オーク「女騎士は」触手「我々が」魔道士「倒します!」(177)

赤毛娘「や、やめて……お願い……!」



オーク「ぐへへへ……往生際がわりィな、ねえちゃん。
    オレらを誘ったのはそっちなんだぜ?」

触手「うむ……」ウネ…

触手「これも、キサマ自身がまいたタネというやつだ」

魔道士「残念ですが、ここまでです。諦めて下さい」



赤毛娘「いやっ……いやぁぁぁっ!」

赤毛娘「や、やっぱり、自分の部屋の掃除を、男の人にやってもらうってのは――」



オーク「さてと、このねえちゃんはほっといて、とっとと掃除だ」

オーク「オレが部屋のもんを全部外に出す!」ヒョイヒョイ

持ち前の怪力で、家具を全て外に出すオーク。

触手「続いて、私が部屋の隅々までキレイに汚れを落とす」

シュバババババッ!

核から生えた数十本の触手が、あっという間に部屋の汚れを落とす。

触手「完了だ」ウネッ

魔道士「仕上げはボクですね! ――風よ、汚れを集めろ!」

ビュアアッ!



赤毛娘「ああっ、あたしの部屋が!
    乙女の花園が、男の人たちにかき回されるぅぅぅぅぅ!」

オーク「家具を元の位置に戻して、と」ヒョイヒョイ

オーク「さ、どうだ?」



ピカピカ…… キラキラ……



見違えるようにキレイになった部屋を見て、目を丸くする赤毛娘。

赤毛娘「わぁ~お……!」

赤毛娘「すっご~い! まさに地獄から天国って感じ! ありがとう!」

オーク「ぐへへへ……やるもんだろ?」

魔道士「これからはマメに掃除するようにして下さいね」

触手(久々だったな……これほど片付けができてない部屋は)ウネウネ

オーク「んじゃ……もらうもん、もらおうか」グヘヘ…

赤毛娘「へ? お金とるの?」

オーク「たりめーだろが! オレたちゃボランティアじゃねーんだぞ!」

赤毛娘「実はさ……今、あまり持ち合わせがないんだよね。
    酒場でちょっとおごるぐらいじゃ……ダメ?」

オーク「なにぃ~!?」

触手「……まあよいのではないか?
   我々もちゃんと説明してはいなかったしな」ウネウネ

赤毛娘「えへっ、あなたハナシが分かるのね。ありがと~う!」チュッ

触手「よせ……。乙女なら唇は大切にしろ」



オーク「くっそぉ~、なんでいつも触手ばかりモテるんだよ!」

魔道士「……不公平ですよね」

赤毛娘に案内され、町の酒場へやってきた一行。

< 酒場 >

女主人「はいよ、ビールお待ち!」ゴトンッ

オーク「よぉ~し、おごりってんならたっぷり飲んでやる!」

赤毛娘「あ、あたしがおごるのは最初の一杯だけね」

オーク「マジかよ!?」

オーク「……まあいいか。こんな若くてべっぴんな女将がやってる酒場なんて、
    珍しいしよ!」

女主人「アハハッ、アンタなかなかうまいねえ。
    よぉし、最初の一杯は特別にタダにしてあげるよ!」

オーク「マジかよ!?」

魔道士「若くてキレイなだけじゃなく、気前もいいんですね!」

赤毛娘「じゃあこれでもう、あたしはおごったってことで」

オーク「マジかよ!?」

触手「ちゃっかりした娘だ」ウネッ

女主人「それにしても、珍しいね。
    オークと触手、それに魔道士のトリオだなんてさ」

女主人「三人でつるんで、気ままに便利屋稼業ってわけかい?」

オーク「まぁな」

オーク「オレは集落を、触手は森を、魔道士は学校をそれぞれ抜け出して――
    それぞれ旅をしてたんだが、ある町で出会ってさ。
    意気投合してつるむようになったってわけだ」

赤毛娘「へぇ~、つまり落ちこぼれトリオってわけだ」

オーク「うっ……もうちょっとオブラートに包んでくれよ……」

魔道士「あうぅ……」

触手「…………」

赤毛娘「あっ、ごめんなさいっ!」

赤毛娘「だけど、どうして組むことになったの?」

赤毛娘「もしかして三人で杯を交わしながら、
    『我ら兄弟、生まれた日はちがうが、死ぬ時は同じ時でありたい!』
    とかやったの?」

オーク「なんだそりゃ!? オレたち義兄弟でもなんでもねえから!
    一緒に死にたくもねえし!」

触手「あまりドラマチックなエピソードを期待されても困る」ウネ…

赤毛娘「なぁんだ。でもきっかけはあったんでしょ?」

魔道士「ある町で、お腹がすいたボクら三人がお供え物のパンを食べてしまって、
    町の人に取り囲まれちゃったんですよ」

赤毛娘「あらら」

女主人「知らぬこととはいえ、ちょっとまずかったね」

魔道士「その時、三人で苦し紛れに即席芸をしたら、大ウケして許してもらえて……」

赤毛娘「どんな芸?」

魔道士「ボクと触手さんが力を合わせて、オークさんをぶっ飛ばすんです!」

赤毛娘「想像以上に荒技ね……」

オーク「それで、なんだかオレたちウマが合ったってわけだ」

赤毛娘「アハハッ、ドラマはドラマでもコメディか」

触手「ブタがウマを語るとはな」ウネッ

オーク「おい、今の聞こえたぞ!」ガタッ

女主人「はいはい、ケンカなら外でやってくれよ」

オーク「しっかし、なんだな」

オーク「この町に来てありつけた仕事は、まだたったの一件……しかもタダ働き」

オーク「ハッキリいっちまうが、『伝説の女騎士』が治めてる町にしちゃあ、
    イマイチ活気がなくねえか?」

魔道士「そうですよね」

魔道士「数年前までこの地方で起こっていた戦乱で、この一帯を部隊を率いて守り抜き、
    今は領主になったと聞いてましたが……」

触手「女性騎士がこの地を治めているというのは、さすがに間違いない情報だろうが――」

触手「この地を賊から守っただとか、『伝説』の部分に関しては、
   単なるウワサに過ぎなかったのだろう」ウネッ

女主人「そうさ、『伝説の女騎士』なんていやしないのさ」

オーク「アンタ、見たことねえのか?」

女主人「なにせアタシがここで店を開いたのは戦乱の後だからねぇ」

赤毛娘「…………」

赤毛娘「ウワサなんかじゃないわ!」

オーク「ウワサじゃない……?」

赤毛娘「ええ、『伝説の女騎士』は本当にいたのよ」

赤毛娘「あの戦乱の騒ぎに乗じて、この一帯にも山賊や兵隊崩れが次々やってきたの」

赤毛娘「だけど、あの人が部隊を率いてみんなを守ってくれたのよ」

赤毛娘「赤い兜をつけた……女騎士さんがね」

赤毛娘「あたしはまだ子供だったけど、よく覚えてる……。
    あの人がいなきゃ……この町だってきっと滅んでたわ」

魔道士「そうだったんですか……」

触手「真実であったか……失礼した」ウネッ

赤毛娘「いいってことよ!」

オーク「だったらよぉ、もっとこの町も盛り上がっていいはずなんじゃねえか?
    女騎士を中心によォ。いわば救世主なんだろ?」

赤毛娘「…………」

赤毛娘「戦乱の後、女騎士さんはこの地域を守り切った手柄ということで、
    この辺りを治める権利を得たみたい」

赤毛娘「やっと素顔をさらしてくれて、領主になったわ」

赤毛娘「だけど……あの人はすっかり変わってしまっていた」

魔道士「変わったって、どういう風にです?」

赤毛娘「それは……いえないわ」

魔道士「ど、どうして?」

赤毛娘は口をつぐんでしまった。

触手「魔道士、いいたくないことをあまり無理に聞くものではない」ウネッ

触手「『壁に耳あり、柱に触手あり』というしな」

魔道士「なんですか、それ?」

触手「どこになにが潜んでいるか分からない、ということだ。
   うかつに話せば、彼女にもなにかペナルティがあるかもしれん」ウネウネ

魔道士「な、なるほど……」



女主人「ふうん。彼、ウネウネしてるけど、やけにカッコイイじゃないか」

オーク「だろ? アイツ、触手のくせにオレたちの中で一番モテるんだぜ……くそっ」

オーク「ま、オレたちが立ち入ることじゃねえよ。この町にゃ町のルールがあるんだ」

触手「うむ」

魔道士「はい……」

赤毛娘「……もう、辛気臭くなっちゃって! パーッと飲もう! ね!?」

オーク「おう、そうだな! 飲みまくろうぜ!」



すると――

バタンッ!

