志希「二宮飛鳥は笑えない?」飛鳥「一ノ瀬志希の血と涙」 (49)

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 天才志希ちゃんの一生は興味の一生であるー。

 ん、それっぽい事言ってみたかっただけ。よく考えたら当たり前のことだねー。興味で人生ができてるなんて。
 まーねでもねー、名言格言って結構当たり前のことしか言ってなかったりするし、そんな感じでよろしくー。

 でねでね、あたしが一番初めに興味持ったものは何かってねー、あ、これ覚えてない。
 ママが言うにはねー、あたしは数字にご執心だったらしくて、そういえば物心つたときには数学の教科書持ってたね。じゃあ数学。
 んでんで年が二桁に行かないうちから数学は一通りできちゃってたからそれはもうびっくりしたらしー。
 これぐらいならお受験してるコなんかだと当たり前の範囲だったりするんじゃないかなー?って思うけど、興味ないから知らなーい。流石に数学は無理かもねー。

 ここからなら割と覚えてる。
 テストの点数はいつだって満点。皆はテスト嫌いらしかったけど、あたしはさっさと終わらせて昼寝出来るから好きだったにゃー。
 授業なんてもう知ってることしか言わないから、あたしはもっと分厚い本を読みふける。
 勉強の成果を発表する相手は先生じゃなくてダッド。ママとは違ってあんまり驚いてくれないかった。
 今思えば、ママと違ってあんまり驚いてくれないダッドにムキになって勉強してたのかも。なにこの子かーわーいーいー。

 で、すっ飛ばして義務教育が終わるくらいになると、ダッドがあたしに海外に行く話を持ってきた。
 なんでその時期かって、もっと早い時期でもよかったけど、義務は終わらせないとダメだかららしい。
 これ、ダッドが真面目なんじゃなくて、その辺の認識を適当に済ませてただけだってあたしは知ってる。あたしダッド似らしいよ。にゃはは。

 はてさてお似合い親子で適当に返事したあたし。
 さぁ次は夢踊るユニバーシティの話だぜー!…

 …って、ならないんだよね。
 そのころになったらあたしはもう自分が天才だって知ってた、知ってたけど、自覚は無かった。
 だって、あたしは当たり前のことを当たり前って言うだけなのに、みんなはびっくらこいて目を回す。
 日本に居る内はそんなもんかって思ったけど、流石に海の外まで渡ってきてそれじゃあ、あれだよね、失望?

 そうだね、入った学校なんかよりも、まるで違う街並みの方がよほど刺激的だった。
 でもご飯はやたら味付け濃いし、このままじゃ太る―って、はい。帰国。
 別に帰ってこなくても良かったんだけど、そこはほら、帰巣本能?家には帰らなかったから違うかにゃー。あ、見たことない食べ物がある。くんかくんか。これテイスティングね。

 とまぁ、これからはきっと、節操なしにいろんなことに興味を持って、飽きるまで使い潰してを繰り返して生きていくんだろうな。これも興味を持つ、というよりは退屈を慰める手段を求めて。
 いつからか泣かなくなった志希にゃんはセンチメンタルにはならないけど、なんだろね、この感覚。
 もう数字を弄るのは飽きて、今薬品で遊ぶのもいつまで続くんだろ。
 人間なんてのはもっと酷いもんで、同窓会なんて行ったら思わず自己紹介から始めちゃいそーだ。

 そんなことを考えたり、刺激的な薬の快感で忘れちゃったりしながら、アイドルもそうやって過ぎ去っていく概念のひとつかな、なんて。






 でもね、人生って、やっぱりちょっとやそっとじゃ行かないようにできてるんだなって。

 すっかりちょっと変だな、くらいの認識になりかけてたあのコ。
 特別才能ある人間でもないくせに、あのコはギフテッド・一ノ瀬志希に言ったんだ。

 





「キミは本当に馬鹿な奴だな」。








 ※



 ホワイトボードに張り出された予定表に遠目を遣る。
 今日の予定は把握してるけど、確認する日課ぐらいはあってもいいだろう。

 ボクはホワイトボードの前から二組ほど離れていくのを見送ってから、それでもタイミングを合わせて寄ってきた蘭子と一緒に時間割を視線でなぞる。蘭子の方は午前前から夕方まで帰らない体だったが、ボクは特段そういうことは無い。

 久々に寂しくなる、というようなことを嘆いてくる蘭子に同意しながら―――その実、ボクの意識は別のところに飛んでいたことを謝らなければならない。

 というのは、今日のレッスンを共同で行う相手。一ノ瀬志希。
 顔を合わせたことは無かったが、まぁ、よくあることだ
 名目上は多様な相手とレッスンさせることで刺激を与えるだとかになっているけど、実際のところフェスなのなんだので使う

 強烈な人間というのはそれとなく知っている。
 なんでも”天才”なんだそうな。それも、ボクの周りでも時々聞くようなニュアンスではなく、時代に革命を起こしてしまうような度を越した類の。
 全くどこから連れてきたのか、というのは思考の隙間を埋める台詞でしかなく、ボクの興味はその肩書の一点に注がれる。

 ”天才”。

 憧れる響きだ。
 きっとボクよりもずっと凄いヤツなんだろう。

 それが彼女に対する第一の感情だった。

―――――――………

…さて。

「ぐえーっ!死ぬ!頸動脈圧迫されてあたしの天才脳細胞が死ぬぅ!」
「ほーら!ちゃっちゃと行く!」

 その”天才”が、いつになく逞しく見える城ヶ崎美嘉にヘッドロックを極められて、しまいには尻を蹴り出されてくるという強烈なエントリーを果たしたのを見たとき、ボクはその憧れを揺るぎなく維持することができていたであろうか?

