聖「私の歌を聞いてくれる人」 (28)
前の
茄子「世界で一番幸運な私」
茄子「世界で一番幸運な私」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454938732/)
寺生まれのPさんとか、微妙にイカれてる茄子さんとか、微妙におさないよしのんとか、ふじともとかがでます
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455549520
朋「ねぇ、プロデューサー」
モバP「なんだ、また面白いものでも見つけたか?」
朋「いや、そういうのじゃなくて、ちょっとした相談なんだけど」
朋「茄子さんが新しく女子寮に入ったじゃない?」
モバP「ああ」
朋「で、その部屋が私の隣なのよ」
モバP「そうだな」
モバP「知り合いは近いほうがいいだろ?」
朋「ええ、それに関しては感謝してるわ」
朋「茄子さんの部屋に遊びに行ったり、遊びに来られたり、あたしと芳乃ちゃんの二人だ
けだった頃より賑やかになったわ」
モバP「ならよかったじゃないか」
朋「……それはいいんだけど」
朋「問題は深夜とかに変な声が聞こえるようになったのよ」
朋「茄子さんが来た後からね」
モバP「……変な声?」
朋「ええ」
朋「ふと、深夜とかに目が覚めちゃうことがあるんだけどね」
朋「そのとき、隣の部屋から『ふふふ……』って笑い声が聞こえてくるのよ」
朋「……たぶん幽霊かなんかだと思うからちょっと『破ぁ!』ってやってもらえない?」
モバP「そんな便利屋みたいな」
朋「あんたは十分便利屋でしょ」
朋「この事務所だって、あたしたちの女子寮だって、それのお陰で安く買えたんでしょ?」
モバP「……まあ、確かになぁ」
朋「曰く付きで安く売られてるものを買って除霊するなんて、普通はできないわよ」
モバP「……まあいいや」
モバP「それでなんだっけ、変な声だっけ?」
朋「ええ」
朋「……正直怖いから何とかしてもらえないかしら?」
モバP「なんとかするも何も……それって茄子の声じゃないのか?」
朋「あ、やっぱり?」
モバP「やっぱり、って」
朋「いや、あたしも多分そうなんだろうなぁとは思ってたわよ」
朋「……ただ、本人に笑うのをやめてっていうのも気がひけるじゃない?」
モバP「普通に迷惑なら言ってもいいと思うけどな」
朋「茄子さんも色々あったし……きっと、その笑いもうれしくて笑っちゃうものだと思うし」
朋「ちょっと怖いくらいならあたしも我慢できるから」
モバP「そうか……」
モバP「……ん?」
モバP「じゃあなんで相談したんだ?」
朋「いや、全部霊の仕業で解決したら楽ね、って思って」
モバP「……」
茄子「戻りましたー」
芳乃「戻りましてー」
朋「あ、お疲れ、二人とも」
モバP「お疲れ、どうだったレッスンは?」
茄子「体を動かすのはとても楽しいものでしたー♪」
芳乃「茄子殿は限界を超えるまで動き続けていましてー」
芳乃「動きすぎて倒れた後に笑う茄子殿は何かに取り憑かれたようでありましてー」
茄子「最近ぜんぜん体を酷使してませんでしたから」
茄子「楽しくて楽しくて仕方なくて……倒れるのも楽しくて」
モバP「それはおかしい」
芳乃「こわいのでして」
茄子「うふふ、ごめんなさい」
茄子「でも芳乃ちゃんのお陰で助かりました――優しく介抱してくれましたから」
芳乃「えへん」
モバP「ああ、そうそう、茄子」
茄子「はい?」
モバP「朋が深夜の茄子がうるさいって苦情出してたぞ」
朋「ちょっと!」
茄子「あら、そうでしたかー?」
朋「いや、違うのよ」
朋「ただ夜中に変な声が聞こえるのを相談したらプロデューサーが変に曲解して――」
茄子「それ多分私ですねー」
朋「――」
モバP「ほらな」
茄子「隣の部屋にまで聞こえてたんですね、ごめんなさい」
朋「あ、いや、えーっと……」
