・アイドルマスターシンデレラガールズ
・今井加奈メイン
・アイドルになる前の話で、設定はオリジナルです。
・方言等は全く考慮していません。
(今井加奈は高知県出身ですが、作中人物は方言を使っていません)
・多少の鬱要素あり?
・全年齢
どうでもいいことですが、このトリップ使うの6年ぶりです。
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今井加奈には、”おばあちゃん”がいた。
両親のその両親も健在で、父方、母方ともに、おじいちゃんもおばあちゃんもいたのだが、もう一人、父の祖母、加奈にとっては、ひいおばあちゃんにあたる人がいた。
当時、父方の祖父母は、つい先年リタイアした祖父が町に出て仕事していたこともあり、町の郊外に家を構えていた。そこに長男夫婦である加奈の父母も、一人娘の加奈と共に同居している。
”おばあちゃん”の家は、町の郊外の加奈の家から、車で一時間ほど行った山あいにあった。
祖父にとっての実家にあたるその家は、祖父が町に就職に出た頃と変わらない、古い農家であった。
「おばあちゃん!」
幼い加奈は、ひいおばあちゃんのことをそう呼んだ。
父母がおばあちゃんと言うのだから、加奈にしてみれば極めて自然な呼び方である。
「おお、加奈、よく来たね。」
「えへへ。きょうは、おじいちゃんもうちのおばあちゃんも、パパもママもみんなきたんだよ!」
”おばあちゃん”は、今井の家に七十年ぶりに産まれた女の子を、大層可愛がった。祖父の姉、今は亡き加奈の大叔母にあたる人以来、七十年。加奈の祖父、そしてその子は二人とも男の子で、三代にわたって待ち焦がれた女の子が、加奈であった。
三月三日、桃の節句の日に産まれた加奈のことを、この日に産まれたから女の子になってくれたと喜んだ。
そのおばあちゃんに、加奈もよく懐いていて、おばあちゃんの家に行くことを喜び、行きたがった。
そんな可愛い可愛い孫娘の願いのために、祖父は仕事の忙しい加奈の父の代わりに、毎週のように車を走らせては実家に連れていくのであった。
この日は、加奈の両親も含めて、親子三代での訪問であった。
それでも当然ながら、一番おばあちゃんに喜ばれるのは、幼い加奈の訪問だった。
「おばあちゃん、またおはなしして。」
「はいよ。」
そう言って二人は縁側に出て行く。
座布団を二つ敷いて、よく日のあたる場所に腰掛ける。
おばあちゃんは座布団の上に正座。加奈は縁側の端に座布団を置いて、椅子のように腰掛けながら膝から下をぴょこぴょこ動かしている。
ここが、おばあちゃんの家での二人の指定席だ。
「むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。」
おばあちゃんは昔話の物語を始める。
自分の子や孫にも、聞かせたであろう話。
新米のパパママや、祖父母にはとても出せない、味のある語り口。
家にテレビのない時代から、子供のために聞かせていた話である。
加奈も、めまぐるしく画面の切り替わるせわしないテレビの物語より、ゆっくりと聴けるおばあちゃんの話を好んだ。
縁側から見える風景。
家の前に畑があり、その向こうには山が見える。
今日のような晴れた日には、山の上に青い空が広がり、白い雲が流れる。
絵に描いたような日本の田舎の風景。それがそのままここにはあった。
加奈はニコニコとその風景を眺めながら、相変わらず足をぴょこぴょこさせて、おばあちゃんの話を聞いていた。
「そしてみんなは、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。」
「めでたし、めでたし!」
加奈がおばあちゃんの真似をする。
「ねえ、おばあちゃん。」
「なんだい?」
「どうして、おはなしにでてくるのは、いつもおとこのこなの?」
加奈は昔話の主人公のことを言っているようだ。
「それはね、鬼を退治したりする、強い役目は男の子の役目だからだよ。」
「そうなんだ。つよいのはおとこのこなんだ。」
「そうだよ。」
「じゃあ、おんなのこは?」
「女の子は、可愛い役目だよ。」
「そっか。かなは、おんなのこだから、かわいいといいんだね!」
「そうだよ。加奈は今でも可愛いけど、もっともっと、可愛くおなり。」
「うん!かわいくなる!」
おばあちゃんが入院した。
おばあちゃんの家で農家を継いでいる、加奈の叔父からの報せで、祖父母が様子を見に行った。
加奈の父は、その祖父からの電話で状況を知った。
「おばあさん、どうだって?」
加奈の母である妻が様子を尋ねる。
「衰弱してて、特に胃腸が弱ってるみたいなんだが、それ以上に痴呆が来ててまずいらしい。」
「痴呆症?」
「ああ。父さんのことはわかるんだが、母さんも他の人も、一切知らない人扱いらしいんだ。それで警戒して、食事もろくに摂らないらしい。点滴もうたせてくれないらしくて、病院側も困ってる。胃腸が弱ってて食欲がない上に、痴呆でいつ食事をしたのかも全く覚えてないものだから、頑として食事をしようとしないみたいだ。」
