるみ][N雫][N雫][N雫][N海][N海][N海][N詩織][N詩織][N夏美]
五巡目でまだパッション一色も狙える手ではあるが
緊張に負けてしまった事もあってN夏美を切って即リーチを仕掛けた。
「ツモ! リーヅモBB!」
立直をかけて二巡目、N詩織をツモ和了した俺に間島Pは笑ってチップを払った。
「ふっ、青いな君。その手、ガチャを回さないでどうする?」
デレマス麻雀に慣れない俺は、彼の言葉を飲み込むのに時間がかかってしまった。
ノーマルアイドルだけでは得点は四倍にしかならない。
しかしガチャを回して二種類だけでもSRに交換すれば
一気に十倍の点数に化けるのだ。
このゲームが何故青天井なのか理解できた時、俺の踝はぬかるみにとらわれた後だった。
多々買わなければ生き残れない……そう、シンデレラ麻雀とは
一度課金沼に嵌まったら決して抜け出せない死の遊戯(デスゲーム)なのだ。
「くっ……またフェイフェイとケイトか……!」
俺はそれから出来る限り点数を高めるため
事務員を務めている佐藤利奈さんが持っているガチャを何度となく回し続けた。
しかし出るのはフェイフェイをはじめとするノーマルアイドルや弱レアアイドルばかりだった。
SRが四枚揃えば一気に得点にしてノーマルのみよりも四倍になる。
余ったアイドルを売れば資金に出来るのだが、それよりも先に財布が砂漠と化してしまう。
俺は彼女に勧められるままその場で借金し
なるべく点数を高くするのに努めた。
「……ポン!」
東一局一本場の四巡目、下家の赤羽根Pが武内PからN千夏を鳴いた。
[R真尋][SR幸子][SR幸子][N輝子][N輝子][SR小梅][SR小梅][R涼][N東][N東][N東] ツモ:N輝子
俺の手だ。ダブ東に加えて可愛いボクと142'Sのイーシャンテン。
赤羽根Pは千夏を鳴いた直後にR晶葉を捨てている。
彼の捨て牌はクールアイドルが高いが、春菜が一枚も見えないこの局面では
眼鏡アイドルへの警戒も忘れてはいけない。
晶葉を切ったのはおそらく眼鏡からクール一色に移行している途中だからだ。
そう踏んだ俺は、聴牌が入る前にとR涼を温存してR真尋を切った。
「――ロン! まぁまぁ眼鏡どうぞ!」
[R真尋][R真尋][SRマキノ][SRマキノ][SRマキノ][SR春菜][SR春菜][SR春菜] [N千夏][N千夏][N千夏]
「うっ、一鳴き聴牌……! 四巡目でもうそんなに!」
「悪いね、チップ四十二枚だよ」
先程の三十六点が一瞬にして消えてしまった。
ノーマルアイドルを晒して安いと見せかけ、誘い込んだ相手を
抱え込んでいたSRで叩き潰すのは
デレマスプロデューサーの初級戦術の一つと聞いた事がある。
しかしこの麻雀にはそれ以上に過酷な本質が存在していた。
それを俺はこれからまざまざと見せつけられる事になる。
東二局、六巡目。親は赤羽根P
「ポン」
六巡目、対面の武内PはSR鈴帆をポンした。
場には矢口美羽や赤西瑛里華、そして輿水幸子など笑いの取れるアイドルが見当たらない。
芸人だ、武内Pはきっと芸人アイドルを集めている。
[N友紀][N友紀][SR仁奈][R笑美][SR智香][SR智香][SR智香][R茜][R茜] ツモ:[Rキャシー]
俺はチアガールを集めていたものの、この手から難波笑美や市原仁奈は切り出しにくい。
とにかく姫川友紀を切ってパッション一色を維持したまま立て直そうと回した。
「ゆっき!」
「ロンです! パッション・B.B.ロワイヤル・えみすずほ!」
[N友紀][N友紀][R笑美][R笑美][R笑美][SR巴][SR巴][SR巴] [SR鈴帆][SR鈴帆][SR鈴帆]
「くっ……既に暗刻になっていたのか!」
「染め手ボーナスで百九十二枚、お願いいたします」
年下である事を感じさせない武内Pのバリトンボイスが
三桁の支払いと共に重く耳に響いた。
東三局、八巡目。親は武内P
「リーチ」
低く、それでいて年不相応の貫禄すらただよう低音ボイスで
武内PはSRそらを切ってリーチをかけた。
場には珠美、藍子、そしてロリアイドルと胸の薄い娘が散りばめられている。
俺は何とか大物手を狙おうとクール一色に走っていたが
よりによってここに早苗さんを引いてきてしまった。
[SR楓][SR楓][R奏][R奏][Nありす][Nありす][R志乃][R志乃][SR礼子][SR礼子][SR礼子] ツモ:R早苗
(くっ、場はおっぱいが高い……武内Pはそらを余らせての
パッションのおっぱい待ち一点。この早苗さんは切れない……!)
