二宮飛鳥「ボクに与えられたヒカリ」 (42)

これはアイドルマスターシンデレラールズのSSです。
独自設定がありますのでご了承を。

そしてこのSSでは、
「もし二宮飛鳥がいじめられていた過去を持っていたら」
という設定で書いていきますので、そちらもご了承を。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458144550

ボクは、一体何のために生きているんだろう。

学校の帰り道を歩いていると、ふとそんな疑問が頭に浮かんだ。
そんなネガティブな考えが突然浮かぶのも仕方ない、仕方ないのだ。
少ししわになったスカートの裾が目に入る。

今日も色んな嫌がらせを受けた。
体育の授業が終わったあと、着替えの制服を隠されたり。
それに対して抵抗したら、ビンタされたり。


ボクが通う学校に、仲間と呼べる人はいない。




ひたすらネガティブな思考を連鎖させていたら、いつの間にか家の前に着いていた。
持っていたカギで家の中に入ると、そこには母がいた。

「おかえりなさい、飛鳥」

母はこう言って、ボクの帰りを迎えてくれる。
こんなにあたたかい場所はない。

「・・ただいま、母さん」

ボクは少し笑って母へ挨拶を返した、はずだった。
母から返ってきた言葉は、予想もしなかった言葉。

「飛鳥・・・あなた、顔が怖いわ」

・・・・・・え?
ボクの顔は、笑ってはいなかった。
その代わりに、無表情で目を見開いた顔をしていたのだ。
簡単に言えば、生気の無い顔。
生きてる、ということを感じさせないような、そんな顔。

「・・え?・・そんな、母さん、そんな事ないよ。ボクは、大丈夫だから」

ボクはこれ以上指摘されるのが嫌で、走って自分の部屋に入った。
学校のバッグを下ろし、リボンを外して、Yシャツだけ残して脱いだところで、ふと部屋の鏡を覗く。
そこに映っていたボクの顔は、これっぽっちも笑えていない、まさに生気のない表情をしていた。

「ひっ」

思わず自分の表情に驚き、ベッドに飛び込んだ。
知らなかった、さっきボクはあんな恐ろしい表情を母にしていたのか。
ボクに唯一優しくしてくれる、母に。
それを思うと、罪悪感から涙が出てきた。
ベッドで体を丸めてすすり泣いているうちに、いつの間にか寝てしまった。

やめろ……やめろ……

ふと、夜に目が覚めた。

「くしゅんっ」

Yシャツと下着だけで寝ていたせいか、体が冷えてしまった。
携帯を見ると、メッセージ通知が1件。
母からだった。

「ごはん、おにぎりとお味噌汁よ。充分に温めてから机に置いておいたからね」

その短い文章なのに。
ボクはまた、罪悪感と感謝の気持ちで泣いてしまった。

「・・ありがとう、母さん」

そう呟いて、ベッドから起き上がった。
そして、母がつくってくれたあたたかいおにぎりを食べ、味噌汁をすすった。
ありがとう、母さん。

……何よりも美味しいよ、このごはん。

既存キャラに鬱設定をやたら加えたがるのなら最初からオリキャラでやればいいのに
その方が都合良くね?

次の日。
学校の様子は、いつもと変わらない。

ボクもいつもと変わらず、周りの嫌がらせに耐える。
決してこちらも手を出す、なんてことはしない。
そうしたら最後、喧嘩に発展し、しまいには先生に連帯責任という形で終わらせられるからだ。

この世界は理不尽だ。
何せ、被害者が損をする時代なのだから。
嫌がらせや暴力に対して手を出したりしていないのに、加害者が先生に対してうまいこと自分の罪を逃れ、
あるいは軽くし、結果、被害者が損をする。
そして、反省したと見せかけて加害者は、同じことを繰り返す。

……何故、世界はこんなに理不尽なのだろう。
加害者はそれ相応の罰を受けるべきなのに。

そんな世の不条理にイライラしながら、周りの嫌がらせに耐えるのだ。

耐える、耐える、耐える、耐える。………耐える。
耐える度、心の中に何かドス黒いものが流し込まれてくる感覚があった。
が、そんなことを気にしている暇はない、耐えるんだ、ボク。耐えろ。耐えろ…。

そうして学校という地獄を耐え抜いたボクは、放課後になると真っ先に帰路に着く。
身も心もボロボロになって、重い足取りで帰り道を歩いていたら、ふと公園にいた男性が目に入った。
スーツ姿のその男性は、電話で何か謝っている様子だった。

…そういえばあの男性、最近公園でよく見かけるな。何故公園で・・・?

