北条加蓮「藍子と」高森藍子「10月下旬のカフェで」 (46)

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「加蓮ちゃん加蓮ちゃん」

北条加蓮「ん~?」

藍子「Trick or Treat♪」

加蓮「…………」

加蓮「はい」つ飴玉

藍子「あれ?」


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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第13話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で にかいめ」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「いつもの席で」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「涼しいカフェテラスで」

加蓮「え? あれ、って……トリックオアトリートってあれだよね? お菓子あげなきゃイタズラするぞっ、ってヤツ」

藍子「そ、そうですけれど……」

加蓮「ってことは、飴玉をあげたらイタズラはされないんでしょ?」

加蓮「っていうか、それを建前にしてお菓子が欲しかったんじゃ……?」

藍子「……そ、そうなんですよ、あはははは……ちょっぴり甘い物が欲しいなぁ、って……」

加蓮「……? 変な藍子。それなら注文すればいいのに。ほら」つメニュー

加蓮「ハロウィン限定パンプキンケーキだって。かぼちゃのケーキ……かぼちゃのケーキ? え、それって甘いの? 甘くないの? 私、食べれる?」

藍子「あははは…………むー」

加蓮「???」

藍子「じゃあ注文しちゃいましょうか。加蓮ちゃんが食べられなかったら、私が食べるってことで……」

藍子「あ、でもさっき加蓮ちゃんが注文してくれてたコロッケを食べたから……お腹、大丈夫かな?」

加蓮「……藍子」

藍子「はいっ」

加蓮「ん」(時計を指差す)

藍子「……?」チラッ

藍子「…………!?」

加蓮「ここに来たの1時過ぎだよね。はい、今は何時でしょう」

藍子「に……」

加蓮「に?」

藍子「2時30分……!」

加蓮「コロッケ1つ食べるのに1時間30分もかける人なんて初めて見たよ。なんかこうそろそろあれじゃない? 漫画とかによくある、強力な能力を持ったけど自分がそれに呑み込まれて、みたいなパターンになってない?」

藍子「私は超能力者じゃないです!」

加蓮「魔女だっけ」

藍子「それも違うーっ」

加蓮「あ、すみませーん。パンプキンケーキ1つお願いします。……あ、ところでさ、これ甘い? 甘くない? ……甘さ控えめ? そっか、ありがとね店員さん」

藍子「うぅぅ……」

加蓮「……ま、いいんじゃないの? 別に誰も責めてないし……」

藍子「そ、そうですか? でも、私といたら時間がもったいない、なんて――」

加蓮「藍子」

藍子「は、はいっ」

加蓮「それ、いつも私が言って藍子に怒られるパターンのセリフだよ」

加蓮「自分を悪く言うのは駄目だって、いつも藍子が言ってることじゃん」

藍子「……あっ」

加蓮「気付くの遅い。……なんかあったの? なんか落ち込む出来事とか……」

藍子「……ちょっと、だけ……あの、加蓮ちゃん、聞いてくれますか?」

加蓮「ん~~~~~…………」カンガエ

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「……どう返したら面白くなる、とか考えてません?」ジトー

加蓮「それが見抜けるなら元気だね、じゃあ別の話をしようか」

藍子「ええっ」

加蓮「くくっ」フクミワライ

藍子「……加蓮ちゃんのいじわる~っ!」

加蓮「はいはい、意地悪意地悪。で、なんかあったの? モバP(以下「P」)さんへの苦情? しょうがないなー、この加蓮ちゃんがいつも通りに敵役になって解決してあげよう」

藍子「それもやらないでくださいってこの前に言いましたよね?」

加蓮「うーん。でも私、そんなに仲介とか得意じゃないよ? みんな笑顔で円満解決! とか、いや私のキャラじゃないしっていうかそこまで私は万能系便利キャラじゃないし」

藍子「そういうことじゃなくて……」

加蓮「便利キャラって言えばさ。こう、なんで自分ってできないんだろーって考えることあるよね。ほら、私だったら体力が終わってるからレッスンでよくへばって、もっとできるハズなのに! とか」

