空からランドセルが降ってきた (10)
初めに忠告しておく。
ロリは出ない!・・・期待してるのようなのは。
俺は冴えない高校二年生。
今日も元気に自転車通学だ。
今まで無遅刻、無事故。
きっと、これからもー
シュンッ
「え?」
目の前を赤い物体が落下する。
ガッ
前輪が物体に引っかかり、車体が浮いた。
「え」
次の瞬間、俺は宙を舞っていた。
「うわー!!!」
道路に激突するそう思った。が、
「きゃーっ!!!」
「!?」
落下する直前、急いで体勢を整整え忍者のように着地する。
「今の声はどこから!?」
辺りを見渡してもだれもいない。
「ここ!」
「?」
声のする方へ向かう。
と、落ちてきた赤い物体が見える。
ランドセルだ。
女児がよく背中に背負う・・・
俺は小学生を轢いちまったのか!?
急いで周りを見るが、やはり誰もいない。
「ここだよ!」
しかし、この声はなんだ?
それこそ、女児のような声がするのだが・・・
「君の下にあるやつ!」
「これか?」
ランドセルを拾う。
「ざつっ!もっと丁寧に扱ってよ!」
「お前、どこから俺のことを見てるんだ?」
ランドセルにカメラやスピーカーがついてるのか?
だが、そんな痕跡はない。
「目の前にいるのが私よ」
「目の前・・・?ランドセルしか・・・」
まさか・・・
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整が二個も付いてしまいました。一つ多い・・・
「そう!私、ランドセルになっちゃったの!!」
「えーーーーーーーーーー!!?」
今年一番、いや人生で一番の叫びだった。
どうしよう・・・
ランドセル・・・しかも、女児のランドセルを持ってたなんて変態確定だ。
それに俺に妹なんていない。
そもそも、このランドセルを持っていけるわけが・・・
「おいていかないでー!」
ランドセルだから涙は流さないが、たぶん泣いている。
自分がランドセルになってしまうなんて恐ろしい・・・
俺はぶるっと身震いすると、ランドセルを自転車のかごに入れて来た道を戻った。
いくらランドセルでも、スピードを出してがたがたするかごに乗せるのも悪いし、怖いだろうな・・・
仕方なく、自転車を押して歩いた。
「ど、どこ行くの・・・?」
不安そうにランドセルが問いかける。
「家だ」
「何する気!?」
「何もしねーよ!」
ランドセルに手を出すほどの猛者ではない。
「殺処分ならぬ廃棄処分に・・・」
「出さねーよ。俺の部屋に置いとくだけだ」
「俺の部屋って・・・親ばれしない?」
「・・・心配すんな」
「アパートなんだね・・・」
「あぁ。俺、一人暮らしなんだよ」
だから、ランドセルがあっても大丈夫だろう。
「おじゃましまーす」
小脇に抱えたランドセルがそう言う。
高2男子が喋るランドセルを抱える。
・・・なんだそりゃ。
えっらいシュールだな!
「とりあえず、ここに座ってろ」
そう言って、学習机の上にランドセルを置く。
「そんな優しく置かなくても大丈夫だよ」
「さっきは優しくって言った」
「そりゃそうだけど、音もたてずにって・・・」
「文句多いな。いいことされたんだから黙ってろ」
「・・・うん、ありがとう」
「ちっ・・・」
さて、ランドセルを置いたのはいいが、この後どうすっかなー・・・
とりあえず、学校に連絡入れるか。
物体につまずいて事故ったと。
「じゃあ、俺はたいしてけがしてねーし、休めないから学校に行ってくるわ。留守番頼んだぞ」
「わかった・・・心細いけど」
「・・・」スッ
なでなで
「!」
ランドセルの一番山になっているところをなでる。
「まっすぐ帰ってくるから安心しろ。なんなら寝てろ」
「・・・うん。待ってる。いってらっしゃい」
「行ってきます」
誰かに向けてそう言ったのは久しぶりだ。
中学を卒業してすぐに、このアパートに引っ越してきたからな・・・
男の子は学校に行ってしまった。
私みたいなランドセルのことを気にかけてくれるなんて優しいなぁ・・・
ランドセルになってから久しぶりの乙女回想に浸ってみる。
私のために、自転車を押して歩いてきた。
『ここに座ってろ』
まるで人間みたいな扱いだ。
・・・机の上だけど。
すごい優しく置いてくれた。
『いいことされたんだから黙ってろ』
照れ屋さんなのかな?
頭?をなでてくれた。
『まっすぐ帰ってくるから安心しろ』
ありがたい。
『行ってきます』
まるで新婚さんみたい・・・
「はずっ!私、何考えてんの!?はずっ!」
乙女思考を強制的にシャットダウンした。
人間だったら赤面してただろう。
この色だと赤面してるかどうかわかんないけど。
「・・・でも、このまま戻れなかったら、そういうことももうできないんだよね・・・」
あの人はいつまで私をここに置いてくれるんだろう・・・
・・・寝よう。
「ただいまー」
・・・ん?
聞き覚えのある声で目が覚める。
「よう、寝てたのか?」
あの人だ。
「ううん、今起きた。おかえり、ゆうくん」
「え?なんで、お前、俺の名前、知って・・・」
「机の上の教科書に名前書いてあったから」
「あぁ・・・」
「あ、私の名前、知らないよね?私は雨宮奈緒。よろしくね、ゆうくん♪」
「っ・・・藤本佑樹だ」
「律儀だね」
「うっせー。なんか、自己紹介もしてないのに、名前勝手に知られてんのはき・・苦手なんだよ」
「なんか前例でもあるの?てか、今、嫌いって言おうとして言い直したでしょ。変なとこ優しいよね」
「・・・言い直してねーよ」
そっぽ向いてあぐらをかくが、頬が赤いのがバレバレだ。
「やっぱり、照れ屋さんだったんだね!」
「は?」
「ううん、こっちの話」
「?」
「・・・あのさ、お前目どこ?」
「え?」
「裏返せば、いいのか?」
白い方がこちらに向くように立てる。
「?」
「着替えるから、さ」
「!そ、そっか・・・」
服がすれる音が聞こえる。
緊張してくる。
別に、なにかするわけでもないのに。
どきどきしている・・・
ランドセルだから鼓動なんてないけど、人間だった時の記憶があの鼓動を覚えている。
「終わったぞ」
律儀に私を向かい合わせに置く。
「ゆうくん・・・」
「なんだ?」
「なんか・・・同棲してるみたいだね」
「ぶっ!?何言ってんだよ!」
「ごめん・・」
「いや・・・でも、一人じゃないからうれしいよ。同居人がいて・・・」
「!そうなの・・・?」
「うん」
「じゃあ・・私を捨てたりしない?」
「当たり前だろ!」
「本当に・・?」
「本当だよ」
「・・・じゃあ、私が元の姿に戻っても?」
「え?それじゃ・・・」
「私が人間に戻ったら、結婚してあげる!」
「!・・・できるもんならな」
「あはは。顔赤いよ」
「うるせー」
「私とお揃いだね」
「・・・あぁ、そういうこと」
本当に、元に戻っても一緒に居ようね・・・
「さて、俺は寝るけど・・・」
「私もそばに居たいなぁ・・・」
「じゃあ、枕元に置いとくよ」
「それだと私がお化けみたいだからいや」
「お化けじゃないだろ。座敷童ぐらいだろ」
「それって、遠回しに私が来てくれて幸せってこと?」
「・・・さぁな」
「あ、否定しないんだ、よかった」
「・・・」
無言で私を持ち上げ、布団に連れていく。
ちゃんと両手で抱え込むように。
「添い寝するか?」
「っ!?」
驚いてゆうくんを見るが、真剣な顔だ。
「・・・うん」
きっと本当だったらこれ以上ないくらい赤くなってただろう。
一番下の方に毛布を掛けられる。
すぐ隣にゆうくんの顔がある。
しばらく見つめ合う。
今だけ、ランドセルで良かったと思う。
素だったら気絶してたかもしれない。
「おやすみ」
「お、おやすみなさいっ!」
思わず声が裏返る。
「ふっ・・・」
薄く笑って目をつむる。
「!」
ゆうくんの笑った顔もかっこいいな・・・
寝顔もかわいい。
どうか、このまま・・・
「ん・・・」
硬い感触に目を開ける。
いつのまにか抱き枕のように、ランドセル・・いや、奈緒を抱きしめていたようだ。
布団の中でランドセルを抱きかかえる男。
はたから見たら変態だな…
思わず苦笑する。
奈緒を起こさないように、そっと布団から抜け出し、台所でコップに水を注ぎ、一口で飲み干す。
そして、布団に戻ろうとする。
「・・・え?」
布団の中で寝ていたのはランドセルではなかった。
青白く光る美少女だった。
「は?な、奈緒なのか・・・?」
恐る恐る近づく。
だが、見た感じ自分と同じくらいだ。
あの女児の声を発するような少女とは思えない。
・・・もしかして、ランドセルになったのは結構前で今の本当の姿は、これなのか・・・?
「・・・」
というか、目のやり場に困る!
青白く光って実体はないようなのでぼんやりとだが、全裸である。
「?」
少し大人になってるが、この顔、見覚えがある。
たしか・・・
奈緒・・・?
ハッと気づき、スマホで急いで調べる。
「やっぱり・・・」
雨宮奈緒・・・
一時ニュースにもなっていた。
「八年前に行方不明になった小学三年生・・・」
今は、十七歳・・・
俺と同じくらいだ・・・
「八年間もランドセルなのか・・・?」
せめて寝ている時だけでも・・・
起こさないようにそっと隣に入る。
「夢くらい、いい夢の方がいいよな」
そっと頭をなでるしぐさをする。
やはり透けてしまう。
「・・・おやすみ」
「おはよう」
「おはよぁ・・」
「途中であくびしたな?」
「う、うん・・・」
ランドセルだから表情は読めないが、おそらく恥ずかしがっているのだろう。
「そういえば、ゆうくん、学校は・・・?」
「今日は祝日だから休み。ゆっくり寝てなよ」
「うん・・・」
「・・・」
「ゆうくんも一緒に寝よう・・・」
「え?い、いや・・」
「なんで?やっぱり、ランドセルとじゃいや・・・?」
泣きそうな声になる奈緒。
「ち、ちげーよ!」
むしろ、昨日の姿を見て、朝、冷静になってから、恥ずかしくなっただけだ!
「・・・なんて言えねーよなぁ」
下手に期待をさせてもかわいそうだし。
どうにかして元に戻してやりたい。
下心抜きにして。
困ってる女の子を助けたいなんて、男ならだれでも思うことだろう?
「なぁ、奈緒」
「!な、なに・・・?」
突然名前を呼ばれ、緊張する奈緒。
「俺は・・・」
「・・・」
「・・君が大事だ。君の本当の姿も取り戻してあげたい。戻れなくても、ずっと一緒にいてやる」
「・・・それ、私も考えたの」
「え?」
「私が戻れなくてもずっと一緒にいるってこと・・・やっぱり、それはやめようと思うの」
「な、なんで・・?」
「・・・」
「俺、なんかした?」
「違うの。ゆうくんは私なんかに優しくしてくれて・・・こんな姿じゃ何もできないのに・・」
「じゃあ、なんで・・・」
「ゆうくんは私なんかにはもったいないよ・・・もっといい人がいるはずだよ。だから私なんかにこだわらないで、好きな人を見つけて普通に結婚して?」
「!いやだ・・・」
「ゆうく・・」
「俺、君のことが好きなんだ!あんな短い時間で嘘だろって思うかもしれないけど・・・君がどんな姿でも・・・元の姿でも、俺は君のことが好きだ!」
「!」
「だから・・・だから!ずっと君のそばにいさせてくれ!」
「ゆうくん・・!」
「俺のわがままだ」
「・・・じゃあ、これからもお願いします」
「あぁ・・・」
さっと奈緒を抱きかかえる。
「!?」
ちゅっ
適当なとこにキスする。
変態だっていい。
俺は、奈緒が好きだ。
「・・・ゆう、くん」
「ん?」
「大好きだよ・・」
「俺も」
と、青白い光が奈緒を包む。
「!この光、昨日の・・・!」
「え?」
だんだん人間の姿になっていく。
だが、実体はない。
「あははっ。せっかく、元の姿に戻ってもランドセルの姿じゃないと触れられないなんて、皮肉だね・・・」
悲しそうに奈緒が笑う。
「奈緒!俺は君が好きだ!好きだ好きだ」
「何言って・・・」
今は赤くなっているのがわかる。
「愛してる!!」
「っ!」
奈緒の目から一筋涙がこぼれる。
それが足元に落ちる。
と、そこからしずくが広がり、奈緒の足を濡らした。
「え・・?」
涙が触れたところから実体化している。
「!」
ついに、全身が実体化した。
「奈緒!」
「ゆうくん・・・好きです」
二人は幸せなキスをしてFin
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