男「朝霧の向こうへ」(96)
濃霧に包まれている中、私は歩いていた。
どこに向かおうとしているのか? その先に何を求めているのか? 何一つと決まっていない。
そんな中でも唯言えるのは、私はきっと、遠くへ行きたいのだろうという事だけ。
だから私は今、駅の目前にいるのかもしれない。
1――
男「それにしても濃い霧ですねぇ」
男「今日は濃霧注意報でも出てましたかね……」
男「これでは、車窓から見る景色には期待できませんね。残念です」
プアァァン……
男「おっ、来ましたか」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「……」
男「……行きますか」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「案の定、霧ばかりですね」
男「やれやれ……せっかくの旅気分が台無しじゃないですか」
男「……」
男「静かなものですね」
男「幾ら早朝の始発と言えど、こんなに寂しいものなのでしょうか」
男「私以外誰も乗っていないとは……」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「暇ですねぇ……」
男「窓の向こうは霧ばかりですし、暇を潰せる様な物も用意してませんでしたし……」
男「道中、コンビニにでも寄って雑誌の一つでも買うべきでしたかね」
男「といっても、最近の紙面は芸能人のスキャンダル記事ばかりですからねぇ……」
男「銭払ってまで得る物ではないのは確かですね」
男「少なくとも、私には無価値な物でしかありません」
男「これだから、私は世事に疎いと言われるのでしょうか」ヒッヒッヒ……
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「さて困りました」
男「お腹が空いてきました」
男「せめて朝食を済ませてから出発するべきでしたかね」
男「特別急いでいるわけでもないというのに……」
男「私は何に急かされていたのでしょうか……」
男「……」
男「おにぎり一つが堪らない程愛おしく感じるのは、まさしくこんな時ですね」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「何も考えずに買ってしまったこの切符」
男「名も知らぬ土地です。こんな所を選ぶとは、とにかく私は遠く遠くへ行きたかったのですかね」
男「……」
男「目指すは終点。ですが、寄り道もまた旅の醍醐味ですよね」
男「まずはお腹を満たしてからです」ヒッヒッヒ……
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
ガラッ
女車掌「お客様、切符の確認をさせていただきたいのですが」
男「……ほう、女の車掌さんとは珍しいですね……はい、どうぞ」
女車掌「……はい、結構です。ありがとうございます」
男「御苦労さまです」
女車掌「……」
女車掌「失礼します」
カッ、カッ、カッ……
男「……ふむ、結構なべっぴんさんでしたねぇ」
男「あんなにお若い方も車掌をやるんですね」
男「きっとこの路線、人気が出ますよ」ヒッヒッヒ……
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「……」
男「……?」
カッ、カッ、カッ……
男(はて? あんな人、乗ってましたかね。誰もいないものとばっかり思ってましたが……)
カッ、カッ、カッ……
男(よれよれのトレンチコートに目深に被った帽子と旅行鞄……御旅行ですかね?)
コート男「隣……失礼」
男「ええ、どうぞ」
ギシッ
男「……」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
コート男「……あんた、どこに行くんだい?」
男「とりあえず終点まで乗ろうかと思っていますがね、その先の予定は未定ですね。何時終わるのかも分かりませんよ」
コート男「目的の無い旅か」
男「そんな具合です」
コート男「……」
コート男「……あんた、結構お若いな」
男「えぇ、この間に二十歳を迎えまして……」
コート男「成人式には出たのかい?」
男「いえ、出ませんでしたよ」
コート男「……そうかい」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
コート男「あんた、旅が終わったらどうするんだい?」
男「……さて、私にも分かりません」
コート男「職は?」
男「ありません」
コート男「あんたはまだ先があるんだ。今の内にやれる事をやっておかないと、泣きを見るばかりだぜ?」
男「そうですね。特にこのご時世は……」
コート男「そうともさ、今が一番輝ける時なんだ……あんたは……」
男「……」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
コート男「働いて、恋をして、結婚して、子を育てる」
コート男「そしてその子は何時しか大人になり、親の背中を追い掛ける」