兵士A「さぁて、たまにゃパーッと飲み明かすか!」

兵士B「お前の“たまに”は、ほぼ毎日って意味になってるよな!」

兵士C「まったくだ。付き合う身にもなれ」

兵士A「そうだっけか? へっへっへ」

三人の兵士が入ってきた。

兵士A「オラ、どけっ! 一番いいとこに座ってんじゃねえよ!」ドカッ

青年「す、すみません……」

兵士B「優しいねぇ、ケリだけで済ませるなんてよ。俺だったら叩き斬ってるとこだぜ」

兵士C「いっそ見せしめのために、腕の一本も斬ってしまうのもいいかもしれん」

青年「すぐ、どきますからっ……!」ササッ



魔道士「な、なんですか、あいつら? いきなり……」

赤毛娘「女騎士さんの“私兵”よ。普段は女騎士さんのお屋敷にいるんだけど、
    時々町に来ては、ああやって好き放題するの」

赤毛娘「女主人さんのおかげで、だいぶ抑えられてはいるけどね」

オーク「抑えられてる? どういうこった?」

兵士A「おうおうおう、そこのねえちゃん」

赤毛娘「な、なによ」

兵士A「ちょっくらよ~、ビールでも注いでくんねえか? なぁ、いいだろ?」ガシッ

赤毛娘「…………!」

オーク「おい――」ガタッ

兵士A「なんだ?」

赤毛娘がオークたちに「口を出すな」と目で合図を送る。

オーク「う……」スッ…



女主人「ちょいと待った」

女主人「今日のとこはさ、これで勘弁してよ」スッ…

兵士A「へっ……美人店主さんの頼みじゃ、まあしゃーねーか」ピッ

兵士は女主人からなにかを受け取ると、大人しく引き下がった。

赤毛娘「あ、ありがとうございました……!」

女主人「気にしなさんなって」



魔道士「今、なにを渡したんでしょう?」

オーク「そりゃあれだ、食いもんだろ」ブヒッ

触手「そんなわけあるか……金だろう」

魔道士「お金を……!?」

触手「金というのは恐ろしい魔力を持つシロモノだ。
   凶悪な触手でも、金を握らせると大人しくなるということもある」ウネウネ

魔道士「なるんですか!?」

触手「『触手のうねりも金次第』というだろう?」ウネッ

魔道士「聞いたことないです」

しばらく、酒と雑談を楽しんだオークたち。

オーク「久々に楽しい酒だったぜ。そろそろ出るか」

魔道士「そうれすねぇ~……」ヨロッ…

触手「おいおい、大丈夫か」ガシッ…

魔道士「だいじょぶれぇ~す……ひひっ」

触手「大丈夫ではないようだな」ウネッ

赤毛娘「フフッ、魔道士君はお酒弱いんだ」

オーク「ったく、世話焼かせやがって……ほれ、行くぞ!」グイッ

女主人「転ばないように気をつけてね」

< 町 >

外へ出ると、先ほどの兵士たちがまた横暴を働いていた。



商人「ああっ……そんなに売り上げを持っていかれては……」

兵士A「“税”だよ“税”!
    俺たちはてめぇらの領主である女騎士様の部下なんだからよ!」



オーク「あの野郎ども、またやってやがる!」

赤毛娘「だけど、今日はまだ軽い方よ。
    女主人さんがお金を払ってくれたから、機嫌がいいんでしょうね」

赤毛娘「女主人さんが酒場を開くまでは、
    ほとんどいいがかりで殴られて、大ケガした人もいたわ」

魔道士「ひどいれすねぇ……」ヒック

触手「騎士の領地でありながら無法地帯とはな。嘆かわしいことだ」ウネッ

オーク「なんならオレが、ヤツらをブッ倒してやろうか?」パキポキ…

魔道士「お、いいれすねぇ」

オーク「あんなクソ兵士どもなんざ、ちょちょいの――」

赤毛娘「やめてっ!」

オーク「へ?」

魔道士「えぇ~……やめちゃうんれすか? やっちゃえばいいのに……」ヒック

触手「…………」ウネ…

赤毛娘「あいつら、ただの乱暴者じゃないわ。ものすごく強いの。
    町の腕自慢の人も、あいつらにあっさりボコボコにされちゃったわ」

赤毛娘「それに……たとえばこの町のだれかが逆らったら、
    他の治めてる町に“この町で酷い目にあったから”って嫌がらせするの」

赤毛娘「だから下手に反抗すると、とんでもないことになっちゃうのよ」

オーク「マジかよ……なんつう陰険なやり方だ」

赤毛娘「女騎士さんは本当に変わってしまったのよ……」

結局、オークたちは兵士らに手を出すことはしなかった。

赤毛娘「じゃ、今日はありがとね。まだしばらくはこの町にいるんでしょ?
    改めて、ちゃんとお礼はさせてもらうから」

赤毛娘「ただし、お金以外でね」ニコッ

スタタッ……

チャームポイントの赤い髪をなびかせ、娘は走り去っていった。



オーク「へっ、最後までちゃっかりした娘だぜ」

魔道士「だけど、あの子の明るさは、みんなの救いになってるはずれすよぉ~、きっと」

オーク「……だな」

触手「さて、我々も宿に戻るとしよう」ウネウネ

< 宿屋 >

魔道士「…………」

オーク「どうした? やっと酔いが覚めたか?」

魔道士「オークさん、触手さん……この町、どうにか救ってあげることは
    できないでしょうか?」

オーク「救うってのはつまり、オレたちがあの兵士どもをブッ飛ばすってことか?」

魔道士「はい……」

オーク「そりゃおめぇ、オレだってあんな兵士ども殴ってやりてぇよ」

オーク「だけどよ、あの娘もいってたけど、
    それでひどい目にあうのは結局ここらの人間だぜ?」

触手「うむ、部外者が口を出すことではないな」ウネッ

魔道士「そう……ですけど……」

全裸待機

魔道士「ボクは……今の魔法界にはびこる
    『魔法は出世のために使うもの』という風潮に嫌気がさし、
    学校を飛び出しました」

魔道士「なんの後ろ盾もあてもない放浪生活の中、似たような境遇のお二人に出会い、
    今では一緒に旅をしながら仕事をさせてもらってます」

魔道士「そして、今の生活の中で……魔法とは決して強い人に媚びを売ったり、
    弱い人を虐げるためのものではない、と分かってきました」

魔道士「だから……こういう時こそ、ボクの魔法を役立てたいんです!
    町の人を救いたいんです!」

魔道士「なんとか……なんとかならないでしょうか!?」

オーク「…………」

触手「…………」



三人は、かつて自分たちの巣を飛び出した時のことを思い返していた。



『他の種族と仲良く?』 『バカいうなよ!』 『俺たちは戦う種族なんだぜ!?』

オーク『こんだけいってもダメかよ……! じゃあもういいよ!
    だったらオレはこんな集落、出ていく!』

『なんだと!?』 『てめぇ!』 『ただで出ていけると思うなよ!』



ウネウネ…… ウゾウゾ……

触手(暗い森の中で、仲間とともにひっそりと獲物を待ち続ける日々……。
   私はもっとちがう生き方をしたい! 日なたに出たい!)

触手『私はもう……こんなじめじめした生活はまっぴらだ!』ウネリッ



教師『魔法を世の中のために役立てる? 愚か者め、下らんことをほざくな!
   魔法は道具だ! 立身出世のための道具なのだ!』

魔道士『…………』

魔道士『だったらボクは……この学校を辞めます!』

教師『そんな勝手を許すと思うか? 懲罰房に叩き込んでくれる!』

オーク「…………」グッ…

オーク「オレだってなんとかしてえよ! でも、どうにもなんねぇだろうが!
    もしオレらがしくじったら、この町はさらにひでえことになるんだぞ!」

魔道士「そう……ですけど……!」

触手「…………」ウネ…

触手「いや……方法はあるかもしれん」

魔道士「ホ、ホントですか!?」

オーク「マジかよ!?」

触手「耳を貸せ」クイックイッ

………………

…………

……

翌日――

< 町 >

町をぶらつく三人組のもとに、赤毛娘がやってきた。

赤毛娘「あ~ら、こんにちは! ヒマそうでなによりね!」

魔道士「こんにちは!」

オーク「ヒマそう、は余計だっつうの」

赤毛娘「じゃあ、肥満そう」

オーク「オレのガタイは肥満じゃなくて筋肉だ! 脂肪もちょっとはついてるけど……」

触手「買い物カゴを持ってるが、ショッピングか?」ウネウネ

赤毛娘「ほら、掃除のお礼はちゃんとするっていったでしょ?
    だから、今日は手料理を振るまおうかと思って!」

オーク「マジかよ!?」

オーク「部屋は汚いわ、金にも汚いわで、ひっでえ娘だと思ってたが、
    少しはいいとこもあんじゃねえか!」

赤毛娘「でしょ~? 少しはいいとこもあんのよ、あたし」

魔道士(すごい会話だ……)

赤毛娘「いっとくけど、あたし料理には自信あるからね」

オーク「ホントかよぉ?」

赤毛娘「ホントホント。材料買ってくるから、あとであたしの家に来てくれない?」

魔道士「分かりました!」

オーク「楽しみにしてるぜ! おっと、口直しできるもんも持ってかないとな!」ブヒッ

魔道士「オークさん!」

触手「…………」ウネ…



物陰には――

兵士A「おい、見ろよ。昨日の娘だぜ」

兵士B「昨日は見逃してやったが……やっぱり味見ぐらいしときてえよな」

兵士C「ならば捕えて、ムリヤリ屋敷まで連れ帰るのがよかろう」

兵士A「それが手っ取り早いな、そうするか!」

< 商店街 >

赤毛娘「これでよし、と!」

赤毛娘(さて、家に――)

赤毛娘「!」



赤毛娘を待ちかまえていたのは、昨日の兵士三人組。

兵士A「へっへっへ、ちょっと付き合ってもらおうか?
    なぁに心配すんな。気持ちいいことしてもらうだけだからよ」

ガシッ!

赤毛娘「は、はなして! なにすんの!」

兵士A「いいから来いよ!」グイッ



白昼堂々の誘拐劇。
にもかかわらず、町の人間にはどうすることもできない。

なぜなら私兵に歯向かうことは、『伝説の女騎士』と敵対することを意味する。
すなわち、町の寿命を縮めることを意味するのだから。

同じく、商店街で買い出しをしていた女主人。

女主人「――――!」ハッ

女主人「ちょっと! なにしてるんだよ!」

兵士A「お? おおアンタか。いつも世話になってるな」

女主人「金は払う! とっととその娘をはなしな!」

兵士A「そりゃ、できねえなぁ」ニヤニヤ…

兵士B「俺たち、もう収まらねえのよ。金なんかじゃな」

兵士C「いっておくが……止めようなどと思わないことだ。
    女騎士様を敵に回すことになるのだからな」

女主人「くっ……!」

赤毛娘「あ、あたしは大丈夫……! だから気にしないで……!」

兵士A「へっ、ようやく覚悟が決まったようだな! オラ、来いや!」グイッ

女主人(今までは酒や金でご機嫌とってりゃなんとかなったってのに……!
    どうすれば……!)

オーク「待ちな」ズンッ

魔道士「待って下さい!」ザッ

触手「…………」ウネ…

兵士たちの前に立ちはだかったのは、オークたち三人組。



兵士A「てめぇら、なんの用だ?」

オーク「決まってんだろ? その女を取り返しにきたんだよ」



魔道士「さすが触手さん、よくあの兵士たちの気配に気づきましたね?」ボソッ

触手「私は振動に敏感だからな。それに一度覚えた“歩き方”は忘れん」ボソッ

赤毛娘「ダ、ダメッ……!」

兵士A「おい、ブタ野郎……。魔物の分際で、人間サマに逆らおうってのか?
    そうか、町の奴らに雇われたんだな?」

オーク「雇われたぁ? 勘違いすんなよ。
    オレらはな、今日からこの町を乗っ取ることにしたのさ!」ビシッ

兵士A「へ!?」

赤毛娘(え!?)

オーク「その娘で遊ぶのはオレらだ! ブヒブヒいわせてやるぜ!」

触手「私もその娘をなぶりたくてたまらん。『触手、色を好む』というしな」ウネウネ

魔道士「赤毛娘さんに……魔法でエ、エッチなことを……しまくってやるのさ!」

兵士B「なんだとぉ!?」

兵士C「なるほど……町の味方ではなく、とんだ悪党どもだったようだ」

兵士A「ほぉう、おもしれえ。だが、勉強不足だったようだな。
    俺たちは女騎士様直属の兵隊! てめぇらなんか一瞬で――」

ドゴンッ!

オークのパンチが、しゃべっている兵士の顔面にめり込んだ。

兵士A「ぎゃふぅっ……!」ドサッ…

殴られた兵士は一撃でのびてしまった。

オーク「ふん、こんなもんかよ。ちょろいぜ」ブヒッ

兵士B&C「!」

兵士C「少しはできるようだ……始末するぞ」チャキッ

兵士B「おう!」チャキッ

残る二人も、ほとんど動揺なく襲いかかってくるが――

魔道士「雷よ! 落ちろ!」

ピッシャァンッ!

兵士B「ぎゃあああああっ!」

一人は雷に打たれ――



触手「触手拳法、触手百烈拳!」シュババババババッ

ズドドドドドドッ!

兵士C「ぐげあぁぁっ……!」

もう一人は全身を触手で突かれた。

兵士A「ぢ、ぢくじょう……! 女騎士様に報告だ!」スタタッ



あっさりと三人の兵士を撃退したオークたち。

オーク「ぐへへへ……ざまあねえぜ!」

魔道士「あのう……いっつも思ってることなんですけど、
    触手さんのアレって“拳法”ではないんじゃ?」

触手「触“手”がやってるんだから、“拳”法でいいんだ」ウネ…

魔道士「はぁ……」



赤毛娘(すっごい……! 女騎士さんの兵士たちをあっさり……!)

赤毛娘「でも、あんなことしたらまずいって! あなたたち、早く町から逃げて!」

オーク「逃げる? なんで逃げなきゃならねえんだ」

赤毛娘「だって……あの兵士たち、女騎士さんに報告するって!」

オーク「ふん、望むところだぜ。なぜなら――」



オーク「女騎士は」

触手「我々が」

魔道士「倒します!」



オーク「――ってことだ! どうだ、決まっただろ?」

触手「宿屋で何度も練習したかいがあったな」ウネッ

魔道士「隣の部屋の人に“うるせーぞ!”って怒られましたけどね」

赤毛娘「うう……なんだかよく分からないけど、すごい迫力だったわ……!」

赤毛娘「あなたたち……何者なの? ただの便利屋さんじゃなかったの?」

オーク「よくぞ聞いてくれた! オレたちゃ、
    ボディガードから用心棒までなんでもこなす、三人組よ!」

赤毛娘「なんでもにしちゃずいぶん狭いけど」

オーク「うぐっ! ミスっちまった……。清掃から用心棒でお願いします……」

女主人「……アンタたちが只者じゃないことは分かってたけどね」

赤毛娘「女主人さん、どうして?」

女主人「オーク集落も、触手群生地も、そして魔法学校も――
    方針に従わない『去る者は叩き潰す』ってとこは共通してる」

女主人「それなりの腕がなきゃ、この三人みたいな自由人にはなれないさ」

赤毛娘「はぁ~……なるほど」

赤毛娘「でもさ、なんであなたたち、この町を乗っ取るなんていったの?
    あれ、ウソでしょ?」

オーク「決まってんだろ? もしオレらがしくじっても、
    この町の住民のせいにならないようにするためだよ」

赤毛娘「あ……ちゃんと考えてくれてたんだ。やるぅ!」

オーク「ああいっときゃ、女騎士の標的はオレたちだけになる!
    町に責任が及ぶことを気にせずケンカを売れるってわけだ!」

魔道士「これは触手さんのアイディアなんですよ」

触手「魔道士、お前はだいぶ演技がぎこちなかったがな」ツンツン

魔道士「す、すみません! こういうの初めてだったんで……」



赤毛娘「あたしたちのために……ありがとう!」

女主人「やるねえ、アンタたち!」

ザワザワ…… ドヨドヨ……

喜び半分、戸惑い半分の住民たちにオークが呼びかける。

オーク「いいか!」

オーク「これからオレたちは“町の平和を脅かす悪党”として、女騎士どもと戦う!」

オーク「だから、オレたちに肩入れするような発言は絶対すんなよ!
    オレたち一世一代の大芝居が、全部猿芝居になっちまうからな!」

触手「ブタ芝居じゃないのか?」ウネウネ

赤毛娘「ぶふっ!」

オーク「もう! せっかくのカッコイイ場面が台無しじゃねえか!」ブヒッ

ハハハ…… クスクス……



オーク「戦いは久々だからな、気合入れてくぜ!」

触手「うむ」ウネッ

魔道士「はいっ!」

< 女騎士の屋敷 >

女騎士に敗北の報告をする兵士たち。

女騎士「ほう……この私の領地である、あの町を乗っ取ると」

兵士A「は、はい……我々ではとても歯が立ちませんでした……」

女騎士「フ、フフ……クククッ……」

不気味に笑う女騎士に、兵士たちの顔が青ざめる。
彼らとて、女騎士が恐ろしいのだ。

女騎士「オークに触手、魔道士のトリオとは……そそられるではないか。
    あいつらとどっちが上かな……?」

兵士A「は?」

女騎士「……いや、なんでもない。すぐに討伐の準備を整えよう」

兵士A「ははっ! お聞き届け下さり、ありがとうございます!」

女騎士「しかし……」

女騎士「出陣の前に、私の手をわずらわせる役立たずの始末はしておかねばな」チャキッ

兵士A「え……!?」

兵士B「そ、そんなっ!」

兵士C「ま、待ってくださ――」



ザシュッ! ズシャッ! ザンッ!



