【艦これ】提督「続投しましたけど…」 (741)

仕事の息抜きでしたが、
身バレして身内から要望あったので…


・地の文ありのSS

・独自設定あり

・前回よりさらに遅筆


一応前作 提督「下っ端ですが何か?」

提督「下っ端ですが何か?」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459178942/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1461506612

私は下っ端の提督である。
長所は医師免許保持(元心療内科、外科)。
あと、艦娘の艤装制御系に割り込める。
補足すると、艦娘への割り込み程度、誰でもできる。
武官の連中が言語を覚えてないだけである。
やろうと思えば小学生でも出来る、多分。

お、続編きたのか楽しみにしてます

そんな私はしばらく前まで犯罪者扱いだった。
その理由はラバウルの提督を殺った為。

私が殺したラバウルの提督は、
艦むす使ってのクーデターを考えており、
そのために海外艦を必要としていた。

たまたま私は件の海外艦の輸送担当で、
奴が先に仕掛けてきたから死んでもらった。

元はといえば、
私がヤツからの提案を断ったから(彼は同志を求めていた)
私に取っても奴に取っても自業自得と言える。

けれども、殺されかければやり返したくなるというのが人間だろう?
で、私は奴をぶっ殺しこうなった。


死んだラバウルが、
偉大で腐った大本営様に反抗しようとしていなければ、
十中八九私も殺されていただろう。

何よりも私が大本営判断により、
やむなく提督に復帰されることもなかったに違いない。
自分でも何故提督に復帰できたのか不思議で仕方ないが、

まだ、当分戦え、
あるいは死んでこい、

おそらく、そう言うことなのだろう。

そんなことを考えながら、私は一人歩いていた。
歩けているのも、私が自由になったからに他ならない。
振り返れば、何泊もした庁舎が見えるが振り返りたくもない。

仮にも日本に戻ってきたのに、
私はラバウル殺しのせいで、
ほとんど宮古島の拘置所で過ごす羽目になった。
ろくな自由時間もないまま、解放された途端に新任務である。
…また海外かと思うと、気分が重い。
それから自分の艦隊と会いたくない気持ちもあり、
私の足取りは重かった。

とりあえず、宮古島拘置所の正門を出た。
何週間も暮らしたが、居心地はよくなかった。
青々したパパイヤの木さえ忌まわしい。

「さて、どうするか?」

一人言が漏れた。
バスで移動しないといけないのだが…
そう思っていると、
正門の陰に隠れていたらしいピンク髪と黒髪の少女二人から声をかけられた。

「お勤めご苦労様です。提督」

むかつく物言いは、明石。
八重歯が見える。

「お疲れさまです」

ちょっと暗い声が大淀だった。
二人とも私服である。パッと見は、ただの少女にしか見えない。

「早いな。港で良いって言ったんだが」

そう私が言うと、明石が笑って言う。


「いや~?先生のご尊顔を誰より早く笑って差し上げたくお待ちしておりました」

「明石、テメエ」

「驚きましたよ。ラバウル殺し。無許可の艦むすへの私的改造。うちの大将はやっぱりイかれてる」

「お前に言われたくねぇ、実年齢晒すぞ」

「別に良いですよ?私、肉体年齢はJKですから」

「相変わらず正気を疑うな」

「またまた。先生ったら、ひどいですね~」

明石に何か言ってやろうと、私は口を開く。

「お二人とも」

そこで、大淀が口を挟んだ。


「明石は、からかわない」

「ええ?」

「それに提督」

ギロリと大淀の目が私を貫く。

「処理待ちの書類がどれだけあるかご存知でしょうか?」

大淀は静かにキレていた。その気迫に、私は口を閉ざす。

「海外艦の私的利用。
 そしてラバウル殺害に関連した機密保持違反。
 条約違反の不正ツール及びコードによる艦娘への強化。
 私がどれだけ手を尽くしたか解ってますよね?」

「言う通りです」

「説教は山ほどあります」

だから会いたくなかったんだ。
と、私は内心毒吐いた。


予算の都合だろう。
私の艦隊は民宿に逗留していた。
浴衣姿の夕立が、目ざとく私を見つけた。

「あ、提督さん!おかえりなさい!」

不器用な結びで駆け出すものだから、
いろいろ目に悪い。

「声がデカい」

夕立はそのまま私の腰に抱きつく。
そこで夕立はハッとした表情となる。

「げ、大淀」

「げ、とはなんですか?夕立」

大淀を見てから夕立は私に言う。

「聞いてよ提督さん、大淀ひどいんだよ?夕立に嘘教えたっぽい!」

「…?」


しれっと、大淀は答える。

「時間をズラしただけです」

…ああ、なるほど。

【子供がいては怒れない】

そう思ったから、
そうしたのだろう。
で、夕立は私に会えず大淀に腹を立てている。
そして怖いから直接文句が言えない、か…
なんとも子供っぽいが、
理由がわかると夕立の行動に納得がいった。

「お前は煩いからな」

私が頭を撫でつつ言うと、夕立は反論した。

「失礼ね!私だって大人しくできるっぽい」

その姿は子供でしかない。
思わず半笑いするしかなかった。


まったく知らなかったが、
一番広い部屋に皆と集まる事になっていた。
大淀、明石、由良、天城、夕立、涼風。
自分の艦隊の視線を浴びながら私は言う。

「えー、まあ世話をかけた」

その続きを言う前だった。
涼風が口を挟む。

「本当だよ。漂流してさ、次は監獄だ」

「監獄ではないですよ、拘置所です」

天城が訂正する。
正しいが、私としては話す機会を折られたままだ。

「ともかく!」

私は声を張った。
このままだと、グダグダになる予感がしていた。

「無事に復帰してしまいました。皆様、よろしくお願い致します」

私が言うと、由良だけが拍手した。
逆に困った。
…叩かれることなど話していないのだが。
次の句に詰まっていると、廊下で待っていた給仕のおばちゃんが声をかけてくれた。

「初めていいですか?」

助かった。
私はおばちゃんに言う。

「ええ、お願いします」

誰の発案か知らないが、そのままささやかな祝いが始まった。


宴も酣だった。
コースらしき料理も終わり、
由良が食事に飽きた涼風と夕立を部屋に連れて行った。
私は、追加注文した枝豆をつまみにうっすーいビールを飲んでいた。

「…で、提督。どう殺したんです?ラバウル」

突然、明石がヌッと横から入ってきやがった。

「おい、お前ら飲んでたんじゃないか?」

思わずそう言うと、ヤツはグラスを空にしながら言った。

「えー?二人なら寝てますよう?」

見れば天城と大淀が酔い潰れている。
こいつ、邪魔だからって二人も潰したのか。


「お前。なんか盛っただろ」

「てへぺろ♥由良にも盛ってます~」

「ああ通りで…」

戻ってこないはずだと思った。
何か言おうとしたが、
ニコニコ笑う明石を見ていると怒る気も失せた。

「いいや、で何が聞きたい?」

私がそう言うと、ヤツは答えた。

「うーん、ゴシップ好きとしてはラバウル殺った時の手順ですかね?」

私は何日か前に、取り調べの役人に話したことを繰り返すことにする。


「金剛に砲撃、加賀に爆撃だよ」

「そりゃ、ひき肉になりますね」

「まあ、あの島にいた…」

「提督の哀れな被害者ちゃんたちですね」

明石の指がひょいと枝豆を掴む。

「そう、彼女たち全員にフラグとプログラムを組んでおいた」

「ひっどいわぁ、で中身は?」

「ラバウルの前で罪悪感ないし緊張したら、自衛が発動するってやつさ」

「ほー直接的じゃないんですね」

「嗚呼、実際自殺までは想定してなかった」

「うそでしょ?」

「マジだ。本当は取り調べのゴタゴタで工作する予定だった」

「うわ、ひど」

「まあ、しゃーない。そりゃ発狂だわ。自分の手で惚れた男を殺せばな」

「…で、そんなことして、なーんで提督は大丈夫なんですか?」

「いや、そもそもラバウルの反逆があったから不問になった」

「ついてますねー」

「確かに」


「で、ラバウルのお人形ちゃんたちは?」

ビール片手に明石が尋ねる。
行儀が悪いが、彼女は枝豆の皮を皿に投げて戻す。

「ヤツの艦隊か?解体らしいな。『普通の女の子』になるんだろ」

「へえ…」

私の言葉に、明石は目を細めた。
だが、その先を彼女が聞く事はなかった。

「ねえ、不思議なんですけど?だったらなんで提督は勾留されたんです?」

代わりに明石はそう言って、私を見る。

「殺す発端となった奴との接触そのものがアウトらしい」

「あー、そう言う事。お前も危険分子だろうと?」

「その通り。一度は国家転覆罪やらなんやら言われたが、
 結局、私の改竄能力程度問題ではないと見逃してもらったよ」

「あらいやだ。在野に鬼畜を放つのね」

「…鬼畜」

「違います?でもそれ以外にもあったんでしょ」

「推測だが、特定の政治活動してなかったのも良かったらしい」

「うわ、それこそありえないです。極右のくせに」

「誰が極右だ。誰が」

「提督ですよ~。政治に文句しか言わないですから」

「何時でも何処でも、誰が政権獲ろうと、結局同じ事するだけさ。
 だから文句言って何が悪い?」

「政治観なんてやめましょ。あんなゲームつまらないですもの」

「ゲームね」

「違います?…しっかし、ねえ?だからって野放しにしていいんですか?こーんな提督を」

「上からしたら、私など何時でも消せる程度でしかない。だからだろう」


「はー、なるほどなるほど」

明石はそういうと、私の大瓶から自分のグラスにビールを入れる。
ついでに私にも注いでくれた。
泡が多めでないところは流石と言うべきだった(涼風、夕立は泡だらけにしやがる)。

「ちな、私たちの不正改造は?」

「お咎めなし。実際、無敵化ってほどでもないしな」

「魚雷を砲弾で撃つ、背後からの攻撃を回避するまでの魔改造がバレたのに?」

「魔改造ね」

「調教って方がしっくりきます?」

「バカ、タネは簡単な一種のドーピングでしかない」

「あーひどい。ヤク漬けじゃないですか」

「ヤク漬け…否定はしないな」

「お、製薬会社の方を持ちますか?」

「違う。それで、あの子が苦しまないなら、私はそれでもいいと思う」

「…と、先生はお考えですか」

「なんだ、やけにつっかかるな」

「いや気になりますよ。大本営はどうして知ろうとしなかったんですかね?」

「興味もないんだろ」

「えぇ?」


不満げな明石に、私は言う。

「大本営としては泡沫が揃える艦の出自なんて興味ない。
 事実夕立、涼風に限って言うなら強化と言うより、認知の最適化だ」

「へえ」

「夕立なら…多動の症状をそのまま流用してるだけに過ぎない」

「あー、んなの聞きたくないです」

「お前がふったんだろ?」

「でしたっけ?」


とぼけた明石はグイとグラスを空にする。
ザルの彼女は新しい瓶を開けた。
スポンと間の抜けた音がする。

「しっかし、ラバウル。無謀しますね~」

「ん?」

「仮に大本営を倒しても、深海側が攻めてくるのに」

「根拠のない自信だろ」

明石は、グラスに注ぐ手を止めて私を見る。

「それはそれは、血の気いっぱいの若い子なら考えそうですよね。…ち、な、み、に」

「?」

「会った時、なんて言ってたんですか?彼、提督に」

「…えっとだな、海運を握り、商社などを通じたルートで政財界にナンチャラ」

私がいうと、明石は大爆笑した。
膳が震えるくらいだ。
そうとうツボに入ったらしい。

今夜はここまでです。
よろしくお願い致します。

乙でした
まさか続きが読めるとは……ありがたい

おつ、また楽しみが増えてしまった
海外艦の再登場も期待

本日分を投下します。

>>3
>>22氏 

ご期待に添えたらいいなと思ってます

>>23

出すか出さないか、まだ未定です。
R18と一緒で、好き嫌いもあるので(キャラは増やせばいいってもんじゃないですし)。


「あはははははは!
 ひっどい、ひどい、さいてーですよ?!
 仮にも決行にあたっての同志を求めた相手の会話を、その程度に記憶しますか!!
 ほんと最低、やっだセンセ!笑いに全力を傾けないでくださいよ!」

彼女はグラス片手に私をバシバシ叩く。
普通に痛い。
その上、この行動もいただけない。
もう【おっさん】だろ、これ。
誰か養ってやれよ。


「実際興味ないしな」

そんな内心を話すことなく、
私は話題をラバウルに戻した。

「権力を欲しないんですか?
 ラバウルと行動すれば半分は確定してたじゃないですか」

明石はそう言った。
実際そうだろう。
海運を握るのだ。
ラバウルが夢想したようにことが進めば、
それだけで長者は約束されたようなものだ。
だが私は興味がなかった。

「で、それで何する?」

だから、そう明石に質問してみた。


「金、女、名誉。貪っちゃいましょうよ」

明石はゲス発言をする。

「実に人間らしいな」

私が言うと、明石は痛い指摘をしてきた。

「センセは高給取りで女にも困らない。
 その上、名誉もあるから興味薄いでしょうね」

「悪かったな」

「と言うと思いましたよ」

「実際そうだから仕方ない。
 私は思うがね、偉くなっても、金を得ても、美人と寝ても、結局人生は面倒だ」

明石は首をかしげる。
それから言った。

「それは提督だけですよ。どうせラバウルの申し出を断ったのも、
 国益とか愛国とか関係なしに、
 ただただラバウルが気に入らなかっただけでしょ?」

>>1です。

昨日は落ちて申し訳ありません。
また投下します。


否定しようがなかった。
黙ってる他に仕方ないから、
私はポケットからタバコを取り出し膳に置く。
ふと明石の手が伸びて、タバコと一緒に置いたライターを手にとった。
丸い爪の親指が、フリントを回す。
彼女は慣れた手つきで火をつけてくれた。

「どーも」

「いえいえ。で、聞きましたよセンセ。海外艦と懇ろになったとか」

彼女は私のタバコを一本抜いた。
流れるように口にする。
…ほんと目の毒だ。
姿形はガキになっても、実年齢は出る。
絵になる仕草で明石はタバコを口にする。


「夕立か」

紫煙を吐きながら言うと、明石は答えた。

「正解。あと涼風からも聞きましたよ?『センセは、きっとビス丸とケッコンする』って」

「アホ言え。赤城を回してくれと言っても無視される私のところに戦艦がくるもんか」

「正しいですねぇ、良くて防空駆逐艦じゃないですか?」

「だろうよ…いや夕張ってオチだな私だと」

私が言うと、明石はプッと吹き出す。


「でしょうね~。それより重巡か潜水艦では?構成上」

そう言ってから、明石は器用に煙の輪を吐いた。
輪は、空へと溶けていく。

「いたらいいな。お前は普通の戦闘向きでないし」

「ですねぇ。私、みんなと演習したら死んじゃいますよ」

「バカ言え」

私は彼女を横目で見る。
適合した艦は明石以外にもあった。
確かに記憶にある。


「あーでも、ワンチャンあるかもですよ。戦力増強」

ふと、明石が新しいビールの栓を抜きながら言った。

「何故?」

「今のところ無いですけど、帰りは12隻での任務かもしれませんから」

タバコをくわえたまま、彼女は自分のグラスに並々と注ぐ。

「それはない。私の指揮の都合上もある。それに私の登録はお前ら6人だけだ」

「面倒ですねえ…」

彼女はあぐらを組む。
ちらりと、着ていた浴衣から鎖骨が覗く。
重そうな二つの膨らみが見えたが、指摘するのも億劫だった。


「こっちは一回も通常の建造したことないからな」

「DIYで提督になった化け物ですもんね」

「ホームメイドでアレが作れるなら、
 私の勉学への投資はなんだったんだろう?」

「冗談ですって。…その学で官を得てるんでしょ?」

「ああ。腐っても提督様だ。
 ただ、母港を構える人間にはあふれるほどの艦がある。
 だが、我々にはまともな設備一つない。
 そのくせ呼ばれれば何処でも行かされる」

私がそう事実を言うと、明石は無言で灰皿に灰を落とす。
彼女は腕を組み、タバコを吹かす。
思うところがあるようだった。


「もう良いか?」

私が問うと、明石は答える。

「ですね、満足しました」

明石は私を見る。
黙った理由は、訊いても言わないだろうとわかっていた。

「…ほんと、お前は自分勝手だな」

だからこそ、そう零すと明石は意外そうに言った。

「そうですか?悪いですけど、私か天城が一番まともですよ」

黙るしかなかった。
事実だったからだ。
病んでいないと言う意味なら、こいつの言葉は正しい。


「あら失礼。先生、ゴメンなさい。…うふふ、夜の看護が必要ですか?」

「その外見ならとっ捕まるわ、バカ」

「えー酷い。同い年なのに?」

明石はそう言うとカラカラ笑った。
いつの間にか立膝になってる。
酒臭い上に、ビール瓶抱えてりゃ色気もくそもなかった。
私も、彼女と同様にもう一本のビールを開けた。


明石に大淀を任せて、
天城を背負って部屋まで運んだ。
軽いと思ったが、意外といい重さだった。
二日酔いで酷いだろうが、知らん。
それから私は部屋に戻って大淀の持ってきた資料に目を通す。
次はインドらしい。
宮古島沖で、コンテナ船の護衛を国内担当から引き継いで行くようだ。

「また暑いのか」

気が重くなった。
そんな気分のまま私は泡盛の瓶を開けた。
テンションは泥沼だ。
沼から出れる気配は一生ないだろう。

一旦切り上げます。
また投下します。

おつ

おつおつ

おつおつおつ

続編とか最高だな

>>1です。
遅筆で申し訳ありません。
とりあえず投下します。

「暇、提督」

鳥かごから降りるなり、涼風は私に言った。
コンテナ船に備え付けられたクレーンが止まったのを確認してから、
私は彼女を見下ろす。
巡回が終わった安堵からだろう。
そう私は思うことにして、いつものセリフを吐いた。

「本でも読んでろ」

「つまんない」

「映画見ろ、映画」

「それしか言えないってか、提督?」

「なら勉強するか?歴史以外なら、そこそこ行けるぞ」

「楽しくないって」

「知ることは快感だ」

「あっそ」

「興味なさげだな」

「そうだっての。なんだい、知ること快感って?バカだよバカ」

「そういう奴もいるってことさ」

「提督みたいなインテリは嫌いだ」

「残念ながらインテリどもが世界の仕組みを作ってる。
 動かしてるのは金と欲望と憎悪だが」


私はそう言って、タバコを吸った。
で、激痛。
そのまま咳き込んだ。
咳で吹っ飛んだタバコが頬に当たる。
浅い痛みを覚えたが、すぐさま手で掴む。
涙が吹き出す。
ありえないくらい、喉が痛い。

「?!?!!」

「おい、どうした提督?!」

返事も返せなかったが、
私はタバコをフィルター近くでねじ切る。
こぼれ落ちた中身は真っ赤だった。
…見ればわかる。
唐辛子、でもって塩。

「どっどうしたんだよ、提督」

涼風が私を見る。

「…夕立のバカは何処だ?」

「え?ちょ、提督。怖い」

私は涙目の涼風ににじり寄る。

「何処だ?」


自室でVITAに興じていた夕立をとっ捕まえる。
足首掴んで持ち上げて、速攻ひっくり返す。
パンツ丸見えの夕立は、さっさとゲロった。
私は怒りながら、明石の部屋を叩く。

「明石ィ!!」

蹴っ飛ばすように明石の部屋に入る。
部屋の主は、のほほんとせんべいを齧りながら女性誌を読んでいた。


「どしたんです?提督」

なんでもなさ気に奴は言う。

「なんてもん吸わせんだ!」

「あー、当たったんですか」

によ、と明石の顔が悪い面になる。

「当たったじゃねーぞ!カプサイシンと塩ってお前」

「吸いすぎですから~、夕立に『いたずら教えて!』と言われまして」

「お前な…!」

「まま、深呼吸。はい、はい!」

その場でヤツは雑誌を捨て、手を叩く。
あまりにバカバカしかった。
中年と少女(実年齢3X)。
シュールである。


「……まあ、いい。不問にする」

「はい、どうも」

「ぶっ飛ばしてやろうか?」

割と本気だった。

「ベットの上なら歓迎ですよ?さあさあ!」

ベッドを指差す、実年齢3X。

「ふざけんな、淫ピ」

「女衒将校様に言われても~」

「お前は情操教育上悪すぎる」

「あ。酷い」

「うるせえ!」

私は苛立ったまま明石の部屋から出た。


むしゃくしゃしたまま、寝てやろうと思っていた。
どうせ仕事などもうないのだ。
そう思っていると、声が掛かった。

「提督」

振り返ると、大淀だった。

「どうされました?明石相手に、そんなに苛立って」

「なんでもない」

「ああ悪戯ですか」

一番敏いだけあって、大淀は一発で私の機嫌の悪さの原因を当てた。

「まったく明石は…」

「そうだな」

未だに日本が侍や和風のイメージ持ってる奴wwwwwwwwww
日本は頭のおかしいキチガイ国家だぞ
ジャアアアアアアアアアップwwww

いいなこういう雰囲気好き


彼女は、立ち去ろうとしていた私に提案する。

「何か飲みませんか?」

「…いや」

そう言いかけて、私は訂正した。

「しようか」

「はい」


談話室で、コーヒーを淹れる。
紙カップ二つ、砂糖二つとミルクは一つ。
大淀の手が紙カップを取ったところで、
私はミルクと砂糖二つを手渡す。

「ありがとうございます」

そう言って、大淀は砂糖とフレッシュをコーヒーに混ぜ合わせる。
使い捨てのプラスチックのマドラーから濁り、渦が広がっていく。
濁りは均一になって消えた。

「甘いの好きだな」

何気ない言葉に、大淀はこちらに顔を向ける。

「女の子は誰でもですよ」


彼女はそう言うと、カップに口をつける。
しばし無言だ。
無理もない。
船内は変わったことなど起きない。
話す内容が無くなるなんて事態は、そう珍しいことではない。
ふと大淀が、ぽつりと言った。

「先生が、遭難した時もうだめだと思いました」

ブラックを口にしながら、私は嫌な気配を感じた。
大淀がその話題を振ってくるとは…
想像していなかっただけに、私は警戒し始めた。


「病院で会った時、それから勾留されたとき」

そのまま彼女は続ける。
談話室の椅子に座っている大淀の頭は下を向いている。
カップの中に波紋が起きているのを私は見た。
顔は、見えない。
黒い髪の間から白いうなじが覗いていた。

「それから、先生が人を殺したと聞いた時」

大淀はそう言って黙った。


「軽蔑するか?」

私が言うと、大淀は私の予想通りの答えを言った。
私は立ったままだから、
彼女の見上げる視線をまともに見てしまった。
…ああ、そうだ。
この子はこんなタイプだった。

「いいえ。しません」

その言葉に、私は自分が間違い続けている事を理解した。
彼女は、私を盲信…いや依存している。
どうやら、私はまだ自分の艦隊の誰一人として心を吹き込めなかったようだ。


「むしろ何故私がラバウルを殺せなかったのかと思ってました」

とんでもない言葉を紡いでから、
彼女は私を見つめる。
大淀の目の色が変化していた。
澄んだ青。
緑青のような毒々しい青。
そんな燐光を湛えた瞳が私を見る。

「先生のそばにいないとダメです。
 あの時、行けばと後悔したんです。
 …先生は私が守りますから」

「ああ」

嬉しく思う気持ちもあるが、
それでも私は自分の艦隊のヤバさを思い出していた。
明石は冗談に本音を交えていたんだろう。

…お前のせいで無駄に心労をはらったと。

新しい処方箋を考えようと、私は決めた。


任務の航海は無事に終了した。
特筆することは何もない。
コンテナ船から降りて、
帰路につく自分と同じような提督に挨拶をする。
彼に引き継ぎを行うと、私の任務は完了した。
そのまま直ぐにでも自由時間を取れたが、
半ば慣習のような彼らに向けての敬礼を自艦隊にさせた。
コンテナ船が港から出て行ったところで、私は言った。

「もういいぞ」

私が言うと、彼女たちは姿勢を楽にする。


「疲れるっぽい」

露骨に嫌がってた夕立に、涼風が同意する。

「だよな」

「こら二人とも」

それを見かねて、由良が注意する。

「そうですよ、これから彼女らは任務ですから」

続けて天城が諭すと、二人は納得したらしい。
ぼそぼそ言っていたが、やがて静かになる。
その後で大淀が私に振り返り、質問した。

「では、提督。指示をいただけますでしょうか?」

「しばし待機。喜望峰からくる貨物船が来るまで逗留だ」

私は、そう言うと携帯を取り出す。
さて、インドでのタクシー手配はどうやったか?


バックパッカーでもないので、金はある。
さっさとタクシーを捕まえる。
運転手にチップを払って、飛ばすように言った。
車中でホテルの予約を取ったが、
それなりに高給を食んでいるので、
割と簡単に部屋が取れた。
駆逐、軽巡、空母その他、そして私と部屋割りをする。
文句が出たが無視した。

ホテルに着くと、
涼風がキョロキョロしながら言った。

「どこのホテルも変わらないんだねェ」

「そんなもんさ、荷物置いたら自由にしていい。
 が、勝手に外はブラつくなよ。いろいろ危ない」

涼風がムッとして言った。

「その辺の男になんて負けないって、提督」

「逆だ。力加減間違えてぶっ殺しでもしたらどうするんだ」

所用で席を外します。
何卒よろしくお願い致します。

前作では目立たなかったやつにもスポットライトが当たるかな?

おつー

>>1でそ。
戻りました。pythonは見たくありません。
再開します。


シングルの部屋に入る。
カバンを部屋に置いて、ベッドの上に制服のまま横になる。
久しぶりの丘である。
そして無事に今回も任務が出来たことに安堵する。
途中、二度ほど小規模な戦闘があったが、
大淀と由良の機雷で大事にはならなかった。
この幸運が何時まで続くのかと考えると恐ろしい気分になる。

「やめだ」

一人呟き体勢を変える。
しばらく眠るかと、アラームをかけた。


嫌な夢を見た。
夢の中身を覚えていないのに、不快感だけが残る。
頭が痛いような、眠気の残滓がさらに不快だった。
そんな気分でいると、誰かが部屋をノックした。

「いらっしゃいますか?」

由良だった。
なんの用だろうかと思いながら、私は部屋のドアを開けた。


「どうした?」

私服姿である。
彼女は私に、茶封筒を手渡す。

「手紙です」

「手紙?」

不審に思って、由良に質問した。
だが由良からの返事は無かった。

「どうした?」

「いえ」

疲れからだろう。
私はそう思うことにした。


「誰からだ?」

「日系風の女から君らのボスに渡すようにと…」

「そうか。わざわざすまない」

私はそう言って部屋に引きこもろうとした。
ただそれは叶わなかった。
カツンと、由良がドアに足を引っ掛ける。

「由良?」


「大淀と楽しそうにしてましたね」

由良はそのまま艦娘の力でドアを開ける。
ドアが軋む。
外れなかったのは不幸だと思いたい。

「おい」

「なんで、私じゃないんですか?」

由良はそのまま、私の首を掴む。
シャレにならない力が私の首にかかる。
あがいても無駄ななのはわかっていたが、
私はせめての抵抗で由良の腕を握る。
だが、その肌がどれだけ柔らかくても、
鋼のように硬い事実があるだけだった。


「どうして私じゃないんですか?
 私は先生に取って姉さんの代わりですか?」

「ゆ、ら…」

血管まで圧力がかかってる。
落ちるのは時間の問題だった。

「私には、先生しかいないのに、どうして先生は私以外の女の子を」

由良がそう言った時だった。
彼女は突然私から手を離す。
彼女が振り返る。
それと同時にもう一つの人影が部屋に入ってくる。


「面会時間はァ!終わりですッ!よッとォ!!」

そいつは由良に足払いを掛けた。
体制の崩れた由良に問答無用で肘打ち、
そのまま倒れた由良を即座に固めた。
明石だった。

「先生、早く由良を!」

明石に言われるがまま、私はスマホを手に由良を落としにかかった。


停止コードを打ち込んだところで、明石が言う。

「…何やってるんですか、佐官のくせに」

指摘の通りだった。

「助かった」

明石は私の言葉を聞くとため息をついた。

「おかしいなと思って、つけて正解でした」

「助かった…」

「はぁ、医者は三人殺して一人前だそうですが…
 3人も殺してない提督はこれだから」

「ほっとけ」


私は由良を見る。
今は、ベッドで寝かせてある。
停止コードを打ち込んでも、
…不安が完全に消えたわけではない。

「誰がやったか分かるか?」

「そこまでは。さっさと見ればいいじゃないですか、早くしてくださいよ。もう」

ヤニを吸い出した明石に言われるがまま、
私は由良のインターフェースのログを呼び出す。
スマホのウィンドウにログが出る。
コードに検索をかけた私は、思わず指を止めた。
何処にも改竄の記録が残っていない。
そればかりでない。
外から働きかけた痕跡すら残っていなかった。
思わず、混乱した。


「マジか…」

「どうしたんです?」

灰皿に灰をを落としながら、明石が言った。

「アクセスされたログがない」

「…提督みたいにプログラムを組んだのでは?」

「いや、それでも接続のキャッシュが無い。
 そもそも端末挿入数も変化がない。
 最終接続は私が行った一週間以上前だ」

「嘘でしょう?」

明石が言う。
だが、そう言いたいのは私だった。


「……どうなってる?」

私は思考を巡らせる。
あくまで艤装への細工は、精神でなく肉体向きだ。
割り込みにも限界がある。
そもそも設計上出来ることで、神経に働きかけるにすぎない。
思考やら感情といった、神経内の計算。
早い話が心まで弄れるはずがないのだ。
だが…、先ほどの由良は抑えていた感情を私に爆発させたように見えた。
そんなことが、可能だろうか?

「悩んでも仕方ないでしょう。
 それより、その由良の手紙とやらを見てください」

考え込みそうな私を察したのか明石が言う・
言われるがまま、私は手紙を開封した。
中身は、白紙だった。

「どうなってんだ?」

私が言うと、明石は断言した。

「敵でしょうね」

「…だな」

「本当提督は災難ばかり。さてさて、集合かけますか?」

「頼んだ」

今夜はここまでです。
おなさす。

期待。
前作は良かった。本当に良かった
今作も頑張ってくれ
たくさんのまとめサイトで色々な事を言われているが、どうか必要以上に惑わされないで書きたいものをそのまま貫いてほしい

まとめ民は帰って、どうぞ

由良はヤンデレ

まさか由良……

>>1です。

今夜分を投下します。

>>78
あんまり気にしたことないです。
まとめ見ましたが、指摘の大半が、承知してる部分ですし(誤字、プロット等)
なにより二次創作はみんなのお遊びだからこそ楽しくないですか?