コート男「……あんたは今、この列車に乗っている場合とは違うんじゃないのかい?」
男「そうですね。本来ならば仰る通りです」
男「ですが……」
コート男「……」
男「私は、臆病者なんですよ」ヒッヒッヒ……
コート男「……」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
コート男「探す為の旅なのか、逃げる為の旅なのか……」
男「分かりません。が、きっと後者でしょう」
コート男「現実逃避かい」
男「だと思います」
コート男「……」
コート男「頑張ってな」
男「ありがとうございます」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「時に、貴方はどちらまで行かれるのですか?」
コート男「……フフッ、俺に行く先なんて無いさ」
男「おや? 貴方も当ての無い旅ですか?」
コート男「いや、違う」
ガタンゴトン……
コート男「俺は」
……ガタンゴトン
コート男「こんな体だから……」
ガタンゴトン
男「……」
ガタンゴトン……
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「……ん」
男「……眠ってしまいましたか……」
男「……」
男「……帽子……あの人のですね」
ガラッ
男「あ、車掌さん」
女車掌「はい?」
男「コートを着こんで、大きな旅行鞄を持った人がいたと思うのですが、その人がどうもこの帽子を忘れていったみたいなんです」
女車掌「お客様、その方をどちらで?」
男「私とこの座席で話をしていたのですが……如何せん、途中で寝てしまったみたいでして……」
女車掌「お客様、私は先程車内を一巡致しましたが、その様な方は見かけませんでした」
男「なんと」
女車掌「きっとその帽子は、お客様へお渡しする為に置いて行かれたのではないでしょうか」
男「……」
男「……そうなんですかねぇ……」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
――帽子を手に取り、私が目にしたあの瞬間を今一度思い起こす。
前が開かれたコートの中には、全てが吸い込まれそうな深い闇が渦巻いていて、帽子から覗かせた空っぽの顔は嘲笑しているかの様に見えた。
彼は一体何者であったのか、私には知る由もない。
「お客様は、その方と同じ匂いがしたのでしょうね」と車掌は言っていたが、彼女は何かを知っているのだろうか……。
唯、手元に残された帽子から伝わる微かな温もりが、私に何かを問い掛けようとしている様だと、そう感じた。
2――
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
「次は霧雨ヶ丘、霧雨ヶ丘でございます……」
男「もうじき次の駅ですか」
男「空腹に耐えかねていたところなので、本当に待ち遠しかったですねぇ」
男「……いけませんね、ソワソワして気が安らぎません」
男「よだれも止まりません」ジュルリ
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
ギキキキキィィィィッ!!
男「おぅわっ!?」
ガラガラガッシャーン!
男「ふみゅっ!」
男「な、何事ですか……?」
「只今、線路上のトラブルにより、緊急停車致しました。申し訳ございませんが、しばらくお時間を賜りますようお願い申し上げます」
男「……」
男「あらま」
男「何事でございましょう?」
カッ、カッ、カッ……
男「急ブレーキを掛ける程のトラブルとは、ただ事ではございませんねぇ」
男「踏切でエンストした車でもいたのでしょうか?」
男「それとも、事故ですかね」
男「或いは、投身自殺になりますか……」
男「蓋を開けてみるまで、何とも言えませんね」
男「人身に関わる事ならば、現場はさぞ凄惨な事になっているでしょう」
男「二人の少年によって幼子が殺され、その遺体が線路に寝かされた……という事件が海外にありましたね。その遺体は上半身と下半身が列車によって千切れ飛んだと聞いておりますが……」
男「さてさて……どんな事になっているのやら……」
ガヤガヤ……
男「早速賑やかでらっしゃる。車掌以外いないというのに」
「またか……?」
女車掌「どうもそうみたいですね」
「全く、勘弁してほしいぜ……」
男「おや? 何やらワケありのご様子」
男「一体何事ですか?」
女車掌「あ、お客様。お騒がせして申し訳ございません」
男「いえいえ。して、一体何があったのですか?」
「……実は……その、何と申しますか……」
男「何やら歯切れが悪いですね。余程の事が?」
「……あの、飛び込みがありまして……」
男「なんと」
女車掌「ですが、仏様がどこにもいないのです。どこを探しても」
男「それは面白いですね」
「最近チラホラと、こんな事が起こっているんです……」
男「私も貴方達が冗談でそんな事を言っているとは思っておりませんよ。何が起こるか分からないこの世の中、そういった不思議な出来事に遭遇する事もあるでしょうから」
「はぁ……そう言って頂けると……」
男「どれ、これ以上お仕事の邪魔をしてはいけませんね。失礼します」
女車掌「あ、はい」
ヒソヒソ……
「……」
「随分変わった人だな……」
「……あんな客は初めてだよ」
「あの恰好もだよ。黒のロングコートに黒の中折れハット……極めつけはあの右目!」
「白く濁っている瞳を見せつける様に半目剥いててなぁ……“いかにも”な客だな」
女車掌「でも、綺麗な顔立ちしてますよね」
「……」
「……」
女車掌「ごめんなさい」
ガタン……ゴトン……
男「おお、ようやくですか」
「大変長らくお待たせ致しました。線路上のトラブルが解決致しましたので、発車致します。この度は、多大なご迷惑をお掛けする事となり、まことに申し訳ございません」
男「いえいえ、お疲れさまです」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
「当列車は間もなく、霧雨ヶ丘、霧雨ヶ丘に到着致します……」
男「おや、割と駅に近かったみたいですね」
ガタン……ゴトン……ガタン……ゴトン……
「霧雨ヶ丘、霧雨ヶ丘でございます。お出口は左側です」
プシュー……
男「どれ、途中下車しますかね」
男「お腹もペコペコですし、ついでに暇を潰せる何かを買っておきましょう」
男「これから先、どこまで続くのかも分からない旅ですからね」
男「しかし……」
シトシト……
男「霧雨ヶ丘……“名は体を表す”ですか」
パラパラ……
男「……おや?」
ザーーー
男「……」
男「あらま」
ザーーーー……
男「霧に見送られ、雨がお出迎えですか。なんとも……」
男「……」ブルブル
男「冷えてきたせいか、尿意を催してきました……」
男「えっと、お手洗いは……」キョロキョロ
男「あ、ありましたね」
バシャバシャ……
男「ふう、最近どうも近くなってきた様……な?」
モゾモゾ……
男「……」
男(洗面台の陰に何かいますね……)
チラッ
少年「!」ビクッ
男「……」
男「何をしてらっしゃるので?」
少年「……隠れているの」
男「ほう、かくれんぼですか。お友達と一緒ですか?」
少年「ううん。お姉ちゃん……」
男「そうでしたか。しかし……お姉ちゃんと遊んでいるのなら、この場所は少しずるくありませんか? ここは男子トイレ、お姉ちゃんは入れませんよ?」
少年「いいの。お姉ちゃんは入ってこなくても」
男「……」
カッ、カッ、カッ……
男「結局あのままにしてしまいましたが……」
男「かくれんぼは隠れている人を見つけるから楽しいのであって、何時までも見つからないのでは遊びとして成り立たないと思うのですが……」
男「……いや、あれは……もしかしたら……」
カッ、カッ、カッ……
男「おや?」
少女「……どこにいるの……?」
カッ、カッ、カッ……
男「……あの子ですかね?」
男「そこのお嬢さん」
少女「? 何」
男「ひょっとして、かくれんぼの鬼をやっているんですか?」
少女「……?」
男「おや、人違いでしたかね。これは失礼、忘れてください」
ギュッ
男「?」
少女「……弟の事、知っているの?」
男「私の思い違いでなければの話ですがね」
少女「どこにいるの?」
男「……言って良いものかどうなのか、少し迷いますね」
少女「言って」
男「こらこら、そうやって胸倉を掴み掛かるものではありませんよ、お嬢さん」
少女「早く、言え」
男「人に物を訊ねる態度ではありませんねぇ」
少女「……!」
グイッ
少女「どこに隠したの」
男「はい?」
少女「弟を、どこに隠したの!」
男「別に隠したわけでは……それに、年頃の娘がそんな顔を……ッ!?」
ググ……ッ
少女「早く言え早く言え早く言え早く言え……」ブツブツ
男「……ぐっ……!」
ドンッ!
少女「キャッ!」
男「ゲホッ……まさか、首を絞められるとは思ってもみませんでしたよ……」
少女「……」ギリッ……
男「まだやると言うのなら、こちらも容赦しませんよ?」
男「お嬢さんは見たところ、中学の半ば辺りかと思いますが……本気になった成人男性に抗える程の力はないでしょう?」
少女「……」チッ
男「……お嬢さん」
少女「……何」
男「こんな事を言うのも、些か気が引けますが……」
男「男子は何時か、旅に出るものなのですよ?」
少女「……」
男「……行ってしまいましたか」
男「果たして、分かって頂けたでしょうかね……?」
男「……」
男「……恐らく、耳にも入らなかったでしょうね」
男「まぁ、本人達が決める事ですから、これ以上の詮索はせぬ方が良いのでしょう」
男「ご飯も食べていない事ですし」
男「……と言っても、結局は首を突っ込んでしまうのでしょうねぇ……」ヒッヒッヒ……
アリガトウゴザイマシター
男「銭を払うからには、美味しい物を食べたいと思うのが人の常」
男「旅は始まったばかりだというのに、早速特上のお弁当」
男「ちょっと贅沢が過ぎましたかね?」
男「まぁ良いでしょう」
男「金と時間はあるのですから」
男「いただきます」
――ッ! ――ッ!
