・申し訳程度の要素しかないバレンタイン向け
・地の文+名札。英単語は大雑把
・鳥海は秘書艦
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金剛「よろしくネー」
鳥海「うーん、ちょっとテンション低いカナー。もっと大潮みたいにアゲアゲネー!」
金剛「じゃあ……ハッピーうれピーよろピくねー! あなたも一緒にハッピーうれピーよろピくねー!」
鳥海「英国人バカにしてるんですカー?」
金剛「ホワッツ!?」
鳥海「今のはそれらしかったデスヨー」
金剛「それはよかったです……デスヨー。っていうか金剛さんも普通に話してくれませんカ?」
鳥海「普通に話してるヨ」
金剛「鳥海にとっての普通でお願いしますヨー」
鳥海「Oh sorry. ごめんなさいネー」
金剛「わざとやってませんカー?」
鳥海「そんなことないヨー! じゃなかった、ない、よ?」
金剛「……なんだかダメそうな気がしてきました」
明石「ほんとごめんなさい。明日にはお二人を元に戻せるよう私も頑張りますから」
金剛「よろしくお願いしますね、明石さん。精神の入れ替わりなんて……荒唐無稽です」
鳥海「まったくデース。こういうchangeもfreshだけどネー」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
事の始まりは前夜に終結した海戦にまで遡ります。
私たちは後にレ級と呼称されるようになる新種を含んだ深海棲艦の迎撃に当たりました。
夜戦までもつれ込んだものの撃退に成功しましたが、敵艦隊も想定以上に戦力を充実させていたためにこちらも少なからず被害を出していました。
特に前線で戦線を維持していた私、鳥海と金剛さんは共に艤装を大破させてしまい入渠することになります。
普段ならバケツを使用して速やかに戦線復帰が可能な状態にするのですが……。
鳥海「新型のお風呂ですか?」
明石「はい、今日になって届いたばかりの新品なんです」
鳥海「うーん……お風呂なんて納入予定になかったような気がするんですけど」
私たちの前にあるのはお風呂と言うより円柱型のカプセルでした。
大人一人が入っても少し余裕のありそうな大きさで、二つあるカプセルは操作端末らしい別の大きな機械に繋がれています。
今になって思えば、私はもっとこの時に疑問に思ったほうがよかったに違いありません。
鳥海「いつまた出撃になるか分かりませんし、今はバケツでいいですよ」
金剛「私もネー」
明石「それがこのお風呂、従来のものより修復までの時間が短いのと、疲労も取って逆に戦意を高める効果まである優れものらしいんですよ。ですから日頃から活躍しているお二人にはぜひ使ってもらおうかなと」
熱心に勧めてくるのは純粋な厚意からでしょうか。
明石さんは鉄火場と化した海域に出てくることはありません。
艦娘といえど、彼女はあくまで工作艦であって戦闘艦ではないためです。
そのためか前線から戻ると明石さんからは敬意のようなものを向けられてるように思えることがしばしば。
明石「それに提督への報告なら他の方が済ませてますし、もう真夜中じゃないですか。今夜はこのまま休んでもいいと提督には言われてますし」
鳥海「どうします、金剛さん?」
金剛「修復はしないといけないから素直に従うヨ。もし何かあったら、その時はすぐにバケツを使ってもらえばいいんデース」
鳥海「それなら……」
明石「話は決まりましたね! それとこのマスクも使ってください。中のチューブに接続すれば寝落ちしても溺れなくなりますので」
渡されたのは防毒マスクのような見た目でした。
それで私たちはカプセルの中に入って仰向けになりました。
明石さんが外で機械を操作すると背中の方から少しずつ暖かい修復液が溜まっていくのが分かります。
マスクを被っていると少し息苦しくなったように感じましたが、それもじきに慣れてしまうと眠気がやってきて。
それから……目を覚ましたら体が金剛さんになってたんだ。
当然、と言うのも変ですが金剛さんは私の体に移っていました。
私も金剛さんもあまり慌てませんでした。むしろ明石さんが一番慌ててました。
もちろん私たちだって驚いてはいましたが、こういう不測の事態に慌てるのは危険だと分かっていたからでしょうか。
あり得ない事態だとは思いましたけど。いえ、本当にあり得ませんよ。
それでも状況を飲み込んでくれば、次はこれからどうするという話になります。
司令官さんに正直に状況を打ち明けるのが最善だと思いましたが、明石さんは待ってほしいと言いました。
彼女としては自分で解決したいようで。
内密にしておきたいという気持ちもあるにはあるのでしょうが、それ以上にこの状況を招いたことに責任を感じているようでした。
それに明石さんが尽力してくれているから、私たちの兵装も万全の状態で扱えてるのもあります。
最善ではなくとも、持ちつ持たれつという言葉もあるので。
結局、私と金剛さんは一日待つということで互いに入れ替わることになりました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
鳥海「今日の鳥海は秘書艦やって島風たちにChocolatesの作り方を教えると……明日はもうバレンタインカー」
日本の故事に一寸先は闇なんてあるけど正にその通りデース。
本当なら私も今日は提督のためにChocolatesを作るはずだったのにネー。
まあ鳥海の体でも作れるには作れますけど、それって私が作ったことになるのカナ?
体は鳥海、心は金剛。その名も!
一体なんでしょうネ。
まあ、それは後で考えるとして今は久々の秘書艦デース。
ここは比叡みたいに気合入れてくヨー!
執務室のDoorをknockして入ると、ちょうど提督が机の前に立ってマース!