…細かい事は考えないようにしよう。脳がストレスと疲れでパンクしてしまう。
ボクは疲れきった自分の体に鞭を打ち、小走りで家へと帰った。

今日は一旦ここまで。


期待

家に帰ってやることは、漫画を書いたり、ヘアアレンジをしている。
漫画も、ヘアアレンジも、今の自分とは全く違う自分を演出できることに楽しさがある。
漫画の中なら、ボクは勇者にでも魔王にでもなれるのだ。
ヘアアレンジだって、腕次第ではいくらでも違う自分になれる。

最近は、家の中でエクステをつけるのにハマっている。
学校ではそういう類の髪のアレンジは校則によってできないが、家に帰ってしまえばどうということはない。
好きなだけ、自分の思いつく限り、違う自分になれるというのが本当に楽しかった。

飛鳥君中の人と意外と近いよな

ある学校の休みの日。
ボクはいつも学校の帰りに通る公園でベンチに座り、音楽を聴きながら読書をしていた。
休みの日はヘアアレンジをして、お気に入りの服を着て、読書をしている。

ふと顔をあげると、どこかで見た男が目に入る。

「すみません、その件ではただいま…」

…また、あのスーツの男性か、よほどこの公園がお好きなようで。
ボクは特に気にすることもなく、読書に戻った。
読書をしていると、その本の中の世界に吸い込まれていく感覚がする。
まるで主人公が自分のような気分になり、あれこれと架空の世界で冒険をしたりする。
ボクはやっぱり現実のボクよりも、架空のボクが好きで。

「…こんな理不尽な世界と自分はもう嫌だ」

心からの思いをポツリと呟く。

「随分と怖い顔をしているな」

…怖い顔?そんなにボクは怖い表情をしていたのか。
また、前のような表情になって…って、え?

「聞こえてますかー?イヤホンしているから聞こえづらいのか…?」

目線をチラっと上に上げると、そこには先ほどのスーツの男性が立っていた。
しかし、読書中に話しかけられるのはあまり良い気分じゃない。
わかっている表情のことも指摘されるとなおさらだ。
頭のなかで不満をぶつぶつ思っていると、今度はトントン、と肩を叩かれた。

「ひゃっ…!?…っ、さ、触るなっ!」

パシッ、と反射的に手を払ってしまった。
しまった、と少し罪悪感を感じつつ、ボクはイヤホンを外して話に応じることにした。

「…ボクに何の用ですか」

「まぁ、そう構えないで。…隣、座っていいか?」

「……どうぞ」

するとスーツの男性は躊躇なくボクの隣に座ってきた。
…中学生の女の子の隣に躊躇なく座られれば、構えるのは当たり前だろ。

「いつもここで読書しているんだな、君は」

「…ええ、まぁ。落ち着くんで」

「今もだが、怖い表情をしている。何か、あったのか?」

「あぁ。…色々と、ね」

相当不満やストレスが溜まっていたのだろう。
ボクはその素性の全くわからない男性に、色んな不満をぶちまけた。
日々の生活の事、学校の事、理不尽な世界の事。
話せば話すほど、その言い方は男性に向かって吐き捨てるようになっていった。

気づけば夕暮れ。
ボクはようやく言いたいことを全て言い切った。

「…はぁ、っ、…はぁ…。」

「…よく耐えたな。お前は偉い。そして強いよ。」

偉い?強い?…おかしいな。
こんな、知り合いでもない男性に自分の不満を全部話して。
途中で何回も涙ぐんで。
それでも、自分の思いを話して、話して、話して。
そんなに簡単にボロボロと出てくるボクが、強いわけがない。偉いわけがない。

「…ボクはそんな大そうな人間じゃない」

「いーや違う。お前は強いんだ。強くなきゃ、お前みたいなところまで耐え続けるのは難しいだろう」

「…そんなもの、なのかな」

「そんなもの、だよ」

…そうか。
ボクは、早く楽になりたかったんだ。
ボクの気持ちを、みなそのままに受け止めてくれる人が欲しかった。
簡単な事こそ、簡単に気づかない。
そんな言葉を聞いたことがあったが、そのとおりだな。

「…そんな強いお前に、一つ提案があるんだ」

うつむいて、涙を拭っていると、男性は突然名刺を出してきた。

「…アイドルの…プロデューサー?」

「あぁ、そうだ。さっき、お前はこんな理不尽な世界は嫌だと言っただろ?
それなら、新しい「セカイ」に踏み出せばいいんだよ」

「新しい……「セカイ」…?」

「あぁ。それに、今のお前とは全く違う、新しい自分にもなれる!キラキラと輝けるんだ!」

「キラ…キラ…」

プロデューサをやっているその男の言葉1つ1つに、想像できないような魅力を感じた。
キラキラ。輝く。全く違う自分。理不尽な世界から、新しい、輝けるセカイへ。
それを語る男性の目はとても輝いていて、楽しそうで。

「…ボクにも、輝けるのかな」

気づいたときには、その言葉を口にしていた。
するとそのプロデューサーの男性は、ボクの手に名刺を差し出し、こう言った。

「輝けるかどうかはお前次第だ。しかしアイドルの世界というのは、今のお前の感じている「世界」とは
違う。アイドルの「セカイ」は、お前の今よりもずっと、楽しいぞ!」

ボクはその言葉を聴きながら、名刺を受け取った。
受け取ると、男性は残りの仕事をしなきゃと帰ってしまった。
しかしその去り際に、

「アイドルになりたい、そう決意したならその名刺の番号にかけてくれ」

と言葉を残した。

アイドル。
テレビでたまに見る、歌って踊って、話をしているアレ。
とてもキラキラしている人たちだな、と思った。
そんなボクがそのアイドルにスカウトされたというのだ、動揺せずにはいられない。

その後家に帰ったボクは、そのまま部屋へ直行してベッドに横になった。
この動揺が収まるまで休もうと思ったが、深呼吸しても、胸を何回も撫でてみても、
どくん、どくんと動く心臓の激しさは落ち着くことがない。