「おう、いえー、しきにゃんは遅刻してません…」

 ぐったりと床に横たわった彼女の、いまいち気の通っていないその声を聴けば、そのラフな格好がレッスン着のつもりなのか寝間着のままなのかを問い詰める気にはならなかった。

 ボクはトレーナーさんと一緒にしばらく様子をうかがっていたが、美嘉さんが帰ったっきり動く気配が全く無い。
 何かと訝しんでいると、背後からトレーナーさんのうんざりしたため息が聞こえてくる。
 ぎょっとして、条件反射的に「これではいけない」という気分になったボクは、死んだふりをしている一ノ瀬志希を揺り起こすことにした。

「…一ノ瀬志希。気持ちはわかるけど、かえって面倒なことになるよ」

 どう呼んでいいか分からなかったので、とりあえずフルネームにしておいた。
 なるだけ平静を心がけ、薄地のシャツ一枚の肩を揺さぶってみれば、どうだ。

「んにゃ…」

 と、眠たそうな声を漏らして起き上がる彼女…と、印象を覚えたのは一瞬の事に過ぎなかった。
 重たげに持ち上がった頭の、しかし不釣り合いに輝く瞳を覗きこめば――――

「…にゅふ♪」
「しまった」

 ――――そこに、いつか見た棟方愛海のそれの印象が重なる。

 …なるほど、愛海との出会いが無かったならば、ボクはここで彼女を殴り倒していたかもしれない。
 いやあの時の愛海には申し訳ない事をしたと思う。反射でも手を出すまでは行くべきでは無かっただろう。

 して、そんなわけで首筋まで顔を寄せてきた一ノ瀬志希は、どうやらボクの臭いを嗅ぎ始めたようだったから、そこそこには魂消る。
 愛海とどちらが酷いのだろう、と思いつくのは思考の端、何より驚いたのは、そうして当所の無い視線を向けた先のトレーナーさんの顔だった。

「…一ノ瀬、そこそこにしておけよ」

 なんて困った顔をしながら。

 怒鳴りつけたりしないのか?と思い、やはり愛海の方は思いっきり怒られていたはずだった。
 急に周りから置いて行かれた気分になって、当惑するボクだったけれど、その理由は思いのほか単純だったのだと知ることになる。

 何、彼女は事実天才だったのさ。
 トレーナーさんが多少の粗相は許容してしまえるくらいに。

―――――――――――………

今日ここまで

乙、続きが楽しみ

どうせまたエタるんだろ

やべ、脱字発見

>>5

フェスだのなんだので使う

フェスだのなんだので使う即席ユニットの肥やしを作ろうとしているのは疑うべくもない事実だ。

めっちゃ楽しみ!



 ※


 さて、少しだけボクの話をしよう。
 アイドルになる前の話だ。

 ボクは――――いや、ここは『彼女』と表現させてもらいたい。
 彼女は、まったく笑う事が出来なかった。
 理由はよくわからない。だけど、それはとてもとても不幸な事だった。

 当時の彼女に意見を求めたなら、「そんなとこは愚かな事だ」とか、「キミたちがくだらないことで笑いすぎるだけだ」などと返していただろう。

 が、そんなものは本音でもなんでもなかったことを、今のボクは知っている。

 彼女はずっと憧れてた。くだらないことで笑う皆に。楽しそうにしてる皆に。
 けど、彼女にはそれができなかった。それが空しい事で、愚かなことで、寂しい事だとも知っていた。
 そうやって自分に否定が積み重なるのが怖かった。だから、間違っているのは周りだと思うことにした。
 …自分の居場所がここではないだけだ。ここにボクの心を動かす事象が存在していないだけだ。

 思えば、そうやって違うセカイを求め続けた結果が、今のボクであるのだろう。

 そんな間違いの蓄積で構成されたボクだけど、だからこそ、彼女は本当に愚かであったと断言する。
 今のボクは違う。人を見下せるほど上等な人間じゃないってわかってる。


 そうして二宮飛鳥は、ある時から嫉妬という感情を封印した。

 それはつまり、過去のボクを、過去のボクを作った感情を否定したかったんだ。
 生まれ変わった証明と、誰に向けるでもない懺悔のために。
 ボクはボクに、一切の驕りを許さない。


 …それが、彼女には少々意外だったらしい。


 ※



―――――――――――………


 今のあたしのマイブームは一人の女の子である。

 初めて会ったのは美嘉ちゃんに叩き起こされて蹴り込まれたレッスンの日。
 名前は二宮飛鳥ちゃんって言うんだってー。後で知った。にゃはは。

 きっかけは三つ。

 一つは匂い。
 死んだふりして構えてたあたし。気分はさながら食虫植物。
 案の定ネギ背負ってきた哀れな獲物の首筋めがけて~~~~…ガバっ!と。

 あら、いい匂いだ。

 まー根も葉もない話、あたし女の子の匂いだったら大体好きだけどね!そうですあたしが変態です。ヤダ通報されちゃう?ノンノン幸運なことにあたしは美少女無罪。いやー天才かつ美少女なんて天はあたしに二物を与えたのだった。一回だけボディブロー喰らったけどね。―――あ、これ話が脱線しかけてるね?

