モバP「死に至る病」 (25)

杏「あー、疲れた。もう杏、来世分も働いたと思わない?」

P「思わない」

杏「このプロデューサーって厳しいと思わない?」

桃華「思いませんわ」

杏「みんなひどいと思わない?」

雪美「元気……出して……」

杏「孤軍奮闘だよ……。もう飴でも舐めなきゃやってられないね」

桃華「やけ飴ですわ」

杏「飴だけが杏の心を癒してくれる……。あ、桃華と雪美にもはい」

雪美「ありがとう……」

桃華「それにしても色々な飴が入ってますわね。その瓶」

杏「ふっふっふ。杏特製の瓶だよ。買って来た飴を突っ込んでるだけだけど。
  袋入りの飴だから容器も汚れないし……って、あれ?」

雪美「どうしたの……?」

杏「いや、杏のお気に入りの飴がさ。見当たらなくて……。食べちゃったのかな、全部。
  あれ食べるとこう……やる気が出てくる……ような……気がする」

桃華「やる気を出している杏さんなんて見たことありませんわ」

杏「ひどいなー。仕事とか頑張ってるじゃん。少し。うーん、やっぱりないや。
  あれは……ちひろさんが買って来てくれた飴だったかな」

ちひろ「どうかしましたか?」

杏「この前買って来てくれた飴あるじゃん? あれまた買って来て欲しいんだけど」

ちひろ「ああ、あの飴ですね。実はあれ、人気商品でなかなか手に入らないんですよ」

杏「えー! そんなぁー」

ちひろ「出来るだけ早く手に入るように手配しておくので少し待ってくださいね」

杏「はーい。じゃあ普通の飴で我慢するか。……げ、ハッカだ」

『最近、無気力な若者が増えています。一体原因は何なのでしょうか』

桃華「あら、杏さんみたいな人が増えているそうですわ」

杏「みんな頑張りすぎたんだよ。今はお休みの時代だよ。ニュースつまんないから他の番組にしよっと」

P(……俺も飴欲しかったなぁ)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446990677

『精神科医の中ではうつ病であるという意見と新型の病気ではないかという意見が対立しており……』

杏「……」

雪美「お疲れ様……」

桃華「お疲れですわ。あら、珍しくニュースを見てますのね」

杏「ん? まぁね」

雪美「最近……増えてる……」

杏「うん。罹ると本当にだらだらになるみたいだよ」

桃華「そういえば今日のお仕事、アイドルの一人が急病で代わりの子が来てましたけど」

杏「杏も実は仕事先でこれに罹ったっぽい人見たんだよね」

雪美「本当……?」

杏「うん。もうだらーっとしててさ。自分で言うのもアレだけど私がすごくめんどくさがって
  駄々こねてる時みたいな感じになっててびっくりしたよ。普段は全然違うのに」