俺は慎重にありすを切って回し打ちする。
結局その局は流局してしまったが、武内Pの待ちは
予想通り、パッション一色のセクシーギルティ聴牌だった。
[R早苗][R早苗][SR雫][SR雫][SR雫][SR拓海][SR拓海][SR拓海][R裕子][R裕子][R裕子]
この課金麻雀において弱小フロントはとことん潰される。
防御を捨てても高い攻撃翌力のあるSRを揃えて前に出なければ勝利は覚束ない。
逃げれば負け、さりとて勝てるかどうかは課金の女神が微笑むか否かにかかっている。
東四局、七巡目。親は間島P
[SR未央][SR未央][SR未央][R藍子][R藍子][R藍子][SR茜][SR茜][N琴歌][N琴歌][N千枝] ツモ:SR茜
俺はこの局、SR日野茜をツモって確定ポジティブパッション未央を聴牌した。
ガチャを十八万円分回して、ようやく揃えたSR未央と茜の六枚、これは勝負手だ。
オタ風の琴歌ならキュートの安いこの場で出るだろうと踏んで
N千枝を叩き切ってリーチをかける。
「通らば追っかけ!」
すると親の間島PがSR有香を切って追っかけリーチをしてきた。
SRを切ってリーチをかけるという事は、大物手に違いない。
「……くっ、千佳!」
「ローン! リーチ一発キュートゆかゆかのりこ! 四百六十四点!」
[SRゆかり][SRゆかり][SRゆかり][SR有香][SR有香][SR有香][SR法子][SR法子][SR法子][R千佳][R千佳]
何という事だ。
間島Pはこの捨て牌にもかかわらずキュートに染めていた。
間島Pの捨て牌:[R光][SRさくら][N椿][Rレナ][Nくるみ][R鈴帆][SR有香]
流石大胆にして狡猾、豪胆にして策士と称される剛腕プロデューサーである。
親の強烈な一撃を受けて俺は眩暈がしそうだった。
東四局一本場、十一巡目。親は間島P
もうすぐ南場も近いというのに、俺は先輩Pたちに
ごっそりとむしられて素寒貧になっていた。
せっかくミリオンアニメの面接に来たというのに、これでは
大きな借金を作っただけで帰らされる。
何とか取り返してミリオンライブのプロデューサー役に早く収まりたい!
