【モバマス】藍子「キスを、いつも、探してる」【百合】 (38)

※本田未央と高森藍子の百合SSです。
※一応キス止まり
※大槻唯と相川千夏が既に出来ている設定

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1452345616

「はぁ……はぁ……疲れたぁ……」

高森藍子はマスタートレーナーの課したロードワークを今しがたたっぷり受けたばかりだ。

散歩好きとはいえあまり肉体派という訳ではないので

彼女は本田未央に大きく引き離されて、帰って来た事務所の休憩室に入った。

同じポジティブパッションメンバーの日野茜はというと

三十キロのロードワークを楽々とこなして、更に元気が有り余っているというので

もう休憩を終えて後半に予定していた分も走っている。

「未央ちゃん……?」

未央は更衣室の長椅子で寝息を立てていた。よほど疲れたのだろう。

昨日は島村卯月たちとLINEして寝てなかったそうだから睡眠不足もあるかもしれない。

藍子は起こしては悪いと、傍の椅子に腰掛けて息を調え

未央の寝顔をボーッと眺めていた。

「未央ちゃん……本当に可愛いな」

藍子が呟いた。未央は女らしい体つきと明るく元気な見た目と性格。

パッショングループに多いムードメーカー的才能に満ち溢れている。

そんな所が男女問わず人気なのだ。

この前水着姿になった時には、女でありながらも

その瑞々しい肢体に見とれてしまった。

自身の貧相な体とは比べ物にならない

男の子が好きそうなあの恵まれたフォルム……。

「……未央ちゃん……」

まだ息の調子が戻っていない。

真っ赤な顔で、藍子は未央の寝顔を眺めているうちに

ふと、言い様のない好奇を覚えた。

鼻と鼻がぶつかりそうな距離まで近づいても一向に起きない。

呆れるほどの無防備ぶりだ。

彼女は悪戯心を起こし、未央の頬にそっとキスをした。

「んっ……」

「……!」

未央の声がして藍子は慌てて唇を離して背中を向けた。

未央は目蓋を擦って長椅子から起き上がる。

「ふぁぁ……んっ? あーちゃん?」

「あっ、あのっ! 私、レッスン終わってさっきここに来たばかりで……!」

「そっか。いやぁ、やっぱり寝てないとしんどいね。変な顔で寝てたりしなかった?」

「ぜ、全然っ! 未央ちゃん、すっごく可愛かったです!」

藍子は不自然に未央を大声で褒めてうなづいた。

未央はいきなり可愛いと言われて満足げに笑って見せた。

ドキドキしているうちに休憩は終わり、二人はまた茜とレッスンで合流する。

「私、何しちゃってるんだろう……」

家に帰った藍子は、風呂に顔を半分潜らせて赤くなっていた。

口からぷくぷくと蟹のように泡を作りながら、一人で悶々と昼間の事を考えていた。

「ユニットの女の子に、キスしちゃうなんて……
 でも未央ちゃん気づいてなかったみたいし……」

しかし、何故あのような行為に及んだのか

藍子は自分の事ながら未だに分からなかった。

魔が差した、という表現以外的確な言葉が見当たらない。

ただ何処か心地良い罪悪感とも高揚感ともつかない感覚が

思考の定まらない頭の中をグルグル撹拌するように回っていつまでも離れなかった。

「……あれって、やっぱりキスだよね……」

翌日、未央は事務所に向かう途中の電車内で

昨日から悶々と同じ事を繰り返し考えていた。

昨日の藍子の行動……彼女が何故自分にキスをしたのか

という事が頭から離れず、あれからずっと彼女の事ばかり考えている。

起きようと思っていた時に感じた唇の感触……

あれは果たして夢なのか、それとも現実なのか。

仲のいい女の子同士はキスくらいすると聞いた事があるが

未央はあまりそういう女子高のようなノリに免疫がなかった。

しかも相手は、およそそんないたずらと無縁な

ゆるふわ正統派美少女アイドル、高森藍子なのだ。

(まあ……男の子なら、誰だってあーちゃんに
 キスされたいだろうけど、私にしてもねぇ……うん)