鳥海「Hey, 提督ぅー! オハヨウゴザイマース!」
提督「あ、ああ……おはよう」
鳥海「今日もいい天気ネー。こんな天気の時はBurning Love!」
両手を広げて抱きしめに行くけど普段の提督なら避けられてしまう。それなのに今日の提督は腰は引け気味だけど抱きとめてくれまシタ。
想定してたのと逆の反応に私の体は固まってしまいマス。
提督「急にどうしたんだ、鳥海。金剛の真似をして」
ああ……そうデシタ。今の私の体は鳥海デース。
中身が私であっても、それを知らない提督には関係のない話。
でも胸がなんだかもやもやとして、その正体が分からないまま提督から離れマス。
鳥海「な、なんでもないネー」
提督「なんでもなくはないだろ……もしかして呑んでるのか?」
鳥海「へ?」
提督「前も盛大に酔って金剛たちの真似をしてただろ」
鳥海「……そ、そうデース。じゃなかった。そうなんです。昨日はなかなか寝付けなくてつい!」
提督は小さく声を漏らしながら苦笑いを浮かべると、秘書艦の席に座るよう促してきマス。
提督「少し顔が赤いな。二日酔いかもしれないし待ってろ」
そう言うと提督は隣にある私室に引っ込んでしまいマース。
程なくして戻ってきた提督は水の入ったビンと錠剤を二つもってきまシタ。
提督「人間の薬じゃ艦娘には大して効き目もないかもしれないが二日酔い向けの薬だ」
鳥海「ありがとうございます」
本当に酔ってるわけじゃないけど断るのも不自然なのでTabletを飲みまシタ。
提督「熱は……手じゃよく分からないか」
そう言いながらも提督は私の額に手を当ててきマース。
急に強い衝動に駆られて提督の胸に今一度抱きついてしまいまシタ。
提督「何かあったのか?」
鳥海「昨日は……怖かったです。もうだめかもって思ってしまったんです」
これは……嘘じゃないネ。
あの新種の深海棲艦のにやけた顔を思い出すと、背筋を冷たいものが撫でていくような怖気を思い起こしてシマウ。
あれは……うまく言えないけど異質なEnemyデシタ。
でも今はそれ以上に純粋に……提督の近くにいたかっタ。
鳥海「もう少しだけ、このままで」
提督「鳥海も金剛も、他のみんなも無事に帰ってきてくれてよかった」
鳥海「そんなの……当たり前です。私たちが帰ってくる場所はここなんですから」
そう、その通りなんデース。でも同時に私は別のことも考えてしまいマシタ。
もし金剛が弱音を吐いても、提督はこうして受け止めてくれたのデショウカ。
この体が鳥海だから、あなたは私を鳥海だと思っているからこそ、こうして私を避けないだけではないのデショウカ。
そんな風に考えてしまうと胸の奥から嫌な気持ちが滲んできてしまいマス。
もし、このまま元に戻れなかったら提督は私を見て私を愛してくれマスカ?
鳥海の代わりに――代わりにしかなれないなら。
気づけば押し退けるように提督から離れていまシタ。
少し驚いたような顔の提督と目が合ってしまって……。
鳥海「ごめんなさい……」
提督「気にすることじゃない」
提督は肩を竦めて見せて、私をとがめる様子は微塵もなく……。
でも私は少し悔しかった。嫉妬かもしれませんネ……提督は鳥海になら自分から触れられる所にまで近づいてきてくれる。
金剛だと近づこうとしても引いてしまうのに。
提督「できるか、今日の仕事は?」
鳥海「もちろんです! さあ、今日も元気に仕事しましょう! やるわよー!」
海戦前の鳥海ならこんな言い回しをしてましたネー、なんて思い返しながら真似をしてミルヨ。
気分も切り替えまショウ……暗いのは私らしくありまセン!
それにしても秘書艦としての仕事は久しぶりデース。
鳥海が秘書艦として固定される前は持ち回りでやっていたので私がやることもあったけど、最近はそういうこともなかったネー。
不在の時のために鳥海がManualを用意しているので、それを見て私は感心しまシタ。
現在の秘書艦業務が分かりやすくまとめられてマス。
午前にはどんな内容の書類や報告を裁可するか、そのためにはどのような計算が必要になってくるのか。
平均的な書類の量に、何時までに終わらせるのかの目安。仕事が重なった場合の優先順位。
それに各業務の注意点にMistakeをした場合に何が発生してどんなHelpが必要になってくるのか。
鳥海「分かりやすいネー」
思わずいつもの語尾を口にしてしまったけど提督は気づいてないようデス。
さっきから散々間違えていた気がしますけど気にしてはいけまセーン。
提督「マニュアルを読み返してるのか」
鳥海「たまには初心に帰るのも大切だと思ってね」
提督「うん? まあ確かに基本は大切だからな」
Manualを最後まで読み進めるとこう書かれてマシタ。
時間が余ったら提督とお喋りしていいし、何か遊んでもいいかもしれませんね。
鳥海はもっと根っからの生真面目かと思ってましたが、こういうことも書くんですネー。
それにしても私たちが今まで秘書艦をやってた時は誰もここまで仕事内容には踏み込んでませんでしたネ。
この執務机も小さいけれどファイルの配置や整頓のされ方に、別の誰かが使うかもしれないという配慮がなされてマース。
鳥海の一面が現れてるように思いマース。ただ引っかかりも感じマシタ。
このマニュアルは鳥海が不在という前提で作られてますが、それは同時に鳥海自身がいつか消えてしまうかもしれない、という前提で書かれているようにも思えるのデース。
あくまで私の印象に過ぎまセンが、自身が消えてしまった時の備えに感じてしまうのはどうしてカナ。
確かに私たちは、いつ最悪の時が訪れてしまうかなんて分かりまセン。
それでも、もし本当にそう考えているとしたら……私は悲しく思いマス。あんまりだとも。
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鳥海「お昼ですよ、司令官さん! 間宮で食べますか!」
提督「今日はここで取るよ。君はどうする?」
鳥海「ご一緒します!」
提督「カレーと定食、どっちがいい?」
鳥海「カレーがいいです」
提督「じゃあ俺もそうしよう」
提督が間宮に出前の電話を入れると10分ほどで妖精がカレーを二つ運んできマシタ。
鳥海「間宮のカレーはやっぱりDelicious……素晴らしいですね」
提督「まったくだ。しかし、たまには違う雰囲気のカレーも食べたくなるな。ココナッツミルクの入ったタイ風だとか、英国風というのもあるのか」
英国風、と聞いては黙っているわけには行きまセン。
鳥海「英国風なら今度作りましょうか!」
提督「いいな。しかし自分で言っておいて英国式はどんなカレーなんだ? うなぎのゼリー寄せみたいな異次元料理じゃないだろうな」
鳥海「安心してください。カレー粉と小麦粉を使って炒めたルーで作る、日本のカレーの原点みたいな存在デース。丁寧に作れば、とても美味しくなりますよ」
提督「それは安心した」
鳥海「知ってますか、提督。カレー粉は英国で生まれました。インドの発明品ではありません。英国のC&Bのオリジナルデー……です」
提督「……へえ」
鳥海「カレーはスパイスの組み合わせが重要ですがスパイスは使い切るのが大変だし、個人の好みで味付けがバラバラになってしまいます。比叡のカレーがいい例でしょう。
その点、カレー粉なら万人向けの味付けができて料理下手にも一安心なんです。あ、私は料理できますからね?」
提督「分かった分かった。今度食べさせてもらうから」
鳥海「ええ、楽しみにしてください」
私は鳥海の姿のまま、そんな約束をしてしまいマシタ。
一方的に舞い上がったように交わして、後から一方的に破棄することになりそうな約束を。
一旦、中断。下書きは済んでるけど打ち直すのに時間がかかって難儀してる次第
今日中には完結まで投下できる予定
期待
乙
期待
乙。こういうの素敵
乙
乙ありです。ひとまずキリのいい部分までを再投下します
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
金剛「今日は比叡が淹れた紅茶が飲みたいネー」
比叡「お任せください! 不肖、比叡。気合! 入れてぇ! 淹れさせてもらいます!」
これでまず初めは乗り切ってみせたといったところでしょうか。
それとごめんなさい、比叡さん。本当はあなたのお姉様ではなくて。
金剛さんの今日の予定は休日なので妹さんたちとお茶会をして過ごすそうです。
なんと言いますか……隠し通せる気がしませんね。こうなった以上はなるべく金剛さんを演じてみたいとは思いますが。
というわけでラウンジに白いテーブルとチェアを用意して、パラソルも張って日陰を作った下でのお茶会となります。
今は比叡さんが皆さんのカップに紅茶を注いで回っているところです。
テーブルの上には榛名さんが持ち込んできたシフォンケーキに、砂糖やミルクの入った小瓶が置かれていた。
金剛「うーん……」
比叡「どうしたんです、カップに何か?」
金剛「いえ、これはいい陶器みたいネー、なんて。フォークもスプーンも銀製みたいですし」
霧島「姉様ったら何を言ってるんです? ご自分で見つけてきた一式じゃないですか」
金剛「おー、そうでしたかー。どうも行けませんネー」
とりあえず失敗した時は笑ってごまかすことにしましょう。
今まであまり意識したことなかったんですが、金剛さんたちって実は結構なお嬢様なんじゃないでしょうか。
カップに口を付ける。美味しいとは思うけど紅茶の善し悪しそのものはよく分かりません。
比叡「これを骨董品店で見つけた時の姉様はすごかったよね。これは良い物だから絶対に買うって」
霧島「しかも手持ちが足りないと分かると、店主さんと値切り交渉始めましたからね」
榛名「私、値切りなんて龍驤さんしかしないと思ってました」
金剛「あはは……そんなこともあったカナー」
榛名「お姉様、もしかしてはっきり覚えてないんですか? なんだか今日はずっと歯切れが悪いような」
金剛「じ、実はそうなんデース。明日ぐらいには直ってるはずだけどネ」
比叡「大破した昨日の今日だもん、仕方ないよ」
比叡さんは頭を打ったとでも思ってくれてるのでしょうか。
っていうか明日の今頃にはお互いに元の体に戻ってないと本当に困ったことになってしまいますね。
明石さんは大丈夫なんでしょうか……。
榛名「記憶があやふやってことですよね。でも考えてみると私たち艦娘の記憶もよく分からないですよね」
霧島「どういうことかしら、榛名」
榛名「私たちって少なくとも改二まで行けば元になった軍艦としての記憶を持つじゃない」
榛名さんは霧島さんに砕けた口調で答えると、次いで私と比叡さんを交互に見る。
榛名「でも、その記憶って軍艦を今の私たちに置き換えたような記憶に置き換わっちゃってるみたいだし、艦娘によっては乗員さんの記憶まで混ざり込んでるようで……そういうのって本当に私たちの記憶って呼んじゃってもいいのかなって」
比叡「うーん、それは確かにそうかもだけど」
比叡さんと霧島さんが私を見ます。
なるほど、二人は困った時に金剛さんに助けを求めるのですね。
金剛さんならこんな時にどう返すのか分かりませんが……。
金剛「ヘイ、榛名! 過去は所詮過去でしかありまセーン。今の私たちは軍艦でなく艦娘なんだから、艦娘としての今を大切にしたほうがいいに決まってマース!」
ちょっと大げさに手振りもしてみたけど、わざとらしかったかな?
金剛「それでも榛名。あなたは私たち以上に多くを目の当たりにしてしまったはずです。そして、あなたの記憶が当時のそのままでないとしても、そこから感じたことは今の榛名が感じたことでしょう。それこそが大切だと私は思いま……ース」
金剛さんと言うより私の答えになってしまうかもしれないけど、これでいいよね?
榛名「ありがとうございます。お姉様にそう言っていただけると気持ちが楽になります」
金剛「そ、それはよかったデース」
榛名「その言葉を胸に、榛名はもっと頑張ります!」
金剛「えっと……ノープロブレムネー! でも榛名はいつだって頑張ってるんだから、ほどほどにしときなヨー」
榛名「はい、榛名は大丈夫です!」
あれ、もしかして噛み合ってない?
榛名さんは本当に大丈夫なんでしょうか……。
霧島「それにしても記憶ですか」
そう言いながら霧島さんは眼鏡を指で押し上げる。
霧島「もし記憶を消して過去をやり直せるとしたらどうします?」
比叡「霧島ってそういう願望があるの?」
霧島「願望というか単なる興味です」
榛名「うーん、榛名は何も変わらない気がします」
比叡「私はどうかなー。忘れたいこともあるにはあるし。あ、でも姉様のことは絶対に忘れたくないなあ」
霧島「金剛姉様はどうです?」
金剛「……霧島はどうなんデース」
霧島「私ですか? 内緒に決まってるじゃないですか」
比叡「うわぁ……自分から振っておいてそれ?」
霧島「艦隊の頭脳には秘密がつきものなんです」
榛名「頭脳は全然関係ないと思う」
霧島「細かいことはいいんですよ」
比叡「頭脳派キャラとは思えない投げっぷりなんだけど」
霧島「こほん、改めて姉様はどうです?」
金剛「そうねー」
本物の金剛さんならどう答えるんでしょう。
あの人はこんな前提をどう考えるのか。
榛名さんのように何も変わらないと断じるのか、それともやり直して……そう、司令官さんへの態度をどうかしようとするのかな。
忘れようとするのかさらなるアプローチをするのか。それとも私を廃する?
……なんだか、すごく嫌なことを考えてる気がする。
榛名「お姉様?」
霧島「そんなに難しい顔をしなくとも……」
比叡「こら、霧島。姉様は病み上がりなんだから、あまり余計な気を遣わせちゃダメでしょ。聞くならもっと軽いような……たとえば明日のバレンタインはどうするかとか」
榛名「その話題はその話題で軽くないような……」
結局答えてないけど、この流れならそれでもいいのかな。
そういえば司令官さんにもチョコを作らないと。
今頃、金剛さんは島風たちにチョコの作り方を教えてる頃でしょうか。
本当は私も一緒になって作ったチョコを司令官さんにお渡しするつもりだったんですが。
今年のチョコはあれで十分……というよりあの子たちと同じチョコなのが重要なんだけど。
でも一緒に作るのが姿がどうであれ金剛さんなら、それは金剛さんのチョコになってしまう。
自分で作りに行かないといけませんね。
榛名「やっぱり提督にはあげたほうがいいんでしょうか」
比叡「それはそうじゃない? お世話になってるのは確かなんだし」
霧島「その代わり、どこまで行っても義理でしょうけどね」
金剛「どういうことデース?」
霧島「司令は等しく受け取って等しく感謝してくれると思います。まあその……一人に対して以外は」
霧島さんは私を見ながら、遠慮するように弱々しく笑う。
霧島「私たちはその一人にはもうなれないでしょうから」
その一人が私――鳥海なのは自惚れでもなんでもなく事実だった。
私はそのことに少なからずの自負がある。そして今この場では居心地の悪さにも繋がった。
榛名「やっぱり秘書艦……鳥海からもらうチョコは提督には特別なんでしょうか」
榛名さんは私の反応を窺ってるようだった。
金剛さんにとってはデリケートな問題なのでしょう。
金剛「どうカナー。意外と提督はあまり気にしてないかもヨ?」
これは私の正直な感想だけど、金剛さんの口から出てしまえば負けず嫌いみたいに聞こえてしまうだけかも。
比叡「そんなことないと思いますけど。司令ってなんだかんだ人間っぽいって言うか感情的って言うか……」
言葉を探るような調子で比叡さんは続けて話す。
比叡「喜怒哀楽がはっきりしてるって言うのかな。私のカレーを食べてくれた時に思ったんだけど」
榛名「あれは大変な事件でした……」
比叡「いやいや、勝手に事件にしないでよ。まあその時の二人を見ちゃってるとね、やっぱり司令は鳥海にもらうのは特別だと思ってそうかなって」
霧島「あの二人は自覚なさそうですが結構なバカップルですしね」
……そんな風に見られてるんですか、私?
