【R-18】絵里「サイアミーズ・ワルツ」 (1000)
※えりうみ
※R-18
◆ ◆ ◆
波打ち際みたいに小さくたゆたう青いカーテンの隙間から、
まだ朝の光は漏れてこない。
ひどい夢をくぐり抜けてこのベッドで目覚めても、
まだ夜は明けてなかった。
眠りの向こう側に置いてきた傷が、
事故で失くした幻の腕が痛む話みたいに、じんじんと響いてくる。
ぼやけた目をこすると乾きたての涙がにじんで、
なにかとても大切なものを置き去りにしてしまったような気がした。
私の両腕はちゃんとここにあって、
片側は大事なひとを離さぬようにと、
うなじの下で今も支えているはずなのに。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1448468562
腕枕、あいしあう二人なら痺れないんですって。
どこで聞いたかも思い出せないそんな話、
あの子の向こう側で指をひらいたり閉じたりして、
なるほどね、って考えたりする。
あんな悪夢の中でも、
あの子を腕のなかに抱き留めていられたのがうれしかった。
私、ちゃんとあなたのことを愛せているのかしら?
隣のひとはまだ眠っている。
寝息を立てて、
かすかに胸をふくらませたりしぼませたりしてるのを感じる。
夜の汗に塗れたまま、少しなめらかな肌の線。
私のことも抱きしめてほしくって、
でも、あなたはこんなにも安らかな顔で眠っているから、
代わりにおなかの方から左胸のふくらみに手のひらを乗せた。
柔肌の奥から手のひらに伝う、ハートが鳴らすリズム。
いつの間にか、海未より私の方が早起きになった。
というより、
明け方に勝手に目がさめちゃうの。
今日だって日曜日で大学もないんだから、
これから受験生の海未には悪いけど
お昼まで一緒に寝ちゃおうと思ってたのに、
だから昨日は
戻れなくなるほどめちゃくちゃにあいしてもらったはずなのに、
また私だけ、ひとり。
こんな時、
あの子どうせ寝てるだろうからって好き勝手にライン送って、
来るわけない返事に勝手にさみしくなったりして、
写真を見返したりもしながら、
世界から切り離された気持ちに沈み込んだりもするから、
隣にいて抱きしめさせてくれる今はきっと幸せなんだ。
そうよ、私は恵まれているの。
こんなにもいとおしい人が、
だめな私のことを大切だと思っていてくれるんだから。
ねえ海未、すき。
あいしてる。
返事はこない。
言葉は泡のように溶けて消える。
触れ続けている部分でひびく心音と、
重ね続けたせいで溜まった熱がにじませる汗。
べとつく表面が、そういうことしてる時のようで、
言葉が急にしらじらしくって手を剥がしてしまう。
布団の中、しめっぽく溜まった空気のなか。
眠りの海に浮かぶあの子は、
吐息すら届いてしまうほどの距離なのに遠くって、
こちらまで引き戻してしまいたくなる。
けれどもそれはきっと、ひどく不純な行為なのだ。
左腕をなるべく動かさないように気を付けながら
身を寄せて、華奢な身体に重みがかからぬように支えながら、
まとわりつくようにして、
少し乾いた唇をかさねた。
海未の息を口の中で感じて、
いまここで生きている、私に気を許してくれている事実に、
もう少しで満たされそうだった。
起きている時のキスなら、
海未は私の背中に手を回して私をより深く近づけてくれたはず。
でも今の海未は向こう側だから、背中は冷えて乾いたまま。
触れすぎないように離した隙間にも、いやな空気が流れ込むようだった。
私は、自分の意志でごろりと反対に寝転がって、海未から唇を離した。
うぅん、と隣で漏れた声、
起こしちゃったかと動揺したけど気のせいだった。
それが私を呼ぶ声に聞こえた、聞こえたかったけれど、
