卯月「私はアイドル」 (14)
私は島村卯月、アイドルです。
まだ成り立てだけど、一生懸命アイドル頑張りますね。
今日もこれからお仕事です。
わくわくしながら事務所の前で信号待ち。
無意識にお気に入りの歌を口ずさみます。
卯月「おーねがいシン」
凛「ちょっと、卯月」
卯月「はい?あ、凛ちゃん。おはようございます」
凛「おはよう、じゃないよ。また歌いそうじゃなかった?」
卯月「あ……。すみません、今日のお仕事が楽しみで、つい」
凛「まったく。気をつけなよ」
卯月「はーい」
いけないいけない。
あんまり気分がよくて、歌を歌ってしまうところでした。
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私たちアイドルは、仕事以外で歌を歌うのを禁止されています。
知っての通り、アイドルの歌はCDとして発売されたりライブのメインになるほどの価値を持つ商品です。
それなのに自由に歌ってしまっては、商品を無償でばらまいているのと同じで、商品の価値を下げてしまうのだそうです。
防音された自室で歌うぐらいならいいですけど、往来で歌うのは絶対にダメです。
価値が下がるのもですけど、なによりお金を出して私たちの歌を聞いてくれるファンのみなさんを裏切るわけにはいきません。
好きな時に歌えないのは辛いけど、島村卯月頑張ります!
今日のお仕事は美穂ちゃんと二人で写真の撮影です。
撮影のお仕事は綺麗な衣装が着れるので楽しみです。
卯月「美穂ちゃん、一緒に行きましょう」
そう言って美穂ちゃんに手をのばすと、美穂ちゃんは少し困った顔になりました。
美穂「卯月ちゃん、手をつなぐのは、その……」
卯月「あっ!ご、ごめんなさい!私、うっかりしてて」
美穂「まだ慣れてないなら、仕方ないよ」
卯月「うう、今朝も歌のことで凛ちゃんに注意されたばかりなのに」
美穂「これから覚えていけばいいよ」
卯月「はい。頑張ります」
またやってしまうところでした。
私たちアイドルは、仕事以外での握手を禁止されています。
知っての通り、アイドルの握手はそれだけで握手会という大きなイベントが開けるほどの価値を持つ商品です。
それなのに気軽に誰とでも握手していては、イベントを開くだけの特別感がなくなり、商品としての価値が下がってしまうのだそうです。
自宅で家族と手をつなぐ程度なら怒られませんが、外で誰かと手をつないだりするのは絶対にダメです。
価値が下がるのもですけど、なにより私たちと握手するためにイベントに参加してくれるファンのみなさんを裏切るわけにはいきません。
友達とも手をつなげないのは寂しいですけど、島村卯月頑張ります!
撮影のお仕事が終わって、今はプロデューサーさんと打ち合わせをする時間まで事務所のソファーで待機中です。
暇なので、誰かが置いていった雑誌を読んで過ごします。
卯月「むむむ」
ちひろ「卯月ちゃん、どうかしましたか?」
卯月「ちひろさん、おはようございます。この雑誌に載ってるケーキ屋さんなんですけど、ウチの近所みたいなんです。だから何か買って帰ろうかなって」
ちひろ「へえ。どれも美味しそうなケーキね」
卯月「はい。あ、ケーキバイキングもやってるんだ。じゃあ今度学校のみんなで」
ちひろ「卯月ちゃん、悪いんだけど……」
卯月「あ!だ、大丈夫です。忘れてませんから」
ちひろ「そう?大変だろうけど、気をつけてね」
また危ないところでした。
私たちアイドルは、仕事以外での外食を禁止されています。
知っての通り、アイドルの食事風景はそのまま一つの番組コーナーになるほどの価値を持った商品です。
それなのにアイドルがそのへんのお店でご飯を食べていては、ありがたみがなくなって、商品としての価値が下がってしまうのだそうです。
基本的に食事は家か事務所の部屋の中で、お弁当やお店からお持ち帰りした物を食べます。
ケーキバイキングなんてもってのほかです。
価値が下がるのもですけど、なにより私たちの番組を見てくれるファンのみなさんを裏切るわけにはいきません。
たまには家族とレストランで食事したいですけど、島村卯月頑張ります!
今後の予定をプロデューサーさんと打ち合わせして、今日のお仕事は終了しました。
ちょうど帰りが一緒になった未央ちゃんと駅へ向かいます。
卯月「今日はたくさん注意されちゃいました」
未央「しまむーはうっかりさんだからね」
卯月「こんなで、私アイドルやっていけるんでしょうか」
未央「そう気に病むことないって。そういうところも、しまむーの魅力なんだから」
卯月「そうでしょうか。えへへ」
未央「しまむー、言ったそばから……」
卯月「え?私、何かしましたか?」
未央「笑顔。忘れちゃった?」
卯月「そ、そうでした!どうしましょう?」
未央「まあ、まわりにも気づかれてないみたいだし大丈夫じゃない?」
卯月「よかったです」
未央「しまむーがしっかりする日は遠そうですなー」
卯月「うう、頑張ります」
私たちアイドルは、仕事以外での笑顔を禁止されています。
知っての通り、アイドルの笑顔はドラマや映画のラストシーンに使われるほどの価値を。
短いですが、以上です。
うわきついこれ
おつ
世にも奇妙な物語でありそうな世界観でよかった
乙
読めたがそれでも結構クるなこれ
夢のある畜産みたいな感じで良いね
面白い雰囲気だった
可能性を生み出しただけでアウトなんだよ
っていう迷言の行き着く先
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