「それは大変ね・・・」
「おばあちゃんも、俺の生まれた頃にはだいぶ丸くなってたが、元々戦争でじいさんを亡くして、戦後の大変な時期に、女手一つで父さんのことを育てあげた強い頑固な人だとは聞いたことがある。どうもその頃みたいな頑固さが出てるらしいんだな・・・。いずれにせよ、もう年も九十過ぎてるし、このままだと体の方がもたないだろう。」
「ええっ・・・」
「だから、明日加奈を連れて来てくれってさ。可愛がってた加奈のことを見れば、思い出すかもしれないんで。」
「そうね。じゃあ、支度しておきますから。」
「ああ、頼む。」
翌日
加奈は両親に連れられて、おばあちゃんの入院する病院を訪れた。
長い廊下を、知らない場所に物怖じしながら、母に手を引かれた加奈は歩いていた。
「おばあちゃん、びょうきなの?」
「そうなの。だから加奈に、早く元気になってね、って言って欲しいって。」
「なおるのかな?」
幼子なりの心配な顔で、母に尋ねる。
「加奈の顔を見れば、きっと良くなるわよ。」
「うん。」
病室に入る。
おばあちゃんは、痩せた姿でベッドに寝ていた。
子供の目にも、一目でただ事ではない雰囲気はわかる。
「おばあちゃん!」
おばあちゃんの顔がこちらを向く。
眼光が鋭い。
以前の加奈を見る優しい目とは、明らかに違う。
「なんだ、ヨシエか。」
「え?」
「ヨシエは、全然顔も見せないで、どこ行ってたんだ?!」
「おばあちゃん、ちがうよ!わたしだよ!かなだよ!」
『お義父さん、ヨシエさんって・・・』
『俺の姉さんだ。子供のころ、小学校にあがるかあがらないかのうちに、死んだ。』
『加奈に似てたんですか?』
『死んだ時は俺はまだ3歳だったからな。さすがに覚えてない。』
「なに言ってんだヨシエは!」
「かなのこと、わすれちゃったの?!おばあちゃん?!」
「病院で騒ぐんじゃねえ!」
「えーん・・・おばあちゃん・・・」
「泣くな!」
さすがにいたたまれず、加奈の母が泣いている加奈を連れて病室を出て行った。
その場にいた家族全員、落胆の色は隠せなかった。
「あれほど可愛がっていた加奈でも、ダメか・・・」
それからひと月
あれ以来ずっとおばあちゃんの家にいる祖父から、電話があった。
「おばあちゃん、いよいよ危ないらしい。」
衰弱が進んだため、点滴を拒むほどの元気もすでになかったが、もはや点滴で回復できる状態でもなかった。
「明日見舞いに行こう。これが最後になるかもしれない。」
先日の一件でショックを受けていた加奈だが、明日は連れていくことにした。
さすがにもう、怒鳴りつけるほどの元気もないだろうとのことだ。
翌日、おばあちゃんのところに行く、と説明したところ、加奈から母にお願いがあった。
「ママ、かなのこと、もっとかわいくして!」
おばあちゃんは、加奈にもっと可愛くなりなさいと言った。
だからもっと可愛くなれば、可愛くすれば、加奈のことを思い出すかもしれない。
母はそのお願いを聞きいれた。
服は、おばあちゃんに買ってもらった、取っておきのピンクのワンピース。
そして、肩まで伸びた髪を、頭の左右で二つにまとめる。
髪をまとめたところには、リボンを付けた。
加奈は、鏡に映った自分を見て、目を輝かせた。
「わあっ!」
頭を左右に振って、二つにまとめた髪が揺れるのを鏡越しに見る。
「どうかな?可愛いかな?」
「うん!ママありがとう!」
加奈は、ちょっとドキドキしながらおばあちゃんの病室に入った。
おばあちゃんは、前に見た時よりさらに痩せてやつれ、腕には点滴が刺さり、口には吸入マスクをして、目を閉じていた。
加奈にはおばあちゃんに付いているものが何かはわからなかったが、重大な事態であることはわかった。
「おばあちゃん!」
声をかける。
おばあちゃんの目が開き、ゆっくりとこちらを見る。
加奈の姿を見ると、明らかに表情が変わった。
「おや・・・かわいい子が来たね・・・」
絞り出すように声を出す。
「おばあちゃん!かなだよ!」
「おお・・・加奈・・・今日は、一段と可愛いねえ・・・その髪、よく似合うよ・・・」
「うん、ママにやってもらったの!」
「そうかい・・・よかったね・・・加奈・・・もっと、もっと・・・可愛くなるんだよ・・・」
「うん!」
そのやりとりを見ながら、祖父母も、叔父も、両親もみんな泣いていた。
加奈が、おばあちゃんをもう一度呼び戻してくれた、そのひと時だった。
その夜、おばあちゃんは還らぬ人となった。
享年九十三歳。
最期はとてもおだやかな顔だったという。
それから、十数年の月日が流れた。
幼かった加奈が、どこまで覚えているかはわからない。
「わたし、可愛くなりたいんです!」
髪を、今やトレードマークとなった二つ結びにした16歳の今井加奈は、そう言ってアイドルとなったのである。
/Fin.
以上です。
あーつまんね
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