一度結論を出しても、未央はすぐにまた藍子の事を考えてしまう。

それから二人は互いを意識し合うようになり

同じポジティブパッションでありながら

どこかヨソヨソしい、ギクシャクとまではいかないが

居心地のふわふわとした日々を過ごす事になった。

ある日未央は城ヶ崎美嘉とのラジオ収録の後で

大槻唯、藤本里奈の二名に加えて藍子を誘ってカラオケ店に直行した。

藍子を未央が誘ったのは、あのキス疑惑の日以来

妙に彼女は自分を避けていると感じていたからだ。

三時間後、カラオケで各々の持ち歌を一通り歌い終わり

持ち込んだジュースと菓子をつまんで

小休止を取っていた所、美嘉がこんな事を言い出した。

「ねぇみんな、ちょっと王様ゲームしない?
 まだまだ時間あるし、これだけの人数集まるの、滅多にないじゃん。どうかな?」

「リナリナは本日テンションあげあげちゃんだから、オールオッケーぽよ!」

「ゆいもやるやるー! 面白そうじゃん!」

未央は隣にいた藍子に話しかけた。

「せっかくだからあーちゃんも、しようよ」

「う……うん……」

こうして王様ゲームをやる事になった五人は

味気のない白色のストローを割りばし代わりにしてナンバーを書いていく。

美嘉がそれらをまとめて混ぜて、一本ずつメンバーに引かせていった。

「みかねぇ、最後で大丈夫? 王様のご指名、来ちゃうかもだよ?」

「大丈夫、大丈夫。ん……ほら、王様のストローが残ってたよ」

「マジポン?」

「美嘉ちゃん、持ってるねー!」

「んん! じゃあ、早速……二番が今から持ってくるジュースをイッキ飲み!」

「えーリナリナ二番ぽよ!」

里奈は自分のストローをフリフリ動かして言った。

「持ってくるね」と言って部屋を出た美嘉はやがて

パープル、ドドメ色、グリーンという毒々しい三色のドリンクを持って帰って来た。

「おまたせ」

「ちょっ!? 何か層が三つに分かれてるって!
 マジヤバくね!? てか何したん!?」

「ウーロン茶とカルピスとリアルゴールドとコーンポタージュという
 夢のカルテットをメロンとグレープのフローズンで優しく挟んだ
 カリスマギャル☆スペシャルよ」

「ひぃぃぃ――! それ夢じゃないじゃん! 悪夢じゃん!」

しかしこの空間で王様の命令は絶対である。

里奈はいつになくげんなりして一気にその魔汁を喉に流し込んだ。

凄まじい不味さに加えてキンキンと冷えたフローズンが

頭痛でイッキ飲みという救済に度々ストップをかける。

まさに悪魔的な挟み上げドリンクだ。

「うぶっ……マジヤバ……!」

「じゃあ次行ってみよう!」

「三番、毒茸伝説ーラウドボイスVer.ーを歌う!」

王様を当てた里奈は高らかに宣言した。

「えっ、私……三番!」

「おおー! 藍子ちゃんのデスボイスってSレアもんじゃん」

唯は大人しい藍子に盛り上がる役がぶつかった事にキャッキャッと騒いでいる。

期待の視線を一斉に向けられた藍子はどうしていいものやらと、おどおどしていた。

「私、明日ラジオの収録が……」

「歌って歌ってー!」

「あっ、はい……」

結果は水が上から下に流れるように明らかだった。

その翌日藍子はラジオにどうも声が乗りにくくなってしまい困った訳だが

その理由はどうもこのデスボイス御披露目ばかりのせいではないらしい。

「一番、二番と二人羽織でおでんを実食!」

藍子は王様に選ばれて最初無難な課題を出していたが

面白くないとリテイクを喰らい、この前難波笑美と上田鈴帆がやっていた

コントをやっと思い出してOKをもらった。

「アタシ一番!」

「二番、リナリナぽよ」

奇しくも美嘉と里奈という、最初の罰ゲームコンビになった。

「い、言っとくけどさ里奈! 復讐禁止だからね!」

「うんうん、フリも完璧ちゃーん」

「フリじゃな……って! あっ、熱い熱い! 熱いって!」

