男「はじめての東京タワー」(33)

男「おい! 東京タワー行こうぜ!」

友人「は? なんで突然……」

男「いや……なんとなくなんだけど」

友人「あのさ、もうちょっと理由頑張れよ!」

友人「最近怪獣映画を見たからとか、今朝3時33分に起きちゃったからとかさぁ!」

男「……ごめん」

男「だけどさ、東京タワーって“行こう!”って思った時に行かなきゃ」

男「多分一生行かないと思うんだわ」

友人「ああ……なんとなく分かる気もする」

男「決まりだな! ってことで、東京タワーへレッツゴー!」

友人「ここからだと、どうやって行けばいいんだ?」

男「まあ、電車だろうな」

友人「そりゃ当たり前だろうが。最寄駅は?」

男「調べたところによると、赤羽橋、神谷町、御成門、大門、浜松町の五駅だな」

友人「だったら浜松町がいいんじゃないか? JRで、分かりやすいし」

男「だけど、浜松町からだと15分ぐらい歩くんだとよ」

友人「それはちょっとかったるいなぁ……。一番近いのは?」

男「赤羽橋駅ってやつで、徒歩5分だってさ」

友人「んじゃあ、それにしようか」

― どこかの地下鉄通路 ―

男「迷った……」

友人「迷った……」

男「ったく、東京の地下鉄ってのはどうしてこう複雑なんだ!?」

男「まるでアリの巣だぜ!」

友人「やっぱり浜松町にしとけばよかったかもな……」

男「うるせーな、今さら文句いうなよ!」

男「とにかく、都営大江戸線とかいうやつに乗ればいいんだよ!」

友人「だからそれにたどり着けなくて苦労してんだろうが!」

友人「浅草線だの、三田線だの、メトロだの……わけ分からん。泣きそうだ」

男「もう確実に15分以上ロスしてるよな……」

友人「東京タワーへの道は険しいな……」

友人「こうなったらしょうがない。駅員さんに聞こう」

男「そうだな。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、っていうしな」



男「すみません、ここから都営大江戸線ってどうやっていくんですか?」

駅員「こういって、あれに乗って、こうです」

男「ありがとうございます! こういって、あれに乗って、こうですね!」



男「さすが駅員さん! 即答だったわ!」

友人「あの説明で分かる脳みそがあるなら、最初から迷わないと思うんだけど……」

― 赤羽橋駅 ―

男「やっと着いたぁ!」

友人「赤羽橋っていうから、赤い橋があるかと思いきやそんなことはないんだな」

友人「フツーのビジネス街って感じだ」

男「そりゃそうだろ」

男「田中さんが、常に田んぼの中にいなきゃいけないってことはないだろ」

友人「そのたとえはおかしい気もするが、まぁいいや」

友人「さすが高さ333m、駅からでもバッチリ見えるし、ここからは楽勝だな」

男「おう、タワーへ一直線だ!」

― 東京タワー ―

男「すげえな、東京タワー! 真下から見ると圧巻だわ!」

友人「鉄塔の総大将って感じの貫禄だな」

男「それに、結構人がいるな」

友人「スカイツリーのせいで影薄くなった感あるけど、やっぱ人気あるんだな」

男「だけど、日本人より外国の人のが多いっぽいな」

友人「まぁ……日本人の場合、学校の行事とかで来ることも多いだろうし」

友人「一度行ったところに、プライベートでもう一度行くなんてことは少ないだろうさ」

男「そんなもんかねえ」

男「おっ、ワンピースのコーナーがあるぞ!」

友人「ホントだ、サンジのレストランなんてのもある」