三つの屍と赤く染まった剣。女騎士が笑う。

女騎士「フフフ、久々に楽しめそうだ……」

今回はここまでとなります
よろしくお願いします


あなたの書く触手は相変わらずイケメンだな

>>女騎士「フフフ、久々に楽しめそうだ……」

どういう意味で楽しむんでしょうね(ゲス顔)


過去作あるのなら見てみたいんだが教えてもらえないか

オークらの宣戦布告から、約一時間後――



< 町 >

50人の兵士を率いて、女騎士がやってきた。

ズラッ……

女騎士「キサマらが、この町を乗っ取ろうという無法者三人組か」

オーク「おうよ! ド田舎だが、オレらの拠点にするにゃ、ちょうどいいからな」

触手「しかも、いい女もたくさんいる……退屈しそうにないのでな」ウネッ

魔道士「この町は……ボクたちのものです! みんな、奴隷にしちゃいます!」

女騎士「フッ、流れ者にしては威勢がいい」



赤毛娘(三人ともノリノリね。魔道士君はちょっとぎこちないけど……)

女騎士「それにしても、オーク、触手、魔道士とは……
    これはこれは……奇遇というべきか。面白い組み合わせだな」

オーク「?」

女騎士「どうだ? 私への絶対服従を誓うのであれば、
    末席で仲間に加えてやってもいいぞ」

女騎士「私はな、こんな辺境の領主で満足するつもりなど毛頭ない」

女騎士「権力も、武力も、領地も、もっともっと充実させたいと思っている。
    種族や身分は問わん。お前たちのような無頼者も大歓迎だ」

オーク「なぁ~にいってやがんだ、この女。なぁ?」

触手「我々とて、仕える相手は選びたい」ウネリ…

魔道士「あなたみたいな人に仕えるなんて、まっぴらですよ!」

オーク「――ってことだ。お前なんかの下につくくらいなら、
    荷馬車に乗せられて、可愛い子豚として市場に売られた方がマシだぜ!」ビシッ

女騎士「!」ピクッ…

女騎士の顔がみるみるうちに怒りを帯びる。

女騎士「くっ……殺せぇっ!」バッ



ウオオォォォォォ……!



号令と同時にオークたちめがけ、私兵軍団が突撃する。





赤毛娘(ああっ、ついに始まっちゃった!)

女主人(女騎士の兵は数は多くないが、質は悪くない。決して楽な相手じゃないよ……)

オーク「えぇ~と、50人だから……一人につき10人倒せばいいわけだな?」

触手「全然ちがう。16.7人だ」ウネッ

オーク「0.7はどうすんだよ。バラバラにすんのか?」

魔道士「ちょっとちょっと! グロイ話はやめましょうよ!
    だいたい17人倒せばいいんですよ!」

オーク「17か……多くねえか? オークだけに」

触手「構えろ。来るぞ」ウネッ

魔道士「はい!」サッ

オーク「多くねえか? オークだけに」

触手&魔道士(絶対突っ込まない)





「女騎士様に盾突くとはバカな奴らだ!」 「ブッ殺せ!」 「やっちまえぇ!」

オーク「突っ込まれねぇなら、突っ込んでやらぁ! ぬぅぅぅ……!」ムキムキッ

オークの太い右腕が、さらなる隆起を見せる。

オーク「オークラリアットォ!!!」



ドゴォンッ!!!



一撃で、兵士数人が軽々と吹っ飛んだ。

「うおおっ!?」 「なんて怪力だ!」 「ほ、他の二人を狙え!」



続いて、兵士数人が触手に向かって突っ込んでいくが――

触手「オークの馬鹿力に恐れをなし、非力そうな私に向かってくるか……。
   気持ちは分かるがな……」ウネウネ

触手「触手系の魔物に、真正面から斬りかかるというのは感心せんな」

触手「それこそ『飛んで触手に入る夏の虫』というやつだ」ウネッ

触手「触手拳法、触手乱舞ッ!」

シュバババババッ!

ギャァァァァ……!

無数の触手から放射状に繰り出される突きが、次々と兵士たちを昏倒させる。

「こいつもつええ!」 「だったらあの魔法使いだ!」 「あの小僧ならやれる!」



オークも触手も手強いと分かり、兵士たちの矛先が魔道士に向く。

魔道士「当然こうなりますよね……。まいったなぁ……」

魔道士「炎よ! 風よ! 雷よ!」

ボワァッ! ビュアァッ! バリバリッ!

「あっちぃぃぃ!」ボワァッ 「うわぁぁぁっ!」ビュオッ 「あばばばばっ!」バチバチッ

各属性の魔法を器用に繰り出し、兵士たちを倒していく。



魔道士「――よし! 絶好調!」シュゥゥ…

オーク&触手「…………」

オーク「なんつうかさ、フツーだな」

触手「ああ、普通すぎる」

魔道士「え?」

オーク「もうちょっとこう……ねぇ?
    見てる人も楽しめる、バラエティ豊かな倒し方をしてくれないと」

魔道士「た、たとえば……?」

触手「尻から魔法を出す、とか」ウネッ

魔道士「イヤですよ! しばらくトイレが大変になっちゃうし!」

オーク&触手(え、やったことあるの!?)

ザワザワ…… ドヨドヨ……



赤毛娘「す、すっごぉ~い!」

女主人「ああ、やるもんじゃないか。
    オークの最初のラリアットがよかったんだろうね」

青年「あのパワフルな一撃が、敵の出鼻をくじいたってことですね!」

女主人「そういうことだね」

女主人(だけど……あの女騎士もそうヤワなもんじゃない。
    直接出向いてきたってことは、さらなる“切り札”を持ってるはず!)

女主人(それが片付くまでは、安心できないね……)



女騎士「…………」

オーク「オークスープレックス!」グオンッ

ドゴォン!!!

兵士D「ぐべぁっ!」



触手「触手拳法……くすぐり」モゾモゾ…

兵士E「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ! あへぇ……」ビクンビクン



魔道士「水よ、敵を撃ち抜け!」

バシュゥゥゥゥ!

兵士F「あぎゃあっ!」



ついにオークたちは、女騎士の兵士50人を倒してみせた。

オーク「ぐへへへ……残るはアンタだけだな! 女騎士!」

女騎士「…………」

オーク「どうした? 三対一でオレらと戦うか、降参するか、とっとと選べや」

女騎士「最後にもう一度だけ聞いておこう」

女騎士「私の配下になる気はないか? キサマらほどの強さの者なら、私も歓迎するぞ」

オーク「だれがなるか、バカ女!」

触手「答えはもちろん――」

魔道士「ノーに決まってる!」

女騎士の目に暗い光が灯る。

女騎士「そうか、残念だ。ならば……」パチンッ

女騎士が指を鳴らす。すると――



ズオオオッ!!!

女騎士を囲むように三つの魔法陣が現れ、それぞれから――



ズゴゴゴゴゴ……!



黒オーク「ぶひゃひゃひゃ、お呼びっすか、女騎士さん」ズシンッ

毒触手「やっと出番ですかぁ~、待ちくたびれちゃいましたよぉ~」グネグネ…

闇魔道士「我が闇の魔力は、犠牲者を求めてうずうずしておりますよ」ズォォ…

黒い皮膚のオーク、毒々しい紫色の触手、不気味なローブの魔道士が召喚された。




オーク「な、なんだこいつら!?」

触手「我々と似ているが――」

魔道士「ちょっとちがう!」

女騎士「紹介してやろう」

女騎士「この三名はな、異国にて抜群の悪名を誇っていた三人組だ。
    かえって犠牲者が増えるという判断で、賞金首にすらされなかったほどだ」

女騎士「今や各国政府に追われる身だが、私が密かに目をつけ、かくまっていたのだ」

女騎士「なるべくなら、表に出したくない存在なのだが……
    今回ばかりは仕方あるまい」

女騎士「それに、こいつらも屋敷で大人しくしているのに飽きてきた頃だったしな。
    たまにはガス抜きさせてやらんと気の毒だ」

黒オーク「ぶひょひょ~、ありがとうございます!」

毒触手「イヒヒ、久々に殺しを楽しめるってもんです」グネグネ

闇魔道士「我が闇魔法の威力……たっぷりとお見せしましょう」

青年「そういえば昔、旅人から聞いたことがある!」

赤毛娘「えっ!?」

青年「なんでも、よその国で無差別な殺戮を繰り返してた凶悪な三人組がいたって……。
   しかも、結局今も捕まってないって……」

赤毛娘「あの三人がそうだっていうの?」

青年「確証はないけど……そうとしか考えられない!」

女主人(なるほど、あんな切り札を隠してたってわけかい)

女主人(さっきの兵士50人より、あの三人のがよっぽど厄介だね)

女主人(それと気になることがもうひとつ)

女主人(魔法陣を介してあの三人は登場したが、あれは闇魔道士の力じゃなく、
    女騎士によるものだった)

女主人(あいつは魔法を使えないはずなのに……どうして……)

オークと黒オーク、触手と毒触手、そして魔道士と闇魔道士。

『“一対一”×3』の構図が出来上がった。



オークVS黒オーク――

オーク「……かかってこいよ、黒ブタ!」

黒オーク「ぶひゃひゃひゃ……すぐにひき肉にしてやるよ」



触手VS毒触手――

触手「同族と戦うのは――森を抜ける時以来だな」ウネ…

毒触手「同族? イヒッ、こいつぁ笑わせやがる。俺とお前じゃ格がちげぇよ」グネ…



魔道士VS闇魔道士――

魔道士「同じ魔法使い同士、正々堂々戦いましょう!」

闇魔道士「若いながら、なかなか優れた魔力の持ち主のようだ。
     もっともどれだけ魔力があろうが、ワタシには関係ないがね」

オーク「オークラリアットォ!」ブンッ

ガゴンッ!

黒オーク「ぶひっ!」

オーク渾身のラリアットが、黒オークの首にクリーンヒットした。

黒オーク「ぶひひひ……ぬるいぜ」コキッ

オーク「マジかよ……!?」

さらにパンチを繰り出すが、これもあっさりキャッチされる。

オーク「ぐ、ぐぐっ……!」ミシ…

黒オーク「オメェにゃ、オークとしてなにもかも足りねェのよ。
     パァワーも、スピードも、ハングリーさも、殺気も」

黒オーク「なにより黒さがなァ!!!」ブオンッ

ドゴォンッ!!!

オーク「ぐべぁっ!」

黒オークのパンチで、オークの巨体がボールのようにふっ飛ばされた。

毒触手「ひょあああああっ!」シュバババババッ

触手「…………」シュバババババッ

ババババババッ! バチッ! バチチッ!

無数の触手が入り乱れ、攻撃を放ち合い、防ぎ合う。



青年「どっちも、ものすごい速さで触手を繰り出し合ってる!
   互いの“核(コア)”を狙い合ってるんだ!」

赤毛娘「これが伝説の触手フェスティバルってやつね! まったくの互角だわ!」

女主人「……いや」



バチィンッ!



