突然の天の声であった。
「お前のギャグ補正はなくなった」
声の主が、この世界の創造主であることはまず間違いない。
主人公は愕然とした。
それもそのはず。
「ギャグ補正」がなくなったということは、
すなわち、主人公に「死」の可能性が出てきたことを意味するからだ。
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この漫画の主人公はいわゆる「体を張るタイプ」であった。
スズメバチに刺され、複数人から殴られ、トラックにひかれ、崖から落ち、宇宙空間に放り出され、
最後にお決まりのセリフ「ふざけんな!」を叫び、読者を笑わせるスタイルであった。
これらの無茶なギャグは「どんな大怪我しても死なないし、次回までには治っている」という
ギャグ補正があったからこそできたのだ。
「つまり、今度ひどい目にあったら本当に死んじまうってことかよ! ふざけんな!」
いつものように叫びつつも、主人公の顔には恐怖の色が濃厚に浮かんでいた。
いくらフィクションの登場人物とはいえ、己の役割を自覚しているとはいえ、
生存欲求や死への恐怖心は、現実の人間並みに持ち合わせている。
次は本当に死ぬからね、と言われて平常心でいられるわけがなかった。
あわてて周囲を見回す主人公。
走る自動車、空を飛ぶ飛行機、工事で道路に開けられた大きな穴、喧嘩っ早そうなチンピラ。
「死の原因」となりそうな材料がよりどりみどりである。
昔はこれらの材料に進んで向かっていった主人公であったが……。
「こんなとこにいられるか! 俺は死にたくないんだ! 助けてくれえっ!」
主人公は駆け出した。
その顔は青ざめ、白さすら帯びており、全身からは冷たい汗を噴き出していた。
もはや彼には目に映るもの全てが自身を死にいざなう罠(トラップ)にしか見えなかった。
主人公は自宅に引きこもった。
自室で体育座りになり、震えながら、スナック菓子を頬張る。
「もう俺は……絶対外に出ないぞ、絶対に!」
仲間たちが呼びにきても、主人公は居留守を続けた。
ハッピーツリーフレンズ「ギャグ補正あっても毎度死ぬアニメもあるんやで」
一体どれぐらい引きこもっただろうか――
すっかりやせ細った主人公は、一つの答えらしきものにたどり着いていた。
たとえこのまま引きこもっていたとしても、いつかは食料が枯渇し、餓えて死ぬ時がくる。
それにもしかしたら、家に強盗がやってくるかもしれない。
もしかしたら、トラックが突っ込んでくるかもしれない。
もしかしたら、隕石が降ってくるかもしれない。
もしこれらの「もしかしたら」を全て問題なくクリアしたところで、寿命は必ずやってくるのだ。
これは自分だけではない。
生けとし生きる者全て、みんないつ降りかかってくるかもしれない「死」と懸命に戦っているのだ。
ならば自分だけ怯えるわけにはいかない。逃げるわけにはいかない。
主人公は立ち上がった。
立ち上がって、ドアを開けて、外へ出る。
読者を笑わせるために。
コツンッ
玄関を出た途端、たまたま飛んできた野球ボールが主人公の頭にヒット。
「ふざ……けんな……」
よほど打ちどころが悪かったらしく、倒れた主人公はそのまま還らぬ人となってしまった。
彼の死と同時に、連載は終了した。
ギャグ補正が消えたことを恐れ、死から出来る限り遠ざかろうとし、
やっと一つの答えを見つけたと思った矢先にあっけなく死ぬ――
この命と引き換えの改心のギャグは、大勢の読者の笑いを誘った。
悪趣味だ、主人公が気の毒だ、という声もあるにはあったが、
元々この漫画がバイオレンスさやブラックユーモアをウリにしていたこともあり、
最終的な評価は「この作者らしい最終回だった」というところに着地した。
最終回最後のコマ。主人公の死に顔は、これまでになく充実したものとなっていた――
― おわり ―
……
……
天の声「じゃあ来週から、新連載としてあの世編スタートするから」
主人公「ふざけんな!!!」
いいオチだったwwwwww
あの世なら補正関係ないから怯える必要もないね。
やったね、主人公。
>>14
んで主人公は「ふざけんな!」って言いながらあの世から逃げ出すように転生するんでしょ?知ってる知ってる(訳:いいオチだった乙)
好き
こーゆーノリすこ
いいオチだ
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