里奈の運んだおでんは、何度もカリスマギャルの頬や額と

熱いキスを交わしてから口に入っていった。

顔からおでんの匂いを漂わせた美嘉は少し王様ゲームを

やった事を後悔してメイクをやり直している。

「二番、指定したアメをセクシーに舐める!」

未央は王様のストローを握って高らかに上げた。

「あっ、二番ゆいだー。どんなアメ? アメならいっぱい持ってるけど?」

「ふふん、たまたまフェアを目にしてさ……これなんだけど!」

未央はメニューにあるそれを指して言った。

それは赤色の兜に桃色の槍身を添えた物だった。

「これって、子宝アメじゃん!?」

「ちょっ! 未央っち、ヤバくない!」

オーダーが通り、その大きなブツが一本皿に置かれて運ばれてきた。

「うわぁ……意外とリアルー! 結構太いんだね」

「根元なんかおまけのボールが二つくっ付いてるしー!」

「完成度たけー!」

しかし、王様の命令は絶対である。

唯はその男根を模したアメを口に運んだ。

「いっただきまーす!
 んっ……ちゅぱぁ……ちゅっ……はむぅ……」

棒部を歯ブラシのように扱い、唇から飴汁を少し滴らしているその姿には

それが偽物だと分かっていてもドキリとさせられる。

「はいはい、いいよぉ~唯ちゃん!
 可愛いねぇ! こっちに視線ちょうだいよー!」

「未央、それ完全におっさんだよ!」

スマホを片手に唯の艷な頬張り様を激写して

グルグル回る未央はメンバーの笑いを誘った。

後日この画像の一部が流出し、唯ファンたちの間で

未だに極上のおかずと称されるようになった。

未央の写したカメラアングルたるやプロの写真家に勝るほど素晴らしく

後日その人気を知った唯Pによって写真集のネタに疑似フェラ写真が組み込まれたが

この時撮ったほどの絶妙なエロスと自然体な魅力は出ていなかったという。

こうした事から未央は唯ファンたちから

「感激の救世主(メシア)」

と崇められるようになるがその話はここまでにする。

「じゃあ最後! 三番と四番が幸せなキス!」

ラストキングに選ばれた美嘉が声高く命令した。

「あっ……アタシ四番だ」

そう言った未央がメンバーを見回すと、藍子が困った顔をしてストローを見つめていた。

その先には小さく二の数字が書かれていた。

「あーちゃん、三番?」

「うん、あっ、あの……私、ちょっと……
 勇気出ませんから、未央ちゃんから……して下さい……」

藍子は眼を閉じてしおらしくその美桜と紛う清唇を突き出す。

乙女とはかくなるものと称賛したくなる美しく、かつ無垢な唇が

緊張で小さく震えているのを見ているうちに

未央はこの無二の宝を犯したいという悪戯心を抱いた。

藍子もまた、目を閉じてはいたが目蓋の向こうにいる未央を

強かに意識し、胸の裏を人知れず弾ませていた。

「……いくよ、あーちゃん……」

未央はそっと藍子の撫で肩を抱いて口づけした。

美嘉たちの冷やかしめいた拍手や感嘆に耳を傾けまいと、未央も眼を閉じる。

「んっ……んう……んん……」

もう離れようとした未央の腰に、藍子は両手を

そっと添えて自分から彼女の唇を吸い始めた。

その手の力は容易に振り切れる程度のものだった。

しかし、未央は藍子から離れられないでいた。

鼻腔をくすぐる彼女のパフューム、緊張と喜びの入り交じる彼女の吐息

誘うかのようなか細い手の意思表示。

それは鉄鎖よりも強固に未央を縛った。

「あっ……ん……未央ちゃん……」

藍子の体がピクッと震える。

のどかな言葉を綴る彼女の口に、未央の熱い舌が

ゆっくりと蛇のように迫ってきたのだ。

唇を舌が犯すその感覚は、男を知らない清らかな身にとって

誇張でもなく、陰具挿入にも似た快感をもたらした。

(あああ……! 私、皆の前で、エッチなキス……しちゃってる……!)

圧倒された藍子は美嘉が小さな咳払いをするまでの三分間

ずっと未央のキスを受け続けていた。

今までの人生の中で一番長い三分間だった。

唇をそっと離した後、未央たちは火照った顔で互いを見つめ合っていた。

「べ、別にほっぺたでも良かったんだけど……?」

「あっ、そっ、そうか! そうだよね! アハハハハ……!」

「ミオっちあれそーとーガチ入ってたって~藍子ちゃん、舌入れられたりしてなぁい?」

「ううん、そっ、そんな事ありませんっ!」

里奈に聞かれた藍子はポニーテールを振ってとっさに否定した。

とにかくディープキスがバレずに済み、未央は胸を撫で下ろす。

めったに嘘をつかない藍子が言うのだからと、メンバーは全員納得した。

「アハハハハ……ほら、み、みかねぇの前だからさ!
 手を抜くのも白けちゃうかなって!」

「こらこら、そんな事気にしてたの? もう、未央ってば!」

ドリンクバーで席をはずしていた唯は、そこに戻って来るなり、爆弾発言をかます。

「ゆいはちなったんとよくチューするけど?」

「えー! 初耳ちゃん」

「唯、千夏さんと仲良いもんねー」

「へへへー、ちなったんの唇っていつちゅってしても
 つるつるしてて気持ちいいから好きなんだ」

「えーガチバナ!? もっと聞かせてちょー!」

そのまま話題は唯と千夏の関係に移った。

カラオケ終了後、未央と藍子は共にもやもやとした慕情を抱えたまま

顔も合わさず言葉も交わさず、それぞれ別方向へと帰っていった。

藍子は電車の中で自らの唇を触る。

あの熱い口づけの温かみが、余韻としてまだそこに残っていた。

(未央ちゃんのキス……)

口の中を嬲った未央の舌、その軌跡を藍子の舌は反芻していた。

それは生き別れた夫婦が互いの半身を求めているかのようだった。

歯列、歯列の裏、舌先、舌腹を甘く弄んだ愛しい恋人を、藍子の舌は恋しがっていた。

(私、どうかなっちゃいそう……)

「ああんっ! もぉ、どうしよう~~!」

家に帰った未央はベッドでじたばたと両手両足を動かして枕に顔を突っ伏していた。

今回の件は、寝ている自分にキスをした藍子へのお返しのつもりだった。

しかし、実際には彼女の気があらぬ方へ暴走してしまい、本気で藍子の唇を吸う結果になった。

「何で舌なんか入れちゃったんだろう……あうう……!
 あーちゃんに嫌われたりしてないかな……でもあーちゃん、私に寄り添ってきたし……
 意外とキス嫌いじゃないとか……だったらいいけど
 ……ああっ、明日どんな顔で話したらいいかなぁ!」

ハーゲンダッツのアイスクリームを口に含む。

舌を動かすと、あの時の藍子の舌が思い浮かんで仕方なかった。

舌を入れると恥じらいつつも、奥から出てきた彼女の舌。

絡めるほどに甘い心地にさせてくれたあの舌をもう一度味わって見たかった。

「ちなったんとのキス?」

翌日、未央はたまたま控え室で一緒に休憩を取る事になった唯に、昨日の事を聞いてみた。

昨日の話ぶりだと、唯と千夏は相当進んでいるようだ。

そんな唯なら女同士の恋愛感情について明るいに違いない。

「うん、いつからそんな関係に」

「覚えてないなー。気づいたらキスするの普通になってたし」

唯はキャンディを口の中で軽く転がしつつ、逆に未央へ出し抜けに聞いてきた。

「未央ちゃんさ、藍子ちゃんの事好きでしょう?」

「えっ、あっ……えーと」

即答出来ない未央の様子が、藍子をどれだけ意識しているのか物語っていた。

「何かさ、そういう雰囲気って凄い分かるんだ、私。
 多分さ、藍子ちゃんも未央ちゃんの事、好きだと思うよ」

「本当に?」

未央は思わずテーブル越しに身を乗り出して我に返る。

「うん、でもまだまだ未央ちゃんに対して遠慮してるかな。告白とかまだっしょ?
 早くしてすっきりしちゃおうよ」

「でも……私たち女の子同士だし、将来とか……」

口に出して未央ははっと言葉を畳んだ。

目の前に唯がいるのに何を言っているんだ、と自分を小突いたのだ。

「未央ちゃん。今、自分がどうしたいか。
 どうしたら後悔しないか、それが一番大事だよ。
 将来とかそんな遠い、重いものよりも、自分の感覚を大事にしようよ」

「そ、そう……かな?」

「あっ、思い出した。ちなみにね、ゆいがちなったんと付き合ったのは
 ちなったんが前の彼氏と別れた後なんだ。
 そん時のちなったん、どこか寂しそうにして元気なかったからさ
 ゆいが彼氏になってあげるって言ってあげたの。
 そんでプリクラ撮ったり、いっぱい映画見たりして
 一緒にいる時間を増やしていくうちに
 キスも自然と流れでするようになったんだ」

「その……キス以上は?」

「ん? この前したよ?
 ゆいどんな事していいか全然分からなくて……
 でもちなったんが色々教えてくれたんだ。
 今度はゆいがちなったんを気持ち良くしてあげたいな」

千夏との事を開けっ広げに話す唯の笑顔が眩しい。

その笑顔が未央の背中を後押ししたのは、言うまでもないことだろう。

「唯ちゃんとの……?」

「ええ……」

一方で藍子はラジオのゲストだった相川千夏に自信の悩みを打ち明けた。

昨日の話を聞いてこの特殊な感情は千夏に相談してみるのが一番良いと思ったのだ。

「本当よ。唯ちゃんにはあまり公言してほしくないんだけど……後で言っておかないとね」

「内緒、なんですか……?」

「そういう訳じゃないの……私とあの娘の仲は
 ファンもプロデューサーも知ってるし。
 プロデューサーなんか最近そっちの路線で
 彼女とのデュオの仕事を取ってくる事が多いの。
 確かに彼女は人気者で私のファンより熱心な人が多いし
 この仕事で私の事も好きになってくれた彼女のファンもたくさんいるわ。
 でも、時々私の売りってそれだけなのかなぁって思うの」

「それって?」

「唯ちゃんとの関係。実際百合関係の売名行為だって
 揶揄される事もあるにはあるし。単体になるとイベントの集客率も減るし……
 良くも悪くも、私は彼女に縛られているし、自立する必要を迫られている」

藍子がどう返事をしたらいいものかと悩んでいると

彼女は眼鏡の奥にある眼を細めてにっこりと笑う。

「ごめんね。でもプライベートは別よ。
 彼氏のいなくなった寂しい隙間を、あの子は十二分に埋めてくれた。
 あの子といると毎日が眩しく彩られていくの……そんじょそこらの男の子よりも
 唯ちゃんはずっと私を満足させてくれるし、もちろん、女の子としても文句なしにキュート。
 何だかんだ言って、私自身が唯に依存しすぎているのかもね」

「あの、千夏さん……」

「話を聞いていると、未央ちゃん、藍子ちゃんの事かなり意識しているわよ。
 でなければ、例え冗談半分でもディープキスなんてしない。
 きっとその前のキスだって気づいてる」