加蓮「何が出来ないじゃなくて何が出来るか考えろってPさんはよく言うけど……そんなに簡単に割り切れたら苦労しないって言うかさ」

藍子「でも、私もちょっぴり分かっちゃいます。大丈夫だって言われたら、逆に……いろいろと思っちゃいますよね」

加蓮「そーそー。ね、どうしたらいいと思う? どうしたらこう……自分は大丈夫って思えるようになるのかな」

藍子「ううん……」

加蓮「……って、それこそ簡単に分かったら苦労しないっか」グデー

加蓮「撫でてー」

藍子「はーい」ナデナデ

加蓮「はふぅ。…………さて」

藍子「?」ナデナデ

加蓮「気づいたら私がなんか愚痴ってたんだけど、何があったの? 藍子が自分を貶すなんて。相当だよ」

加蓮「自分はアイドルらしくない、っていうのはよく聞くけどさ」

藍子「…………」ナデナデ

藍子「……オーディションに、落ちちゃいました」

加蓮「あれ、珍しいね」

藍子「最近は調子が良くて……Pさんも、私なら大丈夫って何度も言ってくれてたオーディションでした」

加蓮「うん」

藍子「でも落ちちゃいました。それもショックで、それに、オーディションを任せてくれたPさんに申し訳ないなって思うのもあるんですけれど……」

加蓮「それだけじゃない?」

藍子「少し経ってから、たまたまオーディションで一緒になった人と会って……あっ、向こうが私のことを覚えてくれてたみたいです。あの有名アイドルの! なんて言われちゃって」

加蓮「うんうん」

藍子「その人が、オーディションに合格したらしいんです」

加蓮「ほー。宣戦布告でもされた?」

藍子「ううん、逆」

加蓮「逆?」

藍子「自分でも、受かるとは思っていなかったって言ってました。私を見て、無理だろうけど頑張ろうって思った、って。だから合格通知をもらった時、泣いて喜んだんだって」

加蓮「そっか」

藍子「まだ、アイドルになったばっかりだって言ってました」

加蓮「へぇ」

藍子「…………」

藍子「……私……オーディションを受ける前に、心のどこかで思ってたかもしれません。自分なら大丈夫だ、って」

藍子「最近は、お仕事も順調で、Pさんもよく褒めてくれてたから」

藍子「合格した人が、アイドルになったばっかりだって聞いた時に」

藍子「もしかしたら私、油断していたのかなって。驕っていたのかも、なんて……」

藍子「ううん……もしかしたら、他の皆さんを馬鹿にしてたのかも、なんて思っちゃって……」

藍子「私のなりたかったアイドルって、絶対そんなのじゃないから……どうしたらいいのかなって、思っちゃいました」

加蓮「そっか」

藍子「……あははっ……ごめんなさい。こんな話しても、加蓮ちゃんが困るだけですよね」

藍子「――ほらっ! パンプキンケーキ、来ましたよ。加蓮ちゃんも一緒に食べましょう!」

加蓮「ん、食べよっか」




藍子「はい、あーん♪」

加蓮「あーん……ん、んん……? えっと……」

藍子「どうですか?」

加蓮「美味しいとか美味しくないとかじゃなくて……なんていうか、新食感? あれかな、新種の生物を見つけた探検家ってこういう気持ちなのかな」

藍子「そんな大げさな……」アハハ

加蓮「藍子も食べてみてよ。ほら、あーん」

藍子「あーんっ。…………し……」

加蓮「し?」

藍子「新大陸です……!」

加蓮「でしょー?」

藍子「少し前に読んだ小説で、冒険者の主人公が新しい大陸を見つけた時の感動が描かれていて……それって、こういうのだったのかなって……!」

加蓮「大げさな」アハハ

藍子「そ、それっさっき私が言ったことです~!」

加蓮「あれ、そうだっけ」

藍子「そうですよ~」

加蓮「あむっ。んー……すみませーん。ええっと…………」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「お茶、じゃないし、ジュースでもないし……こ、これに合う飲み物をお願いします」