触手「ぐっ……」ヨロッ…

毒触手「い~ひっひっひ! いったろ? 格が違うんだってよぉ!」

闇魔道士「最初に教えておこう」

闇魔道士「ワタシは、魔法使いに敗れたことがない」

魔道士「……そんなセリフで、ボクがひるむとでも?」

闇魔道士「さぁ、くるがいい」ニタァ…

魔道士「いわれなくともいくさ! 紅蓮の炎よ、敵を焼き尽くせ!」

ゴワァァァァァッ!

兵士たちを倒した時より、さらに大きい炎が闇魔道士を包み込んだ。

闇魔道士「クックック……」シュゥゥ…

魔道士(効いてない!? 直撃したのに!?)

闇魔道士「どれ……少しは楽しませてくれよ? 闇よ、敵を穿て」ズオォォ…

ズオオオンッ!

闇エネルギーで作られた黒い弾丸が、魔道士のボディを直撃した。

魔道士「がっ……!」ゲボッ…

魔道士「風よ! 雷よ! 水よ!」

ビュアオッ! バリバリバリッ! ザバァッ!

各属性の魔法を次々ぶつけるが、闇魔道士の笑みは消せない。

闇魔道士「クックック……」

魔道士(まただ! まったく効いてない!)

闇魔道士「ワタシは、闇魔法を極めるため大勢の人間を殺めた。
     奴らの苦しみ、痛み、恨みはワタシにさらなる力を与えてくれた」

闇魔道士「ワタシがもっとも好きなことを教えてやろうか?」

魔道士「…………?」

闇魔道士「弱い者イジメ、だ」ズズズ…

ズオオオオンッ……!

闇の魔力が粘着力のある風となって、魔道士の全身を包み込む。

魔道士「うわぁぁぁぁぁっ!」ミシミシ…

触手「…………!」ウネェ…

触手の動きが、明らかに精彩を欠くようになってきた。

毒触手「いぃ~ひっひっひ、動きがだいぶ鈍くなってきたようだなァ」グネグネ

触手「……毒か」

毒触手「そのとおりィ! 同じ触手だから効きはよくねぇようだが、
    そんだけ鈍くなりゃ十分だ!」

毒触手「毒で満足に動けなくなった獲物を……
    じわじわいたぶってくのってサイコーに楽しいんだよなァ!」グネ…

毒触手「特に人間の女だと、いい感じに命乞いしてくれんのよ!
    やめて、助けて、なんでもしますから、ってなァ!」

毒触手「ひひっ、そこで俺は一瞬、拘束を緩ませてやるわけだ。
    女はこれで助かった、とホッとする」

毒触手「――が、もちろん助けてなんかやらねぇ!
    絶望した女の全身をむさぼり尽くすあの感触……たまんねぇ~ぜ!」グネッグネッ

触手「……ゲスめ」ウネ…

毒触手「ゲスゥ? 触手が捕えた獲物をもてあそんで何が悪い!? いひひっ!
    い~っひっひっひっひっひっひ!」グネッグネッ

――ドゴォンッ!

オーク「が、は……っ!」ガクン

膝をつくオーク。

黒オーク「ぶひひひ、久々の戦いだってのに、肝心の獲物がこんなコシヌケたぁな。
     やりがいがねぇにもほどがある」

黒オーク「ま、テメェの肉は焼いて食っちまうから安心し――」

ボゴォッ!

オークの右ストレートが、黒オークの顔面にめり込んだ。

オーク「しゃべりすぎだぜ……黒豚ヤロウ……!」

黒オーク「テメェ……!」ブチブチッ

黒オークの顔面が赤黒く染まる。

黒オーク「体ごと押し潰してやらァ!」ガシィッ

オーク「ぐっ!?」ガシッ

二人は組み合い、力比べの格好になる。

黒オーク「どうだァ!? オレさまのパァワーは!?
     ぶひゃひゃ、このまま背骨を折り曲げて押し潰してやるよォ!」ググッ…

オーク「ぐおおおおっ!?」グググ…

黒オーク「こうやって幾人もの人間をペシャンコにしてやったよォ!
     全身の骨をベキベキバキボキへし折ってなァ!」

黒オーク「特にメスはい~い声で鳴いてくれんのよ!」

黒オーク「ぶひゃひゃひゃひゃひゃっ!」ググッ…

オーク(この黒ブタ、ほざくだけのことはある! なんつう馬力だ!)ググッ…

黒オーク「無駄だ、無駄! ぶひゃひゃひゃひゃっ!」グンッ

オーク(いや、触手だったら『オークだから“豚力”だろう』なんていうかも……。
    ――って、んなこと考えてる場合じゃねええ!)メキメキ…

オーク「ぐあああああっ……!」メキメキ…

――シュババババッ! ババババッ!

毒触手「のろいのろい。だいぶ動きが鈍ってきたな。い~っひっひっひ!」グネグネ…

触手「くっ……」ウネ…

毒触手「安心しろよ、俺は雑食性だからな。なんでも絡め取って溶かして食う!」

毒触手「弱り切ったお前を、フォークに巻かれたパスタみてえに丸めて、
    毒液で消化吸収してやるよぉ~!」

毒触手「い~っひっひっひっひっひ!」グネグネ…

触手(まさかこれほど強力で凶悪な同族がいたとは……!)

――ドサァッ!

魔道士「が、がはっ……! く、くそう……!」

闇魔道士「いい……実にいい」

闇魔道士「その表情、たまらんな。ある種の興奮すら覚える」

闇魔道士「ボクがあれだけ努力して会得した魔法が全く通用しない!
     ――という感じで実にすばらしい」ニタァ…

闇魔道士「オマエを葬れば、その怨念でワタシの魔力はさらに高まることだろう」

魔道士「黙れ……!」ググッ…

魔道士「炎よ、舞い上がれ!」

ボワァァァッ!

激しい炎が、闇魔道士を呑み込むが――

闇魔道士「いやいや、涼しい、涼しい」ズォォ…

魔道士(彼がまとっている“闇のオーラ”で、ボクの魔法は全て吸収されてしまう……!)

女騎士「フッ、どうやら勝負あったようだな」

女騎士「喜べ、町民ども!」

女騎士「少々手荒な連中を使ったが、町の平和はこの私が守ってやったぞ!
    この『伝説の女騎士』がな! せいぜい感謝するがいい!」

女騎士「ハッハッハッハッハ……!」



ドヨドヨ…… ドヨドヨ……



落胆する町民たち。もちろん、そんなことは口に出せない。

(くそ……) (やっぱりダメか……) (また女騎士の支配下に……)

青年「うう……あそこまで差があるなんて……!」

赤毛娘「…………」

女主人(残念だけどあの三人が勝つのは、もう厳しいだろう。
    なんとか救い出す方法を考えないとね……)

今回はここまでとなります
過去作についてはこのSSはこのSS単独で読んでもらいたいという気持ちがありますので
この場で書くのは控えたいと思います
よろしくお願いします


大ピンチだ!

乙!


闇魔道士だけ女の話してないがこいつも免疫無いのか?

魔道士が実は回復特化だと予想してみる

乙!です

パワーにパワー、触手に触手、魔力に魔力で対抗してはダメだ!
フォーメーションを変えるんだ!

赤毛娘「…………」グッ…

赤毛娘が、なにかを決意したような表情になる。

女主人「!」ハッ

女主人「ちょっと! ムチャするんじゃないよ!
    あの三人はアタシがなんとかするから、アンタは動いちゃダメだ!」

赤毛娘「でも……でも……!」

赤毛娘「あたし、もう我慢できない!」

赤毛娘「女騎士や兵士たちの横暴に!
    そしてなにより、あたしたちのために戦ってくれてるあの三人に、
    声援のひとつも送れないあたしたちの臆病さに!」

女主人「赤毛娘ちゃん……」

赤毛娘「ごめんなさい、女主人さん!」

赤毛娘「オークさん、触手さん、魔道士君、がんばれーっ! ファイトーッ!」



ザワッ……!

オーク「あ、あのバカ……!」

触手(……いかん!)ウネッ

魔道士(ダメだっ、ボクたちを応援したら……!)



女騎士「ん~、おやおや? 今……侵略者であるはずのヤツらを応援する声が聞こえたが、
    気のせいかな?」

赤毛娘「気のせいなんかじゃないわよ!」

赤毛娘「あたしは、この三人に心の底からアンタをやっつけて欲しいと思ってるのよ!」

赤毛娘「たとえ、アンタが『伝説の女騎士』であってもね!」



青年「……お、俺もだ!」

女主人「アタシもさ」フッ

すると――

「そ、そうだ!」 「がんばれっ!」 「負けないでくれっ!」

町民たちが、怯えながらではあるが応援に加わり始めた。
オークたちの戦いや、赤毛娘の健気さが、彼らに勇気を与えたのだ。



赤毛娘「もうあたしたちは……アンタやアンタの兵隊に怯える奴隷じゃない!」

赤毛娘「だけどあたしたちじゃ、とてもかなわない……だったら応援するまでよ!
    フレーッ! フレーッ!」

女騎士「ふん……やはりな」

赤毛娘「!」

女騎士「初めから怪しんではいたのだ」

女騎士「だが、これで確定した! この町はあの三人を用いて、私に反逆したッ!
    滅ぼすに値する理由だ!」



女騎士「黒オーク! 毒触手! 闇魔道士!
    そいつらを葬ったら……町の人間どもも“好きにしていい”ぞ!」

この“ご褒美”に、ここぞとばかりに目を輝かせる黒オークたち。



黒オーク「ぶひゃひゃ、待ってましたァ! 久々に表舞台に出られたってのに、
     こんなヌルブタをひき肉にするだけじゃつまんねえもんなァ!」

黒オーク「この町の住民ども、全員グシャグシャのバキバキにしてやるぜぇ!」



毒触手「さ~すが女騎士様、我らのことをよく分かってらっしゃる」

毒触手「い~っひっひっひ! 久々に人間を狩れる……それもこんな大勢!
    たっぷりなぶってやる! 特に女は時間をかけてなァ!」グネグネ



闇魔道士「下品な奴らだ……ワタシは町の人間などどうでもいい」

闇魔道士「我が闇魔法の実験台が増えたことは、喜ばしいことではあるがな」



黒オーク「ってわけだ! お楽しみが増えたところで、とっととケリを――」グンッ

オーク「ぐぎぎぎ……!」ググッ…

黒オーク「お? おお? なかなか粘るじゃねえか!」

黒オーク「だが、もうテメェにかまってるヒマはねえ! テメェを肉団子にしたら、
     町じゅうの人間をミンチにしなきゃならねェからな!」ギロッ

「ひぃぃっ!」 「きゃああっ!」 「ううっ……」

黒オーク「オレって人間どもの悲鳴を聞いちまうと、
     ますます高ぶっちまうタイプなんだよなァ~! 特に女の悲鳴はなァ!」

黒オーク「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」



赤毛娘「オークさん、負けないでっ!」



黒オーク「応援したって無駄だ! このヌルブタはオレに捻り潰されるんだからよォ!
     ――ん?」

オーク「ぐへへへ……。せっかくの……オレの名芝居を豚芝居にしやがって……」ググッ…

黒オーク(こ、こいつ!? 盛り返してきやがった! ウソだろォ!?)

オーク「女の悲鳴がなきゃ高ぶれねえとは、ずいぶん燃費の悪いヤロウだぜ」

オーク「あいにくオレは、悲鳴なんかじゃ元気になれねぇが――」

黒オーク「う、うおお!? な、なんだこのパァワーは!?」

オーク「おおおおりゃああああああああっ!!!」グググッ

グインッ!



ドゴォンッ!!!



オークは、黒オークを頭から投げ落とした。

黒オーク「ぐ、ぐおっ……!」



オーク「ほんのちょっぴりの声援があれば、オレはこんなにも元気になれるッ!」

毒触手「い~っひっひっひっひっひっひ!
    町の人間をやれるとなりゃ、がぜんテンション上がってきたァ!」

毒触手「ほれほれほれ~いっ!」シュバババババッ

触手「う、ぐっ……!」ウネ…ウネ…

毒触手「いィ~っひっひ、もう逃げることしかできねェか!?
    お前を片付けたら、この町の女どもをみんなオモチャにするとしよう」バババッ

毒触手「嫌がる女の服を引き裂いてぇ~、毒で弱らせてぇ~、胸や腰を締めつけてぇ~、
    じっくりたっぷり楽しませてもらうぜぇ~」

触手「ふん……下らんな」

毒触手「なぁに強がりいってやがんだ!
    触手ってのは本来こういうことが本能(しごと)なんだぜ!?」

触手「たしかにな」ウネ…

触手「だが私は、“寒さに凍える女性にそっと上着をかけてやる”
   ……そんな触手でありたいと思っている」

毒触手「…………!」ブチブチッ

毒触手「カッコつけてんじゃねーぞォ!」

ヒュババババババッ!