そんな都合のいい幻聴なんてない。
もしあの子が呼んでいたとしたって、それは夢のなかの私なのだ。
自分に嫉妬するなんてばかみたいだけど、
誰かの心のなかで
美しい思い出となった自分に勝てるひとなんて、いるのかしら。
考えてみれば生徒会長をしてた頃から、
いやもっと前、クラシックバレエにのめり込んでた頃にはもう、
誰かの中で作られた自分とばかり張り合い続けてきたようなものなのに、
今さら弱気になっちゃうなんてね。
えい、って掛け布団を思いっきり引き剥がしてやった。
向こうによけて、汗まみれだった肌を乾かすように。
変に弱気になるのはきっと、この空気のせい。
下着ひとつつけてない、
まっさらな肌を天井にさらすのはばかみたいで、みっともない格好のはず。
それでも、
布団の中に比べたら
少し冷えた空気が私たちの肌を洗い流してくれそうな気がした。
腕枕さえなければ、
シャワーでも浴びに行くところだったけれど。
さらけだした胸元で汗粒が流れていくのを、
肌が乾かされていくのを感じながら、
いつかもこんな風に二人で横たわったことがあった、
と思い出しそうだった。
遠くで時計の音がかちかち鳴って、どこかで時が動き続けていた。
天井がやけに高かった。
その先の青いカーテンに目をやるけど、朝もまだ遠かった。
あのカーテン、
一人暮らしをはじめた時、海未に選んでもらったんだっけ。
テーブルだってお皿だって、
二つほど選択肢を持って行くと、だいたい地味な方ばかり選んだ。
同棲前みたいだ、
って渋谷のハンズからの帰りに言ったら
「みたいってなんですか」
って変にむくれてたっけ。
左腕であの子が動いた。
寝返りとともにかぼそい声が聞こえた。
胎児のように縮こまらせて、脚を小さくして。
あぁ、えりぃ。
薄目も開ききらないままで、海未が私の名前を口にした。
寝起きの赤ちゃんが浮かべる、ふにゃっとした笑顔。
「ごめんね、起こしちゃった?」
海未は聞きもせず、顔を枕の方へ押し込めてくる。
そのまますりよせるように、私の胸元に。
あの子の吐息がいろんなとこに当たってどうしようもない。
冷えた肩に布団をかけ直してあげたり
背中に手のひらを添えて引き寄せたりして、
そしたら胸のなかで
くふふって変な笑い声を出したりするもんだから、
いつからこんなに甘えんぼになったかしらって、
昔のしゃきっと立ってた姿と重ねては、
腕の中と同じような笑い声を私もくぐもらせたりしてた。
くすくす笑いが引いていくと、身体の音が大きく感じてきた。
呼吸や心音を、
体温ごと抱きしめているみたいで、
私の方が抱き留めているのに、海未に包まれている感じがする。
「……絵里」
「なぁに?」
「いえ……生きてるんだなあ、って」
「そうね」
乱れた髪の毛に手櫛をからめたり
肩胛骨のでっぱりを手のひらで包んでみたりしながら、
同じ気持ちを、身体ひとつを共有しているかのような、
そんな錯覚にひたってた。
ふと、海未の顔が私からはがれる。
もぞもぞとくぐり出て、枕元に顔を並べてみせる。
「ねぇ、絵里」
目覚めたての穏やかな瞳をまっすぐこちらに向けて、
「やっぱり、こうしてるとしあわせです。絵里、すきです」
うみ、わたしも。
あいしてる。
ってそんな言葉いえなくなるほどの、まっすぐな目で。
すぐそらして、
ごまかすように顔をまたうずめて、
私きょうおかしいですねなんてじゃれついたりして。
ああ、この子はいつもそう。
さんざんよじれて、まわりまわって、
でも最後にはまっすぐの気持ちを向けてくれるの。
本当はひどく臆病なのに、
誤解や行き違いに恐れることも忘れて、正面から投げつけてしまう。
この子に比べたら、私の気持ち、どこまで不純なのだろう。
心臓の奥が冷えていく。