「…ボクなんかでも、輝けるのかな…」

プロデューサーの男性に渡された名刺を取り出す。
見てみると、かなり有名な事務所だった。
すぐにPCを立ち上げ事務所の詳細を調べると、真っ先に目に入った言葉があった。

「…本拠地は……東、京?」

その事務所は東京に本拠地を構えているというのだ。
ということは、あのプロデューサーはこの静岡に出張か何かで来ていることになる。
となると、単に出張の傍らで偶然見つけたボクに目をつけたということになるか。
…それならば、ボクとあのプロデューサーのこの出会いは「運命」と言わざるを得ない。

「……輝いて、違う自分になってやる。…変わってやるさ、絶対に」

スマホを取り出し、0、8、0の、……と。
…もしもし、先程公園で話した者ですが。
…名前かい?そういえば言ってなかったか。

「二宮、…二宮飛鳥といいます。」
「アイドルに、なってみたい」




一旦ここまで
ゆっくり書いていくので気長に待ってね


だめです
はよかけ

次の日、プロデューサーの男性がボクの家を訪ねた。
何の用があって訪ねてきたのか。
それは、その男性の勤める事務所は、東京を本拠地にしている。
そのためボクがアイドルとなる場合、この静岡を発たねばならないのだ。
そのことに対するボクの親への説明、そしてボク自身による説得のため訪ねてきたのだった。
ボクの親は、とても動揺している様子だった。

そんななか、プロデューサーの男性が説明を始めた。
ボクが故郷を離れて東京にある女子寮で生活をすること。
生活に不自由がないようにすることの保証。
あとは…正直、ボクにはまだ早い話だった。

「……で、説明を以上とさせていただきます」

彼が説明を終えて、しばらく沈黙が続いた。

「…飛鳥は、本当にアイドルになりたいの?」

口を開いたのは、母さんだった。

「…ボクは、本当にアイドルになりたいんだ」

何も考えていなかったけど、口を開けば自然と言葉が出てきた。

「一番は、今の自分を変えたい。そして、テレビで見たアイドルみたいに、ボクも輝きたいんだ」
「今の惨めなボクを救ってくれたのは彼なんだ。彼が言う、ボク自身の可能性を信じてみたい。お願い、母さん」

喋っているうちに、自然と涙が流れていた。
親も、心底驚いている様子だった。
それもそのはず、今まで強くモノを言うことがなかったボクが初めてモノを強く主張したのだから。

「…父さんは、どうかな」

父さんは柔らかな性格だが、今回は難しい顔をしていた。

「……飛鳥」

「…はい」

「……応援しているぞ」

「…っ!……うん、父さん!」

父さんはそれだけ言って、席を外してしまった。
母さんも承諾してくれて、ボクは晴れてアイドルとなった。

ボクは、故郷を離れてプロデューサーと東京に訪れた。
今日からボクはこの東京で、輝くアイドルを目指すんだ。
最初に、プロデューサーと一緒に事務所を訪れた。
事務所はパソコンで調べた時に見たものよりもとても大きく感じた。

「どうだ、飛鳥。ここでお前は輝いていくんだ。感想とかは?」

ボクはぽうっと頭に思い浮かんだ言葉をそのまま口にした。

「…とても大きいね、ここが…フフ、そっか、ここがボクのスタート地点なのか」

その事務所はアイドル育成を中心としているプロダクション。その名を「美城プロダクション」。
みしろ、と読むが、アイドルたちには3、4、6を「みしろ」に当てはめて、「346プロダクション」
と呼ばれるとか。

そんなことを思いながらプロデューサーについていっていたら、プロデューサーは何かの手続きを済ませているようだった。

「さぁ、飛鳥。お前はこれで晴れてこの美城プロダクションのアイドルだ。」

「そうだね。で、次はどこへ行くんだい?」

「もう日も暮れてきたし、女子寮だよ。車に荷物詰んだままだっただろ?」

「そういえばそうだったね。さぁ、戻ろう、プロデューサー」

少し小走りで車に戻るボク。
無意識に今の状況を楽しんでいたのだろう、あまり表情を変化させないボクは、
少しだけ笑っていた。



ボクがアイドルになってから、はや1週間が経とうとしていた。
この1週間は毎日とても忙しく、レッスンもある程度は覚悟していたが、とても厳しいものだった。
女子寮での生活も、初めは人をなるべく避けていたんだ。
何せボクは、昔から人を避けて生きてきたから。
学校なんかで人と会えば、嫌がらせか面倒事を任されるくらいだったしね。

だけれどある日の夜に部屋で休んでいたとき、ある1人のアイドルがボクを訪ねてきた。

「夜にごめんなさい、まだ起きてる…よね?」

極力女子寮内でも人が怖くて避けてきたのに、人が訪ねてくるなどもの好きなアイドルもいるものだ。
そう思ってはい、とだけ答えてドアを開けた。
そこには長く明るめな栗色の髪をまとめてもなお長いポニテ、非常に活発そうな雰囲気をまとった、とても可愛い女の子がいた。

「若林智香と言いますっ!あの、二宮飛鳥ちゃん…だったよね?」

支援

「…君は確か…」

ボクは呆気にとられた。
なるほど「元気」という言葉がよく似合うアイドルだ。
しかし夜、まぁよく元気に活発にいられるものだ、
ボクにここまでの元気さは体を絞っても出ないだろう。