朋「……多分壁がちょっと薄いのかもしれないけど、でも気になっちゃうのよね」
朋「けど、きっとうれしくて笑っちゃったんでしょ?」
朋「ベッドのやわらかさとか、そういうのに」
茄子「そうですねー」
芳乃「今まで洞穴の中ですんでいたのでしたらそれも仕方のないことかとー」
茄子「一応その時もベッドはあったんですけど」
茄子「それでも、普通の部屋で寝れるっていうのはとっても嬉しかったんです」
朋「……そうよね」
朋「まあ、私も茄子さんの声だってわかったらそこまで怖くないし、我慢できるから――」
茄子「あと、ベッドの上から落ちたときとかも笑っちゃいますね」
朋「――は?」
モバP「ああ、現実でこんなことあるんだー、みたいな」
芳乃「わたくしも一度落ちたことがあるのですがー」
芳乃「……誰にも見られていないのに恥ずかしいものでしてー」
茄子「んー、私はちょっと違うんですよね」
茄子「唐突にバタンっていう痛みに目が覚めるんです」
茄子「部屋中が真っ暗で、なんで痛みが起きたのかしばらくわからなくて……」
茄子「ベッドから落ちたんだって気づいて、初めての経験だって思うと楽しくなって」
茄子「ついでに痛みも初めてだって、なんだか楽しくなっちゃって、ふふ」
芳乃「そなたー、やはり茄子殿にはナニカが取り憑いているのではー?」
モバP「残念だが霊の姿は見えないな」
芳乃「なんとー」
茄子「まあ、いつか慣れて笑うことはなくなると思いますからー♪」
朋「なるべく早くその日が来ることを祈っているわ」
芳乃「わたくしもー」
茄子「あら、二人に祈られたなら余計早く慣れないとですね」
朋「せめて、痛みに笑うことだけはやめてほしいわ」
朋「私たちの精神衛生的にも」
茄子「うふふ」
モバP「……さて」
モバP「俺はまだ仕事があるから残るが、3人はどうする?」
モバP「今日の予定はもうないよな?」
芳乃「ないのでしてー」
朋「……まあ、残っててもやることないし、帰ろうかしら」
モバP「ん、そっか」
朋「2人は?」
茄子「私も帰りますー」
芳乃「ではわたくしもー」
朋「じゃあ、3人で一緒に帰りましょうか」
芳乃「おー」
茄子「おー♪」
朋「……というわけよ」
モバP「わかった、じゃあまた明日な」
朋「ええ、また明日」
芳乃「ではまたー」
茄子「お疲れ様でしたー♪」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
茄子「アイドルって楽しいですねー」
芳乃「急にどうしたのでしてー?」
茄子「いえ、ふとそう思いまして」
朋「……といっても、茄子さんはまだレッスンくらいしかしてないでしょ?」
茄子「この前宣材は撮りましたけど、それ以外はないですねー」
朋「それなら、まだまだ楽しくなるわよ」
芳乃「茄子殿はまだ登り始めたばかりなのでしてー」
芳乃「果てしないこのアイドルロードをー」
朋「……」
茄子「それじゃあこの先もっともっと楽しくなるんですねー♪」
朋「ええ、きっと」
芳乃「歌も歌うのでしてー、踊りも踊るのでしてー」
芳乃「ライブに出るのでしてー、テレビにも出るのでしてー」
芳乃「そなたが体験してないことはまだたくさんあるのでしてー」
茄子「うふふ、本当にたくさんありますね」
朋「……ライブやテレビはあたしたちもあまり経験してないけどね」
芳乃「でも、きっと楽しいのでしてー」
朋「そうね、私もそう思うわ」
芳乃「わくわく」
茄子「……体を動かすのもそうですけど、歌もぜんぜん歌ってなかったんですよね」
朋「そうなの?」
茄子「しいて鼻歌くらいでした」
茄子「だからこの前のボーカルレッスンでちょっと声を出して歌っただけでもすごい楽しかったんです」
朋「へぇ……」
茄子「こんな感じで……~♪~♪~♪」
芳乃「おお……上手でしてー」
茄子「うふふ、そんなことないですよ」
~♪~♪~♪
茄子「ほら、こうして聞こえてくる歌の方が上手だと思います」