部屋に全員集合させる。
明石に任せてよかった。
由良への対策が終わった頃だっか。
30分も経たないうちに、全員が揃う。

「敵がホテル内にいる」

私は手狭な部屋の中で、
整列させた彼女たちに私は言った。

「敵ですか?」

天城が発言する。

「正しくは私を狙う存在だ」


私が先を続けようとすると、
大淀が割り込んで発言した。

「勿論、そこで寝ている由良も関係あるんですね」

言おうとしていたことを察せられたため、
私は説明を省くことにした。

「嗚呼。
 そこで、君たちに保護用の対策を取らせてもらう。
 悪いが、順番に作業させてくれ」


嫌そうな夕立から始めることにして、
廊下で待つように残りのメンバーに伝える。
夕立は準備する私の横で、
由良の頬をつついている。

「提督さん、それで何するの?」

それに飽きたらしい。
夕立が私の機材を見ながら言った。

「防護かな」

「難しい言葉っぽい」

「じゃあ、おまじないだと思ってくれ」

「わかったっぽい」

私は椅子を引き出し、夕立に座るように指示する。
彼女はストンと座る。


「で、次は提督さん?」

「上着脱いでくれ」

「えー?」

嫌そうな感じだが、
恥じらいの気配は感じなかった。

「作業の邪魔になるから」

私が言うと、彼女は納得する。

「りょーかい」

ずっぽんと、色気なく夕立は上着を脱ぐ。
私は背中を向けさせた。
そのままキャミソールも脱いでもらう。
私は生白い背中の、
無骨な腰のマウント部分を開く。


「異変感じたら言え」

「わかったっぽい」

端子挿入口を引き出し、端末を接続。
管理モードから、コマンドを入力。
コマンドラインインターフェースを端末画面に表示させる。
管理者権限を入力、応答を確認。
続けてメモリ、CPUのログを呼び出す。
アクセス回数を計測。
そこで私は最終アクセスの日時を確かめた。

…私が最後にアクセスした日で間違いない。

メモリの不正セクタの検出を同時にかけながら、
私はスマホにキーボードをつなげコードを打ち始める。
基本的なコードはもう書いている。
あとは組み込みで動くかどうかだ。


「退屈っぽい」

夕立は白い背中を揺らして私に言う。

「すまんな」

「提督さんが、背中を触る時はいっつもよ」

椅子を抱えた夕立は足をぱたつかせる。

「手間かける」

「この前、言われたけど」

「ん?」

「夕立は異常なんだって」


私はキーを叩きながら、言う。

「どうして?」

「普通の夕立とは違うらしいの」

「それはいけないことか?」

「…よく言えないけど、モヤモヤするっぽい」


書き込みが終了する。
私は、デバッガを走らせながら言った。

「人と違うのが嫌なのか?」

「ううん、違うの。
 まるで夕立は、そう、人間じゃないみたいに…」

そこまで言ったのに、夕立は言葉を切った。

「夕立?」

「なんでもないっぽい。終わったんでしょ?行くね」

夕立はそう言うと、上着を着て出て行った。


次に入ってきたのは涼風だった。
夕立と同じように、背中の端子を触る。
型番は違うが基本は同じ白露型だ。
移植に手間はかからない。
やはり退屈からだろう。
涼風は髪で遊びながら言った。

「ほんと、センセさあ」

「ん?」

「プログラマーにでもなったら、そんなこと出来るんだったらさ」

「戦争終わったら考える」


私の手元を見ながら、涼風は言う。

「カッチカッチと、
 メカ音痴のあたいにはわかんない世界だね。
 説明してくれよ」

「1から100まで何したいか、
 懇切丁寧に書いてる作文かな?」

「なんだい、それ?」

「機械は脳みそないから。
 どんな時でも理解出来、伝わるように書くのが難しい。
 それに書き方が悪いと落ちる。想定外を対処できないから」

「落ちるって?」

「その作文にない指示を受けると止まるってことさ。
 ゲームでもあるだろ?」


「ふーん」

涼風は興味なさそうに呟く。

「けどま、こうしてるとほんと、鉄の体だって思うよ」

「……」

エンターを押す。
作業を終え、私は端子を抜いた。

「終わった」

「ん。じゃまた、提督」

そう言って、涼風は出て行った。


続いて大淀だった。
上着を脱ぐよう言うと、
少し彼女は恥じらうそぶりを見せた。
だが結局、彼女も背中を見せてくれた。
ブラまで外そうとしたので慌てて止める。

私は、刷り出した資料を片手に確認する。
同型艦がいない関係上、
組み込みが面倒である。
…低級な緊急命令は一緒なくせに、
面倒なところでの差別化である。
予想していたが、
夕立や涼風のコードから大きく変更する必要があった。


いらつきを感じ取ったのだろう。
大淀の一言で、私はタバコを手に取る。
口にくわえて火だけつけた。

「提督」

「ん?」

「…ごめんなさい」

大淀は、そう言った。
思わず、私はキーを打つのを止める。


「どうして謝る」

「いえ、厄介な艦を引いたなって」

「…気にやむな。別にお前のせいじゃない」

私はキーを打つのを再開する。

「ですが、私に力があれば」

大淀は、そう言った。

「そしたら私に君は割り当てられなかったな」

「執刀したのは提督でしょう?」

「……そう言うところも考慮されての提督への登用だった。
 ハンモックナンバーの低い私は、本来後方勤務だ」


「学業優秀でしたのでしょう?」

「真逆だね。素行不良だった。
 医者になろうと思ったのも反骨からだよ」

「…それは?」

「生徒指導のハゲだったね。
 お前みたいなバカは知らんと言われて、
 ムカついたわけ。見返してやりたかったからなった」

「意外ですね」

「お情けで滑り込んだもんさ。
 入試のペーパー見たら真っ赤で笑ったよ」

「優秀だと思いますが」

「優秀だったら、ここにいない。
 私はね、覚えるだけだけだったんだ」

「でしたら、研究者にでもなられたら?」


大淀の言葉に、私は笑った。

「研究者というのは、資質が要るんだ。
 ひらめきが有り、忍耐を持ち、
 誰よりも愚かでないといけない。
 仕事に違いないが、半ば生き方だ。私には無理だ。
 私が持ってたのは愚かさだけだ」

「そうですか?
 私たちを登用した手管を考えても、
 能力を謙遜される必要がないと思いますが」

「大したことはしてないさ……むしろ私は小悪党だよ。
 無理に前線に志願した時に、
 『艦が足りないんだったら』と。
 私の執刀で自前で選定させることを認めさせただけさ。
 それに、施術は君ら以外の奴でもやっていたし、
 出来ることは分かってた」

席を外します。
よろしくお願い致します。

ひとまず乙

>>1です。
昨晩は復帰できずすみません。
今夜分です。


ふと、大淀は肩を抱く。
強めの空調だ。
私は良くても、彼女は冷える。

「寒いか?」

「すこし」

「ほら」

私はブランケットを手渡しつつ、
キーを打つ作業に戻る。
構文を間違えては元も子もない。


「皆、先生の患者でしたね」

ポツリと大淀が言った。

「施設時代か」

「ええ。先生が来た日のこと覚えていますよ。
 新しい嘱託医…研修に来た先生は若い男の人だって」

大淀はそう懐かしそうに話す。
眩暈がした。
スペースを打つはずの指が滑って、Bを押す。


「まだ、名前がありましたね」

「…」

落ち着けと、自分に言い聞かせる。
あの女は、もういない。
あの頃の自分も、また。
タバコの灰がポロと落ちた。
慌てて払うと、ズボンが汚れた。
汚れは落ちない。
犯した罪が消えないように。


私はプログラムの実行を確認すると言った。

「終わったぞ」

大淀の背中から端子を抜く。
ふと彼女が振り返る。

「あの頃から」

「ん?」

「私、先生が好きでしたよ」

柔らかい笑みだった。

「嬉しいな、こんなおっさんを好きでいてくれて」

私が本音を言うと、大淀は言う。

「先生のためなら私……なんでもしてしまいます」


彼女の手が私の首に触れる。
その指の冷たさは、
私に水を連想させた。
彼女たちの戦う手がこんなにも柔らかな事を、
私は何時も不思議に思う。

「やめてくれよ。
 私は…、君らを戦場に招いた疫病神だぞ」

そう言うと、大淀はすぐに否定した。

「それでも先生は私を自由にしてくれました」

「自由か」

それはフリーであって、リバティでは決してないだろう。
君らが、私に抱く感情は自然ではないんだと言いかけた。
だが、やめた。
彼女らが幸せなら、それでいいだろう。
偽薬で救われるなら、それでいい。
私は自分に言い聞かせる。


「大淀、天城を呼んできてくれ」

私がそう言うと、大淀はふうと息を吐いた。

「わかりました」

「頼む。さっきのは冗談でも嬉しいよ」

「…この気持ちは本当ですからね」

大淀はそのまま部屋を出て行く。
その背中に、私は恐怖心を抱いた。

…本当にこれでいいのかと?


「…なぁ」

「はい?」

くるりと大淀が振り返る。
その悪意のない笑顔に困惑した。
私は危うく言いそうになった自分を恥じる。

「なんでもない。悪かった」

「コンつめないでくださいね、先生」

大淀は薄く微笑んだ。
彼女は部屋を出て行く。
一人になって、私は自戒の念を覚えた。

『何が自由だ』と。

あの子らを、
何時までも縛り付けているのは、
間違いなく私でないか。
戦いを強制したのは自分ではないか。


大淀が出て行った後で、天城が入室する。

「どうしました?」

天城は私の悩みに気付いたらしい。

「なんでもないさ…艤装を触る。脱いでくれ」

天城も若干脱ぐことをためらったが、結局脱いだ。

「…なんだか恥ずかしいですね」

「我慢してくれ。おっさんで悪いな」


私は、天城の制御系にアクセスする。
鈴谷型(厳密に言えばさらに違うのだが)、
その主機流用の反映からか、
またしてもソースの書き換えに迫られる。
面倒と不安から2本目のタバコを咥えたが、
天城は喫煙を咎めた。

「提督」

彼女の指がタバコを叩く。
紙巻のメビウスが途中で折れた。

「………悪い」

私は灰皿に折れたタバコを置くと、
キーを叩くのに戻った。


もう打ち込みが終わる頃だったか、
天城が私の顔を覗き込む。

「随分機嫌が悪いようですね…
 大淀と何かありましたか?」

「少しな」

「そうですか」

聞かないことが有難かった。
私は作業に戻って打ち続ける。
会話は切れるはずだったが、
退屈からだろう天城は会話を止めなかった。


「提督」

「どうした?」

「どうして、提督は彼女たちを選んだんですか」

「前に話さなかったか?」

覚えていなくて問い返すと、天城は答えた。

「施設の子だったくらいしか」

「そうか…実は、もう一つ理由がある」

「なんでしょう?」

「彼女たちは迎えの必要がなかった」

「?」

「本当に親がいないんだよ。だから彼女たちを艦娘に出来た」


天城はしばし沈黙する。
それから、彼女は言った。

「聞くと随分酷いですね」

「事実だ。
 ただ、もう自分の手で稼げるようにしてやったとも言える。
 同時に私の鉄人形にしたけどな。
 どの道、私はロクでもない女衒だよ。
 地獄行きは決まってる。おまけに特急だ」

「珍しい。言い訳ですか」

「事実だしな」

「ですが、それでも上官として信用していますよ」


天城のその言葉を聞いて、
私は彼女が本気かどうか考えた。
だが、よくわからなかった。
リップなのか、本心なのか、
判別さえできなかった。
だから私は、それに返答することなく再びキーを叩く。
彼女へのコードの移植も問題なく終了した。


「終わりだ。手間かけた」

「いいえ。むしろ、お疲れさまです」

上着に手をかけつつ、天城はそう言った。
彼女が着衣する横で、
私は折れたタバコを咥える。
火をつけようとライターを手にした時だった。
着替え終わり、
部屋のドアノブに手をかけた天城が言った。

「私も艦娘ですから。
 そんな言い訳なんてしなくてよかったんですよ。
 分かってますから、提督」

「そうか」

私はフリントを擦った。


最後にやってきたのは明石だった。
彼女は部屋に入るなり上着を脱ぐ。
脱いだ衣類をぽいとベットに捨てて、
明石は私に言った。

「さ、提督。さっさとおなしゃす」

正直ブラだけの状態で胸を張られると困る。

「恥ってもんがないのか、恥が」

呆れからそう言うと、明石は言った。


「何言ってるんです?
 別に減るもんでもないですし」

「羞恥心を持てよ…」

「んなもん、とある出血と一緒に捨てました。
 神経も幾つか切った気もしますねー」

「肝っ玉と度胸は小娘と一緒にすんなと?」

「当然です。
 悪いけど私、今ならキャバで指名一位とる自信ありますよ?」

「モテるだろうな。赤羽くらいなら」

「うわ出た都民発言。中州で一位に訂正してください」

「お前、九州人に謝れ」

「薩摩隼人はマザコンですから拒否します」

「最低だなお前」

「知ってます、提督?日本の中心は名古屋なんですよ?」

「そうか。錦三丁目の酔いどれが日本を動かしてたのか」

「ですよ。新幹線で雄琴へ行くエロオヤジ達ですよ」

「あっそ。だが、お前は絶対アフターしないだろ?」

「センセとならOKですよ。仕方なく」

「仕方なくってなんだ」

「仕方なくですよ。このアラフォーのポークビッツ」

「歳は手前もだろうが!」


「つーか早くしてくださいよ。
 私、さっさと飲みたいんですよ」

「…このおっさんめ」

明石と他の艦娘の年齢差を考えながら、
私は彼女の端子を取り出す。
差し込み作業を始めると、明石が言った。

「センセでも時間かかります?」

「当たり前だろ。
 じゃあ、お前さ、自分でやるか?」

「嫌です。
 ハードはできますけど、ソフトは嫌ですね。
 見えないですもん」


意外な発言だった。
装備なら何でも修理できるようなやつなのに。

「そうか?」

「ですよ。言葉と同じで、見えないし触れられない。
 …そんなの私得意じゃないんですよ。
 夜なべして看護師試験通ったくらいですから」

「意外だな。勉強しなくてもできるタイプだと思っていた」

「だったら提督さんみたいに医者になってますって。
 と言うか、人に尽くせなきゃやれないですって、コレ系。
 シモからホトケまで面倒見ますからね。
 お勉強できる人は無理でしょ?
 頭のいい私がなんで~って」

「手を汚したくないやつはそうだろうな」

「手術で終わりじゃないですから。
 むしろ始まりですよ。いろいろ。ねえセンセ?」

耳に痛い言葉だった。


「やっぱ時間かかります?」

明石が作業途中の私に質問した。

「そりゃな。姉妹艦がいないとな…」

「あー、じゃあ何か話してください」

「何を話せってんだ」

「んー、そうだ」

明石はピンと来たらしい。
新しい話題を切り出す。


「漂流した時、敵が海外艦だったらどうしてたんですか?」

「お手上げだよ」

「ですよねー」

「艦娘として再起不能にする手段は知ってるが、
 あの時は素材がなかったからな」

「じゃあ死ななかったのはついてましたね」

「まったくだ」

「実は死にたかったんと違います?
 自分を慕う女の子に救われちゃって残念とか」

「あたり」

「あー、嫌だ。中年の自殺願望ですか。
 やめてくださよ?
 提督みたいな人、死ねないんですから」

「……何故そう思う?」

「小悪党って大抵綺麗に死ねないじゃないですか」


苦笑するしかない。

「終わったぞ」

そうこうしていると、なんとか組み込みを終えた。
けれど、なかなか明石は上着を着なかった。

「まだ何か?」

「いや、毎度ですけど自分の体がこうも変わるのかーって思いまして」

たゆんたゆんと乳を揺らしながら言いやがった。
下品だっての。


「限定的な若返りと不老だからな。
 いつぞや会った球磨は40越えの元女性刑務官だった」

「おお、強者」

「実際、恐ろしく強かった。鉄拳で長門を吹っ飛ばしたからな」

ガチである。

「凄え」

ふと明石に聞きたくなった。

「なあ」

「はい?」

「艦娘なんてならなければ良かったんじゃないか?」

私が言うと、明石は振り向いた。
彼女は嫌そうな顔をして、タバコを取り出し答える。


「それは野暮じゃないですか、提督」

「だからってな…」

「まあ、私にも理由あるんですよ、理由。
 忘れてないでしょ?」

明石はそう言うと、タバコに火をつける。

「ねえ提督」

紫煙を燻らせ、彼女は言う。

「何さ」

「女が男に真実を話すと思います?
 息子にならいざ知らず」

「あー…。恋人とかはダメなのか?」

「あったりまえでしょ。
 好きな男だから媚び売って化粧するんですよ?
 他の女に渡してたまるかって、ね。
 化粧ってのは攻撃ですよ」

「女は面倒なだな」

「いつまでもガキの男よりマシですね。
 ただそのガキの下敷きになる女の方が多いですけど」

「下品極まる断言だ」

「なんなら乗ってあげましょうか?」

「いらん」

今夜はここまで。
R-18ネタさーせん。

おつ

おつ

>>1です。

すこし投下します。


敵はこなかった。
肩透かしを食らう形となり、
私は大淀と由良から笑われた。
そうして待機している間だった。
…新しい任務が降った。
大使館からわざわざ駐在武官が訪ねてきて、
私に伝えたのは意外な任務だった。
艦隊を貸せとの依頼である。


「…閣下は、私の艦隊に何をご希望で?」

ラウンジでアイスコーヒーを飲みながら聞くと、
武官は答える。

「インド洋沖に空母水鬼や戦艦棲姫が突如出現した。
 普通の艦むすなら太刀打ちできない相手だとは君も理解してくれるね?」

クソ暑いのにも関わらず、
装飾付きの制服姿の武官を見ながら、
私はアイスコーヒーをかき混ぜる。

「ええ」

「早急に、そいつをぶっ叩く必要が出た。
 そのための露払いとして、君の艦隊を借りたい」

「どう考えても制空が空母一隻では無理です」

私が返答すると、武官は意外な言葉を出す。

「展開している他艦隊より一隻回す。
 本国からも艦隊の支援を要請している。
 頼まれてくれないか?」

その回答を聞いてはどうしようもない。
いい気分ではないが、断れる筈がない。
私は自分の艦隊にどう説明した物かと悩んだ。


ラウンジに自分の艦娘を集める。
武官は他の提督と会う約束があると、
早々と立ち去っていた。

「…新しい任務が下りた。対姫級のための露雨払いだ」

私が言うと、大淀が質問する。

「それは雑魚をこちらで潰せと?」

「ああ。無傷で本隊を送り届けるのが我々の仕事だ」

由良が尋ねてきた。

「戦艦なしでですか?」

「空母が一隻回されるらしい。
 おそらく対戦艦戦はないだろう。
 遭遇はあり得るかもしれないが…
 基本的に私たちは駆逐や軽巡、潜水艦をひたすら沈めるだけだ」


「……」

由良の表情が暗くなる。
逆に呑気そうに、夕立が言う。

「みんな敵でしょ?全部沈めるだけなら簡単っぽい」

「夕立」

天城が諌める。
私は、無言の涼風を見つつ言った。

「開始は明日の夕方以降、追って連絡はする」

解散の号令を出すと、明石が私の肩を叩く。

「私は除け者って理解で大丈夫ですか?」

「そうなるな」

「なるほどなるほど」

明石は私を見て言った。

「護衛しますよ、提督サマ」

>>1です。
連休対応でしたが、投下します。


作戦決行の前日だった。
武官から連絡があり、ホテルの前に出る。
事前に誰が来るかは分かっていたが、
正気を疑う人事だった。

タバコが吸いたかったが我慢して、
ホテルの車寄せで待っていた。
ロータリに入ってきたタクシーが止まる。
その後部座席から武官が降りる。
続いて、回されてきた空母も降りてきた。
金髪の白人女だった。

「グラーフツェッペリンだ、よろしく頼む」


私は何の因果だと思っていた。
彼女が手を差し出すので、
しかたなく手を出した。
細い手だった。
武官はその握手が終わったのを見てから言う。

「では確かに引き渡した。質問はあるかね?」

「一つ」

私は彼に質問する。

「どうして彼女が回されるんですか?」

「何、ただの偶然だ。
 激しい戦闘が予想される本隊に、
 彼女を預けるわけにもいかんだろう?」

そう武官は言うと、車に戻る。

「では健闘を祈るよ」

陸亀のクソどもめ…
私はその背中に怒りを覚えた。


作戦の概要を伝え、出撃の見送りに行く。
何人かは振り返り私に手を振った。
その手を振り返すことなく、
私は敬礼していた。

今回私に出来る事は何もない。

ただただ無事に帰ってくることを祈るばかりだ。
そのまま待たせていたタクシーに戻ると、
明石が車内でビール缶を開けていた。
…どこで買ったのだろうか?


「お前、正気か?」

そう言うと、明石は冷たいアルミ缶を私に向ける。

「いやいや、提督も景気付けに一杯」

「いらん」

私は隣に座る。
運転手に出すように言うと、
明石は私に言った。

「酷い顔ですから、酒でも入れてください。
 辛気臭い。ああ嫌だ」

「ズゲズゲ言うな」

「事実でしょ?何が、そんなに怖いんですか」

「……」


明石は、もう一本の缶を開ける。
運転手が嫌な顔をしたが、
明石はしわくちゃの紙幣を投げて黙らせる。

「姫を相手にするわけないでしょ」

明石は、缶に唇を付けながら言う。

「それでも合わせたくはない」

私が言うと、明石は笑う。

「あれに成るには、条件が要りますよー。
 満たしてる子の方が多いですが」

「そうだな」

私が言うと、彼女は缶を振る。
水音が車内に溶けていく。


「提督、自分がおかしいって理解してますよね?」

「してるさ」

「もしも、提督の最悪の予想通りになったとしても、
 そしたら一緒に死んであげればいいんです。
 女の亡霊ってのはね、
 一人が寂しいから道連れを求めるんです。
 健気でしょ?女って」

「男より重いな」

「そうですよ。
 どんな男も女の股から出てくるんですから。
 男より…子供の分だけ重いのが自然です」

「理に適ってるな」

「それに、先生ならやれるでしょ?」

明石は私を見る。

「さあ、なんのことだか」

「……いいですねえ、そう言うとこ。
 実に男性らしいですよ。見え透いた嘘」

私はタクシーの窓を開けた。


「なんだい夕立、後ろばっかり振り返って」

「…別に関係ないっぽい」

涼風の言葉に、夕立は返事を返す。
が、実際後ろが気になるのは本当だった。
正確には提督から離れるのが嫌だった。
うまく言えないけど、嫌な感覚があった。

「夕立、涼風」

由良から注意される。
夕立は、由良を見てから答える。

「わかってるもん」

彼女がそう言う。
わかってる。
これは全部、ただの心配。
…終わったら提督さんに思いっきり甘えよう。
漫画を買ってもらって、映画を膝の上で見る。
提督さんが嫌がっても、やるのだ。
そうすることに、夕立は決めた。
そこまで決めた夕立は、
旗艦の大淀の言葉を聞いた。

「…気をつけてください。既に敵の勢力下です」

見れば、遠くに影が立っている。
夕立は考えることを止め、
武器を構えた。


天城はほっと息を吐く。
戦闘そのものは長引かなかった。
…自分以外にも艦載機を扱える人間がいるだけで随分負担が減る。
大淀も由良も謙遜するものの、
彼女らが水上機を扱えることを彼女は知っていた。
また、臨時とはいえ…自分以外の正規空母がいる。
グラーフの参加もあり、彼女たちの作戦は無事成功した。
自分達の戦闘に巻き込まれることなく、
本隊は姫級へと向かったとの連絡も受けた。
これから自分たちに出来ることは待つだけである。


「…終わりだな」

艦載機をカードに変えながら、グラーフが言う。
天城もまた、自分の艦載機を式神として戻していく。

「ええ、粗方狩りました」

彼女が返事を返すと、グラーフは呟く。

「本隊がうまくやってくれるといいのだが」

海域からの離脱命令は、
まだ彼女達には降りてきていない。
今、彼女達を指揮するのは彼女たちの提督とは別の少将であった。
少将は本隊の敗北も考慮し、
今だ彼女達を作戦海域に留めていた。

「ですね」

天城は、そう言いながら仲間を見る。
現実的に見ても、
損害は軽微な方だ。
由良と大淀、
そして夕立が小競り合いで小破しているものの、
自分とグラーフは無傷。
なにより自分たち空母の攻撃の要である艦載機、
こちらの喪失も極少数に止まっている。
弾薬類も、全員あと数度の戦闘ならこなせるだろう。


「涼風、魚雷分けてくれる?」

ふと、夕立が涼風に言う。

「…もう?あたいも余裕ないんだけど」

涼風が困った顔をして夕立を見る。
それを聞いて、大淀が言った。

「私の予備を使ってください、夕立」

「ありがと、大淀」

夕立は大淀から、魚雷を受け取る。
それを見て由良が咎めた。

「撃ちすぎです、夕立」

「むー」

「オーバーキルする必要はないんです」

「わかったっぽい」

ちゃんと聞いているのか定かではないが、
夕立はそう言ってから魚雷を装備する。


そんなやり取りから、
天城は視線を戻す。

「念のため、索敵します」

そう彼女が言うと、大淀が答えた。

「お願いします」

>>1です。
落ちてました。
今夜分を全て落とします。


由良は呼吸を整える。
作戦は無事に終了した。

自分たちの戦闘終了後、
本隊は被害を出しつつも敵主力を倒したらしい。
幸運なことに鹵獲と『ドロップ』も確認したそうで、
作戦としては大成功だろう。

主力艦を失った敵方は撤退を開始した。
あとは散発的な戦闘を残すのみ。
…少将の指揮を受け取った大淀の言葉だ、
まず間違いないだろう。
そう由良は判断した。


陣形を組みつつ帰還することにした。

「褒めてくれるかな、提督さん」

夕立が、そう呟く。
由良はそんな彼女に言う。

「してくれる筈ですよ」

由良の言葉を聞いて、夕立の表情が緩む。
後ろで涼風が言った。

「それより入渠したいね」

同感だった。
疲れていたし、
軽微とはいえ損害もある。
また海水を落としたいという、
何時もの欲求もあった。
塩水を吸って、髪がごわつく。
制服の生地は塩で随分と硬くなっていた。


「お腹もへったっぽい」

「いいねえ」

「晩御飯。カレーね、カレー!
 ねえいいでしょ大淀?」

無事に戻ることが出来たのだと思うと、緊張も解ける。
だからこそ、夕立や涼風から気が抜けたのも理解できる。
注意しようと思ったが、やめた。
だが、話しかけられたのに大淀は答えない。
…大淀の速度が鈍る。

「大淀?」

由良は怪訝な目で大淀を見た。


彼女達は距離を開けて航行していた。
だからこそ、
旗艦の彼女の減速に合わせ皆、足を緩める。
やがて大淀は完全に停止した。

「どうしたんだい、大淀」

不審に思って涼風が声をかけた。
大淀は、震える声で言った。

「提督が…襲われたそうです」


嘘だと思いながら、
涼風達はホテルに向かっていた。
大淀が受け取った連絡は、
提督が襲われたと言うものだった。
ただ、
涼風はその程度で、
あの提督が死ぬわけがないと考えていた。
提督は意味不明で、
だからこそ信頼できるのに。
…しかし、旗艦の大淀が嘘をつく筈もない。
そう考えると、彼女の脳裏に最悪の未来が浮かんだ。
彼女は事情を知る武官の監視の元、
仲間と一緒に現場に到着した。


「…なんだよ、それ」

ホテルの部屋は酷い状態だった。
提督はテロで殺されたのことだった。
爆発と、火災の影響だろう。
真っ黒に煤け、調度品はめちゃくちゃだ。

「嘘よ!」

最初に夕立が叫んだ。
彼女は武官の制服を掴んで言う。

「ねえ、提督さんは何処なの?
 無事なんでしょ?!」

武官は、そんな夕立を見ながら言った。

「残念だが…、君たちの提督は死んだ」

へたりと、由良がその場で崩れ落ちた。
天城は真っ青な顔で、
大淀の表情は固まったままだ。
夕立が泣き始め、
我慢していたのに自分も泣いていた。

こんなことがあっていいの?
そう思ったけれど、
事実だった。
悪い夢だと思いたかった。
けれど、
いつまで経っても涼風の悪夢は覚めなかった。

>>1です。

今夜はここまで。
書き溜めも減ってきましたので、どうしましょうかね。

①皆殺しでドーン!
②やっぱハッピーエンドだろ?
③メリーバットエンドって良くね?

あと18禁解禁しないほうがいいんでしょうか?

18禁は>>1の気分次第でええよん
ビターエンドがみたい

どうするっていっても全部って言われるのがオチだから自分の好きなように決めればいいさ


>>1の書きたいエンドが見たい

18禁はここでは書けなくなるみたいね

■ 【重要】 エロいSSは新天地に移転します
■ 【重要】 エロいSSは新天地に移転します - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462374938/)

②でひとつおねがいします

②でお願いします....!

ハッピーエンドだろ!
18禁みたいでち…

>>1です。

みなさんあざっす。
ビターエンド大好きなので、なんとか頑張ります。

>>157

マジっすか?嫌な時代になりました。
松茸とアワビでもアウトっぽいっすね(直球)。


気分が悪くなる景色を見た後で、
グラーフは自分の艦隊に戻ってきた。
顔見知りの艦が作戦の成功を賞賛するが、
彼女の気は晴れるはずがない。
…ただの一度とはいえ、
共闘した相手の提督が死んだのだ。
そんな悲惨な光景を見てしまえば、
彼女の心にも来るものがあった。


気分が悪い…
あてがわれた部屋に戻った彼女は、
ベッドに横になる。

…もう、今夜は寝てしまおうか。

そう彼女が思った時だった。
部屋を誰かがノックして、
自分に電話だと伝えた。

「…電話だと?」

伝えてくれた相手に聞いたが相手が黙っていてくれとの事だった。
出ない事も考えたが、彼女は受話器を取ることにした。


オーナーの趣味らしい。
時代の入った電話ボックスの受話器を取る。

「君か」

声に覚えはあった。
電話の相手は蓮っ葉な同僚だった。

「元気で何より。どう、インド?」

「問題な…いやあったな」

彼女が言うと、電話相手は聞き返した。


「どう言うこと?」

「君を助けてくれた提督が死んだ」

「悪い冗談ね。あの人が死ぬって?」

「事実だ」

電話の向こうが無言になる。

「そう、当然かな?
 恨み買わない方が不思議だし」

「よく続投出来ていると不思議に思ったが…
 こんな終わりだ。
 何か思わないのか?」

グラーフは、相手の心情を声から測ろうとした。
だが無駄だった。
女の声は何一つ変わらない。

「そうね。
 で、貴女どうするの?」

グラーフの質問に、女は質問で返した。
彼女は少し考えたが、
気のきいた言葉は浮かばなかった。



「しばらく待機だ」

そう端的に事実を告げると、女は言う。

「そ、気をつけてね。じゃあ、また」

「わかっているさ」

返事のないまま、電話は切れた。


涼風はベッドの上で膝を抱え、
仲間を見ていた。
あの後、自分たちは新しいホテルに移された。
待機命令を受け、もう三日。
だが未だ解除されない。
今彼女たちは、臨時の提督代理である大淀の指示待ちだった。

その大淀だが、今後の行動を武官と打合せている。
その事を思い出した彼女は、
ずっと枕を抱きしめたまま動かない夕立を見た。
…顔を埋めているため、表情は分からない。
けれどずっと泣いてたことを涼風は知っていた。

そのまま、由良を見る。
彼女は椅子に座ったまま微動だにしない。
提督が死んだ時から同じ本を読んでることを、
涼風は知っていた。

最後に、涼風は天城を観察する。
天城は視線を床に向けており、その顔は暗く青い。
髪が乱れていることに涼風は気づいた。


部屋のドアが開く。
憔悴した表情の大淀が入ってきた。
ただでさえ白い顔は、真っ白。
目の下のクマが心労と疲れを主張していた。

「…3日後、臨時士官の指示で帰国します。」

淡々と大淀が言うと、
由良と天城が顔を上げた。
いい顔はしなかった。
だが…その言葉で、夕立が唐突に枕を投げ捨てた。

「嫌だ!」

バスンと羽毛枕が床にぶつかる。
ベットから飛び降り、
泣き腫らした目の夕立は、
大淀の服を掴んで突っかかる。

「提督さんを殺されて帰れっての?
 冗談よして!!」

ギリと大淀が奥歯を噛みしめる。


「命令です」

「ふざけないでよ、優等生!」

夕立の八つ当たりに、
ついに大淀が手を振りかぶる。
それを、由良が止めた。

「大淀」

だが、大淀は感情の置き場に失った形となる。
そんな彼女は由良に怒りのまま言葉をぶつけた。

「貴方にその資格ありますか?」

さっと、由良の顔が凍りつく。
由良の唇が痙攣したように動く。
大淀は、まだ感情を収められなかったのか、
失言に気づいたようだが黙っていた。


「違う、私はそんなこと…」

由良が、そう言うものの、
最後まではっきり言えなかった。
放置された夕立が、
主張するかのように感情のまま叫んだ。

「事実でしょう?
 まんまと罠にかかったのは誰よ?!」

由良が夕立を見る。
夕立は引かないようだった。
剣呑な雰囲気に、天城が椅子から立った。

「止めて下さい。3人とも!」


「怒りの矛先を向け合うのは、
 止めてください。不毛です」

最初に大淀が夕立の手を払った。
夕立は赤い目でそんな大淀を睨む。
由良は二人から目を背けるようにして一歩引いた。
涼風は、そんな修羅場を見ていた。
やがて、彼女は大淀に尋ねた。

「なあ、大淀」

「なんですか」

青い顔が向けられる。
涼風は、そんな大淀を痛ましく思ったが、
何も言えなかった。
代わりに、皆が触れなかったことを確認する。


「やっぱり明石も……、
 そうなんだろ?」

涼風の言葉に、大淀は頷いた。
彼女は眼鏡に触れる。

「ええ、敵勢力に排除された模様です」

沈黙が降りる。
それ破ったのは夕立だった。

「どいて、大淀」

「何処に行くんですか?」

部屋を出ようとした夕立を、
大淀が引き止める。
夕立はそんな大淀に軽蔑の混じった視線を向ける。
それから彼女は宣言した。


「決まってるわ。
 提督さん殺したヤツを殺しにいくのよ」

その危険な発言に、
慌てて涼風は立ち上がる。

「やめろ、夕立!」

涼風の声に、夕立は振り返る。

「なんで止めるの?悔しくないっぽい?」

「誰がやったかもわかんないだろ!」

「悔しくないの⁉︎」

「悲しいさ!だけど誰がやったかもわかんないだ!」

そう言って始めて夕立は、足を止める。
そのまま彼女の顔が歪む。頬が紅潮し、肩が震えた。

「じゃあ、教えてよ。私はどうすればいいのよ⁈」

わんわん泣き始めて、
涼風も耐えられなかった。
気づけば自分も泣き始めていた。
どうしようもないことは分かっていた。
けれど涙が溢れるのは止まらなかった。

今夜はここまでです。
みーんなヤンデレ。

やったー!待ちに待った、ヤンデレだー!!