「うん、私もつい最近アイドルになったんだ、よろしくねっ☆」

あぁ、ウィンクが眩しい。
例えるならそう、太陽だ。
夜に昇る太陽とはこれいかに…っと、そうじゃない。
ボクはぼうっとしていた頭をなんとか起こす。

「あ、あぁ、智香…かな、よろしく。…で、ボクに何か用かい?」

「実は…飛鳥ちゃん、ここに入ってきてからずっと元気ない様子だったから、心配になっちゃって様子を…」

あー、そこまでオーラが外に出てたのか。それならば1人は心配する人が出てきてもおかしくない。

「そうだったのか、わざわざ心配かけてすまなかった。ボクは大丈夫だから」

そういったボクの声は、自分でも驚くほど生気の感じられない声だった。
と、なると当然智香は…。

「飛鳥ちゃん、全然大丈夫じゃないよそれ!なんとか元気を出させなくちゃ…あ、そうだ!ちょっと待っててね!」

風のように部屋を出て行く智香。
・・・なんていうか、全てが眩しいな。
さっきも思ったけど、やはり彼女は「太陽」だ。
彼女の元気さに面くらってぐったりしていると、智香が戻ってきた。はやいなぁ。

「飛鳥ちゃんお待たせっ!これ、私も使ってるアロマだよ!どうぞ♪」

智香が渡してきたのはアロマポッドだった。
花びらの形をしており、それに繋がっている太い紐が香水を吸って花びらが色付きながら香りを楽しめるというもの。

「・・・ありがとう。大切にするよ。あと、もう一つ」

「ん?何かな?」

「ボクのことは、心配しなくていいから」

もう彼女を心配させまいと言った言葉。

智香の顔を見ると、彼女はとてもやりきれないという表情をしていた。
おそらく心配事がなくなったので安心したのと、
本当に大丈夫かなという不安の混じりあった表情。

「・・・そっか、もう大丈夫だよね。・・・本当に、大丈夫だよね・・・?」

うう、上目で言われたら、なんだかこのまま帰ってもらうのも申し訳なく感じる。
・・・でもたまには、夜に人とお話をして過ごすというのもまた一興、かな。

「・・・ごめん智香、このまま1人じゃ心細いから、消灯時間までお話しないか?せっかくだし、親睦を深めようじゃないか」

「・・・・・・!」

そう言うと、智香はみるみるうちに笑顔になった。
なるほど、彼女は世話を焼きたいのか。面白いなぁ。
なんだか心がほっこりとした。
よかったよかったとホッとしていたら、突然手を握られた。

「あのっ!お話なら、アイドルになる前の話しませんか?私、アイドルになる前はチアリーダーをやってて―」

「あぁ、・・・うん、・・・そうなのか・・・」

話の勢いが強すぎて、相槌しか打てないような会話をボクたちは消灯時間まで交わした。
ボクは話を聞いているとき、こちらまで楽しい気分になっていた。
こんな初めての感覚を感じさせてくれる智香を、きっとボクは気に入ったのだろう。

「これからも頑張ろうね、飛鳥ちゃん♪」

「うん、互いに高め合っていこう・・・!」

ボクたちは互いに固い握手を交わした。






アイドルになる前のことを考えると、自分はなんと充実した人生を送っているんだろうと思う。
あれからボクは女子寮の色んなアイドルとも打ち解けてゆき、特に若林智香とは一緒にごはんを食べに行く程の仲になった。
そしてある日、ボクと智香が集められてプロデューサーから言われた言葉。
それが「ボク達」の第一歩だった。

「飛鳥と智香で、ユニットを組もうと思う」

突然に発せられた言葉だったが、そこまで驚きはしなかった。
あとで智香に言われたことだが、女子寮内でのボクと智香の仲の良さはよく噂されるほどだったという。
それが今回の人選の理由と考えられる。
なんだか恥ずかしい、というのが正直な感想だ。