男「何やらけたたましいですね。何事でございましょう?」
男「……プラットホームの方ですか」
男「ゴミを捨てて……っと。さてさて、何の騒ぎでしょうね。アベックの痴話喧嘩ですかね……」
男「……おや」
少年「何時もお姉ちゃんはそうだ! 僕の事なんか何も考えないで!」
少女「アンタは私の言う事を聞いていれば良いの! 早く来なさい!」
少年「嫌だ!」
男「……さっきの二人ですね」
男「それにしても……」
少年「僕ももう大人なんだ! 何時までもお姉ちゃんの操り人形でいたくない!」
少女「ようやく中学になるかという歳で偉そうに! お姉ちゃんがいなければアンタなんか何もできないくせに!」
少年「そんなのっ! お姉ちゃんが勝手にそう思っているだけじゃないか!」
少女「……」
少年「何時も何時も……。……お姉ちゃんだって、僕がいないと何もできないくせにっ!」
少女「……っ」
少年「おじさんが言ってたよ! お姉ちゃんは僕がいないと何時も落ち着きが無いって……」
ギリリッ……
少女「……あのジジイ……!」ボソッ
少年「僕はおじさんの事が大好き。だからここを離れたくない……」
少女「……」
男「……ふうむ」
ゴホンッ
少女「!」
少年「……お兄さん……」
男「先程も言ったでしょう、お嬢さん」
男「男子は何時か、旅に出る時が来ると」
男「弟君は、貴女が思っているよりも、ずっと成長しているみたいですよ」
男「もう貴女の手から、少しずつ、確実に離れていっているんです」
少女「……他人が偉そうに……」
男「確かに、差し出がましいとも思いましたがね。ですがお嬢さん。そうやって耳を塞いでばかりいては、貴女は一生、弟離れできませんよ?」
男「今の貴女は、弟君の枷でしかないのでは?」
少女「……!」
男「考え方を少し変えれば良いだけなんです。弟君はもう一端の男性で、貴女がそれを受け入れれば――」
少女「五月蝿い!」
少女「五月蝿い! 五月蝿い! そんな事聞きたくない!」
少年「お姉ちゃん……」
ザワザワ……
少女「……何よ……!」ギロッ
少女「何よ! 何よ! アンタもアンタも! アンタまで! 何見てるのよ! 何でそんな目で私を見るのよ!」
ナニヨアレ……。
ナニヲヒスッテルンダロウネ……。
マジキメェ……。
ザワザワ……
少年「……」
少女「! ……アンタまで、そんな目で私を見るの……!?」
少女「何でよ! 何でそんな憐れむ様な目をしているの!? どうしてよ!?」
男「お嬢さん、少し落ち着いて下さい」
少女「来ないでよ! あっち行ってよ!」
男「そんなに気を張っていたら疲れるでしょう。お茶でもしませんか?」
少女「馬鹿にしないでっ!」
少年「お、お姉ちゃん!」
男「お嬢さん、それ以上下がってはいけません。その先は――」
プワァァァン……
ズッ
少女「あ……」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
ギキキキキキィィィッ!
キャアァァァッ!
ウワッ、マジカヨ……
ワァァンッ!
ッ! ミチャダメ!
キ、キュウキュウシャ! キュウキュウシャヲヨベェ!
ウ、ウウウ……
……ヒデェナ……
ザワザワ……ザワザワ……
ッ! ミチヲアケロ!
ハ ヤ ク!
ハ ヤ ク !
………………
…………
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
「四番線ホームに、電車が参ります。危ないですので、黄色い線の内側までお下がりください……」
ガタン……ゴトン……ガタン……ゴトン……
キキィィィ……
男「……ここは……」
「そこのお兄さん……」
男「?……はい」
「新聞を買ってくれないかい? 八十円だよ」
男「……」
男「……買いましょう」
チャリンッ
「毎度あり……」
男「……この新聞……日付が五年前になってますね」
男「新聞屋さん……」クルッ
男「……? いませんね」
男「古新聞を売って商売しているんでしょうかね」
男「……」
男「おやおや……」
――霧雨ヶ丘駅にて事故。女子中学生死亡。
男「……」
ヒュウウウウ……
ガサガサッ!
男「わぷっ! な、何ですか、これ……雑誌ですか?」
男「……」
男「これは……」
――風に乗って、私の顔に飛び掛かってきたその雑誌には、あの女子中学生とその弟の家庭環境を暴露する記事が大きく取り上げられていた。
それによると、あの姉弟は早くに両親を亡くし、親戚の下を転々としていたらしい。彼女達を快く迎え入れてくれる者はなかなかおらず、中には暴力を振るう者まで出てくる始末で、腰を落ち着けるまでに随分と苦労してきたそうである。
その苦行の中で、姉は弟を必死に守り続けていた。死んだ両親を想い、頬を濡らした夜には優しく慰め、時には厳しく叱咤する。一人の親族に拾われるまで、彼女自身は涙も見せずに。
ようやく足を伸ばして眠れる環境になってしばらくした頃、姉に少しずつ異変が生じ始めてきた。弟を束縛する様になったのだ。何時如何なる時でも、彼女は弟を手放すのを激しく嫌い、親代わりになった親族に対しても牙を剥く程だったそうだ。
弟も、最初は姉の変わり様に驚きつつもそれを受け入れようとした。しかし、何時まで経っても改善どころか悪化の一途を辿る彼女に、疎む気持ちが芽生えてしまう。
姉の弟に対する束縛は、弟に対する愛が偏執的になった結果ではないかと推測されている。
互いの気持ちはすれ違い、何時しか軋轢をも生み出し、そしてかの日に件の事件が発生した……。
男「……愛故に、ですか」
男「……」フゥッ
カッ、カッ、カッ……
男「……?」
駅員「どうしました、お客さん。顔色が優れない様ですが……」
男「ああ……ちょっと、ボーッとしていたみたいです。すいません」
駅員「気を付けてくださいね。ホームから滑り落ちたら大変ですよ」
男「ええ、分かっております」
駅員「……」
男「……?」
駅員「……ひょっとして、何か見ましたか?」
男「?」
駅員「最近この駅には奇怪な事が起きていましてね……白昼夢に捕らわれたかの様だと不調を訴えるお客様が多いんですよ」
男「……」
駅員「その詳細については、皆様は決して口を割りません。ただ、グルグルと目が回りそうな……とにかく形容し難い……辛くて気持ち悪いと……」
男「……そうですか」
駅員「……実は数年前、ここで人身事故が起きていましてね……その亡くなった方の怨霊ではないかと仰る方もおりまして……何とも……」
男「……」
ヒュウウウ……
男「おっと、風が……」
男「……?」
男「駅員さん?」
男「……いませんね」
男「……」
男「……霧が……出てきましたか……」
シトシト……シトシト……
男「雨が少し弱くなりましたね」
男「……」
「お客様?」
男「?」
女車掌「如何なされましたか? お客様」
男「……」
男「……いえ、何でも……」
女車掌「そうですか。お体の具合が悪いのであれば、遠慮せずお申し付けください」
男「ありがとうございます」
女車掌「ところで、お客様。そろそろ発車時刻になりますが」
男「……あ、はい」
女車掌「どうぞ。御足下にご注意ください」
「四番線ホーム、発車致します……」
プシューッ
ガタン……ゴトン……ガタン……ゴトン……
――静かに走りだした電車の車窓から見る駅は、立ち上る水煙にぼかされて、薄黒い影に身を落としていた。
その中に、力無さげに立ち上がる、一人の白い影法師を見た。
長髪の……女の子だろうか。何かを探しているのか、右へ左へとうろうろしている。
私が目にしたあの光景は、果たして現実だったのか、虚構だったのか……断言する事はできない。私が今目にしているこの光景すら、信じられないのだから……。
この霧雨の降る駅には、とある姉弟のすれ違った心が渦巻いていた。それは再生と巻き戻しを繰り返し、道行く人々に悲しみを訴え続けている。
何時か、それが終わる時は来るのだろうか……。
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
女車掌「切符の確認を」
男「はい、こちらですね」スッ
女車掌「はい、確かに」
女車掌「……」
女車掌「御旅行ですか?」
男「? ええ、まぁ……旅行と言いましても、また家に戻るのかどうか……」
女車掌「では、転居なされるのですか?」
男「……さぁ、どうでしょうか」
男「私にも、分かりません」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
3――
「間も無く、月代(ツキシロ)、月代に到着致します。お出口は、左側です……」
キキィィィ……
プシューッ
男「……ん、また寝てしまっていたみたいですね」
男「早朝の始発に乗る為に、無理に早起きしてしまいましたからね……」
男「……」
男「……まだ眠気が……」
男「……」zzz…
トコトコ……
幼女「……」キョロキョロ
幼女「……」
トコトコ……
ポフッ
幼女「……」
人形「」
幼女「……」ナデナデ
「発車致します。ドアが閉まります……」
プシューッ
ガタン……ゴトン……
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「……うみゃっ、また寝てしまいましたね……」
男「……」
男「景色は相変わらずの霧」
男「今どこを走っているのかも分かりませんね」
男「……おや? 乗客が増えているみたいですね」
男「と言っても、お一人だけみたいですが」
幼女「……」
人形「」
幼女「……」ナデナデ
男「……ふむ……」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
幼女「……」ゴソゴソ
男(ポーチから鋏を出しましたね……)
幼女「……」チョキチョキ
男(成程、お人形さんの髪の毛のお手入れでしたか)
男(ですが……)
男「お嬢さん」
幼女「?」
男「電車の座席の上でセットをするものではありませんよ。毛が散らばってしまうでしょう」
幼女「……」
男「……おお、そうでした。この雑誌のページを破って……ほらっ、この紙を敷くと良いですよ。こうすれば散らばらないですからね」
幼女「……ありがとう」
男「どう致しまして」ヒッヒッヒ……
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「お人形さんの髪の毛、そうやって定期的に切ってあげているんですか?」
幼女「……うん。伸びるから」
幼女「でも、ママも友達も、お人形の髪が伸びるのは変だって言うの……」
男「ふむふむ」
幼女「……お兄さんも、変だって思う?」
男「いえ、思いませんよ。お人形さんの髪が伸びるのは常識ですもの」
男「お嬢さんは、そのお人形さんの事を大切にしているんですね」
幼女「……」コクン
男「人形(ニンギョウ)は人形(ヒトガタ)と申します。人の形を模した物というのは、魂や想いが宿りやすい物であると言われていて、顔が変わったり髪が伸びたりといった事が起きる場合があるんです」
幼女「全てのお人形さんが、そうなるんじゃないの?」
男「はい。特に愛情を注いであげたお人形さんとかが、そういった特徴を見せるみたいですね」
幼女「……」
人形「」
男「そのお人形さん、きっと貴女の事が大好きなんですよ」
幼女「……」
男「大切にしてあげてください。きっと、貴女を守ってくれる筈です」
幼女「……うん」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
幼女「お兄ちゃんも、お人形を持っていたの?」
男「……ああ、ママが集めていたので」
幼女「ママが?」
男「はい。私のママはお人形さんが好きでしてね、よくお洋服を自作して着せ替えしたり、髪の毛のお手入れをしてあげていました」
幼女「やっぱり、髪の毛が伸びていた?」
男「はい。それどころか、顔付きが変わってしまったのもありましたね」
幼女「ふーん……」
男「お人形とは、なかなか奥深いものです」ヒッヒッヒ……
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「お人形さんのお名前は?」
幼女「ジュディっていうの」
男「ほほう、ジュディちゃんですか、なかなか良い名前ですね。ちょっと見せてくれませんか?」
幼女「いいよ。はい」
男「ありがとうございます」
男「……ふむ、綺麗にヘアメイクしてもらったからか、ジュディちゃんも嬉しそうですね」
幼女「……」ニッコリ
人形「」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
男「ところで、お嬢さんはお一人でどちらに行かれるのですか?」
幼女「友達の所。もうすぐ着く」
男「ほう?」
「次は、月代の宮、月代の宮でございます……」
男「こちらにお友達が?」
幼女「うん」
男「しかし、お母さんが心配しませんか? 貴女みたいな小さなお嬢さんが、一人で電車を利用するなんて……」
幼女「お母さんが来たがらないの」
男「……ふむ」
※人形に関する逸話は、私の母の実体験及び、母の同好の士らによる証言に基づいております。様々な解釈の内の一つと捉えて頂ければ幸いです。
少し再開。
「月代の宮、月代の宮でございます。お出口は左側です……」
男「……」
男(月代の宮と言えば……確か……)
プシューッ
幼女「……」トテトテ
男「よいしょっと」
幼女「お兄ちゃんも降りるの?」
男「はい。私も少し、ここに用がありましてね」
幼女「ふーん……」
カッ、カッ、カッ……
トテトテトテ……
男「お友達とはどこで知り合ったんですか?」
幼女「道路で」
男「道端で、ですか」
幼女「一緒に遊ぼって誘われたの」
男「同い年のお友達ですか?」
幼女「うん。私と一緒なの」
男「そうですか」
幼女「……」
男「?」
幼女「お兄ちゃん、右目、もしかして見えないの?」
男「あぁ、はい。昔に潰れてしまいましてね……」
幼女「可哀想……」
男「ありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。むしろ、見えなくなった事で、新たな光明を見いだせたとも感じております」
幼女「……?」
男「まぁ、悪い事ばかりではないという事ですよ」
カッ、カッ、カッ……
トテトテトテ……
幼女「じゃあねっ、お兄ちゃん」
男「はい。縁があったら、またお会いしましょう」
トテトテトテ……
男「さて、改札へ行きますか」
男「――さて、書店はありますかね……」キョロキョロ
男「御当地ガイドブック的な一冊があれば、動くのに不便はありませんからね」
男「まぁ最悪、交番に道を訊ねて回るのも有りかと思いますが」
男「……おっ、ありましたね」
イラッシャイマセー
男「ふむふむ……」
男「……なるほど……」
男「一つ分かったのは、方向音痴がガイドブックを見た所で、道筋を把握し切れる訳がないという事ですね」ヒッヒッヒ……
男「まぁ、片手に持って歩けば何とかなるでしょう」
男「すいません、これください」
アリガトウゴザイマシター
男「では改めて……」ペラッ
男「……えっと、一応この駅の近くではあるんですね」
男「歩いていける距離ですから、アクセスには困りませんね」
男「ただ、心霊スポットが駅の近くというのは心象がよろしくありませんかね」ヒッヒッヒ……
――駅の外
男「おおっ、打って変わって好天に恵まれましたね」
男「……ですが、雲の流れが早いですねぇ」
ヒュウウウ……
男「この風がさらに強くなる事も考えられますね。早いとこ行ってきましょう」
男「霧になったり風が吹いたり、何ともお天気な空模様ですね」
カッ、カッ、カッ……
男「ここで、この旧道を真っ直ぐ歩いていくんですね」
男「そして、三番目の信号で右に曲がって、その次の信号を左……」
男「……で、さらに真っ直ぐ進む……」
男「……」
男「日頃の運動不足が響きますね……」
男「骨と皮しかないこのスレンダーボディには、些かしんどいですねぇ」
男「まぁ、頑張りましょう」
ヒュウウウウ……
男「おっと、帽子が……」
男「……風が強くなってきましたね……」
男「……」チラッ
男「雲も厚くなってきましたね……」
男「空も演出に色を添えてくれているんですかねぇ」
男「これから行く場所がアレですから、なかなか臨場感がありますね」
ザッ、ザッ、ザッ……
男「土の道、生い茂る草木、薄暗い空……。なかなか魅惑なスポット探索になってきましたね」
男「この月代の宮には、お人形を奉納しているというお社があって、その数はゆうに千を超えるそうですね……」
男「……ある時から、そのお社に携わった人達に災厄が降り掛かる様になったと言います。人々はそれを呪い人形の祟りだと畏怖し、お社そのものを封印するに至ったとの事」
男「元々、お社に奉納されていたお人形は、髪が伸びたり顔が変わったり、一人でに動き出したり……という物ばかりでしたから、住民の方々の恐怖は大層なものであったそうで……」
男「お人形は持ち主に報いるものです。可愛がってあげればそれに応えますし、粗末に扱えば怨まれる」
男「お人形とは本当に扱いが難しいもので、部屋に飾るのを止める様に奨める風水師の方もいらっしゃるそうです」
男「祟りだと住民の方々が思ったのも、お人形の扱い方を知る人がいなかったからなのでしょうね。全てのお人形さんが人間を怨んでいた訳ではない筈なのに、一度、何か偶発的に発生した災いの原因をお人形さんのせいだと決めつけてしまった」
男「その集団意識が、やがてお社そのものを社会から隔離させて……」
男「……」
男「……着きましたね」
ザッ、ザッ、ザッ……
男「……おや? 中に誰かいるのでしょうか」
男「小さな靴……どこかで見た憶えのある物ですね……」
男「……声がしますね」
キャハハハハ……
男「……子供の声……それも、女の子の……ですね」
男「……」
ギィッ……
タダイマ
オカエリナサイ
ゴハンデキテマスヨー
男「……」
ギシッ
……!?
男「驚かせてしまったみたいですねぇ」
……ダレ?
男「旅の者です。こちらにお人形さんがたくさんあるというので、遊びに来ました」
……
男「中は薄暗いですね……ちょっと灯りを……電灯があった筈です……」ゴソゴソ
パッ
男「またお会いしましたね」
幼女「……お兄ちゃん」
男「ここですか? お友達さんがいらっしゃるというのは……」
幼女「……うん」
男「……ふむ、凄いお人形さんの数ですね。床も壁も、お人形さんでギッシリです」
男「して、お友達さんはどちらに?」
幼女「……」スッ
男「? あちらですか?」
パッ
男「……これは……昔に流行った、金髪女性のドールですね。ママのコレクションで見た事があります」
男「……髪が均等に揃えられていますね。床に長い毛が散らばっている所を見ると……お嬢さんが切ってあげたんですか?」
幼女「うん」
男「そうですか……」
男「……」
男「こっちのお人形さん達には……お手入れがされていませんね。まぁ、この数ですからねぇ……」
幼女「……」
……ザワザワ
男「……おや?」
……アソンデ
……アソンデ? アソンデ?
男「……声が……」
ワタシタチトアソンデ?
幼女「……みんな」
男「え?」
幼女「みんなが、遊びたがっている……」
男「ほう、私も仲良しグループの輪に入れて頂けるんですか」
アソボ? アソボ?