藍子「店員さん、困っちゃってます……」アハハ

加蓮「じゃあ藍子なら何が合うと思う? 思いつかないでしょ」

藍子「私ならお茶かな……ううん、コーヒー? あ、店員さん、コーヒー2つお願いしますっ」

加蓮「ああ、コーヒーかぁ」

藍子「違いました?」

加蓮「コーヒーだ」

藍子「でしょ♪」

加蓮「ぐぬぬ……さすがにカフェのことじゃ藍子には勝てないかぁ」

加蓮「コーヒーかー……コーヒーかー」

藍子「…………加蓮ちゃん」

加蓮「ん?」

藍子「……ううん、なんでも……」

加蓮「そ」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……あ、そうだ藍子」

藍子「?」

加蓮「トリック、オア、トリート」スッ

藍子「へ?」

加蓮「いやだから、トリックオアトリート。お菓子をよこせ、じゃなきゃイタズラ♪」

藍子「ええっ!? え、えっと、えっと……あ!」

藍子「じゃあこれでっ」つ飴玉

加蓮「……いや、それさっき私が渡した飴玉じゃん」

藍子「お菓子はお菓子ですっ」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「ん?」

藍子「Trick or Treat?」

加蓮「…………はい」つ飴玉

藍子「はいっ♪」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……トリック、オア、トリート」

藍子「はいっ」つ飴玉

加蓮「ありがと……」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……あ、店員さん。コーヒーありがと、うん」

藍子「ありがとうございますっ」

加蓮「…………」ズズ

藍子「…………」ズズ

藍子「……………………」ハァ

藍子「…………」ズズ

加蓮「……なにこれ?」

藍子「さあ……?」

加蓮「…………」ズズ

藍子「…………」ズズ

藍子「……………………」ハァ

加蓮「あ、ちょっとごめん」(スマホを掲げて見せる)

藍子「はい、どうぞ」

加蓮「…………」ポチポチ

藍子「…………」ズズ

藍子「……………………」ハァ

加蓮「よしっ。藍子」

加蓮「ええと……び、ビコーズエブリスィングイスグッド、メイクゼムプレイアトリック!」

藍子「…………」

藍子「へ?」

加蓮「だから、ビコーズエブリ――」

藍子「いやあのごめんなさい、意味がぜんぜん……」

加蓮「日本語にすると『なんでもいいからいたずらさせろ!』」

藍子「はあ。そんな英語が……って、へっ? いたずら?」

加蓮「いやほら、トリックオアトリートってお菓子もらったらイタズラできないじゃん。だから言い方を変えてみた」

藍子「……つまり、加蓮ちゃんがイタズラをしたいってことですか?」

加蓮「うん」

藍子「…………い、嫌ですよっ」ギュ

加蓮「自分の体を抱きしめて言うほどのこと……?」

藍子「ぅ~~~」

加蓮「だってさー、藍子が辛気臭い顔してるから落ち着かないもん」

藍子「え? ……私、そんな顔していました?」

加蓮「無自覚なんだ。そんなんじゃアイドル失――じゃなくて……あー、してたしてた。ほら、私が言うんだから間違いないよ、うん」

藍子「加蓮ちゃんがそう言うなら、そうなのかな……」

藍子「あ、ご、ごめんなさいっ。えっと、笑顔、笑顔……」ニコッ

加蓮「藍子。スカウトされて3日目みたいなアホっぽい顔するのやめなさい」

藍子「そこまで……?」

加蓮「え、何? そのアホ面を写真に撮ってバラまいて欲しい?」

藍子「違います~!」

加蓮「トレーナーさんに見せてみようか。ビジュアル版の地獄のレッスンが始まるよ。あ、私は付き合わないで帰るから」

藍子「冷たいっ。加蓮ちゃんそういうの得意じゃないですか! 手伝ってくださいよ~」

加蓮「じゃあレッスンしてる藍子を見てケラケラ笑う」

藍子「一緒にやりましょうっ」

加蓮「こう、笑われてたら負けるもんかってならない?」

藍子「私、そういう勝ち負けとか好きじゃないですもん……笑われてたらやっぱりいい気持ちにはなりませんよ!」

加蓮「そっかー。あ、ちなみにさっきの英語」

藍子「?」

加蓮「エキサイト翻訳にかけただけのテキトーなヤツだよ。日本語に戻してみたら……」ポチポチ

加蓮「ええと、『すべてがよいので、彼らに悪さをさせなさい』? あはは、変な日本語」

藍子「ふふっ。そんな風になるんですね」

加蓮「アテにならないねー。そういえば学校の授業でさ、英語の文章を作ってこいって宿題があって」

藍子「ふんふん」

加蓮「先生が、エキサイト翻訳はすぐバレるからやめろよー、下手な文章でいいから自分で考えてこーい、って言ってた」

藍子「あははっ、そうなんですか?」

加蓮「うん。ってことで私はグーグル翻訳を使ったんだけどさ、こっちもバレちゃって」

加蓮「怒られそうだったから、だって先生それ使っちゃダメって言いませんでしたよね、って言い返してやった」

藍子「それ、同じことなんじゃ……それで先生はなんて?」

加蓮「屁理屈なんか言ったらそっぽ向かれるぞー、って呆れ笑いされちゃった」

藍子「ふふっ。ホントですよ加蓮ちゃん。先生だって困っちゃいます」

加蓮「やっぱり? でもさ、その後にさ……アイドルはそんなんじゃダメだぞー、って言ってくれた」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「うん。ズルしてるのなんてすぐバレるぞー、って」