「私と飛鳥ちゃんでユニット・・・!いいと思いますっ!私、賛成です!飛鳥ちゃんは?」

「ボクも、智香とならやっていけると思うよ」

「! ということは、プロデューサーさんっ・・・!」

「あぁ、決まりだな。ユニット結成だ!」

智香はキラキラと輝いた目でボクを見た。
やれやれ、相変わらず眩しい目だ。

「・・・その目の輝き、これからももっとボクに見せてほしいな」

「簡単に言ってみて!」

「これからもユニットとして友達としてよろしくお願いするよ」

「ふふっ、よく言えました♪」

智香はそう言ってボクの頭を撫でた。

「ちょ、智香、あまり強く撫でないでくれ―」

こんな感じのボクらが、ユニットというまた新しいカタチでアイドル活動ができる。
そのことがボクは嬉しかった。

「―コホン、ユニット結成にあたって、決めなければならないことがある。二人には、それを考えてきてもらいたい」

示し合わせてもないのに、偶然声が合わさった。

「「ユニット名だねっ!(だね?)」」

「・・・よし、息はピッタリだな。今日はもう遅いし、女子寮で考えてきてくれ。明日の朝、案を俺に提出するように」

「「はい!」」

ボクと智香は顔を見合わると、急ぎ足で事務所を後にした。
・・・そういえば晩ごはん、どうしようか。

…晩ごはん、どうしようか。
ボクがそう思ったら、智香が同じことを口に出してきた。

「飛鳥ちゃん、ごはん、どこかで食べていこっか?」

なんと。
以心伝心とはこういうやつなのか。

「…ボクもそう思っていたところだよ」

今からごはんを食べて帰っても、女子寮には門限に余裕をもって帰れる。
それだけ確認できれば安心だ。

「そうだったの!じゃあ、どこに行く?」

ボクは周りを見渡す。
光る街並み。ところどころに食事ができる場所はあるが、食べるからにはなるべくその欲求を満たしたい。
ボクは今、何が食べたいんだろう。

「うーん……」

ボクが唸ったまま固まっていると、智香が先に提案してきた。

「じゃあ、レストランでもいこっか!たまには少しオシャレなところにでも、ね☆」

「なっ、…珍しいね、キミならばここでファミレスを提案していたと思うが」

「たまにはいいじゃないですかーっ♪飛鳥ちゃんもオシャレなレストラン、嫌いじゃないんでしょ?」

「…まぁね。店内に流れてるジャズとかが落ち着いて食事をさせてくれるんだ」

「よーし、そうと決まったら行こう、飛鳥ちゃん!」

「そんなに急ぐものじゃないだろう、レストランは逃げないよ?」

小走りになる智香、ペースを崩さず歩くボク。
やはりボクは、この空気が好きなんだな。
それを今、再確認できた。

「飛鳥ちゃーん!ほら、こっちこっち!」

そのまま歩いていたら本当に智香が先に行ってしまったようで、もうレストランの下にいた。

「…急がなくてもいいって言ったのに。…さてはおなかが減って仕方がないとか?」

「えっ!やっぱり分かっちゃうかぁ~…。でも、それは飛鳥ちゃんも同じことだと思うよ?」

智香がニヤリと笑うと同時に、ボクのおなかがきゅう、と鳴った。
く、見抜かれていたか。

「…いいから、早く中に入ろうか」

「はーいっ♪」

支援

さて、レストラン店内。
ボクたちはそれぞれ、食べたいものを食べていた。
智香はパスタ、ボクはハンバーグ。
そしてそのあとに二人一緒にパフェを頼んだ。
甘いものは別腹、というやつである。

「おまたせしましたー」

2つのパフェがテーブルに置かれる。

「わぁ、飛鳥ちゃんはティラミスパフェ!なんかイメージに合ってるねっ☆」

「智香だってシンプルなパフェだけど色々のっている。パッション、というのかな、そんな感じがする」

「えへへ♪あむっ……美味しい♪」

「…うん、甘すぎず美味しい」

しばらくパフェを堪能してから、ボクは話を切り出す。

「さて、ここでもうユニット名について決めてしまおうか」

「うん、こういうところでのお話って落ち着いてできるよね♪」

「ふふ、智香はボクとよく気が会うらしい。…で、どうしようか?」

「ノープランなんだ…。ベタなところで名前をうまいこと合わせたり、とかかな?」

「アスカとトモカ…。…駄目だ、ボクには良い組み合わせというものが見つからない」

ボクは腕を組んで唸る。
なかなか難しいものだ、ユニット名にはよく英語を使ったりするが、ボクの中学英語ではうまくできなそうだ。

「なら名前を組み合わせるのは駄目かぁー…。ならアレはどうかな?それぞれのイメージを合わせるの!」

「イメージ、か。智香はやはり、チアのイメージだ」

「飛鳥ちゃんは、やっぱりクール?ビター?うーん…どっちもかな?」

「ビターか…。…いいことを思いついた。智香、キミのイメージの「元気」を味として「甘い」と例えてみよう」

「うんうん」

「そしてボクが「苦い」甘くて苦い…。」

「甘くて苦い…?」

ボクはあえて言葉に出さず、レストランのメニューの中の、1つのデザートを指差した。

「アフォ…ガード…?」

「そう、アフォガード。エスプレッソの「苦味」にアイスの「甘味」…ボクたちにぴったりだと思わないかい?」

「確かに…!飛鳥ちゃん、すごいっ!レストランにきて正解だったね!」

「フフ、良いヒントが近くにあったね」

突然、智香が何かに気づいたようにハっとした。

「そ、そういえば飛鳥ちゃん…エスプレッソ飲めないんじゃなかった!?」

「アフォガードの場合はアイスで中和されるからいいんだ!」

そこで注文していたアフォガードが1つ、テーブルに乗っけられる。

「智香、どうぞ。ボクからの追加のデザートさ」

ボクはお返しだと言わんばかりに指を指す。

「私、流石にもう1つは入らないよ~…。…そうだ、飛鳥ちゃん!アフォガード、一緒に食べよっ!」

「ボ、ボクもかい?構わないけれども…」

「ユニット名は「アフォガード」で異議なしっ!私達2人のユニット名なんだから、2人で味わおうよ!」

「なるほど、それは良い考えだ。納得したよ」

そしてボクたちはアフォガードの味を楽しんだ。
甘くて、でも苦くて。でもそれが、とてもマッチしていて。
それと同じように、こうして智香と一緒にいる時はとても心地が良い。
我ながらナイスアイデアだったな、と誇らしげになるボクだった。