芳乃「ボーカルレッスンのものと普通の歌で比べることはそもそも難しいと思いますがー」
朋「……にしても、何の歌かしら、これ?」
芳乃「テレビやラジオのものではありませぬー」
朋「その二つからなら、外を歩いててこんなに鮮明に聞こえるはずもないしね」
茄子「あちらの公園から聞こえてきますねー」
茄子「誰かが歌ってるんじゃないでしょうか?」
朋「多分そうでしょうね」
芳乃「よってみるのでしてー?」
朋「どうしようかしら……」
芳乃「わたくしはよってみたいのでしてー」
朋「なら、行ってみる?」
茄子「行ってみましょう♪」
芳乃「歌をたどってきてみればー」
芳乃「小鳥相手に歌う少女がおりましてー」
朋「……きっと、あの子の歌よね?」
茄子「歌ってますからねー」
茄子「とても透き通っててきれいな歌ですね」
朋「そうね……気持ちが安らぐわ」
芳乃「もう少し近くで聞きたいのでしてー」
朋「……近づいても大丈夫かしら?」
芳乃「公共の場で歌ってるのであればー、近寄られるのは想定されているかとー」
朋「そうね」
茄子「私もいますから大丈夫だと思いますよー?」
朋「知り合い?」
茄子「いえ、私って運が良いほうですからー♪」
茄子「悪いほうには転ばないと思います」
朋「……そうね」
芳乃「では、突撃でしてー」
?「~♪」
朋「……近くで聞くとより綺麗ね」ヒソヒソ
茄子「魅了されそうですね、ふふ」ヒソヒソ
芳乃「……こちらには気づいていないご様子でしてー」ヒソヒソ
朋「それだけ集中して歌っているんでしょうね」ヒソヒソ
芳乃「ほー……」ヒソヒソ
?「~♪」
朋「……」
?「~♪」
茄子「……」
?「~♪」
芳乃「……」
?「~♪」
?「……ふぅ」
朋「おー」パチパチ
芳乃「素晴らしかったのでしてー」パチパチ
茄子「よかったですー♪」パチパチ
?「!?」ビクッ
?「え、えっと……」
茄子「ああ、ごめんなさい、急に」
芳乃「きれいな歌声が聞こえたものですからー」
朋「それに誘われるように来ちゃったんだけど……迷惑だったかしら?」
?「いえ、そんなことはないんですけど……」
?「……目を開いたら3人がいましたから、びっくりして……」
芳乃「話していても気がつかぬほどとても集中していたゆえー、仕方のないことかとー」
?「そんなずっと前から聞いていたんですか……?」
朋「来たのはついさっきね」
朋「そこからずっと聞いていたの」
?「そうですか……あの、気づかなくて……ごめんなさい」
茄子「歌を最後まで聞けたからぜんぜん気にしなくていいですよー♪」
朋「できることならはじめから聞きたかったけどね」
芳乃「同感でしてー」
?「……ありがとうございます」
茄子「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
芳乃「……そなた、お名前はー?」
?「私ですか……?」
聖「……聖です」
芳乃「聖殿……なるほどー」
芳乃「清らかな歌声が流れるのも当然でしてー」
聖「えっ……?」
茄子「そうですね、とってもきれいでした」
茄子「思わず公園に立ち寄ってしまうくらい」
聖「あの……」
朋「それで、歌が終わるまでずっと聞いちゃうくらいね」
聖「……」
聖「そ、そこまで言われると……恥ずかしい、です」
朋「聖ちゃんはいつもここで歌っているのかしら?」
聖「そうですね……毎日2回」
芳乃「ほー、毎日……」
聖「……ずっと昔から」
朋「毎日二回歌うのが?」
聖「はい……」
茄子「何か理由でも……?」
聖「理由……」
聖「……」
聖「……きっと、歌を聞いてほしかったんだ……って思います」
朋「きっと?」
聖「昔、誰かに歌を聞いてもらって喜んでもらうのが好きで」
聖「だから、いつもここで歌って……」
芳乃「それが、毎日の習慣になったとー?」
聖「そうですね……今はもう、聴いてくれる人なんてほとんどいないけど……」
芳乃「なるほどー」