>>1です。

今夜分を投下します。


駆逐艦二人が泣き疲れて眠った後、
天城は自室に戻ってきた。
ぼんやりベッドに横たわり、
彼女は高い天井を見る。
皆、疲労していた。
だからこそあんなにも強い感情の爆発を、
夕立は見せたのだろう。
それを天城は羨ましく思っていた。

…自分だって、
こんな結果になるなど思わなかった。


「提督」

尊敬はあった。
信頼もあった。
だからこそ、
提督の死は彼女にも堪えていた。
もっとも、
その程度が軽いことを天城自身理解していた。
大淀と由良。
あの二人は、
涼風や夕立のように、
自分より何倍も傷ついているのだろう。
そう思うと、自分は年長者として何も出来てないと彼女は自己嫌悪した。
だが……それよりも濁った思いが自分の中にあることも、
彼女は気づいていた。


「……」

疎外感と、羨望。
そして不在になって知った、
提督への憧れ。
天城は認めたくない思いを抱えていた。

あの人は、もういない。

明日以降、おそらく提督の後任が来るだろう。
名も知らない彼の元で、
まだ自分は戦わなければならない。
信頼などない状態で、だ。
そのことを考えると、天城の気分はさらに沈む。
そう冷静に考えてしまう自分、
そして戦わなければいけない、
我が身の宿命を思うと仕方なかった。

「…沈めばよかったんでしょうか」

聞けば、本隊から翔鶴が一人沈んだそうだ。
彼女は満足して死ねたのだろうか。
そんなことを考えているうちに、
仲間と同じく疲れていた天城の意識は溶けていった。


赴任地であるインドの大地に、女は両足で立った。
寒いほどの快適な空調は空港まで。
いや、飛行機を降りた時に終わった。
彼女の鼻はこの土地の風を感じていた。
香辛料と、獣の匂い。
女は強い日差しを感じながら、
古びたタクシーを拾った。


運転手はなまりの強い英語を話した。
なんとか目的地を告げ、
面倒な値段交渉を済ませた女は、窓の外を見る。
…不思議なクニだ。
歴史と技術、旧習と神秘がこれほど混在した土地は他にないだろう。
道を横切る牛のせいでタクシーは止まった。
女は鮮やかな服を着た女子供を横目にやりながら、
ノートパソコンを開いてメールを確認することにした。


会社員の女は、仕事でこの土地にやってきた。
日系の企業、取引相手との交渉である。
普通なら空港まで迎えが来ても良いのだが、
なんらかの理由があったのだろう。
担当の営業マンから迎えにこれなかったことへの詫びが、
再度メールできていた。
返信を返すことにした女は、なめらかにキーを打ち始めた。


揺れる車が、敷地に入った途端揺れなくなった。
舗装された道に入って直ぐに建物が見えた。
女は大きな工場を見る。
やがて、タクシーは工場の入り口前で止まった。
女は紙幣で支払いをすませると、ドアを開けた。
埃っぽい風が吹いており、
女の髪を揺らした。

「ようこそ、長旅すみません」

待っていたのだろう。
玄関脇に日焼けした男が立っていた。

「ええ。ちょっと疲れました」

「暑いでしょう?
 さあ、中へ」


男に言われるがまま、女は中へと入る。
応接室に入ると、
すでに汗をかいたグラスが机の上に用意されていた。
そのアイスコーヒーを女にすすめつつ、
男は名刺を取り出す。
女もまた規則に則り、男と名刺を交換した。
男の名刺は、上質紙に特徴のない明朝体で氏名と役職が刷られていた。
女はコーヒーで濡らさぬよう、
また名前と役職が見える位置に名刺を置いた。

「すみませんね、来ていただいて」

男はハンドタオルで汗を拭いながら、女に言う。

「いいえ。良いお取引のためですから」

男は頷き、自らのコーヒーを手にする。


「いいえ。良いお取引のためですから」

女が言うと男は頷く。
その後で彼は自らのコーヒーを手にする。

「少しづつですが、良い時代に戻りつつあります」

「戦線ですか?」

「ええ。海路のコストも下がり始めている。
 これも我が国をはじめとした各国の貢献のお陰です」

「そうですね」

女もまた、コーヒーを口にした。
味よりも冷たさが、まず心地よかった。

「では、始めましょうか」

男は資料を取り出す。
女も仕事だと、意識を切り替えることにした。


そこから、商談の話はスムーズに進んだ。
男の会社と、
女の会社の落とし所はすぐに見つかった。
懸念していた話が滞ることもなかった。
男は上機嫌で仕事の話を切り上げると、
話題を変えた。

「そういえば、知ってますかな」

「何がです?」

「ラバウルの提督の不審死ですよ」

女は記憶を探った。
ニュースにもなっていた。
前線を指揮する将校が一人、不審な死に至ったと。
ラバウルの将校ではなかったか。
女は、どこかの企業の子息だったことを思い出したものの、
それ以上覚えていなかった。


「いいえ。
 陰謀説等ささやかれてますが…
 私はニュース以上のことは」

女が言うと、男はコーヒーを飲みながら話し出した。

「でしょうな。
 では、我が国にが大本営に払っている金は知っていますかな?」

「支出が倍以上になったと」

「そうです。
 我々としては、運輸コストの増大は見逃せません。
…護衛してもらっている身ですが、
 一市民としてはシリビアンコントロールを考えざるをえないでしょう。
 いたずらに大本営が艦娘を増やすのは如何なものか」

女は、おやと思う。

「事実だと、私も思います」

政治的な話はしたくないと思っていたが、
女は話を合わせることにする。
そんな女の内心は知らず男は続けた。


「…ラウバルの彼の訃報は実に残念でした。
 彼は言っていました、正しい形に戻すべきだと」

「正しい形?」

女が質問すると、男は答える。

「ええ、大本営に護衛など依頼しなくてもいいような輸送を作るべきだと」

女は男の話の焦点をわからずにいた。
大本営による海運保護を否定したところで、
女には深海に襲われる船しか想像できなかった。

「輸送に危険が伴いませんか?」

だからこそ、女が疑問を口にする。
男は、そんな女に言った。

「護衛が軍の手になくていいのです。
 我々の手で自衛が可能になればいい。
 そう氏は話していました」

「艦娘の民間運用ですか」

女はそれでやっと理解した。
なるほどそうすれば確かに、
運輸コストが下がる可能性が出てくる。
現状は大本営の手による一元管理だ。
市場を開放すれば、
今の護衛費も下がるに違いないだろう。

「ええ。ですが、それも叶わない話となってしまいました」



男は残念そうに言う。
女はそこで、ラバウルの死を男が惜しんでいる理由に合点がいった。

「…もう難しいでしょうね。
 推進派がラバウルの提督だったなら」

「そうです。お話しするのは、この先です」

「と、言いますと?」

女は男を見た。


「彼は暗殺された。
 と、私は考えています。
 それも軍の息のかかったものに」

「…ですが、病死だと」

「それは表の発表です。
 氏は市民の手に武力を戻すべきだと考えていました。
 しかしながら、大本営は許さなかった。
 …悲しいかな、不正に艦娘を操作する輩がいます。
 また、その術式を悪用する者も…
 だからこそ大本営は氏を疎んだのでしょう。
 氏の志は在野の悪意とお上の猜疑心で潰された」

女は男が、何故自分にこんな話をするのかわからなかった。
そのことを女が言うとうとすると、男は言った。


「お話しが、見えませんが…」

「すみません。回りくどくて。
 随分色々な国が動いているようです。
 ご注意くださいと思ったまでです。
 国民を守るための軍も、今や信用できませんから。
 下手すると大本営の工作部隊なども来ているかもしれません」

「記憶しておきますね」

女はそう答えつつも、男の心配は杞憂ではないかと思っていた。
空が落ちてくることを恐れるようなものだ。
そんなことが自分にあるとは思えない。

「ええ、お気をつけて。
 御社は艦娘関連の部品も扱っていますからね。
 …つい先日も、末端の士官が一人殺されたばかりですから」

「気をつけます」

女は、そう言うとグラスを手に取った。

今夜はここまで。
お願い致します。

頼むからハッピーエンドがいいわ…

乙でした
気の向くままにご自分の納得の行く結末でお願いします

乙乙
どうなるんだこれは

>>1です。

今夜分を少し投下します。


由良は、自室で本を手にしていた。
だが、どれだけ意識を向けようとしても内容は入ってこない。
なんども読んだ本である。
その筈なのに筋が思い出せない。

「……」
 
突然、激情に駆られた。
その薄い文庫本を、
彼女はベッドに叩きつけた。
風圧でページがめくれ、
シーツの上に表紙を背にして落ちる。


「……っ!」

どうしたいのか、
自分でもわからなかった。
だが、思いはどれほど涙を流しても、
晴れることはなかった。

…提督が死んだ。

その事実を認めたくないのに、
3日後には新たな提督が着任するという。
彼女には、それが耐えられなかった。


「てい、とく」

気づけばまた泣いていた。
もう何度泣いたのか分からないけど。
先生がいない現実を認めたくない。
けれど、時間だけは過ぎていく。
先生はいないのだ。

自分が、先生の敵の手であんな行動を取らなければ…

そう何度、悔やんだろうか?
由良は痛くなるほど手を握りしめる。


「せんせい、わたしは…」

好きだった。
愛してもらいたかった。
だから、今死にたかった。
けどこの体では死ねない。
由良は呆然と立っていることしか出来なかった。

すみません。
仕事の対応で、落ちます。

…重い女ばかりだこと

おつおつ

愛が重い娘はいいよな!

>>1です。

連休明けで今夜分を投下します。


部屋に知らない男が訪ねてきた。
真新しい制服の彼は、
所属をグラーフに名乗る。
ビスマルク達を助けた男の後釜は、言った。

「ご挨拶しとこうと思いまして、
 戻りでご一緒になるでしょうから」

「そうですか」

グラーフは、そう言いつつ男を観察する。
若い。
成人してから5年も経っていないだろう。


「では、また」

男はそう言うと、立ち去る。
グラーフは律儀な男だと思いながら、
読みかけの雑誌に戻ろうとした。
そこで、再びドアがノックされる。

…あの男か?

再度何の用事だと思うと、
仲間の駆逐艦であった。


「お電話です」

彼女はそう言う。

「電話?」

「ええ、またビスマルクさんじゃないですか?
 誰がかけてきたか言うなと、
 私におっしゃいましたから」

…そんな事をする相手は、
確かに彼女しかいないだろう。
あの蓮っ葉は人を小馬鹿にすることに熱を入れている。
ビスマルクの中でも、アレは変人の部類だろう。

「すまない」

グラーフは礼を言うと、
駆逐と共にホテルの電話を取りに行った。
案内を終えたところで、駆逐は引っ込む。
グラーフは、年代ものの受話器を取った。


「はい」

そう、声をかけたのだが相手は答えない。

「おい、悪い冗談はよせ。
 通信費はバカにできないんだぞ、ビスマルク」

そうグラーフが言うと、相手は男の声で言った。


「午後、ホテルの外のベンチに来れるか?グラーフ」

「誰だ、貴様?」

そう口にすると、男は答えない。
代わりに落胆したような声で、男は言った。

「ならいい。
 お前の選択を期待している」

そのまま、電話を男は切る。
彼女は、長い事受話器を握っていた。

…誰だ?

彼女の脳内を様々な思考がよぎる。
だが、いつまでたっても彼女の脳細胞から答えは出なかった。


キラキラとした目をした若い男だと、由良は思った。
彼は提督の艦娘をホテルのラウンジの一角に集め、自己紹介した。
特徴のない名前だった。
背格好もごく普通であった。
由良は、ちらりと仲間を盗み見る。
真面目に聞いているようなそぶりを見せるのは、天城だけだ。
大淀でさえ、心ここにあらずと言った状態だ。
涼風と夕立は言わずもがな…
否、初めから聞いてなどいないのだろう。
夕立はあくびを噛み殺していたし、
涼風はうつむきながら枝毛を探していた。
男は話し終えると、「よろしく頼む」と言った。
由良は礼儀の上から返事を返した。
皆も同じように返事を返したが、
ひどくやる気のないものだった。
若い男は、その態度に困惑したような顔をした。


だがそれでも男は、職務に忠実だった。
彼は任務は3日後だと言い、
続けて辛いだろうが頑張ってくれとも付け加えた。
その言葉に、夕立が突然激昂した。

「貴方に何がわかるのよ!」

突然声を張り上げられた事で、男は目を白黒させる。
男は何かを言おうとしたが、夕立は怒りで肩を震わせている。
慌てて大淀が止めに入った。
それは義務的な動作に由良には見えた。


「申し訳ありません。夕立…どういうつもりですか?」

大淀の叱責を受けても、
夕立は怒りを隠そうともしなかった。
彼女は大淀を睨みつけ、それから叫んだ。

「嫌い、嫌い、みんな大嫌い!
 そうよ、みんな提督さんのことどうでもいいのよ!」

夕立はそのまま、
取り押さえようとした大淀の手を振りほどく。
彼女は由良を突き飛ばす。
止めればいいと、頭で理解していた。
普段ならば、自分は夕立の袖や襟を掴む事だって出来たはずだった。
だが、彼女の手は夕立に触れもしなかった。
伸ばした指はただ空を切った。


___どうでもいいのよ!

夕立が叫んだ言葉で、
ひどく自分が動揺してしまったことを、
由良は他人事のように感じていた。


男は、夕立を咎めようともしなかった。
彼は休んでくれとだけ言うと、
自室へと戻っていった。
その背中を見ていた由良たちだったが、
ぽつりと涼風が言った。

「あたい、夕立探してくる」

そのまま涼風は返事も聞かずに歩き出す。
それを由良は見ていた。
やがて、天城が言う。

「…様子を見てきますね」


そうして天城も出て行ったところで、
由良は黙ったままの大淀を見ていた。
大淀はストンと、ソファーに座る。
と、そのままポケットから何かを取り出した。

タバコと、
すすけたオイルライターだった。

由良が意外に思うと、
大淀はぎこちない手つきで火を付ける。
そのまま紫煙を吸い込み、
大淀は咳き込んだ。
涙が浮かんでいる。

今夜はここまでです。
いやーギスギスしますな(嬉)

いいぞぉ~これ

提督が死んだということに関して証拠が未だ出されず、言葉のみでの構成事実
……希望はある、筈…きっと……

>>1です

お待たせしました。
今夜分を投下します。


由良は、何かを言おうとした。
けど言いたいことがわからないからか、
言葉が出ない。
そんな由良の気配を感じてだろう。
大淀が話しかけてきた。

「何も言わないんだ」


「何を言って欲しいの?」

口から出てきたのは強い言葉だった。
そんなことを言いたくなかった。
由良の内心とは真逆の言葉を受け、
大淀はハっと笑った。
嘲笑と同時に侮蔑を由良は感じた。

「何がおかしいのよ」

「なんでもない。
 結局、貴女…
 お姉さんの位置になれなかったんだから」


大淀の挑発を込めた言葉に、由良はカチンと来た。

「訂正して」

「図星でしょ」

右手にタバコを挟んだ大淀に、
由良は詰め寄る。

「何がわかるのよ!」

「そう、わかんない。
 私は貴女のことなんてちっとも」

ぐっと、由良は大淀の右肩を掴む。
眼鏡越しの冷たい視線と目があった。

「大淀、貴女!」


そんな状況だというのに、
大淀は二口目のタバコを吸う。
由良は苛立ちから、
彼女の肩を握る指に力を込める。

「…痛い。離してよ」

大淀が顔をしかめた。

「喧嘩を売ったのはそっちでしょ?」

「そうね。
 私も思うところがあるから」


大淀はそう言うと、紫煙混じりの吐息を吐く。
陶器の灰皿に大淀は、
まだ中程も燃えていないタバコを押し付ける。
ぽきりとタバコは折れる。
そのまま、大淀の右手が動いた。
パンと、乾いた音がした。
由良は自分の頬をはられたことを知った。

「これ。あの人を守れなかった分」


痛みより屈辱感からカッとなって、
由良は大淀のタイを掴む。

「あんた!」

「怒れるじゃない。そうやって」

涼しい顔で大淀は言う。
由良は、感情のまま言った。

「何よ、大淀!
 貴女があの時いれたの?
 提督さんのそばに!」

その言葉に大淀は感情を露わにする。
血の気の失せた彼女の顔に、赤みが帯びる。
夕立の時の比ではない大きな声だった。


「いたかった!
 誰よりも!!
 先生を危険にしたのは誰?」

「だったら…!!」

続きを言う前に、大淀が断言した。

「だから同罪なのよ、私たち。
 違う?
 クッキー缶一つ分すら、あの人は残らなかった」


由良は彼女のタイを掴み続けることができなかった。
提督の屍体が満足に残らなかったのに、
彼の死亡が確認されたのがソレが理由だった。
あの人の亡骸で、
形が残っていたのは焦げ付いた右耳の破片だけ。
あとは時計くらいだった。
大淀は由良の手を払い、
首元に指をやりながら、言う。

「泣いてます、私も毎日。
 だってもう、あの人はいない。
 声も顔も、指も全部ぜんぶ、もう無い。
 もういない。いないんです」


大淀は首元を緩めると、
新しいタバコを手にした。

「……」

「違う?だから、由良。
 貴女には言いたいことあるんです」

「何をよ」

「私は逃げない。
 どれだけ時間がかかってモ…
 アノヒトヲコロシタヒトヲコロス」


大淀はそう断言した。
由良は、大淀を見る。
彼女の目が、さらに青くなっていた。

「……なんで私に言うわけ」

「同じだと思ったから、それだけ。
 あなたもそうでしょ」

大淀は、もう言いたいことを言い切ったのだろう。
由良は、何故彼女が自分に喧嘩を売った理由を悟った。
彼女は泣いてるばかりの自分が気に入らないのだ。
だから、こんな行動に出たのだろう。
そう由良は再びタバコに火をつけた大淀を見ながら思った。


「…一緒にしないで」

「そうね、あなたと私は違うもの」

「そうよ」

由良は、そう声を絞り出す。
彼女は自分の部屋に戻ろうとして、
由良は最後に一言言いたくなった。


「大淀」

「なに?」

「タバコ、絶対似合ってない」

由良が言うと、
大淀はすすけたライターを見てから言った。

「好きだったひとを忘れないようにすることの、
 いったい何処が悪いの?」


涼風は夕立を追いかける。
彼女はすぐに見つかった。
ホテルの中庭のベンチで座っている。

「…戻ろう」

そう言うと、夕立は涼風を見た。

「嫌。絶対イヤ」

「わがまま言うなよ」

涼風が言うと、
夕立はそっぽ向いて遠くを見ながら言った。


「提督さん以外の人なんてイヤなの」

「……」

言葉が出なかった。
実際、自分もそうだった。
提督以外、考えたくも無い。

「けど、あたいたち艦娘は……、
 それが普通なんだ」

涼風が言うと、夕立は目を細めた。
彼女の視線が自分にぶつかる。


「なら、そんな普通なんていらないっぽい。
 夕立、普通でなくていいもん。
 普通で苦しいなら、普通でなくたっていいもん」

「…だからって」

涼風は言葉がそこでつっかえた。
言葉が出ない。
自分でも、何を言おうとしたのか見失った涼風は黙った。
記憶の中で、提督の顔が浮かんだ。


「あたし、だって」

そう言った。
けどそこから言葉が出なかった。
夕立には伝わらない。
涼風は、それが悔しかった。
提督はからかっても、
何時でもあたしの気持ちをわかってくれた。
なのに、なのに。
もう提督は…
そう思うと、涼風は耐え難い寂しさを覚えた。

「涼風?」

夕立が涼風を見る。
涼風は涙を落としていた。


「…わっかんないよ、あたしも。
 イヤだよ。……認めたくないよ。
 先生じゃなきゃやだよ。
 でも、でもさ」

「……」

追いかけられたはずの夕立が悲しそうな顔をする。
そんな目で見ないで欲しかった。

「それでも、あたしたちは艦娘じゃんか。
 どうすればいいんだよ、これから」

夕立は黙り込む。
涼風は自己嫌悪を感じていた。
こんなこと言いたくなかった。
けど気持ちは止まらなかった。


「先生いなくて苦しいんだ。
 けど、みんな同じじゃないか。
 違うのかよ、夕立」

そう言うと、夕立は言った。

「でも、みんな嘘ついてるっぽい」

「嘘?」

「みーんな、涼風みたいに本当のこと言わないもん。
 大淀も、由良も、天城も。
 わたし悪いと思ってるけど…」

そこで夕立も言葉が見つからなかったようだ。
彼女は、黙る。


「だからって」

涼風が言うと、夕立は涼風に言う。

「涼風はズルいっぽい。
 そうしてるだけでも、
 提督さんに気にかけてもらってたから。
 私にはなかったわ」
 
「な…に?」

涼風は夕立を見た。
夕立は、言う。


「そうやって甘えて、
 提督さんに構ってもらえてた。
 どんな気持ちだったかわかる?」

「夕立、お前だってそうじゃんか!」

涼風は顔が熱くなることを感じながらそう言う。
そう指摘されても、
夕立は悪びれる様子もなく感情を破裂させた。


「好きだからだもん!
 涼風みたいに気づいて欲しいなんて、
 わたし思わないわ。
 夕立は提督さんに選んで欲しかった!
 大淀みたいに提督といたいとか、
 由良みたいに近くにいるだけでいいとか、
 天城みたいに理解されて嬉しいなんかじゃ無理だもん。
 わたしは提督さんがいいの!
 夕立が提督さんの一番でありたかったの!
 先生じゃなきゃやだっぽい!
 いっぱいいっぱい構って欲しい。見て、触って欲しかった!
 わたし、そうだった!」

そう、夕立は叫んだ。
感情の爆発で、緊張が解けたのだろう。
夕立は先程よりも小さな声で言った。

「でも、もう提督さんはいないのよ…
 だからって、みんな何もしないから嫌い。
 嫌いよ、大嫌い」


涼風は、夕立を見る。
…いいかけた言葉は、何も出なかった。

「部屋に戻ってる」

「勝手にすればいいっぽい」

涼風の言葉に、夕立はそう言った。
涼風は、夕立に背を向ける。
そうして歩き出して、足を止めた。

「…ごめん、夕立。
 私もそうしたいよ」

夕立は返事を返さなかった。
けれど、涼風はそれでいいと思いながら歩き出した。

今夜はここまでです。
はいはいヤンデレヤンデレ。

ヤンデレいいよヤンデレ

生き残ったヤンデレほど醜いものはないな

愛が重い・・・

愛は錨

>>1です。

今夜分を突っ込みます。


夕暮れ時だった。
天城は涼風とすれ違ったが、
夕立は見つけられなかった。
遠くへ行かないはずだ。
そう思ってはみたけれど、
彼女は夕立だったら、
やるのではないかと思い始めていた。
ぼんやり歩くと、誰かとぶつかる。
とっさに謝る。
…ふと、気になる人影が見えた。


「提督…?」

雑踏の中、彼の姿は一瞬だった。
他人の空似であるはずである。
彼は死んだ。そうわかっていた。
けれども、
知らず駆け出していることに天城は気づかなかった。
だが、かけてもかけても彼に追いつけはしなかった。
やがて息も上がり、天城は足を止めた。
汗が鬱陶しい。
息も上がりかけていた。


「何をやっているんですか…」

と、自分自身バカバカしくなった。
だが、それでも自分を責めることは彼女にできなかった。
もしも彼に会えたなら、そう思ってしまった自分がいた。
腕の中に飛び込めたなら。
そう思って、天城は自己嫌悪に陥った。


女が武官の邸宅を訪ねたのは、
夜も更けてからだった。
品の良さそうな奥方と、
一人っ子らしい令嬢が女を出迎える。

「ごめんなさいね、少し遅れるみたい」

「いいえ。むしろお招きいただきありがとうございます」

そう礼を言いつも、
女は何故遅れたのだろうかと訝しんだ。
そうして始まった食事に送れること30分、
慌てた様子で武官はやってきた。


「遅れて申し訳ない」

彼はそう言い、女は立ち上がって挨拶する。

「いえ、今日はお招きいただきありがとうございます」

「すまない。後任の士官を迎えに言っていたら遅くなった」

女は、取引先が話していたことを思い出す。
日本人のネットワークが狭いと見るべきだろう。
…そもそも提督が殺されるのがおかしいのだが。
女はそのことを黙って武官と握手を交わした。


「それ以外に、問題はないのでしょうか?」

女が聞くと、武官は言った。

「そうだと思いたい。
 イレギュラーばかりだ。
 姫が出る、士官が死ぬ」

武官は、席に着く。

「面倒ばかりですね」

女が相槌を打つと、
武官は疲れた横顔を少し見せつつ言った。


「全くだ。
 軍艦の小型化と深海どもへの対抗に成功したものの…
 その指揮が可能な人間が限定されるのはかなわん。
 得体の知れない妖精が見える人間。
 しかも、適性がある人間に限定されると言うのは面倒でしかない。
 羅針盤を回せるだけで軍人になれる…
 海どもは狂ってるとしか言いようがない」

「妖精ですか」

「機械仕掛けの艦娘を艦娘だとたしらめる要素だ。
 深海と同じく訳のわからない存在」

女も、艦娘技術には明るくない。
突然発生した深海に対抗できる機械仕掛けの女達。
女はそれ以上の理解をもっていなかった。
だからこそ、武官の話は興味を覚えた。


「どうお考えで、戦局を」

女が質問すると、武官は言った。

「我々の優勢だと思いたい。
 だが、敵は講和を結べる相手ではない。
 そこが最大の難点だ。
 そもそも意思疎通が不可能というのが、
 公式の見解だ。
 事実率いていると見られる姫どもは、
 ことらとの対話など考えていない…
 いや、そもそも親玉がいるのさえ怪しい。
 殺せど殺せど敵は現れ、我々は戦場に女を送り出し続ける」

武官は、世論と同じことを話した。
だが、そのあとで彼は一つ付け加える。


「ただ、あくまで…」

「はい?」

「噂だがね。
 艦娘と深海は表裏の関係ではないかと言われているようだ」

「それは?」

「深海が本来の姿。
 艦娘と言うのは、
 そんな相手に対抗するために生み出した存在だと。
 …となると同時発生的に各国が開発に成功した理由にもなる。
 各国の艦娘を調べれば、『始まりの艦娘』もわかるかもしれない」

「始まりの艦娘ですか」

「そう、その雛形さえ手に入れれば戦争が終わるとな。
 深海にしろ、艦娘にしろ、そのオリジナルさえ解き明かした暁には、
 彼女たちはもう海原に立つ必要がなくなる」

「面白い噂ですね。
 でもなぜ、始まりである必要があるんですか?」


女の質問に男は答えた。

「その女を調べれば、
 この世に存在するであろうあらゆる艦娘がわかる。
 その女を殺す手段さえ確立できたら、
 もう我々は人形に金を払わなくていい」

女はSF小説を思い出した。
あれは祖先を殺したから起きたトラブルを描いたのだったのか。

「…研究する価値はありそうですね」

女が言うと、男は楽しそうに話し出す。

「だろう?
 となると、大本営が一兵器である艦娘を一元管理しつづけるのは、
 それが本当ではないのかと私は考えてる。
 ラバウルの彼が殺されたのも、それが理由かもしれない」

気分が良くなったらしい。
武官は高そうな葉巻に火を付ける。


「なんにせよ、惜しい人材を無くした。
 彼の喪失で、様々なことが頓挫した」

「彼は民間での運用を考えていたと聞きました」

「私も同じことを考えていたよ。
 海のやつらばかりががでかい顔するのは、ね」

武官は、そう本音を漏らすと言った。

「仕事の話はここまでにしよう。
 食事を楽しもうじゃないか」


とある男は、自室で資料を見ていた。
前回の作戦は上々だった。
手に入れた敵の鹵獲も多く、
また『ドロップ』として艤装を手に入れたのも喜ばしい。
あの少将との密約で、男は目的の数だけの検体を得ていた。
後は、比較するための個体さえあればいい。
男は先日会談した女のことを思い出す。


…もうこちらが『始まりの艦娘』への道筋に至りつつあるのに、
企業があんな女をよこしたのは、
まだこちらを不審に思っているからだろう。
窓口はあの程度でいいと思われての采配に違いない。
そう考えると、男は小さな屈辱感を覚えた。
全て、ラバウルの死が原因である。

「半ばで死なれるとは」

独り言が溢れる。
奴がしくじらなければ万事が遅れることはなかっただろう。
男は、あの男について考えた。
奴が生きていればそれなりの求心力があった。
現役だからこそ、
奴を神輿にすればそれなりの影響力は持てた。
艦娘の民営化、民間による戦争の終結。
技術を独占する赤レンガさえ、その玉座から引きずり下ろせた。
…だが、そんな男は殺された。


男は当初、大本営の工作を疑った。
奴の野心は大本営すら越えたところにあった。
だからこそ、
男は奴の死は奴を嫌った大本営によってもたらされたのだと予想した。
権力がある手合いのやることなど同じだ。
奴も消されたのだと、男は信じていた。

しかし真実はより奇妙だった。
泡沫の提督。
先日排除した、あの提督が成し遂げたらしい。

男は、真相を知って驚いた。
奴は大本営の息がかかっていたわけではない。
むしろ逆で、いつでも消えていい立場だった。
だからこそ、ラバウルは接近し、
そして件の提督の手で殺された。
よりにもよって自らの艦娘を利用されて。

調べて分かったが、あの提督は元医者だ。
それも士官学校出である。
でありながら末端の士官であることに疑問を感じたが、
男は奴は何らかの咎で送られたのだと予想した。
だからこそ、
ラバウルを死に至らしめた艦娘への加工が可能だったのだろう。
…単純な命令だったからこそ見逃され、
だからこそラバウルは殺されることになった。
まったくツメの甘い男であった。

「しかし、もういい」

男はほくそ笑む。
計画は上手くいく。
これで全ては揃う。
忌々しい大本営の手によらない建造が出来ると、
男がそう確信した時だった。

夜が深いというのに内線が激しく鳴った。
 

今夜はここまでです。
よろしくお願い致します。

乙乙

>>1です。

今夜分を投下します。
で、身内から海外艦を出せってうるせえので悩んでます。


女は、タクシーに揺られていた。
武官との会食は終わった。
あとは、ホテルで本社への報告のメール作成程度だ。

「ひどく揺れますな」

女は隣に乗り合わせた艦娘を見る。
確か、あきつ丸と言ったか。
武官が護衛にとつけてくれたのだが、
女には見知らぬ他人が同席することが気に入らなかった。
人間性を売り渡した売女。
女は口にこそ出さなかったが、そう思っていた。


「ですね」

女は陸が何故、
艦娘を持つのか不思議に思った。
だが、武官が言うには『そう言うもの』らしい。
彼女にしてみれば、
自分が襲われるなど微塵も考えていなかった為、
この同乗者を苦手に思っていた。


「これでも治安の良い方だと聞くと、驚きますなあ」

「そうなんですね」

「ええ」

あたり障りのない会話をしていた時だった。
徐々にタクシーの速度が緩まる。
見ればば、ヘッドライトの先に人影がある。
タクシーは煩いほどクラクションを鳴らす。
さっと、そいつは退けばいいのに動きもしない。
バカな奴はどこにもいるらしい。
女はクラクションに辟易しながらそう感じた。

「…おや、酔っ払いですかな」

「かもしれませんね」


女がそう言った時だった。
突如車体に、とんでもない衝撃が走る。
運転手が急ブレーキを踏んだのだろうが、
それでも車体は回り始める。
フロントガラスがヒビで真っ白になるのを見ながら、
女はしたたかに頭を座席に打ちつける。
混乱。
遅れて痛みがやってきた。
隣のあきつ丸も同じだったが、
彼女は車が停止するなり、女に言う。

「動かれぬように!」

「どう言う事?!」


「敵、でしょうな!」

そのままあきつ丸は、暗い外へと飛び出す。
彼女の艤装だろう。
ぼうと、走馬灯に明かりが灯るのを女は見た。

「あぶり出すであります!」

彼女の背に、巻物状のものが浮かんだ。
タクシーの運転手は、
何が起こったのか分からず、
現地語で喚き散らしている。

「いざ…っ!」

あきつの手から、艦載機が飛び出す。
女はそれを見ていたが…銃声が、それをかき消した


「?!」

あきつ丸の走馬灯が激しく揺れる。

「うわぁっ!?」

続けて、その声が聞こえたかが早いか、
あきつ丸の絶叫が響いた。
どう考えても普通ではない叫びだった。

「どうなってるのよ!!?」


思わず叫ぶが、返事はない。
あきつ丸の悲鳴を聞いてだろう。
タクシーの運転手は、
ついに車から飛び出した。
喚きながら走り出す男を見たところで、女ははっとした。

…逃げなきゃ!

慌てて、シートベルトを外そうとするが焦っているせいか、
なかなか外せない。
そうして彼女がやっと金具を外した時だ。
近くで、人の気配がした。
黒い髪、白い肌。
陰気そうな女がこちらを見ていた。


「ひっ」

抵抗する間も無く、彼女は何かで殴打された。
痛みにふらついた瞬間、彼女の頭に袋が被される。
喚き暴れるが、その手は躊躇せず女を車から引きずり出す。
細い手だったが、よほどの力なのだろう。
あっという間に、手足を縛り上げられる。
そのまま女は硬い床に投げ込まれた。

「やめて!離して!」

女は、そう叫ぶが返事はない。
代わりに乾いたエンジン音が彼女の耳に届いた。


朝だった。
天城が邦人向けのチャンネルを見ていると、
緊急ニュースが入った。
このホテルの近くで、
邦人の女性会社員が拉致されたらしい。
物騒な事だと彼女が思っていると、
部屋を誰かがノックした。

「はい」

返事を返すと、ノックした主が返事をした。

「天城、大丈夫?」

夕立の声だった。
天城は立ち上がるとロックを開けた。
扉を開けると、うつむいた夕立がいた。


「…どうしたの?」

「昨日は、ごめんなさい」

夕立はそう言う。
天城は、身をかがめると言った。

「いいの、気にしなくて」

「…うん」

「それだけかな?」

「えっとね。
 あの人に謝りに行くのに、一緒に来て欲しいっぽい」

夕立はそう言うと、天城を見る。


「大淀にでも怒られた?」

「ううん。違うわ。
 でも涼風と話して…一応謝っとこうって」

「そっか」

天城は部屋を振り返る。

「ちょっと準備するから、待ってて」

「わかったっぽい」

夕立を部屋に招いて、
天城は髪をまとめることにした。
その間夕立はベッドに腰掛け、
画質の悪いテレビを見ていた。


「天城」

「何?」

「これも提督さんを殺したヤツじゃないのかな」

姿見の鏡を見ながら髪を束ねていた天城は夕立を見た。
手が、止まった。

「どうして、そう思うの?」

「うまく言えないっぽい。
 けど、護衛の艦娘もやられたって言ってるから」


天城も再びテレビを注視する。
テロップで護衛の艦娘の回復を待つとの文字が見える。

「…怖いわね」

天城は、そう言うと夕立は言った。

「うん。でも、もしもこいつが提督さんを殺した人なら」

夕立の横顔が恐ろしいものになる。

「私、絶対殺すわ」

「……」

天城は何も言えず、そんな夕立を見るしかなかった。

今夜はここまで。
よろしくおなさす。

>>269
前作から海外艦かなり出てるよな。
これ以上増やせとかなかなか厳しい要求してくるじゃないかww

ここからハッピーエンドいけるのか…?