水に落とした絵の具みたいに、心が白く濁っていく。
なのに海未の肌は暖かくて、すがりたくなる。
この子の愛にくらべて、私は、なんていびつな。
「海未。こっち向きなさい」
え、と振り向いた首をつかまえてキスした。
ぱっと見開いた目がすぐ閉じられて、私の背中に手が伸ばされる。
寝起きのねばっこい唇に吸いついて
ぼんやり閉じた歯を舌でこじ開けて海未を求める。
そういうキスだってわかった海未が、
はあはあと熱い息をもらして私をさらに強く引き寄せる。
狭い口の中で海未の舌を踊らせて、抑えきれない声をうたわせる。
きゅっと目を閉じた海未はもう、
私の愛撫についていくのに精一杯みたい。
身体を押さえつけて胸の柔らかさを押し当てるようにする。
私の奥深くでどろどろした熱が湧いてきて、
なすりつけるように脚を絡めてしまう。
肩から掛け布団がこぼれ落ちる。
舌の裏側をくすぐったり
襞をすり付けたりして
感触と唾液が混じるのをたのしみながら、
右の頬に添えた手を動かしていく。
髪の毛から耳の形にそっと触れて、
肌そのものに触れないように、
その輪郭を指でなぞっていく。
海未はきっと絡まる舌が立てる音でいっぱいになっていて、
そろそろ鼻息に混じって高く細い声をもらしはじめる。
耳の後ろや首筋に指を沿わせると、
私の腕を握る力も少しずつ強くなる。
唇をはずすと、涎の糸が海未まで伸びてしまう。
この、
うっすら瞼を開けてさみしそうな目をするのが、
私を引き寄せようと腕に力を込めるのが、いつだってたまらない。
熱の冷めないうちに耳元へ唇を近づける。
うみ、と息の熱も隠さずに名前をいう。
名前の混じった吐息にほだされて、海未の呼び声は言葉にならない。
耳の奥へ舌を絡ませ、涎でぴちゃぴちゃ濡らしていくと、
この子、
はっきりとみだらな声を出した。
「えり……あさ、ですよ」
「まだ夜よ」
あんなに必死でキスしてたくせに、
はずかしがってみせるんだから。
かわいい子ね、本当。
濡らした唇を耳元から下ろして首筋をなぞってあげる。
ぴくん、と震えた静脈の辺りを強く吸ってみせると、
海未ったら、はしたない声をあげてよろこんだ。
海未の手が私の身体を止めようとするから、指を絡めて繋いであげる。
初めての時も、こうしてあげたら急に力がぬけたんだっけ。
荒い呼吸に混じるかすれ声が、さらに身体の奥底を溶かしていく。
首から鎖骨にキスを降らせながら、身体の線をなぞっていく。
妬けちゃうくらい細い腰とおへその辺り、
くすぐるようになぞるだけで奥までぴくんと震わせてくれる。
「……やだ、そこ、だめです……っ!」
そうそう、尾てい骨の隙間の辺り。
骨の形を確かめるように強くなぞると、
それだけで、人魚のように腰を跳ねてくれるの。
脇から膨らみに淡い接吻をまぶしながら、
ゆっくりゆっくり、
海未を溶かしていく。
海未、すごい格好よ?
唇を離して見下ろした白い肌の線が、闇のなかでこわいほど輝いてみえた。
弱々しい瞳は涙に潤んで、
開いたままの唇から垂れた涎はあごや首もとまで滴り、
胸のふくらみの先っぽが私を求めて腫れていて、
開いたままの両脚が
私の身体にからみつこうとかすかに動いている。
身体を隠すことも顔をそむけることもできずに、
涙を浮かべて私の身体を求めてしまう。
本当なら、この子の身体中に私の痕をつけてしまいたかった。
腕のたおやかな線も、細く引き締まった股にも、
つま先からてっぺんまで、
私のマークを付けてひとりじめしちゃいたいくらい。
「やです、みないでください……」
だったら隠せばいいのに、手は握りしめたまま私を逃がそうとしない。
ねじ曲がっていて、どこまでもまっすぐだった。
そのとろけた顔に近づいて尋ねる。
ねえ、どうされたい?