芳乃「だからこそわたくしたちをここに呼び寄せたのかもしれませぬー」
芳乃「そなたの聞いてほしいという思いがー、わたくしたちをここに引き寄せたのかもし
れませぬー」
聖「……そうでしょうか?」
茄子「きっとそうですよ♪」
茄子「だから、私たちはこんなに素敵な出会いができたんですね」
聖「素敵な……」
茄子「ねぇ、聖ちゃん?」
聖「はい……なんでしょうか……?」
茄子「今の歌は何回目なんですかー?」
聖「……一回目です」
茄子「では、次に歌うのはー?」
聖「えっと……」
聖「……夜?」
芳乃「アバウトでしてー」
聖「時間を決めているものでは……ありませんから……」
朋「そうなんだ」
聖「夕方と夜に歌うとは決めていますけど……」
芳乃「ほー」
茄子「では、次に歌うまでここで待ってましょうか」
茄子「今度は初めから聞きたいですし」
聖「えっ……!?」
朋「いや、寒いし、お腹も空くでしょ?」
茄子「うふふ、大丈夫ですよー」
茄子「どっちも慣れてませんからー♪」
朋「……あー、言いたいことはわかったわ」
聖「……?」
芳乃「気にしなくていいのでして」
聖「はぁ……」
芳乃「……そなたは、時間を決めて歌うことはできぬのでしてー?」
聖「……」
芳乃「……時間は決められないのでして?」
芳乃「わたくしもー、できればはじめから聞いてみたくー」
聖「……かまいません、けど」
朋「本当?」
聖「はい……大丈夫です」
茄子「ふふっ、やった♪」
芳乃「わーい」
聖「えっと……それじゃあ、何時くらいにしましょうか?」
朋「そうねぇ……」
茄子「皆さんまだ子供ですから、あまり遅い時間はダメですよー?」
朋「……あたしあと一年でお酒飲めるのに」
芳乃「むー……」
茄子「うふふ、成人になるまでは子供です♪」
朋「……でも、茄子さんは子供だと思うわ」
芳乃「同感でして」
茄子「あら」
茄子「では、4人とも子供ですし早い時間……8時くらいでいいんじゃないでしょうか?」
聖「私は……大丈夫です」
茄子「では、決まりでしてー」
朋「ふふっ、8時が楽しみね」
聖「……」
芳乃「……どうかしましてー?」
聖「いえ、なんでもありません」
聖「……なんでも」
芳乃「……?」
聖「それじゃあ……私はもう行きますね」
朋「わかったわ……じゃあ、また後で」
茄子「楽しみにしてますねー♪」
芳乃「また後でしてー」
聖「……」ペコリ
朋「……じゃ、私たちも行きましょうか」
茄子「そうですね」
芳乃「夜が楽しみなのでしてー」
茄子「私も、とっても楽しみです」
芳乃「夜の公園に行くだなんてわくわくしましてー」
朋「そっち!?」
芳乃「冗談でして」
朋「……」
朋「でも……茄子さんじゃないけど……本当に素敵な出会いだったわ」
茄子「ふふっ、だから言ったでしょう」
茄子「いいほうに転ぶって」
朋「ふふっ、そうね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
朋「今8時を過ぎたわ」
茄子「あら、そうなんですか?」
朋「でも、私たちは公園にいない」
芳乃「そうでしてー」
朋「……ふっつーに遅刻しちゃった」
茄子「遅刻ですねー」
芳乃「遅刻でしてー」
朋「なんで二人ともそんなに楽観的なのよ」
芳乃「公園はもうすぐでしてー」
茄子「きっと、遅刻といっても1,2分になるでしょうし」
朋「……でも、遅れたってのは事実でしょ?」
朋「ちょっと罪悪感が……」
芳乃「でしたら、まず謝るのがよろしいかとー」
朋「もちろん、そのつもりよ」
朋「……でしょ?」
茄子「もちろん」
芳乃「でしてー」
朋「そうよね……」
芳乃「なんて、話している間にもう見えましてー」
~♪~♪~♪
朋「あら、もう歌っているのね」
茄子「残念ですけど……仕方ないですね」
朋「ごめん、遅れちゃ――」
茄子「わぁー……」
芳乃「おおー……」
朋「――ねえ、二人がそんな反応をするってことは」