男「ワンピース……昔は結構好きだったんだけどねえ」

友人「ああ、新世界編になってからはちょっと、な」

男「ドレスローザ編はやたら長かったしな」

友人「七武海のラスト一人もちょっと期待外れなデザインだしなぁ……」

男「ただカイドウはやたら強そうだよな。どうやって倒すんだ、あれ」

友人「オレとしては、バギーの動向に注目してるんだが……」

男「……なんだかんだ、俺たちワンピース読んでるよな」

友人「まぁ、なんだかんだオチがどうなるか気になるし」

男「他にも、土産物屋やら、カフェやら、水族館まであるぞ!」

友人「なんで東京タワーで水族館? 海が近いからかな……」

男「よくいうだろ? 塔の下には水族館が埋まっているって」

友人「桜の木の下には死体が埋まっている、みたいな言い方やめてくれる?」

友人「で、どうする。水族館に入るのか?」

男「いや、東京タワーといったらやっぱり展望台だろ!」

男「展望台への入場は、チケットがいるみたいだな」

友人「ふうん、いくら?」

男「大展望台(150m)までは900円」

男「特別展望台(250m)は700円だ」

男「どっちも行きたいんだったら、1600円かかる。どうする?」

友人「そりゃここまで来て、特別展望台に行かないって選択肢はないだろ」

男「だよねー」

男「ちなみに、土日祝日には大展望台までは階段で登れるコースもあるみたいだ」

男「どうする?」

友人「いや……やめとくわ」

男「なんでだよ! オトナ帝国ごっこやろうぜ!」

友人「なにそれ?」

楽しそう

男「クレヨンしんちゃんの映画でさ、東京タワーっぽい塔の階段を」

男「しんのすけが必死に上っていくシーンがあるんだよ! マジ泣けるんだわ!」

友人「ふーん」

男「なんだその冷めた反応!?」

友人「いやオレ、クレヨンしんちゃんってあんま好きじゃないんだよね」

友人「あの大人をナメてるところが。だから映画も見たことない」

男「こ、こいつ……!」

友人「それに筋肉痛になると後が大変だし、素直にエレベーターで行こうよ」

友人「オレたちはしんちゃんみたいに若くないんだしさ」

男「悔しいけど、一理ある」

― エレベーター ―

ウイーン……

男「やっぱり150mともなると、エレベーターも時間がかかるな」

友人「ああ、あのエレベーター特有の無重力感がかなり長い間続くのがたまらん」

男「ふわっ……てくるよな」

友人「ああもう、ふわふわっ……て感じ」

― 大展望台 ―

男「おお~、着いた着いた!」

男「さすが150m、たっけーわ~」

友人「こうして地上を見下ろしてると、神様かなにかにでもなった気分だな」

男「双眼鏡を無料で借りられるサービスもあるぞ」

友人「それで偶然殺人事件を目撃しちゃって……とかありがちだよな」

男「おいおい、脅かすなよ」

友人「もし、そういう場面に出くわしたらどうする?」ニヤッ

男「場所と犯人の特徴をしっかり覚えて、タワーのスタッフの人に伝えて通報してもらう」

友人「お前、案外マジメなんだな」

男「こんなところに野球の軟式ボールが飾ってあるぞ」

男「なんでも、タワーの頂上から見つかったんだとよ」

友人「へぇ~、ボロボロなのも手伝って隕石の一種みたいだな」

友人「結局、建設工事の最中、間違って入っちゃった説が有力らしいけど」

男「うーん、もっとロマンチックな理由の方が面白いんだけどな」

友人「たとえば?」

男「たとえば……」

ゴゴゴゴゴ……!