柔らかいところを撫でながら、一番固いところには触れずに。
途切れ途切れの声で、
ちゃんとしてください、なんて口ごもる。
まだ、足りないの? ちゃんと言ってよ。
胸の肉をさすってすくい上げるようにしながら、そこに息を吹きかける。
「海未、どうしてほしいの?」
いたぶるたびに、左手の指が強く握られる。
おあずけされた犬のような息づかい、もうあの子ったら限界そう。
「……すって、おっぱい、ちゅうして……ぅああっ!」
おねがいを聞いてあげたとたん、海未がひどい声をあげた。
唇をふるわせて黙ろうとするけど、
鼻息がふぅふぅと漏れてよけいにいやらしい格好してる。
乳首のかたくなったとこ、丸めた舌で包んで周りごと強く吸い上げる。
ここなら痕がついたって、私しか見ないものね。
左手、指が痛くなるほど強く握って震えてる。
空いた手で腰から小さなおしりまで強くなぞりながら、
先っぽをかるく噛んであげた。
左手がきゅうって握り締められて、抑えきれないうめき声が響いた。
おなかがぴくぴく震えて、
しばらくして重たい呼吸を繰り返した。
海未、いっちゃった?
絶え絶えの呼吸にまぎれて、か細い声が聞こえる。
私の腕の中でかすかに首を縦に振るのが見える。
おっぱいの形に沿って舌を動かしてあげるだけで、
腰がまたかわいく反応してくれる。
首もとから広がる海未のにおい。
ざらついた汗の味。くらくらしちゃう。
好きな人の匂いって、
どうしてこんなにはまっちゃうんだろう。
もっと、ほしい。
私にだけほしい。
膝で両股を広げて割り込んでいく。
声をあげて私の膝を細い両脚が強く挟んだ。
本当はしてほしいくせに。
だって私の膝、
あなたのあふれさせたもので、びちゃびちゃなのよ?
今だって少し、私の膝にすりよせているじゃない?
「えり……だめです、こっち」
ものほしげな唇で私を誘う。
両手で私の顔をつかまえてキスをせがむ。
変ね、
いつもだったらそろそろ脚をゆるめてくれたっていい頃なのに。
「絵里、かわります」
急に首をぐいって引き寄せられた。
え、って声も出ない。
あの子の唇があたる。
海未ったらとまらない。
舌が絡んで、強く吸われて、
ふっと離れたら口の端をそっとなめられて、
ああだめ、
私たべられてるみたい。
「っぷはあ、……だめよっ、今は、わたしが、……やぁあ!」
あの細い指が私の背中をなぞった。
声、でちゃった。
だって今、骨の奥までびぃんって響いちゃったんだもん。
やだ、やめてよ、私が海未をしてあげるのに、
「絵里。かわいいです」
背筋をなぞった腕がぎゅっと腰をつかんだ。
こうやってしっかりした腕で抱きしめられると、
きゅうってきちゃう。
私が海未の上なのに、海未に振り回されて、今にもおぼれそうなの。
その腕がごろんと私を横たえた。
落ちないように私の身体を片腕で支えた一瞬、
海未にだっこされたみたいでドキドキしちゃう。
背中のシーツ、もうだいぶ冷めててぞくってした。
海未が私を見下ろしてる。
垂れ下がった海未の髪が私の肩や腕にふれてる。
もどかしくって、おかしくなる。
もう、海未ってばいつからそんな子になったの。
「そんな顔したって、だめですよ?」
だめってなによ、なにするのあなた、
なんて思う間もなく海未が私の首を吸った。
「ああっ!」
ちょっと痛いくらい、
痛いのがすごいの、血まで吸われちゃいそう、
だめだ、
私いま海未にたべられてる。
「うみ、昨日、したでしょっ……ねえっ、せめて一緒に……むぐっ!?」
口に指がさしこまれた。
噛みそうになって歯を離す。海未の白い二本指。
弓を引いたり、ペンを持ったり、
私をなでてくれたり、いじめたりしちゃう、海未の好きなとこ。
口の中でばた足するように指がゆらゆら動くのを、
必死でくわえて、舌でつつみこんで、
爪のかたさや関節の線までいっぱいに愛していく。
付け根までべとべとにして、
指がふやけるほど舌をすりこんでいく。
犯されてるみたいなのに、たまらなくほしくなる。
足の間がひくひくしちゃって太股すりあわせてもじもじしてる。
こんないやらしい姿、