朋「あたしの見ているものって幻覚じゃないのよね?」
茄子「聖ちゃんの後ろに血まみれ女の人の姿が見えますねー」
芳乃「こちらをじぃと見ているのでしてー」
朋「あー……あの包丁を持ってるやつ幻覚じゃなかったのね」
朋「最悪だわ」
女の人「……」
聖「~♪~♪~♪」
朋「あんな化け物のそばでよく歌えるわね、聖ちゃんも」
朋「もう少し驚いていいんじゃないかしら?」
芳乃「それはわたくしたちが言う言葉でしょうかー」
朋「……まあ、慣れてるし」
芳乃「それはそうですがー」
茄子「……もしかして、気づいてないんじゃないでしょうか?」
朋「えぇ……」
芳乃「わたくしたちがそばで話していても気づかぬほどの集中力ゆえー」
朋「あの時はひそひそ話だったけどね」
茄子「でも、今も音はあまり立ててませんよ?」
茄子「あの女の人はこちらをじっと見て動きませんし」
茄子「私たちもあまり聖ちゃんの近くにいませんから」
朋「……そういうものかしら」
芳乃「……で、あればー」
芳乃「わたくしたちがここから動かなければ、あの人も動かないのでしょうかー?」
茄子「そうだといいんですけどねー」
朋「……」スッ
芳乃「急にトランプを取り出してどうしたのでしてー?」
朋「占いよ」
茄子「タロットじゃないんですか?」
朋「その気になれば別に何でだって占えるわよ」
朋(……一番上)
朋(ダイヤなら右、クローバーなら左、ハートなら後ろ、スペードなら上が避ける方向)
女の人「……」グッ
芳乃「ねーねーそなたらー」
芳乃「わたくしの目が正しければ女の人が右手を振りかぶっているように見えるのでしてー」
茄子「私にもそう見えますねー」
朋(一番上は――)
一番上のカードを引く――ダイヤ
朋「――右に避けて!」ダッ
朋がそう言った瞬間、血まみれの女は包丁を投げた
女の人「―――!!」
聖「~♪~♪」
芳乃「……危なかったのでして」
茄子「ありがとう、朋ちゃん」
朋「いいわよ、別に」
朋「……にしても、どうするのよ、これ」
朋「包丁投げてくるってことは間違いなくあたしたちを殺す気じゃない」
芳乃「とりあえずかの者に連絡をー」
芳乃「……圏外でして」
茄子「……あの人が何かしてるんでしょうか?」
朋「間違いなくそうでしょうね」
芳乃「ですが、あそこから包丁を投げてくるだけならば――」
朋(一番上――)
また一番上を引く――ジョーカー
朋(ジョーカーなら右でも左でも後ろでも上でもなく――)
朋「――前に避けてっ!」
聖の隣にいた女の姿が消える
女の人「――!」
瞬間、後ろから悲鳴のような声が三人の耳に届いた
茄子「きゃっ!」
芳乃「!」
朋が指定した「前」に避けることでなんとかその不意打ちにダメージを食らうことはなかった。
朋「……残念なことに思い切り追いかけてきたわ」
芳乃「ワープするなんて卑怯でしてー」
朋「霊に卑怯も何もないでしょうに」
女の人「――!!」
朋「来るわよ、あたしの言うとおりに避けて!」
朋「左、後ろ、左、右、後ろ、上!」
その女は茄子を、朋を、芳乃を狙って包丁を振り回す
しかし、そのどれも彼女らの体に触れることはない
茄子「ふふっ、まるでゲームみたいですね」
茄子「三人いっせいに同じ方向に避けてるだけなのに全部避けられるだなんて」
朋「何笑ってんのよ!」
朋「あのね、あたしのこれだって有限じゃないんだから――右!」
芳乃「トランプを使っているのなら……限度は52回でして?」
朋「そうよ――後ろ!」
茄子「なるほどー」
茄子「それならむしろ分かれましょうか」
そう言うと茄子は勢いよく飛び、朋たちから離れた
その早い動きにひかれたのか、女も茄子の方へと向かった
朋「茄子さん!」
茄子「ふふっ、大丈夫ですよー♪」
茄子「私、幸運ですからー♪」
女の人「――――!!」
茄子「はいっ、はいっ、はいっ♪」
女は包丁を振り回すが、茄子はまるで踊るように避けていく