加蓮「……極稀にいるんだよね。私のこと、変に気遣うでもなくてアイドルであることを馬鹿にするんでもなくて、ちゃんと見てくれるような人」

藍子「いい先生ですね」

加蓮「悪い先生を知ってるだけあってなおさら」

藍子「きっと、加蓮ちゃんの頑張りをちゃんと見ている人なんですよ」

加蓮「……かな。だったら嬉しいんだけどな」

加蓮「ちなみにその先生、女の人」

藍子「あれ? そうだったんですか。男の先生かなって思っちゃいました」

加蓮「安心した?」

藍子「……??」

加蓮「や、ほら、……まあいいや。こういうのは女の人の方がよく見てるのかなーって、あはは、私も女だけど」

藍子「じゃあ、加蓮ちゃんも先生になれるかもしれませ――」

加蓮「冗談でもヤダ」

藍子「……あ、ごめんなさい」

加蓮「っと、こっちこそごめん。まあなんだって笑い話にできればいいんだけどねー……はー、難しいね」

藍子「難しいですよね。失敗したことを、笑えるようになるのって……」

加蓮「でもま、笑っていこう笑っていこう」

加蓮「あ、そーだ。ちょっと前にさ、午後から学校に行った時なんだけど……クラスの男子が別の男子のノートを声に出して読んでてさ。あ、お昼休みに」

藍子「はあ」

加蓮「そしたら別の男子の……あ、ノート読まれてた方ね。がガチギレして。後で聞いた話なんだけど、中学生の時に書いたノートなんだって」

藍子「中学生の時に? 読まれて恥ずかしいことでも書いていたのでしょうか」

加蓮「私も分からなくて、その話をPさんにしてみたらさ」

加蓮「なんかものすごい渋い柿を食べた後みたいな顔して、男っていうのはそういう生き物なんだ、って言われちゃった」

加蓮「どゆこと?」

藍子「……さあ?」

加蓮「変なのー」

藍子「変ですねー」

加蓮「すみませーん、サンドイッチ1つ。藍子、何か食べる?」

藍子「私は……さっきのケーキでお腹がいっぱいなので。あっ、でもサンドイッチ、一口だけいいですか?」

加蓮「いいよー。うん、サンドイッチだけで。お願いね」

加蓮「……うん、想像してたけどもう4時だ。すごいね藍子」

藍子「あ、あはは…………ゴメンナサイ」

加蓮「ま、いいじゃん。また明日……明日は私が撮影だ。明後日か、明々後日? にでもまた来て、のんびりできれば」

藍子「そうですね。その時はまたきっと、メニューが変わっちゃってますねっ」

加蓮「あり得るあり得る。11月のメニューになるのかな。焼き芋とか? あっ、もしかして冬のメニューになったり?」

藍子「ふふっ。もしかしたら、ストーブが用意されちゃってたりしてっ」

加蓮「暖房があるのにー?」

藍子「店員さんが前に言ってたんです。そろそろストーブ出さないとって」

加蓮「そなんだ。なんかストーブっていいよねー。私は暖房より好きー」

藍子「分かりますっ。こう、ストーブの前で手をかざすのって楽しいですよね♪」テヲカザス

加蓮「あとはコタツとか」

藍子「事務所でも、そろそろ出そうかってお話になっているみたいですよ」

加蓮「そ、そんなことしたら事務所のみんなが働かなくなってしまう!」

藍子「ふふ、杏ちゃんが喜びそうな事務所ですね」

加蓮「昔、こたつで寝てたらお母さんにメチャクチャ怒られたことがあった」

藍子「私も。風邪を引いちゃうからって、怒られちゃいました」

加蓮「だよねー」

藍子「ですよねっ」

加蓮「あ、サンドイッチありがとー……あむあむ。はい藍子」アーン

藍子「あーん……ありがとうございます、加蓮ちゃんっ♪」

加蓮「どういたしましてー」モグモグ

加蓮「…………」モグ...