海未は指をなめさせながらずっと見てるの。
わき腹や胸の回りを指でなぞったりして、
ふぅふぅって声が出ちゃうの、ずっと見てるの。
「絵里、かわいいですね」
指をぬかれた。
海未が近づく。
胸がかさなって押しつぶされて、
私の固くなったさきっぽが海未のおっぱいに当たってこすれる。
それだけで声が出ちゃう。
海未も、私の上でふうふうと息をもらしながら身体をすりよせる。
溺れて流されていくみたいで、
足の付け根で濡れたしずくがにじみ出して、
おしりの方につつつって流れてく。
やだ、私、昨日より濡れちゃってるかも。
キスが止まると海未が身体を起こして離れてく。
いや、いかないで。
だめよ、みないで。
ひろげちゃいや。
そんな顔しないで。
「こんなに、したかったんですね?」
あの子が私のこと、みてる。
鼻をすりよせて、
熱いため息がそこにふりかかるだけでふるえちゃうのに、
逃がしてくれない。
太股のくぼみにあの子のくちづけ、いやだって声が出ちゃうの。
細い指が私の胸にささって強くもまれる、
ゆらされる、私が海未の五本指のかたちにされちゃう。
海未の手でゆらされて燃えあがって、
それなのに一番感じるとこはしてくれなくって、
さっきからあそこに触れてもくれない。
ぴちゃぴちゃひびく舌の音、
かたいところをかすめる指の先、あの子がほしくてたまらない、
ちゃんと最後までしてほしい。
おかしくなってく私の身体、海未が静かにながめてる。
私の恥ずかしい姿、奥深くまで、ぜんぶ海未にしられちゃう。
いじわるしないで、って海未にいう。
したいの、
海未にしてほしいの、わたしこわれちゃう、
おかしくなっちゃうよ……もう、自分の声じゃないみたい。
あたまがぼやけて
身体もばらばらで、
海未の感触だけが私をふるえさせる。
我慢なんてできなかった。
私をいじめるその人を離したくなくって、
もっと近づけちゃう、
自分からするなんてあまりにみっともないのに。
「絵里のにおいがします。
おいしそうに、できあがってますよ」
「やだ、ふざけないで、もういや……」
その先がいえなかった、
胸の上で走る指が私をおかしくした。
奥がきゅうってなって一瞬いっちゃったかと思った、
でも足りない、まだちゃんとなってない、ほしい、
海未がほしいの……
腰をうごかして海未にすりよせても、海未の顔が離れるばかり。
こんなえっちな動き方、ひいちゃうでしょう。
あの子の顔を、汚すようなことをして。
「絵里。
ちゃんと言わなきゃ、してあげませんよ」
含み笑いのような、なのにママみたいなやさしい声。
いじわるなのに、心の底から安心しちゃう声。
あの声のせいで、私、いつだってなにも隠せなくなっちゃうの。
海未がたりない、もっとほしい。
胸をもてあそぶ手をはずして、つなげなおす。
あつい、うれしい、海未がながれこんでくるみたい。
「うみ、して?」
海未がほしかった、
水のなかみたいに身体中で海未を感じて、
ひたって、しみこませたかった。
誰にもいえないこと、ついに聞かせちゃった。
向こうで潤んだ目のつめたさ、
知られてるって思ったら、またひどい声が出てしまう。
「……絵里は、いい子ですね」
「そんなこと言わないで……ふぁああっ!」
ああきた、はいってきた!
身体の芯に直接つきさすように、
ずぶずぶと、ぬるってすべりこんできて、
熱をまるごと吐き出すみたいなすごい声、
頭のなかでも反響して溶けちゃいそう、
「うみぃ、もっとして、うぁっ」
左胸をあそんでた指先がかたいところを摘んだ、
おっきい声が出ちゃう、
あそこでぴちゃぴちゃ音がとまんない、
わたしのなかで指がふえて、奥の、すごいとこ、
ふわあってなっちゃうとこを、
「絵里ったら、こんなに熟しています」
海未のべろが全部をとろかした。
ふくれて、はみ出そうなとこ、
入り口の近くで腫れたとこ、海未がほしくって近づけたとこ、
外側でいちばん熱いとこ、鼻息を感じる、指が激しく動いてる、
うみ、すって、わたしのことおかして、
めちゃくちゃに、こわして、ああ、いきそう、もういっちゃう、
「……ぅあああっ! だめ、すごい!
ああっいやあ、そこいいのっ、
きもちい、すごいよ、しんじゃうぅ……かはあぁ!」
あの唇がつぶしたとき、もう、だめだった、
うみの指をぎゅうってして、しぼりだすみたいで、
まっしろな世界につつまれておかしくなって、
こんなのむり、
全身がはねて、ぜんぶはきだした。
……うみ、すごい、だいすき。
世界も、自分の呼吸も、しばらく遠かった。
左手の熱だけで生きてた。
指がぬかれるだけで声がでちゃって、
私からあの子が抜かれるのがさみしくって、その手を止めた。
それ以上うごけない。
ふとももまでべしょべしょで、
ああもう、あとでシーツ変えなきゃ、わたし感じすぎでしょ、
なんて冷えた頭がぼやいてる。
でもまだ胸の方はあつい。
汗まみれなのに海未がいなくちゃいや。
つかれきった私はあの子をよべない。ひきよせられない。
海未がこっちに来てくれる。
顔をよせる。
てれたような、今さらはずかしがって。同罪よ。
キスしたのは私のほう。
私の味がして、それは仕方なかったけれど。
唇をはなしたら、頭をなでてくれる。
すきって気持ちがたまらなくって私から抱きしめちゃう。
私だっておもたいはずなのに、
あの子がよろこんで私を引きよせてくれる。
腰をかかえる腕が、すごくやさしい。
「うみぃ、えりちか、好きー?」
「はい、大好きです」
やったぁ。
海未のにおい、すき。
こうしてると、
髪の毛がほっぺにこすれるの、くすぐったくて気持ちいい。
「絵里、まるで子どもですね」
海未が私のあごを撫でながら、お母さんみたいにほほえんでた。
……なによ、それ。
私のほうがお姉さんなのよ。
海未の胸が鳴ってる。
耳をぴとっと付けて、海未が生きてる音を聞くのが好きだった。
目を閉じていると規則的なリズムが波の満ち引きみたいで、
静かな水面に浮かんで、
羊水に包まれてた頃、遠いとおい昔のこと、思い出せそうだった。
このまま動きたくない。
朝なんて来ないで、一個の生命体でいたままで、
海未とふたり、身体の一部がつながった未熟児になって、
本当はこの場所で永遠に産まれずに浮かんでいたかった。
時計の針がちくちく聞こえる。
あんなに熱かった肌が、クーラーに乾かされて冷えていく。
カーテンの隙間が青みがかって色が分けられていく。
私に添えられた手のひらはこぼれ落ちて、
抱えている腕も汗ばんでいく。
海未にあいされている間は忘れていられたこと、
世界が同じリズムで時を進めていくってこと、
海未はおだやかにほほえんでいて、
なのに私は意味もなくさみしいって感じて、
私とあなたが違う人間で
こうして身体を重ねても同じ気持ちでいられないこと、
ぜんぶが私たちを引き剥がそうとする。
世界で一番近いところにいるのに、波にさらわれてしまいそうだった。
……ねぇ、海未。
あなたのこと、愛してる。
ほんとうよ。
次の言葉がほしかった。
あなたに、全く同じものを返してほしかった。
でも海未ったら、返してくれないの。
もう、なんでみてるの。
私の言い方、おかしかった?
いやよ、だってもう私、たえきれなく、
「どうしたんですか? ほら、こっちにいらっしゃい」
海未がくすっとほほえんで、身体の上の私をぐいって引きよせた。
子どもにするみたいに、
また頭をなでて、いいこいいこって背中をはたいてくれる。
もう、だめだった。
汗まみれにした胸に顔をおしあてただけで、
水風船がやぶけたみたいに、涙声があふれてとまんない。
かなしいのか、うれしいのかもわかんない。
海未が、しゃくりあげるたびに頭をさすってくれる。
こんな子どもみたいな声、聞かせたくなかったのに。
大切な人の前ではちゃんとしてたかったのに、
あなたったら、本当にひどいひとよ。
泣き疲れて目を閉じて、
そしたら心臓の音が直接とくとくって聞こえてくる。
閉じた瞼の中で、
月明かりに照らされた夜の浜辺が頭に浮かんだ。
私の頭を、頬を、背中を、やさしくさすってくれる、
その人の手が、寄せては返す波のように穏やかなリズムで、
抱きかかえられて身体の上に乗せられて、
私、海未のなかでつつまれてた。
遠く揺られた先で、夜が明けないうちに話をしよう。
ねぇ、海未、きいて。
「なんですか?」
「……わかんない」
言えることなんてなかった。でも、わかってほしかった。
「恋の相談、していい?」
ぽけーっとした顔。
狐につままれた、ってこんな顔なのかしら。
「私、好きな人がいるのよ」
「そうですか」
むっとして唇をかむようにうつむく。
ああだめ、私の降参。
「……園田海未ちゃん、っていう、すごくかわいい子なんだけど」
「はぁ」
しらじらしい目。
どうして、こんな話し方になっちゃうんだろう。
「私ね、その子に自分の思いを伝えたいのよ」
海未ったら、こんなたわごとも真剣にきいてくれる。
好きじゃないとこなんてない、
ぜんぶ好き、一緒にいるだけでしあわせ、
できれば海未にもおんなじ気持ちになってほしい。
「ねぇ海未、どうしたらその子に想いが伝わるかしら?