上から斬りつけても、右から斬りつけても、突いても、そのどれもが茄子に触れることはない
芳乃「チートでして」
朋「思ったけど言わないで」
朋「……ともかく、茄子さんがひきつけている間にあたしたちは聖ちゃんのとこに行きまし
ょう」
茄子「ふふっ、体を動かすのって本当に楽しいですね♪」
女の人「――!!――!!」
朋「聖ちゃん!」
聖「~♪~♪」
芳乃「綺麗な歌声でしてー」
朋「こんな状況じゃなきゃもっと綺麗だったでしょうね」
朋「聖ちゃん!」
聖「~♪~♪~♪」
朋「……聞こえてないのかしら」
芳乃「ねーねー」
芳乃が聖の肩を叩こうとする
芳乃「――」
だが、その手は聖をすり抜けた
朋「今の……」
芳乃「どういうことでしょうかー?」
朋「よくわからないけど――」
茄子「朋ちゃんっ!」
茄子さんの呼ぶ声に、朋は咄嗟にそちらを向く
その目に茄子さんは入らず、こちらに飛び込んでくる女の姿が見えた
咄嗟に手に持つトランプから一枚ひいて――
朋「左!」
朋と芳乃が左に飛ぶ
勢いよく飛び込んできた女はスピードを落とせずそのまま聖にぶつかった
――いや、ぶつからずに、すり抜けた
朋「――とりあえず、聖ちゃんは安全みたいよ」
芳乃「ほーほー、それはよかったのでしてー」
朋「次はあたしたちの安全ね」
朋「行くわよ、芳乃ちゃん!」
朋の声にあわせて二人は右に飛び、左に飛び、時には上にも飛び、女の攻撃を避ける
しかし、避ければ避けるほど朋の持つトランプの量は減る
朋(……そろそろ、なくなる)
朋「後ろ、左、右、右、上!」
芳乃「あっ――!」
朋「芳乃ちゃん!?」
着地に失敗した芳乃はその場に転げてしまう
女は好機だと思ったのか、身動きの取れなくなった芳乃に狙いを定めた
朋(引っ張って――いや、あたしの力じゃ芳乃ちゃんを引っ張って助けるなんてできない)
朋(じゃああたしが――)
朋は自ら芳乃と女の間に入った
朋「芳乃ちゃんには触れさせないわ!」
芳乃「朋殿……」
芳乃「……っ!」
芳乃は痛む足首を押さえる
着地に失敗したときに足首をひねってしまったようだ
朋(……今日レッスンもしてたもんね、足も疲れてるはず)
朋(動けないなら、なおさらあたしが守らなきゃ……!)
女の人「――」
女は包丁を振りかぶる
朋(どう、どう避ければ……?)
朋(トランプ――ジョーカー)
茄子が引いたカードは二枚目のジョーカー
朋(右でも左でも後ろでも上でもなく……)
朋(でも、前に避けたら芳乃ちゃんにあたっちゃう……)
朋(あと、あとはどっちに避ければ――)
女「――!!」
答えが出る前に女は包丁を振り下ろした
朋「――っ」
朋(芳乃ちゃんには届かせない……!)
朋は振り下ろされる包丁に合わせて、両手を交差して力をこめた
そして、いずれくる衝撃に備え目を閉じて――
モバP「破ぁ!」
――聞き覚えのあるその言葉を聴いて、目を開いた
朋の視界には見覚えのある後姿と、散り散りになって消えていく女の姿が映った
聖「~♪~♪」
モバP「……これで大丈夫だ、あいつはもう成仏させた」
朋「……プロデューサー」
モバP「おう、遅くなったな、すまん」
朋「どうしてここに……?」
茄子「私が呼んだんですよー♪」
朋「茄子さん!」
茄子「逃げちゃうような真似してごめんなさい」
朋「……いや、そもそもいなくなったことに気づいてなかったんだけど」
茄子「それでもです」
茄子「朋ちゃんの方に狙いが言ったのを見て――今しかないって思いまして」
茄子「私の幸運なら絶対に二人が死ぬ前に戻ってこれるって思いまして」
茄子「急いで、走って、事務所まで行こうとしたんです」
茄子「……そうしたら、公園の前を通るプロデューサーさんを見かけて」
茄子「急いで行こうとしたけど、公園から出ることができなかったんです――壁みたいなのにさえぎられて」
モバP「たぶん結界だったんだろうな」
モバP「だから俺もここで何かが起こっているなんて気づかなかった