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「あ、ううん……さっき言ったこと……明日、明後日、明々後日、また藍子とこのカフェにいるのかなーって思って」

加蓮「それがすっごく簡単に想像できたんだ、さっき」

藍子「……はいっ」

加蓮「別に、だからってこともないけど……なんだろう。すごく暖かくて、嬉しいっていうか……こう、にやけちゃう感じ」

藍子「ニヤニヤって?」

加蓮「ニヤニヤって」

藍子「ホントだ。加蓮ちゃん、今すっごく柔らかい顔になってます!」

加蓮「うん」

藍子「えっと…………」ゴソゴソ

藍子「えいっ」パシャ

加蓮「あ、こらっ……もー、また勝手に写真を撮る」

藍子「えへへっ……だって加蓮ちゃん、撮るって言ったら身構えちゃうじゃないですか。それでもいいけれど、自然体の写真も撮りたいですから♪」

加蓮「はいはい」

藍子「ふふっ」

加蓮「私さー」

藍子「はいっ」

加蓮「知ってると思うけど、私すっごい不器用なんだよね。不器用っていうか、真面目な話をするまですごい時間がかかる感じ」

藍子「そう、ですか……? 確かに加蓮ちゃん、よく冗談を言ったりいじわるしたりしますけれど、真面目な時はすごく真面目だと思いますよ?」

加蓮「あれ、あーなるまでものすんごい時間がかかってるんだよ。時間っていうか精神力?」

藍子「はぁ」

加蓮「で。ほら、まー、その、さ。……また藍子とここに来られるのが楽しみっていうか、楽しみにできるようになったっていうか」

加蓮「だから、そのー……ね?」

藍子「……??」

加蓮「――ああもう!」ドンッ

藍子「ひゃっ」

加蓮「もっと……上手くできたらいいんだろうけどね! 目の前で悩んでる子がいて、力になりたい助けたいって思った時に! もっとこう、柔らかく言えたり傷つけないで言えたり、」