男「はい、喜んで」
ガタッ
キャハハハハハ
男「……」
ガタガタッ
男「……お人形が……私達を取り囲むように……」
幼女「大丈夫……皆、優しいから……」
男「分かっていますよ。ただ、お人形が目の前で動くのは初めて見ましたからね、少しびっくりしてしまいましたよ」ヒッヒッヒ……
男「しかし、これ程の数となると、皆と遊ぶ……というのは難しいですねぇ」
幼女「順番があるの」
男「ほう?」
幼女「今日はこの子達と、明日はこの子達……という風に、皆と遊んでいるの」
男「なるほど、グループ分けしているわけですか。なかなか合理的で良いですね」
幼女「今日はこの子達と遊ぶの」
男「この最前列にいるお人形さん達ですか?」
カタカタ、カタカタ
幼女「順番をキチンと守ってくれるから、喧嘩はしない」
男「良い事ですね」
男「ところで、普段はどんな事をして遊んでいるんです?」
幼女「色々ある。おままごとやヒーローごっこ……着せ替えやお化粧も……」
男「なるほど。して、今日は……ヘアメイクの日ですか?」
幼女「さっきは、床屋さんの役をしていたの」
男「そうでしたか」
男「ところで、こんな薄暗い中で遊んでいては目を悪くしてしまいますよ?」
幼女「……灯り、無い……」
男「とりあえずこの電灯があるから、最低限の視野は保てますかね……」
男「さて、私はどうすれば良いのでしょう?」
幼女「お兄ちゃんは、お父さんの役をしてほしいって……この子が……」スッ
男「……ヒッヒッヒ、お父さん役ですか……」
人形「」
男「これは……金髪女性のシリーズに、対となる形で発売された男性ドールですね。……お若いお父さんでらっしゃる……」
幼女「……?」
男「いや、少し、ね……」ヒッヒッヒ……
カタカタ、カタカタ
男「ただいま、今帰りましたよ~」トコトコ
幼女「お帰りなさい……ご飯できてますよ」トコトコ
男「今日のメニューは何でしょうかね~」トコトコ
幼女「今日は、お魚が安かったから……サバの煮付けですよ」
男「おぉっ、これは美味しそうですね~」ヒッヒッヒ……
幼女「あと、キノコが安かったから、お味噌汁にしたの」
男「おっ、キノコ汁ですか。私の大好物なんですよ~……」ジュルリ
幼女「たんと召し上がれ」
男「はい、いただきます」トコトコ
男「パクパク、モグモグ……御馳走様でした」
幼女「お粗末さま、お風呂沸かしてありますよ~」トコトコ
男「はい、分かりました」トコトコ
トコトコ、トコトコ……
男「良いお湯ですね」
男「今日も一日疲れたから、湯が沁み渡ります」
男「極楽極楽……」
「あなた、お着替えはここに置いておきますからね~」
男「あぁ、ありがとうございます」
「あ、そうそう、今日隣の奥様と話してたんですけれどね……」
男「何でしょう?」
「御近所の○○さん、息子さんを私立にお受験させるそうですよ」
男「ほう? 私立に、ですか」
「前から幾つかのお稽古をしていたから、やっぱりって感じですけどね」
男「……ふむ」
「ウチの子も、塾に通わせるくらいの事はした方が良いんですかね」
男「いや、私は反対ですね」
男「私は、子供達には何もせず、自由意思に任せてみたいというのがあります」
男「大人達が、あれしろ、これしろ、と子供達にお稽古を積ませるのも一つの愛でしょう。ですが、私自身は、子供達に好きな事をさせてあげる為の時間を作ってあげたいのです」
男「塾やお稽古をさせるよりも、友達や色んな人達、色んな物と触れあい、仲良くして、その中で、机と向き合うだけでは得られない何かをたくさん学んでほしい……そう思います」
男「時間は有限です。財布をはたいて塾に通わせる時間も惜しいですし」
男「……親が子供達を縛るのは、嫌ですから」
「……」
「あなたがそう考えているのなら……」
男「ママはどの様にお考えで?」
「私はあなたの意志に従うよ」
男「ママの考えも聞かせて欲しいのですが」
「私は、貴方のものだから」
男「……?」
「貴方の意志に従うよ」
男「……」
「貴方は私、私は貴方」
「貴方の喜びは私の喜び、私の喜びは貴方の喜び」
ガラッ
男「……ママ……?」
「貴方の悲しみは私の悲しみ」
「貴方の意思は私の意志」
「貴方の心は私のモノ」
ヒタ、ヒタ、ヒタ……
貴女は私、貴方はワタシ、アナタはワタシ
アナタは、アナタは
ドウシテ、ワタシから、逃げるの……?
男「……」
ドウシテ、ドウシテ……
ニゲタノ……?
男「……」
ネェ……
コタエテヨ
男「……」
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