朋「じゃあ、どうして……?」
モバP「偶然、茄子の声が聞こえた気がしたんだ」
モバP「こっちです、って」
朋「……」
芳乃「リアルチートでしてー」
朋「思ってたけど言わないで」
モバP「で、まあ、結界をすり抜けて中に入って襲われそうになってる二人を見たから助けに来たわけだ」
朋「……」
朋「……本当に、もう大丈夫なのよね?」
モバP「ああ、完膚なきまでに成仏させた」
朋「そう……さすが寺生まれね、すごいわ」
朋「はぁ……よかったぁ……」
茄子「本当にごめんなさい、二人とも」
芳乃「茄子殿のおかげで助かったのでしてー」
朋「本当よ、茄子さんがあんたを呼んでこなきゃどうなってたか……」
朋「だから、ありがとう、茄子さん」
茄子「……なんだか、照れくさいですね」
茄子「人にお礼を言われるのも久しぶりで……ふふっ」
朋「あんたもありがとね、助けてくれて」
モバP「当然だろ、俺のアイドルなんだから」
朋「ふふ、そうね」
聖「~♪~♪」
芳乃「そなたー、足首をくじいたのでしてー」
モバP「マジか、今冷やすものはもってないからな……」
芳乃「『破ぁ!』ってして治して欲しいのでしてー」
モバP「そんな効力はない」
芳乃「えー」
モバP「……あー、じゃあ、今買ってくる」
モバP「ちょっと我慢してくれ」
芳乃「わかりましてー、我慢するのでしてー」
聖「~♪~♪」
茄子「そういや、朋ちゃん」
朋「ん?」
茄子「さっきの占いってどうやってたんですか?」
朋「あー」
朋「……まあ、茄子さんの幸運と同じ類のものよ」
朋「茄子さんの幸運も結局全部なくなったわけじゃないでしょ?」
茄子「そうですね」
朋「それと同じよ」
茄子「……?」
朋「……まあ、気になるなら、そのうち話すわ」
朋「今は、聖ちゃんの歌声聞いていたいと思わない?」
茄子「……そうですね」
聖「~♪~♪」
朋「はぁ……本当にいい歌声ね」
朋「危険も去って安心しきったからこのまま寝ちゃいそう……」
芳乃「それはもったいないのでしてー」
朋「わかってるわよ、だからこうしてがんばってるんじゃない」
聖「~♪~♪」
茄子「……こういうことって前もあったんですか?」
芳乃「よくあったというほどではありませぬー」
朋「プロデューサーに着いていき始めてから、たまに――って感じね」
茄子「だからあまり驚いてなかったんですね」
芳乃「わたくしとしては茄子殿が驚いてなかったほうが気になるのですがー」
茄子「驚きよりも楽しさが増してました♪」
朋「……本当、さすがね」
聖「~♪~♪」
モバP「ただいま」
モバP「芳乃ー」
芳乃「はいはいでしてー」
モバP「はい、終わり」
モバP「……まあ、帰るときはとりあえず俺がおぶってくよ」
モバP「冷やしたとはいえあまり動かさないほうがいいだろうしな」
芳乃「わかりましてー」
芳乃「そなたのおんぶはとてもうれしいのでしてー」
芳乃「ばんざいでしてー」
聖「~♪~♪」
モバP「……しかし、綺麗な歌声だな」
朋「ね。あたしたちもこの歌声に惹かれてここに来たのよね」
モバP「ああ……たぶんあの霊はこの声を利用していたんだろうな」
モバP「この声に惹かれてやってきたものの魂を奪う……っていう風に」
茄子「じゃあ、結界とかは誰にも邪魔されないように――ってことでしょうか?」
モバP「というよりは、この歌声に呼ばれた人を逃がさないように、だろうな」
朋「聖ちゃんに触れることができなかったのは?」
モバP「聖ちゃん……ああ、この子か」
モバP「この子を利用しているなら、この子を傷つけるわけにはいかないだろ」
朋「ああ、なるほど」
聖「~♪~♪」
芳乃「……あー、ここらからわたくしたちは聞いたのでしてー」
朋「そういえば、そうね、聞き覚えがあるわ」
芳乃「歌えるでしょうかー?」
芳乃「……」
芳乃「いえ、邪魔はやめるのでしてー」
聖「~♪~♪」
朋「そうね、あとちょっと」