二杯目の紅茶にミルクを入れて、千夏は匙でくるくるとかき混ぜる。

「……。私、どうしたら……」

「それを決めるのは、残念だけど私じゃないわ。藍子ちゃんよ」

「未央ちゃんの事は好きだけど、私、迷惑かもって……思うんです」

「藍子ちゃん。人と仲良くなるっていうのは
 その人に迷惑かけてもいい関係になるって事でもあるの。
 私はそれを気にし過ぎて……男の子とは失敗しちゃった。
 だから今、唯ちゃんにうんと甘えて迷惑かけてる。唯ちゃんも私にべったり。
 とにかく、貴方の気持ちをストレートに伝える事が大事だと思うわ。
 参考にならなかったかもしれないけれど」

「千夏さん……ううん、ありがとうございます!」

藍子が椅子から立ち上がると、千夏は袖をつかんで呼び止める。

「ちょっと待って、藍子ちゃん」

「はい、何ですか千夏さん?」

「お勘定」

藍子は口に手を当てて謝った。

そんな事があってからますます未央と藍子は

互いの存在、空気、息遣いに至るまで意識するようになった。

二人共茜に対する友情とは明らかに毛色の異なる感情を持っていた。

それは相手の言動、仕草、容姿を思っただけで体が熱くなるほどの熱量を持っていた。

もうこれは友情以上の何かだと少なくとも片割れは感じ始めていた。

未央は今度からソロでライヴを行う事になった。

今までニュージェネレーションズとポジティブパッションのライヴはあったが

彼女単独のものは意外にもこれが初めてだった。

支え合う仲間がそばにいないとこれ程不安になるものなのだろうか

と彼女は緊張の余り、食事も通らず本番に挑もうとしていた。

「未央ちゃん」

緊張で小さくなっていた未央の肩を、たん、と誰かが叩いた。

振り返ると、そこには、藍子がいた。

「あーちゃん!?」

「えへへ、ラジオの収録終わったから来ちゃいました。
 未央ちゃん、緊張してるみたいでしたから」

「うん……ちょっと緊張が解けなくてさ……」

蕾も身を開くかのような藍子の笑顔を見て

幾分か和らいだものの、未央の中には未だに不安が燻っている。

「やっぱり……ご飯は?」

「一口だけ……」

「それじゃ、もちませんよ。未央ちゃんの歌は元気が売りなんですから!
 お腹に何か入れて……ええと、あった! はい、これ、あめ玉。
 大きめのあったから食べて下さい」