怒りに燃える毒触手が、凄まじいスピードで触手を追い込む。

毒触手「イィ~ッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャァ!」ヒュバババババッ

触手「ぐっ……」ウネリ…ウネリ…



赤毛娘「さらに速くなったわ! もう目で追えない! 触手さんっ……!」

女主人「ああ、だけど……」



毒触手「絡め取ったら、絶対に逃がさねぇぇぇっ!」ヒュバババババッ

触手「…………」ウネ…ウネ…

毒触手「なかなか粘るが、もう詰んでんだよ! スピードは断然、俺が上――」ヒュバッ

ギュッ!!!



毒触手「!?」グネェッ

毒触手「あ、あれ!?」グネッグネッ

毒触手「げえっ! こんがらがっちまったァァァ!」グネッグネッ

いつの間にか、毒触手は複雑に絡まり合ってしまっていた。

毒触手「ち、ちくしょう! なんでだぁぁぁ!?」グネッグネッ

触手「速さ対決ではかなわないんで、自滅するように仕向けさせてもらっていた」ウネッ



触手「しかし、自分で自分を絡め取ってしまうとは――まさに『自触手自縛』
   触手としては三流もいいところだな」

闇魔道士「町の住民も実験台にできると分かった以上、この戦いを長引かせる意味はない」

闇魔道士「トドメを刺すとしよう」スゥ…

魔道士「風よ!」

ビュアアアアッ!

闇魔道士「いい加減に学習したらどうだ? 魔法はワタシには通じ――」

ガツンッ!

風魔法を受けて飛んできた石を、頭に喰らってしまう。

闇魔道士「あだっ……!?」グラッ…

魔道士「赤毛娘さんの“かなわないなら応援する”という言葉で、
    気持ちを切り替えることができました」

魔道士「魔法が通じないなら、魔法以外の攻撃で攻めればいい!」

魔道士「あなたの闇のオーラ……ずばり、魔力由来でない攻撃は防げない!」

ビュオアアアアッ!

ドガガガガッ!

風魔法で次々に石を飛ばす魔道士。

闇魔道士「ぐおおおおっ……! お、おのれぇぇぇぇぇ……!」

魔道士「この勝負、あなたの負けだ!」

闇魔道士「ほざくな! ワタシのオーラは魔力を由来としない攻撃を防ぐよう、
     切り替えることも可能なのだ!」ズズ…

魔道士「あっ……」

闇魔道士「?」

魔道士「つまりこれでやっと、ボクの“魔法”を当てられるってわけですね!」

闇魔道士「――あ」



ズガガガガァンッ!!!



強烈な雷撃が、闇魔道士を撃ち抜いた。

闇魔道士「ぐおあぁぁぁぁっ!?」

闇魔道士「ぐはっ……! ぐふぉっ……! お、おのれぇ……!」プスプス…

魔道士「たった一撃でそんなザマですか」

魔道士「どうやらあなたは闇のオーラに頼りすぎて、
    魔法防御力を鍛えることを疎かにしていたようですね」

闇魔道士「ぐっ……!」プスプス…

魔道士「あなたは先ほど“弱い者イジメが好き”といってましたが、
    ボクは逆に、強い人に立ち向かう方が楽しいんです」

魔道士「だけど……今回はあまり楽しくないですね」

闇魔道士「どういう……意味だ……!」



魔道士「だってあなた、そこまで強くないですから」

オーク「そこまで強くない? ずっと完封されてた人がなんかいってるんですけど」ブヒッ

触手「うむ……あんなボロボロでいわれてもイマイチ決まらんな」ウネッ



魔道士「うぐっ……!」ボロッ…

魔道士「いいじゃないですか! ボクだってたまにはかっこつけたいんですよ!
    背伸びしたい年頃なんですよ!」



赤毛娘「まあまあ! また次があるって!」

女主人「そうだね……若いんだから、さ」

青年「惜しかったよ! ドンマイ!」



魔道士「励まさなくていいです!」

魔道士(まだまだオークさんと触手さんのようにはいかないなぁ……)

劣勢になった三人に、苛立ちをあらわにする女騎士。

女騎士「…………」チッ

女騎士「なにをしている!」

女騎士「元々お前たちは三人組で行動していた!
    三位一体でのコンビネーションでこそ、真価を発揮する!」

女騎士「いつまでも一対一にこだわるな!」



黒オーク「そ、そうだな!」バッ

毒触手「俺たちは……集団で戦う方が得手!」グネグネ…

闇魔道士「よし……力を合わせるのだ!」ババッ

コンビネーションを駆使するため、黒オークらが集結する。

ところが――

オーク「ぐへへ、残念だったな……」

触手「もし我々を倒すつもりなら、あのまま一対一でやっていた方が十分勝機はあった。
   事実、純粋な実力ではそちらが上だったからな」

魔道士「コンビネーションで実力を発揮できるのは、こっちも同じこと!」

魔道士「いきますよ、触手さん!」バチバチ…

触手「うむ」ウネッ

魔道士「触手さんに雷魔法を浴びせて――」バチバチッ

触手「うっ、キクな」ビリビリッ

シュバァッ!

数本の触手が闇魔道士に巻きつく。

闇魔道士「ふん、こんなもの。すぐに闇魔法で――」

触手「“ショック手”!!!」バチバチッ

バリバリバリッ!

闇魔道士「ぐげあああああっ!?」バチバチバチッ

闇魔道士「が、は……っ」プスプス…

ドサッ……!

巻きついた触手による密接電撃には、闇のオーラすら通じなかった。

黒オーク「なにぃ!? やられちまいやがった!」

毒触手「なんだとぉ~!?」グネッ…



オーク「おっしゃ、オレにも頼むぜ!」

魔道士「分かってます! いきますよ、オークさん!」

魔道士「炎よ、豚を焦がせ!」

ボワァァァッ!

赤い炎がオークを包み込むと――

オーク「……ぷはぁっ、あぢぃ~」プスプス…

オークの体がこんがりと焼けた。

魔道士「ボクの魔法で焼かれたオークさんは、
    熱によって体内の細胞が活性化され、パワーアップするんです!」

オーク「ぐへへへ……」プスプス…

オーク「もちろん炎のダメージはあるから、あまりやりたくはねえが――
    オレは今のオレを『ファイヤーモード』と呼ぶことにしている!」

触手「ちなみに私は『チャーシューモード』と呼んでいる」ウネッ

魔道士「ボクも触手さんと同じです!」

「チャーシュー!」 「チャーシュー!」 「チャーシュー!」

赤毛娘「がんばれ、チャーシューオークさん!」

女主人「チャーシューのいい匂いがするね」クンクン…

町の人間も『チャーシューモード』で一致した。

オーク「なんでだよ! ――くそっ!」



黒オーク「ぶひゃひゃ、笑わせんな! ちょっと焦げただけじゃねえか!
     毒触手! あのヌルブタを一気にブチ殺して、ラーメンの具にしちまうぞ!」

毒触手「オォ~ケェ~イ! 麺はあの触手でいいかなァ~」

毒触手「とっつかまえてやるゥゥゥ!」ヒュバババッ

まずは毒触手が伸びてくるが、オークはこれを左手で弾き飛ばす。

バチィン!

毒触手「いでぇ~っ! くそぉっ!」グネリッ

黒オーク「だったら、オレ様が今度こそヒネリ潰してやる!」ドドドッ

オーク「うおりゃあああああっ!」ダダダッ



メキィッ……!



突進から繰り出された両者の拳が、互いの顔面にめり込んだ。

オーク「ぐほっ……」メリ…

黒オーク「ぶひゃひゃっ……」メリッ…

オーク「ぐうっ……!」ガクン

黒オーク「ぶひゃひゃひゃひゃっ! オレさまにこんなパンチが効くわけ……
     効く……わけ……ね、え……」グラッ…

ドズゥン……

黒オークの巨体が地面に沈んだ。

オーク「ぐっ……! チャ……ファイヤーモードでもギリギリ、だったか……」ハァハァ…





残るは毒触手のみ――

毒触手(ちくしょう、こいつらのコンビネーションは本物だ……!)グネ…

毒触手「こっ、こうなったら、毒全開ィ!」ジュルル…

防御のため、毒液をさらに分泌させる毒触手。

毒触手「これなら近づけまいィ! いィ~っひっひっひっひっひっ!」ジュルルル…

魔道士「ここは、ボクが魔法で遠距離から――」

触手「いや、下手に魔法をぶつけると、毒と何らかの反応を起こすおそれがある。
   単純かつ強力な一撃で決めるべきだ」

触手「というわけでオーク!」シュルル…

オーク「おうよ!」

触手がオークの体に巻きついて、一気に引っぱる。
すると、その勢いでオークはコマのように回転し、毒触手めがけて突っ込んでいく。

ギュルルルルルッ!

毒触手「うわわっ!(回転に毒が弾かれちまうゥゥゥゥゥ!)」



ドゴォォォォォンッ!!!



毒触手「俺たちが……やられる、なんてぇ……」グネリ…

“核”をオークが直撃したことで、毒触手もしなびてしまった。

激闘の末、同族対決を制したオーク、触手、魔道士。

オーク「――っていうかさぁ、この三つの合体技、オレだけ体張りすぎだろ。
    燃やされるわ、回されるわ、ぶつけられるわ……」

魔道士「まあまあ、ボクがオークさんと同じことやったら死んじゃいますし」

触手「お前の並外れた頑丈さを信頼してるからこそ可能なのだ」ウネウネ

オーク「まあ、そういうことにしといてやるか」

オーク「……それと、魔道士」ギロッ

オーク「いくらなんでも“豚を焦がせ”って呪文はねえだろ! なんだあれ!」

魔道士「す、すみません! ああ唱えると『チャーシューモード』にするのに
    ちょうどいい火加減になるんで……」

オーク「だから『ファイヤーモード』だっつってんだろうが!」



赤毛娘「やったぁ、全員やっつけた! やるじゃん、三人とも!」ピョンピョン

青年「これでもう、女騎士に打つ手はないはずだ!」

女主人(……だといいんだけどね)

オーク「さてと……女騎士さんよ」ザッ…

オーク「今度こそ大人しく降参するか、オレらにブン殴られるか、選びな」

女騎士「おのれ……まさか、切り札であるあの三名が敗れるとは!
    これではもう……私の野望はついえてしまったようなものだ!」

女騎士「だが、キサマらなどには屈しはしない! 生き長らえる気などない……!」

女騎士「くっ、殺せ!」

オーク(お、観念したか?)





女騎士「――などというと思ったか?」ニヤ…

オーク「なにぃ!?」

感想ありがとうございます
今回はここまでとなります


触手さん格好良すぎ抱いて!

競うなッ!持ち味をいかせッ!


闇魔道士ちょっと可愛い

ショック手がじわじわくる

触手さんイケメンやね!

オークはん...自分でもチャーシュー言いかけてますやん

オーク「お前、一人でオレら三人に勝てるつもりかよ! ナメすぎじゃねえか!?」

女騎士「たしかに、黒オークたちが敗れたのは予想外の出来事だった。
    だが……キサマらのダメージも決して軽くはない」

女騎士「予想外ではあるが、ただそれだけだ」スラッ…

女騎士「今のキサマら程度、私の剣技で十分全滅できる」チャキッ

優雅に抜刀し、剣先をオークたちに向ける女騎士。



オーク「なんだとォ!?」

触手「やる気ならば、手加減はせん」ウネウネ

魔道士「覚悟して下さい!」

オーク「オークラリアッ――」

ザシュッ!

オークは技を出す間もなく、一閃を浴びせられていた。

オーク「ぐ、は……! マジかよ……!」ガクッ

女騎士「フッ、反応すらできんとはな」

触手(素早い……ならば!)
  「絡め取って、動きを封じるしかあるまい」ニュルルルルル…

女騎士「絡め取られるのは嫌いじゃないが、あいにく今はそういうわけにはいかんなァ!」



ザザザザザザザザザザンッ!



