職員室に呼び出しくらった。平塚先生がおまえを呼べって

絵文字も顔文字も使わない。必要最低限の情報しか書かない。あいつのメールはいつもそうだ。

職員室のドアを開いて、一礼。失礼します。

机に向かっていた先生たちは一瞥してそれきり無関心の顔になった。

平塚先生の机を見る。

彼女の姿はなく、見えるのは無造作におかれた教科書、副読本、参考書、何かの書類。

私はこういうの、見ているだけで整理したくなる。ここにいないとなると…

奥へと進み、やっぱりそうだ。内心でガッツポーズを決める。

ブースで覆われているものの、煙がゆらゆらとゆれ、向かい合う二つのシルエット。

そっと覗くと、平塚先生と目があった。

大きな瞳。少し吊り気味な形が、きつめの顔立ちをつくっている。髪は背中まで届くロングヘアー。

「きたか、相模」

足を組んで煙草を吸っているせいで、男の人みたいだ。いい意味で。

「座りたまえ」

「はあい」

私は平塚先生の向かいのソファーへと座る。

ぶすっとした顔ですわっていたそいつは、その表情を変えずに横へと詰めてくれた。

隣に座る男。比企谷八幡。

大きな目をして、鼻筋ははっきりしている。

小さい頃から八幡を見ている私からしても、顔立ちはなかなか整っていると思う。

でもめったに表情が変わらないせいか。いわゆる、何を考えているのか分からない奴。

クラスメイトがそんな風に言っているのを聞いたことがある。

「で、八幡、どうしたの？」

「さあな」

「さあなって…」

八幡は、ふてくされたようにソファーに体全体を預けた。

細くなった目は天を仰ぎ、どよんとした疲労感が伝わってきた。

煙草があったらスパスパ吸い出しそうな表情だ。

「平塚先生から言ってくださいよ」

「最初からそのつもりだ馬鹿者」

私はその物言いに少しむっとする。生徒に向かって軽々しく馬鹿者って…。

期待です

近しい間柄のせいかずいぶん相模の対応が柔らかい
期待

これは期待

それでも隣の八幡は、ポーカーフェイスの面構え。私はこいつのこういうところを、いいなって思ったりもする。

「覚えているか相模、私が国語の授業で出した課題を」

私は頷く。

「問題になったのはあれのことだ」

「八幡が変なこと書いたんですが」

平塚先生の眉が、ピクリ、と動く。少しの間があり、その通りだと言った。

これを見たまえ、とA4用紙を差し出してくる。

件の課題プリントだろう。

八幡らしい豪快な筆跡で、高校生活を振り返ってと書かれている。私はそれに目を走らせた。

読み終わって、思わず言ってしまった。職員室全体に響くほどの大声で。

「ばっかじゃないの」

「うるせ。おまえは人の意見にケチをつけるなと習わなかったのか」

「意見なのかな…」

「十人十色ってやつを知らんのか南よ」

「それ言い出せば戦争さんせーって言っても許されることになるでしょ」

「倫理をはみ出してるのは別だ」

「はいはいそこまでだ」

平塚先生が手拍子を打つ。

「たく、比企谷は私や相模相手だと口数が多くなるな」

「そうなんですか」

「ああ、どうやらこいつはコミュニケーションを意図的に避けてるみたいなんだよ」

へえー、と相槌を打ちつつも、私はそんな八幡の人となりはすでに知っていた。

顔立ちも整っているし、運動もそれなりにできるから、八幡を気になってるって女の子はいる。

正しくは、いた。でも閉じこもりがちな性格なせいで…。

それは同性に対しても同じで、私が見る限り、友達、と呼べるこ男子はいないみたい。

目が腐ってないのか……アイデンティティを失ってんな

期待

乙です！

相模南「私のさいてょな幼馴染」

続きはよ

はよ