桃華「それは確かに問題ですわね」

雪美「あの時の杏は……やっかい……」

杏「それでも杏は飴食べれば少しはやる気出すからいいほうでしょ。
  あ、飴あげるよ」

雪美「ありがとう……甘い……」

桃華「でも普通そういうのって突然なるものですの?」

杏「わかんない。けど、そういう人は多分前兆があると思うんだよね。
  なんか疲れ気味だったとか、落ち込んでる様子だったとか」

雪美「P……最近疲れてる……」

杏「そうそう。ああいうのが危ないと思うよ」

桃華「Pちゃまには養生してほしいものですわ」

みく「全くもってその通りにゃ。最近ぼーっとしてることが多いし、それを言っても
   大丈夫だ、スタドリ飲めば平気さって言って休まないにゃ」

杏「みくいたんだ」

みく「今、帰ってきたにゃ。そもそもあのスタドリだって怪しいにゃ。
   きっと危ない成分が……」

ちひろ「……」

みく「ちがうにゃ」

ちひろ「……」

みく「笑いながら近づいて来ないでー!」

杏「またアイドルが一人……星になってしまった」

桃華「彼女の夢の分もわたくしたちで頑張りましょう」

雪美「ばいばい……みく……」

みく「生きてるにゃ!!」

幸子「フフーン! 今日はカワイイボクと!」

茜「この私、日野茜が!! 難題にチャレンジしたいと思います!!」

幸子「前回のバンジーはきつかったので今回は簡単なのがいいのですが
   パートナー的に無理そうですね……」

茜「幸子ちゃん! そんなやる気では難題クリアなんて出来ませんよ!!」

幸子「そうですけど、今日は生放送ですからね! そのへん考えてクリア出来そうなものがいいですね!」

茜「どんな難題でも私と幸子ちゃんの熱い友情で乗り越えて……乗り越えて……」

幸子「それではお題発表……ってあれ? 茜さん? どうしました?」

茜「……簡単なお題でいいんじゃないかな」

幸子「えっ」

茜「駅まで歩くとかそんなのでいいんじゃない?」

幸子「いや、このコーナーでさすがにそれは……それよりも茜さんどうしました?」

茜「だって面倒じゃない?」

幸子「そんな杏さんみたいなことを突然……って、え、まさか、これって」

茜「はー……お茶飲みたい」

幸子「あわわわわわ、あ、茜さんが杏さんになっちゃいました!」

『生放送中の事故! 一体その時何が起きたのか!!』

『日野茜はとにかく元気なことで有名で、最近ではフルマラソンを完走したことで知られている』

『所属事務所では他にも無気力になったアイドルがいることが判明』

杏「あれ以来どこもこんなニュースばっかやってるなぁ」

桃華「ゴールデンタイムの人気番組、しかも生放送中の事故ですの。仕方ありませんわ」

雪美「あんず病……」

杏「それ! それが一番気に入らないの! なんであんず病なのさ!」

みく「幸子チャンが杏チャンみたいだって言ったのが大きいんじゃないかな」

杏「くそー、幸子め。今度会ったら……」

雪美「会ったら……?」

杏「ハッカ味の飴だけ押し付けてやる」

桃華「微妙な嫌がらせですわね」

みく「そういえば今回のだらける病気、感染するらしいね」

杏「それもよくわからんないよね。なんで感染するんだろう」

雪美「元気がない人がいると……自分もなんとなく元気じゃなくなる……」

桃華「要は雰囲気ってことですわね。でも今回の件を見ていると
   そういう話ではなさそうですわね。あんなに唐突にやる気をなくすなんて」

みく「もっと感染症みたいに目に見えない形で感染して、潜伏期間が明けると発症ってことかにゃ」

杏「でももしもそれが本当ならさ、すごくまずいんじゃないかな」

桃華「と、言いますと?」

杏「正体不明の新種の病気が出ました。しかもそれは感染します。命に関わるものではなさそうだけど
  社会的活動に大きく支障をきたします。その上、感染経路がわかっていません。
  じゃあ感染拡大をさせないためにどうすればいいですか」

雪美「……感染した人を……別の場所に移す……」

杏「そうなるよね。でも潜伏期間、つまり発症するまでに待ち時間があり、しかもその間も
  周りを感染させるとしたら、感染の疑いのある人間はどんどん増えて行くわけじゃん。
  それを全部隔離するなんて到底無理な話だし、仮に感染力が強かったら」

桃華「大惨事、というわけですわね」

杏「でもこんな感染する精神病なんて聞いた事ないし、症状もだらけるだけだし
  杏が言うような事はまず起きないだろうけどねー。
  とりあえず杏がだらけない為に飴を一個……。あ、みんなも食べる?」

「番組の途中ですが、政府による臨時記者会見の中継をお送りします」

『えー、現在流行している突然気力を無くす症状についてですが
 先日、発症者を隔離している病院にて、えー病院スタッフの感染が確認されました』

『これを受けてですね、えー政府では官僚と有識者を交えた緊急の会議を行いまして
 えー、新種の感染症に認定されました』

『えー現状はですね。発症者は気力がないものの、体は健康であり、命には別状はありません。
 ただ気力、要はやる気ですね。それが、えー著しく損なわれている状態ということです』

『この状態ですと、えー社会生活は不可能でありますので、えー完治するまで入院という
 措置になります。ですが現状はですね、完治した患者はいないとのことです』

『現在政府では感染者と感染疑いのある人間を調査、隔離を行っております。
 国民の皆様にはですね、えー……』

『…………』

『あー、面倒だ』

『そもそも精神病の感染なんて前例がないし、対策なんてわかるわけない』

『感染方法はわからないけど感染に注意ぐらいか? 感染者に近づかないようにするとか』

『さてと、俺は失礼するよ。え、どこに行くのかって? 病院だよ。なんでかって?』

『見てわかるでしょ。俺も発症したんだよ。でも行くの面倒だな……』

雪美「行っちゃうの……?」

桃華「申し訳ありません。雪美さん。このような状態で別れるのはわたくしも心苦しいですわ」

杏「個人所有の島に疎開なんてさすがは櫻井家だよね」

桃華「本当はわたくしだってみなさんと一緒にいたいですの! しかし……お父様が……」

杏「仕方ないよ。非常事態宣言まで出されてるんだもん。それにあれ以来感染者も一気に増えて
  仕事もなくなっちゃったしさ」

雪美「寂しい……」

桃華「雪美さん、杏さん、必ずまた一緒にステージに上がりましょう。
   みくさんにもそうお伝えくださいまし」

雪美「うん……わかった……」

杏「はい、これ餞別」

桃華「ふふふ、いつもの飴ですわね。いただきます。それでは御機嫌よう」

雪美「……行っちゃった」

杏「ね」

雪美「友達……どんどんいなくなる……」

杏「みんな疎開とか言ってどこかに引きこもってるんだろうね。
  桃華は自分の家の無人島に行くから助かりそうだけど、既に感染してたらどうしようもないよね」

雪美「杏は……行かないの……?」

杏「部屋に引きこもってたいけどさ、私まで引きこもったら雪美一人じゃん。
  それにちょっとやりたい事があるしさ」

雪美「やりたい事……?」

杏「突発性怠惰病って名前がちゃんとついたのにテレビでは未だにあんず病って呼んでるんだよ?
  こんな不名誉なことはないよ。だから杏が病気を解明してやる」

雪美「出来るの……?」

杏「国が頑張ってやっても解明出来てないんだから普通に考えたら無理だよね。
  でも汚名返上したいし、なによりも暇だし」

雪美「私も……手伝う……」

杏「うん。あとみくもプロデューサーと一緒に営業出てるけどどうせ
  仕事取れないだろうし手伝わせよう」

雪美「頑張る……」

杏「よし、景気づけに飴を食べよう。雪美にも、はい」

雪美「ただいま……」

杏「おかえり。どうだった?」

みく「もうくったくたにゃ。これから食料探しはもっと遠くに行かないといけないにゃ」

杏「お、飴じゃん! ラッキー! 在庫がもう少しでなくなるとこだったんだよねー」

雪美「やっぱり……車いる……」

みく「でも運転出来ないにゃ」

杏「今更そんなこと気にしないっしょ。信号も止まってるし」

雪美「私……運転する……?」

みく「いやいや、さすがに雪美チャンが運転するならみくが運転するにゃ」

杏「まずはどこかで車手に入れないと。そういえばプロデューサーのはどうしたのかな」

みく「鍵があれば動くけど……本人も連行されちゃったしどこにあるやら」

雪美「探してみる……」

みく「それでそっちはどうなの?」

杏「さっぱりだよ。ラジオも受信しないし、なんで杏達が病気に罹らないかもわからないし」

みく「まともな健常者がいればいいのにいないし……」

杏「感染者はいたの?」

みく「うん、いたよ。一応言われた通り近づかないようにしたけど……地面に寝転がってるから
   感染者なのか病人なのかわからないにゃ」

杏「どちらにしろ関わらないに越した事は無いよ。今の杏達じゃ病人だったら救えないし」

雪美「やっぱり……なかった……」

みく「事務所はもう何回も調べてるからね。仕方ないにゃ」

杏「鍵かかってるところはまだ開けてないけどね。机とか。まぁ仕事関係の物しか入ってないと思うけど」

雪美「あ……雨……降って来た……」

みく「屋上の雨受けってどうなってたっけ」

杏「今日点検しに行ったときに広げて置いたよ。ビニールシートとか。
  風もなかったし大丈夫だと思うけど」

みく「なら大丈夫にゃ。……ライフラインが止まるって結構きついね」

雪美「電気ないと……何も出来ない……」

杏「そうなんだよね。オール電化とかあるけどああいうのって停電してるとき、何も出来ないよね」

みく「ろうそくとマッチ万歳にゃ。でも大分ろうそくもなくなってきたにゃ」

杏「事務所の書類とか燃やそうか」

みく「またアイドルやるときに必要になるでしょ!」

杏「……そうだね。約束したもんね。桃華と、またステージに立とうって」

雪美「でも……私達と桃華でライブしたこと……ない……」

みく「それは言ってはいけないにゃ」

ガチャガチャ

杏「雪美隠れて。みく」

みく「大丈夫。杏チャンは」

杏「この包丁がある。わかってるね?」

みく「感染者であれば引き離し、略奪者であれば……[ピーーー]」

杏「うん」

雪美「……」

ドンドン

「みく、いるんだろ? ……ああ、なんだか面倒になってきた……。
 ここで残りの人生を寝て過すか……」

みく「……この声は」

杏「確か……他の事務所の……」

雪美「アイドル……」

みく「杏チャン」

杏「わかった。でも警戒はして」

みく「うん」

「うぅ……床が冷たい……。でも暖まるのも面倒……」

みく「もしもし?」

「あー、やっぱりみくか。さっき後姿を見て、追いかけたんだが……。
 もう歩くのも面倒で這いつくばってきたから随分と汚れてしまった。
 まぁいいか……」

みく「やっぱりその声は……」

ガチャ

みく「晶葉チャン……」

晶葉「久しぶりだな。元気そうじゃないか。私はこの通りだ」

みく「感染、してるんだね」

晶葉「任せる」

みく「え?」

晶葉「面倒なんだ。とにかく。ここまで来たのは最期に知っている顔が
   見たかっただけだし、私を別の場所に追放しても構わない。
   ああ、でもみくも感染してしまうか。こんなことにまで頭が回らないなんて」

みく「……杏チャン」

杏「…………」

雪美「私は……」

杏「雪美?」

雪美「私は……助けたい……」

杏「わかった。中に入れてあげよう」

みく「よし、来たにゃ。晶葉チャン、肩貸すからもうちょっと頑張って」

晶葉「いいのか? 感染者だぞ」

雪美「誰でも助けるわけじゃない……。助けられないかも……しれないし……
   私達も巻き添えに……なるかもしれない……。
   でも……それが知っている人なら……やっぱり助けたい……。
   それに……」