触手「ぬうっ……!(毒で動きが鈍っているとはいえ、全て斬り払うだと……ッ!)」



魔道士「オークさん! 触手さん!」

魔道士(ボクが魔法でフォローしないと!)サッ

女騎士「おおっと、そうはさせんよ」シュザッ

呪文を唱えようとする魔道士に、女騎士は一瞬で接近した。

魔道士「は、速い……!」

女騎士「ふふふ……まだ若く、なかなか可愛げのある顔をしてるではないか。
    どうだ、あんな魔物どもは見捨てて、私の配下にならんか?
    存分に可愛がってやるぞ?」

魔道士「…………」グッ…

魔道士「……お断りです! だれがあなたなんかに!」

女騎士「ガキめ……ならば死ね!」

ビュオッ!

女騎士の凶刃が、魔道士の顔面に迫る。



青年「あああっ!」

赤毛娘「魔道士くんっ!」

――ギィンッ!



女騎士の剣がはじき返された。

女騎士「なっ!?」



剣をはじき返したのは、もう一振りの剣であった。
そして、その使い手は――



女主人「魔道士君、下がってて」チャキッ

魔道士「え……!? は、はい……! ありがとうございます!」ササッ

女騎士「なんだキサマ……? 格好からすると、酒場かなにかの主人のようだが……」

女主人「おやおや、覚えてないのかい? お前はアタシの顔を知ってるはずだけど」

女騎士「!!!」

女騎士の顔色が変わる。

女騎士「バ、バカな……ッ! なぜ、こんなところに……!」

女騎士「キサマは……キサマはたしかに失脚させ……!
    追手も大量に送り込んだ、はず……! 生きているわけが……!」

女主人「あいにくだったねえ。ところがどっこい、アタシは生きてたのさ」



ザワザワ…… ドヨドヨ……



赤毛娘「なに? なんなの? 女主人さん、どうしちゃったの? なんで剣なんか……」

青年「さぁ……俺にもサッパリだよ」



オーク「魔道士! おめぇはなにやってやがる! 死んじまったらどうすんだ!
    ああいう時はウソでもいいから、従いますっていっとけよ!」

触手「あやうくトリオがコンビになるところだったではないか……。
   『命あっての触手の種』というやつだ。命は大切にしろ」ウネウネ

魔道士「ハハ……ご心配かけて、すみません」

オーク「にしても……あの二人、知り合いなのか……?」

魔道士「みたいですね……。失脚させたはず、とかいってましたけど……」

触手「!」ハッ

触手が鋭くうねる。

触手「そうか……ようやく分かった……。
   『伝説の女騎士』とは、領主であるあの女騎士ではなく……
   女主人、あなただったのか!」シュビッ



女主人「……伝説なんていわれるほどのもんじゃないけどね」

女主人「悪徳騎士に乗っ取られた領地一つ救えない、ただのマヌケさ」

女騎士「くっ……!」

女騎士「くっくっく、ふっふっふ……。ふははははははっ!」

女騎士「ずいぶんと落ちぶれたものだ! 『伝説の女騎士』ともあろう者が!
    私が気づかなかったのも無理はない! ハッハッハッハッハ!」

戦乱時には町を救い、戦後には町を苦しめた女騎士。
てっきり同一人物だとばかり思っていた町民たちは、困惑する。

ザワザワ…… ドヨドヨ……

赤毛娘「どういうことなの!? 女主人さんが『伝説の女騎士』……!?」

青年「じゃあ、あの女騎士はいったいだれなんだ!」



女騎士「私? 私か? 私は、こいつの元同僚……といったところだ。
    戦乱時にこの地方に来たことなど一度もない」

女騎士「なにしろ、戦乱に乗じて、好き放題に暴れていたからな。
    こんなちっぽけな町など眼中にもなかったよ。
    いやぁ、あの頃は本当に楽しかった……」

女騎士「だが戦後、それらが全て明るみに出そうになってしまってな」

女騎士「すかさず、この女に全ての罪を被せる工作をし、みごと失脚させてやったのだ」

女騎士「この女は騎士としてはたしかに優秀だったが、
    そういった政治的な駆け引きにはてんで疎かったからな」

女騎士「キサマはむやみに顔を売りたくないから、という理由で
    常に兜で顔を隠していたから、キサマになりすますのはたやすかった」

女騎士「実に愉快だったぞ?」

女騎士「私を『伝説の女騎士』と思い込んだ、バカな領民どもに崇められるのは……」

女騎士「この数年間、私もずいぶん楽しませてもらったよ」

女騎士「もっとも……まさかキサマが生きているとは思わなかったがな。
    あれだけの追手から、よく逃げ切れたものだ」

女主人「もちろん、アタシの力じゃない……。
    わずかに残ってくれてた部下たちが、アタシをかばってくれたおかげさ……」

女主人「命と引き換えに……ね」

赤毛娘「じゃあもしかして、女主人さんがこの町にやってきたのは――」



女主人「ああ、元々はこいつを倒すためだった……」

女主人「かつてアタシがどうにか守り切った場所が、
    あんなヤツに好き勝手されてるのを知って、放ってはおけなかった」

女主人「だが、アタシが町に来た時には、すでにこいつの支配は強固なものになっていた。
    下手に手を出せば、町ごと潰されてしまうほどに……」

女主人「だから、酒場の主人に化けて、騎士時代に蓄えてた財をワイロにして
    女騎士の支配を少しでも和らげるようなマネしかできなかった……」

口惜しそうに、歯を食いしばる女主人。

女主人「アタシはチャンスを待った。いや、待つといいつつ、正直いって……
    もう女騎士を倒すのは半ば諦めていたよ」

女主人「日々お客に酒を振るまい、女騎士の私兵に媚びながら、
    アタシは自分の無力さを呪った」

女主人「こんなんじゃ……アタシも女騎士となにも変わらないってね」

女主人「だけどそんな時、女騎士に立ち向かうなんていうおかしな三人組がやってきた!
    三人組に触発されて、町の人も勇気を振り絞った!」

女主人「そして、アタシ自身……やっと立ち直ることができたのさ!」

女主人「オーク、触手、魔道士君、ありがとう!」



オーク「ぐへへへ……そういわれると照れるぜ。“おかしな”は余計だけど」ブヒッ

触手「うむ、そちらこそよく今まで耐えてきたものだ」ウネッ

魔道士「『伝説の女騎士』からお礼をいわれるなんて光栄です!」

女主人が剣を構える。鋭く洗練されており、隙がない。

女主人「さて、久々に騎士として振る舞わせてもらおうか」チャキッ

女騎士「なにっ!?」

女主人「さっきからキサマは、敵に対して死ねだの殺せだのいっているが、
    本当の騎士は敵を倒すと決めた時、そんな言葉は使わない」

女主人「戦乱期にやってきた不法行為、私を生かすために倒れた部下の無念、
    町の人々への非道の数々、全てを今こそ償わせるため――」



女主人「キサマを斬る!」ジャキッ



女騎士「うぐ、ぐぐぐ……」

女騎士「くっ……! 殺してやる!」

女騎士「キサマ如きに、この私がやられるものかぁぁぁぁぁっ!」

ギィンッ!

女同士の戦い。二人の剣技が激突する。

キィンッ! ギィンッ! キンッ! ガキィン! キィン!

女主人「うっ……!?」

女主人の体がよろめく。

女騎士「ふはははははっ! たしかに昔はキサマの方が上だった!
    私がどんな手を使ってでも失脚させたい、と嫉妬に狂うほどにな!
    だが、ブランクのあるキサマなどもはや敵ではない!」

ザシィッ!

女主人「ぐっ……!」ブシュッ

女騎士「騎士として振る舞わせてもらう? ――笑わせるな!
    キサマはもう騎士ではないのだ!」



赤毛娘「ああっ……!」

青年「女騎士の剣の方が……明らかに速い!」

女騎士「死ねえっ!」

ヒュオッ!

女騎士「あ、あれ……消え……ッ!?」

女主人「やれやれ……たしかに速くはなっているが、
    そんな殺すことだけを狙った荒々しい剣で、私を倒すことは不可能だ」

シュバァッ!

女騎士「ぎゃっ……!」ブシュッ

鮮やかな一閃から、女主人が一気に攻勢に出る。

ギィン! ガキン! キィン!

女騎士「ぐうっ!? うわあぁっ!(は、速い……ッ! 追いつけないッ!)」

女主人「はっ!」ヒュオッ

ガキンッ! キィンッ! キィンッ!

女騎士は防戦一方。もはや技量の差は明らかであった。

――ザシィッ!

女騎士「ぐ、くそっ……!」

女主人「酒場の主人をしながらでも、剣の修行はできるんだよ」

女主人「さぁ、潔く敗北を認めるんだ」

女騎士「だ、だれが……キサマなどに!」

女騎士「うおおおおおおっ!」ダッ

女主人「はあっ!」ヒュッ



ザシュッ……!



女主人の剣が、女騎士の腹部を切り裂いた。

女騎士「う、ぐはぁ……っ!」

ドサァッ……

オーク「決まったな……」

触手「うむ。あの傷では勝負ありだ」

魔道士「す、すごい……! ボクら三人を倒した女騎士を一方的に……!」



重傷を負った女騎士に女主人が剣を向ける。

女主人「そのまま失血で死するのを見届けてもいいが、せめてもの情けだ……。
    トドメを刺してやろう」

女騎士「くっ……!」

女騎士「く、くくくっ! うくくくっ! くっくっく……!」

女主人「?」

女騎士「さすがは……『伝説』……みごとなものだ……!」ニヤァ…



女騎士「この力は……できれば……まだ使いたくはなかったのだがなァ!!!」

ドンッ!!!



女主人「ぐあっ!」

突如生じた衝撃が、女主人をふっ飛ばした。

ドザァッ……!



赤毛娘「女主人さんっ!」

オーク「今、なにしやがった!? 見えなかったぞ!」

触手「素早くパンチのような打撃をぶつけたのか?」ウネ…

魔道士「い、いえ……ボクの感覚がたしかなら……今のは魔力!
    魔力による攻撃でした!」

オーク「マジかよ!?」

触手「騎士なのに魔力……!? どういうことだ……!」ウネウネ

女騎士「くっくっく……どうだった? 私の魔法の味は?」シュゥゥゥゥ…

女騎士の傷口が、黒いオーラに覆われてみるみる回復していく。

女主人「黒オークたちを屋敷から召喚したのは……その力、だったのか……!」

女騎士「ご名答。今度は魔法ではなく、拳だ! ――ガアァァァァァッ!」



ドゴォンッ!!!



女騎士の拳は地面にめり込み、ヒビを入れていた。

女騎士「惜しい……」ニヤ…

女主人(なんてパワー……! まるで……オークのそれだ!)



オーク「なんだぁ!? 魔力に怪力って……
    まるでオレらがブッ倒したヤツがくっついてるみてぇじゃねえか!」

驚くオークに、意識を取り戻した闇魔道士が笑う。

闇魔道士「ク、クックック……そのとおりだ……」

オーク「このヤロウ、まだやる気か――」

触手「待て」シュバッ



闇魔道士「女騎士様は……ただ我々をかくまってたわけじゃない……」

闇魔道士「かくまわれている代わり、我々三人は女騎士様に“快楽”を与える役目を
     担っていた……」

闇魔道士「黒オーク、毒触手、そしてワタシは毎日のように女騎士様に奉仕した……。
     毎日、毎日……」

闇魔道士「そんなある日、女騎士様はおっしゃった……」



女騎士『私はさらなる力を欲する。キサマらの力が欲しい』



闇魔道士「さすがのワタシもためらったよ……。
     無理に女騎士様に、闇の魔力や魔物の力を注ぎ込んだりすれば、
     女騎士様の体がそれに耐えられないであろうことは明らかだったからな」

闇魔道士「しかし……結局、ワタシが闇魔法で施術することになった……」

闇魔道士「するとどうだッ!」

闇魔道士「あの方の肉体に、みごと我々三人の力が宿ったのだ!
     並みの人間なら、まちがいなく死んでいただろう。
     しかし、あの方は……生き残ったのだッ! おぞましい執念でッ!」

魔道士「三人ってことは、まさか――」

オーク「黒オークと闇魔道士だけじゃなく……」



女騎士「そのとおり」グジュル…

グジュグジュ…… グネグネ……

女騎士の口から、無数の触手が吐き出された。



オーク「うげぇ……マ、マジかよ……! 触手まで……!」

魔道士「触手さん、ご感想をお願いします……」

触手「…………」ウネェ…

オーク(いつも冷静沈着なコイツが、ドン引きしちゃってるよ……)

闇魔道士「ククク……クゥ~ックックックック!」

闇魔道士「勝てん! オマエたち如きでは、あの女騎士様には勝てんぞォォォォォ!」

オーク「うるせぇ!」

ドゴンッ!

闇魔道士、再び失神。



真の力を解放した女騎士の姿に、女主人も冷や汗を浮かばせる。

女騎士「残念ながら剣では勝てなかった……」グジュル…

女騎士「しかし……この姿ならばどうだろう?」グジュグジュ…

女主人「化け物め……!」チャキッ

女騎士「キサマが生きていてくれて、嬉しいぞ……。
    やはり、キサマはこの手で殺したかったからな……!」

女騎士「昔っから、正義を振りかざして『伝説』などとチヤホヤされるキサマが、
    気に食わなかったんだよォォォ!」

女騎士「いくぞォォォォォッ!」

ボゥッ! ボゥッ! ボゥッ!

遠距離からは、魔法による連続攻撃。

女騎士「殴り潰してくれるッ!」

ズガァンッ!!!

近距離では、黒オーク由来の怪力で圧倒。

女騎士「うぼおおおおおおっ!」ニュルルルルル…

中距離では、口や耳から生やした触手が襲いかかってくる。



女主人「くっ……!」ハァハァ…
   (ダメだ……斬り込むスキなんかありゃしない!)

女騎士「よくよけるものだ……さすが『伝説の女騎士』といったところか!」

女騎士「だがッ!」ウジュルッ

ガシィッ!

女騎士「捕えたァ!」

女騎士の触手によって、女主人は手足を絡め取られてしまった。

女主人「ちいっ!」グッグッ…

女騎士「いい的だな。オークのパワーで、一撃でミンチにしてくれるッ!」メキメキ…

女騎士の右腕が、丸太のように肥大化する。

女主人(ここまでかっ……!)



ブオンッ! メキィッ!



女騎士の右拳が炸裂した。

女騎士「――む!」

女主人を守ったのは、オークだった。

オーク「ぐぎっ……! すげえパンチだ……!」ミシミシ…

女主人「オーク!」

オーク「すまねえな、一対一に割り込んじまって」

オーク「だが、このバケモノ女騎士は、アンタだけじゃ倒せねぇ!
    オレたちも加勢させてもらうぜ!」

女主人「ケガは大丈夫かい!?」

オーク「アンタが戦ってる間に、魔道士に少しは回復してもらえた……イケるぜ!」

女主人「……ありがとう!」



触手「我々もいくぞ、魔道士」ウネッ

魔道士「はいっ!」

今回はここまでとなります
よろしくお願いします


この人が中編書いてる時は夜更かししちゃって困るw

乙乙

乙!

(いろんな意味で)触手の活躍に期待

オーク、触手、魔道士が加わり、戦いは四対一となる。

オーク「こいつが正真正銘のラストバトルってやつだ! 気合入れてくぞ!」

触手「気合を入れてうねるとしよう」ウネェッ

魔道士「絶対勝ちますっ!」

女主人「一対一の決闘……つまり、騎士としては、アタシはアンタに敗れた……。
    ここからは、町の酒場の主人として立ち向かわせてもらうよ!」



数の上では不利にもかかわらず、女騎士の余裕は全く崩れない。

女騎士「何人束になろうと、今の私の相手になるわけなかろう」

女騎士「『伝説』も! めざわりな三人組も! 私に歯向かった町民どもも!
    まとめて葬り去ってくれる!」

ウゾウゾウゾ……

女騎士が口や耳から触手を伸ばす。

オーク「きやがった!」

女主人「絡め取られたらオシマイだ! みんな、気をつけるんだよ!」

オーク「オラァッ!」ドゴンッ

魔道士「炎よ!」ボワァッ

触手「私よりも……速いかもしれん! ショックだ……」シュバババッ

どうにか各自、女騎士の触手をさばき続けるが――

女騎士「私には、オークの怪力と闇の魔力があることを忘れるなよ?」

ブオンッ!

女騎士が手を振ると、黒い衝撃波が四人を襲う。

ズアオッ!!!

オーク「ぐううっ……!」ミシミシ…

さらに――

女騎士「ぬあっ!!!」ブオンッ



ビュボボボボッ!



拳で地面を掘り上げ、破片を散弾のように飛ばす。
すかさず、オークが他の三人の盾となる。

ズガガガガガッ!

オーク「ぐっ……!」

魔道士「オークさん!」

女主人「大丈夫かい!?」

オーク「し、心配すんな……これぐらい屁でもねぇさ……」ヨロッ…

触手「…………」チョイッ

オーク「いでええっ! なにすんだよ、触手!」

触手「あまり強がるな。仲間のダメージは正確に把握しておきたいのでな」ウネッ

オーク「どうなってやがる……! しょせん借り物の力のくせに、
    さっきの奴らよりずっと強えじゃねえか!」

女騎士「当然だ」グジュル…

口から生やした触手をうねらせながら、女騎士が笑う。

女騎士「私は屋敷にて、あの三人に命じてよく“楽しんで”いたからなぁ。
    奴らのことについては、奴ら以上に理解している」グジュグジュ

魔道士「さっきも闇魔道士が毎日奉仕してたっていってましたけど……
    “楽しむ”って、つまりなにをするんです……?」

女騎士「私と黒オーク、毒触手、闇魔道士の四人で、あんなことやこんなことすることだ」

思わず“想像”してしまう魔道士。

魔道士「…………」カァァ…

オーク「なに赤くなってやがんだ、こんな時に! このムッツリが!」

触手「仕方あるまい。健全な十代男子としては当然の反応だ」ウネウネ…

女主人「若いねぇ」

魔道士(なにをやってるんだ、ボクは……)

女騎士「つ、ま、り! 私が奴らの力を使いこなせず自滅する、
    などといった下らん期待はせんことだなァァァァァ!!!」

ヒュバババババッ!

体中から生えた触手を襲わせ――

ズオォォォン……!

闇の波動を繰り出し――

ズガァンッ!

怪力によるゴリ押しもお手のもの。



町民たちは、怪物と化した女騎士に戦慄するしかなかった。

ドヨドヨ…… ドヨドヨ……

赤毛娘「あんなのどうすればいいの!? 反則よ、反則!」

青年「強すぎる……! まるでスキがないじゃないか!」

オーク「くそっ、マジかよ!? マジでつええぞ、あの女!」

触手「うむ……奴のいうとおり、自滅を狙う、といった消極的な戦法では勝てん」

魔道士「だけど、防御をやめてうかつに攻めれば、あっという間にやられちゃいますよ!」

女主人「…………」

女主人「アタシがいこう! あいつの攻撃パターンは読めてきたからね!」ダッ

ザンッ! ズバッ! ザシュッ!

闇魔法をかわし、怪力を受け流し、無数の触手を切り裂きながら、
女主人が女騎士に接近を試みる。



オーク「すげえ! さっすが、『伝説の女騎士』だぜ!」

触手「攻撃を受けながら、きちんと分析していたということか。
   やはり戦闘センスと経験は我々よりずっと上だな」ウネッ

魔道士「本体である女騎士に肉薄しましたよ! これなら――」

――ガキィンッ!

女主人(体に、刃が通らないだって!?)ググッ…

女騎士「無駄だ……」

女騎士「オークの頑強さを発揮し、闇の魔力でのパワーアップを果たした私に、
    もはや女の非力での攻撃など通用せん!」

女騎士「喰らえッ!」ウジュル…



バチィンッ!



女騎士の触手がムチのようにしなり、女主人をハネ飛ばした。

女主人「ぐはぁっ!」ドザァッ

女主人「ぐ……アタシじゃもう、倒せない、か……」

女騎士「ふはははははっ! 万策尽きたようだな!」

女騎士「ではそろそろ、この下らん戦いにケリをつけようか!」ウゾウゾ…



今までは準備体操だったといわんばかりに、攻撃がさらに激しくなる。

ビュバババババッ!

ズオアァァァ……!

ドゴォンッ!



女主人「くそっ……!」

オーク「ぐおおおおっ!」

触手「むうっ!」

魔道士「ダメだっ……! まったく攻撃に移れない!」

女主人「参ったね……。かつての戦乱でも、こんな強敵とは出会わなかったよ……」

女主人「アンタたち、ムシのいいハナシだけど、
    なにか大技を隠し持ったりしてないかい?」

オーク「……ある!」

魔道士「あるんですか!?」

触手「あるのか!?」ウネリッ

オーク「なにいってんだ。お前らも知ってるはずだろ、アレだよアレ」

魔道士「アレって……どれですか?」

触手「アレでは分からん」

オーク「だからアレだって。ア、レ」

魔道士「ああ、アレですか!」

触手「なるほど……分かった」ウネッ



赤毛娘「なんなの、この謎の以心伝心は……」

魔道士「たしかに……アレしかないようですね」

触手「しかし、アレは一度やると、力を使い果たしてしまう。
   もししくじれば、その時点で敗北が確定するぞ」ウネ…

オーク「だけどよ、このままチマチマやってても結局負けちまうだろ!」

触手「それはそうなのだが……」

赤毛娘「ねえねえ、アレって?」

魔道士「えぇ~っと、つまりアレです。ボクたちの三位一体の必殺技……です」

赤毛娘「すごいじゃない! ――で、名前は?」

オーク&触手&魔道士「ない!」

魔道士「……んですよね、まだ。なにしろ……ちゃんとやったことがない技なので」

赤毛娘「えええっ!?」

オーク「だがよ、まともに炸裂すれば、まちがいなくバケモノ女騎士を倒せる!」

赤毛娘「おおっ、自信たっぷりね!」

女主人「まともに……か。つまり命中したとしても、
    女騎士に防御されたりすると、怪しくなるわけだね?」

オーク「うぐっ!」ギクッ

女主人「――なら、アタシがオトリを引き受けよう。せいぜい気を引いてみせるさ」

女主人「あとは……頼んだよっ!」ダッ

女主人、決死の特攻。



女騎士「来たか……キサマから絡め取ってくれる!」ニュルルルル…

女主人「やれるもんならやってごらん!」チャキッ

ザザザンッ! ザンッ!

巧みな動きで女騎士の猛攻をかわし続ける女主人。
しかし、次第に追い詰められていく。

魔道士(ボクに残る全ての魔力を……集中……!)ブゥゥゥン…

触手(よぉくほぐしておかねば……)ウネッウネッ

オーク「うおおおおおおっ!」ミキミキ…

必殺技の準備に入る三人組。



女騎士(ん……? なにか企んでいるのか? ――させるか!)ズオッ

闇の波動を飛ばし、妨害しようとする女騎士。

ドゴォン!

女主人「がふっ……!」ゲボッ…

女主人「あいつらのジャマは……させないよ……」

女騎士「下らんマネを! キサマなど、もはや相手ではないのだ!」ニュルルルル

ガシィッ!

女騎士「捕獲した! このままバラバラに引きちぎってくれる!」ギュゥゥゥ…

女主人「ぐ……ぐああぁぁぁぁぁっ!」ミシミシミシ…

女騎士の触手が、女主人の四肢を引きちぎらんとする。

その時であった。

赤毛娘「みんなぁっ! あたしたちも戦おうっ!」

赤毛娘の呼びかけで、町の人間たちが女騎士に立ち向かい始めた。
棒で殴りかかる者、石を投げつける者、触手に組みつく者。

「女主人さんを助けるんだ!」 「うおおおっ!」 「いくぞぉっ!」

少しでも力になろうと、必死に力を振り絞る。



ワァァ…… ドカッ! オォォ…… バキッ! ウォォ……



女主人「ふふ……み、みんな……」ミシミシ…

女騎士「ちいっ……野次馬してればいいものを、ゴミどもがぁッ!」

女騎士「そんなに死にたくば、ヤツらより先にあの世に送ってやる!」

バチィィン! ズオォォォ……!

「うわぁっ!」 「ぎゃああっ!」 「いでぇぇっ!」

触手と闇の波動で、町民たちを蹴散らす女騎士。まるで歯が立たない。

赤毛娘(オークさんたち……早くっ……)

しかし、おかげで女騎士の注意と防御が四方八方に分散した。





オーク「ぐへへへ……無茶しやがって!」

触手「だが、おかげで守りが甘くなった。この『千載一触手』のチャンス――」

魔道士「逃す手はありませんよね!」





オーク「やるぞぉぉぉぉぉっ!!!」

魔道士「ボクに残ってる全魔力を――」ズォォォォ…

魔道士「触手さんに注入!」ギュゥゥゥゥン…



触手「私が、オークの体を締めつけ――」シュルルッ

触手「魔力を分け与えつつ、己の収縮力を魔力で強化し――
   限界まで押さえつけられたバネのように――オークを発射ッ!」グググググ…



ズドォンッ!!!