 じゃあ戻そう。
 そんなわけで飛鳥ちゃんはあたしにボディブローを繰り出すでもなく、そのいい匂いを堪能させてくれたので、それに免じて今日はレッスンを受けてやっても良いではないか。よきにはからえー。ちなみにここで逃げるとトレーナーさんが首根っこ拘束してくる。はえーんだこれが。
 まぁレッスン受けるのは嫌いじゃないからいいんだけど。

 そんなこんなでレッスンを始めるあたしたち。飛鳥ちゃんの汗の匂いがそれとなく香る。あー、むしゃぶりつきてー。

 そしてここでもあたしはやっぱり天才。
 あたしのことインドア派って思い人いっぱいいるけど、体を動かすだけだら簡単なのだ。
 ダンスも要はリズムとロジック~♪掴んじゃったら簡単簡単♪
 それというのはトレーナーさんの視線が飛鳥ちゃんの方にばっか飛んでるのから見ても明らかだった。
 そーだねー、教えること無かったら退屈だよねー。まぁ、手を抜こうとしたら即座に睨まれるんだけど。流石プロだぜ。

 なんか都合つかなくて人数も少なかったし、あんまり長い時間はやってなかったかにゃー。
 それでも、まぁ飛鳥ちゃんにあたしの天才ぶりを見せつけることはできたであろう。ひれ伏すがよいー。


 …あ、ここからきっかけの二つ目ね。

 ひれ伏すがよいーって言ったけど、別に本気で要求したわけじゃないからね。
 さてさて志希ちゃんの経験則上、こういう時の相手の反応は大体二つ。
 褒めてくるか、悔しがるか。前者でも後者でも構わないんだけどね―?キミは一体どっちかなー、ちらっ?…

「お疲れ…しばらく顔を合わせることになるだろうから、よろしく頼むよ」

「んにゃ、ばいばーい…」

 後ろ手を振ってどこかに行く飛鳥ちゃんにあたしも手を振り返して、後ろだから振っても見えないねこれ。
 この後の予定は何だったかなー。やっば覚えてなーい、確認しに行く?メールで聞いちゃう?あ、その前にご飯食べなきゃ―――…。



「にゃっ!?」

 …―――反応それだけ!?
 
 ちょっとちょっと、自賛するけどさー、キミの横であたし結構すごいことしてたんだよ?
 あたし一回も怒られてなーい。完璧も完璧ちょーてんさーい。しきちゃんさっすがー。
 ってか、それ以前に不愛想すぎない?今流行りの塩対応ってやーつ?
 プライド的になんかないのー?そうじゃなくても何か会話はー?
 あたしの事を知った誰も彼も、何かしらは好奇の反応を示してくれたものだけど…~~~~ん納得いかない!


 一ノ瀬志希は天才だぞ!ヘンタイなんだぞ!もっと化学反応をよこせー!

 ってこの瞬間、二宮飛鳥という少女はあたしにとって有象無象から少しランクアップした。
 でもマイブームにはまだほど遠い。最後のきっかけはなんだろねー?気になるー?じゃあ少し時間すっ飛ばそうか。

 なんでって?いやさ、あたしは鼻息荒くして飛鳥ちゃんの事探したんだけどさ、見つからなかったんだよね。
 えいえいおうおう、失踪でこのあたしに勝負を挑むなんざいい度胸じゃねーかー!こら!ってね。あたしにボディブローをくれた女の子の真似をしてみたり。
 荒くした鼻息でそのまま匂いを辿ろうかとも思ったけど、流石に無理だった。
 廊下の真ん中でくんかくんかーってしてても異常だとは思われないのはあたしだけの特権。
 「あいつ、またやってるよ」。普段から異常だからね!ってこらこらー!

 そんなこんななんだか一人で楽しくなってきたんで、あたしはすっかりゲーム気分。
 飛鳥を探せ!なんちて。あの絵本、あたしはすぐ見つけちゃうからおくちにチャックを強制されてた。
 それっぽい反応を横から差し込んでおちょくる遊びもそれなりに楽しかったけどね。

 難しい顔をころころ転がす友達を見てあたしはけらけら笑ってた。
 何回目で本気で怒られるって実験は、検証回数が少なすぎて意味が無かったなー。
 だって二回目も替えも無いんだもん。実験材料としてはちょっとねー。

 閑話休題。
 ゲームっていうのは自分で攻略するから楽しいんだよねー。
 目の前の問題にあーでもねーこーでもねー。答えを見ちゃったらその先は作業。
 むろん、そういうのが楽しい人もいるんだろうけど、あたしにとってはそんなもん。
 それはその日も同じだった。答えを見ないで自分のインスピレーションだけが味方。

 …さてここで問題。本当に自分の力だけでモノ探しをしたらどうなっちゃうでしょうか?
 特別にヒントをしんぜよう。あたしは飛鳥ちゃんの事なんにも知りません。事務所は無駄に広いです。

 答えはー?でれれれれれれれれれー…。



 …じゃん!気付いたら夕暮れだったのだ!
 人に居場所聞けば一瞬だってのに、笑えるよねー!
 笑えない?マジ?まぁおかげでオーディションすっぽかしちゃったし、そういう側面もあるかもしれないねー。めんごめんご。
 一日中あちこちうろちょろしてたけど、目的意識があっただけ失踪よりマシだって。ね?
 飛鳥ちゃんの事途中で忘れ去ったりしてないから。ほんとだって。

 長きわたるはいか…探索行のうち、一ノ瀬探険隊が目的の珍獣を見つけたのは事務所の屋上だったのだー。

「ふぁーあ…んー、もうちょっと暖かい時期だったらお昼寝によさそー…

 …あれ、キミどこかで会ったことあったっけ?」

「やぁ…志希。きっとレッスンルームじゃないかな。何時間前かは、わからない」

「…あー、あー、覚えてるよ、ジョークだよジョーク!にゃははー。」

 …にゃははー。

 なんて笑ってみると、飛鳥ちゃんは横顔で愛想笑いを返してくれる。いいコだね、このコ。
 まぁそれだけでその顔を夕景の方に戻しちゃうんだけど。そのままじーっとして、何してんだろ?
 もしかして、あたしと同じく失踪してきちゃってるのかな?ワオ、同類発見?そりゃえらい事だ。早速インタビュー遂行ー。

「ねーねー、なにしてんのー?」

「…空を眺めてるのさ」

 何か勿体付けるような間を一瞬だけ置いて、飛鳥ちゃんは言った。

 うん、見ればわかる。
 そっかーお空綺麗だねー。夕暮れっていいよねー情緒だねー。

 …ちーがーう!志希ちゃんはそういう当たり前のことが聞きたかったんじゃない!
 何が聞きたかったかって…わかんないけど…そういう当たり前の事聞いたってちっとも面白くない。
 違う、そうじゃない。でも、違うなら何だろ?…すこしアプローチを変えてみる。それだけで良かったんだ。

「…んー、じゃーねー…何考えてるの?」

 って、あたしは何ともなしに切り口を変えて聞いてみる。
 いやなに、本当に何ともなし。その時のあたしは何か具体的なものを求めてたんじゃなくて、ただ「なんとなく」。
 「そういう気分になったから」彼女にアプローチを仕掛けていたんだね。だから特段面白い答えが返ってこなくても、残念だなって思って、その感情ごと忘れちゃうのが関の山だったんだろうと思うよ?

 まだまだマイブームには程遠いってさっきあたしは表現した。
 もしも、この時の問答が少しでも違ったら、そのままの印象で彼女はフェードアウトして、暫くレッスンをするうち顔だけは何とか覚えて、終わり。…なーんて未来もあったのかもね。
 だとしたら、あたしの人生を設計してくれたカミサマは中々にナイスな奴だ。別に神様信じてないけど。
 そう言うセリフが出てくる程度には、ここがターニングポイントであったのだ。

「考えてる…?何を…?」

 そういう言葉を投げかけて初めて、飛鳥ちゃんはあたしの目をまともに見返した。

 でもすぐに顎に手を当てて俯く飛鳥ちゃんを見て、あたしは小首をかしげる。
 世間話のつもりだったのに、そういう反応はよろしくないよー?キミ。抜き打ちテスト喰らったみたいな顔をして。
 思い、口には出さず。だんだんその無駄に難しい横顔もなんだか面白くなってきたので、暫く待ってあげることにした。

「そうだな…」

 無駄にかっこつけた目つきを夕焼けに流して、緩慢にその唇が開く

 さあ、キミは何を無駄に悩んでいたのかな?







「たとえばこのセカイが終わるとしたら、その時はきっとこんな空の色なんだろうな…とか」















「………………」












「は?」

 何言ってんだコイツ……。


 ※

寝落ち未遂
今日はここまで

乙乙

天才の理解出来る範疇を越える飛鳥



 ※


 あたし、実はさっき嘘ついた。
 テストはいつだって満点って、実は一回だけ満点取れなかったときがあるんだよねー。

 いっだったかの国語のテスト。漢字の読み書き、抜き出し、空欄埋め、本文の要約、etc.etc....
 大体いつも通りの形式。テストそのものは全く難しくなんて無かったよ。終わってみれば平均点は高かったし、そんなもんだったんじゃないかにゃ~。

 でもでもそのとき、あたしは一問だけ解けなかった問題があったんだ。
 それを先生が皆の目の前で言っちゃうもんだから。途端にどよめき始めるクラスの皆。どよどよざわざわ。あの一ノ瀬が?めずらしいこともあるもんだ。どよどよざわざわ。

 けっー。いいじゃん別に。あたしだって人間なんだよーっ。けっー。

 集まってくる好奇の視線に気にしなーいってポーズを決め込みながら、あたしはなんかむしゃくしゃして×の付いたテストを裏返した。
 でもなんか逃げてるような気分になって、やっぱり元に戻した。

 めずらしく眉間に皺寄せて睨めっこする問題には、「この時の登場人物の気持ちを答えよ」。回答は「わかるわけがない」。

 別に、こんな答えで×が付いてるのを不思議がるほど良識に欠けるあたしじゃない。
 イマドキこんな問題出してんじゃねーよー、って思わないでも無かったけど、事実正解しているコも居る以上はあたしに至らない部分があるのも事実。

 だからあたしは考えるんだけど、さっぱりもってわかりませーん。
 だって式が無い。理屈が無い。
 答えを求めるって事は、然るべき順序と根拠が用意されてるもんでしょ?って言ってみたら「お前は頭が良すぎるんだな」だって。なにそれ。
 後に聞く所によれば、どうにかこうにかあたしに満点を取らせないために用意された問題なんだそうな。なんじゃそりゃ。

 …ま、ダッドによる種明かしによれば、「そんなもんは本文の要約をそれっぽく変換しておけば正解になってる」んだそうな。
 あとで大人しそうなコを捕まえて答え見せてもらったら、確かにそんな感じだったかな。…まーあたし的にはその時のまるで不良に絡まれたみたいな可愛いビビり方の方が印象濃いんだけどね!気分によってはアブなかったかも?んふふ…♪

 んで、実際その時の問題はここで解決したようなもので、満足したあたしの記憶からはすっかり消えていたんだけど。
 じゃあなんでこの話するかって言ったらね、初めてこの問題に相対した時に似た感情が、今のあたしに蘇ったからである。


 たとえばせかいがせかいがおわるとしたら?????