次が楽しみだわ

>>1です。
今夜分を投下します。


男が死んだということを、彼女は考えていた。
客でもない男を考えるのは自分でも珍しいことである。
それは自分でもわかっていた。
あの男へ向ける感情が恋ではないと断言できる。
なら、これはなんだろうか?
自分とあの男は共犯でしかない。
情だとしても湧く理由がわからない。
そもそも、あの男と一度も寝たことがないのだが。


気晴らしにタバコを吸っていた。
そうしてショッピングモールの喫煙室に一人腰掛けていると、
物好きな男が何人も話しかけてくる。
適当に、そんな昔の客の同類たちをあしらいながら、
ビスマルクは窓に映った自分の姿を見た。
乾いた笑いが浮かんで、
思わず彼女は上体を曲げて笑った。


本国では珍しくもないのだが、
極東の地にあってはただの異国の女にしか見えないのだろう。
我が身が変わってもこれかと思うと、
彼女はおかしかった。
つくづく我が身は男を招く。
ある種の魅力というものは一生ついて回るようだ

「…探した。
 タバコ吸うなら言ってください」

ふと独語が聞こえた。
振り返ると赤毛の少女が、
喫煙室のドアを開けて呼んでいた。
周囲の男や女が、ビスマルクを見る。
子供が呼ぶなんて、ひどい母か姉だと見られたらしい。
ビスマルクはそれを気にもとめず、ハイライトを灰皿に入れた。


「それで買えたの?」

外に出て、衣類についた灰を払いながら同僚に尋ねる。
Z3はため息をつきながら言った。

「ぬいぐるみなら買えたわ…今は別で困ってるけど」

「何、どうしたの?」

「レーベとプリンツが、
 キャラモノの風船もらえる列に並んでる。
 門限知ってるのかしら、あの二人?」

そういまいましげに言ったマックスを見て、
ビスマルクは思わず笑いそうになる。
自分もそうだった。
3つも離れれば、
若くガキだと思えていた時代があった。


「仕方ないでしょ。
 あのコ達、貴女より離れてるんだから」

「…忌々しいわ。なんでこれなのかしらね」

そうマックスは自分の顔に触れる。
ビスマルクは、
チェーンのコーヒー店を見つけると彼女に言った。

「だったらコーヒーぐらい飲みましょう。
 どうせ時間かかるんだから」

「イタリア女みたいなことを言うのね」

マックスはそうビスマルクに言った。


二人で店に入ると、意外な人物がいた。
ビスマルクは気づいても声をかけようとしなかったのだが、
向こうの駆逐艦が自分らを指差して言った。

「あ、ビスとマックスだ」

トテトテと彼女は近づき自分を見上げる。
ビスマルクはオフだということを考えた。
それは、向こうの連中も同じだったようだ。
が珍しいことに、向こうの眼鏡が手招きした。
正確には隣の女にやらされたようだ。

「呼んでるわね」

「見えてるわよ」

面倒になりつつも、ビスマルクはマックスを伴い、
イタリア艦どもの席に向かった。


「チャオ。オフで会うのは初めてですね」

エクスプレッソらしきコーヒー片手に、姉が挨拶する。
ぶすっとした表情のローマも遅れて会釈した。

「どうも」

「ええ、いい休日ね」

ビスマルクは月並みな挨拶をすると、
自分のアメリカーノが失敗したことに気づいた。
連れ見たく、訳のわからないドリンクにすればよかったか。
ビスマルクはZ3の生クリームまみれのドリンクを見ながら、
そんなことを考えた。


「あまりチンジュフではお話ししませんから。
 高速戦艦の会に、ビスマルクさんはいらっしゃらないですから」

イタリアは悪気もなくニコニコしていた。
小腹をZ3がどついた。
【高速戦艦の会】とやらの参加を断って以来、
他の戦艦と疎遠となってることは彼女も知っていたらしい。

「そうね。あまり話さないものね」

「でも意外に思いました。引率なんて」

ビスマルクは愛想笑いを返すものの、
実際はZ3に任せていたのが正しい。
彼女は自身の母性とやらを少しも信じていなかった。
人並み以上に女であるとの自覚はあるのだが。


「同郷ですから」

ビスマルクがそう言うと、ローマが言った。

「…空母と潜水艦はいないのね」

「グラーフならインド。Uは改造中」

「ああ、そうなの」

ローマがそう相槌を打ったところだった。
席に近づく、二人の少女がいた。


「姉様、ここにいたんですか」

レーベとそろいのアルミ風船を貰ったプリンツだった。

「貰えたんだ、それ」

ビスマルクが言うと、プリンツは胸を張る。

「そうです、ユールキャラです」

アルミ風船の不細工なキャラが、空調の風で揺れた。
…ビスマルクはソレの何がいいのかさっぱりわからなかった。
カートゥーンよりも手抜きの【これ】の何がいいのか。
【カワイイ】とは不可思議である。
フランス女なら理解できたのだろうか。
そう彼女が思っていると、リベが食いついた。


「あー!!いいな、それどうしたの?!」

「ふっふっふ!ショップ限定です!」

「え、あるの?!」

リベッチオはそのまま振り返ると、戦艦二人に言う。

「リベも欲しい!」

ローマとイタリアは顔を見合わせる。
ローマが何か言う前に、姉のイタリアが言った。

「ごめんね、ローマ。
 リベ連れて行ってくるからザラ待っててくれる?」

「ええ」

ローマに確認を取ると、イタリアはレーベとプリンツに向く。

「どっちかついてきてくれる?まだ漢字とか弱くて」

先に、レーベが言った。

「じゃ、僕がついてくよ」


「え、私行くよ?」

プリンツが不満げに言ったが、いさめるようにレーベが言う。

「プリンツは待っててよ。
 ビスマルクにココアでもおごってもらったらいいじゃない?」

レーベはそっと、ビスマルクを見た。
事情は察した。
プリンツが買いすぎることを予想したのだろう。
レーベに感謝しながら、ビスマルクは言う。

「行ってっらっしゃい」

「うん」


そうして、イタリア、リベッチオ、レーベは店を後にする。
ビスマルクは小銭をプリンツに手渡し言う。

「じゃ、プリンツ好きなもの買っていいから。
 あと、マックス」

ビスマルクが言うと、マックスは嫌そうな顔をした。

「…何?」

「お代わり頼める?
 ローマと話したいことあるから」

悟ってくれるか賭けだったが、
マックスは理解してくれたようだ。
彼女は小言を言いつつも席を立つ。

「貸しよ。プリンツ、行こう」

「うん」


そのまま二人がレジに向かったところで、
ビスマルクはローマに向き直る。

「さっさと言ったら?」

ローマはマグを片手にそう言った。
ビスマルクは話が早いと、
誰にも言えなかったことを彼女に話した。

「あの提督が死んだの」

ローマの手が止まる。
口をつけようとしたまま彼女は目を見開いた。
…そのままローマはマグを机の上に戻す。
その手が震えているのを、ビスマルクは気づいていた。
意外だった。
成人はしてると踏んでいたが、
自分よりも若いのかもしれない。


「冗談?」

「冗談だったら面白いと思わない?」

そう言うと、ローマはビスマルクを強く睨んだ。

「恩人の死に、軽いのね」

「私、乾いているもの。
 あんたとあの子より生きてるから」

「その歳で不感症?」

「かもね。
 アレの目的を快感だけにするならスポーツじゃない?」

「呆れた。
 それ、チンジュフの戦艦の前で言ったら危ないわよ」

「覚えておくわ。
 真面目だものね、皆さま」

「あなたこそ、ドイツ人とは思えない」

「知ってる?
 ドイツの時刻表より日本の方が正確なのよ」

ビスマルクは自らのアメリカーナを口にする。
薄いが、悪くない。


「何故私に?」

「気まぐれよ」

「連れが子供ばかりは大変ね」

「かもしれない。けど気楽でいいわ」

「付き合い拒めるところは尊敬するわ」

ローマはそう言うと、ビスマルクに質問する。

「で、話したからには理由があるんでしょ?」

ビスマルクはマグを置く。
彼女は、自分でも意外なことをローマに言っていた。


「あるわ。
 …次回のインド派遣、戦艦のポジションに私も押して欲しいの。
 コンゴー四姉妹とかナガトクラスとかに顔効くんでしょ?」

ローマはその言葉を聞いて黙る。
しばしの間があってから、
トレーに乗せた容器をかちゃつかせマックスたちが戻ってきた。
ビスマルクがこぼしやしないかと振り返ると、
ローマは小さく言った。

「考えておくわ」

今夜はここまで。
よろしくおなさす。

乙乙
前回組も合流か?

乙です
うねりが大きくなってきましたね

>>1です。
今夜分行きます。


二人で謝りに行ったものの、男は忙しそうだった。
どうやら、拉致された邦人と関係があるらしい。
天城と夕立は、しかたなく男の部屋を後にした。

「…おなかすいたっぽい」

男の部屋を後にすると、夕立はそう言った。
天城はすでに朝食を済ませていたが、
ここは夕立に合わせることにした。

「じゃあ、食事でもとりましょうか」

「うん」


二人でラウンジに降りると、
由良がコーヒーを飲んでいた。
由良は二人に気づくと、自分の座る席の空きを示した。

「どうぞ」

「どうも」

天城が礼を言うと、
夕立はブッフェ形式の朝食をすでに取りに行っていた。
彼女らしいと天城は思いながら、腰掛ける。

「天城は、食べたんですか?」


由良の質問に天城は答える。

「ええ、少し前に…由良は一人で?」

「そうですね」

同室の大淀が見当たらないからそう聞いてみたのだが、
由良の表情が変化したことを天城は見逃さなかった。
大淀の名を出した瞬間、由良は不快さを示した。
聞かないことも出来たが、天城は由良に尋ねていた。


「大淀と何かあったんですか?」

「少しだけですよ」

含みのある言葉が返ってきて、
天城は由良の顔を観察する。
落ち着いてはいるらしい。
無言は長く続かず、由良から話してくれた。

「喧嘩したんです」

「…意外ですね。
 付き合い長いと聞いてましたけど」

天城が言うと、由良はコーヒーの入ったソーサーを置く。
彼女は指でその縁を触りながら言った。


「そう。結構長いですけど」

「……何か言われたんですね」

「ええ。姉のことを」

「お姉さんの?」

天城が意外に思って言うと、
由良は硬い表情を作る。

「そうです。
 天城は知らなかったでしょうけど、
 私の姉も艦娘だったんです」

「…皆さんが同じ施設出身だとは聞きましたが初耳です」

「話さないでって、私が言ってましたから」

「そうだったんですね…」

【艦これ】提督「続投しましたけど…」 曙「糞提督地の文長すぎ」


天城は由良の身の上を聞きながら、
それが何故大淀との喧嘩に結びついたのかわからなかった。
由良は続ける。

「で、その姉があるとき病に倒れたんですね。
 …働きすぎと、運が悪かったんでしょう。
 不治の病でした。
 そんな姉を、先生…提督が見ることになったんです。
 当時、提督はまだ医学生でインターンでしたか。
 提督か、姉か、どちらが先か知りません。
 けど、二人は惹かれあった」

由良は、そこでソーサーの上のカップを再び手にした。


天城は由良の身の上を聞きながら、
それが何故大淀との喧嘩に結びついたのかわからなかった。
由良は続ける。

「で、その姉があるとき病に倒れたんですね。
 …働きすぎと、運が悪かったんでしょう。
 不治の病でした。
 そんな姉を、先生…提督が見ることになったんです。
 当時、提督はまだ医学生でインターンでしたか。
 提督か、姉か、どちらが先か知りません。
 けど、二人は惹かれあった」

由良は、そこでソーサーの上のカップを再び手にした。


「提督は、姉を何としても救いたかったようです。
 また姉も……生きる理由があった。
 私のため、そして治療費の金が必要だったんでしょう。
 姉は、それで艦娘になりました」

由良はコーヒーを一口飲む。
ふうと、息を吐いてから彼女は言った。

「艦娘となった姉ですが、
 数年後出撃したきり帰ってきませんでした。
 轟沈したそうです。
 だからでしょうね、先生は職を蹴って提督になったんです」

「…なんの為に?」

「わかりません。
 復讐と言うより、
 私には提督さんは死にたいように思えます」

「…あなたたちを救ったのに?」

「提督さんは、そう思ってはないでしょうね」


天城は、由良の姉と提督との関係は分かったが、
その先がやはり分からなかった。

「それが、大淀の喧嘩と何の関係があるんですか?」

「回りくどくて、すみません。
 大淀が悪いわけじゃないですけど、
 そんな姉と比較したんですよ、私を」

やっと、天城はピンと来た。


「提督にとって、由良は贖罪か、
 または姉さんの代用とでも言われたんですか?」

「…近い内容ですね」

由良は気まずそうに、カップを置く。
天城は、そこで不思議に思ったからこそ聞いていた。

「聞いていいですか?」

「何でしょうか」

「どうして皆さんは、提督さんを…そこまで」

天城の質問に、由良は答えた。


「自由にしてくれたからですよ。
 提督さんは、身寄りのない私達で揃えたと多分天城に話したと思います」

「ええ。以前そう聞きました。
 だから、提督になれたとも」

「それは提督の視点です。
 わかっていますよ、提督さんはおそらく死にたかったんでしょう。
 それが姉を殺した責任からかまではわかりませんでしたけど。
 でもですよ、私達からしてみたら、
 病を消して、施設から出してくれた恩人です。
 天城がそうなったみたいに……
 信頼も手伝って…
 あんな人を嫌いになれるはずがないでしょう?」


天城はそこでやっと理解した。
ああ、そう言うことなんだと。
彼女達は信頼に加えて、強い恋慕もあったのだと。
だから大淀と揉めたのか。
そこまで察した天城は黙る。
由良は、皿に山盛りの料理を乗せてきた夕立を見ながら言った。

「好きでした。
 絶対に言えなかったですけど」

夕立が聞こえなかった距離で、
由良はそれだけ言った。
そこから由良が、
その話を振ることはなかった。
天城は自分もコーヒーをとってこようと席を立った。

今夜はここまで。

>>314氏 申し訳ないですね

曙「糞提督地の文長すぎ」

提督「潜望鏡でも殴ってストレス解消しなよ」

「潜望鏡」を「殴る」だと・・・?
うむ

>>322
荒らしだから構わなくて大丈夫だよ

>>1です。
今夜分を突っ込みます。

曙って重い女と思うんすよねー、潜望鏡も仕込まれて元彼忘れない男みたいなタイプ。


武官は、慌てていた。
表沙汰にこそならなかったが、
鹵獲した深海の脱走事件が発生した。
だが、それよりもマズイことがあった。

…例の企業側の小娘の拉致である。


護衛をつけたというのに、
もてなした客人が拉致された。
単にそれだけで終わる話ではない。
企業にしてみれば、付け入る隙どころか、
こちらへの信任を失っても不思議ではない。
軽んじたからこそあの小娘の派遣とはいえ、
企業としては、それでも名代を傷つけられたことに変わりない。


護衛があきつ丸でなけば、
いや、そもそも拉致られたのがあの女でなければ…
武官は様々なことを考えたが、
全て後手にしかならなかった。
通常通りの執務につけない彼に、
電話がかかってきたのはその時だった。


「閣下どうなさいます」

男の声は落ち着いていた。
武官は苛立ちを表しかけたが抑えて答えた。

「審議を開く。
 本国への窓口はこちらで作ろう」

「ありがとうございます。
 例の女の奪還はいかがいたしましょう?」

「最悪の事態ではない。まだ静観しろ」

「……なら、こちらも対策を致します。
 幸いにも深海は鎮圧済み。
 脱走した個体にフラグシップの該当はありません」

「頼んだ。正直不味い状態だ。
 お前に任せる」

「承りました。では」

電話が切れる。
武官は対応を考えることにした。


日本に戻るはずが、取りやめになったとグラーフは聞いた。
聞けば、表沙汰にこそならなかったが鹵獲した深海の脱走と、
兵器関連企業の女性社員が拉致られた為らしい。
ただでさえ、提督が一人殺害されている状況である。
艦隊運用に大本営が慎重になるのは当然の流れだった。
実際、ビスマルクたちも調査のため派遣されてきていると言う。

「…念のためにか」

渡された女神を手に乗せつつ、グラーフは部屋にいた。
すでに二日ほど、何もしていない。
こんなことでいいのだろうかと思いながら、
彼女はベッドに横になる。
誰かが部屋をノックしたのはその時だった。


「…待機ですか」

耳を疑う辞令を思い出し、
ホテルの自室で思わず大淀は一人つぶやいた。
提督の代わりにやってきた男は、
『命令だ』とはっきり言った。
昨晩グラーフが消えた、その調査の為らしい。
既に大本営は調査団の派遣を決定したようだ。
…しかも内通者を排除するため、
海外艦を使用する徹底振りである。


だが、大淀は自分たちが帰還出来ない理由として、
その調査が原因として弱い事に気付いていた。

大淀は考える。
おそらく自分たちが戻されないのは、
二つの理由からだろう。
一つは単に武力を残しておきたい。
もう一つは、考えたくないが…
上は自分たちを疑っているのだろう。


【提督】の技術を大本営は知っている。
あの新任、
いや彼を派遣した上層部が自分たちを疑うのも当然だ。
提督の部下である自分たちに、
あの【提督】が技術を残したのではないか?
おそらく彼や大本営はその可能性を考えたのだろう。
だからこそ、この反応ではないかと大淀は予想していた。


不味いだけのタバコを、
大淀は手にし火をつけた。

「死んでも、迷惑かけるんですね。
 提督は…」

一人呟く。
けれども嫌でなかった。
あの人とのつながりがどんな形でも自分にある。
それが大淀には嬉しかった。


彼女は手にとったライターを見る。
…彼の部屋から持ち出せた唯一の物だった。
何度吸っても煙は不味く、喉が乾く。
けれど、
彼女はその乾きを提督も覚えていたのだと思うと、
不思議と安心できた。


「…先生」

彼の姿が見える気がした。
目頭が熱くなるのを大淀は感じた。

「わたし…」

世界中の誰より、提督が良かった。
あの人だけだ。
わたしであっていいと言ってくれたのは。
あのヒトだけは、わたしを…


「いい子じゃないほうが、よかったですね」

夕立のセリフが思い出された。

優等生。

ああ、そうでした。
だってわたしはそれ以外の生き方を知らなかった。


消えない自分の病。
だったら自分の手で消そうと思っていた。
そうすれば楽だった。
哀れみなんていらなかった。
可哀想ねだけで何一つしてくれなかったから。
『勉強が出来るのね』と何度も言われたけど、
それは目的があったから。
わたしには、それ以外何もなかった。
そんなわたしに熱を入れたのは、あの人だ。


「てーとく」

あの人をわかる為に、そうしてきた。
あの人の知ってること、
感じてることすべて、
自分も感じたかった。
あの人の感性全てを自分は理解したかった。


…けれど、大淀は思う。
こんな今ならもっとワガママになればよかったと。
あの人は、なんだって笑って許してくれだろう。
涼風や夕立を見ていればわかる。
甘えても、困らせても…
憎まれても、あの人はきっとわたしを見捨てない。
『妬ましい年頃の少女のよう』にしてたって…
だけど、それはもう無理だ。


「………」

あの人はもういない。
そしてあの人が感じていた私を変える事も出来ない。
それが、苦しいほどの後悔を大淀に与えていた。
紙巻きのタバコに涙が落ちた。
音を立ててそれは乾いていった。

今夜はここまでです。
oh!淀はヤンデレ(依存型/好きな人に『私』が意識されていたい)

壊れ切って自滅しない程度の病み具合は人間臭さが増し増しだなあ。
昔、かなり重い社会不安障害の子と縁あって付き合ったのを思い出した。
些細なことがきっかけで文字通り目の前からいなくなってしまったけれど。

とても、とても危うい心のバランス。
彼女らに対する不勉強をとても後悔した思い出。

くっさ

人は妬む生き物と言いたいんですね分かります。

>>343
なにこいつ気持ち悪っ

どどど童貞ちゃうわ!

リア充コメなんてスルーしろよ童貞共
女とやれない奴はいつも余裕がないな

ポエトリーすぎて受けつけんってことでしょ

ここで句点多用するやつは大抵

乙でございます


>>1です。

仕事の激化で更新の暇なく、今夜分を投下します。
ご指摘頂いてますが自覚ありますね…
学生時代は地獄の季節やら、悪の華やら愛読してましたから。


「…う」

気がつくと、どこかの部屋らしかった。
ただ窓がないせいだろう。
女はどれだけ時間が経過したのか分からなかった。

「気付きました?」

部屋の片隅だった。
錆びたパイプ椅子に座っていた若い女が声をかけてきた。
女は、その人物を見る。
カツラにも見える黒い髪。
歳は10代後半。
顔のつくりと肌の色から日本人に見える。
ただし格好は、こちらの住人に合わせていた。


昨晩の女…!

女はそう判断した。

「ちょっと!」

そう言って、初めて女は自分が拘束されていることに気がついた。
手足を木製の椅子に縄で縛られている。
食い込みはゆるいが、抜けられるほどヤワではない。
動かしてみたが、軋みもしなかった。


「ああ、ごめんなさい。念のためにですよ」

そう少女は近づくと、
女のパスポートを取り出し女の名前を読み上げた。

「間違いないですか?」

女が何も言えないでいると、少女は続けて言う。
最初から女の返答など期待していなかったのだろう。
少女は女の顔を覗き込む。


「いやーすみません。
 手荒な真似して」

「何が目的?!離してよ!?」

女が叫ぶと、少女はうるさそうな顔をした。

「落ち着いてください。
 幾つか聞きたいことがありましたんで」

少女はそう言うと、屈む。
女の視線に顔をあわせると少女は言った。


「まず。取引はうまく行きました?」

女は戦慄した。
どうして彼女がそんなことを知るのか。
言葉が出ずにいると、少女は微笑む。

「安心してください。
 とりあえず、命は保証します。命はね」

「とりあえずって!」


「んー、痛いことしたくないんですけどね」

少女はそう言うと、
足元に落ちていた建材のかけらを手にした。
彼女はそれを女の顔の横に叩きつける。
それは壁に当たり欠け、破片が女の横顔をかすめた。

「えっと話さないと、マジで叩きます。
 なんなら殺してもいいそうですから」

女は、ゾッとした。
間違いなかった。
こいつは、昨日自分を襲ったやつの仲間に違いない。


「じゃ、次の質問です。
 武官はラバウルの話をしました?」

女は、恐怖から答えていた。

「した」

「次、取引先企業はあなたの会社の商材…それも艦娘関連に触れたか?」

「しました」

「あなたはラバウルと面識がある」

「ありません」

「なるほど、なるほど。
 では、あなたは新しく来た士官、
 そして大規模作戦時の将校と面識がある」

「ありません!」


「あっちゃー…聞こえたでしょ?
 ハズレっぽいですよ!」

少女は立ち上がり、背後に向かって声を張り上げる。
壁の向こうから、こもった男の声が聞こえる。

「………を知らなかったら開放してやれ」

「はいはい。
 この子を『使う』って言ったら殺してましたよ」

「誰がするか。艦娘でもないのに」

「出来るくせに」

くるりと少女は女を見る。


「聞こえたと思いますけど、どうです?」

「知らない!なんの話?」

女が言うと、少女はため息をついた。

「うちの大将やらかした…まあ、いいです。
 はい貴女は自由です。お疲れさまで~す」

そう言うと、少女は女の足の拘束を解く。
女はあっけにとられた。


「なんなの、あんたたち」

「お答えできませんねえ。
 さあ、出てった。
 ちなみに振り返ったらひどい目に遭いますから。
 話してもいいですけど、身の安全は保証しません。
 頭おかしい人ですから」

「は?」

「さあ立ってください。ちょっと被せ物します。
 暴れたらグーパンしますね」

女に立つように言ってから、
少女は女の頭に何かを被せる。
視界がふさがる。
抵抗しようとすると、女は言った。

「しばらく歩かせてから開放します。
 あとはご自由でどぞ」


そのまま女に連れられて、屋外へと出た。
少女は何も言わない。
時間、距離、全てがわからない中歩かされる。
やがて目的地に着いたらしい。少女は言った。

「30数えてから頭のそれ取っていいですよ。
 ハサミも置いときますんで」

女は、少女の手が離れたことを知った。
最後に、少女に女は質問した。

「あんたたち、何が目的なの?」

「お金ですね」

少女はそう言うと、歩き出したらしい。
女は律儀に30秒数えてから、頭の覆いを取った。
人気のない路地だった。
振り返るとあたりには誰もいない。
…近くに女の荷物が捨てられていた。

まずは連絡だ。
女は頼りない足取りで歩き始めた。

今夜はここまで。
仕事に戻ります。


この感じはまさか……?

                l三`ー 、_;:;:;:;:;:;:j;:;:;:;:;:;:_;:;:;_;:?-三三三三三l
               l三  r=ミ''‐--‐';二,_ ̄    ,三三三彡彡l_   この感じ・・・・
              lミ′   ̄    ー-'"    '=ミニ彡彡/‐、ヽ
                  l;l  ,_-‐ 、    __,,.. - 、       彡彡彳、.//  zipか・・・・
_______∧,、_? `之ヽ、, i l´ _,ィ辷ァ-、、   彡彡'r ノ/_ ______

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'`'` ̄ 1     ̄フ/l l::. ヽこ~ ̄     彡彳~´/  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                 ヽ   ´ :l .l:::.         彡ィ-‐'′
                ゝ、  / :.  :r-、        彡′
              / ィ:ヘ  `ヽ:__,ィ='´        彡;ヽ、
          _,,..-‐'7 /:::::::ヽ   _: :_    ヽ      ィ´.}::ヽ ヽ、
      _,-‐'´    {  ヽ:::::::::ヘ `'ー===ー-- '   /ノ /::::::ヘ, ヽー、

>>1です。
今夜分を投下します。

※朝潮提督にはドギツイかもです。セウトです。


朝潮は、見回りについていた。
こんな地下室で対象を見張るの退屈でしかない。
だが、必要なことだと彼女は理解していた。

「……」

今朝、出てきたことを思い出した。
忙しそうに401と58は任務の為に準備をしていたっけ。
朝潮はそんな彼女たちを羨ましく思った。
練度の都合さえなければ、次の作戦に選ばれたのに。
その事実を、朝潮は悔しく思っていた。
だが、朝潮はその事実を悔しく思っても必要以上に後悔はしていなかった。
…復讐するべき人間は死んでいる。
だからあの作戦に参加しなくてもいいのである。


むしろ地味だがこの任務だって重要なのだ。
朝潮はそう考えていた。
そう、これは必要なことなのだ。
提督の夢は私たちが叶える。
そのためには、対象の護衛だってやってみせるとも。

朝潮は自分に言い聞かせる。
…先日の深海の脱走の二の轍を自分は踏んではならない。
提督の夢を消してはならないから。
朝潮は薄暗い地下廊下の中、対象を監禁した部屋の前に立っていた。


「…?」

上がひどく騒がしい。
朝潮は、視線を上げる。
…自分が必要になると思っていなかったが。
朝潮は艤装を呼び出し、動き始める。
襲撃者だろうか?
対象を奪いに来たのだろう。
朝潮は少し相手を哀れに思った。
騒ぎからすると、それなりの準備を敵はしてきているらしい。
だが、自分は艦娘である。
艤装が機能している限り、携行出来る程度の小火器など脅威にすらならない。

…馬鹿な奴だ。

彼女は自身の砲を構えた。


地下室に続く階段に何者かが降りてくる。
足音は二つ。
朝潮は決められた言葉を言うことにした。

「引いてください。
 私は艦娘です」

警告はしたが、足音の主は止まらなかった。
朝潮は砲を階段に向ける。

…やむを得ない。

これは任務だと言い聞かせ、彼女は撃った。
衝撃と轟音が地下に響き渡る。
朝潮は、敵が吹き飛んだと確信した。
小さいとは言え艦砲である。
直撃せずともただではすまない。
第一ただの人間に防げるものか……


「呆気ないです」

朝潮は万一にそなえ、
未だ土煙で覆われた階段へと近づく。
ここで殺し損ねては手間である。
彼女は止めと屍体の確認の為階段近くへ近づいた。
土煙はまだ消えない。
灰色の土煙を貫いてだった。
生白い何かが突き出す。

「?!!」

朝潮は虚を突かれる形となった。
知らない女の指が、朝潮の頭を掴んだ。


「なっ?!」

とっさに暴れるが腕の主は朝潮の髪を掴む。
痛みを感じる間にも、敵は朝潮を片手で持ち上げる。
駆逐とは言え、自分は艦娘。
艤装を展開した状態でも持ち上げられた事に朝潮は驚愕する。
敵の人外の膂力を知るなり、朝潮は躊躇せず砲を向ける。
未だ見えないが、構わない。
この距離で外すわけがない!

「消し飛んで!」

だが引き金にかけた朝潮の指が動くことはなかった。
敵はそのまま朝潮を放り投げた。


「!!!??」

投げられ朝潮は宙を舞った。
照準の狂った砲は、見当違いの方向へと放たれる。
砲弾は天井に炸裂し建材を削る。
視界が高速で歪む中、朝潮は階段の踊り場に叩きつけられた。
背中から打ち付けられる形となり、息が詰まる。
激痛と衝撃で視界が歪む中、
何者かが自分を踏んだことが分かった。
軽い脳震盪を起こしつつも、
その脚を跳ね除けつつ立ち上がろうとした朝潮だったが、
痛烈な頭部への打撃が彼女の判断を遅らせる。


しくじった…!!

朝潮が、それでも反抗しようとした時だった。
彼女は腕をついて体を起こしつつあった。
その時だ、彼女の艤装に何かが突き刺さった。

「?」

違和感を感じすらしなった。
だが次の瞬間、展開していたはずの艤装が逆に消え失せた。

「?!!!」

動く暇さえなかった。
艤装が消えるとほぼ同時、手足の感覚が無くなる。
再び朝潮は転倒し、顎を打つ。
痛みは感じるのに、ピクリとも体が動かない。


「な、な?ぁッ?」

訳がわからない。
次の瞬間、
理解できない痛みが朝潮を襲った。

「アアアアァアアアアァァ?!!!」

体をよじろうとしても動かない。
目の前に火花が飛んだ。
耐え難い、その痛みが不意に消えた。
朝潮は喘ぎながら、なんとか動こうとする。

何故か手足の感覚は戻っていた。

「痛い、いた…」

朝潮はなんとか逃げようとする。
だが、痛みに晒された体は思うように動かない。
そんな朝潮に次に襲い掛かったのは、無慈悲なまでの快感だった。
芯を貫く、知らない感覚。
だが、彼女は自分自身で気持ちいということを理解してしまった。
ソレに生娘の朝潮が耐えられるはずがなかった。

「?!!!?!」

床に爪を立て、なんとか我を保とうとしたが無駄だった。
何をしようが体の内に燃える、えも言われぬ痺れが抜けない。
やめてと、叫ぶ暇さえなかった。
波は強くなる。彼女はその波にもがき続けるが、何一つ変わりはしなかった。
逃れたいがためだけに、朝潮は爪を床に立て続ける。
が、何時しかそれさえも快感に変わる。
それでも、爪が欠けるほど朝潮は掻き毟る。
腿を閉じても、身体を締め付けても、その幸福な痛みは決して消えない。
何時しか考えることさえ彼女は困難になっていた。


「嫌、嫌、いやァあああああ!」

目の前が白黒に点滅する。
ダメだ、痛いよりも耐えられない。こんなもの、無理だ。
体が燃えるように暑い、どうかしたかのように涙と汗が止まらない。
快楽の波は弱まらず、その間隔は徐々に早くなる。
舌を噛みちぎると言う手段さえ、もう朝潮は考えつけなかった。
耐え難い快楽を垂れ流し続けられた結果、
獣の咆哮じみた嬌声を上げ彼女の意識は真っ白に弾け飛んだ。


グラーフが目を覚ますと、知らない場所だった。
地下室らしい。
わけがわからず、周囲を見る。
…見れば男が立っていた。
やつれ頬のこけた東洋系の男だ。
怪我でもしたか、顔の右側にガーゼを当てている。
タバコを吸っていた男はグラーフの意識が戻ったことを知ると、独語で話しかけてきた。

「ごきげんよう。お嬢さん」


「お前、何をした?!」

グラーフの脳裏に昨夜のことが思い出される。
ホテルのボーイから荷物を受け取った瞬間、意識が飛んだ。
そしてこんな怪しげな部屋にいることも手伝い、
彼女は目の前の男を激しく警戒していた。


「私でないよ。
 まあ、信じてもらえないだろうが」

無精髭の男は、そう言った。
グラーフは混乱を覚えた。
この男は何を言っているのだろうか?

