突発的な瑞加賀SSです。
前に書いてた長編SSとの繋がりはありません。
・軽めの百合描写あり。
・独自設定、解釈等あり。
苦手な方はご注意を。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455376797
_____2月7日
瑞鶴「あー疲れた! でも、勝てて良かったな」
今日の演習が終了。私が指導してた葛城も徐々に力を付けてきて、戦果も上げられるようになってきた。
私もMVPだったし、本当に充実した内容の演習だったと思う。
ただ、その分疲労はかなり溜まってて。今すぐシャワーを浴びて自室のベッドにダイブしたい気分だった。
加賀「五航戦のやかましい方」
そんなことを考えながら歩いていると、素っ気ない態度の加賀さんに呼び止められる。まーたお小言?
私、今日はMVPだったし、とやかく言われることは何もしてないはずなんだけど……
加賀「地球をドーナツ状にとりまく放射能帯のことを何て言うか知ってるかしら?」
瑞鶴「えっ? えっと、ヴァン・アレン帯ですか?」
加賀「正解よ。それでは……」
加賀「一説によると、当時禁止されていた恋人達の結婚式を執り行った為に処刑されたとされる、3世紀頃のキリスト教の聖職者は?」
瑞鶴「聖ウァレンティヌス?」
加賀「正解」
あ、あの? 何で私、演習が終わって早々加賀さんとこんなクイズ大会なんかやってんの?
瑞鶴「ん? あれ、でもこの二つの単語ってもしかして……」
確か今日は2月7日。もしかして加賀さん、来週のあの日を意識させようとして……
加賀「最近は戦闘訓練ばかりで座学の方を疎かにしていないか気になってたけれど、どうやら問題なさそうね」
瑞鶴「えっ?」
加賀「でもこの程度で満足せずに、もっと精進しなさい。文武両道は空母の嗜みよ?」
瑞鶴「えっ、あ、あの……」
ポカンとしてる私を尻目に、加賀さんは自分の部屋に戻っていく。な、何なのよもう~!
_____瑞鶴、翔鶴の部屋
瑞鶴「あ~もう、何なのよあの人! 信じらんないっ!」
翔鶴「あらあら、瑞鶴ったら……また加賀さんと喧嘩でもしたの?」
瑞鶴「あっ、もう聞いてよ翔鶴姉~!」
半ば呆れた顔で話しかけてくる翔鶴姉。私は待ってましたと言わんばかりに先程のことの愚痴を垂れ流す。
瑞鶴「大体私、ちゃんと正解したんだよ! 間違えたんならともかくさ!」
瑞鶴「何でちゃんと答えられたのにあんな偉そうなこと言われなきゃいけないの!?」
瑞鶴「きっとあれね! あの陰湿一航戦、難しい問題出して私が間違えたらネチネチとイヤミ言おうとしてたのよ」
瑞鶴「それを簡単に答えられちゃったのが悔しくてあんなこと言ったんだわ!」
翔鶴「う~ん……でもあの加賀さんが、わざわざそんなことするかしら……?」
翔鶴「本当は瑞鶴のバレンタインの予定が気になってたけど、素直に聞き出せなかったんじゃないかしら?」
瑞鶴「は、はあぁ!? そ、そんなこと、あるわけないし……!」
翔鶴(まあでも、この子も加賀さんも本当に素直じゃないから……中々難しそうね)
翔鶴「まあ加賀さんの真意は置いとくとして、チョコは渡すつもりなんでしょ?」
瑞鶴「ま、まあ……赤城先輩とか、空母のみんなにはお世話になってるから。義理チョコくらいは……」
翔鶴「何言ってるの、加賀さんのは本命でしょ?」
瑞鶴「えっ!? ちょ、翔鶴姉何言ってんの!? イミワカンナイ!」
ちょ、な、なんでバレてんの!? やばい、頬が紅潮する。落ち着け、落ち着くのよ瑞鶴!
翔鶴「そんな必死に取り繕わなくても……あなたが加賀さんのこと好きだなんて、ずっと前からわかってたわ」
瑞鶴「し、知らない知らない! あんな奴のことなんか、好きでも何でもないんだからぁ!」
バツが悪くなった私はベッドから飛び起きて部屋を出ようとする。
翔鶴「瑞鶴!」
ドアノブに手を掛けた瞬間、さっきまでとは打って変わって真剣な顔つきになる翔鶴姉。
翔鶴「何を思うのもあなたの自由だけど、後悔だけは絶対にしないでね……」
瑞鶴「翔鶴姉……?」
翔鶴「二年前のあの日、私はあの人に気持ちを伝えることができなかった……悔しくて……自分の弱さを許せなかった」
翔鶴「どれだけ追いかけても追いつけなかったあの人に、せめて告白だけは自分の方からって思ってたのにね……」
瑞鶴「いや、翔鶴姉。何か悲恋みたいに語ってるけど、チョコ渡した後速攻で赤城先輩に告られて即夜戦してたじゃん」
翔鶴「そ、それは、そうだけど……ほら、赤城さん、ああ見えて意外と弱いところもあるし……」
翔鶴「きっとすっごい勇気を出して言ってくれたんだなぁって思うと私としては……」
あ、やばいこれ。結局惚気モードに入って延々と砂糖吐くほどの甘い話を聞かされるだけだ。逃げないと!
瑞鶴「そ、それじゃあ翔鶴姉! 私ちょっとご飯食べに行ってくるから!」
私は早々に話を打ち切ると、部屋を後にした。まったく……赤城先輩のことになると止まらないんだから……
翔鶴「それでね、赤城さんったらああ見えてベッドの上だと……って、あら? 瑞鶴? いないの? 瑞鶴!?」
_____食堂
瑞鶴「はぁ……」
さっき翔鶴姉に言われたことが頭にちらついて。せっかく大好きなカレーの日だってのに箸……って言うかスプーンが進まない。
葛城「瑞鶴先輩っ、隣、いいですか?」
瑞鶴「葛城……」
私が一人食堂の隅っこの席に座ってると、可愛い後輩の姿。彼女は私の返事を待たずに隣に座ってくる。
葛城「先輩、浮かない顔してますね。もしかして、来週のバレンタインのことですか?」
瑞鶴「はは、よくわかったね」
葛城「この時期はみんなそうですからね~。誰に本命を渡すとか渡さないとか……結構悩んでる人も見かけますよ」
葛城「葛城も……気になるんです。瑞鶴先輩のこと。その、本命の相手とか……」
瑞鶴「ちょ、葛城! そ、その話は今は、その……!」
葛城「その様子だと、やっぱりいるんですね。Kさんですか?」
瑞鶴「!?」
う、ウソ!? 葛城にまでバレてたの!? 翔鶴姉が特別鋭いだけだと思ってたのに!
葛城「その、『か』から始まる名前の人……だったりします?」
瑞鶴「ち、ちがっ! 私、そんなんじゃ……!」
やばい、やばい! こんな態度じゃ墓穴を掘るだけってわかってるのに……上手く躱す言葉が思いつかない!
葛城「瑞鶴先輩っ! 葛城は、勇気を出して渡すべきだと思いますっ!」
瑞鶴「か、葛城……? で、でも、その……」
葛城「きっと相手だって、瑞鶴先輩のこと好きに決まってます! 私が保証します!」
葛城「いつも真っ直ぐで、直向きで……一生懸命な先輩のこと、ずっと見てたはずですから!」
葛城「だから勇気を出して下さい! 弱気になるなんて、瑞鶴先輩らしくないじゃないですか!」
目を輝かせながら力説する葛城。こんなにも私を応援してくれるなんて……
瑞鶴「葛城、わかったよ」
可愛い後輩にそこまで言われたら、応えないわけにはいかないよねっ!
瑞鶴「あなたのお陰で決心が着いた。私、本命チョコを作って気持ちを伝えるよ!」
葛城「はい。先輩、ファイトですよ……!」
私は素早くカレーを平らげると、食堂を後にした。
手作りチョコなんて初めてだから、まずはレシピを漁らないと。
_____翌日
瑞鶴「うぅ……眠い。て言うかヤバい……」
あの後、ネットでとにかく色んなレシピを漁ってスマホにメモしてたんだけど、気がついたら朝の5時。
睡眠時間はほぼ無いに等しく、午前中の射撃訓練にも身が入らなかった。
極めつけはさっきの演習。艦載機のコントロールを乱し、航空隊も精彩を欠制空権を喪失。攻撃隊も目立った戦果は上げられず。
私自身はギリギリ中破判定で生き残ったけど、その動きが悪かったのは誰の目から見ても明らかだった。
加賀「瑞鶴!」
ほら来た。これから地獄のお説教コースだ。でも今回の件は本当に自業自得なわけだし、仕方ないかな。
加賀「一体どうしたの? 今日はいつにも増して変だったわよ?」
あ、あれ? その声色に憤りみたいなものは全く無くて……むしろすっごい穏やか。
加賀「熱でもあるのかしら?」
瑞鶴「っ!? ちょ、加賀さん! ち、近いっ! 近いですよぉ!?」
おでこをピタッと合わせてくる加賀さん。
こ、こんな、漫画でしか見たことないようなシチュエーション……無理無理ムリ!
瑞鶴「か、加賀さんっ、私、その……ご、ごめんなさい!」
加賀「あっ……」
恥ずかしさに耐えられなくなった私は加賀さんを引き離すと、一目散に自室にダッシュ。ベッドにダイブした。
瑞鶴「加賀さんの顔、あんなに近くで見たの初めてだ……やっぱり、すっごく綺麗だったなぁ……」
って、違うそうじゃないっ!
瑞鶴「やっちゃったなぁ……」
何とか思考を切り替えて反省モードに入る。
せっかく加賀さんが心配してくれたのに、あんな……拒絶するような態度取っちゃって。
瑞鶴「どうしよう、顔合わせ辛い……」
次に会った時には、また今日のことで怒られて……私はきっと反発しちゃうんだろうなぁ。
目に見えてわかる。私はあの人の前だと、どこまでいっても素直になれない……
そんな関係から一歩先に進みたいと思ってバレンタインにチョコを渡すことを決心したのに……
瑞鶴「何はともあれ、本番前に加賀さんの心象をこれ以上悪くしちゃったら本末転倒だよね」
出した結論がそれ。ちょっと心苦しいけど、明日からなるべく加賀さんとは顔を合わせないようにしよう。
もっと素直になって、あの人の言うことをちゃんと受け入れられればいいんだけど、そんなの無理に決まってるし。
少なくとも今の状態より悪くなることはない……不器用な私にはこれくらいしか思いつかない。
瑞鶴「さて、そうと決まれば早速チョコ作りの練習ね。本番まで時間がないんだし……やらなくちゃ!」
_____2月13日 朝
翔鶴「うーん……あら、まだ8時なのね。赤城さんとの約束は12時からだから……って、瑞鶴!?」
瑞鶴「あ、おはよー、翔鶴姉……」
翔鶴「ど、どうしたの瑞鶴!?」
慌てて私に駆け寄る翔鶴姉。そんなひどい顔してるのか、私。
瑞鶴「いや、昨日ちょっと徹夜しちゃってさ……でも大丈夫だよ。ちょっと仮眠取ったら朝練行くから」
ここ数日は無理しない程度にしてきたけど、昨日は本番前ってこともあって気合入れすぎちゃった。
とにかくたくさんチョコを作り続けてたら一睡も出来なかった。
でもそのお陰か、これ以上は無いってくらい自分でも納得できるものが作れたと思う。
翔鶴「瑞鶴、そんな状態じゃ駄目よ。今日は午後の演習もお休みにしてもらいましょう」
瑞鶴「えっ? でも、私がいなかったら誰があの子の……葛城のこと見るって言うのさ」
翔鶴「私が代わるわ。あなたは今日は大人しく寝てなさい」
瑞鶴「ダメだよ翔鶴姉、今日は赤城先輩とデートじゃん。そのまま夜戦して明日の夜まで帰ってこないつもりでしょ?」
翔鶴「ちょ、瑞鶴!?」
瑞鶴「そう言うわけだから邪魔なんて出来ないし。大丈夫だって、本当にどうにもならなかったらちゃんと提督さんに言うから」
翔鶴「ほ、本当に? 無理はしないでね、瑞鶴。約束よ?」
瑞鶴「うん、わかってるって!」
_____数時間後
加賀「さて。少しお話ししましょうか」
まあ、大丈夫なわけはなくて。加賀さんと一緒のチームで演習に臨んだけど、天城、葛城率いる艦隊にボロ負けした。
私の動きはこの間の演習よりも更に酷くて、艦載機の発艦すらできずに大破退場。間違いなく過去最低の成績。
加賀「ここ数日は、あなたの身に何かあったんじゃないかと少しは心配もしてたけれど……さすがに頭にきました」
瑞鶴「か、加賀さん、私……」
加賀「あなたにはもう何も期待しない。やる気がないのなら、銃後に下がりなさい」
瑞鶴「あっ……」
大事な何かが……私の中でプツンと音を立てて切れた。
瑞鶴「誰の、所為だと……思ってんのよ……!」
瞬時に加賀さんの胸ぐらを掴んで、壁に叩きつけていた。
瑞鶴「あんたの所為で……私はこんなに苦しんでるのに……!」
やめて! こんなことがしたいんじゃないっ!
こんなことが言いたいんじゃ、ない……のに……!
加賀「んっ……ず、ぃ……!」
瑞鶴「っ!?」
苦悶の表情を浮かべる加賀さんを見てその手を離す。謝らなきゃ……!
加賀『あなたにはもう何も期待しない』
『何も期待しない』
直後に、さっき加賀さんの口から発せられた言葉が頭を巡る。
今さら取り繕って、謝ったところで何になるんだ……
瑞鶴「もう私には関わらないで!」
加賀「瑞かっ……!」
呼吸を整えながら何かを訴えかけようとする加賀さんを尻目に私はその場から逃走。
自室に駆け込んで真っ先に目に入ったのは机の上に置いてあったハート型のチョコ。明日、あの人に渡す予定だった物。
せっかく美味しくできたのに……こんなに可愛くラッピングもしたのに……いろんな思いを巡らせながらも、私はそのチョコを叩き割った。
そして、勢い良くベッドにダイブして布団を被る。
私……何やってるんだ……!
瑞鶴「私……わた、し……最低だっ……!」
_____2月14日 朝
瑞鶴「……夜明け、か」
闇に守られて、震える身に朝が迫る。涙で濡らした枕。真っ二つに割れた手作りのチョコ。
さあ何を憎めばいい? 勝手に逆ギレしたのも、拒絶したのも全て私自身。
瑞鶴「朝練……あ、今日は休みか」
ちょっとだけホッとする。あの人と顔を合わせる勇気、今の私にはないよ。
加賀「瑞鶴」
瑞鶴「!?」
なんて考えてると、ドアの外からノックと共にあの人の声。
そのトーンはいつも通り低くて、感情を窺い知ることはできないけど……
きっと怒ってるに違いない。自業自得だってのに逆ギレして、あんなことを言っちゃったんだから。
加賀「瑞鶴、入るわよ?」
ドアの鍵は開いたままだ……今からダッシュして鍵を掛けようとしても間に合わない。
覚悟を決める? いや無理。今の精神状態で加賀さんに見限られたら……きっと私はどうにかなっちゃう。
瑞鶴「くっ……!」
私は咄嗟にチョコを懐に抱え、窓を開けて外に飛び降りた。こんなことしても、何にもならないのに……
どうせ明日になれば嫌でも加賀さんと顔を合わせることになるのに……わかっていても、私は走り出していた。
_____工廠裏
瑞鶴「はぁ……はぁ……」
加賀さんから逃げ続けて数時間……ってレベルじゃないくらい経ってて。辺りはすっかり暗くなってる。
この鎮守府は広い。本気で逃げようと思えばそうそう見つかるものでもない……
瑞鶴「ん? あれ?」
ふと前方に目をやると、葛城の姿。手には古くて使わなくなった艦載機を持っている。廃棄作業中か。
瑞鶴「葛城!」
葛城「えっ、瑞鶴先輩!? どうしてこんなところに……?」
すぐさま返事をして振り向く葛城。そう言えば、この子に背中を押されて加賀さんにチョコを渡そうって思ったんだっけ。
それが、こんな結果になっちゃって……思わず名前を呼んじゃったけど、何て言えばいいんだろう……?
葛城「あ、瑞鶴先輩。そのチョコは……」
咄嗟にチョコを隠そうとするけど、それよりも先に葛城に言われる。
瑞鶴「あ、これは……葛城に渡そうと……あの時背中を押してくれたお礼にって思って」
瑞鶴「その、ごめん。慌てて走ってきたから転んじゃって。不恰好な形になっちゃったんだけど、もし良かったら……」
下手すぎる言い訳が口を衝いて出る。でも、これでいいんだ。私と加賀さんの関係はもう終わりだし。
葛城にお礼がしたかったのは本当だけど、どちらかと言えば自分の、加賀さんへの想いを無理やり断ち切ろうと言う気持ちの方が強かった。
葛城「受け取れません」
瑞鶴「そ、そうだよね。こんなチョコなんて、貰っても迷惑なだけだよね……?」
葛城「違うんです。先輩が、自分の気持ちに嘘をついてるから……!」
瑞鶴「えっ?」
葛城「本当に渡したい相手、加賀さんなんですよね? だから葛城が受け取るわけにはいかないんです」
そっか。葛城は全部わかってたのか。でも、駄目なんだよ……
瑞鶴「葛城……無理だよ。もう、あの人とは終わりなんだ……」
瑞鶴「私、ただでさえあの人には嫌われてたのに……昨日あんなこと言っちゃって……!」
葛城「昨日のこと、ですよね。何があったかは聞きましたけど……諦めちゃうんですか? たったそれだけのことで……」
葛城「先輩の、加賀さんへの想いってその程度なんですか?」
瑞鶴「なっ……私がどれだけ……っ!?」
私が狼狽すると、葛城が私の手を握ってきた。小さいけど、暖かくて安心できる手……
葛城「先輩は……葛城の好きな瑞鶴先輩は、いつだって真っ直ぐで、カッコよくて……自分に自信を持ってる人でした」
葛城「あれくらいの衝突なんていつものことじゃないですか。弱気になるなんて、先輩らしくないですよ」
瑞鶴「葛城……」
後輩に諭されて思い返す。確かにここ最近の私は……気負いすぎて無理をしたり、勝手な思い込みで暴走したりしてた。
今日って言う日を意識しすぎてたのかな……?
何にしても、こんなんじゃ葛城に偉そうに先輩面なんて出来ないや。
葛城「最後に決めるのは先輩自身ですけど……後悔だけはしないでくださいね」
後悔……か。はは、まさかこの子に、翔鶴姉と同じことを言われるなんて思わなかった。
瑞鶴「ん、もう大丈夫だよ葛城。本当にごめんね、色々と迷惑掛けちゃって……」
瑞鶴「私、今度は逃げないから! 加賀さんにちゃんと気持ちを伝える!」
葛城「はい。ファイトですよ、先輩!」
瑞鶴「葛城、ありがとね!」
私は葛城に再び背中を押されて、加賀さんのところへ走り出した。
葛城「これで……良かったんだよね。瑞鶴先輩……」
葛城「まあ最初からわかってたけどさ。一週間前に話してた、本命を渡したい相手が加賀さんだってのは……」
葛城「でも万に一つ……ううん、億に一つでも、葛城のことだったら……なんてことも考えてたけど、現実はそんなに甘くはないか」
天城「葛城……」
葛城「天城姉!? 雲龍姉も! 見てたの!?」
雲龍「本当にこれで良かったの? 瑞鶴さんと恋仲になれたかも知れないのに……」
葛城「うっ、ま、まあ悔しくないわけじゃないけどさ、やっぱり私にとっては瑞鶴先輩の気持ちが一番大事だし?」
葛城「あの人の幸せが、私の一番の幸せって言うか……」
雲龍「でも、諦めたわけじゃないのよね?」
葛城「もちろん! 加賀さんが瑞鶴先輩の気持ちに応えなかったら、私がすぐに奪っちゃうんだから!」
雲龍「まったく、本当に難儀な恋をしてるわね、あなたは……」
天城「私達はいつだって葛城の味方だからね。それを忘れないで」
葛城「うん。ありがとね、雲龍姉、天城姉!」
_____数時間前 加賀、赤城の部屋
加賀「朝……か。あのまま眠ってしまったのね……」
赤城「おはようございます、加賀さん。気分はいかがですか?」
加賀「最悪です……って、赤城さん? 今日は夜まで帰ってこないと聞いていましたが……」
翔鶴「ん……う~ん、赤城さん。加賀さんも、おはようございます」
加賀「何故翔鶴さんもいるの?」
赤城「ええ。本来なら夜に戻る予定だったんですけど……昨日、瑞鶴さんの様子がおかしかったでしょう?」
赤城「翔鶴がどうしても気になるから帰るなんて言い出して。酷い話だと思いませんか? 恋人である私よりも妹さんの方が大事だなんて」
翔鶴「ちょ、赤城さん。それは、その、別に順位とかを付けたわけではなくて……勿論赤城さんは世界で一番大切な人ですよ?」
翔鶴「でも瑞鶴だって私にとっては……」
赤城「うふふ、冗談よ。まったく、翔鶴はからかい甲斐があるんだから」
翔鶴「もう、赤城さんの意地悪」
加賀「はあ。で、朝からそのウンザリするようなやり取りを見せつける為にわざわざここに来たのですか?」
翔鶴「いえ、私は昨日の夕食前に戻ってきていたんですけど、瑞鶴ったら部屋に閉じこもってて……」
翔鶴「どうにも近寄り難い負のオーラみたいなのを放っていたので、そっとしておこうと思ったんです」
翔鶴「でもそのままだと私の寝る場所がなくなってしまうからここに来たんですけど、加賀さんも不貞寝してましたし」
赤城「そう言うわけで仕方なく狭いベッドの中二人で寄り添いながら寝てたわけです。中々理性を抑えるのが大変でしたよ」
翔鶴「もう、赤城さんったら。私はいつでもOKでしたのに……」
赤城「でも、加賀さんが起きちゃったら恥ずかしいじゃない」
加賀「……そうですか……まあ、昨日は色々とありましたから」
赤城「それも聞いていますよ。加賀さん、また瑞鶴さんと喧嘩したそうですね?」
加賀「そ、それは……」
赤城「まあ瑞鶴さんも瑞鶴さんですけど、加賀さんも相変わらず不器用すぎます」
赤城「銃後に下がれなんて言ったのも、瑞鶴さんがあの状態で出撃したら絶対に沈んでしまうから……」
赤城「それを案じてのことなんでしょう?」
翔鶴「瑞鶴は気が強い子ですけど、あなたのことになるととても繊細なんですよ?」
翔鶴「ちゃんと本音でぶつかってあげないと、あの子は言葉をそのままの意味で受け取ってしまいますから」
加賀「今さらそれを言われたところどうにもならないでしょう?」
加賀「私はただでさえあの子に嫌われていたのに、昨日のことで決定的になってしまいましたから」
翔鶴「加賀さん……あなたが本当は瑞鶴のことをとても大切に思っているのは知っています」
翔鶴「瑞鶴に厳しく接しているのも、それだけあの子に期待しているからなんですよね?」
翔鶴「普段は素っ気ない態度で、名前すら呼んであげないのに、本気で心配している時はちゃんと瑞鶴と呼んでいますよね?」
赤城「瑞鶴さんだって、本当は加賀さんのことをとても尊敬しているんですよ?」
赤城「出撃から帰ってきた後、あなたの戦果の話を毎回のように聞かされます。そして、自分もいつか加賀さんみたいになりたいとも」
赤城「そんなお二人の関係が、たったあれだけのことで壊れてしまうなんて保護者である私達からしたらとても忍びないんです」
翔鶴「だから加賀さん。もう一度だけ、瑞鶴と会ってお話をしてくれませんか……?」
加賀「……私は構わないけれど、あの子は会ってくれるかしら?」
翔鶴「大丈夫です、信じましょう。瑞鶴も凹んでいるとは思いますけど、それだけで終わってしまうような弱い子ではありません」
翔鶴「ちょっと時間が掛かるかも知れないですけど、あの子ならきっと大丈夫ですから」
加賀「わかりました。行ってきます」
_____2月14日 夜
瑞鶴「ここにもいなかった……」
食堂を後にする。いろんな場所を回ってみたけど、加賀さんの姿は見当たらない。
瑞鶴「どうしよう……このままじゃ日付けが変わっちゃうよ……」
もう時間がない。闇雲に走ってもダメだ。ある程度場所を絞らないと……
瑞鶴「私が加賀さんなら……あそこか」
冷静になって考えてみたら簡単なことだった。よりにもよって工廠から一番遠いところ……空母寮。私の部屋だ。
加賀さんは私と違って無闇に走り回ったりはしない。この鎮守府は広いんだから、お互いが奔走していたら見つかるわけがない。
それなら最終的に私が戻る場所……そこで待ってればいいんだから。
こんなことにも気付かなかったなんて……!
瑞鶴「なんて反省するのは後! 行かなきゃ……!」
_____瑞鶴の部屋
瑞鶴「加賀さんっ!」
勢い良くドアを開けると、部屋の真ん中には加賀さんの後ろ姿。
加賀「瑞鶴……」
こちらを振り向く加賀さん。部屋の明かりは点いてなかったんだけど、ちょうど月の光が差し込んでいて……
照らし出されたその神秘的とも言える光景に心を奪われそうになる。ちょっと、何これ。加賀さん美人すぎでしょ。
瑞鶴「はっ……!?」
一瞬固まった後、すぐに部屋の電気を点けた。時計を見るとまだ日付けは変わってないみたいだった。
瑞鶴「あ、あの、加賀さん……」
後は伝えるだけ。昨日のことを謝って、チョコを渡して、気持ちを伝える。ただそれだけ。
瑞鶴「えっと、その……」
意を決して会いに来たはずなのに、言葉が詰まってしまう。やっぱり怖いよ。
加賀さんはきっと私のことなんか……そんな考えが頭を巡る。
瑞鶴「か、加賀さん。どうせきっと私だけだと思うから……可哀想だから、チョコあげるわ!」
あああああ! 何言ってるんだ私!? 何でこんな時にまで意地張ってんのよ! バカじゃないの私!
瑞鶴「ちゃんと、お返ししてよね……?」
加賀「ええ。ありがとう、瑞鶴」
そんな私に対して、加賀さんは優しい微笑みを浮かべて受け取ってくれた。こんな、崩れたチョコなのに……
瑞鶴「か、加賀さん……わたし、私……!」
泣きそうになるのを必死に抑えながら言葉を絞り出す。とにかく謝らないと。
瑞鶴「本当にごめんなさい! 自分が悪いのに、加賀さんにあんなこと言っちゃって……!」
加賀「いいのよ。私も言葉が足りなくて、あなたを何度も傷つけてしまったわ」
加賀「誤解しないで欲しいのだけれど……私があなたに厳しく接しているのは、それだけ期待しているからなの」
加賀「私はその、感情表現が苦手で……褒めて伸ばすこともできなくて、つい辛く当たってしまっているけど」
加賀「決してあなたのことが嫌いなわけではないの。そこだけは間違えないで欲しい……」
瑞鶴「加賀さん、本当に……?」
今まで翔鶴姉や赤城先輩からも同じことを言われてきた。加賀さんは私の為を思って言ってくれてるんだって。
でも全然信じられなくて、自分で勝手に嫌われてるって思い込んで……距離を置いたり反発したりしてた。私ってほんとバカ。
瑞鶴「あの、私……」
加賀さんは、自分の胸の内を聞かせてくれた。私も……加賀さんの思いを知った今なら、きっと素直になれる!
瑞鶴「加賀さん、私……加賀さんのことが好きです! その、同じ艦隊の仲間として、とかじゃなくて……」
瑞鶴「えっと、女性として……ライクじゃなくてラブの方で! 加賀さんのこと、好きなんですっ!」
言っちゃった……ムードとか欠片もなくて、拙すぎる言葉での告白。私らしいっちゃらしいけどさ……
加賀「瑞鶴……」
最初はただ厳しいだけの先輩だと思ってた。しかられたり、喧嘩してる方がずっと多かったかな。
でも時折見せてくれる優しさが、ずるいくらい私の心を惹きつけて……いつしかそれが恋なんだって自覚した。
けれど、そこから先には進めなかった。告白でもして、拒絶されたらきっとぶつかり合うような関係さえ崩れてしまう。
それを恐れて、ずっと生意気な後輩を演じてきたけど……それもおしまい。私は一歩を踏み出したんだ。
加賀「その……私は、あなたに対しては特別な感情を持っているわ。赤城さんや翔鶴さんとも違うものを……」
加賀「この艦隊で唯一、私に正面からぶつかって来てくれるあなたを、私は特別視していたのかも知れないわね」
加賀「でもそれが恋なのかどうかはまだわからないの。今までそんなの、したことが無かったから……」
加賀「ただ、そうね……あなたはいつだって私の知らない景色を見せてくれたわ」
加賀「今後もあなたと共にいて、新しい世界を見つけていくのも……悪くはないと思ってる」
加賀「今すぐ赤城さんと翔鶴さんみたいな関係になることは出来ないけれど……それでも良ければ……」
そこまで言って加賀さんは、優しく微笑んで右手を差し出した。
瑞鶴「加賀さんっ!」
私は一歩踏み込んでその手を取り、でも直後には我慢できなくなって勢い良く加賀さんに抱きついた。
瑞鶴「加賀さん、私……嬉しいよ」
ずっと片想いだった恋がまさに実った瞬間……ってわけじゃ全くないんだけど、私達の関係に変化を齎す最初の一歩を踏み出せたんだ。
加賀「それにしても……」
加賀さんに告白してから数時間。ずっと他愛のない話をしていた。本当にいつも通りの話題。
葛城に対する指導の仕方とか、私自身の技術の話。いつものようにお小言やお説教も混じってたんだけど、
それでも加賀さんの表情にはどこか優しいものがあったように見えた。
加賀「あなたにあんな態度を取ってきた私を好きになるなんて、あなたってドMなのかしら?」
瑞鶴「なっ……!?」
そんな流れを断ち切って出てきたのは意外な言葉。何これ、深夜のテンションってやつ?
瑞鶴「ち、違いますっ!」
いや私自身、確かに加賀さんとぶつかって喧嘩してる時も、こんな時間も楽しいものだって思ったこともあるけどさ。
でも一番惹かれたのは、加賀さんのさり気ない優しさだってのに……この様子だと無自覚だったってこと?
何その天然たらし……ほんと、そういうところもズルいんだから。
加賀「……? どうしたの、瑞鶴。顔が赤いわよ?」
そんなことを言って、いつかみたいに顔を近づけてくる加賀さん。そ、その手は食わないんだからっ!
瑞鶴「ああもう! 加賀さんってホント鈍感っ! そうやって無自覚に私のことをさ……!」
私はサッと飛び退いて距離を取り、加賀さんにビシッと指差しながら口を開く。
瑞鶴「こ、今度は私の方から加賀さんのことドキドキさせてやるんだからっ!」
瑞鶴「それで、私のこともっと好きになってもらうから……覚悟してよねっ!」
加賀「……ふふっ、そうね。それなりに期待はしているわ」
瑞鶴「……っ!」
私の精一杯の虚勢に、余裕の微笑みで返す加賀さん。
その笑顔にまた見惚れてる自分に気付いて……まだまだこの人には敵いそうにないやって自覚する。
瑞鶴「で、でも! いつか絶対に形成逆転してやるんだからね!」
時間はたっぷりある。私と加賀さんの物語は、まだ始まったばかりなんだからっ!
完
と言うわけでバレンタインの単発SSでした。
私が瑞鶴を書く時は基本的にはイケメン(通称イケズイ)が多いんですが、
たまには恋する乙女全開なずいずいも見たいと思って時事ネタで書かせていただきました。
それではここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
乙!
瑞加賀いい
おつー
綺麗な瑞加賀で、でも儚い瑞葛で
たまんねぇ
乙
待ってたよー!
糞スレ確定
乙
乙
このSSまとめへのコメント
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