茄子「じっくり聞きましょうか」
聖「~♪…………ふぅ」
茄子「とてもよかったですー♪」パチパチ
芳乃「そなたの歌声はグッドではなくー、ファンタスティックでしてー」パチパチ
朋「いい歌だったわ」パチパチ
聖「!?」ビクッ
聖「……」
聖「……」ゴシゴシ
聖「……」
聖「!?」
朋「……目を疑うほど驚かれるとは思わなかったわ」
聖「ほ、本当に……来てくれたんですか……!?」
茄子「約束しましたからー♪」
聖「……」
聖「う、うれしいです……すごく……っ!」ポロポロ
朋「え、ええ、ちょっと、どうしたの!?」
聖「だって、今まで……聞いてくれても……一回しか聞いてくれる人、いなくって……」
聖「約束も何回もしたけど……二回聞いてくれたのは、みなさんがはじめてで……」
聖「すごく……うれしいです……っ!」
芳乃「……そなたー」ヒソヒソ
モバP「ああ、ほかの聞いてくれた人はきっと――」ヒソヒソ
モバP「――黙っているようにな」ヒソヒソ
芳乃「了解でしてー」ヒソヒソ
聖「うぅ……うれしい……本当に……!」
茄子「よしよし」ナデナデ
茄子「言ったでしょう、私たちは素敵な出会いができたって」
聖「はい……!」
聖「……ふぅ」
聖「すいません……落ち着きました……」
朋「ぜんぜん大丈夫よ」
朋「聖ちゃんも嬉しかったんだもんね」
聖「嬉しかったです……!」
朋「ふふっ」
モバP「改めて、本当にいい歌声だった」
聖「……あなたは?」
モバP「俺はT」
モバP「寺生まれの、しがないプロデューサーさ」
聖「プロデューサー……」
聖「……もしかして……3人とも歌手……?」
芳乃「おしいのでしてー」
朋「あたしたちはアイドルよ」
聖「アイドル……」
モバP「俺は感動した、君の歌声に」
聖「……」
モバP「その歌声は、世界中のみんなに届けるべきだと思う」
モバP「それくらい、感動したんだ」
聖「えっと……?」
モバP「……そうだな、単刀直入に言うか」
モバP「アイドルにならないか」
聖「……私が、ですか?」
モバP「ああ」
モバP「公園に立ち寄る人だけじゃなく、もっと大きなステージで、もっと大勢の人にその歌声を聞かせてみないか?」
芳乃「わたくしたちはいつ大きなステージに立てるのでしょうかー?」
モバP「……」
モバP「……絶対に、大きなステージに連れてくから!」
聖「……」
聖「私の歌……そんなに大勢の人が……聞いてくれるんですか……?」
モバP「聞かせてやるさ」
聖「……みなさんも?」
茄子「もちろんです♪」
朋「あんな綺麗な歌声を一回や二回しか聞けないなんて嫌だもの」
芳乃「そして、一緒に歌ってみたいとも思うのでしてー」
聖「私と……?」
芳乃「でしてー」
モバP「どうだ?」
聖「……」
聖「……じゃあ、やってみたい……です」
聖「ぜんぜん……アイドルはわかりませんけど……」
聖「たくさんの人が私の歌を聞いてくれて……」
聖「……みなさんも聞いてくれるなら」
聖「みなさんと一緒に歌えるのなら」
モバP「そうか、ありがとう」
聖「こちらこそ……聞いてくれて、本当にありがとうございました」
茄子「いえいえー♪」
朋「よろしくね、聖ちゃん」
聖「よろしくお願いします……えっと……」
芳乃「……そういえば自己紹介してなかったのでして」
聖「私も今回きりだと思ったので……気にしてませんでした……」
朋「じゃ、あらためて、自己紹介ね」
朋「あたしは――」
おしまい
寺生まれのPさんとかイカレた茄子さんとか幼いよしのんとかトランプで戦うふじともとかひじりんとか書きたかったものを混ぜました
誤字脱字、コレジャナイ感などはすいません、読んでくださった方、ありがとうございました。
寺生まれの安心感は異常
乙
乙
ふじともってトランプとか武器にして戦いそうな顔だよな
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません