みゃうりんがる (12)

男「猫と話せるようになりたい」

女「幾ら友人が少ないからといって、話し相手を間違えてはだめよ。男君」

男「いや、女さんだってコイツと話してみたいとは思わないのか?」

黒猫「ナーオ」スリスリ

女「思わないわ」

男「女さん、猫キライだったっけ」

女「好む、好まざるを問わず、愛玩動物と会話する気はないわ」

男「えぇ、じゃあなんだったら会話するの?」

女「ライオン、シャチ、熊、あとそう、宇宙人もいいわね」

男「どうしてそのチョイスなんだ?」

女「自分の脅威となる生物とは仲良くしておきたいじゃない」

男「動機が不純すぎる……」

女「あら、いたって純粋よ。彼らに襲われたときどうか見逃してくださいって言うの。そうすれば貴方が交尾しているときの写真を返してあげるってね」

男「それは純粋なる脅しだっ!でも、君の言う相手には通用しないんじゃ?」

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女「そうね、だから私は人以外と会話しないわ。価値観がずれていると疲れるもの」

男「君も変なところで苦労しているんだねぇ」ナデナデ

黒猫「ニャーン」

女「……」

男「あぁかわいいなぁ、コイツは」

黒猫「ニャン」

女「ご主人様の喉笛をかみ切りたいですにゃ~」ゴロゴロ

男「僕の飼い猫に妙な翻訳をつけるなよ!」

女「噂に聞くみゃうりんがる、になりきったのだけれど、お気に召さなかったかしら」

男「お生憎様、僕はもう購入済みなんだ」

女「浪費癖は身を滅ぼすわよ」

男「そんなに高くなかったよ。それに僕は貯金するタイプだし」

女「いいえ。得体のしれない機械を片手に、都合のいい翻訳が出るまで猫とじゃれついた時間は未来永劫取り戻せないわ」

男「お金じゃなくて時間の浪費ね……しかしどうしてそれが分かったんだ」

女「だって、信頼している相手から裏切られるのは怖いと思わない?

例えそれが言葉の通じない相手でも」クスッ

男「……」

女「そもそも、かわいそうな男君は猫と話すという前提が間違っているの。

書籍や映画で、異種族同士が同じ言語を話すのを見たことがあるでしょう。

互いに協力したり敵対しているけれど、あれって実は歪んでいるわ。

だって異種族同士が会話するメリットがないもの。

貴方、スーパーで並んでいる肉が悲鳴を上げて助けを呼んだら、食べようと思うかしら。

もしくは、腹をすかせた野良猫があなたに餌をねだるのはどう?

『お願いだ。飯を恵んでくれ』ってね。

邪魔だと思わない?

会話は便利な道具だけれど、反面、相手の感情が直接伝わってくるわ。

だから、疲れる。

事実、この世界に異種族同士で会話できる生物はいないもの。

コミュニケーション(意思疎通)をとっていると報告されているものもあるけれど

大半は互いに、無関心か、餌か、敵か、共生できるか、それだけの判断を下している。

つまり彼らのDNAはそれ以上の交流は利益にならないと、理解している。

逆に言えば、他種族と会話できる生物は滅びたのよ」

男「待って、その理論でいくと猫と会話をしようとしている僕も滅ぶぞ」

女「そうね。でも言語を理解するってとても難しいことだから、心配いらないと思うわ。

私たちが、言葉を開発してからの年数は未だ分かっていない。でも、何万年も前から存在していたのよ。それが時間をかけて洗練され今に至る。

猫の言語だって同じでしょう。人間のように高度な発展はしなかったけれど変化し続けている。それぞれが交わるのは容易ではない。

特に異種族の言語は暗号みたいなものだから」

男「暗号というなら、解けそうなものだけれど」

女「この場合は永遠の暗号とでも呼ぶべきね。たとえば世間一般で使われている暗号は、素数同士の掛け算が一通りにしかならないことを用いた暗号。

でも、それは解ける暗号だわ。スパコンを何台も併用して計算させれば、膨大な時間はかかるけれど解ける。それは当然ね、解けないと暗号は作れないもの。

でも、永遠の暗号は違う。それは人間の概念とはかけ離れたもの。

生物固有の概念が、骨となり

声量、音程、波長、振動数、のすべてが複雑に絡み合って肉となる。

たんに時間を掛けるだけでは解けないでしょうね」

ほう

NOeSISっぽい

男「じゃあ、このみゃうりんがるは……。」

女「まだまだ精度に問題があるわ。動物行動学と鳴き声で分析して、照合する仕組みだけれど、

それを人間の言葉に置き換えるというのは安直ね。

しかもたかだか数百語、しかも人間に沿わせた翻訳なの。

例に挙げると

私と 遊ばうよ

だいすき!