「貴様」

ただ、グラーフに恐れはない。
我が身は艦娘だ。
その気になれば、目の前の男を捻ることなど造作ない。
だが男の次の発言は、そんなグラーフの手を止めさせるに十分な内容だった。


「言ったはずだぞ。ベンチに来いと」

「電話の、男…か?」

男は、新たなタバコを取り出す。
巻き紙の粗雑なタバコに吸いかけのソレで火をつけつつ、男は言った。

「随分探した。回り道と面倒なこともやったしな。
 君の復旧が一番面倒だった」

「いったい、お前は」


「長居しすぎだな。…話は移動しながら話そう。
 君らは重いからな、私一人では運べなかったのでね」

男はそう言うと、出口を親指で指した。
グラーフは訝知りながらもこの男に着いていくしかないと感じ取っていた。


部屋を出た。
部屋の外では、不自然な黒さの髪の少女が立っていた。
カツラだろうか?年齢は十代後半に見える。
強く濁った目をして、違和感を覚えるほどの白い肌をしていた。
その彼女を見て、グラーフは何故か名状しがたい嫌悪感を感じた。
不潔でもない、目に見える違和感があるわけでもない。
だが、何か彼女とは相容れないとグラーフは思ってしまった。

「…彼女は?」

グラーフが聞くと、男は言った。


「護衛だ。【彼女との会話は期待するな】」

奇妙な言い回しを男はした。
そんな男の後ろを、少女は影のようについていく。
階段を上がり、踊り場に入る。
…そこでグラーフは少女が転がっているのを見つけた。
おそらく駆逐艦。
グラーフは、艤装から彼女が朝潮型だと判断した。
ただ、その様子は尋常でない。
全身汗まみれ、白目をむいて痙攣している。
何をされたか、床には爪でかきむしった跡が残る。
少女の爪が割れていることを、グラーフは見てしまった。

「う…」

さらに匂いからして、どうやら失禁もしているようだ。


「おい」

声をかけると、男は振り返った。

「なんだ?」

「彼女を殺したのか?」

「なあに、ただ機能停止させただけさ」

男はそう言うと、
そんな朝潮を跨いで階段を上がった。
グラーフはそんな彼女を見下ろす。
…ただの機能停止でこうなるだろうか?

今夜はここまで。
よろしくお願い致します。

乙乙

おつ
やり口が提督だけどどうだろうか

遺留品は右耳だけだって話だったな そういや

>>1です。
えたりの恐怖を感じつつ投下します。



武官は女が大使館に保護された報を聞き、
ほっと胸を撫で下ろしていた。
懸念の一つは解消された。
もう一つの懸念。
それはあの男がらみだとあたりをつけていた武官は、
心労が減ったことを自覚した。
後は、あの男がどう動くかだ。
工作員なら、奴の私兵が対処するだろう。
慇懃無礼な口ぶりの、あのいけ好かない男のために武官は受話器を取った。
そうして出た相手の口調は、武官の想像を超えていた。


『閣下、後にしていただきたい』

「どうした?」

武官は慌てた語調の男をいぶかしんだ。

『例の艦娘が奪われました』

「バカな」

思わず、武官の口が滑る。


『こちらも驚いています。
 護衛につけた兵隊がやられたばかりか…
 朝潮が戦闘不能。
 おまけにストックしていた艦娘のパーツも奪われました』

「本社の使いっ走りの小娘とはわけが違うぞ!?」

『重々承知しています。
 幸いにも…まだ露見していません。
 私兵を集め対応します』

「早くしろ!」

声を荒げると、男は言った。


『では閣下、失礼いたします。
 最悪…ある程度の犠牲をお許しください』

ぶつりと電話は切れた。
武官は何が起こっているのか分からなかった。
大本営の工作だろうか?
いや知らぬ勢力が手を出してる可能性も否定できない。
武官は悩む。
ただ言えるのは、
彼の思惑以上に事態が動いているということだった。


電話を切った男は、内心で毒づいた。
階級だけのボンクラが、官位にかまけた能無め。
…思惑通りに動かないだけならいざ知らず、
余分な手間までかけやがって。

「どうされましたか?」

影が近づく。
男が振り返ると、
ラバウルから引き取った大和が男を見ていた。


「能無の武官からだよ。
 あの女が見つかっただけで安堵して電話してきた」

「…ああ、そうですか」

大和はそう言うと興味を失う。
男は、苛立ちから言った。

「その態度はなんだ?
 女を奪われたばかりか、
 苦労して確保した海外艦でさえ逃した!
 挙句姫級の為に派遣した翔鶴は沈んだ!
 貴様らを拾ったのは誰だと思ってる?」


男の激情を向けられても大和はすずしい顔をして返答した。

「だったら、あの話を通して下さい。
 あの男が私の提督を殺したと」

男は大和を見る。
彼は苦々しげな顔で答えた。

「時期が悪い。
 奴を使って大本営を糾弾するには早すぎる」

「…なるほど。では例の件はいかがいたしましょう?」

「始末は帰りにつけろ。いいね?」

「ありがとうございます」

そう退室する大和を見ながら男は一人つぶやいた。
まだ、終わりではない。まだ。


武官は苛立っていた。
何か良くないことが起きているのは理解していた。
だが、今動くにはあまりにも状態が悪い。
…そんな彼に、使用人が客が来ていると伝えに来た。

「追い返せ!」

時間もそうだが、非常識な客など相手に出来ない。
雇い主の態度を察してだろう。
使用人はすぐに引っ込んだ。


しばらく経ってからだった。
紅茶でも飲みたくなった彼は、使用人を呼び出す。
が返事がない。
やむなく別の使用人を呼び出すと、
客が来たことを伝えた男は門の外に出て行ったきりらしい。
武官が苛立ちから使用人を怒鳴りつけようと思った時だった。
激しい爆発が聞こえた。

「?!!!」

武官が驚いた瞬間だ。
扉が蹴破られ、何者かが部屋に入り込む。

「何者だ?!」

武官の言葉への返事はなかった。
覆面をして人影はそのまま武官を強く殴打した。
星が飛んだ。
抵抗するより早く、襲撃者の拳が武官の顎を強かに捉えた。

今夜はココまでです。
よろしくお願い致します。

おつ

乙でございます

1です。
エタる恐怖ががが(そして誤字脱字がヤバい)
本日分を投下します。


その日も涼風は面白くなかった。
気分はずっと晴れないし、思い出してもイライラする。
提督が死んだ後のゴタゴタもそうだったし、今の任務も嫌だった。

しばらく前の話だが大本営は彼女たちを遊ばせることを取りやめた。
政治的な話になるが、英やら仏の艦隊が出張ってくることを警戒してらしい。
手の空いていた涼風たちに、コンテナ船の護衛を割り当てた。

後任の士官は出撃前に、
『なんとしてもイラストリアスやらpowを筆頭にした英国艦隊の派遣回避のために成功させろ』と言ったが、
涼風にとってはどうでもいいことだった。
第一、国産艦より強力なアイオワやらホーネットを、
同盟国でありながら運用したがらない大本営の意思など彼女は知りたくもなかった。


「…ダルいっぽい」

盗み見た夕立も同じ気持ちのらしい。
彼女は涼風と違って真面目に取り組むフリすらしていない。
実に、やる気のない様子でイ級を倒す。

「終わりっぽい」

夕立は、そう言うと振り返る。
涼風もまた、熱くなった砲身を気にしながら答えた。

「…戻ろうぜ。大淀、もういいだろ?」


涼風は、任務の詳細を思い出す。
あの若い男は輸送の護衛から深追いはしないでいいといった筈だった。
久しぶりの任務だったが、自分たちは問題なく動けた。
予想通り深海と会敵しても自分と夕立が囮となって一手に敵を引き受けた。
その為に誰一人、小破すらしていない。

「そうですね。折り返しを超えて終わり近いです。
 最後まで気を引き締めて下さい」

任務は無事に終わりつつあった。
大淀がそう言うと、天城が答えた。

「そうですね」


涼風は護衛の船を見る。
あまり、大きな船ではない。
一体何を運んでいるのだろうかと涼風は、どうでもいいこと考える。
そんな時だった、夕立が叫んだのを涼風は聞いた。

「避けて!涼風!」

彼女は何が起きたかわからなかった。
ただ目の前で水柱が上がり、彼女の意識はそこで途切れた。


夕立の目の前で、涼風の体が宙に舞った。
砲撃だと気付いた彼女は速やかに魚雷を手にする。
涼風を気遣う前に夕立は魚雷管を起動する。
由良、大淀はまだ動けない。
天城は何が起こったかすら、まだ分かっていなかった。

「敵よ!」

振り返ると、護衛していたはずの船から飛び降りる人影があった。
レシプロの音が聞こえ、天城の艦載機が次々撃墜される。
そこで天城が信じられないといったように声を上げた。

「なんで」

海面に降り立ったのは、5隻の艦娘だった。
ただ、唯一違うところがあるとすれば、
彼女たちは夕立たちに明確な敵意と殺意を向けている。


「…報復です」

天城の艦載機を打ち落としながら、大鳳が言う。
その後ろで木曽が魚雷を構えつつ加えた。

「提督への弔いだよ。
 お前らが生きてることが、俺たちは許せない」

阿武隈がそれに同意する。

「木曽の言う通り。死んでよ」

「せや、あの男は許せんわ、君らもな」

艦載機を発艦させ、
完全に天城から制空権を奪い取った龍驤が補足する。

「…あなた達を殺すわ」

叢雲が、そう結んだ。


夕立は、それでやっと理解した。
あの叢雲は知ってる。
だからこそ、夕立は怒りをむき出し吠えた。

「知るかっぽい!
 先に手を出したのは、あんた達の提督!
 いいよ、遊んであげる!」

夕立はそのまま一番近い阿武隈めがけ突出する。
由良が、それを制止した。

「ダメ、夕立!」

「バカが」

木曽の雷撃が放たれる。
夕立は、それを幾つか吹き飛ばすが完全には潰せなかった。
一発の魚雷が、夕立に被弾した。
水柱が上がる。

木曾だキソー


木曽は手応えを覚えた。
叢雲の言う通り、魚雷を狙い撃つのは気味が悪い。
だが、確かに当てた。なんのことはない。
強いと言っても、まだ艦娘の範囲だ。

「…?!」

しかし、木曽は目を疑った。
大破になりながらも、夕立は突っ込でくる。
損傷すら厭わず言葉にならない絶叫を上げ、彼女は弾薬をぶちまける。
反応しても間に合わなかった阿武隈が被弾する。
駆逐と思えない火力に阿武隈がたたらを踏む。

「効くけど!」

だが、阿武隈は押し返した。
そのまま砲撃を夕立に叩き込む。
艤装の半分が吹き飛んで、そこで初めて夕立は止まった。
海面に、夕立は叩きつけられそのまま動かなくなった。
木曽はそれを見ながら思った。

…本当に気味が悪い。

「次は、誰だ?」

彼女はそう言って夕立から視線を外した。


大淀の行動は早かった。
艤装を構えつつ、天城に言う。

「天城、行ってください」

「大淀?!」

天城はそう言うが、由良も同意する。

「戻ってください。…作戦失敗の報告をあの提督に」

天城は二人だけで挑もうとする仲間に叫んでいた。

「二人で無謀です!」

「知ってます。けど、貴女は__」

そう大淀が言い切る前に、艦爆が飛来する。
大淀はそれを高射砲で打ち落としつつ言った。

「はやく!」

天城は、二人を見る。
だが決して振り返りなどしないだろう。
その背中を見て天城は理解してしまった。

「…っ」

何も言えないまま、天城は離脱を始める。
どうしてこうなったのかと、自分の無力と弱気を嘆きながら。


「追わないんですか」

艦載機を打ち落としながら、大淀が質問する。
それに対して艦載機を操りながら龍驤は答えた。

「せや。あの天城は、お前らのクソ野郎が選んだやつじゃないんやろ?
 ウチが苛立ちをぶつけるのは、あんたらだけや」

龍驤は、そのまま由良に狙いをつける。
由良は龍驤の攻撃を回避しつつ言う。

「筋を通そうとするんですね」

龍驤は答えなかった。
代わりに、大鳳が言った。

「よそ見してていいのかしら?」

その瞬間、由良に急降下爆撃が炸裂する。
由良は呻き、そのまま速度が鈍る。


「大鳳の言う通りだ。…お前らが沈め」

由良めがけ木曽の魚雷が迫る。
由良が、ダメかと思った瞬間だった。
かばうようにして、大淀が防いだ。
艤装の一部が吹き飛び、彼女のメガネにヒビが入る。

「大淀?!」

由良は思わず言うが、大淀はそんな状態にも関わらず砲撃を行う。
流れ弾が叢雲を小破させたが、そこまでだった。
やがて、大淀も速力を失う。


「楽に沈めると思わないでください」

新たな艦載機を出した大鳳がそう言う。
由良は、目の前が暗くなった。

「せや…悪いがな」

龍驤も残る艦載機を全て出す。
由良たちの、詰みだった。
もう、手はない。夕立、涼風は大破…
轟沈していないのはむしろ不運だった。
由良は、ここで終わるのかと思いつつも、
心の何処かでそれを望んでいる自分がいることに気づいてしまった。
次の攻撃で自分たちは沈む。上手くいけば、提督に会えるかもしれない。
そう思っていた由良の耳に聞こえたのは、大淀の声だった。


「…ですね。楽に沈めなんて出来ないですね」

由良は大淀を見る。
中破で曝け出された肌の一部から、色素が抜けていくのが彼女にはよく見えた。
肌が生気のない乳白色へと変色していく。
背負った艤装から漏れ出した黒い何かが、艤装を塗りつぶしていく。

「ただ、ソレは貴女達も同ジですけど」

大淀の目が澄んだ水色に変わる。
壊れたはずの艤装が生きてるかのように軋んだ。
由良は、そんな大淀を見るしかなかった。
動けと、願うのに由良の足は動かなかった。


「ハッタリや」

最初に動いたのは龍驤だった。
もはや敵は大破している。沈めるのなど赤子の手をひねるものだ。
そう思ったからこそ、彼女は躊躇なく大淀を攻撃した。
水柱が上がり、油のシミだけが海面に残る。
その未来は確定している。…だと言うのに、大淀はそこに立っていた。
それを大淀と呼べるのだったらだが。

「嘘、やろ?」

微動だにしない大淀に龍驤は目を疑った。
あの状態なら軽微な損傷で済むはずない。
だと言うのに、何故。

…かまわへん、潰すだけや。龍驤はそう言い聞かせ、さらに艦載機を繰り出した。


「知っテマす?最初の艦娘は深海から作ったそうデすよ」

大淀が動く。それに阿武隈が応じた。

「何を!」

由良は砲撃を行った。確かにそれは大淀に命中した。
だと言うのに、大淀は艤装で攻撃を防ぎきった。
彼女の足取りは確かで、どう考えても大破した状態ではない。
…さらに、壊れた筈の艤装が動いているのも異常だった。

「…私、怨念って信じてるんです。
 思いの力って、人の全てでしょう?」

大淀と、アレはもはや呼べるのか。
阿武隈は明らかに様子がおかしい大淀を注視する。
半ば、艦娘の倒すべき敵…深海じみた姿になりながら大淀が動いた。


「幸福だとか、あると俺は思うがな!」

木曽が飛び出す。
大淀の様子からして、噂で聞く深海化で間違いない。
…何故そうなったのか説明できないが、それでも倒すべき敵で間違いない。
だからこそ、木曽は砲撃を放った。

「幸福?
 …そんな優しいだけのものなんて信じないです。
 幸せな人は、それに絶対に気付けない」

大淀は同じように砲を向ける。
射線が交差し、木曽の艤装が弾け飛ぶ。

「ぐ?!」

木曽が呻く中、大淀が声を張り上げる。

「もう、私なんてどうでもいい。あなた達、なんて知らない!」

大淀はそのまま完全に壊れた砲を投げ捨てた。
瞬間、その背中から新たな艤装が突き出す。
それらは蠢き、悲鳴じみた絶叫を上げた。

今夜はここまで。
よろしくお願い致します。
アイオワなんていなかったんや…

おつ

アイオワという言葉を思い浮かべろ
そしてゆっくりこう唱えるんだ
存 在 し な い

乙でございます


前作から追いついた
おもしろいので是非完結を見たい

sageろハゲ

^^

おつ

このミステリー感ある進め方好きだわあ

ぼくも朝潮に快楽流したいです(o^^o)


>>420の由良は阿武隈の間違い?

>>1でそ。
今夜分を投げます。

木曾と由良のくだりをやらかすという…
ほんと本業が書物なのに…


「?!」

意識が戻ると、武官は自分が縄で縛り付けられていることに気がついた。
ひどく足が痛み、どうしたことか体が重い。

暴れようとして、彼は足に異変を感じた。

「起きたか」

人影が動いた。
見ると、自分の仕事机に男が腰掛けていた。
片耳のない男。どうしたことか血まみれだが、覚えがあった。


「お前、何故…」

死んだはずの男だった。
提督はニタリと嫌な笑みを浮かべる。

「爆死してないと?」

小汚い格好の提督はそう言うと、武官の万年筆を弄ぶ。

「耳を切った程度で誤魔化せる捜査だからそうなる」

そう言うと、男は万年筆を捨て武官に近寄った。


「貴様、どうやって?」

武官の質問に、男はつまらなさそうに答えた。

「別に、対策してただけ。グラーフの派遣で予感が当たったよ。
 しっかし上手い手段だ。最初に自分の艦隊に猜疑心を抱かせる。
 でもって護衛ひとりとなったところで、護衛ごと爆殺って手段か」

「明石と死んだはずでは?!」

武官が声を張り上げると、提督は言った。

「死ぬか。万一に備えて右耳切って正解だった」

「お前…ッ」

「殺したければ直接こい。艦娘経由で死ぬほどバカじゃない」


武官は絶句した。
艦を一時的に操る装備、それを目の前の男は封殺したらしい。
ありえなかった。
いくら男が艦娘を改竄できると言っても、あれは装備だ。
妖精の技である。ヒトである男の腕前が及ぶものじゃない。

「装備までは改造できないはずだ!貴様は!一体何を」

「その通り。私は装備は触れない」

おどけるように提督は腕を広げて見せた。


おどけるように提督は腕を広げて見せた。

「が、装備でも制御に後から割り込むなら別だ」

提督はそう言うと武官を見た。

「私、これでも生涯勉強だと思っていてね。
 由良の暴走の原因の特定くらいさせてもらったよ。初めて見た。勅令妖精なんて」

武官は背筋に冷たいものを感じた。
こいつ、そこまで。

「お前…だが、何故だ?あれは回避できないはずだ。強制命令なのだから!」

武官が言うと、提督は何事もなかったのように言った。

「私以外から装備を受け取ったら、私の艦むすが落ちるよう事前に組んでおいたまでさ」

「…正気か?そんなことすれば」


武官の言葉を遮って、提督は言う。

「まともに動きはしない。だろ?
 低級な命令だが、妖精として艤装が認識するならそこに命令と書き込まれる文法があるはずだ。
 …たとえ勅令妖精であっても、そこに違いはない。だから、その式を消したまで。
 おかげで装備の引っぺがしと、明石の復帰に大変な時間かかった。
 グラーフは賭けだったよ。赤城のコードで代用して動いてくれてよかった」

武官は困惑する。だが、それでも彼は言った。

「だったら、何が望みだ?せっかく助かった命で、こんなことをして!」

「復讐に決まってるだろ?さ、サクッと、目的を語ってくれ。
 そしたら最悪だけは回避しよう」


提督は言うなり拳銃を取り出し武官に向ける。

「誰が話すか!」

武官が答えた瞬間、銃声が轟く。
右足の甲を撃たれた武官は悲鳴をあげるが、同時に痛みが薄いことに気づく。

「…が、ぁ」

「今度は麻酔じゃない。話せよ」

提督は武官の頭を掴む。
鼻先に熱い銃口を突きつけ、提督は言う。


「なんなら、その汚い足以外も切ってもいいんだ」

「…?!」

武官の前に提督はナイフを見せる。

「これであんたの健の一部を切ってる。手当てすれば、回復するかもな」

武官は唾を吐きかけた。
提督はそれをぬぐうことなく、武官の頬にナイフを突き立てる。
激痛と出血。武官が痛みに取り乱す中、提督はナイフを引き抜き言う。

「話せ」

「…あ、あ、あ」

武官は目の前の男を見る。
正気じゃない。
こんな鬼畜なことを、人ができるものか。


「ラバウルの亡霊と、金を出してるやつの居場所を吐け」

「…断る!」

武官はそれでも黙った。私一人の問題ではないとの想いからだった。
その返答を受け、提督は目を細める。

「なら、選択させようか?死にたくなるような地獄の日々を生きるか。
 それとも言って私に殺されるか。選べ」

武官は提督を見る。殺し前提で、何を言ってる。

「言うか、貴様なぞに!」

「根性は買う。その野心も。ただただ残念だ。お前もダメだ」

提督は、そう言うと言った。


「【来い、これが君らの『提督』だ】」

「…?!」

武官は、提督の一言に耳を疑った。
今、この男は何と言った?自分には妖精は見えはしないのに…
ドアが開く。二人の女が部屋に入ってきた。

「あなたが私の提督なの? それなりに期待はしているわ」

「ヨロシクオネガイシマース!」

その声を聞いて、武官は凍りつく。
まさか、この男。そこでやっと武官は男が血まみれの理由を理解した。


「お前……何した?」

「何って?暇だったんで、あんたの家族を艦娘にしてみた。
 嫁も娘も親父の事情を知ってるぽかったんで保険だな」

「…馬鹿な、バカな!」

武官は驚く。
ありえない。ありえない。こんな環境で建造など出来るはずが…
しかし非常にも男の希望を打ち砕くように、提督は言った。


「艤装は作れなくても内装は出来る。幸い、パーツならある程度強奪してきた。
 ほら見ろよ。あんたの愛しい家族じゃないか?報国してる彼女らにその対応って、父親として最低だな」

やめろ、見たくない。
武官はそう思うが、足音は近づく。
その二人の艦むすは、武官の前に立った。

「提督!」

「提督!」

金剛と加賀。
だが面立ちの面影が、妻と娘のソレだった。
武官は、絶叫する。


「妻と、娘に何をしたァ!!」

「言ったろ、艦娘化手術だよ。よかったな。大型艦だ。アタリだ。
 頑張れ、『提督』さん」

提督は顔色ひとつ変えず言った。

「イカれの鬼畜が!妻と娘を戻せ!」

武官の絶叫に、提督は何も感情を見せず言った。

「なぜ戻す義理がある?」

提督は、そう言うと武官の顔を掴む。
その力は、異常に強い。


「先に手を出したのはお前だ。でもって、普通考えないか?
 お前に報復する相手なら、お前の大切なものから壊したいってな。
 お前のせいでお前の家族はこうなった。お前の悪徳が、二人を巻き込んだ。お前が原因だ。お前が下手打った。
 父親としても男としても失格だよ。カス」

武官は、提督を見る。彼は真っ青になりながら言った。

「だが!こんなことが…!
 彼女らは何もしてないじゃないか!」

「何もしていない?それが私の報復の対象にならない理由になるか?
 お前の悪徳がお前で止まると思うか?お前で支払えないものを、お前の家族に払ってもらっただけだ。
 私はやるなら徹底すると決めていてね。残念だけど、目撃の可能性のある二人には犠牲になってもらった。
 お前のせいだ。お前が悪い」


武官は、加賀と金剛を見た。
かつて妻と娘だった二人に武官は必死で呼びかける。

「私が、私が分からないのか?」

武官は妻と娘の名前を呼ぶが、二人はキョトンとするだけだった。
そんな武官に提督は言う。

「一度艦娘化して、解体して、でもって再度艦娘化させた。
 その無茶に記憶と人格なんか、とっくに揮発してるよ」

「こ…この!人でなし!」

「人間だからここまで出来る。さて…艦娘は国家の所有物だ。
 資格のないアンタが、所有できるかな?あきつ丸のような派遣でなく」

「…あ、あああ。あああッ!」


武官は叫ぶ。
それを一瞥すると、提督は武官の椅子を蹴飛ばした。
硬い床に武官は転がり、天井を見上げることになる。
提督がそんな武官を見下ろす。

「ああ、吐けばよかったのにな。そしたら知らずに死ねたろ?」

「お前を、お前を絶対許さない!」

武官は提督を見上げて叫んだ。
提督は答えつつ武官の顔面を踏みつけた。

「許す?笑わせるなよ。お前に許されて何になる?
 それより感謝してほしいな。犯罪者の妻子として後ろ指されないようにしてやったんだ」

そのまま提督は思い切り武官の頭を蹴りつけた。

>>1です。
今夜はここまで。

誤字脱字がひどいっすね。

おつつん


多少予測してたけどやっぱこういう展開いいねえ

乙でございます

乙でした
いいねえいいねえ

最高だな

艦娘を自分たちで操りたかった武官にとっては、最悪の結末だな。
「国のために戦う『意志のある兵器』」でもなく「金のために戦う『ただの商品』」になり下がったわけだから。

愉悦……。

>>1でそ

今夜分を投下します。
エタるのががが

大鳳は、荒い息を整える。
深海化した大淀だったが、なんとか大破まで持ち込んだ。
雷撃と爆撃を繰り返すこと数十度。
そこまでしてやっと、彼女らは大淀を戦闘不能にさせた。

「化け物ですね」

大淀は、ひどい状況だ。
大破してなおも動けたのは、深海化と深海由来の艤装の為だろう。
が、その無理と度重なる攻撃で大淀自身ボロボロだった。
眼鏡は無く、艤装はすでに原型を留めていない。
それでもまだ浮いているのが不気味で不思議だった。


「…まったくや。木曽と阿武隈…
 でもって叢雲まで戦闘不能まで追い込むなんてな」

龍驤が大鳳の言葉を拾う。
血まみれの大淀が二人を見る。
その目が死んでいないことを大鳳は不愉快に思った。
この状態でまだ折れないのか。

「…弾切れですか」

大淀が顔を上げる。

「残念やけど次で終いや。…でも、あんたも限界やろ?」


龍驤の言葉に、大淀は答えなかった。
返事をするかのように、大淀の背負った深海側の艤装が軋む。
だが、先ほどのような凶悪極まる砲雷撃は起こらない。
龍驤は、それを見てざまあみろと思った。

「誰も沈んどらへんけど、幕引きやな。いくら…バケモンでも次はあらへん」

龍驤は止めの攻撃を繰り出す。
そんな彼女のの目配せを受け、大鳳もまた攻撃隊を発艦させた。
これで終わり。その確信があった。
これで終わる。だが…


「はい、喧嘩はそこまで」

女の声が響いた。
その声に大鳳と龍驤は振り返る。
いつの間にか、3人の艦娘が立っていた。

「無傷の空母相手に沈みたくなければ、戦闘やめましょ」

拡声器を抱えた明石がいた。
その後ろには、グラーフツェッペリン。
そして逃したはずの天城が控えている。
龍驤は硬直し、大鳳は混乱した。


「…なぜ、貴方達が」

グラーフが奪われたのは、自分たち以外の存在だと思っていた。
だからこそ大鳳は、轟沈したはずの明石が彼女を連れていることが信じられなかった。
明石はそんな大鳳の内心を読んだかのように答えた。

「ちょっとした小細工です。
 …ラバウルの麾下だった子らでしょ?逆恨みも済んだでしょ。もう許してあげて下さいな」

明石はそう言うと、頭を下げる。

「お願いします」

その行動に、大鳳は困惑するしかない。
頭を下げることも腹立たしいのだが、そんな行動をとられるなんて予想もしてなかった。

苦虫を噛み潰したような顔をした龍驤が、やっと切り出した。

「あんた、自分何言っとるかわかっとるん?」

「ええ、承知ですよ。それでも私、その子達に沈んで欲しくないので」

明石は頭をあげて言う。龍驤はそれを見て怒りを露わにする。

「身勝手すぎるわ。…関係あらへん、あんたも沈め!」

そう艦載機を明石に向けた時だった、明石は言った。

「そうですか。なら伝えて大丈夫ですね。
 貴方達が殺したいあの人、生きてますよ。まだまだ」

ピタリと、龍驤が手を止める。


「嘘です!」

大鳳が叫ぶと、明石は悪い笑顔を作る。

「事実です。貴方達が、あの人殺したいなら…ここは引いてくださいな」

「…信じられない」

大鳳の言葉に、明石は続ける。

「そうでしょうね。私のハッタリかもしれません。
 ですから、証拠にこれを」

明石は、そう言うと何か丸めた紙を大鳳に投げる。
大鳳はその丸めた紙を受け取る、警戒しながらも彼女はそれを広げた。
そうして紙を一瞥するなり、大鳳は表情を変えた。


「分かりました…」

「大鳳?」

龍驤がつっかかるが、大鳳は明石に言う。

「今は引きましょう、龍驤」

「アホか、大鳳。この機会を逃すなんて!」

「旗艦として命令を出します。行きましょう」

大鳳は、そう言うと明石を睨みつける。
この女狐と怒りを込めて大鳳は言い放った。

「次はありません」

「ありがと。もう会う事もないでしょうけど」

明石はそう言うと、手を振った。
龍驤を制しながら大鳳は大破した仲間を連れ撤退を始めた。
腸が煮えくり返る思いだったが、やむを得なかった。



視界が虫食いのように血で歪む。
ほぼ見えていないが、声は聞こえた。大淀は、その声の主に話しかける。

「わ…わた、私の…幻覚で、なな、い。で…すよね?」

「残念ですけど。しっかし、バカでしょ。大淀」

言われて、大淀は笑うしかない。
本来なら、自分は沈んでいる。
今までの興奮が収まってきたせいか、酷く痛む。
だが、耐えられなくなかった。

「これ、くら……ぃ、耐えられ…。
 ねえ、明…石。あの人…、あの人は…
 ててて提……督は、生き…て…るんでしょ?どこなの?どこ?どこなのよ?
 あのひとに、あのひとは…」

大淀は、明石を見る。
近づいて近視の目でもやっと彼女の顔がわかる。
にじんだ視界の中、明石の表情が動いたまでは大淀にも見えた。

「その前に、休んで」

大淀は明石が近づいたまでは記憶していた。
だが、彼女が自分に触れたあと全てが真っ暗に消えた。


「本当、バカな娘。あー嫌だ…」

明石は鎮痛剤を兼ねた麻酔薬を打って、意識を失った大淀を抱える。
…どう考えても無茶だった。
深海化の地点で、意識があちら側に持っていかれなっただけでも驚くべきことだ。
なのに、そのまま戦闘を継続していたのだと思うと、背筋が冷たくなる。
完全に深海に成っておらず、それでも艦むすでいた事実に明石はため息をつく。

…本当にあの男は最低である。
年端のいかない少女を、自分のために…
当の本人は別の女に熱を上げてる。

明石は振り返ると、天城に言う。

「天城、悪いけど抱えてくれる?」

「は、はい」


天城に大淀を預けると、明石は由良に近づく。

「大丈夫?」

「あか、し?」

由良がこちらを見る。
…精神をやられていると見た。
明石は由良の頭に手をやると言った。

「もう大丈夫」


それからぎゅっと抱きしめる。
幸か不幸か、彼女は『成っていなかった』。
由良は震え、泣き始める。
その背中を優しく叩きながら、明石は涼風と夕立を確認する。
…両者大破だが大淀を見ていなくてよかった。
彼女らも『成っていたら』手に負えない。
明石はそう考えながら由良が落ち着くのを待った。

>>1でそ

今夜はここまで。
おなさす

文読み直す余裕もないくらいには忙しそうだな

乙乙

乙でございます

>>1です。

えたり防止で投下します。


グラーフは艦載機をカードに戻すと、駆逐艦二人を脇に抱えた。
まだ由良は自力で航行出来たようだが、損傷の兼ね合いからか天城に支えられていた。
明石は大淀を担いでいる。そんな明石に、グラーフは質問した。

「…明石。これもあのアトミラールの采配か?」

グラーフは、あの男を思い出しつつ言った。
彼は【こちら】に来ることもできたのにそれをしなかった。
だからこそ、事情を知ってるであろう明石に彼女は聞いたのだった。
明石はそんなグラーフを見て、答えた。


「もちろん」

その発言に、ピクリと由良や天城が反応する。

「グラーフさん。そこまでです」

明石は、そうピシャリと言う。彼女はそれから天城に依頼した。

「天城、すみません」

「は、はい」

「後はお任せしてもいいですか?」

「…明石、それはどう言うことですか?」


天城の問いに、明石は答えた。

「まだまだやることあるので。大淀だけ少し借ります。
 あなたたちは戻って入渠してください」

由良が明石に食いつく。

「どこに行くんですか、明石!?戻ったっていいじゃないですか」

「後始末ですよ。ついてこないでくださいね」

明石は、そう言うと足を速めた。
由良は追おうとしたが、足がもつれた。それに天城が引きずられた。


龍驤は不満だった。
目の前で仇を殺せる絶好の機会を、旗艦の大鳳は捨てた。
彼女にしてみれば、大鳳の行動は日和ったようにしか見えなかった。
龍驤たちは今、大破した阿武隈、叢雲、木曽を曳航しながら帰投していた。

「なあ、大鳳」

そう龍驤が話しかけると、大鳳は返事を返す。

「なんでしょう?」

「さっきの、なんや?まさか怖じ気ついたんとちゃうんか?」

龍驤が指摘すると、大鳳は間を空けず答える。


「それはありません」

「だったら…」

言いかけた龍驤を抑え、大鳳は言う。

「あの明石の紙です」

「なんや、紙一枚で」

「…私たちの物資の入手経路が記載されてました」

その一言に、龍驤は黙らざるをえない。

「あの、拉致られた女が漏らしたんとちゃうか?」


龍驤がそう言うと、大鳳は首を振る。

「わかりません。経路としては、ありえますが…
 あの武官の元に内通者がいるかもしれない」

「報告しんでええのか」

「もちろんします。
 ただ明石の発言を考慮すると、あの男がやった可能性の方が高い」

龍驤はあの男を思い出す。
卑劣で傲慢な男。思い出しても殺意が湧いた。
…あの男がいなければ金剛や加賀は提督を殺さず済んだのに。

「…ますます殺す理由が出来たわ」

「ええ。そうです」

大鳳は、そう言って前を向く。
そろそろ陸地が目視出来る距離に入っていた。
後は、ドッグに行くだけだ。木曾、阿武隈、叢雲も限界近いだろう。
そんな大鳳は、視界の端にボートを見つけた。
現地の船だろう。
塗装は剥げ、赤錆の生じた船だ。
漁でもしているのかと思った時だった。


「龍驤!」

大鳳は声を上げる。
龍驤も反応する。
見間違えるはずがない。深海だった。
突如、その船からPT小鬼群が飛び出す。
続いて深海の艦載機も。

「こんな、近海で何故?!」

大鳳はそう叫びつつも、戦闘の準備を始める。
いくら小型と言え深海に変わりはない。
沈めねばと、彼女が思った時だった。


「…なんや、あれ」

速やかに装備を展開した龍驤が言う。
大鳳も、それを見ていた。
船から人影が飛び降りる。
ソレは、艦むすのように海面に降り立った。

だが…彼女は小鬼に襲われない。
その女と大鳳たちは視線が合った。
その顔に誰かの面影を覚えた。

今夜はここまで
お願いします

おつつん



龍驤や大鳳は敢えて目を逸らしてるんだろうけど、先に卑劣な罠を仕掛けて提督を殺そうとしたのは
彼女らの提督なんだよなぁ。

逆恨みって自覚してるし多少はね?