「でも、これから歌うのにこんなサイズの食べきれないよ……」

あめ玉の上に、藍子の温かい手が重なった。

「……私も、手伝います」

「えっ……」

藍子はその小さな口にあめ玉を一つ放り込んだ後、返事も待たずに未央の唇を奪った。

あの蠱惑的な挿入の感触と共に、彼女の舌が未央の口内にあめ玉を運んできた。

未央の舌上にころんと置かれたそれを、藍子の舌が軽く転がしてみせる。

歯列と頬裏の間に転がっていくそれを、二人の舌が追い回す。

捕まえたあめ玉の垂れ落とす甘味を二人は分け合う。

喉奥に流れていくあめの味、そしてそれ以上に

切なく感じる互いの愛しい唾液の味が、喉をいやらしく焦がして止まない。

……どれくらいの時間が過ぎただろうか。スタッフの合図の声で、二人は我に返った。

あめ玉はもう、すっかりなくなっていた。

「……どうですか、緊張……ほぐれました?」

うつむきながら藍子は上目遣いで未央を見る。

こんな大胆なリラックス法をやってみせた自分が信じられないかのようだ。

「うん、何だかお腹もいっぱい……幸せで、スゴく素敵な気分で歌えそう」

火照った頬をえくぼで持ち上げ、未央は笑う。

未央はやっといつもの笑顔を取り戻したのだ。

彼女はステージの光の海へと飛び込んでいった。

――バレンタインデー。

恋人たちと菓子業界に祝福されたこの日、件の二人は

それぞれの想いをバッグに詰め込み、またレッスンへと向かう。

「あの、あーちゃん……」

レッスンが終わり、プロデューサーの迎えを待つ間、未央は隣にいた藍子に話しかける。

その手には早朝に作ったチョコレートクッキーの袋があった。

「これ、バレンタインだから……」

「えーと、友チョコですか?」

「う、うん、そうかな……」

未央は心中で自身を叱咤する。

今日この日、藍子に向かって思いの丈をぶつけなければ

何のために溢れんばかりの恋慕を注いで

チョコレート菓子を作ったのか分からない。

「あ、あーちゃんっ……それは……」

「はいっ、……これ未央ちゃんに!」

告白よりも先に藍子はチョコレートを差し出していた。

いつもの未央なら高メンタルなコミュ力で

すんなり言葉を継げる所だが、流石に同性への告白は躊躇われるのか。

「あっ……ありがとう、あーちゃん」

「えっと……それで……これ、友チョコとか……そんなんじゃないんです……」

未央の眼が丸くなり、眼前の彼女を見つめる。

「これ……未央ちゃんの事たくさん想って、手作りしました……
 未央ちゃんへの好きって気持ちだけで出来た、初めてのチョコレート……」

夕暮れに差し掛かり、西の空に赤みがかかり始めていた。

二人の顔はそんな朱に隠れて赤らんでいた。

「あの、変だって思うかもしれないけど……!
 私……未央ちゃんが好きっっ……!」

いつもの藍子からは想像し難い程に力強く、熱量を持ったシャウトだった。

「あーちゃん……」

「ワガママかもしれないけど……このままの関係じゃ嫌なんですっ……!
 もっと……もっと未央ちゃんの事知りたいし
 いつも一緒にいたいんですっ……だからっ……!」

緊張、羞恥、不安が渦巻いて全身を駆け巡り、少女は涙を滲ませて肩を震えさせている。

そんな藍子の肩を、未央は優しく抱き寄せ、堅く抱擁した。

「ごめんね、不安にさせちゃって……」

「未央ちゃん……!」

「嬉しいよ……あーちゃんも、私と同じ気持ちだって、分かったから……」

「……!」

未央は藍子の澄んだ瞳、そしてその奥に光る慕情の瞬きを見つめて言った。

「好きだよ、あーちゃん……世界でたった一人の
 かけがえのない、特別な女の子として……」

「未央ちゃん……っっ!」

二人の間に、それ以上の言葉は要らなかった。

想いを吐露した美少女二人はどちらともなく支え

密着し、その瑞々しい口唇をそっと重ねた。

「んっ……んう……む……」

「……ぁん……ん……んー……」

まだ寒い如月の夕空の下で、二人の口内のみが温かい。

互いに差し入れた舌が絡み合い、喜悦の舞を踊る。

しっとりした愛唾を存分に吸い、喉に流し込んでいく。

「んっ……あーちゃん……苦しいっ……」

「あぁ……ダメぇ……、まだ、離さないで……」

一度噎せかえる恋気に口を離した二人は再び口唇を再会させる。

今度はより深く、相手の味を、そして自分の味を

染み込ますように歯列をなぞり、舌を舌で弄んだ。

「んっ……むう……んっ……」

「……んぁっ……むぅ……ん……」

どれくらいの時間が過ぎただろうか。