アボカドと呼ばれるかアホガールとしか呼ばれない未来

次の日の朝、事務所内の部屋にて。
ボクと智香は昨日のユニット名の案をPに提出をした。
それを見てPから発せられた言葉はというと…。

「あー、アフォガードね、アイスにエスプレッソとかかけるやつ。なんかさ、アホとか呼ばれそう」

「「誰がアホなんだ!(ですかっ!)」」

ボクらはここぞとばかりに息を合わせたツッコんだ。

「いや、すまない、冗談だって!」

「…それならばいいのだけれどね」

「それで、この名前で決まりですよねPさんっ!」

Pはしばし悩む仕草をしてから答えた。

「…良い名前だ。これで上に提出してくるよ」

すぐ終わるから待機していてくれ、と残してPは部屋を出て行った。
しばらく沈黙が続く。
そしてボク達はハッとしたように互いに顔を見合わせた。

「…今のPの言葉と行動……ということは…」

「飛鳥ちゃん…!やったね!私達、きっとあの名前でやっていけるよっ!」

ボク達が喜んでいたところ、間もなくPが帰ってきた。

「Pさん!私達…!!」

智香が目をよりキラキラさせて聞く。

「…うむ、君達のユニット名は「アフォガード」に決定だ!上も承諾してくれたよ!」

「やったぁ!!飛鳥ちゃんっ!」

智香がボクの手を握る。

「私達、これから2人でキラキラしに行けるんだよ!2人でっ!」

「あ、あぁ…。……あぁ!ボク達はボク達のセカイで、輝きを手に入れんと羽ばたくのさ!」

「頑張ろうね、飛鳥ちゃん!」

「勿論だよ、智香」

そこで、Pの話が割って入った。

「えー、そしてもう1つの決定事項がある。」

「何だい、それは」

Pは大きく息を吸って、もったいぶるように溜めてから発表した。

「ユニット正式決定に伴い、ミニライブデビューが決定した!」

「ライブだって?それは…いつの話だい?」

「おう、今から1ヶ月後ってところか。ユニット曲もつくっている途中だから、それまでレッスン漬けになると思う」

「そうか…やっとアイドルらしい事ができるらしい、心の中で燃えているよ。智香もそう…って、智香…?」

「…うぅっ…ひく…」

隣の智香を見ると、彼女は泣いていた。

「…智香?キミ、何故泣いて…」

「う、ううん、大丈夫。私は大丈夫だよっ。嬉し泣きなんだ、これ」

「アイドルになって、飛鳥ちゃんと出会えて、ライブに一緒に出れて。幸せだなぁって考えたら、つい…」

「そうだったのか…。智香、ボクもキミと歌えることを嬉しく思うよ。最高のライブデビューにしよう!」

「うんっ!」

そう言って智香はボクの肩に抱き寄ってきたのを受け止め、背中をポンポンと優しく叩いたきながらPに問いかけた。

「それで、P。これからのスケジュールはとなると…?」

「あぁ、先ほども言ったとおり、レッスンルームでレッスンに明け暮れることになる。曲はもうすぐできるだろうから、それまで基礎をしっかり磨く事。」

ボクは智香を離し、智香も表情をキリっとさせた。

「それでは2人とも、明日から忙しくなるだろうが、頑張ってくれ!」

「「はいっ!」」

ボクらのアイドル活動の歯車は、これから回り始めるのだ。

「飛鳥、もっとステップ踏んで!テンポを崩すな!」

「はいっ!」

ボクと智香によるユニットの、ミニライブが決まった数日後。
ボク達2人は日々レッスンに明け暮れていた。
その時は、ダンスレッスンを行っていた。

「よし、少し休憩にしよう。水分補給しっかりな!」

ボクは息が切れそうになって、壁に座り込んだ。
足がガタガタと震えていて、悲鳴をあげているかのようだった。
それもそのはず、ボクという人間は「運動」というものが好きではなかったのだ。
それでも今は、少しずつ自分が体力をつけていっているという実感がある。

ボクは、もう昔のボクじゃない。様々な面において強くなっている。
そうと思える自分が嬉しくって、つい笑みをこぼした。

「一人で笑って、どうしたの?飛鳥ちゃんっ」

智香は息が少しあがっているが、ボクほどの疲れは見てとれない。
やはりチアーをやっているのだから、体がレッスンに追いついていけるのだろう。羨ましい。

「あぁ…智香。何、アイドルになる前のボクと今のボクを比べていたら、ね」

「…そうだね、飛鳥ちゃん、強くなったよね。えらいえらい♪」

突然に頭を撫でられた。
…あまりこういうことをされるのは正直恥ずかしく、好きじゃない。

「…あまり子供扱いされるのは好きじゃないな」

「ふふっ、それでもまだ私より年下だよ?」

「もう休憩は終わりだぞ!さっきのステップのところからもう一度やるからなー」

もう休憩終わりか、話していると時間が経つのが早く感じる。
人の時間感覚とは、不思議なものだ。
さてと、もうひと頑張りだ。

ボクらの存在論の完成は、もうすぐなんだ。

「…よし、そこまで。」

トレーナーが手を叩く。

「二人ともよくやった。完璧までとはいかないが、これでステージでも充分なパフォーマンスができるだろう」

「……やっ、た…」

「…やったね飛鳥ちゃーんっ!これで、堂々とライブに出れるよっ!」

「わ、智香、強く抱きしめすぎ…苦しい…」

ボクと智香の2人のユニット「アフォガード」は、本番前日、最後のレッスンを終えた。
アイドルのレッスンというのは、想像よりずっと厳しいものだったと思い知ったのがレッスン初日の事。
かといってそのレッスンも続ければ少しは慣れてくる。が、そのまま楽になってくるということはなかった。
それも当然の事、ダンスやボーカルなど、レッスンは続くにつれどんどん難しいものになっていくのだ。
しかしそれらの積み重ねが、ボク達がパフォーマンスをできる力を与えてくれている。
頼もしい事このうえない。