こうなったら輝子、輝子をとにかく集める。
そう思って俺は一心不乱にガチャを回した。
既に課金額は百万に達しようとしていた。
もうとっくに後戻り出来る場所ではない。
血反吐を吐きながらガチャBOXの底が見えるまで俺は回し続けた。
集めている星輝子はアンダーザデスク、サイレントスクリーマー
カワイイボクと142'Sなど、ぼっちキャラの印象とは裏腹に広い交友関係を持っている。
友達が多いという事は、すなわち、アイドルユニットも多いという事で
複合役にも恵まれているという事でもある。
SRの種類も多いので、複合によっては一気に高得点を叩く事が出来るのだ。
[SR乃々][SR乃々][SR乃々][SR輝子][SR輝子][SR輝子][Rまゆ][Rまゆ][Rまゆ][SR美鈴][SR美鈴][R幸子]
俺は幸子を切って142'Sの匂いを消し、アンダーザデスク・インディビジュアルズを聴牌した。
金にものを言わせて集めたこのSR手、何としても物にしたい。
「リーチ」
前局に引き続き、間島Pがリーチをかけた。
その直後に、俺はよりによってSRアーニャを引いてきてしまった。
間島Pの捨て牌にはクールが一枚もない。このアーニャは明らかに危険牌だ。
しかたなくまゆを切って回すと武内Pの手から美玲が出た。
当たりを逃したと下唇を噛んだ時、間島Pはツモって牌を前に倒す。
「よーしっ、ツモ! リーチ一発ツモラブライカにゃん・にゃん・にゃんだにゃん!」
[Rみく][Rみく][Rみく][SRのあ][SRのあ][SRのあ][SRアーニャ][SRアーニャ][SRアーニャ][R美波][R美波][R美波]
読み誤った! アーニャではなく美波の方だったのか。
この読み誤りは後に響き俺は間島Pからごっそりと百枚単位でチップを絞られる事になった。
タコまみれの この指先 止められるのは
SR凛を引いた時だけ 狂った確率
使い込んだ財布の軽ささえ
心の どこかで 嗚咽(わら)う
多々買いだけが 自由
南一局、四巡目。親は俺
外は雨が強く降り続いていた。
風も出てきて雨粒がビルのガラスにぶつかる音が響いている。
武内Pのセンゴク☆華☆ランブに振り込んで
ようやく六本場続いた間島Pの親が流れた直後の事だった。
「新人君、さっきからやけに景気が良いね。南場もよろしく頼むよ!」
間島PはR笑美を切ってリーチをかけた。
「……。……」
「ん、どうした? まだ南一局だ、腐るには……」
俺の身体はその時、勝手に動いていた。
躊躇、焦躁、恐怖……そういった不要な思考の一切が削ぎ落とされて
俺はSRきらりを振った。
「と、通し……!」
――見える。危険牌のSR打ちに怯んだ間島Pの待ちが、ありありと見える。
間島Pは恐らくパッションに染めている……待ちはこの形からのRみりあ!
[R莉嘉][R莉嘉][R莉嘉][SRきらり][SRきらり][SRきらり][SR美嘉][SR美嘉][SR美嘉][Rみりあ][Rみりあ]
俺は彼を煽るようにSR未央、SR愛梨と立て続けに切っていく。
「あ、あんなに危険牌の高額SRを次々と……!」
「……通りますか?」
「……。通しだ……」
武内Pや赤羽根Pは俺の打牌に呆気にとられている。
「……リーチ」
最後にSR薫を切って追っかけリーチをかけると、ほどなくして間島PからN卯月がでた。
「ロン……リーチ一発シャイニングゴッドチェリー。百六点」
[SR輝子][SR輝子][SR輝子][SR奈緒][SR奈緒][SR奈緒][SR智絵里][SR智絵里][SR智絵里][N卯月][N卯月]
南一局一本場、九巡目。親は俺
「……リーチだ!」
赤羽根Pが焦り気味にリーチをかけた。
まだ大負けの域を出ていない俺だが、前局の打ち筋を見て
どうも早めに親を流してしまおうと警戒しているらしかった。
しかし、不思議だ。
課金額はトリプルミリオンを既に超えていた。
借金は数倍に膨れ上がっている。
追っかけリーチで何度も競り負けていたにもかかわらず
俺の神経はどこか澄んでいた。
迷いの類いが俺の中のどこにも見当たらなかった。
「……SR凛!」
「うっ……通し……」
SR凛の強打に、赤羽根Pはたじろいだ。
現物のR響子はある。
だが、俺はあえて彼が染めているクールアイドルの危険牌を切った。
SR奏、SR文香と危険牌を切り出していくうちに、感覚がますます研ぎ澄まされていく。
闇夜の中を飛び交う蛍のように、はっきりと
赤羽根Pの当たり牌……R瑞樹が見えた。
[R瑞樹][R瑞樹][SR比奈][SR比奈][SR比奈][R春菜][R春菜][R春菜][R千枝][R千枝][R千枝]
「佐藤さん……ガチャを回させて下さい」
俺は言うと、事務員の佐藤利奈さんは一瞬びくりとしながらガチャBOXを傍に寄せた。
「はい、あの、何回ですか……?」
「八十」
「……! はい、それでしたら十連ガチャで八回……」
「……何を言っているんです、佐藤さん」
「えっ?」
「『十連ガチャ』を『八十回』回すんです。支払いはカードで払います」
「でも……カードの上限が……」
「なければ消費者金融から借ります。手配をしていただけますか?」
「……はい」
俺は黙々とガチャを回して必要なアイドルを何とか揃えた。
このアイドルたちを得るのに一体総額いくらかかったかなど、想像出来ない。
いや、そもそもそんな想像は無意味だ。
必要とするアイドルが手元に在る、それ以外の事は全て些末だった。
「……リーチ」
現物のN響子を切って、俺はリーチをかけた。
「……ツモ。リーヅモ南、ミス・フォーチューン、ヒーローヴァーサス。百三十五点」
「SRほたる][SRほたる][SRほたる][SR茄子][SR茄子][SR茄子][SR光][SR光][SR麗奈][SR麗奈][SR麗奈] ツモ:SR光
「面白いコがいるらしいね」
いきなり話しかけられた利奈さんは背後を振り返った。
そこには二人の女傑が立っていた。
武内Pたちプロデューサーも思わず目を見張った。
その反応と彼女たちの声を聞いて俺はどんな人物なのか察しがついた。
ガラスに映っている、猫耳を立て、猫尻尾をくねらせた女性
その隣には、モンロー姿で長い黒髪を背中に流している胸の淋しい女性がいた。
彼女たちこそ、アケマス時代からのレジェンドプロデューサー、高森PとアサミンゴスPである。
前者はクレジットカードが止まってしまうほどガチャを回す重課金者で
後者はプロデューサーたちの血涙が河川と化した悪名高い貴音の華ガチャで
六アイドルをコンプリートした事で知られている古豪だった。
「レジェンドが二人もお出ましですか……」
赤羽根Pは若干震えた声でアサミンゴスPに言った。
敏腕プロの彼はやよいの物真似をして怒られた後のように縮こまっている。
「……ちょっと収録の帰りにね」
「私たちも闘牌を見させてもらうにゃあ」
これ以上 失う家財(もの)など もうないから
どこまでも引きまくれ 手に入れろSレア
この桃華に抱かれて 眠れる その時まで
この金がバラバラに たとえ砕け散っても
NOOOOOOOO MY CREDIT
南一局二本場、五巡目。親は俺
誰かの着うたが、また雨音に紛れて聞こえてきた。
「……ポン!」
対面の武内Pが立て続けにキュートアイドルをポンしていった。
確かに彼の捨て牌を見るとキュートが高い。
だが、彼がキュートで待っていないという事は直感で分かった。
まるで透視しているかのように感覚の研ぎ澄まされた俺には彼の待ちが分かる。
彼はキュート一色を切り捨てた、インディヴィジュアルズ聴牌だ。
[R乃々][R乃々][N輝子][N輝子][N輝子] [SR美玲][SR美玲][SR美玲] [SR美穂][SR美穂][SR美穂]
「リーチ」
俺が立直をかけると武内Pの顔が曇った。
どうやら危険牌をツモってしまったようだ。
[R乃々][R乃々][N輝子][N輝子][N輝子] [SR美玲][SR美玲][SR美玲] [SR美穂][SR美穂][SR美穂] ツモ:R早苗
(親はパッション一色手……しかも舞さん、こずえさんと切っている所を見ると
年齢層の高い所か巨乳アイドルで待っている可能性があります。
この早苗さんは切れません……)
武内PはR乃々を二枚切りして回していく。
彼の考えている事がまるで手に取るように分かる。
その次々巡もまた危険牌が流れるに違いない。
[R早苗][SR珠美][N輝子][N輝子][N輝子] [SR美玲][SR美玲][SR美玲] [SR美穂][SR美穂][SR美穂] ツモ:SR瑞樹
(瑞樹さんはクールですが、お姉さん手の本命です……)
そして今度はN輝子の三枚を切っていった。
粘り強い打牌んみ俺は彼のプロデュース力とその信念を感じていた。
[R珠美][SR瑞樹][R早苗][R早苗][R早苗] [SR美玲][SR美玲][SR美玲] [SR美穂][SR美穂][SR美穂] ツモ:SR瑞樹