杏「私達は感染しにくいみたいだしね」

みく「今までも何度か感染者と接触はしたけど感染しなかったにゃ」

晶葉「もしかしたら抗体でもあるのかもしれないな」

杏「うん。とりあえず服着替えて。私はタオル持ってくるから」

雪美「着替え……持ってくる……」

みく「暖かそうなのお願いにゃ」

晶葉「着替えるのが面倒だ……。着替えさせてくれ」

みく「はいはい。じゃあ勝手に脱がすよ」

晶葉「あとすまないが少し食料も分けてもらえないか。
   最後にまともな食事をしたのもいつだったか覚えていないほどなんだ」

みく「とりあえずこの飴でも舐めるにゃ。火を起こせれば食事も暖かいのにありつけるけど
   ろうそくももう貴重だし……」

晶葉「この飴、ハッカ味だな……。ああ、火を起こす道具なら私の鞄に入っているぞ」

みく「え? どれどれ」

晶葉「ほら、バーナーだ。燃料のストックもまだあるぞ」

みく「いっぱいあるにゃ! どうしたの? こんなに」

晶葉「いつだったかホームセンターに寄ったときに残ってたから持ってきたんだ」

みく「この辺りにホームセンターなんてあったっけ……」

晶葉「ここからだとだいぶ遠いんじゃないかな。最近使ってなかったがまだ点くはずだ」

みく「ランタンもあるにゃ」

晶葉「外だと灯りが欲しくなる時があるからな。とは言え、あまり人に見つかりたくないから
   そう長い間点けてはいなかったが」

雪美「着替え……持ってきた……」

杏「タオルも持ってきたぞ。お、なんだこの便利そうな道具は」

みく「ランタンとバーナーにゃ。暖は取れないけど水が簡単に暖められるにゃ」

晶葉「水はあるのか?」

杏「雨を溜めて、ろ過してる。たまにあたる」

晶葉「ガスコンロとかなかったのか」

みく「そんなのすぐにガスを使い果たしたにゃ」

晶葉「適当に物を燃やせばよかっただろう。そこにある書類とか」

杏「またアイドルやるときに困るでしょ」

晶葉「アイドル? ……ずいぶんと希望を持っているんだな」

雪美「体……拭く……」

晶葉「ああ、自分でやる。ありがとう」

杏「私達はここを根城にして、あまり遠くへは行かないようにしてたけど
  他はどんな感じなの?」

晶葉「ひどいものだ。街角には死体が山積みにされて、道にも転がってる。
   感染した人間が行き倒れたのか、健常者が物資の取り合いで殺しあったのかは
   わからないがな。しかしよく生き延びていたな」

みく「それはこっちのセリフにゃ」

晶葉「運がよかったのだろう。だが、ここに来る途中で生きた感染者に接触してしまった。
   おそらくあれで感染したのだろう」

雪美「なんで……?」

晶葉「死体かと思ったんだ。近くに鞄があったから漁ろうと思ってね」

みく「外は本当に地獄だね」

晶葉「治安もなにもない。どこぞの世紀末のように多少は元気な人間がいれば話は違うかもしれないが
   いるのは死体と死にかけばかり。まさか生きている間に世界の終わりが見れるとはな」

杏「……ところでさ、晶葉何やってるの?」

晶葉「何って服を着ているんだ。せっかく着替えを用意してくれたのだから遠慮はしないぞ」

杏「一人で?」

晶葉「それは……あれ、なんで一人で着替えているんだ。私は」

みく「感染してたんじゃないの?」

晶葉「感染していたさ。さっきの様子を見ただろ。実際服は脱がせて貰ったし。
   今はあの気だるさがほとんどないぞ。なぜだ……?」

雪美「……飴?」

杏「まさか」

晶葉「だが確かにここに来てからしたことは着替えとタオルで体を拭いたのと飴を食べたくらい」

みく「飴を舐めると病気が治る……? こんなことで?」

杏「いや、症状が一時的に改善しただけかもしれない。明日も様子を見よう。
  でもこれ……」

みく「あんず病って本当に的を射たネーミングってことに……」

杏「複雑だなぁ……」

雪美「朝……起きて……」

晶葉「んん……。もう朝か……」

雪美「体……大丈夫……?」

晶葉「少しだるいぐらいだな。しかし久しぶりに熟睡できた」

雪美「これ……今日の分……」

晶葉「飴か。私にだけか?」

雪美「みんな……。糖分は大事だって……杏が……。一日一個……」

晶葉「それでこれとは別に普通の食事が出るのか。ふむ、やはり飴なのか……?」

杏「おー、起きたみたいだな。言っとくけどタダ飯なんて食わせないぞ。
  病人だろうがしっかり働いてもらうからね」

晶葉「あの杏からそんな言葉が出る日が来るなんてな」

杏「私もやらなきゃならないときはやるんだよ。あのバーナーでお湯作っといて。
  私は紅茶のパックとポット探すから」

晶葉「みくは?」

杏「屋上で雨受けの調整と街の監視。って言っても監視するようなものなんてないんだけどね」

みく「ただいま。いつも通りの街にゃ」

杏「ほらね」

晶葉「おはよう。改めて三人とも。昨日は本当にありがとう。命の恩人だ」

みく「元気みたいだね。しっかりと働いて返してね」

晶葉「ああ、全力でサポートしよう。よろしく頼む」

晶葉「ここをこうして……よし、こんなものか」

ブイーン

晶葉「お、みく。おかえり」

みく「ただいまにゃ。今日もたくさん食料手に入ったにゃ」

晶葉「そのバイクの調子はどうだ?」

みく「順調にゃ。案ずるより産むが易しってね。それは?」

晶葉「ああ、そのバイクの荷台を拡張出来ないものかと思ってね。
   部品を作っていたんだ」

みく「さらに乗せられるようになるのはいいけど……ガソリンも探さないと」

晶葉「そこらの乗り捨てられた車とかから拝借するのが一番だろうけどね」

みく「あの作業見てて怖いにゃ……。いつの間にか晶葉チャンはピッキング出来るように
   なっているし」

晶葉「おかげで家捜しが捗るのだからいいだろう。そろそろお昼だし上に行くか」

みく「そうだね。今日のお昼は何かにゃ!」

晶葉「サバの缶詰とかサンマの缶詰とか」

みく「みくいずふぃっしゅのーさんきゅーにゃ」

晶葉「こんな時にも魚食えないわ、語尾に猫を付けるわ、アイドルの鑑だな」

みく「まーねー」

ガチャ

みく「ただいまー」

晶葉「戻ったぞー」

杏「おかえり。ちょうど昼ご飯出来るところだよ」

みく「お、なんだかおいしそうなものが!」

杏「みくが持ってきたドライフードとかいう奴。お湯で戻すだけで食べれるんだって」

雪美「お皿持ってきた……」

晶葉「これは……カレーか。ご飯が欲しくなるな」

杏「みくに頼んでよ。お米持ってくるようにさ」

みく「そういえばどこかの家の米びつにお米残っていたけど……食べれるのかな」

雪美「しっかり……研ぐ……!」

晶葉「雪美はやる気みたいだぞ」

みく「炊き立てのお米なんてもうどれだけ食べていないか」

杏「ないものねだりしても仕方ない。お湯は出来たから後はかけるだけ……。
  どのぐらいかければいいんだ……」

晶葉「少しでいいんじゃないか?」

みく「いっぱい掛けたほうが量がいっぱいになるにゃ!」

雪美「味が……薄くなる……」

杏「まぁ適当でいいや」ダバー

みく「適当すぎるにゃ!」

雪美「……ん」

晶葉「どうした?」

雪美「車の音……下で止まった……」

みく「晶葉チャンはそれ。杏チャンはこれ」

杏「雪美は隠れて。みくは」

みく「あっちの包丁持ってくる」

晶葉「車で来たなら感染者ではないだろうが……」

杏「下で止まったってことは、ここに誰かがいるってことを知ってるんだよね」

みく「屋上でビニールシート広げたり、最近はバイク使っていたから生存者がいたら
   こっちのことに気づいてもおかしくないにゃ」

晶葉「ドアは閉まってるし……そのまま帰ってくれれば……」

カチャン

杏「え」

みく「なんで事務所の鍵を持ってるの」

晶葉「……」

ガチャ

「……あれ、生きていたんですか」

杏「ちひろ……さん?」

ちひろ「なるほど。階段には埃もないし、おかしいとは思っていましたが。
    しかしひどい格好と臭いですね。仮にも元アイドルだというのに」

みく「どういうこと? なんでここにいるの?」

ちひろ「……野暮用ですよ。入らせてもらいますよ」

晶葉「……待て、私は感染者だ」

ちひろ「そうですか。まだ症状は出ていないように見えますが」

杏「……飴」

ちひろ「飴って……普通の飴ですか?」

杏「まだ憶測でしかないけど……飴を舐めると病気が改善される可能性がある。
  晶葉に関してはそれしか思い当たる節がない」

ちひろ「……なるほどなるほど。それは盲点でしたね」

みく「盲点?」

ちひろ「こちらの話です。生存者は三人だけですか?」

杏「……雪美」

雪美「……」

ちひろ「四人、ですね」

杏「……ちひろさんはどこまで知ってるの」

ちひろ「何がです?」

杏「晶葉が感染者だって話した時、何の反応もしなかったよね。
  知っているんじゃないの。感染経路と治療法を」

ちひろ「ええ、知ってますよ」

晶葉「知っているのか」

みく「そんなあっさり」

ちひろ「この感染症に対して、耐性のある人間がいるというのは早い段階でわかってましたからね。
    プロデューサーさんも耐性持ちでしたし」

雪美「Pは……知らない人に……連れて行かれて……」

ちひろ「生きてますよ。私の町で」

杏「……そっか」

みく「よかった……」

晶葉「まだ……町と呼べるものがあるのか」

ちひろ「おそらくは唯一でしょう。車で来ましたし、乗ってってください」

雪美「助かるの……?」

ちひろ「ええ。町の外の生存者捜索はやっていないのでこうやって会えたのも
    何かの縁でしょう。それに私もここで見捨てるほど鬼じゃないですよ」

杏「た、助かったのか……」

みく「やった、やったにゃ」

雪美「ばんざーい……」

晶葉「もっと喜ぶべきなのかもしれないが……なんだか現実感がないな」

杏「とりあえず抱き合おうか」

バンザーイバンザーイバンザーイ

ちひろ「あれは確か私の引き出しに……。鍵はこれだったかな」

ちひろ「やはりありましたか。しかしまさか念のために資料を回収しようと
    思ったらとんでもない拾い物をしましたね。
    まぁでも……喜ばしいことでしょう」