乙乙
何だかんだ定期的に投下してくれて安心

乙でございます

>>1です。

えたり回避で落とします。
いろいろすみません。

帰投すると、後任士官は眼を丸くした。
それはそうだろう。
大淀の轟沈、天城以外の大破。
でもって行方不明となったはずのグラーフの帰還。
だが、それでも彼は入渠の手配を済ませた。


グラーフは湯船につかりながら、
面倒を見るよう頼まれた駆逐艦らを見ていた。
本当に外面はただの駆逐だ。

「デッカいっぽい」

夕立が言って、グラーフは渋い顔をする。
褒められたものではないのだが…
たしなめようとしたところで、もう一人の駆逐艦が言った。

「…で、グラーフさん」

「なんだ?」

視線を涼風に向けると、
彼女はグラーフに質問する。

「提督さんが生きてるって本当かい?」

グラーフは言うか言わないかで悩んだ。
あの男は口止めもしなかった。
明石も同様である。
この子達ならいいだろうと、彼女は口を開く。

「ああ」

そう答えると、激しい水音が上がる。
夕立が立ち上がったからだった。
彼女はグラーフに詰め寄る。

「本当なの!!?」

「…興奮するな。実際会ってる」

その言葉を聞いて、夕立はグラーフの肩を掴む。

「どこ?どこなの提督さんは?!」

「ちょっと、落ち着け!」

グラーフは彼女を落ち着けようと手を伸ばして転倒した。


士官に報告を終えると、由良は天城を見つけた。
天城は由良を見ると気まずい顔をする。
そんな自分が嫌だと自己嫌悪して、それから彼女は由良に言った。

「…ごめんなさい」

「いいんですよ」

由良はそう言うと、天城を見る。

「助かりました」

由良が言うと、天城は胸が痛んだ。


「私、何もしてないですね」

由良は天城のその言葉にチクリと来た。
大淀はあんな状態になってまで戦ったのに、自分はどうだ…?
そう思うと気分が暗くなる。
けれど、由良は『はやる心』を抑えつつ天城に聞いた。

「でも…」

「はい?」

「提督さん、生きてるってことでしょ?」


由良がそう言うと、天城は複雑な顔をした。
天城は、由良を見ながらあの時のことを思い出していた。



一人離脱したあの時、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
報告しなければならないだとか、言ってどうなるのかと言う迷い。
そうした混乱の中、自分は明石と会った。
死んだはずの明石は、グラーフを連れていた。
…明石は確かこう言ってた。

『今の提督さんに会っても、みんなに出来ることはないです。
 言ってもいいですけど、出来たら黙ってて下さい。
 抜け駆けしたいなら尚更、ね』

その言葉を思い出したが、天城は言う。
自分でも思いもしないことだった。


「そうですね」

由良は天城の答えに破顔する。

「…そっか、そうよね」

天城はその姿を見ながら思う。
これほど慕われているのに、どうして提督は姿を見せないのだろう?
自分達は、提督にとって…
言ってしまった後悔も天城を暗くさせる。
私は、あのひとに選ばれてはいないのだろうか…?


「天城?」

由良が天城の暗い顔に気づいて声をかける。
天城は頭を振った。

「なんでもないです。提督も思うところがあるんでしょう」

由良は天城の言葉を聞いてから言った。

「そうよね、島の時もそうだったし」

由良は安堵の表情を浮かべながらそう言った。
天城はそんな由良を見ながら、自分に言い聞かせる。

「ええ。大丈夫だと思います」

大丈夫なのだ。
あのひとはきっと。
わたしの元に帰ってきてくれる。

>>1です

今夜はここまで。
仕事が…仕事が…終わら、ないッ!!

おつおつ

おつ
続き待ってるで

乙乙

>>1です


今夜分を投下します

男は報告に絶句した。
あの男の物だった艦隊を沈められなかったばかりか、逆に大鳳、龍驤、阿武隈、木曽が沈んだ。
その報告をした叢雲は、その後気を失った。
今もまだ意識は戻っていない。
男はペンの尻を噛みつつ、頭に手を置いた。

…何もかもが狂い始めていた。

武官の邸宅への襲撃、先読みされたかのような、計画の失敗。
男は頭を抱えるしかなかった。


「失礼します」

大和が入室してくる。男は嫌味を言いたくなった。

「お前の計画が潰れたぞ」

そう言うと、ギロリと彼女は男を睨む。
その瞳が少し赤みがかって見えた気がした。

「……ですね」

大和はそう言うと、男に資料を渡す。


「現地警察も、政府も動き始めています。敵は…あの提督で間違いないです」

男は資料に眼を通す。
保護された武官は足の腱を切断され、なんらかのショックから酷い錯乱状態だと言う。
さらに被害としては彼の妻子の艦娘改造もあった。
彼らの記憶の回復は絶望的だろう。
情報を引き出すことは、難しい。
男はページを捲った。
さきほどからどの報告を見ても周辺で大きな武器を背負った女の目撃情報が多い。
なにかしらの艦娘を奴が動かしたのは間違いなかった。
だが…それでも疑問が残る。


「…大和。叢雲の報告では、明石とグラーフは後から来たそうだ」

男の言葉に、大和は黙ったままだ。

「つまり、あの時あいつの手元にはもう一隻が存在していた。 
 あいつは、一体どうやって存在しない7隻目を用意したんだ?」

その言葉に、大和は見解を示す。

「…推測ですが。ここで改造したのだと」

「馬鹿な」

「事実です。艤装は妖精ですが、艦娘施術は人間でも可能です。
 どうやったか知りませんが、素材さえあれば艦娘を奴は作れるでしょう。
 ましてこの国なら…」

大和はそう言うとため息をついた。

 
「忌々しいことですが、奴の手元には奪った艤装もあります。
 奴が艦娘を作り出しても矛盾はありません」

男は、思考を巡らせる。
一番最初の襲撃から考えよう。
おそらく、あきつやあの女を襲ったのは奴で間違いない。
明石も生きている現状、襲撃は不可能ではない。
だが、問題はこの後だ。

グラーフツェッペリンはそれなり以上の警備を施していた。
はじめは大本営の工作だと考えていたが、奴一人なら疑問が湧く。
明石は明確に戦闘向きではない。
だというのに、朝潮が倒された。
奴が逃げ回っている間に艦娘を得たとしても、
朝潮を打倒しうるそんな強力な艦をどうして得られたのか?


仮に戦艦、重巡を作り出したとしても練度や戦闘技術は一朝一夕で教えられるものではない。
しかし事実として朝潮は倒された。
そこから導き出される回答としては、次が主だったものだろう。

①奴は戦闘可能な駒を持つ。
 または、艦娘を倒せるだけの協力者がいる。
②やつは艦娘を倒せる装備を持つ。


その上で、男は②ないと否定した。
奴自身が艦娘を殺すだけの装備を得ている可能性は限りなく低い。
艦娘殺しの弾薬など保有できる提督が存在するのかさえ怪しい。
よって現実的に考えるなら艦娘を殺せるのは深海か、化け物じみた火器だけだ。
だが生身の人間が携行できるもので、艤装の加護を打ち破れるとは思えない。
であれば①の方がより強く現実味がある。
ここまで原因と可能性を考えたところで、男は大和の誤りに気付いた。
正確には、自分の勘違いも含めて男は大和に言う。


「大和、それには間違いがある。最初に深海の鹵獲の脱走があった。
 仮に強奪したドロップやパーツで艦むすを作ったとしても、グラーフの奪還は説明できない。
 グラーフの奪還の後に、強奪があったんだぞ」

「それは…」

大和も気づく。
男は気づかなかった自分も慌てているのだと気付いた。
そうだ、奴が改造できたのもグラーフ奪還後だ。
では、それ以前は奴は明石ないし協力者しか駒を持たない。
そうした工作はできないはずだった。
であれば、やつ一人でやったとは考えにくい。
よしんば出来たとしても脱走の手引きだけだろう。

「奴以外の可能性もあり得る。某国の工作員も疑って…」

そう男が言った瞬間だった。
突然天井が割れた。

今夜はここまで

よろしくお願い致します。

乙乙

おつ

>>1です。
今夜分を投下します。


「?!」
 
即座に大和は艤装を展開する。
部屋に入り込んできたのは…

「PT小鬼群?!」

大和は飛び込んできた深海に驚く。
それは笑い声を上げながら、男に襲いかかる。


「ひぃ!!」

男が悲鳴をあげると同時、一匹の小鬼が魚雷を取り出す。
大和の行動は早かった。
瞬間で距離を詰めると、その一匹を掴んで投げ飛ばす。
機銃で撃ち抜き、残りの個体も主砲で狙いをつけた。

「伏せて下さい!」

加減できない以上、最大の注意だった。
砲が火を噴くと、そこには何も残らなかった。


「…ぁ、あ…」

腰を抜かした男を他所に、大和はすぐさま動く。
部屋の外に何かがいる… !!
彼女が構えた瞬間だった。
扉が破られる。

「?!」

視線が、そちらに向く。
大和は半身をひねり入口を狙う。
…殺すのもやむなし、彼女は主砲を撃ち込む。
扉が吹き飛んだ。

「大和ォ!」

男が絶叫する。
室内での連続した砲撃で煙が充満する。
原型を留めない扉から煙が流れていく。
…その靄を突き破り、さらに小鬼が入り込んだ。
その一匹が飛び上がる。


「!」

これ以上の主砲での攻撃は男を巻き込むと大和は判断した。
そのまま高射砲を起動。
大和は小鬼の一体を殺す。

その間に壊れた扉から、煙が晴れてゆく。
その向こうに誰かが立っていた。
小鬼の後ろ、大きなカバンを提げた男だった。

「…信じられない」

その顔を大和は良く知っていた。


「…な、な、な?!」

男は腰を抜かしたまま、立ち上がれない。
なによりも小鬼を引き連れた男がここにいることが信じられないのだろう。
生きていると知っていたが、奴が出向くと誰が予想できただろうか。

「貴様!」

大和が怒りを露わにしたのを見て、提督は嘲笑した。

「久しぶりだな。ああ、ブスだな。やっぱり」

大和は高射砲で次弾を放つ。
だが、それを小鬼の群れが身を呈して防ぐ。
その行動も、大和には信じられなかった。


「何故、深海が人間に?!」

腰を抜かしたままの男が絶叫する。
提督はそれに答えようとしたが、それより早く小鬼が倒れたままの男に飛びかかった。
小鬼に体を食い破られた男の絶叫が響き、提督は顔をしかめた。

「あーあ、ざまあねえな」

そう言った提督は、大和を見る。
酷い状況である。
男が生きながらにして小鬼に嬲られ貪り食われようとする中、その男は口を開く。


「さて、ブス。久しいな。提案だ。話し合…」

大和は最後まで言わせなかった。
再び砲撃を繰り出す。
だがやはり、小鬼の群れが防ぐ。
男の目の前で、小鬼どもが木っ端微塵になる。

「答えはそれか」

提督は、返り血を浴びながら残念そうに言った。
彼は顔にかかった血を拭う。

「じゃあ、倒してみろ。一人でな」

「鹵獲した深海の解放ですか…あなたらしいですね!」

大和はそう言いつつ、艤装を構える。
ここであの男が死んだ不利益よりも、自らの手で奴を殺せると言う事実が胸を踊らせる。

「死んで下さい!」


何が目的で奴がここまで来たか、大和はもう興味がなくなっていた。
それよりも最大最強の砲が、目の前の敵を肉片に変える。
その様に巡り会えたことに幸運さえ感じていた。
…実に簡単な話である。撃てば、奴は赤黒いシミに成り果てる。
その筈だった。
だが彼女は、それが出来なかった。

「?!」

小鬼が飛びかかる。
咄嗟に腕で薙ぎ払う。
男はその間に、大和の脇を悠々と抜け窓へと近づく。
掴んだ小鬼の一匹を握り潰した大和は速やかに男を視界に捉える。

次こそ殺す!

そうすべく砲を構えた大和は、窓から飛び込んでくる人影を見た。


木製の窓枠とガラスを突き破った、その人影は室内で立ち上がる。
提督はガラス片で頬を切りながらも微動だにしない。

誰だ?!

と疑問が大和に沸くが、彼女は躊躇しなかった。
体勢は不十分。
だがそれでもけし飛べと、彼女は撃ち方を始めた。
直撃せずとも余波と衝撃で、黒い髪の女ごと提督は吹き飛ぶ筈だった。

着弾の衝撃で巻き上がった何かが床に堕ちる。
それは現地の女の着るようなストールだった。
大和は、女が立っていた事実に驚愕する。
ここで敵が艦娘だと気付いた彼女だったが、それでも違和感を覚えた。

…ありえない。

直撃こそしなかったがかすめておいて、中破すらしていない。
艦娘だとしても46cmの衝撃を受けて平然としているなど、規格外だ。
自分と同じ戦艦でなければ立ってすらいられないだろう。
大和は女を注視する。
女は、白髪であった。
よく見れば、ウィッグの一部が肩にかかっていた。
変装が解けても、頭を下に向けているため長い髪で顔は見えない。


「あなた…」

大和が、そう言った時だった。
聞きたくもない男の声がした。

「流石。殺られたと思ったが…お前の愛のチカラも、結局その程度か」

「今、なんて」

大和が言うと、男は無表情のまま答える。

「お前のは愛じゃないってことさ。
 執着と愛は別だ。
 対象が立ち去ることを2つとも拒むのだが、喪ってまで強請るのは執着でしかない」

男は煤だらけで答える。
その言葉に連動したかのように、女の顔が上がる。


…真っ赤な瞳、漏れ出る燐光に大和は理解する。
人型の深海…それも姫。
大和は、その姿を見て絶句する。
そこにいたのは、間違いなく空母水鬼だった。

「…姫?!」

鹵獲した個体に該当はない。
だが、姫で間違いなかった。
大和の砲撃は直撃しなかったが、建材が壊れる時に破片で傷ついたのだろう。
彼女は頬にできた傷を右の甲で拭う。
その血は赤かった。


「その通り」

男はそう言うと、空母水鬼に尋ねる。

「ヤレるか?」

正気のない虚ろな目が提督を見る。
小さく、頭が動く。
怖気と嫌悪を大和は覚えた。

…敵さえ御するこの男は何だ?

「貴方に艦娘は…」


そう言いかけ、大和は自分の間抜けさを痛感した。
艦娘がいない。
だが奴は深海を使うことで解決したのだろう。
どうやったか見当もつかないが、事実目の前に姫がいる。
であれば…仲間たちが沈められた理由の答えにもなる。
目の前の個体なら、それをやれるはずだ。

「だな。私には手持ちの駒がない。
 だから手っ取り早く君らの鹵獲したソレを使ったまで」

「深海は、こちらの意図など!」

大和は指摘する。
やつらと対話は不可能なのは、彼女自身よく知っていた。
だが、そんな深海を従えた男の答えは予想もしないものだった。


「聞かないさ。だから加工した」

「かッ…加工?」

「ああ、今目の前のソレだけど…よく出来てるだろ?
 小鬼は楽だったが、ヒト型になるとそうはいかない。
 轟沈した翔鶴やら蒼竜やらの制御系統をヲ級に組み込み、艤装と設定は4基の艦娘用の石でやってみた。
 早い話が深海ベースの艦娘だ。どれだけ持つかも不明な上、やっつけ仕事。あと暴れたね。
 おかげで自我思考は会話すら怪しいほどボロボロだ。
 どうやら意識は幼児レベルに毛の生えた程度だが、兵力はそれなり以上で平均的な戦艦の艦娘より強力だ」

そう、提督は淡々と言う。
大和は、その態度と事実に憎悪した。


「死者への冒涜が!貴方、英霊になんてことを!」

戦った我々をなんだと思っている!
その大和の感情のまま飛び出した怒りの言葉に触れてなお、奴の態度は変わらなかった。

「英霊?オカルトなんて言うなよ」

「尊厳の問題です!」

「そんげんそんげん、実に下らない。
 死人が私たちに何かしてくれるか?権利が私たちを庇護したか?
 死人らは忘れるなと呪詛と唾を吐くだけだ。権利は主張して初めて剣となる。
 人の尊厳は生存している限り。だから私は死体にソレを認めない。
 さあ、どうする日本最強?これを沈められるか?」


そのまま提督は水鬼の肩を叩く。

「頑張れ。アレは止めてくれ。壊してもいい」

空母水鬼の顔が恍惚の表情を作る。
異形の艤装が唸りを上げて、空母水鬼の背中から飛び出す。
悲鳴じみた声が艤装から轟く。

…大和は、唾を飲み込んだ。
それでも彼女は勝算がないわけではないと判断した。

いくら姫とはいえ、ここは陸で、自分は最強の艦娘だ。

大破すれば置物にしかならない空母など、敵ではない。
だからこそ大和は全砲門を速やかに水鬼に向ける。

「死んでください」


大和はそのまま砲撃した。
空母水鬼は避けなかった。
…背後に提督がいたからだろう。
一撃で中破に持ち込んだ大和は微笑む。
嗚呼、この手で奴を殺せる!
そんな中破した水鬼の顔が苦痛に歪む。
その顔で水鬼は涙を流し、くしゃくしゃの顔で叫んだ。

「イタイ、イタイイタイ!!イタイイイイイイイイ!!!!」

本当に幼児のように空母水鬼は涙を流して泣きわめく。
だが、その声に大和は引っかかりを覚えた。

「ヤマト、ヤマト!ヤマトットトトトォ!ヤマママママ…!
 …ナンデ、ナンデ?!ナンデナンデナンデナンデ?!!
 ヒドイヒドイヒドイィィィイイイイイイイ!!!イタアアアイイ!」


背中が粟立つ。
ぞわりと、大和は悪寒を覚える。
…今、彼女はなんと言った?
何か言おうとした瞬間、彼女の体に艦爆が炸裂した。

「~~~ッ!???」

激痛に意識が持っていかれそうになる。
だが、彼女は耐える。
…どうなっている?
敵は空母水鬼と小鬼だけでないのか?
どこからともなく現れた艦載機が部屋で舞う。
大和はそれでも動こうとしたが、知らぬ間に空母水鬼が距離を詰めていた。
肉弾戦かと、大和は構えるが…
空母水鬼は突然大和を抱擁した。

「?!」

突き放そうとするが、動けない。
馬力の違いか、それとも自身の損傷からか。
動きを止められた大和を空母水鬼は押し倒す。
その顔は恍惚の笑みに満ちていた。
そんな二人を見下ろし提督は言った。


「殺されると気を抜いたな。負けだ。ブス」

男は大和に近づく。
大和は、必死にもがき言う。

「ぐ、何故、こんな!こんなことが!」

「意外と仲間を見ないんだな。…そりゃそうか、恋敵だもんな」

大和に不思議な言い回しで答えると、提督は端末を大和の艤装のマウントの端子に打ち込む。

「詰みだ」

不正な操作で艤装が外れる。
大和はありったけの怨念を込めて叫ぶ。

「この…!殺しなさい、早く!」

「殺しはしない。【組み伏せたままにしろ】…でもって【入ってきていい】」

提督は大和に返事を返すと手で示した。
壊れた窓から、新たな人影が入ってくる。
立っていたのは…


「嘘でしょう?!」

装甲空母姫。
深海を従えてる時点であり得ないが、そんなものまで連れるとは…
大和はそれを見ながら、叫んだ。

「何が目的ですか?!」

「明朗かつ闊達な敵の用意をしなければならないんだ。大義とうねりがいるんだ、冗談だが」

そう言うと、提督は振り返る。
彼はカバンを開くと、何かを取りだす。

「お前なら躊躇なく『使える』。素材としても十分だ」

提督はなんらかの機材をもって、大和へと近づく。

「…どうして、どうして!」

大和は絶叫する。
それを見ながら、提督は答えた。

「大和としての最後に教えてやるよ。それが、ただの深海だと?酷いなぁ。お前の仲間だった翔鶴、大鳳、龍驤が哀れだ」


大和は、凍りつく。
彼女は首をひねり、空母水鬼を見る。
仲間だった翔鶴の面影が、彼女にはっきりとあった。

「…そんな…うそ…」

大和は恐怖した。
深海となると言う話は聞いたことがある。
だが、あの翔鶴がなるとは信じられなかった。
大本営でさえ否定していることなのに…

「手間だったが、やれたよ。
 バケツは嫌という程使ったがね。
 手荒れした、どうしてくれる。
 コレは大破したヲ級に翔鶴の素材で直ぐ組めた。
 …ああ、ちなみに装甲の方は大鳳と龍驤それから木曾の部品で作った。
 タ級の船体にパッチワークさせてもらった。もろもろ足りなかったんでね。具合がよくて」


大和は激高した。

「尊厳の否定です!貴方、何をしでか」「手前が言うな」

提督はそのまま続ける。

「私は生きてる人間しか認めない。
 それも意思を持ち選択し、私の敵でない奴のみだ。
 私含めて人間は皆死ね。なあ?ラバウルのガラクタども。
 お前らが私に再び手を出さなければこうならなかったのにな」
 
提督はカバンから取り出したゴム手袋を手にし、笑った。

「二度も負けるなんて無様で阿呆だな。
 正面突破の私を殺せなかったのものお前の慢心だ。
 のこのこ死ににいってやったのに、このざまか。
 私だけを殺すのなんて簡単だったのにな、大和?」

今夜はここまでです。

書き溜めなくなってきました…

乙乙
この非情っぷりが良いね


続きが気になって仕方ないSSの一つだな


引き込まれるなあ

何かもう最高じゃねえか

乙でございます

>>1です。

お待たせしました。
書きだめ消化します。


目が覚めた。
けど重い眠気が体に残っていた。
そこで、大淀は眼鏡をなくしたことを思い出した。
大淀はぼやけた目で辺りを見回す。
どこかの小屋らしい。
粗末であるが、清潔である。
そのことは寝かされていたベッドのシーツから良くわかった。
ふと、彼女は誰かの寝息を聞いた。

「…?」


立ち上がる。
自分の体のいたるとこに包帯が巻かれていた。
大淀は良く見えないまま、自分が寝かされていた部屋の扉を開けた。
扉を開けると、家具が散乱した部屋が見える。
その黒いソファーらしきもので、大きな影が動いた。

「ていとく?」

夢を見ているような気分だった。
大淀は、その背中に近づく。
嗚呼、あの人だ。
ぼやけても彼だと大淀はわかった。


「提督…!」

大淀がそうして提督に触れようとした時だった。
明石の声が遮った。

「ダメですよ。触ったら、先生の犬に殺されますから」

振り返ると、疲れた顔の誰かが立っていた。
聞こうとして、大淀は再び意識を失った。


明石はもう一度麻酔を大淀に嗅がせた。
そんな彼女を抱えて、明石は大淀をベッドに寝かせる。
それから明石は元いた部屋に戻る。
死人のような顔の提督が寝ている。
そのソファを、明石は思い切り蹴っ飛ばした。

「起きてください。センセ、時間です」

ソファから転がり落ちた提督に明石は言い放つ。
それに対して、目の下にクマを作った提督は悪態をつきながら立ち上がった。


「…マシな起こし方しろ」

「自殺に失敗しただけで、生きる希望が湧くなんて便利ですね」

「あの女が悪い。あの距離で私を殺せなかった。ヘボだ」

「どうだか、死ぬつもりなんて微塵もなかったんでしょ?」

明石は軽蔑の表情のまま、そんな提督の向こう脛を蹴った。
提督は顔をしかめたが立ち上がると、ソファに明石を座らせた。
逆に提督は壊れた家具に腰を下ろす。


「手間かけたな」

「本当です。ただ腐っても大淀を直したのは、流石です」

「元医者だ」

「ところで、犬どもは?」

「放置」

「暴れやしませんか?」

「チョーク渡したから、落書きでもしてるだろ」

明石はその言葉を聞いた後で、提督の顔に当たるように現地の英字新聞を投げた。

「新しいおもちゃに夢中になるのはいいですけど」

「これか?」

「ええ新聞の一面ですよ。深海艦、それも姫級が工場で大暴れ。今度は誰を『使った』んですか?」

「大和。ストックもある」

「酷」

「人のこと言えた義理ないだろ。お前だって…」

「それ以上言ったら殺しますよ?子供が可愛くてしかたなくて何が悪いんです」

「子供ね。男の女への集中は3年とよく言ったもんだ」

「タネをばらまくだけがオスですから」

「は…どうだか、母性も俺には我欲に思うが」

「ほー、お聞かせくださいな」

「男にとっても女にとっても子供は願望だが、生まれたらそこから先は物欲になるってな」

「血を分けた子供ですよ」

「それでも一個人だろ、子供であろうが腹を痛めようが。親は子供に責任を持つ。それだけだ」

「女の敵は、考えからして違いますね」

「無駄話はもういいだろ」

「はいはい、大将次は?」

「大淀は海岸に放置。行くぞ」

「アレらを解体しないんですか?」

「まだ使い道がある。お前は陸でしか強くない」

「はいはい」

「さて行くか…」

「で、次はなんです?」

「悪党らしく死のうと思う」

「頭の悪いことで」


明石が様子を見に行くと、まだ提督の犬はチョークで遊んでいた。
彼女らの、ぱっと明るい顔が明石を見て暗くなる。
やむなしだが、気分がいいものではない。
明石は燃料と、食料を渡す。
人形は黙って受け取り、食べ始めた。
ベースを知る以上、もう『これ』は人でないとわかっている。
だが、年頃の女の姿になるとどうしても思わずにいられない。
随分と神は残酷なことをすると明石は思った。


「ねえ」

声をかけた。

「私、子どもいるの」

返事は来ない。

「可愛いのなんて、ホントすぐ。
 手間ばかりでめんどくさくて、どうしてこうなのとか思ってた。
 だけど、そのうち思うようになるんです。
 あー、私もこうだったとか、今いる仲間のことか…変だけど、子どものように思うの」


明石は話す。

「何で自分に似てるのかな?とか子供に思うのね。
 他人だよ、私じゃない。似てないとこもあるし」

返事はない。
意思疎通しているつもりもない。
ただの確認作業だ。

「それでも、どうしようもないの。
 何でか見捨てられない。最後で引っかかる。
 この子なら裏切られてもいいとかね、思う。
 私間違ってるかな?」

そう言い終わった後で、明石は思う。
乙女なら、そんなことは思わないだろうと。
こう思ってしまうのは、自分が母だからだろうか。


「う…」

大淀が目覚めるとと赤い瞳が見下ろしていた。
赤い瞳…夕立?

「あ、起きた。
 さあ、吐くっぽい大淀。ていとくさんはどこ?」

大淀は夕立を跳ね除けて周りを見る。
見ればホテルの一室らしかった。
明石以外の全員が控えているようだ。
その事実に大淀は絶望する。


「待ってください」

そういうと、横から眼鏡が差し出される。
由良だった。大淀は黙って受け取ると眼鏡をかける。

「…私、どうして」

「浜に漂流してたのを、後任の士官さんが回収してくれたんです」

天城が言ったが、大淀は理解が追いつかなかった。

どうして。
提督は。
なんで。
会えたのに!


「伝言預かってるでしょ?さあさあ」

うるさい夕立を無視して、大淀は由良と天城を見る。

「今は何時ですか?」

「襲撃の二日後です」

天城が答える。
由良が付け加えた。

「明石も戻ってきてません」


大淀はうなだれた。
その動作に、涼風が言う。

「大淀?」

「大丈夫。
 …伝言はありません。提督さんの寝顔を見たのが私の最後の記憶です」

包み隠さずいうと、
落胆の空気が室内に広がるのがわかった。
夕立は残念さを隠そうともしなかった。
だが、大淀は思考を止めなかった。
部屋に、後任の士官がいないことに気づいた彼女は質問する。

「あの士官は?」


涼風が答えた。

「今、派遣されてきた艦隊の提督に会いに行ってる。
 グラーフの戻しも兼ねるってさ」

「由良、あの敵は?」

そんな涼風の回答を受け、大淀は由良に質問する。
由良は頭を振った。

「報告しましたが、理解すら示してくれません。
 ラバウルの艦娘は解体済みだと」

大淀は、何かおかしいと思い始めていた。
確かに襲撃事態からおかしいのだが…

考えようとした彼女の思考を遮るように、夕立がポツリと言った。

「でもあれね。大淀が始めて提督さんに会ったんじゃないのね」

そこで彼女たちは皆、考えてしまった。

夕立は会いに行くつもりだった。
提督さんが生きているなら会いに来てくれるはず。
そう思うと勇気が出た。

涼風は待っていた。
提督が生きているなら、きっといつか会えるだろう。
そう考えると嬉しかった。

由良は期待していた。
提督さんが生きているとわかった。だったら会いに行ける。
その可能性があるだけでよかった。

天城は待ち遠しかった。
提督が生きている今、自分たちの元に戻るだろう。
その未来がいつなのか、彼女はじれったかった。

大淀は不安だった。
提督が生きていることを知っても、彼はなぜ戻らないのか。
けれども会いたい思いは疑いようがなかった。

彼女らは皆、最初に会うのは自分だと固く意思を固めた。


「君が来るとは」

驚いた顔をしたグラーフをビスマルクは見ていた。
ビスマルクはなんというか、少し困った。
それはそうだろう。
ともに本国から送られてきたときに、生真面目な彼女が自分の性格を把握しないはずがない。
だから彼女は何の気もないような言い方をした。

「別にいいでしょ。仕事だから」

「しゃあしゃあと」

小声でローマが言ったのが聞こえたが、この手配の手前ビスマルクは何も言えなかった。
彼女はグラーフにいう。

「また後で」

そうグラーフに告げてからビスマルクは例の死んだ男の後釜に挨拶することにした。


グラーフの部屋でも良かったが、外のバーに出た。
彼女はハイボールを頼み、グラーフはビールを注文して顔をしかめた。

「期待しないほうがいいのに」

「その通りだな。酷い味だ」

グラーフがグラスを置いたところで、ビスマルクは聞く。

「聞いたわ。貴方、行方不明になったんですってね」

グラーフが固まるのがわかった。
グラーフは再度グラスをあおってから言った。


「不覚だった」

「そんなことどうでもいいの。で…どうして貴方は戻ってきてるわけ?」

ビスマルクが質問すると、グラーフは答えた。

「…黙れと言われているが」

「情報を与えてる地点で話せと言ってる様なものじゃない」

「君ならいいだろう」

「変な言い方」

「君を助けてくれた男に助けられた」

ビスマルクはその言葉を聞いて驚かない自分に気づいた。


「しぶといのね」

「だな。少ない時間だが会話したが、何を考えてるのかはっきりしない男に思える。
 ただ、一般的なアトミラールとは…」

「何?」

「毛色が違うと私は感じた。奇妙な女を連れていたしな」

「同行してたの、貴方?」

「いや、ほとんどしていない。
 …今、上がもみ消そうと躍起になってる彼の艦隊の襲撃事件。
 私はその場にいたんだが、彼はついてこなかった」

ビスマルクは、グラーフの言葉に疑問を覚える。


「どういうこと?彼、自分の艦に手を出されてるのに?」

「私にもわからない。
 彼は明石と同行していたが、私と明石だけ向かわせて何所かに消えた。
 その明石だが半ば深海化した大淀を連れて消え、戻ってきたのは大淀だけだ」

グラーフは、またジョッキを傾ける。

「変ね」

「私も疑問だよ。
 そもそも何故、死んでいない地点で名乗り出なかったのか。
 それに武官の襲撃、邦人の拉致。
 さらに、今朝の戦艦水鬼の大暴れも含め、色々と疑問が付いて回る。…なあ、ビスマルク」

グラーフはそういうと、彼女を見た。


「悪く思わないでくれ。私は…どうしても彼が今回のことも仕組んでいると思えて仕方がない」

ビスマルクはタバコを取り出す。

「彼の艦隊もそうだ。深海化する地点でどうかしている。…なあ、どうして来たんだ?」

そう指摘されて、ビスマルクは考えた。
来た理由か。
自分でもよくわからない。
ローマなら淡い恋慕だろう。
自分はなんなのだろうか?
ただ言えるのは彼に関心を自分が持っているという事実だった。

「ダメ男だからじゃないかしら」

「意味がわからない」

グラーフはそう言った。
だが、完全な否定をしないところに好感を持てた。

「私もわかんないもの」

ビスマルクはそう言ってタバコをくわえ、一つだけ気づいた。
ああ、あの男は退屈させないのだろう。

>>1です。
今夜はここまで。
落とすところも見えてきましたよ。

おつです

ごめん、脳内保管してるけど一つだけどうしても気になった。
今回の更新で使われてる“地点”って、話の流れから判断すると“時点”だよね?