(これでロワイヤル・デュオテンパイ……SRの珠美さんは十六歳で胸も慎ましいアイドルです。
まだ勝負できます……)
「……ロン」
彼が珠美を手放した所で俺は手牌を倒した。
[SR留美][SR留美][SR留美][SR瞳子][SR瞳子][SR瞳子][SR美優][SR美優][SR美優][SR珠美][SR珠美]
「リーチクールウェディングバレンタイン反省会。五百三十二点」
「うっ……ウェディングSR十一枚使い……っ!」
「すごいにゃあ! 金に物を言わせたSR艦隊!」
「ええ。……でも、このシンデレラ麻雀の神髄はこんなもんじゃない……」
背中で女傑二人のそんな声が聞こえた。
「ツモ! フリルドスクエア! 百十九点!」
[SR忍][SR忍][SR忍][SR穂乃香][SR穂乃香][SR穂乃香][R柚][R柚][R柚][SRあずき][SRあずき][SRあずき]
「ツモ! リーヅモクール、デア・アウローラ、ラブライカwithローゼンブルクエンゲル! 五百三十六点!」
[SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子][SRアーニャ][SRアーニャ][SRアーニャ][SR美波][SR美波][SR美波][SR奏][SR奏][SR奏]
「ツモ! センゴク☆華☆ランブ! 百三十一点!」
[SRあやめ][SRあやめ][SRあやめ][SR珠美][SR珠美][SR珠美][SR仁美][SR仁美][SR仁美][SR葵][SR葵][SR葵]
「急にツモが多くなったにゃあ」
「そう、これはガチャ有りの課金麻雀……出和了りを期待するなら
安いノーマルアイドルで待つけれどそれだと点数は落ちてしまう。
それよりもガチャを引きまくって単一色のSRアイドルを揃え
ツモ和了った方がてっとり早いし強い。
金を差し出した者にのみ許される王者の打ち筋……」
「でもアサミンゴスP、あれだけガチャ引きまくったらアイドルの価格が暴落するにゃあ……
SRウェディング留美さんなんかエナドリ一本まで落ちて……」
「ええ、そうよ。過度の課金は身を滅ぼす事と同じ……廃課金者の通る道には
ドリンクボトルが死者の骨のように積み上げられ、河は敗者の血涙で赤く染まる。
それがシンデレラガールズ……『冥界の門(ヘルズゲート)』なの」
「ツモ! 闇に飲まれよ(クール神崎蘭子一色)! 千三十二点!」
[SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子][SR蘭子]
「ツモ! 聖帝十時陵(パッション十時愛梨一色)! 千三十二点!」
[SR愛梨][SR愛梨][SR愛梨][SR愛梨][SR愛梨][SR愛梨][SR愛梨][SR愛梨][SR愛梨][SR愛梨][SR愛梨][SR愛梨]
「と、とうとう彼の手牌が同じアイドルばかりに……!」
「これがシンデレラ麻雀の最終形『嫁艦隊』。
アイドルを愛し、金も身も心も捧げる者にとって
一切の混じりけのないこの上なく美しい手役……だけど……」
「だけど……?」
アサミンゴスPも声はもう、俺の耳には届かなかった。
だがきっとこのような事を話していたに違いない。
「あのコ……まるで、命の炎を燃やしているみたい……」
「……!? あれは……!」
俺は更に百万単位の課金をして十三巡目に次の手を聴牌した。
[SR凛][SR凛][SR凛][SR凛][SR凛][SR凛][SR凛][SR凛][SR凛][SR凛][SR凛]
(ブルーヒストリーテンパイ……これが俺の課金麻雀の集大成……!
さぁ、ツモれぇっっっっっ!)
その時、事務所の部屋の窓ガラスが次々と割れ、ビル内にごうごうと突風が吹き込んできた。
俺はそれが自分の手牌、ひいては自分自身から来る異常現象だと、その時は考えもしなかった。
「何てプレッシャーにゃあ……傍にいるだけで金も生気も吸い取られそう……!」
「くっ……! 廃課金者の上位的存在……『廃神』クラスの課金圧っ!
彼の周りは九百五十hYPa(ヘクトヨーブンパスカル)くらいかしら……!
どうやら、私たちはとんでもない者を目覚めさせたようね」
(凛……! 凛……! 俺の下に来い! 俺にプロデュースさせろ……!
凛……凛……! 凛凛凛凛凛凛凛凛凛凛凛凛凛凛凛んんんんんんん――――――っ!!!!!)