控えめにしたほうがいいのかな……でも何をどう控えめにすればいいのか。
霧島「まあ私はもう用意しちゃってるんですけどね、チョコ」
榛名「実は私も……」
比叡「あんたたち、これから作りますって体だと思ってたら……姉様はまだですよね?」
金剛「そうですね。これから作るとして……」
比叡「何か気がかりでも?」
金剛「私は作ったほうがいいのかな、なんてネー」
今のは鳥海として出た言葉なのか、金剛さんとして出た言葉なのか。
私にもよく分からない言葉が飛び出てしまう。
金剛「なんでもないネー」
金剛さんはどうして司令官さんを好いてるんでしょう……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
巻雲「皆様ごきげんよう。夕雲型二番艦の巻雲です。今日は風雲がチョコを作りたいと言うので、それに付き合ったりしちゃってあげてます」
風雲「巻雲姉ってたまに虚空に向かって話しかけるよね。妖精さんでもいるの?」
巻雲「妖精さんはそこら辺にたくさんいるよぉ」
風雲「それもそうか……って答えになってないじゃない!」
巻雲「ふぇっ?」
鳥海「あの、そろそろいいですか?」
風雲「あ……すいません、鳥海さん。わざわざ時間割いてもらってるのに」
鳥海「いえいえ。それでは皆さん手は洗いましたね?」
一五○○を過ぎた頃、提督の承認を経て仕事を早めに切り上げてDestroyerのGirlsにチョコ作りを教えマース。
顔触れは島風、巻雲、風雲の三人で夕雲型繋がりデショーカ? 島風はよく分かりませんけど二人の遠戚なのかもしれまセン。
それか比叡と大和のような関係か……でも、それだと島風と天津風になりますカ。
島風「今日はよろしくお願いします、鳥海さん!」
鳥海「私にお任せです。手を洗ったら次は三角巾です。髪の毛が入ってしまっては台無しですからね」
これで準備は完了デース。
鳥海からはどんなレシピを教えるのかは聞いていたので問題ありまセーン。
教えるのは初心者向けのお手軽な作り方デース。
気になるのは鳥海もこれで自分のチョコ作りを済ませると言ってましたが、どういうつもりデショウ。
比叡から聞いた話では凝った物も普通に作れると聞いていたのですが、それをしない意図はどこにあるのか。
私なら提督にはもっと時間をかけたチョコを贈りたいと思うところデスガー。
鳥海「今日は不器用さんでも失敗しないよう、市販のチョコを使います!」
島風「不器用でも失敗しないってさ。よかったね、巻雲」
風雲「えっ……私そんなに不器用じゃないから」
巻雲「あれぇー? 包丁でよく指を切りそうになってるのは、どこのどちら様だったかな?」
風雲「あ、あれはたまたまだから。私は断じて不器用じゃないから」
鳥海「そんな時は行動で示して名誉挽回するしかないかな」
風雲「むぅ……正論ですね。お願いします、やり遂げてみせますので」
そこまで気負う必要はありませんが……しかしバレンタインならそれだけの気概は必要かもしれませんネー。
鳥海「では注目です。まずは民生品のチョコを包丁で刻んでいきます。この時、刃を温めておくと楽です」
事前に沸騰させたお湯をボールに移していて、そのボールの中に包丁の刃を沈めマース。
鳥海「これでしばらく浸けておけば刃がちょうどいい暖かさになります。使う時はしっかり水気を切ってくださいね。チョコと水は油と一緒で混ざらないので」
風雲「ふむふむ」
鳥海「こうして温めておけばチョコを切りやすいですし洗う時も楽になります。ちなみにケーキを切る時もこうすれば切りやすいしクリームも付きにくくなります」
島風「おぉー、鳥海さんもいつか提督とケーキ切るの?」
完全に不意打ちに一言デース。
提督とケーキ……それはメオトのケーキ入刀のことデスカー!
冗談として流せばよかったのに真に受けて考えすぎて、たぶん鳥海が言わなさそうなことを言ってしまいマシタ。
鳥海「島風さん。私と提督はそんな関係じゃありません」
島風「え……なんで……あの……はい、すいません」
すごく真剣に謝られてしまいマシタ……うー、こんなはずじゃなかったのに。
でも認めてしまうのは……金剛としてはまだ承服できないところがあるのも事実デース。
といって訂正もしないままというのは間違ってる気もして……不実な気もしマース……。
鳥海「大人には大人の事情があるんです」
ありもしない事情があるのだと仄めかしてしまいマース。
鳥海「……続きをやりましょう」
温めた包丁でチョコを刻んでボウルに入れて、そこに温めた生クリームを注ぎ込んでいきマース。
鳥海「これを泡立てていきますが湯気が収まるまで待ちます。島風さんはおっそーいとか思わずにしっかり待ってくださいね」
島風「はい!」
島風はさっきのはあまり気にしてないようデース。そのほうが私も気楽で助かりマス。
鳥海「混ぜ始めたらクリーム状になるまでしっかり混ぜ合わせて、それができたらシートを被せたバットの上に流していきます」
その後、バットをほんのちょっぴり浮かせてテーブルに何度か軽く落とす。原理はよく知らないけど口当たりが滑らかになるためネー。
パンが発酵しすぎないようにガス抜きするのと同じなんでショーカ?
鳥海「これで冷やしていけばガナッシュができてるはずです。切り分けてココアを振れば立派な生チョコですし、ここから湯煎すれば他のチョコにもアレンジできます」
風雲「へぇ……そっか、手作りってこんな感じなのか」
鳥海「何か気になります?」
風雲「あー、いえ。不満とかじゃないんですけど、手作りなのに市販のチョコを原料にするんだなって。そのまま食べられるのに」
鳥海「確かにちょっと変な感じがしますよね。手作りと言いながら手間を増やしてるだけのような……」
風雲「ですよねー」
鳥海「でも初めてのチョコ作りなら、これでいいと思いますよ。というよりカカオマスを使う本格的なのは……プロに任せておけばいいんデース」
風雲「デース?」
鳥海「……それより風雲さんは誰に渡すんです?」
風雲「えっと……提督と、姉さんたちと妹たちに腐れ縁……それから飛龍さんに」
風雲の口振りからすると本命の目当ては飛龍でしょうか……名前を出すのを躊躇ったのは恥ずかしさからだと思いマシタ。
風雲「喜んでくれるといいですけどね……あの、鳥海さんはやはり提督に?」
鳥海「ええ、あなたたちと一緒に作ったのを渡します」
風雲「……いいんですか、それで?」
鳥海「どうしてです?」
風雲「だって私たちが作ったのって手作りって言っても本当に簡単なやつじゃないですか。私たちがこれでよくても鳥海さんはもっとできるんですよね」
それは私も感じてるネー。鳥海は提督へのチョコにBestを尽くしてない。
手を抜きたい理由があるのか、それとも凝ったのを作るのが面倒に感じてしまっているのか。
やっぱり鳥海の意図が分からないネー……。
鳥海「提と、司令官さんはあまり気にしない人ですから」
風雲「無頓着ってことですか?」
鳥海「安物をそのまま渡しても喜ぶと思いますよ」
風雲「あの、ここじゃ私は新参だからお二人のことはよく知りませんけど」
私の目をじっと見てくる。真摯な顔つきで。
風雲「秘書艦がそう考えていても、提督がそう受け止めるのかは分からないのでは」
鳥海「そうかもしれませんね……」
実際はどうでショー……提督がチョコのことで目くじらを立てるような姿は想像できまセーン。
ただでさえ鳥海のやることなら提督は許してしまいそうな気がしマース。
二人がケンカしていて、というのも提督の様子を見る限りなさそうデスシ。
鳥海「……どうしてなんでしょうね」
一旦、ここまで。これで三分の二ぐらいにはなるのかな
どうも金剛を書いてるとウィンキー時代のスパロボを連想してしまう
それがユーのマキシマムですかぁ?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
榛名さんと霧島さんが帰った後も私は比叡さんとお茶を飲んでいる。
誘われてしまっては断るわけにもいかないですし。
それにしても優雅な趣味で、私にはない習慣なので感心してしまいます。
比叡「姉様、今日のお茶はどうです?」
金剛「いいデース。さすがは私のシスターネー」
比叡「あはは、ありがとうございます。かな? ちょっと迷っちゃいますね」
金剛「どういうことデース?」
比叡「姉様、このお茶かストレートかブレンドか分かりますか?」
金剛「え……それは……ストレートに決まってるじゃないデスカ」
砂糖も牛乳も入ってないんだから他にないと思いますが……。
比叡「じゃあ茶葉の種類はどうです?」
金剛「……アールグレイ、ですか?」
当てずっぽうで思い浮んできたのがこれだけだった。
比叡さんは乾いたような声で笑うと、悪戯に気づいた子供のように曖昧な顔になる。
比叡「ウヴァですよ。姉様はこの時、必ずミルクを入れてお飲みになりますよね」
金剛「今日はストレートで飲みたい気分ネー」
比叡「ウヴァのミルクティーは至高だと仰っていたのにですか?」
金剛「オゥ、ソウデシタカー」
比叡「……まあ、この辺にしませんか? 見た目は完全に姉様ですけど違うんですよね?」
……これはもう隠し通せそうにないですね。正直に話してしまったほうがいいのでしょう。
金剛「その通りです。色々あって今は金剛さんと入れ替わってます」
比叡「入れ替わりかぁ……」
金剛「あまり驚かないんですね。にわかに信じられることでもないと思いますが」
比叡「それはそうだけど私たちって艦娘だからね。何が起きてもおかしくないのかなって」
金剛「あっても困るだけですよ……」
比叡「そうかも」
比叡さんは人懐っこく笑う。金剛さんじゃないと分かっても信用はしてくれてるみたい。
比叡「姉様は無事なんですよね」
金剛「ええ、今は私のように代わりをやってます。今日一日ぐらい」
比叡「なるほど。ところでどちら様なんですか?」
金剛「……知らないほうがいいかもしれませんよ」
比叡「私はそうは思わないけどな。ね、言いふらしたりしないから」
金剛「じゃあ……私は鳥海です」
比叡「あ……その、ごめんなさい!」
いきなり、その場で頭を下げられた。
金剛「待ってください。どうして謝るんですか」
比叡「いや、さっきあなたに失礼なこと話してたじゃない」
金剛「失礼だなんてそんな。陰口だったら困りましたけど、あれは別に……」
比叡「うー……入れ替わりって周りにまでダメージがいくんですね」
金剛「明日には戻れるはずなので、それまで辛抱していただければ……」
比叡「はい。それまでよろしくね、鳥海」
金剛「ご迷惑をおかけします……」
比叡「迷惑だなんてそんな……あ、でもそうだね。一つだけ内緒のお願いしていい?」
金剛「なんでしょう?」
比叡「私を後ろから抱きしめて、比叡ラブって耳元で囁いてくれませんか」
金剛「え……その、それはいいんですか?」
何が、とは敢えて聞きません。というか私自身よく分かってないというか。
比叡「もちろん鳥海だから頼んでるんだよ。あとできるだけお姉様になりきってね」
金剛「はあ……恥ずかしいですけど、そのぐらいなら」
なんとなく断れる雰囲気でもなかったので引き受けてしまう。
私も流されてるような……でも、このぐらいなら別にいいのかな……?
とにかく立ち上がると、比叡さんも同じように立ち上がったので後ろに回り込む。
……なんだか恥ずかしいですね。
摩耶に後ろから抱きつくのと同じなのかもしれないけど、そんなことしないし……。
……やるしかありませんね。
するりと抱きしめる比叡さんの体は想像よりずっと柔らかくて、花を思わせる香りが立ち上っているようでした。
そのまま耳元で息を吹きかけるよう囁く。気持ちだけは金剛さんになりきったつもりで。
「好きネー、比叡。大好き」
「ひ、ひえー……もう一回お願いします!」
「もう、比叡ったらわがままネー。でも、そんな比叡が大好き」
嗜好的なことはともかく内緒にしたいのは分かります。だって……恥ずかしいですよ、これ。
ああ、でも……このまま耳たぶを甘噛みとかしてもいいんでしょうか……って私まで流されすぎ。
金剛「こ、このぐらいにしましょうか!」
比叡「そ、そそそうですね!」
お互いに離れると、なんだか気まずくなってしまう。
比叡さんの顔が赤い。たぶん私も。
比叡「おおお茶を淹れますね! 今度はミルクも入れてみてください!」
金剛「はい……今度はそうします」
比叡「あの、今のことはくれぐれも内密に……どうか胸の中にしまっていてください!」
金剛「な、なんの話か分からないので安心してくださいデース」
比叡「そう、それならいいんだ……ありがとうね」
ここで会話が途絶えてしまう。ちょっと重たい沈黙が続いて、再び話題を振ってきたのは比叡さんだった。
比叡「そういえば、霧島じゃないけど体が入れ替わると記憶ってどうなるの?」
金剛「私は私のままですね。金剛さんもたぶん同じだと思います。記憶って脳にあるものだとばかり思ってましたが」
比叡「心……精神とか魂に宿ってるってこと?」
鳥海「艦娘に関してはそうなんでしょうね」
他にも思い当たる節はあるけど、それはここで口にすることもないのかな。
比叡「そっか……ねえ、鳥海は辛くないの? 今日は姉様があなたとして司令の側にいたんだよね」
金剛「二人が一緒にいるところを見たらそう感じるかもしれませんけど、今日はそうしないようにしてましたからね。ただ……」
比叡「ただ?」
金剛「私より金剛さんのほうが辛く感じるかもしれません」
比叡「そっか……確かにそうかも」
金剛「金剛さんはやはりまだ司令官さんを……」
比叡「自分に好きな人がいてさ、その人が別の人を好きだからって、私の気持ちが消えてなくなってくれるわけじゃないでしょ」
金剛「はい……あの、もしよかったら教えてくれませんか」
比叡「言ってみて」
金剛「金剛さんはどうして司令官さんを?」
比叡「私は姉様じゃないからはっきり分からないよ。でも初めから姉様も司令が大好きってわけじゃなかったかな」
金剛「そうなんですか?」
比叡「イメージ的にはそうでもないんだろうけどね。ここからは……うん、私の独り言ね」
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姉様と私はこの鎮守府じゃ、本当に一番最初の頃に来た戦艦なんだ。
一番初めが山城でその後が私たち。扶桑や伊勢たちよりも先。
その頃は今とは違った意味で戦況が安定してなくてね。
本土周辺の制海権は確保してたけど、外洋に出るとすぐに深海棲艦に群がられちゃうような有様だったんだ。
それでもいつまでも、ってわけにはいかないからね。
徐々に戦線を押し上げていって台湾を解放して、そこに仮設基地を用意して今度は比島に向かうために少しずつ敵戦力を漸減してたの。
その頃の私たちは一次改装は済ませてたし、まだ敵のほうもル級とかタ級なんて認知されてない時期だった。
雷撃はもちろん怖かったけど砲戦でなら撃ち負けることなんてなかったからね。近づく前に敵は沈めればいいって感じだったし。
それに山城と違って私たちの艤装は速力も出せたから、何かと作戦のお呼びがかかることも多かった。
私たちの出撃回数は多かったけど、もう連戦連勝で……それで天狗になっちゃったの。
それまで私たちが旗艦に付くことはなくて、当時だと叢雲や球磨が多かったかな。
着任当初なら練度が未熟だったからとも思えたけど、その頃になると周りと比べても遜色はなくなってたよ。
だから姉様がある時、司令に訴えたんだ。姉様か私のどちらかに旗艦を任せろって。
元々、姉様は旗艦を任せてもらえないのが不満だったの。
それに司令も鎮守府から動けなくて、そこから全体の指揮を執ってたのも影響しちゃったのかな。
前線のことなんて何も知らない人、みたいに見えちゃってた。
でも司令は姉様にも私にも旗艦は任せなかった。それでよかったと思う。
比島への上陸作戦が発令されて私たちも周辺海域の掃討が命じられたの。
そこでまぁ……赤いル級を含んだ艦隊がいくつも出てきてね。
そいつらをある程度は撃退したんだけど、私も姉様も手酷くやられちゃってね。しかも艦隊全体の足並みまで乱しちゃって。
結局、私たちは後退することになって作戦も一時中止。
修理の為に台湾の仮設基地に戻ったら、いないと思ってた司令まで来ててね……合わせる顔がなかったよ。
司令は叱責と……あと謝りに来たんだ。
私たちが天狗になってたのを叱って、それから自分も見通しの甘い作戦を通してしまったってね。
司令の言い方が正しかったのかは、ちょっと分からないよ。
敵戦力の把握とか見通しの甘さがあったのが事実でも、あの作戦自体は必要だったから。
実際、一ヶ月で準備を整え直して比島を再攻略したからね。
叱責のほうは……当然かな。姉様が司令に訴える一方で、逆に私たちの態度への不満も他から出始めちゃってたみたいで。
そういうのって見えない時は本当に見えないんだよね……今にして思えば司令がわざわざ来たのって、そういう不満を自分に向けさせようとしてたんじゃないかな。
姉様はそれから司令と色々話すようになって、どんな話をしたかまでは分からないよ。
それで鎮守府に帰った辺りからかな。今みたいに好意を隠さないようになったのは。
後は……そうだね、負傷して戻ってきた私たちを最初に見た時のあの表情は反則だと思ったかな。
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比叡「ねえ鳥海。もしかして遠慮してるの? 遠慮っていうか悪いとか思ってないよね、司令があなたを選んだのを」
金剛「それはないです……でも引け目みたいなのを感じることも」
比叡「そう。でも私に言わせたらこの鎮守府には艦娘が百何十人もいて、しかも司令を憎からず思ってる人は多いでしょ。でも司令は今やあなたを、鳥海を選んだ。それってすごく大事だと思う」
私は……比叡さんの言葉には答えられなかった。
彼女の言う通りだと思います。でも気持ちというのは、やっぱり素直に受け入れられなくなることもあって。
比叡「前にさ、私が失敗したカレー。司令とあなたは最後まで食べてくれたよね。すごく嬉しかったし……姉様には悪いけど、あなたたちでよかったって本気で思えたんだ。だからね、逆にそう思ってる人もいるって分かってほしいな」
金剛「はい……」
結局、金剛さんの気持ちははっきり分からない。司令官さんと金剛さんの間に何があったかなんて余人に知ることはできないんだから。
でも……その思いの強さと理由なら私にはきっと分かる。
そう考えると胸の内から意欲がわき上がってきた。
私はチョコを作りたい。私の理由で、私の為に。
金剛「比叡さん、今からチョコを作りに行きませんか?」
仮眠取ったら残りを書き上げて終了となります
ちょっと長々と脇に逸れてしまってるけどご了承ください
まだ途中なところ悪いと思うが>>30の
>島風「不器用でも失敗しないってさ。よかったね、巻雲」
>風雲「えっ……私そんなに不器用じゃないから」
が気になった
>>49
完っ全に作者が悪いのよ……
誤植です、申し訳ない。脳内補完してください
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
明石に準備ができたと呼び出されたのは13日が終わろうかという時刻デシタ。
私と入れ替わった鳥海と合流して二人で工廠に向かいマス。
今日一日の話をすると、彼女は色々話したと言いマシタ。
詳しくは教えてくれませんが比叡には今日のことは教えたそうデース。
私のほうも未だに鳥海のチョコには見当が付いていませんでしたが、直接聞くのはいかがな話のように思えてしまうのでこのままでいいのデショウ。
それに元に戻ってしまえば、それは私には関係のなくなる話だから……気にはなりますケドネー。
工廠に着くと私たちを迎えたのは明石ではなく大淀だった。
大淀「お待ちしてました、今回は本当にご迷惑をおかけしました」
金剛「え、ええ……」
大淀「あ、私は明石です。本当に入れ替われるのか自分でも試してみたんです」
金剛「じゃあ大淀さんが明石さんに?」
大淀「ええ。今はそこにいますよ」
大淀が指し示した先には鋼材を束ねるワイヤーで何重にも椅子に縛られた明石の姿がありマシタ。
鳥海「あれは一体どういうことデース?」
大淀「今回の原因になった新型のお風呂ですけど、元々納品予定にないというか回収命令が出てたんですよ。それをどこかの納入担当が確認もしないで搬入させたもんだから」
金剛「……それで私も届く予定を見た覚えがなかったのかも」
大淀「でしょうね。それで原因を招いた方には私と一緒に検証に協力してもらったわけです」
金剛「よく試しましたね……危険がないなんて分からないのに」
大淀「だからこそ他の人で試すわけにはいかないじゃないですか」
明石「私はどうなるんです!」
大淀「大淀は因果応報だから却下!」
鳥海「でも縛る必要はないのデハ?」
大淀「もちろん最初はそのつもりだったんですけど私の体で奇行をするつもりだったみたいで」
鳥海「Oh……」
金剛「あー」
明石「ちょっとそこ! なんで納得してるような反応なんですか!」
鳥海「大淀ですしネー」
金剛「問題児ですし」
明石「品行方正な私のどこにそんな要素が!」
大淀「品行方正なら、冗談でも夕張をたぶらかそうなんて言い出さないからね」
明石「誰も助けてくれない……私このまま捨て置かれるんだ。いいもん、大淀はこの程度ではめげないんですから!」
大淀「まあ、あんな感じなんで大淀は大丈夫ですよ。あの子はチョコで買収すればすぐに水に流してくれますし、元にも戻しておくので」
金剛「その後、このお風呂はどうするんです?」
大淀「解体して演習用の標的に混ぜておきます。艦政本部に送り返すのも怖いので。たぶん……こういう入れ替わりってあってはいけないと思いますし」
鳥海「同感ネー。私たちはやっぱり私たちのままであるべきデース」
金剛「そうですね……でも貴重な体験ができたので、そこはすごく感謝してます」
そこは確かに鳥海の言う通りデース。
それでもやっぱり私は私のままがいいネー。
大淀「じゃあもう一度、このお風呂で眠ってください。二人で一緒に入ってそれなりに長く入らないと入れ替わらないようなので」
そして私と鳥海は昨夜と同じようにカプセルに入って、同じように眠ると同じように元の姿に戻っていたのデース。
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大淀「無事に戻れたみたいですね。じゃあ私と大淀もこれから戻るとしますので」
大淀の姿をした明石はそう言うと眠りこけている明石の体をカプセルに移し始めマシタ。
金剛「これで一件落着ネー」
鳥海「そうですね……あ、金剛さんにお渡ししたい物があるので、お部屋でちょっと待っててくれませんか?」
鳥海は私に告げていくと足早に立ち去っていった。
今日渡したい物ということは、やはりそういうことでショーカ?
しかし困りましたネー。鳥海には何も用意してないデース。
金剛「ホワイトデーにてお返しするしかありませんネー」
今は出方を窺うしかないネ。
部屋に戻ると比叡が満面の笑みで迎えてきマス。
比叡「お帰りなさい、姉様。昨日は大変でしたね」
金剛「そうネー。比叡はどうでしたカ?」
比叡「私は……」
そう言うなり比叡の顔がいきなり赤くなりマシタ。理由は分かりまセーン。
比叡「私はとてもよかったです。いえ、姉様が一番なんですけど、あれはあれで味わいがあった趣きと言いますか!」
金剛「たまに比叡の言うことはよく分からないネー」
その時、部屋のDoorをKnockする音が響きました。
「おはようございます、鳥海です」
比叡「はーい。今、開けますから」
昨日の内に申し合わせていたのでショウ、比叡が鳥海を部屋に入れます。
彼女は別れ際に言った通り、二つの大小の箱を持ってきました。
鳥海「ハッピーバレンタイン! でいいのでしょうか? 金剛さんにお届け物です!」
金剛「Thank you so, so much!」
箱を二つとも渡されたマシタ。
比叡「あれ、私には何もないんですか?」
すると鳥海は比叡の耳元で何かを囁いて、途端にまた比叡の顔が真っ赤に茹で上がったようになりマシタ。
金剛「なんだか比叡と鳥海が仲良くなってる気がするネー」
鳥海「いえいえ、元からですよ」
比叡「ひええ!」
叫ぶ比叡を無視して鳥海は笑顔で話しかけてきマース。
鳥海「その箱なんですけど、両方ともチョコで量は違いますけど中身は同じです。小さい方は金剛さんが食べてください。大きい方は金剛さんがあげたい人にあげてください」
金剛「Why? 鳥海が作ったのではないですカー?」
鳥海「ええ。でもそれは私が金剛さんの気持ちになったつもりで金剛さんとして作った物です。だから私の中では鳥海が作ったチョコじゃないんです」
金剛「うー……」
鳥海「あ、ちゃんと作りましたよ。わざと失敗したとか、そんなことありませんからね」
金剛「But……sorry. 私はあなたの分は作らなかったんですヨ?」
鳥海「ええと……昨日、島風たちと作った分もないんですか?」
金剛「それは間宮の冷蔵庫に入ってるけどサー……」
鳥海「ああ、それでいいんですよ。私のチョコは」
金剛「待つネー! 大きい方はやっぱり鳥海が渡すべきデース!」
鳥海「ダメですよ。だってこれは鳥海が作ったチョコではありませんから。私の中ではそういう位置付けなんです」
それだけ言うと鳥海は部屋から出て行ってしまいマシタ。
どこか夢現な比叡はさておき、渡されてしまった以上はチョコを食べてしまいまショウ。
リボンでラッピングされた小箱を開けるとトリュフが入ってマース。
口に運ぶとチョコの風味が広がっていきます。
金剛「ほろ苦いネー……でもすぐに甘さと溶け合って……やさしい味デース」