気がつくと街灯が明るく灯り、日は完全に沈んでいた。

乙女たちは唇を離す。長い唾橋が二人の時間が

いかなるものだったかを雄弁に語っていた。

「あっ、ごめん……」

「ううん……いいよ……」

二人はその名残惜しい架橋を口内に収めようと手繰り寄せる。

それは三度彼女たちの麗唇を引き合わせ

また長い間、時の流れを忘れさせた。

「あーちゃん、ごめーん!」

晴天の日曜日、人の多い駅前広場で待ち合わせしていた藍子は

ホームから走り寄ってくる未央の姿を見た。

今日は二人が告白してから初めてのデートだ。

「はぁ、はぁ、……大分、待ったんじゃない?」

「ううん、ボーッとしてたらすぐでしたよ」

藍子がのんびりしていたという事はたっぷり四十分はかかった事だろう。

初デートから遅刻してしまい、未央は手を擦り合わせて謝った。

「あの、志保ちゃんから美味しいパフェのある喫茶店教えてもらったんです」

二人はそこまで歩いて行った。

三十分かかったが、二人共相手と談笑していたから全然苦ではなかった。

藍子と話していると本当に時間の経つのがゆっくりに感じる。

たどり着いたその喫茶店の名物パフェは確かに値段のわりに味も量も豪華ではあった。

何分少し量が多かったので、二人はそれ一つとメロンソーダ一本を頼んだ。

隣同士で腰掛けた二人は、メロンソーダを二本のストローで飲み合う。

時々鼻と鼻が擦れ合うくらい顔を近づけて飲むジュースの味は素晴らしいものだ。

やがて目当てのパフェが来た。

フルーツの宝をソフトクリームの白峰に贅沢に乗せた逸品を一つずつ掬い取り

二人は互いの口に甲斐甲斐しく運ぶ。

「あーちゃん、はーい♪」

「んっ……美味しい♪ でもちょっと量多いかも?」

「えー美味しいから大丈夫だよぉ♪」

笑いながらかな子クラスの大型パフェを完食した二人は

次に近くのゲームセンターでプリクラを撮り合う。

意外にもポジティブパッションのメンバーで

プリクラを撮ったのはこれが初めてだった。

今度は茜ちゃんも誘おうと優しい藍子は未央に言う。

未央も三人揃ってまた撮りたい、といった事を話していた。

最後の一枚になると、未央は藍子の華奢な肩を抱き寄せた。

「あーちゃん……んっ……」

「あっ……!」

戸惑いながらも藍子はプリクラのレンズに見守られながら未央のベーゼを受け入れた。

やがて写真の取り出し口からはキスに夢中になっている二人の姿が出てきたが

未央たちは邪魔が入らないのを良い事に閉ざされた部屋で束の間の幸せに浸っていた。

「今日はありがとう、未央ちゃん」

「ううん……また明日もよろしく」

藍子と未央は別れを告げる。

一日がこんなにも早いものとは思いもしなかった。

恋人同士の間では基本的な時の流れが違うのではないかと錯覚させられる。

名残惜しい去り際に、未央は思い出したかのように踵を返して藍子の方へとまた戻っていく。

藍子はにこりとして彼女を待っていた。

恋人の戻って来るのを知って待っていたかのようだった。

「忘れ物ですか?」

「うん、ごめんね。今渡す」

真っ赤に輝く夕日を後ろに、二人はそっとキスをした。

いつまでも長く寄り添う二人のシルエットが夕闇へとゆっくり溶けていく。

だが、惜しむ事はない。今日も明日もこれからも

彼女たちの輝かしい恋情の日々は続くのだ。

以上です。みおあいもっと増えてほしい


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乙、すごいドキドキして良かったよ
みおあいもっと増えるといいな

ああ^~

皆もレッツみおあい

とても良かった

みおあいssありがとう。
>>1がみおあいss増やしてもいいんだからね
(>>1さん是非またみおあいss書いて下さいお願いします・・・キスの次はR18(ボソッ))

とときら常務と同じ人なのか…(困惑)
とてもよかったです

屑過ぎる糞スレだな。さっさと屑百合豚死んどけゴミks

おつ!
また読みたい

うづりんも書いてくれよな~
頼むよ^~

おつ

みおあいとても良い

ありがとう…みおあいをありがとう…

個人的にはもうちょいプラトニックな方がみあおいらしいかな、とは思った。
もしよかったらまた書いておくれ!

乙でした。
先月ぐらいに某絵師さんが描いたみおあい漫画読んでからハマってるわ
彼女力高くて積極的な藍子と、彼氏力高くて奥手な未央の対比がたまらん

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