彼氏欲しいな~

キスしてよ!なんてものもあるわ。

何年も飼い主でいるほうが、より正確に猫の意志を感じ取れるでしょうね」

男「がーん……だな」

女「なによ、その雨に打たれた子犬みたいな表情は。保健所に連れて行かれたいのかしら」

男「じっさい、ショックだよ。なんだか裏切られた気分だ」

黒猫「ニャ?」

男「なぁ、お前は今なにを考えているんだ?」

黒猫「クッ」スタタタッツ

男「あっ行っちゃった…」

女「でもね、貴方のした行為は、意味のある行為よ」

男「なんでだ?みゃうりんがるは当てにならないんだろ」

女「行為の内容ではなく、行為の目的に意味があるの。

貴方、どうしてみゃうりんがるを買おうと思ったの?」

男「それは、猫ともっと意思疎通がしたいと思った、からかなぁ」

女「ふふっ。それを裏返すとね『信頼への疑い』になるわ。

この場合は、貴方とあの黒猫のね。

あなたたちは言葉は通じないけれどそれなりの時間、同じ空間で過ごしてきた。

ある程度、信頼が芽生えたでしょう。

でも、あなたはみゃうりんがるを見たとき、一抹の不安に襲われた。

実は、あの黒猫は自分が思い描いていることと全く別のことを考えているんじゃないか。

あの黒猫は、僕のことをどう思っているのだろうか。

それに耐えきれなくなった貴方は、なけなしのお金と引き換えに企業が与えてくれる偽りの安心を手にしたのよ」

男「話が読めないな。僕がいいように騙されただけじゃないか」

女「結果的にはそうかもしれないけれど、貴方は逃げなかった。

みゃうりんがるがなくても、この猫とは心が通じ合っている。

だから、必要ない。

そんなふうに理屈をつけて、信頼を疑おうとしない人にはならなかった。

自分が抱いているイメージを守ろうとして、理解することを拒否しなかった。

私の言いたいこと、すこしでも伝わるかしら」

男「うぅん。なんとなく」

女「信頼とは、相手を理解すること。

もちろんすべてを理解することはできないから、相手が見せていない部分は自分で補完することになるわ。

そうやって、私達は相手の人物像を描き出す。

でも、それは『本当の姿』とは、ずれがある。

そのずれを無視し続けたら……」

男「続けたら?」

女「裏切られることになるわね。相手を傷つけながら、それ以上に自分が傷つく。

そのあと血塗れになった自分を発見して、今までその傷を癒してくれていた仲間が一人消えていることを後悔する。それだけのことよ」

男「重い、でも僕にも心当たりはある」

女「そう、私にもあるわ」

シーン

女「その、こんなときに言いずらいことがあるのだけれど」

男「な、なにかな」

女「今の話、すべてでっちあげよ」

男「……えええええっ!?んじゃ今までの会話はなんのために?」

女「ちょっと猫に入れ込んでいたようだから、恋愛に発展する前に潰しておこうかと思ったの」

男「僕はケモナーじゃないし、君は嫉妬深すぎるっ!」

女「でも、彼女を放っておいて猫を愛撫する男君が私にはケモナーに見えたのよ」

男「そうか……そうかこれが『ずれ』なんだな」

女「男君?ふらついているけれどだいじょうぶかしら。普段がナマケモノだけに判断しづらいのだけれど」

男「女さん」ドンッ

女「急に押し倒すとはナマケモノ以下ね。けだもの」

男「だってずれを解消しなきゃ……だから脱がせてもいいよね」



このあとめちゃくちゃ罵倒された

おわり

>>6
なぜ分かった
NOeSIS面白かった(粉みかん)

読んでくださった方ありがとうございます!

おつおつ

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