比叡「それ美味しいですよね。特別な作り方なんて何もしてなかったのに」
比叡は少し呼吸が荒い気がしますが我に返ったようデース。
金剛「どういう風に作ってたノ?」
比叡「姉様が島風たちに教えた作り方だと。これはその後にトリュフにはしてますけど」
つまり鳥海も同じように作ったチョコを私に渡してきた……そして昨日、鳥海がチョコ作りを教えるはずだった面々。
金剛「……なんで鳥海が提督の分までこのレシピにしようとしたか分かった気がしマース」
そして鳥海から渡されたチョコを私は誰にあげないといけないのかも。
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金剛「Hey, 風雲はいますカー?」
風雲「いますけど……あの、何か私に用ですか?」
金剛「これあげるネー!」
風雲「え……これってチョコですか? どうして私に?」
金剛「今すぐに食べるのデース! Hurry up!」
風雲「え、え? あの、じゃあいただきますから……」
勢いに押されたような風雲は箱を綺麗に開けようと苦戦しながらもチョコを口に運びマシタ。
風雲「あ……おいしい」
金剛「そうでしょう。これ、鳥海があなたたちに教えたチョコをアレンジした物なのデース」
風雲「そうなんですか……」
金剛「あなたは手作りチョコがこれでいいのかと悩んでましたネー」
風雲「……なんで知ってるんですか?」
金剛「それは大した問題ではないのデース! 大事なのは贈りたいという気持ちが大切であって、だからこそ鳥海もあなたたちと同じチョコにしたんデース!」
風雲「あ……」
金剛「だから自信を持って飛龍に渡してくるのデース!」
風雲「はい……ありがとうございます。でも、なんでそこまで色々知ってるんですか……」
金剛「アー……それは私が金剛だからに違いありまセーン!」
風雲「よく分からないけど、じゃあそれでいいです。あの、このお返しは三月にしますので」
金剛「楽しみにしてるネー!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
チョコを渡して回って、後は島風と司令官さんに渡すだけになりました。
摩耶なんかは大喜びしていて、たぶん渡さないって前もって言っておいたが故のサプライズ効果があったのでしょう。
来年も同じ手を使ってもいいのかもしれません、なんて思っている内に島風を見つけました。
鳥海「島風」
島風「あ……」
あれ、一歩引かれた? 島風が左手を隠しているのは……気づかない振りをしておきます。
どこか警戒してるように感じたので、意識して笑顔を作ってみます。
鳥海「はい、島風の大好きなチョコレートですよ」
島風「今日は怒ってないんだね……」
鳥海「怒って?」
島風「だって昨日はずっと私をさん付けで呼んでくるし、提督の話をする時もなんだかいつもの鳥海さんっぽくなくって……」
なるほど……私と金剛さんの違いを感じ取ってしまっていたんでしょう。
鳥海「怒ってたらチョコなんてあげませんよ」
島風「うん……」
両手でチョコの箱を持って島風に差し出すと、彼女は素早く右手を差し出す。
チョコの箱に触れると、そのまま少し止まってしまったから箱を握らせてあげた。
島風「ありがとうございます……あのね、一緒に作っちゃったけど私も鳥海さんの分のチョコ、作ったんだよ」
島風は隠していた左手を私に差し出す。青い箱に黄色のリボンでラッピングされた小さな箱が小さな彼女の手に乗っていました。
鳥海「嬉しいです」
短いけれど、感謝の気持ちを込めて島風に伝えると、花がほころぶように彼女は笑ってくれました。
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鳥海「司令官さん、こちらはみんなで一緒になって作ったチョコです」
提督「ありがとう。みんなで作ったか」
鳥海「はい。島風と巻雲さん、風雲さん。それから金剛さんと比叡さんにも」
提督「そうか。チョコ作りは楽しかったか?」
鳥海「ええと……楽しかった、と思います」
提督「なんだ、はっきりしないんだな」
鳥海「昨日は他のことにも頭がいっぱいになってて……」
司令官さんはそう聞くと意味ありげに小さく声を出して笑いました。
本当に意味があるのかは未だによく分かりませんけど。
鳥海「それにしても沢山のチョコが来てますね……」
執務室の壁際、空調の当たる位置に臨時で用意されたスペースには大小色取り取りの箱が並べられている。
どれも艦娘から贈られたチョコです。
提督「一週間はチョコだけ食べればよさそうだな」
鳥海「せめて野菜も取ってください」
提督「それもそうか……ああ、ここのチョコはあげないぞ?」
鳥海「当たり前です。それは司令官さんが責任を持って全て食べるのが筋です」
提督「血糖値が怖いな……」
鳥海「その時は軍医さんにインスリンを頼んでおきますので」
提督「最近の鳥海はきついな……」
そんな話をしてると執務室に金剛さんがやってきました。
金剛「Hey, 提督ぅ! 今年はチョコを渡せないから、そのことだけ伝えにきたヨー!」
鳥海「あれ……今朝、チョコを持ってませんでした?」
金剛「あれは提督よりも必要な子にプレゼントしてきたのデース!」
金剛さんは意味ありげにウインクする。
あのチョコ、確かに金剛さんがそのまま渡すのには抵抗があるからもしかしたら、とは思っていましたが……まあ渡した時点で金剛さんの物です。
金剛さんが一番だと思った相手に渡してくれたのなら、それが一番でしょう。
提督「そうか……ちょっと楽しみにしてたんだけどな。まあ英国風カレーの方は楽しみにしてるよ」
金剛「What?」
提督「あれ、作ってくれるって約束しなかったっけ?」
金剛「……提督も人が悪いネー。でも、そっちは楽しみに待ってるといいデース!」
指を突き出して宣告すると金剛さんは立ち去っていきました。
鳥海「英国式カレーですか?」
提督「ああ、なんでも日本のカレーのルーツらしい」
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─────
「司令官さん」
「うん?」
「あなたは後悔してませんか?」
何を、とは聞きません。
司令官さんは浅く腕を組むと右の指が手を何度か叩く。
「鳥海こそどうだ?」
「私は……って聞いてるのは私ですよ!」
「そうだったな。迷うことはなかった、とは言わないけど」
司令官さんは真っ直ぐ私の目を見ました。
「同じだよ、俺たちは。そう思ってる」
了
なんとか今日中に終わりました。よかったよかった。
特に説明はしてませんが、キャラ設定などは自分の連作からそのまま使っています。
当初は島風が天津風に渡す話や風雲が飛龍に渡すのをメインにして書くつもりだったんですが、どうも内容に満足いかなかったので今回のような話に。
ここまでお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
乙乙
乙。良かった
おつん
おつなのん
皆様、乙ありです
素材をあまり生かせてなかったような気がしていて不甲斐ないですが、だからこそありがとうございます
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