逸見DAYS (13)


4月 6日 晴れ


遂に念願の黒森峰女学園に入学する事が出来た。今日から私も黒森峰の生徒、気を引き締めていかないと。

戦車道の名門、黒森峰の頂点に立つ人物、西住まほ。

あの人に少しでも近づける様に。

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4月 7日 晴れ


今日は選択科目の紹介があった。既に戦車道を取ると決めている私には必要ない時間ね。

でも、壇上に上がって戦車道の紹介をする西住まほ隊長の姿を見れた事はよかった。

明日の体験会が楽しみだ。

期待


4月 8日 晴れ


やはりと言うか、流石は名門といった所かしら。

体験会には沢山の生徒が集まっていた。新入生の半数以上が来ていたのかも。

でもここにいる大半は直ぐにいなくなるだろう。少なくとも、西住まほ隊長が来た途端に喧しい声を上げていた生徒達は確実に。

案の定、説明を聞いている内にその声は次第に収まり、まだ説明が終わっていないのにその場を離れていく生徒もちらほら。

それでもまだ八割近い生徒がその場に残っていた。でも、その日行われた練習を見学し終えた頃には始めの半数以下になっていた。

これだけ厳選されると流石に良い面構えをしてる生徒が分かり始める。確たる証拠はないけど、なんていうのかしら……戦車を見る目が違うのよね。

現に、最後まで残った新入生に明日から始まる練習に文句を言う生徒はいなかった。まぁ、声音には多少の差はあったけどね。

明日から私の戦車道が始まると思うと胸が躍る気持ちだわ。明日に備えて早く寝ましょ。





……そういえば、最後まで残っていた生徒の中に一人だけ妙に場違いな子がいたわね。あの子は一体誰なのかしら……


4月 9日 晴れ


驚いた……。まさかあのぼんやりした子が西住隊長の妹だったなんて。

落ち着きなさい、逸見エリカ。日記くらい粛々と書けないでどうするの。西住隊長の様に冷静に事を成すのよ。

そう、あれは新入生の挨拶の時。

ミーティングルームで順番に挨拶をして、ついに私の番が回ってきたのよね。あの時、西住まほ隊長は確かに私を見てたわよね……

何を馬鹿な事を考えてるのかしら私は!

……まぁ日記の中だし、誰も見てないから、別にいいわよね……?

とにかく。私が挨拶を終えて一息つきながら席に着いた時、私の次に挨拶をする後ろの子が席を立った。

それがあのぼんやりとした子、西住みほだった。

なんていうか……分からないわ。挨拶の声は途切れ途切れで、前の席にいる私にしか聞こえないんじゃないかって程に小さい声。

不審に思って振り返ると途端に視線を逸らすし……逸らした先で更に他の人の視線から逃れようとして、後はもう悲惨ね。

まほ隊長が補足しないといつまでもあの挨拶の名を借りたダンスは終わらなかったんじゃないかしら。

本当にまほ隊長の妹なのかしら?

なんにせよ、彼女が黒森峰の練習についてこれるとは到底思えないわ。

明日の練習で倒れないか、それだけが心配ね。

……なんで私が心配してるのかしら。



4月 10日 曇り後晴れ

……昨日に引き続き、あの子にはまた驚かされたわ。

何よあれ、一年の動きじゃないわよ。

……とにかくまずは纏めましょう。今日の初練習は紅白戦だった。初めての練習でいきなりの試合には私も驚いた。

とはいえ経験者と初心者が偏らない様に自前にチームは決められてたけど、各車の編成はチーム内で決める様に言われた。

もちろん私は車長を希望した。経験者だと伝えれば特に反対する者も現れず、比較的スムーズに決まった。

驚いたのはあの子、西住みほも車長だったこと。自分から車長に名乗り出たとは思えないけど、チームメンバーを見るにほとんどが初心者だ。仕方なくといった感じかしら。

どうでもいいけど、実力が分からなかったからちょうどいい機会だと思った。

なのに、フタを開けてみればどう?試合が始まった途端に敵の側面に絶妙なタイミングで回り込んで、次々と撃破していくじゃない。

ハッキリ言うわ。敵じゃなくてよかった……。

負けじと私も何台か撃破出来たけど、手柄は殆どあの子に取られた。

悔しいけど……やっぱり彼女は隊長の妹、西住流の名を持つ者だって分かった。

だったらいつものあのぼんやりした態度は何なの?

……まさか、普段は力を抑制して、戦車に乗った時に全エネルギーを解放する気力操作術とか!?西住流ならやりかねない……。

何だかあの子が怖くなってきたわ……今度からは少し警戒した方がよさそうね。


4月 11日 晴れ


今日は色々と疲れたわ。

色んな事が急に決められて頭が追い付かない。

今日は学校は休みだけど、戦車道の訓練はある。必修選択科目とはいえ、この辺りは部活動と似てるわね。

紅白戦の後はやっぱり基礎体力を付ける訓練が始まった。巨大な学園艦は単純なマラソンですら地獄と化す。さっそく音を上げ始める新入生に隊長の喝が飛ぶ。なんだかようやく黒森峰の生徒としての日々が始まった気がして力が湧いてくる。

以外だったのはあの子が音を上げなかった事ね。昨日までなら声を上げて驚いていたでしょうけど、今なら納得できる。

練習を終えて、さっそくシャワー室に向かおうとした私に、隊長が声を掛けてくれた。何でも後で隊長室に来てほしいとか。

一体何事かとドキドキしながら向かうと、部屋には隊長の他にあの子、西住みほの姿も。

私と彼女を並んで立たせた隊長は、開口一番「お前達は明日から本隊に入れ」って……。最初は何を言ってるのか分からなかったけど、徐々にその言葉の意味が身に染みてきた。嬉しかった。

でも、それもつかの間、ニヤケるのを我慢して私が返事すると、隊長は次にあの子の方を見て「みほには私の隊長補佐をしてもらう」って……。

それってつまり、副隊長って事よね?一年の春に副隊長に任命されるなんて……普通ありえないでしょ。

何より納得いかないのは、そう言われた時のあの子の表情。なんで困った様な表情をしてるのよ。嫌ならきっぱり断りなさいよね。

……違う、これはただの僻みね。私じゃなく、彼女が副隊長に任命されたから。情けない。

見てなさい、直ぐにあの子を超えて見せるわ。そして私が名実共に隊長の右腕になるのよ!