その時、俺の体に不可思議な現象が起こった。
眼の前の視界がぼやけ、指先の感覚が分からなくなっていた。
見ると指先には霜が降りていた。
指先は最初は赤く、しかし段々と体温が下がって黒く変色していった。
季節は初夏だというのに全身の水分までもが凍りつくような錯覚に陥った。
いや、錯覚ではないかもしれない、スーツやシャツまでもが白く凍りつき
氷がぱりぱりと割れてまた固まっていく音を聞いていた。
寒さに凍っていく俺の身体を、暴風は更に煽って、感覚どころか思考すら奪い去っていく。
「皆さん、早く逃げてください!」
「武内君、君も逃げるんだ!」
「しかし、彼は……!」
赤羽根Pも、間島Pも、武内Pも、その近くにいた全員が
この卓から出来るだけ遠くに避難し始めていた。
武内Pはしきりに俺に向かって最後まで叫んでいた。
恐らく逃げろとか、麻雀を中断しろとか、そういった内容だろう。
しかし、彼の優しさは届かなかった。
課金の闇に飲まれた俺は憑かれたようにガチャから離れる事が出来なかった。
例えこの身がどうなろうとも、俺は凛が出るまでガチャを引き続ける。
昨日。そんな昔の事はもう忘れてしまった。
明日。そんな先の事は考えられない。
俺はただ、今は、凛を引くためにいる……!
………………。
…………。
……。
突発的な異常気象により、アイマスプロダクションにいた全員はビルの外に避難した。
しばらくの間荒れ狂っていた局部性低気圧はやがて収まり
黒雲も暴風も文字通り雲散霧消し、晴れ間が見えていった。
「大丈夫ですか高森先輩」
「何とかね……」
武内Pはそのがっしりした肩にぐったりとしている高森Pの腕を抱えて呼びかけた。
皆が皆こういう状態だった中、件の男性P三人だけがあの面接部屋に様子を見に行く。
「赤羽根P……あの新人は……」
アサミンゴスPが、帰ってきた赤羽根Pに聞いた。
彼は寂しく頭を横に振るだけだった。
「……酷いものです。壁は嵐で削られて鉄骨まで見えていました。
それだけ言えば、分かるかと思います。現場は強風でボロボロです。
中にいた生身の人間は原形を留めていませんでした」
「そうか」とアサミンゴスPは右手を抱いて床を見つめた。
「馬鹿な奴だ……いくら面接で勝ったって
命を落としてしまったら何にもなんねぇのによ……」
間島Pがやや忌々しげにに呟くと、武内Pも重い口を開いた。
「麻雀では、大役は大厄に通じると言います。
彼は全ての運をこの時使いきったのでしょう」
二人共、こと課金力に関してはあの新人の敵でないとこの時悟った。
金や命にかけてもアイドルをプロデュースするという
破滅的でありながらもまっすぐなアイドルプロデュースに対する
熱情は確かに稀代の物だった。
しかし、何が何でもミリオンライブPにならんとする野望こそが
そのまま彼を真の破滅へと導いてしまったのだ。
「……また新しいプロデューサーを探さないとね」
後日、正式な現場検証に携わった五人は
新人プロデューサーの葬式をしめやかに行ったという。
その凍傷で真っ黒に変色した手には死を前にした彼の遺留品が握られていた。
体温も感覚も残っていなかったであろうその手のひらに包まれていたのは
一個の麻雀牌だった。
彼が死の間際まで手にしたそれは、確かにSR凛だった。
このような事故が起こってしまい、しばらくアイマスプロダクションは
事後処理に追われ、ミリオンライブアニメ化も当分お預けとなった。
今は事務所も別の土地に移ってそのビルはとっくに取り壊された。
そこ更地には亡くなった廃神への献花台が設けられていた。
その献花台はアイマス廃人たちへのある種の尊敬と
畏怖の込められた花束が毎日供えられ
そしていつしか廃神の伝説が独り歩きし、上位報酬にロリアイドルが来る
激戦の際には参拝者が後を絶たなくなっていた。
以上です。課金は程々に
乙乙
>>43
ありがとう!
正直ルールガバガバだからちょっと改善して
他の人にも書いてほしかったりする
細かいところを気にしても仕方ないのかもしれないけど
ツモとガチャの関係がよくわからない……
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