わざわざ指摘するまでもなくわかるやろそこは

乙でございます

乙乙

>>1でそ。

誤字脱字はすみません。そろそろ完結させます。
ハーッピーエンドのつもりです。



明石にとって提督は、便利な男である。
彼は幸運な男ではないだろうし、
退屈と結婚したような満たされた生活を送れないことも良く知ってる。
また提督に対し己は恋はできないとも、明石は良く知っていた。
それでも、こと提督の能力に対して明石は提督に全幅の信頼を置いていた。
提督本人は自分の有能さを決して認めないだろうが。

「提督」


だから、明石はそんな男に声をかける。
愚かで仕方ない男は、ゆるりと振り返る。
こけた頬、目だけが爛々と光る。
その様子に、明石は確信する。
もとより、こんな男だ。
己にできることは誰でも出来る。
なんて驕りを抱いてるのもその証拠だ。
だがそれでも、明石は提督に対して信頼を向けていた。
欠点を塗りつぶしてもなお、提督は力があった。

「なんだ」


男は答える。
明石はそれでよしとした。
男に対しての情、それ以上の感情を明石は持っていなかった。
もしも誰からか、提督に対して恋慕があるかと聞かれたならば彼女は大笑いしただろう。
性交渉が可能な相手であるが、愛したい気持ちなど微塵もなかった。
彼女にしてみれば、何処までいっても提督は恋の対象にはならない。
それは提督も同様だろう。
ただお互いに情があるのは、どちらも自覚していた。
だがそれが愛でないと明石は知っていたし、提督はその答えを知っていた。
何故なら、提督は己の部下としてしか明石を大切に感じていなかった。
逆に明石は仲間の小娘と違い、己が強い我欲を持っていると知っていたからこそ、
提督に恋慕のようなものは持っていなかった。
この男にすがるほど、我が身は軽くないと明石は思っていた。
それは男も同じだろう。


「壮観ですね」

明石は、そう人形遊びを終えた提督に嫌味を言った。
人形らの前に立ちタバコをくわえた彼は、苦笑する。

「何を言いやがる」

ポケットから携帯を取り出し、それ手にしながら提督はそう言った。

「で、どうするのか決めてるんですか?」

「話した通りだ」

提督は、なんらかのキー操作を終える。


「手間かけたな…ほらよ」

それから彼は中華製のスマホを明石に手渡す。

「武官と、あの企業人の隠し資産から入金済みだ」

「で、なんぼです?」

「つつましく暮らさず2代は持つ」

「大好きですよ、提督♥」


明石はそう言うと、送金画面が表示されたスマホから視線を外した。
彼女は提督を見る。
顔は別として…いい男だろう。
力もある。
また無理を押せるだけの才気も持つ。
この男に運命とやらが少しでも微笑んだなら、こんなことにはならなかっただろう。
けれど、それでもだ。
明石は男を哀れに思った。


「提督」

「なんだ」

「最後の任務を了解しました。が」

「が?」

「やめません?」

「言うと思った。お前はそうだ」

「ですよね。私は今と未来しか欲しくないです。
 タメとして言いますけどね、そんな十代みたいな考えで動くって馬鹿ですよ。
 だってですよ。あなた頑張ってもあなたの好きな人は何も感じないです。
 自己満。いや、ただのパフォーマンスです」


「だろうな。自覚ある」

「もうですよ、双六をやめてもいいでしょう。あなた、ボードから下りれるでしょ?」

「ルビコン川は渡ったんだ。それは出来ん」

「呆れた…不幸な小娘どもなんて捨てればいい。
 救うなんて狂人のすることですよ。変なところで、男気を出してると誤解されますよ」

明石は本音だった。
彼女は自分が自己愛が強く、したたかだという理解があった。
艦隊の仲間へ仲間意識はあるものの、それでも我が身より優先できるかといえば無理だった。
あまりに軽い仲間へ、同情しても救ってやる義理はない。
そう明石は最後の線引きを持っていた。


「お前は強いな」

そんな明石の問いに、提督は答えたが、答えになっていなかった。
もっとも男の性格を知るからこそ、明石はその意図が分かったのだが。
それでも提督の答えが気に入らなかった。

「だから自己犠牲?
 バカじゃないですか、ねえ提督。あの子たちが不幸なのは、あれらが典型的な弱い女だからですよ。
 腕っ節だけ、かわいそうな女」

「辛辣だな」

「女の敵は、男の前に女ですからね」


提督は笑う。
それから提督は明石に本意を話した。
それは明石が予想したよりもひどいものだった。

「俺は死んでもいい。
 それに生きても死んでも同じだ。だったら俺は俺の成したいことに挑戦して死ぬ。
 あの子らの為は二の次だ」

呆れつつ、明石は笑うしかなかった。
こんな男なのだ。
やはり、こんな男でしかない。
だからだろう、哀れを通り越し明石はおかしささえ感じた。
それから彼女は男の手を取った。


「そ、何時も君はそうだっけ」

知らず、明石の口調が本来のものになる。

「悪いな、付き合わせて」

「昔から知ってた。君は、みんなバカにしてたもの。実際、同年代の男の子よりも大人だったしね」

「古い話だ。何時だったか」

「そんな思い出はいいよ。いらないよね?
 君は信頼出来る。そう私は思ってるし、私が信頼に価するって君が思ってることも知ってる。
 それでいいじゃん?だって、結局一度も寝なかったしね」

「そうか。スイートを予約しておこう」

「じゃあ今度は可愛いの着て囁いてあげる。赤面して顔を背けたくなるくらいのね」

「円光だな」

「同い年じゃん」


明石は手を離す。
硬く、なめらかな男の指の感触を覚えた手で彼女は敬礼した。

「では…ご武運を。提督、明石出撃します」

「ああ。達者でな」

提督は背を向ける。
その背中に嫌悪を感じないかと言えば嘘だった。
だが、それでも明石はこんな男を見送るのは自分だろうという達観があった。
認めるだの許すだのでない、もう仕方がないものとして諦めた明石は提督を送り出した。


大淀たちは待ちきれなかった。
提督からの連絡はついに来ず、やがて正式な帰国の日となった。
いつも通りの商船護衛任務での帰国である。
当然提督が戻ってこないことで夕立は荒れ、涼風は明確に落ち込んだ。
だがそれでも、彼女たちは出港を待っていた。

隊列を組ませた大淀は由良を盗み見る。
上の空のような彼女は、空を見ていた。
ふと天城が言った。

「暗くなりましたね」

出港の時間の関係で、すでに日は落ちようとしていた。
大淀は天城に答えた。

「ええ…」

メガネ越しの赤い夕日に目を細め、そう呟く。
結局、提督は来なかった。
大淀は胸が苦しくなった。

「ていとくさん…」

夕立が寂しそうに言った時だった。
先に帰国する少将の護衛艦が動き出した。


叢雲が目覚めると、海の上だった。
記憶が混乱していた。
…自分はあの化け物じみた女に負けたはずである。

なのに、なぜ。

そんな叢雲に声がかかった。

「…どこの所属だ?」

振り返ると、護衛艦を護衛しているらしい艦娘の一人だった。
叢雲は、そこでハッとなった。

「私は…」

言いかけた時だった。
叢雲は自分の腕が勝手に動くのを見た。
そのまま叢雲は彼女の意思とは関係なく砲撃を繰り出した。


「?!!」

呼びかけた艦娘は急回避する。
彼女は叢雲に叫んだ。

「狂ったか!?正気じゃないぞ!!」

「違う、ちが…違う!」

叢雲は錯乱していた。
止めようとしても、体は勝手に動く。
そんな叢雲の異常さに気づいた、相手の艦娘はやむを得ず砲撃を返した。
その弾道は確かに叢雲の艤装を捉えた。
機関が停止し、痛みに耐えながらも叢雲はこれで終わったと思った。
だが…


「え?」

ありえなかった。
体が勝手に動く。

「いや」

自分の手が白く染まっていくのを、彼女は確かに見た。

「いやいやあぁああああああああああああ!」

悲鳴と共に、叢雲の背負った艤装が内側から弾け飛ぶ。
飛び出した奇形の艤装。
化け物じみた変化を始める叢雲に、対面した艦隊は足を止めざるをえなかった。

「深海化?!」

誰かが叫ぶなり、駆逐棲姫と化した叢雲の絶叫が轟いた。


「…なんだ?!」

同じく海上を航行していたグラーフは思わず声を上げた。
明らかな砲撃音。
深海の奇襲かと身構える。
そんな彼女にビスマルクが声をかけた。

「奇襲じゃないわね」

「ビスマルク、やけに冷静だな」

「…勘よ」

そう言った彼女の顔がひどく面白くないものだと、グラーフはその時気付かなかった。


砲撃の音は由良たちにも届いた。
旗艦である大淀は驚く。

こんな近海で何故?!

大淀が動きだろうとした時だった。
護衛する、商船の陰から見知った人物が飛び出してきた。
隠れていたらしい。
その人物は、吸いかけのタバコを手にしていた。

「行かせません、おばさん許さないです」

タバコを海に投げ捨て、立ちはだかるようにして明石は言った。
ふざけた口調に反してすでに艤装は展開済みである。
大淀はこの状況に目を細めた。


「どいてください。明石。なんのつもりですか?」

「やーです」

明石はそう言うと、2本めのタバコを咥えた。
そんな明石に、涼風が聞いた。

「やい、明石!提督はどこだよ!」

「あっちですよ」

明石はそう言うと、護衛艦の方向を指した。
それに皆が混乱する。提督は、どうしてそんなことを…
誰もが、そう思った時だった。
明石が口を開いた。


「私の役目は、みなさんを時間まで止めておくことなんで…当然行かせません」

その発言に由良が言った。

「提督、何するつもりですか?」

「特攻でしょ」

あっけらかんと明石は言った。
その言葉に天城が大声をあげた。

「殺されるじゃないですか!」

「もとより、提督その腹ですよ。死ねる理由があるからですし」


その言葉で、由良はハッとした。
今回の作戦を指揮した少将の乗艦を襲うこと。
そして、提督が死ねる理由。
なによりも、ここで明石が止める意味。
それらの事実から、由良は答えに辿りついてしまった。

「…提督。まさか、姉さんの仇を」

「ご名答」

明石はそう言うと、タバコの煙を吐いた。

「ふっつー、こう言うベタって父親の役なんですが…
 まあいいでしょう。 二児のおばちゃんが代理でつとめてあげましょう」

その明石の発言に夕立がキレた。


「どいってったら、明石!提督さん、死ぬのよ?!止めなきゃ!」

明石はそんな夕立を見て、並ぶ仲間を見る。
その目は笑っていなかった。

「くどいですけど、私はあなた達を止めるために来たんですよ。
 提督さんに言われてね。
 伝言預かってます。『すまん。みんな、ここで降りろ』」

「明石ッ!!」

大淀がきつく声を上げるが、明石は気にも留めなかった。

「提督さんはあなたたちのちゃんとした人生を望んでます。
 だから普通の生活を私が保証しましょう。お金ならありますしね」

そう、明石は言った。その後で、彼女は仲間たちを見た。
予想通り、誰一人として明石の言葉は耳に届いていないようだ。


「…だからって、提督さんを見殺しに出来ません」

天城のその発言を聞いて、明石は冷たい視線を皆に向ける。

「小娘。
 女の人生の先輩として言うけど、男が何かやろうとしてる時に縋ちゃっえる女は少ないです。
 いいですか、男を止められるのは………その男の恋人か肉親だけです。
 片思いなら乙女らしく黙って送り出してから泣け。
 でもって、あんな女の敵じゃなく、いい男掴みなさい。
 これ、私だけの言葉じゃなく一般論ね?」


明石の言葉に、由良も感情を露わにする。

「明石、今なんて!」

「言葉通り」

その返答で、皆が戦闘態勢に入ったのを明石は見た。
一転して楽しそうに装った明石は続ける。

「さて、夢見る鋼の乙女らよ。行きたきゃババアの私を倒してから~。
 どう?どう?それっぽい?」

その言葉を受けて、涼風が砲を構えた。


「ごめん、明石!」

模擬弾ではない。
だが涼風は撃った。
しかし、明石は難なく回避する。
その動きに涼風は目を疑う。
どんな練度だ…
その、明石が動く。
その速さは常識のソレだった。
だが回避された涼風は警戒したままだった。

「どいてよ、明石!」

魚雷を手に、夕立が飛び出す。
雷撃も早い。
だが…それを明石はとんでもない方法で回避した。


「?!」

明石はその場で急回転、魚雷を回避。
そのまま夕立に肉薄する。
夕立は砲を向ける。
明石の攻撃よりも砲弾が早いはずだった。
たとえ明石が回避できても、背負った艤装に当たる。
しかしどちらの夕立の攻撃も成功しなかった。
突然明石の背中から艤装が消える。
自ら解除したらしい。
明石の体は、艤装の加護を失いそのまま沈む。
夕立の砲弾は消えた艤装に触れもせず、海面に水柱をあげただけだった。

「??!!」


夕立はそれでも次弾を構える。
だが、明石は間を空けず再度艤装を展開。
半ば半身を海面に沈めながら明石は鉄拳を夕立に叩き込んだ。
夕立の体が跳ね上がる。
そのまま夕立は背中から海面に叩きつけられ、
起き上がろうとしたところに弾丸を打ち込まれた。

「私、戦闘向きじゃないですけど。…ま、こんなもんです」

明石は手を叩く。
夕立は動こうとするが、動けない。

「ヒトですからね、急所叩かれて動けるわけないでしょ。で、いいの?みなさん動かなくて」

明石は笑う。

「さあヤりましょ」


涼風は覚悟を決めた。
彼女が突撃すると同時、明石の腕が伸びる。
打撃かと身構えた彼女の胴体に突然伸びた艤装のクレーンが突き刺さる。

「!!??」

痛い。
それを思う前に体が持ち上がる。
明石が突き進む。
涼風は空中で体をひねるが、掌底が涼風を貫いた。
痛みを覚えると同時、機銃が叩き込まれた。

「ほら、大淀、由良、天城かかってきな」

由良は覚悟を決めた。
大淀もまた同じようだ。
天城だけが、まだ混乱している。
その三者を見つつ明石は腰を落とした。

???ζ??????

乙乙

おつ

乙でございます

>>1です。

リアルにえたりかけてます…今夜分を投下します。


少将は報告に唖然とした。
突然の駆逐棲姫の出現などありない。
戦闘態勢に艦内が動く時だった。
ひときわ大きな爆音が上がる。
反応より早く、鉄製の自室の扉が吹き飛ぶ。
見えたのは、牛乳色の腿と黒いブーツ。
襲撃者のもので違いなかった。

「長門!」

秘書艦に命令を下す。
立ち上がった長門は、即時に艤装を展開する。
部屋に飛び込んできたのは…


「空母水鬼!」

長門は即座に、水鬼の顔面に拳を叩き込む。
打撃で、彼女の上体が曲がる。
その時だった。
後ろで誰かが動いた。

「お…」

少将が言いかけた瞬間、銃声が響いた。
敵は躊躇なく部屋へと踏み込む。
肩に銃弾を受けた少将は肩を押さえ苦悶の声をあげる。
だが、彼は敵を見た。
片耳のない、ずぶ濡れの男。
その顔に少将は衝撃を受けた


「貴様、なぜだ!何のために!仮にも提督だろう!」

提督は答えなかった。
提督は二発目を放とうとしたが、それを水鬼を蹴り飛ばした長門が阻止した。
放たれた鉄拳が拳銃を吹き飛ばす。
暴発しながら拳銃は宙を舞った。

「閣下、逃げろ!」
 
長門の叫びに、提督は長門を見る。
淀んだ目だった。


「歯を食いしばれ、聞きたいことがある!」

そう構えた長門に対し、提督は手を動かす。
提督がポケットに手を入れたのを長門は見た。
そんな目の前の男の腹部めがけ、長門は拳を振るう。
次の提督の行動に長門は先んじた。
だがしかし、長門の攻撃は提督には当たらなかった。


「!!」

一瞬。
視界の端から、高速で飛来した何か。
それが強烈に長門の上体に当たる。
痛みと衝撃を耐え、長門は提督から視線を外す。
見れば転倒した水鬼の後ろで、艤装を広げた装甲空母姫が笑っていた。
艦載機を特攻させたらしい。


「ちぃッ!!」

まだいるのか!
長門が大勢を捻った瞬間だった。
彼女は提督が何か投げるのを見た。

「?!!」

耳を突き抜く爆轟が起きた。
たたらをふんだ長門が驚きで振り返ると、
体の一部が吹き飛んだ少将が絶命していた。
この距離にも関わらず目の前の男は手榴弾を使用したらしい。
実際、使った本人も爆風で転倒していた。


「ちぃッ!!」

まだいるのか!
長門が体勢を捻った瞬間だった。
彼女は提督が何か投げるのを見た。

「?!!」

耳を突き抜く爆轟が起きた。
たたらをふんだ長門が驚きで振り返ると、
体の一部が吹き飛んだ少将が絶命していた。
この距離にも関わらず目の前の男は手榴弾を使用したらしい。
実際、使った本人も爆風で転倒していた。


「正気か?!」

艦娘ならざる人の身で、そんなことをするなど正気じゃなかった。
吹き飛ばされてなおも…提督は生きている。
そのことから、減衰させたものを使用したのだろうが…
それでもまともな神経で出来ることではなかった。
事実男は破片と衝撃で、軽くない傷を負っていた。
血だらけになりながらも、提督は立とうとする。

「きさ」

長門が言い切るより先に、装甲空母姫から放たれた艦載機が彼女の判断を遅らせる。
その刹那、傷を負ったとは思えない早さで跳ね上がった提督は長門に肉薄する。
男の機材を握った手が長門の艤装に触れる。


「管理者権限より、武装解除」

提督がそういった瞬間だった。
長門の艤装が砕けた。

「な?!」

長門が驚愕した刹那。
復帰した水鬼の回し蹴りが長門の頭を捉えた。

来てたのか
ゆっくりでいいから完結させてくれ



待ってるから、完走頼む

乙乙

保守

>>1でそそ。

お待たせしてもうしわけありません。
実務で死亡しておりました・・・

今夜分を投下します。

長門が昏倒する。
当然だった。艤装のアシストなしに蹴りを叩き込まれたのだ。
首がもげず良かった。
良かった?
提督は、そう考えた自分をおかしく思った。

「テートク!」

恋人を死に追いやった人間への八つ当たり。
それを終えた提督の耳に装甲の叫びが届く。
感傷に浸る暇はなかった。
兵が殺到しつつあることはよくわかった。
今自分は艦の最高責任者を落としたにすぎない。
皆殺しするには、火力が絶対的に足りない。


提督の頭にあったのは、このまま脱出だった。
だが、そうしなくてもいい気もし出していた。
この復讐は虚しくなどなかった。
だが、この今の空虚感はなんだろう?
提督は振り返った空母水鬼を見ながら疑問を覚えた。
これは八つ当たりだと分かっていて、それでも行った自分への軽蔑か。
あるいは、明石の言葉が尾を引いているのか。
提督は、ハッと笑う。
女は戻りはしない。
死人は帰らなければ、過去を再試行することも出来ない。
そして己の行いも消せるものではない。

待ってたで

「突破する。作戦通りだ」

混乱した思いとは裏腹に、提督の口は命令を出していた。
かつての敵の亡骸…今や哀れな人形である二人の深海は命令に頷く。
二人の背より異形の艤装が現れる。
それを見つつ、提督はある疑問を思った。

ここまでなっても彼女たちが自分に従うのは、我が身の悪徳からか。
それとも、艤装と言う呪詛故か。
彼女らをそうしたのは自分だったが、やはり知識として知りつつもやはり疑心が湧いてきた。

提督は、考えを止め痛む身体を押して進む。

だが、それでも考えは止まらなかった。
深海と艦娘は極に過ぎない…どちらに寄って何を思うかが両者を分ける。
医者時代の実験でわかっていた。
彼女たちがどちらであるかは、比に過ぎない。
だから艦娘が深海になり、深海から艦娘を作れる。
そして心なんて生理作用に左右される。

そう提督は知っていたからこそ、
自作の人形たちに自分が提督であると強制させた。
だが、本来の敵である深海は一体何を望んで敵対するのか。
提督は今更その疑問を思い始めていた。

…そもそも、始まりの艦娘は何故人の手を取ったのか。
艦娘が先なら、理解は出来る。
怨念として、カウンターとして深海の存在はわかる。
だが、ヒトへの恨みしかない深海から何故…?




思考はそこで途切れた。
甲高い銃声、どこかから発砲された。
それは装甲棲鬼の艤装で跳弾する。

「…早いな」

提督は一人呟く。
向こうはもはやなりふり構わないのだろう。
混乱は指揮系統の回復で収まりつつある。
提督は、突破した艦内から甲板に向けて速度を上げる。
だが…

「くっそ…」

視界が歪んだ。
今更衝撃の余波が襲う。
動いたことで骨が折れたか。
ポケットから麻薬を取り出し強引に口に含む。
まだ、死ねない。

「艦爆で床をブチ抜け」

そう指令を出しつつ先を急ぐ。
進もうとした瞬間、待機していたのだろう新手の艦娘が飛び出す。
咄嗟に反応が遅れる。
飛び出したのはよりにもよって…

「死んで、敵」

瑞鶴だった。

空母水鬼が硬直する。
マズイと思った瞬間、瑞鶴の手にした矢が放たれる。

「クソたれ!」

こんな時に視界が歪む。
矢が艦爆に変化した瞬間。水鬼の艤装が弾け飛ぶ。
やっと水鬼が反応するが、後手だった。
提督は痛む身体を押して走る。

「援護しろ、装甲!」

背後で床をぶち抜いた装甲が艦載機を発艦させる。
だが、提督の無謀な特攻に瑞鶴は笑うだけだった。

「は…狂ったの?」

提督に策はない。
だが、一撃さえ入れば無力化はできる。
届くかとハック用の機材を握る手を提督は伸ばすが、それを許す瑞鶴ではなかった。

「無駄」

ただ瑞鶴は弓を引いていた右手で払っただけ。
だが、艦娘の渾身ではどうなるか?
機材は火花を散らし弾け飛ぶ。

「終わりよ!」

その手が拳を作る。
避けることは叶うか。
冷や汗が噴き出す。提督が回避の為に踏み切ろうとした時だ。
先んじて瑞鶴の拳が動く。
その時だった。

「瑞鶴…?」

水鬼だった。
提督は意図していなかった。また、それは瑞鶴も同じだった。


「?!!」

本来瑞鶴の拳は提督の胸を強打していた。
だが、姉と同じ声に彼女の拳はわずかにずれた。
そしてそのズレは提督の回避と重なり、提督の左肩を砕くに止まった。
肩を粉砕された提督は痛みで視界が真っ赤に染まる。
だが、口は動いた。

「取り押さえろ!」

空母水鬼が動く。
動揺した瑞鶴は空母水鬼に弓を向ける。
しかし、その動揺が命取りだった。
放たれた装甲の艦載機が瑞鶴に炸裂する。

「くッ!」

その場から後退する瑞鶴を、水鬼が取り押さえた。

「はなしなさ?!」

一発だった。ガブリと、水鬼は瑞鶴の首に噛み付く。
喉を噛まれた瑞鶴は狂ったように暴れるが…

「ぁーあぁ…」

だらりと、瑞鶴から力が抜けていく。
…提督は残った右手で瑞鶴の端末を引き出す。
そのまま停止コードを打ち込み、彼女を沈黙させる。

「・・・・・」

水鬼が虚ろな目で提督を見る。
その視線を受けながら、提督は自分の人形を今更ながら恐ろしく思った。
瑞鶴が昏倒したのも深海による汚染だった。
だが…提督は今の失敗を痛く感じていた。

「アァ…テイと…く? 私、ちが・・・」

水鬼の艤装にヒビが入る。
深海を組み込んだとは言え、人形は基本急造品だ。
必要以上の艦娘との接触が何をもたらすか提督にはわかっていた。
白と黒の間の濃淡。
本来なら、どちらかに傾くそれ。
提督はそこを意図して固定させていた。
だからこそ人形は深海でありながら艦娘という矛盾を抱えても動けた。
しかし、今の接触でどうやら艦娘側に空母水鬼は傾いたらしい。
機材を破壊された以上、この場でコードは打てない。

「…クソ」

左腕は折れた。
頼みの駒の片方は戦闘続行すら怪しい。
提督は暗澹たる思いを抱えつつ、先を急いだ。

乙乙

おつ

1>>です。
得たりそうですみません。
今夜分を投下します。


「……明石、もういいです」

大淀の目がさらに青くなる。
由良が、それに反応する。

「大淀!」

「…止めないで。私は明石を殺してでも提督に会います」

大淀は魚雷を構える。
彼女は考える。明石の練度が高かろうと、鈍足の工作艦であることは覆せないと。
それでも不意打ちと本人の修めた体術を使った裏技で駆逐二人を倒したのは驚きであるが。
だが____、純粋な戦闘艦艇の艦娘である自分らに工作艦でしかない明石が敵うはずがない。
それは何よりも明確な事であった。

「来な」

しかし明石は余裕を崩さない。
そう明石が手招きした瞬間だった。
大淀は一気に距離を詰め、勝負に出た。


外さず沈める!

その決意を大淀は持っていた。
事実、放たれた砲弾の一つは明石の艤装を捉えていた。
明石のまだ見せぬ手管に対し不安があるが、
この調子ならば沈められるはずである。

「終わり、よ!」

腑抜けた由良と天城に変わり自分が終わらせる。
そう大淀は思っていたが…


「バカねー」

明石がそう呟いた瞬間だった。
まばゆい閃光が大淀の目を潰した。

閃光弾?!

大淀が怯んだ刹那だった。
彼女の体に、明石の打撃が当たる。
一瞬で距離を詰めるのはいかなる理由か。
大淀は衝撃を強く受けた。

「ッ?!!!」

痛烈な顎への強打。
大淀がそれでも眩んだ目でなんとか明石を目視しようとする前だった。
彼女は自分の体が、空中に舞ったのを知った。
打撃に繋げた投げ、そう気付いた時には遅かった。
視界が巡る。
海面に叩きつけられると同時に明石が締めに入る。
大淀はとっさに離れようとするが、明石は大淀に何かを突き刺す。
一矢報いようと、もがいていく間に大淀の意識は途切れた。


さして苦戦した様子もなく、明石は由良を見る。
表情には出さないが、明石は自分の博打が半分成功したことに安堵していた。
提督の最後の作戦通り、血の気の多い奴から自分の罠にかかってくれた。
大淀も頭は切れるのだが、いかんせん感情に流されやすい。
駆逐の二人は言わずもがなだ。
だから三人は潰せたが…
明石はタバコを取り出しつつ、残る二人を見る。

この二人は____、曲者だ。

提督に対し傍観者きどりの空母、
そして理解者だと誤解した軽巡。
どちらも練度の面より、その性格から罠に嵌めづらい。
まして手の内のほぼ半数を晒し、はったりはもはや効かない今、
明石にできるのは可能な限り沈まない様にするだけだった。
彼女は今頃、想い人を奪った男を殺しているであろう提督の姿を思い出し、
一人つぶやいた。

「本当、なんであんなカスに手を伸ばしてるんだろ」

その明石の言葉は由良たちには聞こえなかった。
代わりに、決意を秘めた四つの瞳が彼女を見据えていた。


提督は傷を押しながら走っていた。
長門を倒したまでは良かった。
手榴弾の無茶で死ななかったとは言え、
何処かの臓器が破裂し骨折していても不思議ではない。
だが、今はどうだ?
瑞鶴に手間取り、兵に追われ、駒の一つは手負いだ。
思わず笑いそうになる顔を、提督は動く右手で抑える。
そんな血の気の失せた顔の彼を、彼の人形が見る。

「テートク…」

「行ける。問題ない」

心配そうに装甲が声をかける。
水鬼はそんな装甲に、濁った目を向ける。

「ハヤク」

と言っても、提督に余裕はなかった。
目標である少将を殺したが、問題はここから先だ。
脱出、可能ならば最小限の戦闘で逃げなければ。
その矢先、提督は警告を聞いた。


「終わりだ」

なんとか甲板に出たものの…どうやら、終わりだろう。
そう提督は周りを見渡して直感した。
艦内詰めていた兵と艦娘に行く手を塞がれてはどうしようもない。
提督が観念しかけたその時、装甲が突然彼を突き飛ばす。
瞬間装甲の体に砲弾が炸裂すした。
彼女は苦悶の表情を浮かべる。

「動くな」

誰かがそういったのは、提督にも聞こえた。

…大和で作った戦艦も無駄遣いしなければ良かったか。

提督は、他人事の様に過ぎた話そう思った。
だが無数の銃口と砲を向けられている今なら意味がないだろうとも思い直した。

「あー…」

終わりかと、提督は思う。
だが同時に彼は我が身を恨んだ。


由良は押していると確信した。
ついに腰を上げた彼女と天城は、明石と交戦していた。
明石は強い、だがあくまで工作艦としてである。
戦闘艦艇である二人がかりで押せないことはない。
徐々に徐々に、明石は追い込まれていた。
だが、それでも明石は驚異の戦闘続行を見せていた。

「…攻めきれません」

「ええ」

天城の苦言に由良は返事を返す。
苦戦するにしても長引き過ぎている。
それも明石が単に防戦に入ったからであると由良は気づいていたが、
それでも引っかかる箇所があった。
どうして、彼女は轟沈覚悟で戦闘を続行するのか。

「由良!」

天城の声に反応した瞬間、艤装に明石の攻撃が当たる。

「よそ見してていいの?」

今の一撃で由良は考えを改めた。
疑問は置いておけ、でなければ自分がやられる。
だからこそ由良は覚悟を決め、砲を撃つ。
この攻撃は、明石に当たると由良は確信をもっていなかった。
だが____、

「あれ?」

背後でまばゆい光が上がった瞬間だった。
明石は由良の砲撃が当たると知りながら、攻撃の手__それどころか回避を止めた。
その瞬間、由良と天城の攻撃が明石に当たった。
自ら待っていたかのような直撃。
そのまま明石は仰向けに倒れる。
呆気にとられた由良は天城を見る。
天城もまた由良を見た。
そんな二人に、倒れた明石が言った。

「こんぐらっちゅれいしょん、お二人さん。行きな…今なら資格あるんじゃないかしら?」

明石はそう、訳のわからない一言を言った。
その発言のあまりの突然さに、由良は状況が分からなかった。
何も言えずに由良がまごつく間に、荒い息のまま天城が質問する。

「明石さん、本当は___このつもりだったんでしょう?」

「なんのことやら。……それ以上、言わないでね天城」

明石は、そう言ってから笑う。

「焼きが回ったわ。さっさと行きなさいよ。あの人、止めるなら早く」

提督は迫る兵を見ていた。
駒__いくら装甲と空母が硬かろうと限度はある。
ならば、次は防げないだろう。
彼の頭は冷静に計算していた。
彼らを取り押さえるため艦娘が突っ込んでくる。
何もしなければ詰みだ。
投了なら、出来た。
だが提督はそれを良しとせず、隠し持った信号拳銃を取り出した。

!?

提督の行動は兵たちの理解を超えていた。
その間にも、提督は発砲。銃から照明弾が上がり弾ける。
まばゆい光を受け、命令通り提督の駒が動き出した。

「潜水棲姫!?」

驚愕の声が上がる。
海面から合図通り、潜水棲姫が飛び上がる。
提督はためらいなく、残った右手で装甲と空母の襟を引っ掛け走る。
息ができない、視界が点滅する。
だが、提督は甲板から飛んだ。
そのまま海面に向け、潜水棲姫の艤装目掛けて落ちてゆく。

自由落下から、伸ばさせた潜水の艤装に提督らは着地。
もとい、激突した。
その衝撃と、重たい艦娘を引っ張ったせいかひどく右腕が痛む。
左腕はもう、感覚すらなかった。
だが、それでも提督は海水に塗れながらも命じた。

「離脱する。全力だ」

今夜はここまで。
ありがとうございました。

おつ

また良い所で...