 そのときはきっとこんなそらのいろ?????


 …おーけー。
 理解をぶんなげてしまうのはとても愚かな事であり、とても勿体ない事である。

 世界が終わる、なんてのはたぶん誰しも考えたことがあるテーマだよねー。
 隕石が落っこちてくるのかな?それともでっかい地震?核戦争?第三次世界大戦?太陽の活動は実はだんだん強まっていて、時間が経つとその内太陽熱で地球の水分は死滅する、なんて話も聞いたことある。
 どれにせよ、飛鳥ちゃん曰く、そのいずれかが起きるときはきっと夕暮れ時らしい。

 なんで?さっぱり因果関係が掴めない。人は夕暮れを見ると核ミサイルを撃ちたくなる?んなバカな。
 もしかして飛鳥ちゃんは森羅万象の動きを観測し続けていて、そのデータをまとめるとびっくり!世界の終末は夕暮れ時に起きることが証明されたのだ?そりゃあすごい事だ。今すぐエライ研究機関にレポートを提出して、人類の英知を結集して世界の終焉を回避する手段を講じなければならない。それだけじゃない。彼女が持つありとあらゆる世界のデータは、人類史上最も偉大な進歩をもたらすことになる。まるで下界に降りてきた神様だー!崇め奉れー!彼女の存在は、人類が宇宙に進出して、母性の存在を忘れ去られたときになっても語り継がれているであろー。


「んなわけあるかーい!」

「…うん?そうと言い切れるのかい?…まぁ、キミはおそらくはボクより真理に近い人間なんだろうが、巨大な概念を前にしては些細な差だろう。その点」

 あ、ごめんね、今のあたし自身へのツッコミ。


 …やっべーさっぱりいみわかんねー。

 何が一番いみわかんないって、なんで今そんな事考えてたの。
 夕焼け見ながらぽけーっとして、綺麗だなーご飯の時間かなーなら分かるけど、あー夕焼けだなー世界が終わる日はこんな夕焼け空なのかなーってスケールでけーなおい。
 あ、もしかしてつい世界が終わって欲しいって思っちゃう系のアレ?だったら多少はわかる。キミみたいな年頃はそういうのあるよね。空の色はまったく関係ないがな!

 いきなりこんな台詞が出てきたもんだからそれはもうびっくらこいた。理解できない。脈絡が読めない。
 けど、このコは確かにこの夕焼けを見て、そこからあの言葉を紡いで見せたのだ。きっとあのコなりの世界観とロジックでもって。

 …ねぇ、キミの頭の中、どうなってるの?
 そこには何が詰まってて、何が反応してて、何を分泌してるの?

「ねぇ!キミ!」

「ン。どうしたんだい」

「今の言葉!…なんで夕焼けを見てたら世界が終わっちゃうの!?どうやって世界は終わるの!?てゆーかさ、なんで今なの!?…あ、『今』っていうのはなんで夕方に世界が終わるのかって言うのと、なんで今このタイミングでそんなこと考えてたのかって言うのとー」

「…す、少し落ち着いてから話してくれ。物事には順序ってものが…」

 それからあたしは、匂いを嗅ぐのも忘れて飛鳥ちゃんに詰め寄ってた。

 おう、あえて詩的に表現してくれるなら、この時あたしは飛鳥ちゃんの脳内に宇宙を見たのである。
 まっくらで、掴みようがなくて、でも、決して異世界ではなはずの空間。

 ねーねーキミの頭の中身を見せてよ。なにをどうやってどうこうしたら、キミは何を吐き出すのかな?


 そんなわけで、これがあたし的な本当のファーストコンタクト。三つ目にして、決定的なきっかけ。
 ポチって切り替わったスイッチの上に、興味って付箋を張るか、暇つぶしって付箋を張ることになるかは…まだ秘密♪


―――――――――――――………


「やれやれ…」

 一人で静かに朝食を食べたい。とまでは言わないけれど、ヒトが寄ってくるつもりで席を選んだつもりは無かった。
 であるからには、彼女はわざわざトレイを運んできて、明確な目的を持ってここに居るのだと理解できる。

 例えば蘭子は、元々ボクと一緒に食べるつもりでここに居る。これはまぁ、関係からして不自然じゃない。
 …じゃあキミは?

「んっふっふー…キミ、辛いのは好きー?」

「行動と発言が逆だよ…まったく」

 昨日不用意にコミュニケーションをとるべきでは無かったというのか?…冗談じゃない。

「あ、飛鳥ちゃん…」

 おびえた様子の蘭子が、おずおずといったように、ボクと、タバスコで真っ赤になった目玉焼きと…対面の一ノ瀬志希を何度も見比べる。
 何か期待するようににこにこする一ノ瀬志希と、食べずとも伝わる赤い辛味。

「…嫌いだとは言わないよ」

 …平穏が待っている気はしなかった。

今日はここまで

乙乙


面白い

フレちゃんが鬱の人かな?