「「トレーナーさん、レッスン、ありがとうございました」」

ボク達はトレーナーさんへ挨拶し、着替えるべく足早にレッスンルームをあとにした。

そして更衣室。
ジャージを脱ぐと、汗が引いているのも相まって少し寒気がする。

「あれ、飛鳥ちゃん、寒いかな?大丈夫?」

「いや、汗が引いてきて冷えただけだ、問題ないよ」

「そっか。体調管理、しっかりね?」

お互いしばらく無言のまま着替える。
空気が少し重くなるのを感じた。

「…智香。1つ、頼みがあるんだ」

「頼み?…何かな?」

「…今夜、寝る少し前でいいから、ボクの部屋に来て欲しい」

「うん、いいよ。ライブ前日だし、不安もあるよねっ。お姉ちゃんが話を聞いてあげよう♪」

「割とリアルな姉妹の年齢差だから困るなぁ」

「ふふっ♪ほら飛鳥ちゃん、早く着替えないと!」

智香にポンと肩を押され、ピクリと反応するボク。

「うん、そうだね。待たせてすまない」

ボクは急いで着替え、智香と一緒に更衣室を出た。


…ボクの肩の震えは、智香にバレなかっただろうか。


そんな不安が、頭の中にもやもやと残っていた。

支援

その夜、女子寮にて。
ボクは自分の部屋で特にすることもなく、そわそわしながらじっとしたりうろうろ動き回ったりしていた。
そのとき、誰かがドアをノックした。

コン、コンコン。

「はい、誰かな」

落ち着かない動きからパタパタと向かってドアを開けると、そこには智香がいた。

「やっ、きちゃった☆ 早かったかな?」

「早すぎるくらい。だってまだ21時だよ?」

ボクはとりあえず智香を座らせ、お茶を出そうとした。

「あ、お茶は大丈夫だよ!だってこれから…」

「…これから?」

「一緒にお風呂行こうかなって、ね?」

「……好きだね、ボクとお風呂入るの。わかったよ、準備するから少し待ってくれないか」

「はーいっ」

ボクはお風呂に入る準備をしだした。
ユニットを結成する前から、智香と一緒にお風呂に入る事はよくあった。
湯舟に浸かり、一日の内容、レッスンの事などの反省などを話し合うのだ。
その時間は実に有意義なものであり、ボクの心を穏やかにするものであった。
つまりは……その時間がボクは、好きだ。

「…お待たせ、それじゃあ行こうか。忘れ物、ないかい?」

「うん、大丈夫。いこっか!」

部屋の明かりを消し、鍵を閉め、浴場へボクらは向かった。

「はぁ~、極楽だね~♪」

「あぁ、一日の疲労が飛んでいくよ…」

湯舟に肩までしっかり浸かると、疲れがじんわりととれていく。
ボクは、この心地良い時間が好きなのだ。

「飛鳥ちゃん、やっぱりエクステないと違和感あるよね…」

「そういう智香だって髪がお湯につかないようにまとめてまとめて、それでやっとという感じだろう?」

「えへへ…私ってとても髪が長いから、けっこう大変なんだ。飛鳥ちゃんは短めで楽そうだなぁ…」

ボクは自分の髪の毛先をくるくると弄ぶ。

「そうかな、ボクも少し髪を伸ばそうかなんて思っているよ?セミロングで、エクステは少し控えめにね」

「わぁ、それ素敵っ!」

「だろう?」

それ以降、会話が止まってしまった。
しばらくしてから、ボクは他愛のない会話から痺れを切らしたように智香の方に体を向けた。

「智香、本題に入ってもいいかい」

智香は笑顔で頷いてくれた。
ボクは湯船から上がり、浴槽の縁に座ってから話し出した。

支援

「…明日のライブが不安なんだ。レッスンで覚えたことがしっかり出せるかどうかとか、
歌詞が飛んでいかないかとか。正直、不安に押しつぶされてしまいそうなんだ」

「…不安……」

「そもそもとして、ボクがこんな明るみに出てアイドルというものを続けられているのすら奇跡に思えるんだ。
以前にも話したとは思うが、ボクはアイドルになる前は皆から…」

そこまで言ったところで、智香がボクの太ももを指でつついてきた。

「その事はもう簡単に話しちゃダメ。その頃の飛鳥ちゃんは別人なんだからっ」

「今のボクとは…別人…?…いや、以前のボクからはまだ変わりきれていないんだ。
それで別人と言えるほど、ボクはまだそこまで成長していないんだ…」

「…ねぇ、飛鳥ちゃん?私の特技って何だと思う?」

智香がボクの隣に座って聞いてきた。
…何故、今それを聞く?
そう疑問に持ちながらも、とりあえず答えることにした。

「…応援、だろう」

「そうだねっ。私は応援するのが好き。それで、他の人が頑張れたと言ってくれたらすごく嬉しいよ。
…だから、緊張してもいいよ?不安になってもいい。その度、私が応援して、緊張や不安なんて飛ばしてあげるから。
そのために、私の得意な応援があるんだっ!」