加蓮「っていうかなあなあで済ませればいいんだろうけどさ……私、そーいうのすっごい苦手なの!」

藍子「か、加蓮ちゃん? なにの話ですか――って、もしかして……」

加蓮「回りくどく寄り道してたらそのうち藍子を元気づけられると思いました、でも私には無理です。だって私は不器用だから」

加蓮「ごめん藍子。ちょっと藍子を傷つける。でも言わせて」

藍子「…………その方が、加蓮ちゃんらしいです。私は大丈夫ですよ。ちゃんと、なんだって聞きますから」

加蓮「うん。あのさァ……自分が周りを馬鹿にしてるみたいだった? 馬鹿かアンタは。ありもしない妄想で自分で傷つくって何それ?」

加蓮「マゾヒストか何か? 叩いてあげよっか? そしたら藍子は喜ぶ? ごめん私、叩かれるより叩く方が性に合ってるんだよね。いつでも付き合ってあげるよ」

藍子「そこまでは言いませんよ!? なんだかすごいこと言っていませんか加蓮ちゃん!?」

加蓮「ふうん、そこまでってことはちょっとはあるんだ」

藍子「え……い、いやいや、叩かれて喜ぶなんてのはないです、それはホントですから!」

加蓮「知ってるよ。そっちじゃなくてさ。自分を傷つけてって方」

加蓮「反省は大切だよ。でもそれが癖になると自分を傷つけないと落ち着かなくなるんだよね。自分はダメだって思い込みたくなる。今の藍子がそう見えるって話!」

藍子「それは…………」

藍子「……そう、なのかな……考えたこと、なかったから……」

加蓮「じゃあ私からはそう映る。で、私はそんな藍子に馬鹿かアンタはって言ってる。周りを馬鹿にしてることが馬鹿なんじゃなくて、そう思い込んでるアンタが馬鹿――」

加蓮「……あ、ダメだ、馬鹿って言葉が訳分かんなくなってきた」

加蓮「とにかく! 自分が悪いって悩む大概にしなさいよ。もしホントにアンタが悪いならせめて悩むな。悪者らしく振る舞ってみるって手もあるでしょ?」

加蓮「私に悪者になるなってアンタは言う。そうだね、それが正しいかもしれないけど――自分のことをネチネチ言い続けるよりよっぽど健全だって私は思うけどなぁ!」

藍子「…………っ」

加蓮「仕事が順調で油断してたかもしれなかった? それで油断しないヤツなんて見たことないわよ私。誰だって思い上がる、鼻が高くなる」

加蓮「当たり前のことでしょ……これはPさんの責任だね」

藍子「え……?」

加蓮「思い上がった人をぶっ叩く役が必要だ。私が自分を傷つけたら藍子が叱ってくれるのと同じように、藍子が自分のことをいらないって言ったら私が叱るのと同じように」

加蓮「鼻が高くなりすぎて失敗したヤツがいたら誰かが叱って目を覚まさせないといけない」

加蓮「それはPさんの役割でしょ? 違う?」

藍子「…………」

加蓮「今から文句言ってくる。大丈夫、ちょっと怒鳴りあってくるだけだからすぐ戻――」ガタッ

藍子「ダメです!!」ガシ

加蓮「…………藍子」

藍子「Pさんは悪くないんです! そんなの……おかしいじゃないですか! そんなの……!」

加蓮「どうおかしい?」

藍子「……何がおかしいか分からないですけれど、とにかくやめてください! Pさんと加蓮ちゃんが喧嘩するのなんて……怒鳴り合うのなんて私は見たくありませんっ……!」

加蓮「…………」

藍子「それに……加蓮ちゃんの言ってることが正しかったとしても……」

藍子「私は加蓮ちゃんが自分で自分を傷つけたり悪者にしたりするの、見たくありませんよ!」

加蓮「…………」

藍子「加蓮ちゃんの言ってることの方が……正しいと思うけれど……でもっ……!」

加蓮「……あー」

加蓮「……んー」

加蓮「駄目だ」スタッ

藍子「…………へっ?」

加蓮「いやほら、言ったじゃん。もっと上手くできたらいいのにって」

加蓮「こうさ、ビシって言えればいいんだろうね。藍子はここが間違ってる、だからこうしたらいいって」

加蓮「それができないから悪役っぽくなってみた。Pさんと喧嘩するって言ってみた」

加蓮「でもなんか……行き先が思ってたのと違うっていうか……藍子にそんな顔させるつもりなかったんだけどなぁ……」

藍子「…………」

加蓮「…………ごめん」(突っ伏せる)

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……ねえ藍子。助けて」

藍子「え……?」

加蓮「私じゃどうやって藍子を助けていいか分かんないから、助けてよ藍子」

藍子「……くすっ、なんですかそれ。訳分かんないですよ。もう、加蓮ちゃんはいっつもそういうことばっかり」

加蓮「だってさー……」

藍子「その、正直、心のどこかで期待はしていました。加蓮ちゃんなら上手いこと言ってくれるかなって。私の悩み事も、簡単に解決できるのかなって」

加蓮「……だよねー」

藍子「お、落ち込まないでくださいっ。でもその、加蓮ちゃんが私の為にいろいろ試してくれて……やってくれたのは、すっごく嬉しかったから!」

藍子「私はそれだけで十分です。それだけで、すっごく嬉しいです」

藍子「…………あ、あの、ってことでいいんですよね……? いじわるしてただけってことじゃ、ないんですよね?」

加蓮「…………」ニヤニヤ

藍子「あーっ、加蓮ちゃん笑ってる! 突っ伏せてても分かります、肩が震えてますからっ。もうっ、も~~~~~っ!」

加蓮「あははっ、ごめんごめん。……あははっ」

藍子「もうっ。悩んでたのはホントなんですからっ。加蓮ちゃんに期待した私が馬鹿でした。ふんだっ」

加蓮「え~、これでも頑張ったのに」

藍子「ふんっ」

加蓮「……ね、藍子」

加蓮「私、やっぱ不器用っていうか、出来ることが限られるっていうか……どうしても、藍子や藍子の周りの子みたいに真っ直ぐに生きることはできないからさ」

加蓮「だからその――例えば、藍子のことを藍子が思っているように言う人がいたら全力で潰すとか藍子を護ってあげるとか、それくらいしか言えないけど……」

加蓮「えっと……ぶ、不器用でも、藍子のことは……」

藍子「…………」

加蓮「その、ほら、ね? ええと、だから――」

藍子「…………」ニヤニヤ

加蓮「――アンタも笑ってんでしょうがあああああ!」

藍子「ひゃっ。ば、バレちゃいましたっ。お返しです♪」

加蓮「ちくしょー! ……もーっ! 馬鹿みたいじゃん私。ああもうやっぱ藍子なんて大っ嫌い! 勝手に1人で悩んで1人で泣いてろ!」

藍子「ふふっ。不器用でも私のことは……何ですか?」

加蓮「何でもない!」

藍子「"ええと、だから"……の次は? 私、すっごく聞きたいなぁ♪」

加蓮「何でもない!!」

藍子「きっと加蓮ちゃんだから、とっても素敵なことを言ってくれるって期待できますよね♪」

加蓮「帰る!」スタッ

藍子「あっ、待ってください待ってください! まだもうちょっとのんびりしていきましょう、ゆるふわしていきましょう!」

加蓮「そのままババアにでもなってろ!」

藍子「そんなこと言わずに~」




――落ち着いてから――

加蓮「…………」ズズズ

藍子「ココア、美味しいですか?」

加蓮「うん……身体も心も疲れてるからかな、甘すぎないのが美味しい……」

加蓮「……誰かさんのせいで」ギロッ

藍子「ごめんなさい。でも、ありがとうございます加蓮ちゃん。私、加蓮ちゃんに考えすぎなんて言いながら、ちょっぴり考えすぎていました」

加蓮「ホントだよ。オーディションで落ちるなんてそんな珍しいことでもないんだし」

藍子「そうですよね。でも、もう元気になりましたからっ」

藍子「また明日から、頑張りますね!」

加蓮「えいえいおー」ダラーン

藍子「えいえい、おー!」ビシッ

加蓮「…………」ズズズ

藍子「…………」ゴクゴク

加蓮「でも新人に負けちゃったかー。なんか悔しいな。藍子のことだけど私も悔しいや」

藍子「私、また明日から頑張って、Pさんのお役に立てるようになって……今度は、失敗しても落ち込まないようにしますね」

藍子「加蓮ちゃんにも笑われたくありませんからっ」

加蓮「私は笑わないけどさ……。あ、そうだ藍子」

藍子「はいっ」

加蓮「今さら生半可なことでどうこう言うつもりはないけど……あんまり考えすぎてさ、ありもしないことをあったように言うのはやめなさい」

加蓮「ほら、自分は周りを馬鹿にしちゃってるんじゃないか、とかさ。今はありえないって断言できるけど、繰り返してたらそれが本当の自分みたいになる」

加蓮「藍子がそうなったら私、こうして向かい合えるかちょっと自信ないし……」

加蓮「……って、まあ表情を貼り付けすぎて本当の自分に迷う私が言うことじゃないけどね」アハハ

藍子「分かりました。気をつけてみますね」

加蓮「ん」

藍子「加蓮ちゃんは、どんな加蓮ちゃんでも加蓮ちゃんですよ。私の好きな加蓮ちゃん」

加蓮「……そこまで断言できるアンタがちょっと羨ましいわ」

藍子「あはっ。ほらほら、加蓮ちゃんも好きって言ってみてくださいっ」

加蓮「まーたそれ? はいはいらぶらぶ」

藍子「もっと真剣にーっ」

加蓮「え、何? 女の子から告白されたい願望持ち? 藍子ってそういう性癖持ってんの?」

藍子「せいへ……!? 違います違います、なんでそうなるんですか!?」

加蓮「じゃあアレか、私は女の子っぽくないって? 悪かったわね男子っぽい考え持ってて! これでも藍子より胸だいぶあるんだからね!」

藍子「なんでそうなるんですか!? それに今は胸の話は関係ありませんよね!?」

加蓮「小さい頃からいろんな大人を見てきたから価値観がぐちゃぐちゃになってんの! 悪い!?」

藍子「誰も悪いなんて言っていませんしさらっと自分の地雷を踏みつけないでくださいよ!」

加蓮「あ、そうだ。女の子っぽいって言えばいつもんところのネイル、新作出たんだっけ。今度、一緒に見に行かない?」

藍子「また急に……! それはその、いいですけれど、……も~」

加蓮「あははっ。やっぱ藍子をからかうと楽しいね」

藍子「もうっ。加蓮ちゃんのばーか」

加蓮「あははっ」



おしまい。読んでくださり、ありがとうございました。

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