乙乙

>>1です。
エたりそうですみません。
今夜分を投下します。


由良は押していると確信した。
ついに腰を上げた彼女と天城は明石と交戦していた。
明石は強いが、押せないことはない。
だが、彼女らの背後でまばゆい光が上がった瞬間だった。
明石は攻撃の手を止めた。
その瞬間、由良と天城の攻撃が明石に当たった。
自ら待っていたかのような直撃にそのまま明石は仰向けに倒れる。
呆気にとられた由良が近づくと、明石は言った。

「…行きな。今なら資格あるんじゃないかしら?」

あまりの突然さに、由良が状況が分からず何も言えずにまごつくと、天城が言う。

「明石さん、本当はこのつもりだったんでしょ」

「それ以上、言わない」

明石は、そう言ってから二人を見る。

「あの人、止めるなら早く」


「……」

ローマたちが駆けつけると、
今まさに駆逐棲姫が沈もうとしているところだった。
涙を流しながら、ソレは深海へと沈んでいった。
こんなことをするのは、一人しか思いつかない。
ボロボロの艦隊にビスマルクは視線を向けた。
足止めとしても完璧だろう。
ビスマルクは同伴艦を見る。

「誰の仕業かしらね」

口にしてみると一層白々しかった。


「…ビスマルク、あまり余裕ぶってると」

ローマの忠告。
その時だった。
海面から、新たな敵が出てくる。

「潜水棲姫?!」

仲間が反応する中、ビスマルクは振り返る。
落ちてくる男と女。
その姿にビスマルクは、はっと笑った。
やはり、あの男は面白い。
ありえない高さからの落下。
それでも男が動けたのは艤装を潜水が伸ばしていたからだろう。
迷わず進む敵。
それを見てビスマルクは言った。


「行くわよ、イタ公」

「ちょっと、アンタ」

「…ローマの言う通りだ」

グラーフの指摘にビスマルクは振り返る。

「考えがあるの。主犯を捉えるチャンスのね」

その言葉に、グラーフが返答する。

「…あの男をか」

「ええ。っと」


間を空けず、深海の艦載機がばら撒かれる。
反応したローマとビスマルク、そしてグラーフは迎撃に成功する。
だが、同伴艦たちは足止めされる。

「好都合、行くわよ」

最大戦速で彼女らは進み出す。
そんな彼女たちは、こちら側の艦載機を見た。


「…見えました」

天城は、そういうと傍の由良にいう。
由良はうなづくと、天城に言った。

「提督は?」

「…なぜか深海と一緒です」

「助けなきゃ」

由良はそう言うと、ふと気づいた。
向こうからもう何か近づいてくるーー


「…? グラーフさんの艦載機?」
 
天城はそれを着艦させる。
由良は回線を開き、呼びかける。

「グラーフさん?」

その由良の声に呼びかけたのは、別の人間だった。

「あの人の艦隊ね」

「誰ですか」

由良が言うと、声の主ービスマルクは答える。


「ビスマルク。あのひとに助けられた戦艦」

「え?」

戸惑う由良を無視し相手は手短に言う。

「いい。あの男を止めるわ。協力して」

「止めるって、提督は深海に…」

「いいから。あの男が、深海なんぞ連れてる理由なんてわかるでしょ?」

「艦娘化ですか?」

「さあ、ね。ただ言えるのは、あの人は改竄できるってこと」

ビスマルクはそう言うと、続けた。

「やりましょうか。逃げられる前に」


提督は激しい動悸に襲われる。
衝撃で神経をやったらしい。
おまけに艤装に引っかかって海水に塗れていれば無理もない。
行きと違い、傷を負っていれば尚更だった。
それでも追っ手を蒔くために、彼は艦載機の指示だけ出した。
そのひと段落がついたところで、提督は一人つぶやく。

「…あとはどこまで、か」


自分としての負けは、このまま捕まること。
次点で殺されること。
だが目的を半分達した今、
死んでもいいと提督はまた思い始めた。
心配は、もうない。
提督はつらつらと考える。
お手製深海艦娘技術は、
流出しても使われることはもうないだろう。
わざわざ敵の姿のまま運用するとは思えない。
また、もう一つの懸念。
自分の艦隊もほぼほぼ解決した様なものだ。
自分のものだから大切にしてきたが、
彼女たちには自分で歩くための手段を与えたのだ。
あとは本人らの選択である。
俺の知ったことではない。


「テートク、ミナトヘイドウゴハ?」

401と58…それから雑多な深海で作った潜水が声をかける。
提督は他人事の様に答えた。

「例の企業人をおびき出す…まあ、うまくは行かんんだろうが」

「ナゼデス」

「長くないからな」


それは自分も人形も同じだ。
企業に繋がってることにしてぶっ殺した中将。
人形はそもそも、奴を殺すまで持てばいいのである。
だが図らずも自分も損傷を負ったことで、
ここいらで沈むのも悪くないと提督は思い始めていた。

「テッキ、キマス」

そう装甲が言う。
錯乱しかけの空母水鬼も片目だけ生気を取り戻し振り返る。
誰だーーー?
提督が思うより早く艦載機が追いついた。


「居たわね」

ビスマルクが声を上げる。
グラーフはそんな彼女を見る。
生き生きとしているビスマルクの姿に、
何か嫌なものを彼女は感じた。

「戦闘開始か」

グラーフが言うと、追いついたローマも言う。

「…敵さん、ありえない編成ね」

「やるしかないだろう」

グラーフはそう言うが、ビスマルクの口調は軽い。

「まあ見てて」

そんな彼女たちに由良と天城が追いつく。
ビスマルクは楽しそうに砲を上げる。

「どうすればいいかくらい分かるもの」


提督は違和感に気付く。
攻撃の手がぬるい。
俺を狙ったにしてはあまりに杜撰。
だが駒は執拗に狙っている。その違和感を提督は強く感じた。
解せず、装甲に提督は理由を問うた。

「どうした?」

その瞬間、彼女の胴に戦艦の砲弾が炸裂する。
超距離の砲撃に提督は、目を疑う。
こんな長距離を狙える奴がどうして。
そう思った瞬間、彼は直感した。

「全力で撤退しろ!」

「ソレガ…」

装甲が苦しそうに言う。
直撃か。察した提督はいまいましげに言う。

「まったく、なんて日だ」


「上手ね」

ビスマルクはそう言う。
砲を貸し出したことを思い出したローマは嫌味を込めていった。

「あなたが撃て良かったじゃない」

「私だと届かないからよ」

提督たちの速度は鈍る。
ビスマルクの予想通り、提督は駒を捨て置く判断をしなかった。
グラーフが言う。

「…迎撃しないのか?」

「できないの。身を守るのは潜水一人だと不安なんでしょうね」

ビスマルクが答えると、合流した由良が言った。

「なんで、分かるんですか?」

「ああ言う男、そうだし」

ビスマルクはそう言うと、砲を構えた。


距離が近くなり、提督は我が身を呪った。
ビスマルク、グラーフ、ローマ、そして由良と天城。
最悪である。
この今、彼女たちが別人とは思えない。
駒が磐石でも戦闘を避けたい相手が追っ手とは。

「明石、やりやがったか」

嫌な直感は確実となった。
甘いあの明石が見逃すに決まっていたが、ビスマルクたちは想定外だ。
提督は、必死に頭を回す。
駒二つで時間を稼ぐ…いや潜水の火力では今後きつい。
空母水鬼を捨て置く…ダメだ、打撃力がない。
なら装甲でなら?…無理だ、空母水鬼の暴走時に抑えられない。
となれば、ここで自爆もありかもしれない。
提督がそう考えた時だ。
追いついたビスマルクが予想もしない発言と行動を行った。


「いい晩ね、アトミラール」

そうビスマルクは言う。
提督は声を張り上げ答えた。

「だな、いい夜だ。迎えに来たのは戦乙女らしい」

その言葉にビスマルクは笑い、そのまま砲を由良に向けた。

「ああ、そんなとこ大嫌い。
 かっこつけだから。
 これなら素が出るでしょう?」


彼女の動きに一切の遅れはなかった。
誰も反応できないまま、砲弾は由良に炸裂する。
提督が目を見開く時には、由良は昏倒していた。
正しい意味での節句、
最初に口を開いたのはグラーフだった。


「何をしている?!ビスマルク」

「Ruhe」

有無を言わさぬ独語。
動こうとした味方に砲を突きつけ、
その目に深海の青を湛えたビスマルクは提督に言う。

「ねえ、アトミラール。達成した瞬間、虚しいって感じるでしょう?
 どんな情事もいずれは終わり、我々は朽ちる」

「お前…」

「別にあなたじゃなくても良かった。でも、あなたならいいと思う。
 アトミラール、死にたい?生きたい?」

>>1です。
今夜はここまで。
またよろしくお願い致します。

おつ

乙乙
どうなってやがる……

おつ
続き待ってるで

>>1でそ。
遅れて申し訳ない。
また小骨みたいな誤字脱字にすみません。
今夜分を落とします


提督は動揺を必死に抑える。
由良の生死が分からないのに、彼の頭は動いた。
これで3対3。
ビスマルクはどうやら深海に当てられた__そう提督は判断した。
自分の人でなしの是非は放置し、提督は狂ったビスマルクに言う。

「それすら興味ない」

提督はそこだけは本心を言った。
そう言うと、ビスマルクは笑う。
だが、彼女は潜水。否、提督に向け距離を詰める。
迎撃に装甲が動く。
しかしビスマルクは雷撃で装甲を止め、砲撃を浴びせる。
空母水鬼も動こうとするが、その手が痙攣した。

こんな時にーッ!

悪態を吐く暇もなく、
ビスマルクは水鬼を蹴り飛ばし提督に肉薄する。
ガツンとその冷たい指が自分の首を掴んだ。
同時に提督は持ち上げられる。


「Ach, du arme Maus」

「ぐ…ッ」

潜水が動こうとするが、
提督自身への保護の刷り込みため動けない。
提督を持ち上げるビスマルクに、天城が叫んだ。

「その人を、離して!」

「イヤ。私のよ」

ビスマルクは、恋人に向けるような微笑みを提督に向ける。

「恋じゃないのよ、アトミラール。
 貴方って本当、私みたいなロクでもない女を寄せる。
 だって、貴方がいれば心が埋まっているって誤解できるもの。
 だから貴方となら……死んでもいい」


「Ach, du arme Maus」

「ぐ…ッ」

潜水が動こうとするが、
提督自身への保護の刷り込みため動けない。
提督を持ち上げるビスマルクに、天城が叫んだ。

「その人を、離して!」

「イヤ。私のよ」

ビスマルクは、恋人に向けるような微笑みを提督に向ける。

「恋じゃないのよ、アトミラール。
 貴方って本当、私みたいなロクでもない女を寄せる。
 だって、貴方がいれば心が埋まっているって誤解できるもの。
 だから貴方となら……死んでもいい」


息が苦しい。
意識が飛びそうだ。
提督は、それでも言う。

「…ってことはなんだ」

「何?」

「お前、俺が欲しいのか」

そう提督が言うと、ビスマルクは答える。

「ええ。もちろん。
 ただね__我慢ならないことも多いの」

ビスマルクは首だけ後ろに向ける。

「グラーフ、ローマ。貴女たちにも貸してあげるから協力してよ」

ピクリとローマが反応し、グラーフが眉をひそめ言った。


「ビスマルク、お前は何を言ってる?正気じゃない!」

「…正気?笑わせるわね、グラーフ。
 ねえ、この体も全部作り物でしょう?
 記憶さえも保証されてない私たちが、今更どうして正気だったと言えるの?」

「ビスマルク、貴女」

ローマの言葉にビスマルクは返事を返さなかった。
二人への興味を失ったらしい。
彼女は呟く。

「アトミラール、例えばだけれど。
 私なしで生活できない体にすればいいのかしら?
 そしたら、貴方私がいなければ生きていけないものね」

その目から燐光が上がり始めて、提督はヤバさを実感する。
想定外だ、その上手がない。
いや、人形を使った手はあるがそれでも打破できるとは思えない。


ビスマルクは顔色が悪くなる提督に話し続ける。

「そしたら__」

「黙って」

饒舌なビスマルクの言葉を、天城が遮った。

「提督を貴方なんかに渡さない」

怒気を放ち、天城は艦載機を呼び出す。
ビスマルクは提督から手を離した。
そのまま提督は海に落ちる。
ビスマルクは振り返り、天城に言放つ。

「黙ってよ。勇気のない女のくせに」

グラーフはそれをどう見たか。
同じく艦載機を呼び出す。
ローマもまた、躊躇いながらも砲をビスマルクに向ける。

「結果それ?」

ビスマルクはそう言うと、砲の一つを提督に向けた。


「じゃ、私が今彼と死ぬわ」

天城は目を見開いた。
ローマもまた同様である。
人形たちも動けない。
その中でただ一人、グラーフだけが口を開いた。

「…よせ、お前の行動は無意味だ」

「意外、あんたが切り出すなんて」

グラーフは、ビスマルクに言う。

「感情だけだろう、倫理から外れてる。
 それに、何時までもこのままではない。
 後続が追ってくるぞ、ビスマルク。お前の行動はどのみち終わる」

ビスマルクは鼻で笑った。


「諭すつもり、グラーフ?
 感情に従って何が悪いのかしら?
 きっと深海もそうじゃない…?
 私たちを忘れ生きるヒトが憎いってね」

「幸福だってあったろう」

「それは過去にしかないじゃない。私は満足のうちに終えたいの。
 過去は曖昧で、未来は不確か。
 この今の気持ちに生きて何がいけないんでしょうね?」

「刹那主義すぎる」

「合理で世界は進んでなんてないわ」

提督はビスマルクを見上げる。
彼女の言葉が、自身の疑問の答えに思えたのだ。
感情、か。
提督は博打に出ることを思いつく。
今までのように、逃げや保険をかけてはいないのにだ。
提督は口を開く。

「…同感だな」

「アトミラール?」

ビスマルクが自分を見る。
提督は、禁止したコードを言った。

「【指定解除】」

その言葉を発した瞬間、人形の体が震える。
最初に空母水鬼が、声を上げた。

「え?…私、なんで…」

彼女はそのまま、自分の手を見て悲鳴をあげる。
装甲も同様だった。

「嘘、私、どうして?!」

ビスマルク…そして提督の乗っていた潜水も大きく揺れた。

「…違う!私、こんな!ちが…!」

ローマが叫んだ。

「提督、何を!?」

答える暇もなく、潜水が起こした波に提督は攫われる。
提督はサイコロを振った。
今の命令で人形たちの記憶や思考を抑えていた、その部分を解放したのだ。
艤装由来の、深海側の意識の介入を止めた結果がどうなるか?

…簡単な話だ。暴走するしかない。

艦娘でもなく深海でもなく、人形達の深海由来の艤装が異常膨張する。
錯乱した三隻の化け物が、解き放たれた。


「……」

意識を取り戻した、夕立は辺りを見渡す。
海面から体を起こす。
近くで同じようにずぶ濡れの涼風がいた。

「…すず、風」

「やられたね、夕立」

「明石は?どこなの」

そう夕立が聞くと、涼風は首を振る。


「…見つけたのは艤装の残骸」

「由良は?大淀は?天城は?」

「…わかんない。分かるのは向こうで戦闘があるってことだ」

そう涼風は言うと、夕立に言う。

「行こう。他のみんなも行ったはずだ」

「命令しないで欲しいっぽい」

「悪かったよ。…行こう」

夕立は体を見聞する。
痛むが、戦えないほどでない。
そんな二人の耳に砲撃の音が飛び込んだ。


「冗談じゃない…!」

グラーフは艦載機を操りつつ、思考する。
ビスマルクの乱心さえ予想外。
その上、暴走した姫を三体。
どう考えても絶望だった。

「ええ、本当よ!」

ローマが大声をあげる。
もはや指揮や采配すらない。
ただ持てる全ての艦載機と火力をぶち撒ける。
そんな敵相手に攻撃と移動を繰り返しながら、天城が悲鳴を上げた。

「…提督が!」

同じく攻撃を続ける天城だったが、彼女は提督を見失ったことに焦っていた。

「そんな余裕は…!」

グラーフはそういつつも、ビスマルクが離れていくことに気づいていた。
おそらく、提督を捕まえているのだろう。
悪態をつきながら、グラーフは沈まぬよう立ちまわるしかなかった。
彼女は、そんなビスマルクを追う影を見逃した。


「何処へ行こうかしら?アトミラール」

そうビスマルクが声をかける。
担がれるままの提督は波を被りながら答える。

「…さあ、な。陸地に上がりたいだけだ」

そう言うと、クスクスとビスマルクは笑う。

「何がおかしい」

「別に、何も」

提督はビスマルクを見る。
未だに目は青い。
自分の艦隊と同じく、こいつも深海側に近いらしい。
自分に執着されたのは困ったものだが、利用できないことはない。
現に殺されず脱出出来たのはデカい。
あの時3対3と考えたのも、
おそらくビスマルクが自分を殺さないと判断してだった。
駒として考えられるかは微妙だが、手としては考えてもいいだろう。


「…で、どうする不良戦艦。お前のこの後は?」

「さあ」

「さあって」

「…考えてないし、それに犬が追ってきてるわね」

パッとビスマルクが手を離す。
提督は海面に転がり落ちる。
息がつまる。
三たび海水にさらされた提督が息を吐いた瞬間だった。
砲撃音の後、ビスマルクの艤装が損傷した。
提督の視界に大淀の姿が映った。

「行かせない…その人は、渡さない!」

「貴女か」

ビスマルクは短くそう言うと、言う。

「勝つつもり?私に?」

ビスマルクの余裕っぷりに、大淀は冷たく笑う。

「ただの軽巡なら、ね」

ビシリと、大淀の艤装にヒビが入る。
深海化にビスマルクは目を細める。

「誤射関係なしで倒せるの?」

「笑わせないでよ」

大淀が動く放たれる雷撃と砲撃。
ビスマルクはそれに応戦する。

>>1です。

今夜はここまで、ありがとうございました。

おつ~

乙乙

乙乙

乙乙


待ってる

お疲れ様です。
>>1です。

とりあえず今できる文を投下します。
ハッピーエンドですよ。


後任士官は頭を抱えていた。
順調な出航は、再三の嫌な出来事により潰えた。
胃痛を覚えながら彼は詰所で思い悩んでいた。

…どう転んでも降格や面責は免れないだろう。

思えば大淀の復帰からか?
否、そうではない。
思えば全てインドに来たのが、
ロクでもないこの現状の端だった。
指揮下のはずの部下にことごとく指揮を無視され、
挙句報告を信じるならば、
自分の前任者の亡霊が深海を伴い、
中将殺しをやってのけたらしい。
さらに悪いことに追撃命令も出さぬままに、
自らの艦隊は消息を絶った。
聞けば明石とやりあったとか。


酒が欲しい。

男はそう思いながらふらつく足取りで、詰所を出た。
その時だった。
男の携帯が鳴り、何気なく彼は出た。



「…天城?!」

夕立が反応し、涼風は前を向く。
どういうことだと、思う前に怒号のような声が聞こえた。

「援護をお願い!」

ローマだった。
涼風は目の前の敵を見る。
会敵したのは…深海らしい。
断言できないのは姫級だと思しき個体でありながら、
その艤装が著しく肥大化していたからだった。
おまけに所々…まるで自分たちのような正しい艤装も見える。


「どうなってんだよ!」

涼風が言うと、天城が答える。

「提督が!」

その一言で夕立が跳ねる。

「なら、沈めるだけよ!」

両手に魚雷。
明石にはめられた時とは違う。
一気に距離を夕立は詰めてゆく。
涼風はその背中を見ながら、同じく武器を構えた。

「…ああ、そうだよな!くそ、提督をとっちめてやる」


「驚きね」

耳を穿つような轟音が途切れない。
互いに応射しながら、ビスマルクはつぶやく。

軽巡、大淀と言ったか。
どうも手が入っている。
いや、この場合は深海側の恩恵か。

ビスマルクは何度攻撃を加えても、ひるまない彼女に感嘆する。

「よそ見して!」

大淀の言葉を聞き終わる前だった。
大淀の雷撃がビスマルク自身を捉える。
痛みと、水しぶき。
それでもビスマルクは、
今強く生きていると実感していた。


「普通の戦艦相手なら上出来じゃない?」

そう言いつつ、ビスマルクも雷撃で応じる。
すでに二度ほど大淀は被弾している。
精神力だけで壊れかけの艤装を動かし、
さらには戦艦である自分に肉薄する。
その姿勢とその心を思うと、彼女は楽しさを覚えた。
奪ったかいがある。
やはりこの男は面白い。

「ホントね、芋戦艦!」

「生娘に言われたくないわ」

暴言に暴言で返しつつ、ビスマルクはちらりと後ろを見やる。
提督はまだ沈んでいない。
せっかく奪った《欲しいもの》を台無しにされてはたまらない。
ビスマルクの目に燐光が宿る。


「でも、終わり」

主砲を構える。
もう、敵への興味は尽きた。
この距離で外すようなバカなことはしない。
ここであの大淀には死んでもらおう。
…嗚呼、男の嘆く顔も見て見たい。
そう思いながらビスマルクは砲撃を始めた。

「ここだと、思ってました」

主砲が自らを狙った瞬間、大淀は腹を括った。
善戦したのだろうが、結果はどうだ?
自分は中破寸前。
敵は未だに戦闘になんの支障もない。
艦としての出自を恨めしく思いつつも、大淀は速力をあげる。
できるか、わからない。
だから彼女は、この機会に全てを賭けた。


「?!」

ビスマルクは直撃を確信していた。
だが、砲弾は大淀の艤装を吹き飛ばさなかった。
それは大淀が全速力を出していたからもあるが、
彼女が艤装を自らの意思で消したからだった。

どんな手だ…

動揺より早く、ビスマルクは次弾を放った。
その砲弾も背後に抜けた。
冷や汗が吹き出すのを大淀は長く感じた。
明石の手を真似たが、上手くいった。
だが同じように艤装を消した瞬間、
手にもつ魚雷の重さと来たらどうだ。
思わず手放しそうになる魚雷を大淀は強く掴んだ。
思えば艦だった頃は装備したことがなく、
また艤装を消して持つのは初めてだった。
足から、海へと落ちていく。
大淀は一瞬で胸まで海に沈みつつも、艤装を展開しつつ全力で雷撃を放った。
交叉した攻撃。
それは外れることなく、双方に命中した。


「……はッ、ハッ…」

荒い息を止める。
損傷はデカイが、まだ沈みはしない。
ローマは周囲を見渡す。
姫どもの暴走は長く続かなかった。
最後の花火のように、
持てる火力を出し切って彼女たちは停止した。
うごめく艤装も…やがて止まる。
全ては沈黙し、波の音と爆ぜる火花の音しか聞こえない。

「…誰が、残ってる?」

声を出すが返事がない。
グラーフは海面に突っ伏し、天城もへたり込んで動けない。
切り込みをかけた夕立、そしてその援護に回った涼風。
二人の駆逐の艤装は原型をとどめていなかった。
燃え尽きたかのように両者背を合わせ尻餅をついていた。

「…わたしだけ、か」

救援を要請しようとして、背負った艤装が火花を散らす。
かろうじて生きていた電装が死んだらしい。
機関がまだ動いているのが信じられなかった。

「…なんて、ざま」

呟いた瞬間、意識がほつれた。
ローマは悪態をつきつつ、海面に膝をついた。


「…なんだよ、それ」

水柱が上がったあと、そこには誰も立っていなかった。
大淀は艤装の再展開が間に合ったものの直撃で昏倒。
ビスマルクも同様だった、雷撃により重傷を負った。
彼女が立っていたのもつかぬま、背から倒れた。
まだ沈んではいないが、
双方轟沈しつつあるのは分かりきっていた。

「…」

全く、持っていない。
本当に、持っていない。
笑える状況だが顔はピクリとも動かない。
こんな時でも女神は起動しない…どうやら外されていたらしい。
遠くで聞こえた砲撃もやんだ。
追っ手が来ないことからも、人形は敵と共倒れたようだ。
提督は波に揺られながら空を見上げる。

「…これ、か」

自分もここで終わりだろう。
悪あがきもここまでらしい。
傷を負った。
駒はいない。
体力も減った。
然るべきのちに増援は来る。
…なら、あと自分は何が出来るだろうか?
祈ってみるかと思って、提督はバカバカしさから顔を歪めた。


「悪党らしいじゃないか」

提督はラバウル殺しをした時を思い出した。
あの時死ぬつもりでいたのに、女どもに救われた。
救って欲しくなかったのにだ。
ああ、今度こそ《あの女》に会えるのかもしれないと提督はぼんやり思った。

「…まあ、でも会えるわけないよな…なあ」

長良、といいかけ提督は自らの失敗に気づいた。
その名前で呼べば何時だって怒られたのだ。
あいつにも名前があった。愛しい名前が。
そうだ、女の名は…
思い出そうとして、
提督は徐々に体の感覚がなくなりつつあると自覚した。
またすぐに女の名前が出ない自分に呆れた。

…傑作だ。
末期になって惚れた女の名前さえ思い出せないとは。

提督は笑う。
その顔に影が差した。


提督が再び見上げると、知った顔がそこにはあった。
気付かなかった…
いや、気づけなかったのだろう。
自分の意識もひどく薄い。
提督はそう納得して、明石に声をかけた。

「お前か、明石」

声をかけると、明石は眉を寄せる。
ボロボロの彼女だが、まだ動けるらしい。

「そう。全く予想外。
 …でもある意味お望みじゃない?」


明石はそう言った。
提督は、黙るしかなかった。
何か大事なものを抱えるのが面倒になった時、
それを抱えた奴が取れる方法は三つある。
一つは、抱えたものを手放す。
二つは、抱えたもので潰される。
最後は、抱えた物を壊す。
提督は、潰されることも手放すことも出来なかったのだと強く感じた。
自分がやったのは全てめちゃくちゃにしただけ。
わずかな後悔を思いながら提督は口を開いた。

「ああ、綺麗なバッドエンドだ。みんな死んだ」

「だね、君の筋書きとは大きく違うけど。
 素敵な終わりね。登場人物は皆、退場。あとは幕が降りるだけ」

明石が動いているのは自らの自動修理の賜物だろう。
提督はそんなことを思いながら、明石の次の言葉を待った。


「結局、軽巡棲姫は来てないか。満足して死んだんだ、長良は」

明石は遠くを見て、そう言った。
提督は黙った。
そうかもしれないし、俺を憎んでいるから来ないかもしれなかった。
明石は、ずいぶんと間を空けてから提督に尋ねた。

「殺して欲しい?センセ?」

「できるならな。お前の目論見は外れたからな」

そう言うと、明石は笑う。

「目論見、何が?」

「わざと逃しただろ、大淀や由良を」

提督が指摘すると、明石は言った。


「自分も少女だったと思い出しただけ。
 ならね、恋に機会を与えるのもやぶさかではないでしょう?
 堕ちたい男を愛で止める。生娘が酔いしれるには十分でしょ」

「悪辣な行動だな」

「でもチャンスだけ。結果、ダメだった。
 ただそれだけの話、違う?」

「違いない」

「結果、彼女らは恋しか見ず、恋の炎に悶えて死んだ。
 生き残るのは何時でも大人だけ、ウブな子供は死ぬ。
 君を巡る狂乱は冷めた。もう酩酊できる物語はないからね」

そう言って明石は砲を向ける。

「提督、ここいらで幕引きが上等じゃない?
 こうして疎まれた提督は死んだ。
 彼を慕う愚かな女もまた。小さな大人だったら違ったのだろうけど。
 もう過ぎた話。
 さて残るわたしは、アナタの死を利用して好き勝手に生きる。どう?」

「悪くない」


最後に提督は質問した。

「俺といて楽しかったか」

「もちろん」

「そうか」

「腹たつことも多かったですけどね」

「ああ知ってた。じゃあ、やってくれ」

提督はそう告げた。

「死出の口上は必要?」

「いらん」

明石は無言で砲を上げた。
最後の砲撃が行われた。

耳を疑う話だった。
後任士官は、再度その報告をした水兵に聞き直す。
だが、彼は姫は沈み、死んだ男の姿を借りた何者かも消えたと言った。
彼はどっと疲れが押し寄せた。
後味の悪さを強く感じながら、彼は電話の相手を思い出す。

若い女の声だった。
提督してありたいなら、終わらせてあげると声は伝えた。
その質問に肯定したからだろうか…?

再度呼ばれて、後任士官は前を向いた。
水兵は彼に言う。

「護国の為に戦ってください」

「もちろん」

そう答えて、後任士官は彼が部屋から出て行くのを見届けた。
一人になって彼は、ふと考えた。
あの時の自分の選択が正しかったのだろうか、と。
彼はその考えを否定してから、自らの艦隊を確かめに行こうと心に決めた。




>>1です。

いやー長かった。
とりあえず、落としまで行きました。エたりそうですみません。
よろしくお願い致します。


いよいよクライマックスかー

乙です!
バットエンドはあまり見ないけど、総当たりで壊滅とは斬新なw

乙ー 待ってたよー

乙乙

>>1です。

みんな大好き素敵エンドを投下します。


艦隊が戻ってきたと、僕は聞いた。
とはいえ全員ボロボロ。
まともに口をきける状態ではない。
だが、任された以上僕はやれることをやった。
そうして轟沈した大淀を除き、回復が済んだ。

「入るぞ」

そう言って部屋に入ると、夕立が窓辺を見ていた。
今までの活気はもう、ない。
損傷がひどく未だ回復しない左目に眼帯を着けた彼女は振り返りもしない。

「あなたなの」

夕立はそう言う。


「体調は」

「普通よ、もう戦えるっぽい」

「体調は」

「普通よ、もう戦えるっぽい」

彼女はそこで振り返る。

「…何の用っぽい?」

「再確認だ。まだ、戦えるんだね?」

僕が言うと、夕立は寂しそうな顔をした。


「ねえ」

「何だ?」

僕は止まった。
彼女に振り返ると、夕立は言う。

「…誰を今度は頼ればいいのかな?知ってたら教えてよ」

さめざめと涙を流しながら彼女はそう言った。


隣の部屋に向かうと、涼風は本を読んでいた。
視線を上げると、彼女は言った。

「ああ、どうしたんだい」

「戦うことの再確認だ」

僕が言うと、彼女は本にしおりを挟みつつ言った。

「戦うよ…あんたと違って海の上でさ」

僕は口ごもった。

「…それでも僕は司令官だ」

「ああそうかい。じゃ、死んでくれるのか。あたしと」

僕は、涼風を見る。

「時が来たら、だ」

僕はそう言うと、また扉をでた。
バタンと大きな音がした。
本を投げつけたのかもしれない。


天城を尋ねると、彼女は座ってうつむいていた。
同様の質問をすると、彼女はやっと顔を上げた。

「それを聞いてどうするんですか?」

「意思の確認だ」

「___そう、面倒ですね」

天城はそう言うと、私を見た。

「不思議ですね、欲しいと思ったら無くなるんですから」

「じゃあ手放すな、そんな体験したのなら」

僕が言うと、彼女は笑う。

「意外と強い人なんですね、今度の提督は」

僕は否定も肯定もしなかった。


最後に由良を尋ねると、彼女はタバコを吸っていた。
咎めはしないが、意外に思った。
彼女は灰皿にハイライトを置くと私に言う。

「…確認なら不要ですよ」

「そうか」

僕が言うと、彼女は続けた。

「戦います。もうそれしかないのだから」

僕は、彼女を見て、思わず言ってしまった。

「これからは、そこにないのか?」

「?」


由良が僕を見る。
しまったと思いつつも、僕は顔に出さないよう強く強く意識しながら言う。

「先はあるぞ、不幸かもしれないが」

僕が言うと、由良の唇が動いた。

「変な人」

「忘れてくれたまえ」

僕が言うと、由良は言った。

「でも、素敵ですね。先だけはあるって」

僕は、帽子を直す振りをして頭をかいた。


外に出た。
明石や大淀の制服を着た娘がいる。
大淀型では、ない。
明石型でも、ない。
タバコを片手に腕を組んだ女。
髪は黒い。彼女は言う。

「やあ提督」

僕は彼女を見る。

「北上でいいのか?」

「ま…元ね。艤装の不良で北上様は北上様でもスーパー工作艦様だよ」

「何の用だ」


「酷い酷い。まあー当然か、けったいな艦隊を任されたからか。
 あたしは監督だよ、早い話が。
 正式に着任した君の任務娘でもあるけどねー」

「監督?僕のか?」

「あと、深海もどきどものね。
 前任がさ、あまりにやりすぎたからさ」

「……」

「いやー面倒面倒。
 あの前任を在野に打ち捨て、適当に死なせるつもりがね。
 とんでもない大暴れしたんだ。
 はっはっは、赤レンガの采配には笑えるよ。だから殺しとけって話なのに」

そんな北上は僕に言う。


「さて伝言。上からは、「何もするなだ」よ。
 単に戦えばいい。君は企業だの赤レンガの内部なんか気にしなくていい。
 さらに言えば、君は関係ない」

「ああ。そうか」

僕が言うと、北上は言う。

「クールだねー。興味ないんだ、事件の真相とか」

「僕に関係はない」

「正義に酔わない自分カッコイイって?こと」


僕は彼女をにらんだ。

「怖い怖い、そう睨まないでよ。
 仲良くやろうや。
 ま、とりあえず、刺されないでね」

「どう言う意味だ?」

「ジゴロだねえ…依存しちゃうじゃん、あんなことしたら」

「??」

答えになっていないと、指摘する前だった。
北上は言う。

「さて、今日から君が提督だ」

「ああ」

僕は軍帽に触れた。
戦うだけだ。
あの電話を受けた時から腹は決まっている。
戦うしかないじゃないか、今となっては。
そんな僕に北上はへらへら笑いながら言った。

「提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮に入ります」

>>1です。

とりあえず完走しました。
ありがとうございました。

よくわかんなかったけど取り敢えず完走おめでとう、とだけ言っとく

恵まれた中盤から糞みたいな終わり

意味が分からない……

つまんないならつまんないで話としては完結するからいいんだけど、
訳の分からない終わり方ってつまんないよりも……まぁいいや忘れる。乙。

明石が北上様として登場してきたってのはわかった

とりま乙

最後のところがよく分からんかったけどとりあえず乙

最後辺りの解説を入れてくれたら助かるかなーって
まぁ続編書くみたいな終わり方なんで書かなくてもいいんですけどね、乙

補完が欲しいようなでも多くを語るのも野暮なような
取りあえず長い事乙かれさまでした

あそこまで場面をコロコロ変える必要があったんだろうか
しかしまあ、自分達の正義を最後まで信じて疑わなかったラバウルっ娘への散々な仕打ちは少し痛快だったよ

申し訳ないが、誰かこの難解意味不明なストーリーを産業で説明してくれないか?
ハッピーエンドは望まないまでも、さすがにほぼ全員バッドで半ば投げ槍な終わり方でちんぷんかんぷんなんだ

>>738
安心しろ、完結後も三回くらい読み直したけど未だに良くわからんから。

子供じみたオツムした自己愛が強い提督が自分をはめようとしたラバウル提督に報復したがいろいろ詰めが甘く事態が悪化
ヤケクソで自滅的なテロ活動で破滅へまっしぐら
訳ありで提督に依存してた部下たちもいそいそと後に続く

そんなに難しい話じゃなくお勉強は出来るけど賢くないナルシストの一瞬の愉悦からの転落話なんじゃないの

もともと死にたい人間かな?この提督?だから[ピーーー]る理由が出来たから嬉々として行動したんじゃないかな?メンヘラ艦隊にも一応の通告してるし

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年12月11日 (日) 11:36:24   ID: aPOqJP-m

フィルター外さないと、完結まで見れない

2 :  SS好きの774さん   2017年01月25日 (水) 11:24:34   ID: 3HOriSO6

この提督はダイハードだな

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