私達のサバイバル生活は唐突に、そして呆気なく幕を閉じた。
ちひろさんの車で町に向かった私達は数ヶ月振りの入浴と普通の食事を摂った後、
健康診断を受けた。みんな多少の栄養不足と痩せ気味であった程度で他に病気はなかった。
晶葉は感染者なので隔離されると思っていたが、みんなと同じ飴みたいな薬を渡されて終わった。
ちひろさんの発見した薬で通称あんず病は完全に克服されたそうだ。
ただ定期的に薬の摂取が必要なのと、数を賄うほどの設備が整っていないため
外での生存者探索は行っていないそうだ。生存するための犠牲だ、とちひろさんは言っていた。

町はまだ決して大きくは無い。だけどここから人類は再出発する。
再開した桃華は私達にそう語った。かつての文明は崩れ去り、今では財閥の一人娘ではなく
ただの櫻井家の一人娘になってしまった桃華だが、本人はさほど気にしていないようだ。
離島で過した後、食料が尽きかけたためこちらに戻ってきた際、この町を見つけ
今は動物の世話を仕事にしていると言っていた。

プロデューサーは薬の製造に関わっているらしい。自身が抗体持ちなのも関係しているのだろう。
あの時、咄嗟に私達に隠れるように言ってしまったが、それがなければみんなここに連れてこれた
かもしれない、と涙を流して謝罪してきたので生きてるからいいじゃない、とみんなで許すことにした。

そして――。

桃華「杏さん? 杏さん大丈夫ですの?」

杏「……ん、ああ。ちょっと思い返していてね。今までのこと」

雪美「色々……あった……」

みく「でも再びここまで来れたにゃ」

晶葉「まさかまたこういうことをするとはな」

P「そろそろ出番だぞ。準備出来たか?」

杏「うん、大丈夫だよ」

P「よし。初お披露目だ。とちるなよ」

みく「任せるにゃ!」

桃華「わたくしに不可能の文字はありませんわ」

雪美「ずっと待ってたから……この時を……」

晶葉「開発だけじゃないところを見せないとな」

杏「よし。それじゃあいくよ! 杏達のステージへ!」

私達の物語が再び、輝き始めた。

「公演が始まりましたか」

「……ふふふ。世界は蘇る。ここを起点にして」

「世界中に広まったあんず病。完全な治療を行うには私の薬が必要です」

「まさか本人もあんず病治療に自身が利用されていたなどとは気づかなかったでしょう」

「しかし普通の飴でも一時的な予防と治療効果があるとは……。それも本人達が発見するのは
 想定外の出来事でしたが、計画になんら支障はないでしょう」

「世界を死に至らしめた病を駆逐した英雄。想定した通りのシナリオです」

「何もせずとも人は私を称える。その病がどこから発生したのかも知らずに」

「世界の滅亡により、全ての資産は消失し、新世界における唯一の黄金とも言える
 あんず病治療薬の製造法は私しか知らない。例え漏れても材料のスタドリまでは
 わからないでしょう。スタドリを摂取した抗体持ちも最初の段階で回収しましたし
 例の資料も手に入れましたしね」

「仮に感染者がいれば、この薬がある限り私に従う。健常者で従わないのであれば
 あんず病をばらまけばいい」

「楽しみですね……。私を頂点とした世界がどのように作られるか」

ちひろ「世界は既に我が手の内に。ふふふ……」

以上

鬼悪魔魔ちひろ!!

乙。
鬼!悪魔!ちひろ!

やち糞


マッチポンプは基本

まあ…ちひろだし…

乙ー

杏たちを消さなかっただけ有情じゃないかな(麻痺)

乙ハザード
>>24
世界征服目指してるなら口封じするか、精神や脳を弄くり回して自分のお人形にするしなぁ(現実逃避)

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