どうみても文体が違う






 そんなわけで始まった志希ちゃんによる二宮飛鳥観察日記ー♪
 にゅふふ…さーて何から始めちゃおっかなー?研究室には違法ではない薬品がズラリ。

 …うん、使わないよ?
 どんなカオしてトリップしちゃうのかなーって興味はあるにはあるけど、今は置いておくべき感情である。
 人って生き物は脆いからねー、しょうがないねー、ぶーぶー。

 じゃあ何するのかって?文字通り観察観察ー。
 朝っぱらからおはよーって堂々ついていって、こういう時はどうするのかなーこういう時は何するのかなー。
 たまーにちょっかい出す程度はするけど、それぐらいそれぐらい。研究とは得てして地味なものなのだ。

 まーそれでもなんか怖いらしいけどね、あたし。
 結構な頻度で一緒にいる蘭子ちゃんが飛鳥ちゃん以上にそわそわしながらあたしのことちらちら見てた。
 んもー可愛いなーあたし我慢できなくなっちゃいそー♪って思わず言っちゃったら顔真っ青。てへぺろ。それから「蘭子はボクよりも繊細だからやめてくれ」って飛鳥ちゃん。仲良いんだねキミたち。ひゅーひゅー。
 それ以降蘭子ちゃんの定位置はあたしから見て飛鳥ちゃんを挟んだ向こう側になってって言うのは余談ね。
 それでも本命の飛鳥ちゃんは逃げないでくれたのは幸運の内って思っておくかにゃー?うんうんそれがいいそーしよー。

 そんでそんで飛鳥ちゃん観察日記は始まったんだけどね?流石に†世界終焉†のインパクトを超える発言はまだ確認できてない。
 彼女の印象をざくっとまとめると、ロマンチストで、不愛想で、台詞が長くて、気が付くと難しそうな事考えてて(哲学とか好きそう)、いわばちょっと変わってるんだけど、まあ見るよりはずっと普通の女の子かなー。
 別にガッカリはしないよ?あたしだってこんなんだけど、フツーのjkなりに年頃乙女成分は持ってるんだから、当然の範疇だ。…今シツレイなこと考えたのだーれだ?
 ここで彼女がトンデモない異常性癖持ちのドヘンタイだったらそれはそれで面白そうだけど、それは話が違うよねー。


 てゆーか、あたし的には思わぬ収穫があったから別方面で満足しかけてる。
 あのね、あたし飛鳥ちゃんの事好きかも知んない!ふふ、いかがわしい意味じゃないよ。じゃないよ?

 なんていうの?一緒に居て楽しいのがフレちゃんでー、落ち着くのが飛鳥ちゃんみたいなー?
 あっちは落ち着けてるのか知らないけど、飛鳥セラピーにはリラクゼーション効果があるのかも。なんちてー!
 ま、落ち着く理由はよくわかってナイけどネー。こっちについても研究してみよっかな?
 人を落ち着かせる立ち居振る舞い、なんて研究成果が出てみたら自分に適用してみたりして。
 そしたらそしたらー…、…悪い使い方しか思いつかないや。にゃははー。

 …あ、それともうひとつ。
 あたし、それなりに飛鳥ちゃんに付きまとってるつもりだし、日常的な反応はあらかた把握したつもりなんだけど、そんな中で唯一ちゃんと観測出来てないパターンがあるのだった。

 うん。これはそんな時のおはなし。


 ※


 一ノ瀬志希がボクに付きまとい始めるというのは、あのレッスンの日にボクが素っ気ない反応で帰ったのがきっかけであるらしかった。

「普通なら嫉妬とか対抗心とか、そういうのあるのにキミって大物だよねー」。

 とは後の弁。

 …だって、仕方ないじゃないか。
 キミはボクとは違う。ましてやキミの肩書きの事だから。
 どだいボクは、ボクであろうとする事でしかボクで居られなかった弱い人間。
 ひねくれてるんじゃない。拗ねてるんじゃない。ただ当たり前のことを、当たり前として処理するだけ────なんて言ったら、キミは納得してくれたかな?

 畢竟、口に出すには余りに情けない理屈────。
 そう思い、秘めたままにしておいたのは、ボクに興味を持ってくれたキミを失望させるのは忍びないと思ったからかも知れないし、或いは道化芝居をしてみるのも悪くないかと思えたからかも知れない。

 …もっとも、彼女がボクの何を気に入ったのかは今でもよくわからないままで居るのだけど。

 まあ、これまた変な奴ではあったし。いささか唐突ではあったけれど、それで邪険にするほどボクは排他的な奴ではない。
 ボクより凄くてよほど変な人間―――とカテゴライズしてしまえば、極端な話、皆そんな人たちであったことだし。

 ともすれば大分気を許しているとさえ思えてきたある頃、それを知ってか知らずか、彼女は聞いてきた。

「飛鳥ちゃんってさー、笑うことあるの?」

「…なんだい、藪から棒に」

「いやさ、飛鳥ちゃんの笑ってる所だけちゃんと見たことないなーって。思ったから」

 彼女が思ったからと言えば、そうなのだろう。なにせ彼女は気まぐれなヒトだから。経歴からか理屈っぽい面もあるが、本質は感性の人に違いないのだろうと思う。

 ならば、考えてみよう。ボクは笑っていないのか?