園田さんは、どうしたら喜ぶとおもう?」
普通に、まっすぐ伝えたらいいと思いますよ。
って、園田さんが教えてくれた。
「そうよね、わかってる。
でも、それで本当に伝わるの?
私の気持ちだけ、空回りしてたりしてない?」
言葉は嘘をつけるから、
かつてあなたやμ'sを否定した時みたいに、
その気になったら自分の気持ちだってだませてしまうと分かってたから、
いくら重ねても破けてしまうの。
ううん、伝わってないことより、
間違って伝わったことがあなたを傷つけるほうが、よほど怖いわ。
ねえ、あなたはどうしてこんな私のこと、まっすぐに信じられるの?
「さすがに怒りますよ。
あなたは、自分を疑いすぎなんです」
「……ごめん」
いいですか、って教えさとす声。
たくさんの歌詞で心を打ってきた海未にとって、私はきっと落第生だった。
「意味なんて伝わらなくていいんです。
きっと意味よりも大事なのは、伝え方なんです」
海未がいう。
私の声がすき。
たたずまいを正してはっきりものを言う姿がすき。
おどけてからみつく時の、少し高くはねた声もすき。
甘えさせてくれるのがすき。
甘えてくれるのはもっとすき。
肩をしょげ落としたり、なにかに怯えて涙目になったり、
そのくせ怖くなんてないだとか強がるところも、
頼ってくれないのはいやだけど、
かわいいのはすき。
……私、客観的にみたら、ただの子どもじゃない。
「伝えたいって気持ちがまっすぐなら、
意味が違っていても最後には伝わってしまうものなんです。
だから嘘がつけなくて、ときどき大変なんですけどね」
嘘なんてつけたことなさそうな人が困ってみせた。
だから間違えたっていいんです、
あなたの間違い方を知りたいんです、
そう言って私の頬をなぞってみせた。
「……ねえ海未、あなた、どうして私のこと、分かるの?」
そうよ、さっきだって。
あなたは私のほしいものをなんでもくれる人。
心の深くまで知られていて、
同じくらい海未のことを知れてないって思うと、つらい、
ううん違う、さみしい。
「少しは分かりますよ、深いつきあいですから」
ほらまた私のことぎゅってしてくれる。
まるでテレパシーみたい。
そんなの、私にできない。
海未はとってもわかりやすいのに、
ときどきすごく遠くって、怖くなる。
「私のことさんざん言いますけど、絵里だってわかりやすいですよ」
「えー、私、あなたよりは隠し事うまいはずよ?」
「だって絵里が私にしてくれることって、
みんな、
絵里自身が私にしてほしいことじゃないですか?」
……う。
いま、私、どんな顔してるだろ。やばい、本当みないで。
「え、今まで気づいてなかったんですか?