今日は景気付けに夕飯はハンバーグにしましょう。明日からの練習が楽しみだわ。




……そういえば明日は休みだったわ。

続きはないのか?


5月 1日 晴れ


黒森峰に入学してから一月近くたった。

ここまで来てもまだ残っている新入生は素直に頼れる戦友よね。現に最初の三割弱しか残っていないみたいだし。

そうなってくると自然に顔と名前も覚えてくる。真理に小梅、紗耶香に藍……そして、みほ。

でもみほなんて呼べるわけない。あの子は副隊長なんだから。例えあの子のお願いでも、聞く訳にはいかないの。

……だから、あんまり寂しそうな顔を浮かべるのはやめてほしいわ。名前で呼ぶのを断る度にそんな悲しい顔されてちゃこっちが悪いみたいじゃない。

大体、私達は貴方の部下みたいなものなんだからもっと堂々としてほしいわ。そう、凛々しく先頭に立って歩く隊長の様にね。

貴方の実力は嫌と言う程認めてるつもりなんだから、もっと自信を持ってほしいわ。





……まぁ、皆の前では呼べないけど、日記の中で位ならみほって呼んであげるわ。

一日一ページか


5月 8日 曇り

今日は明日に控えた試合の為の最終調整といった感じで、練習も比較的早く終わった。

明日は黒森峰に入ってから初となる他校との練習試合。相手はあの聖グロリアーナ女学院。

バッチリ準備して、いざ明日の試合に備えて休もうと思った矢先、隊長から驚くべき事を告げられた。

なんと明日の試合、私と副隊長……じゃなくてみほの二人で指揮を執れとのこと……。形式上は隊長が大隊長という形だったけど、部隊の運用や作戦指揮は全て私達が行わなきゃならない。突然降って湧いた試練に、私とみほは不安な顔を突き合わせた。

とはいえ、いつまでも怖気づいてなんかいられない。そう思った私はみほと一緒に直ぐに作戦を練ることにした。

とりあえず私の持てる全てを駆使して作戦を紙の上に落としてみたけど、みほから指摘された点を考慮すると殆どが使えそうになかった。

そのくせみほから挙がって来る作戦はどれも突拍子過ぎて訳の分からないものばかり。逃げ回ったり相手の弱点を付く事ばかりの作戦で、まるで西住流とは思えないものばかり。これじゃまるでコソ泥みたいじゃない。

そういったら困った様な笑みを浮かべて委縮しちゃうから、とりあえず私の出した作戦をメインプランとして動くことになった。

細かな部分はみほの案がカバーしてくれて、中々の策が出来たんじゃないかしら。

そうこうしている内に時刻は深夜を過ぎちゃって、この日記を書いてる私の後ろでみほは気持ちよさそうに寝ている。

全く、無防備な顔して寝ちゃってくれて……お陰でベッドが使えないじゃない。

文句は明日の朝にするとして、私も早く寝てしまおう。


……明日の試合、勝つわよ

残念ながら逸見の日記はここで終わっている
続きはないようだ


5月 9日 曇り後晴れ

今日はとても充実した1日だった。

昨日徹夜で考えた私達の作戦は予想以上の大戦果を挙げた。

試合は7輌ずつの殲滅戦。相手はチャーチル1輌にマチルダ4輌、そしてクルセイダー2輌という部隊。

対して私達は隊長の乗るティーガーⅠとみほが乗るティーガーⅠ、私が駆るパンターG型とⅢ号J型が4輌といった編成。

他にも有力な戦車はあったけど、オーソドックスな立ち回りの戦車だけで勝利せよとの命の為、重駆逐戦車などは使えない。

とはいえ、私とみほの作戦には機動力が必要だった為、好都合だ。

作戦は面白い位見事に決まった。元々装甲の厚いチャーチルやマチルダに正面から撃ち合ってもこちらが不利だ。機動力を活かして相手の側面に向かって撃ち込むのが無難な作戦。

……と、相手は思っていたでしょうね。みほの案はそこをうまく利用した電撃戦だった。

姿を隠して迂回してくると思わせて一気に敵の布陣に潜り込むこの作戦は相手の意表を見事に突いて瞬く間に半数の車輌を倒した。

みほの案だとそのまま相手の背後に逃げるといったものだけど、そんなの西住流の戦いではないわ。それにこれだけの戦力差が付いた時点で既に勝負は付いた様なものよ。後は圧倒的な力でねじ伏せてやったわ。

結果、こちらは3輌やられたけど、勝利を収めた。初の試合でこれだけの戦果は中々のはずよ。現に隊長も悪くない作戦だったと褒めてくれたわ。

みほはまだ何か納得していない様子だったけど、上を目指す気持ちは大切だからそっとしておきましょう。

とにかく、今日の試合はとてもいい手応えだった。あの子の作戦は突拍子もないけど、ちゃんと手綱を握ってやれば凄い力を発揮する。

あの子となら、きっと凄い所までいける……そんな気がするの。

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