 …主観でいいのなら、そんな事は無いと思う。
 ボクだって微笑む程度はできる。ボクがずっと仏頂面を貫くのなら、それこそ忌むべき過去からの進歩が無い事の証明だ。…というか、談笑する姿程度は見せたことがあるはずだ。


 そう思うので、ボクはそのように伝えたのだけど、志希はどうやら納得がいっていない様子である。
 困ったように眉間に皺を寄せて、それでもまったく悩みの無さそうな顔を傾けた志希は「んー…もっとねー、思いっきり楽しそうに、パーっと!」と言う。
 なるほど。それは難しいな。と苦笑しかけて頬が動くや、それよりも先に、「あ、ちょっと待って、これも違うなー…わかんない!」などと言い始めるのだから、つくづく掴みどころのない少女だ。

 と、いうのは振り回されているというのと同義でもあり、「逆に、キミは笑っているところしか見たことが無いな」、と口を尖らせようという気分にもなった。…我ながら子供らしいとは思うけど。

「ん?あー、そだねー、言われてみればそうかも?」

「そうさ。いつもにこにこして…無表情よりよっぽど読み切れない」

「言ってくれるじゃん?…でもね、悩みなんかどっかやって、楽しそうにしてるのが一番だって志希ちゃん思うなー♪」

「たまには辛い事とか、無いのかい?」

「ん~…?んー、無いんじゃない?あってもそういう事はすぐに忘れちゃうかも?志希ちゃんつまらない事には興味ナーイ記憶もたナーイ」

「なるほどね、それもまた真理…」

「褒めてる?皮肉?」

「褒めてるよ、それは素敵な事さ」

 よほど頭のいいはずの人間が言うには、いささか幼い理屈に感じるような気もしたが。
 或いは、人間が知能を持つが故に背負う苦しみを踏まえ、それでも叡智でもってその地平に辿りつくならば、それこそ怪物的であるかも知れない。―――ちらり、にへと笑う顔に横眼を遣り、こういう言い回しが大袈裟に思えてこないのが彼女の恐ろしい所だな、と思う。


「あ、飛鳥ちゃんもしかしてなんか悩みとかある?それが無かったら笑えるかもよ?そういうクスr…香水あげる?」

「合法じゃないんだろう?それ」

「んっふふ~…違法じゃないから大丈夫大丈夫~♪」

「謹んで。遠慮しておこう」

「うんにゃ、ざーんねん…」

 と言ってソファーに体を投げ、問答無用でニオイをかけてきたりしないあたり、今日の志希は大人しい日だ。

 見れば、目を閉じているあたり、もうこの話には飽きて昼寝でもする気分なのだろう。
 こうなったなら、話の続きを催促しても仕方がない。ボクも古い音楽でも聞いて、隙間の時間を潰していようか────と、そんな折、不意に通りかかる人があり。

「あ…飛鳥。…と志希、揃ってるな」

「うん?どうしたんだい」

「…お前ら、もしかしたらユニット組むかも知れないから、頭に入れて置いてくれ」

 と、外帰りらしく余所行きの身だしなみをしたプロデューサーが言い、素っ気なく帰って行く。

 …ボクが志希とユニット?
 まぁ、どうせインスタントの類だろうが────。

 なんとなく意外な気分になり、涎が漏れている志希の寝顔を覗き込んでみる。

 すると、片目を開けてこちらを見返し、にやと笑ってみせるので、ボクはほんの少しだけ戦慄した。


今日はここまで

面白い

期待


――――――――――――――…………


 それから数日が経つ。


 組むかもしれない。頭に入れておいてくれ。
 成る程、そんな適当な言葉に相応しく、未だボク達の下に具体的な話は回ってこない。
 最悪、彼の頭の中の思い付きを漏らしただけ――――などと冗談のつもりで想像してみたが、あながちありえない話ではないな、と思えてしまう事実に一人苦笑する。

 結局のところレッスンの内容が変わったりするわけではなく、これまでと同じく仕事をして、レッスンをして、そんな生活が続く────…というのに偽りはなかったが、それでも意識するモノはある。




「…よーしッ!今日はここまで!」

 トレーナーさんの張った声に打ち据えられて、ボクはそのままよろけてしまいそうになった。
 このまま床に倒れ込んでも咎められはしないだろう。が、そうしなかったのはボクの意地っ張りだ。
 そうしてふらふらと、水とタオルが纏めてあるタオルの方に向かう。…壁に寄り掛かるのなら多少の格好は付く。

「はぁ~~…疲れたねー汗かいたねー…んーハスハスー…」

「志希。どいてくれ、汗が拭けないだろう?」

「えー?勿体ない勿体ない♪今飛鳥ちゃんからは、あたしを興奮させる刺激的物質が分泌されててー」

「そうか、なら今は落ち着いて休むべきだと思うけど」

 何回も顔を合わせて、そのたびにこんなことをされれば流石に慣れる。
 ボクの他にも良さそうな人たちは居るだろう?…なんて台詞は思いつかないでもなかったが、こうしていると突き刺さってくる奇異とも同情ともつかない視線を鑑みれば、そうとは言い出しにくい心情も存在していた。
 トレーナーさんは最近志希がレッスンをサボらない理由はボクの匂いにあると踏んでいるらしく、全くされる覚えのない感謝を受けたのはつい先日のこと。
 そんな事情にレッスン終わりの災いも手伝い、結局強く抵抗する気力も湧かず、興奮物質とやらを大人しく提供し続けているのが今日に居るボクだ。


 …汗、そんなに良い匂いなのか。

 随分と飽きもせず、幸せそうな顔をボクの真横で浮かべる様を見届けていれば、そんな疑問も湧いて然るべきと言わせてはもらえないだろうか。
 こうやって息をしている限りでは特別感じるモノは無いが、同じように思いっきり嗅いでみればわかるものもあるのか?と、思いかけるが、そういえば志希はこの空間に居るだけでそれとなく興奮している節があるな。と気づき、直ぐになかったことにする。

 ダメだ、彼女と同じことをしては。
 今のところ、ボクは彼女に興味を持たれている人間の一人であるらしいのだから、だからこそ、奔放な彼女の事を、他人の目線として良く見ておかなければいけない。
 レッスンの最中だってそうだ、彼女は…天才でありすぎる。

 ユニットを組むかもしれないと言われ、多少ならず意識してみれば、先ず浮き彫りになったのが彼女の協調性の無さだった。
 アイドルになってそう経たず、まだ慣れていないから…という話ではない。致命的な、おそらく根の深いところにある彼女の性質だろうと思われた。
 今まではまだ誤魔化せる部分もあったが、本格的に周りと合わせるとなればトレーナーさんの方も黙ってはいない。
 志希の方も話を聞いてるのか聞いてないのかわからないのだから、周りもひやひやしたものだ。

 ではどうするかと聞かれれば、あちらが合わせてくれる保証などありはしないのだから、当然こちら側から歩み寄ろうという話になる。
 この発想については無言の満場一致が得られたので問題は無かったが……なかなかどうして。
 覚束無い初心者のフォローに回るというなら話はまだ単純だが、当然そうはいかないのが彼女の彼女たる所以に違いない。
 困ったことに実力は確かな一ノ瀬志希を相手取り、いつも以上に目を飛ばし、或いは追い付こうと、或いは足並みを揃えようと四苦八苦していれば、妙な連帯感が生まれもするし、思いがけずそういう訓練になったりもする。
 結果的にトレーナーさんはどこか満足そうな表情をしているのだから、面白い話もあったもので―――畢竟、「天才」という言葉は「怪物」とか何かと同義の言葉になって、その場を支配してみせるのだった。

「じゃねじゃね~また明日~♪いや今晩!」

「ああ、待ってるよ」

 志希はこのあと個人的に用事があるらしく、ボクの返事を聞くよりも先に去って行ってしまった。
 ともすれば嵐のようでもあり――――背後からほっと一息つくような声が聞こえれば、その感想も的を外したものではないのだと知れた。

「よ、おっつー!…うん、ほんとおっつ」

「変な体力使ったろ!ほら、残った水やるか?」

「結構。…もう慣れたものだしね」

「慣れたァ?…ヘッ、じゃあお前まで匂いフェチに感化はやめろってな!それだけ言っておく」

「あははっ、二人してかっこつけてんのー」

「あン!?」

「…ふふっ」

 居なくなれば好き放題な物言いも出てきたものだ。思い、苦笑する。

「なんだよ!お前もバカにされてるんだぜ!?」

「してないよー」

「ああいや、違うんだ…忘れてくれ」

「あん?わかんねぇやつ…」

 と、そんな言葉に無言の微笑だけを返しておけば、少しはミステリアスも演出できたものであろうか。
 ちらりと時計を見てやれば、もう時間かとの感想が降って湧く。
 こちらとしてはこの後特に予定があるわけではないが、とっとと戻るところに戻ってしまうのも悪い選択肢ではないかとも思われた。
 目の前に並ぶ顔二つを眺め、このまま不愛想を作ってこの場を切り上げるのも、出来ないキャラではないだろうと思いかけるも一瞬、「そういえばさー」と切りこんできた言葉に遮られ、ボクはそちらの方を見返していた。


「飛鳥チャン、志希サンと相性良いのってやっぱあんなことしてるから?」

「…相性?ボクと志希の?」

「ああ、正直言って、アタシはお前に合わせてた」

「あははっ、それある!アタシも拓海サンの匂い嗅いでたら相性良くなるかな?」

「やめろ気持ちわりぃ!」

「あ、トレーナーサンにも聞いてみたら?…もう居ないけどねー」

「……ふむ…」

 ボクと志希の相性が良い?ボクに合わせていた?…なるほど、意外な言葉だった。
 なにせ、ボクだって志希については精一杯になっていた自覚がああり、そううまくいっていなかった気分でいたのだから。

 それというのはつまり、そのまま彼女が言う通り、志希がボクにちょっかいを出したり適当にあしらったりを繰り返しているうちに、そういう波長が形成されていたりするものなのだろうか?
 正直なところ、まともに相手どれる自信が無いからそういう対応を極め込んでいる節もあるのだけど―――プロデューサーがユニットを組むと漏らしてきたのも、彼もこういう印象を僕らに抱いての事なのだろうか?
 彼女の事を考えると、それは名誉な事なのか、不名誉な事なのかどちらとも言い難い気持ちはあるけれど…。

「…うん。ちょっとお暇して良いかな?」

「ん、ばいばーい、また、…明後日だっけ」

「明後日だよ。じゃあな!」

 何か複雑で得体の知れない―――けど、悪い気はしない感情が芽生えたのを自覚したボクは、これを曖昧に抱えたままではどうにも周りと調子を合わせていられる気がしなくなって、その場は退散しておくことにした。


――――――…………

今日はここまで
頭っから構成を作り直したくなったりしたけどわたしはげんきです

待ってた!

SSR飛鳥引けなかったので失踪したらそういう理由だと思います

その思いを燃料にして書くんだ!

デレステの最新コミュで志希と飛鳥がめっちゃ可愛かった

申し訳ありません
療養期間に入るので一旦HTML化します(爆死)
多分帰ってきます

なん・・・だと?
面白かったのに残念

面白かったから、待ってるよー

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