「…智…香……。」

ボクは涙を流していた事に気づき、急いで涙を拭った。

「涙も流していいんだよっ。これまで泣くのを我慢してきたんだよね、でも今は好きなだけ泣いていいんだよ。
人はね、涙を流すたびに強くなれるの。泣いて落ち込んだあとには、私が応援してあげる。元気を分けてあげるっ」

智香はとても慈愛に満ちた笑顔でボクを見つめてくれた。

「…智香」

「ん?何かな?」

ボクは智香の膝に突っ伏して泣いた。
もう、今まで我慢してきた分も泣いて泣いて泣いた。
涙と一緒に、弱かった過去の自分を洗い流すように。

「……落ち着いたかな、飛鳥ちゃん」

「…ありがとう、智香」

「ふふっ、よかった。じゃあお願いがあるんだけど…お風呂、そろそろあがろうよ~…のぼせちゃうよっ」

「すっ、すまない、じゃあ、すぐあがろうっ」

突然の空気の変わり様にボクは焦ってお風呂からあがった。
長い間湯につかっていたからか、体が少し軽く感じた。

「…智香、本当にありがとう。ささやかすぎるお礼だけど、キミの髪を乾かそう。長くて大変だろう」

「飛鳥ちゃん…ありがとうっ!いつも乾かすのに時間かけていたの、見られていたかな?」

「…うん、いつも君が一番使っている時間が長かったよ」

そんな他愛ない日常会話をして、ボク達はそれぞれの部屋に戻った。
部屋を出る前のボクとは最早違い、すっかり安心して床につき、寝息を立てるボクだった。

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LIVE当日。
ボクと智香は既に衣装に着替え、舞台袖でステージを待っていた。

「…もうすぐだ、ボクたちのステージが」

「うん、いい具合に緊張してきたよ〜…」

智香は早く動きたいとウズウズしていた。
ボクは初めてユニットの良さを知った。
確かに緊張もしているし不安だ。けど、その緊張や不安を分かち合える。
分かち合えるから、ユニットとして頑張れる。そういう気が湧いてくる。
今なら何でもできそう、とボクは柄にもないような事を思った。

「飛鳥!智香!」

「Pさんっ!」

智香が待っていたと言わんばかりにPに駆け寄った。

「P、キミがきたということは…」

「あぁ、時間だ!2人とも、これまでの成果、精一杯お客さんに見せてこいっ!」

瞬間、智香の目がキラキラと輝いた。
そしてその目がこちらを向いた。

「飛鳥ちゃんっ!……私たちの世界を、見せにいこうっ☆」

「っ!」

世界。
瞬間、ボクはその単語に心を打たれた。
そして一つ、深呼吸をする。

「…そうだね。フフッ、アフォガード…か。………往こう、智香!ボクらの甘く、ほろ苦いニュー・ワールドへ、客を残らず招待しようじゃないか!」

「……!うん、往こう、飛鳥ちゃんっ!」

ボクと智香は手を繋ぎ、ステージの光へと走り出した。




LIVEが終わったあと。
ボクと智香は、解体作業中のステージを見つめていた。

「……素晴らしいステージだったよ」

「あっ、P!」
「…プロデューサー」

Pはボクらにスポーツドリンクをくれた。
ドリンクの冷たさが疲労を冷やしていく。

「…智香、どうだったか?飛鳥とユニットをやってみて、何か感じたか?」

「はいっ!飛鳥ちゃんはクールだから、私の性格とではあまりうまく組み合わせることは難しいと思っていました。…でも、こうやってライブをやってみて分かりました。
……私、改めて飛鳥ちゃんとならやっていけそうですっ」

ボクが随分と褒められてしまった、何だか恥ずかしい。だけど、そういう智香の笑顔はとても眩しいものだった。
ボクもいつかは、あのように眩しくー。

「…そして、飛鳥。」

ボクは視線をゆっくりとPへ向けた。

「…あの時の自分からは、変われたか?」

あの時の自分。
弱く、いじめられていたあの頃。
できれば思い出したくもない過去だったが、今ではー。

「変われた。…けど、変われきってないかな。あの頃からのボクとは確かに変われたけど、本当に変われたと思ったときは、それはボクらがトップアイドルになった時なんじゃないかと思ってるよ」

「…見違えたな、飛鳥。俺は嬉しいよ。あの頃の飛鳥は暗くて、何というか近寄り難い雰囲気だった。だが、今では…」

「当然さ、P。でも、感謝をするのはボクの方だ。ボクを輝かせてくれたのは、キミなんだから…」

「…飛鳥ちゃんっ」

智香がボクの手を握ってきた。

「これからも、一緒に輝いていこうねっ!」

「っー…!」

ボクは2人に背中を向けた。涙を見られぬように。


…ありがとう、智香、プロデューサー。


ボクにヒカリを与えてくれた人達。





おしまい
マイペースマイペースいってたら書き始めてから完結まで2ヶ月もかかってしまった…
さっさとHTML化依頼してきます



乙、良かった
この二人の別の話も読みたい

いじめっ子再登場かと思いきや

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