超高速で触手に発射されたオーク。

ギュオォォォォォ……!



オーク「うおおおおおおおおおっ!!!」

オーク「んでもってぇ! ぶっ飛ばされたオレがブン殴るッ!」

砲弾と化したオーク。まっすぐ女騎士めがけて飛んでいく。

女騎士「!?」ハッ

女騎士「な、なんだッ!? あれはッ!?」





赤毛娘「技名は!?」

オーク&触手&魔道士「名づけて――」

三人は本能的に叫んだ。

魔道士「マジック!」

触手「ショック!」

オーク「オーク!」







ズガドゴォォォォォンッ!!!







マジック・ショック・オーク、炸裂!!!

すっかり魔力を使い果たした魔道士。

魔道士「ううっ……」ガクッ

魔道士「もう……すっからかん、です……。う、動けない……」ドサッ…

触手もしなびてしまう。

触手「私もだ……」シナッ…

オークの肉体もまた、限界を迎えていた。

オーク「ぐへへへ……オレも、もうキツイ、ぜ……」ドサッ…

オーク「だがよ……あの感触、まちがいねえ! 女騎士はブッ倒せたハズだぜ!」



赤毛娘(そうか……三人が出会った時にやったっていう即席芸……。
    あれを全力でやるのが、三位一体の必殺技の正体だったんだ……!)



ワアァァァァァ……!

「やったぁ! やってくれたわ!」 「ありがとう!」 「すごい技だったぜ!」

町民から喜びの声が上がる。

土煙に紛れ――



女騎士「ぶはっ……!」ズル…ズル…

女騎士(なんという技、だ……!)

女騎士(触手による防御も、闇の魔力によるシールドも、オークの肉体も、
    軽くブチ破ってくるとは……)

女騎士(おのれ……この私が……敗れる、とは……!)

女騎士(な、なんとしても……逃げねば……。このままでは、終わらん……ぞ……)ズリ…

女騎士(こんな、ところで……終われるものかぁ……!)ズリ…

はいつくばり、逃げようとする女騎士。



女主人「どこ行くつもりだい?」



女騎士「!」ギクッ

女騎士「ま、待てっ!」

女騎士「もう私は……戦えないんだ……! そんな私を斬るつもりかっ!?
    い、命だけは……! み、見逃して……お願い……」

女主人「やっぱりアンタは騎士じゃないね」

女主人「騎士なら、そういう時は命乞いするんじゃなく、こういうもんさ」





ザンッ……!





女騎士「げ、はぁっ……!」ドザァッ…

女主人「くっ、殺せ! ――ってね」



力を求め、力を得て、力に溺れた女騎士は、ついに討伐された。



女主人(みんな……仇は討ったよ……)

……

…………

………………

後始末が終わり――

触手「黒オークたちと私兵は全員縛り上げておいた。
   毒触手の毒を利用して弱らせておいたし、もはやほどけまい」ウネッ

オーク「さて、と……アイツらどうすんだ?」

女主人「兵隊に引き渡して、あとは国の司法に任せよう」

女主人「これまで女騎士は“領主”という強力な特権に守られてたから、
    好き放題することができた」

女主人「アタシが手を出せなかった理由のひとつも、それだ」

女主人「だが、最悪のお尋ね者である黒オークらを戦力として使うためにかくまい、
    なおかつ“禁忌”である肉体改造をも自身に施していた……。
    いくら領主であろうと、女騎士の罪は明白だ」

女主人「全員、連座で裁かれることになるだろう」

魔道士「女騎士の罪が明るみになれば、女主人さんの名誉も回復されます!
    そうなったらまた騎士に――」

女主人「そのつもりはないよ」

女主人「アタシはもう酒場の主人さ」

魔道士「えぇっ、でも……」

女主人「それに一度騎士であることを剥奪された人間が、
    また騎士になるなんて、まず許されないだろうからね」

女主人「ところで、アンタたちはまた三人で旅していくのかい?」

オーク「おうよ!」

触手「うむ」

魔道士「もちろんです!」

三人をじっと見つめる女主人。

女主人「…………」

赤毛娘(女主人、さん……?)

夜になり、女騎士の支配から解放されたお祝いとして、宴が始まった。

< 酒場 >

女主人「さぁ、みんなパーッとやってよ!」



ワイワイ…… ガヤガヤ……

「これでやっとこの町も平和になった!」 「他の町の人たちも喜ぶよ!」

「オークさんたちのおかげだ!」 「赤毛娘ちゃんもよくやった!」

「まさか、女主人さんが『伝説の女騎士』だったなんて……」 「ビックリだぜ!」

ワイワイ…… ガヤガヤ……



赤毛娘「ホントありがとね、三人とも!」

オーク「ぐへへへ……いいってことよ!」グビグビ

触手「礼をいわれるようなことではない。我々が勝手にやっただけだ」ウネウネ

魔道士「そうですよ!」ゴクゴク…

赤毛娘「さあさ、約束通り、あたしの手料理よ!」コトッ



赤毛娘の手料理がテーブルに並ぶ。

野菜を煮込んだスープ、鶏肉のソテー、キノコを混ぜたリゾットが、
食欲をそそる匂いを発している。



オーク「どれ……」モグ…

オーク「お、うめえじゃん! マジかよ!」ガツガツ…

触手「うむ……かなりの美味だ」チュルチュル…

魔道士「ホントですね! おいしいです!」モグモグ…

オーク「正直いって、ブタの餌みてえなゲロマズ料理が出てくると思ってたから
    意外だったぜ! ぐへへへっ!」

赤毛娘「でしょ? ゲロマズがくると思ってたでしょ? 残念でした!」

魔道士(すごい会話だ……)

「女主人さん、ビール三本追加で!」

女主人「あいよ!」



「その触手で抱きしめて!」 「すっごくウネウネしてる!」 「私を縛ってぇん!」

触手「よせ……自分を大切にしろ」ウネ…

町の若い女性に囲まれ、チヤホヤされる触手。



オーク「チッ、なんであいつばっかモテるんだよ!」モグモグ

赤毛娘「アハハッ、内面の差ってヤツじゃないの~?」

魔道士「ホントれすよねぇ~、飲まなきゃやってらんないっすよ」グビグビグビ…

赤毛娘「ちょ、ちょっと! ラッパ飲みしちゃダメぇっ!」

宴は深夜まで続き――



オーク「おおっしゃ、連れションしようぜ、連れション!」ガタッ

魔道士「いいれすよ~。どっちが遠くまで飛ばせるか競争れす!」ヒック…

触手「私はそういった排出行為はしないのだが、まぁ付き合おう」ウネ…



女主人「ふぅ、ようやく一段落したね。アタシらも休憩しようか、赤毛娘ちゃん」

赤毛娘「あ、はい」

女主人「色々と手伝ってもらっちゃって、ありがとね。
    さすがにアタシ一人じゃ、この人数はさばけなかったよ」

赤毛娘「い、いえ……」

酒場の外で――

いつになく神妙な表情の赤毛娘。

赤毛娘「……女主人さんが『伝説の女騎士』だったなんて、ビックリだったわ」

女主人「ごめんね。ずっとだますような形になって……」

赤毛娘「いえ、責めるつもりなんか全然ないの! それより――」

女主人「ん?」

赤毛娘「女主人さん。本当は……あの三人みたいな生活をしてみたいんじゃないの?
    自由に旅して、色んな町へ行って、時には悪党をやっつけて……って」

女主人「!」

赤毛娘「もし、そうだったら……町の人に遠慮なんかしなくていいのよ」

赤毛娘「だって……あれほどの剣技と正義感を持ってる人が……
    『伝説の女騎士』ともあろう人が……
    こんな田舎町でくすぶってるなんて、もったいないもの……」

女主人「……かもしれないね」

女主人「たしかにアタシにも、剣と技で人々を救うために
    あちこち飛び回りたいって気持ちはある」

女主人「だけど……それと同じぐらい、いやそれ以上に……この町だって好きなのさ。
    だから、この町を出ていくつもりはないよ」

女主人「それに、次に派遣されてきた領主が、またクソッタレ野郎だったら、大変だしね」

女主人「これからもよろしくね、赤毛娘ちゃん」

赤毛娘「女主人さん……!」



このやり取りを、物陰から見ていたオークたち。

オーク「ぐへへへ……脈がありそうだったから、旅に誘おうとしたが、
    どうやらコクる前にフラれちまったみてえだな」

触手「うむ、ここは大人しく引き下がるとしよう」ウネリ…

魔道士「えぇ~?」

魔道士「女主人さぁ~ん! 赤毛娘さぁ~ん! ボクたちと冒険しましょうよ~!
    あんなこと、こんなこと、しましょうよぉ~!」

オーク&触手「お、おいっ!」



女主人「アンタたち……見てたのかい」

赤毛娘「ビックリしたぁ……!」

オーク「実はさ、オレたち……女主人さん、アンタを誘おうとしてたんだ。
    だけど今、アンタの気持ちはきっちり聞いたぜ」

触手「うむ」ウネッ

女主人「アタシなんかを誘おうとしてくれて、ありがとね。嬉しいよ」

女主人「だけど……この町も好きだからね。まだ離れるわけにはいかないよ」

オーク「ぐへへへ……ならしかたねぇや!」

魔道士「えぇ~!? 一緒に行きましょうよぉ~! あんなこと、こんなこと――」

オーク&触手「お前は空気を読め!」

ガツンッ!

魔道士「あいだっ!」

魔道士「いたた……! ん、空気? 風魔法の呪文を唱えろってことですか?」

オーク「ちげーよ!」

触手「やれやれ……」ウネリ…

赤毛娘「アッハッハッハッハ! もう、魔道士君ったら!」

女主人「ふふっ……」

魔道士「…………?」キョトン…

こうして、夜は更けていった。



………………

…………

……

数日後――

< 町 >

ワイワイ…… ガヤガヤ……

「元気でな!」 「バイバーイ!」 「いつでも来いよ!」

青年「あなたたちは町の英雄だよ! 本当にありがとう!」

赤毛娘「また遊びに来てね! 絶対だからね!」ウルッ…

女主人「そうだよ。アタシも、今度誘われたら心が動いちゃうかもしれないしさ」



オーク「ぐへへへ……もっちろん!」

触手「我々とて、いつまでこの生活をしていくかは分からないが……
   必ずまた寄らせてもらうとしよう」

魔道士「この数日間、本当に楽しかったです!」

町を出た三人組――

魔道士「……いい町でしたね!」

オーク「ああ、『伝説の女騎士』にも会えたし、いうことなしだぜ!」

魔道士「一方で、とんでもない強敵と戦うハメにもなりましたけどね」

触手「まったく……あれほど凶悪な人間と魔物がいるとは思わなかった。
   私もまだまだ『井の中の触手』というやつだ」

魔道士「なんですか、それ?」

触手「井戸の中でうねっている触手には、世界の広さが分からない、ということだ」ウネッ

魔道士「はぁ……」

オーク「さて、触手、魔道士! 次はどっち方面に向かうよ?」

魔道士「ウワサじゃ、ここから東の地方にはエルフの隠れ里があるらしいですよ」

オーク「エルフか……。ぐへへへ、悪くねえな!」

触手「もう少し南に下れば、学術都市がある。
   有名なお嬢様学校である『聖セレブ学院』もここだったはずだ」ウネウネ

オーク「ぐへへへ……そっちもいいじゃねえか!」

オーク「赤毛娘みてえに片付けできねえ嬢ちゃんがいりゃ、掃除代でだいぶ稼げるぜ!」

触手「といっても、我々三人の組み合わせだと、道を歩く令嬢に近づくだけで、
   犯罪者として衛兵に捕まることにもなりかねんな」

オーク「え、なんで?」

魔道士「なんでです?」

触手(自分というものを客観的に見られんのか、こいつらは……)



頼りになるが、怪しすぎる三人組の珍道中は、これからも続く――






~ おわり ~

完結となります

楽しんで書かせていただきました
特に触手のキャラが好評だったようで、嬉しく思っています

読んで下さった方々、本当にありがとうございました!

乙!
触手語録がクセになりそうw
三人の次の活躍を楽しみにしてるぜ

続編を期待しつつも乙

触手が登場するのにエロがないSSが存在するとは恐れ入ったぜ

乙!

行く先々が相性がことごとく悪いwww
でもこの触手ならついて行きたいと追いすがるお嬢様が容易に想像できるのはなぜだろう


前の作品があるなら読みたいなチラッ

いいトリオだった
乙!

触手△
面白かった乙

次書くときも見に行く

おつおつ

乙。 これはいい、くっ殺 。

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