もしもし絵里ぃ、顔をあげてください。さみしいです」
うるさいばか、くすくす笑ってるくせに。
少しは私の気持ちにもなってよ。
付き合いはじめた頃は確実に私がリードしてたのに、
最近なんてもう、
海未に振り回されてばっかりで。
あのときだって、そんな理由を聞いたって、納得できないわ。
「初めての時は、あんなにおとなしかったのに……」
「いまだって絵里はいじわるですし、
寝起きからこういうことするのもどうかと思います」
そうよね、もうカーテンの向こうが明るんできてる。
海未の言うとおり、こういうのはよくない。
自分の不安を勝手におしつけて、本当は求めてばかり。
どれだけ繋がっても肌の線をいっしょにしても、
私とあなたは二つの身体に切り離されていて、
あなたの言うとおり臆病だから、よくないことばかり考えちゃうの。
初めてしようとしたとき、覚えてますか、って。
覚えてないわけないじゃない、
私に声を聞かれたくなくって顔を枕におしつけて、
それが駄目なら今度は私の胸におしつけてごまかそうとして。
「そっちじゃないです!
その、最初にしようとした、絵里の誕生日の時です」
……ああ、結局やめにして、一緒に寝たんだっけ。
本当に怖かったんですからね、
ってまだ私を責める海未の声は、かわいい後輩の子みたいに弾んでいた。
付き合ってしばらくして、
それ以上のことをする雰囲気だって昼間のデートから薄々気づいてて、
どこかうわのそらで、本当は私も怖かったってこと。
海未のことを知りたい、
恋人同士があいしあうってそういうことだと聞いたから、
海未をあいしたい。
……私だって、あいされたい。
そう思って、ひとりずつシャワー浴びて、
一緒に寝て、ベッドに二人座って、キスまではしたんだった。
流れるように身体を横にして、
こんなやり方でいいのかなって迷いながら海未の下着を脱がそうとしたの。
でも、そこでやめた。
していいです、私、がんばりますから、なんて言ってくれた。
でもあんな目をしてるのに、
私の身体が近づかないようにって固く押さえながら、
その手を弱めようとして涙まで浮かべてるあの子に、
それ以上のことなんてできないって思った。
代わりに、あの子と左手を繋ぎ合わせて、朝まで一緒にいて、
って私から頼んだんだっけ。
私は結局すぐ寝ちゃったし、
希からはヘタレだとかさんざん言われたけれど。
それから怖さがなくなった、と海未が今さら教えてくれた。
私になら深いところまで知られても大丈夫だ、って。
弱虫で恥ずかしいところもゆるしてくれる、って。
私の髪を指先で梳かしたり絡めたりしながら聞かせてくれる。
そんなの初めて聞いた、
もっと早く教えてくれればよかったのに。
「それに、したあとだったら、
絵里はつつみ隠さず甘えてくれますからね」
ちゅ、って私のおでこにキス。
この、身体の芯までいっぱいになってあったかくなる感じ、
ほんとずるい。
ちっちゃい頃に眠れなくて
おばあさまのベッドにもぐりこんだのを思い出した。
波に浮かんでたゆたうように、腕のなかで、ゆらゆら揺れて。
大切なひとに、こうやって包まれて。
ああ、私、いま海未にあいされてる。
満たされてる、って思ったとたん、あったかい涙がこぼれだした。
もう少し寝ましょうか、
って言ってくれたから、海未のとなりに戻って、手をつなげなおす。
横を向けば長い髪が枕元にひろがっていて、
色のない暗がりでは私たち、双子の姉妹みたい。
どうせ日が昇れば目覚めてしまうから、
その時までは、二人で静かな水の底へしずんでいたかった。
これから先、はなればなれになっても、
今日のことがあれば生きていける、二人で一緒にいられる、
とにかく今はそう思いたかった。
それから朝の陽射しに目を醒ますまで、また短い夢を見てた。
黒髪の人魚姫に恋をして、
魔法で両足を尾ひれに変えてもらう話。
ゆらゆらと、
あなた色の水中にもぐって、
いつまでも手をつないでいた。
大切な秘密のやりとり、いつまでだって繰り返してた。
眠りから覚めても、
あなたと二人で踊るように。
あなたの海で、泳ぐように。
おわり。
某所から消したのをサルベージ
参考→ スネオヘアー「コミュニケーション」
https://www.youtube.com/watch?v=0CzPB9lPSqE
おつ
サイアミーズって猫じゃなくて魚か
クッサイなぁ渋でやりなよ
クソワロタ
乙!
テレ玉色々なの書けるんだな
乙!
くさい通り越して気持ち悪かったよ!
乙です
乙乙。
(スレが落ちないので自力で埋めます)
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません