AFTER―F (21)

~プロローグ~

マスコミの人間は青年にマイクを向けて、叫び声をあげている。

「被害者遺族への謝罪は?」

「被害者に対してどう思われますか?」

皆々、言うことは違えと意味合いは、ほとんど同じだった。だから、青年は懇切丁寧に笑顔でこう回答した。


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「そんなこと考えたこともない」と。

マスコミは、口をそろえて言った。「200人以上殺しても何も思わなかったのか?」と、青年は答えた。

「そうですね。殺せたから殺したんです」

マスコミはどよめいて、同時に思った。この青年は人間じゃないと。そんなどよめきの中から一人の男が姿を現して、殺人犯である男の前に立って、丁寧にお辞儀をした。

「どうも、先ほどあなたはこう言いましたね。殺せたから殺したと」

青年はコクリと頷いた。

「では、私を殺せと言ったら殺しますか?」

マスコミが再びどよめき、マスコミの人間はこう思った。彼ならきっと殺すだろうと。しかし、マスコミの思っていた解答と少年の解答は違った。

「殺さない」

「それは何故?」

「殺したところで、何のメリットもないから。だから、殺す必要もない」

青年は至って真面目そうな顔でそう回答した。

「そうですか。ご質問に答えていただき感謝いたします」

それを聞いて男は満足したのか、青年に一礼して悠然と去っていった。

それから、三か月後のことだ。青年は処刑されたと、マスコミは報道した。

―プロローグ 終―

ふむ

つまんね

今のところ割りと好き

―第一章 友達―

世間で死んだことにされてから、一週間近く経過して青年は小さな部屋の中で幼児向けの本を読んでいた。それは、同じくこの部屋の住人であるシエルという幼い少女のためにだ。

「全く……。何でこんなことを……」

文句を言ってやりたい気分だったが、死刑を回避する代わりに、この子供の子守りをすることになったのだからしょうがないと、青年は溜息を吐いた。

「リッキー。今度はおままごとしよ!」

リッキーとは、青年がシエルに名乗った名前だ。ここの職員に、本名は名乗ってはいけないという奇妙なルールを言い渡されたために与えられた偽名だ。

「はいよ。俺はどうしたらいいんだ?」

「んっとねー。じゃあ、リッキーは私のお婿さんになって!」

シエルは、屈託のない笑みを浮かべて楽しそうだ。リッキーは子供は気楽そうで羨ましいと思った。

「よし。分かった」

おままごとが始まった。リッキー自身、こういう遊びをしたことがなかったので、中々新鮮であった。

「っ……!」

シエルがリッキーに優しく触れた。リッキーは今までこんなふうに他人と触れ合ったことがなかった。だから、驚いてしまった。冷たい人間ばかり触れてきたリッキーにとって人間の温かさは心地の良いものであった。

「もしかして、おままごと楽しくなかった……?」

「そんなことないよ」

リッキーは優しくシエルの頭を撫でた。リッキーは不思議だった。この少女といると、不思議と心が安らいで穏やかな気持ちになった。

「リッキーは優しいね」

「俺は優しくなんてないさ」

事実、リッキーは何百人もの命を奪っているのだから。そんな人間が優しいはずがない。

「ううん。私には分かるの。だって、こんなにも暖かいんだもん」

シエルは、リッキーに抱き着いて甘えた。リッキーは初めて人を殺したとき以上の快楽と衝撃をその身に感じた。

「リッキーは優しいよ。世界が何と言ったって私はそう思うの」

リッキーは、シエルを抱きしめ返した。この時だけは自分が大量殺人鬼であることを忘れられた気がした。

シエルは眠っている。私は、眠っているシエルの頬を優しく撫でた。

「君は、今どんな夢を見ているんだい?」

寝息を立てて眠り続ける少女に私は問いかけた。当然、答え何て帰ってこないと知っていながら……。

「ゆっくり、おやすみ。シエル」

私も、眠ることにしよう。私は屋上で残り少ない煙草に火をつけて一服してから、床に着いた。

「リッキー、おはよう!」

「おはよう、シエル」

お互いに挨拶を交わす。最近では、一緒に食事をとったり、朝の挨拶を毎朝行う程度には仲良くなっていた。

おはよう。シエルちゃん。診察の時間だよ」

「っ……、はい」

シエルは、この男が苦手なみたいだ。この男の名前はジア。国一番の科学者であり、リッキーを死刑から助けた張本人だ。なので、リッキーはこの男に感謝していた。さから、毎度不思議に思っていた。何故、シエルはジアを恐れているのだろうか?

「…………………」

もう気になってしょうがなかった。きっと以前の自分なら興味を持たなかっただろう。だからこそ、リッキーは自分自身が分からなくなっていった。

「リッキー、ただいまー」

「おかえり。シエル」

シエルの笑顔にはどこか陰りがあった気がした。絶対に何かある。リッキーはそう思った。だから、夜になったら探しに行こう。

「さて、何して遊ぶ?」

リッキーは、笑顔を作ってシエルに向けた。シエルは、う~んと頭を捻ってから、積み木を持ってきた。今日は積み木遊びをするみたいだ。

月が頂上に昇ったころ、リッキーは気持ちよさそうに眠るシエルの顔をチラリと見てから、シエルを起こしてしまわないように部屋を出た。

「こんなところで何をしている?」

月明かりの向こうから、研究員の一人が現れた。リッキーの額を汗が伝う。

「お前は、確か……」

研究員が近づいてくる。リッキーは研究員の首を絞めあげて、気絶させた。

「ふーっ……」

呼吸を整えてから、研究員が持っていた資料を拾い上げた。専門用語ばかりでリッキーにはあまり理解できなかったが、とあるページに差し掛かった時、リッキーの目はそこで止まった。そこには、こう書かれていた。

健常者の臓器を全て、世界中の臓器提供を必要とするものに提供する。と

そして、その犠牲となるものに選ばれたのがシエルであると。

「何だよこれ……」

つまりはこういう事だ、たった一人の犠牲で多くの命を救うという事だ。そんなのは、嫌だ。とリッキーは思った。

「そんなのは認めない……」

リッキーは決めた。シエルを連れてここから逃げ出そうと。

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