工事の人『ま、まずいっ! このままじゃタワーが倒壊する!』

軟式ボール『こうなったら手は一つしかねえ!』

軟式ボール『オイラがこの東京タワーに封印されて、倒壊を食い止めるっ!』

工事の人『やめろっ! お前はオレの大事なトモダチ……』

軟式ボール『いいんだ……』

軟式ボール『お前とダチになれて……楽しかったぜ……』

工事の人『軟式ボォォォォォル!!!』



男「……とか」

友人「いや、なんで東京タワーが倒壊しかかったんだよ」

友人「しかも、今こうして展示されてるってことは封印解けちゃってるじゃねえか」

男「うるせーな、ロマンに細かい説明を求めるな!」

男「うーん、うまい……」ゴクッ…

友人「デリシャス……」グビッ…

男「こうやって、地上150mでコーヒー飲むってのもオツなもんだな」

友人「ああ、なんかすごく贅沢してる気分だ」

友人「ただし、このカフェは地上145mだけどな」

男「四捨五入すれば150だろ!」

男「グッズも買ったし、コーヒーも飲んだし、そろそろ特別展望台ってやつに行くか」

友人「おう」

男「特別展望台かぁ……なにせ250mだし、別世界なんだろうなぁ」

友人「なにしろ、あのボルトが走って20秒以上かかる距離なんだからな」

男「ごめん、ちょっと分かりにくい」

友人「オレも自分でいっててそう思った」

男「結構並ぶんだなぁ、こりゃ時間かかるぞ」

友人「ここと特別展望台をつなぐエレベーターが一つしかないからな」

友人「だけど悪天候の時は、入れないこともあるっていうし……今日はツイてたな」

男「なんで悪天候の時は入れないんだろう?」

友人「そりゃあ、展望台がブッ壊れるかもしれないからだろ?」

男「えええ、マジかよ!?」

友人「冗談だよ、冗談!」

友人「ま、もし特別展望台でなにか事故が起きたら、オレたち二人ともお陀仏だろうな」

男「うわぁ~、こわぁ~い!」



スタッフ「おう、はしゃいどらんで早くエレベーター乗れや」



男&友人「すみませんっ!」ビシッ

男「いよいよだ……」

友人「ああ、いよいよだ……」



男「いくぜ、特別展望台!」

友人「地上250mの世界――“神々の領域”へ!」





ザッ……!

― 特別展望台 ―

男「……」

友人「……」

友人「なぁ、いっていいか? いっちゃっていいか?」

男「いや、待て! いうな! 我慢しろ!」

友人「いや、いわせてもらう」



友人「……これだけ?」

男「わーっ! いうなってば!」

友人「だってさぁ、たしかにすっごく高いけどそれだけだし」

友人「歩けるスペースもほとんどなくて、ある設備といえばトイレぐらいだし」

友人「晴れの日なら富士山が見えたらしいけど、今日はあいにく曇りだし……」

男「うーん……お前のいうとおり、期待してたほどではないな」

男「だけど、特別展望台を別次元の世界だと思い込んでた俺たちも悪いんだよ」

友人「うん……まぁそうかもな」

男「たとえば、この辺の地域に土地勘があれば」

男「“あーっ、あれは××ビルだ! すっげー!”とかやれたのかもしれないけどな」

友人「オレたち、この辺に全然思い入れがないからなぁ」

友人「ただ漠然とビル街を見下ろすことしかできないな」

男「だけど、ミニカーみたいな車がせわしなく動いてる様は結構面白いぞ」

友人「たしかに、アリの行列を見てるような感覚になれるな」

男「それにさ!」

男「特別展望台に行かなきゃ行かなかったで、絶対悔いは残ってたぞ!」

男「やっぱり行っておけばよかったってモヤモヤを抱えて帰るよりはいいだろ?」

友人「まぁ……それはあるな」

友人「どうせそこまでのもんじゃない、と700円しぶってたら」

友人「せっかく東京タワーまで来たのになにやってんだろオレたち、ってなっただろうな」

――

――

――

男「――さて、どうだった?」

友人「色々いいたいこといったけど、面白かったし、来てよかったと思ってるよ」

友人「こんな機会でもなきゃ、多分一生来なかっただろうしさ」

友人「興味があるんなら、一生のうち一度は来るべきだな」

友人「だけど、そう何度も来る必要は無――」

男「ふんっ!」ドゴッ

友人「一生のうち……333回は来るべきだな!」

男「じゃあ帰るか」

友人「そうだな」

男「帰ったら、今日は東京タワーに感謝しながらテレビを見ることにするよ」

友人「ちなみに、どんな番組を見るんだ?」

男「んー……最近はもっぱらBS放送ばっかり見てる」

友人(東京タワー関係ねえ!)







おわり


真下が見える窓の上には立ってみたい

乙、面白かった
週末に行ってみるかな…


楽しそうで良かった

いっしょに行く友がいない!

乙乙乙



もったいない
階段登るとお姉さんが待っててカードくれるのに

以前外人に「トウキョウトワードコデスカ」と日比谷公園の地図を見せながら聞かれ
友人が「東京都?全部だよ!!」って答えてるのを思い出した

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